次のような意見交換がされた。
○ イングランド・ウェールズの制度について紹介させていただきたい。イングランド・ウェールズには大法官府という組織がある。我が国で言うと、法務省に近い組織である。大法官府のホーム・ページには様々な団体へのリンクが設定してある。
リンクが設定されている団体に、市民相談所(Citizens Advice bureau,CAB)という組織がある。市民相談所には全国組織があり、全国市民相談所(National Association of Citizens Advice Bureaux,NACAB)がある。法律相談に限らず、幅広く簡単な相談を受けており、情報提供もしている。もともとは、第2次世界大戦中の情報提供から始まった組織であり、非営利の組織である。全国に2,000か所以上のアクセスポイントがあり、裁判所等に限らず、地域の集会所のようなところや図書館、病院等にも出張所を設けている。2001年から2002年の年度では年間約570万件の相談を受けており、相談の内容は、社会保険関係、消費者関係が多いようである。スタッフの約80%はボランティアである。最初はボランティアで相談を受け、そのうちに経験を積んで、資格を取って、有料の相談を受けるようになる人もいる。事務弁護士(solicitor)も雇われている。法的な対応が適当である案件の選別機能を果たしている。コミュニティー・リーガル・サービスの一環として、こうした団体への国からの援助も行われている。従来は、ソリシタの提供するサービスが対象だったが、最近、イングランド・ウェールズのシステムは変わっている。
○ CABでは年間570万件の相談を受けているようだが、費用はどうなっているのか。また相談に応じてもらえる時間帯はどうなっているのか。
○ 時間帯は相談窓口によりまちまちであろう。費用は無料である。
○ 専門的な知識を必要とする案件を専門家につなぐ仕組みはどうなっているのか。
○ 専門家を紹介する形をとっている。
○ ソリシタとは何か。
○ 医者で言えば開業医のような立場の弁護士である。専門的知識が必要となる弁護の場合は、さらに法廷弁護士(barrister)を依頼する。我が国の弁護士は法廷弁護士に近い。
○ CABに相談に行って、訴訟になるケースはどのくらいあるのか。
○ データはない。NACABは組織自体が訴えの提起をすることができ、政策形成訴訟をすることもある。
○ その場合の費用負担はどうなっているのか。
○ NACABから紹介されて一般市民が提起する場合には、本人負担が原則である。ただし、一定の資力以下であれば資金援助が得られる。
○ 資金援助を得るには、日本と同様に勝訴見込みは必要なのか。
○ 厳密に一致しているかどうかはわからないが、要件の一つになっている。
○ 日本の消費者問題に関するアクセス・ポイントについて紹介させていただきたい。現在、全国に475の消費生活センターがある。全国消費者団体連絡会で調査したところ、消費者契約法成立の際に国会で附帯決議がされたにもかかわらず、消費者行政の予算が大幅に削減されていたり、相談員の身分が不安定であったり、統廃合によってアクセス・ポイントが減る傾向にあるといった問題があり、増え続ける相談に追いついていない状況である。あっせん解決率の低下が心配される。
消費者被害救済委員会という組織があり、被害が拡大しそうな案件で業者を呼んで話を聞いたり、被害者から話を聞いてあっせん、調停を行っている。この組織は全国の都道府県に設置されているが、積極的に活動しているところは限られている。
PLセンターや各業界の公正取引協議会等にもあっせんを行う委員会等が設けられており、これらの機関に案件が持ち込まれる場合もある。しかし、これらの機関は業界団体等を中心に運営されていたりすることから、第三者性に疑問があるし、忙しいためにきちんと処理されていない場合もあるようである。
裁判をするとお金と時間がかかり、裁判は必ずしも市民的感覚を反映した結論に至らないため、仕方なくADR機関に持ち込まれることもあるが、受け皿がしっかりしていないとだめだ。
現行法において司法解決を図ろうとしても、法律が邪魔をするケースもある。消費者契約法にも問題点が多々あるし、製造物責任法にしても、製造物の概念が狭いなどの問題点があるため、相談に持ち込まれても、解決に持っていきにくい。
警察でも、生活経済事犯の取締りのため、消費生活センター等と定期的に連絡を取っているようだが、消費者問題が摘発されるケースはまだまだ少ない。問題が生じても司法的解決に至っていないケースが多いのではないか。問題のあるケースには指導等も行っているようであるが、今後もっと連絡を密にして、消費者、生活者すべてががアクセスしやすい状況にしなければいけない。
食品の安全に関しては、窓口ができて相談を受ける体制は作られた。
独占禁止法の分野では、消費者個人が差止請求をすることができない点が問題である。
消費者が司法的解決をしようと思った場合、ADRも本1冊になるくらいあるが、なじみのあるものは少ない。情報が入りにくいのも問題である。公的なアクセス・ポイントは、いつも忙しく、電話がつながらないことが多い。司法アクセスが期待できないというような考え方の相談員も相当程度いて、民間による解決、ADRへの期待が高まっている。司法へのアクセスを考えていくとすれば、消費者問題についてだけでもこれだけ問題があるということを考えないと改革に結びつかない。また、様々な具体的な改革も必要であるが、裁判例も少ない、法曹人口が少ない、まだまだ意識が低いといったような、その前提となる社会状況をよく見据えていただく必要がある
○ 日本では法律相談がバラバラに行われている。資金源や監督官庁等によって縦割りになっている。例えば、弁護士会、法律扶助協会、警察、消費生活センター、社会福祉協議会、地方自治体などでかなりの件数の相談を受けているはずだが、統計が全く取れていないというのがまず問題である。また、相談を受けて、その先につなげるという流れが欠けている。訴訟への関連性が断ち切られている相談が多い。これは問題である。実際に訴訟の提起を見込んだ相談を行っているのは、弁護士会と法律扶助協会だけだと思う。
相談の中でも一番多いのは地方自治体であるが、各自治体が単独で行政サービスとして行っており、やっているいるところとそうでないところがある。また、これも統計は全く取れていない。以前、日本弁護士連合会の有志が全国3,386の自治体にアンケート調査をしたところ、2,200くらい回答が集まった。その約68パーセントの自治体で無料相談を行っていた。これによると、全国で約1,500くらいの自治体で相談を行っていると推計される。しかし、ほとんどの自治体の場合、相談を受けた場で弁護士が事件を受任することができないことが多く、市の相談に行っても、また改めて弁護士会へ行く必要がある。そこで諦めてしまって、訴訟に至らないケースが多いのではないか。やはり、有料相談でも無料相談でも、訴訟に結びつくような連携の制度をきちんとつくるべきである。
日本弁護士連合会の有料の法律相談センターの開設状況を御紹介させていただく。日本弁護士連合会が法律相談センターの設置に本格的に取り組み始めたのは平成になってからであり、現在の設置状況は資料3のとおりである。現在では、地方裁判所の支部単位では、弁護士が一人もいないか一人しかいない地域というのはほとんど解消されているが、簡易裁判所単位となると、まだまだ解消できていない地域が多い。弁護士偏在が今でもあるということは事実であるが、非常に厳しい地域にも開設しつつある。弁護士会の法律相談は相談を受けた場で直接受任するのが原則になっているので、訴訟に結びつく可能性は強いと言える。さらに、日本弁護士連合会では、法律相談センターをつくりにくいところでは、いわゆる公設事務所を設置している。現在は20か所くらいが見込まれており、来年度中には40か所くらいになる予定である。法律相談センターも公設事務所も、経済的に厳しい中で、日本弁護士連合会の会員全員で特別会費を徴収して自主運営している。司法制度改革審議会の意見書には、法律相談センター等についての一定の財政的負担等の検討ということも記載してあるので、これも視野に置いて検討を願いたい。
○ 日本弁護士連合会の相談センターとその他の相談センターとの提携はあるのか。
○ きちんとしたネットワークはない。ネットワークをどう構築するかが、今後の課題である。
○ 日本弁護士連合会が頑張ればネットワーク化も可能なのではないか。
○ 無料の相談所から有料の相談所につなげるのは難しい面がある。
○ 日本の場合は、様々な相談機関があって、それぞれがばらばらで、そもそも一覧表すらないということであるが、イギリスではどうか。法律相談所的なものはCAB一つしかないのか。
○ CABは相談を受けている非営利の団体の1つである。弁護士がやっているロー・センターもある。これらの連携は概ね上手くいっているようである。
ここで、事務局から、資料1に基づいて説明がされた。
その後、次のような意見交換がされた。
○ ADRにおいて解決を図るためには、法令や判例を基礎とすることが重要であると考えているが、ADRの拡充・活性化についての検討では、そのようなことも検討課題となっているのか。
● 御指摘のような考え方があることは承知しているが、一方で、判例等にとらわれるのではなく、当事者間での主体的な解決を図ることが重要であるという考え方もある。ADR検討会においては、あるべきADR像とも関わる問題として議論されているところであり、現時点での方向性は出ていない。
○ 利用者が主体的に解決手続に関与したいという声がADRへの期待となっているようであるが、一方で、お手軽に解決を図っていこうということで、いわゆる示談屋が増えるようなことにならないか心配である。特に、事業者団体やこれに類する組織では、事業を営む者としての心理が働いて、生活者の視点からずれてしまうことが多い。
企業のモラルが低下している現状において、このような事態を避けるためには、情報公開や客観性の担保を徹底して、誰が見ても公平で正しい方向にどのように持っていくかという点が重要である。このためには、ADRにおける解決についても、法を拠り所としたものでなければならないと考えている。
ADRの拡充・活性化の検討に当たっては、幅広い消費者からの声を聞いて、多様な意見を反映するよう配慮してもらいたい。
○ 裁判所での司法の利用相談窓口・情報提供に関する取組みについて説明をお願いしたい。
最高裁判所から、資料2に基づいて説明がされた。
その後、次のような意見交換がされた。
○ 窓口に来た人がどこに相談に行けばいいかがわかる資料がない。先日、東京簡易裁判所の受付相談を見学させていただいたが、結局、手続的なことを説明するということだった。その隣にでも弁護士を置いていただければいいのではないかと思っている。有料のものはだめだということであれば、法律扶助協会から派遣してもらうというのも一つの方法ではないか。検討していただきたい。書式のファクスサービスは、私も実際に利用している。非常に役に立っている。裁判所の受付窓口に、弁護士会のチラシなども置かせてもらいたい。今は、有料相談のものは、全国どこの裁判所でも置いていただけないが、検討していただきたい。
○ 最高裁判所のホームページはよくアクセスしているが、ADRに関する情報を入手できることは初めて知った。地方裁判所のページではなく、最高裁判所の最初のページにのせていただき、ADRのホームページとリンクさせてはどうか。
(最高裁判所)
現在、名古屋地方裁判所のページでは、名古屋弁護士会のあっせん・仲裁センター、日本知的財産仲裁センター名古屋支部、愛媛労働局総合労働相談コーナー、財団法人交通事故紛争処理センターといったADRの紹介をしている。委員御指摘の点については、承って検討させていただきたい。
○ 裁判所の情報提供はよいことだと思う。ただ、問題を抱えた人が一番に聞きたいことは何かという視点で、問題を抱えている人の立場に立って構成し直してみてはどうか。同じ情報でも、使い方で随分違ってくるし、その方が利用者にとって便利だろう。そういうものができれば、学校の教材としても活用できるし、自治体等の相談の助けにもなるのではないか。
○ 資料1の2ページには、「訴訟、ADRを含む紛争解決手段に関する総合的相談窓口を充実する」とあるが、これは、どこからアクセスしても同じような情報が入るという趣旨か。
● 委員御指摘のとおりである。
○ インターネット上で、何に困っているのかを入力すると、解決のための手段が何種類か表示され、手段を選ぶとその手段の特色も表示されるというのがいいのではないか。その中から特定の手段を選び、自分の住所や相手方の住所などの情報を入力すると、目的の手段にたどり着けるというような仕組みを作ってはどうか。そして、最後に、手段は何であれ、申立ての書式が出てきてそこに入力すれば申立書等の作成ができるし、弁護士に相談したければ、地域のその分野に詳しい弁護士の紹介があったり、弁護士の得意分野の情報や料金情報などが提供されるようになっているといいと思う。そういうものを裁判所でするわけにはいかないだろうが、民間ならできるのではないか。そういう利用者サイドに立ったポータルサイトがほしいと思う。
○ 問題を抱えていない人でも、問題が起きた場合の解決方法などがわかる。一度そういう仕組みを作ると、学校教育だけでなく、社会勉強としての教育効果もあるだろう。そもそも何をしていいかわからない人、今までは自分には関係がないと思っていた人もいるが、そういう人にも情報提供ができる。グラウンド・デザインを決めて、少しずつ完成させていけばいい。設計部分をきちんとやっておけば、どこがつくるにしても、時間の無駄や重複はなく、効果的である。
○ ホーム・ページ等の活用は情報量も多く、時代の流れでもあり、適切だと思う。しかし、高齢化が進み、ITと関係のない生活をしている人が被害に遭うことも多くなっている。トラブルを抱えそうな人がどこにいるかどういう状況かをイメージしていただいて、是非、IT以外の従来型の情報提供についても並行して行ってもらいたい。ADRについても、裁判所についても、そういう情報提供をお願いしたい。
○ 相談に来た人が誤解や思い込みをしている場合もあると思うが、そういう相談者にはどのように対応しているのか。
○ 参考までに紹介すると、クレジット・サラ金関係の相談では、相談の後弁護士が事件を受任する割合が60〜70パーセントである。ところが、一般の法律相談で、相談の後弁護士が事件を受任する割合は25パーセント程度である。そもそも、事件にならない場合も多い。そういう場合でも、多くの人は納得して帰っていくが、中にはそうでない人もいる。法律扶助の申請でも、事件にならない場合は、勝訴の見込みがないということで断わることも多いが、異議申立てをする人も増えている。難しい事案にどう対応するかがいつも課題であるが、やむを得ないことではある。
○ 自分がどういう問題に直面しているかということを理解するのは、意外に難しいのではないか。
○ 自分で自分の状況を把握する力が必要で、それを養うための情報提供はいろいろあるのではないか。今まで起こったことのないことに直面すると、誰でも、自分一人で考えているだけは判断できず、堂々巡りになったりする。そういう場合には、他の人のアドバイス、違う考えを聞けるだけでも助かる。それだけで、時間も、エネルギーも、悩みも、かなり軽減されるという人もいるのではないか。
事務局から、資料4に基づいて説明がされた。
その後、次のような意見交換がされた。
○ 先日、弁護士報酬の敗訴者負担制度が導入されているドイツの法学部の教授と話をする機会があった。弁護士報酬の敗訴者負担制度について話を聞いたが、制度の背後には様々な制度があり、手当がされているというのが第一印象だった。例えば、団体訴訟の権利も認められているし、法律扶助が充実していたり、行政訴訟などでは片面的な敗訴者負担制度が導入されているといった具合である。
一つ一つの事件にはいろいろ複雑な背景事情があり、そういうものに対してきめ細かに対応できるような環境を整備しないまま敗訴者負担を導入すると、相当問題が出てくるのではないかと思う。
法律というのは、かかわる人たちがお互いに共同作業などをして問題点が明らかになる。片方の大きな力だけでは完全に解決はできない。最近のハンセン病や大気汚染の裁判などは、弁護士報酬の敗訴者負担制度が導入されていたら、この共同作業ができなかったのではないかと思う。まず、きめ細かな環境整備が必要ではないかと感じた。
○ いろいろな人の話を聞いた結果、私は、弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入はしない方がいいと考えている。現状では、法律扶助制度が十分機能していないし、訴訟費用保険も不十分である。また、日本では、濫訴が多くて困っているという事情はないのではないか。このような状況の下で導入すると、大きな社会的弊害を生むのではないか。
消費者問題については、裁判が利用者の期待に応えていないという事情もある。製造物責任、医療過誤、薬害、商工ローン、労働問題その他いろいろな訴訟を起こしたり、起こそうと考えている人の話を聞いてみると、敗訴者負担が導入されるとどうなるかわからないと悲鳴をあげている。多くの人の痛みというものを実際に感じていく必要があるのではないか。諸外国には導入している例もあるようだが、諸外国の現状がどうなっているかということも、最近調査された専門家の方の生の声を聞いてみたい。この問題は、いろいろな人の声をしっかり聞くことが大事である。
○ 消費者は導入に反対だと言われるが、全ての消費者が弁護士報酬の敗訴者負担制度を導入することに反対しているわけではないのではないか。私も一人の消費者だが、制度の導入には賛成である。請求額と弁護士に支払う報酬の額とを比べて、これだけ費用がかかるのなら裁判はやめようという人もいるだろう。身に覚えのない請求をされて、裁判ではっきりさせたくても、裁判で勝っても弁護士報酬を払わなければならないのなら、裁判はやめて、相手と話し合って決着をつけてしまおうという場合もあるのではないか。正々堂々と闘って負けた場合は、負けた者が弁護士報酬を負担するというのはフェアーな原則である。この原則を貫いたときに、どういう場合にどういう不都合が生じるのかを議論すべきだろう。
○ 私のところには、弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入に反対の立場の人が来て、いろいろと説明をしてくれる。弁護士報酬の敗訴者負担制度に反対する人の中には、現在この制度を導入するのは時期尚早であると説明する人が多いが、いつになったら導入していいことになるのか、私にはよく分からない。そもそも、敗訴者が敗訴した段階で、勝訴者のある部分を負担するのが正当であるという議論は、今は正当ではなくてが、将来のある時点以降は正当になるという理屈自体がどうしても分からない。今と将来のある時点とで180度方針が変わるような印象も受けた。そのような連続性のない説明が常に行われていて、どちらの立場をベースにした議論を深めるべきかということが、敗訴者負担に反対の立場の人が来て話を聞くにつれ、明確でなくなった気がする。まず、何が合理的な範囲で敗訴者に負担させるべきなのかということと、敗訴者負担に反対だという議論は、分けて議論をしていただかないと、議論が噛み合わないのではないか。そのあたりの整理が必要だと思う。
敗訴者負担制度が導入されると不都合になると説明してくれる例の中には、確かにこういう請求は間違えやすいが合法的だろうというものから、私が聞いてもそのような請求は明らかにおかしいというものまで様々である。例示するとしても、慎重にすべきだと思う。
敗訴者負担の導入に反対という議論と、敗訴者負担を原則認めるとしたらどういうケースを担保する必要があるのかという議論は、できるだけ線を引いて議論すべきだろう。私としては、司法制度改革審議会の意見書を読む限り、100パーセント反対という議論の余地はないと思う。そうだとすれば、なるべく懸念されるケースが発生しないように、担保する方策を数多く議論すべきだと思う。
○ 苦しい問題を抱えて裁判を起こしている人や裁判を起こそうとしている人、いろいろな方々の話を聞いたが、敗訴者負担が導入されたら大変なことになると言っている。そういう声に耳を傾ける必要がある。敗訴者負担が導入されたらサラ金業者は喜ぶだろうが、そういう人にはあまり会わない。色をつけて見ているわけではない。
○ この問題に関しては、情報の流れが非対称であると思う。敗訴者負担に反対する立場の人は組織化されるが、敗訴者負担があれば裁判を起こしたという人は組織化されにくいので、情報が流れてこないということを、はっきり認識しておくべきである。組織化することが悪いとか、そういう人の意見が不当だというわけでは決してないが、組織化された人達の意見だけに耳を傾けるのは不当だと思う。敗訴者負担を導入した方がいいという人は、他にもたくさんいるはずである。特に、企業間の訴訟を考えれば、公平負担は当然だという議論もあり得るのではないか。特定の集団の意見だけで議論するのではなく、もう少し場合を分けて議論するべきである。私の身近では、川の下流に住んでいる人が、川の上流に住んでいる人を、生活排水で川を汚したので損害賠償を請求するという理由で訴えたという事例がある。私の家も上流の方にあるので、いつ訴えられてもおかしくない状況である。この事件の訴状を見せてもらったが、請求としてはおよそ理由がない。こういう事例で、訴えられた方が組織を作って、世の中に意見を述べることはおよそ考えられない。しかし、こういう事例では、訴えられた方は勝訴しても何も得るところはなく、弁護士に事件を依頼していれば弁護士報酬を支払わなければならないという問題がある。こういう立場の人の意見を引き出すのは難しい。特定の立場の人の意見を一般化するのは問題である。
○ 国民一人一人を大切にしていくには、団体訴訟が認められていたり、個人がアクセスしやすい状況ができているというのが基本ではないか。国や大企業を相手に訴訟をする場合、情報が一方に偏在しているという問題がある。しかし、これをそのままにしていては、法は成り立たないという気がする。司法に敗訴者負担というのは似合わないのではないかと感じている。そもそも、裁判は勝ち負けを決めるという場ではないという感想を持っている。
○ ヨーロッパ諸国の多くは、公平の理念から弁護士報酬の敗訴者負担原則を採用している。もっとも、いかなる事件についてもそれでうまくいっているわけではなく、確かに問題点も指摘されている。特に、大規模な被害であって原因究明が困難な薬害訴訟や公害訴訟のようなものや政策形成訴訟については議論がある。このような問題提起を受けて、法律扶助を優先的にするとか訴訟費用保険でカバーすべきだという議論もされている。敗訴者負担か各自負担かという割り切りで解決できるような問題ではないと思う。議論する場合には、敗訴者負担で押し切っていいということにはならないものもあると思うし、一方で、訴えられた方は、勝訴しても経済的利益は何も得られないのに、弁護士報酬を負担するというのは不公平だという議論もあり得る。具体的事件類型を前提に議論すべきではないか。
すべての事件についていっしょに議論をすると、どちらがいいか悪いかという議論になりがちなので、どういう事件類型について議論するのかを具体的にしていただきたい。
○ 弁護士報酬の敗訴者負担制度の取扱いを考えるに当たっては、裁判所へのアクセスの拡充という観点の他、不当な訴えを起こされた被告の立場という観点からの検討も必要である。こういう立場の人の声なき声に耳を傾けることも重要である。