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2 法科大学院の教育内容・方法


(1) 教育課程の全体像

研究会は、意見書が法科大学院の教育理念として掲げている内容を実現するための教育内容・方法およびそれと密接不可分な教員組織の具体的な在り方の調査研究を先行させてきているが、法科大学院の教育課程の全体像については、以下のような前提で検討を進めている。

教育課程の在り方に関する基準は、法科大学院が法曹養成に特化したプロフェッショナル・スクールとして一つの完結した教育課程として位置づけられていることから、3年標準型を中心に検討するが、修業年限に関して、3年標準型と2年短縮型の併存が前提とされていることから、いずれの型にも共通して妥当するものでなければならない。

3年標準型と2年短縮型の教育課程の相互関係について、原則として、3年標準型の1年次のカリキュラム編成以外は、共通とすべきである。しかし、カリキュラム編成や入学者選抜にあたっては、3年標準型の1年次修了者の学力が2年短縮型入学者と同レベルであるという考え方を必ずしもとる必要はなく、各法科大学院が、それぞれの教育方針に従って、法科大学院修了時点で全員が同じレベルに達するような教育を行うという考え方のもとに、カリキュラム編成や入学者選抜を行えば十分である。したがって、これらの点に関する第三者評価および設置認可の基準も、必要最小限にとどめ、各法科大学院の教育方針の独自性・多様性を尊重するべきである。

法科大学院の授業期間・日数、単位の計算方法等については、基本的に、現行の大学院設置に関する各種基準が適用されることを前提とするのが適切である。

これまでに公表された案では、学期制についてはセメスター制(年2学期制)をとる法科大学院が大半であり、授業時間については50分制と100(または90)分制が分かれているが、学期の分け方や授業時間については、基本的に、各法科大学院の教育方針にゆだねるのが適切である。

単位の計算方法については、法科大学院のカリキュラムに関してこれまでに公表された各大学の案においては、平成3年の設置基準の大綱化に伴う変更の趣旨が十分に浸透していないきらいがある。法科大学院の設置による教育方法の転換を機会に、従来の学部法学教育の単位計算の慣行を改め、教員が教室等で授業を行う時間と学生が事前・事後に教室外において準備学習・復習を行う時間の合計で、標準45時間の学修を要する教育内容をもって1単位とするという設置基準の規定(大学院設置基準15条、大学設置基準21条以下参照)の趣旨を徹底させるべきである。

法科大学院の授業期間・日数、単位の計算方法等について、上記のように理解するならば、1年間に通常の授業時間・学期内で修得できる単位は、概ね30単位を標準とすることになる。しかし、法科大学院の場合は、学期外の実務家教員による集中講義科目、通常の授業時間・学期外に履修するクリニック、エクスターンシップ等の科目を相当数修得することが可能であり、また、必要であるため、法科大学院の修了に必要な総単位数については、これらをも考慮して、若干加重するのが妥当である。

以上のような考え方から、法科大学院の修了については、3年標準型は、3年以上在学、93単位以上修得、2年短縮型は、2年以上在学、63単位以上修得を必要とするのが適切である。

なお、学生に上記単位計算の趣旨を徹底させるために、いわゆるキャップ制を導入し、各年度に学生が履修できる総単位数の上限を36単位とすることが考えられる。しかし、3年次については、配当される科目のほとんどが選択科目であること、学生が1年次と2年次の学修を経ていることなどを考慮して、キャップ制の上限を44単位程度まで緩和することも考えられる。

上述のように、これまでに公表された大学等のカリキュラム案においては、単位計算の基準に十分配慮しないままに修了要件単位数や必修科目単位数が設定され、法科大学院の教育を充実させるための方策について、主として修了に必要な総単位数や各科目に配分される単位数を増加させる方向で検討されてきたきらいがある。しかし、1年間に修得可能な単位数が概ね30単位であることからすると、その標準的な枠内で、授業方法や学生の受講姿勢の転換によって教育内容の充実と教育効果の向上をはかることをめざすべきであり、従来の学部法学教育における単位の計算や配分を当然の前提として、法科大学院における単位の計算や配分の在り方を検討するのは適切ではない。

(2) カリキュラム

1カリキュラム編成に関する基本的な考え方

意見書では、法科大学院においては、1法曹に共通に必要な専門的資質・能力の習得、2豊かな人間性の涵養・向上、3専門的な法知識の確実な習得、4法知識を批判的に検討・発展させていく創造的な思考力と事実に即した具体的な問題解決に必要な法的な分析・議論能力の育成、5先端的な法領域についての基本的な理解、6法曹としての責任感・倫理観の涵養と社会貢献の機会の提供等の基本的理念を統合的に実現するものとされている。

法科大学院のカリキュラムは、これらの基本的理念を効果的に実現できるように編成することによって、従来の司法試験という「点」のみによる選抜の弊害を是正し、司法試験・司法修習と有機的に連携される「プロセス」としての法曹養成制度の基幹的機関としての教育を行うのにふさわしいものでなければならない。

意見書では、以上の基本的理念を統合的に実現することによって、理論的教育と実務的教育の架橋をはかるものとされ、具体的には、少なくとも実務修習は別に実施することを前提として、法理論教育を中心としつつ、実務教育の導入部分(例えば、要件事実や事実認定に関する基礎的部分)をも併せて実施することとされている。法科大学院の具体的なカリキュラムも、このような制度設計を前提に行われるべきであることは言うまでもない。

法科大学院における実務基礎教育については、とくに司法修習のうち集合教育(前期)との役割分担の在り方に配慮し、随時見直すものとされているが、さしあたりは、現行司法試験が並行して実施される期間(5年間程度)が終了する時点に照準を合わせて基準を作成し、その間に法科大学院において充実した実務基礎教育を実施するための前提となる制度的・人的条件の整備を急ぐべきである。

第三者評価基準および設置基準は、意見書の提言するように、法曹養成のための教育内容の最低限の統一性と教育水準を確保しつつ、具体的な教科内容等については、各法科大学院の創意工夫による独自性・多様性を尊重し、競争による教育内容の向上を促進するようなものでなければならない。

2カリキュラム編成に関する規定の骨子

法科大学院の教育理念を統合的に実現するために必要とされる科目群を、(a)法律基本科目群、(b)実務基礎科目群、(c)基礎法学・隣接科目群、(d)展開・先端科目群に大別し、(a)法律基本科目群の全部と(b)実務基礎科目群の一部の教育内容について、一定単位数を必修とし、それ以外については、部分的に選択必修制をとることを義務づけるが、(d)展開・先端科目群を中心に、各法科大学院が創意工夫して多様性・独自性を発揮することを促進するような基準とすることが適切である。そして、各科目群については、その主な科目ないし教育内容を例示し、必修ないし選択必修の最低総単位数のみを定め、科目ないし教育内容の具体的な編成、必修ないし選択必修の単位数の加重は、法科大学院の基本的理念の実現を損なわない範囲内で、各法科大学院の教育方針にゆだねるべきである。

各法科大学院のカリキュラム編成における創意工夫を尊重し促進するために、科目群やその内部の科目系列等(以下「科目群等」という。)の区分は、科目群等の間のバランスに配慮しつつ、できるだけ概括的なものにとどめることが望ましい。また、各科目群等に配分される単位数についても、それぞれにつき最低限必要な単位数を検討するにとどめ、細部にわたる具体的な単位配分はできるだけ各法科大学院の教育方針に基づく裁量にゆだねることが望ましい。

以上のような考え方に基づき、3年標準型のカリキュラム編成における各科目群等への単位配分については、以下のように規定するのが適切である。

必修科目は、(a)法律基本科目群54単位(公法系10単位、民事系32単位、刑事系12単位)、(b)実務基礎科目群5単位相当(法曹としての責任感・倫理観を涵養するための教育2単位相当、法情報調査1単位相当、要件事実と事実認定の基礎に関する教育2単位相当)の59単位とする。それ以外については、(c)基礎法学・隣接科目群から4単位選択必修を可能とする数の科目を開設すること、(b)法曹としての専門的技能の教育に関する実務基礎科目群(法文書作成、ローヤリング、模擬裁判、クリニック、エクスターンシップ等)から4単位相当選択必修を可能とするように努めることを義務づける。

なお、各法科大学院における法律基本科目群の必修単位数の加重は、15パーセント以内とするのが適切であり、また、実質的に法律基本科目群の教育内容に当たるものが、基礎法学・隣接科目群、展開・先端科目群として開講されることにも何らかの歯止めが必要である。

3各科目群の内容、配当単位数、留意事項等

各科目群について、その基本的な教育内容、配当単位数の考え方、留意事項等に関して検討した結果を補足的に説明しておきたい。
(a)法律基本科目群

主として意見書の掲げる上記教育理念の134に関わる科目群であり、「プロセス」としての法曹養成制度において法科大学院が司法修習との役割分担において期待されている使命からみて、この科目群が中心的となる。もちろん、法律基本科目による法理論教育も、意見書の言うように、実務上生起する問題の合理的解決を念頭におき、体系的な理論を基調として実務との架橋を強く意識した内容でなければならず、法律基本科目群内部において、理論的教育と実務的教育の架橋を実効的にはかるよう工夫されなければならない。つまり、法律基本科目群は理論的教育、実務基礎科目群は実務的教育というような二分法的な考え方をすべきではない。
法律基本科目群は、公法系、民事系、刑事系に分け、以下のような内容と単位配分とする。

・公法系(憲法、行政法等の分野に関する科目)……10単位

・民事系(民法、商法、民事訴訟法等の分野に関する科目)……32単位

・刑事系(刑法、刑事訴訟法等の分野に関する科目)……12単位

公法系・民事系・刑事系それぞれについてのモデル案と解説については、資料123を参照されたい。

法律基本科目群は、ほとんど1年次と2年次に配当されることになるが、各系の内部での1年次と2年次への具体的な科目配当や単位配分の仕方は、基本的に、各法科大学院の教育方針にゆだねるのが適切である。いわゆる基礎科目と基幹科目の区別のような段階的な区別は、基準では設けないが、3年標準型と2年短縮型の修了要件総単位数の差(30単位)によって、配分の仕方には事実上一定の制約がある。

各法科大学院が、それぞれの教育方針に沿って法律基本科目群の必修単位数をある程度加重することは認めるが、カリキュラム全体の適正なバランスを確保するためには、必修科目における法律基本科目群の比重が高まりすぎることは不適切であり、法律基本科目の必修単位数の加重は、全体として15パーセント以内にとどめるべきである。また、同様の趣旨から、実質的に法律基本科目群に当たる内容の科目が、基礎法学・隣接科目群や展開・先端科目群の中で開講されることも、不適切であり、何らかの歯止め策が必要である。

(b)実務基礎科目群

主として意見書の掲げる上記教育理念の46に、さらに12にも関わる科目群である。実務基礎科目群に配当する単位数は、法律基本科目群の教育も、実務との架橋を強く意識した内容となること、展開・先端科目群のなかで、実務家が担当する実務関連科目が相当数開講されること、その後司法修習制度のもとで相当期間実務修習が行われること、さらに実施のための人的・制度的条件の整備に一定期間かかることなどを考慮すると、法科大学院設置当初は、5単位相当を必修とし、現行司法試験が並行して実施される期間(5年間程度)が終了する時点で、それに加えて4単位相当を選択必修とし、合わせて9単位相当程度を必修ないし選択必修とするのが適切である。

実務基礎科目の教育内容には、大別すれば、法曹としての責任感・倫理観を涵養するためのものと、法曹としての専門的技能の教育のためのものが含まれる。後者についてこれまで各方面のカリキュラム案で示された科目区分やそれぞれの教育内容には、かなりばらつきがみられるが、ほぼ共通して挙げられているものは、法情報調査、法文書作成、要件事実と事実認定の基礎、ローヤリング、模擬裁判、クリニック、エクスターンシップ等である。

各方面の案で示されている各科目の教育内容は、暫定的に整理すれば、おおよそ以下のようなものである。

・法曹倫理………法曹の役割と倫理について、現在の日本の法制や実態を検討するとともに、歴史的・比較的視点をも盛り込んで、批判的に分析させ、法曹としての責任感・倫理観を養う。弁護士法・弁護士倫理等の規定をめぐる事例分析も行う。

・法情報調査………法令、判例、学説等の探索・整理・分析の技法、判例の意義・読み方等、法曹としての最も基礎的な専門的技能を学ばせる。

・法文書作成………契約書・遺言書あるいは法律意見書・調査報告書等の法的文書の作成の基礎的技能を、添削指導等により修得させる。

・要件事実と事実認定の基礎………モデル訴訟記録を用いたり、訴訟関係書面を作成したりするなどの方法で、要件事実論(民事)、証拠法・事実認定(民事・刑事)等について基礎的な教育を行い、訴訟実務の基礎を学ばせる。

・ローヤリング………依頼者との面接・相談・説得の技法や、交渉・調停・仲裁等のADRの理論と実務を、ロールプレイをも取り入れて学ばせ、法律実務の基礎的技能を修得させる。

・模擬裁判………民事・刑事裁判過程の主要場面について、ロールプレイ等のシミュレーション方式によって学生に参加させ、裁判実務の基礎的技能を身につけさせる。

・クリニック………弁護士の監督指導のもとに、法律相談、事件内容の予備的聴取り、事案の整理、関係法令の調査、解決案の検討等を具体的事例に則して学ばせる。

・エクスターンシップ………法律事務所、企業法務部、官公庁法務部門等で研修を行う。

実務基礎科目群の以上のような教育内容は、アメリカのロー・スクールのカリキュラム等をみても、科目の編成や名称等はかなり多様であり、また、相互に重なり合っており、それぞれ独自科目として十分に分化確立していないものもある。したがって、どのような科目編成で実施するかについて、現時点で細かく基準化して規定することは適切ではない。実務基礎科目群の教育内容をどのように組み合わせて科目編成をするか、また、法律基本科目群や展開・先端科目群の科目に付加して一体的に実施するかどうかなどについては、アメリカのロー・スクールのカリキュラム等が参考になるが、わが国の実情に合わせて教育内容を具体的に検討して確定していかなければならず、現時点では、各法科大学院の創意工夫にゆだね、科目編成や教育内容についてある程度の共通の理解が出来上がった時点で、改めて基準化することを検討するのが適切である。

実務基礎科目群の教育内容の具体的な実施の仕方については、例えば法曹倫理は、実務基礎科目群の中では比較的その教育内容が確立しており、独立の科目として実施しやすいが、独立の科目と併せて、あるいはそれに代えて、模擬裁判やローヤリングあるいは刑事訴訟法等に付加して一体的に実施したほうが効果的な部分もあり、必ず独立の科目として実施することまで義務づける必要はないと考えられる。その他の実務基礎科目群の教育内容は、相互に重なっていたり、教育内容が不確定であったりするものが多く、それぞれ独立の科目として実施することを義務づけることは適当でないであろう。また、要件事実と事実認定の基礎教育は、民事系や刑事系の法律基本科目に付加して一体的に実施してはじめて、理論的教育と実務的教育の架橋がはかれるところもある。法文書作成、ローヤリング等も、例えば、企業法務や家族紛争処理等の展開・先端科目と一体的に実施することが考えられる。

実務基礎科目群の教育内容については、その核心的部分を中心に、教育方法と併せて、共通の理解が形成されるように各方面で検討を進め、基準化になじむようなものにするよう努めることにし、本研究会でもモデル案の策定等を検討したい。

実務基礎科目群については、以上のように、それぞれの教育内容・方法についての共通の理解が必ずしも十分に確立されておらず流動的であること、また、とくにクリニックとエクスターンシップについてはその実施のための制度的・人的条件の整備の見通しが明確でないことなどを考慮すると、その修得単位の規定方式は、法科大学院設置当初は、以下のように、2段階構成とするのが適切である。

まず、法曹としての責任感・倫理観を涵養するための教育内容2単位相当、法曹としての専門的技能の教育内容のうち、法情報調査1単位相当、要件事実と事実認定の基礎に関するもの2単位相当を何らかの仕方でカリキュラムのなかに必ず含まなければならないが、これらの内容をそれぞれ別個の科目として実施することは義務づけず、具体的な科目編成や配当年次等は、各法科大学院が、教育方針や教員構成に応じて適宜具体化することとする。

次に、以上の必修の教育内容以外の実務基礎科目群については、その実効的な実施のための人的・制度的条件の整備状況を見定めつつ、各法科大学院が、その教員構成や地理的条件等を考慮して、科目編成の仕方や実施方法等を創意工夫し、5年間程度以内に、4単位相当の教育内容を選択必修とすることができるようなカリキュラム編成に努力することを義務づける。

(c)基礎法学・隣接科目群

主として意見書の掲げる上記教育理念の4に、さらに2にも関わる科目群である。各法科大学院は、選択必修制または必修制によって、学生がそれぞれの関心に応じて効果的に相当科目を履修することが可能となるように、一定数の科目を開講することを義務づけるのが適切である。

基礎法学科目群は、法哲学、法史学、法社会学、比較法等の科目だけでなく、外国法科目も含み、隣接科目群は、公共政策や法と経済等、政治学・経済学科目が中心となるが、これらに限らない。法学部出身者については、とりわけ隣接科目を学ぶことがその視野を拡げるために重要であり、法学部以外の学部出身者については、基礎法学科目の学習によって法学全体の体系的な理解のための様々なアプローチを学ぶことが肝要であるので、各法科大学院は、他学部・研究科等とも連携をはかり、これらの科目群の充実に努めるべきである。

もっとも、各法科大学院は、これらの科目群を万遍なく開講する必要はなく、それぞれの教育方針に従って独自性のある科目編成をすることが望ましい。また、基礎法学・隣接科目群は、展開・先端科目群と一体的に実施するほうが教育効果が上がる場合も多く、必ずしも別個の科目群として選択必修制をとることを義務づける必要はないという考え方もありえよう。実際上、法科大学院では、例えば「アメリカ法における生命倫理と法」などのように、科目横断的な教育内容を含んだ科目が開講され、いずれか一つの科目群等に属させることが適切でない科目が増えることが予測される。しかし、そのような科目編成だけに偏ると、基礎法学や隣接科目の独自の教育効果が発揮できないおそれもあることから、法科大学院のカリキュラム全体のバランスを最小限確保するためには、4単位程度の選択必修制を義務づけることが適切である。もちろん、各法科大学院が、それぞれの教育方針に従って、それ以上の単位修得を義務づけることを妨げるものではない。

(d)展開・先端科目群

主として意見書の掲げる上記教育理念の45に関わる科目群であり、とりわけ各法科大学院の創意工夫による独自性・多様性が発揮されるべき分野である。各法科大学院は、それぞれの教育方針に従って、法科大学院修了者が、裁判関連実務だけでなく、行政・企業・国際関係をはじめ、社会の様々な領域における法的ニーズの増大・多様化に対応できるための基礎教育を実施し、わが国の法曹の狭すぎる活動領域の拡充に寄与するように努めなければならない。

展開科目としては、労働法、経済法、税法、倒産処理法、国際私法等、先端科目としては、知的財産法、国際取引法、環境法等が考えられるが、両科目群は重なり合っており、区別が困難であるだけでなく、法科大学院設置後は、ますます多様な科目が開講されることが予測されるから、基準レベルで区別することは不適切であり、また、その必要もない。各法科大学院の創意工夫による独自性・多様性の発揮を促進するために、できるだけ概括的に規定し、修了要件として必要な総単位数の4分の1から3分の1程度これらの科目群に配当することを促進するような規定とするのが適切である。

これらの科目群は、学生にそれぞれの関心に応じて自由に選択させることが理想的であり、選択必修科目等として基準レベルで規制することは、本来必ずしも望ましいことではない。しかし、一定の規制を設けないと、実質的に法律基本科目群に当たる内容の科目が展開・先端科目群として開講され、法科大学院の教育内容が偏り、法科大学院の基本理念の統合的な実現が損なわれるおそれがあるから、カリキュラム全体のバランスを確保するために、一定単位の選択必修制をとることなど、最小限の規制を設けることも検討する必要があるかもしれない。

さしあたりは、各法科大学院が、法律基本科目群や実務基礎科目群の一定の必修科目を共通の基礎としつつも、展開・先端科目群及び選択必修制をとる実務基礎科目群や基礎法学・隣接科目群における独自の科目編成と組み合わせて、学生の進路希望に応じたモデル履修案の提示・コース制の導入等によって自主的に対応することが期待される。

展開・先端科目群に選択必修制をとる実務基礎科目群や基礎法学・隣接科目群を加えると、法科大学院修了に必要な総単位数の約3分の1が、各法科大学院の教育方針に沿った裁量にゆだねられていることを最大限活用して、各法科大学院が理想とする法曹養成に適合的なカリキュラム編成に努め、多様な法科大学院が展開されることが望ましい。

(3) 教育方法

意見書は、法科大学院の教育方法について、少人数教育を基本とし、双方向的・多方向的で密度の濃いものとし、厳格な成績評価及び修了認定の実効性を担保する仕組みを具体的に講じるべきであるとし、授業内容・方法や教材の選定・策定等における実務家教員との共同作業による連携協力、少人数の演習方式、調査・レポート作成・口頭報告、教育補助教員による個別的学習指導等の活用などを指摘している。

これらの提言内容のうち、基準レベルで規定する必要のある事項について具体的な内容を確定しなければならないが、基準化が難しい内容もある。基準化の全体的な構造をはじめ、厳格な成績評価や実務基礎教育の方法の具体的な在り方等は、重要事項ではあるが、今後の課題として残し、カリキュラム全体の編成や教員配置の前提として不可欠な事項について、検討を先行させた。これまでの検討結果の主な内容は、以下のようなものである。

法科大学院の教育方法については、意見書の提言に沿って充実した教育を行うためには、従来の学部法学教育において常態化しているような大教室での講義中心の授業方法の転換が不可欠の前提である。したがって、法科大学院のカリキュラムの中心となる法律基本科目群の授業は、50〜60名を標準とするのが適切であるが、入学者選抜等との関連である程度の幅をもたせざるを得ないであろう。

実務基礎科目群の授業方法は、各科目の性質に応じて、学生の積極的参加を促進し十分な教育効果を収めうる方式で行うことを義務づける必要があり、その多くについては、法律基本科目群の授業規模よりも少人数で行わないと、十分な教育効果が期待できないと考えられる。また、実務家教員の任用形態、学生のクリニック、エクスターンシップへの関与の制度的手当等が現状のままでは、実施が極めて困難な教育内容も多い。したがって、各科目の教員対学生比率や実務家教員の関与形態等については、人的・制度的条件の整備状況を見定めながら、現実的に可能な方式を検討する必要がある。

クリニックやエクスターンシップを実施する場合は、法科大学院の外で行われたり、通常の授業時間や学期の期間外に行われたりすることを認めるべきであるが、単位認定要件等を、その特殊性を考慮して、ABA基準等を参考に別途規定する必要がある。

学生の文書作成・討議能力を養うために、修了認定に必要な所定の単位のなかに、小論文(レポート)作成とそれについての討議を伴う授業1科目(2〜4単位)を含むことを義務づけることが検討に値する。具体的には、従来の大学院修士課程で提出を要求されている論文やそれに代わるリサーチペーパーとは異なり、開講されているいずれかの演習方式の授業に出席し、一定のテーマについて小論文を作成して、それについて討議することに対して、授業に対する単位に付加して2単位程度を与えるという制度が考えられる。

法科大学院の教育水準の維持・向上にとっては、教材の作成や教育方法の改革が極めて重要であることに鑑み、個々の法科大学院だけでなく、法科大学院全体について、充実した教育を可能とする教材の作成や教育方法の開発等の絶えざる改善を促進・支援する何らかの方策が講じられる必要がある。


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