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司法アクセス検討会(第16回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日時
平成15年6月20日(金) 13:30〜16:40

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第2会議室

3 出席者
(委 員)
高橋宏志座長、亀井時子、始関正光、西川元啓、長谷川逸子、長谷部由起子、飛田恵理子、藤原まり子、三輪和雄、山本克己(敬称略)
(事務局)
松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官、後藤健企画官

4 議題
(1) 司法の利用相談窓口・情報提供について、民事法律扶助の拡充について
(2) 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて
(3) 今後の日程等

5 配布資料
資料1 司法ネット(仮称)に関する有識者懇談会関係資料
(1 - 1) 議事概要
(1 - 2) 片山知事説明資料
(1 - 3) 松本弁護士説明資料
(1 - 4) 鈴木司法書士説明資料
(1 - 5) 高峰編集局次長説明資料
資料2 司法ネット(仮称)検討資料
資料3 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いに関する議論の概要(第15回検討会まで)
資料4 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて(労働検討会における委員の意見)
資料5 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて(行政訴訟検討会における委員の意見)

6 議事

(1) 司法の利用相談窓口・情報提供について、民事法律扶助の拡充について

【高橋座長】 それでは、第16回「司法アクセス検討会」を開催いたします。初めに事務局から、本日の議題と配布資料についての説明をお願いいたします。

【小林参事官】 本日の議題につきましては、お手元の議事次第にありますように、「司法の利用相談窓口・情報提供について、民事法律扶助の拡充について」、それから、「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて」、この2つを予定しております。
 配布資料につきまして御説明させていただきます。まず、資料1ですが、これは、去る6月5日に、地方におけるいわゆる司法過疎問題を中心に、推進本部におきまして、国民の司法へのアクセスについて、関係する方々から率直な御意見をお聞きしたいと考えまして、「司法ネット(仮称)に関する有識者懇談会」を開催いたしました。その有識者懇談会の資料を資料1として今回配布しております。
 資料2は、この有識者懇談会において議題となりました「司法ネット(仮称)」、についての検討資料です。
 資料3は、「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いに関する議論の概要」で、これまでの検討会における議論の概要を議事概要に基づきまとめたものです。
 資料4は、労働検討会における委員の意見の概要、資料5は、行政訴訟検討会における委員の意見の概要をまとめたものです。
 「司法ネット(仮称)に関する有識者懇談会」について、事務局から概要を御説明させていただいてはと考えております。

【高橋座長】 それでは、議題の1が「司法の利用相談窓口・情報提供について、民事法律扶助の拡充について」でございます。まず、事務局から、「司法ネット(仮称)に関する有識者懇談会」の議論の状況の説明をしていただきたいと思います。

【後藤企画官】 去る6月5日に、地方におけるいわゆる司法過疎と言われる問題を中心に、国民の司法へのアクセスについて、関係する方々から率直な御意見をお聞きしたいと考えまして、「司法ネット(仮称)に関する有識者懇談会」を開催いたしました。御参加いただきました有識者の方は、鳥取県の片山善博知事、松本三加弁護士、鈴木晴男司法書士、熊本日日新聞社の高峰武さんの4名です。このほかに、顧問会議からは、佐藤幸治座長と4名の顧問の方々、更に森山法務大臣、それから検討会の関係では、公的弁護制度検討会の井上座長と当検討会の高橋座長に御出席いただいております。
 4名の有識者の方々からは詳細な御説明をいただいておりますが、簡単に御説明申し上げます。有識者の方々に御提出いただいた資料につきましては、本日の資料1の中の資料1-2から資料1-5までとしております。それぞれ御自身の体験されている地方における司法の問題について、関係するものをいろいろとお出しいただいており、それ自体非常に示唆に富むものになっていると思いますので、お目通しいただいた上で、後ほど御議論いただければと思います。それから、議事の全体をまとめたものとして、議事概要も、本日の資料1-1としております。
 まず、片山知事ですが、片山知事は、鳥取県倉吉市に日弁連のいわゆるひまわり基金公設事務所を設置する際に、これに対して経済的な面を含めて支援を行うなど、司法過疎の問題に積極的に取り組んでおられます。片山知事からは、県民意識調査などに基づいて、司法は国民にとって縁遠いという現状の話がありました。その原因としては、国民が、裁判は社会を円滑にする仕組みであるというような理解ではなく、何か非日常的なものだと考えているようである、そしてまた、身近なところに弁護士さんがいない、そこにやはり問題があるというような御指摘をされております。鳥取県の取組みとしては、「県政だより」などで、司法に関する広報活動をされております。司法制度改革についても、「県政だより」で多く取り上げて御説明いただいたり、あるいは、鳥取県弁護士会がどのようなことをやっているかということについて取り上げたようなものが、資料の中に入っております。また、ひまわり基金公設事務所を設置するに当たって、当初は赴任する弁護士さんがなかなかいなかったということもあって、金銭面の支援もされたということです。
 片山知事の御感想としては、地方にもやはり法律のサービスを求めたいというニーズはあるが、なかなかアクセスできない、そのためにニーズが埋もれて泣き寝入りになっているようである、アクセス・ポイントの増加や、弁護士過疎問題の解消、更には裁判の迅速化といったものについては、是非、国による司法インフラの整備をやっていっていただきたい、というようなお話がありました。
 次に、松本三加弁護士ですが、北海道の紋別市というところにあるひまわり基金公設事務所で、2年間所長を務められたという方です。松本弁護士からは、紋別のひまわり基金公設事務所の経験のお話がありましたが、やはり、地方にも法律サービスのニーズというのは非常にたくさんあるのだと、最初は仕事がないのではないかと思って赴任してみたが、行ってみると、次から次にいろいろな事件が待ち受けていた、というお話がありました。そして、弁護士がいない地域というのは、今、問題になっているヤミ金融業者やいろいろなものを売りつけるような業者など、そういう人たちからねらい打ちにされるのだと、そこでは、特に法律的な知識が足りないような方々については、無理な請求をしてお金を取り立てたり、暴利をむさぼったりという形になっており、地域一帯が被害を受けている状態になっている、実際に行って、弁護士として活動されると、必ずしも裁判にはならなくても、弁護士の方で交渉したり、依頼に来た人にきちんとした法律知識を教えてあげるだけでも、ヤミ金融業者は逃げていくというような状況があるということをおっしゃっていました。また、御自身の経験から、もし受任しなければ、泣き寝入りで終わっただろうと思うような事件もたくさんあったということも感じたとおっしゃっていました。
 松本弁護士からは、勿論、日弁連の方でもいろいろと取組みをしておられて、実際、松本弁護士のような方が現れているわけですが、経済的な面でも、会員から特別に会費を徴収して行っているところもあって、今後、これでゼロワン地域を全部解消するというようなことはなかなか難しいのではないか、あるいは、弁護士をどう確保するかという問題もある、やはり、国としてやっていっていただくべき問題ではないだろうかというような御説明がありました。
 鈴木司法書士は、山形県の天童市で司法書士をされている方です。山形県の司法書士会の方でも活動しておられるということですが、地方におけるサービスの需要が多く、地元の市役所などでも法律相談を行っているが、相談件数はどんどん増加していて、対応に苦慮しているようであるというお話がありました。巡回相談という形で、県内の山間部などにも行かれるようですが、そこでやってみると、相談する場所がなかったら相談に来ないままになってしまったのではないかというような事件が多い、天童市でも、中小企業の経営者が悪徳金融業者に食い物にされて自殺してしまったというような例もあるというような御紹介がありました。やはり、ボランティアでこうした問題に対応するには限界があって、これは何らかの取組みが必要ではないかというお話でした。また、啓発活動なども行っているという話がありました。
 高峰武さんは、熊本日日新聞の編集局で次長をされている方ですが、地方でも、県庁所在地とそれ以外の地域の間に格差がある、東京と地方のような形の格差がやはりあるという話がありました。熊本県の弁護士数、それから熊本県内の支部管内の弁護士数を比べると、県内の弁護士は全体として増えているが、支部の弁護士はどんどん減っているという状況にあるという話をされました。また、地方にもやはり法律サービスのニーズがあって、これに応えるような受け皿の整備が必要だという話がありました。
 その後いろいろ意見交換がされましたので、概要を御説明いたしますと、「弁護士がいないために泣き寝入りになっているような状態は改善すべきではないか」、「泣き寝入りになっているような人たちは声を上げないのだから、このような人たちの声を敏感にキャッチして政策を考えなければいけないのではないか」、「司法過疎問題の現状は予想以上に深刻であって、これまでの日弁連や司法書士会などの実質的な取組みだけでは全部を賄うのは無理ではないだろうか」、「地域に法律専門家がいることで地域の雰囲気は変わる、だから、是非そういう体制を整えた方がいい」、「中央に核となるような弁護士の集団をつくって、そこから弁護士が地方に行って経験を積んで、その経験を活かして別の仕事をするとか、そのようなやり方もあるのではないだろうか、ボランティアとしてはできないところについて、制度として国が何かやっていくということは必要なのではないか、そういうことをすれば、使命感のある弁護士さんが出てくるのではないだろうか」、「法曹人口が増えれば司法過疎問題は解決するという意見もあるが、問題はそれほど簡単なものではないのではないだろうか」、そのような意見が出ておりました。
 司法過疎の問題については、この有識者懇談会における議論を伺っておりますと、地方の実情はかなり切実であって、地方における法律サービスの需要に応えていくことが強く求められているということだと思います。地方における法律サービスの需要に応えるためには、自主的な取組みだけではなくて、国として何らかの手当てをすべきではないかという御意見が複数出ております。今後、この検討会でも、司法過疎問題を検討していただくに当たって参考になるところが多いのではないかと思いまして、御紹介させていただいた次第です。

【高橋座長】 どうもありがとうございました。それでは、司法過疎の問題が有識者懇談会でも取り上げられたということですので、そこに少し絞りまして、委員の皆様からの御意見をいただければと思います。いかがでしょうか。

【飛田委員】 司法過疎につきましては、弁護士さんや司法書士さんたちをインフラとして見た場合、大変大きな問題だと考えております。それで、これから先、関係各方面の皆様によって少しずつ充実していくことが、やはり、人口が少なくても起こっている問題は同じであるし、また、悪徳業者が、専門家がいないところをねらって入ってくるというようなことは大変大きな問題で、先ほどのお話の中にも自殺者が何名も出ているということが出てまいりまして、大変ショックを受けております。そういう意味では、まず、過疎を何とか解消しなければいけない、過疎といいましょうか、人口の過疎というのは、国の施策がやはり都市集中を促すような状況が続いておりますから、それに逆行することは大変難しいと思いますが、専門家を配置するということは、人口の密度にかかわらず大変重要だろうと思いますので、複数存在するようになるような方策を、これはそれこそ公的な資金で社会資本として考えていかなければいけない問題ではないかと思います。
 また、前にお伺いしておりまして、また今回もなんですが、テレビの活用やITの活用ということもありますけれども、そういったことも相談する側が、まずどのようにしたら一番アクセスしやすいか、設備のあるところに集まってもらう形を取るのがいいのか、あるいはサービスを提供する側が移動する形がいいのか、地域の山間地やあるいはまた違う土地の状況によりましても、地理的状況によっても、気象状況によっても工夫が必要だろうとは思いますけれども、融通無碍に対応していく必要があるのではないかということを痛切に感じております。
 それから、今回、この有識者の方のお話といいましょうか、データなどを見ながら、今までお話をしてこなかった問題で気になったことが1つあります。それは、県と県にまたがる消費者事件などですね。結局、そのような悪質な業者というのは、動き回ることが考えられますし、県域を越えた問題というものを、これからどのように把握して、そういうものは、事後救済の場合も、それだけ広範なところに被害者が出てきているということになると思いますから重要だと思いますが、事前の予防的措置のためにも、そういう県域を越えた問題というものを相互に情報交換し合っていかないと、いけないのではないかということを、今回の皆様の御検討の中で、また新たに気付いた点でございますので、こういった問題についての対応や、それから、融通無碍の行動ということも重要ではないかと思います。

【三輪委員】 司法過疎の解消というのは大変大事な問題だという認識は、委員の皆さん共通だろうと思います。今の有識者懇談会でのいろいろな発言の説明を聞いて、2つのことを考えました。
 1つは、今、法曹人口の増大が図られて、これは着実に実現しつつあるところだろうと思います。しかし、法曹人口を増やすと弁護士人口がかなり増えることは間違いないのですが、弁護士人口が増えることによって、いずれ司法過疎は解消するのかというと、先ほどの熊本日日新聞の方の説明にあるように、必ずしも楽観できないというか、むしろ悲観的であって、弁護士の大半は大都市に集まる、大都市でないとしても県庁所在地に集中して、本当に過疎と言われるようなところにはなかなか回っていかないのではないかということが予想されます。その解消にどのような手当てをしていくのかということを、方法として考えていかなくてはいけないだろうということです。
 もう1つは、前回までの日弁連からの報告等で、日弁連が相当この問題に力を入れていまして、弁護士のゼロワン地区の解消ということで、一生懸命やっていただいていることはよくわかりました。ただ、その日弁連の施策がこのまま充実して進められることは間違いないとしても、それを見ている、それを待っていることによって司法過疎の問題が解消するかというと、これまたかなり悲観的に見るべきではないかということです。先ほど松本弁護士の説明として紹介していただいたように、弁護士会、日弁連の施策で賄える範囲というのは、おのずから限界があるのではないかと思います。
 そうすると、本来の司法過疎の解消の問題としては、どのような組織なり団体が受け皿として取り組んでいくかということを考えなくてはいけないのではないかということで、そういった議論についても、委員の皆さんの御意見をお聞きしたいと感じました。

【亀井委員】 今、三輪委員がおっしゃったとおりで、プレゼンがありましたが、弁護士会も司法書士会も、ともに過疎の解消を目指して、いろいろなことを今までやってきています。日弁連は、平成2年ごろから過疎解消に取り組み始めています。そのために、資金も毎年かなりかけています。現在、ひまわり基金の公設事務所が17箇所できていて、近く20箇所になりますが、毎年2億円をつぎ込んでいます。それは会員の会費でやっているわけで、限界があります。もう20箇所で限界ではないかと思っています。
 もう1つは、公設事務所をつくるときには支援をします。ところが、それ以上の支援というのは現実的に無理なので、独立採算でやってもらうわけです。それが、1人で過疎地に行った弁護士のすごい負担になっているわけです。黒字で回さなければいけないということで、かなり負担になるという現実があります。それから、1人しかいないという厳しさ、双方の代理人にはつけませんので、結局、またどこかから弁護士が、本庁などから来なければいけないということで、やはりかなり厳しいわけです。
 三輪委員がおっしゃったように、法曹人口の増加によって自然に過疎が解消することは、現実には多分ないだろうというのが、15年間やってきた日弁連の考え方です。1つには、やはり、人為的にきちんとした国の制度をつくって、そこで弁護士を配置するという形を取らないと過疎地の解消にはならない。諸外国に行ってみても、どこに行っても、過疎地には弁護士は集まっていません。フランスでも、パリに半分の弁護士がいます。アメリカでも、アラスカや砂漠地帯にはいません。オーストラリアに行っても、フライング・ローヤーというのがいるのかと思うぐらい、砂漠地には弁護士がいないんです。各国でも、過疎地、遍在地の解消に苦労して、国が公の制度をつくっていると聞いています。ですから、日本でも、やはり資金の問題、それから人材の問題ということを基本に、国の制度をつくって、それで国としてどうやっていくのかという大きな政策をつくらないと、日弁連のように、ここは足りないから行こうという今の制度は、ここに需要があるから、呼ばれているから行こうということで、少しずつ、少しずつ増えてきましたが、やはり、そのような即物的な解決では、基本的な解決にはならないと思います。その意味では、今、国の制度として、司法ネットという言葉が付けられて、ある程度前進を図ろうというのは大変評価できると思いますので、この方針で進めてほしいと思っています。

【長谷川委員】 私は、建築科で客員教授をしておりますけれども、大学や大学院でも全て、専門家の側のつくる論理を教える。司法だったら裁く論理でしょう。司法アクセスというようなこととか、建築だったら利用する側の論理、つまり利用の仕方というものも、すべて専門家の側で考えていくということでやっています。この会に来てもそのことに矛盾を感じているんですね。そのアクセスというのは、国民の各層の利用者の立場で、本当は不断なく検討をしなければいけないことなのに、どうもそこのところに立つことというのは、専門家というのは難しいのではないかということです。自分の教室でも、当初はなかなか通らなかったんですけれども、この10年ぐらいですけれども、利用する側に立って、利用者たちの意見を収集して、それから利用する論理というのを組み立ててゆくことをやってきました。両方の立場を明快にしながらやっていこうとするということを一生懸命建築設計に持ち込んできたんです。今、若い建築家たちを中心に、そうした意味では、利用者とコミュニケーションをしながらつくっていくということが、この10年随分行われてきているんです。司法の教育の機関というものでは、そうした利用者の立場に立って、さまざまな練習をするというようなことというのは、なかなか行われていないのではないかという感じがするんですね。利用形態の研究をしていくと、さまざまな人は過疎地にいようと都市にいようと、いろいろな問題を同じように抱えているということも、コミュニケーションを通して私は知ることができました。学生たちも知ることができました。私が仕事で地方に行くことと東京ですることということに、そんなに区分もなく平気で飛んでいくんです。どこでも同じように生活をして、同じような問題を抱えているわけです。これまで、アクセスする側に立つことを教育の中で取り込んでこなかったことは、いろいろな分野にあるように思うんですね。多分、司法の分野もそうではないかなと思います。この検討会の委員の方には学校の先生がたくさんいらっしゃるんですけれども、教育に、そういうところが取り入れられてくると随分と変わってくるのではないかと、私は感想として持ちます。いかがなものでしょうか。そういうことは、司法の分野ではおやりになるのですか。一般の利用する人たちがどんなふうに考えているかというようなコミュニケーションの場所が学生の時代に持たれたりするのですか、大学の教育の場で。

【長谷部委員】 大学生というより、もう少し下の教育のレベルから司法教育のようなものをしてはどうかという御意見も、この検討会で既に出たかと思いますが、全国津々浦々、同じような教育内容をするということになりますと、またいろいろ問題はあると思いますが、中学生ぐらいから裁判の仕組みのようなことを勉強できるような機会があるのはよいことではないかと、今、長谷川委員の御意見を伺っていて感じました。

【長谷川委員】 アカデミックなところではやらないのではないですか。大学というところでは。

【高橋座長】 私も大学におりますが、残念ながら、御指摘のとおり、大学教育の中では、今まではほとんどなかったと思います。しかし、今後、法科大学院と言われるものができますが、それをつくるときのフレーズがありまして、「かけがいのない人生を生きる人々の喜びや悲しみに共鳴できる豊かな感受性」というような言葉がありましたが、これからできる法科大学院がそういうものを目指します。したがって、ロイヤリングなどという言葉を使いますが、依頼者の声をどのようにして法律家が聞くべきかという、そういう実践的な授業をすることになっております。まだ、法科大学院はどこにもできていませんが、来年からできれば、今よりはよくなるのだろうと思っております。その種の問題意識は、法律教師の側でも、一部の人たちは深く持っておりますので、先行きは今よりは明るいだろうと思っております。

【西川委員】 亀井委員と三輪委員が言われたことと全く同感です。司法ネットの有識者懇談会の今の御説明をお聞きしまして、過疎地域においても本当にニーズがあるのかどうかということについては、この4名の方々から、ニーズは大きいんだということが述べられています。ニーズというのは、恐らく、争い事になったときに相談する人というのもあるでしょうし、争い事にまだならない初期の段階で、予防的に相談をしたいけれども、相談に乗ってくれる人がいない。法律サービスの世界から行きますと、実際に事が起こったときの解決を臨床的にサービスする場合と、予防的にサービスする場合があるのでしょうが、その両面において、やはり過疎地域において、弁護士や司法書士などが近くにいないものだから、ストレスの大きい生活をしているのではないか。したがって、法律サービスを、過疎地域において徹底、拡充しなければならない。これは、恐らく皆さんの同意するところだろうと思います。
 一方、その中で、この前、私が日弁連のひまわり基金の話を聞いたときに感銘したと申し上げましたが、その日弁連の方々の年間2億円の寄付にずっと頼り続けるという、そういう善意のみに期待するというのも、制度の破綻を来すでしょうし、それから、地方自治体におきましても、前回市長会と知事会のお話を聞きまして、やりたいけれども、財源面等でこれ以上やるのはなかなかという状況だということも承ったものですから、やはり国の施策として、津々浦々への司法サービスの拡充をやっていかなければならないだろうと、そうなると、司法ネットというのが重要になると思いますが、その司法ネットをどういう機関が運営をして、この前お話がありましたけれども、ジュディケア制に加えてスタッフ制であるとか、そういう運営主体がどういうところが担って、勿論、税金を投入しなければならないのでしょうが、一方、その中で、できるだけ低コストでやるための仕組みは何なのかというようなことを立ち上げる、成し遂げるというのが、喫緊の課題なんだろうなという認識を、今のお話を聞いて強くしたというところです。

【高橋座長】 有識者懇談会に出席して聞いておりまして、私が一番感銘を受けたのは、資料1-1の議事概要の6ページの下から4行目のところです。熊本日日新聞の方がおっしゃられたことですが、「人吉では、弁護士が来たことによって紛争解決のやり方が変わり、地域の雰囲気も変わった」と、つまり、それまでは、事件屋とか言われる不明朗な人たちが紛争解決に跳梁跋扈していて、おかしな紛争解決が行われていた。そこに弁護士が入ってくると、そういう人たちがすうっと引いていって、透明で合理的な紛争解決になっていったという、その指摘です。ニーズがあるだけでなく、ニーズは勿論過疎地域にもある、のみならず、そこに弁護士がいないと、むしろマイナスが生ずるんだという御指摘です。弁護士が入ることによって、紛争解決があるべき姿に近付いたということ、ここが大変感銘を受けたところです。
 さて、西川委員の御指摘もありましたので、次のステップに進めさせていただければと思います。私なりにまとめますと、法曹人口が拡大することによってある程度カバーされる部分もあるけれども、司法過疎問題はそれだけでは解決しないだろうと、あるいは、日弁連のひまわり基金公設事務所とか、いろいろな御努力もあったけれども、どうもそこだけに依存していたのでは解決しないだろうと、この辺りは共通の御認識だということといたしまして、では、どうしたらいいかということですが、事務局の方で御苦労いただきまして、問題点のピックアップの資料をつくっていただきましたので、その説明に移りたいと思います。
 資料2の説明をお願いいたします。

【後藤企画官】 それでは、資料2について御説明させていただきます。
 資料2のタイトルは、「司法ネット検討資料」となっております。「司法ネット」という言葉は、これは以前にも御紹介したかと思いますが、小泉総理が、司法制度改革推進本部の顧問会議で、民事、刑事を問わず、国民が全国どこでも法律上の紛争の解決に必要な情報やサービスの提供を受けられるような仕組みをというような形で提唱されたものでありまして、それは幾つかの問題を含んでいると思われます。アクセス・ポイント、この検討会でも検討していただいておりますが、利用相談窓口の問題、それから、民事法律扶助を中心とする民事法律サービスの問題、それから、刑事の関係の公的弁護制度の問題、更には、本日御議論いただきました司法過疎の問題、こういうものを含んだ大きなトータルなものとして、司法ネット構想というものがあるのではないかと考えております。
 これまで、司法アクセス検討会では、司法ネットに関連する問題のうち、司法の利用相談窓口、情報提供の問題、それから、民事法律扶助の拡充の問題について検討を行っていただきまして、その中で、いわゆる司法過疎の問題についても、弁護士会、司法書士会のお話などを伺いながら取り上げていただいているところです。この資料は、これらの問題の解決方法の今後の検討のために、これまでの当検討会と先ほど御紹介しました有識者懇談会で御発言のあったところについて整理してみたものです。
 資料2の1ページを御覧ください。第1が「現状分析」、第2が「取り組むべき課題及び解決方法」、第3として「必要なサービス提供を行うための仕組み」というように、3つに分けて整理してあります。それぞれ、御発言の内容と、どのような場で御発言があったかということをその後ろに括弧書きで記載する形になっています。
 2ページ以下を御覧いただきますと、まず、現状分析として、どのようなものであるかということを整理してあります。
 まず、「アクセス・ポイント」のところですが、この問題につきましては、そもそも利用相談窓口というのはどこにあるかがわからない、どんなものがあるかもわからない、というような御指摘や、弁護士が身近なところにいないためにアクセスが阻害されている、あるいは、自治体等の法律相談があるが、需要に十分応えきれていない、というような御指摘があります。このような問題があるために、泣き寝入りになっているのが実態ではないか、というような御指摘もありました。それから、アクセス・ポイントにたどり着いても、現実に司法的な解決が必要な場合であっても、その先の橋渡しをするような仕組みが足りないのではないか、というような御指摘もいただいています。
 3ページに行きまして、「民事法律扶助」の問題です。簡単に御説明いたしますと、法律扶助に関しましては、破産事件等への対応で手一杯になっていて、本来扶助されるべき事件に手が回っていないのではないか、というような御指摘がありました。法律扶助協会の方から、特に御説明いただいていますが、自己破産事件については、各支部で要件を厳しくするなど御苦労されていると伺っています。法律扶助協会からは、現在の問題点として、管理費などへの補助が制約されている、それから、扶助協会への補助金というのは、公益法人への補助金が減額するという行政改革の流れとの関係で難しい問題がある、というようなこと、裁判手続の扶助に特化しており、それ以外の手続への補助が例外的になってしまっている、それから、ジュディケア制だと予算管理が難しい、というようなお話もありました。
 次に、「司法過疎」の問題、4ページになります。ここでは、先ほども御紹介いたしましたが、地方にも法律サービスのニーズがあるが、現段階ではこれに応えきれていないのではないか、県内の弁護士が増えたのに、支部管内の方の弁護士が減ってしまっている、それから、弁護士の側には過疎地で生活するとなると、その人本人の家庭の問題とか生活レベルの問題などがあって、なかなか過疎地に定着するというのは難しいのではないか、というような御指摘もありました。また、ひまわり基金にもなかなか難しい問題がある、というお話もいただいています。この辺りが問題点の指摘ということで、出てきたものをまとめたところです。
 次に6ページに参りますと、ここではもう少し発展した形で、具体的にどのようなところに取り組む必要があるのか、更に、どのような解決方法があるのかということについて、これまで御発言のあったところをまとめてあります。まず、「アクセス・ポイント」の問題ですが、これについては、「情報提供」の問題と「相談受付」の問題の2つに分けて整理してあります。情報提供については、自分で自己決定ができる前提として必要な情報を得やすくすべきだ、というようなお話、更には、インターネットを活用すべきではないか、というお話、従来型の情報提供もインターネット等と一緒に行うべきではないか、というような御指摘などをいただいています。それから、「相談受付」については、先ほどもありましたが、司法的な解決が必要な場合に橋渡しがきちっとできるような仕組みをつくるべきではないか、というお話、それから、受付の段階で適切な紛争解決方法への振り分けをきちっとしなければならないのではないか、というような御指摘、更には、地方自治体は、それぞれ御苦労されているけれども、そういうところで行っている相談をバックアップするような体制を検討すべきではないか、というようなお話、そのようなお話がありました。
 次に7ページの「民事法律扶助」の話ですが、こちらの方については、民事と刑事を一緒にやることで事務費の合理化を図ることができるのではないか、あるいは、スタッフ制を採用してコストを減らすことができるのではないか、というような御指摘をいただいています。それから、法律扶助協会からは、法律扶助というのは、総合的な紛争解決の仕組みとして位置付けるべきであって、情報提供や法律相談、ADR、そういうものを含めて援助をできるようにした方がいいのではないか、あるいは、実際に立て替えたお金の問題については、利用者の資力に応じた負担金制度というようなものも考えられるのではないか、そういうようなお話もありました。また、組織の見直しを含めて検討する必要があるのではないか、というようなお話もありました。
 「司法過疎」の問題については、これも若干先ほどお話に出ていますが、法曹人口の増加だけではなかなか解決できないので、国としてやるべきではないか、というようなお話、若手の弁護士が期間を限って地方に赴任できるような仕組みが必要なのではないか、というような御指摘もあります。それから、弁護士と司法書士などの隣接法律専門職種の方々が連携して、ワン・ストップでサービスをできるような仕組みが必要ではないか、というような御指摘もいただいています。
 最後に10ページのところに、どのような仕組みがあるだろうかということについて、これまで御指摘のあったところをまとめてあります。総合的情報提供というのは、裁判所でやるというのはなかなか難しいのではないか、あるいは、相談の振り分けをして、司法的解決が必要なものを司法につなげていくためには、何か統括するような組織を考えてもいいのではないか、というような御意見をいただいています。
 これまでも、司法アクセス検討会では議論を重ねていただいていますが、このような全体の枠組みも見ながら、更にどのようなサービス提供ができるのか、あるいはどのような仕組みがいいのかということについて、更に御議論を続けていただければと思っております。

【高橋座長】 どうもありがとうございました。これまでの議論をまとめていただきましたが、このようなまとめ方でよいのかをも含めて意見交換に移りたいと思います。

【亀井委員】 取り組むべき課題については、かなりここでも議論をしてきたと思いまして、その点についてそのとおりだと思っています。
 今、国がある程度関与を持った制度ということになると、組織をどうするのかというのが、やはり一番問題になることだと思います。法律扶助協会は、昭和27年以来、財団法人、公益法人としてずっとやってきたわけです。本日再度配られた第12回検討会資料9の「行政改革大綱」を見まして、公益法人、それから補助金システムというのが今大変厳しい状況にあるということを、私も初めて知りまして、これが平成12年に閣議決定されています。公益法人の補助金の問題、それから業務の見直しの問題、それを縮減・合理化を進めるとありますし、補助金の適正化などという問題があって、独立行政法人への事務移管とかいうことが、これを見ると出ております。結局、公益法人というのは、国の仕事をやるにはやはり厳しい将来があるのだなというのが、これを見てもよくわかりました。公益法人だと、かなり自主性があって、自由にやれるのかなというイメージがありましたが、例えば、民事法律扶助法で、指定法人という形を取ると、やはりかなり厳しい規制がいろいろあります。公益法人でも、業務の監督命令もありますし、役員の解任命令もありますし、すべてについて法務大臣の認可が要るということですから、かなり厳しい規制があるわけです。そういう公益法人が、今、厳しいということになると、もう1つ国の関与を強めた制度が必要なのかなと考えざるを得ないです。しかも今、民間の公益法人で一番厳しいのは、いつも言われるのですが、管理運営費が全額出ないということです。今、いろいろな面で事業削減、予算削減の中で、法律扶助協会は毎年毎年補助金を上げてもらっているのは事実です。35億円ですから、ここ10年、ものすごい値上がりになっているのは間違いない事実です。ただ、事業がそういう形で拡大すればするほど、人件費もかさんで、ハコ代も要ります。その経費がほんの一部しか出ないということが、事業をこれ以上拡大できないという限界にどうしても来てしまうんです。その意味では、やはり、今の公益法人では、先行き成り立たないのではないかということを実感しております。そういう意味では、独立行政法人というのも検討材料にせざるを得ないだろうと、最近は、私どもも思っています。勿論、新しい組織も、自主性、それから独立性、事業に関与しないという制限は付けてもらわなければいけないのですが、予算規模、それから国の制度としての位置付けという意味から言えば、こういう新しい形、最近の形、1999年からの形のようですが、こういう新しい独立行政法人というのも、一考に値するだろうと思います。

【始関委員】 今、亀井委員から、第12回検討会資料9の「行政改革大綱」の御紹介があったわけですが、少し補足をさせていただきます。この「行政改革大綱」は平成12年12月にできたわけですが、書いてあるように、国の関与が必要とされるものとそうでないものに分けて、必要とされるものについては国が自らやるか独立行政法人にする、そうでないものについては国の関与をやめていくということで、そもそも正面から書かれてはいませんが、指定法人制という、公益法人を指定してそこに仕事をやらせるというやり方自体をやめるという、政府と言いますか、自民党と言うべきなのかもしれませんが、そのような方針があります。それに基づきまして、まだ通ったかどうかよくわかりませんが、この国会でも、経済産業省、厚生労働省、国土交通省の関係で、それぞれこれまで公益法人を指定して、指定法人として仕事をしてもらったものを登録制に切り換えるという法案が出されております。そして、3か年計画で指定法人をなくしていくという方針に政府はなっておりますので、その方針で行きますと、民事法律扶助も指定法人制ですので、このままでは絶対に立ち行かないので、国の補助金を維持してやっていくとすると、そういう流れに乗っていくためには、独立行政法人しかないのではないかという感じがします。

【高橋座長】 先ほど西川委員からも、どのような組織でという問題の提言がございましたが、議論の流れがそうなっておりますので、現状を改善していくためにどのような組織が必要かという御議論をお願いいたします。

【飛田委員】 お金の問題というのは大変大きい問題ですので、それ抜きには考えられないわけですが、外国などのよき例というのを前に幾つかお伺いして、イギリスなどでも、ボランティア・スタッフが大分こういったことに関与しているというようなお話もいただいたと思いますけれども、ボランティアの活用ということも、大きな枠組み自体をどうするかという問題でしょうから、少し周辺のことになるかもしれませんが、そういう人材の登録をしてもらって活用するということとか、それから、独立行政法人という形に方向としてはならざるを得ないのかもしれませんけれども、より身近な司法へのアクセスということを考えますと、何と申しましょうか、お役所が、先ほど長谷川委員からも少し御提案といいましょうか、お話しいただきましたけれども、上からこういうような形でこのような事業をやっておりますから、よかったら来なさいよというような感じで用意するのではだめだろうと思います。それでは、形を変えていくということだけにすぎないのかもしれませんので、その辺のところ、民間の力をうまく活用しながら、そしてなおかつ、日本の場合には、悪いことをした場合に懲罰的な賠償制度というのが余りないわけです。それで、現実にやり得みたいな現象が多々ありまして、消費者の関連にしましても、法改正は常に後追いで、まだまだ十分な制度になっておりませんので、そういう意味では、やり得を許さないための制度を導入して、悪いことをした人からお金を、みんなが損した分を回収するという仕組みをつくっていく必要が、私はあるのではないかという気がしております。やはりそうでないと、広い意味での公平とか、有識者懇談会の方の中にも泣き寝入りという言葉が出てきておりますけれども、泣き寝入りした人の個々の人たちの損害を何とか回復してということも1つの願いではありますけれども、それが少額の多数被害だったりしますと、団体訴権等の導入も考えられますし、いろいろですが、とにかく、懲罰的な賠償制度も、特にPL法の関係などでは、そういうことを指摘される方も大勢いらっしゃいますし、どの範囲にそれを当てはめていくかということは、これからの課題だと思いますが、お金を回収していこうということ、仕組みをつくってはいかがでしょうかと、お話を伺いまして思いました。

【高橋座長】 前半でおっしゃったことは、独立行政法人のようなものをつくるとお役所的で、利用者から見ればかえって遠い存在になってしまうのではないかという御指摘ですが、いかがでしょうか。

【山本委員】 実際問題として、公益法人で全国展開するというのは相当難しい、当初の初期費用がものすごくかかってしまい、恐らく無理だろうと思います。そうなりますと、独立行政法人ということになると、恐らく、既存の何らかの国の組織を組織替えしていくという方向にならざるを得なくなっていくのだろうと思います。やはり、初期費用のことを考えると、それしか選択肢はないだろうと思います。ただ、独立行政法人もいろいろなパターンのものがありますので、従来のお役所とはまた違うスタッフの任用の仕方等も、独立行政法人の特質に応じてきめ細かな配慮ができますから、そういう意味では、単なるお役所というよりは、もう少し、何かおっしゃるような趣旨を実現できるようなスタッフ制度というのを組めるのではないのかなと、ちょっと楽観的かもしれませんが、私はそう思っております。

【藤原委員】 司法アクセスを容易にするために、いろいろな制度的な拡大を望まなくてはいけない、図らなければばいけないというのは、私も皆様と同じように考えておりますが、それを支えるものは何かと言いますと、一方では弁護士、あるいは司法書士のような特定な知識とノウハウと資格を有した方々だと思います。
 それからもう一つ、実は、私、最近、私の仕事の中で気付かされたことですが、要するに、すべての仕事において法律マインドを持つといいますか、リーガルマインドを持つということも、もう一つ大変重要な柱ではないかと思いました。我々の特定の分野のお話になって恐縮ですが、いろいろな契約事項があって、そのときに、いわゆる契約書を作成したりそれを読んだり、その前段であるアグリーメントなアウトラインをいろいろ折衝するとか、そういう担当者の方に随分私お会いしました。そうしますと、弊社のような広告業務をやっているようなところでも、最終的に契約書に落とし込むまでは、ほとんど書士も関与していなければ、弁護士の方も関与していなくて、最終的にリーガルなランゲージのところに落とし込む接点のところと、それからお願いするところというところだけを有資格者にお願いして、それで、自前で持っているところが案外たくさんあるんです。要は、リーガルマインドを持つということは、今は、ひとえに弁護士あるいは司法書士の人口、オペレーションの中でそういうことをしていただく方をどういうふうに養成をしたり、あるいは予算を付けたりして活用していくかというお話を重点的にされているわけですが、もう一方で、契約に臨む者、すなわち一般のある業務をしている社員も、同じようなリーガルマインドを持つということによって、相当自分たちも勉強できるし、自分たちもできるのではないかと感じたことがありました。
 例えば、地方自治体であっても、いろいろな第三セクターであろうとも、その中で何を充実すべきかというときに、ともすれば、司法書士あるいは弁護士のような即裁判に臨むときに関与していただく方に議論が行きがちですが、それと並行して、事前に、そういうリーガルマインドを培養するような手当てというものをやっていく必要があって、その担い手というのは、企業であれば弁護士の資格はないけれども法学部を出た人とか、そういう方は、案外たくさんいらっしゃるんです。それで、会社の法務に属していらっしゃる方とか、そういうような方々というか、そういう人口も視野に入れた司法ネットとかアクセスの拡大とか、そういうような議論もやっていくべきではないか。そうでないと、結局、有識者の限られた人たちに大変多くのことを期待して、なおかつ、そのために大変大きな予算も取り、時間の融通もお願いするという話になってしまうので、もう少し、当事者になる人たちとは別に、それを支える自治体の中でも底上げをするというような、そういう考え方も必要なのではないか。ですから、すぐ話が専門家の話に行くのではなくて、それ以外の方も視野に入れた取組みが何かなされる可能性はないかと、私は思っているんです。

【飛田委員】 先ほど、お役所仕事というようなことを申しましたが、それは、例えば、相談の窓口の時間帯が、何時から何時までと、あとは私の勤務時間は終わりましたと、実際には、お役所でも一生懸命遅くまでやっていらっしゃる方も大勢存じ上げておりますけれども、一応窓口はここまでですという形が従来取られてきているわけです。今までに、知事会の方とか市長会の方たちにもお話をお伺いしましたけれども、やはりそういう限界を感じておりまして、独立行政法人などの大枠をつくる経済的な基盤とともに、私が先ほど申しましたような資金源は1つの考え方であり、またほかに、もっと社会貢献をしたいとおっしゃる方からいただくということも往々にして考えられると思うんです。ですから、そういうことなども併せて、フレキシブルという言葉がいいんでしょうか、とにかく自在な、この分野については、最終的には専門家の、今、藤原委員がおっしゃったとおりだと思うんですけれども、最終的なところでは、専門家の方に道筋を付けていただく必要があると思いますけれども、まずは、その当人の直面している問題がわからなければいけないということだと思いますので、そういう意味では、非常に幅の広い人間性を有した人でないと、その人が何に直面しているか、また、最近の動きを見ておりますと、国民生活センターの統計などにも出てきているんですが、例えば、高齢で痴呆症状が出ている方とか、精神的にやや病気を持っておられる方とか、弱い方をねらう悪徳事業者がこのごろ結構多いようで、そういう人たちがねらわれて、被害に遭う率が上がってきているんですね。そういう意味でも、専門的な人でないと、その方がどういう状況にあるかという把握がしにくいと思いますので、通り一遍の応対ではいけないし、また、そういう人たちの問題も含めて扱っていかないと、窓口はあそこにありますからどうぞと、地下鉄何番出口とか、何とかですとか、バスで何番ですと、そういうことだけで済まされる問題ではないと思うんですね。いろいろな、身体に少し障害がある方もいらっしゃるかもしれないし、そういういろいろな多様な方のニーズをいかに満たしていくかということを考えていく必要があると思いますので、窓口には、さまざまなものを吸い上げたり、そこでの仕分けができるだけのスタッフが欲しいと思うんですね。それは大変ぜいたくな、これから、ただ、社会が本当にどういう方向を目指すべきかということだと思うんですが、発展をもし願っていくのであれば、従来あるものをとりあえずまとめてみましたよという程度で終わらせるか、どうするかということだと思うんです。もし、プラスアルファを考えていくとすれば、従来し得なかったことを組み込めるような体制づくりができれば、そういう制度をつくることができたらいいのではないかということを思っております。

【長谷部委員】 今、飛田委員が御指摘になられた、いろいろな人のニーズに応じたフレキシブルなサービス、あるいは利用者が使いやすいようなサービスを提供できるということは、多分、お役所的な業務ということと対比されておっしゃっておられたのだと思いますが、独立行政法人でそういったサービスが適用できるかということにちょっと懸念を感じておられるという、そういう御趣旨でしょうか。

【飛田委員】 必ずしもそういうわけでもないんですけれども、やや、その傾向は否めないとは思います。それで縦割で、何となくたらい回しされそうで、というようなイメージが、率直に申しましてあります。

【長谷部委員】 おそらくそれは、法人組織が公益法人なのかそれとも独立行政法人なのかということではなくて、サービスの運営にどういう視点を入れるかということだと思いますので、独立行政法人でも、そういうニーズに応えられないわけではないような気がします。ちなみに、イギリスの法律扶助制度については、1988年に制度改革がなされまして、それまでは民間の組織を通じて運営しておりましたが、独立行政法人的なものにしまして、効率化を図ると同時に、支出の透明化を図りました。ですから、独立行政法人にするメリットというのはあるだろうと思います。まだ余り見えてきませんが、いずれ資料なども出てくるのではないでしょうか。

【藤原委員】 角度が変わりますが、皆さん御存じのように、2011年には地上放送のテレビのデジタル化が一応全国的には終了することになっておりまして、その時点で、デジタル放送のみが放映されることになっております。それで、もし、この計画のとおりに消費者もその時点で今のテレビから地上デジタル波を受けることができるものに替えることができるということになりますと、まず大きなメリットは、デジタルなどということだけではなくて、テレビが双方向に活用することができるようになるということです。いろいろ人でなけばインターフェースとして十分に対応できないような問題もあろうかと思いますが、人海戦術ではなかなか問題が解決困難であるとすれば、地上波のデジタル化、これは全国的に2011年の多分秋口だったかと思いますが、それをデッドラインに、そこからは今までのアナログ波は飛ばないことになるわけですから、今から何年か先になりますが、そういうようなものを目指して、少しずついろいろな手当てをしていくということも重要だと思いますが、ある日にちをターゲットにして、特にテレビというのは全世界にあまねく普及しておりまして、そういう意味では、行政あるいはすべての社会的なインフラとの窓口としては大変有効なメディアでもありますし、そういうようなものを何か1つのベンチマークとして、これからの何年かを、その構築のために費すというのも1つの考え方かと思いました。そうすることによって、とりあえずは、時間的なこととか、距離的なものを、入口のところでは、まず少しは埋めることができるかなと、そして、もっと込み入った、もっと当事者同士がいろいろ相談しなければいけないようなことに関しても、やはりフェース・ツー・フェースが基本だと思いますが、いろいろな形で、テレビの地上波のデジタル化というのは、1つのきっかけになるのではないかと思いました。2011年ですから、まだ、準備するには十分とは言えないかもわかりませんが、ある時間が残されておりますし、これもこの司法ネットの1つのベンチマークになるのではないかという気がしました。

【高橋座長】 それでは、この資料2に即して、まず、我々が何を議論してきたかを考えてみますと、今でもアクセス・ポイント、紛争解決あるいは司法に関する情報が流れていないわけではないけれども、それがどうもばらばらであると、地方自治体もあるし、裁判所自身も努力されておりますが、どうもばらばらで、相互に全体像がよく見えないというような議論をしてまいりました。そして、全体像をどこかで提供してもらう必要があるのではないか、このような議論であり、今、デジタル放送などもその媒体として使えるわけですが、大体このような方向だということでよろしいでしょうか。それで、まとめるとなると誰、どういう組織が担当するのかという問題が出てくる。この辺りが最後のことになります。
 次に、アクセス・ポイントの情報提供のところですが、相談の方ですね。あるところに相談に行ったところで、自分が抱えている問題は何なのか、そして、広い意味での、狭い意味の法律に限りませんが、どういう解決が、法律上用意されているのかという相談的な業務も提供されてしかるべきだというわけですね。そして、更には、その機関そのものがADR活動をするのかどうか。そして、ADR活動をその機関そのものがするとなると、悪く見れば一番おいしい事件を自分のところに取ってしまって、おいしくない事件をほかに回すというようなことにもなっていく可能性があります。ちょっと不安定なところが生じますが、ともあれ、情報提供とある種の相談は必要だと。それがアクセス・ポイントのところになります。
 次に民事法律扶助ですが、先ほど亀井委員からも御指摘がありましたように、やや限界状況にあるということです。そして。先ほどのお話ですと、今の体制では、事務スタッフに光が当たらないのみならず、事務スタッフの方を充実できない。仕事が増えれば事務的な要員も必要になるのに、そこのところがどうも難しいという御指摘で、そうなりますと、民事法律扶助の問題が大事であることは間違いないが、今のようなものではうまく行かない。そして、ジュディケア制という、前から出てきている問題ですが、ジュディケア制では予算管理が難しいという、その問題がございます。

【亀井委員】 どういう形でサービスを提供するかという問題ですが、日本の場合には、法律で、開業弁護士が1件ずつ受任をするというシステムになっています。例えば、韓国では、25人のスタッフ弁護士と、公益法務官約100人だけで、法律扶助を全部賄っているということになります。ですから、スタッフ弁護士は全部給料制で、その意味で、予算管理が確実にできるということになります。ただ、その問題は、結局安上がり、効率化という側面もあるわけです。ですから、例えば、韓国では、それだけの少人数でやっているので、1人の持ち事件が相当多い、死にそうというような、見学に行ったらそういう声が聞こえるほどのものすごい激務になっております。しかも、もう一つの弊害というのは、多くの弁護士がそういう公益事業に関わらないで、一部の人だけに任せて、あとは儲ける仕事だけをやっていてもいい、そういう国民に奉仕することを全くしないというようなことも一面あり得るわけです。それが日本では、やはりジュディケアということで、全部の弁護士が公益事業に関わらなければいけないというポリシーでやってきているわけです。それで、長谷部委員が詳しいでしょうが、イギリスでは、ジュディケアでずっとやってきたわけですが、そのために予算がオープン・エンド、予算が青天井というのが一番すっきりするわけです。イギリスでは2,000億円も毎年予算化されていますが、それでも厳しいということで、最近は半スタッフみたいな形で、5,000事務所とフランチャイズ契約、専門契約をして、そこで、例えば、家事事件だとか民事事件、刑事事件というような形で専門化された契約をして賄っているというように聞いています。

【高橋座長】 この問題、部分的には今までも議論してまいりましたが、ここで集中的に、つまり、ある組織が、その中に法律家以外の者もいた方がいいというのは御指摘のとおりですが、そのほかに自前の法律家を抱え込むのがいいのか、それとも外の法律家にその都度お願いするのがいいのか、これは予算の管理の問題もあるということ、更には、抽象論は簡単ですが、誰が行くのか、どういう法律家が行くのか、というような問題も、この際御意見を賜りたいと思います。

【西川委員】 これは前にも議論があったところですが、ロースクールを出て、今のところは1年研修所があるのでしょうが、そこを出てきた人が、弁護士事務所に勤める前に、例えば5年なら5年、この運営主体に勤めて、年間何百万円かわかりませんが、例えば500万なら500万で5年間勤めると、そこでいろいろな、これは民事もそうでしょうが、恐らく公的弁護も被疑者段階含めて入ってくるだろうと思いますが、そういう訓練を積みつつ、扶助的な仕事を行っていく。そして、そういうところに来る方には、ロースクールの奨学金を免除してあげるとか、そういうインセンティブを付けつつやることによって、数百名なら数百名のスタッフ制の独立行政法人ということになると、地方にも自由に、過疎地域の方にも転勤をかませることができます。若い人中心なのかもしれませんが。もう1つは、50、60になって、いろいろな企業法務をやった、弁護士としても有名なレプテーションを得た、あとはそういうところで働いてみたいと、老後をそういうところで働いてみたいという人に、ボランティア的な精神でもって勤めていただくという絵になるかと思います。感想的なものですが。

【三輪委員】 西川委員のアイデアはなかなかすばらしいと思います。あともう1つ思いつくのは、裁判官、検察官の経験者の活用であり、OBももちろんいいのですが、そのほかに、比較的若い人に働いてもらうことも考えるべきだと思います。裁判官、検察官個人にとってもいい経験になるでしょうし、その組織においても、裁判所や検察庁の、あるいは法務省の事務を経験した人が、そういう事務を担当するということは、組織の厚みを増すことになって、お互いいい結果につながるのではないかという気がします。裁判官、検察官の派遣というのも考えていただいていいのではないかと思います。

【始関委員】 今ローヤーの話が出たわけですが、先ほど飛田委員からもお話が出たように、この独立行政法人が充実した仕事をするために、いろいろな階層の人が入る必要があるのではないかという御指摘はそのとおりかなと思っていまして、そういうことも併せて考えなければいけないのではないかと思っています。必ずしも全部のことを弁護士がやらなければいけないわけではないはずで、今日配っていただいた資料2の2ページでも、法律相談でも最初司法書士の先生がお話を聞かれて、それから必要に応じて弁護士の先生に回すとか、そういう例が挙がっております。もっとそうでなくてもいいぐらいのものもあるかもしれませんので、いろいろな階層の人が、スタッフとしてどのぐらい必要なのかちょっとぴんと来ませんが、特に、税の専門家などが入る必要はあるのではないかと思います。今、私が商法を担当しているからかもしれませんが、法律を改正しても税が付いてこないと新制度がうまく機能しないので、この世の中やはり税なんだということを非常に強く感じているものですから、やはり税の問題も併せて解決しないと、国民のニーズに本当には応えられないのではないかということで、税理士会の御協力がどのぐらい得られるのかという問題があるとは思いますが、それが必要なのではないかと思います。
 それから、司法書士の関係で言いますと、実は、司法書士も、弁護士と同じように、試験の合格者をだんだん増やしているのですが、合格者を増やしても、司法書士の登録をされる方が余り増えていないという実情があります。これは、恐らくは、登録して自分で仕事をやっていくにはそれなりの初期投資が必要で、その回収ができるかどうかに自信がないためではないかと予測しています。司法書士試験は相当難しい試験ですので、その試験をせっかく通った優秀な人がその資格を活かさないともったいものですから、そういうところにも、スタッフの財源があるのではないかという感じはしております。通った人の数と登録した人の数はわかりますので、その差が登録されない方ということになります。

【西川委員】 そういう人は、普通の企業に勤めているのではないですか。

【始関委員】 あるいは、弁護士事務所に勤められていて、いわゆるパラリーガルとして仕事をして、司法書士の資格はあるけれども登録はなさらないという方もおられるのかもしれません。

【高橋座長】 スタッフの供給は何となく大丈夫そうだということで、もう1回、確認的で恐縮ですが、やはりスタッフ制を導入した方がいいということでしょうか。大体皆さんの議論では、必ずしも狭い意味の法律家に限らず、事務スタッフも含めて、スタッフ制で充実していった方がいいということでしょうか。

【亀井委員】 ただ、スタッフ制が原則というのは、日本の場合、まだまだ早いだろうと思います。やはり、今のジュディケア制でやった方が、広範の人を集められると思います。ただ、今の現状でも、ジュディケアだけでは無理だというのは、私ども限界を感じています。ですから、東京でも、半スタッフという名目で、毎年6人採用していますし、やはりスタッフは必要だと思います。ただ、スタッフが何をするかということはまた別問題で、専門的な相談の仕事をする、または事務スタッフも要るし、会計スタッフも要るでしょう。だから、スタッフが何をやるかというのは、また別な観点から考えた方がいいだろうと思います。
 それからもう1つは、先ほど藤原委員からお話のあった企業法務の方をスタッフというのも1つの考え方だと思いますが、ただ、一般的に、今、新しい組織がやる仕事ということで目指しているところからすると、公益業務が中心で、いわゆる今の法律扶助に来る市民が基本なので、法務部のスタッフで対応ができるかという問題があると思います。全部が法律相談ではありません。それは勿論間違いないんです。10%から20%ぐらいの受任率しかありませんから、本当に法律相談でない相談というか、いろいろな相談業務、カウンセリング業務がいっばいあります。そういう意味から言うと、企業法務の方が活躍する場があるかという問題はあります。だから、カウンセリング専門の方などが必要だし、お医者さんも必要だろうというように、幅広く考えてみたいと思います。

【藤原委員】 私が申し上げたのは、企業の法務部の方を活用するというのではなくて、地方自治体にもそれに類するような人たちを育成するということです。自治体は、どちらかというと、自分たちは1人2人窓口を置くけれども、あとは専門家を連れてきたりして、その方たちのお時間をいただく、お金を出して、費用を取って、予算を取って、外からという話が案外多いわけですが、企業ですら、法務部の人たちは、有資格者ではないけれども、大概のことはまずはやれるわけです。だから、そのような人は巷にもいっぱいいて、当然地方自治体にもいらっしゃるはずで、その層がある程度育たないと、スタッフ制にしても何にしても、更に人を増やすという話で、自治体がリーガルマインドを持った窓口を、自分たちがスタッフの中で育成していかないことには、幾ら予算があっても、公益法人にして、それが全国展開ができてもできなくても、きりがないだろうという気がしました。そういう意味で、すべての機関がリーガルマインドを持つべきではないかというお話をしたわけで、企業の方を活用するという話ではありませんでした。

【高橋座長】 次に、司法過疎の問題ですと、日弁連も努力されておりますが、先ほどのお話でも、やはり限界があるというこです。そうすると、そこへのてこ入れと言っては申し訳ないのかもしれませんが、てこ入れが必要であろういうことになります。ただ、これは両方並列してもいいでしょうね。

【亀井委員】 そのように考えています。今の既存のものはそのまま活用する、そして、ネットを組んで、いつでも行き来ができるようにするというような活用の仕方はあるので、別に1つに全部まとめなければいけないということはないだろうと思います。そういう意味では、飛田委員がおっしゃったように、官がつくるから行きにくいという弊害をなくすためには、既存のものは既存のもので残す、裁判に結び付くものはどこかにネットをきちんと組んでという姿勢であれば、そんなに問題はないという気がしています。

【飛田委員】 いろいろな多様な形が共存するということが、とてもそれぞれのいい刺激になったり、プラス面に働く場合も多々あるだろうと思いますが、心配なのは、ゼロワン地域の問題もそうですが、地域格差があったりしてはならないのではないかということです。ですから、どういう方にどのような力量を発揮していただくにせよ、例えば、私などが関わらせていただいている分野ですと、ある資格を取っても、3年ごとに講習を受けて、筆記と技能試験を受けるとか、安全性に関わるような分野ですと、見直しをするというような厳しいようなものもあります。それは、やはり分野によってそれぞれあると思いますが、必要な研修があれば、横の連絡を密にして、皆さんがこういうことを共通認識として持っていなければならないという情報交流があってほしいと思いますし、また、それから、この前からちょっと申していますデータベースのことですが、勿論、プライバシーに関わる問題がありますから、扱いは難しいと思いますが、どのように解決するというか、それがうまく使うと、新たにそのところに加わる人にとってはテキストになるかもしれません。同じ人間がいるわけではないし、同じ問題を抱えている人がいるわけではないですが、データベースみたいな形で蓄積していくと、いい意味での、何か成果を得ることができるのかもしれないとちょっと思った次第です。

【高橋座長】 今日の資料2には出ていませんが、組織論といいますか、どういう形態の受け皿をつくるかということでは、今日御議論いただきました。現在の時点で考えると、独立行政法人というのが現実的であろうと、これは大体皆さん共通の御認識だと感じました。

【西川委員】 独立行政法人というのは、寄付の受入れというのは自由にできる組織でしょうか。当社の場合も、法律扶助協会にずっと前から寄付をし続けてきているわけですが、独立行政法人であろうとなかろうと、企業からの寄付というのはこれからは余り多くは期待できないでしょうが。

【高橋座長】 その点は、事務局で調べておいてください。
 それでは、多少の方向性が見えてまいりましたので、次回以降もこの点をもう少し、今度はもうワンステップ上で御議論いただきますが、御賛同いただけるとすれば、事務局にたたき台のようなものをつくってもらうということでよろしいでしょうか。

(各委員了承)

 事務局には御足労かけますが、お願いいたします。
 それでは、ここで10分ぐらい休憩いたしまして、次に、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いの問題に移ります。

(休  憩)

(2) 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて

【高橋座長】 それでは、今日の2番目の議題の「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて」の検討に移ります。資料がございますので、事務局から御説明をお願いします。

【小林参事官】 資料の3から5までです。趣旨は先ほど御説明したとおりです。
 資料3は、今後の御検討の参考にと思いまして、これまでの検討状況を整理したものです。項目を簡単に御説明します。1ページから6ページまでは、第1として、「弁護士報酬の敗訴者負担の制度を導入する根拠」についての御意見をまとめてあります。それから、7ページから10ページまで、これは第2としまして、「敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲」についての御意見をまとめてあります。この中には、片面的敗訴者負担に関する御意見もあります。11ページから12ページまでは、第3として、「敗訴者に負担させるべき額の定め方」についての御意見をまとめてあります。それから、13ページから15までは、第4として、「訴訟救助、法律扶助など他の制度との関連」についての御意見をまとめてあります。この中には、訴訟費用保険について触れられているものなどもあります。16ページ以下は、第5として、「弁護士報酬の負担の在り方に関する国民の理解」に関する御意見をまとめてあります。これは、これまでの議事概要等に基づきまして項目ごとにまとめたもので、今日も含めて今後の御検討の際に、こういう論点がまだ議論が足りないのではないかというように、御検討の参考にしていただければと思います。

【高橋座長】 改めて振り返ってみると、随分議論したということですが、前回、敗訴者負担を導入する範囲と導入すべきでない範囲の御議論をいただきまして、行政訴訟や労働関係訴訟、それから人事訴訟については御意見をいただきましたので、その続きから始めようと思います。
 従来から言われているものとして、人身損害というのでしょうか、公害、薬害、医療過誤など、人の生命、身体に関わるような事件類型についてはいかがでしょうか。

【飛田委員】 座長がおっしゃられている御趣旨はよくわかりますが、実は今回も、事務局の方に、導入に賛成の意見というものがもし来ていたならば教えてほしいということでお願いしてありましたが、どうも、今までずっとお伺いしましても、それらしきものが皆無といってもいい状態です。ですから、導入する根拠が、一体アクセスを推進するというケースというのがどういう形になるのかということが、何か今の時点で余りはっきりと見えてこない点があります。今までのお話をお伺いいたしましたけれども。ですから、どういう場合が導入した方がいいのかということをお聞かせいただきまして、それとの対比において考えていく方が考えやすいような気がしまして、私自身は、そういうことで、御意見を伺いたいと思って、事務局の方にもお願いしたりしてきたわけですが、そういう状況でございますので、その辺のところを、もう少し、こちらの委員の先生方のお話をお聞かせいただければと思っております。

【三輪委員】 進め方としては、今、飛田委員が言われたような問題はあると思いますが、せっかく議論が進んでおり、敗訴者負担を導入するのにふさわしい類型、あるいはふさわしくない類型というのを今議論しているわけですので、その議論を進めていただきたいと思います。その上でですが、まだ抽象論の域を出なくて、行政訴訟一般、人身損害賠償一般という議論をしていまして、もう一つイメージがわきませんので、私の提案としては、もう少し、普通に起こる民事裁判というのはどういうものがあるのか、例えば、お金を貸したけれども返してくれないので訴えを提起する原告、あるいは、信販会社から立替金請求が来て、それに対して被告はどういう争い方をするのかというようなこと、あるいは、遺産分割を巡る紛争とか、典型的な例が多くあると思いますが、その各訴訟類型、訴訟パターンごとに、原告はこういう立場で訴訟をする、逆に、応訴する被告はこういう立場で応訴するというような具体的なイメージを幾つか提供していただきまして、そのイメージを前提に、この事件では負けた方に弁護士費用を負担させるのがその正義にかなうのか、公平にかなうのか、あるいは反対なのかというような議論を進めていただきたいと思います。
 もう一度申しますと、今回は、とりあえず、今までの議論の続きをして、まずパターン化を進めることをお願いします。

【長谷川委員】 今、ここでは、各自負担か両面敗訴者負担か、どちらかにしなければいけないみたいな雰囲気があるのですが。
 人にいただいた大阪でのシンポジウムの資料で、山本委員が話していることが書いてあって、その中に、敗訴者負担は高額の損害補償の、そういうことが背景でできてきたものであるというように最初に書いてあります。高額の損害賠償訴訟にインセンティブを与えたいという考えがあると、これが出てきた背景には。何か、こういうことからすると、大企業間だけが、そうした敗訴者負担というものを導入すればよいのではないかと考えます。その中には、これまでやってきた各自負担とかさまざまな在り方、そういうものもどちらかでなければいけないというように述べていますが、各自負担とか両面負担とかそういうものが複合したものでは、司法というのはいけないように述べていますが、そういうことですか。そういうことで、敗訴者負担にならないもの、なるものをつめて、基本は敗訴者負担にしようということで、今議論をスタートしているわけですか。

【高橋座長】 最終的にどうなるかは、まだ、勿論決まっていないわけですから、とにかく粗ごなしの議論を1回しましょうと、しかも各論でということで、前回から座長としてお願いして、前回少ししていただいたわけです。それで、今回もその粗ごなしを続けようということです。先ほど三輪委員から御提案がありましたが、粗ごなしの次はもう少し高い角度に入っていって、そして、最終的な段階でどのようになるのかは、まだ我々の誰もわかっていないということだと思っています。

【長谷川委員】 では、この国の司法としては、そうした複合的な在り方もあるかもしれないのですか。

【高橋座長】 それを議論していただければ出てきます。

【山本委員】 私の発言のようですが、複合的とおっしゃる趣旨がよくわからなかったのですが。つまり、同じ訴訟、同じタイプの訴訟でどちらでもいけるというのか、すみ分け論なのか、どちらでしょう。

【長谷川委員】 すみ分け論です。

【山本委員】 私は、すみ分け論を否定したことは一度もないと思います。プライベートな発言でも、ここでのオフィシャルな発言でも。

【長谷川委員】 わかりました。私はそのように読んだ部分がありましたので、伺っておきたいと思いました。

【飛田委員】 質問ですが、その粗ごなしをする場合、訴訟の類型ということで、個々に進められていくという形になるのでしょうか。

【高橋座長】 前回申しましたが、今まで既に議論が出て、こういうものはどうかという議論がありましたから、それをヒントにして粗ごなしですから、そういう角度で1回やってみましょうということで、それだけというわけでは勿論ありません。

【飛田委員】 ちょっと心配なんですが、何が心配かといいますと、私などは専門の先生方と違いますから、訴訟の類型を何か一つでも忘れますと、その分野のいろいろな問題に取り組んでおられる方には失礼に当たると思っているものですから、訴訟類型の全体像と、そして、この間、山本委員が、勝った場合と負けた場合、訴えた場合と訴えられた場合と両面あるとおっしゃった、確かにそれはあると思いますので、多様な状況を考えていかないといけないと思うものですから。それで、私が申しましたのは、話を元のようにと言いましょうか、すべて御破算で願いましてということではないんです。そうではなくて、余りにも導入をしましょうという意見がないものですから、ない方から片付けた方が早いのではないかと思いまして、そちらの方から行った方がかえってすっきりしてくるのではないかと感じております。

【高橋座長】 御意見は確かに承りました。

【長谷川委員】 私のさっきの資料が手もとにありましたので、もう少し正確に読ませてくださいませんか。「敗訴者負担制度の一部導入は、立法技術上に極めて難しい。導入する部分と導入しない部分をどのような理屈でどのように切り分けるかは難しい。結局、切り分けはできず、全面的に導入しないか、全面的に導入するかのいずれかが可能性が高い」とおっしゃっているんです。そういうことが基本にあるのか、ちょっとお伺いしたかったのです。

【山本委員】 それはかなり要約されたものですから、私の意図が必ずしも十分に伝わっていません。そこでは、弁護士さんとの話で、難しいから、反対の仕方として、全面否定をするか全面導入するかというパターンになりやすいので、切り分けるのなら切り分けるための根拠を、どういう訴訟でどういう問題があるか、この部分については導入してはならないというような理屈を、弁護士さんたちももっと考えてくださいということを申し上げていました。その前提として、前振りとしてそう申し上げているだけで、それ以上の意味はありません。

【高橋座長】 この検討会の中の発言ではありませんので。
 では、粗ごなしということにとどまりますが、公害、薬害、医療過誤など、人の生命、身体に関わるような事件類型についてはいかがでしょうか。

【西川委員】 人的損害と考えた場合に、公害によって気管支ぜんそくになった場合と、自動車事故によって身体にけがを負った場合と、何が違うということでしょうか。

【高橋座長】 まさにそういう議論をしていただきたいと思います。

【亀井委員】 それは訴訟の類型の分け方でそうなっただけです。例えば、今、座長がおっしゃった、公害、薬害等個人の権利利益侵害の訴訟というのは、日弁連が類型化した中で、個人対事業者間の訴訟という1つの類型として立てただけのものです。自動車事故の問題というのは、交通事故の問題です。交通事故の場合は、事業者対個人の訴訟である場合もあるし、個人対個人の場合もあるだろうと思います。それで、両方とも、私は、司法アクセスの阻害になるから、敗訴者負担導入にはしたくないという意見です。それは類型を分けただけの話で、両方とも導入すべきでない事案だと、私は考えています。

【高橋座長】 西川委員は、交通事故訴訟などは、どのようにお考えですか。

【西川委員】 敗訴者負担でいいと思います。だから、公害も、薬害も、交通事故も、何も変わらないでしょうということです。

【亀井委員】 全部敗訴者負担でいいという意味ですか。

【西川委員】 はい。

【亀井委員】 それについては、両方とも、私は導入すべきでない事案だと思います。まず、座長がおっしゃった公害などの問題、これは、ほとんどが、事業者対個人の間の訴訟になると思います。大体、これも新しい訴訟の形です。これについては、市民の側がためらうのを裁判に持ち込んだ、1つには新しい訴訟類型で、勝つかどうかわからないという中で始まったものが、この公害とか環境とか薬害の裁判というのは多いわけです。私は、昔、イタイイタイ病に関わったことがありましたが、それに関わる原告になる人たちは、これで負けたらば、弁護士費用どころか戸籍をたたんでこの村を出ていかなければならないという、それぐらいの覚悟で始めたわけです。その中で私たち弁護士がやったことは、弁護士費用は勝てば若干もらいましょうということで始めざるを得なかったわけです。それを、裁判を起こすときに、負けたら2人分の弁護士費用を払うんですよということで始めたら、もう裁判にならなかったわけです。やはり、イタイイタイ病とか水俣病などがきっかけになって、大量の人たちが原告となって裁判を起こすという機運が高まってきたわけです。そういう中で、かつ、裁判所の協力によって裁判に勝つということで、1つの公害権とか環境権とかいう言葉が出てきたということです。ですから、それは当事者の救済と、それからやはり法創造的機能と、両方の側面があったわけです。こういう訴訟を敗訴者負担だといったら、これは裁判にならないんです。やはり、今私たちが論じているのは、司法アクセスに寄与するかどうかという側面から検討するわけですから、これは、敗訴者負担は導入しない事案として入れるべきだろうと思います。 交通事故の場合もそうですが、一般的に、今、交通事故の裁判というのは少なくなってきたと言います。一時はものすごく多くて、裁判所にも専門部までできたわけですが、今は少ないです。どうしてかというと、保険でほとんどが解決しているというのが実情です。それで、裁判になっているものはどういうものかというと、任意保険に入っていないから裁判を起こさざるを得ない。そういう場合の裁判というのは、実際、勝っても取れるかどうかわからない事件です。そのほかにどういう事件があるかというと、過失割合の問題とか、後遺症の問題の考え方の違いなどです。これは、起こす側にとっては、勝つかどうかも全く予測がつかないというわけです。ですから、事故で被害を受けて、更にこれを裁判起こすかどうかというのは、相手が事業者であっても、個人であっても、西川委員がおっしゃるように、全く変わらないわけです。その意味では、裁判を起こすかどうかというときの大きなきっかけになるのが、敗訴者負担ではないかと思います。私は、そういう意味では、敗訴者負担を導入したら、一般の人たちが裁判を起こせないと思いますので、個人の場合も、事業者相手の場合も、これは導入すべきでないと考えています。

【三輪委員】 交通事故の場合ですが、交通事故に基づく損害賠償請求というのは、原告が勝ったときには弁護士費用の一部を被告に負担させるという形で、損害賠償が認められる典型的な事案です。それをどう考えるか、逆の場合、原告が負けた場合を含めて考えてみるというのが1つ問題だろうと思います。
 もう1つは、今、保険のことを言われましたが、自動車保険には、弁護士を頼む費用もカバーされているという現実があります。ということは、交通事故を起こしたときの法律問題については弁護士に依頼して解決するというシステムが、社会的にも承認されていると言えるだろうと思います。要するに、弁護士にかかる費用というのは、何と言いますか、訴訟になれば、当然訴訟費用の一部に近いようなものとして世の中の承認を受けつつある、そういう要素に一番近付いている訴訟類型だというような気がします。亀井委員の言われたこともわからないわけではありませんが、公害の事件と交通事故の事件とを同じように議論するというのは、何か違うのではないかという感じがします。

【西川委員】 公害事件、薬害事件について、内容を定かに承知しませんので、余り説得力のある議論ができないのかもしれませんが、今まで、公害とか薬害というものは、訴訟を起こすときの躊躇はあったのでしょうが、例外なく勝ってきている訴訟ではないのでしょうか。今、薬害、公害については、敗訴者負担であると裁判を起こしにくいとおっしゃいましたが、敗訴者負担であると、もっと起こしやすいということなのではないかと思いますが、違いますか。勝てないだろうという認識が、まずあるということですが。

【亀井委員】 例外なく勝ってきたということではありません。公害、環境、薬害というのは、いろいろな種類のものがあります。でも、負けて負けて、その上でやっと勝った。例えば、「もんじゅ」の原発の事件などはこの中に入るのではないかという気もしますが、これも、21連敗の末に、原発で始めて勝った訴訟です。そういう意味から言えば、やはり、訴訟を起こすときに皆さん考えるのは、勝つか負けるかわからないという中で、とにかく頑張ってみようということで起こす場合が大変多いです。例えば、環境権や眺望権、日照権というのは、本当に裁判所によってつくられてきた新しい権利です。最初は負け続けてきた上で、そういう権利が確立してきたというような事件だと思います。そういうものは、最初に起こすときに、本当に勝つか負けるかわからない、しかも、証拠があるかどうかわからないという事件です。そういうことから言えば、例外なく勝ってきたからということは当たらないと思いますので、やはり、訴訟の勝敗が見込めないということは、司法アクセス阻害につながるわけですから、これは導入すべきでないと思います。

【始関委員】 今、亀井委員は「もんじゅ」の事件を挙げられましたが、「もんじゅ」は、公害、薬害というよりは、行政訴訟ではないですか。

【亀井委員】 そうかもしれません。

【始関委員】 それから、眺望権という言葉をおっしゃいましたが、これは公害とはまた全然別の類型で、眺望というのはお隣の建物との関係などですから、むしろ、このごろの言い方で言うと、「C to C」、コンシューマー・ツー・コンシューマーということになるのではないですか。

【亀井委員】 「B to C」の事件もあります。

【始関委員】 そういうケースもあるかもしれませんが、公害と一緒に議論しない方が、分けて細く議論した方がいいように思います。

【飛田委員】 交通事故で事故を起こして相手方に損害賠償を行わないような場合には、裁判が起こったときに、勝訴したとき、その人の損害の賠償プラス弁護士費用の一部が判例で支払われているようになっていますね。これはある意味では、判例がもう敗訴者負担を、相手方の不法な行為に対して認めているということだろうと思います。これを覆すことはないと思います。ですから、そういうような場合には、相手方に対する損害を与えたことに賠償しない場合の行為に関する敗訴者負担を導入というのは、それはもう判例で認められていることですが、私は異論はありません。ただ、一般的な交通事故の問題というのは、非常に難しいケースもあると思います。特に、相手方が亡くなってしまったり、重篤な状況になってしまったり、引き逃げ事件があったり、さまざまなことがあります。そのような状況を考えますときに、証拠がしっかり集められなかったからと言って、訴えた側がもし仮に負けて、その訴えた側が悪い、負けたからと言って、その人に責任があるとは言い切れない場合というのは多々あると思います。迷宮入りのケースもあるかもしれませんし、そういうことを考えますと、敗訴者負担制度というのは、今までの制度を変えるわけですから、慎重でないと、特に、被害に遭われて訴える相手先もはっきりしないようなケースも多々あることを考えますと、また、訴えた相手側に誠意がなくて、つっぱねてくる場合だってあると伺いますから、慎重であってほしいと思います。私は、導入に反対です。
 それから、公害訴訟ですが、高度経済成長の時期にはたくさんのいろいろな問題が起こりまして、大勢の方が亡くなりました。そして、やっとこのごろ裁判に勝てるようになり、法律もその間にできてまいりましたし、長いいきさつがあります。その間に裁判を起こしてきた方たちの中には、遺影を持って家族が裁判に望まれている場面もよく見かけるところでした。そういうことを考えますと、時代とともに事が判明してきて、それでやっと法律ができてくるという新しい秩序形成というのが行われてきて、法律もできてきたという状況があると思います。最近、例えば、土壌汚染でも、法律ができましたのはついこの間です。それから、化学物質の問題にしてもそうですし、わからなかった問題が顕在化してきて、それは国際的にもそういうことが顕在化してきたというケースがいっぱいあるわけです。ダイオキシンの問題などでも、研究がやっと少しずつ進みかけてきているという状況にあります。ですから、私は、この公害訴訟を敗訴者負担制度にするなんていうことは、到底考えられないことであって、人々が亡くなってきたということを考えますと、こういうことに関して、もっと差止めがすぐできるようにならなければならないし、加害責任ということに対する厳しい社会の目が、もっと早くにそれらの人々に伝わらなければならなかったと思います。私どもの団体などでは、こういう状況の中で何をしたかと言いますと、長年植樹運動をやってまいりました。27、28年関わってきた銀行が倒産した関係で、一応、今はピリオドは打っておりますが、2万5,000本の木を植えました。とにかく、我々として大気汚染を測定しようということで、私どもの団体が簡易カプセルの測定方法を始めまして、皆さんが今協力していただいたりして、市民レベルでできる努力をやっておりますが、司法的にはなかなか救済されないで来たといういきさつがあります。敗訴者負担制度などとんでもない話で、そういうことを、どのような立場からおっしゃるのか、理由をお聞かせいただきたいと思います。

【西川委員】 今の飛田委員の御意見についてですが、今までやってこられた公害関係の訴訟で、実際に負けてきたケース、本来勝つべきなのに負けてきたケースというのは、どのようなものを実際に言われているのでしょうか。私の感じでは、四日市の公害訴訟から始まって、公害訴訟における敗訴率というのは、極めて低いのではないかという気がしたものですから、そうであれば、裁判に勝てば弁護士報酬も相手から取れるということになると、もっと多くの原告を引き寄せることができるのではないかと、逆に単純にそう思うのです。ですから、どういう事件のことで、実際に訴訟の抑止になってしまっているのかということを教えていただければと思います。四大公害裁判は、全部企業側が敗訴しましたね。

【飛田委員】 でも、長くかかりましたね。延々とかかりましたね。その間に、救済されないまま亡くなっていった方もいっぱいいます。健康被害は回復しない状況のまま、本当にお気の毒な状態で亡くなられた方もある。最近でも、例えば、大気汚染の問題で、私どもの会員の中にも幹線道路の近くの方がいまして、窓をできるだけ開けないようにしているというんです。そういう生活の環境の破壊が実際行われていても、その人は別に病気も発症していないので、裁判を起こしているわけでもないし、気を付けているというような話であるわけで、やっとこのごろ、ガソリンも、それから軽油も、低硫黄のものが出てまいりまして、ガソリンスタンドの人にはしっかりその成分表示をしていただきたい、私たちが品質でガソリンを買うようにしなければいけないというようなこともお願いしておりますが、いろいろなことが時代とともに判明してくることもあります。また、差し止めてほしいと言われても、経済的な理由から、差止めを周辺の人が訴えても、行政もそれにしっかりと応じなかったケースも多々あると、私の印象ではあるように思います。誤解している面があるかもしれませんが、とにかく、いわゆる公害事件というのが、一般の生活者からしますと、私が伺った、東京で裁判を起こそうと言っていた方のお話を伺いますと、大変悲惨なんです。いつ発作が起こるかわからない、救急車に乗せられたことが何度もあるので、洋服だけは、派手にということではなく、身ぎれいにしていたいとおっしゃる方があるわけです。そういうような生活をしておられるというお話を伺うと、私は、本当に、何とも言えない気持ちになります。何もなく普通に暮らしている人間と違って、たまたまそういうような被害に遭われた方というのは、訴訟を起こすにも、仕事がなくなってしまったのでお金がない、だから、洋服を普通に清潔に保つのが最高のぜいたくであるとおっしゃって、生活まで脅かされているわけです。
 個人の立場で、公害問題にしても、交通事故にしても、裁判を起こすということには大変な勇気が要って、それにはそれなりの権利の侵害があって、被害状況の悲惨さがあるからこそ裁判を起こすのだろうと、私はお話の中から感じたものですから、やはり、これから先、この司法制度改革でみんなが裁判に近づいていって、法律で判断をするべきものは法律で判断してもらって、その中で、裁判官が、現行法ではこれこれのこういう状況だというような少し踏み込んだいい発言をしていただけると、例えば、新しい法律も生まれてくる可能性も出てくるのかもしれませんし、私たちも市民レベルで情報提供をしたり、そのよき環境にするような努力をしたり、ごみを出さないようにするとか、いろいろなことをやりますが、やはり、裁判の持つ威力というのは、被害を救済していく上ではなくてはならないものですから、個人が、敗訴者負担制度の導入などをされますと、まずお金が、健康被害や何かで非常に厳しい状況にある方が、裁判を起こすことだけでも大変なのに、負けたときに、相手方の費用の一部だとしても、それを負担しなければならないなんていうことは、今、日本の国の状況を考えたときに、やはり前進しなければならないと思うんです。負けた人は、その人が悪いとは限らないわけです。裁判というのは、法的な決着をつける場だと思いますので、勝敗に関する判断の目安というのを、もう少し違うところに持っていく必要があるのではないかと思いました。

【三輪委員】 ただ今の飛田委員の御意見と、先ほどの亀井委員の御意見は、おっしゃる問題意識は十分了解しているつもりです。その上で問題提起をさせていただきたいと思います。
 勝つかどうかわからないというのは、確かにそういう面があると思います。特に弁護士の立場から言うと、そう言いたくなる場合があるというのはよくわかります。ただ、民事事件を一般に担当していて思いますのは、普通の事件は、多くの事件と言ってもいいのですが、勝つか負けるかわからないけれどもとりあえず訴えを提起しようというものではないだろうということです。しかし、今、公害事件などでされているような問題は、勝つか負けるかわからない、仮に負けたとしても、原告が被告の弁護士費用を負担することを心配しなくても訴え提起をしてもいい、訴え提起をすることがむしろ正義にかなうんだという評価を受けるものとして、訴え提起についての必要性とか正当性というようなものが背景にあるべき事件ということになり、勝つか負けるかわからないから弁護士費用は負担させないという理屈だけでは、根拠としては足りないように思います。だから、例えば公害訴訟であるなら、そういう必要性や正当性というのはどこにあるのかというようなところを、もう少し考えておくべきだろうと思います。そういう観点から、今の飛田委員の御意見を聞いていますと、現に悲惨な状況がある、被害状況が大きい、直観的には、誰が悪いかは別として、原告が被害者であることは間違いない、被害を受けているし悪い人がいる、しかし、証拠収集については非常に困難や苦労を伴うというような状況で起こされたという訴訟であれば、仮に、結果として立証が十分ではなかったということがあったとしても、それは被害の大きさと、それから被害があることは間違いないというような事実に免じて、被告の弁護士費用の負担は免除するというような持っていき方なのではないかという気がします。勝つか負けるかわからないという理由ではなくて、そういう訴訟であっても訴えを起こさざるを得ない、あるいは訴えを起こすべきだと、制度が援助するような、そういう根拠を探しておくべきではないかと感じました。

【山本委員】 三輪委員とは少しニュアンスが違うところがあるのですが、似たような意見ですので、この際お話しさせていただきます。勝つか負けるかわからないというのは、政策形成型だからという理由というのは、重要なファクターではあるけれども、それほど決定的なものではないと思いますので、それは取り上げない方がいいということを申し上げたいと思います。キノホルム訴訟などを見ますと、第何次というような形で各地域で起こされていますし、同じ地域でも数回にわたって起こされているようなパターンの訴訟がありますが、トップバッターが最高裁で認容されて確定した、損害賠償を取れるという判決が確定してしまった後、その後起こした人はどうなるのでしょうか。そのときは、かなり勝訴の見込みが高くなっているわけです。あとは、本人がキノホルムを服用した、投与されたという事実と、そのキノホルムに起因するような症状が出ているということであれば、ほぼ勝てるわけです。ですから、そういうことを考えますと、必ずしも、勝訴できるかどうかわからない、あらかじめルールが明確でないために勝訴できるかどうかわからない、あるいは因果関係の立証が難しいから勝訴できるかどうかわからないというだけで決めてしまうと、後から起こした人は救われなくなってしまい、むしろ、亀井委員や飛田委員がおっしゃるような趣旨を全うできないのではないかと思うわけです。
 私は、むしろ、生命や身体というものの被害に対しては、回復について非常に強い利益を持っているので、それについては、今、三輪委員のニュアンスとは少し違うのかもしれませんが、提訴について、ほかの権利侵害とは違うだけの強い保護の必要性があるということで、人身損害というものを引っくるめて、敗訴者負担にしないで各自負担で行くべき方の訴訟として考えたらどうかと思います。

【亀井委員】 結論としては同じですが、私が勝敗の見込みと申し上げたのは、勝敗の見込みがわからないから司法に萎縮効果があるという、それを言っているだけです。だから、公害、薬害などの事件については、そういうことで司法萎縮効果をもたらすから避けた方がいいということです。
 それからもう1つは、公益性ある事件、自分たちだけでなく、同じような被害者が全国にいるような事件は、全体に利益をもたらすものであるから、裁判を起こした当事者だけが敗訴者負担導入というのは、やはりこれは正義ではないだろうと、そういう意味で申し上げているわけです。
 これが必要性ある裁判かどうかということを考えるときにも、やはり、そこで費用の問題を考えて、裁判を起こすかどうかということ皆さん考えるわけです。そういう意味から考えれば、司法アクセスにそのことが寄与しないということが現実的な理由だと思います。

【始関委員】 先ほど西川委員が、公害訴訟や薬害訴訟は負けた例はないのではないかとおっしゃいました。全体としては、被害者側が勝訴しているという評価になると思いますが、多くの方が訴えを起こしておられますが、個々の原告個人としては、自分は損害があったと言ったのにそれが認められなくて敗訴している人もいます。また、どうしても満額は認められないという問題もありますし、ある被告に対しては原告が勝訴したけれども、別の被告は勝っているということもありますから、公害訴訟は勝つから敗訴者負担にしてもいいという理屈にはならないのではないかと思いました。

【長谷部委員】 もし、敗訴者負担を認める論拠があるとすれば、人身損害の場合は、完全な損害賠償を認めてあげるべきだということがあると思います。弁護士費用が各自負担であるということに対しては、いわゆる目減り論という議論がございます。これに対しても批判はありますが、各自負担だと弁護士費用の分だけ減額されるということになります。それはやはりよろしくないのではないかということだと思います。それに対して、飛田委員は、不法行為については、弁護士費用は損害の中に含めて相手方から回収できるという最高裁の判例があると、それでよいとおっしゃいましたが、これは、三輪委員からも先ほど問題の御指摘がありましたが、確かに、原告側が勝ってそれを回収するのはよろしいのですが、それは一方的です。それでよいのかどうかということがありますし、そもそも不法行為だけの判例ということになっていまして、例えば、人身損害であっても、契約関係、例えば、診療契約の不履行というような構成だとすると、それが適用になるかどうか疑問があるというものであります。敗訴者負担であれば弁護士費用を被告から回収できるものを判例で代替しているようなところがあるかと思いますので、判例があるから弁護士費用の敗訴者負担でなくて各自負担でも問題はないとは言い切れないのではないかと思います。
 それと、例えば、人身損害が一般的に敗訴者負担の対象としない、導入しない類型だとなりますと、確かに、最初に訴えを提起するのはとても勇気の要ることだと、先ほどのお話は大変重く受け止めましたが、先ほど来お話が出ていますように、途中からだんだん因果関係なども解明されてきて、あるいは原因物質などがわかってきて、それ以後の人は勝てるようになってきたというとき、萎縮効果というものはそれほどなくなってきても、敗訴者負担ではないということになるかと思いますが、それでもよろしいわけですか。

【亀井委員】 今は、それで皆さん納得しています。長谷部委員が権利の目減りということをおっしゃいましたが、裁判にかかるコストについて、権利が目減りするから裁判を起こさないということは、私どもも聞いたことがありません。ですから、権利が減るということ、裁判を起こせば経費がかかるということは、皆さん納得して裁判を起こしているので、権利が目減りするから裁判を起こさないということは、まずないのではないかと思います。
 それから、不法行為の場合には、契約の場合も非契約の場合も、損害賠償として弁護士費用を立てるというのはほぼ常識になっていますので、皆さんそれでいいということで、私ども納得しております。今の損害賠償理論による弁護士費用の問題というのは、結果的には片面的な部分、片面的な敗訴者負担になっているわけです。ですから、今より今回の法律が後退するということはあってはならないと思いますので、今の損害賠償理論による弁護士費用の問題は、そのまま維持していただきたいと思います。

【藤原委員】 亀井委員にお伺いしたいのですが、今回、弁護士費用の敗訴者負担を論ずるという場面で、片面的な敗訴者負担という議論を、亀井委員をはじめ、いろいろな方からお伺いいたします。今、亀井委員がおっしゃったのは、現在よりも後退することは阻止したいというお考えですが、もし、本来、片面的な敗訴者負担にすべきであるというケースがあるとすれば、これは、敗訴者負担のあるなしにかかわらず、後退するという以前に、片面的な敗訴者負担を導入すべきだという強いベースみたいなものがもう1つ必要なような気がします。
 今回、私が、いろいろな方からいろいろな資料をお送りいただいて、それを読ませていただいた限りでは、現状はOKであると、だから、現状よりも後退する敗訴者負担に関しては大いに異議があるという議論が、大半というかほとんどです。もし、そもそも現状がおかしくて、敗訴者負担にそぐうようなケースが、こういうケース、ああいうケースと想定されるのであれば、それをサポートすることと、それから片面ではなくて、敗訴者負担がそぐわないものというのを、同じ土俵で議論するということが、現状よりも後退するからといってなぜストップされるのかというのがちょっとわかりません。

【亀井委員】 ちょっと質問の趣旨がよく理解できません。

【藤原委員】 現状がいいということですか。

【亀井委員】 私どもは、現状がいいという前提です。というのは、今までずっとそれで、明治の初めから、民事訴訟法ができたときからそれでやってきているわけです。司法制度改革審議会の意見書にあるように、費用を取れなかったために萎縮したという人たちがいるかどうかというと、私どもは聞いたことがない。アンケート調査をしても、八十数パーセントの人たちがそういうことはないと言っているわけです。ですから、現状でいいというのは、私ども基本的な考え方です。ただ、敗訴者負担を入れるとすれば、片面的敗訴者負担というものを入れてもらいたいと思いますが、それについては、全部について入れろとか言っているわけではありません。日弁連の意見書でも、23ページに出ていますが、絞った形で、片面的敗訴者負担を入れてほしいと言っています。

【藤原委員】 現状がこれでよろしいとおっしゃる根拠は、今までやってきたことと、それから、原告がそれによって萎縮するということがないだろうという御判断なわけですね。

【亀井委員】 基本的にはないと思います。

【藤原委員】 私自身は、まだ、一番初めのこの検討会に課された課題のところで、そもそもそれが課題なのかどうかということが、いまだにわかっていないところがあります。現在の裁判において弁護士費用がどういう位置付けをされているかということをベースにしているのか、それとも、それが萎縮するかどうか、萎縮させるかどうかということは、当然アクセスを考えるときには重要だと思いますが、同じ議論の中でごっちゃにしていいのかどうか、その辺りが、三輪委員や山本委員がおっしゃっていることと、亀井委員ほかいろいろな方がおっしゃっていることが、必ずしもいまだにかみ合っているとは思えないところがありますので、そこをどうにか単純にしたいという気がしています。

【高橋座長】 それは次のステップでということでお願いします。

【始関委員】 長谷部委員のお話を伺っていてちょっと質問させていただきたいのですが、長谷部委員は、交通事故も敗訴者負担にはしないということでしょうか。

【長谷部委員】 敗訴者負担を導入すべきであるという議論について、人身損害であるということが、理論的な根拠になるだろうと申し上げたのですが。

【始関委員】 そういう理屈にすると、公害も人身損害ということでは敗訴者負担になってしまいます。

【長谷部委員】 そういう意味では同じになる。区別する論拠にはなりません。つまり、完全な損害賠償を得させるという、そういう趣旨では、両者は理論上は区別できないだろうと思います。

【始関委員】 被告の場合はどうですか。例えば、AとBが交差点で出会い頭にぶつかって、Aだけが大きな怪我をして、AがBに対して損害賠償の訴訟を起こしたとします。ところが、審理をしてみると、交通違反を犯したのはもっぱらAであって、Bには何の過失もないということになった場合、私は、AはBの分の弁護士費用を負担すべきだと思いますが、そうはお考えにならないわけですか。Aが原告です。過失はもっぱらAにあるということです。ところが、Aは、自分が被害を受けたので、Bに対して損害賠償を請求したという場合です。それでBが全面的に勝ったという場合です。

【長谷部委員】 それは例外の部類に属する話になります。つまり、一方的に被害を受けた人が請求して、その損害賠償請求で勝ったという場合に敗訴者負担にさせるという、そういう話の論拠を言っているわけです。今御指摘のあった場合は想定しておりません。

【始関委員】 敗訴者負担の問題というのは、前に山本委員がおっしゃったことだと思いますが、むしろ、原告の方は、不法行為の理論で今でもある程度賄われているので、問題は、理不尽にも訴訟を起こされた被告、請求が棄却になったにもかかわらず、弁護士費用は自分で賄わなければいけないというところのアクセスの問題だと、私は理解しています。

【亀井委員】 長谷部委員の意見が、今ちょっとよくわからなかったのですが、人身損害という仕切りで、個人の損害も、対個人との関係の損害も、それから公害、薬害みたいなものでも、全部敗訴者負担を導入するということですか。

【長谷部委員】 導入する、しないという場合の論拠としては、やはり完全な損害賠償は得させてあげるべきであるという、それが論拠になるんだろうということです。

【亀井委員】 論拠というより、導入するという意見だという意味ですか。

【長谷部委員】 仮に導入するとした場合の理論的な論拠を申し上げております。

【高橋座長】 もう一つ、今日は消費者関係訴訟も是非御議論いただきたいので、まだ論じ足りないところはあるかと思いますが、そちらに移ります。
 消費者関係訴訟というとちょっと漠然としていますが、例えば、消費者契約法がありまして、押し売りで入ってきて契約を結ばさせられてしまったからという場合があります。

【始関委員】 典型的には、先ほど飛田委員もおっしゃられた、高齢者の方のいわゆる催眠商法のようなケースが典型ですが。

【高橋座長】 今、原告、被告の話が出ましたが、どちらも、高齢者が自分から打って出るときには原告ですね。しかし、契約は基本的には結ばれていますから、そういう悪質業者が訴えてきて、高齢者が被告になる場合もある、こんな想定で大体よろしいですか。それに勿論限られませんが、例えば、そういう事例を想定して、消費者関係訴訟に弁護士報酬の敗訴者負担を導入した方がいいのか、しない方がいいのかの御議論をお願いします。

【亀井委員】 消費者契約法の第2条に、消費者の定義と事業者の定義があります。この消費者と事業者との関係の事件ということで振り分ければいいのではないかと思います。1つには、今、国会に出ている仲裁法では、附則の中で、この定義を使って、消費者との仲裁合意を排除する場合ということを定義付けていますので、この消費者契約法第2条の消費者、事業者の規定を借用した事件というようにすれば無難ではないかと思います。

【高橋座長】 法制的にはそれで区切りがつくとして、どうするということでしょうか。

【亀井委員】 敗訴者負担は導入しないということです。

【高橋座長】 導入しない理由は、どうなりますか。

【亀井委員】 先ほど申し上げたように、この事件というのは、訴訟類型では大変多いと思います。そういう中で敗訴者負担を導入するということになると、司法全体の萎縮につながります。

【山本委員】 それは被告の方の理論でしたよね。

【亀井委員】 いや、両方です。

【山本委員】 例を挙げられたのは、被告が消費者、つまり、高齢者に対して物を売って履行請求が来たけれど、被告としては拒みたいという場合の話だと思いますので。

【飛田委員】 今の想定がちょっと現実離れしているんですね。実際に高齢者でそういう被害に遭われたという方は、大体そのときに判断能力が大分なくていらっしゃるわけです。それで、後になって、家族が気がついてセンターなどに訴えてくるということで、本人が払わされてしまったけれども被害を回収したいというようなことは、現実にはまず起こらないですね。

【山本委員】 まだ本人は払っていないんです。本人が払っていないので、お金を払えという請求の訴えが来たという場合です。

【飛田委員】 その場合、通常、まず、そういうお金の請求が来たときに、家族がセンターなどに相談に行きますね。この間も実は、私はADRといいましょうか、行政型のADRの被害救済に関わっていますが、似たようなケースがありまして、売り付けたのではないわけですが、よくわからないお年寄りに、家の下に湿気がたまっていると言って、かえって害になるほど調湿剤というものをまいたり、それから地震も危ない、とにかくこのまま放っておくとこの家は危ないということを言って、つっかえ棒のようなもの、耐震性のホルダーというものをいっぱい入れましたり、それから、換気扇のようなものを設置していって、法外な、400万円を超えるような請求をしてきたケースがありました。それがセンターに持ち込まれまして、結果的には事業者を呼んで、どういう形でそれをやっていったのかということで、そもそも調湿剤なるものをそんなにまきますと、建築基準法にも違反するんですね。床下の高さが、空間が少なくなりますし、そういうようなことを全く業者は技術的にも何も知らないような詐欺的な行為を繰り返している若者たちだったんですけれども、その説明を、ADRにおいて、質問していく過程で事を解きほぐしていく過程で全部原状回復、ごく一部例外がありまして、その業者に会いたくもないし、かえっていじられたくないと言う、余り下にまいていないようなケースは、それに関してはそのまま放置して、いじられるとかえって壊されちゃったケースがあったものですから、そういうようなことになったんですけれども、現実に起こるケースというのは、消費者問題の中の3%台がセンターに持ち込まれるということになるんですね。裁判に持ち込まれるというのはほとんどなくて、業者がそういうことで請求してきたときに、うっかり払ってしまうケースがあって、泣き寝入りしているケースが、これから、先ほどおっしゃられるような形で裁判になっていく可能性がないとも言えないですが、現実離れしているんですね。消費者は、まず、被害を受けても、裁判を起こそうというような意識を持っている人は本当にごくわずかで、現実にどのように対処していいかわからなくて困るわけです。

【藤原委員】 今の場合は、業者が訴えたわけだから、訴えられた自分は応訴しなければいけないわけでしょう。

【飛田委員】 わかっています。

【山本委員】 訴状が届いている、訴訟が提起されてしまって、相談センターではらちが行かなくなった場合です。

【飛田委員】 その場合、消費者契約法などの不実告知とか、いろいろなことがあるわけです。裁判に訴えるということが現実的に行われるかどうかなんですね。

【山本委員】 典型的に危い場合ではなくて、ぎりぎりのところで、業者としては適法だと考えているというような場合だってあり得ると思うんですね。業者だとまだこれは消費者契約法違反ではないと、ところが、被告は消費者契約法違反だと思っているようなケースというのは、あり得るだろうと思うんですね。

【三輪委員】 事例の追加ですが、信販会社が販売業者の代金を立替払いして、信販会社が消費者に対して、立替金として請求する事件がたくさんあります。その中で、被告とされた人が、いやいやあの商品はインチキで詐欺に遭ったんだと、だから私は払いたくないという事件は、普通の事件としてよくあります。そういう事例をイメージしていただいて、その被告がちゃんと立証して、被告がだまされたんだと、業者が悪いんだということで、その訴訟に勝った、すなわち、原告の請求が棄却されたときに、では、被告は、自分の依頼した弁護士さんに払った費用は取れなくていいんですかと、こういうイメージで考えていただくといいと思います。

【飛田委員】 その場合、先ほど私が申しました額は非常に高額だったわけですけれども、一般的に言って、消費者の受けている被害というのは少額被害が多いんですね。ですから、弁護士さんにお願いしてやっていただく事件になるかどうか、簡易裁判所等で、仮にそういう場合でも対処し得る裁判になってくるのではないかということなんです。消費者被害というのは、一方では大変高額な被害を被っているケースもありますけれども、多くが非常に少額なものでして、まずそれでみんなが裁判所という、司法へのアクセスということをなかなか十分に考えられなかったり、過去において勇気を持って訴訟を起こしても、その証拠がなかなかこちら側から集められなくて、また、しかるべき裁判の内容が、消費者に対する理解が足りないということで、裁判は余り期待できないから、もうADRでもやりましょうよというような声もあるんです。

【山本委員】 そうではなくて、訴えられてしまっているわけですから、それで自分では対処できないから、消費者が被告になった場合に、弁護士を雇った場合にどうですかという話をしているわけです。飛田委員がおっしゃっているのは、あくまでも被害者の方からアクションを起こす場合の話ですね。そうではなくて、アクションを起こされた場合の話ではないでしょうか。

【亀井委員】 別の観点から、消費者が被告になる場合もたくさんあるだろうと思います。クレサラ事件の被告になる場合。ただ、裁判を起こされたときに、勝つという保証はどちらもないんです。例えば、最近鉄道自殺した3人の方も、裁判になればまだよかったんです。ああいう方たちが敗訴者負担で裁判を起こされて被告になったとき、負けた場合には2人分弁護士費用払うんですよということを言われた瞬間に、もう応訴もできないということがあり得るだろうと思うんです。というのは、今、サラ金会社が「裁判通告」というのを、時効になったものでも何でも、「今、裁判の準備をしています。そのために訪れました」と、昨日もそういう通告書を持って、ヤミ金の人が取り立てに来たという相談もありました。そうすると、もう本人は、裁判の前に、これはもう払わなければいけない、しかも、弁護士費用は負担してもらいますと書いてあるので、そういう発想になります。これと同じに今後裁判になったとしても、2人分の弁護士費用を払わなければいけないんだということになると、裁判自体、被告としても成り立たない。その前に、では、払いに行ってしまいましょうということになりかねないんです。だから、それは、原告でも被告でも同じなんです。ですから、今、皆さんが自分の分の弁護士費用だけ払えば済むと思っているのに、2人分も払わなければいけないんですよというように弁護士に言われた場合には、応訴すること自体が、機会を奪われてしまうという気がします。サラ金事件の取立てというのは、いずれにしても借金をしている人たちですから、若干の利息制限法の問題はあるにしても、とにかくお金を払う立場にはあるわけです。インチキだということを証明するのは至難のわざなんです。例えば、杉山事件というので、偽造証拠で勝訴したという、あのような事件ですらいっぱいあるわけです。2人分の費用を払うんですよと言われたときに、被告としても受けられない、その前に払いに行きましょうということが多いだろうと思うんです。被告の立場としても、私は導入すべきではないと思っています。

【山本委員】 誤解されると困りますが、私も結論はそうなんです。同じです。ただ、理屈の付け方が多分違うということで、やはり構造的な力の格差があるところについては、原告であろうが被告であろうが、役割分担にかかわらず、同じ規律でいくべきだと考えております。

【藤原委員】 この議論の中で一番重要なのは、どこに線引きするかということに関しては、多分、ここに座っていらっしゃる方々は、そんなに大きな異論というか、意見に大きくは相違はないと思うんです。ただ、我々が課されている責任は、何を根拠にするかというところなんです。その根拠に関して十分な議論ができないまま、しかし、直観的にこの辺りだろうという答えを出したのでは、多分、我々が任務を遂行したことにはならないので、私は、いつもすごくジレンマに陥るわけです。ですから、亀井委員や飛田委員や、それから長谷川委員のお話を聞いていても、容易に同感できるところは多々あるんです。ただ、そのよって立つところをどこに求めるかということが本当に重要であって、それを探るような議論をしないことには、実例はこうですとか、現状はこうですとか、今までやってきましたからというので、果たして、その根拠として十分足りるかどうかというのが、いまだにすごく不安なので、その辺りを皆さんに是非議論していただきたいのです。

【亀井委員】 今おっしゃった、前提があるという発想自体が、私はおかしいんだと思います。現状で、各自負担でやってきたわけです。これを変更するんだとすると、逆に、何で現状を変更する必要性があるのかということの方を先に議論しなければいけないのではないですかと申し上げたいんですが。審議会の意見書を読む限りは、一定の要件の下に導入するという書き方です。ですから、どちらが原則か例外なのかという話は、両方の解釈が成り立ち得ます。ただ、私は、審議会の佐藤会長が、国会で、原則例外という考え方はないんですというお話をしているのに依拠しているだけです。

【長谷川委員】 先ほど山本委員が言ったように、根拠というのは、格差だと思うんです。個人とグループとか、個人と行政とか、そういう大きなところと小さなところが闘うときの、前にお話に出た、専門知識の違いとか、情報の量と質の格差とか、そうしたものがあるので、そうしたことに対しては、先ほどから出ている環境とか公害もそうですし、医療も、労働もそうです。今、お話にあった消費者の問題もそうです。そういう個人対個人とか、個人とか事業主とか、そうしたものについては、格差があり過ぎるというのが根拠だと思うんです。そして、大企業と大企業の間の訴訟、そういう経済活動をしているところには、そのコストというものを、弁護士費用などの事業のコストというものを吸収していった方がいいものについては、両面敗訴者負担でおやりになったらいいではないかと、私はそう考えるんですが、そこのところの根拠というものは、あくまでも格差だと思うんです。情報あるいは立場、地域、そうしたことがとても根拠の基本にあると思うんですが。

【長谷部委員】 論拠が大事だということは、そのとおりだと思います。それで、どちらが原則でどちらが例外かということではなくて、ともかく、敗訴者負担を導入する論拠は何かということを、今まで議論しているわけですね。 先ほど私が申し上げたことで若干誤解があるのではないかと思ってあえて申し上げるのですが、敗訴者負担を導入するかどうかというのは、理論上の問題も勿論ありますし、政策的な問題も勿論あります。両方の間に情報格差があるから、だから萎縮効果が生ずる、これは、どちらかというと政策的な話だと思います。理論上は、当事者間の公平ということから言えば敗訴者負担もあり得るけれども、情報格差ということも考えると、やはりそれは導入しないでおこうという議論になるというのはわかります。ただし、その情報格差というのも、私には必ずしも絶対的ではないと思えるわけです。情報格差を補充するべく、例えば、訴訟手続を改善するということだってありますし、あるいは、情報以外の格差ということであれば、資力の格差というのも勿論あるわけですが、それについては法律扶助制度を拡充するなり、あるいは訴訟費用保険で賄うなどという、ほかの周辺的な制度で何とか補充するということもあるわけです。ここの議論では、敗訴者負担かそうでないかという議論ではなくて、そういった周辺的な制度まで含めて、いろいろなことを考えましょうということが、今まであったかと思いますので、1つだけで決めようということではなくて、それも1つの理由付けだということで、いろいろな要素を考え合わせて、この類型ではどちらかというとこちらの方がまさっていますから、敗訴者負担は導入するかどうか、その結論を決めるということだと思います。ですから、私が先ほど人身損害の場合というように言ったのも、あくまで1つの論拠であって、それ以外のことで、何か敗訴者負担を導入するのに非常に問題があるということであれば、それを論じていただければ、それで結構だと思っております。

【藤原委員】 大変素人で申し訳ないのですが、そもそも原告と被告、一方が訴訟を起こして一方が応訴せざるを得ない、その状況の時間的な差はありますが、裁判に臨むというときには、その証拠であるところの情報、それからおのおのが立場を明らかにするという手法、それからおのおのが集め得る証拠、これに関しては、裁判に臨んだ時点では、理想形は、格差がないというのが理想ですね。それを埋めるために、実は、法律の専門家がいるということですね。だから、その格差があるというところも、どこに格差があるかということをきちっと言わないといけないと思います。現に、思い当たるようなケースもなきにしもあらずというような話もあるわけでして、要するに、裁判を何を理想型として話すかということで、格差があるということをどういうふうに認めるかというのがすごく私は悩ましいところで、そもそも格差がないところで裁判が起きるという権利を我々は持っているんだという、それで必要不可欠な資源として、弁護士は必要不可欠になってきているというのが今の状況なのではないかと思っていますので、その格差ということは、どこが格差が発生しているかということに関しても、やはり厳密に議論すべきだと、私は思っております。

【長谷川委員】 格差はあります。多種多様な状態です。その人がものすごくお金持ちの個人もいれば、そうでない個人もいます。人との関係もまったく異なります。多様な個人を多様なまま裁くシステムであるというわけですよ。そういう格差の中には、単に情報だけではなくて、立っている立場の違いがあります。身体に傷付いたことも個人でしか感じられないというようなこともある。大きなところではあいまいになってしまうこともあります。格差は確実にあるというよう社会の司法を考えなければならないでしょう。

【亀井委員】 今の裁判というのが、理想型ではないんです。どうしても、裁判所はいろいろな面で後れてきますから、社会の方が先行してしまうわけです。特に規制緩和の世の中で、事後規制で、司法で後から救済するということですから、どうしても裁判の形というのは、社会の後れ後れになるわけです。また、裁判を受ける権利が格差がないところにあるという考え方自体がそうではないわけです。その格差を埋めるために弁護士がいる。弁護士だけではだめなんです。もっと制度的な保証が必要なんです。証拠の開示の問題もあります。それから、もっと法の支配を受けた社会にならなければ。外国みたいに何かあったらすぐ紙に書くという習慣がありません。特に日本では、親族間の裁判などが多いので、なかなか証拠というものがないところです。
 それから、大きな事業者を相手にするときには、証拠の遍在、証拠の格差というのが全部あるわけです。格差があるところに裁判が始まるわけですから、やはりそれなりのいろいろな保障制度が今、長谷部委員がおっしゃったようないろいろな制度保障も必要なんです。だけど、それが今ほとんどないという状況の中でどうするかということなんです。ですから、藤原委員が、前から、理論的にどうなのかということをおっしゃいますが、これは理論的に正しいということだったら、過去何十年、百年近くも、日本は間違いを犯していたことになってしまいます。理論的には両方の立場が成り立つと思います。政策の問題、どういう弁護士費用を、誰が負担するのかというのは、これはもう政策の問題なんです。今、政策の問題として考えれば、今、そういう裁判制度自体が公平になっていない、それから、周辺制度もきちんと整備されていないという中で、やはり、今やるのは問題であるということを言いたいということです。
 更にもう1つは、今、司法アクセス、司法アクセスということを一生懸命言っているときに、裁判を萎縮するような制度というのはいかがなものか、考えるべきであろうと思っています。

【飛田委員】 格差のことが話題になりましたので、例えば、消費者問題を例に取っていいますと、事業者というのは、同じもの、あるいはサービスを反復して提供されるような立場に立たれるわけです。私たちは、勿論同じものを利用させていただく場合もありますけれども、その商品のノウハウということに関しては、よくわからないわけです。そういう意味では、特に近年のハイテク化が進んでまいりまして、科学技術が随分進んでまいりますと、まず、技術的にも、私たちは素人で、それを使わせていただくという立場に立たざるを得ないし、何か質問をしても、事業者は、企業秘密の名の下に、情報を公開しない場合も非常に多いわけです。例えば、そういう姿勢の表れの1つが、化粧品の成分表示にも言えると思います。私どもの団体では、30年余り前になりますけれども、これは別に事業としてやっているわけでもない、事業者に再販売価格制度維持の問題がある、100円も1,000円も変わらないということから、化粧品、ちふれ化粧品というのをつくってもらっています。それはいろいろなことをやってきておりますが、成分表示を最初からしております。皆さんにそれを知らせるのは、いろいろな皮膚トラブルがあったときに、何の被害に、何によって自分がトラブルが起こったかがわかるために、情報公開をしてきたわけです。あるいは、書けないものは問い合わせていただければできるように、そういうシステムをつくっておりました。ほかの化粧品に関しても、表示をしていただきたいということを言い続けて二十何年、やっと数年前に表示をすることになりました。それまでは、メーカーさんは、これは企業秘密ですと言って、ずっとそれを公開しなかったので、消費者は、何が使われているかということを、強調される宣伝広告の一部でしか知ることができなかった。やっと景表法が改正されて、強調表示に関して、つい最近ですけれども、根拠をちゃんと表示しなければ、事業者は説明できなければならないというように、一歩踏み込む形になったんですけれども、表示そのものが非常にいかがわしいものが多い、広告そのものも、いろいろな問題があって、強調してきて、やりたい放題という面が多々あったわけです。私たちは、そういうものに踊らされて、消費者は多様な被害に遭い、例えば、昔、アメリカで、パット・ブーンがニキビの薬はこれが効くと言って、訴訟を起こされて負けたことがあるそうですけれども、日本では、裁判を起こす風土もないので、いろいろな被害があっても、余りそれがそういう形にならなかったケースもあるわけで、情報格差というのは、他の媒体によっても更に加速してくるわけで、やっと景表法がこれから少し踏み出せるかなというのが現状です。

【山本委員】 情報格差というのを、私は根拠にしたくないと思います。というのは、ほかの周辺制度を変えれば、情報格差がなくなる可能性があるわけです。それでもなお、少なくとも、消費者契約にかかわる訴訟については、社会的なリソースの違いは明確にあるわけです。事業者すべてがそうではありませんが、リピーターですし、訴訟についてですが、それなりにホームスタッフを持っている場合もあります。中小企業ではそうはいかない場合もありますが、そこの辺りは、消費者契約法自体がそういうものはネグっているわけですから、そういうラフな形でのリソースの違いというのが、やはり消費者契約法の根底にあって、単に情報の格差だけの問題ではないと思うんです。だから、そういう社会的に動員のできるリソースを持っているにもかかわらず変な商品を売っているということについて、製造物責任法や消費者契約法というもので対処しようとしているわけですから、それと同じように、動員できるリソースの違いというものがあるために、ここでもやはり違う扱いをした方が、少なくとも各自負担にしておいた方がいいのではないかというのが、私の趣旨です。例えば、完全に日本でも、アメリカ型のディスカバリーを導入すれば、情報格差というのはかなりなくなってしまうわけですね。それでもなお、私は、弁護士費用の問題は、別途別の問題として考えるべきだと考えております。

【長谷川委員】 裁判というのを、普通の人は勝った負けたとか、あるいはお金で解決をしようというよりも、自分の周りにあるトラブルを明快にしたいという意識がとても強いわけです。だから、勝ったら人からお金をもらおうとか、本当はなかなかと個人の立場の裁判は、そういう感情は動かないんでしょうね。訴えられたことは何か面倒なことだなと思うけれども、でも明らかにしたいでしょうし、向こうから裁判代を取ろうと思う人もどのぐらいいるだろうと思うんですね。どちらかというと、もっと自分の周りにあるトラブルをきちっと解決してほしいと考えて弁護士のところに行く感情が、今のところ私たちの国では強いのではないかと思うんです。 私は、今はロンドン大学で教えたりするのでよく行くので、この間からイギリスについて、敗訴者負担が導入されているというのでいろいろと見学をしたんですけれども、基本的には敗訴者負担になっているために、ハイ・コートという上級の裁判所では、そうしたことが行われているわけですけれども、イギリスのカウンティ・コートというか、そういうところのほとんどは各自負担でやっているんですね。つまり、あそこにはまだクラスがありますから。私の教室もほとんどの人が貴族で、すごい不思議な感覚がありますけれども、格差がひどくて、考え方も異なります。一般市民層のところでは各自負担というものが原則になっているんですね。そのところで感じることというのは、何か一般市民というのは金銭活動をしているわけではないというところがあると思うんです。もっと自分の周りにあるいろいろなトラブルというものを解消したいということでしょう。ハイクラスの個人には経済活動をしている人がいると思います。そういうところにある考え方と普通の生活者の考えがあって、極端に違うことを感じるんです。私たちの国は皆一緒なのではないかと思うんですね。生活している普通の人たちの感覚というものをちゃんととらえなければ、この司法のアクセスというのは開けないのではないかという感覚を私は持っているんです。

【始関委員】 消費者訴訟の問題について、消費者問題の一番の御専門である飛田委員が各自負担がいいとおっしゃるのであれば、そうなのかなと思わないでもないのですが、飛田委員がおっしゃられたように、なかなか消費者が自ら訴えるということは余りなくて、むしろ三輪委員がおっしゃられたように、クレジットになっていて、クレジット会社が非常に理不尽な売り方をしたものについて立替え払いをして、立替払金を請求してきてやむなく応訴しなければならなくなるという場合に、理不尽であるということが認められて、それも額は比較的少ない場合が多く、30万とか20万という額ということでした。しかし、それを争うためには、非常に高度な訴訟行為が必要ですから弁護士を立てなければいけない、そして、ようやく勝ったが、結局、弁護士費用は自分で払わなければいけない。立替金は払わなくて済んだが弁護士費用は相当払わなければいけなくなって、結局は、余り残らないというか、もともとは払わなければいけないわけですが、結局は、お金をある程度払わされたのと余り変わらないということで本当にいいのかというのが、やや、引っかからないでもないのですが。

【亀井委員】 飛田委員は、「消費者が訴えることは余りない」とおっしゃいましたが、私ども弁護士から見ると、消費者取引被害で裁判というのはかなりあります。それは勇気を持って裁判を起こす。例えば、マルチ商法、ネズミ講、先物取引、原野商法や豊田商事など、いろいろな事件がどんどん出てきて、どんどん裁判を起こしてきています。これは、80年代から90年代にかけて、そういう消費者取引がいっぱい裁判になっています。

【西川委員】 それは原告の場合ですね。

【亀井委員】 原告です。それが連敗の山で、ずっと負け続けました。豊田商事も、ああいう事件でさえ、破産になる前に勝った裁判は1つもないんです。金の延棒の事件も、随分裁判を起こしています。そういうのを乗り越えて、そういう人たちが、結局、2人分の弁護士費用を払うんですよということだったら裁判を起こせません。最初は、弁護士の方も、着手金を取るという発想もなく、とにかくうまく行ったらもらいましょうというような契約でほとんど皆さんやっていたと思います。そういう敗訴判決の山を乗り越えて、裁判所にも理解いただいて、その後勝ってきているということ、そして、勝ってきたという個人的救済だけでなくて、その後、取締法規がたくさん出てきています。これも、裁判所との協働作業による法創造的機能の最たるものではないかと思いますが、訪問販売法や無限連鎖防止法、海外先物規制法なども、いろいろなそういう取締法規が後からできています。そういうことから考えると、やはり、連敗の山の意義があったわけです。2人分払わないでいいから何とか裁判を起こして、こういう法規制にまでつながってきたという歴史があるわけです。そういうことから考えると、やはりここは、各自負担で全部行かなければいけないと思います。

(3) 今後の日程等

【高橋座長】 ここでちょっとお諮りしたいことがございます。「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」について、パブリック・コメントというものをどのようにするか、あるいはいつするかということです。まだ粗ごなしですけれども、次回も議論をしますので、ある程度はこなせるでしょう。敗訴者負担の問題も、秋口でも勿論検討しなければいけませんが、夏休み前という時期でもあります。次回の検討会が終わった後に、パブリック・コメントの手続をすることにしてはどうかという提案をいたしますが、いかがでしょうか。

【山本委員】 8月は多分検討会が入らないと期待しておりますので、その期間を使ってパブリック・コメントの手続をしておかないと、9月以降の日程を考えると少し難しいと思います。差し当たりは、やはり7月の末に出して、8月中ぐらい、1か月間ぐらい皆さんの意見を募って、事務局に御集計いただくという日程が、非常に現実的な選択肢ではないかという気がいたします。

【亀井委員】 パブリック・コメントの手続をするのはいいと思いますが、そのときの意見の求め方の問題は、相当慎重にしていただきたいと思います。
 それからもう1つ、国民の理解ということの部分ですね。ここで代表者3人程度でも呼んでヒアリングをするという機会もあってもいいのではないかと思っています。

【高橋座長】 パブリック・コメントの仕方は、これは工夫が必要ですが、7月が終わった後ぐらいという、その時期についてはいかがでしょうか。

【亀井委員】 時期については、こだわりはありません。

【西川委員】 パブリック・コメントの手続をこの8月の1か月間ぐらいの期間で行って、幅広く意見を聞くことに賛成です。

【飛田委員】 是非ヒアリングをしていただきたいと思います。やはり、生の声というのが非常に重要だと思いますので、そういう意味では、今日の、私もちょっと不十分なところがありましたけれども、本当に法律の穴をくぐっていろいろなことが次々行われて、そういうことの被害に遭っている、例えば、消費者問題もそうだと思いますし、そうでない場合も、法律が後になってみんなできているんですね。公害関係もそうですし、残念ながら、主管庁が消費者にしても生活者にしても、付随的に保護するような形の法律がずっとつくられてきていましたので、そういう意味では、よろしく御検討いただければと思っております。

【高橋座長】 勿論検討しますが、この場にも随分生の声が届いていますし、今日もいただきました。
 それでは、事務局から、事務的な連絡をお願いします。

【小林参事官】 次回につきましては、7月23日の水曜日、午後1時半から4時半までです。司法ネットと弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて、引き続き御検討をお願いいたします。
 それから、9月以降についても検討を続けなければいけないと思いますので、日程について、至急調整をさせていただきたいと思います。

【高橋座長】 今日は時間を超過いたしましたが、どうもありがとうございました。