【高橋座長】 所定の時刻になりましたので、第17回司法アクセス検討会を開会いたします。冒頭に、山崎事務局長から御報告をお願いいたします。
【山崎事務局長】 この検討会で検討の対象となっていました「簡易裁判所の管轄拡大」、「訴えの提起の手数料」、「訴訟費用額確定手続の簡素化」、この3つのテーマが、「司法制度改革のための裁判所法等の一部を改正する法律案」ということで国会に提出されていましたが、お陰様で先週の金曜日に承認を得まして無事成立したということを御報告申し上げたいと思います。衆議院で可決されてから大分日が開きまして、非常に心配はしたわけですが、お陰様で無事成立しました。御礼を申し上げます。ありがとうございました。
【高橋座長】 ありがとうございました。それでは、事務局から、本日の議題と配布資料についての説明をお願いいたします。
【小林参事官】 本日の議題につきましては、「司法ネット(仮称)について」と「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて」を予定しています。
本日の配布資料ですが、まず、資料1は、司法ネットのイメージにつきまして、これまで当検討会で議論していただいたことなどを基に、事務局で作成したものです。
封筒に入っている資料2は、司法ネットに関する日本弁護士連合会の御意見等に関する資料で、この後で御説明をしていただこうかと思っています。
資料3は、昨日、当事務局で隣接法律専門職種団体の方々と意見交換を行った際に各団体から提出していただきました、各団体のアクセスポイントとしての活動と司法ネットについての御意見に関する資料です。今後の検討の参考にしていただければと思いまして、本日の資料にしました。
資料4は、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いに関する当検討会での議論を論点ごとにまとめた資料、資料5は、今後の検討会の開催予定、資料6は、日本弁護士連合会から資料の補足として提出されたものです。
【高橋座長】 最初に、司法ネットについての検討をお願いいたします。これまで、アクセスポイント、司法過疎対策、民事法律扶助の分野での現状と課題、あるいは問題点につきまして御議論いただきまして、ある程度の輪郭は出てきておりますが、日本弁護士連合会でも、この問題に関しまして議論を深めたということでございます。そこで、日本弁護士連合会から、議論の方向性について御紹介をいただくということから始めさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか。
(各委員了承)
それでは、日本弁護士連合会の市川副会長においでいただいておりますので、御説明をお願いいたします。
【日本弁護士連合会市川副会長】 御紹介いただきました日弁連副会長の市川でございます。本日は限られた時間の中、お忙しい審議時間の中このような機会を与えていただきまして誠にありがとうございました。
お手元の「資料2」という封筒の中に、今日私が説明申し上げるペーパー、「司法ネット構想の必要性」と題するペーパーがございます。あとは「資料目録」と題するペーパー、それから別紙1から別紙11とそれぞれ印がされたペーパーがございます。資料につきましては後ほど御説明させていただくこととしまして、まず、この「司法ネット構想の必要性」と題しましたペーパーに沿って御説明させていただきます。
実は、以前、日弁連としてはプレゼンテーションをさせていただいたところでありまして、その際、日弁連の行っております、いわゆるリーガルサービスについての現状は御説明申し上げたつもりです。今日はその上に立ちまして、にもかかわらずどのような問題なり限界を抱えているかというところを率直に御説明申し上げたいということでまいりました。
ペーパーに沿って御説明申し上げます。別紙1の「リーガルサービスセンター構想に関する方針」、これは後で御説明申し上げますけれども、その第1項の「(基本姿勢)」で述べているとおり、日弁連は、このリーガルサービスにつきまして積極的に取り組んでまいりました。また、隣接法律専門職種団体や行政、地方公共団体の相談窓口、ADR機関などが司法アクセスポイントとしての機能を担っております。しかし、全体といたしまして、司法アクセスの現状には、次のような弱点ないし限界があり、ネットワーク化及び紛争解決機能の強化が必要であると感じているところでございます。1つ目は、各窓口の連携が不十分で窓口の偏在が生じているというところです。2点目は、弁護士が1人もいない、あるいは1人しかいないいわゆる弁護士ゼロ・ワン地域など、司法アクセスの過疎地域が存在するという点です。3番目は、各窓口において法律相談や紛争解決機関などへのアクセスに関する情報が十分に集約整理されていない。そのため、相談者に対し、必要な情報提供や適切な紛争解決機関への振分けが行われていないということです。4番目は、相談窓口等での相談の結果、弁護士会等への依頼が必要となる場合にも、直ちに受任手続につながらない場合があるということです。5番目が、民間による取組みでは財政的な負担が過重になっている。日弁連の負担については後ほど御説明申し上げます。このような問題点、あるいは弱点があるということです。
「司法ネット構想の必要性」と題するペーパーの「第1 司法ネットの必要性」の「2 日弁連の取組みの到達点と限界」の「① 法律相談のセンターの設置状況」、これは以前も御説明いたしましたけれども、3月現在、今日現在も同じでございますけれども、全国で253か所の法律相談センターを設置してございますけれども、全国3,300の市町村のごく一部にすぎないということでございますし、また、この253のセンターの中には、週1回、あるいは、場合によっては月に1回しか相談日を開設していないというところもございまして、十分な供給がなされているとは言い難いのではないかというところでございます。
それから、「② 弁護士過疎地域の克服の到達点」ですが、日弁連は、この3年間に18か所の過疎地にひまわり基金法律事務所を設置してきましたが、それでも全地裁本庁支部の数253のうち40の支部にはまだ1名の弁護士しかおりませんし、21支部には1人も弁護士はおりません。ゼロ・ワン合わせて61支部ということであります。これは、今年の3月段階の話でございます。日弁連は、全会員から毎月1,000 円の特別会費を徴収して、ひまわり基金を設立して、過疎地支援を行っております。しかし、過疎地域の法律相談センターは押しなべて赤字でございまして、平成14年度ひまわり基金からの支出額、これは合計2億2,129万円ございますが、そのうち1億4,400万円は、この赤字の法律相談センターへの開設運営費に充てられています。特別会費の徴収は、会則によりまして、時限的な措置とされております。この点については、後で資料で詳しく御説明申し上げます。
「③ 当番弁護士制度基金」ですが、日弁連は、当番弁護士制度と被疑者弁護についての法律扶助の財政についても、平成7年6月から、特別会費を徴収しております。これも3年の時限措置でございますが、国費による被疑者弁護制度実現までとして、延長を続けてまいりました。現在は2回更新しまして、3回目の更新期間中ということになっております。現在の徴収額は月額4,200円でございまして、一般会費が1万4,000円でございますので、これと対比しても、異例な水準に至っていると言えるかと思います。
「3 民事法律扶助事業」ですが、民事法律扶助事業は、平成15年度には代理援助4万2,600件が見込まれておりますが、国民の需要を満たすにはほど遠く、今後一層の充実が求められております。事業年度途中で、予算不足のため事業が打ち切られるということが、しばしば起きております。
「4 公的弁護制度関連業務」ですが、被疑者段階からの国費による弁護制度導入に伴う迅速な受任態勢が不可欠であり、また、裁判員制度で想定される連日的開廷にも十分対応できる態勢整備が必要となっております。
次に「第2 運営主体の必要性」について申し上げます。
「1 司法アクセス、民事法律扶助、公的弁護を担う運営主体の必要性」ですが、日弁連は、後で御説明申し上げます方針の第2項にありますとおり、司法ネットの中核を担う運営主体として、次のような役割と機能を担う組織、これは私ども、新聞報道などに従って「リーガルサービスセンター」と呼んでおりますけれども、その設置が必要と考えます。「① 司法アクセス窓口業務を行うほか、法律扶助協会が行っている各種業務を発展継承するものと位置づけ、さらに国民の需要の変化に応じた新しい事業についても対応可能な組織とすべきである」とありますが、これは、地方独自にいろいろな事業が、次々と今まで起きてきたという経過がございまして、その事業が地方から全国に広がっていくということがありました。それが地域の住民、あるいは国民の需要に適切に応じてきたと私どもは評価しておりまして、その関係を言っているわけでございます。これからも、国民の需要の変化に応じた新しい事業についても対応可能な組織としていただきたいということでございます。「窓口の設置にあたっては、利用者の利便性の確保のため、極力ワン・ストップ機能を目指して、隣接士業の各職能に応じた適切な協力関係を築くこととし、これに必要な制度・運用を整備する」、「② 公的弁護制度・公的付添人制度の運営業務(弁護士会と協力した弁護人・付添人の確保、報酬の決定・支払、常勤弁護士の確保など)を担う組織として構想する。ただし、「充実した弁護活動を提供する態勢整備」、「弁護活動の自主性・独立性の確保」などの視点が制度設計全般を通じて実現される必要がある」とありますが、これについても、後でまた詳しく申し上げます。
「2 運営主体の組織形態を検討する場合の視点」です。組織形態の具体的な選択肢としては、公益法人、特殊法人、あるいは独立行政法人などが可能性としては考えられるかと思います。このリーガルサービスセンターにふさわしい組織形態を検討するに当たっては、①として、「組織の自主性・中立性が重要である」とありますが、これは、相談者は国や自治体に対する訴訟のために相談に訪れることがありますが、相談に当たる弁護士が、そのような場合にも公正中立の立場を維持するためには、組織の自主性・中立性が不可欠と考えるからであります。このことは、公的弁護制度においても妥当すると考えます。同時に、公的資金の投入がなされることから、納税者の視点を意識する必要がございます。そこで、②といたしまして、「公的資金の投入を受けるにふさわしいだけの業務内容の透明化、業務の効率化を図ることができるかどうか、業務の適正さを担保する仕組みがあるかどうかという視点も重要である」と考えるところでございます。
「3 運営主体についての日弁連の方針」でございますが、日弁連といたしましては、独立行政法人が現実性のある組織形態であるとして、具体的な検討を開始しております。この点についての日弁連の基本的考え方は、後で御説明申し上げます、方針の5項から7項に記載されているとおりでございます。ここに5項、7項を引用しておりますので、後で御覧いただければと思います。
それから、第3として、「制度設計において特に留意されるべき点」として、司法ネット構想及び運営主体の制度設計において以上に述べたところに加え、特に留意されるべき点は、後で御説明申し上げる方針の3項及び9項で述べているところでございます。3項と9項はここに挙げておきましたので、後で御覧くださるようお願いいたします。
それでは、資料の方の説明に移らせさせていただきます。別紙1という資料は、今年の6月21日に日弁連が理事会で議決いたしました「リーガルサービスセンター構想に関する方針」というものでございます。2月にも基本方針を定めてありましたが、非常に抽象的なものでしたので、それをやや具体化したものになっています。「1(基本姿勢)」におきましては、リーガルサービスセンターを、1番目として、「市民の司法アクセス窓口設置・拡充」、2番目として、「資力の乏しい市民に対するリーガルエイドの充実」、3番目として、「過疎地対策などを前進させるものとして、制度構想を進める」というようにまとめているところでございます。 「2(リーガルサービスセンターの役割、機能)」につきましては、①の方につきましては、先ほど御説明申し上げましたところでございます。法律扶助協会の業務を発展的に継承するものと位置づけ、国民の需要の変化に応じた新しい事業についても対応可能な組織とする。②といたしましては、公的弁護制度・公的付添人制度の運営業務を担う組織としても構想する。ただし、充実した弁護活動を提供する態勢整備、弁護活動の自主性・独立性の確保などの視点が制度設計全般を通じて実現される必要性がある。特に申し上げたいのは、弁護活動の自主性・独立性という観点でございまして、御存じのとおり、弁護士は、依頼人、あるいは被告の依頼に基づきまして、国、自治体、あるいは公団・公社等に対して損害賠償の請求をしたり、行政処分の取消しを請求したり、あるいは、捜査の違法性を主張したりということがございます。国からお金をいただくわけでありますけれども、その国に対して、そのような主張をするということが、往々にしてあるわけでございまして、特に国、自治体、あるいはそういった行政主体等からの独立性というものが確保される必要がある、この点はよろしくお願い申し上げたいと考えるところでございます。
3以下は、記載のとおりでございますので、後ほど目を通していただければと思います。
次に別紙2でございますけれども、これは、先ほど、公益法人、特殊法人、独立行政法人などが考えられると申し上げましたので、それらについてのそれぞれの特徴を「設立根拠」から「責任体制」に至るまで、表にしてみたものでございます。日弁連が特にこの表で強調したいところは、下から4番目にある、「監督官庁の関与」というところで、独立行政法人におきましては、「一般的監督権はない」となっています。先ほどの弁護活動の独立性という点からいたしまして、こういうところに注目しております。それから、「情報開示」のところを見ていただきますと、独立行政法人は、「法人運営に関し、特殊法人より広範な事項を積極的に公表」となってございます。この点も、日弁連として重視している要件から、注目されるところではないかと考えているところでございます。
次に別紙3について御説明申し上げます。まず、この表は何の表かと申しますと、全国を簡裁の管轄地域ごとに区割りしてみた表でございます。一番上、1番で例をとりますと、「東京」と書いてございますけれども、東京地裁の管轄管内に東京簡易裁判所がございます。この管轄区域内に事務所を開いている弁護士は、9,061名おります。管内の人口は書いてありませんけれども、東京簡裁管轄区域内には、法律相談センターが、池袋、新宿、四谷、神田、家庭があります。「家庭」というのは家庭相談でございます。開設状況は、常設ということになってございます。「常設」というのは、週5日以上は開いているということでございます。常設のものについては、この比較的濃いブルーでもって色付けをしてございます。ずっと飛びまして、29番を御覧いただきたいのですが、これは、さいたま地裁の管轄区域内に熊谷簡易裁判所がございまして、ここには弁護士が26名おります。法律相談センターとしては、法律相談センター熊谷支部(熊谷地区)というのがありますが、これは週2回開設で、常設ではございません。そこで少し色を落としまして、やや薄いブルーでもって色付けをしてございます。もう一つ、31番を見ていただきますと、さいたま地裁の管轄区域内に秩父簡易裁判所がございまして、ここには弁護士が2人おります。ここにも秩父法律相談センターがございますけれども、開設は週1回ということで、ここも薄いブルーで色を塗ってございます。一番右を見ていただきますと、ひまわり基金からは、この秩父法律相談センターに、平成14年度の場合でございますけれども、200万円の資金援助がなされています。その上の30番を見ていただきますと、さいたま地裁の管轄区域内に本庄簡易裁判所がございまして、これは独立簡裁でございます。地裁とは庁舎が別になっておりまして、独立して存在している、通称は独立簡裁といわれておりますが、ここは弁護士が1名でございますが、この本庄簡易裁判所管轄管内の住民の人口は、26万2,000人以上でございます。ここに法律相談センター熊谷支部(本庄地区)がございまして、これは月2回のペースでしか開かれておりません。つまり、週に1回のペースにも満たないわけでございまして、週1回も開いていないところは色なし、つまり真っ白にしてございます。このようにいたしまして、全国の簡易裁判所ごとに色を付けてみたらどうなるのかということで、つまり、真っ白なところが、法律相談センターが全く存在しないか、存在したとしても週1回の法律相談も開かれていないということになるわけです。地理的に申し上げまして、ここが法律相談センターとして穴があいていると申しましょうか、対策らしい対策が全く打たれていないか、ほとんど打たれていないかと言っていい地域と思われます。1枚めくっていただきますと、随分白いところがあるということがおわかりいただけるかと思います。
一番最後のページを見ていただきますと、まとめてございまして、破線で四角く囲ってございます。上の段から御説明申し上げますと、全国の簡裁の数は438ございます。その438の簡裁の管轄区域内におきまして、弁護士が0もしくは1の簡裁の数は206でございます。日本の全人口は1億2,600万強でございます。全弁護士数は1万9,000人強でございます。法律相談センターが設置されている簡裁の数は243でございまして、438と243の差は195でございまして、この195については、法律相談センターが全然設置されていないということになります。
6番目といたしまして、先ほど埼玉の例で200万円という例を御紹介申し上げましたけれども、法律相談センターへのひまわり基金の援助額は、全部の相談センターを足しますと1億4,500万ほどを日弁連から援助しております。今申し上げましたのは、簡裁全部について申し上げたところですが、独立簡裁だけで見るとどうなるのかというのが、7番以下の数字でございます。独立簡裁の数は、全国で185 あります。その独立簡裁のうち、弁護士数が0ないし1の独立簡裁は139、独立簡裁管轄内の人口は3,400万人強、独立簡裁管内の弁護士数は663名、独立簡裁区域内に設置された法律相談センターが27、185との差は158ということになります。それから、この27センターに援助されたひまわり基金からの援助額は、1,771万円強という数字になっております。これが別紙3でございます。
続きまして、似たような資料で別紙4、これは、趣旨は同じですが、先ほどの別紙3は簡裁の管轄区域ごとに地域を区切って御説明申し上げたのですが、今度は、その地域のくくり方を簡裁ではなくて、広域行政圏という区域のくくり方、これは、旧自治省、現総務省が行政をする際に考え出された区域割りの方法でございます。私どもが理解しているところで申し上げますと、要するに、住民の皆さんが日常社会生活圏として一体として考えられている地域、必ずしも市町村単位ではない、山があったり川があったりすると、そこで区切られたりして、日常生活圏というのがあり得るかと思いますので、そういう日常生活圏を広域行政圏というように観念しているようです。その広域行政圏ごとに、先ほど申し上げた濃い青、薄い青、白と区分けしていくとどうなるかというのが、この別紙4でございます。これでいきましても、相当白っぽいところがございまして、地理的に言うと、対策が取られていない、あるいはほとんど取られていない地域が随分残っているなということがおわかりいただけるかと思います。時間の関係もございますので、一番最後のページをめくっていただきますと、表の一番最後のところでございます。番号のところで見ますと、広域行政圏の数は365ございます。その圏内の人口は、真ん中ほどの欄外見ていただけるように9,300万人ほどです。すべての国土が広域行政圏に分類されているわけではございませんで、例えば、東京など、広域行政圏に分類されていない地域もございますので、圏内人口は全人口とは必ずしも一致しません。圏内人口は9,300万人ほど、その圏内の弁護士数は5,033人、広域行政圏の222圏に法律相談センターが設置してあります。17圏に公設事務所が設置されているということでございます。これも、日弁連が行っている相談事業について、まだ空白があるという点での説明資料でございます。
それから続きまして、別紙5を御覧いただきたいのですが、これは、日弁連の公設事務所の平均売上と、その公設事務所が所在する地方自治体の人口とはどういう関係にあるかというものをグラフにしたものでございます。売上というのは、個人のプライバシーに属するところでございます。実名は挙げかねるということで、番号にさせていただきました。御容赦ください。例えば、1番を例に取りますと、何と月収が500万円近くあります。横軸が平均売上でございます。月の売上が500万円ほどある。ここは、一体人口はどのぐらいかといいますと、ずっと横を見ていただきますと4万7,000〜4万8,000人ぐらいが、所在地の地方自治体の人口だということでございます。以下同じように、1番から12番まで、平均の月の売上と人口の関係をプロットしていきますと、この表のとおりになるということです。真ん中に右肩上がりの棒線を引いてありますけれども、平均値を出しまして線を引くと右肩上がりの線になる、言ってみると、人口が多いところほど売上はある、人口が少なくなると売上が少なくなるということを意味するわけですが、言いたいことはそういうことではございませんで、月の売上100万円のところを見ていただきたいのですが、なぜ100万円かというと、売上が100万円ないということは、多分、事務員を何人雇うかということにもよりますけれども、100万円もなければ多分赤字になるという赤字ラインのところでございます。この右肩上がりの棒線を見ていただくと、100万円のラインになるところはどこかと言いますと、100万円のところを上に線を引いていただければわかると思いますが、人口を見ると3万2,000〜3万3,000人くらいのところになるかと思います。勿論、ビジネスという意味合いもありますので、その弁護士が愛想のいい弁護士かとかいうことにもよりまして売上が変わったりしますので、人口だけが要因ではございませんけれども、どうも、3万人前後がレッドゾーンではないかというようなところが、この表から読み取れるのではないかということを申し上げたいわけであります。
そこで、別紙6を御覧いただきたいのですが、別紙6は、ゼロ・ワン地域の人口を書いたものでございます。一番右が、所在地の地方自治体の人口になっています。先ほど、資料5のところで、3万人ぐらいがレッドゾーンではないかと申し上げました。それで、3万人以下が幾つあるかといいますと、結構あるということがおわかりいただけるかと思います。全部が全部赤字になるとは限りませんが、今後、ゼロ・ワン地域をずっとやっていきますと、日弁連としましては、相当数の赤字の公設事務所を抱える可能性があるということを、この資料5と資料6で申し上げたいわけでございます。
続きまして、別紙7について御説明申し上げます。別紙7は、先ほど来申し上げております、ひまわり基金の収支推移を記載したものでございます。上のグラフは単年度の収入と支出、それから単年度の収支、それから残高を書いたものでございます。右下の棒グラフは、各年度の残高を書いたものでございます。一番左が2000年3月末の残高、その次は2001年3月末の残高、その次が2002年3月末の残高で、残高がどんどん増えていってございます。2003年3月、今年ですが、500万円ほど減りました。次いで2004年、2005年、これは推測になりますけれども、毎年法律相談センターを10個ずつつくっていったらどうなるかという前提に立っております。10個ずつつくっていきますと、記載のとおり、残高は右肩下がりにだんだん減っていって、数年後には全然なくなってしまうだろうということです。恐らく、その時点で、ひまわり基金の会費を上げるのか、どうするのか、その辺りを深刻な議論をしなければならないということでございます。
その関係で申し上げたいのは、次の別紙8でございます。これは、平成11年12月16日の日弁連の臨時総会の議案書でございます。この臨時総会におきまして、ひまわり基金の設置が議決されたわけであります。特別会費の額は1,000 円とする。そして、期間は平成12年の1月から平成16年、つまり来年の12月までとするという時限的な措置として定められております。めくっていただきまして、裏面に「提案理由」というものがございます。提案理由の第一の5行目を読ませていただきますと、「弁護士偏在・過疎問題は、単に弁護士が偏在し、地域的な過疎が存在するという単純な問題ではなく、地域住民の法的ニーズに対処すべき国全体の課題として捉えるべきであり、公的資金による解決を志向すべきものである。当連合会としてはかかる目標に向かって強力に運動を展開していくこととしているが、それが実現するまでの間は」、自分たちが出しているということで、時限的なものとして整理しているということでございます。
続きまして、別紙9、これは当番弁護士基金の方の平成7年5月26日の定期総会の議案書でございます。1枚目を見ていただきますと、「徴収期間」というものがございまして、「平成七年六月から平成一〇年五月迄の三ヶ年間とする」となっております。先ほど申し上げましたように、これを2回、3年ずつ更新しまして、今は3回目の更新期間中にあるということでございます。1枚めくっていただきまして、2枚目の表の一番最後に四というのがございます。四から五で、時限的な措置だということをうたってあります。五の出だし3行を読んで見ますと、「被疑者弁護についての公的援助体制が確立するまでの間、当番弁護士制度と刑事被疑者弁護援助制度の財政は、弁護士会の責任において維持していかなければならない」と、このように整理提案されているところということでございます。
それから次、別紙の10でございますが、これは、今年の3月まで北海道紋別にひまわり基金法律事務所弁護士として赴任しておりました松本三加弁護士の作成にかかる文書でございます。詳しくは後で読んでいただきたいと思いますが、要するに、弁護士のいないところに行ったときにヤミ金業者がはびこっていた。自分が行っただけでも、そういう業者が態度を豹変させたりなどして、弁護士が介入することの効果が、存在しているだけでも非常に効果があったというようなこと、それから、地方自治体の方々にも随分お世話になって、いろいろな法的な争いごとを解決したこと、しかし、自治体、あるいは役所ごとに随分温度差があったというようなこと、それから、そもそも地方では、司法的解決の情報がないというだけではなくて、そもそも法律問題であるという発想自体がない、役場は弁護士も知らないし法律問題であるという意識もなかったということで、とにかく弁護士、あるいは司法へつなぐということの大事さを体感したというようなことなどが書かれております。後で御覧いただければと思います。
最後、別紙11でございますが、これは公的弁護ということで、なぜ弁護が必要なのかということで、日弁連なりに整理したものでございます。近代刑事裁判にとって必要なものだということは勿論のことでありますが、1番に書いてありますように、犯罪の特別予防とか犯罪被害者の救済にとっても非常に役に立つということなどが記載されております。
以上でもって終わらせていただきます。
【高橋座長】 ありがとうございました。何かこの段階で、今の御説明への御質問がありましたらどうぞ。よろしいですか。それでは、司法アクセスの問題を御討議いただきたいと思います。今のお話を伺いましても、あるいは前回、亀井委員からも御紹介いただきましたが、日本弁護士連合会の努力は大いに多とするものではありますが、そこだけに頼っていることもできないということが出てきたという印象を受けます。
ともあれ、司法アクセスの問題について、事務局から、資料の説明を改めてお願いいたします。
【後藤企画官】 資料1について御説明申し上げます。資料1を御覧いただきながらお聞きください。
この資料は、これまでの検討会で議論していただいた内容を基に、運営主体の主な事業内容、それから利用者、関係する機関、団体との関係等を含めて、司法ネット全体のイメージを表してみたものです。運営主体につきましては、「リーガルサービスセンター」という仮称をここでは使わせていただいています。
まず、司法ネットの全体構造につきましては、相談業務やさまざまな法律的なサービス提供の業務を行う主体が相互に連携・協力し、全体として、利用者である国民が、全国どこでも必要なサービスを受けることができるような仕組みを構想しています。この資料で言いますと、ピンク色で大きく囲っているところが司法ネット、その中に運営主体という中核の主体がある、このようなイメージです。このうちのリーガルサービスセンターと呼ばれるものは、この司法ネットの中心として、自らアクセスポイント、司法過疎対策、民事法律扶助、公的刑事弁護といった機能を果たすほか、司法ネットというネットワークの中核となって、情報の収集整理、それから関係機関の間の連携を強化するための役割を果たすものと位置付けています。
リーガルサービスセンターの機能につきましては、アクセスポイント、司法過疎対策、民事法律扶助という3つのサービスの提供が求められるという議論がありましたが、これに加えまして、効率的なサービスを提供するためには、民事・刑事を一体としてサービス提供を行うべきではないかという御指摘もいただいています。ここでは、公的刑事弁護を含めてリーガルサービスセンターが担うというイメージにしています。
リーガルサービスセンターと関係する機関、それから団体との関係ですが、この図では、リーガルサービスセンターの薄いピンクのところの左側に、国民からの相談を受け付けている代表的な主体として、弁護士会、地方公共団体、相談機関等を例示しています。司法ネットにおいては、これらの機関・団体とリーガルサービスセンターが連携・協力して、国民にとってのアクセスポイントとしての役割を果たすというイメージです。図の右側には、具体的な紛争の解決のために利用者の代理をしたり、実際にあっせん・調停などを通じて紛争を解決するサービスを提供する主体として、弁護士会、隣接法律専門職種団体、ADR機関を例示しました。法律サービスの提供につきましては、これらの機関・団体とリーガルサービスセンターが連携・協力を図っていくというイメージです。それから、下側に裁判所、法務省、弁護士会、隣接法律専門職種団体等との連携・協力が示されていますが、これは、司法についての一般的な情報提供や人材の確保等の面での協力があり得るということで示したものです。
次に、リーガルサービスセンターが提供するサービスの具体的な内容について、民事の分野を中心に御説明します。薄いピンクの中に「事業内容」と書いてありまして、○が4つあります。まず、「アクセスポイント」の機能としましては、相談を受け付けて既存の紛争解決機関等への道案内をする、それから、紛争解決に関する情報を収集し、整理して使いやすい形で提供する、このようなことなどが考えられるのではないかと思います。「司法過疎対策」としましては、司法過疎地域に自らアクセスポイントを設置し、法律サービスを提供するということなどが考えられるのではないかと思います。この場面では、スタッフ弁護士を活用するということを記載しています。「民事法律扶助」に関しましては、業務内容自体は従来と変わりませんが、効率的なサービス提供を行うという観点から、一部にスタッフの弁護士の活用などを考えるというような御指摘がありましたので、この点を付記しています。更に、以上のような民事の分野でのサービス提供と公的刑事弁護を担うと仮定した場合の事務所の設置・運営、資金管理、スタッフ弁護士への給与の支払、あるいはスタッフ弁護士の確保といったような業務が、管理運営業務という形で下にまとめて書いてあります。
以上のようなリーガルサービスセンターの業務内容につきましては、これまでのこの検討会の場での検討を基に資料を作成してありますが、これ以外に何かありましたら、御意見をいただきたいと思います。また、利用者である国民へのサービス提供の在り方、それから既存のアクセスポイントとリーガルサービスセンターとの連携・協力の在り方などについては、制度設計上、非常に重要なところだと思いますので、多角的に検討していただきたいと思っています。
最後になりましたが、司法ネットについて意見募集を行っていました。以前にもお伝えしましたとおり、事務局において、本年3月27日から6月30日まで意見募集を行いましたところ、167 通の自由記載の回答がありました。内容は現在取りまとめ中ですので、次回御報告させていただきたいと思っています。
【高橋座長】 ありがとうございました。それでは、これから意見交換に移るわけですが、この資料1の図を見ておりますと、まだ議論が少し足りないところが3つぐらいあるのではないかと思っております。1つ目は事業内容、ここが中核ですが、事業内容がこれで十分足りているのか、ほかに何かあるのかないのか、しかも、それを利用者の視点から見て、どうか、あるいはどのような形のサービス提供が利用者からみて望ましいのか、この辺りをもう少し詰めて御議論いただければありがたいと思います。2つ目は、「連携・協力」という緑の矢印がありますが、既存のアクセスポイントとの関係です。先ほど、事務局からも、多角的に検討してくださいという御指摘がありましたが、ほかの例えば弁護士会、地方公共団体、隣接法律専門職種団体等がありますが、こういうところとどのようにつなげていくのか、協力していくのか、そうなるのかどうか。それから3つ目、これは既に多少議論はいただきましたが、運営主体をどのようなものとしてつくっていくのか。先ほどの日弁連の説明資料の中にも、独立行政法人がいいのではないかという示唆がありましたが、そういうことでいいのかどうなのか。その辺りを重点といたしまして、意見交換、御議論をお願いいたします。
【始関委員】 1つ目の事業内容の関係ですが、今日、日弁連から御説明いただきました「司法ネット構想の必要性」のところですと、この資料1に書かれている内容は、日弁連から以前に提言のあったものとほぼ合っていると思いますが、若干違うのでないかと思いましたのは、日弁連の資料の2ページの「第2 運営主体の必要性」の1の①のところの2行目を見ますと、「国民の需要の変化に応じた新しい事業」ということを書いていただいております。新しい事業と言うと具体的にどんなものかということは御説明いただけなかったのですが、どのようなことを念頭に置いておられるのでしょうか。
【日本弁護士連合会市川副会長】 例えば、相談開設事業というのは、かつては新しい事業だったわけです。今はそれほど新しくはございませんけれども。それは、その場合に、例えば、犯罪被害者の支援事業などもそうですし、とにかく、新しい需要がその都度起きてくるものなんです。それを逐次やっていける組織形態が望ましいのではないのかというお願いでございます。
【高橋座長】 犯罪被害者の支援事業について、もう少し具体的に御指摘していただけますか。
【日本弁護士連合会市川副会長】 以前は、私どもの世界では、犯罪被害者の置かれている立場というのは、損害賠償請求の主体者と位置づけられていたわけです。勿論それはそういう側面もありますけれども、それ以外に、精神的なケアが必要であるとか、PTSDとか言われるような精神疾患にも対応できるようなトータルな対応をしてあげないと、あなたの権利は金幾らですよと言うだけではとても収まらない。そういうことが意識されるようになりまして、私どもの方も、損害賠償請求に限った対応だけではなくて、そういう方の精神的な状況にまで、ある程度他の方々とタイアップしながら、お役に立てるような事業を始めていっています。弁護士会の中にも犯罪被害者支援委員会なるものもつくったりしまして、そういう仕事をし出しているということでございます。
【亀井委員】 例えば、法律扶助も法律の枠で縛られていますので、次々と出てくるものに対応できないんです。その1つが犯罪被害者の問題で、これは民事法律扶助の枠に入り切れない、損害賠償の裁判だけしか対応できないわけです。今、市川副会長が申し上げたようなことや、その他に今やっているのは、法廷へ同行して説明するとか、検察審査会に申し立てるとか、それから刑事告訴も、これらは、今、民事法律扶助の枠に入りませんので、そういう問題については、結局、今、法律扶助では、自主財源でやっているわけです。補助金の中には入っていないことをやっています。法律扶助事業というのは、そのように新しい事業を次々と展開してきて発達してきたと言われています。ですから、この4つのものだけに限ってしまうと、法律扶助の立場だけから考えても、発展性がないだろうと思います。今、新しいものでは、DVの事件とか、児童虐待の事件も、多分、法律扶助の枠からは外れてしまうわけです。ですから、常に新しい問題に対応出来るような設計にしていただきたいと、私は思っています。
【飛田委員】 司法ネットのイメージ案を拝見いたしまして、私も視点がちょっと違うかもしれないのですが、時代とともに多様な問題が起こってきて、ドメスティック・バイオレンスの例を今御説明いただきましたり、犯罪被害者の話もいただいたわけですけれども、子供の人権の問題ですとか、それから新しい、多様な権利と言ったらよろしいでしょうか、例えば環境などに関しても、従来の公害という枠組みでとらえ切れない新しい権利というものがこれから確立されなければいけないだろうと思いますし、景観などもあるでしょうし、あるいは文化財等ですね、そういったものの保護とか、暮らしの変化とともに惹起してくる問題ということもございます。また、より豊かさを求めて、多様な要求が出てきていると思いますので、言わば、前にちょっとお話させていただいたときに、法律の使い勝手、今は私たちが獲得している権利について法律で解決のできる範囲を相談者に示すということだけでなくて、新たに芽生えつつある権利を相談に来られたときに、それを実現するための支援ということもあるのではないかという気がいたしますし、高齢化が進んでおりますので、高齢者を巡る問題もありますし、また、障害を持っておられる方など、ユニバーサル・デザイン的な発想も必要だろうと思いますし、先ほど子供の権利というようなことも申しましたのは、この間に未婚の母から生まれた子供たちの権利が裁判で認められるような経緯もあったように思いますけれども、そのような家族関係の変化や家族関係の崩壊に伴う新たな問題も生じてきているのではないかという気もいたします。例として、まだ更に引用していかなければならない問題が多々あるかと思いますけれども、その種の問題を含めまして、また新しいところでは、これは医療過誤でもないし薬害とも言えないかもしれませんが、人のゲノム情報なんかも今、多様に、各方面で研究が進められておりまして、それをビジネスに使われるというケースが生じてきていると思いますけれども、そのような場合の個人の権利ということも考えていかなければならないのではないかと思います。
その新たなる分野といいますのは、私たちの暮らしに貢献する期待感も大きいのですが、反面、まだ未知数の危険性も伴いますし、また、個人の情報が一人歩きしてしまうような可能性もありますので、最近の問題としては、ゲノム情報だけでないと思いますが、個人情報の問題もあるのではないかと思います。それから、社会的な提案型のものとしては、例えば、内部告発などがこのごろ多様な問題を白日の下にさらすと言いましょうか、従来表に出てこなかった問題がそれによって解明されたりしてきているわけですけれども、その告発者の権利というのが必ずしも守られていない状況がございます。この間も新聞記事で見ましたけれども、先月でしたか、はっきり日にちは記憶しておりませんけれども、ある組織で、上部の人たちがそこの財産を私物化していることを告発した、内部的に意見を表明した人が、これは労働問題として処理されたのかもしれませんが、解雇されたということを不当だと訴えたために、その組織の私物化の問題、公益性のある組織でしたので、そういうような問題を裁判所の方では告発者を評価される判決を出されていたように記憶しておりますけれども、そのような新しい権利と言ったらいいでしょうか、つまり、社会の風通しをよくするための発言者が守られるような体制、そういう相談にも応じられるような、内部告発がだめだと、今度は外部告発ということになってきてしまうのかもしれませんが、告発までいかない相談もあるかもしれませんし、とにかく、そういったことなども含めて、新しく起こっている問題をいかに吸い上げていくかということを、多様な側面からチェックしていただく必要があるのではないかと思います。
したがいまして、独立行政法人の中のそのような形の中で評価を行うということを、先ほど日弁連の御説明をお伺いいたしましたけれども、外部的な評価ということも必要になってくるのではないかと思いますが、従来機能しているものをうまく活用しつつ、更に発展させるための手立てを講じていく必要があると思います。従来のものをそのまま活かすという形、既存のものを活かすことが勿論重要ですが、それだけにとどまらないようなきめの細かさが求められているのではないかと思っております。
【高橋座長】 業務内容ですが、こういう問題がある、新しい問題が出てくるという、それはそのとおりだと思います。しかし、飛田委員も最後にちょっと言われましたが、それをすべてここでやるという趣旨ではないわけですね。
【飛田委員】 はい、受け皿がどのようになるかによって変わってくると思いますが、ただイメージとしては、まず第一に国民、私たち一般市民に、この問題が法的な、司法によって解決される問題かどうかというような色分けをしていただくとき、現行法の状況を把握し、自分の問題を解決するためのアドバイスを得るという基本的な役割があると思うんですが、それだけではいけないのではないかと思うんです。つまり、私のイメージとしましては、今、自殺者が大変多いわけですが、自殺者の数を減少させるというような社会目標を、相談のこういったネットワークの中で持っていって、課題解決に向ける。その人たちが相談していたら、あるいはそういう事態に至らなかったかもしれないと思われますので、そのようなセーフティーネット的な側面と、それから新しい権利、例えば文化財とか環境にしてもそうですし、平穏に暮らす、たしかパチンコ訴訟というものもありましたけれども、多様な経済活動があるわけですが、そういうものにノーを言っている人たちもいまして、個々の事業者をどうこう言うつもりはありませんが、生活者としての意見というものが多分に出てくるのではないかと思っています。例えば、電磁波なんかの影響についての相談が出てくるかもしれません。
何でもかんでも相談窓口でできるかということが今の御質問の趣旨だったと思いますが、専門性を高める必要が、一方ではあると思うんです。私が先ほど申しました問題にしましても、生活の中で直面する問題というのは、それこそ食品から原子力に至るまでと言ったらいいでしょうか、ゲノムから何に至るまでと言ったらいいでしょうか、たくさんあるわけですので、そういう問題を、それを司法的解決に委ねる場合もあるでしょうし、そうでなく、専門家がアドバイスすることによって、隣接の弁護士さん以外の職種の方々とか、そのほかADR機関もありましたり、研究所があったり、大学の先生方がおられたり、行政の役割もあり、立法機関の役割もあり、そういう中で司法が何をするべきかという視点を踏まえながらも、専門家とも連携を行って、また市民の中でも、ボランティア活動などで相談の仕分け作業などに関わる人が出てきてもいいのかもしれません。つまり、皆さんの持てる力、人材を、国民的なレベルで、あるいは海外の力もお借りしてもいいと思いますけれども、活かしていくということが発展的な方向ではないかという気がするんです。そのためにはお金の問題もありますから、全部を全部どこまでという、私もそこはちょっと明快なビジョンがないものですから、皆さんの御意見も伺いながら考えさせていただきたいと思います。
【三輪委員】 事業内容ですが、やはり、リーガルサービスセンターという性格上、純粋な法律問題だけに限るというのでは足りないと思いますが、法律問題とそれに関連する分野という限定は自ずからできるのではないでしょうか。そういう点からいきますと、先ほど出ていました犯罪被害者への対応というのは、法律問題とこれに密接に関連する問題を含むものとして、事業内容としては適当なものと思われます。ただし、その場合に、例えば、被害者の精神的な問題に対応するカウンセラーを配置するということになると、それはこのセンターの仕事ではないでしょう。ただ、そういう隣接の団体等とも連携を取って、必要に応じてそちらに行っていただくというような、そういうサービスはするにしても、ここで何でも引き受けて、カウンセリングまでやってしまうというようなことは考えられないと思います。また、先ほど出ていたかもわかりませんが、事業内容として、最近の問題としては、ドメスティック・バイオレンスの問題なども取り入れてもいいのではないかという感じがいたします。
2点目の座長が言われた他機関との関係の問題ですが、アクセスポイントの問題にしても、それから公的サービスの提供にしても、リーガルサービスセンターというのは、何でもかんでも自分のところで全部やってしまうというのは必ずしもよくないわけで、今まで実績を積み上げてこられた、あるいはこれからやろうとしている弁護士会や地方公共団体その他の団体の力をそぐような形での運営というのは、むしろ望ましくない、今までやってこられた、あるいはこれからやろうとしている団体が、自主的に、やる気を失わないような形でどんどんやっていただいて、その間の連携を取ったり、あるいは補充的な役割を果たすというようなイメージがいいのではないかという感じがいたします。
【高橋座長】 資料2の別紙1の最後の9項に、「これまで地方自治体が提供してきた法律相談等のサービスが低下することのない措置」とあります。今まで行われてきたもの、ただそれは部分的だと思いますが、それとこのリーガルサービスセンターとの関係をどうつくっていくか。この辺りはいかがでしょうか。
【亀井委員】 以前、知事会や市町村会の御意見も伺いましたけれども、どこも財政が大変で、こういうものができたらやめたいような感じもありましたので、これはまずいなと思いました。現実に、東京都の相談は、今年の4月から廃止されまして、その分、法律扶助協会に相談が全部来てしまっています。ですから、どこかを削っても需要が減るというわけではなく、ほかにしわ寄せがくるだけなんです。
実は、民事法律扶助法も、地方公共団体は必要な協力を行うという条文が入っています。それでもなかなか難しいし、確かこの前聞いたお話では、相談をやっているところが3,300のうち2,000弱ぐらいだったと思います。ところが、今、自治体の相談は、その場限りというのはおかしいのですが、ほとんどの相談は弁護士、若干司法書士も行っていますが、それでも裁判機能に結び付かないという弊害があるわけです。ですから、地方自治体の相談は今までのように継続してもらいたいということと、この司法ネット構想と連携をして、更に事件に結び付くものは弁護士へつなげるという、そういうネットワークが必要だろうと思っています。
現実に弁護士会の相談センターと扶助協会の相談に来るものでも、全部が事件になるわけでは勿論ありません。大体1割から2割ぐらいだと思います。あとのものは、大体1回の相談で終わっている、全く事件にならない身の上相談だったりということです。ですから、勿論、少数のものをどうやって弁護士の方につなげるかという連携システムをきちんとつくる。システムをつくるには、やはり、それを統括する組織がどうしても必要になる。各自治体へ弁護士会からはそういうお願いをしていますが、なかなかうまくいかない。やはり統括する組織があって、きちんと連携するシステムを動かすという形が必要だろうと思います。民事法律扶助法は、国の責務を規定し、自治体が協力できることも規定しています。新しい組織も、法律にそういう協力をするという形を入れてもらえれば、大分違うのではないかと思います。
【長谷部委員】 今の御議論との関連ですが、弁護士会あるいは地方公共団体で提供されている相談業務とこのリーガルサービスセンターとの役割分担というのは、これも非常に重要な問題だと思うのですが、1つには、自治体の法律相談は、一番身近なところだと思われるわけです。リーガルサービスセンターも、恐らく中央に何か統括機関があるのでしょうが、やはり地方に出先機関や拠点を設けるということにならざるを得ないかと思います。それでも、自治体すべてにそういった支部を設けるということは現実的ではありませんので、地方自治体の方で何かそういう法律相談窓口をつくる、あるいは、法律相談に限られない一般的な生活相談というような形にしていただいて、先ほどの日弁連の御説明の中でも出てきましたが、司法過疎地域の方というのは、それが法律問題だという知識も必ずしもそういうとらえ方もされないということですので、自治体の窓口では、そういったものを全部いろいろ受け入れていただいて、もし必要なものがあれば、リーガルサービスセンターに来るということもあるでしょうし、あるいは、リーガルサービスセンターの方で弁護士会に回した方がよいという判断になればそちらに紹介するというように、一番身近なところから来たものをうまく振り分けるような役割を果たせたらよいのではないかと思います。弁護士会の方では、一番専門的な訴訟事件を扱うという主たる機能があるわけですから、そちらにつなげていくための仲立ちのような機能を果たせたらよいのではないかと思います。
【始関委員】 地方公共団体との関係について、亀井委員が、今、「統括」という言葉をお使いになられましたが、ちょっとそれが気になりました。国と地方公共団体の関係も、これは地方自治ということがあって、国が余り何でもいろんなことを決めて押し付けるというのはやめるという方向でずっときている中で、どういう形でこの運営主体を運用するのかというのは、またこれから御議論があるみたいですが、仮に、この間から出ている独立行政法人としましても、独立行政法人が指揮命令というようなことは、ちょっと考えにくいのではないかという気がいたしました。地方公共団体が、先ほど長谷部委員もおっしゃったように、国民にとって一番身近なところですから、そこでできるだけ相談窓口を設けていただけるようにするのが望ましいことはそのとおりだと思いますが、そのように無理やりさせるとかそういうことは難しいと思いますし、今は国だけではなく、地方も非常に財政状況が悪い状況ですので、そこはやはり自治体の自主性を確保しながら、できるだけいい方向になるように、柔らかくというのは難しいですが、何かしていくという以外はないのではないかという感じがいたします。
【高橋座長】 先ほど亀井委員は、「協力する」とおっしゃいましたが、それは現行法にあるということですね。
【亀井委員】 民事法律扶助法には、「必要な協力」と書いてありまして、勿論それが限度だと思います。ただ、例えば、このリーガルサービスセンターができた場合に、そこへいろいろな既存の組織が登録をして情報をもらうとか、連携の書式をつくって、お互いに紙を持っていけばそこですぐに1回相談をやったということで次のステップに進めるとか、そういう連携システムをつくることが可能だろうと思います。
【高橋座長】 自治体といっても、県レベルと市町村レベルで、この間の説明でも随分温度差がありましたね。
【長谷部委員】 始関委員の御指摘と関連するのですが、自治体も、地方によっていろいろな実情があると思います。弁護士さんが確かに多い地域であれば、そちらの方でやっていただくということもできるでしょうし、そうでないところは、それなりにこういったアクセスポイントを設けなければいけないということはあるかと思いますので、実情に応じて、この連携関係というのは考えられていいわけで、こういうものができたから必ず自治体は連携しなければならないという、そういう発想では、ちょっとうまくいかないのではないかという気がいたします。
【高橋座長】 弁護士会との関係はいかがですか。先ほどは、訴訟案件はプロ中のプロである弁護士会の方に持っていくというようなお話がありました。既存団体への道案内ということですかね。ただ、行った方とすると、何かたらい回しをされるのも嫌だなという気はしますね。
【亀井委員】 そういう意味では、できるだけポイント、相談、例えば、今は、法律扶助協会の窓口と有料相談センターの窓口を一緒にしているところが多いんです。なるべくたらい回しにならないようにという配慮はしたいと思っています。ただ、大きなところはどういう形でも市民の便利なようにつくれるのですが、一番問題なのは、やはり弁護士が1人しかいないところ、今、ゼロ・ワン地域が60あるわけですから、その場合には、1人の弁護士が弁護士会の相談としての有料相談もできる、それから、リーガルサービスセンターとしての無料相談もできる、ただ会計の区分けができればいいわけですから、そういう形も、具体的に、地方の実情に合わせて考えていくことは可能だと思います。場合によっては、場所がなければ自治体の場所を借りて、リーガルサービスセンターのアクセスポイントとすることも可能だろうと思いますし、それ自体は、有料と無料という区分けで、弁護士会とは基本的にはすみ分けができると思います。過疎地などにおいては、両方を一緒に委託し合ってやるということも考えられるのではないかと思います。
【始関委員】 今日の資料2の日弁連の資料の別紙1の2番に、「極力ワン・ストップ機能を目指して」ということを書いていただいています。これも私、前にも申し上げたことがあると思いますが、国民の方々にとってみると、そもそもこれは何の問題なのかもよくわからないけれども、とにかく自分では解決できないから相談に行っているので、たらい回しにされるのは一番嫌がられるわけですから、そういうワン・ストップ機能ができるだけ果たされるようにしながら、しかし、他方では、既存のきちっとしたいろいろな団体のいろいろな活動があるわけですから、それを阻害したり、さらなる発展の妨げになったりはしないようにということの両方をうまくどうやって両立させるか、なかなか難しいのですが、抽象的に言うとそういうことなんだろうと思います。
【高橋座長】 そうですね。
【長谷部委員】 外国の例で、ワン・ストップ機能の1つの例ということで、必ずしもこうしなければならないということではないのですが、イングランドの場合には、以前この検討会で御報告したこともありますが、シチズン・アドバイス・ビューローという市民相談所みたいな機関が全国組織であるわけですけれども、そこは地域の法律事務所との間で連携していまして、地域の法律事務所から弁護士さんが輪番制で出てきて相談に応じる。訴訟案件になるようなものはそこで引き取って、そこにつなげていくというようなこともしているわけです。例えばそういうことが考えられはしないかと思います。
【飛田委員】 新しいリーガルサービスセンターができたために、既存のところが役割を終了したいというような気持ちになっていくようになりますと、これは、私はかえって社会的な損失が大きくなるのではないかというような気がするんです。したがいまして、既存の持てる力というのをいかにして高めていくかという視点で、まずどういうことを皆さんがやっているかという現状を把握していって、弁護士さんや隣接の専門職種の皆様方のお世話になって有料で解決していく問題もあるでしょうけれども、今まで多くの生活者が期待しているのは、行政の無料相談であったりするわけです。自分の個人的な問題の解決のために有料相談をする必要も勿論出てくるのではないかと思いますけれども、大変逼迫しているような場合、経済的な事情もさることながら、精神的にも非常に追い込まれているような方たちが駆け込んできたときにどう受け止めるかという視点も必要ではないかという気がいたします。したがいまして、はい、こちら有料コース、こちら無料コースというような感じの、来た人が一つのターゲットとなって、ユーザーというような視点で振り分けられていくということのないように、勿論そういう面が、専門家に委ねる以上は、費用の支払いも生じてくるということは考えなければいけませんけれども、その辺のところ、やはり行政が今まで担ってきたサービスのよさというのはその辺りにあるのではないかという気がするんです。したがいまして、司法ネットをつくっていく場合にも、今の規制緩和の時代で国民もそれなりの負担をという流れがわからないわけではないんですが、先ほど自殺者のことを申しましたけれども、評価の仕方はさまざまでしょうが、よくない状況が、犯罪も多発してきておりますし、そういうことを考えますと、既存のものの持てる力のパワーアップ、そして全体のボトムアップにつながるような形にしていきませんと、国民から見たときの利用者の感じというのは、より専門家が多くなって近寄り難いということになりかねないと思うんです。専門家がというのは、プロフェッショナルな方に気楽に相談に行けないというような感じになる可能性が心配なところなんです。
【古口事務局次長】 事務局の中でいろいろ議論をしております。まだ決まっているわけではなく、私個人の意見ですが、資料1のアクセスポイントの中の「相談受付」と書いてありますが、受付相談というイメージです。とにかく、どんな方が来ても、まずどんな話でも、法律問題でなくても聞くというイメージなのではないかということです。また、これも決まっているわけではありませんが、この最初の相談受付は、やはり無料にすべきなのかという議論をしています。その辺りをどう考えたらいいのか、むしろ皆様の御意見をお聞きしたいと思います。そういう意味では、入り口は、どんな問題でも気楽に相談に行けるということを基本にしなければいけないと思っています。
【亀井委員】 受付相談は無料でお願いしたいと思います。今、自治体相談が、東京でも満員なんです。私も1回行くと5件必ずあります。地方ではもっと多くて、1回行くと10件、1件15分から20分でやっているとよく聞きます。東京では大体30分やっています。なぜ繁盛するのかというと、無料であること、それから身近であることです。例えば、昔は、離婚とか不倫というのは、近くの自治体相談は行きにくいと聞いたという話がありましたが、今はそんなことは全くありません。本当にいろいろな相談が来ます。やはり、無料であることと身近、すぐ行けるということがメリットなんだろうと思います。そういう意味からいうと、この受付相談というのは、それこそたくさんつくって、そこで振り分け作業をしてもらえればと思います。ですから、私は、必ずしも弁護士でなくてもいいだろうという気もしています。これは個人の意見です。たくさんつくってもらって、無料できちんと振り分けをしてもらう。場合によっては、先ほどの精神的な問題についてはそういう団体もあるでしょうから、そういうところへ回すということで、この既存の団体の登録もたくさんしていただいて、連携のシステムをつくっておいた方がいいだろうと思っています。
【藤原委員】 皆様のお話を伺って、確かに、このリーガルサービスセンターの骨格を決めるというのは大変難しいと思いました。それと同時に、今でも、相談窓口というのは、必要なところに必ずしもまだあるとは言えない状態であるということ、それから、あるところでも大変たくさんの人が来ているということは、要するにサプライとデマンドで言いますと、デマンドの方がはるかに多くて、つくればつくるだけというか、拡充すれば拡充するだけ今のところはニーズがあるという状況だと思います。そういう状況であるということを一方で十分に認識した上で、あと2つ重要なことがあって、まず、つくればつくっただけ人々のニーズに応えられ、そういう相談を必要としている人たちに資することができると同時に、いかにそのサービスセンターに来た人たちに、よいアドバイスなり振り分けにしても何にしてもそうだと思いますが、当たるかというということも大変重要で、今、量的な不足が大変深刻なときには、でき上がりました、つくりました、お金を入れます、人も配置します、しかし、ということではないかと思うんです。
私は、勿論、地方自治体でも、パフォーマンスのレベルには、ただ数が云々ということだけではなくて、やはり上下、多分大変行き届いているところとそうではないところとあるのではないかと想像いたします。それと同時に、相談に来る人も、大変困っていてせっぱ詰まっている人から、相当自分の状況を客観的に判断して訪れることができる人、さまざまな種類があるのではないかと思います。質的な向上といったときには、相談に来る人の自助努力をある程度仕組みの中に蓄えている必要があって、おおよそこういうことではないかということが、それこそお医者さんに例えますと、どこが痛いとか、どういう状況であるか、いつからこういう状況なのかということをきちんと整理できる場合と、ただ先生に尋ねられるに従って答えられる人といろいろあると思いますが、まず、自分の状況をある程度客観的に判断できるための施策というものが何か必要なのではないかと思います。それができることで、より的確な、より質の高いアドバイスをこのセンターで受けることができるのではないでしょうか。だから、センターに来るのが第1ステップでしょうが、来る人にとっては、これはあくまでも第2ステップで、第1ステップをどうするかということもある程度議論する、相談に来る人の質を上げると言うとちょっと語弊があるかもわかりませんが、相談に来る人の意識を、ある程度リーガル・マインドを持った相談者にするということが、私は、大変重要なのではないかと思います。司法が最後の解決の道であるということを弁護士の方々はよくおっしゃいますが、その最後に行き着くには幾つものステップがあって、そのステップを相談に行く人が取るべきで、そこへ来るまでにいろいろなことに気付くべきだし、いろいろなことに躊躇すべきであるし、いろいろなことにやみくもに飛び込まないべきであるし、というようなことが、私は随分感じるんです。だから、そういうところに至ってしまった人のケースと、それからそこに至るまでのことも含めたこのリーガルサービスセンターという役割というのは是非果たしていただきたくて、何を想定するかというときに、私は、まずは来る人たちの来る以前の何か整理をしたり、客観的に自分を分析するような能力に資するようなことがこれに組み込まれる必要があるのではないかと、そして、そういうものは、地域とは離れていてもいいような気がするんです。遠隔でそういうことができたり、自己診断ができたりということで。
では、そういうことは、既存の相談だとか専門的な機関、ADR機関の役割を邪魔する、あるいはそういう人たちの仕事を減らしてしまうかというと、私はそうではなくて、そこで更に適切な相談を、時間的に言えば比較的効率よく受けることができる道筋になるのではないかと思います。だから、既存のものとどういう兼ね合いという以前に、既存のものも含めてどうやったら質が高められるかという議論も是非やっておく必要があるのではないかと思います。私がその答えを持っているわけではありませんが、そこの部分というのをやらないと、結局は量的なものをただ量的に一生懸命不足分を補おうということだけに終わってしまうと、余りにも残念な気がいたします。
【亀井委員】 そういえば、資料1に講座というものが具体的に入っていないと気が付
きました。司法教育などと大げさなことを言うのはちょっとおこがましいのですが、そういう一般知識の普及というので、例えば、私も区民講座とかシルバー大学に行くと、例えば、登記簿謄本と権利書の区別がほとんどの人はつきません。だから、相談に来るときにも、登記簿謄本を持ってきてくださいと言っても、どこへ行って取るのかわからないし、権利書を持ってくる方がほとんどです。本当に、そういう一般法律知識の普及向上というようなことが必要だと思います。これが司法過疎対策の中に入っているというのは何か変なので、そういう項目が1つ別に要るのではないかと思います。
【山本委員】 そうですね、新しい法律ができたときにその内容をわかりやすく説明したものをネット上に公表するとか、そういうようなことであるとか、情報提供でも、考えられることはいろいろとあるのではないでしょうか。
【藤原委員】 今の亀井委員のおっしゃったことに関連することですが、さまざまな法律的な意味合いを含む情報、あるいは証書について正しい知識を持つのはいずれの時期が一番適当であるかということを考えますと、やはり、成人をしたときからだと思うんです。高齢者の方が配偶者を亡くされて云々というのは、まさにそれまでその必要がなかったのかもわかりませんが、余りにも遅過ぎるという気がいたします。成人に至った人々すべてがそういう情報を持てるということと、それからもう1つは、そういう証書にしても、略称とか数字で表すとか、それからこれは無理かもわかりませんが、識別するとか、何色の証書であるとか、もっと一般的に浸透しやすいと言いますか、名称を変える必要があるかどうかはわかりませんが、俗称みたいなものをいろいろつくるとか、もう少し日々の生活の中で、これがどういうものであるかということがわかるような書式みたいなものの作成の仕方ということも考えてもいいのではないかと思います。例えば、税金のことであれば、こういう呼び名で呼ばれていて、なおかつその書式の番号がアルファベットのAの何番とかBの何番になっているものとか、あるいは、さっきおっしゃったような登記簿はこれこれこういう字から始まってこういう名称のものとか、それから権利書は云々とかというような、そういう整理みたいなものができて、一生を通じて有効な情報として身近に置いてもらえるような情報にしてまとめるとか、確かに一生に初めてお目にかかるのが高齢になってからという場合もあるでしょうが、身近にそういうものを市民の一人ひとりが持つということは大変重要なことではないかと思います。今、さまざまなところで、断片的に、自分たちがどういう書類でもって情報を有しているのかということがわかっている方はいらっしゃると思いますが、もっとわかりやすいフォーマットとか、わかりやすい整理とかというようなものができれば随分違うのではないかという気がします。ちょっと素人考えで大変お恥ずかしいのですが、そう思いました。
【高橋座長】 先ほど、長谷部委員から、イギリスでは弁護士さんと提携しているという話がありました。今日の資料1ですと、スタッフ弁護士というものも一応構想の中に入っていますが、そのすみ分けについてはどう考えるべきでしょうか。おいしい事件はスタッフがやって、おいしくない事件だけ回すなどということはないとは思いますが、その辺、何か基本線みたいなものはあるのかないのか、それとも、すべてケース・バイ・ケースなのか、その辺りはいかがですか。
【山本委員】 司法過疎地域のサービスは全部センターの方のスタッフが受ける、それから法律扶助の対象者についてはスタッフ弁護士が受けるということが基本であって、それ以外は、ワン・ストップというのも重要かもしれませんが、完全な常勤スタッフが事件を受けてしまうというのは、弁護士の方の協力を得る上で非常に難しい問題が生じてきて、反対にネットにならずに両方が勝手にやっているというようなことにもなりかねませんので、そこはやはり基本線として考えていかなければいけないのではないでしょうか。ただ、今、長谷部委員から御紹介がありましたような、パートタイムの方に輪番で来ていただいて、そのときの報酬とセンターから弁護士に支払うべき報酬と依頼者、クライアントから弁護士に支払った報酬をどう処理するかというのは難しい問題として残るわけですけれども、輪番制で来ていただいているような場合には、その方に受けていただくこともあり得るのではないかとい思います。その輪番制に誰が行くかというのは弁護士会が御判断になればいいことですから、過剰にこのセンターが弁護士業務に介入するということには必ずしもならないと思いますので、その辺りが一番落ち着きどころがよくて、センターの補充性という観点からよろしいのではないかという感触を持っています。
【始関委員】 今、山本委員は、法律扶助は基本的にスタッフ制でとおっしゃられましたが、今日の資料1を拝見しますと、むしろ、「一部にスタッフ制」と書いてあります。私は、どちらかというとこの資料1のようなイメージです。つまり、今は、基本的に事件ごとにそれぞれ先生方にお願いをして引き受けていただいていますが、それだけでは必ずしも効率的な提供ができない部分があるからスタッフ制もという話だったと思いますので、多くの弁護士さんがいらっしゃって協力していただける地域であれば、今までどおり、それぞれ案件ごとに引き取っていただいて、それでだめな部分はある程度残る可能性もあると思いますので、そういうものをスタッフが処理するというイメージを描いていたのですが。
【山本委員】 舌足らずでした。全部をスタッフ制に移行せよという趣旨ではありません。スタッフで受けても構わないというだけの話で、始関委員と考えていることは一緒だと思います。
【亀井委員】 現在、法律扶助協会では、実際半スタッフということで、嘱託スタッフを東京、横浜などはやっています。それは自己破産の事件なんです。自己破産の事件は定型的で、多量の事件を定型的に給料制でやるという構想はあります。現実に、今東京辺りだと本当に弁護士が多いので、扶助の事件をやる弁護士が当番制で相談もやって、事件も直受けでやるという原則でやっていますので、事件というのはそんなにはないんです。それで受けなかった事件をそういうスタッフに回す、それから定型的に、自己破産事件につき何件という形で回して、半スタッフみたいにしてやっています。それは大量的、定型的な事件をやるには似つかわしいのですが、やはり扶助事件というのは、普通の事件に比べて困難な事件が多いので、それをスタッフだけでかなりの事件をやるというのは大変難しいだろうと思います。ですから、やはり、開業弁護士がやるのを基本にして、ある程度スタッフを入れて効率的に運用するというのが筋だろうと思います。ただ、地方によっては、弁護士の数が少なくて開業弁護士だけでは対応しきれないというときに、スタッフ1人でもって扶助事件を全部やってもらうということもあり得るのではないか、そういう制度設計も可能だと思います。ただ、刑事についてはまた別なのだろうと思っております。民事については、今のやり方でも十分、扶助事件についてそんなに負担感なく皆さんやっていると思います。
【高橋座長】 先ほど亀井委員から、中核になる組織、今の「リーガルサービスセンター(仮称)」ですが、これがやはりあった方がいいという御意見いただきましたが、これはまた意地悪く言うと、この行財政改革の時代にまたつくるのかという批判はあり得るかと思いますが、その辺りはいかがでしょうか。
【飛田委員】 お話をお伺いしておりますと、今、日弁連がひまわり基金とかその他、皆様方の持ち出しで大分こういう分野を支えてくださっていて、しかしゼロ・ワン地域もまだまだたくさんあるし限界だろうと思うんです。やはり、司法の役割をどういうようにとらえるかということなんですが、司法をもう少し力強いものにしていくためには、予算的に必要な予算は国で確保するべきではないかという気が私はします。具体的に幾らにせよというイメージがあるわけではないんですけれども、実際のところ、この間法務省が、新しく境界争いについては別途すぐさま解決するような対応を取るということの方針を出されておられましたけれども、いろいろな形の効率的な方策を一方でとるということとともに、司法の力をもう少し、行政や何かとのバランスを取るという意味で予算を取っていただきたい、公的弁護にしても、先ほど中立性等の事も触れられておられましたけれども、そういう点の十分な配慮をした上でしていく必要があるのではないかという気がいたします。
スタッフ制の問題については、現実的な業務において、私ども素人ですからよくわからない点が多分にございますけれども、やりにくい仕事、あるいはゼロ・ワン地域などに行っていただくためにいろいろな工夫をしていくという必要性もあるのではないかと思いますけれども、法曹のOBの方たちにも御協力いただくとか、幅広い専門家の中からリーガルサービスセンターのスタッフというのは状況によりますけれども、専門性が確保される必要性のあるところはそういうことを配慮した上でしていただく必要があるのではないかという気がいたします。
それからもう一点なんですが、ちょっと外れますけれども、先ほど教育等のお話が出ておりましたけれども、是非サービスセンターの業務の中にそれを多様に入れていただいて、子供たちの教育なども、たしかアメリカの例で陪審員の制度を子供たちに学ばせるような、相互に模擬的なことをやらせたりすると、そこの中から非行少年が出ないというふうなものをちょっと見たことがありますので、幅広く、新しい法律の情報提供のほかにも、積極的な教育体制というのも盛り込んでいただけるとよろしいのではないかと思います。
【山本委員】 先ほどの自治体の関係とも絡む問題ですが、始関委員から御指摘があったように、自治ということを考えますと、やはり、住民がその政策として司法サービスを、法律的なサービスを受けるかどうかというのは選挙の結果決まっていくことですので、一律に自治体はすべて法律相談をしなければいけないということは不可能です。しかし、裁判を受ける権利、あるいはその他の種々の権利というのは、国民にすべてあまねく与えられているものですから、それについて国が何らかの関与をするというのは、それは当然のことなんだろうと思います。となりますと、やはり、全国的な1つの組織というのは、必要になってくるのではないでしょうか。
ただ、勿論、それがすべてを仕切るというのはやはりおかしいわけですが、やはり、インターネットでいうポータルサイトに相当するようなサービスというのを行っていく。ただ、インターネットによるポータルサービスは民間がやっているので、そことの対比ということが問題になるのでしょうが、民間のポータルサイトは広告収入で運営しているわけで、この手のもので広告収入以外の収入というのは考えられませんから、やはり、公的な資金を使わざるを得ないということになります。そこで、国が一定の責任を負って、1つのポータルサイトに相当するものをつくっていくということが必要だろうと思います。また、この事業内容のうち、民事法律扶助や公的弁護というものは、全国一律でないとおかしいものです。法律扶助協会が必ずしも発展性がないというようなことを、法律扶助協会の方御自身がこの検討会で御報告になりましたので、それに代わる組織はやはりつくらざるを得ません。公的弁護も当然そういうことになろうかと思います。
それから、司法過疎対策は、プロボノの活動には限界があるということは、今日、日弁連からお話をしていただきましたので、やはり、これについても、公的なことを考えなければいけないということです。ただ、すべてを1つの団体がやるべきかどうかというのはまた考えなくてはいけない問題ですが、資料1の図の下の方にある「管理運営業務」というのは、これは集約した方が効率が上がる部分でして、いろいろなところに分散すると、それぞれがすべて管理運営業務をやらなければいけません。法律扶助協会などは、どちらかと言うと地方単位会にそれを丸投げしているというような形で一応やっていたわけですが、それもなかなか難しい問題をはらんでいるようですので、やはり、管理運営部門というものを1つに集約していってコストダウンを図って、かつ、資料1では少なくとも4つの業務は相互に関連し合っていますから、その中で1つのところが全国一律にやっていく。ただ、勿論、地方の実情に応じて、いろいろとサービスの在り方はまた別途考えなければいけないと思いますが、新しい組織を何らかのものをつくるということは、避けては通れないと思っております。
【高橋座長】 法律扶助協会ではもう無理だということでしょうか。
【亀井委員】 そのとおりで、公益法人では、法律扶助をやるのも限界だし、公的弁護が入るとなると、更により難しい問題だと思います。法律扶助協会の現場から見ても、補助金システムではもうできないと思います。補助金というのは、結局、余ったお金は返す、それから使途限定で、すべて細かく、例えば、書類作成費用として出たものは法律相談に流用できないとか、ものすごい使途限定があります。ですから、事業の柔軟性がないということ、それから、補助金システムは、民事法律扶助法自体が、事業に要する費用の一部を補助するということですから、補助金の限界というのもあるわけです。そして、公益法人だからチェックがないかというと、すべて法務大臣の認可事項で、事前チェックがあるわけです。ですから、そういう意味では、そんなに自主性も十分あるというわけではありません。そういうように考えてくると、やはり、独立行政法人のような形を考えざるを得ないのかなと思います。
ただ、独立行政法人での問題というのも、ないわけではないと思います。例えば、こういう組織になると、常に天下りの問題が出てくるわけです。それをどうやって阻止するのかという問題が出てきます。それからもう1つは、多分、独立行政法人だと、長を法務大臣が任命するような形になっているだろうと思います。しかも、他の役員は全部長が決めるということですから、長に人を得られればいいのですが、得られなかった場合はちょっと問題が起きるわけです。ですから、長に民間人を起用するというような形を何らかの形で、法律が無理なら規則でやるかどうか、そういう問題も出てきます。例えば、韓国へ行って訴訟救助公団というもの、これも国そのものですが、それでも、長の任命は、運営主体の「テイセイ」により法務大臣が任命する、「テイセイ」というのは要請するというような意味でしょうか、そういう条文になっています。ですから、新しい法律をつくるときに、その辺りを気を付けていただければ、相対的には、独立行政法人が一番自主性があるのではないかと私は思うのですが。それがベターという言い方をするわけではありませんが。
【高橋座長】 飛田委員から、この独立行政法人みたいなものをつくると、お役所仕事になって効率性が悪いというような、そんなことをちょっと御指摘いただいたのですが、独立行政法人がいいのではないかというのが今の流れですが、いかがでしょうか。
【飛田委員】 時間時間で区切られてしまうと柔軟性に欠けるのではないかというようなことを申し上げたんです。
それで私が申し上げたいのは財源の問題です、事業者の方たちがお金を出すけれども口は出さないというような社会貢献のお金を出していただくとか、あるいは、私の生活者としての感覚からしますと、消費者被害などはほとんど泣き寝入りで、やり得みたいな事業者さんがいっぱいいるわけですから、そういう人たちに対する懲罰的な賠償制度を設けて、個々人に返さないで、そういうお金をこういうところに持ってきていただくとか、そういう方法もあるのではないかと思います。ただ、全体としての枠というのは定収がなければ維持できないわけですから、その組織が安定的に運営されるための方策としては、やむを得ないのではないかと思います。ただし、外部評価を行ったり、従来言われておりますような問題点を新しい組織として立ち上げるわけですから、亀井委員がおっしゃられたような悪しき天下りがあるといけないと思います。優秀な人材はいいかもしれませんけれども、そうでない形のやり方になってしまいますといけませんから、そういうことも配慮するとか、トップを民間の人にすることができるとか、その辺の柔軟性を持たせていただければと思います。必ずしも反対ではございません。
【山本委員】 時間の話ですが、やはり公務員ですと、人事規則の関係でいろいろと縛りがあるわけですが、独立行政法人の非公務員型を選択しますと、雇用を非常に柔軟化できますので、時間についても、いろいろと住民のニーズ、国民のニーズにあったような時間設定というのも可能になるだろうと思います。その辺りは、独立行政法人を選択することもかえってメリットだと、私は考えております。
【高橋座長】 また問題がずれますが、スタッフ制の弁護士ということですが、以前にもちょっと議論がありましたが、スタッフ制の弁護士制度をつくって本当にそこに人が来てもらえるんだろうかという点があります。この辺りはいかがなものでしょうか。ある程度見通しはあるということでないと困りますが。
【山本委員】 この検討会の問題というよりも法曹制度関係の検討会で、判事補を含む判事、あるいは検事さんに他職経験を積ませるというような方向の議論をしているはずですが、私は、この他職経験の受け皿として、このスタッフ弁護士というものを考えることができるのではないのかと思っております。私は、民事訴訟関係の法務省の審議会にも出ているわけですが、やはり裁判官の方は弁護士の訴訟準備について必ずしもきっちりとした認識が十分でないというような発言を時々聞いたりします。こういうスタッフ弁護士だと、訴訟を自分で1から起こして、聞き取りをして書類を書いてというような準備を全部やるわけですから、こういうところで裁判官の方に経験を積んでいただくというのは、裁判所に帰られてからも非常に役に立つことだと思います。ということで、それだけに偏ってしまうとこれはまた問題ですが、1つの可能性として、判検事の方の派遣というようなこと、時限を切った派遣ということも、考慮に値するのではないのかと思います。
【亀井委員】 他職経験は、若干は私もいいと思います。裁判官も弁護士の仕事を、特に扶助事件などをやってもらえると、理屈どおりに行かないことが多いということも経験してもらえるのは、私はいいことだろうと思います。ですから、他職経験でやるのはいいだろうと思いますが、その場合も、一旦弁護士職になってからやってもらいたいというのが1つです。それから、やはり、スタッフ弁護士になる人は、弁護士の現役から出したいと思っています。東京弁護士会でも、北千住に、刑事を重要視する公設事務所をつくることを今総会でも認知されましたので、18人弁護士を集めて、公設事務所、刑事をかなり重要視する事務所として位置付けて始めたいと思っていますので、あちこちで都市型の公設事務所をつくって、特に刑事のスタッフに耐えられるような弁護士を、今、養成しようということで努力をしているところです。
【高橋座長】 いろいろなところから給源はありそうだということですね。
【山本委員】 既存の弁護士から来てもらって結構ですし、是非来ていただきたいのですが、ただ、過疎問題との絡みでは、そういう弁護士さんの自主的な判断で来ていただくのは相当難しいだろうという認識を前提に、先ほどは申し上げました。
【高橋座長】 今日は時間を取って議論をしていただきましたが、冒頭に申しました3つのポイントで申しますと、次のような御議論があったかと思います。
業務内容としては、資料1に書かれたこと、これはこれでいいのですが、このほかに、犯罪被害者対策の問題やドメスティック・バイオレンスへの対応も出ました。更には、もう少し広くというお話もありましたが、リーガル、法律という限定はあるでしょう。しかし、法律に限定されても、犯罪被害者対策とかドメスティック・バイオレンスなんかは入ってきていいだろう。それから、広い意味での司法教育を行ってはどうかという御指摘もありましたが、情報提供のところはもう少しふくらませる。その辺りの御議論がありました。
次に、他の機関等との連携・協力ですが、この司法ネットというものに、例えば自治体が入るかどうかは自治体自らが決めることであって、中央集権的にいくものではない。ここにいらっしゃる方は、入っていただくのがいいことだろうとは思っておりますが、それはしかし自治体が決めることではある。しかし、どんどん情報交換、連携協力はしていくことが大事であろう。自治体なら自治体の自主的判断の下に、自治体に限りませんが、隣接法律専門職種団体というものがありますが、自主的な判断をいただいた上で、連携協力を深めていく。また、少し弁護士会との問題に絞りますと、やはりスタッフ制が入るけれども、開業弁護士がやるのにふさわしいことはあるわけで、それを妨害するようなものであってはならない。そういう意味では、言葉は熟さないかもしれませんが、すき間を埋めると言いますか、補充的な要素はかなりあるだろう。この辺りの御議論がありました。
それから中核組織ですが、中核組織はやはり必要である。既存のところだけでそのネットワークを緊密にすればいいという問題ではなく、中核的な組織が必要であろう。そしてそれは、法律扶助協会を拡充すればいいというようなものではない、公益法人では限界がある。そうすると、独立行政法人が1つの可能な、最も可能性の高い選択肢として出てくるであろう。国自らがやると柔軟性がないということになるから、そういう点で独立行政法人にするということはいい方向であろう。民間的な発想で柔軟な組織運営ができるという点で、独立行政法人が、今日の御議論の中では最も可能性の高い選択肢であろう。また、スタッフ制の点でも、現役の弁護士に入っていただくこともあるし、判検事の他職経験という角度からも入ってきてもらえるようなので、何とかスタッフ制の給源もありそうだ。この辺りの御議論がありました。
この辺りの今日の皆さんの御議論を踏まえて、次のステップにいくために、御了承いただければ、事務局にたたき台をつくってもらおうと思うのですが、つくってもらうということでよろしいでしょうか。
(各委員了承)
【高橋座長】 実は、7月30日に司法制度改革推進本部の顧問会議がございまして、皆さんを代表して私が出席して話すようにと言われております。今日随分突っ込んで御議論いただきましたので、事務局とも相談しながら、私の責任で資料等を用意して顧問会議で報告させていただきます。このアクセス検討会だけではなく、ほかの検討会からの報告もあるということですから、たっぷり時間をもらえるかどうかわかりませんが、与えられた時間の中で皆さんの御意見を顧問会議に上程するといいますか、通ずるようにさせていただきたいと思います。
【始関委員】 すみません、1点だけですが、弁護士会や弁護士との関係の議論の中で、今日の日弁連のプレゼンテーションを伺っていて非常に気になったところがありまして、一言発言させていただきたいのです。
いろいろな御苦労をいただいていて、それが実現されているというお話はよくわかりました。しかし、このリーガルサービスセンターができたら直ちに手を引かれて、全部リーガルサービスセンターだと、今日のお話を伺っていると、もうこれができたら直ちに全部引き上げてしまうように聞こえました。先ほど飛田委員から、予算をしっかり取ってというお話もありましたし、それはそうであるべきだと私も思いますが、限られた予算で、特に予算事情が厳しい中で、一体どれだけの予算が付けてもらえるのか、ほかにもいっぱい予算必要なものがたくさんある中でみんなやっているわけですから、リーガルサービスセンターができたら直ちに手を引くということはないように、是非お願いしたいと思います。
【高橋座長】 それでは、ここで休憩にさせていただきます。後半も少し延びると思いますが、よろしくお願いいたします。
(休 憩)
【高橋座長】 それでは再開致します。議題の2番目の「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて」ですが、前回に引き続いて意見交換をお願いいたします。
前回、敗訴者負担を導入しない範囲について御議論いただきました。例えば、行政訴訟はどうか。これは三輪委員だったかと記憶していますが、公権力の行使に対する是正を求めるものである、そういうものに敗訴者負担を課すと萎縮してしまうということであればこれは本末転倒であろうという御意見がありました。また、指定代理人という、ちょっと技術的な話もございましたが、行政訴訟事件について御議論いただきました。
それから、労働関係の訴訟についても議論が出まして、これは、典型的なものは解雇無効の訴えです。こういうものが泣き寝入りになっては困るという御指摘をいただきましたが、ただ、部分的には、現在、裁判所の中で労働事件というと未払い賃金を求めるものが多くて、大体勝つというような御指摘もありましたし、あるいは、組合対組合の訴訟などはどうなのだろうとかという議論も若干はございましたので、今後詰めていただくということになります。
さらに記憶をリマインドいたしますと、人事訴訟、離婚を中心とした人の身分関係の訴訟ですが、これも、弁護士報酬を心配して自分の身分に関係する訴訟を提起できないのでは困るという御意見もありましたし、一方では、夫婦を中心に考えますと対等な人格なのだから、ここで交渉力に差があるというように議論を持っていくのは疑問であるという強い御意見もありました。
次に、人身損害という類型も出まして、人の生命、身体に関するような訴訟についても、これまた敗訴者負担は適当でないという御意見を随分いただきました。公害、薬害、医療過誤などというのは、その辺りに入っていくのだろうということでした。
前回、ちょっと中途半端で終わったのが消費者関係訴訟ですが、これは、原告になることを中心に考えてきたけれども、被告になる場合のことも考えて議論すべきではないのか。悪徳悪質な業者から訴えられて弁護士に事件を頼まざるを得なくなって、訴訟に関しては被告側が勝訴したのだけれども、自分の弁護士報酬を全額負担させられるのであっては、業者に負けたのと大差ないことも場合によってはあり得るのではないかという御指摘もいただきましたが、ここは両方の御意見がありました。
これ以外に、続きでもよろしいのですが、こういう類型も弁護士報酬の敗訴者負担を導入しない方がいいのではないかというものがありましたらお願いします。
【山本委員】 簡易裁判所の少額訴訟手続も、やはり、弁護士報酬の敗訴者負担の対象外とすべきだと考えております。というのも、もともと、制度の趣旨自体が、弁護士に頼まなくてもできるということを考えて、その分裁判官に頑張っていただきましょうという手続ですから、それについてたまたま弁護士を付けた人がいた場合に、その分について相手方がリスクを負わなければいけないというのは、制度の趣旨を歪めかねないものだと思います。ですから、少額訴訟は是非対象外で、各自負担ということでいくべきではないのかと考えております。
【高橋座長】 民事訴訟法が今回改正されて、少額訴訟の上限額は30万円から60万円になりました。ですから、少額訴訟は60万円までの金銭請求訴訟です。それは本来、弁護士を予定していない、国によっては弁護士の訴訟代理を禁止するという国もあるぐらいの制度です。これはいかがでしょうか。
【飛田委員】 私も先日、消費者の問題のときにちょっと触れさせていただきましたが、少額訴訟に関しましては、両面考えられなくもないけれども、やはり導入しないということにしていただきたいと考えております。やはり、本人訴訟の領域も残しておくべきだろうと思いますし、また、範囲が少額であるということが、双方にとって重要な問題で持ち込まれるのかもしれませんが、むしろそれは決着をつけたいという、そういう意図が強い場合が多分考えられるということと、あとは、アメリカの例を言わさせていただきましたが、あのように訴訟がよく行われる国でも、少額裁判所において訴訟をためらった人の理由の多くが、1番目がコストがかかるということであったということからも、1つの例として考えてみるべきではないかということです。
【始関委員】 少額訴訟の関係で山本委員がおっしゃったことは、2つあったと思います。1つは、少額訴訟というのは本人でできることが原則だからということですが、そうしますと、額で考えるべきなのか、それとも少額訴訟という訴訟類型で考えるのか、これをどう考えるべきかということがちょっと気になりました。と言うのは、最初は少額訴訟で訴えを提起しても、通常訴訟に移行することがあります。被告のイニシアチブによる移行もあれば、裁判所の職権による移行もありますが、移行してもやはり同じに扱うのかどうかということを、補足的に、山本委員のお考えをお聞かせいただければと思います。
それから、もう1点、たまたま弁護士を付けた場合という話がありましたが、このたまたま弁護士を付けた場合という問題は、少額訴訟に限らずほかの訴訟でも、弁護士を付けるケースもあれば本人訴訟のケースもあるわけですし、本人訴訟の場合にも、司法書士などが関与する場合もあるわけです。この費用というものを、たまたま弁護士が付いた場合というように考えるのか、あるいは、簡裁の訴訟ですと、司法書士の代理権も認められたわけですので、それも含めるのか、あるいは、本来弁護士費用の全部ではないわけですが、一部を認める場合に、それは必要経費だと考えるわけでしょうから、たまたま弁護士なり司法書士なりにお願いをしなかった場合にも、本人が自分でその分の労力を出費しているわけですから、それをどう考えるのか。私は、付けたか付けなかったかにかかわらず、一定の額が負担させられるか、敗訴者負担にするかしないかと考えるのが論理的なのではないかと思っていますが。
【山本委員】 1点目ですが、通常移行した場合については原則に戻る、訴訟の中身によって変わるわけですが、例外と言いますか、各自負担とされるべき事件の種類でなければ当然敗訴者負担になる、少額訴訟手続で完結した場合のみ外すということでどうかと、私は今のところ考えております。それは、通常移行した後は通常の手続ですから、差別化する要因がないということでもありますし、訴額で低い方は外すという選択肢は、むしろ、費用倒れになるという論拠と整合しないわけです。弁護士報酬の敗訴者負担の根拠の1つは、費用倒れにならないということですから、通常訴訟手続でやる場合については、少額であるときほどむしろニーズが高いということだと思っております。
それともう1つの問題点ですが、これは少額訴訟の問題でなく、通常の訴訟の問題として議論した方がいいと思います。本人対弁護士であっても、あるいは本人同士であっても、あるいは、訴訟代理人が弁理士であっても司法書士であっても、これは私は一緒だと思っておりますが、差し当たり「弁護士報酬」と今まで言ってきました弁護士の場合を念頭に置きますと、その場合にどうするかという問題です。本人対本人の場合、それから本人対弁護士が付いている場合、この場合にどうするかというのは、これは審議会がどう考えていたかということはよくわからなくて、どうも、お互いに弁護士を付け合ったということしか考えていなかったのではないかという感触を持っていますが、私も、これは、必要経費という考えでいけば、始関委員のおっしゃるように、本人対本人でも考えるべきことだし、本人対弁護士が付いている場合でも私は考えた方がいいのではないかと思っています。これは根拠は全くないわけではなくて、釈迦に説法になりますが、介護費用、損害賠償、人身事故の人身損害訴訟で、介護費用についての最高裁の有名な判例がありまして、介護士を雇ったときには、当然介護費用、報酬分は損害賠償の範囲に入る。ところが、親族が一生懸命介護している、そんなときに介護費用はどうなるかというと、最高裁は取れると言っています。それはなぜかと言うと、親族が払う分、自分の汗で払ったということです。だから、そういう汗で払った分というのも、やはり、私は、弁護士報酬の敗訴者負担制度の枠で処理できればと思っていますが、これは法制的にどうなのかというほかの問題があって、通る意見なのかどうかよくわかりませんが、その点については、始関委員のおっしゃることに賛成です。
【亀井委員】 少額訴訟という枠組みで外すというのは勿論賛成ですが、少額訴訟は、ほとんど個人対個人の事件で、私は、簡裁事件でも地裁事件でも、個人対個人の事件というのも外すべきだと思っています。
一般民事事件ですが、例えば、貸金請求、それから明渡し請求、土地建物の賃貸借の事件というのが一般的には一番多い、一般通常訴訟の中で多い事件です。この辺りが一番勝敗の見通しが付かない事件だろうと思います。なぜかと言うと、日本の場合は親族間の事件や近隣の事件が多いわけです。そういう中で、あらかじめ証拠を取っておくという、そういう基本姿勢が、まだ市民の中で浸透していないわけです。ですから、個人対個人の事件ほど、勝敗見通しが立たない事件が多いだろうと思います。そこで敗訴者負担を入れたら、やっと自分の弁護士費用だけは何とか都合を付けたけれども、負けた場合に相手の費用も払うんですと言ったら裁判にたどり着けないだろうと思います。これは、司法アクセスに大なる阻害事由になると思いますので、個人対個人の事件こそが、敗訴者負担から外すべきだと思います。これが基本の姿勢です。
【長谷部委員】 亀井委員の御意見は承りますが、少なくとも少額訴訟に関しては、個人対個人だから見通しが付かないからという理由付けではなくて、山本委員からも御指摘がありましたけれども、本来弁護士を付けることを予定していない事件だからだと、そういう理屈付けの方がよろしいかと思います。それで、先ほど、たまたま弁護士を付けたという、そういう表現のことで始関委員から御指摘がありましたが、恐らく、少額訴訟は、本来弁護士を付けることを予定していないのにもかかわらず、たまたま一方の当事者が付けてしまった場合に、これは必要とは認められないから、だから負担させられないのだという、そういう理屈なのかと思います。ですから、ほかの事件類型において必要経費である場合には、その後は敗訴者負担ということは成り立ち得る話だと思います。
たまたま片一方の方だけが弁護士を付けた場合どうするかという御議論ですが、先ほどの司法ネットとの関係でも、今後また展開があるのかと思いますが、今後、本当に弁護士が必要な事件であれば弁護士にきちんとアクセスができて、訴訟にしてもらえるという、そういう状況になったならば、片一方にだけ弁護士が付いてということは、多分減っていくのではないかと思います。それこそ、本当に運悪く訴訟委任ができなかった、あるいは、訴訟委任をしなくても大丈夫だと思っていたと、そういう本人訴訟の場合には、やはりそれなりに弁護士を付けない分、自分の機会費用などを使っているわけですから、その分、何らかの費用を与えるということは、それは検討してもいいのではないかと思います。
【亀井委員】 日本の場合、本人訴訟が、地裁事件でも多いのです。ということは、やはり、敗訴者負担の土壌にまだふさわしくないということだろうと思います。例えば、ドイツなどは弁護士強制主義ですから、全部に付いているから公平だという判断もあり得るかもしれませんが、日本の場合は、簡裁はほとんど本人訴訟であるし、地裁事件でも、本人訴訟がものすごく多いわけです。それはやはり、まだ敗訴者負担の土壌にはなっていないとしか言いようがないだろうと思うのです。その上で、勝敗の見通しが立たないから、裁判を起こそうとするときにアクセス障害になるので外した方がいいと申し上げたわけです。
【飛田委員】 わが国の場合には本人訴訟を認めているわけで、弁護士強制主義ではないということが1点と、それから先ほど申しました理由で、コストが少額裁判の場合に大きな負担であるという調査の結果もあるということが2点目、それから弁護士さんのゼロ・ワン地域もありますし、その他弁理士さんだとかあるいは司法書士さんたちにしても、弁理士さんの説明はまだお伺いしておりませんが、司法書士さんのお話をお伺いしても、やはりゼロ・ワン地域と言いましょうか、非常に過疎の地域がたくさんあります。これから法曹人口を増やそうという過程で、土壌がまだ出来上がっておりませんので、私は、ほとんどの訴訟類型において、敗訴者負担制度の導入はおかしいと思っております。現状が、条件整備ができていないところで導入するということは、過疎地にある人は弁護士さんの支援を受けられないという状況にあると考えても差し支えないと思いますので、力関係というのが、専門家の力を得て行う訴訟とそうでない訴訟とは違ってくると思いますから、法の下の平等ということから言っても、おかしいと思っております。
【高橋座長】 先ほど山本委員から御指摘をいただきましたが、今まで「弁護士報酬」と言ってきましたが、これは別に弁護士に限るわけではなくて、簡裁であれば司法書士の訴訟代理が認められましたから、厳密に言えば「訴訟代理人報酬」と言うべきかもしれませんが、そこは従来の言葉で「弁護士報酬」を使いましょう。「弁護士報酬」という言葉はそのように使うということでよろしいですね。
【長谷川委員】 伺っていると、先ほどから、企業対企業のように大きな金額が動いたりするもの、金額がどのくらいかわかりませんけれども、確かにそうしたところで敗訴者負担を希望しているかというように前々から感じております。今、たくさんの例外を取り出しているので、敗訴者負担に適しているのはどういうものか伺うという、逆をしていただけませんか。
【藤原委員】 1つその前にちょっとお伺いしたいのですが、亀井委員の先ほどの御発言の中で、「まだ」敗訴者負担にそぐわないということを何回かおっしゃいました。そうだとすると、「まだ」ではない状況というのはどういうことなのかということを是非伺っておきたいと思いましたので、そこの部分を少しお教えいただけますか。
【亀井委員】 前からよく、時期尚早なのか、理念的に反対なのか、ということは、藤原委員はよくおっしゃっています。私は、理念的にということは両方の理念があり得るわけで、しかも日本はもう何十年も敗訴者負担主義をやってこなかったわけで、やってこなかった日本が違法だというのもおかしいわけですから、理念としてはどちらとも成り立ち得るものだと思います。ただ、日本の場合には弁護士強制主義でもありませんし、弁護士の数が少なかったということもあって本人訴訟が現実に多いわけです。だから、そういう意味で、費用研も、まだいろいろな要素が整ってから考え直すというようなことで収まったのだと思います。だから、日本の場合は政策の問題ですから、いつやるか、いつになったらいいなんていうことは私は申し上げるつもりはないので、今はまだやる土壌にないだろうということです。それは1つには、日本の場合には、司法に気軽にアクセスできないということが今まで問題になってきたわけです。それで事件屋が横行したり、訴外で殺傷事件が起きたりということが往々にしてあるわけです。ですから、片山鳥取県知事も、この前の有識者懇談会の中で、スマートに気軽に裁判で解決しましょうというようなことを提言しています。やはり、まだまだ日本の場合は、アメリカと違って、気楽に裁判にアクセスできる司法をどうするかということが今の課題なんだと思うのです。そうした場合に、まだまだ司法が少なすぎる、泣き寝入りしている層が多いという中で敗訴者負担にすれば、もし負けた場合には敗訴者負担で自分が2人分の弁護士費用を払うんだと言えば、司法に気軽にアタックできないというのが今の情勢ではないかと思います。それで、今は、敗訴者負担は反対ですということです。
【長谷川委員】 私はそんなふうにとっていなくて、何かそういう時期とか状況の問題ではなくて、どうしたらアクセスしやすいものがどちらの方法か、ものによっては敗訴者負担もいいだろうというように複合する。それは理念としてもアクセスしやすいというものをきちっと選んでいく。今そういう状況にないからという判断ではなく。状況判断ではないでしょう。
【始関委員】 亀井委員は、企業と企業の間の訴訟でも、まだ時期尚早というお考えですか。
【亀井委員】 そう考えています。企業というと、ピンからキリまで勿論あるわけです。例えば、最高裁に今、数十件かかっているという日栄との事件、これは連帯保証人の場合は個人になります。債務者の方は、全部と言っていいほど自営業者です。それも一般的には企業対企業です。だけれども、では、企業者が、保証料を取られたのはおかしいといって裁判をしようというときに、やはり負けた場合に日栄側の弁護士の費用も払うということになったらば、それは司法にアクセスしにくいだろうと思います。ですから、企業対企業の場合でも、自営業者、中小企業の場合には、やはり敗訴者負担は取るべきではないと思っています。
【長谷部委員】 亀井委員の御指摘は、恐らく、事業者同士でも萎縮効果がある場合があるという、それを無視してはいけないという、そういう御趣旨なのかと思うのですが、私も、一般論として、萎縮効果がある場合にアクセスが阻害されるからそこは除外するというのはわかるのですけれども、どういう場合に萎縮効果があるのかというところでは、実は、今までずっと御議論を聞いている中でちょっとよくわからないところがあるのです。
2人分弁護士費用を払わなければいけないという、そういうものも多少語弊があるところでして、必ず2人分になるかというと、そうではないですね。イングランドの場合であれば、敗訴者負担になっていますが、コンティンジェント・フィーという、いわゆる成功報酬方式を取っていれば、払うのは、仮に負けた場合であっても相手方の弁護士報酬だけであって、自分の方は払わなくて済むわけですから、1人分の弁護士報酬で済むという場合だってあるわけで、敗訴者負担にしたら必ず2人分ということではないと、少なくともそういうことは言えるわけです。また、今まで負けたら2人分という、そういうことだったんですが、負けたらひょっとしたら多く払わなければいけないかもしれないけれども、勝ったならば払わなくてもいい、あるいは全然払わなくてもいいわけではないけれども、かなりこの費用負担が軽減されるんだということまでちゃんと依頼者にお話ししたところで、ではどうするかということで、皆さんが、ではやめますと言うのかどうかということが私はちょっとよくわからないのですが。
【亀井委員】 イギリスの場合は全然報酬形式が違います。イギリスでは条件付成功報酬と思いますが、日本の場合は、着手金を払うのが今の形になっているわけです。ですから、自分の分を払って、負けたらば、額は若干問題はありますけれども、いずれにしても相手方の分も払うという理屈にはなるわけでしょう。だから、イギリスの例は、余り日本の場合に当てはまらないだろうと思うのです。
【始関委員】 今の弁護士の報酬実務はそうであるということは、私もそうだと思いますが、その弁護士報酬というのは、必ず着手金をもらわなければいけないと弁護士法で決まっているわけでもないし、弁護士報酬規定も、規制的なものはやめるということになっているように伺っていますが。
【亀井委員】 はい。そこからは外されます。
【始関委員】 コンティンジェント・フィーというのは、要するに成功報酬だけで、着手金というのは払わないという制度ですけれども、そういうものも、現実にも、今までも行われている例もあるように聞いていますし、そういうこともあり得るのではないですか。
【亀井委員】 ごく普通の形は着手金制度です。それを習慣的にずっとやってきているし、弁護士法ではなく、会規でそのように定められているので、ほとんどの弁護士が着手金でやってきているわけです。だから、今度会則から外されたとしても、多分、そういう形でずっとやるというのが常識的な発想ではないかと思います。アメリカみたいに全部成功報酬になるとか、タイム・チャージになるとかいうことは、すぐにはないのではないでしょうか。
【山本委員】 コンティンジェント・フィーという考え方は、アクセスを容易にしてお客さんを取るためと言うか、お客さんを取りやすくするために弁護士が考え出して、それに対して、アメリカでは、弁護士倫理上、規制がなかったということです。イギリスでもそのようです。ですから、それは、事件の種類に応じて、弁護士が主体的に、いかにアクセスを容易にするかということは、弁護士会にもお考えいただいて、そういうこともあり得るんだという前提で議論すべきであって、現状が着手金で半分成功報酬みたいな形で、それだけを前提に議論するというのは、私はおかしいのではないのかと思います。例えばアメリカですと、交通事故などは、損害賠償型のコモン・ロー上の訴訟でも、そういうものは全部コンティンジェント・フィーでやっているわけなんです。私は、なぜ、コンティンジェント・フィーを排除して議論しなければいけないのかというのがちょっと理解できません。やはり、弁護士も自己改革がある面で必要だということで、ほかは変わりなさい、私は変わりたくないというのはなかなか言えないということです。
【亀井委員】 ただ、アメリカの成功報酬というのは、ものすごく高いわけです。負けた場合は別でしょうけれども、勝った場合には、ものすごく高い成功報酬になっているわけです。わが国でそんなに極端に高く取れるかと言ったらば、今までの皆さんの常識というものがあるわけでしょう。それがいきなり成功報酬制に変わるということは、それは何十年か経てば別でしょうけれども、今までの形を踏襲していくというのがごく普通の形であるし、今はそれを前提にしか議論はできないんです。皆さんが成功報酬制でやっているということは、基本的にはないわけですから。それは改善すべきだと言われれば、それは将来の問題としては残るかもしれませんが、現在は、すぐにそんなに急激に変わるとは思えませんから、やはり現状を前提に議論するしかないと思います。
【飛田委員】 弁護士さんの報酬の在り方ということを考えていかなければならないとは思います。しかし、司法制度改革審議会の意見書は、アクセスを推進するために導入した方がいい場合もある、反対に入れない方がいいという記述もあるわけですが、ですから、どういう場合に導入したらばアクセスを推進するのかということを、私は何度かお尋ねしているのですが、損した元が返るでしょうというお話ぐらいで、なかなかそれ以上のお話がないんです。
実際に、今、アクセスを推進しなければならないという議論の背景には、日本の裁判の件数が非常に少ないですし、弁護士さんでも、トラブルに遭った方は、あの方が何に強い弁護士さんだとか、大体どれくらいお金がかかるんだというようなことが見当が付く方がいるかもしれませんが、一般の人にとっては遠い存在なんです。それでアクセスするという、裁判によって自分の問題を解決しようということを、もっと国民一般がそういう立場に立たなければいけないでしょう。法治国家として、2割司法でなく推進させましょうという目的を考えていった場合、私の生活者としての感じから言いますと、まず、法律の文言自体が難しいとか、裁判所の敷居が高いとか、弁護士さんがどういう方がおられるのかよくわからないとか、初歩的なところで、ほとんどの市民はアクセスに至らないわけです。何かすごくお金がかかるらしいとか、裁判所に行っても何を言っているのか話が訳がわからないみたいだとか、行ってみても、どうも古い論理で物事が解決されるようであるとか、このごろは大分短縮されるような傾向があるようですが、時間がかかりそうだとか、率直に言って、悪いイメージの方が、専門家の偉い先生方がおられるようですけれども、庶民にはほど遠いところだというような感じの方が強いのです。ですから、それは間違いの印象かもしれませんが、そういう悪い印象を払拭するためにも、今、アクセスをしやすくしなければならないという立場に立たないといけないと思うんです。そうしますと、私は、いろいろな方のお話を伺っていますと、いろいろなことに苦しんでおられる方がいるんですが、みんな一様に、自分が立ち上がるだけでも大変で、もし負けたときに相手方の弁護士報酬の一部であるにせよ、それが幾らになるかわからないけれどもそんなものを負担するなんて考えられないとおっしゃるわけです。ですから、市民が起こす訴訟というのは、敗訴者負担制度の導入ということはまず例外にしていただきませんと、アクセスにつながらないと思います。
ただどの類型にするかだと思うんですが、ありとあらゆることなんです。大変多様な問題について話をされる方の内容は、それこそ戦後補償の問題をおっしゃる方もあれば、昨今のように原発の問題でももんじゅ訴訟は代表的なのはありますけれども、検査内容についても疑いがあって安全性が不安だと言うような人も出てきてますから、こういった安全性を求める訴訟にしてもそうですし、また政教分離なんかの昔からあるような訴訟の人もそうですし、いろいろ様変わりしてきていますけれども、平和関係の訴訟とか、福祉問題についても訴訟を起こす方はおられます。それから教育問題もそうです。例えば知的障害者の方の問題にしてもそうですし、医療過誤の、これはこの間ちょっと議論ありましたけれども、過誤でなくても、カルテ開示の問題にしてもあると思いますし、高齢者の虐待問題、あるいは株主代表訴訟なんかも、企業がなかなか経営者の方たちといいましょうか、コンプライアンスの経営、法令遵守の経営をなさらないような場合もあるし、いろいろな問題があっても、それが例えば汚職の場合もあるし、多様な問題が起こっておりますけれども、株主代表訴訟を起こす方も大変だということをおっしゃっています。また、労働訴訟はこの間話が出ましたけれども、住民訴訟とか薬害の問題、第3セクターを相手にする問題とか、男女共同参画の問題とか、環境権の問題、まだまだあるかもしれません、嫌煙権の訴訟なんかもそうかもしれませんが、消費者はもとよりですが、大変多くの分野の方たちが、市民が起こそうとするということは大変で、相手の方が情報量が多い場合もあるし、なかなか制度的に情報をいただけない場合もある、団体訴権もない、差止請求も難しいというようなことで言っておられます。それからまた、中小企業の場合もそうです。私が前に伺った話では、ガソリンスタンドの方が元売から差別対価を受けていろいろなトラブルがあって、よそよりも高い値段で買わされるような場合、自分たちは不況業種ですから裁判どころの騒ぎではないと言うんです。一応事業者ですから、裁判を起こすに当たっては、またお金を積み立てなければならないことに確かなっていたと思うんですが、そういうことで差止請求も実際できないんだという話を聞いております。昨今のように、少し景気がこれからよくなるような話もありますけれども、不況になってまいりますと、中小企業の方たちも大変なようです。大企業は私はよくわかりません。その辺のところをじっくり考えていきませんと、司法アクセスを、司法制度改革の中で推進しなければならないのが、むしろ後退させるようなことになってしまいましたら、本末転倒になってしまうと思うんです。ですので、慎重にやっていただきたいと思いますし、先ほど長谷川委員が、むしろどういう場合が推進になるのかというようなことで言われましたけれども、その辺のところをもう少し考えていくことの方が先行するのではないか。条件整備が整っていればいいんですけれども、今、いろんな意味で、悪い条件が我が国の場合にはあるわけですので、諸外国がアクセスを、つまり濫訴の弊害をなくすために導入している敗訴者負担の制度というのを導入することは、おかしいと思うんです。
この前、片面的敗訴者負担制度の問題を申しましたらば、なかなかすんなりとお話を受け止めていただけないようなんですが、むしろアクセスを推進するためには、片面的な敗訴者負担制度を、ちょっと名前が似ているので、一般の人にとっては大変なじみにくいんですけれども、そちらを考えるべきではないかということを、私は思っております。
【三輪委員】 アクセスを阻害する要因は、身近に弁護士がいない、弁護士になかなかたどり着かないということが主要な要因で、訴訟費用の問題、あるいは弁護士費用をどのように負担するのかしないのかという問題の方は、感覚的なものもありますが、そんなに大きな問題ではないのではないかという気がします。それで、先ほど長谷部委員も言われましたが、これから弁護士が身近な存在になって、弁護士へのアクセスを容易にする方向で制度を構築しようとしていることが現にあるわけですし、またそういう方向に行かなければいけないという前提で考えて、弁護士を頼んで訴訟をするということが原則的な形態になるという前提で考えるなら、弁護士に払った費用の一部は訴訟費用の一部だと考えて敗訴者の負担とするという制度の方が、むしろ理念的な問題としても、訴訟アクセスにつながるという面が大きいような気がします。
もう1つ、私が感じているところですが、敗訴者負担制度を導入しない方がいいという訴訟類型を幾つか挙げて、そのこと自体には反対ではありませんし、そういう理念があるということもわかります。それから、飛田委員、あるいは亀井委員が、こういう事例があります、こういう形で敗訴者負担制度を導入すると提訴萎縮効果が生ずる危険がありますという、そういう例がないとは思いません。大いにあるのだろうと思いますが、実務感覚から言うと、普通の事件と言っていいのでしょうか、民事訴訟で行われている普通の事件について、弁護士を頼んで訴訟を起こした人、あるいは訴訟を起こされて弁護士を頼んで応訴した人が、敗訴者負担ということがありますということを聞かされたときに、では訴訟を起こすのをやめようか、あるいは応訴するのをやめようか、応訴するのをやめたら負けてしまいますけれども、そういうことになるのかというと、そういう事件はそんなに多いとは思えないのです。私の感覚から言うと、一般の事件、普通の事件というのは、負担額の定め方にもよると思いますが、むしろ、弁護士費用の敗訴者負担制度があるからアクセスが阻害される、訴訟を諦めるというようなことにはならないという感じがどうしてもするわけです。その辺りの感覚の違いが、弁護士をやっておられる亀井委員と違ってきているようですが、なぜ違うのかはよくわかりません。
【亀井委員】 現実に事件をやっていると、自分の弁護士費用をつくることでさえ、かなり大変なのは間違いないです。それで、更に負けたときには相手方の費用負担もあり得ますということを言ったらば、やめる人の方が現実的には多いだろうと、私は思っています。大体個人間の事件で、貸金請求訴訟で借用書もないというのが多いわけです。被告側で言えば、領収書ももらっていないという事件が多いです。そういう場合に、本当に弁護士としても見通しがよくわからないというものがたくさんあります。更に、証拠の偏在だけでなくて、裁判官の世界観によっても、自由裁量の範囲というのはかなりありますから、勝敗の見通しというのはわからない。そういう場合に、頑張って、では裁判をするというときに、費用、特に相手方の費用というのは、感情的にも大変厳しい問題提起になるだろうと思います。
【藤原委員】 そうしますと、ある程度予測できる、あるいは枠を決めますね。その枠が提示されたとしても、必要不可欠な費用という受け取り方はなされないだろうという御判断ですか。
【亀井委員】 そういうことです。例えば、私がこの前申し上げましたけれども、法律扶助を仮に上限にしても、22万円です。もし負けた場合にその程度のことを負担する覚悟がありますかと言ったらば、やはり、裁判を躊躇する層が多いだろうと思います。
【藤原委員】 それは少額訴訟ではなくて、それ以上の事件でですね。
【亀井委員】 普通の事件の場合です。
【藤原委員】 その場合ですと、相当額にも開きが、額だけで決まるわけではありませんが、額に換算した場合に、いかなる額の訴訟であったとしても、今おっしゃったような法律扶助の上限であるその額ですら、大変大きな影響を与えるだろうというお考えであるということですか。
【亀井委員】 はい。と言うのは、1つには、この場合、弁護士報酬のアンケート調査、ここで報告がありましたけれども、着手金30万円というのが一番多いんです。と言うのは、それぐらいしか取れないという、それが弁護士の判断だろうと思います。だから、大体30万円ぐらいが多いということは、報酬規定よりかなり低い額で提示しているというのが多いだろうと思います。そのぐらい、30万円ぐらいの着手金で、更に22万円ぐらいが上限と言っても、10万円なり20万円なりを払わされるというのは、やはりそれは厳しいということで、裁判を諦めるという発想は強いだろうと思っています。
【三輪委員】 亀井委員
が先ほど言われた、勝つか負けるかわからないというのは、前回も私は申し上げたのですが、原告が訴えを起こすときに、勝つか負けるかわからない、だめで元々で訴えを起こそうというのは、そういう訴訟を起こされた被告の側からみてどうなのでしょうか。逆に、被告の立場から、勝つか負けるかわからないけれども引き延ばしのために主張を出しておきましょう、だめで元々で証拠を出しておきましょうという、そういう訴訟活動は、本来、基本的には、許されないはずです。そういうことを防ぐためにも、弁護士さんが原告にも被告にも付いて、きっちりとした正しい訴訟活動をやってもらいたいという前提で考えたときに、大半の事件は、原告は勝つべき事件では勝っていますし、被告が勝つべき事件はやはり被告が勝って、弁護士はその見通しを立てて訴訟を引き受けておられると思うのです。そういう前提に立ったときに、裁判というのを、やってみないとわからないというのはおかしいと思うのですが。
【亀井委員】 かなり違うのかと思います。弁護士も、裁判を起こせば、皆さん手抜きしないで、証拠がないところは状況証拠を集めるなりして、それはもう一生懸命勝つような努力をしています。勝つべきものは勝つ、負けるべきものは負けるんだとおっしゃいましたが、それ自体が、控訴事件もあるわけですし、そうでない場合もあり得ます。例えば、今日出しましたけれども、日栄の判断も、一審も高裁も区々な解釈です。あれは事実認定ではなくて、多分、法律解釈がそれだけ違ってきているわけです。常に、弁護士もそうですけれども、裁判所も、新しい法律問題を突き付けられているわけです。そういう時代というのは、区々の判断というのが出てくるわけです。だから、そういう意味で、勝敗の見通しというのはできない場合もかなりあります。最高裁の判決が出たから、後は少し楽かとは思いますけれども、そこに至るまでには連戦連敗で、ずっと弁護士も本人もやってきているわけです。ですから、そういう事件というのがいっぱいあるわけです。勝つべきものが勝てばそれはそれでいいですし、そのように私どもも期待していますけれども、やはり、裁判所の判断が個々的に違っているというのはたくさんあるわけです。それは日栄ばかりでなくて、例えば、大気汚染でも、これだけいろいろな判断が出ています。それから離婚事件でも、10年前では認められなかったケースが少しずつ離婚が認められるようになっているとか、どんどん法解釈、それから事実関係も勿論ですけれども、裁判所の判断が少しずつ変わってきている部分もあります。そういう意味で、果敢に挑戦する裁判というのはまだまだありますし、一般的な事件でも、証拠は少ないけれども頑張ってやってみようというのはたくさんあります。それはもう7対3の勝ち率だとか、弁護士はそういう言い方しかできないので、100%勝つということは勿論言えませんけれども、そのくらいの確率でもやる事件というのは、自分の弁護士費用だけでやれるというのはかなり大きいだろうと、私個人は思っています。
【三輪委員】 それはそれで良いと思うのですが、私のイメージしている民事訴訟の多くの事件、普通の事件というものを考えたときは、そうではないのではないのですかと申し上げているのです。亀井委員が言われるような事件があることはわかっています。ただ、事件全体のイメージというものを、そういう事件を基準に考えるのがいいのかどうかということについて、疑問を呈しておきたいと思います。
【始関委員】 私は、三輪委員に比べると、裁判官としての経歴は非常に短いのですが、私の短い経験からしましても、裁判所から見て判例が分かれるような法律問題があるようなものは、数としては全体のごくわずかしかないわけですので、それを別にしますと、裁判官が判決するときに、どっちを勝たせるかで悩むような事件というのは、非常に少ないのが実情なのではないかと思います。代理人は見る立場が違うので、勝敗予測というものについて、裁判官と多少違うのかもしれませんが、裁判官が、ほとんどの場合について、何の躊躇も抱かずに一方を勝たせているということからすると、そんなにものすごく弁護士の先生の予測と違うのだろうか、特殊な法律解釈の問題があってどう解釈すべきかということで意見が分かれるものは別ですけれども、そうではない、証拠だけの問題については、そんなには違わないのではないでしょうか。そこは、三輪委員がおっしゃったことと同じように感じました。ただ一方では、私は、行政の側に来てから、非常に少ない経験ではありますが、被告の側になって、とんでもないと思って怒りに震えて控訴したこともありますので、必ず正しい判断をされるとは思いませんけれども、そのために三審制があるのだと思っています。高裁で全部ひっくり返りましたから。
【亀井委員】 日栄の判決を見ると、高裁でも、まだかなりいろいろです。そういうのは多いし、裁判所も、かなりものの見方が、社会的な情勢によって変わってきているので、昔は、例えば、金融機関の裁判は絶対勝つと思われていました。だから、費用研のときに、さくら銀行の方が呼ばれて発言していて、その中でも銀行は全部勝ちますとおっしゃっていますが、いまや銀行もかなり厳しい立場に追い込まれています。その意味で事実認定も違って、ものの見方も違ってきていますし、法律解釈もかなり違ってきているんです。そのように裁判所自体も変わりつつあるんだろうと思います。そういう中で、今、前よりもっと勝敗の見通しが厳しい時代になったと、私どもは思っていますが。
【飛田委員】 勝敗の見通しということも、とても重要な要素であることは確かだと思いますけれども、司法的な判断を行うということが、社会の不要な紛争の拡大ですとか、あるいは、行政訴訟であれば、やり方が悪いということを指摘してもらったということにもなるわけですから、もしそれが結論が出た場合、何かの行政訴訟を起こしたりして原告が勝訴した場合、そういうことで誤りを正す道を開くという司法の機能ということを考えていく必要があるだろうと思うんです。そうしますと、私の先ほどの雑駁なものの言い方ですと、現職の方や専門家が大勢いらっしゃいますのでさぞ不愉快だろうと我が身に置き換えてみますと思いますけれども、そういう見方を一般の国民はしている、それだけ司法というのは遠いものであるということなんです。ですから、司法的な判断にまず関わっていくということが勝ち負けを決めて、ですから本当に不当なことを言うような人はそれはまたそれで別途考えるべきだと思うんです。そうでなくて、自分の抱えている問題を第三者に司法的に判断してもらいたいということを願うことが、その人が負けたらば負けた人がそれは悪いんだというものの考え方は、ちょっと、特に民事訴訟の場合には言いにくい面もあるのではないかと思うんです。その辺はどうなんでしょうか。私は、司法的な解決をするということは、もっとお互いが、訴訟費用に関しては印紙代等については敗訴者が負担するという制度があるわけです。ですので、今、弁護士さんも少ないし、なかなかみんなが訴訟というものを考えることがないという状況において、さらなるそういう負担を強いる可能性があることというのは、それは勝ちを信じて何事でも真正面からやるべきだというそのお話はごもっともだろうとは思います。一般的に、自分が日常的な問題に取り組む場合でも、最初から何か言いがかりを付けてどうこうなんていうような考えがあるとしたら、それは非常に後ろ向きの取り組み方だと思いますので、そういうことであってはならないはずですが、そうでない場合の方が私は多いと信じたいんです。ですから、司法的な判断に委ねるということは、印紙代等の負担がある意味では生じるということもあるわけですから、皆さん印紙代だって大変だということを言っておられたんで、私は印紙代の話に、いや、その他の手続費用の費用のときにも、できるだけ抑えなければいけないということを述べさせていただいたわけなんです。そういう悲鳴が一方ではあるんです。ですから、恵まれた人たちはそうでないのかもしれません。ですけれども、大半の人は、ゲーム感覚で裁判に物事を持ち込むということではないという現実があって、そうでない人たちをもっと招き入れなければならないということを考えていくべきだろうと思っております。
【高橋座長】 また一般論に戻っていただいてもいいのですが、やはり、私どものこの検討会の与えられた責務というものも思い出していただきたいのです。費用研の話が何度か出まして、私もその中に入っていたメンバーとして費用研を引用していただくのはありがたいのですが、しかし、費用研の報告書を司法制度改革審議会は読んだ上で、ここに出てきているわけです。時期尚早だというように費用研の報告書には書いてあります。しかし、その時期尚早をいつまでも時期尚早にしていてはいけない、司法全体の容量を増やすというのが司法制度改革推進本部の各検討会であり、その前提の中でどうするかということですよね。先ほど来、委員の一部の方からは御指摘がありますが、弁護士が増えていって、そして司法ネットもできてきて、弁護士へのアクセスは増えるはずだ、司法に関する情報も増えるはずだ、しかし、行ってみたら弁護士報酬は高くてというのではおかしいということで、アクセスと報酬の問題はリンクして出て、我々に与えられているわけです。ただし、すべての訴訟に一律に適用するのもまた行き過ぎだろうから、適用する部分、適用しない部分を明らかにせよというのが、我々の与えられた任務なわけです。そうは言いながらも、一般論に、それぞれの委員の中で戻るのは当然だと思いますが、絞っていただくとどうなるのかが重要です。
今日は少額訴訟を御議論いただきました。あと、一度飛田委員から、国家賠償関係の事件はどうなのかという御指摘がありましたが、これは狭い意味での行政訴訟ではないわけですが、国、あるいは地方自治体を相手にする訴訟、これはどう考えたらよろしいのでしょうか。ちょっと問題を限定させていただきました。
【亀井委員】 申し上げますが、私どもは行政訴訟の中に位置付けて、広い意味の行政訴訟という形で、同じように外すべきであるということで考えています。外国を見ても、行政訴訟という中に国賠も入れて敗訴者負担のときには考えているというように聞きました。公益性という問題では同じではないかと思いますが。
【高橋座長】 まだ全部カバーしたかどうかわかりませんし、まだ結論は出ていませんが、ある程度、適用しない事件の方の議論は出てきました。
長谷川委員からは、逆に何が適用する方の事件なのかという御指摘をいただきました。日弁連は、大企業対大企業の事件はいい、商法特例法の事件はということですか。
【亀井委員】 5億円程度以上の企業ならば、当事者が反対しなければいいのではないでしょうかと思うだけです。
【高橋座長】 適用する方というのは、どういうものが一番ふさわしいのかというのが長谷川委員からの問題提起です。
【藤原委員】 その問題についてよろしいですか。先ほど来、弁護士費用についてのいろいろな額、30万円とか22万円とか出ておりますけれども、もう1つ、これは蛇足かもわかりませんが、我々がいろいろな問題にぶち当たったときに、司法を拠り所としてそこで解決を望むということが我々一般国民の生活に根付き、なおかつ、そういうことがごくごく普通に行われるということは、とりもなおさず、それにかける時間的な費用も、それから金銭的な費用も、現在よりは、当然、自分の家計なり生涯収入の中で、それに割く費用も増えていくということが前提ではないかと思うんです。ちょっと例が悪いかもわかりませんが、昨今では、以前に比べれば、大変多額の費用を、個人消費の額で言いますと、通信費とか交通費に充てているわけです。ということは、生活がそちらの方にシフトしていって、あるいは社会全体がそちらの方へシフトしていくということは、現在我々が考えている額よりは、当然、それを選ばない人は別ですけれども、当事者はそちらに家計の中の支出という意味ではシフトしていくという話は、これは容易に想像できるのではないかと思いますので、その額といったときに、現在の、例えば高齢者のこういう生活を前提にしたとか、肌感覚ではわかりやすいのかもわからないんですけれども、それも私はもう一度見直す必要があって、そういうようなものもある程度知りつつ、しかしそれからできるだけ中立の立場で、これこれの額とかこれぐらいの額というような額は想定すべきなのではないか。だから、そういうことを全部引きずりながら、何事も司法によってすべからくとは申しません。私は、そもそも、すべからく司法によって解決されるべき社会というのも、私自身は余り望んでいる社会像ではないからです。しかし、それに委ねなくてはいけないものは委ねるべきだと思っていますので、その場合には、そういう方向に社会が動いていくべきであり、そうであれば、それに必要な資源を、個々が、時間であり、労力であり、金銭的な資源であり、訴訟の方へ傾けていくだろう。当然それを覚悟の上でそちらの方向を選んでいくのではないかなと思っています。だから、そういうことも前提にもっていないと、現在の金銭感覚を引きずるだけで議論をし終えたというのは、やはり不自然だという気がしております。
【長谷川委員】 やはり、それは、企業人的な発想と私には聞こえます。企業では、通信費だって交通費だって全部経費で処理し、そうしたことが会社の収支となると思うんですけれども、一般の生活者にとって、弁護士料の負担と、電話とか通信費を税務上の支出と考える会社人とは違いがあるんです。そうした費用を使うというようなことを、一般の生活者は、企業のように計算はするというような税務上の対処はないんです。先ほど三輪委員がおっしゃっていることを伺っていても、やはり、何か専門家として関わっている中での発想と私には聞こえるんです。今、国民のアクセスについて考えているんだと思うときに、グループや企業とかは、個人と違うと思うわけです。国民のアクセスというようなレベルでいくと、ここにいらっしゃる方々の発言は、とても専門家的過ぎると思うんです。もっと本当は普通の生活者というようなところから意見を吸い上げていかなければ、ここで求められている意味でのアクセスというのは解決しないんだろうと思うんです。企業人であったり、専門家であったりというところと、一般の生活者と随分と距離ができている時代だなということを、実際、自分の仕事を通しても感じています。そこのところがなかなか見えてこないで議論をしていることになる。職業を通して裁判の専門家ということで自信があられる発言と三輪委員のお話を伺いました。専門家の意見というように聞いておりましたけれども、どうも、普通の一般生活者のアクセスのレベルと違いすぎるという感想は抱きました。今の藤原委員のお話も、そういう感想を抱いております。
【亀井委員】 藤原委員のお考えは、両方の解釈ができると思うんです。今、失業率5%で200万円年収、300万円年収ということがさんざん言われている時代です。やはり、庶民の生活は悪化していると思うんです。特に、中間層ほど、住宅ローンを抱えて教育資金にお金がかかるんです。ということは、個人消費にかける能力というのは、どんどん減っているだろうと思わざるを得ないんです。私どもが依頼者と接すると、本当にそう思います。自分のトラブル解決のために、トラブル解決費用をかけるのはやむを得ないというところまで少しずつ進んできています。だけれども、もし負けた場合に相手方の費用まで負担させられるというところまで、市民感覚がまだ移っていないと私は思っています。
【長谷部委員】 もともと長谷川委員が問題を提起されて、座長からも御提示があった敗訴者負担が適する事件とは一体何があるのだろうかということですが、まず前提として、私も、敗訴者負担制度が万能だとは思っていないわけで、弊害もあるだろうと思うのですが、そうかと言って、では全然利益がない制度なのかということはないはずです。
何のために敗訴者負担制度ということが言われるかと言えば、自分が弁護士費用を投じて権利を実現しようとして、実際勝ったのに、それに費やした費用を回収することができないのは、その人にとっても酷だろうということがあると思うのです。典型的な例としては、先ほど飛田委員からもいろいろ具体例が出た中にもありましたが、環境を保護するための差止請求訴訟などの場合には、たとえ勝ったとしても、損害賠償か何かを併合していない限りは、何の利益も入ってこないわけです。だから、結局、敗訴者負担でなければ、各自負担であれば、自分でそれは持たなければならない。それから、損害賠償請求であっても、少額訴訟はまた別ですが、少額訴訟をちょっと超えるぐらいで、実際に弁護士の関与も必要な事件で、だけれども、弁護士費用を払ってしまうとほとんど残らないというような事件類型というのは、各自負担ではまずいだろうということがあると思います。
今まで、何で日本が各自負担でやってきたかと言うと、アクセス保障のために、積極的に各自負担をやってきたということではなくて、弁護士費用が必要経費だという意識がなかったから、それをどうしようかという発想がなくて、そのままずるずる来ていたというところがあるわけで、これも実際、必要経費であるにもかかわらず、それが相手方から取れないことによって、そういった人たちが、実際は訴訟をしても、余り利益を受けることがなくなってしまう。それでは気の毒ではないかということは、それはあると思うのです。ですから、そういう場合、今までも随分苦労して、労働事件などで、弁護士はだめだとおっしゃったけれども、やってみようということで訴えを提起したら、たまたま勝ったという、そういう方が、敗訴者負担でなくて、相手から弁護士費用を回収できなくていいのかという気がするのです。
【亀井委員】 長谷部委員のお言葉ですが、差止請求というのは、この大気汚染の実例を見ても、ほとんど原告が勝っていないんです。本当にたまたま勝ったということしかないんです。結果的に勝ったときは、ほしいと皆さん思うのが人情でしょうけれども、裁判を起こすときに、判例を見たらば、ほとんど負けているのに大した利益もない、差止めをやるというのはものすごい躊躇がある。だから差止請求の裁判自体もそんなに多くないんです。結果的に言えば、おっしゃるとおりなんですが、裁判を起こす前にどうなのかということになると、司法アクセスを阻害することになるだろうと思います。それから、先ほどから費用研であれだけいろんな理屈が論じられていて、それでこの審議会意見書は司法アクセス、気楽に裁判を起こせるための制度というように理解しています。審議会意見書がそれを言っているということを、私はもう一度言っておきたいと思います。
【藤原委員】 今のお言葉で、「気楽に」というのは、私はとても引っかかるんです。裁判というのは、当事者が気楽であるという人は全然なくて、正当に裁判を受ける権利を有しているわけだから、それに委ねる。だけれども、それに至るまでは気楽に行ってやってみようかという話ではとてもないだろうし、第一、そのためには余りにも有効な資源が使われ過ぎると私は思いますので、アクセスをよくする、高めるというときに、気楽にとか、手軽にとかというような言葉は、私は一切不釣合いのような気がしているんです。それよりも、むしろ、必要な不可欠な立場にいる人が、自己でなるべく自助努力をして情報も集め、いろいろした結果行くところであって、そういう意味では、まさに濫訴なり、成熟していないケースというものが持ち込まれるということがいい社会であるかと言うと、そうは思いません。
【亀井委員】 今の日本が、余りにも裁判が少ないんです。だから、私ども、依頼者に、気楽に、気軽に、という言葉をかけて、それで裁判をしやすい環境をつくろうとしています。「気楽に」が悪ければ、「気軽に」でもいいけれども、今は、とにかく裁判を起こすということを、私ども一生懸命運動を進めているところです。アメリカの訴訟社会とは違うし、濫訴を言う状況ではないんです。若干の不当訴訟というのがあるのは、私どももわかっています。その一番の被害者は、弁護士であり、裁判官だろうとも思っています。ところが、普通の事件は、起こすべきものが起こされていないんです。だから、私どもが、気楽に裁判をやってみましょうという声をかけざるを得ないというのが今の社会の実情なので、アメリカの社会とか欧米、ヨーロッパの社会とは全く違うんです。日本では、行政訴訟も2,000件弱です。ドイツなんかでは60万件ぐらいあります。労働訴訟も、日本では2,000件あるかないかだと思いますが、ドイツでは60万件とか聞いています。そういう社会というのは、日本は全く違うんです。気楽に気軽にとかけ声をかけて、一生懸命、今は裁判をしましょうと言っている時代です。
【飛田委員】 皆様の御議論を伺いながら思いましたが、必要経費というお言葉で、どれだけ社会の中に、必要経費だと思いますかと言ったときに、例えばアンケート調査でも面接調査でもしたときに、どれくらいの方が反応されるかということは、私にはよくわかりません。ですけれども、ここでこれから先、この議論を進めていく場合に、推進本部に寄せられているいろいろな御意見があります。まだ5,000には達していなかったと思いましたけれども、4,500とか相当数、これはさまざまな問題に対する御意見ですから、アクセス検討会に関係のあるものだけではないわけですけれども、その中のアクセス検討会に寄せられている外からの御意見の内容がどういうものであったかということなども、必要経費と考えるかどうかということを知る、1つの手がかりになるのではないかと私は思います。
それから、長年、私、運動に関わってまいりましたけれども、その中で調査をするという、調査を企画し実施するということを主にやってまいりました。今回のこの問題も、できれば調査ができたらいいということを長年の経験から思った次第ですが、とてもとても、弁護士報酬の敗訴者負担についてどう思いますかということを、今、一般の生活者に向かって発せられる状況ではないと思います。ここにおられる皆さんはプロフェッショナルな方が多いですから、私はそういう意味でのプロではありませんので、感覚的なものは一般の方々と多分近いだろうと思うんですけれども、調査もできない、まだまだそういう意味では、これから教育も盛んにしていただきたいし、若い人たちにはもっと身近なものに考えていってもらいたいと思いますから、今、本部が立ち上がって一歩を踏み出したときだと思いますので、そういう意味での流れを、よく今一度考えてみる必要があるのではないかと思いました。
【始関委員】 司法ネットの関係で、次回、もう少し考え方を整理して突っ込んだ資料を事務局でつくっていただけるという話だったと思いますが、この弁護士報酬の敗訴者負担の問題の方も、先ほど口頭で、座長の方から、これは一応議論がされていて、これはまだということをおっしゃっていただきましたが、分厚い資料4はいただいていますが、出た順番にずらっと並んでいて、どうなっているのかよくわからないところがあるものですから、どれが議論されていて、どれが概ね皆さんの意見は一致しているか、ぱっと1枚紙か何かで見て、今、ここを議論するんだということが、みんなで議論するときにしやすいような資料を出していただくようなことはできないものでしょうか。この検討会の内外でいろいろ御意見が分かれているために、事務局が非常に気を使っておられるということはよくわかりますが、そのために、かえって、みんなで議論しているときに、ある人はAのことを念頭に置いて話しているのに、ある人はBを念頭に置いて話していて、ちょっとかみ合わないようなところがどうしても出てしまうので、そういう工夫をしていただけるとありがたいと思うのですが。