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司法アクセス検討会(第14回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり



1 日時
平成15年4月15日(火) 13:30〜17:00

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第2会議室

3 出席者
(委員)
高橋宏志座長、亀井時子、始関正光、西川元啓、長谷川逸子、長谷部由起子、飛田恵理子、藤原まり子、三輪和雄、山本克己(敬称略)
(説明者)
林勝博(日本司法書士会連合会副会長)、大貫正男(埼玉司法書士会副会長、社団法人成年後見センター・リーガルサポート理事長) 津川博昭(日本弁護士連合会副会長)
(事務局)
松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官、小林徹参事官

4 議題
(1) 司法の利用相談窓口・情報提供について、民事法律扶助の拡充について
(2) 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて
(3) 今後の日程等

5 配布資料
資料 1 ADRの拡充・活性化のための関係機関等の連携強化に関するアクション・プラン(平成15年4月10日 ADRの拡充・活性化関係省庁等連絡会議)
資料 2 司法書士によるリーガルサービスの実状(日本司法書士会連合会)
 (2- 1) 司法書士によるリーガルサービスアクセス状況
 (2- 2) 司法書士の所在状況
 (2- 3) 裁判所管轄・司法書士会支部別司法書士数
 (2- 4) 全国各司法書士会における法律相談窓口の開設状況及び実績
 (2- 5) 平成14年度「全国一斉司法書士法律相談」 
 (2- 6) 司法書士会が設置した地域司法拡充のための相談センター
 (2- 7) 少額裁判サポートセンター関連資料
 (2- 8) 災害時における司法書士無料法律相談件数
 (2- 9) 中・高校生に対する法律教育への会員派遣
 (2-10) 書類作成援助件数(法律扶助協会支部別)
 (2-11) (社)成年後見センター・リーガルサポートが実施する「全国一斉無料成年後見相談会」
資料 3 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて
資料 4 第13回検討会(3/10)資料4についての補足(日本弁護士連合会)

6 議事(○:委員、△:説明者、●:事務局)

(1) 司法の利用相談窓口・情報提供について、民事法律扶助の拡充について
事務局から、資料1に基づいて説明がされた。
その後、次のような意見交換がされた。

○ ただ今説明していただいたアクション・プランの主宰者は誰か。

● 各施策ごとに括弧内に省庁の名前が書かれており、その省庁が取り組むこととなっている。

○ アクション・プランの中には「要請する」と書かれている部分があるが、この場合は、自主的な取組みに委ねるという意味になるのか。

● アクション・プランの趣旨に沿って民間でも取り組んでいただきたい旨をお願いすることになる。

○ 民間型ADRは、どこかが音頭をとらないと、アクション・プランに書かれていることの実現は難しいのではないか。かと言って、民間型ADRについて、行政が注文をつけるというのは問題があるように思う。

● 御指摘いただいた問題点も考慮した結果、アクション・プランにあるような表現をしている。

○ 利用者に適切なADR機関を案内することは重要である。他方で、1つの問題を解決する手段が複数用意され、利用者が選択できるということも重要である。手段が複数用意されていれば、ADR機関の競争を通じて、サービスの質が向上する。これまでの説明では、ADR機関の競争はあまり考えていない印象を受けるが、その点どう考えているのか。

● 競争と連携の両立が必要であると考えている。ADRの連携策についてアクション・プランに記載しているが、利用者をより適した機関等に案内できるようにするという趣旨であり、利用者の選択によるADR間の競争を否定しているわけではない。

○ いくつか質問したいことがある。公正取引委員会が取組みを行う省庁とされている施策が見当たらないが、なぜか。また、食品に関する問題を例にすると、厚生労働省や農林水産省など関係する省庁が複数あって、縦割りになっているが、これは問題ではないか。関係省庁が共同してADRを設けることも考えられると思うが、そういう検討はされていないのか。ADRの利用を考えている人がたらい回しにされないようにという方向性はいいと思うが、その際の利用者の求めているものに関する情報の引継ぎの正確さをどのようにして確保するのか。ADR機関の質を一定以上のレベルにすることも必要と考えるが、この質的な標準化の問題についてはどう考えているのか。ADRで解決できなければ裁判ということになるが、判例の紹介など、司法につなげるための橋渡しも必要である。

● 第1の質問については、関係省庁等連絡会議には公正取引委員会にも入っていただいている。たまたま個々の施策との関係では、公正取引委員会が名宛人として明記されなかったということである。第2の質問については、関係省庁が協同してADRをつくるという話にまでは至っていない。第3の質問については、資料1の8ページに記載があるので御覧いただきたい。関係者間の意見交換の場で、この記載例のような検討を続けていきたいと考えている。第4の質問については、質の統一化は難しいと考えている。ADR検討会でも大きなテーマの1つであるが、ADRの多様性を確保しつつ質の向上を図ることができればと考えている。

 日本司法書士会連合会林勝博副会長及び埼玉司法書士会大貫正男副会長(社団法人成年後見センター・リーガルサポート理事長)から、資料2に基づいて説明がされた。
 その後、次のような意見交換がされた。

○ 成年後見に関して、弁護士会との連携はどうなっているのか。

△ 連携に力を入れている。被後見人が民事介入暴力に巻き込まれているケースで、民事介入暴力に詳しい弁護士と連携した例などがある。

○ 司法教育に取り組んでおられるそうだが、今後の計画についてお聞きしたい。また、正規の授業としてカリキュラムに組み込んでいる学校もあるとのことだが、そうなるまでに苦労した点などがあれば教えていただきたい。

△ 授業のカリキュラムは固定化されていて、最初は難しい面があった。当初は特別授業という形をとったりした。学校の先生のネットワークに参加するなどして取組みを進めている。アクセス・ポイントが司法教育を担うということも方向性としては考えられるのではないか。

○ 先ほどADRの質の標準化の話をしたが、若干補足したい。ADRの多様性を否定するつもりはない。しかし、同じような紛争を取り扱う複数のADRの間で、サービスの質に著しい違いがあるとか、利用料金に著しい違いがあるのはどうかという問題もあるのではないかという趣旨で申し上げた。

○ ADRには調停型と仲裁型があると言われる。ADRの整備というときに、どちらのADRを念頭に置いた話になるのか。また、財源とADRの中立性の問題についてはどう考えているのか。ADRが特定の資金源に偏るとADRの中立性・公正性を疑われるおそれがあるが、そのために利用料金に財源を求めるとすると、利用者の負担が重くなる。

● 実際には調停型のADRの方が多いと思うが、アクション・プランでは、特にどちらの型のADRを念頭に置いたということはない。財源について、国がどう関与すべきかは、ADR検討会で検討している。国の関与については、裁判を受ける権利が憲法上保障されているのに対し、ADRの利用は異なる面があるため、国がADRの支援をどこまですべきかという問題がある。また、国は、裁判のみでは十分でないと考えられる分野では行政型ADRを設けており、これに加えて他のADRの支援まですべきなのかという問題もある。ADRの側でも、資金援助はありがたいが、資金援助を受けると口出しをされるのではないかという懸念もあるようである。

○ ADRに関しては、制度改革というよりも、まず制度を整備するのが先であると思う。現状では、どこに何を相談しに行ったらいいのかが分からない。情報提供が十分とは言い難い状態である。ADRの利用に関する情報提供は、少なくとも行政型ADRについては急いで整備すべきだろう。質の問題以前に情報提供の問題が重要である。質の問題に関しては、質が担保された上で、各ADR機関が良質なサービスを提供し、全体としてADRで提供されるサービスの質が向上するような仕組みをどのようにして作るのかが問題なのではないか。

○ 消費者の立場からは、被害の拡大防止が重要である。個々の紛争解決だけにとらわれているのは問題だと思う。もう少し大きな視点で、ADRは何を目指すべきかについても考えるべきである。それぞれのADRがどういう姿勢で紛争を解決しようとしたかについての情報提供も重要である。民間型ADRについては、先ほどの議論にもあったが、財源の確保と中立性の確保は重要な問題である。

○ 今の委員の御発言は、悪徳業者に関する情報も提供すべきであるという趣旨か。

○ 業者の名前を公表するという趣旨ではない。公表すると、悪徳な業者は違う名前を使って事業を続けるため、その点に配慮する必要がある。これまでは、行政が業者名を公表することに慎重すぎたりして、被害が拡大された面があったことを指摘したい。

○ ただ今の御指摘にはもっともなところがある。しかしながら、アクセス・ポイントが業者名の公表やリコールのようなことまでするとすれば、司法の利用に関する情報とはやや異質な感じを受ける。

○ 業者名の公表ということではなく、各ADR機関が紛争解決の事例についてのデータを共有できないかという趣旨で申し上げた。裁判の場合は判例が共有され、紛争解決の手がかりになっている。ADRの紛争解決例も同じように共有され、紛争解決の手がかりにできないかという意味で申し上げた。

● ただ今御指摘のあった点については、資料1の9ページ以下で関連する取組みを講じていくこととしているので御参照いただきたい。

○ ADR基本法は、裁判所が行っている調停も含めて、およそ全てのADRを対象とするのか。

● 現在検討中である。基本理念や国の責務のような部分はできるだけ幅広くとるべきであろうが、個別の法的効果については、司法型・行政型ADRには既に個別法で規定のあるものも存在するので、適用範囲については調整が必要である。

○ ADRの推進と言っても、日本では難しいのではないか。我が国では裁判所への信頼が非常に高い。特に、企業がADRを使おうという考えになっていないのが実態ではないか。アメリカではADRがよく利用されているが、これは、陪審による訴訟を避けるとか、自分達で選んだ専門家で仲裁委員会を構成できるといった理由によるものだろう。こういった要素がないと、ADRの普及は難しいだろう。日本では、むしろ、司法へのアクセスが重要な段階である。参考までに申し上げると、弁護士会の仲裁は、東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会の3会で行っているものを合計しても、年に500件程度である。ADRが裁判と競争できるというレベルではない。もっとも、弁護士会の仲裁では、交通事故の加害者が、被害者からいろいろと請求をされ、自分の方からは裁判を起こせないのでということで申立てをするというケースが結構多い。こういう特徴を活かしていくべきであると考えている。国が関与してADRを均質化してしまうのはどうかという面もあり、慎重に検討してもらいたい。

○ ADRの全体が見えていないのが問題である。どういうものがあるのか知られていない。司法へのアクセスが重要であるのはそのとおりであるが、ADRについての情報提供を強化することによりADRが利用されるようになり、ADRの活性化につながる面もあるので、ADRについての情報提供も同様に重要であると思う。アクセスの拡充について様々なところで取組みが行われているが、それぞれ別々に行われていて連携が図られていないところに問題があるのではないか。それぞれの独自性を活かしつつ、どのように連携させて、利用者に分かりやすいものにしていくかが重要だろう。先ほど、成年後見の例で、弁護士会との提携が話題になった。各法律専門職の間でも、連携の意欲はあるのだと思うが、垣根があってなかなか実現しないという面もあろうかと思う。各法律専門職の間での連携についても検討していく必要があるのではないか。

(2) 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて

 事務局から、資料3に基づいて説明がされた。
 日本弁護士連合会津川博昭前副会長から、資料4に基づいて補足説明がされた。
 その後、次のような意見交換がされた。

○ 敗訴者に負担させるべき額を最初に議論するのはおかしいのではないか。まず敗訴者負担制度を導入する根拠について議論し、次に敗訴者負担制度を導入する範囲について明らかにし、最後に敗訴者に負担させるべき額について議論すべきだろう。

○ 敗訴者に負担させるべき額を初めに議論すべきであると考える。敗訴者負担制度の導入に反対の立場の方々の中には、大企業を相手に訴訟を起こして負けると企業の弁護士費用として1億円とか3億円といった極めて大きな額を支払わされるということを言っている人もいる。我々が議論している敗訴者負担制度により敗訴者が負担すべき額についてある程度収束させておかないと、議論が極端に流れるのではないか。敗訴者に負担させるべき額のイメージをある程度明らかにして、そして敗訴者負担制度を導入する範囲、しない範囲を議論していった方が議論がしやすいのではないかと思う。

○ 敗訴者に負担させるべき額を先に議論すべきだという意見に賛成である。敗訴者に負担させるべき額がどの程度かが分からないと、敗訴者負担制度を導入する範囲、しない範囲についての議論もしにくいのではないか。私も、敗訴者負担制度の導入に反対の人が、負けた場合は億単位の額を負担をさせられると言っているのを聞いた。私自身は、そんな大きな額の負担になるとは夢にも思っていなかったので驚いた。各委員に、どの程度の額を敗訴者の負担とすべきかお聞きしたい。金額についての具体的なイメージがないと議論しにくいと思う。

○ この検討会では、敗訴者負担制度についての議論をすると、すぐに制度導入に伴う弊害論に議論が移っていく。裁判とは何か、弁護士費用の必要性についてどう考えるかという部分に違いがあるから議論になるのだろうと感じている。21世紀の司法に何が必要かという視点で、このような骨格の部分の議論をする必要があるだろう。議論としては、敗訴者負担制度がそもそも理不尽なのかというレベルの議論もある。弁護士報酬の敗訴者負担制度は、本当に理不尽な制度なのか。日本弁護士連合会の御意見は理解できるが、弊害があるとされる部分は、社会運動の一環として裁判をしている部分である場合が多いという感じを受ける。制度論とは異なると感じる。ムーブメントが制度を作っていいのかという気もする。制度論をはっきりさせて、ムーブメントが働きかけられる部分はどこかを議論すべきではないか。片面的敗訴者負担制度の議論もあったが、先走った話だと感じる。これまでは、裁判制度はどうあるべきかという骨格論と具体的な問題点とを混同して議論していたために混乱しているのではないか。骨格を論ずる制度論の部分と、具体的な問題点とは、別々に議論した方がいいのではないか。敗訴者に負担させるべき額がどのくらいかという部分の感覚を共有することは重要である。敗訴者に負担させるべき額について、肌感覚で違いがあるのは問題である。政策形成型訴訟については他からの費用援助をするという制度論も議論としてはあり得ると思うが、骨格の部分に関して、敗訴者負担制度は制度として理不尽なのかどうかを1回は議論した方がいいのではないか。もっとも、制度として敗訴者負担制度は理不尽かどうかという議論ははこれまでにされていて、一応、理不尽な制度ではないというところに到達した司法制度改革審議会意見を受けて、この検討会は議論を進めているのではないのか。そこに立脚しないと、議論が混乱したままになる。私は、片面的敗訴者負担制度は、少し距離を置いて、後で考えるべきだろうと思う。

○ 司法制度改革審議会意見を前提に議論しようということになっていたと思う。司法制度改革審議会意見が絶対的であるわけではないので、司法制度改革審議会意見についての意見はやめるべきだという趣旨ではないが、各論について議論をするということになっていたと思う。各論の検討順序について、鶏か卵かという面はあるが、これまでの委員からの御発言を前提にすると、敗訴者に負担させるべき額についての御意見を先にいただいた方が、次のステップに行きやすくなるという感じも受けるが、いかがか。

○ やはり、敗訴者負担制度を導入する理由についての議論をすべきだと考える。敗訴者に負担させるべき額の議論を先にすると、例えば、負担させるべき額が10万円くらいなら、敗訴者負担制度を導入する範囲、しない範囲についての議論はあまりつめてやらなくていいという流れになるような気がする。やはり、敗訴者負担制度を導入する目的を明らかにするべきである。

○ 10万円の負担だからということではなくて、10万円の負担が弊害になるかどうかが問題だろう。弊害がない場合に制度導入に反対する理由はないと思うがどうか。この問題はさて置いて、制度導入の目的について若干コメントしたい。日本弁護士連合会は、アクセスの拡充が敗訴者負担制度導入の理由だという御意見だった。私は、アクセスの拡充は確かに制度導入の理由の1つだと思うが、「アクセス」の理解のしかたは、日本弁護士連合会とは異なる。原告側からのアクセスのみを考えることがアクセスの拡充だとは思わない。被告側からのアクセス、つまり、訴えられた側にも良質な司法サービスをという視点も加味して考慮すべきであると考えている。だからこそ、訴訟費用を用意できない当事者のための訴訟救助制度、法律扶助制度は原告のみでなく被告も対象としている。民事訴訟では、被告が法廷に出頭しなければ基本的には敗訴してしまうため、敗訴したくなければ被告は訴訟に対応しなければならない。このように応訴を余儀なくされている被告をいかにして保護するのかが民事訴訟法の課題であり、それは、例えば、裁判所の管轄を定める場面では、被告の住所地を管轄とするという規定が置かれているように、被告が司法にアクセスしやすいようにという配慮がされている。このような配慮をした上で、民事訴訟法は、当事者を対等に扱うことにしている。原告の立場だけを強調して、原告の視点からのアクセスだけを考えることが適当だとは思わない。司法制度改革審議会意見では、弁護士は社会生活上の医師になることが期待されている。被告側も、社会生活上の医師である弁護士へのアクセスを必要としている。弁護士報酬の負担という問題を考える際の基本的な原理は公平である。したがって、弁護士報酬の負担は、各自負担か敗訴者負担にすべきであって、片面的敗訴者負担制度は公平ではない。現在、訴訟費用については敗訴者負担制度が公平であるとされている。弁護士報酬の負担の問題を考える場合に、訴訟費用については公平の原理から敗訴者負担の原則が採用されていることとの関係をどう考えるのか。これまでは、当事者が自分の都合で弁護士に訴訟追行を依頼して報酬を払うのだから、それを訴訟費用に入れるのは適当でないという考え方が採用されていたが、今はそういう状況ではないと思う。私は、司法制度改革審議会意見は、弁護士を社会生活上の医師と位置付け、弁護士に支払う報酬は必要な費用だという位置付けをしているものと理解している。だとすれば、訴訟費用の負担原則をも考慮すると、骨格論としては、弁護士報酬の一部を敗訴した当事者が負担するという制度は十分に骨格として成り立ち得ると考える。敗訴した当事者の与り知らないところで、契約ベースで決まる弁護士報酬の全額を敗訴の当事者の負担とするのは合理的ではないので、敗訴者に負担させるべき額としては、何らかの客観的な基準でその上限を画していくべきだろう。上限を画すだけで、裁量に委ねるのか、固定額にするのかはこれから議論すべき課題である。敗訴者に負担させるべき額について議論して、それでもなお、敗訴者負担制度を導入すると弊害がある、公平でないという部分を議論した方が議論が見えやすいのではないか。確かに、当事者間の地位に差がある場合はあり、それに対応するために、例えば労働関係の分野や消費者関係の分野などで特別法が制定されている。このような現行法秩序を考慮しつつ、何が公平かを検討していくべきではないか。

○ 我が国では2割司法という現状があることを考慮すべきであると考える。我が国の司法は諸外国に比べて貧弱である。不当な訴えの被告にされた方々のことをどう考えるべきかという問題はある。そういう状況に置かれた場合に、訴訟に伴う出費を相手から回収したいという気持ちは分かる。しかし、頼りがいのある司法をと言われ、規制緩和により今後はもっと司法の利用が増えなければならないときに、敗訴者負担制度を導入するというのはどうか。敗訴者負担制度の導入により、本来司法の場に持ち込まれるべきものが持ち込まれないという現象を招くのではないか。先ほどの委員の御意見に真っ向から反論するわけではないが、2割司法のままでいいのかということを申し上げたい。弁護士の報酬に対しても、消費者の立場から申し上げたいことは沢山ある。割高感がある。提供されるサービスの内容や質に応じた料金体系になっているのかという点から、消費者として申し上げたいことは沢山ある。広告や表示に努力されると聞いているが、消費者は、弁護士に依頼するといくらかかるのか分からない。理論的にこうだからということで敗訴者負担を導入していいのかという気がする。

○ 補足させていただきたい。私は、敗訴者負担制度を一律に導入すべきだという意味で意見を申し上げているわけではない。一般法の領域と個別法の領域は区別して議論をしてはどうかと申し上げている。例えば、消費者関係の分野については、私の考えていることと、ただ今御発言になった委員とで、認識にそれほど大きな隔たりはないと考えている。消費者関係の分野の議論を一般法の分野の議論の際にするのはどうかということを申し上げている。

○ 司法は国民にとって縁遠い存在である。弁護士も含めて縁遠い。利用しにくく、開かれていないように見える司法の在り方を今議論しているのではないのか。こういう骨格だということが決まっているなら、こういう検討会を設ける意義はないのではないか。司法制度改革審議会意見で既に決まっているということだが、それならばなぜ、私に敗訴者負担についての意見を問う人が多いのかよく分からない。

○ この検討会は、司法制度改革審議会で出された結論を前提に議論すべきである。司法制度改革審議会意見を前提とすると、敗訴者負担制度を一切導入しないという結論はあり得ないのではないか。弁護士報酬の敗訴者負担制度を導入することが問題だと言われるが、それは、この分野に導入したら問題であるという議論であり、この議論については今後この検討会でも進められるだろう。私が言っている骨格論というのは、敗訴者負担制度を導入する理由は何かということを、21世紀の司法を前提に議論するということである。本人限りで裁判ができるという前提であれば、弁護士の関与が必要でないのに弁護士を頼んだのだからという理由で、各自負担が合理的である。しかし、現在はそうは言えないのではないか。裁判をするのに弁護士の持つ知見が必要不可欠だから、言わば弁護士は司法インフラの一部だから、その報酬の一部は、訴訟費用と同じように、勝訴した方が敗訴した方から回収するという議論ではないのか。

○ 弁護士は、裁判所にアプローチするときに通過していかなければならない人達だから、私たちとどう関わるかが議論になる。私は、敗訴者負担に賛成の意見も反対の意見もあっていいと思う。しかし、この国の裁判の骨格を議論するときには、敗訴者負担に反対の意見も汲み取っていかなければならないのではないか。弁護士の立場に立つなら、ただ今の委員の御意見のとおりだと思うが、生活者の立場からは、ただ今の委員の御意見には賛成できない。

○ 弁護士の知見が必要不可欠だから弁護士報酬の一部を敗訴者の負担にすべきとの御意見があったが、論理必然ではないのではないか。弁護士への費用が必要不可欠であるとして、誰が負担するのが司法へのアクセスの拡充になるのかという議論が介在しなければいけないと思う。敗訴者負担制度の導入の根拠として、公平を度外視していいとは思わないが、アクセスの拡充が中心だろう。公平を図ることが目的ではないと考える。

○ 先ほど、敗訴者負担の導入に反対の意見も聞くべきだという御指摘があったが、各論に入らないと出てこない議論であるように思われる。鶏と卵の例ではないが、様々な検討課題がいろいろと関係しているので、各論の検討を進めてはどうか。委員から、アクセスと言っても2つの意味があるとの御指摘をいただいたが、そのあたりをとっかかりにして議論していただくのはどうか。また、複数の委員から御指摘があったが、敗訴者に負担させるべき額についても議論していただかないと、話が進まないのではないか。もちろん、敗訴者負担制度を導入してもいい類型、導入すべきでない類型についても議論していただきたい。

○ 様々な御意見があるが、裁判は何をする場かという点に関する考え方に違いがあるために意見が分かれるのだろう。私は、社会問題が全て裁判を通じて解決されるべきで、司法が世の中のを正しい方向に導くとは考えていない。実効的かどうかという問題はあるが、社会問題を解決するためのチャンネルは、司法以外にもある。この検討会では、反対論の立場からの意見は聞く。こういう分野に敗訴者負担制度を導入してはならないという意見は聞くが、導入すべきであるという立場から、どういう理由で敗訴者負担を導入するのかということについての議論が足りないと感じる。そういう議論を聞いてみたい。その先に、片面的負担という議論があり得るのかもしれないが、もう少し先の議論だろう。

○ 弁護士報酬の敗訴者負担制度を導入しない範囲の検討に当たって、対等でない者の間を規律している特別法の思想についても考えるべきだろう。そういう思想を、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いに当たっても考慮すべきだろう。

○ 総論の議論ばかりしていても平行線を辿るだけである。それで、以前から、各論の議論をしてはどうかと申し上げてきた。敗訴者が負担すべき額の定め方は、重要な検討課題である。額が多い、少ないという議論ではなくて、合理的で予測可能な、しかも訴訟提起を抑止させない額の定め方はどうすべきかという視点で議論してはどうか。外国では敗訴者負担制度が採用されているために訴訟提起が抑制されているという御意見をお聞きしたこともあるが、外国で敗訴者の負担とされる弁護士報酬の額は、タイム・チャージで決められているなど、予測可能性の点で問題があるという側面がある。司法制度改革審議会意見で言われている敗訴者負担制度は、外国の例にあるような制度とはその点で異なるはずで、この検討会では、日本の敗訴者負担制度はどうあるべきかについて議論してはどうか。

○ 訴訟を起こしやすくすればそれでいいのかという点も問題である。何でも訴訟で解決するという社会が良い社会だとは思えない。そういうことになれば、失うものも多いだろう。司法に全ての問題の解決を期待すべきではないのではないかと思う。

○ 現状では、立法、行政、司法のチェック・アンド・バランスが十分に機能していないのではないか。司法はもう少し大きくなっても良いと思う。

(3) 今後の日程等について

 次回については、引き続き、司法の利用相談窓口・情報提供、民事法律扶助の拡充、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて検討を進めることとなった。

(次回:平成15年5月30日 13:30〜)