第2 修了者の質の保証
1.共通的な到達目標の設定と達成度評価方法
改善の方向性
法科大学院教育の改善を図るため、法科大学院の学生が修了時までに到達すべき共通の目標を設定し、法科大学院修了者の一定以上の質の確保を図る。
(1)共通的な到達目標設定の目的
- 将来の法曹として、法科大学院修了者が共通に備えておくべき能力の明確化
- 偏りのない学修の確保
- 法科大学院における教育内容・方法の改善の促進
(2)共通的な到達目標設定の際に特に留意すべき事項
- 法科大学院教育の多様性と裁量の確保
- 共通的な到達目標を超える教育(その水準や対象領域)についての各法科大学による創意工夫の尊重
- 授業内容・授業方法への過剰な干渉の排除
- 知識偏重(暗記型学習助長)の回避
(3)共通的な到達目標の性格
- デファクト・スタンダードとなることを期待
- 到達目標の対象は、授業の内容として直接取り扱うかどうかにかかわらず、法科大学院の学生が修了時までに必ず修得しておくべき項目
- 共通的な到達目標の学修のみで足りるとする趣旨でないことの確認
(4)共通的な到達目標の内容
- 到達目標設定の対象となる領域
当面は、法科大学院の教育において共通に修得することが期待される主要な部分を明確にするという観点から、法律基本科目及び法律実務基礎科目を対象。
- 到達目標で問われる質・能力
- 必要な基礎的な理解
- 体系的な法的思考能力
- 創造的・批判的思考能力
- 事例分析能力
- 論理的表現能力
- 到達目標の内容(例)
当該法領域の理解にとって不可欠な制度枠組、基本となる法理、重要な条文等について、
- 法制度、法理や条文の趣旨を理解しているか
- 条文の要件・効果を理解しているか
- 条文等の解釈・適用に関する重要な問題点を理解しているか
- 条文等の解釈・適用に関わる主要な判例・学説の考え方や対立点を理解しているか
- 複数の制度や複数の法分野の基本的な連関を理解しているか
(5)共通的な到達目標の水準
- 法科大学院における学修として共通に必要な水準(ミニマム・スタンダード)を定める。
- 共通的な到達目標の学修のみで足りるとする趣旨でなく、法科大学院それぞれの教育理念に則り、創意工夫によって、共通的な到達目標を超える到達目標を設定することは、各法科大学院に委ねられる。
(6)共通的な到達目標の抽象度
法科大学院生や各法科大学院において共通の理解が得られるよう、可能な範囲で、具体的な項目を定めて明確化する。
(7)共通的な到達目標達成の評価方法
到達目標の達成度の評価については、1各法科大学院における単位認定・修了認定における評価、2認証評価機関による評価においてどのように活用することができるか等について、今後引き続き検討する。
また、学生の到達度を厳格に評価するシステムのあり方についても今後検討を進める。
現状
- 司法試験委員会の考査委員ヒアリングや司法研修所の教官の所感などから、法科大学院を修了して司法試験を受験している者や司法修習を受けている者のうちに、基礎的な理解や思考能力が十分身についていないと思われる者が一部に見られる、との指摘がなされている。
- 法科大学院が担うべき法律実務基礎教育の内容について、明確な共通の理解が必ずしもなく、法科大学院によって法律実務基礎科目の内容にバラツキがあるとの指摘もなされている。
2.教育内容の充実と厳格な成績評価・修了認定の徹底
改善の方向性
- (1)偏りのない履修・学修の確保のため、各科目群(法律基本科目、法律実務基礎科目、基礎法学・隣接科目、展開・先端科目)のバランスに配慮し、適切な科目区分整理を行いながら、法曹として求められる法律基本科目の基礎的な学修を確保することが必要である。
- (2)法律実務基礎科目の内容をさらに広げるか、また配当年次をどうするか等について、検討すべきである。
- (3)法学未修者の教育を充実するため、1年次で学ぶべき内容、学ぶことができる内容の明確化を図るとともに、1年次における法律基本科目の履修可能単位数の上限や単位認定のために必要な授業時間数につき弾力的な取扱いを認めるべきかどうかについて検討が必要である。
- (4)厳格な成績評価を徹底するため、その一方策として、一部の成績区分への偏りが生じることのないよう、適切な成績分布の確保が必要であり、また、GPA制度の有効活用が期待される。
- (5)再試験を実施する場合は、それが定期期末試験における成績不良者の救済措置とならないよう、適切に運用される必要がある。
- (6)特に法学未修者の1年次から2年次への進級については、法律基本科目の基礎的学力が備わっているかどうかを厳格・適切に判定する必要がある。
- (7)成績評価や進級判定を厳格に実施しているかどうかについては、認証評価においても、特に重点的に配慮される必要がある。
現状
- 法学未修者1年次における、法律基本科目を中心とする教育においては、現在の授業時間(45時間(15時間の授業と30時間の事前事後学習))や単位数(現在は、1年間の履修登録上限が36単位)では、基礎的な学力を着実に身につけさせるには十分でないとの指摘もなされている。
- 平成19年度の標準修業年限の法科大学院生の平均的な修了率は約8割となっており、法学未修者については約7割5分となっている。
- 認証評価の結果において、再試験のあり方について改善の必要性が指摘されている法科大学院も見られる。
3.司法試験との関係
改善の方向性
法科大学院は、新たな法曹養成制度の中核的な教育機関として、司法試験及び司法修習と有機的連携を図りつつ、法曹に必要な学識及び能力を備えた者を養成することを目的として設置されているものである。司法試験の合否のみにより法科大学院の教育成果のすべてを評価することは適切とはいえないが、3回の司法試験の結果、修了者のうち、司法試験に合格し、法曹として活躍できる者の割合が著しく低い状況が継続的に見られる法科大学院については、入学定員数の調整を含めた適切な入学者選抜や、教育水準の確保・向上を前提とした上での厳格な成績評価及び修了認定の徹底などを担保するための方策を講じ、現状の改善を図る必要がある。
現状
- 大多数の法科大学院において、平成17年度の既修者の修了者の50パーセント以上が、平成18年から平成20年までの3回の新司法試験に合格しているが、50パーセントに満たなかった法科大学院は8校であった。
- 法科大学院の修了者が、直近の司法試験で合格している割合が、平均の半分にも満たない法科大学院は、平成18年は11校、平成19年は30校、平成20年は34校であった。
- 平成18年から平成20年までのいずれの司法試験においても、上記割合が平均の半分にも満たなかった法科大学院は、8校であった。
※ 合格率の算出に当たっては、法科大学院によって、修了者数と実際の司法試験受験者数との乖離がある例も少なくないことに十分留意する必要がある。