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司法アクセス検討会(第13回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり



1 日時
平成15年3月10日(月) 13:30〜17:15

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委員)
高橋宏志座長、亀井時子、始関正光、西川元啓、長谷川逸子、飛田恵理子、藤原まり子、三輪和雄、山本克己(敬称略)
(説明者)
岩本勝彦(日本弁護士連合会副会長)、津川博昭(日本弁護士連合会副会長)
(事務局)
松川忠晴事務局次長、小林久起参事官

4 議題
(1) 司法の利用相談窓口・情報提供について、民事法律扶助の拡充について
(2) 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて
   ・ 日本弁護士連合会からの説明
(3) 今後の日程等

5 配布資料
資料 1 「ADRの拡充・活性化のための関係機関等の連携強化に関するアクション・プラン(仮称)」構成案に対する意見募集の結果の概要
資料 2 裁判所管内別弁護士数及び司法書士数(最高裁判所事務総局作成)
資料 3 日本弁護士連合会提出資料
 (3-1) 日弁連・弁護士会によるリーガルサービスの実績(2003年3月 日本弁護士連合会)
 (3-2) 法律相談センター等設立状況全国地図
 (3-3) 地域司法計画シンポジウム報告書「私たちのまちに十分な司法サービスを
     〜市民と自治体が活用できる司法を考える〜」 (掲載省略)
資料 4 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて(2003年3月10日 日本弁護士連合会)
 (4-1) 日本弁護士連合会意見書
 (4-2) 統計データにみる勝訴見通しの立てにくさと勝訴の困難性
 (4-3) 訴訟類型ごとにみる逆転判決の事例
 (4-4) 個人対個人間の訴訟における法創造機能の具体例
 (4-5) 欧州の弁護士報酬の負担制度からみた日本の司法改革の課題
 (4-6) 弁護士報酬敗訴者負担問題に関する各弁護士会決議・声明等一覧

6 議事(○:委員、△:説明者、●:事務局)

(1) 司法の利用相談窓口・情報提供について、民事法律扶助の拡充について事務局から、資料1及び2に基づいて説明がされた。
続いて、日本弁護士連合会岩本勝彦副会長から、資料3に基づいて説明がされた。
その後、次のような意見交換がされた。

○ 日本弁護士連合会の取組みに対する努力に感銘を受けた。諸外国でも弁護士会がこのような取組みを行っているという例があるのかどうか教えてもらいたい。弁護士過疎地域には法律サービスの需要がないから弁護士がいないのか、需要があるのに弁護士がいないのかについても教えてもらいたい。今後法曹人口が増加すれば、日本弁護士連合会が取組みをしなくても、必然的に、弁護士過疎問題は解消に向かうのかどうかについても教えてもらいたい。

△ 諸外国で弁護士会が取組みを行っているかどうかについては分からない。宿題ということにさせていただきたい。弁護士過疎地域での法律サービスへの需要はあり、公設事務所は、一部の例外はあるものの、ほとんどのところが黒字である。弁護士が生活していけるだけの収入をあげることができる。むしろ仕事が多すぎて対応できないということさえあるくらいである。弁護士過疎地域が存在する理由はいろいろあると思うが、弁護士の人数が不足しているということも理由の一つだろうし、弁護士の家庭の問題とか生活レベルの問題もあるだろう。近くに弁護士がいない、裁判所の開廷日が少ない、そのために仕事がやりづらいという面もあるだろう。弁護士に、弁護士のいない地域だから行っても仕事がないだろうという意識があったことも影響している。法曹人口が増えれば弁護士過疎問題も好転すると思われるが、直ちに問題が解消するということにはならないと思う。我々が一般市民のニーズに応えなければいけないという意識を持つ必要がある。幸い、こういう意識を持った若い弁護士が生まれてきている。司法修習生の中にも、若いうちに一定期間弁護士過疎地域に行って、経験を積んで帰ってきたいという希望を持っている人が増えていると思われる。

○ 様々な団体と提携して法律相談をしていると聞いたが、弁護士が出向いていって相談に応じるのか。

△ 弁護士が出向いていって相談に応じている。弁護士への費用は提携先が支払い、法律相談に来た人は無料で相談を受けることができる。

○ 専門的な分野に関する相談にも応じているのか。相談に応じて、別の専門機関を紹介することはないのか。

△ 専門的な分野に関する相談にも応じている。専門的な機関を紹介することもある。

○ 弁護士の数が0又は1の地域を解消したいということだが、公設事務所を2つ設けても、同じ資金で支えられている公設事務所が紛争の対立当事者の事件を受任するということになると、利害相反の問題にならないか。事務所の独立性確保の問題だと思われるが、どのように考えているか。

△ 公設事務所はそれぞれ独立した事務所であり、利害相反の問題は生じないと考えている。むしろ、事務所が一つしかないと、利害相反の問題があるため、紛争の一方当事者の相談を受けると、相手方からの相談を受けることができなくなる。そのいう状態は解消したいと考えている。

○ 自治体の主催する法律相談の場合、自治体を相手にした法律問題に関する相談には応じにくいのではないか。

△ 相談内容については自治体は一切関与していないので、相談に応じにくいということはない。もっとも、弁護士が1人しかいない場合、先に一方の当事者から相談を受けてしまうと、その相手方からの相談には応じられないという問題はある。

○ 先ほど、委員から、外国で弁護士会が独自に取組みをしている例はあるのかという質問があったが、独自の取組みをしている例はないのではないか。もっとも、イギリスでは、市民相談所で市民相談員がボランティア活動として市民からの相談に応じている。

○ ヨーロッパでは、日本ほどに弁護士自治が認められていて、弁護士会が大きな財源をもっているところはないと思われる。この問題については、ヨーロッパと比べてみてもあまり意味がないように思う。

△ 遅くとも3年以内に、地方裁判所の支部単位で弁護士数が0又は1の地区を解消する予定である。簡易裁判所単位でも、必要な箇所については、弁護士数が0又は1の地区を解消する取組みを進めたいと考えている。

○ 弁護士過疎地域に事務所を出しても弁護士が生活できるだけの収入があるということだった。それならば、日本弁護士連合会が取組みをしなくても、弁護士過疎問題は解消の方向に向かうように思われるが、そこまではいかないのか。弁護士法人制度が設けられて、例えば、大規模な弁護士法人が若手の弁護士を期間を限定して弁護士過疎地域に派遣するということもやりやすくなると思うが。

△ 取組みをしなければ問題は解消しないと考えている。御指摘のとおり、大規模な弁護士法人の協力を得るなど、問題解消のためのメニューは整えていくべきだと思う。

○ 資料3-1では石見公設事務所での法律相談内容の内訳が示されているが、東京などの相談件数が多いところでも、相談内容の内訳には同じような傾向があるのか。

○ 東京では、クレジット、サラ金関係の相談がかなり多い。

△ 一般的傾向としては、家事事件が多く、家事事件の中では離婚と相続が多い。

○ 先ほど、裁判所の開廷日が少ないために弁護士過疎になっているという趣旨の説明があったが、卵が先か鶏が先かという話になると思う。弁護士が事件を持ってくれば、裁判所もそれに対応して開廷日を増やさざるを得なくなるのではないか。裁判所の開廷日が少ないというのは、弁護士過疎の理由としては説得力がない。むしろ、弁護士過疎地域でもこれだけの需要があるんだということを示していく方が戦略的には説得力があると思う。

△ 確かに御指摘のような面がある。しかし、開廷日が少ないのは問題で、月に1日しか開廷日がないと、その日が代理人弁護士の都合の悪い日だと期日が次の月にならざるを得ない。

○ 資料の誤りというわけではないが、民事法律扶助事業の一環として行われている国庫補助でまかなわれている法律相談が年間約5万件ある。資料3-1の18ページでは、法律扶助協会の法律相談の件数が約3万件と紹介されているが、この数字は、国庫補助の対象となっている法律相談を含まない数字である。念のため、御紹介させていただく。

△ 委員御指摘のとおりであるので、訂正の上、資料も差し替えさせていただきたい。

○ 弁護士の仕事は法廷活動だけではないはずで、裁判にならずに解決している紛争も多くあると思う。法廷活動でない部分については、過疎地に定住せずに、遠隔地からのサービス提供を考えてもいいと思うが、どのように考えているか。

△ 直接に依頼者に会わないと難しい部分がある。電話で話すだけでは分からない部分が分かったりするからである。また、紛争の相手方に対しては、電話や手紙だけで交渉しようとしても相手を怒らすことにもなりかねず、実際に会って話をすることが重要である。

○ 資料3-1ではテレビ会議システムのことについて触れている部分があるが、テレビ会議システムは有効なのか。

△ 一度会ったことのある依頼者との打合せには有効である。もっとも、先ほどご説明したとおり、直接に会って話をしなければならない場面はあり、その意味での限界はある。

○ 弁護士のゼロ・ワン地区があることについては歴史的な背景があるのか。もともと紛争の少ない地域だったというような事情はあるのか。弁護士過疎の問題と無医村の問題とは別のように思われるが。

△ 弁護士が行きたがらない、司法制度によらずに紛争を解決するシステムがある、比較的に近いところに弁護士がいる都市があり、弁護士が必要になったらそこに行くなどいくつかの原因が考えられる。しかし、今後は、司法制度による紛争解決への需要が高まると思われる。

○ 資料3-2のゼロ・ワン・マップは裁判所の管轄区域を前提にしているが、地域によっては、管轄区域を越えて隣の地区に行った方が便利であるという場合もあるだろう。

△ 御指摘はごもっともである。ゼロ・ワン地域を回ってみると、過去に弁護士がいたことが全くなかったという地域は少ない。かつては弁護士がいたが、今はいないとか1人になってしまったという場合が多い。人口の移動、産業の変化、交通事情の変化などが影響していると思われる。ゼロ・ワン地区に残っているのは比較的に高齢の弁護士が多く、若手の弁護士がゼロ・ワン地区に行く仕組みを作っておかないと、いずれはゼロ・ワン地区になってしまう。

○ 地方裁判所の支部の管轄区域を単位として、弁護士が0又は1の地区をなくすということだが、地方裁判所の支部の管轄区域内で紛争を解決できる場合と、そうでない場合との比率はどの程度になっているのか。

△ そこまでは分からない。事件を受任する場合、その事件が裁判になった場合の管轄裁判所と事務所との間の距離は気になる。また、依頼者と打合せをするのに長時間かけなければならないというのは不便であり、依頼者との距離は近い方がいい。

○ 法律相談に来る人は様々な問題を抱えており、例えば、税務についての専門知識が必要になる問題が持ち込まれることもあると思う。そういう場合には、隣接法律専門職種と連携し、ワン・ストップ・サービスを実現することも重要になってくると思われるが、隣接法律専門職種との連携はどうなっているのか。まず話を聞いて、適切なところに振り分けていくということもこれからは大切になってくると思う。

△ 弁護士が応じられる範囲で相談に応じている。税金関係の話の場合は、税務署の税務相談を紹介したり、知り合いの税理士を紹介することもある。規模の大きい法律相談センターでは、事前に相談内容を聞いて、適切な機関につなぐという場合もある。報道されているリーガル・サービス・センター構想が実現しても、リーガル・サービス・センターが弁護士のほかに隣接法律専門職種まで抱えるというのは厳しい面もあると思う。

○ 将来は、今委員から指摘のあった点も考慮していくことになるだろう。ところで、公設事務所ではADRの機能も果たしているということだが、具体的には何をやっているのか。当番弁護士制度の見通しはどうか。

△ 仲裁をやっている。石見公設事務所では、東京から仲裁人に来てもらって仲裁をしている。当番弁護士の関係では、石見の例だと、公設事務所の弁護士が当番弁護士として出向いていく。当番弁護士はすぐに駆けつけなければならない。以前、稚内には弁護士がいなかったため、旭川の弁護士が稚内まで出向いていた。冬に、旭川から稚内まで片道4時間かけていくのは大変である。今は、元検事正だった人が稚内で弁護士を開業したので、旭川の弁護士は助かっている。

○ 郵便貯金の「暮らしの相談センター」との提携はやめるという説明だったが、別の形で続けられることになるのか。

△ 貯蓄相談を除いてやめることになった。別の形で続けるということではない。

(2) 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて
  ・ 日本弁護士連合会からの説明 
    津川博昭副会長から、資料4に基づいて説明がされた。
    その後、次のような意見交換がされた。

○ 資料4-1の23ページに片面的敗訴者負担制度を導入すべき訴訟類型が掲げられているが、このような結論に至るまでの紆余曲折の部分を教えていただきたい。片面的敗訴者負担制度について、日本弁護士連合会では、資料に掲げられている類型の訴訟に限って導入すべきだという考えなのか、まだ検討中であり、資料に掲げられている類型の訴訟に限るという意味ではないのか、そのあたりも教えていただきたい。資料4-2では判決の取消となっているが、取消というのは、地方裁判所の判決と高等裁判所の判決とで勝敗が逆転している場合のみを意味するのか、それとも、当初の判決と少し違った微調整のようなものまで含むのか。資料では、判決の取消と和解の合計数が控訴申立てのあった事件の何パーセントという形で数値が示されているが、この数値は、第一審の判決内容とは変わった形で解決したということを意味するに過ぎないのか、第一審判決とは逆転した形で解決した割合を意味するのか。

△ 片面的敗訴者負担制度を導入すべき訴訟類型については、各地の弁護士会に意見照会し、日本弁護士連合会内部でも関係する委員会で検討した結果、このような結論になったということである。片面的敗訴者負担制度を導入した方がいいと考えている訴訟類型については、資料に掲げているものに限るということではない。これ以外にも導入した方がいいものがあるのかどうか、検討していかなければならないと考えている。資料4-2にある判決の取消とは、地方裁判所の判決と高等裁判所の判決とで勝敗が逆転した場合だけでなく、言わば微調整で判決の内容が変わったという場合も含まれる。もっとも、理屈は全く異なっても結論が同じだった場合は含まれない。和解については、第一審判決とは違う内容だと思ったので資料に掲げた。

○ 資料4-2では控訴された事件に対して控訴審の判決と第一審の判決とが異なったケースの割合が示されているが、訴えの提起があった事件数を分母にすると割合はかなり低くなる。判決の取消といっても、裁判実務の経験で申し上げると、第一審と控訴審とで判決内容が逆転するというケースはかなり少ないと思う。多くの場合は、認容額が変わったというだけではないか。控訴審での和解は、第一審の判決と内容が異なるというよりも、むしろ、第一審の判決内容を前提に、その履行方法について和解するといったケースが多いのではないか。したがって、資料4-2は、一見すると全事件の半数近くが勝敗の見通しがつかないことを示しているように見えるが、実際はそういうものではないということを理解していただきたい。

△ 当初から最後のことまで見据えて事件をどうするかということを決断するのは難しいということを言いたいという趣旨である。裁判にならなければ泣き寝入りで終わっていたかもしれないが、裁判をすることによって、事件の筋に従った解決がもたらされているということを言いたいという趣旨である。

○ 事務局に調べてもらったところ、事務局には弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入に賛成する意見は来ていないそうである。先日、裁判官ネットワークのホーム・ページを見ていたら、弁護士報酬の敗訴者負担制度が導入されたら困るという意見が1つ書き込まれていた。書き込みをしたのは精神的な病気を患ったことのある方のようである。このような権利を侵害されやすい立場の人達のことを考えないといけない。資料4-2が、第一審が白だったのに控訴審で黒になったというような割合を示しているものではないということはよく分かった。判断がコロコロと変わるようでは困るが、裁判所の判断が固定化されていないのはいいことで、固定化すべきではないと考える。アメリカは、日本と同じく弁護士報酬は各自負担が原則であり、参考になる。PL訴訟では、原告である消費者が証拠を集めるのが難しく、こういう分野では片面的敗訴者負担制度を導入を検討してもらいたい。

○ 司法へのアクセスの促進が唯一の判断基準だというのが日本弁護士連合会の御意見だが、公平・公正という視点は何ものにも勝る判断基準ではないか。司法へのアクセスの促進という面だけを捉えて議論するのはいかがなものかと思う。約14パーセントの人が、訴訟に勝つ確率が極めて高いにもかかわらず、自分で弁護士に報酬を支払わなければならないなら裁判はできないと回答しているようだが、14パーセントもの人がそう考えているというのは驚きである。この数字を見て、弁護士報酬を各自負担としていることの提訴萎縮的効果がこれだけ大きいのだなと感じた。日本弁護士連合会の資料では法の創造機能ということが議論されているが、最終的に勝訴することによって法が創造されるのなら、敗訴者負担制度の導入をなぜ躊躇するのかという気がする。そもそも、裁判には、裁判に勝ちたいという当事者の意欲と弁護士との能力が必要であるはずで、最初から、裁判に負けるかもしれない、負けると相手の弁護士費用を払わなければいけないから訴訟をやめようかという姿勢で正義を実現しようというのはおかしいのではないか。また、資料4-2は、ちょっと見ると、一審判決の半分近くが控訴審でひっくり返っているように読めるが、こういう数字の取り上げ方は、素人を惑わそうとするものである。第一審で確定した事件数がどのくらいあるのか、原告勝訴で確定した事件はどのくらいあるのか、控訴審における和解の内容は第一審で認められた額とどの程度変わっているのかといったことを分析した上での、責任を持った資料の提示であっていただきたいと思った次第である。

△ 裁判で勝つことが正義であり、それがペナルティーを課すことや費用負担の根拠になるという点には疑問がある。司法へのアクセスの拡充を基準にしたのは、司法制度改革審議会意見で示された視点だからである。自由な議論を封じるという意味でいうわけではないが、委員御指摘の公平という視点は、既に民訴費用制度等研究会で議論されている。民訴費用制度等研究会報告書では、弁護士人口の増加が進み、法律扶助制度の充実等関連諸制度の整備や新民訴法の施行による弁護士業務の変化がある程度収束した段階において、本格的検討が行われるべきだとされている。もちろん、この結論は、民訴費用制度等研究会が検討した時点のものである。しかしながら、現時点でも、ある程度収束したとは言えないのではないか。したがって、司法アクセスの観点からなお弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入が必要なのかどうかを考えるべきではないかという結論になったということである。前回の検討会の資料14-4について、約14パーセントの人は弁護士に支払う費用が原因で裁判を起こさないという回答だったことについては、その程度では敗訴者負担制度を導入する立法事実としては弱いのではないかと考える。現在は各自負担になっているので、制度を変えるだけの立法事実が必要だと考えている。もちろん、この14%の人達への対策は考えなければいけないと思っているが、現時点では、日本弁護士連合会としての結論は出ていない。結論としては、敗訴者負担制度の導入が原則で、例外を考えていくということではないのだろうと思っている。

○ 弁護士としての実務経験をもとに考えると御説明のとおりの結論だということだと理解している。弁護士報酬の敗訴者負担については様々な意見があるようだが、意見が分かれるのは、それぞれの人の実体験が異なるからだろう。ところで、今の御説明は、時期が来れば、つまり社会的に機が熟せば敗訴者負担制度の導入を原則とすることもあるという意味なのか、将来も各自負担を原則とすべきと考えているのか。

△ 制度の導入を原則とするのかどうかという理念論については検討していない。

○ 弁護士の方々にとっては今どうなっているのかということが重要なのだと思う。それは実務に携っている弁護士としては当然のことだと思う。だが、それはそれとして、原理原則論に立ち返ったときはどういう御見解になるのか。そういう検討はしていないというのなら、そういう検討もしていただきたい。先ほどの御説明で現状を変えてまでという趣旨のことを言われた。そういう感覚は私にも分かるが、原理原則としてどうあるべきかについても議論をしていただき、その結果をお知らせ願いたいと思う。答えにくい質問かもしれないが、理念論としてはどう考えるのか。

△ 日本弁護士連合会として今どう考えるのかと問われれば、資料でお示ししたとおりの答えになる。私個人の意見で申し上げると、各自負担を原則とすべきだと思う。

○ 行政・企業と個人とでは力に差があるので、敗訴者負担制度を導入することが公正とは言えないように思う。シック・ハウス症候群の例では、敗訴しても訴え続けた人達がいたおかげでルールが作られるようになった。個別的に検討し、分野によっては片面的敗訴者負担制度の導入が検討されてもよいように思われる。公平さという視点ではどのように考えているのか。

△ 司法制度改革審議会意見では、「負担の公平を図って司法へのアクセスを促進する見地」と言われている。司法へのアクセスを促進するために公正を図る必要があると考えている。公正を図るという場合、実質的に考えていかないといけないと思っている。実質的に考えると、公正の問題が最も顕著に現れるのは、当事者の訴訟対応能力の場面だと思う。それで、当事者の属性という視点での検討をした。個人対事業者という場合は、持っている情報の差、証拠収集能力の差、経済力の差などがある。こういう差を是正して司法へのアクセスを図ることが必要だと考える。このように考えると、今申し上げたような場面では、敗訴者負担制度の導入は、司法へのアクセスを抑制する方向に働くだろうと思う。

○ 実質的公平が確保されるなら敗訴者負担制度を導入すべきだということか。例えば、所得が同じくらいの個人間の訴訟の場合、敗訴者負担制度を導入することが本来は望ましいのだという御見解なのか。

△ そうは考えていない。他にも考慮すべき要素があると思う。紛争を司法の場で解決できず、社会的力を背景とした解決がされたり、泣き寝入りになっている例も多いと思う。それを司法の場で解決するために、司法へのアクセスを拡充すべきだという議論をしている。司法へのアクセスを拡充することが、公平・公正な社会をつくっていくことにつながる。公平・公正という概念と司法へのアクセスの拡充とは別なものではなく、司法へのアクセスを拡充することが社会を公正なものにしていくのだという考え方もある。公平・公正の問題を横に置いて司法へのアクセスを議論しようというのではない。トータルで考えていかないといけない。個人対個人の訴訟で実質的に不平等がなかったとしても、裁判が利用しにくいものであれば、そこに社会的不公正が存在するのではないかと考えている。

○ 資料4-1の6ページに不当提訴や不当応訴について触れている部分があるが、論点をずらしているように思われる。不当提訴や不当応訴があった場合は、別訴で不法行為責任を追及すればいいという考えは、アクセスの拡充という観点と矛盾するのではないか。不当提訴、不当応訴に対しては、同じ訴訟手続の中で解決が図られた方がよく、別訴を起こせというのは、アクセスの拡充とは逆行する話ではないか。別訴を起こせばいいということを援用してこのような結論を導くのは解せない。その解決手段として敗訴者負担制度の導入がいいかどうかは別の話だが。それと、都合のよいデータを並べるだけではなくて、コアの部分について日本弁護士連合会としてはどう考えているのかという哲学の部分を出してもらいたい。

△ 手続的に別の訴訟を起こさなければいけないという点は御指摘のとおりである。ただ、ここでは、負担した弁護士報酬を回収する手段があるかどうかという視点で検討した結果である。また、別の訴訟を起こすといっても、通常は、反訴を提起して同じ訴訟手続の中で争うことになる。

○ 資料4-1の日本弁護士連合会の意見は全員一致の意見なのか。日本弁護士連合会から意見が出される場合、ある論点について意見の対立があったために両論併記になっていることがあるが、敗訴者負担制度に関しては、検討の過程で資料と異なる意見は出なかったのか。論点が多岐にわたり、部分的には異なる意見もあったのではないかと思うが。なお、反訴を提起するといっても、別に訴訟を起こすことに変わりはなく、手数料も納めることになる。

△ 結論としては、各自負担を原則とすべきだということである。片面的敗訴者負担制度の導入を提言する部分については異なる意見、片面的敗訴者負担ではなく各自負担とすべきだという意見があった。片面的敗訴者負担制度は双面的敗訴者負担制度の議論につながっていくのではないか、各自負担の原則に逆行するのではないかという意見だった。不当提訴・不当応訴に関する御指摘はごもっともである。とんでもない訴えを起こされて、それに対応するための弁護士報酬を自分で負担しなければいけないのはおかしいというのはもっともである。しかし、この問題は不法行為責任の問題であって、敗訴者負担制度の問題ではないと考えている。

○ 最高裁判所の判例によれば、不当提訴・不当応訴に対して不法行為責任が認められる要件は厳しく、ハードルは高い。そのために、多くの人が泣き寝入りになっているかもしれない。別訴で不当性を主張立証しないと弁護士費用を回収できないというのが公平だとは思えない。別訴で不法行為責任を追及する場合は、弁護士に支払った報酬全額が賠償の対象となるが、司法制度改革審議会意見が導入を提言しているのは一部負担である。一部負担の制度を導入することによって公平が確保されるという面があるのではないか。全ての訴訟に敗訴者負担制度を導入すべきだとまでは思っていないが、一定の場合には、敗訴者負担制度を導入することが公平だと言えるのではないか。

○ 委員から御指摘のあったとおり、司法制度改革審議会意見では、弁護士報酬の一部を敗訴者が負担する制度とされている。一定の要件、敗訴者が負担すべき一部の額の定め方など、各論の部分について引き続き検討していきたい。本日の日本弁護士連合会の資料の中にも、こういう類型の訴訟ではどうかといった、各論の検討に有益なヒントが示されている。今後は各論の検討に重点を置いて進めていきたいと思う。

○ 資料4-1の23ページに片面的敗訴者負担のことが書かれているが、ここで片面的敗訴者負担制度を導入すべき訴訟類型として例が挙げられ、「など」でくくられている。「など」でくくられる訴訟類型にはどのようなものがあるのか、その検討状況も併せて御紹介いただきたい。

(3) 今後の日程等について

 次回については、引き続き、司法の利用相談窓口・情報提供、民事法律扶助の拡充、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて検討を進めることとなった。

(次回:平成15年4月15日 13:30〜)