【高橋座長】 それでは、所定の時刻になりましたので、第13回司法アクセス検討会を開会いたします。
本日の議題に入る前に、新しく委員となられました方を御紹介申し上げます。始関正光委員です。
【始関委員】 始関でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
【高橋座長】 それでは、議事に入りたいと思います。はじめに、事務局から本日の議題と配布資料についての説明をお願いいたします。
【小林参事官】 前回の検討の中でも、「司法の利用相談窓口・情報提供について」と「民事法律扶助の拡充について」は一体として御検討いただきましたので、お手元の議事次第にありますように、これらは一体として、議題(1)としております。
議題(2)は、「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて」です。これにつきましては、日本弁護士連合会から意見書等をいただいておりますので、その説明もしていただく予定です。
議題(3)は、「今後の日程等」です。
配布資料につきましては、資料1は、「ADRの拡充・活性化のための関係機関等の連携強化に関するアクションプラン(仮称)」構成案に対する意見募集の結果の概要がまとりましたので、これを資料としております。
資料2につきましては、裁判所管内別の弁護士数及び司法書士数の資料です。
資料3は、日本弁護士連合会から提出されました、本日の議題(1)に関連する資料です。
資料4は、議題(2)の「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」についての日本弁護士連合会の意見書その他の資料です。
御確認をお願いします。また、資料の内容につきましては、各議題に関連して御説明申し上げたいと思います。
【高橋座長】 それでは、今日の議題(1)になりますが、「司法の利用相談窓口・情報提供について、民事法律扶助の拡充について」、この検討から入ります。それでは、改めて資料の説明をお願いいたします。
【小林参事官】 資料1と資料2が事務局で用意した資料です。資料3につきましては、日本弁護士連合会提出の資料ですので、後ほど日本弁護士連合会から御説明いただけたらと思います。
資料1は、「ADRの拡充活性化のための関係機関等の連携強化に関するアクションプラン(仮称)」構成案という、この検討会でもお示しし、御説明をした資料に関する意見募集の結果の概要です。この検討会との関係におきまして、特に問題となると思われますのは、3ページの総合的相談窓口の充実という項目です。この中で、下から7行目以下の(総合的相談窓口の運営主体に関する意見)というところで、例えば、国・地方公共団体等の消費者窓口による案内機能強化とか、総合的相談窓口の充実については、ポータル・サイトと同様、国家が運営すべきものであるとか、総合的相談窓口は各都道府県に1つは必要であるというような意見も寄せられているようです。また、4ページでは、(2)関係機関間の相互照会の体制整備の促進という項目で、関係機関の相互の情報提供を図る必要があるという意見が寄せられております。その他、詳細につきましては、こちらでの報告は省略をさせていただきます。
資料2ですが、これは、裁判所の管内別の弁護士数と司法書士数に関する資料です。表紙には全国の弁護士数と司法書士数が記載してあり、2枚目以降の地図におきましては、地方裁判所の支部の管轄区域ごとに、上段に弁護士数、下段に司法書士数を記載してあるものです。全体として、弁護士の方が司法書士よりは数が多いのですが、地方にいきますと、弁護士の数より司法書士の数の方が多いという傾向があるわけです。また、この資料の後ろの方に表がありまして、弁護士数と司法書士数を簡易裁判所の管轄区域ごとに細かく分けて、その分布状況を記載したものです。この資料2は、最高裁判所の方で作成していただいた資料です。
事務局の方で用意した資料は以上でございます。
【高橋座長】 それでは、司法の利用相談窓口、情報提供に関しましては、日本弁護士連合会から資料を提出していただいておりますが、日本弁護士連合会におきましては、既にいろいろと取組みを重ねておられるということでございます。そこで、今日は、日本弁護士連合会から資料を中心に説明を受けたいと思いますが、よろしいでしょうか。
(「異議なし」と声あり)
ありがとうございます。それでは、日本弁護士連合会の岩本勝彦副会長から御説明をお願いします。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 岩本です。よろしくお願いいたします。少し自己紹介をしますと、私は道産子でありまして、旭川の北に比布という、昔ピップエレキバンの宣伝で、比布神社などが出てきたのは御存じかもしれませんが、人口4,000人ぐらいの村の出身です。ですから、私は、典型的な過疎の村に生まれ、現在は札幌という北海道では大都市に住んでいます。この過疎の問題に関しては、自分としてもいろいろ責任等を感じながら日々仕事をしております。それについての日弁連の活動振りを御説明したいと考えております。日弁連では、公設事務所・法律相談センターという委員会がありますけれども、その担当副会長をしております。
では説明を申し上げたいと思います。弁護士のリーガル・サービスという問題はありますけれども、これは我々にしてみますと、多分に、弁護士の過疎偏在問題とイコールと言いましょうか、裏表のような関係になっているわけであります。今日は資料を提出しておりますので、その資料に基づいて御説明申し上げます。
まず、皆様方のお手元に資料3-2として地図が配られているかと思いますが、御覧いただけますでしょうか。これは、先日2月19日にでき上がったばかりのものであります。今回、リーガル・サービス・センターの問題が新聞などに出てきたものですから、日弁連としては、実際に地図に相談センターを落としてみた場合、どう展開するのだろかということをやってみようということで、急遽やってみましたら、我々も自分でつくってみて驚くくらい、全国にあまねくと言いましょうか、十分とは言いませんけれども、かなり広範にその相談センターが広がっているということがわかりました。皆様方にもおわかりいただけるのではないかと思います。先日、自民党の司法制度調査会の先生方にもお示ししたのですが、皆様方もある程度感嘆と言いますか、感心しておられました。この中の青いところは相談センターで、赤いところは公設事務所であります。公設事務所は予定のところが入っておりますけれども、相談センターと公設事務所のあるところは赤と青が一緒になっているところがあります。
先日、私は、3月7日に根室に行ってまいりました。根室は日本で一番東端で、納沙布岬のところに青と赤がついておりますけれども、この赤が、「根室ひまわり基金法律事務所」であります。できたてのほやほやでして、今日の10時から開設されております。まさに記念すべき日です。東京の第二弁護士会から29歳の若い先生が行って、今日から仕事を始めておられます。こういうことで、地図をじっくり御覧いただければと思っております。
我々も、この問題は古くて新しい問題と言われておりまして、平成8年に名古屋宣言というものを出しまして、この過疎偏在を近い将来に全面的に解消しようという宣言を発表しまして、その後、大いなる展開を図っているわけであります。今日、隣に来ておりますのは、日弁連の公設事務所・法律相談センターの委員長をやっております林弁護士です。私の足りない分につきましては、林から説明をさせていただくことにしております。
では、今日の資料3-1を御覧ください。まず、1枚開きまして目次ですけれども、そこに書いてありますとおり、今日はその6つのことを御説明申し上げたいと思います。第1番目が、「公設事務所・法律相談センターの設置状況」であります。第2番目が、「日弁連・弁護士会の弁護士過疎・遍在問題に対する支出状況」、これは大変な金額を支出しているわけでありますけれども、それについての実態であります。第3番目、「法律相談センターの活動実態」、これは全部を出すわけにはいきませんので、典型的な事例を提示いたしまして御説明申し上げたいと思います。第4番目ですが、「法律相談事業の外部との提携」、アクセスの関係では、自治体その他との提携の問題が出てきておりますけれども、現在どのようなことが行われているかということも、大まかに御説明申し上げたいと思います。第5番目ですが、「当番弁護士制度の運用状況」で、これは、直接は公設事務所・法律相談センターが絡むわけではありませんけれども、刑事弁護に関しまして、今、公的弁護制度の問題が出てきておりますけれども、それについて実際どういうことを行っているかということも、数字でお示ししたいと思います。第6番目でありますが、「当番弁護士制度等の運用における財政状況」、これにつきましては、莫大な資金を使っておりまして、それについての実態を御報告したいと考えております。
次に1ページを御覧ください。「第1 公設事務所・法律相談センターの設置状況」ということでありますけれども、これは、全国の支部にゼロワン地区というのがありまして、今のページの次の次のページに全国地図が出ております。これは、統計の都合上、去年の10月10日現在でありますけれども、全国に200と少しあります。その支部で、弁護士が0または1ということでゼロワン地区と言っていますが、その分布図であります。例えば、右端の方に「釧路地方裁判所根室支部 ★公設事務所開設」と書いてありますけれども、これは赤になっております。これは、去年の段階ではゼロ地区だったわけです。ただ、今日、この段階では、もう青になったということが言えます。そのような状況で、全国でこれからも次々と赤から青へ、青から黄色へということを目指しているところであります。元へ戻ります。日弁連では、ひまわり基金、後で御説明申し上げますけれども、弁護士から、毎月1人当たり1,000円の財政支出をさせまして、それを基にしまして公設事務所を全国に開設するという運動を展開しております。それが2000年の6月12日、島根県の浜田市を第1号としまして、石垣島、紋別、遠野、北上、網走、五所川原、人吉、熊野、日南、宮津、十和田、島原、根室、根室は3月7日に開設されまして、現在、14ございます。そして、年度内と言いましょうか、近々開設予定が鳥取県の倉吉、それから長崎県の平戸市、沖縄県の平良市ということになっております。これは、後でまた林弁護士から説明させますけれども、リーガル・サービス・センターの問題が出てきておりますので、それからまた、一般市民からのニーズが非常に強いということがありまして、公設事務所の設置のスピードはもっと上げなければならないだろうと考えております。
次に2ページを御覧ください。平成8年から平成14年までの弁護士ゼロワン地区の支部数の変遷であります。このゼロワンの解消ということに努めているわけでありますけれども、この表を見ればおわかりになりますとおり、実績を着々と上げておりまして、現在、ゼロワンは61ということになっています。また、現時点で1と0のバランスは、24と37という形になっております。
3ページは先ほど示したとおりでありまして、やはり見たらおわかりになりますとおり、日本の僻地と言っていいかどうかわかりませんけれども、私の住んでいる北海道などは非常に多いですし、九州、四国というところに多く存在しています。あと東北地方ですね。やはり、本州の中央部には、ゼロワン地区というのはかなり少ないということは、この分布図でおわかりいただけると思います。
次に4ページであります。新聞報道などでいろいろお聞きになっているかもしれませんけれども、現在、ゼロワン地区というのは、先ほど言っていますように61あるわけです。ところが、その61について我々はどう対処しているかと言いますと、まず公設事務所というのは、弁護士がその場に行くということで、実際には実現がなかなか困難な部分があります。そこで、まず、それよりももっと公的な色彩の強い、各弁護士会が設置します法律相談センターというものをつくろうということで、法律相談センターの設置に努めているわけであります。それで、61のうち、既に法律相談センターができているというところが、そこに書いてありますグレーのところであります。法律相談センターと公設事務所の分布というものを下の方の欄に書いてありますけれども、法律相談センターと公設事務所が重複してあるというところが7つあります。これが、網走、五所川原、十和田、宮津、島原、人吉、日南です。そして、法律相談センターだけがあるところ、これが49であります。これは上の方の表を見ますと、右の隣の方に公設事務所が書いていないところがすべてそういうことになります。それからもう一つは、公設事務所だけがあるという、ちょっと特殊なところですが、これは紋別であります。紋別は、御存じかもしれませんけれども、本当に若い弁護士が行っておりまして、これが東京の第二弁護士会から派遣されています。この方は既に2年滞在しておられまして、この4月には、また別の女性がおいでになるということになっております。法律相談センターと公設事務所が両方ともないところというのは、ゼロワンの地区61のうち、名寄、留萌、二戸、知覧の4つです。そのうち、名寄、留萌というのは、私のおります北海道であります。この段階で言えることは、この4つのうちの名寄と知覧につきましては、既にもうそこに行かれる方がほぼ決まっておりまして、今の段階でもまだ未定というのは、留萌と二戸であります。このゼロワン地区につきましては、法律相談センターか法律事務所があるという状態には、多分、平成15年内にはできるだろうと考えておりまして、そういう意味では、ゼロになると考えております。
5ページでありますけれども、法律相談センターの設置の推移であります。これは、早くから弁護士会としては、相談センターだけはつくらなければいけないと、いつでも、どこでも、誰でも、一般市民の方たちが相談できるという体制をつくろうということで、今まで努力してきているわけであります。その推移ですが、1990年から見ますと、現在の2003年ですが、253か所ということで、その伸び率というものは大変なものであることは御理解いただけると思います。法律事務所の数も鰻登りなわけでありますが、多分、今年、来年辺りは、この伸び率、公設事務所の設置数というのは、ぐんと上がるだろうと考えております。
6ページでありますが、全国における有料・無料法律相談件数の推移であります。これは、そこに数字を挙げてあるとおりです。2001年の有料・無料の件数を足しますと、およそ50万件になります。実際は、これは実態の一部にすぎないと下に書いてありますけれども、全く一部にすぎません。札幌弁護士会などは、ここに書いてある以外に、無料法律相談、電話相談をやっております。これが、去年の実績で、電話相談だけで8,000件、毎日電話相談をやっていますから、年間の相談件数8,000件になります。そういうような数字を入れますと、多分、この数字の倍以上行くのではないかと思われます。東京などは、弁護士会が主催しておられる法律相談というよりは、各区役所でありますとか、各私的な団体と言いましょうか、従前から存在するような弁護士の団体が様々な法律相談事業をやっておりまして、その陰に隠れたと言いましょうか、我々が把握していない法律相談件数というのは、すさまじいものがあるのではないかと思われます。
次に7ページになります。これが、法律相談センターにおける事件受任件数の推移であります。全国どこでもそうですが、法律相談センターでは、相談をするだけではなくて、直接受任するということを主にやっております。自治体は公ですから、その場で直接受任することはできませんけれども、弁護士会がやっている相談センターでは、直受をしておりまして、その相談を受けた中での直受の数、これもぐんぐん右肩上がりに増えているということはおわかりいただけると思います。
8ページであります。「日弁連・弁護士会の弁護士過疎・遍在問題に対する支出状況」であります。先ほどちょっと触れましたけれども、日弁連は、ひまわり基金というものを平成12年につくりまして、会員1人当たり年間1万2,000円の負担金で、それを会員数1万9,000人でかけ算しますと、2億円以上になる、それに基づきまして、公設事務所でありますとか、法律相談センターの設置維持に関しての費用を支弁しているわけであります。そこに書いてありますけれども、これまでの4年間の累計支出額は5億5,000万円になります。当初は非常に少ないものでありましたけれども、現時点では、年間2億円を超えているという形になっております。そこに書いてありますけれども、内訳としましては、弁護士定着支援の活動費、公設事務所の設置維持費、法律相談センターの運営費、法律相談センターの開設費などに充てられております。この4つの分類があるわけですけれども、公設事務所の設置維持費などは、貸付けの色合いも強いのですが、そのほかの費用につきましては、すべて弁護士会の持ち出しと言いましょうか、日弁連の持ち出しとなっております。定着支援と公設事務所の設置維持費については貸付けでありまして、公設事務所については全部持ち出し、そういうことのようです。
次に9ページに参ります。「日弁連一般会計における弁護士過疎・遍在対策費用」であります。日弁連では、今申し上げましたひまわり基金とは別に、一般的な会費を集めているわけでありますが、その会費から支出されているお金であります。これが、1991年から2002年の見込みまで入れますと、12年間で約2億円ということで、年間大体1,000万円になります。12億となっていますが、1が誤植です。2億ですね。訂正します。
次に10ページに参ります。弁護士会の運営する法律相談に対する当該弁護士会からの経費援助があるわけです。これにつきましては、こういう運営に関する費用というのは、日弁連だけではなくて、各単位会も費用の負担をしているところであります。すべての単位会を挙げるわけにまいりませんので、典型的な弁護士会を挙げております。A弁護士会、会員数は1,000名以上、これは多分、東京の第二弁護士会だったと思いますけれども、それを例として挙げております。B弁護士会、これは会員数が300名程度のところであります。それからC弁護士会、会員数50名以下の単位会であります。これらの各典型的な弁護士会におきましても、その弁護士会の固有の負担といたしまして、そのような数字を出している。例えばA弁護士会ですけれども、2億1,250万円を2001年度に支出している。それからB弁護士会ですが、そこにおきましても1億円以上、それからC弁護士会、これは会員50名以下のところでありますけれども、そこにおきましても、2001年に400万円以上のお金を出している。こういう形で、我々は、言わば自腹を切った形で、こういう相談センターを運営しているわけであります。
次に11ページを御覧ください。日弁連としての今後の取組みでありますけれども、公設事務所の設置によりまして、弁護士のゼロワン地域、これが現在でも全国61か所あるわけですけれども、この場所をなくすと。これにつきましては、本当にここ2〜3年の間になくそうではないかということを我々としては考えているわけであります。その費用の概算を申し上げますと、公設事務所2か所で0地域が20か所あるわけですから40か所、公設事務所1か所で1地域が41か所、これをやりますと、1か所につきまして500万円かかるということで、4億5,000万円の費用がかかるということになります。必要とされる弁護士でありますが、これは1か所に1人の弁護士が必要になりますので、81人が必要になります。これを、大規模会から派遣してもらうことにしたいと考えております。各過疎地には弁護士はいないわけですから、大規模会から派遣してもらうのはどのようにするかと言いますと、大規模会の中に、弁護士を養成していただく事務所をつくりまして、その事務所の中で、短期ですと1年半とか2〜3年の間養成してもらった弁護士を、各過疎地の公設事務所なりに派遣していくということを考えているわけであります。それに付随してですが、独立簡裁、これは支部とは別にあるわけですけれども、地域司法計画、これは今日資料3-3としてお配りしてあります黄色い本がありますが、この中にいろいろ計画が書いてございますけれども、単位会と協力しながら、法律事務所を設置していくということを考えております。
次に12ページであります。これが先ほどのA、B、Cとは逆になっておりますけれども、この弁護士過疎地域、青森県弁護士会、これが先ほどのC弁護士会、50人以下の弁護士会であります。それから、中規模都市、これは先ほどのB弁護士会ですが、兵庫県弁護士会、これは本部は神戸にありますけれども、ここの例です。それから大規模都市、東京三会法律相談センター、これは東京三会ですね。これをちょっと例に挙げて説明申し上げたいと思います。それぞれ、弁護士会の能力でありますとか、ニーズの問題、市民のニーズの問題でいろいろばらつきがありますけれども、青森につきましては毎週木曜日、午後1時から午後4時までやっています。電話予約をしておりまして、事務員はいません。行ったときは、弁護士が事務員も兼ねて仕事をするというような形になると思います。そして、1日当たりの相談員は1名行きまして、年間延べ相談員数は50人、これは50回行くからそうなると思います。年間相談件数は約250件、1回当たり5件ぐらいの相談があるかと思います。それから、中規模都市に行きまして、兵庫県弁護士会でありますが、相談場所は弁護士会館、相談日は月曜から金曜日、午前10時から午後4時半まで、これは毎日です。電話予約であります。私の札幌の例で言いますと、その日に電話予約をして、その日に相談に乗れることはまずありません。大体2、3日後になると思います。それぐらい満員なんです。専従職員は、弁護士会ですからおられるということで、1日当たりの相談員は7名、多分、これは前半、後半分けてやる。7人が常時働いているのではなくて、分けて働いているのだと思います。年間、延べの相談員数が1,700人、これは弁護士です。そして、年間相談件数は6,000件です。それから、大規模都市の東京三会の法律相談センターでありますけれども、これは弁護士会館で行う。月曜日から土曜日までということで、午前9時30分から午後3時まで行っております。ここは来館時に受付ということで、多分、それだけの相談員の方がいらっしゃるんですね。最大36人ということですから、多分、かなり大人数の方が来られてもこなし得るということで、受付は随時になっておるわけであります。年間の延べ相談員数が9,000名、年間相談件数が1万8,000件、これは誠に膨大な数になっております。
次に13ページに参ります。これは弁護士過疎地域における法律相談事業の一例であります。これは、島根県弁護士会の石見法律相談センターの場合であります。この石見法律相談センターというのは、島根県弁護士会、中国弁護士会連合会、日弁連の共催のセンターであります。島根県の浜田市、益田市、大田市の3か所に設けておりまして、その会場の日程は、浜田は毎週金曜日、益田は第3、第4金曜日、大田は月1回です。これは多分、市民のニーズに対応した形でこのような開催日になっているのだと思います。相談料は原則としていただいていないという形をとっています。ここは弁護士が非常に少ないところでありまして、どのような体制を取っているかと言いますと、14ページを御覧ください。これは平成14年度のものでありますが、弁護士は、言わば全国と言いましょうか、その地方だけではなくて、松江40人、東京15人、岡山19人、広島40人という形で、これは延べ人数ですね。延べ人数でこのように担当しているということです。石見の法律相談センターというのは、日弁連の非常に初期の段階でできたセンターでありまして、全力で取り組んでいるセンターの1つであります。
次に15ページでありますが、石見法律相談センターの年間の相談件数は882件、法律相談の内容でありますけれども、その表を見ていただきたいと思います。一番多いのが家事関係であります。それから2番目が金銭請求・取引関係、商売絡みだと思います。それから不動産関係が18%、消費者金融・信販関係が10%、破産・和議が10%、その他民事関係、行政・刑事その他と、あらゆることについての相談に乗っています。ですから、法律相談に関しては、民刑を問わず、ここの相談センターに来ますと相談に乗ってあげられるということになります。それは、全国のどこの相談センターも同じだと思います。多分、相談の事件のばらつき、どんな項目の事件が多いかと言えばこのとおりでありましょうし、民刑両方を対応しているということに間違いないと思います。
次に16ページであります。相談の中身です。相談だけではなくて、どんな事業を行っているかということですが、テレビ電話会議システムによる相談、これは地方の相談者に対するサービスとして、このような相談を行っています。それから仲裁事業、これは先ほど出ていましたADRの関係ですけれども、ここでは、簡単な事件だと思いますけれども、そういうことに対する仲裁を行っています。それから、当番弁護士の派遣、弁護士の紹介、場合によりましてはその場で事件を受けることができない、それは相談者の都合もありますでしょうし、例えば、東京の弁護士がそこの相談をしているというような場合には、多分地元の弁護士に回すというようなことをするのだと思います。それから、各自治体、多分、自治体が多いと思うのですが、協議会、講演、これは一般市民に対するもの、シンポジウム、研究会ですね。こういうようなものを開催して、一般市民に対する法的な知識に関する啓蒙などを行っているというわけであります。
17ページに参ります。これは全国的なことでありますけれども、弁護士会の方が、法律相談事業に関してどういうところと提携しているかということであります。これは真ん中に弁護士会がありまして、丸の大きさにかなり違いがありますけれども、この大小は、量と比例していると考えていただきたいと思います。今回も、例えば、司法制度改革審議会の意見書などにも、それから今様々出てきているリーガル・サービス・センター構想の中にも、自治体とのネットワークということが言われておりますけれども、弁護士会は、早くから自治体と相談事業に関しての提携を行っております。自治体から費用をいただく形で、自治体の、例えば、私ですと札幌市役所の本庁でありますとか、区が7つか8つありますけれども、そこの各区役所に行きまして、弁護士が本庁につきましては毎日行っております。それから、各区につきましては毎週1回というような形で出向いておりまして、自治体との提携は、かなり緊密に行われているところでございます。それから法律扶助協会、これは御存じのとおりであります。それから日弁連の交通事故センター、これも御存じのとおりであります。損害保険協会に行きまして相談に乗る。商工会議所、それから社会福祉協議会、これはほとんど各地方自治体に社会福祉協議会というのがあるわけでありますけれども、自治体とはまた別に相談事業をやっておりまして、そこにも出向いて仕事をやっております。それから、郵便貯金の関係で、暮らしの相談センターがございまして、これについても相談に乗っています。郵便貯金の暮らしの相談センターにつきましては、ちょっと方針が変わりまして、相談以外のものが出てくるかもしれませんけれども、今年で打ち切りになるようであります。現在までは、そういうところと提携をしてきたというところであります。
次に18ページであります。これは、今の表と同じような無料法律相談の件数がどれぐらいあるのかということで挙げられております。そこに書いてありますけれども、各件数について不明としている、要するに統計が取れていないところがありまして、これはグラフに反映されていません。先ほど申し上げましたけれども、ここに出ていない数字というのは、かなり膨大なものがあるだろうと思われますが、少なくとも、数字に表われているだけでも、例えば自治体では14万件ということであります。法律扶助協会も、そこに書かれているような件数をこなしているということでございます。
19ページでございます。自治体における法律相談実施状況であります。都道府県・市区町村の実態でありますけれども、都道府県と市区町村に分けまして、これが2001年、一昨年のデータに基づいていますけれども、都道府県では、実施しているところが45%、実施していないところが55%です。これは、都道府県が主催してやっている相談ということであります。ですから、都道府県自体としては、やっていないところも結構多いということになります。例えば、北海道などでは、北海道の道庁の方で交通事故に関する相談をやっているというのが実際であります。それから、次に市区町村でありますけれども、実施しているというところは44%、実施していないというところが54%、回答率がちょっと低いですけれども、そういう状況です。多分、これは実態をかなり反映しているとは思いますけれども、そういうことであります。例えば、私の出身地の比布町では多分実施しておりません。そういうところに弁護士会の方から、おたくで法律相談を実施しませんかというようなことを声をかけることはよくあるのですが、実際は断わられることが多い。そういう町ですと、余り法律的な紛争がない。実際は、全国の市町村にくまなく相談センターが必要とか、弁護士が必要とかと思われるかもしれませんが、やはり小さなところについては多分要らない。ただ、その市町村のブロック化したような、中核的な市町村にそういうものができれば、多分カバーできるだろうと考えます。
20ページであります。地域特有の提携先の例であります。これは、大阪弁護士会、札幌弁護士会、横浜弁護士会、奈良弁護士会、金沢弁護士会、熊本弁護士会、大きなところもありますし、中核的なところを挙げておりますが、大阪弁護士会を挙げていきますと、大阪国際交流センター、大阪市都市型産業振興センター、大阪市母と子の共励会、近畿管区行政監察局、吹田市施設管理公社、茨木農協、高槻市立障害者福祉センター、大阪住まい情報センターというようなところと提携しています。札幌弁護士会の例を言いますと、交通事故紛争処理センター、北海道建築指導センター、北海道行政評価局などと提携しています。あとは逐一挙げませんけれども、ここに出ていますのを見ますと、多分、その地域地域の特色に応じたところ、そこに応じたニーズと言いましょうか、それに応じて提携しているということが言えるのではないかと思われます。
次は、当番弁護士制度の運用状況について申し上げたいと思います。当番弁護士というのは、制度としては法律相談事業とは違うわけでありますけれども、ほとんどの単位会では、この当番弁護士制度の実際の運用に当たっていますのは、相談センターの職員が兼ねているというところであります。この説明を申し上げますと、当番弁護士という制度ができましてから約11年か12年経つと思います。当番弁護士の受付件数というのは鰻登りになってきているわけですけれども、21ページをちょっと見ていただきますと、1993年から2001年までの表であります。グレーで書かれておりますのが勾留件数、受付件数というのは、その中で依頼を受けたと言いましょうか、当番弁護士として来てほしいと言われたのが受付件数であります。それで、受付率というのは、勾留件数の中で受付の割合がどの程度かということを書いたのがパーセンテージでありまして、勾留件数も受付件数もどんどん上がっていって、なおかつ受付率も上がっているということはおわかりいただけると思います。今度、国費によって被疑者に対して弁護士を付けるということが実施された場合には、この受付件数というのがぐんと上がってくるということが言われていまして、それに対応するには、弁護士の数がどうしても場所によっては足りなくなるのではないかということが予想されます。
22ページに参ります。当番弁護士受任件数の推移でありますけれども、これを見るとおわかりになりますとおり、今の表と連動するわけでありますけれども、このように、年々受任件数が増えている状況にあります。2002年度は、1万件を超えていくだろうと思われます。
23ページであります。被疑者弁護援助・少年保護事件付添扶助件数の推移であります。これは、被疑者弁護に当番で出向きますと、無資力者につきましては、それについて弁護費用を援助するわけでありますけれども、その援助件数というのが、やはりこのように、要するに受付件数が増えるのと同じような形で援助件数も増えています。それは、少年付添についても全く同じであります。
24ページであります。当番弁護士制度というのは、公的資金は全く入っておりません。これは弁護士会、法律扶助協会が独自に行っている制度でありまして、これについては、先ほどもちょっと言ったかもしれませんが、すべて日弁連が持ち出しで行っている事業であります。その当番弁護士制度の費用の問題でありますけれども、初回の接見費用、これは1万円。それから、初回接見の通訳費用、これはちょっと時間等によって違いますけれども、一定程度の謝礼はしています。それから、刑事被疑者弁護援護費用、それから少年保護事件付添費用、この当番の制度というは、起訴された後のことはありませんで、逮捕されましてから起訴されるまでの間の私選弁護のことでありまして、その費用がこのような費目になるわけであります。その費目につきましては、弁護士会、法律扶助協会、日弁連というところから資金を出しまして手当てをしているということになります。日弁連では、当番弁護士等緊急財政基金というのをつくりまして、それからやっております。下に書いてありますとおり、平成14年4月以降は、1会員あたり4,200円の負担をしているという、そういう負担の中で、それに1万9,000人の弁護士数がいますので、かけ算していただくと数字がわかると思いますが、そういうお金を日弁連では支弁しています。それから、各弁護士会では、別途また手当てをしております。それから、法律扶助協会からも支援をいただきまして、その中で、当番弁護士、逮捕されてから起訴されるまでの間の弁護士に対する費用を手当てしているということになるわけです。大体その費用というのは、多分単位会によりまして数字が違うかもしれませんが、8万円から10万円ぐらいと考えられます。札幌弁護士会では、その段階での弁護士費用は10万円であります。御存じのとおり、国選の費用というのは、地裁の場合に8万円ぐらいでして、ですから、現在、札幌ですと、当番弁護士と、それに引き継いでの国選、これは連動するようなシステムになっておりますけれども、それを行った場合の弁護士に対する受任から終結までの費用というのは、大体18万円程度と思われます。
25ページであります。初回接見と通訳費用、初回接見というのは一番最初の接見だけであります。それに使っている費用というのがこの年度のとおりで、93年から始まっているわけでありますけれども、2001年では4億円というような数字で、鰻登りに増えてきておりまして、これに要する費用を、今、当番弁護士の皆さんから会費負担をしていただいているわけでありますけれども、なかなか頭の痛いところであるということで、公的援助が早く望まれるというところであります。
26ページであります。財源別被疑者援助・少年付添費用、これは先ほど見た表と連動するわけでありますけれども、例えば、2001年の全体の費用というのが、7億2,307万円かかっています。その中で、法律扶助協会の本部、法律扶助協会というのは民事とお考えになっているかもしれませんが、刑事の方の扶助も行っておりまして、法律扶助協会と日弁連、弁護士会が、このような割合で費用を負担しているということになります。
27ページを御覧ください。これは当番弁護士等の活動にかかる費用総額と財源の内訳でありまして、現在までにどれだけのお金を出してきたかと申しますと、2001年までの間に、9年間で累計額で52億円、これはほとんど日弁連なんです。法律扶助協会も負担はしておりますけれども、そのほとんどの38億円強は日弁連か弁護士会が負担しているという状況にありまして、今後もこのような数字はどんどん増えていくだろうという具合に考えております。御存じのとおり、法律扶助の方の予算が頭打ちになっておりまして、そういう点で、これについての公費の負担が望まれるというところであります。
以上のとおりの実績であります。今回、リーガル・サービス・センター構想というのが、昨年の11月4日に朝日新聞で突然報道されてから、様々それについての報道がなされているわけでありますが、司法制度改革審議会の意見書にも書かれていますし、それから最近の小泉総理大臣の御発言などを見ますと、リーガル・サービス・センター構想、司法ネットについての具体的な構想が練られている様子でありますけれども、我々としましては、この問題に関しましても、弁護士会と非常に深く関わる問題等が挙げられているものですから、前向きに検討したいと考えておりますので、よろしく御理解いただきたいと思います。
以上で、私の御説明を終わらせたいと思います。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 細かい点だけですが、岩本副会長の説明と多少ニュアンスが違うというか、別の意味があるというようなところを御説明したいと思っています。
まず、6ページを御覧いただきたいと思います。全国における有料・無料法律相談の件数の推移という形で棒グラフが出されております。この有料相談の黄色の部分については、これは、各弁護士会の法律相談センターにおける有料相談の数ということでカウントされております。この数については、概ねこれで正しいかなというところでございますが、無料相談については、自治体との提携とか、その他、各種団体に弁護士会が会員を派遣しての相談ということになりますので、具体的な件数がそれぞれどのぐらい行われていたかというような報告がないものがかなりあります。したがいまして、これは暗数部分が非常に多いというように私どもは見ております。この何倍かの件数が、あるいは十何倍かの件数が、無料相談として弁護士が関与して行われたと考えております。ただ、件数の報告がないので、数字としては挙げられないということです。
次に7ページですが、事件受任件数ということで、これについても弁護士会の法律相談センターで統計を取ったというところで、こういう報告がなされておりますが、弁護士が相談をして直ちに受任すれば、受任という報告がありますけれども、その後に受任したとか、受任予定とか、継続相談になってその後に受任したという件数はかなりあると、その場では受任に至らないけれども、結果としては受任したというのはかなりあると思いますので、これはその一部という数字でお考えいただいて、実際にはもっとたくさんの件数が受任されていると見ています。
次に8ページでございます。平成11年度は非常に額が少なくなっていますが、これは、ひまわり基金は平成12年の1月1日から発足いたしましたので、3か月間の統計だけということになりましたので、これは非常に少ないということになっておりまして、平成12年度、13年度は、具体的にフルタイムで12か月という形で統計されております。大体2億円ぐらいの収入があって、それを回しているということでありまして、平成14年度見込みで、大体1年間に入ってくるものと出るものがここで逆転するということで、来年度は、今までの蓄積を放出していく時期に入ったと考えています。
9ページでございますが、一般会計における日弁連の支出ということですが、これにはひまわり基金の支出は入っておりません。それ以外で支出している部分とお考えください。
11ページですが、これはもう岩本副会長の説明どおりですけれども、日弁連の目標としては、本年度中に20か所の公設事務所の設置というのを目標にして活動して参りまして、ここで挙げている公設事務所というのは、弁護士の常駐型公設事務所だけということになっておりますが、この関係で、ほかのところにも出てきておりますけれども、常駐型以外に、法律相談センター拡充型という公設事務所が、実は3か所ございます。弁護士がグループを組んで、少数の弁護士が週に2日ないし3日、現地に泊まりがけで行って、事件順に相談、当番弁護士、国選等をこなしてくるという形の公設事務所がございます。これが3か所ございますので、本年度少し超えた段階で、20か所の目標を全部達成することになりますので、次の段階ということで、今度はゼロワンの両方ともつぶすということで、1か所のゼロワンの地域に複数の事務所をつくっていくという活動に入ることを予定しています。この試算によると、あと81か所ということになっております。なお、先ほど岩本副会長の説明にもありましたとおり、既に弁護士会間で協定ができていて、弁護士の応募があればすぐに開設できるというのがかなりの数に上っております。この弁護士については、主に大都会の東京ですが、事務所で2〜3年、あるいは1〜2年養成して過疎地に送り出すというシステムを既に稼働させております。1年ないし2年後には派遣できるという弁護士を1年間に10名以上、これは既に養成が始まっておりますので、この拡大をしていくと十分に対応できると考えております。
次に12ページを御覧いただきたいと思います。大都市会ということで、東京三会の法律相談センターとなっておりまして、霞ヶ関のセンターということになっておりますし、中規模会については名古屋の相談センター、兵庫については神戸相談所、青森については十和田ということになっています。それぞれ、ここだけでやっているということではありませんので、地域をかぶっているところ、例えば、東京の23区内については、霞ヶ関ではクレサラの相談、多重債務者の相談、家事事件の相談は、別の専門相談所にすべて送っておりますので、ここの1,800件というのは、それ以外の相談ということになります。
13ページの石見の法律相談センターですが、ここがどうして無料かということですが、ここの運営については、日弁連のひまわり基金と、島根県、それから各管轄内の市町村が、補助金という形で全面的なバックアップをして、無料相談が実現しているということになります。同じ石見のセンターで、16ページでございますが、テレビ電話会議システムによる相談です。これは、常にテレビ電話会議システムが設置されているということではなくて、石見法律相談センターで希望があった場合に、テレビ電話会議のシステムを郵送とか宅配便で送って設置してもらってそこでやるということですので、まだまだ数としては上がってきておりません。ほかのセンターでは、常設のテレビ電話会議システムによる相談というのも、既に始まっているというところです。
18ページですが、提携先による無料相談、これは岩本副会長が初めの方にお話ししましたように、委託事業でございますので、委託先でどういう相談が何件行われてきたかということの報告がないことが大半ということですので、ここで出ている数というのは、あくまでも弁護士会が把握しているだけということで、かなり少ない割合しか把握していません。
私の方からは以上です。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 資料3-3についての説明をさせていただいてよろしいでしょうか。
【高橋座長】 どうぞ。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 資料3-3に「地域司法計画シンポジウム報告書」というものがありまして、これは、シンポジウムが1月18日に行われました。中身については詳しいことは申し上げませんが、地域司法計画というのは、よく地域医療計画というものがありますが、無医村とか、ああいうブロックで医療体制をどう組むかと、それの司法版と考えていただければと思います。この中で見ていただきたいのは、46ページだけ見ていただきたいと思います。この真ん中付近に「第3 全国の地域司法計画から見えてくるわが国の司法の現状」として「司法インフラの不足」という項目がありまして、そこに4つ挙げられておりまして、その点だけ申し上げたいと思います。まず、第1番目が地裁の人的容量の不足、2番目が地裁支部・家裁・簡裁・検察庁・少年鑑別所等のインフラの底知れぬ不足、3番目が深刻な弁護士過疎の現状、4番目が、しかしながら確実に機能し始めた弁護士会による司法アクセスシステムの姿、これは今、御説明申し上げたところであります。例えば、2番目に地裁支部・家裁のことが書いてございますけれども、北海道の浦河支部というところは、月に1回しか法廷が開かれません。月に1回、しかも2日間しか開かれない。それから、私が先日行ってきました根室は、公設事務所がありますが、そこも月に2回しか地裁の法廷が開かれない。2日間ずつ4日という状態であります。ですから、勿論弁護士の不足ということもありますが、やはり裁判官、検察官の不足ということも併せて、この際いろいろ考えていかなければならないということだけは御了解いただきたいと思います。
【高橋座長】 どうもありがとうございました。それでは、ただ今説明いただいたことを含めて、質問なり御意見なりお願いいたします。西川委員どうぞ。
【西川委員】 今の御丁寧な御説明をお伺いいたしまして、弁護士会は大変な御努力と、それから金銭面を含む善意と言いますか、そういうことで取り組んでおられるということに強い感銘を受けたわけでございますけれども、質問が2点ぐらいあります。
まず1点目は、このような各弁護士による善意によってなされているというのは、諸外国でも一般的なことなのかどうか、日本特有のことなのかどうかということを教えていただきたいということでございます。
2点目は、公設事務所ですが、これは、本来ニーズがあれば、弁護士さんが自分の儲けと言っていいのか、利益と言っていいのか、本来出ていくところでしょうが、利益が出ないから、ということは法的なサービスのニーズがないからそもそも置かれていないのか、ニーズが非常にあるのだけれどもないのか。ニーズがないのに事務所がないというのは、やはり法曹人口の少なさによるのか。逆に言うと、今度の法曹人口の拡大によって、日本弁護士連合会等がこのような御努力をしなくとも、必然的に過疎、ゼロワン問題というのは解消されていく問題だという御認識を持たれているのか、それを少しお教えいただければと思います。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 諸外国の例というのは、どうなっているかわかりません。この場ではお答えしかねますので、宿題とさせていただきたいと思います。
2つ目の御質問ですけれども、この点につきましては、まず、ニーズがあるかないかの問題でありますけれども、このニーズは非常にありまして、公設事務所は現在までに13か所、今回14か所になったわけですが、一部の例外を除きまして、そのほとんどは、事務所としては黒字であります。経費を出しましても、弁護士として十分に暮らしていけるだけの収入があることは間違いありません。まずニーズもありますし、そこへ行って、その弁護士がそれなりの生活をしていくという十分な基盤があるということは言えます。そこで、なぜ、弁護士がそういうところへ行かないのだろうかということでありますけれども、これは、まず人数が足りないということも1つはあると思います。もう1つは、お医者さんは年間7,000〜8,000人ぐらい毎年生まれているかと思いますけれども、それだけ生まれていながらも、例えば北海道の片田舎に行きますと、お医者さんがいないという町村がたくさんあります。いわゆる無医村です。それはなぜなのかということはいろいろ言われていますが、多分家庭の問題だとか、生活レベルの問題だとか、様々な問題があるかと思います。やはり弁護士につきましても、同じような問題があるのではないかと思われます。全く同じとは言えないかもしれませんが、多分、かなりの部分が重なるのではないかと思います。したがいまして、お尋ねの、例えば法曹人口が圧倒的に増える、それは大部分を弁護士が占めるわけですから、その弁護士が増えたことによって過疎偏在の問題が解消できるかと言われましたら、それは直ちにできるということは言えません。ただ、かなりの部分で、そういうことによる効果は出てくるだろうと思います。と言うのは、例えば、東京には、9,000人でしたか、日本の弁護士の半数近くがおりまして、これは多分飽和状態に近付きつつあると、特殊な分野は別ですけれども、一般の弁護士はそのうち飽和的な状況になるだろうと、そうなると、自ずから各地方へ拡散していくと言いましょうか、そういうことが予想されますけれども、だからと言って、今我々が懸念しているような過疎偏在が、そのことによって直ちに解消されていくということは、即は言えないだろうと思います。であればどうするかと言うと、やはり、我々自身のその問題に対する認識を深めて、その場へ行って一般市民のニーズに応えようという意識、決意と言いましょうか、そういうものを我々自身が持たなければいけないだろうと。そしてまた、そういう覚悟とか認識というものを持った若い弁護士は、最近ですけれども続々と生まれてきていると思われます。
【日本弁護士連合会(林弁護士】 補足して御説明しますが、各地の公設事務所の運営状況は、極めて順調、と言うよりは、それを少し通り越しまして、仕事が多過ぎてやり切れないというのが実情です。例えば五所川原などは、もうパンク状態までいったこともあります。いろいろ対処はしておりますけれども、当地の弁護士によりますと、あと3つ、4つ事務所があっても十分にやっていける地域であるということです。これは少し象徴的なところではございますが、どこでも同じような状況、法律相談も、すぐには入らないというのが一般的です。したがいまして、ニーズがないということは絶対にないと思います。では、なぜ弁護士が行かないかと言いますと、先ほどの生活面というお話ですが、弁護士過疎地というのは、ほとんど例外なく、人口においての過疎地です。したがって、産業もかなり疲弊しているというか、衰退しているところが多くあります。そういう面で、まず生活がしずらいということ、それから、弁護士の業務としての仲間がいないということと、裁判所の開廷日も少ない、月に1回とか2回、紋別なんかは勿論1回ですね。常駐している裁判官もいないと、簡裁の裁判官程度ということですから、仕事が非常にやりずらいということがありまして、なかなか弁護士がそこに行けないということだと思います。実は、もう一つ、弁護士の意識として、弁護士がいないから多分そこへ行っても仕事がないんだろうと思っていたのが正直なところだと思います。そういうものではないと、弁護士が行きさえすれば需要はあるんだということを証明するという意味もあって、公設事務所というものを展開してきたということでございます。それから、これからのことですけれども、先ほど少しお話ししました協力事務所という案、過疎地に行ってもよいという弁護士を雇用して、1年から3年ぐらい研修をした上で送り出すという制度です。これに対して、修習生でやってもいいというような意見も非常に多い。そういう問い合わせとか、実際に応募してくる数が年々増えてきております。ですから、若い方々が、一度は過疎地に行って、すべての業務ができる弁護士になってスキルアップして帰りたいと、なかなか定着したいという方は少ない、こういう傾向にあります。したがって、弁護士の数が増えてきたからといって、必ず過疎地が解消するとは、今のところは見えないというのが正直なところです。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 根室の公設事務所の開設式が3月7日にありましたが、根室では大歓迎でありまして、50年間待っていたと、要するに50年前には弁護士はいたのだそうですけれども、半世紀振りに29歳の若々しい弁護士が来たということで、市長、議長、町長、商工会議所というお偉方がずらりと揃うような歓迎会がありまして、大変なものでありました。今、根室管内では一番の知名度がありまして、市長選挙に出たら当選するのではないかと、これは冗談でありますが、まだ本人が行っていないのに新聞に何回も出ていますので、顔もお名前も覚えられているということで、ちょっと匿名性を保てないという辛さは多分ありますでしょうね、どこを歩いていてもあの先生だと言われてしまいますから。もう1つ言えることは、いろんな地方がありますが、1つできましたらもう1つないと、1人行ってしまうと、もう1人の方が行けないんです。複数が必要だということです。1つの事件は、常に相手方がいますから2件分なんです。それで必要だということ。これはよく下世話で言われるんですが、飲み屋さんは一軒屋だとはやらないそうです。2〜3軒ある方が入りやすいと。法律事務所もそんなところがあるのかなと、これは冗談の世界ですけれども。ですから1つではだめなんだと、ですから我々はゼロワンということを言って、2つ要るのではないかということを前から言っているところであります。
【飛田委員】 ただ今の御説明をお伺いしまして、一生懸命日弁連さんが努力をしておられるということを拝聴させていただいたわけなんですけれども、疑問として1つ浮かんでまいりましたのが、20ページ以下に、地域によりまして、提携しているという事例が3つほど挙げられているんですが、これらの事例や、その他の地域でもよろしいんですが、その提携先との関係ですが、どのような形で保たれていらっしゃるんでしょうか。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 費用のことですか。
【飛田委員】 費用と言いましょうか、いろいろなことなんですが、例えば、それぞれが専門的な分野を、大阪の例で申し上げますと、母と子の共励会というのがありましたり、農協がありましたり、いろいろ挙がっておりますが、これは、そこのところへ出向かれて、弁護士さんが相談に応じるという形なんでしょうか。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 それは多分そうですね。こういうところは、まず、相手方の方から我々の方に、相談の手続をするので手伝ってほしいという申入れがあります。そうしますと、我々としては常に積極的に対応しますので、それに対応しますし、その相談をする場所というのは、相手方の建物になると思います。そして、相手の方で費用についても負担していただくということになると思います。多分、相談自体は、ユーザーの方には無料で、我々に対しては、主宰者の方から日当をいただくという形になります。
【飛田委員】 いろいろそれぞれの提携先には特色があると思われますので、そういう意味での専門的な相談というのはお受けになっていらっしゃるんでしょうか。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 それも地域によってあるかと思われますけれども、ここに書いてありませんけれども、例えば、消費者センターとかは各自治体にありますが、そういうところにはすべて行っていると思います。ですから、そういう一般的に押し並べてありそうなところは除いていまして、特色のあるものをここで挙げているということになります。
【飛田委員】 そこで取り扱われたものについて、解決するためにどこかその先の専門機関に取り継がれるというようなことはないんでしょうか。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 常に相談をやるということは、割振りの問題があるわけですから、自分たちのマターと言いますか、事柄と、そうではなくて別なところへというのは、我々は大体わかりますので、きれいに割り振っていくという作業をやっております。ですから、今、リーガル・サービス・センターが、リーガル・サービスの窓口として構想されていますが、その作業は万全とは言えませんけれども、一定程度、我々なりにやっているということは言えると思います。先ほど、私が札幌弁護士会で年間1万件近くの電話相談をやっていると言いましたが、あれは1件5分ぐらいなんです。お話を聞きますと、これは我々の事柄なのか、それとも今、委員がおっしゃった、別なところに回すべきことなのかというのは大体わかりますので、そのように指示しています。そういう一覧表を持ちながら、電話を受ける作業をやっているということです。
【飛田委員】 ありがとうございました。
【山本委員】 ゼロワン地域での開設のうち、0のところがかなり減って、1のところが増えているということですが、2をつくる方策というのが非常に難しいと思うんです。というのは、ファイナンスが同じところが2つあるということで、果たして利害相反問題が解消できるかという問題が出てくるのかなという気がします。弁護士法上、やはり利害相反状態は禁じていますが、そこの辺りは、各事務所をどの程度独立性を保つかというところと非常に密接な問題だと思いますが、その辺りは、今後の展望と言いますか、御工夫についてはどのように考えておられるのでしょうか。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 今、公設事務所という名前は付けてありますけれども、あくまでも弁護士法上は、個人の弁護士が経営する事務所という位置付けになっておりますし、日弁連あるいは各弁護士会は、業務の内容については一切タッチいたしません。そういう意味で、2つできる、複数になる場合でも、法律事務所は全く別と、日弁連のひまわり基金というのは、まるで紐の付いていないお金を出すということになっておりますので、弁護士の独立性は保たれるということは覚悟しているつもりですし、利害相反の問題は起きない、むしろ、1つであると利害相反の問題がありますから、その解決のために2つ目ということですから、その点は大丈夫だと思います。
ついでに言っておきますと、日弁連と個別の弁護士とが契約するわけですけれども、その中で1つだけ約束ごとがありまして、例えば、根室に行った先生がいますけれども、根室市の顧問にはならないということは決めてあります。そうしませんと、住民が根室市を相手にすることができなくなってしまいますので、勿論根室市の相談を助っ人で受けていくのは構いませんけれども、恒常的に契約を結んでしまって、ほかの人が相談できないような事態は起きないようにしてあるというように配慮しております。
【飛田委員】 19ページで、自治体における法律相談実施状況というデータをお示しいただいているんですが、この自治体の役割を、言わば肩代わりをするようなお立場でそこに加わられた場合に、よく経験いたしますことは、行政は中立だからということで、利害が相反する方たちがあった場合、そこでもう一歩踏み込みにくいような事態もあるんではないかという気がいたしまして。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 わかります、例えば私の例で言いますと、札幌市の法律相談に行きまして、そのときに札幌市を相手にするような相談を受けたときに、我々は困った事態になるんではないかということをおっしゃっていますか。
【飛田委員】 市だけではなく、何かトラブルがあった場合に必ず対立することがありますね、そういう関係で。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 同じ1つの相談所で派遣されていまして、一方当事者から相談を受けたと、その日ではなくて、次の週に行ったら、今度は相手方から受けたときに相談ができなくなるんではないかということですか。
【飛田委員】 当事者が2名そこに時差があってお見えになるという場合もあると思いますが、アドバイスされるときに、自分の意見を出しにくいという状況はないんでしょうか。行政の委託を受けている場合に。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 わかりました。我々は、委託を受けているというよりは、相談業務そのもの、法律相談をするという委託は受けていますけれども、彼らの意を体しているわけでは全然ないんです。ですから、どんな相談を受けるかについては、自治体の方では全く関知しておりません。全くフリーなんです。彼らは行政サービスの一環として法律相談業務をやっているわけであって、我々がその相談の中でどんなことをやろうが関知しないという形になっております。独立しております。そういう御心配はまずありません。
もう1つ、同じ問題について、AさんとBさんから時間差で相談を受けた場合のことを申し上げます。Aさんから相談を受けまして、次に、翌日にBさんから相談を受けたときに、我々は、ちょっと聞いていますと、これはあの問題だとわかりますので、Bさんには申し訳ないけれども、Aさんの相談が先に来ているのでお断わりするという形になるわけです。ですから、例えば、根室の先生のところにAさんが先に行ってしまうと、Bさんはその先生には頼めなくなります。ですから、やはり大きな問題が起きたときに、1人の先生ではだめなんです。
【亀井委員】 先ほど西川委員からありました御質問について申し上げます。私も、法律扶助の調査で、外国の弁護士会の実情というのをかなり調査に行っていますけれども、弁護士会が、法律相談事業とか当番弁護士を自費でやっているという例はどこもなかったと思います。弁護士会というのは、どこの国でも、ヨーロッパへ行っても、フランスでもドイツでも、私はつい最近見てきましたけれども、大変小さい建物で、普通の家を使っています。そこで何をやっているかと言うと、弁護士の登録と懲戒をやっているというのが弁護士会の実情です。だから、日本の弁護士会は、市民が大勢押しかけて、いつも右往左往しているという状況があるわけですけれども、ヨーロッパの弁護士会に行くと、建物も小さいし、2〜3人の職員が静かにいるというだけで、弁護士もほとんどいませんし、市民の姿もいないというのが実情だと思います。ただ、どこがそれをやっているのかと言うと、この前に長谷部委員がここでお話を若干していただきましたけれども、イギリスでは、CABといういわゆる市民相談所というのが全国に1,200ぐらいあるようですが、そこで市民相談員が約600万件の相談をしているという、そういうボランティア活動で、いわゆる法律相談と言わないのではないかとお思いますが、多分相談という形で、まず最初の振分けをやっているのではないかという感じがしております。そういう意味では、日本では、いわゆる法律相談というのは弁護士だけで、今後は司法書士が加わるということがあるかと思いますが、そのほかは、一般的には消費者生活センターなどはやっていますけれども、弁護士はそこにはほとんど加わっていないという実情ではないかという気もしますが、いずれにしても、日本のように、自分の費用をかけていろいろな活動をやっているというところは、外国ではまずないのではないかと思います。
【山本委員】 ヨーロッパ大陸で、日本と同じような規模で、弁護士自治が認められていて、弁護士会がすごく大きな財源を持っているというところは、恐らくないのだろうと思います。やはりこれは、戦後、アメリカをモデルにして、日本で弁護士会制度をつくったということと密接に絡む問題で、余り欧州大陸と日本を比較しても、この問題については意味がないと思います。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 少なくとも、ゼロワン地域についての複数の公設事務所設置というのは、近い将来、長くても3年以内には解消したいということで、日弁連のこの春の総会では決議をしていただこうということで準備は進めています。また、独立簡裁は少し規模が小さくなりますけれども、弁護士がいないという地域については同じ問題ですので、これについても、今のところの目標としては、可能な限りという表現になっていますけれども、今度は少し表現を変えて、必要な箇所においての独立簡裁のゼロワンについては公設事務所をつくっていくという形で、あるいは法律相談センターをつくっていくという形にしていきたいと考えております。
【西川委員】 公設事務所の問題というのは、弁護士事務所の法人化というのが認められた中で、そういうことになってくると、自分の法人の事業所に雇っている弁護士の方をキャリアパスと言いますか、支店をいろいろ設けておいて、あなたは根室で2年間やって、次はどこそこでという中でも自発的にと言いますか、そもそもそれが先ほどの話でペイになるのであって、ただ生活環境の問題で長期いるということは難しいことになると、ひょっとすると、ほうっておいても、需要がある限りはそういうようになっていくということでしょうか。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 まだその流れはありません。
【西川委員】 そこまではまだ行かないですか。やはり、日本弁護士連合会が積極的にやっていかないとということですか。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 むしろ日弁連の方で、都市型公設というのを法人化してつくって、過疎地に支店をつくっていく、あるいは、高裁所在地に法人の公設事務所をつくって、管内の過疎地に支店を設けていくという形で公設事務所を運営していくと、要するに、派遣する弁護士をどう確保するか、どう養成するかという問題に最終的には突き当たります。今でも突き当たっています。もうそこまで来ていますので、そういう形で法人化というのを利用していくというのは、これから進めて、こちらも進めていくつもりですし、そういう流れがある。むしろ、協力してくれる一般の大都会の事業所を法人化して、そういう人材の養成、派遣というのをしていただくと、メニューとしてはいろんな形が整えられていくのではないかと考えております。
【高橋座長】 私は、さっきから15ページの法律相談の内訳というのを見ていて、これをどう考えるのかなと思っているのですが、これは、例えば、東京三会の法律相談も大体こんなような割合になるのですか、それともやはり違うのですか。
【亀井委員】 東京はクレサラが一番多いでしょう。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 金銭関係の相談が、全体の半数より少し切るぐらいで、ほかのすべての相談で、今、これは社会状況を反映しているので、それが常にそうかとは言えませんが、今はそういう状態です。その他の分野で家事関係が1位を占めるというのは、法律扶助協会の相談も含めて同じ傾向です。あと、その他不動産というものが入ってくるという順番になると思います。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 家事というのは、離婚が相当多いと思います。離婚と相続だと思います。
【山本委員】 資料3-3の46ページのところで、開廷日が少ないことが云々という話をされていましたが、これは、どちらが鶏でどちらが卵かという感じもしなくはなくて、弁護士さんがいて事件が増えれば、裁判所としては、1人でその開廷日だけでは処理し切れなければ当然増やさざるを得ないということになるので、これは余り理由としては説得力がなくて、むしろ弁護士さんたちが、これだけの訴訟事件がやられるようなニーズがあるのだということを示していくということの方が、私は戦略的には説得力があるのではないかという気がするのですが。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 そういう側面もあるかと思います。例えば、浦河の件などを見ますと、ほとんどの事件は、札幌の弁護士が浦河まで行っているんです。片道3時間以上かかります。それで丸一日かかって行きまして、なるべく我々としましては、そういう手間暇をかけるのは大変ですから、本庁でやるように努力しているんですが、今、委員がおっしゃったような側面は確かにあると思います。ただ、我々としましても、例えば今日行きますと、次の期日が来月の今日だとしますと、そうすると、もし私が差し支えの場合がありますと、もう2か月先になってしまうという事態が非常に多いものですから、例えば毎週、少なくとも週に1回ぐらいやっていただいていますと、今、裁判の迅速化の問題が別のところで論じられていますが、その迅速化にも寄与するのではないかと思います。
【亀井委員】 資料3-1の18ページですが、法律扶助協会の相談件数が、ちょっとこれは少なくて、この3万何がしというのは、日本財団のお金でやっている無料サービスで、そのほかに、国庫補助金の無料相談が5万件あります。日本財団の資金の相談が約3万件、国庫補助金による無料相談が約5万件で、合計すると約8万件あります。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 それでは訂正しておきます。先ほどの9ページと今の18ページにつきましては、正しいものを後でお届けします。申し訳ありません。商工会議所が690件とか、社会福祉協議会が6,418件というのも、把握しているものということです。ほかもみんな同じだと思いますす。
【藤原委員】 ちょっと確認のための質問でございますけれども、先ほど、どうしてこのような地域に弁護士の方が行きたがらないかというお話があって、その中の1つに、先ほどおっしゃった、法廷が開かれる日が少なくて仕事がしずらいというお話があったんですけれども、そういう状況があっても、なおかつ、設置されたセンター等は黒字で運営はできるわけですか。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 そうなんです。
【藤原委員】 ということは、裁判にならない紛争において、十分に弁護士が生活を支えることができるということですか。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 そうですね。勿論、裁判所にも行っていますけれども、弁護士の活動というのは、御存じかどうかわかりませんが、裁判以外で、例えば代理人になりまして、相手方と交渉して解決していく事案が、多分半分以上あるのではないかと思われます。
【藤原委員】 その場合は、もう少し地域を隔てた形で、そこに定住しなくても、遠隔相談と言いますか、そういうものは当然今でもやっていらっしゃるとは思うんですけれども、その可能性が相当高いということですか。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 高いですけれども、先ほど医療の問題が出ましたので、我々は依頼者と電話だけで会いましても、その方の本当の気持ちというのをくみ取ることができません。患者さんに聴診器を当てますが、それと同じ作業で、我々は直接、同じ空気を吸いながらお話ししないことには、事の真実に迫れない部分があるんです。お互いにいろいろと、特に依頼者の方というのは、本当のことをなかなか言いませんから、自分の都合のいいことだけおっしゃるんです。我々は、そのままの言うことを聞いたのでは大変な間違いを犯しがちなものですから、常にお会いして、言わば五感で、その方の様子を見ながら、何か隠している部分があるのであればそれを暴いて、しかもそれをその方にとって利益なものに使っていくという作業をやらなければいけないんです。それが1つです。相手方との交渉も、電話だとか手紙だけのやり取りではけんかになってしまいます。やはりお会いして、それぞれお互いの顔を見ながらお話をすることによって解決していくという作業なものですから、やはり、距離的に遠いということは、非常に問題なんだと思います。
【藤原委員】 先ほどテレビ電話会議のお話が出てきておりましたが、これはどれぐらい有効なものなんですか。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 自分の依頼者であるとか、一旦お会いしている相手というのは、電話でお話しましても、テレビ電話でやりましても、これは非常にスムーズに行くんです。一度もお会いしていない方というのは、非常に問題です。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 テレビ電話会議を使った相談というのは、例えば、今度公設事務所ができる鳥取県の倉吉ですが、そこで月の4回のうち2回ぐらいを、米子と鳥取でしたか、ほかのところの弁護士がやるということで、実際にやっているそうです。様子を聞きますと、まだテレビの映りや、動く速度が遅いとかありますけれども、例えば、書面なんかはファクスで実際に見らるようにしているという工夫はしています。弁護士の方も、テレビ電話会議というのは弁護士会の会議等で使っていますので、かなり慣れてきておりますし、利用者がどうかという調査をしたら、余り抵抗感もなく相談が進められるというような結果が出ているそうです。ただ、やはりそれは相談だけのことであって、これが受任ということになると、弁護士は必ずお会いします。ただ電話一本で、手紙だけで受任するということは、普通の弁護士は、特殊な事情がない限りはやらないはずです。実際にお会いして、契約書をつくってと、ですから、テレビ電話会議というようなものはやはり限界があるし、限界の中で使っていくということになると思います。
【長谷川委員】 資料3-2のマップを見ると、輪島とか、新潟とか、何かこういうものは、医療などのような人口密度とかではなくて、もっと違う歴史があって、こういうのは生まれたんですか。例えば、訴訟が少なかったとか、余りしないとか、どうしてこういうところが、医療の過疎化とは少し違うと思うんですが、いろいろその地域地域に歴史があって、こういうことになったんでしょうけれども、裁判、訴訟の歴史というのは、何か過疎化ではないような感じがするんですが、どうしてこういうところが生まれたんですか。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 余り分析もしていませんけれども、例えば、この間行った根室なんかでは、私たちが行った翌日は国道が閉鎖になっているんです。要するに、少し動きますと陸の孤島になってしまって、空港は最寄で中標津空港があるのですが、最近の気圧配置を見ますと、オホーツク海上に渦巻がたくさんできたと思いますけれども、それができると飛行機が止まってしまうんです。そういうところなものですから、大体大都会で学生生活を送るのが多いですから、大都会で育った連中が行くと怯えるのではないでしょうか。ブリザードですから、前の車のテールランプが見えないようなところが国道で、それが閉鎖になるようなところにいるというのは、かなり心細いと言うか、そういうことがあると思います。
【長谷川委員】 北海道だとそういう過疎地かなという感じがするんですが、南の方の九州とか、いろいろな地域がありますが。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 その辺になると、従前は、そういう紛争が割合少ないというか、少ないか、それともまた別な解決方法があります。いろんな村の長老とか、何かそういうシステムがあって、特段司法システムを使わなくても解決できるというのがあったのかもしれませんが、最近はどうも、やはりそういうのが崩れてきている。需要があると思います。
【長谷川委員】 必要になってくるんですね。前の社会と変わってきていますね。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 そして、今、どこの地域も、日本全国多重債務者の嵐と言いましょうか、そういう状況にありまして、それは田舎でも全く同じです。規模は小さいですけれども。
【長谷川委員】 ですから、こういう何か不思議な、掛川なんて何十万人もいるのに1人というのは不思議に思うのですが。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 これは、その近くにすぐ行けるということがあって、これはたまたま数字がそうなってしまっていますが、掛川の場合は、浜松に何十人という弁護士がいますから、そこに行ってしまうんだそうです。我々としては、少なくても埋めたいという思いがあるものですから、ここに出てきてしまうということです。
【藤原委員】 生活圏と、それから行政の敷いている線が必ずしも一致しない。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 そうなんですよ。
【藤原委員】 だから、学校なんかでも、できることなら隣の県の方へ行きたいという学生も、交通の便も生活圏も文化も言葉もそっちの方に近いというのがあちこちにありますから、そういう線引き自体が、そもそも生活実感にそぐわないという地域も少しはある。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 おっしゃるように、裁判所の支部で線を引いていますから、実際とは違うんです。
【長谷川委員】 何か地域の生活が変わってきたというのが、とても大きく読めるから。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 そうですね、この地図自体から物語られるというところはあると思います。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 私は、過疎地の支部を大分回っているんですけれども、明治以来弁護士が全然いなかったというところはないですね。何年前までおられた、何十年前までおられたというのがあるんです。そういうところがほとんどで、今まで弁護士が、日本ができてからいなかったというところには当たったことはありません。それを考えると、何人かはいた、あるいは何十人もいたところが今は1人になってしまったという、これはやはり社会の変化、産業の変化、人口の変化に伴って、交通機関も含めて変わってきた結果として、だんだん減ってきた。新しいところは入らない。残っている人はお年寄りが多いので、新しい人を送らないと、あるいは行って仕事ができるということをシステムとして確立しておかないと、こういう傾向はなくならない。
【山本委員】 今のところに関係しますが、相談を受けられたり、事件を受任されるときに、その支部の管轄区域内で完結するものと、越境的なものとがあると思うんです。割合はどの程度でしょうか。細かいことですが、結局、2必要なのは域内の場合だけですね。越境的なものであれば1つでも十分なので、その辺りの感覚はいかがでしょうか。それと、先ほど来おっしゃっているような、地域内のものは、結構ほかのメカニズムで解決されることも、少なくともかつてはあったわけですが、その辺りと少し関係する話かなと思いますが。そこまではおわかりになりませんか。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 余り管轄がどうのというより、もし受けるとするならば、自分の事業所と、その事件の管轄となる裁判所とが、どれだけ距離的、時間的に離れるかということが、まず頭にあります。もう1つは、依頼者との打合せをするために、自分がどれだけ遠いか近いか、この2つの点です。
【始関委員】 法律相談の関係ですが、一般の市民の方が来られたときは、これは法律の問題なのか、あるいは弁護士の先生の問題なのか、税理士の先生の問題なのかとか、よくわからないで持って来られると思うんです。その場合、例えば、法律相談センターでは、法律の問題と税の問題は、全部法律と言えば法律ですけれども、密接に絡まったりしているようなことがしばしばあるわけですけれども、そういう相談を受けられるときに、弁護士の先生が1人で相談を受けられると思いますが、そういう士業間のつながりと言いいますか、これは弁護士も関係するけれども税理士にも関係しますというときには、どのようにしておられるのでしょうか。と言うのは、今でも行政の方はワンストップ・サービスということが言われておりますけれども、士業についても、1つの問題を解決するのに、税理士の先生のところにも行かなければいけない、弁護士の先生のところにも行かなければいけない、公認会計士の先生のところにも行かないといけないということだと大変なので、総合的法律・経済関係事務所というものを認めてくれという話があって、関係各省庁で相談をして、そういう指針みたいなものをとりまとめたことがありますが、そういう相談を受けたときに、振分けとか、そういうことがこれから大事なのかなと思いますが、その点についてはどうでしょうか。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 そうなりますと、私個人のことしかありませんけれども、税の問題がありますね。相続税が幾らかかるかなんて典型的ですけれども、そういうことならば日常的に扱いますから、自分で粗々わかることがあります。それについてはある程度お答えする。そうではない場合には、税理士会の方でも相談のシステムがありますし、各税務署でも税務相談というものをやっていて、抽象的な事柄でも具体的な事柄でも相談に乗ってくれますので、そういうところの紹介をする。または、もっと誰か知っている方はいませんかなんて言われる場合には、私の知っている税理士さんにこういう人がいるから、もし相談するならしなさいというような形もあると思います。ただ、両方にまたがるような案件の場合には、その場で即答はできません。だけど、その場に、例えば司法書士さんがいるとか、税理士さんがいるとか、行政書士さんがいるとかであればいいんですけれども、そうでない場合には、やはり、さっき言ったように、この部分は私がやりましょう、別の部分に関しては別に御相談になってまた来ていただけませんかというような形ですね。今、少し出ているリーガル・サービス・センター構想になりましても、常時弁護士と、例えば他種業の方たちが同席しているということはかなり大変なことだと思います。費用的にもです。8割方は法律相談です。そういう看板をあげていまして、一般の方が全然畑違いのことを相談に来られるということはそんなにないんです。ただ、ほかとダブっているというのは多々ありますので、それについては今のような対応です。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 基本的にはそういうことですが、法律相談センターの場合、各所でいろいろ規模の問題がありますし、内容も充実しているかどうかという差もあります。予約制をとっているかどうかという問題もありますが、例えば、進んでいるセンターでは、予約のときに何の相談ですかということを聞いてしまう。そこで大体の内容を把握する、インテークみたいなことをしてしまって、無駄がないようにする。そういうことの相談だったらほかに行った方がいいですというようなことを窓口で行うということは、実際には行われていると思います。ただ、全部が全部というわけにはいかないというのが実情だと思います。弁護士の場合には、税務関係に強い人、弱い人がいますし、行政関係について強い人、弱い人がいますから、担当者によって差が出てきてしまう。これは仕方がないことだと思いますが、少なくとも、自分の弁護士としての法律相談という範囲では完結する、もしその相談でなければお断わりをする、有料の場合はお金をいただかない。窓口をすり抜けた場合には、これは法律相談ではありません、だから、ここへ行ってこういう相談をしたらどうですかという形が普通だと考えます。
【高橋座長】 でも将来を考えると、今、始関委員が言われたようなことも視野には入れておくことになるのでしょう。
それで、また私の関心で申し訳ありませんが、資料3-1の16ページを見ますと、石見法律相談センターではADRをしているということで、先ほど簡単な事件だとおっしゃいましたが、法律相談センターでADRまで踏み込むのは是か非かという問題がありますね。また、当番弁護士のことですが、現時点では、少なくとも、石見だと行政や刑事は少ないようですね。当番弁護士はどんどん右肩上がりですから、今後は増えるかなと。ADRと当番弁護士のことが気になります。見通しのような、将来像のようなものはどうでしょうか。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 これは、東京なんかでもやっています仲裁です。これを石見の法律相談センターにおいて、1つの営業の事業としてやっているということで、相談を受けた方で、裁判をやるよりも時間とかお金がかからないで円満な解決を望むという場合、こういうシステムがありますということで御紹介をして、利用するということになった場合には、仲裁人を決めて、それで相手方に来ていただくよう手紙を出して、両方に来ていただいて、仲裁事業をするということです。そんなに件数がたくさんあるというわけではありません。
【高橋座長】 これは大変ですよね、特に相手方に来てもらうのは大変だと、東京でも大変だということですが。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 でも、比較的、相手方出頭率は、東京でも弁護士会の場合には高いですから。
【高橋座長】 あれは、実際には仲裁までいかないですね。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 和解、示談で終わってしまう場合が多いです。
【高橋座長】 でも、法律相談センターが仮に1人でやっていたら、ADRまでやると時間がとられますよね。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 仲裁人は、また別の仲裁人を選びます。石見では、実は東京から仲裁人が行っています。
【高橋座長】 当番弁護士はどうですか。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 当番弁護士は、裁判所なり警察なりから要請があって出向くことが多いわけで、直接相談に来られる方はほとんどないと思います。電話で来るのが多いんです。行ってやってくださいと電話で言われて、その電話を受けた方と会いに行く方は別な方なんです。警察からは電話はできませんから、そういう親切な警察はありませんので、そういうことをお願いしてもなかなか難しくて。
【高橋座長】 本人が行くわけではなくて派遣するということですか。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 はい。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 石見の場合には、ほとんど公設事務所弁護士が出動していますから。
【高橋座長】 公設事務所は、今のところ、1つで1人ということですか。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 1人です。実際には、隣の浜田の支部までカバーして1人でやってるというのが実情ですので、益田の方にも公設事務所をつくるという準備は進めています。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 また根室の例ですが、例えば、中標津署に留置されたという人がいると、1時間以上、猛吹雪の中を車で行かなければならない。まさに、冬場は命懸けだと思います。それは遠ければ遠いほど危険の度合は高まります。前は、旭川の弁護士が稚内まで4時間ぐらいかけて行っていました。アイスバーンですからつるつるです。そこを命懸けで行っていましたが、今は、60近い方かと思いますが、元旭川の検事正をやっておられた方が稚内で開業されました。そのことによって、旭川の弁護士たちは、そういう危険は大分なくなりました。これは紋別も同じことです。紋別も2年前から女性の弁護士に行っていただきまして、紋別の周辺は全部やっていただけるということで、1人行くだけで、旭川の弁護士たちは大変助かるんです。今回も、釧路の弁護士が根室に行かなくてよくなったので、ものすごく喜んでいるんです。片道3時間かかるんです。往復6時間ですから、30分かそこら会うために半日以上かけて命懸けで行かなければならないという事態がなくなった。弁護士たちにとって本当にありがたい仲間です。勿論、ユーザーにとっても、言えばすぐ来てもらえるわけですから、ありがたいことなんです。
【飛田委員】 資料3-1の17ページの外部との提携で、郵貯「暮らしの相談センター」は今年度で打切りという話をお伺いしましたけれども、その先は形が変わると思いますけれども、先のお話はされておられるんですか。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 仲裁というのは、さっきのADRの話ですね、ああいう形での新たな委託というのは、まだ全国展開ではありませんが、2〜3の県から報告はなされています。「暮らしの相談センター」というのは、御存じのとおり、郵便貯金振興会が主としてやっていたものですから、これは行政としての組織外ですので、元が変わってしまったということで終わりということです。
【飛田委員】 もうおしまいなんですか。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 そういうことです。貯蓄相談だけは継続するそうです。そのほかには税務とか、お金の相談を3つか4つやっていたんですが、法律相談も含めてですが、それは全部廃止、予算が出ないということで廃止ということで、貯蓄相談だけは残すというお話を伺っています。
【飛田委員】 そうですか、何でも相談所みたいな形でかなりPRされていたようですね。そうしますと、4月以降は、少し窓口が狭まるということですね。
【日本弁護士連合会(林弁護士)】 それはそうだと思います。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 資料3-2の地図ですけれども、もしどこかに貼れるところがあれば、貼っていただければと思います。是非よろしくお願いいたします。
【高橋座長】 だんだん変えていけばいいですね。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 そうです、また追加します。楽しみにしていただければと思います。
【高橋座長】 ほかにいかがでしょうか。では、議題(1)はこの程度にいたしまして、ここで5分ぐらい休憩をいただければと思います。その後で次の議題(2)に入ります。
【日本弁護士連合会(岩本副会長)】 どうもありがとうございました。
【高橋座長】 どうもありがとうございました。
(休 憩)
【高橋座長】 それでは、弁護士報酬の敗訴者負担の方の議題に移ります。これからは、各論に傾斜して行おうということにいたしましたが、今日は、資料4ということで、日本弁護士連合会から豊富な資料をいただいておりますので、まず、日本弁護士連合会から資料の説明を伺うということから始めてよろしいでしょうか。
(「異議なし」と声あり)
【高橋座長】 では、お願いいたします。
【日本弁護士連合会(津川副会長)】 日本弁護士連合会の副会長をしております、弁護士の津川と申します。よろしくお願いいたします。隣にいますのは、補助者ということで、日本弁護士連合会の国府弁護士でございます。よろしくお願いいたします。それでは、かけさせていただきます。
ただ今岩本副会長が、西川委員に感銘を受けたと言わしめた、非常にいい役回りをしておりまして、感動していただいてありがとうございます。私も西川委員の感動したというお言葉をお聞きして、役回りは違いますが、日弁連としてありがたく思います。私も、地元に帰りますと一介の弁護士でございますので、一昨年は、やはり14〜15回、法律相談にボランティアで行きましたし、往復3時間かかるような警察署に朝6時に行って当番弁護士として接見をしたり、土曜日には3か所ぐらい当番弁護士で回ったり、そういう活動をしております。
さて、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについての日本弁護士連合会の意見を申し上げたいと思うわけですけれども、本日は資料4ということで資料をお配りさせていただいております。資料4-1が意見書でございまして、本日の配布ということになりまして遅れましたことを心からお詫び申し上げたいと思います。
この意見書の御説明をさせていただきたいと思います。まず、日弁連がこの問題について申し上げたいことは、資料4-1の意見書のとおりでございます。
最初に、弁護士報酬敗訴者負担問題について、日弁連としての基本的立場を明らかにしておきたいと考えるものです。と言いますのは、これまでの検討の中で、日弁連が司法制度改革審議会の意見書を否定するがごとき決議をしていて不満を感じるんだという御発言をいただいたりもしておりますので、そういった点の誤解を解いておく必要が是非ともあろうかと思いますので、この点について触れさせていただきます。この点については、資料4-1の意見書の記載について言えば、1ページからの第1の記載でございます。日弁連は、司法制度改革審議会が設置される以前より、市民のための司法を実現するための司法制度改革を主張して実践してきましたが、ただ今岩本副会長が紹介しましたのは、その一場面でございます。そして、司法制度改革審議会が設置された後には、市民のための司法制度改革を実現するために、司法制度改革審議会の議論に積極的に関わってきました。その結果、司法制度改革審議会は、司法制度改革の根本的な課題を、「法の精神、法の支配がこの国の血肉と化し、『この国の形』となるために、法(秩序)があまねく国家社会に浸透し、国民の日常生活において息づくようにならなければならない」としまして、そのために、「国民が利用者として容易に司法へアクセスすることができるようにしなければならない」という意見書を著しましたが、これが司法制度改革審議会意見書でございます。日弁連は、こうした司法制度改革審議会意見書に示された司法制度改革の基本理念を、それは市民のための司法制度改革に資するものであると考えまして支持し、その実現のために努力しております。そして、日弁連のこうした姿勢は、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについても何ら変わることはございません。日弁連は、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いを、こうした今次の司法制度改革、すなわち、司法制度改革審議会意見書の基本理念、根本的目的の文脈において捉えております。司法制度改革審議会意見書は、司法制度改革のためにさまざまな提言をしておりますけれども、その提言を見てみますと、意見書自身が、司法制度改革のため、一定程度具体的な制度設計までして提言しているというようなものから、一定の考え方のみを示して、具体的な制度設計自身はその後の作業に委ねているというものまでございます。この弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについては、司法制度改革審議会意見書は、その表題を「取扱い」としておりますように、基本的な考え方を示すに止め、具体的な制度設計については後の検討、まさにこの検討会の検討に委ねられていると思います。したがって、弁護士報酬の負担制度の検討に当たっては、司法制度改革審議会意見書の示す基本的な考え方、司法制度改革審議会意見書が制度設計においてよって立つ理念、制度設計の目的を正しく理解し、それに基づいて検討が行われなければならないことは言うまでもありません。そこで、司法制度改革審議会意見書の示す制度設計の理念、目的というのは何であろうかということでございますが、それは、まさに我が国の隅々まで法の支配を及ぼすために、司法アクセスを拡充させることであろうと思います。
日弁連は、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて、こうした今次の司法制度改革審議会意見書の基本理念、あるいは基本的な目的に立って、司法アクセスを拡充するための制度としてどうあるべきかという視点から、この問題を考えているわけでございます。
ただ今岩本会長も説明しましたように、日弁連は、司法アクセス拡充のため、これまで法曹人口の増大に賛成し、ボランティア的に労力を提供し、また、そのための資金を会費や特別会計という形で自ら負担し合って、弁護士過疎地域に公設事務所や法律相談センターを設置しまして、また、被疑者段階の弁護活動のための無料の当番弁護士制度を実施してきました。法律扶助協会に対しては、毎年1億1,000万円ほどを援助という形で支出してきました。
弁護士報酬敗訴者負担問題についても、全く同じく、司法アクセスを拡充したいという観点から捉えているものでありまして、決して、日弁連が弁護士業務対策的に問題を捉えているのではないことは、率直に御理解いただきたいと思います。そうでなければ、弁護士はどうであっても、国民にとっての我が国のあるべき制度論議が歪曲され、議論すべきことの本質が見失われるように思われるからであります。
このような日弁連の基本的な立場、すなわち、司法アクセス拡充のために弁護士報酬の負担者問題を検討しようという日弁連の立場は、恐らく、ここにいらっしゃいます委員の先生方のすべての方と同一で、共通の理解であり、何ら違うところはないのではないかと考えております。
そこで、これから弁護士報酬負担問題について、具体的な検討に入っていくという段階にあるわけですけれども、そうした検討において、よって立つべき基準が、ただ今申し上げたとおり、司法制度改革審議会意見書に従えば、言うまでもなく、司法アクセスの拡充であろうと思いますし、この点も、委員の先生方に一致した共通の理解であろうと思います。こういう点について述べてきましたのが、資料4-1で言いますと、「第2 審議会意見書の弁護士報酬敗訴者負担制度目的とその検討基準について」という2ページ以降の記載でございます。これは、第6回の検討会の配布資料6で、当面の検討課題というものを事務局の方で整理なさっておられますが、その1に対する答えに当たろうかと思います。
司法アクセスの拡充という論点のほかに、弁護士報酬の敗訴者負担を巡る様々な論点については、前回の検討会で詳細な御説明がありましたとおり、既に、民訴費用制度等研究会で議論され、その結果は、この点は小林参事官からは御説明がございませんでしたけれども、第1回の検討会の配布資料5として配布されました民訴費用制度等研究会の報告書の33〜34ページ、39〜40ページのとおり、いまだ立法作業には入らないという結論で一応終わっております。
なるほど、司法制度改革審議会の意見書は、「負担の公平を図る」ことを触れておりますが、「負担の公平を図って訴訟を利用しやすくする見地から」導入すべきとしており、負担の公平を図る目的も、訴訟を利用しやすくするためでございまして、あくまで、弁護士報酬負担の問題は、司法アクセスの拡充の観点から議論されているというように我々としては考えているわけです。
次に、これから個別具体的な検討に入るに当たりまして、検討の在り方について、もう1点申し上げておきたいことがございます。それは、資料4-1の意見書の7ページ以下に記載している点でございます。つまり、検討においては、導入と除外について原則と例外なく、弁護士報酬負担の在り方が検討されなければならないという点でございます。
先ほど申し上げましたように、司法制度改革審議会意見書は、訴訟を利用しやすくする見地から、司法アクセスを拡充する観点から、弁護士報酬敗訴者負担問題の取扱いを求めているわけです。司法制度改革審議会意見書は、弁護士報酬敗訴者負担制度が全面的に司法アクセスを促進する制度であるとは述べていません。そういった前提にはなっておりません。司法制度改革審議会意見書は、次のように述べています。「弁護士報酬の一部を敗訴者に負担させることが訴訟の活用を促す場合もあれば、逆に不当にこれを委縮させる場合もある。弁護士報酬の敗訴者負担制度は一律に導入すべきではない」と述べて、弁護士報酬敗訴者負担の効果について、これが「基本認識」であるとしております。そしてまた、現行が各自負担制度であることを先に述べまして、「このような基本認識に基づき、勝訴しても弁護士報酬を相手方から回収できないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者にも、その負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくする見地から、一定の要件のもとに弁護士報酬の一部を・・・敗訴者に負担させることができる制度を導入すべきである」と記述しているわけです。司法制度改革審議会の佐藤会長も、国会の答弁で、「一定の要件の下で導入する、しかし、一律には導入しませんよ。それでその範囲についてはいろいろ考えなければならない。そういう書き振りになった次第でありまして・・・」と述べておられます。こうした記述振りに鑑みれば、むしろ、各自負担制度を変更して敗訴者負担を導入すべき場合の要件を検討すべきとしているようにも理解できまして、そして、この検討に当たっては、原則例外の別なく、個別具体的に、司法アクセスを拡充するための制度として、各自負担が妥当なのか、敗訴者負担が妥当なのかが検討されなければならないと理解できるわけでありまして、日弁連としては、このことを申し上げたいと思うわけです。
なお、立法技術的観点からの議論もありますが、アメリカの例などを見ますと、各自負担を原則、例外で敗訴者負担という制度の在り方も十分あり得ると思うわけであります。
ところで、司法制度改革審議会意見書にあります、「勝訴しても弁護士報酬を相手方から回収し得ないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者」というのが、実際にどの程度存在するのかが検討されなければならないと私どもは考えます。この点については、この検討会での議論では、もうその必要はないとされる意見もあるようですが、私どもは、そうではないだろうと思っております。司法制度改革審議会は、そうしたものの存在があるかもしれないと考え、そうだとすると、司法アクセス拡充のためには、現行の各自負担制度を変えなければならないと発想しました。すなわち、そうした者の存否、そしてその存在の程度は、現行の各自負担制度を改正する必要性の立法事実そのものであります。そうした者の存在が大勢を占めるのであれば、現行の各自負担制度を改変する必要があるでしょうし、そうでなければ、各自負担の原則を変える必要はなく、司法アクセスを委縮させる場合についてのみ、例外として手当てをすれば足りるということになります。このように、そうした者の存否や程度は、弁護士報酬の負担の在り方、その制度設計を大きく左右する重要な立法事実であろうと思います。
ところが、司法制度改革審議会の審議の過程の中では、この点の客観的、あるいは科学的検討がなされた気配があるようには思われません。司法制度改革審議会意見書は、まさに問題提起をしているだけのようでございます。そうであれば、まさに、司法アクセス拡充の見地から、弁護士報酬敗訴者負担の取扱いを検討し、その制度設計をする本検討会において、司法制度改革審議会が投げかけた、「各自負担のため、訴訟を回避する当事者」の存在のあり様が検討されるべきであろうと思います。立法事実の存否が判然としないところで制度設計などなし得ないからでございます。
そこで、日弁連は、そうした者の存在について調査をしました。それが、前回の検討会の資料14-1でございます。その結果、そうした者の存在は極めて少数であり、例外的と言ってもよい程度であることがわかりました。こうした立法事実の存否に関する調査からも、検討に当たっては、原則を弁護士報酬敗訴者負担制度の導入において、例外として適用しない場合を検討するという検討の在り方が、むしろ誤りであることがおわかりいただけるのではないかと思います。現行の各自負担制度を一般的に、あるいは原則的に変更しなければならない立法事実はないのであります。
なお、この点について、少し申し上げにくいことではございますが、高橋座長は、前回の検討会において、日弁連のこの調査について、分析された方は弁護士報酬敗訴者負担制度導入に反対の立場である、日本弁護士連合会も敗訴者負担制度の導入に反対している、反対の立場の方が反対の立場の学者に書いてもらったものであるという留保をした上での調査結果であるというような発言をされました。実は、私も前回、日弁連の担当者としてこの場にいましたが、こうした言葉が出たことに深い悲しみを覚えました。この調査は、法的紛争を抱えている当事者に日頃接触する機会の多い消費者相談員の方と、全国の52単位弁護士会のうち回答のあった42単位弁護士会、したがってほとんど全国の各単位弁護士会の各法律相談センターに相談に訪れた相談者を対象に調査をしたものでありまして、この調査結果をどのように分析するか、評価するかというのは、もとより委員の先生方の自立的な御判断にお任せするのは当然でございますけれども、しかしながら、その調査結果の内容そのものは、私どもとしては、質問の仕方による回答のばらつきに配慮して、質問の仕方を2通り設定したりしまして、それによる回答の変化も分析し、また、統計学的な手法を使いまして、結果の有意性も検討しているものでありまして、調査の恣意性を排除しまして、客観性や科学性の確保に配慮したものでした。私どもとしては、こうした調査結果が、一定の偏見と言ったらいい過ぎかもしれませんけれども、そういったことで歪曲されて理解が違った方向に行くというのを心から心配をするわけでありまして、正当に理解していただきたいということを願いまして、そうしたやむを得ない気持ちから一言付け加えさせていただきました。
余分なことをいろいろ申し上げましたけれども、次に、個別具体的検討の手続の在り方についてでありますが、民訴費用制度等研究会の報告書では、「国民の一般的な意識を調査・検討する作業も不可欠であろう」としていますし、司法制度改革審議会の意見書も、「弁護士報酬の負担の在り方に関する国民の理解にも十分配慮すべきである」としており、関係者からのヒアリングが必要であると思います。ちなみに、司法制度改革推進本部には、600を超える市民団体から、弁護士報酬敗訴者負担制度の導入に反対の署名が多数届けられているようでございますし、日弁連が行っている「一般的な敗訴者負担制度」の導入への反対署名についても、去る3月7日現在で、既に約43万筆に達しており、その署名をお届けさせていただいていると思います。
そこで、具体的な検討の方法でありますが、これは、一定の類型化を図って検討することになろうかと思います。その点については、資料4-1の意見書の12ページ以下に記述しております。
どのような類型化を行うことが、その問題を検討するのに有意性があるかということですが、私どもとしては、まず、請求の性格によって分けたらどうか、つまり、行政訴訟と民事訴訟・人事訴訟とに分けて検討すべきかと思います。それは、個人や団体と行政庁という当事者のあり様や請求内容が専ら公益性に関わることという点で、私人間の訴訟で専ら私的権利利益をその直接的対象とする訴訟とは、当事者のあり様や訴訟の意義など司法アクセスを考える場合に、類型的な相違があると思われるからであります。そして更に、民事訴訟や人事訴訟につきましては、次には当事者の属性によって類型化を図る必要があるだろうと思います。なぜならば、司法制度改革審議会の意見書は、「負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくする見地」から検討すべきだとしているわけですけれども、司法制度改革審議会がそこに指摘する司法アクセスを拡充するために公平化を図るべき実質的不公平というのは、専ら、訴訟当事者間にある紛争対応能力の格差において存在するであろうと考えるからであります。
そこで、次に、こうした類型化に基づき、それぞれの類型ごとに、司法アクセスの拡充に資するかどうかを基準に弁護士報酬の負担の在り方が検討されることになるのですが、この点については、資料4-1の日弁連の意見書の13ページ以下に、その検討結果に対する日弁連の意見を記載させていただいております。これは、およそ1年をかけ、各単位弁護士会の意見や日弁連の関連委員会の意見を広く聴取してまとめたものです。
まず、行政訴訟でございますが、資料4-1の意見書の14ページ、15ページに記載しましたけれども、資料4-2の裏面を御覧いただければおわかりのように、極めて勝訴見通しが困難で、敗訴の可能性が高いわけであります。ところが、先般の「もんじゅ」の設置許可無効確認訴訟であるとか、御承知のような議員定数訴訟のように、数多くの敗訴判決を重ねてようやく勝訴判決に至ったり、あるいは勝訴判決に至らなくとも制度変更に結実するという事例が多い事件類型が、この行政訴訟であろうと思います。こうした中で、もし、弁護士報酬敗訴者負担制度が導入されると、国民が行政を被告にして訴訟を起こすことは、ほとんど不可能に近くなるでしょう。行政の違法、あるいは不当を正す契機は失われてしまうことになるだろうと思います。
司法制度改革審議会の意見書は、「国民の一人ひとりが統治の客体意識から脱却して、自立的でかつ社会的責任を負った統治主体として、互いに協力しながら自由で公正な社会の構築に参加」すべきであると言っています。すなわち、私人による法の実現が求められているわけであります。こうした司法制度改革審議会意見書の精神に鑑みれば、弁護士報酬敗訴者負担制度の導入は、司法制度改革審議会意見書の描く司法制度改革に正面から反することになりはしないかと考えるわけであります。むしろ、司法制度改革審議会意見書のこうした司法制度改革の理念を積極的に実現させるためには、いわゆるアメリカにおける「私的司法長官の理論」というものがございますが、それのように、私人による行政等の適正を図るための司法アクセスの機会を拡充するために、弁護士報酬の負担制度を考えるべきで、そうしたものとして、行政の適法性を求める種類の訴訟については、いわゆる片面的敗訴者負担制度というものの導入が検討されるべきであると考えます。
なお、資料4-1の意見書の15ページの上から15行目のところに「司法アクセスを促進するため原告たる個人が勝訴した場合のみ被告の行政庁に」と書いてありますが、この「個人」というのは、私人というだけではなくて、民間団体も含めた意味に理解していただきたいと思います。そのように訂正させてください。
次に、民事訴訟・人事訴訟についてでございますが、これは先ほど申し上げましたように、当事者の属性に分けて検討するということになりますが、ただ検討してみますと、いずれの当事者間の訴訟においても、司法アクセスに与える大きな問題点は、やはり勝敗見通しの不確実性でございました。弁護士報酬敗訴者負担制度を導入した場合、勝敗見通しの不確実性が、司法アクセスの委縮に作用するというわけでございます。この効果については、言わば公知の事実に属する事柄であろうかと思います。我が国において、訴訟を考える最初に当たって、勝訴が確実であるというケースは、極めてまれでございます。もともと成否がはっきりしている事案は訴訟にはならず、訴訟になるのは、それなりに双方に言い分があるケースでございます。先の日弁連の調査でも、各弁護士会の法律相談センターを訪れた相談者の事案のうち、弁護士も相談者も勝訴できると判断されているケースは、訴える側のうちの10.7%にすぎませんでした。私など実務を経験している者が思いますのは、その10.7%というのは、恐らく相談者の言い分と、それに予想される反論とを考慮しての判断でしょう。しかし、私どもが日常経験をしているところを踏まえたとき、訴訟になり、相談者の当初の話と異なる新たな主張や証拠が出てきたりして見通しが変化するということは、しょっちゅうあることなんです。裁判というのは、非常にドラスティックに動いていく生き物のようなところがございます。
本日の資料4-2を御覧ください。ここで「1 通常訴訟控訴審」というのがあって「(1)取消し判決と和解の実状」というのが書いてありますが、最後の行でございますけれども、「取消」あるいは「和解」の事件総数に対する割合が46%以上47%弱ということでございます。つまり、最後の事実審である高等裁判所において、4割5分以上のものが、第一審判決を取り消したり、第一審判決と異なる内容で和解をしており、こうした資料を見ても、裁判を起こす初めに勝訴見通しが明らかであるというような事件がそうたくさんないのかと、むしろ当事者双方にそれなりの言い分があって裁判が起こされているということ、すなわちは、勝訴見通しが困難であるということがおわかりいただけるかと思います。
こうした中で、敗訴の場合に相手の弁護士費用まで負担しなければならないとなると、訴訟を躊躇してしまいます。紙谷教授の紹介によるアメリカの最高裁判決を、本日の資料4-1の意見書の11ページの*2のところで紹介させていただいていますが、「訴訟(の結果)は、(最善の場合でも)予測できないので、訴訟を提起した、あるいは防御したというだけで制裁を課されるべきでなく、敗訴の制裁に相手方当事者の弁護士報酬まで含まれるのであれば、貧困にあえぐ者は自らの権利を擁護するため訴訟を開始すること不当にも思いとどまされることになる」というような判決が紹介されています。更に、資料4-1の意見書の17ページ、*3に記載しましたが、同じく紙谷教授の紹介ですが、敗訴者負担制度をとるイングランドにおいて、「銀行口座の残高の多少が裁判所へのアクセスを規定する」という大変ショッキングな指摘が紹介されたりしています。
私の経験を申しますと、これは国賠訴訟で、行政訴訟の類型に入るもので、ここで言う類型には入らないものであるかもしれませんが、非常に印象に残っている事件です。県道からダンプカーが転落した事故で、道路の管理瑕疵を追求していた事件でしたが、一審、二審と負けてしまいまして、上告をするに際し上告手数料が30万円余りいる。そこで、上告することについて依頼者に相談したわけです。それで、依頼者にどうしようかと言うと、彼が言うには、残念だけど、事故による怪我のために仕事もできない体になってしまってお金がないからもう上告をあきらめると言うんです。勿論、上告審ですから、絶対に勝つなどとは言えない、むしろ、法律家の常識としては、負ける可能性が大きいわけです。しかし、私は、どうしても納得がいきませんでしたので、では幾らなら用意できるんだということを聞いたわけです。そうすると、10万円なら用意できるというわけです。それなら、私が残額の20万円余りを出そう、上告しましょうと言って上告した経験がありました。この上告審は、逆転しまして破棄差戻しになりまして、被害の回復を図ることができました。この度、訴訟手数料を司法アクセスのために引き下げるということが検討されております。司法制度改革審議会意見書はそういう提案をしております。訴訟手数料ですら上訴を回避せざるを得なかったのですから、その上に相手方の弁護士報酬まで負担しなければならないとなると、上訴審では敗訴可能性の方が強く、私の依頼者は、恐らく上訴することができず、被害の回復をしてもらえず、泣き寝入りをしていたと思います。このときは、相手方の県にきちんと弁護士が代理人として付いていた事件でございます。
サラ金債務の整理などの相談を受けると、業者がつくった「訴訟予告」等と大きく書かれた毒々しい催告書をよく見ます。そういう催告書には、「裁判になれば弁護士費用も負担してもらいます」などと書かれていまして、それに恐れをなして、裁判による解決を利用できずに、利息制限法の適用の議論もできないまま、業者の言うなりに払ってしまったという事例も多々あります。
前回の検討会で、「本人訴訟をしている人の話として、弁護士に払うお金がないから弁護士を頼まず、裁判に負けるかもしれないが本人訴訟をしているという話をよく耳にする」というお話が紹介されていました。そういう方は、敗訴のとき、相手方の弁護士報酬を負担しなければならないとなると、本人訴訟をすることすら、恐らくやめてしまうでしょう。
司法制度改革審議会意見書は、「21世紀の我が国社会にあっては、・・・弱い立場の人が不当な不利益を受けることのないよう、国民の間で起きる様々な紛争が公正かつ透明な法的ルールの下で適正かつ迅速に解決される仕組みが整備されなければならない」としています。これは、司法制度改革審議会意見書の6ページの記載でございます。弁護士報酬敗訴者負担制度の導入によって、こうした理念が損われないように注意しなければなりませんし、私どもは、こうした理念が損われようとしているのではないかと思われて仕方がございません。
また、裁判の重要な機能として、法創造機能がございます。裁判が新しい判例や裁判例を生み出し、権利利益の救済の道を切り開き、あるいは、裁判自身は負けても、社会的反響を引き起こして制度や取扱いが変わるという例は、日弁連の本日の資料4-1の意見書の18、20、21ページにそれぞれ記載させていただいております。また、資料4-3ですが、これは、当初は敗訴判決であったけれども、その後に勝訴に転化したり、あるいは、新しい考え方というのがどんどん判例変更によって示されている例でございます。資料4-3の一番最初のインフォームド・コンセントの中身についての最高裁判例などは、私は現在、乳がんのインフォームド・コンセントの事件を取り扱っている最中でございまして、そういう立場からすると非常にうれしい判決でございましたけれども、そのように、裁判の法創造機能というのがございます。これは、何も特別な事件ばかりのことではございませんで、離婚事件における破綻主義への傾斜であるとか、損害賠償請求事件における女子の逸失利益の算定方法の発展、あるいは産業界においては、仮登記担保法の制定など、社会性のある事件ばかりでなく、ごく一般的な事件においても裁判の法創造機能というのは発揮されておりまして、ここに挙げた例はほんの一部でございます。非常に多数の例がございます。こうした訴訟は、その始めには、やはり多数の敗訴判決を累々と積み重ねてきているのが常でございます。そうした敗訴判決を積み重ねた結果、このように変わっていくということであります。
また、私の経験でございますけれども、トンネル工事の塵肺被害に関する損害賠償請求事件などはその典型でした。たくさんの企業が経営する幾つものトンネル工事現場で働いていまして、塵肺に罹患するわけです。したがって、たくさんの企業を被告にしなければなりません。そうすると、当然、被告企業にはそれぞれ弁護士が付きますので、塵肺被害者が訴訟するのであれば、たくさんの被告企業の弁護士報酬を負担しなければならない可能性が出てくるということになります。勿論、敗訴者負担制度の下ではです。ところが、この事件は、勝訴見通しはと言うと、極めて厳しいわけです。塵肺の発症が、職場を離れてから何年もしてから発症しまして、塵肺そのものが進行性の疾病ですので、職場を離れてから10年以上も経って症状が出てくるんです。当時、その裁判を考えたときの時効についての判例に従えば、多くの被害者が時効によって負けてしまいます。私どもは、時効の壁という言い方をしていました。そして、たくさんの企業の連帯責任を問うとなると、共同不法行為の成立要件の吟味が必要でありますし、更に、それの債務不履行責任への準用が認められるのかという議論を考えなければなりません。新たな理論的なハードルは極めて高かったのでございます。弁護士報酬敗訴者負担制度の下では、とてもこうした裁判などは起こせなかったでしょう。しかし、息が詰まって苦しんでいる被害者を見たり、実は、苦しみの余り自殺をした人もいましたが、そうした人を何とか救ってあげたいと思って裁判を提起しました。ところが、裁判を進めていく中で、時効の起算点に関する判例が、御承知のように変わっていきました。また、共同不法行為と同じく債務不履行にも連帯責任を認める裁判例が現れてきたりしました。結局、勝訴であるとか、被害救済と評価し得るに足るような和解ができるようになり、多くの被害者が救われるようになったのです。こうした経験を持つ私としては、弁護士報酬敗訴者負担制度がもしそこにあれば、こうした被害救済は到底できなかったであろうと思います。よほど犠牲的な精神のある人以外は、おおよそこんな裁判はできなかったでしょう。このように、弁護士報酬敗訴者負担の導入は、こうした裁判の法創造機能を損うことになります。それは、司法アクセスを阻害することでもありますし、司法制度改革審議会意見書が目指す、市民が統治主体として積極的に自由で公平な社会の構築に関わっていくという契機を失わせるものでありまして、こうした弁護士報酬敗訴者負担の弊害は、司法制度改革審議会意見書の基本理念で反することが注意されなければならないと思うものでございます。こうしたことは、すべての当事者類型の事件に当てはまります。更に加えて、個人対企業の事件では、当事者間の実質的な訴訟対応能力の格差による訴訟萎縮効果というのもございます。
結局、いろいろ検討していきましたけれども、司法アクセスを拡充するという観点から具体的に検討すれば、相手方の弁護士報酬を負担してもその負担感のない当事者についてのみ、弁護士報酬敗訴者負担を行える可能性があるのかと思われます。そして、そうした当事者としては、例えば、一定規模以上の企業に限られるように思われます。そうした企業同士の間の事件のみが、萎縮効果を来さない可能性があろうと思われます。ただ、そうした企業がどの程度の規模の企業なのか、これもまた慎重な検討が必要です。私どもの資料4-1の意見書では、株式会社の監査等に関する商法の特例法に規定する大会社などが一応の標準になろうとしましたけれども、ここは十分な検討をしていただきたいと思うところでございます。しかも、その場合であっても、萎縮効果がないかどうかは、やはり、具体的な企業の方々の御意見を伺うことを通して慎重な検討が必要であろうと思いますし、更に、委縮効果がなくても、積極的に司法アクセスを促進する効果があるのかどうかも慎重に検討する必要があろうと考えております。
このようなことが、一応我々が具体的に検討した結論でございますが、更に、従前からの議論に関連しまして、資料4-1の意見書の21ないし22ページのところに、「不法行為に基づく損害賠償」に関する点と、「不当訴訟・不当応訴」のことについて述べておきました。これは、それぞれの記載のところに譲らせていただきたいと思います。いずれにしても、それらの事件においても、司法アクセスの拡充の観点からは、弁護士報酬敗訴者負担制度を用意する必要はないということであります。
むしろ、資料4-1の意見書の22ページ以下に記載しましたように、先ほども申し上げましたけれども、司法制度改革審議会の意見書は、「国民の一人ひとりが、統治の客体意識から脱却し、自立的でかつ社会的責任を負った統治主体として、互いに協力しながら自由で公正な社会の構築に参加」すべきであるとしています。すなわち、私人による法の実現を求めているわけであります。そして一方、先ほど来申し上げていますように、弁護士報酬敗訴者負担制度というのは、司法アクセスを促進するためという観点から検討せよというように司法制度改革審議会意見書は言っているわけでございます。こうした2つの基本的な理念、目的ということに鑑みてみますと、訴訟結果が公共的な利益をもたらすような訴訟については、前述の行政訴訟に限らず、いわゆる原告が勝訴した場合のみ敗訴した被告に原告の弁護士報酬を負担させようという、ワン・ウェーと言いますか、一方向的と言いますか、片面的敗訴者負担の制度が導入されるべきであろうと考えます。行政だけではなく、そういうものを導入することについて、どうしてだというところがあろうかと思いますが、私どもとしては、そうした訴訟は、今申し上げましたように、直接的内容は確かに個人的権利利益を目的とするものでありますけれども、そうした訴訟の成果には、一般的に事業活動の社会的な適法化、適正化を図るという公益性がありますし、そしてまた、そうした訴訟においては、もともと自ら違法状態を是正するべき社会的責務が被告にあったわけでありますし、更に、そうした違法状態を続けることの中で、被告の方は一定の利益を得てきたということでありますので、そうした場合には、片面的敗訴者負担制度が政策的に導入される必要があろうかと思います。
以上、いろいろ申し上げてきましたけれども、最後に、本日お配りしてあります資料4-6を御覧ください。これは、弁護士報酬敗訴者負担問題に関する各弁護士会の決議や声明などの一覧でございます。日々、法的紛争を抱えた市民や企業等の団体とその最前線で接触し、その解決の在り方を巡って相談を受け、方針を決め、そうした方針に基づき、訴訟や交渉といった最善であると思われる解決のための手段を選択して、それを担って実施しているのが私ども弁護士でございます。その弁護士の多くが、弁護士報酬敗訴者負担の導入と聞き、裁判に負けたというだけでペナルティーを課すということが、実務を経験する中では、必ずしも正義とは言えないのではないかというような素朴な感覚、あるいは、またそうした制度の導入が、結局は司法へのアクセスを萎縮させ、裁判の法創造機能を阻害し、ひいては、国民の自立的な社会の発展への関与を妨げるものであると考えました。今、御覧いただきましたように、全国の43単位弁護士会、そして5つの連合会が反対の決議や声明を出しているのでありまして、こうした市民や団体との接点にいて、直接リーガル・エイドに関わっている我々弁護士の意見に是非とも耳を傾けていただきたい。そういうことをお願いしまして、長々となりましたけれども、弁護士報酬敗訴者負担の取扱いについての日本弁護士連合会の意見を申し上げさせていただきます。
どうもありがとうございました。
【高橋座長】 詳しい御説明をありがとうございました。ただ今の御説明に関しまして、何か御質問や御意見がございましたらどうぞ。
どうぞ、藤原委員。
【藤原委員】 ただ今の御説明で、私も初めて日弁連の方々の議論のすべてと言うか、結論まで至る議論を拝聴したような気がいたします。今までは、どちらかと言うと、前段の方のロビイスト的なことも含めまして、割合多く拝聴しておりましたものですから、日弁連の見解としては、幾つかの訴訟類型で判断できる訴訟において、それも片面的な敗訴者負担を導入すること、そこに結論を置いたというお話で、私自身も、ようやく主張していらっしゃることの全容がわかったような気がします。
そこでお伺いいたしますが、資料4-1の日弁連意見書の最後の23ページに結論付けておられます、このような類型に属するところの訴訟に関しましては、片面的な敗訴者負担の制度を導入することに対しては賛成であるという御意見なんですけれども、これに至りましたプロセスは、今、大変明確に御説明いただいたと思うんですけれども、ここに至るまでの紆余曲折ですが、余りにスムーズに御説明いただいたので、その辺りのお話を少しお聞かせいただきたい。
それから、資料4-2でございますけれども、取消判決と和解の実状ということに関して、取消判決の事件数というところで、更に詳しくお聞きしたいんですけれども、これは勝訴、敗訴が逆転したということを意味するのか、それとも、微調整と言ったら少し語弊がございますけれども、初めの判決が少し違った法解釈に至ったというものまで含むのかどうかということです。そして、和解に関しても、和解でありますから、当然勝ち負けという概念は当てはまらないにしても、その辺りはどうだったのか。ですから、厳密に言うと、「(取消+和解)/事件総数」というのは、要するに、その過程において、判決なり結論において何らかの変化が生じたものというように理解すべきなのか、それとも、大変色濃く、右が左、左が右というようなすごくクリアな変化が起こったものに限定するとどれぐらいになるのか。
また、私自身、最も興味がありますのは、片面的な敗訴者負担制度を導入させるべき類型がここに書いてありますけれども、これ以外には全く考える余地がないのか、それとも、日弁連の方がここまで最終的に結論を導くに当たって、この辺りは更に議論を深める余地があるというような類型が、議論の過程で出てきたとしたら、それも教えていただきたい。
【日本弁護士連合会(津川副会長)】 では、片面的な敗訴者負担制度の提言について、これだけかということですね、そこに至るまでの経過ですが、実は、私ども日本弁護士連合会が意見を形成しまして、これを公表するには、非常に慎重な検討をしてきているわけです。今回も、約1年が経って、草案をつくる段階から検討しまして、しかも、それを全国の52各単位会に意見書を出し、その回答を得ます。それから、更に日本弁護士連合会には、様々な関連する委員会がございます。そういう委員会にも意見紹介をします。そして、そうしたことから出てきたものを、更にまた、担当している委員会でもって喧々諤々議論をして、本日に至ったということでございます。それでは、敗訴者負担というのは、資料4-1の23ページのa、b、cだけなのかということでございますけれども、実は、ちょうど23ページのa、b、cと書いてあります上の段落のところに「先述した行政事件のほかに、次のような類型の訴訟などにおいて」と書いてありますので、当面、我々が現在のところ到達したのはここでございますが、これだけに限定されるものとは考えておりません。例えば、参考になるのはアメリカ合衆国の制度ですが、私も学者ではございませんので、余り詳しいことはわかっておりませんけれども、いわゆる消費者訴訟であるとか、労働事件であるとか、公害環境事件などについて、この公害環境事件についてはcというところに入れていますけれども、そういったものについても、個別立法で導入の規定があるようなことも聞き及びますし、やはり、もう少し、その辺は更に検討を進めていく必要があろうかと思っています。それがまず1つです。
それから、資料4-2の通常訴訟の控訴審判決についてのところでございますが、私の理解では、微調整のあるものも含めて結論が変わったというものが、この取消判決ということであろうと思います。ただし、理屈が違っておったけれども、結果としては同じだというものはここには入っておりません。要するに、判決に影響を及ぼす違法がなければ取消ということにはなりませんので、結果が違ってくるということが大前提になります。この中には、明確に100%が0になったとか、0が100%になったというものだけではなく、微調整のものも当然含んでおりましょうけれども、しかし、理由が違うということだけで結果が維持されているものについては含んでいないということでございます。和解の件数を含めて考えましたのは、和解というのは、やはり一審段階での結論と違う解決がなされたということであろうと思います。そんなところでよろしいでしょうか。
【三輪委員】 資料4-2に関して、ちょっと補足させてください。先ほどの説明に間違いがあるというほどではありませんけれども、正確とは言えない部分があります。これは控訴審でされた判決や和解を前提としていますので、その前に一審段階で和解で終局したり、そのほかの終局事由で終わっているのも多数あるということになりまして、裁判所における全事件数に占める控訴審の取消判決、和解率というのは、これよりも相当低いものになると思います。それから、私が実務を担当していた経験からいって、一審の判決が変更されるということは少なからずありますが、0が100になる、100が0になる、あるいは100と0ではなくて80と20でもいいのですが、そういう劇的に結論が変わる事件はむしろ非常に少なくて、金額などが多少程度変わるというようなケースが比較的多いのではないかという感じがします。和解についても、一審の判決が違っているという前提で、反対の結論を前提とする控訴審の和解というのもないわけではありませんが、むしろ、一審判決を前提として、具体的にどういう履行をするかとかいうような形で話し合いができるケース、むしろその方が多いようにも思われます。この資料の数字自体は正しいのでしょうが、この中身については、必ずしも、全事件の半数近くが勝ち負けがわからないということでは決してないということは了解していただきたいと思います。
【日本弁護士連合会(津川副会長)】 私どもが申し上げたかったことは、裁判の始めに、最後の最後まできちんと見通しを立てて、事件をどうするかということを決断することは非常に難しい。勿論、私どもは、特に民事訴訟なんかは、和解が最善の解決方法かなと思っているぐらいなんですけれども、やはりそれなりの言い分がある。それを言わば解決していくというのが民事訴訟なわけで、そうした当初に結論を見通しにくいということを申し上げたかったということでございます。しかも、その裁判を使うことによって、使わなければひょっとするとそこで泣き寝入りしたかもしれないけれども、裁判を使うことによって、それなりにその事件の筋に従った解決が図られているということがよくあるんだということを御理解していただきたかったということでございます。
【高橋座長】 飛田委員どうぞ。
【飛田委員】 ただ今御説明をお伺いいたしまして、実は私は、また今回も事務局の方にお願いして、要望書等の中に導入を推進してほしいという意見がないかどうか、3回目になりますが、資料を出していただきました。そうしましたところ、また今回も皆無でした。私がなぜそれにそのようにこだわるかと言いますと、どういう場合がアクセスを推進するということになるのだろうかということを知りたいために、いろんなところで資料を拝見しているわけです。たまたま裁判官ネットワークというものでしたか、それもホームページを拝見してみましたが、そうしましたところ、そこはいろいろな書き込みがあるホームページだったのですが、その中で少し精神的に病気を患ったことがある方のようでしたけれども、アクセスに敗訴者負担制度が導入されると、私たちのような弱い者は本当に困るというような、はっきりした御意見が一つ寄せられておりました。それなども拝見しながら思いましたのは、各論にというお話をいただいていることは承知しておりますけれども、そのような立場の方というのは、大変弱い方です。あるいは外国から帰還されてきた方、あるいは亡命をしたいと言っている方とか、あるいはホームレスの方とか、町や社会の中に非常に権利の侵害に遭いやすい方たちがいて、そういう方たちなども十分に視野の中に入れていかなければいけないのではないかということ、推進したいという方の意見を探しているうちに、またそういう逆の意見も拝見して思った次第です。それから、今日の御説明の資料の4-2について、御説明をお伺いしながら感じたことでございますが、これが明確に黒が白になったとか、そういうものではないだろうということの御質問、または御説明の中で、それは理解いたしましたが、いずれにいたしましても、ここで表われている傾向と言いますのは、裁判の判決というものが固定されていないということだろうと思うのです。固定されている分野というのも恐らくあろうかと思いますが、固定されていないということが、まさにダイナミックな法律の解釈、社会の変化に伴う判決の推移ということにもつながるのではないかと思いまして、そういうことを思いますと、やはり導入を推進した方がいいというものは何かを突き止めて、できる限りそういった意味での判決の固定性を防がなければならないのではないかという気がいたします。勿論、ころころ変わっては困るという逆の一般的な反応というのもあろうかと思いますが、社会の推移に応じた変化というものを確保していくためにも、アクセス阻害をできる限り防いでいって、裁判の持っているパワーと言うか、必要な力というのを発揮していただきたいというのも、この資料4-2から感じた次第です。それで外国の例についてお取り上げいただいておりまして、やはりアメリカの場合には、私は前にも少し触れさせていただきましたが、独特の推移をたどっていて、また日本に非常に近い、それぞれが各自負担であるということもありますので、大変参考になる事例ではないかということで、片面的な負担ということも大いに検討の余地があるのではないかという事例を、今回の御説明で示していただけてよかったということを感じております。大変わかりやすく、いろいろ具体的検討の在り方について類型化をしていくということを御提案いただいておりますので、私どもは、今までにこういうことでは導入されると、こういう方たちにとっては問題ではないかという事例を挙げさせていただいたことなども、この類型の中に当てはめさせていただくということも相当数できるのではないかと思います。ただし最後のところで、「拡充するため」のところに事例としてa、b、cと挙げていただいているわけですが、昨今の偽装表示等に基づく消費者被害などについては、今、団体訴権がまだ導入されていないことなどもありますので、私たちは被害を受けても権利の回復のしようがないわけですけれども、このようなことによって、残念ながら、最近ですといろいろな問題が続発しておりますものですから、そういうケースなども片面的な敗訴者負担制度導入の対象なってほしいと思いました。それから、その他の権利侵害の中には、PL訴訟などでよく争われるケースですが、私たち消費者の場合ですと、これは前の方にも挙げていただいていると思いますけれども、証拠を集めるということがなかなか難しいので、そういうケースなども片面的な敗訴者負担の制度を導入していただいて、制度的な不備をこのような制度によって補っていただく必要性があるのではないかと感じた次第です。
【高橋座長】 西川委員どうぞ。
【西川委員】 先ほどのアクセスのときには感銘を受けたと申し上げましたが、この敗訴者負担制度につきましては、感銘を受けたとの評価はできないものであります。
以下少し申し上げたいのですが、司法アクセスの促進を唯一の判断基準とすべきであると、まず最初に述べられておりますけれども、やはり、何が公平であり、何が公正かというようなことは、極めて、私は何にも勝る判断基準ではないかという気がするものですから、司法制度改革審議会の意見書の司法アクセスの促進ということだけを捉えて議論されるのはいかがなものかというのが1点です。
それから、必ず勝てる、相当の確率で勝てる、だけど弁護士報酬については、自分の弁護士報酬は自分で払わなければならない、だから訴訟をやめてしまうという人が14%もいると、極めて驚きの数字だろうと思っております。それだけ訴訟の萎縮効果というものがあるのだなと、逆にその数字を見て思った次第であります。
あと、法創造機能とか、逆転勝訴判決の例を述べられましたけれども、これこそ、勝訴して創造機能があるわけですし、逆転の判決も勝ったわけでございますから、最高裁等で勝った場合、控訴審、それから一審にさかのぼって、結局は自分の弁護士費用を相手から取れるわけですから、何でそれに躊躇することがあるのだろうという気がいたしました。そもそも、裁判というのは、勝とうと思う本人の意欲と弁護士の能力でやっていくわけでありますから、勝てないかもしれない、負けると相手の弁護士の費用を払わなければ訴訟をやめようという態度でもって正義を実現しようというのは、やる気と能力に欠けるのではないでしょうか。
資料4-2につきましても、三輪委員からお話がありましたけれども、この数字は、一審の判決も控訴審に行けば半分が引っくり返る。結局は、一審の判決というのは、どちらでもイエスかノーか、50、50になっているというように読めるような、非常に素人をだまそうとするような記述であると思うのですが、これは、一審においてどれぐらい確定しているのか、そのとき原告が訴えたところのどの程度のところが確定しているのか、原告が訴えたものの状況でありますとか、また、この取消判決と和解の問題についても、100対0なのか、100対80の問題なのか、その辺りを分析をされたところでの責任のある資料の提示であっていただきたいなと、そう思った次第であります。
【日本弁護士連合会(津川副会長)】 私は委員でございませんので、ここで西川委員と論争をするという資格は多分ないと思いますが、せっかく御意見をいただきましたので、一応私どもが考えているところをお答えさせていただいて、それで終わりにしたいと思いますけれども、よろしくお願いします。
まず、勝つことについてということですが、私どもがいつも考えるときには、裁判で勝つというのが、言わば絶対的真実と言いますか、そういうことなのかということです。つまり、確かに制度としては裁判制度がございますので、1つは正義を表わす指標なのかもしれませんけれども、しかし、何かペナルティーを課すとか、あるいは負担させるという基準としての正義と考えると、裁判というのはそういうものなんだろうかというのがあります。それは勿論制度の問題ですから、それがまず最初にありまして、何かややこしい言い方をしましたけれども、裁判に勝ったから、相手方に何か負担を与える、その正義の根拠になるということなのだろうか。やはり、どういう司法制度としての政策の問題なのかと、そういう問題なのではないかと1つは考えております。
それから、私どもが、なぜ、今回の司法制度改革の中での敗訴者負担問題の取扱いについては、司法アクセスの見地からの検討が唯一と言いますか、そういう判断基準であると考えたかと申しますと、勿論、先ほどからるる説明させていただきましたけれども、司法制度改革審議会の目的としている司法制度改革が、まさにそこにあるから、そういう文脈の中で、この弁護士報酬敗訴者負担制度が出てきているからであるからです。もう一つは、今、おっしゃられた、勿論こういうことを議論するなというように議論を封じるつもりは全然ありませんけれども、そういったおっしゃられたような議論については、実はこの資料4-1の意見書の中にも書きましたけれども、民訴費用制度等研究会の報告書の中で、もう議論をされているわけです。それについて、それも資料4-1の意見書の中で引用させていただきましたけれども、御承知のように、勿論それは民訴費用制度等研究会の報告をしたときの話でありますけれども、いろいろ検討したけれども、直ちに今立法に入るべきだということにはならなかったと。そして将来の重要課題としても、今後も検討をするべきであるということで、むしろ意見が一致したと。そして、弁護士人口の増加が進み、法律扶助制度の充実等、関連諸制度の整備や民訴法の施行による弁護士業務の変化がある程度収束した段階において、弁護士費用に関する敗訴者負担について、もう一度本格的に検討をすべきだと、こういうふうになっているんです。こういうふうになっているにもかかわらず、なぜこの司法制度改革審議会意見書は、もう一度ここで弁護士報酬敗訴者負担制度を取り扱うことを求めたのだろうかというのが問題なわけです。この点について、国会で、司法制度改革審議会の佐藤会長が、そういった民訴費用制度等研究会報告の文脈の中で考えていますというふうにおっしゃっているんです。そうすると、民訴費用制度等研究会の報告というのは、一応大前提にしておられる。そうしたら、民訴費用制度等研究会報告が言った弁護士人口の増加が進み云々というのが、今、民訴費用制度等研究会報告が行われて4年か5年が経った現在も、そういう段階が来ているのかと、しかも、この民訴費用制度等研究会の報告は、変化がある程度収束した段階において、もう一度検討しなさいと言っているわけです。とても、我々の実務感覚でいくと、そういう段階には至っていない。だから、そういうことについては、一応議論して結論が出ているわけで、それにもかかわらずやるというのは、繰り返しになりますけれども、司法アクセスの観点から、なお導入の必要がもしあるとすれば、検討すべきではないかということなのかなということで、先ほど申し上げたようなことになったわけでございます。
更に、14%の数字をどう評価するか。これはそれぞれお立場があろうかと思いますが、私どもは、いずれにしても、現在の制度としては各自負担制度なんです。その各自負担制度を変えるというためには、これは制度を変えるわけですから、当然立法事実が必要である。そうすると、変えるに足るような立法事実なのかどうかということが問われているんだと。そうすると、14%はそういうものではないだろうと判断したんです。ただし、今、西川委員のおっしゃられたとおり、それを無視していいとは、私どもも考えているわけではなくて、それに対してどう手当てをするのかということは、当然検討しなければいけないと思っております。そう考えていくと、申し上げたかったのは、原則導入、例外除外ということでは少なくともないだろうということを申し上げたかったわけです。それでは、14%に対してどうするのか、日弁連さん意見を言えというと、まだよく検討しておりません。そういうところでございます。
【藤原委員】 すみません、もう時間が過ぎていますが、よろしいでしょうか。
【高橋座長】 どうぞ、少し延長をお願いします。
【藤原委員】 この問題は、私は、かねがねいろんな方のお話を伺いつつ、やはり直観的に、裁判あるいは訴訟をどう捉えるかという、本当に説明しろと言われても説明しがたい、そういう受け止め方にあるような気がするんですが、それで弁護士の方は、当然自分たちが常々預かっておられるケースと、訴訟を起こす、あるいは訴訟を起こされた当事者とのやり取りの中で、今、おっしゃったようなそもそも裁判をするのはというような実感をお持ちだと思いますし、それはどうも教科書に書かれているような、我々が学生のころに学んだようなことでは到底表わし切れないような実感と直感でもって、各々を選び、違った意識を持っているのではないかと思うんです。今、西川委員の御質問に対するお答えの中で、最後の方で、現時点では、原則として敗訴者負担ではなく各自負担、そしてある類型に当てはまるものに関しては、片面的な敗訴者負担もあり得るだろうなというのが、今の弁護士会の御見解であるというふうに、今日は拝聴したわけです。
【日本弁護士連合会(津川副会長)】 それともう一つ、敗訴者負担というのが、訴訟を考えるときに、負担感をもたらさないような、そういう企業というのはひょっとしたらあるかもしれない。しかし、それはもう少し検討してもらわないということでございます。
【藤原委員】 そうだとすると、14%が多いか少ないかというのも、各自の考え方によると、私もそうだと思いますが、だとすると、原則敗訴者負担という時期は、要するに、社会的に日本の社会も機が熟せば、勿論、例外的に幾つかそれにそぐわないものがあるにしろ、それがあり得るというようなお考えですか。それとも、これはすごくお聞きしにくいんですけれども、多分そういう見通しとして、すなわち、今はまだ時期尚早だけれども、いずれそちらの方向に行くべきケースがすごく多いのではないかというように見ていらっしゃるのか、それとも長い将来にわたって、自分の裁判であるのだから、敗訴しても勝訴しても、弁護士費用というのは各自負担が原則であるべきと考えていらっしゃるのか、要するに原則論です。そこでどういう御見解をお持ちでしょうか。
【日本弁護士連合会(津川副会長)】 実は、そういう理念論というのについては、正直言って、余り検討していないわけです。
【藤原委員】 検討の過程で、議論しなくてもにじみ出てくるんです。要するに、原則がどっちだと自分が思っているかということがベースにあって、こうするとこうだ、だから今何であるかということが、多分弁護士の方にとってはリアルなんだと思うんです。今、現状がこうであるのに、あえて変えなければいけないという根拠がないというようなお考えだと思います。それはプラクティスをしていらっしゃる弁護士としては、当然のお考えなんですが、その実体験を少し横に置いていただいて、原則論に立ち返ったときにはどのような御見解か。これは弁護士会の中で議論がなされていないとすれば、私は、それもやはりしていただいて、なおかつこういう御見解であれば、それはそれで受け止めることはできると思うんですけれども、現状を変えてまでという言い方は、私も重々納得できるんです。今、そのお仕事をしていらっしゃる立場だから。だけども、それは一度横に置いて、原則としてどうあるべきかということも、一度はとことん議論していただきたいという気がしています。それも是非お示しいただきたい。
【日本弁護士連合会(津川副会長)】 まず、それでは日弁連として、今はどうかと聞かれれば、これは当然、先ほど来申し上げているように、今の状況では原則各自負担であるということです。私個人的には、やはり、原則各自負担だろうと思っています。なぜならば、やはり、いろんな弊害防止措置をしているにもかかわらず、訴訟抑制ということは出てきているんですね。だから、例えば紙谷教授が、イングランドはどこまで弊害的措置をしているのかわかりませんけれども、ああいった報告があったりしますと、やはり原則各自負担かなと思っています。1つは、アメリカなんかがそういうことで来ていますし、ただ非常に多くの法律を定めたりしているので、そういうことのやり方がどうかという議論は勿論あるんでしょうけれども、私としてはそういうところかなと思っております。申し訳ございません、こんな程度です。
【藤原委員】 わかりました。
【高橋座長】 ちょっと時間がオーバーしておりますが、長谷川委員どうぞ。
【長谷川委員】 今おっしゃった原則論の中で、先ほど西川委員が公正さを欠くというようにおっしゃっていることがありますが、大きな事業主、大きなグループ、行政とかと、個人とは、情報の量から、いろいろな力から、とても不平等があると思うんです。そこのところで、やはり同じようには受け入れられないんではないか。公正さというところで平等に考えるというところが、基本的にはあり得ないと私は思うところがあるんです。もし、そうだとすると、基本として全部敗訴者負担というところに不平等さを感じて、もっと個別の、先ほどから具体的検討というのがありましたけれども、そうあるべきではないかという思うんです。私は建築家なので、興味を持っていることで、前にシックハウスのお話をしたんですけれども、シックハウスのことは、いつでも被害者は負けてきたんです。しかし、法的規制がつくられてきたんです。そのために裁判では負けても、様々なところで測定の基準ができたり、それから新しいマンションでも、業者に耐えられないと言ったら、移転費を持って出ていくとか、あるいは保育所なんかで、保育士がシックハウス症候群で労災の認定も受けられるようになったとかというようなこととか、法的には随分と支援をされるところまでいくのは、やはりたくさん負けてもシックハウスというものを訴えてくる人たちが多数いたからです。そういうことが社会の中で見えてきた。自分自身もかかったんです。けれども、それを訴えるところまでいくのは、企業を相手にして、それもたくさんの業種の関係者がいるので、なかなかそれを裁判というところまで持っていけなかった。しかし、社会ルールというのが形成されて、建築素材は全面的に見直され出している。やはり個別的に環境とか健康とか生命に関わること、また、多分行政関係もあるかもしれませんけれども、個別に片面であるというものがつくられ、片面的敗訴者負担というものがつくられていかなければ、私は大きなグループと個人というものに格差があると思うんですが、その公平さというのが、よくわからないんです。専門の方に伺ってみたいと思います。
【高橋座長】 委員同士の議論はまた別途お願いします。今日はもう時間がありませんから、日弁連の御説明に関する御質問をお願いします。
【長谷川委員】 それでは、日弁連では、公正という言葉でよく問題にされることをどうお考えなんですか。
【日本弁護士連合会(津川副会長)】 私どもとしては、やはり、司法審議会意見書も、負担の公平を図って司法アクセスを促進する見地と、確かに司法アクセスを促進するために公正を図る必要があるんだろうと思っています。それはこの検討会でも検討していただくと。そうすると、そこの公正というのは、まさに公正を図る対象というのは、不公正があるから公正を図るというわけですけれども、そこにある不公正、不公平というのは、実質的なものとして理解するべきであろうと思います。勿論、これは制度論ですので。それが一番表われているところは、やはり訴訟当事者にあるところの訴訟対応能力の不公正ということだろうと思っています。ですから、御説明したように、とりあえず当事者属性で分類をしてみてはどうかと考えたわけです。そういうことの中で、個人対事業者という類型の中で考えてみると、そこにおいてやはり実質的な不公正、力の差です。それはいろんな意味があります。証拠収集能力とか、情報をどう持っているのかとか、情報収集能力とか、端的には資力の格差もあるでしょうし、あるいはそういう訴訟に時間をかけられるかどうかということだってあると思うんです。そういうことをやはり、是正して司法アクセスの促進を図る、そういうことが必要なんだろうと思っています。それは決して、むしろそういうふうに考えていくと、敗訴者負担制度になると、むしろそういう場面では逆に抑制が働く要素になるだろうと。これは多分普通に考えればそうだろうと。だから、私は意見書の中で余りことわざを知っているわけではないんだけれども、角を矯めて牛を殺すという言葉を使いましたけれども、是非そういうことにはならないように、くれぐれもよろしくお願いしたい。心からお願いしたいと思っています。
【西川委員】 ちょっとよろしいですか。
【高橋座長】 日弁連の説明に対することですか。
【西川委員】 そうです。今の御説明ですが、先ほど藤原委員がおっしゃられたように、今の哲学は、あくまで本来、個人としても敗訴者負担というのを導入すべきではなく、各自負担でやると、そこに公正の実質的公平を得たときであるというお話がございました。実質的公平が確保されるのであれば、本当は敗訴者負担を導入すべきであるという主張に立っているのだろうとお見受けできるのですが、例えば、今の議論を敷衍していきますと、個人対個人の訴訟である、そのときに年間所得が100万円以下の人同士の訴訟であればどうなるのか、年間所得が1億円と100万円の場合とか、500万円同士であればいい、1,000万円同士であればいいと、先ほど5億円の大会社の話がありました。大会社同士であればいい、しかし、いろいろとヒアリングをしてからということですが、おっしゃっておられるのは、そういう所得が同じ水準のもの同士であれば、敗訴者負担が本来の制度として望ましという御見解なのかどうかだけ確認しておきたいのですが。
【日本弁護士連合会(津川副会長)】 決してそうではございません。萎縮効果にもたらす影響する条件と言いますか、そういうものはそれだけではございませんので、そういうことを日弁連の意見書の中で書かせていただきましたけれども、しかも更にもう少し詰めて、それが所得水準だけなのかと言ったら、決してそうではございませんで、今も少し申し上げましたように、証拠の偏在の問題もあるだろうし、あるいは情報の収集、あるいは証拠の収集、そういう問題もありましょうから、恐らく組織力をどの程度持っているんだとか、そういういろんな要素が絡んでくるんだと思っております。
【日本弁護士連合会(国府弁護士)】 今の長谷川委員の御質問と、西川委員の御質問とも関連するので少し補足します。長谷川委員の公平とか公正ということについての説明として、津川副会長の説明は、訴訟における形式的な公平だけではなくて、社会そのものにある実質的な不公正であったり、不平等であったり、そういったことがある中で、単に訴訟上の形式的な公平を議論しただけでは不十分なんだという趣旨の発言だったと思います。それ以外に公正ということをどう考えるかということで議論している中で、もう1つ視点が必要なのは、我が国の社会では、当事者間による紛争が、司法の場を借りて解決できない、解決が十分されていない、それで社会的な力によって紛争が解決されたり、もしくは泣き寝入りすることによって自分の権利主張ができないままで終わっている例がきっと多いだろうと。だから、もっと司法アクセスを拡充していくことが必要なんだという議論をしているわけです。我々は、まさに司法アクセスを拡充し、みんなが裁判を利用できるようになること自体が公正な社会をつくっていくための一つの道具立てだと、だから、公正という概念と司法アクセスという概念は、全く分離して別のものではなくて、司法アクセスということを実現すること自体が、社会の公正を実現していくための1つの要素になるんだという考え方もあるわけです。何も公平の問題、公正の問題を横にほうっておいて司法アクセスを議論しようと言っているのではなくて、そういったものをトータルで考えていくという立場なんです。ですから、例えば、市民対市民の訴訟で実質的に不公平でなかったとしても、裁判がなかなか利用しにくいものがあったり、上訴して最高裁の判断を仰ごうとしても印紙代が高くて判断してもらえない、それもまた社会的な不公正がそこに存在するんではないかと、そういった考え方になっているわけです。
【高橋座長】 山本委員どうぞ。
【山本委員】 資料4-1の6ページなんですが、*2に対応する本文ですけれども、私は、これは少し論点をずらしているようにしか見えないんです。というのは、もう一度訴えを起こすわけですね。
【日本弁護士連合会(津川副会長)】 そうです。
【山本委員】 ですから、そこのアクセスの問題というのを無視して、不当訴訟について、損害賠償請求をもう一度を起こせば取れるというのは、むしろアクセスというものに対する逆の発想ではないのかと。つまり、その事件内で不当提訴や不当訴訟があれば、その事件内で処理してやれると、それが敗訴者負担が適当な道かというのは、また議論しなければいけないのですが、これがもう一度訴訟を起こさなければいけないというのは、アクセスの議論と逆行する議論で、これを引用してこういうことをおっしゃるのは、私は少し解せないと思うのですが。
【日本弁護士連合会(津川副会長)】 ここでの基本的な論点は、勿論、手続的にはもう一度訴訟を起こさなければならないということがあるわけですけれども、弁護士報酬を負担したのを、この負担の回収ができる道があるのか、ないのかというところの議論に対応しての見解なので、そういうことで御理解ください。
【山本委員】 言いたいのは、一番いい筋のところだけを出していただきたいという発想ということです。それは、西川委員がおっしゃった統計資料の使い方と同じもので、おっしゃりたいところの一番コアの部分をもっと出していただきたいなという気が、何でも都合のよさそうなデータを並べるのではなくて、最初に西川委員がおっしゃったように、哲学として日弁連はどう考えているのかということをもう少し見えるようにしていただくためには、もう少し一番大事な部分を出して、それも有意的部分を出していただきたいと思います。
【日本弁護士連合会(国府弁護士)】 別訴を起こさなければならないと山本委員はおっしゃいましたが、通常は大体反訴で、同一訴訟内で解決していく事例が多いんです。この訴えは酷いというときは、我々弁護士は、それを裁判所に印象付けるためにむしろ積極的に反訴をやって、こういう不当な訴訟は許せないということでやりますから、別訴で起こしている事例は、むしろ少ないのではないかと思います。
【始関委員】 先ほど経緯を御説明いただきましたけれども、この1年間に喧々諤々議論をされたというお話でしたが、私は長年立法作業に携わっておりまして、日弁連からもしばしば御意見をちょうだいするわけですけれども、日弁連は非常に民主的な機関なので、喧々諤々議論されて、多数意見と少数意見に分かれると、多数はこうだったとか、少数はこうだったとか、こういう意見とこういう意見があったというようなことを比較的率直に書いて出されるんですが、今回の日弁連の意見書で私が非常に違和感を感じたのは、今回の意見書は1つにまとまっているんです。先ほど山本委員がおっしゃられたこととも関係がありますが、例えば、反訴が起こせるからいいのではないかと言っても、反訴を起こすためには印紙を貼らなければいけないわけですし、そういうことから言うと、例えば、不当訴訟のこととか、あるいは少額事件のところについて、部分的には、やはりいろんな意見がおありだったのだと思いますが、少額事件についてとか、不当訴訟の問題とか、そういうことについてもいろんな意見があったのではないのか、その辺を差し支えない限りで教えていただきたいと思います。
【日本弁護士連合会(津川副会長)】 結論的に言いますと、やはり各自負担でいくべきだと、敗訴者負担制度というのは、むしろ導入すべきではないということです。むしろ、片面的敗訴者負担制度の問題についてもそういう意見が結構ございました。むしろ各自負担という意見もありました。それはなぜかと言うと、そういう議論が出てくることによって、各自負担ではなくて、むしろ敗訴者負担制度という議論につながっていくのではないかというような意見もあります。だから、基本的には、先ほど申し上げたように、弁護士が日常に直接依頼者と接触して、事件を担当している者の立場からすると、敗訴者負担制度というのは、司法アクセスの萎縮の効果しかないという発想が強いです。そういう議論を経て、こういうことになっているということです。不当訴訟、不当応訴の問題については、基本的にはとんでもない裁判を起こされて、それに対して、その上に自分が弁護士報酬を負担しなければならないのは、これはどう考えてもおかしいという意見があるわけです。それはなるほどと理解できるところがあるわけです。しかし、よくよく考えてみると、それは、弁護士報酬の敗訴者負担制度の問題では実はなくて、そうした不当訴訟、不当応訴をしていることの不当性、違法性の問題なんだろうということです。したがって、そういうものについては、訴訟、裁判をする権利との関係で、ちゃんと対応ができているのではないかとお答えしたいということです。
【山本委員】 今の点ですが、不当応訴、不当訴訟については、最高裁の判例では、すごくハードルが高いわけですね。これは、損害賠償を求める側がそれを全部証明しなければいけない。それによって多くの人は泣いているかもしれない、そういうことも考えていって、あの場合は証明できれば全部負担になるということで、それはほとんどの場合、過失相殺で減額される場合もあり得るでしょうけれども、多くの場合は全部負担になると思います。今回は一部負担を主に考えているわけで、そういうところで公平というのが働くと。ただ、私は、全部的にすべて敗訴者負担にするのが公平だとは思っていません。一定の場合については、力関係対等の場合については、それが公平だと思っています。けれども、そうではない場合は公平ではないと思っていますが、やはりそういう形で不当かどうかということを積極的に明らかにしなければ、自分から使った費用を回収できないというのは、私は公平ではないと思っています。
【高橋座長】 日弁連からは非常に貴重な御意見をいただきました。最後に山本委員が言われましたように、今、手元の日弁連の意見書を取って見ているのですが、一定の要件の下に弁護士報酬の一部を敗訴者に負担させることのできる制度を導入すべきであると言っているわけですので、一定の要件、あるいは弁護士報酬の一部という、これまでの言葉を借りれば、各論の議論にこれから入っていきたいと思っております。今日の日弁連の御意見でも、結論はともかく、労働事件はどうかとか、行政訴訟はどうかとか、そういう各論の視点のヒントは幾つか出ているわけで、今後はなるべくそういうところに重点を置いて、検討会を進めていこうと思います。
【藤原委員】 先ほどの日弁連の意見書の23ページに書いてある訴訟「など」とおっしゃっておりましたが、この「など」に含まれるものは既に検討していらして、ある程度様々な意見が出た類型と言いますか、その辺りも私は是非お知恵を拝借したいと思うんです。我々が闇雲にこういうタイプ、ああいうタイプのあれはどうかと考えるのも、多分大してたくさん浮かんでくるものではなくて、むしろ今まで収斂するまでに「など」と書かれた背景には、様々な類型を御覧になったということなので、もしその辺りの経緯もお示しいただけるのであれば、逆に我々としては、それを是非参考にさせていただきたいので、その辺りの情報もシェアさせていただけるのであれば、是非お願いしたいと思っております。
【高橋座長】 また、情報の提供をいろいろとお願いします。
【日本弁護士連合会(津川副会長)】 鋭意検討させていただきます。