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「法科大学院の入学者選抜の在り方について」(中間報告)
 
2001年11月26日
東京大学大学院法学政治学研究科教授
伊   藤      眞
 
はじめに

   司法制度改革審議会意見書(以下、意見書)が発表されて以後、早急に検討開始が要請されると思われる入学者選抜の在り方について、自主的研究グループを組織し、現在まで検討を行ってきた。本日は、その中間的な検討状況を報告者の責任においてとりまとめたものを御報告申し上げる。
 
1.入学者選抜についての基本的考え方

   21世紀の司法を支えるにふさわしい質・量ともに豊かな法曹を養成することを目的とし、法科大学院の教育理念(意見書63頁)に照らし、公平性、開放性、多様性を確保することに十分留意しつつ、入学者選抜を行う。
   法曹養成全体に通じる考え方である、「点」のみによる選抜に代えて「プロセス」による選抜を重視することとし、一方で、適性試験や法律科目試験の成績という指標によって公平、かつ、透明な選抜を行うとともに、他方で、学業成績、社会経験その他の要素を十分に考慮することによって、法科大学院の理念にふさわしい入学者選抜を行う。
   そのためには、入学者選抜を行う法科大学院の側でも、従来の入学試験のような試験成績のみによる、いわば機械的な選抜方法から、多様な情報を総合的に考慮して、一定の時間をかけて行う選抜方法に移行しなければならず、そのための体制を早期に検討・整備する必要がある。
   また、わが国においては、高等教育や専門教育に関して、このような選抜理念や方法が広く採用されてきたとは言い難いことから、特に適性試験の内容や学業等の評価基準については、十分な検討を行い、予想される出願者層や社会に対して十分な理解を求める必要がある。
 
2.法科大学院入学者選抜制度に関する検討の前提条件
 
1    法科大学院の標準修業年限は3年とし、短縮型として2年の修了が認められることから(意見書65頁)、多くの法科大学院は、3年修了予定者と2年修了希望者の両者の募集を行うものと予想される。したがって、入学者選抜の在り方を考えるに際しても、3年修了予定者と2年修了希望者とが併存する可能性を考慮するのが合理的である。
2    公平性、、開放性、多様性の確保の要請から、入学者選抜にあたっては、試験の成績のほか、学部成績や活動実績等を総合的に考慮することを要する(意見書65頁)。この中で活動実績等の評価は、各法科大学院独自の基準に委ねざるを得ないと思われるが、学部成績の評価については、その性質上、ある程度客観性をもった評価基準を検討する必要がある。
3    多様性の拡大を図るために、法学部以外の学部の出身者や社会人等を一定割合以上入学させることが求められる(意見書65頁)。そのための前提条件の一つとして、法学未修者であるか、既修者であるかを問わず、出願者全員に適性試験を課すべきものとされることから、適切な内容の適性試験を開発する必要がある。
4    2年修了希望者については、法科大学院の基礎的な法律科目の履修を省略できる程度の基礎的な学識を備えているかどうかを判定するための法律科目試験を課すことが求められる(意見書66頁)。法律科目試験については、それを各法科大学院の独自試験に委ねるべきか、何らかの形の統一試験を実施すべきかを検討する必要がある。
5    法科大学院への出願資格については、通常の大学院入学資格の他には特別の制限を設けず、たとえば、非法学部出身者についても2年修了希望者としての出願を、法学部出身者についても3年修了予定者としての出願を認めることとなると思われるので、これを前提としつつ、入学者選抜についての基本的考え方を損なうことのないようにするための方策について検討する必要がある。また、法科大学院修了を前提としない新司法試験受験のための予備試験受験資格との関係については、別途検討する必要がある。
 
3.入学者選抜方法の具体的内容に関する検討状況
 
(1) 適性試験の内容および実施準備に関する検討状況
   適性試験は、「法律学についての知識ではなく、法科大学院における履修の前提として要求される判断力、思考力、分析力、表現力等の資質を試す」目的で実施されるものであるが(意見書66頁)、このような性質の試験が実施されたことは、戦後の一時期の進学適性試験、および一部の大学医学部において実施された適性試験を除いて、わが国にはかつてなかったものであり、米国のエルサットを参考にするとしても、その内容については、十分に慎重な検討が求められる。
   適性試験作題のための準備作業については、本研究グループの中にワーキング・グループを設け、各メンバーが持ち寄った問題についてその適正さを検討している(問題例については、別紙1参照)。現在までにすでに問題数は、20問程度に達しているが、来年3月頃を目途として、問題数を30問ないし40問程度に増やすとともに、問題の性質にしたがって、長文読解力、分析判断力、論理的推理力などの判定類型ごとに分類し、出願者の総合的資質と能力を判断できる形に仕上げることを予定する。なお、構成員の専門は、自然科学、社会科学および人文科学のすべてにわたっているが、作題にあたっては、問題の内容が専門家からみても合理的なものであり、かつ、専門知識をもたない受験者にとっても、判断力、推理力、分析力を駆使することによって解答可能なものとなるよう留意している。
   上記の作業が完了した段階で、平成14年5月頃、法学部学生、他学部学生および社会人の中から志願者を募り、第1次試行試験を実施する。さらに、その結果の分析を踏まえて、作題作業が続行され、平成14年秋ないし冬頃、問題数、解答時間など、本試験により近い形での第2次試行試験が実施されるべきである。その分析結果を踏まえて、本試験の作題作業が開始されし、本試験は、平成15年度中の適切な時期に実施されるべきである。
   なお、上記の作題作業と並行して、実施の具体的手順等を策定する作業が必要になるが、この点については、近日中に別のワーキング・グループを組織して、検討を行うことを予定している。そのこととの関係で、実施母体を検討する必要が生じるが、作題および実施について永続的な形で責任を引き受け、かつ、数万人に上ることが予想される受験者を前提として、適正に適性試験を実施できる母体を見いだすことが必要と思われる。
 
(2) 学業成績評価の方法に関する検討状況
   入学者選抜の総合的判定資料のうち、活動実績等の評価方法の検討は、各法科大学院に委ねざるをえないと思われる。学業成績の評価方法についても、最終的には各法科大学院の判断に委ねざるをえないと思われるが、第一次的判断基準として統一的指標を用意することは、入学者選抜に求められる公平性と透明性を確保する上でも重要である。
   そのための指標としては、すでにわが国の大学においても一部で導入されているGPA(GradePointAverage。導入例については、別紙2参照)を用いることが考えられる。その用い方については、単に第一段階選抜の方法として用いる方法、適性試験の点数と組み合わせて作る判定指標(admissionindex)の基礎として用いる方法など、いくつかの可能性が考えられる。
   ただし、これを実際に法科大学院入学者選抜の方法として用いるについては、各大学、各学部における成績評価基準のばらつきをどのように調整するか、GPA算定作業を出願者の出身校に委ねられるか、各法科大学院がそれぞれ行わざるをえないか、あるいは第三者機関に委ねることができるかなどの問題がある。
 
(3) 法律科目試験の方法に関する検討状況
   法律科目試験の目的を考慮すると、その内容をどのようなものとするかは、各法科大学院の1年次授業科目と密接不可分な関係にあり、1年次授業科目の内容が厳密に統一されたものではないことを考えると(法科大学院部会(第5回)資料2−1参照)、試験内容も各法科大学院の判断に委ねるべきものであり、いわゆる統一法律科目試験の義務づけは合理的ではないと考えられる。
   しかし、信頼できる団体が法科大学院出願者に広く開かれた形で法律科目試験に相当する試験を実施しているとみられる場合には、各法科大学院が、独自の法律科目試験に代えて、もしくは独自の法律科目試験と併せて、または第一段階選抜の方法として、その成績を入学者選抜の資料として用いることを認めるべきである。
 
(4) 入学者選抜手続のイメージ
   以上のことを前提とすると、現在の段階での入学者選抜手続のイメージは、以下のようになる。まず、入学の前年度の適切な時期に適性試験を実施し、出願者は、その成績とその他の要素を考慮して、出願校を決定し、出願手続を行う。2年修了希望者が、全国的規模の法律科目試験の成績を要求する法科大学院に出願する場合には、その成績も考慮して出願を決定する。出願を受理した各法科大学院は、3年修了予定者については、必要に応じて小論文や面接等を実施し、その結果と、適性試験成績、学業成績等を総合して、合格者を決定する。2年修了希望者については、これに加えて、必要があれば、独自の法律科目試験を実施して、合格者を決定する。入学前年度のいかなる時期に独自の試験を実施するかは、基本的には、各法科大学院の自主的判断に委ねられるべきものであるが、出願者が複数の法科大学院を受験する機会を失わないよう、また他の進路選択などとの関係で不合理な負担を生じないよう、配慮が求められる。

 

(高等教育局高等教育企画課)

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