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司法アクセス検討会(第10回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日時
平成14年10月15日(火)15:00〜17:00

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第2 会議室

3 出席者
(委 員)
高橋宏志座長、亀井時子委員、西川元啓委員、長谷部由起子委員、原田晃治委員、飛田恵理子委員、三輪和雄委員、山本克己委員
(事務局)
松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官

4 議題
(1) 簡易裁判所の管轄拡大について
(2) 訴訟費用額確定手続について
(3) 訴えの提起の手数料について
(4) 今後の日程等

5 配布資料
資料 1司法アクセス検討会開催予定
資料 2民事第一審訴訟の審理状況等に関する資料(最高裁判所事務総局作成)
資料 3簡易裁判所の事物管轄の上限引き上げについて(日本弁護士連合会)
資料 4簡易裁判所の事物管轄の拡大について(日本司法書士会連合会)

6 議事(□:座長、○:委員、●:事務局)

□ それでは、司法アクセス検討会、第10回目を開催いたします。初めに、本日の議題と配布資料について事務局から御説明をお願いいたします。

● 本日の議題ですが、2枚目の「司法アクセス検討会(第10回)次第」にありますように、簡易裁判所の管轄拡大、訴訟費用額確定手続、訴えの提起の手数料、それから今後の日程等となっております。
 配布資料につきましては、資料1は、「司法アクセス検討会開催予定」、これは11月から3月まで3回、委員の方の御都合をお伺いして組ませていただいているものです。
 資料2は、最高裁判所事務総局作成の「民事第一審訴訟の審理状況等に関する資料」です。若干、事務局から説明しますと、民事第一審通常訴訟における訴額ごとの事件の種類別の事件数、分類状況を示したものが(資料1)、(資料2)が訴額別の弁論回数、実施回数、(資料3)が訴額ごとの弁護士選任状況です。前回、これと同じものについて、最高裁判所からいただいたデータをもとに事件の実数もわかるような形で事務局で資料をつくって提出していたのですが、実数がわかるようにすると、逆に割合がわかりにくくなるということがありますので、最高裁判所から、その割合も入れた資料をつくって提出していただいたということです。訴額ごとにおける事件の複雑、困難さを見ていただくということで、このような資料が出されているわけです。
 資料2の(資料4)と(資料5)は、これまでに提出されている資料ではないのですが、訴額ごとにおける地方裁判所、簡易裁判所の平均審理期間、事件がどのくらいの期間裁判所で審理をしなければ解決しないのかという、そういうものを地方裁判所と簡易裁判所での違いを見ていただくという意味で新たに出されたもの、それが(資料4)です。(資料5)は、訴額ごとの控訴率について、地方裁判所と簡易裁判所の違いを見たものになっています。
 資料2の(資料6)ですが、以前、最高裁判所から、簡易裁判所の事物管轄をもし変えたとした場合に、地方裁判所から簡易裁判所にどれくらい事件が移るのかというシミュレーションをした表が出されました。その後の検討会での検討の過程で、地方裁判所の方が実は3分の1の事件を処理し、簡易裁判所の方は3分の2の事件を処理しているが、単なる数字の問題ではなく、これだけ簡易裁判所が多数の事件を処理していて、地方裁判所の方は事件数が少なくても、非常に複雑な事件が多くて審理期間等もかかっているし、弁論回数も弁護士の選任状況もかなり大きな違いがあるという御指摘をいただいておりました。そういう観点から、事件の複雑さを加味した上でこれを見る必要があるのではないかという、そういう問題意識で、裁判所の平均審理期間による重みをつけて、その事件の重さがどのくらい変わるのかということを見てみたらどうかということで、最高裁判所の方で資料をつくっていただいたものです。(資料6)の中央の(注)に書いてありますように、「重み付け後」欄は、地方裁判所から簡易裁判所にシフトする事件について、地方裁判所と簡易裁判所の平均審理期間をもとに、1件あたりの重み付け、加重をした上で移動をはかってみたということになります。(資料6)に「シフト後の簡裁事件数(重み付け前)」とありますが、これは、従来の資料の中にも出ていたものでありまして、120万円までになった場合に104.9の指数とか、150万円になったときに108.3の指数となっています。これは、もともと簡易裁判所の方が多数の事件を処理していて、地方裁判所の方は少数の事件であるということからこの程度の数字になるわけですが、先ほど申し上げた(資料4)にありますように、同じ訴額帯であっても、地方裁判所の方はかなり大きな事件、重い事件があって、平均審理期間も長くなっています。平均審理期間の長い、地方裁判所のこういった訴訟が簡易裁判所に移ってきたという場合に、その重みを加えて事件をみてみると、「シフト後の簡裁事件数(重み付け後)」欄にありますように、120万円までで111.3という指数になっています。これは、「シフト後の簡裁事件数(重み付け前)」欄の指数を見ると104.9になっているのですが、重みを付けるとかなり違ってくるということです。それから、150万円まででは、「シフト後の簡裁事件数(重み付け前)」の108.3という指数が、「シフト後の簡裁事件数(重み付け後)」欄を見ますと、118.4という指数になっています。また、200万円までのところを見ると、「シフト後の簡裁事件数(重み付け前)」が112.9であった指数が、「シフト後の簡裁事件数(重み付け後)」では130.2という指数になっています。このような違いが出ているということで、資料をつくっていただいたものです。
 最高裁判所作成の資料2についての説明は以上ですが、続きまして、日本弁護士連合会から、第7回での意見陳述を補充する形で意見書の提出がありましたので、これを資料3としております。また、日本司法書士会連合会から、同じく第7回の意見陳述を補充する形での意見書の提出がありましたので、本日の資料4としております。
 以上です。

(1) 簡易裁判所の管轄拡大について

□ それでは、お配りいただきました議事次第にしたがって、議論をさせていただきますが、そうしますと、議題(1)は、簡易裁判所の管轄拡大についてということになります。前回の検討会で、簡易裁判所の機能の充実及び管轄拡大に関してこれまでの検討過程であらわれた主な論点というものを確認していただいておりますので、その資料をもとに今日は意見交換をするわけですが、右手に分厚い参考資料、議題(1)関係という、これは随分ありますね。第9回の資料6が「簡易裁判所の機能の充実及び管轄拡大に関してこれまでの検討過程であらわれた論点」で、これが前回御議論いただいたものということになります。これは御議論いただいたわけですから、これに沿って今日も意見交換をしていただければありがたいと思っております。
 先ほど事務局から御説明がございましたが、簡易裁判所の事物管轄の拡大に関しまして、日本弁護士連合会と日本司法書士会連合会から意見書が提出されております。日本弁護士連合会と日本司法書士会連合会から御説明を伺うということでよろしいでしょうか。
 それでは、まず日本弁護士連合会から御説明をお願いします。

(日本弁護士連合会)
 日本弁護士連合会から、資料3の簡易裁判所の事物管轄の上限の引上げについての(意見1)、(意見2)について御説明申し上げます。(意見1)につきましては、従前お話ししたことと重複しますので、本日は、資料3の後ろから3枚目、(意見2)について要約してお話ししたいと思います。これは各論の部分を書いた意見書でございますが、その(意見2)の1ページ目の中段、下から10行目あたりからお話しいたします。
 今回、司法制度改革審議会の意見書においても、「簡易裁判所の事物管轄を定める訴額の上限が90万円と定められたのは、昭和57年の裁判所法改正によるが、軽微な事件を簡易迅速に解決することを目的とし、国民により身近な簡易裁判所の特質を十分に活かし、裁判所へのアクセスを容易にするとの観点から、簡易裁判所の事物管轄については、経済指標の動向等を考慮しつつ、その訴額の上限を引き上げるべきである。」と、司法制度改革審議会の意見書の25ページの説明書きに記載されています。ここに記載されていますように、従来からの簡易裁判所の理念、すなわち、「少額軽微な事件について、簡易な手続で、迅速に判断を下す」という理念に従った形で、それを変えないということを前提に簡易裁判所の上限の見直しを行いなさいと言っているわけです。簡易裁判所の実情は、地方裁判所の事件を受け入れる余裕があると言うにはほど遠い状況にあることは、既に、最高裁判所から出ている資料において、あるいは私たちの意見の中でも明らかとなりました。単なる事物管轄の引上げがアクセスの向上に結びつくものではないということを御留意いただきたいと思います。
 2ページ目に移りまして、では具体的に、現時点で経済指標の動向を考慮した場合の見直しをする場合、どういった経済指標によるべきなのかということです。現時点で、今後改正するとすれば、恐らく10年といった先のことになろうかと思います。その10年程度を見据えた上限の引上げを行う際に、経済指標の動向を考慮する上で最も考慮しなければならないのは、戦後数十年にわたって右肩上がりの物価動向が、平成2、3年のバブル崩壊以降一大転換期を迎え、現在右肩下がりの状況が今後もずっと続くということが予想されるということです。これを最も端的に示す経済指標は土地価格指数であり、平成3年以降急激に下落しております。平成13年は、昭和57年に比して113.8%でありますが、今後さらに地価が下落し、100%を切るということも予測されます。これに対して、国内総支出等の企業活動も含めた経済指標、あるいは過去の実績の放出が作用されると言われる個人消費支出等の経済指標、あるいは下方硬直性のある賃金に規定される勤労世帯、一般公務員、常用労働者の収入等の経済指標は、現在及びこれから将来の動向を考慮する経済指標としては、必ずしも妥当性が認められないと考えます。現在、新卒者の就職が氷河期と言われ、中高年齢層のリストラや生活苦からの自殺者が急増している、あるいは失業率が5%となっていることから見ても明らかでございます。しかも、これらの経済指標は、総じて下落傾向が顕著にあらわれております。デフレ現象、場合によればデフレスパイラルが起きるのではないかという事態にございます。さらに、地方における経済状況は極めて厳しいわけでございまして、最近では、東京の大都市での物価感覚と地方の感覚とが大きく違っているということも指摘されているわけでございます。
 また、軽微な事件か否かを訴訟の目的物件の価額によって律する事物管轄の上限の考え方からするならば、価格変動を端的に示す経済指標であり、かつ実勢をよく表す経済指標として、消費者物価指数と土地価格指数に重きを置くべきではないかと考えます。両指標の合計の平均をとりますと118.1%でありまして、これを90万円に乗じますと106万2,900円となります。軽微な事件であるか否か、その市民感覚からするならば、現状の90万円でも軽微とはいえず、見直しが必要だとは考えられないのであります。まして、100万円を超えるときは、もはや軽微ではないと感ずるのが一般的ではないでしょうか。
 以上から考えますと、簡易裁判所の事物管轄の上限を見直すとしても、わかりやすい100万円までの見直しとするのが妥当であるというのが、日本弁護士連合会の意見でございます。この上限の見直しに連動しまして、民事訴訟法第8条第2項の価額は、「90万円を超えるもの」から「100万円を超えるもの」に、さらに、民事訴訟費用等に関する法律第4条第2項の財産権上の請求でない請求に係る訴えについての訴訟の目的物の価額は、「105万円とみなす」と改正することが相当であろうと考えます。
 以上でございます。

□ 続きまして、日本司法書士会連合会からお願いいたします。

(日本司法書士会連合会)
 日本司法書士会連合会でございます。発言の機会を与えていただき、まことにありがとうございます。
 私たち司法書士でございますが、今般の司法書士法改正により、来年4月から、簡裁代理権が認められることになりました。現在、当連合会では、代理権取得のために必要な能力担保措置たる研修の実施機関となるべく、日本弁護士連合会、最高裁判所、法務省と協議を行っており、来春には第1回目の研修を実施し、夏には代理権を取得した司法書士を誕生させ、以後、多くの司法書士が簡裁代理権を担う体制を整えるべく、鋭意準備しているところであります。これにより、国民の法律家へのアクセスを拡充し、いわゆる業者事件に対しましても、司法書士が訴訟代理人として関与することにより、国民の権利の実現に寄与できるものと考えているところであります。当連合会は、司法書士に期待されている司法過疎の解消に取り組み、国民の司法へのアクセスを保障し、簡易裁判所の国民に身近な、利用しやすい裁判所としての機能の充実に対応するとともに、簡易裁判所における役割を責任を持って果たせるよう、研修などにより、訴訟代理人としての能力、倫理などの向上を図り、着実に実績を積み重ねつつ、国民の信頼を勝ち得ていくよう、懸命な努力をしていく強い決意を有していることを、まず述べさせていただきます。
 このような立場にある者として、簡易裁判所の事物管轄の拡大について意見を述べさせていただきますと、今次の司法制度改革において、簡易裁判所の事物管轄を考えるに当たっては、簡易裁判所の司法制度における役割を十分に理解し、位置付けることが必要と考えます。当連合会は、簡易裁判所が現状果たしている役割を、国民が気軽に利用できる身近な裁判所として位置付け、地方裁判所の厳格な訴訟手続とは違った、形式にとらわれないで紛争の解決を図る、いわゆる市民の裁判所として、地域住民とともに存在する裁判所としての役割を発展させるべきであると考えております。簡易裁判所は全国各地に数多く配置され、物理的にも国民の身近に存在し、司法へのアクセスを容易にする機能を有しています。今後も、この簡易裁判所の役割を充実させることは必要であります。今般の簡易裁判所の事物管轄拡大の問題は、ともすれば訴額上限の引上げという点に収斂されているように思いますが、先ほど述べましたとおり、司法制度改革審議会の意見書で示された簡易裁判所の役割を前提として、経済指標の動向等に加え、今後の簡易裁判所の在り方を含めて裁判所の長期計画を展望した上で、簡易裁判所の機能の充実を検討する必要があると考えています。また、引き上げる額の多寡にかかわらず、簡易裁判所の機能の拡充を考慮した予算などの増加は必要不可欠の要件だと考えております。これらの観点から、簡易裁判所の事物管轄を拡大するに当たって、次のことを考慮していただきたいと思うわけであります。
 まず、簡易裁判所で取り扱う事件は、そのほとんどが当事者本人によるものであるために、厳格な手続にとらわれない工夫がされています。この簡易裁判所の特質を活かし、今以上に市民間の紛争が簡易裁判所で取り扱われるよう配慮すべきであり、利用者である国民にとって、裁判所がより身近で利用しやすい存在となるために、簡易裁判所の対象となる事件の範囲については、市民裁判所としての役割を重視した上で、拡大する方向で検討がなされるべきと考えております。
 次に、市民生活の変化と現状を考慮する必要があります。前回の事物管轄の見直し以降、バブル経済の到来と崩壊があり、現在は、日本経済そのものが、これまで経験したことのないデフレ時代に突入しており、社会状況は大きく変化しております。また、昨年の自己破産事件が16万件を超える等の多重債務問題が象徴するように、借金もしくはクレジットによる消費が増えております。これは、実際の収入以上に消費を膨らませ、破産事件や特定調停事件の急増を招く結果となっています。経済指標の動向等を考慮する際には、これらの状況を反映した見直しが必要であると考えているところであります。
 以上により、司法制度改革の一つとして、今般の簡易裁判所の事物管轄の拡大に関しましては、21世紀の簡易裁判所の在り方を十分考慮の上、利用者である国民の立場から、簡易裁判所の機能の一層の充実を図るような方向で検討されることを切に望むわけであります。
 以上を当連合会の意見とさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

□ それでは、検討に入ります。先ほど申しましたが、前回、主な論点というものを確認いたしましたので、その論点を見ながら御議論をお願いいたします。どこからでも結構です。
 なお、ただ今日本弁護士連合会から具体的な金額が出ましたけれども、この検討会は金額を固定的に決めるのではなく、事物管轄の引上げをどういう考え方ですべきかという、そこの検討をするところですので、金額そのものを具体的に決めることは当面考えるべきものではないわけですが、ただ、方向性や視点を検討するに際して、全く金額を言わないで議論するということもこれまた適当ではありませんので、金額をお求めいただくことは結構ですけれども、あくまでそれは、ものの考え方を検討する際に出てくるというものでありまして、金額そのものを今日取りまとめるということではないということは、何度も申し上げていることではございますが、リマインドさせていただきます。
 それでは、立法に当たっての考え方の基本的視点、方向性についての御意見をどなたからでも、どこからでもお願いいたします。

○ 今のお話の中には直接は触れられていないんですが、アクセス拡充のための一つの方法として、準少額訴訟も工夫がされているということを伺っておりますが、その動向といいましょうか、具体的な状況について少しお教えいただけたらと思いますが。

□ 少額訴訟、今、30万円ですね。30万円よりは大きいけれども、少額訴訟的に扱っているという実務の運用のことですね。

○ これが徐々に広まりつつあるといいましょうか、拡大傾向にあるということを伺っておりますけれども。

● 東京簡易裁判所を皆さんに訪問していただいたこともありますが、そのときに東京簡易裁判所でいただいた資料やそのときの説明等によりますと、30万円を超えて簡易裁判所の管轄の範囲内において、その中で金融関係の債権の回収に係るものを除いた市民型紛争、こういった紛争について裁判を受けやすくする、市民の方々がそういう事件に巻き込まれるということは一生に1回くらいだろうと思いますが、そういった方々の裁判所の利用を容易にするために、その少額訴訟の価額を超えた部分についても、裁判所の方で準備等について特定の、少額訴訟に準じた配慮をして、それで審理を促進して、当事者の主張、立証をしやすくする配慮をしている、そのように承知しております。したがって、これは、簡易裁判所の少額訴訟を超えた事物管轄の部分全部についてというわけではなく、その中でも市民型紛争について裁判所にアクセスしやすいようにという、そういう観点からだと理解しております。

○ ありがとうございました。消費者の立場から考えていきますと、現在では、まだ日本においては団体訴権というものもございませんし、少額の被害というのは結構多発しておりまして、その少額被害を受けた人が簡易裁判所に持ち込む、あるいは身近なセンター等の公共型のADRに持ち込むといったような努力をしているケースもあるのですが、なかなかアクセスしにくくて、泣き寝入りをしているケースが多分にございます。簡易裁判所の事物管轄を考えていく場合に、今までアクセスできなかった人たちにいかにアクセスしてもらいやすくするかという、その視点を忘れてはいけないと思ったものですから、ちょっと準少額訴訟に関して、その中にそういった工夫をしていただいているということなんだろうと思いますが、そのことについてちょっとお尋ねした次第なんです。
 それで、前回等でも申し上げましたけれども、消費者の立場からこの事物管轄というものを考えた場合は、実際の被害の範囲はばらつきがございますが、現行の90万円の範囲内に入っているものが非常に大きいウエートを占めておりますから、そういう点から見ますと、日本の法整度上、団体訴権がないためにあきらめていたような人たちがいかにアクセスしやすくするかということと、今回の事物管轄の見直しとはあまり関係がないような、そういう意味では感じも実は受けております。そのほか先ほどの日本弁護士連合会の御説明にもございましたけれども、ここ10年あまりの我が国の経済状況は低迷を続けておりまして、自殺者がたくさん出ておりますが、もし違った視点から見ますと、この自殺者が経済の状況を反映しているということだけでなくて、アクセスの視点から見た場合に、簡易裁判所等がよりアクセスしやすかったら、もしかしたら救えたのかもしれないという、そういう視点も一つは必要ではないかということも思った次第です。その方たちが一体幾らの負債を苦にされたかということは、実は私は詳細を存じませんけれども、額の多寡ということよりも、法的な解決の手段というものを知り得なかったために、経済の低迷、収入の激減等の状況などの行き詰まりの中でそのような手段を選ばれてしまったことも往々にして考えられるのではないかと思いまして、そういうことなども考えあわせますと、額の問題というのは、この視点からは引き上げることにはならないと思われますし、簡易裁判所が扱われている件数が、たしか平成元年から平成13年くらいの間に約3倍近い新受件数になっていたり、それから、調停も、以前いただいた資料ですと、平成8年から平成12年の間に約2倍くらいに増えているというような、簡易裁判所側にしてみれば厳しい取扱い件数を抱えている状況がうかがえます。事物管轄を引き上げれば、地方裁判所とのバランス上、簡易裁判所の方に降りかかってくるものが増えてくる可能性の方が大でございますので、その点もあわせて考えていかないと、判事さんの数が増えない、しかも簡易裁判所の数も増えないというような状況の中にあっては、よほど慎重にしないと、額を増やしたことがアクセスの増加につながらないということだけでなく、事務的に処理しきれなくなる可能性があって、質の低下を招くということを心配しております。
 長くなりましたが、まず額に関しましては、そのような考え方を持っております。現在、あまり伸ばす方向にはないということでございます。

○ 日本弁護士連合会の意見の(その1)、この前御説明いただいたことですけれども、その際だったか、別の機会だったかちょっと質問させていただいたのですが、(その1)の5枚目の上から3行目に、「第3に」とありますが、ここで、事物管轄を引き上げた場合に、いわゆる商工ローン業者を原告とする事件までもが簡易裁判所に持ち込まれることになる。保証問題もあり、代理人の問題もあるということで、こういうものがどんどん持ち込まれることによって、市民同士の軽微な争いに本来費やすべき時間がとられてしまうということですけれども、この後、質問が重なって申しわけないのですが、商工ローンと消費者との金銭消費貸借契約というのは、合意管轄を取り決めているのかいないのか。この前提は、恐らく取り決めていないということだろうと思うのですけれども、そのあたりがどういう事実関係になっているのかということをお教えいただきたい。もし、取り決めてあるのであるならば、それが1億であろうが、2億であろうが、簡易裁判所とするとなっていれば、簡易裁判所にそもそもなっている事件なものですから、そのあたりはどうなっているのかなということですが。

(日本弁護士連合会)
 委員の御質問は前回か前々回に出ておりましたので、詳細な調査まではいたしておりませんが、確認をしております。商工ローン案件について、合意管轄で簡易裁判所で行われているという事件は極めて少ないと聞いております。ゼロかどうかというところまでは確認しておりませんが、多くの事件が合意管轄によって簡易裁判所で審理されている事実はないと聞いております。
 以上でございます。

○ ちょっと追加します。事実上、私どもの経験によりますと、4大商工ローンは、簡易裁判所の合意管轄は一般的にはとっていません。地方裁判所の管轄でやっていますけれども、若干前までは、支配人で対応していたケースが多かったのですが、ここ2、3年は、弁護士が代理人としてほとんど出てきているようです。名前を言って悪いですが、国民金融公庫が、昔から簡易裁判所合意管轄でやっています。

○ こういうものを、例えば、いわゆる業法か何かで、合意管轄の是非にかかわらず、そもそも簡易裁判所には持っていけないようにするという規制は可能ですか。ここの問題というのは、合意管轄、現状していないですけれども、しようと思えばできるわけですね。

○ そうですね。

○ 「簡易裁判所とする」としなかったのはどういう理由なのかわかりませんけれども、事物管轄の問題をやると、商工ローンが来るでしょうと。本来、地方裁判所でやりたいけれども、やむを得ず、事物管轄が上がったので簡易裁判所でやらざるを得ないということなのか、そのあたりがちょっとわからない。そもそも、地方裁判所でやりたいと思っているのであれば、合意管轄で地方裁判所とするでしょうし、ちょっとよくわからないところがあるんです。本来、市民型と言われているような簡易裁判所の理念からすると、金額だけではなくて、そういう金融業者の取立問題について利用するのはふさわしくない裁判所なのだという理念があるのだとすると、それが裁判所法で規制できるのか、民事訴訟法で規制できるのかどうかわかりませんけれども、それができないのであれば、金融庁の所管になるのか、経済産業省かわかりませんけれども、いわゆる業法で規制して、かなりの案件がいわゆる業者型で占められているのだとすると、件数が多いのだとすると、それを全部地方裁判所に持っていけというような政策的判断があるのかどうかということですが。

○ これは研究しているわけでも何でもありませんけれども、一般的に、合意管轄の弊害というのはよく言われています。これは民事訴訟法の方で審議してもらえばありがたいのですが、合意管轄の規制というのが欲しいとは思います。例えば、消費者金融などで、本店所在地を合意管轄とするというのは随分あるようで、九州で借りた人たちが合意管轄で東京で裁判を起こされて、結局、欠席判決にせざるを得ないという話は、よく消費者委員会の方で問題にしているので、合意管轄を何らかの形で規制する必要はあるのだろうとは思いますが、それ以上の大きなことをまだ言える立場にありませんので。

□ 平成8年に民事訴訟法が改正されるときに、今、委員が言われた合意管轄は、欧米諸国ではときどき見られるわけですが、商人と商人の間だけに限るということも検討されました。しかし、よくわからないんですが、どうも業務形態が欧米と日本は違うようでして、日本では、なかなかそういうようにきちんと決められない。消費者というか、一般の人が合意管轄をすることができないというように規律しようという方向は検討したようですが、技術的に非常に難しい、帯に短したすきに長しになってしまってうまくいかないということで、民事訴訟法の中で処理するのは極めて難しいということでした。移送のところは少し処理しましたが、民事訴訟法の合意管轄の規制は難しいというのが、平成8年の改正でした。では、貸金業の規制等に関する法律、いわゆる業法でできるか。業法は何でもできるといえば何でもできるのでしょうが、民事訴訟法でさえ、どう区切るかというのが難しいというか、貸金業者というのもちゃんと登録していればいいのですが、そうでない人もいるとか、そういう人の方が危ないというのは変な言い方ですが、そちらの方が規律の対象としては大事ですがそこが抜けてしまうとか、いろいろな議論をされていました。でも、業法でやればやれないことはないのかもしれませんが、業法でいろいろやるのは、規制緩和のこの御時世ではあまりどうなのかということはありますね。ただ、業法のことは、私もよくわかりません。
 今、委員が言われた点は、こういう長所もある、こういう短所もあるというのは、一律に管轄がどうのこうのというのではなくて、いろいろな工夫があり得るだろうという、そういう御指摘ですね。それはそのとおりだろうと思います。それはそれとして努力していただくとして、しかし、管轄をどこかで決めなければいけませんから、それはどの辺が適当かということですね。

○ 先ほど日本弁護士連合会のプレゼンテーションでありました100万円という数字について、若干コメントさせていただきたいと思います。私も、事物管轄問題を議論するときは、そんなに一気に上げるべきではないという主張をしてまいりましたので、そういう意味では、日本弁護士連合会の御主張とかなり軌を一にするところはあるわけでございますけれども、どうも100万円というのはちょっとどうかなという気がいたしております。といいますのは、根拠とされています土地価格指数の問題というのは、あまり今回の議論とは関係がないのではないかという気がするからです。というのは、土地その他の不動産事件は既に競合管轄として処理されていますから、簡易裁判所の管轄問題を扱う際に特に取り上げなければならない数字とは思えないということであります。それともう一点、100万円という数字ですと、少額訴訟の上限引上げということが法務省の方で、私もメンバーですが、現在審議しておりますが、100万円という数字だとこれは足かせになって、少額訴訟の範囲拡大ということに対して、事実上制限があまりにも加わり過ぎるのではないかというような観点からしまして、やや問題かなという気はしております。
 今回の事物管轄の上限拡大、上限を上げるという点につきましては、恐らく、法人が原告になる事件というよりは、個人が原告になる事件を主に念頭において従来議論してきたと思います。そういたしますと、この経済指標としてあがっているものの幾つかのうち、土地価格指数と国内総支出はカットしてよかろうという気がいたしますので、110万円から150、160万円の間くらいが、経済指標から読み取る有意的な数字ではないのかという気はいたします。特に、私の感覚では、個人の金銭の感覚というのは、勤労者世帯あたりの可処分所得がかなり有効なのではないか。つまり、手元で使えるお金ということでは、やはり、名目所得よりは可処分所得の方がはるかに個人の金銭感覚を反映した数字ではないのかなという気はいたしますので、110万円から150、160万円の間でも、とりわけ120、130万円というあたりが、ちょうどこの指標から読み取れる数字としては適当なところではないのかという気はいたしております。

○ 私も、今委員が言われたお考えにほぼ同意見なのですけれども、どの指標が最も適切なのかという議論はなかなか難しいという気もします。ただ、今おっしゃいましたように、土地価格指数と国内総支出というのは除くべきであると思います。それ以外のところの全指標の平均をとると、全指標平均あたりに落ち着くのかということからすると、130万円あたりということになるわけでありますけれども、一つの指標だけではなく、いろいろな指標をやはりとった方がよろしいのかなと思います。
 ところで、昭和57年に改正したときに、どういう指標がとられて30万円から90万円になったのかというのは、そのときの審議資料というのはございますですか。

● 前回、この経済指標について資料を出しましたときに御説明したのですが、ただ、どれを重視したかというのは、それは国会内の問題ですのでわかりません。ですから、いろいろな資料があって、最終的にそういう数字を決定して法案を提出し、それを国会で御審議いただいて成立したということです。国会に提出した資料の中にどういうもの載っていたかというと、消費者物価指数、一人当たりの国民所得、一般職公務員の平均給与、勤労者世帯の可処分所得、一人当たりの個人消費支出、国内総生産、そういったところです。土地価格指数と固定資産税評価額についても、その当時は載っておりました。ただ、昭和57年ですから、まだ競合管轄ができる前の資料ではあります。

○ 数字の話になってしまったので、前回の資料6のたくさん論点がありますが、これはそれぞれが関連しているので、一つひとつというふうに答えるのは難しいかもしれませんけれども、やはり日本弁護士連合会のこの意見書にもありますように、基本的なところとしては、簡易裁判所設置の理念、少額軽微な民事事件について、簡易な手続で、迅速に判断を下す、ここはぜひ維持するという、この論点でも幾つか指摘がありますけれども、そこはぜひ維持していただく必要があるだろうと思います。
 それから、基準を訴額で考える。これは恐らく皆さんがいきなり数字の話になっているということで、当然の前提ということで議論するまでもないのかもしれませんけれども、確かに、これまでのいろいろな統計資料を見ると、訴額が事件の難しさとかをあらわしているということは恐らく前提であろうと思いますので、ここはこれを維持すべきだと思います。
 さて、それで論点3にあります「上昇率が鈍化している現在の状況」、これは日本弁護士連合会の意見でもありますが、鈍化しているということは確かにそのとおりでありますし、それで将来予測がどこまでできるかというのは非常に難しい問題で、我々としては、現在の経済指標を前提としないと難しいなと、特に、土地価格指数などは、恐らく、予測しないような上下動をしたということもありますので、これはもう限界のある話ですから、現在の経済指標の範囲で議論するということになろうかと思っております。
 さて、そこから先が、既に議論されている経済指標の数値と管轄というところで、これによりますと、102万円から166万円という非常に大きな数字までありますけれども、ただ私も、既に述べられた意見と同じことの繰り返しになるかもしれませんが、国内総支出のような数字は確かにとれないだろうと思いますし、土地価格指数も、御指摘の理由でとりにくいかなと思っております。これも全く同意見ですが、勤労世帯当たりの可処分所得、これは非常に有力な基準の一つになるのかなという気はしておりまして、ここは諸委員の方々と同意見であります。このあたりを基本に、さらに検討していただくということになろうかという意見でございます。

○ 土地価格指数を全然省くというのもおかしいかなと思います。一つには、地方との格差という問題が、やはり土地の価格でかなり違ってきているんですね。日本弁護士連合会で議論しても、東京よりも地方の方が簡易裁判所の管轄の価額について非常に重要視するのは、やはり、土地の格差によって消費者の生活が支配されている状況があるからだと思います。そういう意味では、土地価格指数も一つの指標にはなるだろうと思いますし、それより重要なのは、やはり、消費者物価指数ではないかと思います。いずれにしても、経済指標それ単独という意味ではありませんけれども、総合的に見ざるを得ないのですが、地方と東京、都会との格差などを考えれば、やはりそんなに高くはない、地方の弁護士会では今の90万円でいいじゃないかという意見が大変多いのは、そういうことに影響しているのではないかと思います。
 それから、この論点については、かなり確定しているのかと思います。論点1については、今委員もおっしゃったように、簡易・迅速なということの特色を考えれば、そう高くはないということでいいと思います。
 論点2についても、競合という意見が以前にも出ておりましたけれども、やはり、管轄というのは、安定的に確定したという意味が必要だろうと思います。私も依頼者と話をするときに、依頼者にとっては、どこの裁判所に出すのかということがかなり意味があるわけです。これは、地方裁判所なのか簡易裁判所なのか、又は場所がどこになるのかということは、確実な意味があります。東京では、交通の便がいいので、簡易裁判所も東京簡易裁判所に集約されていますけれども、地方では、簡易裁判所が各地にばらまいてありますので、かなり確実に、どこそこの裁判所に出しますということを本人が確認したい。出してからもしかしたら移るかもしれませんよというのは、やはり、法的安定性を欠くと思いますので、市民の側にとっては、固定的な管轄という方が便利なのです。
 論点3ですけれども、この前も申し上げましたが、いろいろな一覧表を見ても、上昇率がどんどん鈍化しているという状況ですので、そういう意味からいっても、やはり、あまり高いところに基軸を置くというのは問題だろうと思います。市民にとっては、90万円、100万円というのはまだまだ大金になっているわけですから、そういう意味では、簡易裁判所で簡易・迅速にというのも、あまり多額なものを市民の方は期待しているとは思われないと考えています。

○ 今まで出された意見と基本的には同じですが、主として、論点4あるいは論点3について発言させていただきたいと思います。今日配られました資料2、以前に配られた資料を参考に、地方裁判所と簡易裁判所の役割分担という観点から検討させていただきたいと思います。
 事物管轄を考えるに当たっても、一番の基本は、皆さん共通の認識に立っておられる、簡易裁判所の特色である「簡易な手続で迅速な解決を図る」という、そういう特色を損なわないような配慮が一番大事ではないかと思うわけでして、その観点から、地方裁判所と簡易裁判所の役割分担ということを見てみますと、審理期間の面でも、弁論の実施回数、本人訴訟率、控訴率というものもありますが、事件そのものの質が、地方裁判所の中で比較的額の低い、訴額が小さい事件であっても、簡易裁判所の事件とを比べてみると、明らかに質的な差があるように思われるわけです。事物管轄が大幅に引き上げられてしまいますと、今、地方裁判所で担当している事件のうち、今、簡易裁判所が担当している事件とは異質な事件が、かなり簡易裁判所の方にシフトしてしまう恐れが大きいという感じがいたします。そういうことによって、簡易裁判所が市民間の紛争を簡易な手続で迅速に裁くという機能がかえって損なわれる恐れがあると思われますので、そういう恐れがあるような大幅な引上げというのは、少なくとも、現段階では適当でないと考えます。それだけではなくて、現在の簡易裁判所が担当している民事事件の割合は、民事事件の中の3分の2というような概数が出ておりましたけれども、前回の事物管轄の引上げ時よりもかえって増えているわけです。それから、簡易裁判所には、少額訴訟、これから少額訴訟の範囲も拡大されるようですし、準少額訴訟的な訴訟運営がされているというような、簡易裁判所本来の機能を充実させるような方向での取組みがこれからますます必要になってくるときに、この事件数の中で、地方裁判所で現在行っているようなある程度複雑困難な事件がシフトしてしまうというのは、必ずしも相当ではないと思うわけです。いろいろ考えていきますと、経済指標の動向を見て、引上げは必要だという前提で考えてみましても、やはり、今までの委員の意見の中で出てきた数字あたりが、非常に落ち着きのいいところではないか考えます。
 あと一点付け加えさせていただくと、論点2の競合管轄の問題ですけれども、現在でも、簡易裁判所と地方裁判所との間には、不動産については競合管轄の制度もありますし、裁量移送や、一定の場合には必要的に移送するという制度もありまして、これにさらに事物管轄も競合管轄でというような取扱いになると、一層複雑になってきて、かえって簡易裁判所の機能を損ねる恐れが大きいように思われますので、事物管轄の中でこの競合管轄を取り入れるというのは、消極に考えるべきではないかと考えます。
 以上です。

○ 先ほど申し上げなかった点で、昨今の暮らしを取り巻く状況の変化みたいなことを、管轄を考えるに当たって必要ではないかと思われることの一つに、規制緩和の進行という状況があげられるのではないかと思います。規制緩和が進んでまいりますと、いろいろな影響が出てまいります。例えば、「事前規制から事後監視へ」というような、非常に大括りの表現がよくとられますけれども、安全関係の規制が比較的緩和されてきていて、トラブルが起こった後に処理をするというように国の方もシフトしてきている傾向がありますが、そういう中で、例えばエネルギーの問題などでも、一般の消費者のところに至る緩和というのではLPガスなどがあるかと思いますが、昔は選択肢がかなり限られていたものが、地域内の競合する事業者の中から選べるところも大分出てまいりまして、そういうところで事業者間の契約をめぐるトラブルも起こっていると伺っております。それはほんの一例ですが、規制緩和で自由化が進んでまいりますと、選択肢が増えてくるということは、事業者間の顧客の奪い合いみたいなことが増えてまいりまして、そういうところからもトラブルが起こる要因が増してきているということがございます。そういったことなどを思いましたり、それから、昨今の状況から、以前もちょっと触れさせていただきましたが、アクセスを可能にするということからは、ユニバーサルデザインの視点といったらよろしいでしょうか、様々な立場の人たちが司法的な手続を受けられるようにチャンスをつくるという必要性を感じておりますけれども、それを実行可能にしていただくためには、例えば、地域的に簡易裁判所が充実していないところについては、簡易裁判所そのものを出前サービスといったらいいでしょうか、ちょっと発想の転換になりますけれども、そういう地域には、日を限って移動していって、そこでトラブルを受け付けていただくような、新しい、非常にエネルギーも費用もある意味では要するような工夫も、利用者の立場からは望みたいところでございます。そういうことを考えあわせますと、事物管轄の額が増すということが、それだけ加重な負担を簡易裁判所の判事さんはじめ職員の皆さんたちに及ぼすということになってまいりまして、これから21世紀に向けての新たな一歩を踏み出すためのエネルギーをそがれるのではないかということを心配するんです。マイナス要因になってはならないということも心配しております。いろいろな状況を、確かに時が経ってきているし、数字を時代に合った方向で見直すという基本的な路線は、広く様々な分野でとられることですから、見直しの必要性は理解いたしますけれども、そういう意味でのサービスの向上の視点からいってどうなんだろうかということも、あわせて考えていただきますとよろしいのではないか。私は、どうしても90万円にとどめた方がいいという、それを申し上げるつもりもないんですけれども、あまり額を拡げていくことは、必ずや問題を生じていくような気がいたしますので、そういう点では、日本弁護士連合会の御提案などの数字は、一般の私たち庶民にとりましては理解のしやすい数字でもあるんですね。100万円までのトラブルは簡易裁判所でお願いしたらどうかというような話が、一般的には伝わりやすい話だなという気はいたします。どうしても上げなければならないということであれば、日本弁護士連合会の案は適切ではないかということも感じます。土地にかかわる指数などの問題を御指摘になって、これは取り上げるべきではないというお話もあるんですが、公庫の借入れの推移などについて書かれた情報などを見てみますと、それが時系列的にずっとどうなっているかという全体像を把握しているわけではないんですが、非常に借入額も年々減ってきているということも言われておりまして、土地価格指数が減少しているにもかかわらず借入額が減るということは、それだけ生活が厳しくなってきていることではないかと思います。生活が豊かになったから借入額が減っているという考え方も成り立つかもしれませんが、どうもそうではないというその道のご判断があるようなんですね。非常に厳しい状況を反映して、借入額も減少している。つまり、将来を見越してローンを借り入れられなくなっているので、不動産価格が下がっているにもかかわらず、借入額も抑えざるを得ないという、そういう経済情勢を、そこでは指摘されているんですね。そういうことも考えあわせますと、それから、もちろん税収の伸びの鈍化といいましょうか、減少というのは、ずっと時系列的な国の財政の税収の問題ですが、それも鈍化しておりますし、10年前から比べますと下がってきておりますので、そういうことも考えあわせますと、増やしても100万円までというように、私は御提案申し上げたいと思います。

□ 前回の資料6の論点1から4くらいまでは、皆さんから御指摘を十分いただきましたが、論点5と6の司法の果たすべき役割とか、あるいは簡易裁判所、地方裁判所、家庭裁判所という裁判所の機能全般の中で簡易裁判所がどういう機能を担うべきか。経済指標とちょっと違った角度から、こちらの方はどうでしょうか。

○ 5番目の論点にかかわるのかなと思うのですが、国民の司法へのアクセスを拡充するという視点ということですが、従来、そういった観点からは、「簡易裁判所は比較的少額な事件を簡易・迅速に解決する。それが司法へのアクセス拡大なのだ」というように言われてきたわけですが、私は、またちょっと別の司法へのアクセスという観点があるののではないかと思っているのです。それは何かといいますと、裁判がどのように行われているか、あるいは司法制度についての情報発信ということを簡易裁判所に期待したいわけです。そのように申しますのは、実は、最近、東京簡易裁判所で、調停制度の80周年記念の行事というのがございまして、いろいろ宣伝がありましたので、ゼミの学生と一緒に参加してきたのですけれども、裁判所内の見学ツアー、こちらの検討会でもしたようなことを、一般市民向けにやってくださいました。それから、なかなか公開されていないので内容を知ることができない、模擬調停というのをやってくださったんです。本当にごくごく一般市民が遭遇しそうな、スーパーマーケットでの転倒事故というような事件だったわけですけれども、それについてどういうふうに手続が進んでいくのかということを、とてもわかりやすく再現してくれたというので、学生にとってはとても好評でしたし、集まられた一般の方もとても熱心に聞いていらっしゃって、質問なども大変高度なものがあったわけです。ですから、恐らく一般市民の方、特に我が国の場合には、諸外国に比べると教育水準も高いということがありますし、識字率その他においてもということで、そういう意味では、一般の人の裁判に対する関心も高いし、また、それを理解する能力も非常に高いと思われるわけです。ですから、簡易裁判所の方でそういったことを、恒常的にということを申し上げますと、御負担になるだろうと思いますし、学生も、「本当は毎年やっていただきたいけれども、それは御負担になってしまって申しわけないな」というように申しておりましたけれども、なるべくそういった形で、地域の方に情報発信していく基地のようなことをしていただけると、今後とてもよいのではないかと思います。そういう観点からいいますと、先ほど来、簡易裁判所の裁判官あるいは裁判所書記官の方の負担ということが言われましたけれども、これも予算をつけることによって人員を拡大するということが、もちろん対策としては真っ先に取り上げられるべきだと思いますが、前々回の議論でも出てまいりましたが、給源の問題がありますから、予算を拡大したからといって、一挙に人数が増えるというものでもなかろうということがあるわけでして、そういう意味では、現在配置されている人員を何とかうまく動かすことによって、より多くの事件を吸収できるものなのかどうか、また、足りない部分は早急に補充するとして、どのように増員することが可能なのかということが、「経済指標の動向等」と司法制度改革審議会意見にも書かれておりますので、その「等」で検討すべきなのかなというように考えます。
 以上です。

□ 低い方の御意見が多いのですが、確認させていただきます。国によっては、といっても、日本の簡易裁判所と正確に対応する裁判所を想定するのは厳密には難しいんですけれども、そこは少しラフに考えますと、結構高い国もないわけではありません。200万円くらいの国もないわけではないと承知しておりますが、それはその国がそうお決めになることは結構なんですが、我々はそこまではいかないというのが、大体の皆さんの御意見でしょうか。例えば、経済指標の値を超えてまで拡大すべきだという意見はありますか。

(特段の意見なし)

□ それから、今、委員からございましたが、少額訴訟というのは、単に金額が小さい、1回でできるということではなくて、裁判所関係者は言いにくいのでしょうが、学者からみれば、あれは裁判所としては、非常に手間暇がかかるんですね。1回で済ませるための手間暇に象徴されますが、それだけ手間暇をかけているから一般にも好評だとも言えるわけで、そういうところに裁判所のエネルギーを注いでいくとなれば、それで委員からの御意見にもございましたように、少額訴訟の範囲が多分拡がるだろうとなると、かけるべきエネルギーがそちらの方にいくということになると、単に事物管轄の引上げではなくて、むしろそういうところで簡易裁判所の機能を発揮すべきだろう。それから、委員からは、立法論になるのでしょうが、家事審判事項の一部を簡易裁判所にということも検討に値するのではないかという御意見もありましたね。

○ 簡易裁判所は、やはり、双方対立型でない事件のアクセスポイントとして機能を拡充していくという方向が、一つ簡易裁判所の今後の機能拡充の方向としてあり得ると思うわけです。当事者対立型の手続ですと、どうしても、片方にとってアクセスがよくても、片方にとってアクセスが悪いということがあります。地理的なアクセスという点ではございますので、地理的なアクセスのしやすさという点にポイントを、今回は必ずしもそういう議論のまとめにはなっていないという気もするのですが、やはり、地理的なアクセスのしやすさも、一つの簡易裁判所の重要な特質だと思うわけです。それは、むしろ単独申請型の事件といいますか、一人が出ていけばすべて済むというようなタイプの事件でより力を発揮すると思われるわけですので、そういう意味で、前回、家事審判の甲類事件の一部について、簡易裁判所をアクセスポイントとして利用できないかということを申しました。これは、たまたま、そのとき家事審判だけを思いついたものですからそう申しただけでして、それに限られる趣旨ではありませんで、もう少しいろいろとそういうものを洗い出していって、アクセスポイントとして簡易裁判所をどれだけ使えるかという観点から、今後検討を、この検討会でやるかどうかは別として、やはり検討していくことが適当ではないかと考えています。

□ いろいろ見ていくと、何かあるかもしれませんね。立法論を踏まえれば、少額訴訟はありますが、少額の民事執行というようなものも学者の方では議論していて、具体図はまだなかなか出てこないのですが、そんなものも、場合によっては、簡易裁判所の管轄でいいかもしれませんね。
 今日は、この点では、少しきちんとまとめるということですので、最後のチャンスだと思いますので、ほかに何か、この際ぜひ言っておきたいということがございましたら、御遠慮なくどうぞ。

○ サプライサイドからサービスの体制をどうするかという議論は、一方、最高裁判所もおありであって、別途の議論がなされるんでしょうけれども、我々の場というのは、サプライサイドの面よりもユーザーサイドだろうと思うんですね。そういうあたりで、今のまま、90万円程度だとおっしゃるわけなんですけれども、両方の立場があって、自分がユーザーとして2、3か月で取り戻したいお金、それほど大した審理もしてほしくないという程度、それから訴える立場からしても、その程度のことであれば簡易裁判所の方が便利だね、簡単な手続で、お金はとられちゃうけれども、この程度なら簡易裁判所の方がいいねという程度が本当に90万円なのか。何かのトラブルで子どもが怪我をさせられたというときに、医療費等々が120万円かかったというときに、120万円の問題を、地方裁判所までいって弁護士もつけて2年かけてやるのか。それよりは、3か月くらいでおさまるのであれば本人訴訟でもやってみるか、というようなことからしますと、訴える方も90万円以上だったら地方裁判所でそういう争いをぎちぎちしてやるのか。それよりも、司法委員等がいるようなところとか、いろいろあると思うんですけれども、身近なところでやるお金というのはどの程度かという感覚が、90万円、100万円ではなくて、もうちょっと上なのではないかと。そういうことで、さっき130万円くらいというイメージかなと。金銭感覚からすると、一般的にはそうじゃないのかなと。これはもう、個人によって意見が分かれるところではあるんですけど、という感覚なんですけどね。

○ 簡易裁判所だと3か月、地方裁判所だと2年と言われましたが、そのくらいの事件ですと2年もかかりません。そんなにはかかっていません。

○ 簡易裁判所に、確かに簡易なもので、スピードを要求するということは使命として本来おありですし、市民側にもそれはあると思うんですけれども、かといいまして、争いのある場合などは、一回の審理で事が簡単に片づけられてしまうと、かえって間違った判断といいましょうか、審理が尽くされないまま判決が出てしまうということにもなるのではないかということも心配なんです。それは、金額の多少にかかわらずですね。私たちが何を簡易裁判所にお願いし、こちらは地方裁判所の方がいいというように何をもって判断するかという、それも実際のところは、ほとんど一般の方々は知らないと思われます。それから、金銭感覚に関しては、これはもう本当に皆さん、価値観が千差万別ですから。100万円といいますと、私の感覚ですと、ある程度まとまった金額と思えるんですね。多分、生活実態の格差がそういうような形で出てくるのかもしれないんですけれども、額の多少ということよりも、何をこれから先、簡易裁判所で扱っていただくべきかという問題などもあわせて考えていった場合、判断が、現在でも、給料が出るべきものが出ないということで少額訴訟になっていたりするということをお聞きしますけれども、それではこういうお金をめぐっての比較的な単純なこと、比較的単純と言っていいんでしょうか、例えば男女共同参画社会だということを言われておりますけれども、セクハラはちょっと複雑な要素があると思いますが、そうではなくて機会の均等みたいなことでしたら、一目瞭然のケースも中にはあるのかもしれないという気がするんですね。ものによりましては、数字などではっきりとあらわれていて、「これはいけませんね」ということが単純に結論が導き出せるものや、手続的に家庭裁判所でなくて、前に委員がおっしゃられたんでしょうか、委託をしたらどうかと思われるケースもあるという御指摘もありましたけれども、そのようなものも幅広く、と申しますのは、身近なところにある裁判所であるからこそ、より多くの人が悩んでいる身近な問題があれば、それを処理していただけるような方向をとりたいと思いますし、遠方まで出向かなくても単純に処理できるものはやっていただきたいと思うものですから。話が入り組みますが、数字で機会均等が損なわれているようなケースや、あるいは、明らかに消費者トラブルなどでも、利用者による格差をつけていくような問題などは、判断がつきやすいんじゃないかと思うんですね。Aさんに対する請求額とBさんに対する請求額が違うような場合というのが、実際あるわけなんですね。その家に行った雰囲気によって、いい加減な料金を請求してくるようなケースなどもあるんですが、そういう不平等さが請求の額やあるいは与えるチャンスなどの場合ですが、数字になってはっきりあらわれてくるようなケースは、簡易裁判所で早めのご判断をいただいた方がいいわけです。例えば、悪質な訪問販売業者は、ある人には少額な場合でも、お金のある人からは多額にとっていきますから、少額と言い切れない場合があるんですが、同じようなケースをたくさん引き起こすことがあるんですね。ですから、そういう意味では、簡易裁判所には、先ほどお話がありましたけれども、双方対立型でないものであって、利害対立型という言い方はおかしいですが、非常にわかりやすいものをより幅広くお取り上げいただきたいと思いますし、一回の審理で終わっては誤りやすいような場合など、詐欺そのものなどでは、一方の申立てだけではわからないようなケースもあるのかもしれません。実際、バーのツケを請求してきたり、サラ金の請求を全く関係のないところから言ってくる、業者からではない、詐欺師のような人からのケースなどもあるんですね。そういうことなどもありますから。話が複雑になりますけれども、一回で取り上げる問題とそうでない問題の峻別をしていく必要があって、取り上げられるべき問題は簡易裁判所で判断していただきたい。早急にそういう案件は処理していただくと、悪徳業者も締め出すことにもなるのかもしれないという意味でございますが、そういうことをお願いしたいと思っております。

□ 今日の議題は4つあったと思いますので、この辺で。ただ、簡易裁判所の事物管轄の引上げは今日が最後ですので、座長として取りまとめ的なことを申し上げますので、それでよろしいかどうかの御確認をお願いいたします。
 前回の資料6の論点1から6に即して申しますと、我々が検討しているのは、民事司法改革全体の中の一つであるということですね。家庭裁判所に人事訴訟を動かすとか、専門的知見を要する訴訟をもっと早くとか、民事司法改革全体がではいろいろございますが、その中の一環として、簡易裁判所の事物管轄もあるのだということなのですが、それはそういうものとして、論点1に即して申しますと、簡易裁判所の管轄の拡大は司法制度の基本にかかわる極めて重要な問題であり、司法制度全体の中において簡易裁判所を位置付ける視点での検討が必要である。その視点からは、簡易裁判所は、簡易な手続で迅速に紛争を解決することによって国民のニーズにこたえていくことが求められており、今回の司法制度改革は、少額訴訟の充実で国民の潜在的なニーズに応えていくことなども含めて、簡易裁判所の特色をさらに活かしていく方向で改革を行うことが基本的方向性として重要である。簡易裁判所は確かに比較的多数設置されているけれども、交通も便利になった現代社会で、しかも相手方の都合もある民事訴訟における国民のアクセスを考える場合には、こうした地理的な設置の特色それ自体をあまり重視し過ぎるのは適当でなく、それよりもむしろ、簡易迅速に事件を解決するという簡易裁判所の特色が活かせるように、それにふさわしい事件が簡易裁判所で取り扱われるような制度設計を行うことが簡易裁判所の特色を活かす観点から重視されるべきである。すなわち、簡易裁判所の特質が失われてしまうような複雑な困難な事件が簡易裁判所で審理されるようになることは適当でないというのが、論点1に対応して、皆さん共通の認識であるということでよろしいでしょうか。

(各委員了承)

□ それでは論点2ですね。論点2の前段の簡易裁判所と地方裁判所の機能分担の在り方ですが、簡易裁判所の特色である簡易迅速な解決に適する事件、すなわち、事実関係や法律判断がどちらかというと定型的類型的に認定ないし判断がされる事件を簡易裁判所が取り扱うように制度設計がされるべきである。そして、そのような制度設計を実際に行うとすれば、本人訴訟の割合や弁論回数などの統計から見ても、訴額と事件の複雑困難さとの間には、一定程度の相関があると言えることから、現行の制度である、事件の経済的利益、すなわち訴額を基準に決定する仕組みは基本的には合理的な方法である。これも、大体皆さんの共通の認識として確認させていただいてよろしいでしょうか。

(各委員了承)

□ それから、論点2の後段の方になるのですが、現行の制度においても、簡易裁判所の管轄に属する複雑困難な事件については、要請受理、裁量移送、当事者の合意による必要的移送、さらには不動産に関する訴訟の競合管轄などの制度が設けられている。そこで、それに加えて、競合管轄の範囲を拡大するということは、それ自体一つのアイデアではあるが、制度を複雑にして、事件の簡易迅速な解決を図るという簡易裁判所のメリットを損ない、かえって当事者に不利益を与える恐れがないわけではない。とりわけ、相手方もある民事訴訟では、必ずしも一方当事者から見た選択の範囲の拡大という観点から便利であると評価されるものだけではなく、なるべく安定的で予測可能な管轄を定めておくことが当事者の利益の観点から適切であると考えるべきであるから、競合管轄の範囲を拡大することを前提に簡易裁判所の管轄の拡大を考えることは、あまり適切とは言えない。先ほど委員からも御指摘があったとところです。これも、大体皆さんの共通の認識として確認させていただいてよろしいでしょうか。

(各委員了承)

□ それでは、論点3ですね。経済指標のところです。今日も御議論がございましたが、経済指標の上昇率が鈍化しており、さらには、簡易裁判所の取り扱っている民事事件が全体のほぼ3分の2、地方裁判所が3分の1である。簡易裁判所が3分の2であるというこの割合は、昭和57年の前回の簡易裁判所の管轄改正のときの状況を上回っている。先ほど委員の御意見にもございましたが、前回は地方裁判所の事件が増えてきていたという状況であったが、今回はそういうことがない。そういうことも、機能分担の実情を総合的に考えるときに、配慮されるべきである。この点もよろしいですか。

(各委員了承)

□ 論点4については、事件の質と量が簡易裁判所の現状に与える影響ということですが、事件の質的な側面から見ると、簡易裁判所の訴訟事件と、地方裁判所の比較的低い訴額の訴訟事件を比較してみたとしても、本人訴訟の割合や口頭弁論の実施回数などにおいてかなり大きな違いがある。管轄を拡大した場合、複雑困難な事件の増加という質的な変化も相当程度見込まれる。したがって、事件の量的な増加に伴う人的・物的な配慮にとどまらないところの、司法制度全体の中で簡易裁判所の特色を活かすという観点からの質的な側面の検討が必要である。ちょっと抽象的な言葉ですが、本人訴訟率や弁論回数などで現在非常に顕著な違いがありますから、それを考えて管轄の引上げを考えるべきだということで、これも皆さんの認識としてよろしいでしょうか。

(各委員了承)

□ それでは、論点5についてですが、国民の司法へのアクセスを拡充するという視点からは、基本的には、経済指標の変化にあらわれている経済社会や国民生活の変化に対応して管轄の上限の見直しを行い、簡易迅速に事件を解決する簡易裁判所の機能を従来より広く国民に提供し、国民の司法へのアクセスを拡充すべきである。これに即して考えると、簡易裁判所は、これからの経済社会や生活の中で、少額訴訟を充実させていくことなど、身近な紛争で裁判所での解決を必要とするものに対して、国民のニーズに適切に対応していくという観点から、これからの司法の果たすべき役割の動向を踏まえた制度設計を考えていくべきである。さらに、司法書士のことが論点5の後ろに載っておりますので、この点にも触れておきますと、司法書士に簡易裁判所の訴訟代理権が新たに認められた趣旨は、簡易裁判所の訴訟事件における弁護士の関与が小さいことから、国民の選択肢を増やして司法へのアクセスを拡充するという観点から行われたものである。司法書士が簡易裁判所の訴訟代理人として当事者を支援することは、国民の司法へのアクセスの拡充の観点から大いに期待されることでありますし、まだ法律の施行前ですから、今後の実績などを見ながら国民の司法に対するアクセスを拡充するという観点から司法書士の役割をどのように位置付けていくか、将来にわたって引き続き検討すべき課題であろうと思います。しかし、司法書士に簡易裁判所の訴訟代理権が認められたということで、簡易な事件を迅速を解決するという簡易裁判所の設置の理念が改められたというわけではありません。質的に複雑困難な事件は、たとえ司法書士が訴訟代理人として主張を整理したとしても、簡易迅速に解決するという簡易裁判所の特色を活かした審理になじまない事件であることに変わりがないわけでありまして、司法書士に訴訟代理権が付与されたことは、簡易裁判所の管轄の上限を大幅に引き上げる理由にはならないのではないかというのが私の方の認識ですが、委員各位の認識としてもよろしいでしょうか。

(各委員了承)

□ それでは、最後、6番目の論点ですね。全般の機能ということですが、簡易裁判所が身近な裁判所として国民から求められる機能は何かという観点から常に幅広く簡易裁判所の機能の充実を考えていく必要がある。先ほど若干出ましたが、経済指標だけではなく、簡易裁判所の機能の充実という観点も忘れてはいけないということは、これでよろしいでしょうか。

(各委員了承)

□ そういたしますと、全体を総括いたしますと、基本的には、経済指標の変化にあらわれている経済社会や国民生活の変化に対応して、簡易裁判所の管轄の上限の引上げを行い、簡易迅速に事件を解決する簡易裁判所の機能をより広く国民に提供し、国民の司法へのアクセスを拡充すべきである。そして、その際には、簡易な手続で迅速に紛争を解決するという簡易裁判所の特色を失わせず、その特色が活かされる形で簡易裁判所の機能の拡充を図るべきである。ここは最後のまとめですから、繰り返させていただきますが、基本的には、経済指標の変化にあらわれている経済社会や国民生活の変化に対応して、簡易裁判所の管轄の上限の引上げを行い、簡易迅速に事件を解決する簡易裁判所の機能をより広く国民に提供し、国民の司法へのアクセスを拡充すべきである。そして、その際には、簡易な手続で迅速に紛争を解決するという簡易裁判所の特色を失わせず、その特色が活かされる形で簡易裁判所の機能の拡充を図るべきであるというのが、検討会として司法制度改革推進本部に申し入れる事柄の総括です。金額は、先ほど申しましたように、今日いろいろ御議論が出ましたので、それが議事録に残りますから、どこかで参照していただけるでしょうが、金額そのものを我々が決めるということではないということです。これでよろしいでしょうか。

○ 今の取りまとめに関しては何も問題はないと思うんですけれども、身近に生じる事件で、それをわかりやすく、迅速にといった場合、今回は司法書士が訴訟代理権を付与されたということで、これも前向きにそれは評価すべきだと思うんですけれども、そもそも全体の流れが「裁判所ありき」という、裁判所があって、裁判所がこの役割を果たすためにどういうふうに裁判所を手助けしていくかとか、整備していくかという論議であって、それはそもそも我々に与えられた論点なのでそれでよろしいかと思うのですけれども、迅速に裁判を行っていただきたいというのはすべての国民の願いだと思うんですね。ただ、それが身近に生じる、ごく当たり前のことであるかとか、それからそれが必ずしも複雑な権利関係が絡まっていないとかいうようなことは、当事者にとって必ずしも明確でない場合があるわけですね。そのために、今回の場合は司法書士であるとか、そうでない場合には、わざわざ弁護士の門をたたいて、「これこれこういう状況なんだけれども」と相談するわけですね。 そうしますと、もし簡易裁判所の機能を充実させるということに対して、そこへ問題を持ち込む立場にある国民が、さらに簡易裁判所にふさわしい案件であるかどうかということを判断するための材料というものが広く提供されるべきではないか。その一端を担う職種として、今回は司法書士にその任務を負っていただきたいという結論に達しているわけでございますけれども、私からすれば、それでもさらに充実が望まれるのではないかという気がいたしておりまして、すべての方々に対して、我々の方というか、問題を抱えた者の方から一歩前進するとすれば、その一歩先にそういう方々がいらっしゃるかどうかいうのも、私は地域ごとにばらつきがあると思うんですね。そういう場合に、インターネットその他の情報提供ができる時代になっていて、そして、時間的にも、24時間を使えとは申しませんけれども、少なくとも24時間、いろいろな方法で情報を入手したり、それを使って考えたりするということが可能になった現在、さらに踏み込んだ情報の提供ですとか、あるいはさらにいいますと、国民一人ひとりが自分である程度自助努力ができるようなすべをやはり与えられるべきなのではないかなという気がするんですね。専門家の方でありますれば、判例をひもといて、今までどういうことがあったかということがわかると思うんですけれども、例えばそういうものをベースにしたひな型が幾つかある中であれば、「私のケースはこれくらいに属するんだな」とかいう自己判断ができるような、そういうプログラムというのも、先ほど先生がゼミの学生さんを連れていらして、そして学生さんにとっても、こういう内容のものが実際に調停で結論を出すにふさわしい内容のものなのかというのが、タイプごとに例題的にあるとわかりやすいんだけれども、そうでないと当事者としては全く判断がつきかねるということもあるのではないかと思うんですね。ですから、そのあたりをさらに充実するために、裁判所に持ち込まれてからが裁判所の仕事だという考え方ではなく、もう少し開かれた、あるいは身近に、そして迅速にということであれば、迅速に事を運ぶ要素の半分は、やはり当事者の方にその素養を備える自助努力といいますか、要求されているというふうに考えるべきではないかと思いますので、そのあたりの一層の充実も、どこかでぜひ取り組むべき分野として、議事録の中には残していただければと思うのでございますけれども、いかがでございましょうか。

□ 貴重な御指摘、ありがとうございました。事務局の方もそういうことを考えまして、今回は簡易裁判所の管轄の引上げに絞りましたが、我々の課題は司法へのアクセスですから、しかしアクセスは司法だけではなくて、もっと幅広く紛争の自己理解から紛争解決のいろいろな場所がありますから、それをどう考えていくか。そういうアクセス全体の情報についてどう考えるかということは、時間があればこの検討会でもぜひ一つの項目として議論していただきたいと思っております。委員から御指摘をいただきましたので、こちらも上程しやすくなりました。どうもありがとうございました。今日も時間があればやっていただきたいと思いますが、それは事務局も重々考えていただきたいと思います。

○ すみませんが、先ほど「大幅な引き上げは妥当ではない」という言葉がありましたが、「大幅な」という概念なんですけれども、10倍と読む人もいれば、5倍と読む人もいれば、5割増しと読む人もいるんでしょうけれども、そういうやや不明瞭な言葉を使うのでよろしいのかということなんですが。

□ 司法書士への訴訟代理権があったから大幅に引き上げろという議論はここではとらないということですね。世情、具体的な金額で議論している動きもあるんですね。ただ、そこに即して、「それはだめだ」とここで言うのも変ですから、大幅な引上げにはならないということですね。ただ、全体を見ていただきますと、例えば経済指標があって、事件数があってというのが一つありますから、それと比較していけば、大幅な引上げというのはどの辺を指しているかはわかっていただけるかなと思うんですね。今日議論されたような数字が出ていますね。大体、この検討会の方々はこのあたりかなと考えていらっしゃる。さしあたりは、それを超えるのが大幅な引上げだということで、それはとらないということでしょうね。

○ 今の結論の部分を聞きますと、司法制度改革審議会意見をそのまま繰り返したようにも思えるのですが、今までの議事録を見れば、それがわかるということですね。最後にまとめられた文言だけではなくてね。そういう理解ですね。

□ 司法制度改革審議会の意見書を具体化したわけですが、言葉としては、特に最後のところはまとめですから、また圧縮してしまうわけですが、それなりに有意義な議論をしていただいたと思っております。

○ 私の理解は、基本的な経済指標、意見書もそう言っていました「等を踏まえて」ということなんですが、ここでの議論は、大体経済指標を示して、経済指標の範囲内で議論をし、しかもその中で簡易裁判所の特質を崩さないようにという話でありましたので、恐らく、その「大幅」というのは、経済指標の枠内でも一番上の方はなかなか難しいかなと、この程度の意味を「大幅」だという、そんな理解でよろしいんじゃないでしょうか。

□ そうですね。では、何度も申しますが、簡易裁判所の事物管轄の引上げは今日が最後ですが、各論点、全体の総括についてよろしいでしょうか。

(各委員異論なし)

(2) 訴訟費用額確定手続について

□ 残された議題の方に入りますが、次が訴訟費用額確定手続の簡素化についての意見交換ということになります。前回の検討会では、「訴訟費用額確定手続の簡素化の考え方(改訂案)」という資料が提出されまして、意見交換をしていただきました。もう読み直すことはいたしませんが、御確認をいただければと思います。このような改訂案の考え方を、我々は基本的に了承したということでよろしいでしょうか。あるいは追加訂正していただくようなことがございますかということですが。特に、前回お願いしたのは、第2、見直しの具体的な方法、当事者の費用は証人の例によることを改めて定額化する。2といたしまして、書類の作成及び提出の費用、事件単位の定額とする。ただ、多少の種類によって調整しますし、基本的には、記録上容易に判明する事実に基づき算定する、こういうのが前回にございました。こういう方向で見直しをしていくということでよろしいでしょうか。

(各委員了承)

(3) 訴えの提起の手数料について

□ 次が資料2、「訴えの提起の手数料の見直しの考え方(案)」が、これもまた前回の検討会で提出した資料です。これにつきましても様々な御意見をいただきまして、(注)というところがございますが、(注)も含めて皆さんの御意見が大体このあたりではないかというものが今日提出の趣旨でございますが、これでよろしいでしょうかということです。
 1から見まして、前回、これは平成4年にも改正しておりますので、それを見ながら改めると。極めて高額なところが、前回申しましたように1億円の手数料などということも現実味があるわけですので、そこはいかに何でも大きすぎないかというようなこと、そして4、少額訴訟は定まった額そのものにはしないけれども、定まった額に近いものに改められるように配慮するということ。(注)の方ではいろいろございますが、郵便切手による納付なども改めようということでございます。そして、ここそのものには書いてございませんが、家事審判の手数料とか、各種申立ての手数料の中で定まった額というものがございますが、家事審判、家事調停の手数料についてはあまり大幅な引上げにならないように配慮してほしいという意見が委員からございました。このような要望があったことはむろん押えた上で、この「訴えの提起手数料の見直しの考え方(案)」に示された考え方がこの検討会の委員のほぼ一致したところであるということでよろしいでしょうか。

(各委員了承)

□ ありがとうございます。それでは、以上で、司法制度改革推進計画において平成15年の通常国会に法案を提出することと定められた論点についての検討は終えたということになります。司法制度の基本にかかわることでありながら、一見地味な訴訟費用や簡易裁判所の管轄ということについてでございますが、幅広い視点から検討いただきましたこと、委員各位の御労苦に対しまして感謝申し上げる次第でございます。
 それでは、国民の司法アクセスの拡充の観点から我々が真剣に検討した結果ですので、僣越でございますが、座長として、委員各位を代表して、事務局に対しましては、この検討の結果を尊重して迅速に法案を立案していただくよう、強く要請させていただきたいと思います。

● ただ今の点でございますが、委員の皆様方には熱心に御討議賜りまして、まことにありがとうございました。ただ今座長からおまとめいただいた方向性を十分に踏まえて、早急に法案の準備をさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。

(4) 今後の日程等

□ 先ほど委員からいただいたことをこちらで有意に引用させていただきまして、裁判所があるということはみんな知っているのでしょうが、裁判所以外にもいろいろな制度があり、そして最終的には裁判所に行くと。しかし、簡易裁判所、家庭裁判所、地方裁判所の区分が必ずしも国民一般が十分に熟知しているわけではない。そして、先ほど委員からありましたように、紛争に巻き込まれた人間自身が自分で自分の紛争を客観的に評価することを含めて、そういう大きな意味でのアクセスに関する情報の問題でしょうか。ここでも討議させていただきたいと思っておりますので、今後、いつやるかは事務的につめますが、必ずさせていただきたいと思っておりますので、それまで御検討をお願い申し上げます。
 それでは、議題4、今後の日程等というところに入ります。事務局からお願いします。

● 今後の日程等につきまして、資料1に今後の日程の予定を記載してございます。今日もう少し時間があれば、先ほど委員から御指摘がありましたような点につきましても意見交換をと思っていたのですが、時間も押しているようですので、次回、できれば司法の利用相談窓口、情報提供の充実という論点についての御検討をお願いできればと思っております。こういう問題になりますと、非常に多様な視点がございますので、我々の方も準備したいと思っていますし、各委員におかれても、いろいろと御検討願っておきたいと思いますので、よろしくお願いしたいと思います。これまでの検討会の中でも、特に、市民が最初に行く場所、区役所とか市役所とか町役場、そういったところにまず行くのではないだろうかという点の御指摘もありましたし、そういったところとの連携をどうとるのかという問題がありますし、あるいは、もう少し利用者が自分で考える、エキスパートシステムという形で利用者が自分で考える、情報を提供しさえすれば自分で考えてくれる、必要な情報が何であって、どう提供していくのかという、こういう視点もあったと思います。したがって、どういった情報をどういうネットワークで提供していくかということが重要になってくるのではないかと思います。また、消費者団体等でも相談窓口があって、まずどこまでくるか、どうやってきてもらうかということになると、その前の情報提供が重要でしょうし、来てもらった後で、必ずしも裁判所とは限らないと思いますが、ADRも含めていろいろな紛争処理機関があるはずですので、それをどうやっていろいろな紛争処理機関のネットワークを利用して適切な解決に導くかと、そういった様々な問題があろうかと思います。そういった視点で、幅広く御検討をいただければと思いますので、よろしくお願いしたいと思います。それから、以前に日程表をお配りしたときに、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについても御検討をいただくということを予定していたと思いますので、その2つの点について御検討をお願いできればと考えております。
 なお、日程的にもちょっと間隔があいておりますので、できれば、1回の検討会の時間を長くとれないかと、事務局側では考えております。

□ 次回は、司法の利用相談窓口・情報提供の問題と弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いの問題を検討するということですね。ほかの検討会では3時間というのもあるようです。我々もいろいろ難しい問題が出てまいりましたので、次回からは1時半から4時半ということでお願いいたします。
 次回は11月28日木曜日、1時半から4時半ということで、それでは本日はこれで。どうもありがとうございました。