首相官邸 首相官邸 トップページ
首相官邸 文字なし
 トップ会議等一覧司法制度改革推進本部検討会司法アクセス検討会

司法アクセス検討会(第10回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり



1 日時
平成14年10月15日(火) 15:00〜17:00

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第2会議室

3 出席者
(委員)
高橋宏志座長、亀井時子、西川元啓、長谷部由起子、原田晃治、飛田恵理子、藤原まり子、 三輪和雄、山本克己(敬称略)
(事務局)
松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官

4 議題
(1) 簡易裁判所の管轄拡大について
(2) 訴訟費用額確定手続について
(3) 訴えの提起の手数料について
(4) 今後の日程等

5 配布資料
資料 1 司法アクセス検討会開催予定
資料 2 民事第一審訴訟の審理状況等に関する資料(最高裁判所事務総局作成)
資料 3 簡易裁判所の事物管轄の上限引き上げについて(日本弁護士連合会)
資料 4 簡易裁判所の事物管轄の拡大について(日本司法書士会連合会)

6 議事(○:委員、●:事務局)

(1) 簡易裁判所の管轄拡大について

 事務局から資料2に基づいて説明がされた。 続いて、日本弁護士連合会から資料3に基づいて説明がされ、日本司法書士会連合会から資料4に基づいて説明がされた。
 その後、次のような意見交換がされた。

○ アクセス拡充の一つの方法として、審理に工夫がされている準少額訴訟というものがあり、それが広まりつつあると聞いている。どのような工夫がされているのか教えてもらいたい。

● 東京簡易裁判所を見学していただいた際の説明等によると、簡易裁判所の事物管轄の範囲内のいわゆる市民型紛争について、裁判所を利用していただきやすくするために、少額訴訟手続が利用可能な訴額の上限を超えている事件についても、裁判所が、少額訴訟に準じて事前準備をするなど、当事者に主張立証をしていただきやすいように審理の工夫をし、審理を促進しているものと承知している。いわゆる市民型紛争についてのアクセスの拡充を図るものと承知している。

○ 消費者の立場で考えると、団体訴権が認められていないため、少額多数被害のケースで、アクセスがしにくいために泣き寝入りになっている例もあると思われるので、今までアクセスできなかった人にとってのアクセスをよくするという視点が必要である。簡易裁判所の事物管轄の問題とはあまり関係がないかもしれないが、そういう意味でのアクセスの問題が大切である。そういう問題意識があったので、準少額訴訟に関する質問をした。
 簡易裁判所の事物管轄に関して言えば、地方裁判所との事件数比率、経済指標の動き等から考えて、あまり上げる状況にないと思う。調停事件数の伸びも考慮すべきである。簡易裁判所判事の人数は増えない、簡易裁判所の設置数は増えないという状況下では、慎重に検討する必要がある。むしろ、管轄を拡大することによって、簡易裁判所の負担を増加させ、審理の質が低下するのではないかと心配している。

○ 日本弁護士連合会の意見書には、簡易裁判所の管轄を拡大すると、商工ローンが原告となっている事件が簡易裁判所に持ち込まれるが、こうした事件は保証契約の問題などがあり、審理に時間がかかるため、市民間の紛争解決に費やされるべき時間が取られてしまうという趣旨のことが書かれている。商工ローンの事件では管轄の合意はされていないという前提に立ってこういう趣旨の意見を述べられているのだと思うが、実際のところはどうなっているのか。管轄の合意がされていて今も事件が簡易裁判所に係属しているなら、簡易裁判所の管轄拡大とは関係がないと思う。

(日本弁護士連合会)
 詳しく調査したわけではないが、商工ローンの事件で管轄の合意が行われているという例は極めて少ないと聞いている。

○ 経験で申し上げると、4大商工ローンでは一般的に管轄の合意はしていない。そのため、地方裁判所で審理されている。以前は、支配人が訴訟活動をしていたが、ここ2〜3年は、弁護士が訴訟代理人として訴訟活動をしている。国民金融公庫は、昔から管轄の合意をしており、簡易裁判所に事件が係属している。

○ 商工ローンの事件が簡易裁判所で審理されないようにしたいのなら、管轄の拡大を小幅にするのではなくて、管轄の合意があるかないかを問わず、いわゆる業法で規制すればいいのではないか。そもそも、商工ローンは、地方裁判所に事件が係属することを望んでいるのか。そうだとすれば、管轄の合意をすればいいのではないか。簡易裁判所は本来市民型の紛争を解決するところであるというのならば、裁判所法になるのか、民事訴訟法になるのか、いわゆる業法になるのか分からないが、法律で規制すればいいのではないか。

○ 一般的に、合意管轄の弊害はよく指摘されている。合意管轄の規制がほしいと思う。消費者金融で、金融会社の本店所在地を管轄する裁判所ということで管轄の合意をすることがあると聞くが、借り手が九州の人で、管轄裁判所が東京の裁判所であったため、出廷することができず、欠席裁判になったなどという話もあるようである。

○ 平成8年の民事訴訟法改正の際にも合意管轄を規制できないかという点について検討されたが、民事訴訟法で規制するのは無理だろうという結論になった。技術的に非常に難しい。貸金業の規制等に関する法律で一定の事件を簡易裁判所の管轄から除外するとしても、切り分けが難しいという問題は出てくるだろう。簡易裁判所の事物管轄を拡大する場合の短所として上げられている事項は、必ずしも簡易裁判所の管轄を拡大しないという対処だけでなく、いろいろな対処の仕方があり得るだろうという問題提起には賛成である。

○ 日本弁護士連合会から、簡易裁判所の事物管轄の上限は100万円とすべきであるとの意見陳述があったので、それに対してコメントしたい。私は、大幅な管轄拡大はすべきでないと指摘してきたが、100万円というのは低すぎる。経済指標のうち土地価格指数については、不動産訴訟は既に地方裁判所と簡易裁判所の競合管轄になっており、簡易裁判所の事物管轄を考える際に特に取り上げなければならない数値ではないだろう。簡易裁判所の事物管轄が100万円では、少額訴訟手続が利用可能な訴額の上限の引上げも阻害してしまう。今回の簡易裁判所の事物管轄の拡大は、主として個人が原告になる場合を念頭においてこれまで議論してきたと思う。これらを前提にすると、国内総支出と土地価格指数は考慮すべきでないと思う。個人が原告の事件を念頭に考えると、経済指標で有意的と言える範囲は、110万円から150〜160万円くらいであると思う。個人の金銭感覚を反映するという視点から考えると、勤労世帯の可処分所得という指標が一番いいのではないか。使える金額という観点ではそれがいいように思う。110万円から150〜160万円の中でも、特に120〜130万円くらいが適当ではないか。

○ 今の委員の意見とほぼ同意見である。土地価格指数と国内総支出は除いて考えるべきだろう。ただ、様々な経済指標の中でどれを考慮すべきなのかはなかなか難しい問題である。土地価格指数と国内総支出を除いた経済指標の平均あたりがいいのではないか。そういう観点からは、130万円くらいになると思う。なるべく多くの経済指標を考慮した方がいいだろう。ところで、前回簡易裁判所の事物管轄の見直しが行われた昭和57年当時は、どのような経済指標が考慮されたのか。

● どれを重視したかという点までは明らかではないが、国会に提出した資料の中では、消費者物価指数、1人当たりの国民所得、一般職公務員の平均給与、勤労者世帯の可処分所得、1人当たりの個人消費支出、国内総生産、土地価格指数、固定資産税評価額といった経済指標が用いられていた。もっとも、当時は不動産訴訟に関する競合管轄という制度はなかったという点に注意していただく必要がある。

○ 少額軽微な民事事件を簡易迅速に解決するという簡易裁判所の設置理念は維持すべきだろう。訴額を基準に管轄を決めるという方法自体は合理的で、維持すべきであると思う。今日の議論も、訴額を基準に管轄を決めるという方法自体が合理的であるという前提で、各委員が意見を述べておられると思う。経済指標の上昇率は鈍っているが、将来予測は難しいので、現時点での経済指標の値をもとに考えるべきである。経済指標では102万円から166万円までとなる。国内総支出と土地価格指数は採りにくいと思う。勤労世帯当たりの可処分所得は有力な指標の1つになると思う。このあたりを基本にということになるのではないか。

○ 土地価格指数を全く考慮しないのはどうかと思う。土地の価格に関しては、地方との格差が大きい。土地価格で消費者の生活はかなり支配されている。そういう意味では、土地価格指数は簡易裁判所の事物管轄を考えるに当たって考慮すべき経済指標の1つになると思う。それよりも重要なのが消費者物価指数だろう。いずれにしても、総合的に考慮するということになろうが、地方との格差を考慮すると、そんなには高くはならないのではないかと思う。地方の弁護士会では、簡易裁判所の事物管轄は今のままでいいという意見が強い。簡易迅速にという簡易裁判所の特色を考えても、そんなに高くすべきではないと思う。競合管轄については、制度として不安定な面があると思う。管轄に関しては安定した制度が必要である。依頼者もどの裁判所で裁判をするのかということを気にする。東京のように交通の便のよいところならともかく、地方では、どこの裁判所で裁判をするのかということが気になるだろう。経済指標の上昇率が鈍化していることから考えて、高いところに主軸を置くというのは問題である。庶民にとって90万円、100万円という額は大きい。

○ 地方裁判所の事件で比較的に訴額が低い事件と、簡易裁判所の同じ訴額の事件を比べると、明らかに質的な違いが認められる。簡易裁判所の管轄を大幅に拡大すると、質の異なる事件が地方裁判所から簡易裁判所にシフトし、市民間の軽微な紛争を迅速に解決するという簡易裁判所の特色が損なわれるおそれがあり、それは適当でないと考える。それだけでなく、前回の管轄見直しのときと異なり、今回は、簡易裁判所の事件数が増える傾向にある。少額訴訟の上限引上げ、準少額訴訟など、簡易裁判所の特色を発揮できる方向での機能の拡充が考えられているときに、地方裁判所の複雑困難な事件が簡易裁判所にシフトするというのは相当でないと思う。そういう点から考えると、これまでに各委員が言われた額あたりが落着きのいいところではないかと考える。競合管轄の制度は今でもあり、裁量移送の制度もあるので、これ以上に競合管轄の範囲を拡大して制度を複雑にすることに対しては消極である。

○ 規制緩和により、業者間の競争は激しくなるだろう。それに伴って、消費者がトラブルに巻き込まれる可能性も高くなっていくのではないか。そういう環境の中で、アクセスの拡充という観点からは、様々な立場の人が司法の場に行けるチャンスを作ることが重要だと思う。不便な地域への出前サービス、例えば、日を限ってそういう地域に移動していって受付をするなどの工夫があってもいいのではないか。このようなサービスの提供が重視されるべきであって、管轄の拡大により簡易裁判所に負担をかけ、こうしたサービスの提供の可能性が阻害されてはならないと思う。90万円にとどめるべきだとは言わないが、大幅な管轄拡大には問題があると思う。そういう観点で考えると、日本弁護士連合会の100万円という意見は、庶民にとって理解しやすい面もあり、適切ではないかと感じる。

○ 司法へのアクセスの拡充という点に関して、別の考え方があってもいいと思う。裁判がどのように行われているのか、あるいは司法制度の利用に関する情報発信を簡易裁判所に期待したい。調停制度80周年を記念した裁判所の見学ツアーがあり、一般向けに、調停手続についての情報発信をしていた。このツアーにゼミの学生とともに参加したが,具体例をもとに解説してくれて、学生だけでなく、一般の参加者にも好評だった。また、一般の参加者の関心が高いと感じた。恒常的にこういうツアーを実施するということになると負担になる面もあろうが、できるだけ、地域の方々への情報発信に力を入れてほしい。また、人的手当の論点についての議論もあったが、給源の問題があるので、予算をつければすぐに人材を増やせるというわけではないだろう。現在の人材を前提に、どの程度の事件増に対応できるのかを考えなければならないし、仮に人員を補充するのなら、どのように増員が可能かを考えなければならない。司法制度改革審議会意見では「経済指標の動向等を考慮」としているが、今指摘した人材の問題も考慮されるべきだという趣旨だろう。

○ 必ずしも我が国の簡易裁判所に対応するというわけではないが、外国では、比較的に少額な事件を扱う裁判所の管轄が200万円くらいという例もあるが、経済指標の値を超えて管轄を拡大すべきだという意見はあるか。

(特段の意見なし)

○ 少額訴訟は、学者から見れば手間がかかる手続であるというのが現実である。裁判所が手間隙をかけるからこそ利用者に好評なのだろう。少額訴訟にかけるべきエネルギーも必要である。しかも、少額訴訟の利用可能な訴額の上限は引き上げられる。むしろ、そういうところで簡易裁判所の特色を発揮すべきだろう。委員からは、立法論として、家事審判事項の一部を簡易裁判所でできるようにすることを検討してもいいのではないかという御意見もあった。

○ 双方対立型でない手続について、簡易裁判所の機能拡充を考えるというのも1つの方向性としてあり得るだろう。地理的なアクセスのしやすさも簡易裁判所の特色の1つだと思うが、この特色は、双方対立型でない手続で発揮されるべきである。その例として、甲類家事審判の話をした。そういうものの洗い出しが、この検討会でするかどうかはともかく、将来的には必要だろう。

○ 将来的という意味では、少額の執行なども考えられるだろう。

○ サプライ・サイドからの、サービス提供の体制をどうするのかという話もあるのだろうが、この検討会ではユーザー・サイドからの話をすべきだろう。ユーザーの側から見て、簡易裁判所の事物管轄は90万円程度でいいという意見もあったが、ユーザの側からも、これとは逆の意見もあるのではないか。訴える側が、このくらいの額ならば、簡易な手続で迅速に判断してもらいたいと考えることもあるだろうし、訴えられる側も、このくらいの額なら簡易裁判所の方がいいと考えることもあるだろう。その額が本当に90万円でいいのかという視点での検討が必要である。例えば、120万円の事件で、地方裁判所に行って、弁護士もつけて、時間もかけてというのがユーザーにとっていいのかという話であり、ユーザーの立場からは、そこまでしたくないというのが実感ではないか。個人によって感覚の違いはあるだろうが、身近なところで迅速に審理してもらいたいという額の上限は90万円とか100万円ではなくて、もう少し上なのではないか。それで、先ほど、130万円くらいと申し上げた。

○ 簡易裁判所には、軽微な事件を簡易迅速に解決するという使命があり、利用者にもそういう事件の審理をしてもらいたいという要望があるのだろう。かといって、争いのある場合は、1回の審理で終わってしまうと、審理が尽くされないまま判断が示されることになるのではないかという不安がある。簡易裁判所には、判断がつきやすい事件に幅広く対応してもらいたいと思う。判断がつきやすい事件とつきにくい事件は峻別すべきだと思う。

○ 民事司法改革の一環として、簡易裁判所の管轄の拡大がある。家庭裁判所に人事訴訟を動かすとか、専門的知見を要する訴訟の迅速化という課題があるが、そういうものと同じく、民事司法改革の一環として、事物管轄の問題がある。
 前回の検討会の資料6の論点即して言うと、まず、論点1については、「簡易裁判所の管轄拡大は、司法制度の基本に関わる極めて重要な問題であり、司法制度全体の中において簡易裁判所を位置付ける視点での検討が必要である。その視点からは、簡易裁判所は、簡易な手続で迅速に紛争を解決することによって国民のニーズに応えていくことが求められており、今回の司法制度改革は、少額訴訟の充実で国民の潜在的なニーズに応えていくことなども含めて、簡易裁判所の特色をさらに活かしていく方向で改革を行なうことが基本的方向性として重要である。簡易裁判所は確かに比較的多数設置されているが、交通も便利になった現代社会で、しかも相手方の都合もある民事訴訟における国民のアクセスを考える場合には、こうした地理的な設置の特色それ自体をあまり重視しすぎるのは適当でなく、それよりもむしろ、簡易迅速に事件を解決するという簡易裁判所の特色が活かせるように、それにふさわしい事件が簡易裁判所で取り扱われるような制度設計を行なうことが簡易裁判所の特色を活かす観点から重視されるべきである。つまり、簡易裁判所の特質が失われてしまうような複雑困難な事件が簡易裁判所で審理されるようになることは適当でない。」というのが各委員の共通認識とうかがってよいか。

(各委員了承)

○ 論点2の前段については、「簡易裁判所と地方裁判所の機能分担の在り方については、簡易裁判所の特色である簡易迅速な解決に適する事件、すなわち、事実関係や法律判断がどちらかというと定型的類型的に認定判断がされる事件を簡易裁判所が取り扱うように制度設計がされるべきである。そして、そのような制度設計を実際に行うとすれば、本人訴訟の割合や弁論回数などの統計から見ても、訴額と事件の複雑困難さとの間には、一定程度の相関があると言える。そのように言えることから、現行の制度である、事件の経済的利益、すなわち訴額を基準に決定する仕組みは基本的には合理的な方法である。」というのも各委員の共通の認識として確認させていただいてよいか。

(各委員了承)

○ 論点2の後段については、「現行の制度においても、簡易裁判所の管轄に属する複雑困難な事件については、要請受理、裁量移送、当事者の合意による必要的移送、不動産に関する訴訟の競合管轄などの制度が設けられている。それに加えて、競合管轄の範囲を拡大することは、制度を複雑にして事件の簡易迅速な解決を図るという簡易裁判所のメリットを損ない、かえって当事者に不利益を与えるおそれがないわけではない。とりわけ、相手方のある民事訴訟では、必ずしも一方当事者から見た選択の範囲の拡大という観点から便利であると評価されるものではなく、なるべく安定的で予測可能な管轄を定めておくことが当事者の利益の観点からは適切であると考えるべきであるから、競合管轄の範囲を拡大することを前提に簡易裁判所の管轄の拡大を考えることは、あまり適切とは言えない。」ということでよいか。

(各委員了承)

○ 論点3については、「経済指標の上昇率が鈍化しており、さらには、簡易裁判所の取り扱っている民事事件が全体のほぼ3分の2である。この割合は、前回、昭和57年の簡易裁判所の管轄改正のときの状況を上回っている。前回は地方裁判所の事件が増えてきていたが、今回はそういうことがない。そういうことも、機能分担の実情を総合的に考えるときに、配慮されるべきである。」ということでよいか。

(各委員了承)

○ 論点4については、「事件の質的な側面から見ると、簡易裁判所の訴訟事件と、地方裁判所の比較的低い訴額の訴訟事件を比較してみたとしても、本人訴訟の割合や口頭弁論の実施回数などにおいてかなり大きな違いがある。管轄を拡大した場合、複雑困難な事件の増加という質的変化も相当程度見込まれる。したがって、事件の量的な増加に伴う人的・物的な配慮にとどまらないところの、司法制度全体の中で簡易裁判所の特色を活かすという観点からの質的な側面の検討が必要である。」やや抽象的な言葉なので言い換えれば、本人訴訟率や弁論回数などの面で非常に顕著な違いがあるので、それを考慮に入れて、管轄の引上げを考えるべきだというのが各委員の認識だということでよいか。

(各委員了承)

○ 論点5については、「国民の司法へのアクセスを拡充するという視点からは、基本的には、経済指標の変化に現れている経済社会や国民生活の変化に対応して管轄の上限の見直しを行い、簡易迅速に事件を解決する簡易裁判所の機能を従来より広く国民に提供し、国民の司法へのアクセスを拡充すべきである。」これに即して考えると、「これからの経済社会や生活の中で、少額訴訟を充実させていくことなど、身近な紛争で裁判所での解決を必要とするものに対して、国民のニーズに適切に対応していくという観点から、これからの司法の果たすべき役割の動向を踏まえた制度設計を考えていくべきである。」さらに、司法書士の簡易裁判所における訴訟代理権については、「司法書士に簡易裁判所の訴訟代理権が新たに認められた趣旨は、簡易裁判所の訴訟事件における弁護士の関与が小さいことから、国民の選択肢を増やして司法へのアクセスを拡充するという観点から行われたものである。司法書士が簡易裁判所の訴訟代理人として当事者を支援することは、国民の司法へのアクセスの拡充の観点から大いに期待されることであり、今後の実績などを見ながら国民の司法に対するアクセスを拡充するという観点から司法書士の役割をどのように位置付けていくか、将来にわたって引き続き検討すべき課題であろうと思う。しかし、司法書士に簡易裁判所の訴訟代理権が認められたことで、簡易な事件を迅速に解決するという簡易裁判所の設置の理念が改められたものではない。質的に複雑困難な事件は、たとえ司法書士が訴訟代理人として主張を整理したとしても、簡易迅速に解決するという簡易裁判所の特色を活かした審理になじまない事件であることに変わりがない。司法書士に訴訟代理権が付与されたことは、簡易裁判所の管轄の上限を大幅に引き上げる理由にはならないのではないか。」というのが各委員の認識ということでよいか。

(各委員了承)

○ 最後、論点6については、「簡易裁判所が身近な裁判所として国民から求められる機能は何かという観点から常に幅広く簡易裁判所の機能の充実を考えていく必要がある。経済指標だけではなく、簡易裁判所の機能の充実という観点も忘れてはならない。」ということでよいか。

(各委員了承)

○ 全体を総括すると、「基本的には、経済指標の変化に現れている経済社会や国民生活の変化に対応して、簡易裁判所の管轄の上限の引上げを行い、簡易迅速に事件を解決する簡易裁判所の機能をより広く国民に提供し、国民の司法へのアクセスを拡充すべきである。そして、その際には、簡易な手続で迅速に紛争を解決するという簡易裁判所の特色を失わせず、その特色が活かされる形で簡易裁判所の機能の拡充を図るべきである。」というのが、検討会としての今までの総括ということでよいか。

○ とりまとめには異論がない。司法書士の代理権は、アクセスの拡充という面ではプラスに評価していいと思う。初めに裁判所ありきという前提での議論は、我々に与えられた課題なので、それはそれでよいが、別の観点からのアクセス拡充も考えてもらいたい。ユーザーの立場からは、自分の抱えている紛争が簡易裁判所にふさわしい事件かどうかを判断できるようなシステムが構築されていないことが問題ではないか。司法書士がこの場面でサポートしてくれる体制はできたが、それでもまだ足りないのではないか。インターネットによる情報提供が可能になっている現在、さらに踏み込んだ情報提供とか、国民1人1人が自分で判断できる環境の整備が必要ではないかと思う。裁判所に紛争が持ち込まれる前の局面が重要で、この場面では、当事者の自助努力が期待されることを忘れてはならない。

○ 貴重な御指摘である。司法だけでなく、自己理解から様々な紛争解決手段へとつなげる面でのアクセス拡充について考えることは有益である。

○ 一点申し上げたい。大幅な引上げは妥当でないという言葉があったが、「大幅な」というのはやや不明瞭ではないかという点が気になる。

○ 司法書士の代理権があるから大幅に引き上げろというのはここでは妥当でないということだった。全体として見れば、経済指標の値や事件数等を見れば、大幅な引上げとはどの辺かは明らかになるのではないか。今日の議論の中で、委員から、事物管轄をどの程度の額にするのがよいかという点に関する具体的な意見も出された。そういった意見の中で提示された額を超えるのが大幅な引上げだという理解はできないか。

○ 司法制度改革審議会意見とあまり変わらないのではないかという感じもするが、議事録を見れば大体分かるということだろうか。

○ 基本的には経済指標ということだろう。司法制度改革審議会意見では「経済指標等」と言われていたが、この検討会の議論では、経済指標の範囲内でということだった。簡易裁判所の特質を踏まえるということだったので、大幅な引上げは妥当でないというのは、経済指標の範囲内でも上の方はなかなか難しいかなという程度の意味を持っているという理解ではないか。

○ ごもっともである。簡易裁判所の管轄拡大に関する検討はこれが最後だが、各論点及び総括に関して異論はあるか。

(各委員異論なし)

(2) 訴訟費用額確定手続について

 次のような意見交換がされた。

○ 前回の検討会で、「訴訟費用額確定手続の簡素化の考え方(改訂案)」を提出してもらい、意見交換をしていただいた。この改訂案の考え方を我々は了承したということでよろしいか。こういう方向で見直しをしていくということでよいか。

(各委員了承)

(3) 訴えの提起の手数料について

 次のような意見交換がされた。

○ 前回の検討会で、「訴えの提起の手数料の見直しの考え方(案)」という資料を提出してもらい、様々な御意見をいただいた。前回の検討会で、この案の(注)も含めて検討していただいたが、こういう方向性でよいか。前回の検討会で、定額制の手数料については、家事審判、家事調停の手数料については、あまり大幅な引上げにならないよう配慮してほしいという委員からの意見があった。このような要望があったということは押えた上で、「訴えの提起の手数料の見直しの考え方(案)」に示された考え方がこの検討会の委員の一致したところであるということでよいか。

(各委員了承)

○ 以上で、司法制度改革推進計画において平成15年の通常国会に法案を提出すると定められた論点についての検討は終えたことになる。司法制度の基本に関わることでありながら、一見地味な訴えの提起の手数料や簡易裁判所の管轄等について、幅広い視点から検討いただいたことに対し、検討会の座長として、各委員に御礼を申し上げる。国民の司法アクセスの拡充の観点から我々が真剣に検討した結果なので、僭越ながら、座長として委員各位を代表して、事務局に対し、この検討の結果を尊重して迅速に法案を立案していただくように、強く要請をしておきたいと思う。

● 委員の皆様方には心より御礼を申し上げる。座長におまとめいただいた方向性を十分に踏まえ、迅速に法案の立案に取り組んで参りたい。

(4) 今後の日程について

 事務局から、資料1に基づき今後の日程について説明がされた。
 次回については、司法の利用相談窓口・情報提供と弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて検討を進めることとなった。

(次回:平成14年11月28日 13:30〜)