(案) 法科大学院の設置基準等について 中央教育審議会 ※ 本文は、大学分科会法科大学院部会として昨年12月に公表した「法科大学院の設 置基準等について/論点を反映した骨子」の記述を加除訂正したものであり、下線は記述を追加した部分、二重取消線は記述を削除した部分である。
1 はじめに 「制度を活かすもの、それは疑いもなく人である」。平成13年6月に内閣へ提出された司法制度改革審議会意見(以下「審議会意見」という。)はこのように説き起こして、司法試験という「点」のみによる選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度を新たに整備し、その中核を成すものとして法科大学院を設けるべきことを宣言した。政府においても、同月、この審議会意見を最大限尊重して司法制度改革に取り組む旨が閣議決定されている。文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会 このような中にあって、当審議会 ここに「中間報告 21世紀の司法を担う法曹に必要な資質としては、審議会意見が端的に指摘するように、「豊かな人間性や感受性、幅広い教養と専門的知識、柔軟な思考力、説得・交渉の能力等の基本的資質に加えて、社会や人間関係に対する洞察力、人権感覚、先端的法分野や外国法の知見、国際的視野と語学力等が一層求められる」。このような資質を備えた人材を数多く養成するために、「点」のみによる選抜から、「プロセス」としての新たな法曹養成制度への転換が求められたのは必然的とも言える。 一方、人々の知的活動・創造力が最大の資源である我が国にとって、優れた人材の養成と独創的な学術研究の推進等の役割を担う大学における教育研究の振興は、今後の発展に欠くことのできない「未来への先行投資」である。内閣総理大臣の諮問機関である臨時教育審議会の提言を受けて昭和62年に大学審議会が設置されて以来、高度化・個性化・活性化を柱として高等教育制度の大綱化・弾力化が進められ、教養教育改革、大学院の整備充実、自己点検・評価の導入など、様々な取組がなされてきた。その中で、我が国高等教育の国際的な通用性の向上を視点とする「競争的環境の中で個性が輝く大学」の一つの姿として、高度専門職業人養成に特化した実践的教育を行う大学院(プロフェッショナル・スクール)の設置促進が提言された。その後、教育改革国民会議(内閣総理大臣の私的諮問機関。平成12年)の提言でも、ロー・スクールなどの高度専門職業人養成型大学院の整備が新しい大学・大学院システムとして位置づけられている。 以上のような文脈の中で法科大学院構想を見ると、その意義も自ずから明確に浮かび上がってくるように思われる。ここで、審議会意見に掲げられた法科大学院の目的・理念を、長くはなるが引用したい。 「ア 目的 法科大学院は、司法が21世紀の我が国社会において期待される役割を十全に果たすための人的基盤を確立することを目的とし、司法試験、司法修習と連携した基幹的な高度専門教育機関とする。 イ 教育理念 法科大学院における法曹養成教育の在り方は、理論的教育と実務的教育を架橋するものとして、公平性、開放性、多様性を旨としつつ、以下の基本的理念を統合的に実現するものでなければならない。 ・ 「法の支配」の直接の担い手であり、「国民の社会生活上の医師」としての法曹に必要とされる専門的資質・能力の習得と、かけがえのない人生を生きる人々の喜びや悲しみに対して深く共感しうる豊かな人間性の涵養、向上を図る。 ・ 専門的な法知識を確実に習得させるとともに、それを批判的に検討し、また発展させていく創造的な思考力、あるいは事実に即して具体的な法的問題を解決していくため必要な法的分析能力や法的議論の能力等を育成する。 ・ 先端的な法領域について基本的な理解を得させ、また、社会に生起する様々な問題に対して広い関心を持たせ、人間や社会の在り方に関する思索や実際的な見聞、体験を基礎として、法曹としての責任感や倫理観が涵養されるよう努めるとともに、実際に社会への貢献を行うための機会を提供しうるものとする。 ウ 制度設計の基本的考え方 法科大学院の制度設計に当たっては、前記のような教育理念の実現を図るとともに、以下の点を基本とする。 ・法科大学院の設置については、適正な教育水準の確保を条件として、関係者の自発的創意を基本にしつつ、全国的な適正配置となるよう配慮すること ・ 法科大学院における教育内容については、学部での法学教育との関係を明確にすること ・新しい社会のニーズに応える幅広くかつ高度の専門的教育を行うとともに、実務との融合をも図る教育内容とすること ・ 法科大学院における教育は、少なくとも実務修習を別に実施することを前提としつつ、司法試験及び司法修習との有機的な連携を図るものとすること ・以上のような教育を効果的に行い、かつ社会的責任を伴う高度専門職業人を養成するという意味からも、教員につき実務法曹や実務経験者等の適切な参加を得るなど、実務との密接な連携を図り、さらには、実社会との交流が広く行われるよう配慮すること ・ 入学者選抜については、他学部、他大学の出身者や社会人等の受入れにも十分配慮し、オープンで公平なものとすること ・資力のない人や社会人、法科大学院が設置される地域以外の地域の居住者等にも法曹となる機会を実効的に保障できるよう配慮すること ・ 法科大学院における適正な運営の確保及びその教育水準の維持、向上を図るため、公正かつ透明な評価システムを構築するなど、必要な制度的措置を講じること 」 当審議会 以上のような意義と内容を有する法科大学院は、中央教育審議会 このように考えれば、法科大学院構想が従来のままの法学部の在り方を所与の前提とするものでは決してないことは、容易に理解されよう。各大学には、厳しい自己改革の努力の上に立ち、その個性や特色を生かした法科大学院を設立されるよう、強く期待したい。 その前提の上で、現在、政府においては、規制改革の観点から、高等教育における自由な競争環境の整備に関する検討が進められつつあるところでもあり、以下に列挙する設置基準関係の事項のうち、設置基準に盛り込むべき事項は最小限に絞って枠内に記載した。また、設置審査自体に関わる事項、第三者評価で考慮されるべき事項、その他補足的事項は枠外に記載してある。特に、第三者評価で考慮されるべき事項も含まれており、評価基準の策定に関わる国の関与の在り方などとの関連において、設置基準と第三者評価基準との関係について整合性を確保することが必要である。 我が国の大学改革及び司法制度改革の歴史の中でも特筆すべき壮挙とも言える法科大学院が実現段階に差し掛かった今こそ、国民の信頼と期待に応え得る新たな法曹養成制度を構築するために、教育関係者と司法関係者が相互に信頼しあい、共感に満ちたパートナーシップを築くことが不可欠であることを、改めて確認しておきたい。 この「中間報告 2 設置基準関係 (1)課程
大学院の目的・役割として、学術研究の推進及びそれを通じた研究者の養成とともに高度で専門的な職業能力を有する人材の養成が上げられるが、特に近年においては、学術研究の進展や急速な技術革新、社会経済の高度化、複雑化、グローバル化等により大学院における社会的・国際的に通用する高度専門職業人養成に対する期待が高まっている。 このため、中央教育審議会においては、現在、従来の修士課程・博士課程に加え、「高度で専門的な職業能力を有する人材の養成」を目的とする大学院の課程として専門職学位課程(仮称)を新たに設け、この課程を置く大学院として専門職大学院(仮称)の制度を創設することを検討している。 法科大学院は、審議会意見において「法曹養成に特化した実践的な教育を行う学校教育法上の大学院」として位置づけられているとおり、高度専門職業人としての法曹の養成を目的としているものであるため、このような趣旨を踏まえると、法科大学院もまた専門職大学院(仮称)の一つとして位置づけることが適当である。 なお、このように法科大学院は法曹養成に特化した教育を行うものであり研究者後継者養成を直接の目的とするものではないが、その修了者が、研究後継者養成を目的とする課程(博士後期課程)に進学し研究者を目指すことなども想定されることから、当該課程にあっては、法科大学院の修了者について受入れの規定を整備することが必要である。また、その際、当該課程におけるどの段階で受け入れるかについては今後検討していく必要がある。 (2)標準修業年限・修了要件
標準修業年限 司法制度改革審議会意見(以下「審議会意見」という。)の趣旨を踏まえ、標準修業年限は3年とすることを設置基準上明確に位置づけることが必要である。その上で、夜間大学院など教育研究上の必要があると認められる場合には、研究科、専攻又は学生の履修上の区分に応じて、3年を超えることができるものとすることが適当である。 また、従来の大学院修士課程において認められている標準修業年限を1年以上2年未満とするコース(いわゆる1年制コース)など短期の標準修業年限を可能とする制度は、法的思考力を鍛える場であり教育方法も少人数教育を基本として双方向的、多方向的で密度の濃いものとされている法科大学院については、その必要単位数を勘案すれば当面制度化すべきでないと考えられる。 なお、標準修業年限と関連して、法科大学院において必要とされる法律学の基礎的な学識を有すると認められる者(以下「法学既修者」という。法学部出身者であると否とを問わない。)については、2年以上3年未満での短期修了が認められるが、全体の多様性を確保する見地から、審議会意見において「経済学や理数系、医学系など他の分野を学んだ者を幅広く受け入れていくことが必要である」とされている趣旨を十分踏まえることが必要である。なお、標準修業年限は3年であることから、法科大学院において2年以上3年未満の教育課程のみを編成することは制度上認められない。 さらに、修業年限を超えて在学することが予定される正規学生である長期履修学生については、中央教育審議会において、職業や家事等に従事しながら大学等で学ぶことを希望する人々の学習機会を一層拡大する観点から、学生が個人の事情に応じて柔軟に修業年限を超えて履修し学位等を取得する仕組みとして、その導入について答申が出されたところであり、これを受けて本年3月に大学設置基準等の改正が行われたところであるが、各法科大学院においても、これを踏まえ、公平性、開放性、多様性の観点から適切に対応し受け入れていくことが望まれる。 ※「長期にわたる教育課程の履修」(大学設置基準 第30条の2) 大学は、大学の定めるところにより、学生が、職業を有している等の事情により、修業年限を超えて一定の期間にわたり計画的に教育課程を履修し卒業することを希望する旨を申し出たときは、その計画的な履修を認めることができる。 修了要件 課程の修了要件として、既存の大学院の課程(修士課程と博士課程)については、一定期間の在学及び必要単位の修得に加え学位論文の作成等に対する指導(以下「研究指導」という。)を受け、論文の審査(又は特定の課題についての研究の成果の審査)及び試験の合格が必要であるが、法科大学院の課程については、法曹養成に特化した実践的な教育を行うことに鑑み、研究指導は要しないこととし、一定期間の在学及び必要単位の修得のみとすることが適当である。 すなわち、法科大学院の課程の修了要件として、必要在学期間については、標準修業年限に即して3年以上(標準修業年限が3年を超える場合には、当該標準修業年限以上)とし、必要修得単位数については、法律基本科目群、実務基礎科目群、基礎法学・隣接科目群、展開・先端科目群の標準的なカリキュラムを想定し、93単位以上とすることが適当である。ただし、法学既修者については、審議会意見において短縮型として2年での修了を認めることとすべきとされていることを踏まえ、30単位を超えない範囲で既に修得したとみなすとともに(すなわち、63単位以上の修得が必要)、在学期間を1年以下短縮できるもの(すなわち、2年以上在学が必要)とする。 (3)教員組織等
教員資格 法科大学院は、法曹養成に特化した実践的な教育を行う新しい大学院であり、また研究指導を行わないものとすると、教員資格に関する基準については、従来とは異なる法科大学院独自の観点からのものが必要となる。具体的には、教育実績や教育能力、実務家としての能力・経験を大幅に加味したものとするとともに、審査に当たっては、現行の大学院設置審査基準における研究指導教員(いわゆる「○合」)と研究指導補助教員(いわゆる「合」)の区別は設けないこととすることが適当である。なお、このような教員資格の内容を踏まえると、資格審査手続においては、法曹関係者など実務に精通した者の参加が必要である。 その際、教員となる者については、実務に接する機会を設けたり、実務家教員については教育に係る研修を行うなどの工夫をすることが適切である。 専任教員数等 必要専任教員数等の算定に当たっては、次のとおりとすることが適当である。 a 最低限必要な専任教員数については12人とする。 これは、法科大学院に最低限必要な授業科目を勘案したものである。 b 学生の収容定員については、入学定員に3(標準修業年限が3年を超える場合には、当該標準修業年限の数)を乗じて算出するものとする。(各年度毎に入学定員が異なる場合は直近3か年分の総和。) これは、 ア 法科大学院の標準修業年限は3年であり、3年の課程の教育を実施するものであること、 イ 現実にどの程度の数が2年で修了するかは確定し難いこと、 等を勘案したものである。 c 専任教員1人当たりの学生の収容定員は15人以下とする。 これは、法科大学院は、専門大学院と同様に高度専門職業人養成を行うが、必ずしも研究指導を要しないこととすることから、専門大学院に必要とされる比率(教員1人当たり10人の学生)と同じ比率である必要はないこと、及び、米国の主要ロースクールの例等を勘案したものである。 ・算出例1(入学定員50人の場合) 収容定員 : 50人×3年=150人 専任教員数: 150÷15=10人 → 12人 ※ 最低限必要な専任教員数を12人とすると、収容定員180人 (12×15)まで適用される。 ・算出例2(入学定員100人の場合) 収容定員 : 100人×3年=300人 専任教員数: 300÷15 =20人 さらに、このほかにも、各大学院毎に開設授業科目に応じた必要な担当教員を置くことが必要となる。 また、専任教員の在り方に関し、現行制度上は、大学院には、研究科及び専攻の種類及び規模に応じ、教育研究上必要な教員を置くものとされており、教育研究上支障を生じない場合には、学部・研究所等の教員等がこれを兼ねることができることとされている(大学院設置基準第8条)が、法科大学院の独立性の確保の必要性に鑑み、専任教員(必要数分)は、他の学部等の専任教員の必要数に算入しないものとすることが適当である。(法科大学院の教育に支障を生じない場合には、法科大学院の専任教員が他の学部等の授業の一部を担当することが妨げられるものではない。) ただし、制度発足当初は、他の学部等における教育との関連性を考慮し、優秀な教員を確保する観点から、専任教員のうち、3分の1以内については、法科大学院及び他の学部等の教育研究上支障を生じない場合には、他の学部等の専任教員の必要数に算入できることとすることが適当である。この措置は、10年以内を目途に解消されることを前提に、当面の措置として認めるものとすることが適当である。(専任教員の数の3分の1以内を他の学部等の専任教員の必要数に算入する場合であっても、あくまでも上記により算定される教員数が法科大学院に必要な専任教員数であることに変わりはない。) なお、このような措置を認めるものではあるが、法科大学院の運営においては相対的な独立性を確保することが必要であり、その際、カリキュラムや人事等で法科大学院としての独自の運営ができるようにするとともに、大学院レベルにおける法曹以外の人材養成との関係や、学部教育との関係にも留意することが重要である。 実務家教員 法科大学院は、法曹養成に特化して法学教育を高度化し、理論的教育と実務的教育との架橋を図るものであるから、狭義の法曹や専攻分野における実務の経験を有する教員(「実務家教員」)の参加が不可欠である。このため、専任教員のうち相当数は、実務家教員とすることが必要である。 実務家教員の数については、法科大学院は、法曹養成の「プロセス」の一環として、その修了後に(新司法試験を経て)控えている新司法修習と 実務家教員としては、5年以上の実務経験を求めることとし、必要とされる専任の実務家教員のうち、少なくとも3分の1程度は常勤とするが、その余は、年間6単位以上の授業を担当し、かつ、実務基礎教育を中心に法科大学院のカリキュラム編成等の運営に責任を持つ者とすることで足りるものとする。ただし、この措置は (4)教育内容・方法等
教育課程等 法科大学院では、法理論教育を中心としつつ、実務教育の導入部分をも併せて実施することとし、実務との架橋を強く意識した教育を行うべきとされていることを踏まえ、体系的に教育課程を編成すべきことを基準上明確にする必要がある。 (主な科目の例) a 法律基本科目群 公法系(憲法、行政法などの分野に関する科目) 民事系(民法、商法、民事訴訟法などの分野に関する科目) 刑事系(刑法、刑事訴訟法などの分野に関する科目) b 実務基礎科目群 法曹倫理、法情報調査、要件事実と事実認定の基礎、法文書作成、模擬裁判、ロイヤリング、クリニック、エクスターンシップなど c 基礎法学・隣接科目群 基礎法学、外国法、政治学、法と経済学など d 展開・先端科目群 労働法、経済法、税法、知的財産法、国際取引法、環境法など なお、既存の大学院の教育は、授業科目の授業(講義、演習、実習等)及び研究指導によって行うものとされているが、法科大学院の教育は、法曹養成に特化した実践的な教育であるため、授業科目の授業によって行うものとし、 また、授業とそれに必要な学習時間との関連で、単位制度上は「教員が教室等で授業を行う時間」及び「学生が事前・事後に教室外において準備学習・復習を行う時間」の合計で標準45時間の学修を要する教育内容をもって1単位とすることとされており(例えば、「講義及び演習については、15時間から30時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもって1単位とする」とされている。(大学設置基準第21条))、教員は学生に対して適切に準備学習・復習の指示を与えるなどにより、教室外の学習時間を確保することが必要である。 授業方法等 法科大学院における教育方法(授業方式)としては、講義方式や少人数の演習方式、調査・レポート方式などを適宜組み合わせ活用するものとし、双方向的・多方向的で密度の濃いものとすべきとされていることを基準上明確にする必要がある。また、理論と実務を架橋した教育にふさわしい教材の整備も必要であり、例えば、実務家教員とそれ以外の教員とが協力して事例式のケースブックや演習書を作成したり、司法修習の内容も参考にした適切な教材を作成したりなどの工夫が期待される。さらに、教員の教育能力を高めるため、例えば、実務家教員については法曹関係者が協力して研修を行ったり、その他の教員については実務研修の見学の機会を設けるなどの取り組みも重要である。 授業を行う学生数についても、法科大学院において少人数で密度の濃い教育が基本とされていることに鑑み、授業方法や施設・設備その他の教育上の諸条件を考慮して、教育効果を十分にあげられるような適当な人数とするものとする。授業科目や授業方法に応じた考慮が必要であるが、例えば、法律基本科目群の授業であれば、概ね50人程度を基本とすべきである。 また、法科大学院の課程を修了した者のうち相当程度の者が新司法試験に合格できるような充実した教育を行うためには、その前提として、法科大学院の学生が在学期間中その課程の履修に専念できるよう、授業方法・計画、成績評価方法を明示した上で、厳格な成績評価及び修了認定を行うことが必要である。 その実効性を担保する仕組みとしては、例えば、各法科大学院において、ある段階(例えば初年度修了時)において履修状況及び学業成績から見て一定の水準に達していない限りその段階以降の履修を認めないこととすることや、学生の卒業時における一定の水準を満たすことを修了要件とすることなどが考えられる。 なお、自宅や職場等から通学できる範囲に必ずしも希望する法科大学院がないことや、職場環境によって通学可能な時間帯が限られることなど、地理的・時間的な制約などがある社会人等のニーズに応えるため、公平性、開放性、多様性の確保を図る必要がある。そのため、インターネットや衛星通信等を活用したテレビ会議方式など遠隔授業など授業方法の工夫、 ただし、通信制法科大学院については、高度情報通信技術の発展等を視野に入れると、これらの技術の積極的活用によりレポート指導や討議、双方向・リアルタイムで行う授業の展開などが今後期待されるものの、他方で、学生に対して法科大学院にふさわしい十分な学習指導を行える体制が確保できるかどうかなどの課題も残っている。したがって、通信制法科大学院については、通常の法科大学院の発足後の教育の展開状況も見定めつつ、その在り方について引き続き検討する必要がある。 (5)施設及び設備
施設及び設備については、法科大学院の目的に照らし、十分な教育効果をあげるためにふさわしいものとして整備されていることが必要である。すなわち、各法科大学院の創意工夫を促すため、これらについて一律の数量的基準を設けるものではないが、厳しい第三者評価を乗り越えられるような教育を行う前提として、法科大学院にふさわしい必要かつ十分な環境を整えることが求められる。 (6)第三者評価(適格認定)
大学の評価の今後の在り方に関しては、大学の個性化と教育研究の不断の改善に向け、自己評価、外部評価、第三者評価(適格認定)を適切に組み合わせた多元的な評価システムを確立することが必要である。法科大学院に関しても、新たな法曹養成制度の中核的機関としての水準の維持・向上を図るため、設立時の設置認可の審査とともに、大学関係者や法律実務に従事する者、法的サービスの利用者等で法科大学院に関し広く高い識見を有する者による継続的な第三者評価(適格認定)を行うことが重要である。 その検討に当たっては、現在、中央教育審議会において、大学の質の保証に係る新たなシステムの構築に向けて設置認可の弾力化と大学設置後のチェック体制の整備について検討がなされており、一方、司法制度改革推進本部においても、第三者評価(適格認定)基準等についての検討が進められていることを踏まえ、両者の検討の整合性を確保する必要がある。 すなわち、法科大学院が学校教育法上の大学院として専門職大学院(仮称)の一つとされることに鑑み、その第三者評価(適格認定)の在り方についても大学院評価制度全体の枠組みの中において位置づけられることが基本となるが、他方で、第三者評価(適格認定)の結果が新司法試験の受験資格の付与とも連動することも踏まえつつ、制度設計を行う必要がある。 その際の具体的な留意点としては、例えば、第三者評価(適格認定)の基準の内容及びその策定に係る国の関与、第三者評価(適格認定)機関の在り方、法科大学院創設時における第三者評価(適格認定)の取扱い、適格認定されなかった法科大学院に対する国の措置、第三者評価基準と設置基準との関係(前掲P.4)、などがあるが、今後、審議会意見の趣旨を損ねることの無いよう配慮しつつ、各方面における検討状況を見定め、更に検討する必要がある。 (注)司法制度改革審議会意見抜粋(審議会意見書P.70) 法科大学院における入学者選抜の公平性、開放性、多様性や法曹養成機関としての教育水準、成績評価・修了認定の厳格性を確保するため、適切な機構を設けて、第三者評価(適格認定)を継続的に実施すべきである。 法科大学院の第三者評価(適格認定)の仕組みは、新たな法曹養成制度の中核的機関としての水準の維持、向上を図るためのものであって、大学院としての設置認可や司法試験の受験資格とは、密接に関連しつつも、独立した意義と機能を有するものであり、評価(適格認定)基準の策定や運用等に当たっては、それぞれの意義と機能を踏まえつつ、相互に有機的な連携を確保すべきである。 <参考> 以下の事項は、大学院設置基準(及び大学設置基準)において、大学院教育一般に適用されるものとして定められており、法科大学院についても、教育水準の向上を図るなどの観点から、現行は学部のみのものも含め基本的に適用されるものと考えられる。 ・自己点検・評価の実施・結果の公表等(大学院設置基準第1条の2) ※ 法科大学院が教育水準の一層の向上を図る観点から、各法科大学院自らが教育の質的充実を進める責任があることを明確にするとともに、教育活動の透明性を高めることにより、法科大学院の教育活動が自主的に行われることに対する社会の信頼を確保する上で、自らの教育活動の点検・評価の実施と評価結果の公表は、必要不可欠である。 ・情報公開(大学設置基準第2条の2) ※ 上記の自己点検・評価の結果の公表とともに、法科大学院における教育活動の状況等についても、刊行物への掲載その他広く周知を図ることのできる方法によって積極的に情報を提供することが重要である。 ・単位の考え方(大学設置基準第21条) ※ 前掲(P.12) ・一年間の授業期間(大学設置基準第22条) ・各授業科目の授業期間(大学設置基準第23条) ※ 1年間の授業を行う期間は、定期試験等の期間を含め、35週にわたることを原則とする。また、各授業科目の授業は、10週又は15週にわたる期間を単位として行うものとする。ただし、教育上特別の必要があると認められる場合は、これらの期間より短い特定の期間において授業を行うことができるとされており、法科大学院の場合は、例えば、夏休みなど学期外の実務家教員による集中講義、クリニック・エクスターンシップなどの実施が考えられる。 ・教育内容等改善のための教員の組織的な研修等(ファカルティ・ディベロップメント) (大学設置基準第25条の2) ※ 現行は学部のみについて努力義務とされているが、法科大学院についても、審議会意見書では、授業内容・方法、教材の選定・作成等について、研究者教員と実務家教員との共同作業等の連携協力が必要とされていることも踏まえ、準用する必要がある。 ・単位の授与(大学設置基準第27条) ※ 一の授業科目を履修した学生に対しては、試験の上単位を与えるものとする。もちろん、学期末の試験のみならず学生の授業への出席状況、宿題への対応状況等日常の学生の授業への取り組みと成果を考慮して、多元的に成績評価を行った上で単位を与えることが望ましい。 ・履修科目登録の上限設定(大学設置基準第27条の2)(※現行は学部のみ) ※ 現行は学部のみについて、単位制度の趣旨に鑑み、学生が各年次にわたって適切に授業科目を履修するため、履修科目の登録の上限設定に努めることとされている。法科大学院においては、学生の予習及び復習を前提とした双方向、多方向的な密度の濃い授業を行うことが要求されていることや法科大学院の学生が在学期間中その課程の履修に専念できるような仕組みを設けることが肝要とされていることを踏まえ、過剰な科目登録を防ぐために、履修科目登録の上限を設定するものとする。 ・他の大学院における授業科目の履修(単位互換)(大学設置基準第28条) ・入学前の既修得単位の認定(大学設置基準第30条) ※ 入学前の既修得単位の認定については、各法科大学院において、教育上有益と認めるときは、法学既修者に対して、これを認めることとできることとすることが適当であると考えられるが、現行制度上、大学院修士課程においては修了に必要な30単位のうち10単位を超えない範囲(3分の1を超えない範囲)で認めることができるとされていることを踏まえ、法科大学院においても、入学前の既修得単位については、修了に必要な93単位のうち30単位を超えない範囲(おおむね3分の1)で、当該法科大学院における授業科目の履修により修得したものとみなすことができることとする。 また、他の法科大学院との単位互換については、学生にとって幅広く多様な授業科目を履修できるとともに、各法科大学院間の交流と協力を促進し教育の充実を図る観点から、重要な意義を有する。このため、単位互換については、修了に必要な93単位のうち30単位を超えない範囲(おおむね3分の1)で、当該法科大学院における授業科目の履修により修得したものとみなすことができることとする。ただし、上述の法学既修者に対する入学前の既修得単位として認定される単位数と単位互換により認定される単位数は、合計して30単位を超えないものとする。 ・科目等履修生(大学設置基準第31条) ※ 科目等履修生制度については、社会人等に対する学習機会の確保のみならず、法曹の継続教育として先端的・現代的分野や国際関連、学際的分野等を学ぶ機会を確保するためにも、法科大学院においても他の大学院と同様に認めることが適当である。 3 その他 (1)法科大学院の学位(専門職学位)関係
大学院における学位としては、現在、修士・博士があるが、法科大学院修了者に対して与えられる学位は、法曹養成に特化した実践的な教育の修了者に対して与えられるものであるため、国際的通用性も勘案しつつ、既存の修士・博士とは別の専門職学位を設けることを検討する。 なお、専門職学位の創設と同時に、課程についても修士課程・博士課程とは別の学位課程を設けることが必要となるが、法科大学院をはじめとして職業資格との関連を視野に入れた新たな形態の大学院やその学位の在り方については、 (2)複数の大学が連合して設置する大学院(連合大学院)等
各大学において法科大学院を設置するに当たり、個々の大学では教員や施設設備等必要な教育条件を整備することができない場合や、個々の大学ではこれらの条件を整備できる場合であっても質量ともに十分な水準を確保できない場合などがありうるが、このような事態に対応し、限られた人的・物的資源を有効に利用し充実した教育を行う観点から、複数の大学が連合して設置する法科大学院(連合大学院)も制度的に認められるべきである。その具体的な形態については、現行制度との整合性も勘案しつつ、検討することが必要である。 設置形態のパターンとしては、複数の大学(学校法人)が対等の立場で協力し、そのうち1校を基幹校として残りの大学が内部組織に参画するパターン、複数の大学(学校法人)がそれぞれ共同出資して新たに学校法人を設立し、法科大学院を設置するパターン、複数の大学(学校法人)が協定等により連合組織を設立するなどにより、共同で法科大学院を設置するパターン、「複数の大学に置かれる法科大学院の研究科」を制度化することとし、各大学が一つの法科大学院の研究科を設置するとするパターン、が考えられる。 検討に当たっては、その際、独立した法科大学院としての一体的な運営の確保、教育水準の確保、学生の学習の便宜(無理のない履修形態の確保)、安定的・継続的な運営の確保などに留意する必要があるが、これらの点に照らすと、及びのパターンは、経営体制の責任、機動的な大学運営、学生との在学契約や教職員の使用者責任、設置認可等各種申請手続きなどに関しての問題がある。他方、及びのパターンについては、現行制度上も可能なものであり及びに比べ上記の問題は少ないが、連合する各大学から学位が授与できないことに留意する必要がある。 これらを踏まえ、又はのパターンを基本として検討することとするが、その際、のパターンについては、国立大学のみならず公立大学や私立大学でも認めることとすると、法科大学院としての一体的な運営の確保に留意しつつ、基幹校と参加大学のそれぞれにつき専任教員として算入を認めるなど専任教員の概念の見直し等が必要となる。また、のパターンについては、更なる緩和措置として、例えば、一定の条件の下に校地・校舎の借用を認めることなどが考えられる(→別紙参照)。いずれにせよ、国立・公立・私立の別を超えた連合大学院の在り方については、法科大学院の設置状況や国立大学の法人化の検討状況を踏まえつつ、大学院制度全体の中で更に検討する必要がある。 さらに、法科大学院の教育の充実を図る観点からは、連合大学院の設置だけではなく、例えば単位互換など他の大学や他の機関と連携して多様な教育を展開することが必要である。 (3)奨学金、教育ローン、授業料免除制度等の各種支援制度
およそ法曹を志す多様な人材が個々人の事情に応じて支障なく法科大学院で学ぶことのできる環境の整備が必要であり、資力の十分でない者が経済的理由から法科大学院に入学することが困難となることのないように、奨学金、教育ローン、授業料免除制度などの各種の支援制度を充実する方策について、今後、育英奨学制度等の充実を目指し、文部科学省をはじめ関係機関において具体的に検討する必要がある。 例えば、文部科学省における奨学金事業、関係機関による法曹を目指す者を支援するための奨学金の仕組み、民間金融機関による教育ローンや債務保障制度、各法科大学院における授業料免除制度、など様々な方策が考えられ、今後、法科大学院の関係者による具体的な検討が急務である。 いずれにせよ、その前提として、法科大学院が、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」として新たな法曹養成制度の中核になるとともに、高度専門職業人養成に向けた今後の大学院改革の方向性を位置づける試金石となるものとして極めて重要な意義を有することについて、国民の理解を得る必要があることは当然である。 なお、標準修業年限に関連して既に述べたところであるが、修業年限を超えて在学することが予定される正規学生である長期履修学生の制度もまた、時間的余裕の無い学生に対する支援方策として重要であり、各法科大学院において、公平性、開放性、多様性の観点から適切に対応し受け入れていくことが望まれる。 (4)法学部教育との関係
今後、法曹も含め高度専門職業人を養成するためには、学生に、幅広い知識を身に付けさせた上で、職業上必要な高度な専門的知識・技術を習得させることが重要であり、このため、学部段階では広い視野を持った人材の育成を目指す教養教育を中心とした教育プログラムを提供し、他方、大学院段階では高度で専門的な教育プログラムを提供することが重要である。 このことを踏まえると、法科大学院導入後は、法曹養成に特化した専門教育は法科大学院で行うことになるため、各学部においては、例えば、法的素養を中心とした教養教育中心へシフトするもの、米国の主専攻、副専攻のように複数の学部・学科の専門科目を同時に履修できるようなカリキュラム上の工夫を行うもの、法曹以外の実務法律家の養成を中心にするものなど、多様な展開が期待される。 また、学部段階においては、優れた成績を収めた者に対して、大学院への学部3年次からの飛び入学や学部4年未満での卒業など、早期に大学院に入学できるような仕組みが既に開かれている。ただし、これらの者について法科大学院での3年未満での短期修了を一般的に認めると、学部段階において法曹に必要な幅広い教養を身につけることが疎かになる恐れがあり、適当ではない。 (5)入学者選抜
審議会意見でも述べられているように、社会人等として経験を積んだ者を含め、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、法科大学院には学部段階での専門分野を問わず広く受入れ、社会人等にも広く門戸を開放する必要がある。 このため 入学試験に関しては、法学既修者と法学未修者を問わず全ての出願者においては、適性試験を受験し、法学既修者として出願する者に対しては、各法科大学院の自主性に基づき、法律科目試験が行われる。 このうち、法律科目試験については、法律学の基礎的な学識を有しているかどうかの判断は各法科大学院が行うべきものであるが、各法科大学院が、独自の法律科目試験に代えて、もしくは独自の法律科目試験と併せて、または第一段階選抜の方法として、共同で法律科目試験を実施し、その成績を法学既修者としての判定資料として用いることも考えられる。なお、法学未修者の選抜において、法律科目試験を実施することは認められない。 また、審議会意見の趣旨が十分活かされるよう、各法科大学院が、多様性の確保のために必要な具体的な措置を提示することが必要であり、入学者選抜においても、法学部・法学科以外の学部・学科の出身者や社会人等を一定割合以上入学させるなどの措置を講じる必要がある。どの程度の割合が適切かについては、今後、第三者評価(適格認定)の在り方の一環として検討されるものであるが、入学者の状況によって適宜見直されていくものと考えられる。 これらを踏まえ、入学者選抜手続のイメージとしては、例えば以下のように考えられる。 ・入学の前年度の適切な時期に適性試験を実施し、出願者は、その成績とその他の要素を考慮して、出願校を決定し、出願手続を行う。 ・ 出願を受理した各法科大学院は、3年修了予定者については、必要に応じて小論文や面接等を実施し、その結果と、適性試験成績、幅広い分野の学業成績や学業以外の活動実績、社会人としての活動実績等を総合して、合格者を決定する。 ・ 2年修了希望者については、これに加えて、必要があれば独自の法律科目試験を実施して、合格者を決定する。 ・入学前年度のいかなる時期に試験を実施するかは、基本的には、各法科大学院の自主的判断に委ねられるべきものであるが、出願者の受験機会の確保や他の進路選択などの観点から、適切な配慮が求められる。 ページの先頭へ |
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