【高橋座長】 次の議題の「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて」に移ります。まず、事務局から資料の説明をお願いいたします。
【小林参事官】 前回の検討会での委員からの御指摘も踏まえまして、資料2、「これまでの議論の概要(今後の検討の参考資料)」ということで、これまでの議論の概要をまとめた資料を今回提出しています。この資料2は、4ページ以降に具体的な訴訟のイメージを示しています。更に今後検討していただくに当たっては、具体的な訴訟における当事者の状況なども参考にしていただければと思っています。
順次、この議論の概要について御説明をしたいと思います。
1は、「弁護士報酬を敗訴者負担とする根拠等に関する議論」の部分で、掲げてありますように、アクセスという観点から勝訴の見込みの高い事案ではアクセスを拡充する効果があるのではないかという御意見がありましたし、あるいは、弁護士への報酬は訴訟をする際の必要経費的なものになっていて、訴訟費用は、今、敗訴者負担の原則になっているわけですが、その訴訟費用と同様に敗訴者負担とするのが公平であるというような御意見もありました。また、被告の方の立場から、不当な訴えの被告となった者のことを考えると、敗訴者負担とした方が公平であるとして、訴えられた被告としては必ず応訴しないと負けてしまうという応訴強制の点の御指摘があったかと思います。その次ですが、提訴した場合に相手方の弁護士報酬を負担しなければいけないという、そういった費用負担のことを考えるということが提訴を萎縮することにつながるのではないか、そのような点を検討する必要があるという御意見もありましたし、更に、政策形成型訴訟が困難になるというのは問題ではないか、政策形成に役立っている訴訟もあるのではないかと、このような御指摘がありました。
2は、「敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲やその取扱いの在り方」に関するもので、さまざまな視点があったかと思いますが、それを「A 総論」と「B 各論」に分けて記載してあります。「A 総論」のところですが、当事者の属性で分ける考え方があり得るのではないかという御指摘があったかと思います。例えば、商人であるとか個人であるとか、そういったところの違いというものも考えるべきではないだろうかという御指摘もありました。政策形成型訴訟という先ほどの問題提起に対しては、そういった訴訟を類型として定義することが制度として可能であるかどうか疑問ではないかという御意見があり、むしろ、訴訟の提起を萎縮させるおそれがある訴訟について、定型的に力の差がある当事者間の訴訟などを拾い上げていくのがよいのではないかというような御意見がありました。それから、日本弁護士連合会から意見が出されていまして、日本弁護士連合会で訴訟類型ごとに検討したものを参考にしながら検討してはどうかというような御意見もあったかと思います。
次に、各論的に、具体的にどのような訴訟類型について、敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲として検討すべきかどうかという議論です。1ページのアから3ページのキのところまで、幾つかの項目に分けてあります。
例えば、アの行政訴訟についてどうかという問題です。行政訴訟につきましては、4ページに訴訟の具体例として掲げているような事例があります。例えば、税務署に申告したけれどもそれが過少申告であった、もっと所得はあるではないかということで高い方の税金を課税される、更正決定を受けるとか、そういった課税処分を受けたときに、自分はそんなに所得はないはずだということで、課税処分の取消しを求めるといったような訴訟で「取消訴訟」と言われるようなもの、これは、行政の公権力の行使に対して争う訴訟で「抗告訴訟」とも言われますが、そのような訴訟もあります。
あるいは、土地を収用されるような場合に、収用されたときの土地の評価、その金額に不満がある。そうすると、収用することを決定するのは収用委員会であったとしても、収用して現に土地を取得するのは事業を行う起業者になりますので、その起業者に対して、その金額をもっと高額なものに変更してくれといった形で争うような訴訟で「当事者訴訟」と言われるようなものがあります。また、当事者訴訟の具体的事例としては、日本国籍があることの確認を求めるとか、公務員が給与の支払いを求めるといったようなものがあります。当事者の法律関係に関するようなものではあるが、それが行政と国民との関係の法律関係に関するような訴訟で、公権力の行使に直接関するものではない場合が当事者訴訟になります。
また、「民衆訴訟」と言われるものもありまして、4ページの訴訟の具体例として掲げてあるものではその次の事例で、例えば、「住民訴訟」と言われるようなものがあります。現在ですと、例えば、市の市長が違法な公金の支出をしたのではないかということで、そうすると、その市長は市に対して損害賠償責任を負うわけですが、市が市長に対して損害賠償を請求してくれない。これでは住民でつくっている地方自治体の財政というものが適正な管理がされない。そういった財務会計の適正さを担保するということで、住民個人が、市に対して、市長に損害賠償を請求してくれということを訴えるということで、住民訴訟ができることになっています。これは、個人の権利救済とは直結しないという意味で、誰でも訴えることができる「民衆訴訟」というような形で起こされる事例もあります。
それから、その下に掲げてあります事例は、「機関訴訟」と言われるものです。従来は機関委任事務ということで、知事が国の事務を実施するような場合がありましたが、今では法定受託事務ということになって、国の事務を県が受託しているということになっています。こういった法定受託事務の執行が法令に反するとして、主務大臣が、その事務をちゃんと執行しなさいと、まさに公権力の中での争いを解決する訴訟として、同じ公権力の中の機関同士の争いということで、「機関訴訟」と言われるようなものがあります。
このように、公権力の行使を争う「抗告訴訟」、公権力に関しない行政と国民との間の権利関係を確定するような「当事者訴訟」、あるいは民衆の一人ひとりが訴えることができる「民衆訴訟」、それから公権力の内部での「機関訴訟」、このような4つの類型があるわけです。
また1ページに戻りまして、このような行政訴訟については、現行の双方当事者が各自負担しているような現在の制度を維持して、敗訴者負担を導入すべきではないのではないかというような御意見がありました。そのような御意見の具体的な根拠としては、例えば、国には指定代理人という制度もあって、必ずしも弁護士に依頼しなくても訴訟ができるような仕組みになっているというようなこと、あるいは、特に、先ほど申し上げた抗告訴訟という公権力の行使を争うような訴訟を念頭に置きますと、国民にとっては、公権力の行使を争うには、まず課税処分なりを取り消してもらうしかなく、公権力の行使の適法性を争う唯一の手段であるということで、そのような手段を使うに当たって、政策的な配慮をすべきかどうかという問題もあるのではないかというような御指摘があったところです。
続きまして、イの労働関係訴訟です。この点については、委員からもこの検討会の中でも御指摘のあったところですが、4ページに、労働関係訴訟の例をまとめて簡単に例示してあります。例えば、会社から従業員が解雇されたという事例です。解雇されたと言っても、その解雇が適法でなければ効力はないわけですから、その解雇が適法かどうかが争われるような場合があります。従業員の方から、解雇は無効だからまだ従業員としての地位を失っていないということで、自分が従業員であるということを確認してください、そして、それまで会社が払ってくれていない賃金を遡って払ってくださいというような訴訟をするというのは、典型的によくある事例です。その次の事例は、会社と労働組合との関係です。例えば、労働組合ですとストライキをするということがあります。そういった団体行動、争議行為に関して、その争議行為が違法であるという場合には、会社に対する関係で不法行為になるのではないかということで、使用者から組合に損害賠償を求めるという事例もあります。あるいは、その下の事例は、全く逆の局面になるわけですが、組合の方が賃金を上げてくれということで団体交渉を求めたりしたときに、その団体交渉自体に使用者が不当に応じないとしますと、不当に応じないということ自体が不法行為ではないかということで、組合の方から使用者に対して損害賠償を求めるという事例もあるわけです。局面が、使用者の方から訴える場合、あるいは組合の方から訴える場合、両方あり得るというような状況になるわけです。それから、検討会では、組合同士の間でも争いになる場合があるのではないかというような御指摘もありました。
1ページに戻りまして、労働関係訴訟でどのような御指摘があったかという例示ですが、未払賃金、先ほど申し上げたような、労働者が不当に解雇され、解雇に理由がないと言って労働者が争うような場合に、労働者が勝訴する例もかなりあるのではないか、そうだとすると、せっかく訴えた人が、労働者の方で自分の弁護士報酬を負担しなければならないとするのはかえって気の毒ではないかというような御指摘もありました。他方、使用者と労働者の間の訴訟というのは、当事者間に構造的に力の格差がある訴訟であって、そういった場合について訴えの提起をなるべくしやすくするという観点からは、敗訴者負担を導入しない典型例として考えるべきではないかというような御指摘もありました。
使用者と組合との関係をどう考えるのかということについては、組合の方がある程度団結権というのを行使して組合になっているということから、バーゲニング・パワーを持っているというのをどのように考えるのかということで、その場合には敗訴者負担を導入しない範囲とはしなくてもいいのではないか、むしろ、お互いにある程度対等に交渉できるという前提の制度設計も考えるべきではないかというような御意見もありました。他方、使用者と組合の間の訴訟であっても、それをまったく対等な関係と考えるのはいかがなものかということで、やはり、先ほどの使用者と労働者のような場合だけではなくて、組合と使用者との間、会社との間の訴訟でも敗訴者負担を導入すべきではないのではないかというような御意見もありました。
それから、ウの人事訴訟です。人事訴訟と言ってもいろいろな関係、家族関係などがあります。養子の場合もあれば夫婦の場合もあり、いろいろな関係が勿論ありますが、典型的な例としては、4ページの訴訟の具体例で挙げておりますように、夫婦の間で離婚の争い、離婚をして、では子どもはどちらが引き取るか、その後の財産はどのように分けるのか、それから慰謝料はどのぐらいがいいのかということで、全体として争いになる場合というのが、離婚の裁判では多いのではないかと思われます。
このような人事訴訟については、そもそもこれらは個人の間の訴訟であって、それぞれの個人が持っているリソースというものには差はないのではないか、そのような偏りのない場合については、敗訴者負担の原則に従うべきではないのかという御意見もありました。他方で、離婚訴訟を中心とするような人事訴訟についても、諸外国、ドイツの例も挙げていますが、勝敗の見通しが付きにくい場合もあるし、敗訴者負担にすべきではないのではないかという御意見もありましたし、2ページの方に移りまして、離婚の場合に、子どもの親権者、子どもの養育は誰がするのかというようなことになると、公益的な観点が重視されるのではないかと、そういった観点も、敗訴者負担を導入しないという理由として考えるべきではないだろうかというような御意見もありました。
次に、エのところで、人的な損害を理由とする損害賠償請求という項目を掲げています。これは、日本弁護士連合会の御意見等で、例えば、公害訴訟であるとか薬害訴訟といった事例が挙げられていますが、それをもう少し全体としてとらえてみると、人の生命や身体に関わる損害の賠償を求めているものというようにも見られるものですから、そういったものを全体として考えると、人身損害という形でとらえることもできるのではないかということです。具体的にどのような事例があり得るかといいますと、4ページに挙げてありますが、この検討会でも議論されたように、裁判所で一番日常的な事例と申しますと、やはり交通事故ではないかと思います。つまり、交通事故で被害者が加害者に対して損害の賠償を求める、あるいは、併せて保険会社に対して請求するというような事例、そういった交通事故のけがによる損害の回復を求める場合です。それから、この事例としては、薬害訴訟や公害訴訟というものもありまして、例えば、道路を車が通ったことによる粉じん等による大気汚染によって体を壊した、あるいは亡くなったというようなことで損害賠償を請求している事例は結構あります。また、薬の副作用による事件というものもありまして、本来は、何かの病気を治そうと思って薬を飲むのですが、その薬の効果よりも副作用の方が現れてしまって、その副作用についてきちんとした告知がなかったとか、薬の使い方のところにきちんと表示していないということで、それによって損害賠償を請求するというような場合もあります。あるいは、欠陥商品、これは、製造物責任のときにいろいろな場合が問題になりましたが、テレビを使っていたらテレビから火が出て火事になったりしたような場合、商品を使っていて、その使い方の説明が十分でなくてけがをしてしまったというような場合、そういったときに、そのけがや、亡くなったりしたようなときの損害賠償請求がされるという事例があります。そのような場合をどのように考えるのかというような問題があります。
2ページに戻りまして、これらの問題についての検討会での議論の状況ですが、特に公害訴訟というのは、典型的には事業者の事業活動に伴って生ずる個人の被害ではないだろうか、そういったところにも着目すべきではないかという御意見がありました。それから、紛争の性質上、公害に当たるかどうか、それについて事業者の方が責任があるのかどうかという問題はなかなかわかりにくい中で個人が訴えなければいけない場合があるのではないか、そういったことを考えると、弁護士報酬の敗訴者負担を予定しながら訴えを提起するということでは、裁判をすることはできないのではないか、そういうおそれがあるということから敗訴者負担を導入すべきではないというような御意見もありました。一方では、公害訴訟であるというような類型だけから、勝訴するかどうかがわからないということがそもそも一概に言えるのかどうか、それから、勝訴する見込みがはっきりしているか、していないかということ自体が敗訴者負担の例外として取り扱うべきだという根拠として十分なのかどうか、そもそもそういった疑問もあるのではないかというような御意見もあったかと思います。それから、訴えを提起する必要性や正当性といった事情が敗訴者負担を導入しない理由になると考えるべきであって、勝つか負けるか分からないというだけでは根拠としては必ずしも十分ではないというような御意見もありました。また、同じ類型を取ってみても、訴える時期や社会の変化、判例の動き等によっては、勝敗の予測がつきやすくなることもあるので、単に裁判に勝てるかどうかわからないということが、結論として一概に、直線的に結びつくのかどうかという御指摘もあったかと思います。つまり、同じような類型の訴訟であっても、後の方で起こってくる訴訟であれば、むしろ敗訴者負担にした方が訴えるチャンスが増えるという場合も考えられるのではないかというような御意見もあったかと思います。そういう意味で、勝訴する見込みが付くかどうかというような視点から敗訴者負担の例外とするというものを考えるべきなのか、そうではなくて、生命身体の損害というような損害の性質に着目して、ほかの権利侵害よりも特別に高い保護の必要性があるとか、そういったような視点から敗訴者負担の例外にする理由を考えるべきではないだろうかというような、もし理由として考えるのであれば、このような視点から考えた方がいいのではないかというような御指摘もあったと思います。また、人の生命身体に関わる損害については、完全な被害回復をするという、それが社会的に求められるという、そういったことを根拠にすべきではないかというような御指摘もあったかと思います。逆に、そうすると、そのときに弁護士報酬の敗訴者負担を導入しないことが完全な被害回復につながるのか、そうではなくて、弁護士報酬の敗訴者負担を導入することの方が完全な被害回復につながるのかということは、必ずしも一概には言えないのではないかというような御意見もあったかと思います。つまり、人身損害で完全な被害回復や被害の保護の必要性というのは、敗訴者負担を導入しない根拠になるという意見もある一方で、むしろ、完全な被害回復をするためには弁護士報酬の敗訴者負担を導入すべきであって、導入の根拠になるのではないかということで、同じことが両面で評価されていて、御意見が分かれていたように思います。また、公害訴訟や薬害訴訟でも、勝訴する見込みが高ければ、敗訴者負担の方が提訴の促進につながることもあるのではないかというような御意見もありましたし、他方では、自動車保険の弁護士特約が広く普及しているというのは、弁護士の必要性が社会的に承認されているということであって、そうだとすると、弁護士報酬をなるべくその訴訟に必要な費用と認め、訴訟費用に近いものと考えて敗訴者負担にするという根拠にもなってくるのではないかという御意見もあったかと思います。
続いて、オの消費者関係訴訟のところですが、4ページで消費者関係訴訟の事例を幾つか挙げています。いろいろな場合があると思いますが、例えば、これをやったら儲かるよということで騙されて契約をしてしまうといったような詐欺的な商法というものもあろうかと思います。そのようなときに、消費者の方から、払ってしまったお金を返してくれといって訴える場合もあります。また、業者から請求されたときに、支払う約束はしたけれどもまだ払っていない段階で、業者の言っていたことは嘘ではないかと言って契約を取り消して支払いを拒んだところ、業者から訴えられて、その際に消費者側の権利を主張する場合もあります。両面があり得るかと思います。
この消費者関係訴訟については、消費者契約に関する訴訟は敗訴者負担を導入すると提訴萎縮につながるので、敗訴者負担にすべきではないという御意見がありました。しかし、例えば、信販会社が立替払いをして消費者に立替金を請求して、消費者の方が権利主張をしようとする場合に、もし敗訴者負担を適用しないと、せっかく勝訴した消費者が弁護士報酬を回収できないということになってしまうが、それでいいのだろうかというような問題提起もありました。一方で、やはり、消費者と事業者との間の契約ということで、構造的な力の格差があるということからは、敗訴者負担にしないということでいいのではないかというような御意見、敗訴者負担の適用をしない範囲とする根拠としては、消費者と事業者との間の情報格差というものを考えるべきではないかという御意見がありましたし、情報格差というものが根拠として適当かどうかは疑問ではないかという御意見もありまして、ここは両方あったように思われます。消費者契約に関して、これを敗訴者負担を適用しない根拠としては、情報の格差というものよりは、社会的に当事者の持っている、利用できる資源なりリソース、そういったものの違いが適用しない理由になると考えるべきではないかというような御意見もありました。
続いて、カの少額訴訟ですが、少額訴訟については、この検討会では、簡易裁判所の機能の拡充の観点で、これまでも御説明しているところです。法案が提出され、国会で成立しまして、今度は60万円まで上限が上がることになっております。
少額訴訟については、本来、弁護士が関与することが予定されていないということから、敗訴者負担の対象外とすべきであるという御意見があったかと思います。少額訴訟については、いろいろと議論があり得るわけですが、少額訴訟の場合は、相手方は、普通の裁判手続でやってほしいということを申し立てることができることになっていまして、少額訴訟でやろうと思っていたが普通の裁判手続になってしまうという場合もあります。少額訴訟の手続をやっている場合に限るべきなのか、普通の裁判手続に移ってしまった場合まで敗訴者負担の適用から除外してもいいのか、ここはまた論議のあるところでした。この点については、通常訴訟になってしまえば敗訴者負担が適用されるということでいいのではないかというような御意見もありました。
そのほか、キに幾つか議論の項目を挙げてあります。国家賠償請求については敗訴者負担を適用すべきではないのではないかという御意見、あるいは、行政訴訟など一定の分野では、原告が、訴えた方の側だけが自分の弁護士報酬を被告が敗訴したときに回収することができるという片面的敗訴者負担の制度、つまり、相手方、訴えられた方が勝訴しても、訴えられた方の弁護士報酬を訴えた方から回収することはできないという、ある意味で一方的、片面的な敗訴者負担制度を導入すべきであるというような御意見がありましたし、敗訴者負担を片面的に適用する制度というのは合理性がないのではないか、公益的な訴訟だからというような理由だとすると、勝訴当事者が公益のために不利益を受けるということを説明する理由が難しいのではないかという御意見もありました。また、片面的敗訴者負担制度というのは、弁護士報酬というものはそもそも訴訟に必要な費用として敗訴者に負担させることが適当だという議論があって、更にその上に、特別に片面的に原告側だけが被告側から弁護士報酬を回収することができる制度として構築することが必要だという議論の立て方になるのであって、まず、敗訴者負担制度の導入をすべきかどうか、それが適切だという議論があって初めてその先に片面的敗訴者負担制度の検討をすべきではないかというような御意見がありました。
3ページの「3 負担額の定め方」につきましては、なるべく客観的な基準で上限を画すべきであるというような御議論がありまして、その範囲内で、裁判所の判断をどの程度考慮するのか、裁判所の判断に委ねるべき部分をどのように考えるのかは今後の検討課題であるというような御意見がありました。基本的には、合理的で予測可能な額であって、訴訟提起を抑止させるような効果を持たないような額の定め方という視点で考えるべきであるという御意見がありまして、その具体的な金額については、大きな上限を決めておいて、その幅広い中で裁判所が決めるという方法は予測可能性の点で問題があるのではないか、だから、上限額もある程度、訴額や認容額の一定割合という形で客観的に決まるような額に定めておいて、具体的な額としては、法律扶助協会の支出基準による着手金程度の額を参考にすべきではないかというような御意見があったかと思います。他方で、その御意見に対しては、法律扶助協会の支出基準の着手金の額の上限の22万円程度を上限にするという考え方と、あるいは、基本的には訴額を基準として負担額を決めるべきであるが、22万円程度が上限ということでいいのかどうかはもう少し検討した方がいいのではないかというような御意見もありました。
そのほか、法律扶助制度との関係で、例えば、法律扶助の事例で訴訟に勝った場合に弁護士報酬の一部を相手方から回収することができるようになれば、それはむしろ法律扶助を促進するような、法律扶助による訴えの提起を促進するような効果があるのではないかというような御意見もありました。逆に、敗訴した場合に相手方の弁護士報酬を負担しなければならないということを前提に法律扶助をしなければいけないということになれば、弁護士報酬の敗訴者負担を前提に、勝訴の見込みのかなり高い事件に限って扶助をするということになりかねないおそれもあるという御指摘もありました。
いろいろな議論がされていまして、決してこれだけではなく、敗訴者負担を導入しない範囲というものを考えるに当たっては、もう少し理念的なところから理屈を考えるべきではないかなど、さまざまな議論もされていますが、当面、今後の検討の参考としてこれまでの概要を御紹介すると、このようなところかと思います。
【高橋座長】 ありがとうございました。ここで15分ぐらい休憩いたしましょう。これは今までの我々の議論の概要をまとめたものですから、これを踏まえて、より深い検討をしたいと思います。
(休 憩)
【高橋座長】 再開いたします。私どもがこれまで議論してきたことは、概要は資料2でまとめていただいたということですが、振り返ってみて、何か御意見、御感想がありましたらどうぞ。
【藤原委員】 その前に、7月30日の顧問会議の議事概要の6ページの真ん中辺りに、佐藤座長の御説明が出ています。公平を保ちつつ、しかしながら、不当に訴えの提起を萎縮させないようにする。この場合は、「アクセスの向上」すなわちというように読めばいいんですね。より公平を図るということも、アクセスの向上に資するということですね。そのように読むのですか、どう読めばいいのでしょうか。「アクセスの向上」と言ったときに、裁判に委ねる訴訟全体の数を多くするということもアクセスの向上に資するというように読めますし、より公平を担保することによって、それもアクセスを向上させる一因になるというようにも読めますが、どのように読むのでしょうか。
【小林参事官】 顧問会議において、高橋座長から、司法アクセス検討会での「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」についての検討状況について御説明をされたところ、顧問の方から、審議会意見で導入する方向でまとめた趣旨は、司法アクセス向上のためか、それとも負担の公平ということかという御質問がされました。審議会に関与されておられていたからだと思いますが、これについて、佐藤座長から、議事概要にありますように、負担の公平を図りながら、アクセスを容易にするという考えが根底にあるというような御説明がありまして、負担の公平という見地から、負担をさせるか否かということと、どの程度の額を負担させるということを判断していただきつつ、ある類型の訴訟については、敗訴者負担を導入しないことにして、不当に訴訟を萎縮させることのないようにするという二段構えになっているという御説明がされたということです。これは、審議会意見書の内容を文字どおり申し上げますと、「勝訴しても弁護士報酬を相手方から回収できないため、訴訟を回避せざるを得なかった当事者にもその負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくする見地から、一定の要件の下に弁護士報酬の一部を、訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入すべきである。この制度の設計に当たっては、上記の見地と反対に不当に訴えの提起を萎縮させないよう、これを一律に導入することなく、このような敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲、及びその取扱いの在り方、敗訴者に負担させる場合に負担させるべき額の定め方等について検討すべきである」という意見が述べられていますので、この意見の趣旨を、審議会に関与しておられた立場から、顧問会議の座長である佐藤座長から御説明があったと、この意見書を敷衍して佐藤座長が御説明になったと、私どもは理解をしています。
【飛田委員】 ただ今御説明いただきました資料2は、「これまでの議論の概要(今後の検討の参考資料)」というタイトルが付いていますが、「議論の概要」と言うには、皆さんが議論してきたことが大分落ちているように私には思えます。資料2の1の前に、弁護士報酬の敗訴者負担制度導入をめぐってとか、導入の是非についてというような議論が、非常に長時間にわたってなされていると思います。まず、導入を考えるに当たってという部分が、例えば、誰でも利用しやすい司法ということを小泉総理もおっしゃっておられるようで、そういうようなことについて話し合いをしてきたと思いますので、私は、「これまでの議論の一部より」とか、あるいは「抜粋」とか、そういうことであれば、このタイトルは納得いたしますが、このタイトルそのものにちょっと疑問を感じております。
【始関委員】 資料2は、前回私が、更に細かい議論をするためには、何かわかりやすい資料をつくっていただいて議論をするようにする必要があるのではないかということを申し上げて、無理につくっていただいたものだと理解をしています。1枚か2枚と申し上げたのが5枚になっていますが、どうしても短くしようと思うと、網羅的ではなくなります。網羅的なものは前にいただいていて、それが余りにも網羅的で何がどうなっているのかよくわからないものですから、何か要約したものをつくっていただいて議論をした方がいいのではないかということでつくっていただいたものですので、そこは事務局に無理をお願いしたわけですので、そこを御理解いただければありがたいのですが。
【飛田委員】 私の申し上げ方が、ちょっと言葉が足りなかったのかもしれません。先ほど申しましたのは、今日いただきました司法制度改革推進本部顧問会議(第12回)議事概要の2ページ目の下から7行目辺りです。「司法は高嶺の花ではなく、誰にとっても「手を伸ばせば届く存在」」という総理のお言葉があったようです。それから、今日いただいた新しいパンフレットを見ますと、「司法制度改革−より身近で、速くて、頼りがいのある司法へ−」として、表紙を見ますと、大変なごやかな、まさに家族団らんというものになっています。私は、消費者と言いましょうか、市民の立場で参加させていただいているものですから、こういうパンフレットもつくられて、目的に沿った議論でなければいけないという感を強くして、この表紙も拝見しましたが、そういうことからなんです。確かに、こういうこともお話し合いの中に入っていたと思いますが、一番重要なのは、新しく制度を変えていくということは、非常に社会にとって大きな意味を持つものでありますし、まして目的が、この「手を伸ばせば届く存在」ということにあるとすれば、一般の中で司法がどのような状況であるか、先ほどもちょっと変な御意見でしたが、その中の一部分を取らせていただいて、調査が必要ではないかと申したのは、この意見に賛同するということではなくて、つまり、それだけ国民にとって司法というのはどういう状態であるかという現状認識が重要ではないかということを申し上げたかったので、一部を、言葉だけを取り上げさせていただいたんです。ですので、これから議論を進めていく場合に、市民と司法との関係がどういう状況にあるかということから、市民がアクセスを拡充していくということにはどういう方向がいいのかということを基本に据えませんと、テクニカルな問題になっていきますと、それこそ改革ということよりも、専門家に御討議をいただいた方がいいわけで、以前、私どもが、直ちには敗訴者負担をテーマとした意識調査はできないということを申しましたのはそういうことなんです。一般の人にとって、弁護士さんが社会のお医者さんだという御議論がありますが、市民にとって、いろいろな人間の問題などを取り扱ってくださるお医者さんという前提があるとすれば、ホームドクターは存在するのかという問題があると思います。私どもの近くにも弁護士さんがお住まいになっていますが、その方はどこかにお勤めになっていらっしゃって、どういうことが専門であるかもわかりませんし、実際にホームドクターとして弁護士さんをお願いしているという市民が一体どれくらいいるのかということが、まず基本にならなければならないと思います。この制度は、弁護士報酬の敗訴者負担を考えるということですので、弁護士さんとのお付き合いの程度というもの、それから存在が、この前もお聞きしますとゼロワン地域がまだあって、一生懸命日弁連さんが寄附を募ったり、いろんなことで努力を重ねておられるという発展途上の状況にあるということも伺いましたし、そういうことを考えていきませんと、各論の方は随分御丁寧に、いろいろ具体的に、始関委員の御指摘のような形でわかりやすく書いていただいているのかもしれませんが、やはり根本的なところで、長い間いろいろ申し上げてきたことなどが抜け落ちているというのは、市民の立場の発言はもう要らないということなのか、その辺をちょっとお聞きしたいと思います。
【高橋座長】 先ほどの始関委員の御発言のとおりだと思いますが、これは別に最終まとめでもなんでもなくて、今後の検討の参考資料ですから。
【西川委員】 今の飛田委員の御指摘というのは、今日、最初にお話があった司法ネットの充実強化というところのお話だろうとお聞きしたのですが、それについては、今までの方向で拡充していこうということで、みんなの、この検討会の中での意見の取りまとめがされつつあるということだろうと思いますが、飛田委員がおっしゃるのは、敗訴者負担について、今の弁護士の状況とか、市民が弁護士とどういう関わり合いをしているのかとか、そういうことを調査しなければ議論が進まないというようなことをおっしゃっておられるのでしょうか。司法ネットの問題だろうと、私は思ったものですから。
【飛田委員】 調査というのは、どういう形をとるか、どのように活用するかということで非常に意味も違ってきますし、大変難しいものではありますけれども、制度を変えるということは、それだけメリット、デメリットというものについて慎重であらなければならないということを感じるものですから。そういうことから考えますと、弁護士報酬の敗訴者負担、これから私たちが弁護士さんたちに相談をしていき、また、あるいは、司法ネットを活用して何か問題に直面したときに、より事態は深刻化させずに、皆が暮らしやすくなるような形をとっていくのが一番だろうと思います。それで、弁護士さんが社会の中で重要な役割を担っていただくためには、この制度を考えていくときに、弁護士さんの置かれている状況、それから私たち一般の、余り専門的なことがわからない者と弁護士さんとの日常的なお付き合いの状況、それから、裁判を起こしている人たちが既にいるわけですけれども、そういう一般の人たちの置かれている状況、とても厳しいという話などもよく耳にしたりするものですから、現在の市民と司法との関係というのは、2割かどうかは別としまして、それほどうまく適合していないから、これから先、より社会を発展させていく必要があるという認識に立っております。
【亀井委員】 司法ネットから一連の制度で司法への窓口を広げて、それでやっと弁護士にたどり着いた。今度は、そこで裁判を起こしやすいかどうか、司法へのアクセスをどう改善するかということが問題になるだろうと思います。そういう意味では、一連の司法アクセスという考え方でずっとつながっているわけです。そういう意味から言えば、司法ネットで一生懸命相談窓口を広げて、ポイントを増やして、市民が気軽に相談できる制度になって、今度は裁判への窓口というのが狭められないように、司法アクセス拡充に寄与するような弁護士費用敗訴者負担を考えていこうということなのではないでしょうか。私も、そのように理解していますが。
【始関委員】 今日、資料3として、日本弁護士連合会から非常に詳しい意見書をいただいていて、その最後の19ページに、審議の在り方についての御提言が書いてありますが、結構いいことが書いてあると思いました。
まず、第6の2のところで、類型別による議論をしてきて方向性がある程度出つつあると、ここに書いてあるとおりに出ているのかどうか、今日の資料2と若干違うところもあろうかと思いますが、いずれにしても、せっかくここまで議論をしてきて、それを更に検討して、導入すべきもの、すべきでないものを明確にしていくべきだということは、そうすることによって、飛田委員がおっしゃっておられるような不安も解消されていくのではないかという気もいたします。せっかく資料2もつくっていただいていますし、更に、今回は、訴訟の具体例も挙げていただいています。これを見ると、今までの議論はやや大ざっぱ過ぎたと思うようなところもないわけでもないので、そこを一つ一つ、行政訴訟から順次確認できるものは確認し、もう少し細かく議論をすべきところはするような形で進めていただいて、それからその後に、また資料3に戻りますが、個人対個人の訴訟、事業者間の訴訟についてもう少し突っ込んだ、言わばこの資料2でいうと属性で分けるという考え方になるのかもしれませんが、もう少し突っ込んで議論をする必要があるという御指摘をいただいておりますが、私もそれはそのとおりだと思っているものですから。
審議の進め方を申し上げて僭越ですが、まずはこの資料2で書いていただいている各論に挙がっている訴訟類型を一つ一つ更に議論をしていただいて、詰まっているところもあると思いますし、意見が分かれていることがはっきり書かれているところもありますので、どこまで詰められるのかはわかりませんが、もう少し、少しずつ、ひとつひとつ議論をしていただいて、更に個人対個人、事業者間の訴訟についてどう考えるかというような順序で議論をしていったらいかがでしょうか。
【長谷部委員】 基本的に、始関委員がただ今おっしゃったことに同感でして、この資料2を基にして、更に議論を詰めていくということになるかと思いますが、その場合に、先ほど飛田委員が重要な御指摘をされたと思います。現在の司法アクセスの状況、あるいは、一般市民が弁護士さんに対してどうアクセスを確保されているのか、されていないのかという現状認識をしっかりするべきであると、これは大変重要な御指摘であると思います。しかしながら、改革は、確かに余り拙速はいけないとは思いますが、さりとて、現状のまま進むという前提で議論していきますと、結局、何も変わらないということになるわけです。今までは、確かに、弁護士人口が少なかったわけですし、法律扶助制度も必ずしも充実していなかった、−−今後も拡充していかなければいけない状況にありますが、−−そういった状況の下で、この費用の負担というのは非常に重いものがあったかと思いますし、また、弁護士の費用の状況がどうかということも、一般の人にはまだ知られていなかった部分が多かったと思いますが、今後は、報酬に関する透明化ということも進められていくわけですし、費用が提訴を萎縮するかどうかというのも、今までとは大分変わってくる可能性があるのではないか、一歩先を見た上で議論を進めていくべきではないかということが1つです。
もう1つは、現状認識ということでいえば、更にこの議論を詰めていく段階で、少し具体的に事例を挙げていただけると大変よいと思いますし、いろいろ議論をする過程で、例えば、それぞれの事件類型において現在どのような報酬制度が取られているのかということは、なかなかよくわからないところがあるのですが、そういったことを必要に応じて提供していただければ、更に議論が進むのではないかという気がいたします。なぜこのようなことを申し上げるかといいますと、敗訴者負担が非常に提訴萎縮になるのではないかと、欧米においてはいろいろ弊害があるではないかというように言われているときの、向こうの弁護士報酬制度が、我が国とは大分違っているということの認識が必ずしも十分でないままに、敗訴者負担だと必ず、例えば相手方から取れる金額は膨大なものになる、あるいは取られる金額は膨大なものになってしまうというような、若干誇張されたようなことが言われていたかと思うのですが、我が国の場合は、時間制が、タイムチャージ制度がそれほど一般的でないところでそれほど弊害はないだろうというように期待されるわけで、そういった報酬制度の在り方というのも、現状を認識しつつ議論をしていただければと思います。
【高橋座長】 いろいろ御意見があることはよくわかりましたが、今日の作業としては、今までの議論を一歩深める形で更に御検討をいただき、その過程で、また全体的なものもフィードバックしながら議論を進めるということで進行をさせていただきたいと思いますがいかがでしょうか。これは順不同ですが、いつぞやも御議論がありましたが、我々の検討会は別に法律要綱案をつくるわけではありません。そういうものは法律の専門家に任せるという建前です。かといって、余り抽象的なことばかり議論をしているというのも、それは審議会で議論は終わっていますから、その中間ではないでしょうか。
というわけで、両方を見ながらということですが、割と現行制度の中で区分がしやすいものがありまして、我々は民事紛争の処理を考えているわけですけれども、訴訟を規律する法律が、民事訴訟法と行政事件訴訟法と人事訴訟法の3つに分かれております。ですから、我々が議論をするときに、これがどこに入るのかというところで、行政訴訟というのは、資料2の4ページ以下にあるようなものが具体例ですが、これはこれで1つの世界をつくっているわけです。裁判所が職権で証拠調べができるとか、普通の民事訴訟とは違う規律が出てきているわけです。そして、事件類型も、大体こういうものだということですが、ここは、今までは、敗訴者負担を適用しない訴訟類型の大きな1つだろうという議論でしたが、いかかでしょうか。
【始関委員】 前回議論したときは、行政訴訟ということでひとまとめで議論をして、一方は国だし、行政訴訟はここにまとめていただいているように、公権力の行使の適法性を争うという面があるから敗訴者負担にはしないということでいいのではないかというような感じだったと思いますが、今回、4つの類型の訴訟があるということをこうやって出していただきますと、今まで我々が念頭に置いて議論をしたのは、抗告訴訟といいますか、行政処分の取消訴訟だったと思いますが、先ほども小林参事官から御説明がありましたように、当事者訴訟というものが、形は行政処分が間に挟まるのですが、訴訟自体は、普通の民事訴訟と同じように、利害関係者同士で争って行政庁は関係しない。そうすると、これは普通の行政訴訟とは別に考える余地もあるのかもしれない。むしろ、普通の民事訴訟における事業者対個人とか、あるいは個人対個人になることもあるでしょうし、事業者対事業者になる場合もある。それと何か非常に似通っているのではないかという気もいたしまして、ちょっと別に、これだけは切り分けて議論をした方がいいのではないかという気がします。
民衆訴訟は、これはまさしく客観訴訟とも呼ばれるように、個人の利益を図るためではなくて、不正な行為が行われているのでそれを是正してくれという市民の権利ですから、これはこの間議論したような、例外にすべきだという議論が一番当てはまるのではないかという感じがいたします。
もう1つ、ちょっとよくわからないのですが、機関訴訟というのは、公権力内部のもの同士の争いというように先ほど御説明いただいたわけですけれども、国と地方公共団体で争うという場面、あるいは地方公共団体と地方公共団体というのもあるのでしょうか。これは、当事者対等論とかそういう議論で物事を考えると、国と公共団体というのは、対等な形になるようにずっと改正されてきているわけですので、少なくとも、我々が前に考えていた国対個人のようなものとは全然違うので、そこをどう考えるか、皆様方の御意見を伺いたいと思いました。
【亀井委員】 余り細かく類型を区分けするというのは、かなり厳しいと思います。ですから、行政訴訟というジャンルで、導入すべきでないということでくくるしかないだろうと思います。ただ、私どもが考えているのは、この中で、特に、国対個人の場合には片面的な敗訴者負担を適用してほしいということを申し上げているわけです。国対個人の行政訴訟は、現実には国の場合はほとんど指定代理人ですから、現実的には片面的な敗訴者負担になるのでしょうが、自治体の場合は弁護士が出てくることが現実に多いので、やはり敗訴者負担という問題が出てきますので、自治体相手の場合でも、敗訴者負担は片面的な形を取るべきだろうと思います。外国でも、オランダでは、行政訴訟は片面的という規定が行政訴訟法の中にありますし、ドイツでは全部指定代理人なので、現実的には片面的になっているということです。フランスでも、行政訴訟は一切、裁量の余地が裁判官にはありますので、敗訴者負担は採用していない、各自負担でやっていると聞いています。
【西川委員】 今日は、日本弁護士連合会の意見が資料3として配布されています。恐らく、今回のパブリックコメントに対しては、多くのところから意見が出されている中で、どうして日弁連の意見だけがここに配布されているのかはわかりませんが、日本経済団体連合会等も、日本弁護士連合会と同じように、敗訴者負担についてコメントをしているわけです。その中で、片面的敗訴者負担制度については、今、亀井委員が片面的敗訴者負担のことを言われたと思いますが、それにつきましては、日本経済団体連合会といたしましては、「なお、検討会では、訴訟上弱者・強者があるとする考え方から、「片面的敗訴者負担制度」を支持する意見があるが、同制度の導入は、今般の司法制度改革の基本となる「自己責任」の原則に反する。また、同制度には、不当な訴訟提起に対する歯止めをなくす、勝訴者が訴訟に要した費用を十分に回収できないという弊害も考えられる。このような当事者間の情報力や交渉力の格差に起因する問題については、製造物責任法や消費者契約法等のように立法的解決に委ねるべきである」というようなことを述べております。一方、各企業の法務部門の団体であります経営法友会も、「当事者を「強者」「弱者」に外観のみからデフォルメし、手続を画一的に規定する手法は、裁判制度の公正さを損ない適切ではない」ということで、片面的敗訴者負担制度の導入については反対しています。
その前に、まず両面的敗訴者負担制度をどういう範囲のものを適用除外とするのかということを議論することが先決ではないかと、こう思うのでありまして、今、亀井委員から片面的敗訴者負担制度の話が出ましたが、それは議論は後でということではいかがでしょうか。
【亀井委員】 そうですね、後でしてくださるのなら、それはそれで結構です。
【高橋座長】 ありがとうございます。行政訴訟の話に戻りますが、当事者訴訟や機関訴訟、私も機関訴訟というのは30年前に習いましたが、余り実際の例が多くないというように承知しておりますので、そういうところは最終的な立案当局の方にお任せして、ここではものの考え方を行政訴訟に即してということで行きたいと思います。
今のお話の中にも2つの要素があるように思います。指定代理人という、これはまたちょっとテクニカルな話で、要するに、政府はそれ自身の職員の中に専門家がいて、外部の弁護士に頼むわけではないという指定代理人制度ということが1つのポイントで、もう1つは、公権力の行使というポイントです。
まず、指定代理人という制度は、これは現在ありますが、将来どうなるかはわからないと言っては失礼なのかもしれませんが、ややちょっと特殊な制度ではありますし、また、亀井委員が御指摘のように、自治体の場合は、制度はあることはあるのですが、国ほど一般的ではないということですね。指定代理人があるから云々というような議論は、余りにもテクニカルという感じはしますが、いかがなものでしょうか。
【山本委員】 指定代理人を云々するのは、やはり適当ではないと思います。既に議論をしていますように、萎縮効果がある場合と、むしろ促進効果がある場合と、いろいろな場合があるということを前提にして、その萎縮効果があることをどれだけ重視すべきかという議論の仕方をここではすべきであろうと思いまして、もう1つの理由である公権力の行使を争う、ほぼ唯一の最終的なアルティマレシオですので、それに対して萎縮効果を与えることがあり得るということはいかがなものかということで考えるべきであるし、逆に、国が国民に対して行政訴訟を起こすということはないわけで、行政訴訟にはならないわけですから、そういう構造的な片面性というものもありますので、その辺りをベースに考えていくということでいかがでしょうか。
【飛田委員】 行政訴訟につきましては、特に片面的な制度につきましては、行政の行為というのが無謬性といったらいいんでしょうか、間違いがないという前提に立つかどうかということにかかっているのではないかと思います。考え方はいろいろあるのではないかと思いますが、実際の導入の仕方にも多様な裁判の訴えの内容があって、それぞれを見分けていかなければいけないのかもしれませんけれども、行政側に間違いがあった場合には、やはり片面的な敗訴者負担制度の導入というものが認められている方が社会が健全になるのではないかという気がします。そういう言い方は非常にあいまいな言い方かもしれませんが、よきオンブズマンみたいな市民が、特に自治体レベルの問題などもそうだと思いますが、よきオンブズマンにならなければならないということが、まだいっぱい、これから、特に地方に権限が移ってくるということになりますと、増えてくるのではないかという気がするものですから、時代の流れから考えますと、やはり、敗訴者負担制度の一般的な導入は勿論問題があり、片面的な制度の導入というものの役割というものもあるように思います。
【高橋座長】 片面的なことはまた後でということで、先ほど整理させていただきましたが。
【山本委員】 私が構造的に片面的だというのは、とりわけ、典型的取消訴訟の場合ですが、取消訴訟の場合は取り消されない限り行政処分は有効だということが前提になっていますので、国の方から、私はこの取消処分は有効だということを、訴訟を起こさなくても済むということを申し上げているわけです。ということですので、やはり、そこのスタンスの違いがあるから、敗訴者負担にするのは適当ではない。つまり、国民の側は必ず起こさざるを得ないということから敗訴者負担にすべきではないという話をしただけでありまして、私は、現行法どおりでいいということを申し上げたつもりです。
【高橋座長】 ちょっと議論の整理で確認させていただきますが、公権力の行使のチェックのためだから敗訴者負担を導入しない訴訟類型にしたいと、こういう御意見がありますが、実際の事件を見ますと、例えば、大きな銀行が、法人税について、銀行から見れば違法な賦課処分を課せられたから取消しを求めると、こういうものも入ってきてしまうことになります。そして、ここを分けるというのも、また御意見を伺っていきますが、分けるのは、多分、技術的には難しいでしょう。そうすると、言葉尻をとらえて恐縮ですが、市民がとおっしゃいましたが、企業は市民に入るのか入らないのかよくわかりませんが、通常の言葉としては入らないと思います。企業も、大、中、小があるのでしょうが、大企業が起こすような行政訴訟も、敗訴者負担を適用しない領域だと、それが積極的にいいかどうかはともかく、それもやむを得ないという御意見でしょうか。
【亀井委員】 それで結構だと思います。最高裁で出している裁判所データブックによると、行政訴訟は、平成14年で2,300 件で、少しずつ増えてきています。いろいろと市民オンブズマンなど、銀行までも起こすというのは画期的なことだと、私は思います。行政に対するチェックですから、原告はどういう人でもいいのだろうと思います。
【高橋座長】 先ほど、長谷部委員も言われましたが、我々の検討会の横並びの方で行政訴訟検討会もありますから、増える方向であることは間違いありません。そうしますと、繰り返しになりますけれども、機関訴訟がいいかどうかはともかく、その辺りは最終的に立案当局にお任せしますが、住民訴訟については、先ほど始関委員は、これは敗訴者負担を適用しないことでいいのではないかということでしたが、いかがでしょうか。
【山本委員】 それは全く同感で、まさにこの場合こそ、敗訴者負担が適当ではない典型例ではないでしょうか。少額訴訟と並んで、最も説明しやすいところではないかと思います。
【長谷部委員】 1点だけ確認ですが、抗告訴訟に関しては、仮に訴えを提起して勝訴したとしても、経済的利益が入るわけではないんです。敗訴者負担を導入しないとすると、各自負担ですと当事者の持ち出しということになるわけですが、それでよろしいのかどうかということだけ確認させていただければと思うのですが。
【亀井委員】 私は、それでいいと思います。裁判を起こすときに、行政訴訟というのは、本当に勝つかどうかわからないで起こすわけですから、自分の費用は自分でということで覚悟して皆さん起こしているので、これは各自負担の原則でいいと思います。
【長谷部委員】 ちなみに、どのぐらいの御負担になっているのかということをちょっと伺えればと思うのですが。
【亀井委員】 実際、課税処分の取消しなどは経済力がある方でしょうから、割と高いと思いますが、一般的に、行政訴訟、私たちが経験しているような取消訴訟というのは、貧困に近い方が多いわけです。例えば、在留権を求めて強制退去の取消しを求めるとか、大変な貧困の方が多いわけです。それから、私の経験では、課税処分は、意外と自営業者、中小企業が多いんです。例えば、経費の扱い方の問題、感覚の違いとよく新聞にも出ていますが、実際にその辺りの問題があって、推計課税で、しかも中小の方はきちんと領収書等を取っていないことが多くて、結局、推計課税で課税処分がされて、その取消しというものがあります。ですから、事業者の場合でも、かなり厳しい方たちが多いんです。そういう意味からいうと、そんなに高くは取っていないと思います。中小企業の方の場合は、本当に30万円ぐらいで大体やっているというのが、経験上、私の感覚です。
【山本委員】 訴状に貼付すべき印紙との関係で、基本的に、行政抗告訴訟は、最近の判例で、課税訴訟の場合はちょっと別でしょうが、評価不能だということになっていますので、訴額連動方式で敗訴者負担制度を組んだ場合には、回復といっても大したことはないわけです。課税処分を争う場合は残りますが、そこは一応、ネグってもいい理由の1つにはなるのではないかと思います。
【高橋座長】 それでは労働関係訴訟ですが、先ほどちょっと申しましたことに関係しますけれども、一部の学者がおっしゃっているドイツではというのは、ドイツでは労働訴訟は独特の訴訟法がありまして、これは切り分けしやすいのですが、日本だと一般の民事訴訟になります。
労働関係訴訟につきましては、今までの私どもの議論ですと、当事者の力の格差という理由から、敗訴者負担を適用しないという議論がありましたが、いかがでしょうか。
【亀井委員】 これも裁判所データブックを見たら、平成14年に2,300件となっています。日本に5,300万人の労働者がいるという中で、それはやはり少ない。相談は多いと聞いています。労政事務所などの相談が数十万件、今あるそうです。ただ、それが司法に結び付かないということだろうと思います。そういう意味では、1つには、やはり資力がなくてたどり着けないということも多いだろうし、どこへ行っていいかわからないというのもかなり多いだろうと思います。そういう中で、司法アクセスに寄与するということから言えば、これも各自負担でやるということしかないと思います。
こういう事件は、労働弁護団の方たちがかなりやっています。そういうところでは、最初はほとんど実費程度しかいただかないでやっているということです。ですから、相手方の弁護士費用を、負けたのを弁護士が持つわけにはいきませんから、ではそれは持ちなさいねということはとても言えません。そうなったらば、裁判やめますということになるだろうと思いますので、やはり、司法アクセスに寄与するためには、各自負担でやるべきだろうと思います。
それから、この前、組合と企業というのは法体系上は対等になっているということでしたが、現実には全く対等にはなっていないわけですし、今、本当に労働組合の力は弱い時代ですし、これも、同じような個人、企業との争いと同じように、組合の関与する事件でも、すべて各自負担ということで考えています。
【高橋座長】 ここはもう少し御議論をいただきたいのですが、今日の資料2にもありますが、現時点で結構多いのは、未払賃金の取り戻しといいますか、払えという訴訟で、これは結構原告が勝つというお話もありましたが。
【亀井委員】 大企業ならば、未払賃金といっても、計算上すぐにわかるわけです。何か月分滞納、残業代も幾ら滞納というのはすぐに出てくるのかもしれませんが、小さいところではそうではありません。しかも、今、いろいろな労働体系があって、正社員ではない人たちもいっぱいいるわけです。そういう人たちが一体何時間働いたのか、一体幾らなのかということすら証明することがなかなか難しくて、裁判はそう簡単ではありません。やはり、かなり長期間にわたって辞めた従業員を訪ね歩いて、テープを取って、証拠をつくったりという作業の果てに、勝つということもあるし、それでも立証不可能で負けてしまう場合もありますので、絶対勝つという保証はありません。未払賃金の裁判自体が多いとは言っても、裁判を起こしてもほとんど取れないということで、裁判自体も少ないだろうと思います。それでも売掛金があるからということで、仮差押えをしてそれでやるという作業ですが、証拠上なかなか難しい部分がかなりあるようです。
【西川委員】 先ほどの行政訴訟の場合には、公権力の行使だからということでうなずける面がありますが、今、労働関係訴訟について議論をしていて、強者対弱者、お金持ち対貧乏人、こういう類型でやっていこうとされているわけですが、そういうことでやっていくと、市民同士の争いについても、所得ないしは財産が幾ら以上の人対こういう人、この場合には敗訴者負担を入れないとか、そういう議論につながりかねないと思います。貧富の問題であるとか、そういう問題は、別途の民事法律扶助等の問題であって、本件のアクセスの観点から、貧富の関係で敗訴者負担を導入しないというような議論というのが、それが一般的ということになると、すべてを律するようなことになってくるという気がするものですから、敗訴者負担を導入しない類型、それが何で本件の場合に著しくアクセスを阻害することになるのかというのは、貧富の問題ではなくて、先ほどの公権力の行使であるとか、別の理由から議論できれば、より納得感が出てくると思うのですが。
【山本委員】 顧問会議の佐藤座長がおっしゃった、公平とアクセスの関係について藤原委員から御指摘いただきましたが、私は、どうも別物だというように前から考えておりまして、アクセスの問題と公平の問題は、関連するけれども、やはり別に分けなければいけない問題だと思っています。むしろ、佐藤座長の話の中の、公平を維持するというところと関係がするのではないかというように私は思っております。つまり、なぜ労働法という法分野が成立したかというところは、支配従属関係における公平を、実質的公平を実現するために、労働法という法分野ができたわけです。もともと民法だけの、雇用だけの世界だったのが、それでは不十分だと、民法は対等なもの同士の契約を考えているのだけれども、それでは不十分だから労働法ができたというように歴史的にはなるわけですが、そこで実質的公平という形式、基本的に、非常にステレオタイプ的な言い方をしますと、両面的敗訴者負担というのは、比較的形式的平等に近い世界なんだろうと思います。その意味で、実質的平等を実現すれば片面的敗訴者負担ということになるのかもしれませんが、それにはまた問題が多いということになると、実質的な公平を労使関係で実現するのは、もはや選択肢としては各自負担しかないと、こういう形で、公平の問題としてここはとらえるべきなのではないかと私は思っております。
【亀井委員】 私の方は、貧富の差ということではなくて、司法アクセス、司法へいかにして裁判を気軽に提起できるかという、利用しやすくするかという観点から考えたいと思っています。敗訴者負担というのは、貧困者によりきつい制度です。ですから、相手方の費用まで負担するということになれば、労働者はなかなか裁判を起こしにくいというのが現実になるだろうと思います。今でさえ起こしにくいわけです。司法アクセスに寄与するには、やはり各自負担でやっていくという方がいいだろうと思います。期待するならば、片面的であれば一番いいのでしょうが。そういう意味から言えば、各自負担でやるというのがいいであろうと思っています。
【山本委員】 先ほど申し上げたことを修正させていただきますが、1つのポイントとしては、私は、公平を考えるという程度にさせていただきたい。もう1つ、アクセスの点というのも、アクセスの萎縮効といいますか、原告側の萎縮効、労働者側の萎縮効ということももう1つ考えるべきだと、今、お話を聞いて思い直しました。これはどういうことかといいますと、人身損害のところともつながるのですが、結局、生活維持と、すべての労働者が給与がなければ食べていけないとは限らないわけですが、生活の糧を賃金から得ている人が多い。その賃金に関わるような、現に未払賃金の支払いを求める訴訟もそうですし、地位確認の訴訟でも間接的にはそういう意味を持っているわけでして、そういう個人の生活維持という点に関わるような訴訟について萎縮効が働く可能性があるという点は、やはり問題ではないかという点も、1つ根拠になるのではないかと思います。
非常に専門的な話になりますが、破産法という法律がありまして、現在、法制審議会でつくった要綱を法務省の方で条文化していますが、そこにいわゆる破産免責制度というものがありまして、個人破産の場合に、破産して免責を受ければ、基本的に、今まで負っていた債務は、俗な言葉で言えばチャラになるという制度がありますが、チャラにならない債務として、雇い人の給料が挙がっています。これは現行法上もそうですが、それとともに、今度新しく、人身損害、人身侵害に基づく損害賠償請求権は、一定の場合にチャラにならない、つまり、いつまでも払い続けなければならない債務として挙げることが予定されております。それと扶養料もそうですが、この3つに共通しているのは、すべて債権者の側、権利者の側の生活を維持する手段として不可欠であるということです。こういう点に着目して、今回、現在の破産法の考え方を更に拡充をしようということを目論んでおります。そういうことでありまして、やはり、生活を維持するということに必要不可欠なものが定型的に予想される訴訟においては、萎縮効が働くことは望ましくないと、こういうくくり方ができるのではないかと私は思っております。
【始関委員】 今の山本委員のお話は、さすが理論的だなと思いましたが、そうしますと、労働組合というのはどうなるのでしょうか。
【山本委員】 私は、以前から申し上げておりますとおり、組合の方は、敗訴者負担を導入することにしてもいいと思っています。ただ、その点については、別の観点から、今のアクセス障害という点、アクセス萎縮効が非常に望ましくないという点からは説明できなくても、先ほど申しました労働法という法分野があるということにおける公平の方からは、そこはカバーできると考える余地もあるのだろうと思います。
【飛田委員】 ちょっと違った角度になるのかもしれませんが、厚生労働省の方のお話を伺う機会がありましたが、サービス残業が蔓延していて、それを一生懸命調べているけれども追いつかないというような悲鳴を上げていらっしゃるんです。未払賃金ということにもつながってくる可能性のある問題だと思いまして、その話を伺ったのはまだ最近のことですが、そういう社会の実態があります。今の御議論の対象になっている、組合の力をどう評価するかという問題とはちょっとかみ合いませんが、そこでは零細企業のみがそうであるというような説明ではなかったものですから、その辺のところを考慮していく必要もあるのではないかという気がいたしました。
【高橋座長】 単なる力の格差とか貧富の差とかということではなく、それが生活の基盤に直接関わるものだからだという視点を今日いただきました。これで1つの要素になりますね。それで、既に御指摘のように、そういう切り口でいくと、やはり、組合対使用者側の訴訟は、その角度では間接的になりますね、ちょっと遠くなるので、そこは、両論あるということですね。
【亀井委員】 司法アクセスに寄与するという観点も、だから必要なんだと思っています。組合が企業に対して裁判を起こすというのは、例えば、損害賠償とかそういう問題だろうと思います。その場合に、組合が負けて企業側の弁護士費用を払うかもしれないということであれば、裁判は萎縮効果があるのは当たり前の話ですから、これは各自負担でということでお願いします。
【高橋座長】 萎縮効果に配慮しなければいけないのですが、萎縮効果だけですとちょっと論拠が弱いのではないかという印象を受けますが。
【亀井委員】 司法アクセスに拡充するための制度として考えるというのが基本ですから、その意味からいえば、司法アクセスになるかどうかという観点で考えたら、当然当たると思います。
【藤原委員】 大変、初歩的なところで疑問を挟むのでお許しいただきたいのです。今までのいろいろな議論を聞いておりまして、特に、萎縮効果があるか否かといったときに、その背後にある認識が、そもそも裁判をやむを得ず起こさなくてはならない、訴えを起こさなくてはならない方の立場が弱く、なおかつ経済力が低い、弱いがために、ともすれば正当な弁護士の費用すら支払えないので、大変少額な弁護士費用でもって弁護士の方が引き受けていらっしゃるという現状だということです。多分、それが多くの場合なのか、少ない場合なのか、それはわかりませんが、現状の一部であることは多分事実であろうと思います。ですから、ことあるごとに、そのような表現なり言及がなされるのだと思いますが、そういうことに関して、それでもなおかつ公平に、弁護士の方の中でそういうことを厭わずにやってくださる方を探して、なおかつその費用内で、あるいはその人たちの犠牲なり善意なりというようなものをベースにしたことが、本当に司法アクセスを担保できるようなものなのかどうかというのが、とても私は疑問です。現在はそういうふうにやってくださっている、あるいはやっていらっしゃる方が少なくともおられることは、私は全く疑っているわけではないのですが、そういう制度自体で、そしてそこでこうなると一遍にそれを萎縮してしまうからということで、本当に制度としてロバストになっているのか、きちっとした制度を担保できる一歩を踏み出しているのかどうかというのは、私はそもそもすごく疑問です。
そういうことも含めて勝ち負けが決まった時点で、あるところまでは今の場合でも回収できる、労働関係訴訟においても勝った、あるいは勝つ可能性が高い、あるいは勝つ可能性を高めるためには必要不可欠なノウハウなり、専門性として必ず弁護士、それも優秀な弁護士の、持ち出しとか手弁当でというレベルを超えたところで本当は争われなくてはいけないことに関してまでも、何か違ったレベルで勝つか負けるかということを初めに占わなくてはいけなくて、そしてそこの中だけで何か終始してしまうようなことになりはしないのかという、その辺りの疑問も、実は、初めから敗訴者負担は萎縮して、現状はこうですからというお話の中にも、常にその疑いが私の中にはありまして、それを超えたところで、本当は公平さ、それから萎縮しないような制度に行き着かなくては本当はいけないのではないかと思っております。その辺りは、常に、今の現状ではこうだからという説明に、いまだにそれだけでは十分な根拠と思えないところがあるんです。だから、この辺りも私に言わせれば、審議会の意見で我々に委ねてきていることは大変抽象的であり、ディマンディングな感じがするわけです。でも、これを実現するには、今の現状が余りにも、亀井委員がいつもおっしゃっているような状況であって、ただしそれを本当にギブンとして、だからという議論で収めてしまっていいものかどうなのかというのが、とても私にとっては整理し難い疑問として、いまだに残っております。
【亀井委員】 藤原委員のおっしゃることはよくわかります。ただ、現状から出発しなければならないんだと思うんです。日本は、極端に裁判が少ないんです。例えば、ドイツが60万件の労働裁判があるという中で、日本は2,300件しかない。人口は、日本の方が2倍ぐらいあるのではないかと思います。そういう中で、日本の心ある弁護士たちは、裁判を増やして、その中で何とか権利を確立していこうと考えているわけです。そのためには、手弁当でも当面はやむを得ないと思っている方がたくさんいます。全国2万人全部とは私も言いませんが、かなりの方がそういう発想を持っています。そういう中で、負ける事件を何回も繰り返してくる中で、判例が確立していくわけです。だから、2,300件の裁判の中で、しかもいろいろな労働事件がある中で、判例として確立したということはなかなか言いにくい現状です。だからこそ、勝敗が見えないということにもつながってくるのだと思います。そういう意味では、アメリカは予想外なんです。それから、多分ドイツでもフランスでも、訴訟を抑制するための制度というのを一生懸命考えざるを得ない世の中なんです。ところが、日本は、裁判に行き着かないで途中で泣き寝入りしてしまうのか、訴外で乱闘してしまうのかということがまだまだあるわけです。そういう中で、今後の事件で勝つ可能性を高めるために、手弁当でも裁判をたくさん起こして、その中で権利を確立していこうというのが、私たちの基本にあるんです。そういう現状の中で、弁護士費用敗訴者負担制度を採用すれば、今、少ない裁判がますます少なくなってしまうのではないかという心配を持っているわけです。だから、今は、司法アクセスという制度の中でこの制度を考えようということですから、司法アクセスに寄与するかどうかというのが、いつもそこの基準点ということで考えていきたいと思っているところです。
【長谷部委員】 提訴抑止効ということを強調される、それはわかります。生活保障であるという、未払賃金などについて提訴抑止効が働くのは非常によくないと、だから、これは除外しようという先ほど来の御議論もよくわかるのですが、藤原委員が御指摘になられたように、生活保障だからこそ、こういう方にとっては、持ち出しになる弁護士費用をたくさん払えないという状況ですね。先ほど西川委員がおっしゃいましたが、やはり法律扶助などで援助するというようなことを考えない限り、難しいと思います。弁護士さんがどのぐらいの報酬をとっていらっしゃるか、そこまでお聞きしませんが、本当に手弁当で、そういった資力の乏しい方に見合うような弁護士報酬でやっていただいているのだと思いますが、藤原委員がおっしゃったように、そういう形でずっと、これから事件が増えていったときにそれでも対応していけるのだろうかということが懸念されまして、私は、もし各自負担のままであるとするならば、扶助の方を是非拡充するということが条件になるだろうと考えます。
【山本委員】 ドイツなんかは、労働組合の組織率が日本と比べてべらぼうに高いわけです。それで、多分、労働組合が個別労働訴訟に対する財源、ファイナンシャルなバックアップもある程度しているのではないのかと予想されるわけです。ただ、日本の場合は、組織率が極端に下がってきておりまして、実は、未払賃金の事例であるとか地位確認の事例は、組織されていない方が原告である場合が多いわけで、残っている方は組合の方で、辞めさせられた方に対して組合対労働者というような場合もあり得るというようなことも、労働法学者から聞いたことがありました。そういう状況ですので、労働に特化した形で法律扶助を組むわけにもまいりませんので、今はちょっと八方ふさがりのところがあることは、私は将来変わっていく方がいいというように常々ほかのところでは言っているのですが、ここについては、なかなか現状は厳しいと思っております。
【高橋座長】 両方の御意見をいただきました。ここで、順番の整理が悪くて申し訳ありませんが、行政訴訟の延長で国家賠償請求訴訟の話が出まして、国家賠償請求は取消訴訟に準ずるだろうということですが、それを更に超えまして、国ないし地方公共団体が一方の当事者になっている訴訟、これをどうするかという問題も、既に問題は出てもいましたが、改めて確認的に御議論をいただきたいのですが。
国の公権力の行使に関係しない訴訟ですから、普通の人と同じように何か資材を買った。ところが代金を払ってくれないとか、納品がないとか、例えばそのような訴訟です。あるいは、建物を建てたけれども建築瑕疵があったとか、そのような訴訟です。公権力の行使には関係しないけれども、一方は国、地方公共団体です。特に国を考えれば、圧倒的に力の格差はあるのですけれども、そのような訴訟をどう考えるかということですが。
【山本委員】 ほかの事情がない限りは、敗訴者負担でよろしいのではないかと思っております。
【亀井委員】 もう一度お願いします。事例の意味がわからなかったのですが。
【山本委員】 国が、ある庁舎を建てるのにゼネコンが落札して契約を結んで、ところが施工上のミスがあった。それで損害賠償請求を起こすというような場合です。逆の場合もあります。国にものを売ったけれども、代金を国が払ってくれないという場合です。余りないとは思いますが。
【亀井委員】 企業もさまざまですから。私どもで言っている資本金5億円以上程度の規模の企業ならばいいと思いますけれども、国と企業といっても、小企業もあり得るでしょうから、資本金5億円程度以下は、各自負担というのが原則ではないかと思います。
【高橋座長】 今日、お陰様で議論が深化したと思っているのですが、公権力の行使というところに着目するとか、生活の糧そのものに関わるからとか、少し深まりましたので、そういう角度からいくと、ここは特に理由がないということでしょうか。感覚的にはわからないことはないのですが。国は大きいし、地方公共団体だって普通は大きいのですが、しかし、それだけの論拠ではまだ弱いのではないでしょうか。ただ、亀井委員は、そういう論拠でも各自負担であるべきだという御意見ですね。
【始関委員】 労働関係訴訟でもう1点だけ。先ほどの御議論ですと、労働組合対使用者の事件というのは敗訴者負担でもいいのではないかという御意見も出たかと思います。確かに理屈は、労働者対個人の場合とは違うとは思いますが、実際の訴訟では、労働組合といっても、組織率が低いという話が先ほどありましたが、労働組合でも、少数派労働組合が使用者と訴訟になることが割合多いということがあります。それから、制度的な問題としては、集団的労働関係については、労働委員会制度など、普通の訴訟とは別のものがいろいろ用意されています。それはやはり、うまく説明ができませんが、労働組合対使用者の関係というのは、普通の企業対企業とかそういうものとは違う面があるということに着目されている面があるのではないかという気もします。だから、特別扱いというか、現行法どおりという選択肢もあり得るのかなという気がしないではないのです。
それから、最終的に、事務局の方で法案をお出しになるわけですが、こういう問題は非常に政治的にはセンシティブな問題なので、意見募集で労働組合から意見は来ていないのですか。
【小林参事官】 まだ、全体を見ていませんが、日本労働組合総連合会からいただいた御意見を、私が覚えているところで御紹介しますと、労働関係訴訟については、組合と企業との間の訴訟についても適用しないでほしいという御意見でした。また、労働関係訴訟は、片面的敗訴者負担の導入は適当ではないという御意見だったと記憶しています。
【高橋座長】 貴重な御意見ありがとうございました。それでは、人事訴訟の方に入ります。これも、人事訴訟法という特別な訴訟法がありますから、切り方は楽です。これに適用しないというのは技術的には割と楽ですが、しかし、どういう理屈で、人事訴訟について各自負担に持っていくのか。典型例となりますと、離婚、あるいは認知といった親子関係訴訟ですが。
【亀井委員】 人事訴訟についても、各自負担でと考えます。前にも意見が幾つか出ていましたが、離婚事件自体が、現在のところ、勝ち負けを争うというよりは、紛争解決という機能が大変が多い訴訟だと思うんです。ですから、勝った負けたと当事者が喜ぶというよりは、紛争を解決してもらいたいために裁判を起こすというのが1つです。もう1つは、今、少しずつ破綻主義になってきています。破綻主義というのは、勝ち負けという発想ではないだろうということです。それから、破綻主義に近づきつつあるということは、まだ裁判例としてそれが確定したということではないんです。そのために、裁判官の世界観によっても、勝敗にばらつきがまだまだあります。理由はないけれども何年別居したらば離婚になるんだという、確定したものが今でもあるわけではないので、そのために、勝敗の見通しというのはなかなかつきにくい事件です。それでも裁判にというときに、萎縮効果の起こるような敗訴者負担はやめた方がいいと思っています。それは、親子関係の事件でもみんなそうだと思います。親子関係で勝った負けたということで発想をするということは、やはりおかしいのではないかという気もするわけですから、人事訴訟は、やはり各自負担でということが原則だろうと思います。
【高橋座長】 私も、亀井委員の意見に同感ですが、法制的には、多分、その程度の議論では通りにくいのではないでしょうか。先ほどの労働訴訟の中で、生活の基盤、それで、各国も大体そういう切り口になっているという論拠、これで通るかどうかはわかりませんが、これは1つの論拠だと思います。人事訴訟は破綻主義に移行しないから勝敗がわかりにくいということでは、ちょっとまだ足りないという気がします。もう一歩何か、亀井委員から補強するものをいただきたいのですが。
【亀井委員】 諸外国では、離婚は外しています。長谷部委員からは、協議離婚がないからだというお話もありますが、裁判になった段階では同じだと思います。離婚が今26万件あるのに、多分、家裁の調停自体が、離婚も遺産分割も含めて12万件ぐらいです。離婚裁判となると、4、5,000件ぐらいでしょうか。そういう意味ではものすごく少ないですね。
【山本委員】 ちょっと専門的な話になりますが、まず、離婚と離縁の訴えを除かせていただきます。それ以外の訴えというのは、基本的に、客観的にある身分関係を確定するための訴えであります。あるいは、場合によっては、今あるものを裁判で変えてしまうわけですが、それも公益上の要素が非常に強いと言われていまして、どうも、最高裁は、客観的な身分関係を戸籍に反映させることが人事訴訟の大きな目的の1つであると考えているようです。そういうことでありまして、離縁と離婚以外は、そういう趣旨、当事者利益を超えた部分を扱っているんだということで説明が可能だろうと私は思っております。
離婚の場合が少し難しいのですが、離婚の場合も、多くの場合、未成年の子の問題が絡んでまいりまして、未成年の子の利益というのは、これは主観的には、親は、自分が子どもを取るのかどうかという形で考えていますが、法の考え方としては、基本的に子どもの福祉で、子どもにとってベストチョイスは何なのかということを裁判官が調整的に判断する、その中で親権者を指定したり、子どもの養育費をどのようにしたり、あるいは面接交渉をどうしたらいいかというような判断をしていくわけでして、そういう点から見て、やはり、これは、当事者利益には還元し切れないものを構造的に含んでいる訴訟だという辺りで、大体のことは説明が可能だろうと思っています。 残るのは離縁だけで、離縁はまだ考えついていないのですが、離縁だけ残すというのも面倒だから大ざっぱに、と言うと法制的に通るかどうかよくわかりませんが。
多くの人事訴訟については、一応説明が、当事者の利益だけの問題ではないということで説明がつくのではないのかと思います。
【藤原委員】 そうなると、まさにおっしゃるように、離婚というか離縁の部分というのは、すごくクリティカルな問題にもなると思うんです。
【山本委員】 離縁は養子縁組の解消ですね。
【藤原委員】 子どもがいない結婚の場合で、今、山本委員がおっしゃったように、一緒にしてもいいかという議論もあるかと思いますが。逆に、結婚は平等な個人の間のものであるというもう1つの法の精神を反映するとしたら、今おっしゃったように、親権は、まさに今おっしゃったように、親の立場で云々する以前に、子どもの福祉が最優先されるべきこととしてあるべきで、亀井委員がおっしゃったように、勝ち負けにもなじまないことだと思いますが、ということであれば、離縁も勝ち負けではないと思うのですが、一方は離縁したい、もう一方は離縁したくないということであれば、それは要するに、一方の結論を重視しないことには、基本的には、裁判は決着を見ないわけですね。そういうときに、これも各自負担の領域に入れてしまえばそれでいいということなのかもわかりませんが、逆に、自分の意思に反して離婚をしなくてはいけなかったり、自分の意思に反して結婚の形態を解消しなくてはいけないということになった場合には、当事者にとっては、解雇されることに多分匹敵するぐらい、大変重要なことなのではないかと思います。そういうことを考えたときに、根拠をどこに求めるかというのが、すごく重要なことではないかなという気がしていまして、生活の基盤とすべきなのか、あるいは、法の下で平等を保障された一個人対一個人の契約関係を解消するというところに立脚すべきなのか。そうだとすれば、今まで亀井委員がおっしゃっていたように、実際はどちらかが弱者で云々というようなことは、私は全く根拠にすべきではないような気もします。そもそも、結婚生活の中に結果として弱者と強者が存在するとしたら、それは何をベースにそうだというべきかと、それから何の結果だというべきなのかとか、いろいろまた大変ややこしい問題が出てきてしまうのではないかと。だから、その辺りも一概に、子どもの場合、まさに山本委員がおっしゃったように、離縁以外のところは、すごく私も根拠としては直感的にもうなずけるのですが、その離縁に関して、離縁だから本人同士の責任の下に敗訴者負担になじまないと言えば、それはそのような気もしなくはないのだけれども、それでいいかどうかというのは、皆さんのお知恵を是非いただきたいところです。
【高橋座長】 両方の意見があるということですが。
【藤原委員】 離縁自体も、敗訴とか勝訴とかという概念にそぐわないといえばそぐわないのだけれども、逆に自分の意思に反してということになると、その人の人間としての自由度を奪われるという意味では勝敗にもなり得るのではないかという気がしていて、そうだとすると、また違った根拠でもって敗訴者負担がいいのか、あるいは各自負担にそぐうという何かベースを、根拠を見つけなくてはいけないのではないかなという気はしています。
【亀井委員】 ただ、離縁は少ないと思います。離婚は多いけれども、離縁が調停になる、それから裁判になるというのは、ものすごく少ないように思います。ということは、離縁については、離婚以上に勝敗の見通しがつかないんです。裁判例として確立したというのはまだないだろうと思います。どの程度まで行ったらというのがまだ混沌として、私もめったにやったことはないので、勝つか負けるかそれこそわからない。ということは、離縁したいと思っても、勝つか負けるかわからない、場合によっては相手の弁護士費用も負担させられるということになると、裁判をあきらめようかということにつながる可能性が強いということです。それから、離婚以上に、離縁の場合は、実際的なトラブルが多いんです。なるべく裁判に誘導して、裁判で決着を付けるという方向性の方がいいだろうと思います。その意味では、司法アクセスに寄与するように、各自負担の方がいいと思います。
【長谷部委員】 先ほど、山本委員は、離婚と離縁は別にしてとおっしゃいました。それ以外のところは身分関係の変動だからという、公益に関わるからということです。離婚と離縁を除かれたのは、我が国の場合は協議離婚や協議離縁が認められているので、当事者間で自由な処分ができるものだから分けられたのだと思いますが、それを言っていきますと、離縁の場合、子どもの利益に相当するものがありませんし、離婚だって、先ほど少し出ましたが、未成年の子どもがいないような離婚の場合には、公益というのは考えられないのではないかということになってしまうと思います。やはり、これは、たまたま我が国においては協議離婚や協議離縁は認められていますが、身分関係の変動ということにおいては、親子関係の存否確認などとそれほど本質的には変わらないものなのだと、そういうくくりをするしかないと私は思います。
【山本委員】 そうですね。また専門的な話になりますが、今回、公開制限についての条文が、人事訴訟法という新しい法律に入りました。その考え方、なぜそういうことをやるかというと、身分関係という社会生活の基本単位を云々ということで非常に公益性が高い、そこでは、より真実発見の必要性が強いとか何かそういう理由を付けていましたので、その趣旨からすると、人事訴訟をひとくくりにできるのかもしれません。
【高橋座長】 少額訴訟、今度改正されて60万円以下の金銭請求訴訟ですが、これについては、端的に言えば、簡易裁判所で1回でできる、法律の明文はありませんが、訴訟代理人が付くことを予定していない訴訟ですので、広い意味の弁護士報酬の敗訴者負担ということともともと基盤が違うのではないかということです。ただ、技術的には、被告の方で普通の訴訟にしてくれと言えばなるので、そこは両論の考え方がありますが、実際に少額訴訟で行われた場合のみ各自負担という意見が出されておりました。
関連して、今日でなくてもいいのですが、御検討いただきたいことがあります。どういう人まで含むか。既に議論はあったのですが、弁護士だけに限るか、司法書士も含むのかというところ、どの範囲ぐらいまで我々は念頭に置くのかという問題です。もう1つ、どういう手続を念頭に置くのか。具体的に申しますと、我々は訴訟を念頭に置いてきましたけれども、強制執行、保全、調停など、訴訟の周りにいろいろな手続があるわけですが、訴訟の外にまでこの弁護士報酬の敗訴者負担というものを広げていくのか、それとも今回は訴訟だけに限るのかという問題もあります。また、何度も申しますが、そのための理屈、どういう観点からそうするのかという御議論もいただきたいと思っております。あらかじめお願いいたします。
そして、人身損害と消費者関係訴訟がまだ残っています。
【長谷川委員】 質問があります。今日の資料2の2の「A 総論」のところに「当事者の属性」と書いてありまして、最初の説明では、商人とか個人とかとおっしゃっていましたが、この「属性」というのはどんな内容で書かれているのかを知りたいのです。
もう1つ、資料2の1の3行目の記載について、「弁護士への報酬は訴訟をする際の必要経費的なものになっていて」という説明がされましたが、この必要経費になるのは企業とか団体であって、私個人が弁護士を雇って敗訴者負担で弁護士費用を払っても、税務署に持っていけませんね。そうすると、個人にとっては、全く必要経費というものにはならないわけです。これはとても大事なことだと思うんです。私も、必要経費ならばという考え方は、個人としてもできる、使うことができるというように、経費として払えるならばという考え方ができることがあるのですが、これは多分個人ではあり得ません。すると、ここに書いてある言葉は少し正確ではないと思うんです。
私は、今日伺っていて、個人が人間として基本的なことを維持するためのという、とてもいい言葉がありましたが、生活とかこれから生命とか身体とかそういうものを維持するというようなこと、人間としての基本的なことというのには余分なお金がかからないでほしい。個人としては、必要経費としても落とせないわけです。先ほど商人と個人と言っていましたが、多分商人というのは企業のことかと思ったり、個人の事業者もいると思います。商人だったら、必要経費を落とせるのではないですか。そういうので、個人と商人という、この属性というのがわかりにくいのです。社会的に税務上もいろいろなことで、個人と経費を落とせる人たちとは殊のほかに違う位置にいるというように思うのです。これが何か疑問に思うのですが、お答えいただけませんか。
【小林参事官】 「必要経費」というのは、訴訟に普通は弁護士が必要になるという意味です。それとは別に、本当にそれが当事者にとって、経理上必要経費として取り扱うことができるのかどうかというのは、重要な御指摘だと思います。資料2で言われている委員の御意見は、そういう趣旨ではなかったということであって、それ以外に、今、長谷川委員からの御指摘は、また別の観点で重要な御指摘ではないかと思います。 それから、当事者の属性で分ける考え方というのも、おっしゃっておられるように、「商人」はというような御指摘、あるいは、消費者契約では、「消費者」と「事業者」というような形で、一部属性的な観念が入っていますし、日本弁護士連合会の意見の中には、「資本金5億円以上の企業の場合」というような区別の仕方があります。そういった意味で言われている御指摘をここに掲げてあるわけです。それを具体的に、個別の論点においてどのように適用していくか、どのような切り口を重視していくかというのは、また根拠との関係で、これから御議論をいただくことであろうかと思っています。
【山本委員】 多分、必要経費と言ったのは私だと思いますので、弁明しておきます。今、小林参事官から御指摘いただいたとおり、法人税法と所得税法の違いを意識して言ったようなことは全くありませんで、単に要る費用、現実に要る費用だというつもりで申しました。今、初めてそういう考え方もあるということを知りまして自分の不明を恥じる次第ですが、申し上げた趣旨はそういうことではなかったということだけ御理解いただければと思います。
【長谷川委員】 でも、そういう企業的な団体と個人というものは、この社会的にというものだけではなく、さまざまに扱いに差があります。サラリーマンなんかは特に守られてはいないと思うんです。それはものすごい違いなんです。私は自分で会社を経営していますので、必要経費というと、すぐにそういうものかと思ってしまうのです。個人は全くそういう経費を税務署に持っていけないと思っているものですから、女優さんとかだったら、洋服までそうなのかもしれませんが、普通の設計事務所の社長をしていると、個人のそういう経費なんて全くだめなのに、会社ですとあらゆることが経費になるというこの不思議なからくりをいつも思っているものですから、とても社会的に、経済的な立場が、企業団体と個人というのは違う感じがするんです。「弁護士への報酬は訴訟をする際に必要なもの」という考えはおかしい感じがするんです。提訴萎縮というのだって企業と個人とでは全く違うことであって、敗訴者負担とする根拠として、社会的な立場が殊のほか異なることを一緒に語っているように私には思えてしまうのです。そこのところで、事業をしていて裁判をするときの内容と、個人はもっと生活に関わっていることで随分と違うんです。ですから、今日、山本委員がおっしゃったように、生活ということをきちっととらえて区分していくことが、私にはとても明快です。ありがとうございました。