● 民事法律扶助法第2条では、「民事裁判等手続の準備及び追行のため代理人に支払うべき報酬の立て替えをすること」が扶助事業となっており、同法第7条第1項では、指定法人、つまり法律扶助協会は、業務規程を定めて法務大臣の認可を受けなければならないことになっている。法律扶助協会は、これらの規定に基づき、民事法律扶助事業業務規程を定め、法務大臣の認可を受けている。また、民事法律扶助法第7条第2項では、「業務規程には、第2条に規定する立替えに係る報酬の基準に関する事項を記載しなければならない。」となっていることから、民事法律扶助事業業務規程では、第24条と別表2で、民事法律扶助事業の立替えに係る報酬等の基準が定められている。これが「代理援助支出基準表」である。
「代理援助支出基準表」は、例えば、金銭事件については、「交通事故その他損害賠償請求、金銭請求事件」と「手形訴訟」に区分されている。「交通事故その他損害賠償請求、金銭請求事件」の着手金については、訴額が基準となっており、50万円未満が6万円、50万円以上100万円未満が9万円、100万円以上200万円未満が12万円、200万円以上300万円未満が15万円、300万円以上500万円未満が17万円、500万円以上1,000万円未満が20万円、1,000万円以上が22万円で、「手形訴訟」については、この2分の1となっている。また、報酬金を見ると、いずれも、現実に入手した金額を基準に、その金額が1,000万円まではその10パーセント、1,000万円を超え3,000万円まではその超える部分の6パーセントを加算するなどとなっている。なお、この報酬金については、当面取立てができない事件は6万円〜12万円とし、標準額が8万円となっている。
次に、日本弁護士連合会犬飼健郎副会長から、資料3に基づいて説明がされた。
その後、次のような意見交換がされた。
○ 民事法律扶助では、原告が扶助を受ける場合も被告が扶助を受ける場合も、援助の支出基準は同じなのか。
○ 同じである。
○ 今後弁護士報酬がどうなるか分からないから、弁護士報酬の敗訴者負担を議論するのは時期尚早ではないかという意見があるが、資料3によると、現在でも、弁護士報酬の額はかなりバラバラである。今後も、弁護士報酬の額が一定の額に集約されることはないだろう。割り切って考え、検討を進める必要があると思う。
○ 日本弁護士連合会の資料作成の際のアンケートは無記名で行ったのか。
△ 記名で行った。
○ 日本弁護士連合会の資料3に掲げられている事例は、原告が弁護士に依頼するケースであるという印象を受けるが、同じケースで被告が弁護士に依頼する場合でも、報酬の額は同額になるのか。
△ 基本的には同額である。
○ 一部勝訴の場合、訴訟費用の負担割合は、請求額に占める認容額の割合と関係があるのか。
○ 認容額の割合と比例する傾向が強いが、常に比例するというわけではない。事案に応じて柔軟な対応ができる制度になっているし、現にそのような対応をした事例もある。例えば、認容額が請求額の5割に満たない場合でも、訴訟費用は全額被告の負担とされる場合もあり得る。仮に、弁護士報酬を訴訟費用のように扱うとして、一部勝訴の場合にどうすべきかは、十分に検討すべき問題だろう。
○ 資料3には、月収20〜30万円の人にとってはと書かれているところがあるが、このような人は法律扶助の対象に入ってくるだろう。このような例では、訴訟に勝った場合に弁護士報酬の一部を相手から取れるというのは、大きな意味を持つのではないか。
○ アメリカの少額請求に関する論文によると、少額の請求の場合、訴訟をためらう人は4人に1人程度の割合だそうである。訴訟をためらう理由については、47パーセントがコストだと回答したそうである。参考になるのではないか。
○ 訴訟に勝った場合に相手から取れればいいが、例えば、離婚訴訟では、提訴する段階では勝つかどうかは分からないこともあり、勝っても相手から回収できないケースもある。
○ 勝訴の見込みのない事案は、法律扶助の対象にはならないのではないか。
○ 勝訴の見込みがないとは言えないという要件である。弁護士報酬の敗訴者負担が入ると、勝つ見込みのある事件に絞って扶助するということになりかねない。
○ 日本弁護士連合会の資料3-5にあるフィンランドの例では、弁護士報酬の敗訴者負担制度が設けられている理由の一つに濫訴防止というものがあるが、そのような理解でいいのか。
△ フィンランド政府の主張ではそうだと考える。
○ 民訴費用制度等研究会の報告では、弁護士報酬の敗訴者負担制度は、インフラが整った段階で本格的検討が行われるべきだという趣旨のことが書かれている。現在、インフラは整っていると考えていいのか。現状は変わっていないと思う。法の支配という観点から考える必要がある。裁判所は、国民にとって身近な存在ではない。裁判所には法解釈を通じて法秩序を創造する役割も期待されているが、後ろ向きの判断が多い。権利保護保険の発達も十分でない。慎重な検討が必要だと思う。
○ 日本弁護士連合会の問題意識、慎重な検討が必要であるとの委員の問題意識を肝に銘じたいと思う。ところで、敗訴者に負担させるべき額の定め方について、第14回検討会資料3によると、上限額を定めて、その範囲内で裁判所が決めるという考え方があるが、これは、予測可能性の点で問題があろう。この資料の2②又は③の考え方がよいのではないか。法律扶助協会の支出基準による着手金の額がいいかどうかは別として、額の定め方の上で参考になるだろう。控え目な額を設定すべきだと思う。
○ 上限額を定めてその範囲内で裁判所が決めるという方法に問題があるのではないかとの委員の意見に賛成である。訴額を基準に考えるのがよいと思う。
○ 訴額を基準にすべきではないかという意見に賛成である。法律扶助協会の支出基準によると、金銭請求事件の着手金の上限は22万円とされているが、敗訴者に負担させる額の上限をこの額にするのかどうかは、検討の必要があると思う。
○ 行政訴訟などでの片面的敗訴者負担制度を検討すべきである。合理的な額が重要だという話は分かるが、今後、弁護士報酬は多様化する。法律扶助協会の支出基準もどうなるか分からないのではないか。
● 法律扶助協会の支出基準は、日本弁護士連合会の定める報酬等基準規程の範囲内で、被援助者に著しい負担になるようなものではないこと、適正な法律事務の提供を確保することが困難となるようなものでないこと、援助案件の特性や難易を考慮したものであることという観点から、法律扶助協会で定め、法務大臣の認可を受けたものである。今回の法改正でも、この制度に関する改正は行われていない。法律扶助協会の支出基準は、予測可能な合理的な額を議論していただく上で参考になればという趣旨である。どのような額の定め方が予測可能で合理的な額を定める上でよいのかを議論していただければと思う。
○ 敗訴者に負担させる額については、上限を設けた方がいいと思う。常識的なところで決めてもらいたい。法律扶助協会の支出基準のうち、金銭請求事件の着手金の上限額である22万円を上限にしてもいいのではないか。また、全てを裁判所の裁量で決めるというのはともかく、裁量の余地は若干残しておいた方がいいのではないか。もっとも、低い額にすると、弁護士報酬の負担を理由に訴訟を回避していた人達にとってどれほどのメリットがあるのかという問題があり、何のための制度かという話にもなるのだろうが。
○ 敗訴者負担制度を導入する範囲、しない範囲に関して、政策形成型訴訟というくくり方はやめた方がいいと思う。誰が政策形成型訴訟だと判断するのかという問題がある。当事者の主観もバラバラである。敗訴者負担制度を導入しない範囲を考えるには、定型的に力に差がある当事者間の訴訟、少額訴訟のようにそもそも弁護士の関与が予定されていない訴訟などを拾いあげていく手法がよいのではないか。
○ 3月10日の日本弁護士連合会の意見に沿って考えていただけるとありがたい。敗訴者負担制度を導入しない範囲として、行政訴訟、労働関係訴訟、個人の権利・利益の侵害に関する訴訟、人事訴訟などが考えられる。片面的敗訴者負担制度についても議論してもらいたい。
○ 個人の権利・利益の侵害に関する訴訟とは、具体的にはどのような訴訟なのか。
○ 医療過誤訴訟、消費者契約に関する訴訟、公害訴訟、薬害訴訟、環境訴訟などである。
○ 敗訴者負担制度を導入しない範囲について、訴訟類型別に議論していくことに賛成である。
○ 行政訴訟には敗訴者負担制度を導入すべきでないという意見があったが、どのような理由が考えられるか。
○ 行政の情報開示が不充分である。国民からの意見聴取も不十分である。行政訴訟になる種がまかれている。行政訴訟では、片面的敗訴者負担制度にすべきである。
○ 行政訴訟の場合、指定代理人制度がある。また、公権力行使のチェックという意味もある。国民にとっては、行政訴訟は、公権力行使の適法性を争う唯一最大の手段である。このあたりに政策的配慮をするかどうかということではないか。
○ 労働訴訟については、どのような理由が考えられるか。
○ 労働関係訴訟では、使用者と労働者の間の訴訟、使用者と組合の間の訴訟、組合間の訴訟という3つのパターンがある。各パターンごとに検討する必要があるのではないか。
○ 使用者と労働者の間の訴訟は、敗訴者負担制度を導入しない典型例ではないか。力に差がある。以前は、組合が労働者の訴訟を支援することもあったが、最近は、未組織の労働者が当事者となるケースも増えている。一方、使用者と組合との間の訴訟については、組合がそれなりのバーゲニング・パワーを持っているという前提なので、必ずしも敗訴者負担を導入しない範囲としなくてもよいという気がする。
○ 不当労働行為を理由とする訴訟では、少数組合が当事者になることもある。そのようなケースもあるので、使用者と組合との間の訴訟も、敗訴者負担を導入しない範囲にするべきである。
○ 男女共同参画に反する場合は、個別的労使関係の問題になるのか。
○ 昇進や賃金の差別の問題なら、使用者と労働者の間の問題に入るだろう。
○ 最近は、未払賃金の支払を請求する訴訟も増えており、労働者が勝つことも多い。そのような場合、労働者が自分の弁護士の報酬を負担するのは酷な気もする。このあたりの事情をどう考えるか。
○ 雇用関係にあるという主張をして、地位確認と未払賃金の支払を請求する場合もある。個別的労使関係の訴訟には敗訴者負担制度を導入しないという形で整理した方がいいのではないか。
○ 人事訴訟についてはどう考えるか。一生の問題だから、弁護士報酬に関わりなく、訴訟を起こすということになるのか、弁護士報酬の負担によって萎縮する場合もあるということなのか。
○ 人事訴訟では離婚訴訟が多い。離婚は破綻主義になっており、勝ち負けという感じではない。訴訟の勝敗が分からないため、それなら10年別居するという人もいる。ドイツでも、離婚訴訟は敗訴者負担制度が適用されない。フランスでも同様である。
○ リソースの偏在のない個人間の訴訟は、敗訴者負担を導入しない範囲にしなくてもいいのではないかと感じる。敗訴者負担を導入する範囲、しない範囲に振り分ける理由については、十分に検討する必要がある。まず、基本的な原理を示す必要があるのではないか。実態から入ってしまうと収拾がつかなくなるのではないか。
○ 実態を考慮するべきではないか。
○ まず、原理原則を示して、敗訴者負担制度を導入するものとしないものに分けるべきである。分けた後、実態も考慮して、最初の振り分けがいいのかどうか考えるべきではないか。
○ 離婚の場合、訴訟の前の調停にすらたどり着けない人も多い。安心して裁判を起こせる環境を確保する必要があるのではないか。
○ 重要なのは、当事者が納得する形で解決することだろう。裁判所での解決がベストという前提で、裁判所へのアクセスをよくするという考えが常に妥当するのかどうか、慎重に検討すべきだろう。裁判で決まったからといって、裁判の翌日から、当事者が笑顔で顔を合わせることができるということにはならないのではないか。
○ 全てが裁判で解決されるのがいいとは思わないが、訴訟にたどり着けないケースが少なくないという現状が問題ではないか。だから、司法へのアクセスをよくして、気楽に裁判所に駆け込めるようにということで検討しているのだろう。
○ 外国では、訴訟をしないと離婚できず、我が国のように協議離婚という制度がない場合もあることは考慮する必要がある。人事訴訟の場合は、労働訴訟のように、当事者間に力の差があるという理由で説明するのは難しいと思う。何か別の方法での説明を考える必要があるのではないか。
○ 原理をはっきりさせるべきという意見に賛成である。労働訴訟では、当事者間にバーゲニング・パワーに差があるという考え方は一つの原理なのではないか。離婚訴訟の場合、当事者間にバーゲニング・パワーの差はないだろう。離婚は調停前置であり、調停でまとまらなくて初めて訴訟になるが、子供をどうするかとか慰謝料でもめているケースが多いように思う。子供をどうするかというあたりを考えると、公益という観点がメルクマールになりうるのではないか。
○ ドメスティック・バイオレンスの問題や薬害の問題なども検討すべきではないか。