資料6

法科大学院設置計画履行状況調査の結果等について(平成19年度)

1 調査の目的等

 設置計画履行状況調査(以下、「アフターケア」という。)は、各法科大学院の教育水準の維持・向上及びその主体的な改善・充実に資することを目的として、文部科学省令((注1)参照)および告示((注2)参照)に基づき、文部科学省が、設置認可後、当該認可時における留意事項(設置基準の要件は満たしているが、一層の改善・充実が必要と認められた事項)、学生の入学状況、教育課程の編成・運営状況、教員組織の整備状況その他の設置計画の履行状況について、各法科大学院から報告を求め、書面、面接又は実地により調査するものである。
なお、文部科学大臣は、公私立大学の設備、授業その他の事項について、法令の規定に違反していると認めるときは、学校教育法第15条に基づき、改善勧告や変更命令などの是正措置を講ずることができることとされており、是正措置の発動に当たり必要があれば、当該大学等に対して報告又は資料の提出を求めることも可能である。国立大学についても同様に、法令違反等の状況が判明した場合には、国立大学法人法に基づき、是正措置要求などの措置を講ずることができることとされている。
アフターケアの本来の目的は、設置計画の履行状況を調査することであるが、仮に調査の過程で法令への適合性に疑義が生じた場合には、大学設置・学校法人審議会としてこれを指摘し、文部科学大臣の判断により、これらの是正措置等を段階的に講ずることもあり得る。

2 実施体制及び実施方法

 大学設置・学校法人審議会大学設置分科会では、アフターケアについて、運営委員会の下に「設置計画履行状況等調査委員会」を設置し、所要の調査審議を行っているが、法科大学院については、新たな法曹養成の中核を担うものであるという制度の特質を踏まえ、特に専門的な調査審議を行う必要があることから、従来から、「法科大学院特別審査会」(別紙1)に付託し、調査に当たっている。
法科大学院特別審査会では、昨年度まで全ての法科大学院(74大学)を対象として書面調査を実施してきたが、本年度は、昨年度に完成年度を迎えた法科大学院(68大学)のうち、昨年度のアフターケアで留意事項が付されていた法科大学院(36大学)及び本年度に完成年度を迎える法科大学院(6大学)、合計42の法科大学院別紙2)を対象として書面調査を実施した。
書面調査は、各法科大学院から「履行状況報告書」及びこれを裏付ける詳細な「補足説明資料」の提出を求め、これらの資料に基づき行った。
また、書面調査の結果、実地による調査を要すると判断した法科大学院(6大学)に対して実地調査を、大学から追加の説明聴取が必要と判断した法科大学院(12大学)に対して面接調査を実施した。
いずれの調査も、設置計画の履行状況全般に及ぶものであるが、すでに昨年度に完成年度を迎えていた36の法科大学院については、今年度は、とくに昨年度に付された留意事項への対応が適切に行われているかを中心に調査を行った。

3 総合所見

 全体的に見れば、調査対象となった42の法科大学院において、それぞれが設定した理念・目的を実現するために、教育課程の質的充実・改善を軸に、設置計画に沿った種々の創意工夫ある取組が行われ、昨年度のアフターケアにおいて付された留意事項にも適切に対応する努力が払われている。これにより、留意事項を付した法科大学院は23にとどまり、19の法科大学院については留意事項が付されない結果となった。また、本年度の調査対象となった法科大学院について、昨年度においては72項目の留意事項が付されていたが、本年度の留意事項は32項目にとどまっている。
このように、調査対象法科大学院において、開設以降の経験を踏まえ、教育内容・方法等の改善・充実に向けて、着実に進展していると評価することができる。
ただし、項目別所見で指摘するとおり、学生の入学状況、教育課程の編成・運営状況、成績評価の状況、教員組織の整備状況などについて、課題を残している法科大学院もみられる。とりわけ、厳格な成績評価を確保するための成績評価基準の在り方・その具体的運用の仕方や、法科大学院における教育の効果的な実践にとってきわめて重要な意味を持つファカルティ・ディベロップメント(授業内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究)(以下、「FD」という。)については、改善・充実に向けた一層の努力を要すると判断される法科大学院は相当数に上る。
各法科大学院には、今年度の留意事項を踏まえ、設置計画の確実かつ円滑な履行に努めていくことはもとより、学生のニーズ等にも的確に対応しつつ、法科大学院にふさわしい教育水準の確保と向上のため、より一層の創意工夫を期待したい。
今年度の調査結果を踏まえて留意事項を付した法科大学院は、別紙3のとおりである。

4 項目別所見

 調査項目ごとにその全般的な状況を示すと、以下のとおりである。

1 学生の入学状況

 入学者数について、入学定員をやや上回る法科大学院が例外的にあるものの、大きく下回る法科大学院が数校見られた。また、法科大学院は、多様なバックグラウンドを有する人材を多数受け入れるという観点から、入学者に占める法学系以外の学部出身者及び社会人等の割合が3割以上となるよう努めるものとされているが、3割に満たない結果となった法科大学院が見られた。
入学定員との関係で入学状況に課題が生じたり、社会人等の占める割合が減少するなどの傾向は全体的なものであり、今年度の調査対象大学中、該当する法科大学院の数はそれほど多くはないものの、法曹養成を担う専門教育機関として求められる教育水準を維持するとともに、法科大学院における多様性を確保するために、入学者選抜方法等の一層の改善・工夫に努めてもらいたい。

2 教育課程の編成・運営状況

  • (1) 教育課程は、各法科大学院においておおむね設置計画どおりに編成・運営されている。また、昨年度までのアフターケアにおいて留意事項が付されていた大学については、それぞれの創意工夫により、教育課程の編成・運営を見直し、改善する努力が払われている。
    ただし、法科大学院によっては、以下のような課題もなお残されている。
    • 1 法律基本科目、法律実務基礎科目、基礎法学・隣接科目、展開・先端科目の各科目群の適切な区分・整理。
    • 2 各科目群から偏りのない履修を確保するための適切な修了要件の設定。
    • 3 大規模な法科大学院における一科目の履修学生数の制限、適切なクラス分け。
  • (2) 特に、全国的な傾向であるものの、調査対象校全体にわたって、法律基本科目の比重が高まっており、実質的には法律基本科目でありながら、展開・先端科目群に分類するなどの科目例が少なからず見られる。これまでも再三指摘しているように、各法科大学院には、科目の位置づけを明確化するとともに、法律基本科目に偏することなく、基礎法学・隣接科目や展開・先端科目の履修など、幅広い知見を修得させるための工夫・努力が一段と求められる。
    また、法律基本科目に関して、正課外に特別の講座を開いて答案練習的な訓練を実施している法科大学院が見受けられる。正課外については学生の自主的学習に委ねるのが法科大学院の本旨であることを再確認するとともに、新司法試験対策に偏することなく、本来の教育課程に沿った運営が強く望まれる。
  • (3) 各法科大学院において、完成年度を迎えるに伴い、これまでの経験・実績を踏まえて教育課程を見直す動きがみられるが、教育課程の再編成にあたっても、法科大学院制度の理念・目的及び各法科大学院が設定した設置の趣旨等を十分に尊重して、必要な授業科目の開設や教育課程の整備・充実を図ることが必要である。

3 成績評価及び修了認定の状況

 成績評価の状況については、調査対象となった全ての法科大学院に対し、成績評価の結果・成績分布状況等の提出を求め、成績基準が適切に設定されているか、その基準に従って成績評価が行われているかを検討した。
その結果、一部の法科大学院において、1成績評価の基準が十分明確とはいえないもの、2成績評価基準に沿った成績分布となっていないもの、3筆記試験とレポートや平常点等の評価方法が適切に組み合わされているとはいえないもの等の問題点が認められた。
厳格な成績評価・修了認定は、プロセスを重視する法科大学院教育の根幹をなすものであり、後述するFDへの取組と併せて、教員間で十分な共通理解を確立し、組織的な取組を一層強化・充実していくことが強く求められる。

4 教員の組織及び教育研究体制の整備状況

 教員組織及び教育研究体制については、設置計画に基づいて、実務家教員の確保を含め、おおむね整備・補充が図られている。ただし、専任教員の平均年齢が著しく高い法科大学院や年齢構成に著しい偏りのある法科大学院が依然として残っており、早期の対応が望まれる。
また、教員の教育負担面への配慮の方策や、教育効果を勘案したクラス規模の縮小など、中・長期的な視点からの教員組織の整備・充実を図っていくことも必要と思われる。

5 FDへの取組状況

 調査対象となった全ての法科大学院において、FDに関する各種委員会(会議)等が設置され、組織の上では整備が図られている。しかし、その具体的な活動状況は概してなお十分とは言い難い面もあり、さらなる充実・強化が求められる。
特に、一部の法科大学院において、1授業評価アンケートの活用、2教員による授業参観制度の実施、3計画どおりのFD活動の実施等の点で、取組が必ずしも十分でない状況が散見された。
また、上記3で指摘した成績評価基準の問題も含めて、専任教員はもとより、兼任・兼担教員を含めた教員全体の認識を共通のものとするよう一層の努力が期待される。
なお、FDの一環として、学生による授業評価アンケートはほぼ例外なく実施されているものの、1に関して、学生の意見分布を正確に把握するためには、その回収率が重要な意味を持つところ、この点に対する考慮が十分ではなく、あるいは集計結果を教員及び学生にフィードバックする体制が十分に整備されていない法科大学院も見られた。この例に限らず、FDは単に形を整えるだけでは不十分であり、実効的かつ組織的なFD活動への取組が強く望まれる。

6 施設・設備等の整備状況

 施設・設備等については、年を追っておおむね順調に進行しているものの、全国的には、法科大学院の授業に適した講義・演習室、自習室等の整備・拡充がなお望まれる例も残されている。今回の調査対象校には、学生の利用する図書等の充足が十分とは言えない法科大学院が見られた。

5 今後の取組

 今回のアフターケアで留意事項を付した法科大学院については、来年度も引き続き、当該留意事項への対応状況について書面による報告を求め、各法科大学院における留意事項の改善状況を確認する方針である。
また、平成21年度までに、今年度の調査対象とされた法科大学院を含めて全ての法科大学院が「認証評価」((注3)参照)を受けることとなっているので、これとの有機的な連携を図るべく、本調査の結果を各認証評価機関に送付することとしている。

平成19年度 法科大学院設置計画履行状況調査 留意事項

国公私 大学院名 研究科・専攻名 開設年度 留意事項(案)
国立 筑波大学大学院 ビジネス科学研究科 法曹専攻 17
  •  憲法・民事法・刑事法の判例研究については、展開・先端科目の趣旨に合致するよう見直しを図るとあるが、シラバス上の内容は、重要判例の討論等による分析・検討となっているため、当該授業科目の科目区分の見直しも含め、さらに検討すること。
    また、「実務基礎科目」及び「基礎法学・隣接科目」を修了要件に必要な単位数以上修得した場合、当該単位を展開・先端科目の単位とすることができるとするなど、「展開・先端科目」の扱いに不適切な部分があるため、当該科目の設定の趣旨を踏まえ、その在り方を見直すこと。
  •  授業評価アンケートの回収率を向上させるため、アンケートの方法・内容について工夫・改善するとともに、アンケート結果を授業改善に適切に活用できるよう、組織的な仕組みを設けるなどファカルティ・ディベロップメント(授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究)の一層の推進に努めること。
国立 東京大学大学院 法学政治学研究科 法曹養成専攻 16
  •  法律基本科目の授業について、現在1クラス約60名の5クラス規模で行われているが、50名が標準とされていることを踏まえ、現状のクラス規模における教育効果を検証し、引き続き、適切な対応をとること。
国立 信州大学大学院 法曹法務研究科 法曹法務専攻 17
  •  成績の評価基準に関する教員間のコンセンサスを形成するとともに、レポートも含め成績評価の基準・観点を学生に事前に明示すること。
  •  ファカルティ・ディベロップメント(授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究)について一層の充実を図るとともに、その成果を学内外に適切に公表すること。
国立 静岡大学大学院 法務研究科 法務専攻 17
  •  成績評価基準について、さらに明確化が必要なので改善すること。
  •  ファカルティ・ディベロップメント(授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究)の実施体制の整備や会議の実施など着実に改善がなされているが、授業アンケートの学生へのフィードバック、授業改善への活用、教員間の情報共有など、さらに組織的に実施すること。
  •  図書の充実については改善も見受けられるが、さらなる充実を図り、学生の学習環境の整備に引き続き努めること。
国立 京都大学大学院 法学研究科 法曹養成専攻 16
  •  法律基本科目の授業について、1クラス70名近くに及ぶ授業科目が少なくないが、50名が標準とされていることを踏まえ、現状のクラス規模における教育効果を検証し、引き続き、適切な対応をとること。
国立 大阪大学大学院 高等司法研究科 法務専攻 16
  •  成績評価について、「成績評価の申し合わせ」の趣旨を徹底し、実効性の確保に努めること。
国立 鹿児島大学大学院 司法政策研究科 法曹実務専攻 16
  •  現在の成績評価基準は他の科目の成績評価、修了時における学力全体の到達可能性を考慮するものであるが、外在的要因を考慮する点において妥当ではなく、当該科目自体の成績をより客観的に評価する基準を定めること。
公立 大阪市立大学大学院 法学研究科 法曹養成専攻 16
  •  教員相互間の成績評価のばらつきについてさらに検討し、成績評価基準の適切な運用に努めること。
私立 北海学園大学大学院 法務研究科 法務専攻 17
  •  専任教員の年齢構成に偏りがあるため、早期に対応するよう、引き続き努めること。
私立 おう大学大学院 法務研究科 法務専攻 16
  •  法律特論を含め法律基本科目の比重について改善し、教育課程全体を早急に再検討すること。
私立 駿河台大学大学院 法務研究科 法曹実務専攻 16
  •  専任教員の年齢構成に偏りがあるため、早期に対応するよう、引き続き努めること。
私立 成蹊大学大学院 法務研究科 法務専攻 16
  •  一部の教員の担当授業科目数が非常に多くなっているので、該当する教員の教育負担の軽減を図ること。また、大学院設置基準第14条の特例を実施するため、教員全体の負担が増加傾向にあるが、その軽減についてもなお一層配慮すること。
私立 大東文化大学大学院 法務研究科 法務専攻 16
  •  専任教員の年齢構成に偏りがあるため、早期に対応するよう、引き続き努めること。
私立 桐蔭横浜大学大学院 法務研究科 法務専攻 16
  •  知識の定着が不十分な学生に対する指導の一部を桐蔭法曹教育研究センターが独自にプログラムを設定して補完的に実施しているが、本来、補習指導等は授業における指導の延長として大学が主体的に行うものであり、法科大学院制度の理念に立ち返り、自学自習を含めた法科大学院教育の充実を図ること。また、同センターが休日に実施するプログラムの在り方について検討すること。
私立 愛知学院大学大学院 法務研究科 法務専攻 17
  •  専任教員の年齢構成の是正、離任する教員の補充について早期に対応するよう、引き続き努めること。
  •  ユーブングと授業科目の関係について、適切に整理し学生に明示すること。
  •  ファカルティ・ディベロップメント(授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究)について、教員相互の授業参観などが計画どおりに行われておらず、実施状況が芳しくないなど、組織的な実施が不十分なので、教員の連携を強化するなど、より組織的に実施すること。
私立 中京大学大学院 法務研究科 法務専攻 16
  •  カリキュラムの改正により修了要件が104単位とされているが、学生にとって過大な負担とならないか懸念されるので改善すること。また、展開・先端科目の修了要件単位について、偏りのない履修を確保するという観点からさらに検討に努めること。
私立 名城大学大学院 法務研究科 法務専攻 16
  •  成績評価基準の明確化とその厳格な実施に引き続き努めること。
私立 京都産業大学大学院 法務研究科 法務専攻 16
  •  成績評価については、基準の適切な運用に一層努めること。
  •  「家族と法」を法律基本科目とすることに伴い、カリキュラムの整理に努めること。
私立 大阪学院大学大学院 法務研究科 法務専攻 16
  •  専任教員の年齢構成に偏りがあるため、早期に対応するよう、引き続き努めること。
私立 関西学院大学大学院 司法研究科 法務専攻 16
  •  展開・先端科目のうち相当数の科目が、期末の筆記試験なしで、レポート・平常点で成績評価を行うものとされているが、厳格な成績評価という観点から、このような方法が適切かどうかさらに検討すること。
私立 神戸学院大学大学院 実務法学研究科 実務法学専攻 16
  •  授業評価アンケートの実施にあたり、質問項目を精選し、回収期間を長期化するなど変更がなされているが、回収率に改善が見られないので要因を分析し、学生がアンケートを提出しやすいように工夫するとともに、意見が授業に反映されていると学生が実感できる仕組みを構築するなどして、実効性のある体制を整備すること。
  •  ファカルティ・ディベロップメント(授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究)の実施にあたっては、教員の参加率を向上させるとともに、FD委員会を中心に機動的に取り組み、教育方法研究会等と連携して活動を活発化させるよう、実効性のある実施体制を早急に整備すること。
私立 姫路獨協大学大学院 法務研究科 法務専攻 16
  •  法律基本科目群において選択科目が相当数残されているため、学生の適正な履修を妨げることのないよう改善すること。
私立 久留米大学大学院 法務研究科 法務専攻 16
  •  成績評価の方法・基準の明確化について、引き続き努めること。
  •  教員相互の授業参観の計画どおりの実施、結果の効果的なフィードバックを含めた授業評価アンケートの実効的な実施など、ファカルティ・ディベロップメント(授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究)について、引き続き一層の推進を図ること。