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資料4
中央教育審議会大学分科会
法科大学院特別委員会
(第9回)平成18年2月27日

法科大学院における教育水準の確保について(案)−これまでの議論の整理−


1.「法科大学院」制度創設の理念の実現

(1) 法科大学院における教育の目指すべき姿

<今後の方向性>
 法科大学院制度創設の目的・理念、特に、法科大学院において養成すべき法曹像を法科大学院関係者が常に意識し、これを堅持しつつ教育に当たることが重要である。
 特に、いわゆる受験予備校的な知識偏重や司法試験対策のための教育にならないよう十分留意すべきである。

(2) 制度創設の目的・理念の実現に向けて

<現状>
 本年3月末に制度発足初年度(平成16年度)に入学した法学既修者が修了し、5月には第1回目の新司法試験が実施される予定である。

<今後の方向性>
 法科大学院制度は新たな法曹養成制度として動き出したばかりであり、現在はいわば過渡期である。したがって、現時点での課題や不十分な面のみに着目して拙速に対応すべきではない。法科大学院制度の健全な発展のためには、中長期的な視点を持って法科大学院を見守り育てていくという姿勢が必要である。
 法科大学院関係者は、制度創設の目的・理念を堅持し、社会の期待に応えるべく、関係者間の協力により確実にこれを実現するよう今後とも不断の努力を重ねていくことが重要である。

2.多様なバックグラウンドを有する者の受入れと指導

<現状>
 法科大学院の入学者選抜については、『司法制度改革審議会意見書』(平成13年6月12日)に基づき、適性試験の結果及び各法科大学院で実施する面接や小論文、書類審査、法学既修者に係る法律科目試験の結果等を総合的に考慮して実施している。
 同意見書では、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、法学部以外の学部の出身者や社会人等を一定割合以上入学させるなどの措置を講じるべきとされており、これを受けて文部科学省告示において、「法科大学院は、入学者のうちに法学を履修する課程以外の課程を履修した者又は実務等の経験を有する者の占める割合が三割以上となるよう努めるものとする。」とされている。
 平成17年度の法科大学院入学者5,544人についてみれば、社会人は約38パーセント(2,091人)、法学系以外の学部出身者は約30パーセント(1,660人)であった。(平成16年度は、社会人約48パーセント、法学系以外の学部出身者約34パーセント。)
 法学系学部出身者であっても、法学既修者としての認定を希望しない入学者もおり、実態としては「法学未修者コース」には法学系学部出身者と法学系以外の学部出身者が混在している。このため同コースでは入学時点で学生の法律知識にかなりの差が生じているが、各法科大学院はこのような状況の中で、効果的な教育方法等を模索している。
 「法学系学部出身者」と「法学系以外の学部出身者」が混在する1年次の教育や「入学2年目の法学未修者」と「入学1年目の法学既修者」が同一の授業科目を受講する2年次の教育について、これらの段階では通常両者の法律知識の定着状況に差があることを踏まえ別々のクラスとする法科大学院がある一方で、あえて両者を同一のクラスとし両者が相互に良い刺激を与え合うことにより成果を上げている法科大学院もある。
 特に、法学系以外の学部出身者を対象にオフィスアワーを活用するなどして、判例検索の方法等を指導している例もある。

<今後の方向性>
 「多様なバックグラウンドを有する者を多数法曹に受け入れる」という制度本来のねらいを実現する上で、法科大学院適性試験の質の向上は極めて重要である。そのため、現在実施されている適性試験の問題の質や有効性等について、今後、関係者の協力により検証・分析を進めていくことが必要である。
 各法科大学院が実施する入学者選抜の段階においても、制度本来のねらいを十分踏まえ、面接等を有効に活用するなどの工夫により、法曹となるべき資質・意欲をできる限り見極めるよう努めるべきである。
 「法学未修者コース」1年次の成績評価に当たっては、学生の実態を踏まえ、法律知識の定着状況のみにより機械的に行うことのないよう留意すべきである。
 入学前に全く法学を履修していない者については、特にきめ細やかな履修指導を行うことが重要である。

3.教育内容・方法等

(1) 法科大学院としてのあるべき教育内容・方法等(「理論と実務の架橋」の実現)

<現状>
 各法科大学院においては、制度創設の目的・理念の実現に向け、教育内容・方法等の充実のため様々な取組が進められている。

<今後の方向性>
 法科大学院制度が、受験技術優先と評されたかつての問題点を克服し、法曹が今後の社会において期待される役割を十全に果たすための人的基盤を確立するために設けられたものであるという原点を踏まえ、各法科大学院において養成しようとする法曹像を明確化し、「理論と実務の架橋」という制度の基本理念を実現するにふさわしい教育内容・方法等の充実を図ることが最も重要である。
 教育内容については、授業時間に限りがある中で、学生の自学自習との適切なバランスを考慮しつつ、重複や漏れが生じないよう、教育課程の編成段階及び各教員の授業の実施段階においても相互に連携を図るなどの工夫が必要である。
 複数の教員が担当する同一科目間だけでなく、関係科目(例えば民法と商法)間においても、関係する教員間で教育内容・授業進度等に関する情報交換や意思疎通を図るなど連携を密にすることが重要である。このような取組により、個々の学生の到達度や弱点等をより的確に把握しつつ指導に当たることが可能となる。
 法科大学院の目的・理念を一層具現化していくためには、法律基本科目だけでなく、法律実務基礎科目、基礎法学・隣接科目、展開・先端科目の各授業科目群の教育内容・方法等の充実を図り、学生がそれぞれの授業科目群をバランス良く履修できるよう配慮することが重要である。

(2) 各授業科目群の在り方

<現状>
 各法科大学院においては、「理論と実務の架橋」を意識しつつ、それぞれの特色を生かしながら法科大学院制度の目的・理念を実現できるよう、法律基本科目、法律実務基礎科目、基礎法学・隣接科目、展開・先端科目のそれぞれについて、適切な科目設定と体系的な教育課程の編成並びに教育内容・方法等の充実に取り組んでいる。

<今後の方向性>
 法律基本科目については、まず基礎的な知識・原理を確実に身に付けさせ、その上で実務につながる応用的な能力を段階的に修得させることが重要である。
 法律実務基礎科目については、例えば「法曹倫理」のように、司法試験科目ではないが、法曹として確実に身に付けておくべき資質(責任感や倫理観等)を涵養するための科目の充実に努めることが望まれる。
 実務教育の実施に当たっては理論の裏付けが不可欠であり、この観点に立って理論教育の工夫に努めるべきである。その際、実務を遂行する上での理論の重要性を学生に理解させるため、入学後の早い時期から実務教育を実施することについても検討すべきである。
 授業科目によっては、個別事例を通じて事案分析力、論理的思考力、コミュニケーション能力等を涵養することも非常に効果的である。

4.日常の学習指導と学生支援

(1) 日常的な学生への指導

<現状>
 各法科大学院では、学生の主体的な学習を支援するため、教員が授業終了後の時間やオフィスアワー等を活用して学生の質問・相談に応じる等の取組が行われている。
 これに加えて、教育内容・方法や成績評価、自習室や参考図書・資料など教育環境等に関する学生からの相談や意見に対応するための体制(クラス担任制、ティーチング・アシスタントの配置など)を整えている例もある。

<今後の方向性>
 法科大学院制度の趣旨にかんがみ、一方的に知識を教授するのではなく、各学生が日常的に自ら考え、主体的に学習に取り組むことを促すための指導が不可欠である。
 各法科大学院の工夫により、教員が学生の学習指導にきめ細かく対応できる体制や時間を確保しておくことは、学習効果を高める上で非常に有効である。
 法律実務基礎科目については、学生に対しこれらの科目の意義や重要性を常に意識付け、学習への意欲を促すよう留意すべきである。その際、学生の意識や学習意欲を司法試験対策のみに偏らせないことが、法科大学院制度の本来の趣旨に照らして極めて重要である。
 各授業科目の教育目標や成績評価の方針、学生からの意見や要望への対応状況などを含め、学生に対する情報提供をさらに充実させていく必要がある。

5.厳格な成績評価と修了認定

<現状>
 各法科大学院では、各授業科目の成績評価に当たり、定期試験の結果に加え、授業への出席状況や授業態度、課題の提出状況その他日常の授業への取組と成果を評価するなど、多元的な成績評価が行われている。
 各授業科目ごとの成績評価に加え、あらかじめ学生に各年次(法科大学院によっては半期)終了時に求められる到達度(一定単位数の修得やGPA(Grade Point Average)の獲得、進級試験合格など)を示し、その水準に達しない場合にはその段階以降の授業科目の履修を認めないこととしている法科大学院が多数である。
 多くの法科大学院で、各授業科目の単位を修得できなかった不合格者を対象に「再試験」を実施している。その方法は、一定期間後に試験のみを実施する場合、再試験の前に数時間の補講の受講を義務付ける場合など様々である。再試験を実施していない法科大学院もある。
 修了認定については、修業年限と修得単位数により行っている法科大学院が多数であるが、これらに加え修了試験の実施を予定している法科大学院もある。

<今後の方向性>
 新しい法曹養成制度が、法科大学院における厳格な成績評価と修了認定を不可欠の前提とするものであることについて、法科大学院関係者が共通理解を持ち続けることが特に重要である。
 成績評価・修了認定については、あらかじめ明確な評価基準を設定し学生に明示するとともに、当該基準に則り厳正に評価を行うことが当然であるが、さらに、例えば授業科目ごとの成績分布図を作成するなどの方法により教員間で基準の検証を行い、厳格性・客観性の向上に努める必要がある。
 成績評価基準は、目標とする到達度、授業科目の性質や配当年次、同一科目内の公平性等を十分検討した上で設定することが重要である。
 成績評価・修了認定に当たっては、定期試験の結果や平常点(授業への出席状況、授業態度、課題の提出状況など)の活用、進級制、GPA制度、修了試験など様々な手法の長所を効果的に活用すべきである。
 特にGPA制度や修了試験の実施は、将来法曹となるべき者として備えるべき専門的資質・能力等が確実に身についているか否かを総合的に評価する上で有効と考えられることから、今後、各法科大学院において一層積極的な活用が期待される。

6.教員組織

(1) 法科大学院の目指すべき教育についての教員間の理解と認識の共有

<今後の方向性>
 各法科大学院が目指すべき教育、学生の指導方法等について、研究者教員、実務家教員を含め全ての教員が共通の理解と認識を持って指導に当たることが必要である。このため、日頃から教員間で十分な連携を図るとともに、各法科大学院としてもそのための仕組を工夫することが重要である。

(2) 教員の指導力の向上

<今後の方向性>
 法科大学院における教育水準の維持・向上を図っていくためには、研究者教員、実務家教員ともに、不断に指導力の向上を図るための取組が求められる。
 法科大学院が今後、法曹養成の基幹的な高度専門教育機関として期待される機能を発揮していくためには、優れた教員の継続的な確保が不可欠である。法曹養成に対する明確な視点を持ち、各分野についての学問的評価と実務に関する見識を備えた教員をいかにして継続的に確保するかが、各法科大学院にとって大きな課題である。

7.FD(ファカルティ・ディベロップメント)の充実

<現状>
 各法科大学院では、教員相互の授業参観や教材・レジュメ等の共同作成・交換、教育能力を高めるための研究会の開催などを通して、授業内容・方法の改善・充実に努めている。学生による授業評価アンケートの結果もかなりの法科大学院で活用されている。
 一方で、個々の教員により授業に取り組む姿勢や意識に差があり、教育内容・方法の改善・充実に向けての組織的な取組が未だ不十分な法科大学院も少なくないとの指摘もある。

<今後の方向性>
 各法科大学院において、ファカルティ・ディベロップメント(FD:教育内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究)の趣旨や目的を明確化し、教員間で認識を共有していくことが必要である。
 学生による授業評価アンケートの適切な活用も、教育内容・方法の改善・充実を図る上で有効であり、一層積極的な取組が期待される。

8.認証評価機関における取組

<現状>
 法科大学院の認証評価機関においては、法科大学院関係者や評価員の評価基準・評価方法等に関する理解の向上のため、本評価に先立つ試験的な評価の実施と評価結果を踏まえた評価基準等の再検討、評価員の研修会の開催など、本評価の実施に向けた積極的な取組が行われている。

<今後の方向性>
 法科大学院の教育水準の確保と向上のためには、認証評価機関の果たす役割が極めて重要であり、本評価の実施に向けて、引き続き積極的な取組が期待される。

9.引き続き検討すべき課題

 法科大学院全体及び各法科大学院の教育の状況について
 基礎法学・隣接科目及び展開・先端科目の実施状況について
 多様なバックグラウンドを有する者が入学する法科大学院における効果的な教育方法について
 「リーガルクリニック」、「エクスターンシップ」等の法律実務基礎科目や展開・先端科目の履修促進のための方策について
 厳格な成績評価・修了認定のための方策について
 研究者教員、実務家教員の指導力の向上と法科大学院教育に関する共通理解の促進について
 FDの充実や学生による授業評価アンケートの結果の適切な活用など教員の指導力の向上のための方策について
 法科大学院教育の充実のための認証評価機関との連携について


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