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司法アクセス検討会(第19回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり



1 日時
平成15年10月10日(金) 13:30〜16:30

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委員)
高橋宏志座長、亀井時子、始関正光、西川元啓、長谷川逸子、長谷部由起子、
飛田恵理子、藤原まり子、三輪和雄、山本克己(敬称略)
(説明者)
舘内比佐志(最高裁判所事務総局民事局第二課長)
(事務局)
松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官

4 議題
(1) 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて
(2) 今後の日程等

5 配布資料
資料1 「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」についての御意見募集の結果概要
資料2 弁護士報酬の敗訴者負担(今後の検討の参考資料)

6 議事(○:委員、●:事務局)

(1) 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて

事務局から、資料1及び2に基いて説明がされた。
その後、次のような意見交換がされた。

○ 御意見募集で、何か新しい視点の御意見はあったのか。

● それぞれの体験等をもとに多様な角度から御意見をいただいた。制度設計についての具体的な提言も含まれていると思う。

○ 賛成と反対の比率はどのくらいだったのか。

● 反対の御意見の中でも一部賛成をしているものや、逆に、賛成の御意見の中でも一部反対しているものがあり、賛成と反対に分けて集計するということはしていない。

○ 御意見をいただいた中で実際に訴訟を経験された方はどのくらいいたのか。

● 訴訟を経験された方がどの程度いたのかは集計していないが、そう少なくはなかったという印象である。

○ 引き続き、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて御意見をいただきたい。人身損害を理由とする損害賠償請求などについては前回御意見をいただけなかったので、御意見をいただきたい。それ以外の点についても御意見があればいただきたい。

○ 人身損害を理由とする損害賠償は生活基盤に関わる訴訟なので、使用者と労働者の間の訴訟と同様に各自負担とすべきではないか。人的損害を理由とする損害賠償請求訴訟の場合、例えば、タクシーが事故を起こして乗客が怪我をしたというケースを想定すると、契約責任も不法行為責任も追及できるが、法律構成にかかわらず、人身損害というくくり方がよいと思う。

○ 環境基本法の「公害」という概念をもとに考えると、人的損害に限らず、財産的損害も含めて考えるべきではないか。人的損害だけでは狭いと思う。

○ その場合の根拠についてはどのような御意見か。人的損害という場合は、先ほど委員から御指摘いただいたとおり、生活維持のために必要だからという理由になろうが、財産的損害も含めてということになると、違った説明になると思うが。

○ 根拠については違ってくると思う。裁判をするのに萎縮がないようにという考え方である。新しい権利の問題であるため、よけいに躊躇がある。

○ 財産的損害という場合、財産的損害一般という御趣旨か、それとも、環境基本法で言うところの財産的損害という御趣旨か。それによって根拠の説明の仕方が違ってくるのではないか。財産的損害と言ってしまうとあらゆる財産的損害が入ってくるように聞える。

○ 不法行為に基づく損害賠償全てという意味である。この部分では、判例により、弁護士費用が損害と認められている。判例理論により、司法アクセスがしやすくなっている。

○ 判例が認める損害としての弁護士報酬との整理が厄介である。判例では、認容額の1割程度の額で弁護士報酬を損害と認定するのが一般的である。敗訴者の負担とする額について、法律扶助協会の着手金程度という御意見もあったが、判例が認める認容額の1割とは違ってくると思う。まだ考えが固まっているわけではないが、判例で認められている部分は弁護士報酬の敗訴者負担を導入しないという考えもあり得ると思う。この考え方では、人損と物損とで区別はしないということになろう。人損と物損とで異なる取扱いをする場合は、人損と物損を併せて損害賠償請求をする場合に裁判所はどのような判断をすることになるのかも考える必要がある。この点も厄介な問題になるのかもしれない。

○ 財産的損害に入らないものもあるのではないか。身体的な不快感は人損に含まれるのか。

○ 御指摘の例の場合は、差止請求のところで問題になるのではないか。差止請求は一律に敗訴者負担を適用しないという切り分け方は、立法技術上難しいと思う。損害賠償で何らかの手当てをしておいて、その趣旨を踏まえて裁判所に判断してもらうという方法しかないのではないか。差止めの根拠となる権利については固まっていない部分もある。人の健康に関わる部分は人身損害に敗訴者負担を適用しない趣旨を汲み取ってもらって裁判所に対応してもらうという方法しかないのではないかと思われる。

○ 広く除外するのがよいと思う。人損にも物損にも属さない権利侵害が抜け落ちてしまうような気がする。

○ 製造物責任についてはどう考えるべきか。製造物責任の場合は、必ずしも人損だけには限られない。テレビから出火して、誰も怪我はしなかったが家が焼けたという事件があったが、このような例では、物損でも敗訴者負担にしない方がよいという気もする。逆に、不法行為ではあっても、取引的不法行為のような場合は、敗訴者負担を適用した方がよい感じもする。むしろ、企業対企業の場合は敗訴者負担、企業対個人の場合は各自負担という分け方もあり得るのではないかと思う。

○ 不法行為に関する財産的損害に関連して、違法コピーの問題や知的財産権の侵害の問題では、不法行為による財産的損害だからということで敗訴者負担を適用しないというのがいいのかと言うと、必ずしもそうではないと思う。このように議論をしていくと、かなり詳細な部分に入ってしまって、立法の際のコストが大変になるのではないかという気がする。当事者の属性で分けるという考え方があってもよいのではないか。例えば、法人と個人で分けるという考え方があるのではないか。その他にも、例えば、当事者間で合意ができたら敗訴者負担を適用するという考え方もあり得るのではないか。例えば、同じ属性の当事者間の訴訟であっても、人事訴訟は敗訴者負担でいいのかどうかという問題は出てくる。当事者の属性で分けることによって、かなりの部分には対応できるのではないか。個別の訴訟類型を検討していくと、説得的な議論になるのかどうかという点を危惧する。当事者の属性といった別の切り口での検討も重要ではないか。

○ 当事者の属性で分けるとすると、行政訴訟、例えば、銀行が課税処分の取消を求める場合はどうなるのか。

○ その場合は法人間なので、敗訴者負担ということになるだろう。ただし、行政訴訟について、どうしてもこういう理由でということがあれば、行政訴訟は除外するということもあり得るだろう。

○ 合意があれば敗訴者負担にするというお話があったが、それはどのようなものか。

○ 個人と法人の間の訴訟は、原則は各自負担だが、原告が敗訴者負担にしてほしいという申立てをし、被告も同意したときは敗訴者負担にするということである。アメリカの民事裁判では、陪審裁判をするかどうかを当事者の選択で決める部分があると聞く。それと同じようなものである。誰かが反対したら各自負担ということである。事前の契約で敗訴者負担にするという合意をするのは無理だと思うので、訴訟になってから合意をするという考えである。

○ お互いに自分の主張が正しいと思っているケースとそうでないケースを色分けすべきかどうかという問題だろう。色々な原理があると思うが、最終的にはその原理が何層かになるのではないか。どの原理を上位に掲げるかということを議論すべきではないか。法律に書けるかどうかとは別に、原理の点について議論すべきだと思う。

○ 当事者の属性に着目するのはよいと思う。しかし、当事者の属性だけでは割り切れない部分がどうしても出てくる。それで、訴訟類型も検討すべきだと考えてきた。製造物責任は、弁護士は消費者事件だと考えているが、契約関係がないため、消費者契約法の範囲には入らない。それで、製造物責任という分野を設けるか、消費者に関係する事件という範囲にするかして、敗訴者負担にしないようにと考えてきた。この分野は現在判例が進展しつつある分野であり、敗訴者負担を適用すべきではない。

○ 新たな御提案もあり、若干混乱しているが、従来人身損害というとらえ方で議論していただいたので、そのあたりを議論していただき、当事者の属性で分ける考え方、合意という考え方について御検討願えればと思うがいかがか。私の理解では、人身損害としては医療過誤、公害、薬害などがあり、こうした訴訟に敗訴者負担を適用しないことについては説得力があると考えている。破産法改正でも、人身損害という切り口が使われている。物損の場合はどうするのかとか、不法行為に基づく損害賠償をどうするかという問題については御意見が別れているという印象だが。

○ 不法行為を全て除くとした場合は、先ほど、委員から、特許権の侵害の場合などを除いていいのかという御指摘があった。

○ 特許訴訟の経験があるわけではないが、資料1を見ていると、特許訴訟についても、大企業と中小企業間の訴訟には敗訴者負担を入れるべきでないという意見が複数ある。企業同士だからいいというわけにはいかないのではないか。大企業同士の訴訟以外には敗訴者負担を導入しないというのが筋だと思う。

○ 企業規模の大小で区別する理由は何か。

○ 力の格差の問題である。大企業同士はそれぞれに防衛力があり、裁判を起こすときに萎縮するということがない。大企業と中小企業とでは違いがある。企業の87パーセントは従業員数が20人以下の企業である。大企業はほんの一握りである。力の格差を考えれば、敗訴者負担は排除すべきである。

○ 格差という考え方をもとにすると、個人間の訴訟でも、納税額や資産額によって分けるべきという結論にならないか。

○ 個人間も、基本的には敗訴者負担を導入すべきでないと考えている。各自負担が一番無難な線である。

○ 特許訴訟に関しても、力関係が同じ会社間の訴訟ならよいが、街の発明家のような人もいる。知的財産権の発展の芽を摘まないように配慮すべきではないか。敗訴者負担の一般的導入は、発展の芽を摘むことになりはしないかと心配している。

○ 全く逆であると思う。知的財産権を産業発展の活力にと考えるなら、組織の大小を問わずと考える。知的財産権は独創性を競う分野であり、そもそも、特許権は申請が認められなければ権利にならない。権利になった以上は、その帰属主体が個人か法人かで区別する理由はないのではないか。

○ これまで訴訟類型ごとに検討をしてきて、先ほど来特許訴訟の議論になったが、特許訴訟の場合はどのように考えるべきか。力の格差というお話があった。提訴萎縮的効果のお話もあろう。しかし、それらに加えて、もっと深いところで何か根拠があるのかどうかという議論をお願いしたいと思う。

○ 知的所有権の裁判件数自体が少ない。小さいところは大企業相手に訴訟を起こしにくいという事情がある。そういう中で、裁判を起こすことで知的所有権の保護を図るという意味では、裁判を萎縮させるべきでない。今でもかなり萎縮している。資料1にもそのような角度からの御意見がある。

○ 不法行為という切り分け方については、積極、消極双方の御意見があったという印象だが、どう考えるか。

○ 特許権侵害訴訟については、当事者が個人か法人かによらずに、敗訴者負担とするのがよいのではないか。個人と法人とで分ける考え方はよいと思うが、万能ではないと思う。むしろ、事業者と非事業者で分ける考え方がよいのではないか。消費者契約法がそのような切り口を示している。消費者訴訟の分野でも、事業者と消費者の間の訴訟を除くことにすれば、製造物責任訴訟も含めて対応することができる。消費者の消費生活に関わる訴訟という切り口ではないかという気がする。コストを価格転嫁できる抽象的可能性があるかどうかというあたりが根拠になりうるのではないか。具体的状況の下での価格転嫁の可能性を議論するときりがないが、事業者であれば、価格転嫁の抽象的可能性はあると言えるのではないか。そういうところから考えると、事業者対消費者の訴訟という切り口の方が優れているのではないかという気がする。

○ 事業者か否かで分ける考え方は合理的だと思う。

○ 消費者関係訴訟という形で議論していただいたが、御指摘の切り分け方は、消費者訴訟の分野でも有効であるということになるのか。

○ 消費者訴訟の分野は包摂されることになるのではないか。

○ そうすると、消費者関係訴訟という分野を特に設けなくても場合によってはよいということにもなるのか。

○ そうだろう。確かに、事業者か否かで分ければ、消費者契約も製造物責任も除くことができる。仲裁法でも、そのような分け方で消費者を除外したのではなかったか。

○ 仲裁法の場合は約款規制だったので、消費者契約そのものだったが、この場合は契約以外のものも含めて考える必要がある。

○ 定義だけを借りてくればいいのではないか。

○ 確認のために申し上げるが、今のお話を前提とすると、消費者が被告の場合も各自負担ということになるが、それでもよいと考えるか。

○ それでよいと思う。

○ 割り切りだろう。どちらが原告であるかで扱いを変えるのは難しい。

○ 対事業者の訴訟だと明確には分からない場合もあるので、このような場合にも対応できるようにしてもらいたい。この講座を受ければ後で仕事を紹介するというようなケースでは、申し込んだ方が、商売のために受講したのだから消費者としての保護を受けられないと言われることがある。

○ 事業者と消費者の間の訴訟では、消費者のみに敗訴者負担にするかどうかの選択権を認めるという方法もあり得る。消費者の利益を高めるためなら、このような制度が最も合理的だろう。

○ 今の御意見は、片面的敗訴者負担を認めるという御趣旨か。

○ 片面的敗訴者負担を認めるという趣旨ではない。各自負担にするか敗訴者負担にするかの選択権を認めるという趣旨である。消費者から見て勝訴は確実だと思えるときのことも考え、消費者の利益を守るならこのような方法がいいのではないかということである。

○ 仲裁法の例もあるので難しいことではないのかもしれないが、当事者の一方にのみ選択権を与えることが可能かどうかは、更に検討すべき問題が残っているだろう。

○ 選択権というお話があったが、消費者の分野に選択というのがなじむのかどうか。時期尚早ではないか。判断に迷う問題である。

○ 弁護士に相談してもこれは勝てるでしょうということになったときに、各自負担でも仕方ないという御趣旨か。個人としてそのような状況に置かれた場合は、敗訴者負担でやっていこうという場合もあるだろう。それで、さきほど提案申し上げた。

○ 片面的敗訴者負担という形ならよいが、消費者が判断をするというのは、もう少し国民が法律になじんでからではないかという気がする。

○ 約款で定型的に敗訴者負担を選択するというようにされては困る。注目に値する御見解なので、いろいろと考えてみたいと思う。

○ 当事者の合意により敗訴者負担にできるというのはよいアイデアではないか。判断が難しいとの御意見もあったが、リスクを取りたくない場合は各自負担を選べばよい。自分は勝てると思っていて敗訴者負担にしたいと思っていてもそれができない、そのために弁護士報酬が持ち出しになる場合もある。敗訴者負担の方がいいという人には敗訴者負担を選ぶことができるようにすればいいのではないか。

○ 弁護士報酬を損害と認める裁判例が出てきている。その事例の積み重ねも重要である。お金を取り返せなくてもいいから、こういう悪質な事例は裁判で争いたいというケースもある。

○ 住宅は1985年ころを境に商品化された。消費社会の変化にあわせて司法も見直すべきである。国民は皆消費者であり、あらゆる物が商品化されているが、そういう変化に対する対応が遅れている。建築の分野では、違法なものを作って逃げる業者もいる。事業者と言ってみても、規制緩和で小規模な事業者もある。事業者の中にも格差がある。大企業間の訴訟で本当に敗訴者負担を希望するのかどうかは分からない。敗訴者負担かどうかを選択する方式は進歩的でよいと思う。ケース・バイ・ケースだということを感じる。

○ 同意というアイデアについて、訴訟手続の中でどう組み込むのかという問題はあるが、面白いアイデアである。ただ、どこまで適用範囲を広げるのかについては検討が必要だろう。

○ 一方当事者を保護すべきだという理由で敗訴者負担を適用しない領域では、その一方当事者に選択権という考え方が妥当するのだろう。人事訴訟のように対等な当事者間の訴訟では、そのような考え方は使えないので、両当事者間の合意で敗訴者負担が可能になるということになるのではないか。

○ 消費者関係訴訟の場合、消費者契約法の消費者契約という切り分け方だと、若干の問題は残る。通常は、民法上の主張も併せてしておいて、裁判所はいずれの構成を認めてもよいことになっているためである。それよりはむしろ事業者対消費者という切り口で分けてはどうか、当事者の合意という案はどうかという御意見があった。時間の関係もあるが、片面的敗訴者負担についても御意見をいただきたい。

○ 合意という場合も2通りがあり得るのではないか。1つは、各自負担の分野で合意により敗訴者負担にする方法、もう1つは、敗訴者負担の分野で合意により各自負担にする方法である。もっとも、訴訟費用の負担原則にも波及しうる問題なので、どう見るかというところはあろう。

○ 敗訴者負担にするかどうかの選択を誤ると弁護過誤になるという問題はあり得る。約款による合意は認めるべきではないだろう。不法行為の場合は現状でも弁護士報酬を取れるので、その部分では救済策はある。

○ 原告が不法行為に基づく損害賠償請求をした場合は、勝てば弁護士報酬を取れるが、商工ローンに請求されて、保証料名目で支払った分は実質的に利息であると反論するようなケースでは、現状の判例では対応できない。約款では合意はできず、提訴後に合意しなければならないようにすればいいのではないか。一方当事者のみが選択権を持つ場合は、有利になってから権利行使というのは妥当でないとも考えられるので、訴訟開始時点と考えた方がいいだろう。

○ 控訴審で合意した場合はどうするのかも考える必要があるだろう。控訴審で合意して破棄自判になった場合などはどうなるのかといった問題である。

○ 変額保険の被害者と話をしたことがあるが、本人は、訴訟をすれば当然に勝つと思っていたと話していた。実際に訴訟をしたら負けたそうである。その方の正当性について申し上げるつもりはないが、このような人が敗訴者負担を選択するのは危ないのではないか。

○ 敗訴者負担の選択の問題は、自分に弁護士が付いているときにしか問題にならない。弁護士に相談した上で敗訴者負担にするかどうかを決めることになる。消費者に新たな武器ができるという意味で、敗訴者負担のオプションはよいと思う。

○ 敗訴者負担にするという合意は、実質的には弁護士が決めることになるのだろう。敗訴者負担にすべき部分が見えてこないし、公平というのも時代とともに変化するかもしれない。敗訴者負担にする根拠はそんなに強いものとは思えないので、各自負担を基本としつつ敗訴者負担も選択できるという位置付けにしてもらいたい。当事者の一方のみではなく、双方から申立てができて、合意ができたら敗訴者負担にするというのがよいのではないか。

○ 事業者と非事業者で分けるという話があったが、非事業者という定義はやや不明確ではないか。むしろ、消費者として訴訟に関わるというところに力点を置くべきで、事業者と消費者で分けるべきではないか。

○ 消費者という定義を使うと、契約がない場合は対応できなくなる。それで、敢えて非事業者という分類にしてはどうかと申し上げた。事業者間、非事業者間の訴訟は敗訴者負担、事業者と非事業者間の訴訟は敗訴者負担を適用しないというイメージである。

○ 当事者の属性に着目して、同じ属性の当事者間では原則として敗訴者負担だが、合意で各自負担にできるようにしておき、属性が異なる当事者間の訴訟では、原則として各自負担だが、合意で敗訴者負担にできるようにしておくというのがよいのではないか。これに加えて、例えば、消費者訴訟では消費者にのみ選択権を与えるという方法があってもよい。当事者の属性としては、個人か法人かで分けるのがよいと思う。国と県、国と企業の争いは敗訴者負担を原則とする。企業規模は考慮すべきでないと思っている。

○ そのお考えを前提とすると、近隣との争いなど、日常的な事件は敗訴者負担になる。法人といっても特定非営利活動法人もある。個人の大家さんが貸している不動産で、業者が管理していたが、退去をめぐって争いになり、大家さんが勝手に鍵を取り替えたという例があった。自力救済が増えては困る。もっと法的に解決することを積み重ねていく中で状況は変わってくる。それで、敗訴者負担は極力避けて、例外的にしてもらいたいと考えている。私人間の問題、法人間の問題でも法人の間で力の差がある場合などは慎重に考えていただけたらと思う。

○ 個人間、企業間でも同じとは言えない場合があるので訴訟類型が必要になる。個人間でも貧富の差、力の差はある。類型的に見て、個人間の事件は証拠がなく、勝敗の見込みがつかない。裁判所は紛争解決をする場であるという点を重視すべきである。私人間の中でも訴訟外で解決するのではなく、訴訟を通じて解決するという方法を定着させるべきである。借地借家の場合などは不都合が生じる例である。

○ 借地借家の場合、貸主は個人であっても事業者になるのではないのか。そうだとすれば、事業者対非事業者の訴訟ということになるのではないか。

○ そのとおりだろう。個人か法人かで分ける考え方がしっくりこないのはその点である。事業者対非事業者という切り分け方の方がすっきりするのではないかと思う。業法により法人になれない事業者もある。弁護士も弁護士法人制度ができるまでは法人にはなれなかった。そういう面もあるので、法人かどうかで分けるのはどうかと思う。

○ 私もそう考える。貸金業者の中には個人で貸金業をしている人もいる。事業者は経費処理が可能である。経費処理ができる者同士、できない者同士という分け方が対等だという説明ができる。もっとも、例えば、人事訴訟では敗訴者負担を導入しないというような配慮は必要だろう。

○ 事業者と非事業者というくくり方は大切である。事業者間でも差があるという御意見もあったが、情報や資力の差など色々な要素を考慮しすぎると、くくることができなくなる。訴訟に要するコストをほかに転嫁できるかどうかという点は重要であると思う。そういう割り切りにした方がいいと思う。

○ 大企業と中小企業の間の訴訟では証拠の格差がある。色々な要素を考慮しなければならないから各自負担がいいと考える。商工ローンと中小企業の間の裁判は沢山ある。

○ 貸金業者も大手ばかりではなく中小の業者もある。中小企業間の訴訟についてはどう考えるべきか。マーケット・プレイヤーとして参加している以上、ある程度のリスクの覚悟がないと事業はできないのではないか。事業者は消費者や労働者とは異なる。事業者に関して、資金のあるなしという要素を持ち込むのはおかしいのではないか。名のある大企業でも法的倒産処理をする時代である。

○ だから、提訴萎縮があるかどうかで考えざるを得ず、原則として各自負担ということになる。

○ 非事業者間の訴訟をどうするかはまだ決断できていないが、事業者間の訴訟にまでという気がする。

○ 中小企業同士でも、不当廉売をされて困っている企業が、独占禁止法上の差止請求をするお金もなくて困っている場合もある。

○ 事業者の世界では、たとえ大企業であっても、今までのビジネス・モデルが一夜にして古いものになり、古いビジネス・モデルによる取引ができなくなることがある。中小企業間でも競争は激しいが、大企業も例外ではない。先進国の経済状態はそうなっている。歴史を昔に戻すわけにはいかないし、こういう中で企業は更新されていく。そういうことは現実として受け止めざるを得ない状況である。

○ 企業がどう考えているのかをアンケートで調査することはできないものか。企業が望んでいるかどうかで決めるというわけではないが。

○ 今日は新たな切り口での御意見を複数いただいた。ほかに何か切り口に関する御意見はないか。

○ 訴額の低いものを除外するという考え方もあり得るのではないか。先ほどから中小企業のお話が出ているが、訴額の低いものを敗訴者負担にしないという方法で対応することは可能ではないか。もっとも、額の低い訴訟で被告にされた場合ほど、弁護士報酬を回収したいのではないかという問題はあるのかもしれないが。

○ それは1つの考え方だろう。ただし、人身損害を除くことを前提として、合意による敗訴者負担と組み合わせるのがよいのではないか。

○ 訴訟類型と、当事者の属性と、合意と、訴額を上手く組み合わせるというイメージだろう。

○ 訴額の低い事件は比較的に容易な事件が多く、弁護士の必要性が低いという説明は可能だろう。訴額ごとの本人訴訟率の資料などがあればいいと思う。

○ 団体訴権の場合はどうなるのか。少額多数被害の場合はどうなるのか。

○ 団体訴訟については、まずは差止めなどが検討されているのではないか。

○ 団体訴権については特別法に根拠を求めることになるので、特別法で手当てができるのではないか。

○ 行政訴訟、独占禁止法24条の差止請求訴訟、消費者契約法10条による約款の無効確認訴訟、公害・環境の分野での差止請求訴訟については、片面的敗訴者負担を導入すべきである。何でもかんでも片面的敗訴者負担ということではなく、公益性が高いということで分野を絞ったつもりである。

○ 片面的敗訴者負担制度には反対である。公益性があるからという理由では、なぜ被告だけが弁護士報酬を負担しなければならないのかを説明できていないのではないか。特に私人間訴訟の場合は、私人がなぜ公益のために負担しなければならないのかということを説明できないだろう。相手が大企業だからというのも理由にならないと思う。

○ 訴訟の場でお互いに議論をして公益が実現されるということなのだろう。それなのに、一方だけに不利益を与えるのはおかしいと思う。

○ 今でも、判例は、不法行為の分野で、実質的に片面的敗訴者負担になっている。

○ それは公益性という理由ではなくて、損害の回復という理由から認めているものではないか。

○ アメリカのように広く片面的敗訴者負担を導入と言っているわけではない。最初なので慎重にということで、分野を絞っている。

○ 敗訴してルールが明らかになるという意味で公益に役立つこともあり、勝訴した場合のみ公益に役立つというわけではない。

○ 行政訴訟の場合は、公益の実現に貢献したと言えるのではないか。貢献に対する御褒美という考え方もできるのではないか。

○ 誰が弁護士報酬を負担するかが問題である。例えば、独占禁止法上の訴訟で、利益を受けた人が負担するというのなら理解できるが、なぜ被告が負担するのかを説明するのは難しいのではないかと申し上げている。行政訴訟も同じで、その訴訟で利益を受けた人が負担するのなら理解できるが、なぜ被告が負担するのかというところが問題である。

○ 行政訴訟の場合は、行政の違法な行為があったのだから、行政が負担すべきではないのか。

○ 行政が負けた場合に原告の弁護士報酬を負担させるということになると、原告が負けても負担はしないようにすべきだという部分の論拠が崩れることになる。提訴時の不確実性を論拠にされていたと思うが、原告が負けた場合は、司法の世界では、原告に権利がないことが明らかにされたということになる。その場面で各自負担にすると言うのに、特定の範疇の人が負けるとなぜ負担をしなければならないのか、理由を説明できないのではないか。

○ 公平の観点、司法アクセスの観点ということになる。

○ それはディープ・ポケット論であり、適切でない。

○ 銀行が外形標準課税をめぐる行政訴訟で勝訴したが、このような場合、銀行の弁護士報酬を納税者が負担しろという話になるのか。独占禁止法上の審決の取消訴訟で企業が勝って、その弁護士費用を納税者が負担しろという話になるのか。

○ 行政の不備を是正するという役割を代表して担っているという視点で申し上げた。企業対行政の問題は考えていかなければならない。

(2) 今後の日程等について

最高裁判所から、民事訴訟費用等に関する規則等の一部改正(案)の概要について説明がされた。
 その後、次のような意見交換がされた。

○ 可能であれば、訴訟費用の計算を簡単にできるようなソフトを開発していただけるとありがたい。

次回については、引き続き、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて検討を進めることとなった。

(次回:平成15年10月30日 13:30〜)