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司法アクセス検討会(第19回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日時
平成15年10月10日(金) 13:30〜16:35

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
高橋宏志座長、亀井時子、始関正光、西川元啓、長谷川逸子、長谷部由起子、飛田恵理子、藤原まり子、三輪和雄、山本克己(敬称略)
(説明者)
舘内比佐志(最高裁判所事務総局民事局第二課長)
(事務局)
松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官

4 議題
(1) 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて
(2) 今後の日程等

5 配布資料
資料1 「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」についての御意見募集の結果概要
資料2 弁護士報酬の敗訴者負担(今後の検討の参考資料)

6 議事

(1) 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて

【高橋座長】 所定の時刻になりましたので、第19回司法アクセス検討会を開会いたします。初めに、事務局から、本日の議題と配布資料についての説明をお願いいたします。

【小林参事官】 お手元の検討会次第にありますように、本日は、「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて」の御検討をお願いしたいと思います。
 お手元に資料1の「「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」についての御意見募集の結果概要」、それから、資料2の「弁護士報酬の敗訴者負担(今後の検討の参考資料)」、この2つを用意しています。
 また、この議題の中にはありませんが、机上に、最高裁判所事務総局から、「民事訴訟費用等に関する規則等の一部改正案の概要について」という資料が配布されています。民事訴訟費用の確定手続の簡素化につきましては、この検討会で御検討いただきまして、先の通常国会で法律が成立しましたが、これに伴う最高裁判所規則の改正の方向性について、後ほど最高裁から御説明をいただけるということです。

【高橋座長】 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いに関する資料の説明をお願いいたします。

【小林参事官】 まず、資料1、「「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」についての御意見募集の結果概要」と題する資料です。当事務局において、7月29日から9月1日まで意見募集を実施しまして、これに対して5,134件の御意見が寄せられました。資料1は、その結果の概要をまとめたものです。ただ、5,134件と申しましても、ざっと見ただけでも、同じ方から複数の同じ御意見をお寄せいただいている場合もありますし、連名でいただいているものもありますので、必ずしもこの件数がお寄せいただいた方の人数ではありません。その点は御了承願いたいと思います。
 この資料につきましては、寄せられた御意見の中から弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いに関連する部分を引用したもので、御意見を引用するに当たっては、誤字と思われる字を修正した上、要約し、または部分引用にとどめたところもあります。また、同趣旨の意見については、代表的なものを引用しまして、なるべく具体的な事例に即して御意見をいただいているものを詳しく御紹介をする、あるいは、具体的な制度設計について御意見をいただいているようなものについて詳しく御紹介するという形を取っています。また、各委員の皆様方には、5,134件の御意見、御覧になりたいという場合には、事務局においでいただければ御覧いただけるような準備をしてあります。
 資料2は、今後の検討の参考資料として、前回までの議論の概要をまとめたものに、前回座長から御指摘のあった法制的な問題点についての記載も加えたものです。これは、「制度設計上検討が必要な点」ということで、5ページ以下の5にまとめてあります。
 簡単に御説明しますと、1ページのところで、2の「敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲及びその取扱いの在り方」につきまして、①の「範囲の設定に当たっての考え方」、この点について若干補充してあります。前回の検討会でも御指摘のありました考え方の問題として、例えば、生活維持の必要があるものについて配慮するという考え方を基礎としてはどうかという御意見がありましたし、あるいは、会社組織のような場合は、個人と異なって弁護士報酬を経費処理できるかどうかという点も考慮すべきではないかという御意見もありました。そういった点も加えて整理してあります。 ②の「各論」のところは、前回の検討会で出た御意見等を追加してあります。更に、5ページ以降が、先ほど申し上げた、制度設計上の検討が必要と思われる点です。なお、5ページの3の「負担額の定め方」のところで、法律扶助協会の支出基準による着手金の額が参考になるのではないかということで、その支出基準による着手金の額の上限が22万円と前回は書いてありましたが、既に御説明してありますとおり、これは原則で、例外的に35万円まで支出することができるということになっていますので、その点を踏まえて、御意見の趣旨を明確にするということで、「原則として22万円」と修正してあります。
 5の「制度設計上検討が必要と思われる点」につきましては、①〜⑥まで項目を分けて掲げてありますが、例えば、①の「対象」につきましては、訴訟代理人というのは弁護士だけなのかどうかということや、その訴訟代理人が複数いる場合についてどのように考えるのかという問題があります。それから、対象となる手続については、訴訟費用の関係では、訴訟手続以外にも、民事執行や、権利の保全に関する民事保全の手続などもありますので、そこを含めるのかどうかという点についても一応検討する必要があるのではないかという問題があります。それから、本人訴訟の場合の取扱いについては、これも検討会でも議論がされているところですが、本人訴訟の場合の取扱いについても検討する必要があるという問題があります。
 ②の「訴訟代理人の交替等」につきましては、訴訟代理人が途中で交替する場合があります。途中で辞任したり、あるいは解任されたため複数の訴訟代理人が関与している場合や途中で辞めてしまっている場合にどうするのかという問題があります。
 ③の「共同訴訟、請求併合等」につきましては、当事者が2人いるような場合、例えば、訴えられた人が主債務者と保証人というような場合に、どちらかが消費者でどちらかが事業者だったという場合も考えられますし、訴えを併合したような場合、例えば、人身損害と物的損害とを一緒に被害を受けたような場合に、両方請求したらどうなるかなど、いろいろな場合があり得ますので、請求というのは必ずしも一個ではない、当事者も多数の人が同じような請求について一緒に当事者になる場合があるということを念頭に置いて御検討をいただく必要があろうかと思います。また、6ページには、同じ請求でも医療過誤などの請求をするときには、契約上の債務で請求するのか、あるいは不法行為による損害賠償の請求をするのかというように、法律構成がいろいろ考えられる場合があるのではないかというところを挙げてあります。
 ④では、「訴訟費用の負担に関する民事訴訟法の規定との関係」ということで、今でも弁護士報酬以外、例えば、裁判所に出頭したときの旅費などの訴訟費用については敗訴者の負担となっていますが、これはあくまで原則で、この検討会でも最初のころに御検討いただきましたように、その例外として、不必要な行為をしても、それによって生じた費用は相手方から取ることができないとか、一部敗訴の場合には、費用負担は裁判所が裁量で決めることになりますが、敗訴した割合に応じるのか、あるいは一方に全部負担させるのかという問題があります。また、共同訴訟の場合、複数の人が相手方の費用を負担するときに、連帯して負担するのか、ばらばらに負担するのかなど、いろいろな問題があります。これは、検討会の中でも、既に敗訴者負担に絡めても議論が出ていたところか思います。
 ⑤の「請求の認諾等」につきましては、訴えられた途端に被告が請求を認めてしまって、そもそも裁判が実際の審理に入らないという場合もありますので、そのような場合をどのように評価するのかという問題があります。弁護士を使って法廷には出てきたけれども、相手はすぐに認めてしまっていて、何ら実質的な裁判がないような場合、あるいは、裁判で争っても仕方がないということで最初から出頭もしない場合、サラ金、クレジット等の請求の場合、欠席になってしまってそのまま請求が認められるという場合も多数ありますので、そのような場合にどうするのかという問題があります。
 ⑥の「上訴」につきましては、三審制を取っていますので、高等裁判所や最高裁判所に不服申立てをした場合に、第一審で敗訴したときの弁護士費用もありますし、不服申立てをするとさらに裁判を続けなければいけませんので、その場合の弁護士費用をどのように考えるのかという問題があります。このような点も、今後、制度設計上問題になると思われますので、一応項目を掲げたということです。

【高橋座長】 まず、資料1の「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」についての意見募集の結果概要ですが、何か御質問・御意見がございましたらどうぞ。

【始関委員】 今まで我々で議論していたことと同じようなことが書かれているものも多々あるようですが、何か特筆すべきようなところがありましたら、教えていただけると、これから議論するのに便利ではないか思いますが、そういうことはできますか。

【小林参事官】 全く同じような視点とは必ずしも言えず、それぞれの方から、それぞれの体験等をもとに多様な御意見をいただきましたので、多少読みにくくなってしまったかとは思いますが、多様なものを掲げているわけです。制度設計についての具体的な提言も含まれていると思います。

【瀧澤参事官補佐】 新たな視点ということではありませんが、例えば、資料1の60ページの真ん中から61ページにかけて記載されている御意見は、医療過誤についてかなり詳しく書かれています。今の委員の御要望に必ずしも答えていることになるかどうかわかりませんが、医療過誤の関係では、この辺りを見ていただくと参考になるところが多々あるのではないかと思われます。

【亀井委員】 今いただいて、すぐに読めるものではありませんが、随分詳しいものが多いと思っておりますので、これを見て、私の方でもいろいろな意見を体系的にまとめたりしてみたいと思います。これについて意見を申し上げる機会は、今後もあると思いますので。

【飛田委員】 ○の数ですが、これは幾つあるのですか。

【瀧澤参事官補佐】 ○の数までは勘定していません。すべての御意見を載せるとなると、この比ではないような分量になりますので、なるべく同じような御趣旨のものは、代表で一番わかりやすいものを載せるということでまとめてあります。

【飛田委員】 コメントの内容を机の上に広げたりして、幾つかに分けられたわけですか。

【小林参事官】 そこまで厳密な作業はできませんので、順番に読みながら整理しました。この整理の仕方、要を得ていない点がありましたら御容赦をいただきたいのですが、ほぼ御意見の趣旨は出ていると思います。

【長谷川委員】 5,000 通のうちの、敗訴者負担への賛否の比率というのは、どのくらいだったのでしょうか。                

【瀧澤参事官補佐】 賛成、反対と明確に書かれている方もいらっしゃいましたが、反対と書かれていながら、中身は部分的に賛成というものや、賛成の中でも逆にこういう部分ではやめるべきであるという御意見もありました。賛否をきちんと分けることが難しかったものですから、賛成と反対に分けて集計するということはしていません。

【長谷部委員】 実際、訴訟の経験がおありになる方というのは、全体でどのくらいいらっしゃるとかいうことはわかりますか。

【瀧澤参事官補佐】 比率までは集計していませんが、そう少なくはなかったという印象です。必ずしも訴訟まで発展したかどうかわかりませんが、訴訟をお考えになるような状況を経験をされたという方は、そう少なくはなかったという印象です。

【高橋座長】 次回以降もありますので、お読みいただいた上で、御意見があればまたお願いします。資料1は、今日はこの程度でよろしいですか。
 それでは、資料2にいきます。前回は各論に入りまして、その途中でしたので、とりあえず、その続きから進行することにします。前回は、イの「労働関係訴訟」、ここは、敗訴者負担を解雇無効の訴えなどには適用しない、各自負担であるという御意見が出てまいりました。雇用というのは生活の基盤そのものですから、それに関わるものは、いやしくも萎縮効果が出てはいけないという御意見が出てまいりました。しかし、第一組合と第二組合の訴訟はどうか、組合と使用者との訴訟はどうか、ここはまだ若干残っておりましたので、今日お時間があればまた御意見をいただきます。ウの「人事訴訟」、これは両方の御意見がありました。前回はこの辺りまで行ったと思います。資料2に強く拘束されるわけではありませんが、ここでいきますと、エの「人的損害を理由とする損害賠償請求」については、前回は御意見をいただいていませんので、その辺りから御議論をお願いいたします。

【山本委員】 前回、私の意見の枢要は申し上げておりますので、ごく簡単に、記憶喚起程度のことをさせていただきたいと思います。
 労働関係、とりわけ「使用者対労働者」のところで申しましたように、やはり、人的損害に係る損害賠償請求訴訟というのは、その人の生活基盤の問題ですので、個別労働関係に係る労働訴訟と同様に考えるべきではないかと思っております。そこで、先ほど少し小林参事官から御指摘がありましたように、人的損害が問題になる訴訟は、不法行為訴訟と契約上の訴訟と両方あり得るわけです。例えば、タクシーに乗っていて、タクシーの運転者が運転を誤って事故になってけがをしたというような場合は、運送契約上の債務不履行があったという構成もできますし、不法行為という構成もできるというのが、現在の一般的な法律学の考え方ですが、私は、そういう法的構成にかかわらず、人的損害という切り口で行くべきなのではないかと、ここでは考えております。

【亀井委員】 環境基本法で言う「公害」というのは、人的損害よりもっと広いんです。いわゆる「公害」というのは、環境基本法の定義を見ても、大気の汚染、水質の汚濁、騒音、振動、地盤の沈下など、もっと広くなっています。そういう意味から言えば、人的損害に限らず、財産的損害も被害態様として掲げるのが筋だろうと思います。裁判例などでも、最近は、国立のマンションなどでも、住宅環境というものを被害法益としているというように言っていますので、人的損害というだけでは狭いのではないかと思います。財産的損害も入れるということで考えたいと思います。

【高橋座長】 今の御提言ですが、山本委員の言われたことと根拠は違ってくるのでしょうか。労働関係訴訟がそうであるように、人の身体は、まさに生活の根本です。しかし、物的となると、そうでないものも出てきます。

【亀井委員】 勿論、山本先生の理屈よりは広がるとは思います。私どもは、裁判を起こすときの萎縮がないようにということで考えております。特に、この問題は新しい権利の問題ですから、よけいに市民には躊躇があるわけです。ですから、司法アクセスということから考えれば、財産的損害も入れないと、司法アクセスには寄与しないということです。

【山本委員】 財産的損害と言われるのは、財産的損害一般なのか、今おっしゃったように、環境基本法との関係で出てくる財産的損害なのか、いずれでしょうか。それによって、理由の付け方も違ってくると思います。財産的損害一般となると、あらゆる損害賠償訴訟が入ってしまうということになりますね。

【亀井委員】 私どもは、不法行為全部という意味で考えています。ここでは公害に絞って申し上げただけで、不法行為全部が、敗訴者負担は導入すべきではないと思っています。もともと、不法行為については、判例理論によって、弁護士費用を損害として認めるということになっています。これは、もう、実質的に片面的な部分になっているわけです。そういう意味から言えば、不法行為というのは一番立証が難しい部分ですが、この判例理論を基にして、かなり司法アクセスがしやすくなったということが言えると思います。そういう意味では、不法行為全般について、敗訴者負担を導入すべきではないと考えます。

【始関委員】 私は、必ずしも亀井委員のお考えに全面的に賛同しているわけではありませんが、亀井委員が言われたことのうち、今、判例で、弁護士費用を損害の1割くらい認めるというルールがほぼ確立しているという状況の下で、その判例との関係をどのように整理するのかというのは、なかなか厄介な問題ではあるのではないでしょうか。特に、これまでの議論ですと、敗訴者負担にする場合の額の基準については、法律扶助協会の支出基準を1つのメルクマールに考えたらどうかという議論もあったわけですが、それと最高裁の判例で決められている損害としての弁護士費用とはかなり額が違ってきますので、その関係をどうするのか、あるいは、不法行為に限らず、債務不履行でも一応弁護士費用を損害として認めた例もあったような気もしますが、判例で認められているものは判例で別の世界が形成されているのだから対象外にするという選択肢も、既存の制度とのバランスとの関係で、もしかしたらあり得る選択肢なのかもしれません。まだ、自分の考えが固まっているわけではありませんが、そういう気がします。そうなってくると、人損だけではなく、物損についても同じように判例理論はあるわけですので、人損か物損かでは分けられないという気がいたします。
 それから、山本委員の御指摘の中で、今日の資料2の5ページのところに関して述べられたところと関係しますが、例えば、交通事故で物損と人損とが一遍に生じて、両方まとめて損害賠償請求をしたという場合に、人損と物損とを分けてしまうと、人損の部分は敗訴者負担の例外で、物損は敗訴者負担だというと、裁判所はどのような判断をすることになるのか、その辺りも、もしかしたら厄介な問題になるかもしれませんので、検討する必要があるのではないかという気がいたしました。

【飛田委員】 財産的な損害というものに収まり切れないというものも、例えば、公害問題では、生じてくる可能性もあるのではないかと思うんです。例えば、振動や騒音によって生活が脅かされるという問題、電磁波のような問題とか、そういうものに関しては、身体的な不快感というのは、人身への損害ということでくくれますでしょうか。そういう問題については、今まで、判例もそれほどないのではないでしょうか。私は門外漢でよくわかりませんが、新しく起こってきている問題というのもあると思うんです。例えば、どこか工場で地下水を大量に使ったために水の出が悪くなるというような生活の上での大きな問題が生じる場合もございます。公害の中にそれが入るのでしょうか。

【山本委員】 差止請求の場合に一番問題になるのだろうと思います。例えば、高速道路の振動のため沿線住民が夜寝られないというとそれをどうするか、広い意味の差止請求の問題になるのだろうと思いますが、それは損害賠償で何らかの対応をしておいて、あとは裁判所に、少しその趣旨を踏まえてやっていただかないと、一律に、差止めだからというので切ってしまうのは、立法技術的には大変難しいような感じが、私はしています。というのは、差止めの根拠となる権利が何なのかという問題ですが、どういうものが差止めの根拠になるかどうかがまだ固まっていない世界ですから、そこを立法で切ってしまうのは難しくて、私の立場で言えば、人間の健康というものに関わるものであれば、人身損害は敗訴者負担が適用されない領域だとしたことの趣旨を、何とか裁判所に汲み取っていただくという形で対応するしか、当座はできないのではないかという気がします。

【飛田委員】 敗訴者負担制度を導入しないということで、範囲をできるだけ広く解釈していただく必要があると思います。人身と財産ということになりますと、そうではない、そこに属さない権利みたいなものの侵害が抜け落ちてしまいそうな、公害に伴う権利侵害が抜け落ちてしまうのではないかという気がいたします。例えば、土壌汚染などの問題が、すぐさま健康被害に結び付くかどうかわかりませんが、例えば、地下のタンクのようなものが破損して地下水が汚染されるとか、昔の戦争の被害の問題なども昨今ありますけれども、そういった土壌汚染の問題などを、それに不幸なことに水銀が入っていて、何らかの人体への影響が出る場合もありますし、そうでないケースもありますけれども、確かに、そこで快適に暮らす環境、権利が侵害されていることになると思うんです。そういうものに関しても、訴える人が、敗訴者負担の制度が導入されているということになると、やはり訴えにくいと思いますし、また、権利の回復をしようという意欲をそがれるということも考えられますし、この種の問題というのは、立証も難しいと思われるんです。

【始関委員】 飛田委員の御意見を伺っていて思い浮かんだのですが、公害訴訟や薬害訴訟などが挙がっていますが、製造物責任というのは、どのような取扱いにするのでしょうか。消費者関係訴訟という仕切りでも考えられないわけではありませんし、不法行為という仕切りにもなり得ますが、製造物責任ですと、必ずしも人損が生ずるとも限りません。確か、有名な、テレビから火が出たという事件は、どなたもけががなくて、不在の間に家が焼けたという事件でした。そうすると、人損という仕切りにしてしまうと、それでは除けなくなってしまうわけですが、製造物責任などは、物損であっても、敗訴者負担にしない方がいいのかもしれないという気もします。消費者関係訴訟を除く場合と同じ理屈になるのかもしれませんが、ちょっと考える必要があるのではないかと思います。他方、物損もと申し上げましたが、取引的不法行為というものがあります。例えば、企業間で取引をしている間に送金をしたりするときに、途中に銀行が幾つか介在して送金をするということが、海外送金だと行われるようですが、その過程で、途中の銀行にミスがあって送金が行われなかったために損害が発生した場合の賠償請求などは、敗訴者負担でも全然おかしくないような感じがします。だから、不法行為だからというのでうまく切り分けることが本当にできるのかという気がします。
 そういう意味では、前に藤原委員がおっしゃられたと思いますが、属性というか、企業対企業のときには敗訴者負担とか、企業対個人、あるいは、事業者対消費者という仕切りの方が合理的なのかもしれませんが、そのときは各自負担という切り分け方もあり得るのではないかという気もします。

【西川委員】 不法行為による財産的損害の問題ですが、違法コピーの問題であるとか、知的財産権の侵害、これを不法行為による損害ということで、敗訴者負担の例外にしていいのかということになると、必ずしもそうではない。このように議論をしますと、先ほど始関委員が言われたように、とめどもなく詳細に入ってきて、これを法律にしようと思うと、かなりの立法上のコストがかかるような気もします。
 今始関委員がおっしゃられましたし、私も同じようことを申し上げた記憶もありますが、今日の資料2の1ページの①の「範囲の設定に当たっての考え方」の3つ目のポツに書かれていますが、「当事者の属性で分ける」という考え方があってもよいのではないでしょうか。例えば、同一の属性、一番の割り切りとしては法人と私人ということでしょうが、法人間同士ないし私人間同士については敗訴者負担とする、異なる属性であれば敗訴者負担とはしない、敗訴者負担としないけれども、当事者がどうしても敗訴者負担でやろうじゃないかという合意をするのであれば、裁判所はその合意を尊重するという考え方もあり得るのではないでしょうか。同じ属性であったとしても、例えば、人事訴訟などというのは、敗訴者負担にするのがいいのかという問題が出てくると思います。異なる属性であれば原則敗訴者負担を適用をしないとすることによって、大抵の問題は、行政訴訟にしても、労働関係訴訟にしても、消費者関係訴訟にしても、かなりのものが救われるのではないでしょうか。敗訴者負担を導入しないという立場に立てばですが。そういう方向で検討する方が、個別の訴訟類型でやっていくと、始関委員も言われたように、行政訴訟でもいろいろな類型が出てきますし、労働関係訴訟でも組合同士はどうかという問題も出てくるということがあって、本当に説得的な議論になるのかということを恐れるものですから、もう1つの切り分け方として、今、始関委員が言われたような、当事者の属性といった切り口での検討も進めるということが重要なのではないかと思った次第です。

【高橋座長】 今、西川委員が言われことを確認させていただきます。行政訴訟でも、この間から議論がありますように、大銀行が、課税官庁に対して課税処分取消訴訟を行う場合があります。これは法人対法人になりますが、この場合はどうなるのでしょうか。

【西川委員】 それは敗訴者負担です。ただし、行政訴訟について、これだけは特にという、よほどのことがあれば、その例外を設けることもあり得ますが、基本的には法人同士ですから、敗訴者負担でやるということになります。

【高橋座長】 もう1つ、「合意をするのであれば」ということをおっしゃいましたが、これはどのようなものですか。

【西川委員】 個人と法人との訴訟においても、原則は敗訴者負担ではなく各自負担であるけれども、訴える側が、敗訴者負担を適用すべきだと、敗訴者負担でやろうと思うけれどもどうかと言って、被告も同意すれば敗訴者負担にするわけです。アメリカにおける民事裁判における陪審の使い方と同じように、誰かが敗訴者負担には反対だと言えば、各自負担のままになるわけです。それをもって敗訴者負担になるようなケースというのは、多くはないかもしれませんが、当事者間で契約することは、事前に包括的に、訴訟になったら敗訴者負担にするという契約をするのは無理だろうと思いますけれども、訴訟になった段階で合意をするということは、可能であろうと考えます。

【高橋座長】 労働事件で例が出ましたが、最近は未払い賃金の訴訟が多いので、原告が勝つことが多いという御指摘もありました。そういう原告が、敗訴者負担にしようということを提言して、相手も受けて立つということになれば、敗訴者負担になるということですね。

【西川委員】 被告である会社も敗訴者負担でいいですよとなれば、敗訴者負担でやるということです。

【高橋座長】 両方とも強気だと、合意ができますね。

【藤原委員】 お互いに自分の主張が正しいと思っているわけですから、お互いに法的な負い目を感じておらずに臨むわけですね。そういうことから言えば、それがすごく特殊なことであるのか、勿論、ケースによっては、本人は重々悪いと承知していながら、未払いであるとか、あるいは借金の返済ができないというようなこともあるわけですが、お互いに払わないのが当然である、あるいは、払ってもらって当然であるということで、両方が自分が正しいと思って確信をして臨むというケースもあるわけです。そのケースで色分けするべきなのかどうかというのも、とても難しいことではないかと思うんです。そういうことで言えば、離婚の訴訟というのは、まさに本人は結婚継続不能だと思っているわけで、本人は、相手がどう言おうとも、十分以上の根拠があるから申立てをするわけです。相手に嫌われようが、自分は離婚したくないという思いがあるわけです。これは、そのほかの人事訴訟、あるいは、身分関係が変わることによって、いろいろなそれに付随することが起こるということで、身分関係に関わるものに関しては敗訴者負担から除外すべきであるという御意見がありましたが、どこに根拠を求めるかということで言いますと、未払い賃金の方もあるかもわかりませんが、一番それにそぐうのは、離婚などはまさにそうだと思うんです。離婚がまとまらないということは、一方は離婚したいけれども、一方は離婚したくない。だけれども当事者である限りは、本人の気持ちは本人が一番よく知っているのだからということで言えば、同じようなモデルにフィットしそうな感じがするんです。
 今、いろいろな切り口というか、いろいろなプリンシプルをこれに照らし合わせたらどうかというお話がありますが、最終的には、プリンシプルが何層かになっていて、何を一番上位概念に掲げるかというような議論をすべきなではないかと思うんです。もし、その議論ができるとすれば、何をして一番上位のプリンシプルとすべきかということで、法律として書くときに容易である、容易でないということは、別に議論した方がいいのではないかと思うのです。まず、何を上位概念に置こうというところで、ある程度議論をして、そうだとすれば、それを整理するためにはどういう手法が必要かということを考えることは、やりにくい方法でしょうか。

【高橋座長】 今までは訴訟類型別の議論をしてまいりまして、どこまで説得力のある説明ができるか、国会ないし国民を説得できるかということでやってまいりまして、どのようにまとめていくことができるのかなと思っていたのですが、人身損害はどうも無理だということであれば、切り替えてもいいのですが。

【亀井委員】 西川委員のおっしゃるのはもっともで、私どもも、属性ということからも考ええてみました。しかし、属性だけでは割り切れない部分がどうしても出てきます。そうなると、今度は、訴訟類型から、縦からも横からも検討せざるを得ないということになってきてしまいます。ですから、単純に割り切れれば簡単ではありますが、なかなかそうはいかないというのが問題です。例えば、始関委員がおっしゃったように、製造物責任はどうするのかというと、弁護士の間では、製造物責任というのは消費者事件と判断して、消費者委員会の人たちが一生懸命やっています。では、製造物責任は消費者契約法に該当するかというと、直接の販売業者を外してメーカーを訴えるわけですから、契約関係にない部分です。消費者契約法の範囲には入らないんです。だから、消費者契約法に基づく訴訟ということでは外れてしまいます。製造物責任に基づく裁判ということにするか、または消費者に関係する事件とするかなどして、この分野には導入したくないと思います。判例理論としては大変新しい分野で、最近少しずつ、製造物責任に基づく裁判というのは増えてきています。少しずつ、いろいろなことで使われるようになってきている理論です。それでも、まだまだ判例が確立したという世界ではありませんから、皆さんおずおずと裁判をやっている分野です。そういう意味から言うと、やはり、製造物責任も、導入しないという範囲に入るだろうと思います。

【高橋座長】 思わぬ展開で整理ができていないのですが、とりあえずは、人身損害と消費者関係訴訟が残っています。私の理解ですと、人身損害、典型的には医療過誤とか薬害、公害で身体に健康被害がある、こういうものには敗訴者負担は適用しないことにそれなりに説得力があって、国民一般からも理解が得られるだろうと考えています。法律的にも、破産法で、今度人身損害という切り口がつくられますから、立法例も、我が国でないわけではない。勿論、交通事故の人身損害も敗訴者負担を適用しません。交通事故だと自賠法があって、人身損害は物損とは別に切っているということもありますので、それなりの説得力があるとは思っています。そして、人身損害ではないもの、物損と言われるものまで広げていくかどうかというところで両方の議論があったと理解しています。

【山本委員】 特許権の侵害訴訟などで、なぜ各自負担にしなければいけないのかということは、先ほど西川委員が著作権の話をされましたが、私も、それはちょっと問題があるのではないかと思います。

【高橋座長】 不法行為でくくってしまうと広過ぎるということでしょうか。

【亀井委員】 特許権の訴訟はやったことはありませんが、資料1を見ると、特許権について、大企業と中小企業との争いなどは敗訴者負担を入れるべきはないという御意見が、さっと見ただけでもありましたので、企業同士だからいいというわけにはいかないだろうと思います。特許権侵害の裁判自体、大企業と小企業との間のものは幾らでもある得るわけですから、大企業でない限りは、特許権侵害にも敗訴者負担は導入しないというのが筋だと思いました。

【藤原委員】 それは、どうしてですか。

【高橋座長】 なぜ、企業規模の大小で区別するのですか。

【亀井委員】 格差の問題です。力の格差があるでしょう。

【藤原委員】 そうであるとすれば、大企業同士もそうなるのではないですか。

【亀井委員】 大企業同士は、それぞれが防衛力を持ってもともとやっているわけですし、裁判を起こすときに萎縮するということが、敗訴者負担だからと言ってまずないと思います。そういう意味では、大企業同士と中小企業とは全く違うと思います。日本の事業主体自体が、87%が20人以下の企業です。ほとんど小企業です。大企業というのはほんの数%だと思います。そういう中で、力の格差から証拠能力の格差ということを考えれば、それは排除すべきだと思います。

【西川委員】 個人同士でも、所得税を幾ら払っているかとか、固定資産税を幾ら払っているかとか、そういうことで区分けをするのと同じ発想になっていくのでしょうが、そういうことですか。

【亀井委員】 所得税で比べるとか、そんなことを言っているわけではありません。

【西川委員】 法人で分けるというのは、個人においても、お金を持っている人と持っていない人とを分けるということになるのではないですか。

【亀井委員】 個人間の事件も、基本的には敗訴者負担を導入すべきではないと考えています。個人間の事件が、日本でも大半を占めているわけです。個人間の事件の場合には、双方とも証拠をもともと持っていないという意味では、双方各自負担というのが一番無難な線ではないでしょうか。

【飛田委員】 特許の問題ですが、特許も結局交渉力と言いますか、バーゲニング・パワーとよく言われますけれども、また属性の問題に戻ってしまうといけないんですが、力関係が本当に拮抗していて、お互いに経済的にも企業の負担、コストの中で回収できるような形でする場合には、また考えようもあるかもしれないんですが、特許と言いましても、弁理士さんの下を訪れる方たちというのは、必ずしも大企業間の権利侵害を争うような問題だけではなくて、個人、町の発明家のような人たちもいるわけです。そうしますと、町の発明家の方たちというのがどの程度情報を知り得て、相手の状況を把握できているかということ、つまり、これは危ないなということがわかりなから、際どいところで相手の情報を盗んでやっていくタイプの人とか、企業もあるかもしれませんが、全く独創性で自分が個人的に開発していったものがたまたま大企業既存のものと抵触すると言いましょうか、トラブルを起こすと言いましょうか、特許権に関わる問題が生じる場合もあるのではないかと思うんです。そういうことを思いますと、ちょっと飛躍するかもしれませんが、日本が知的財産で発展をしていくということを考えた場合、余り力のない方たちだけれども、研究心に富み、新たなものをクリエイトしようとしている人たちの芽を摘むことのないような配慮が必要ではないかという気がいたします。ですから、確かに、ある一定の規模以上のところで、特に商標などもそうでしょうし、あるいは意匠にしても、類似しているものなどをわざとぶつけてきたり、そのときの流行のものを打ち出してきたり、特許にしても、特許と言えないようなものを出してきて競うケースもあって、そういうものに関して恐らく西川委員はおっしゃっておられるのだろうと思いますけれども、一般的な導入ということになると、目指すべき方向をそこで狭めてしまうというか、芽を摘むようなことがないでしょうか。そんなことを心配するんです。

【藤原委員】 全くその反対の意見です。知的所有権を持っていて、日本の新たな産業の活力にしようとしているのだとすれば、そのためには、組織の大小にかかわらないと思います。要するに、特許というのは、オリジナリティーを競うわけであって、このエンティティー、つまり主体が個人であろうが、組織であろうが、それを合法的に申請して、それが認められるという手続を取らなければ話にならないわけですから、そこに至るまでにも努力が及ばない人と、それまでしてやろうという人の間には、きれいに線を引くべきだと、私は思います。そうでないと、産業として成り立たないわけです。ですから、基本的には、エンティティーが合法的な手続を持って特許を申請するということであれば、それ自体を個人を守るため、あるいは個人の創造性をそがないために云々というのは、全く我々が国として目指している方向とは整合性がないのではないかと思います。

【高橋座長】 これまでは、どういう訴訟類型で切れるかということにウェートを置いて議論していただいて、今の議論では、特許の中でも、大中小の力の格差があるということでした。特許そのものを考えると、藤原委員が言われたように、まさに経済活動です。特許というのは、それ自身発明者の名誉もありますが、特許になるとむしろ経済活動になってくるので、それを各自負担にするというためには、医療過誤訴訟は人の健康そのものだからというような強い理屈が欲しいのです。力の格差という御議論をいただきましたが、それだけでは、多分、法制的には難しいので、もう1つ深い理屈を前回からお願いしているのです。提訴萎縮効果という理屈は、最終的にはそうなるのですが、それに加えて、もっと深い、もっと強い理屈があるかないかの検討をお願いしたいのですが。

【亀井委員】 知的所有権の保護ということは、今、かなり言われていますが、その裁判自体もものすごく少ないのです。知的所有権が侵害されても、大企業相手に、小さいところは、なかなか裁判を起こしにくいという要素があるわけです。その反対も勿論あるでしょうが。そういう場合に、やはり、裁判でもって決着を付けるということで知的所有権の保護を図るというのは、1つの制度としてあっていいのではないかと思います。そういう意味から言えば、知的所有権だから、ビジネス間の取引だからということだけでは、逆に萎縮になってしまうのではないかと思います。今でさえ、かなり萎縮しているわけです。それはパブリック・コメントを見ても、資料1の12ページにも出ていますし、市民の意見というのは大事にしたいと思います。

【高橋座長】 特許についてはとりあえずはこの程度にしておきまして、不法行為という切り口は、先ほど始関委員御自身が、積極意見と消極意見の両方を言われたわけですが、ちょっと広過ぎるかなという気はします。

【山本委員】 先ほど西川委員から御提案のありました法人と個人という分け方というのは、1つの切り口としておっしゃっていただいたわけですが、私は、特許につきましては、藤原委員と全く同意見でして、個人が主体であろうが、法人が主体であろうが、敗訴者負担でいくべきだと、取引社会で、そういう自己責任社会が、まさに今求められているのだと私は思っております。そういう観点からすると、個人対法人というのは、主体の属性で分けるポイントとしては、もう少し考えなければいけないところがあるのではないかなと思います。これは民事法的な分野で、基本的に当事者間の利益分配の問題ですから、民事法的な発想でここは物を考えるべきところだと思いますが、法人対個人というのは、税法の世界では、確かに、前回長谷川委員から御指摘があったように、全然違う世界ですが、民事法的に見た場合に、個人と法人とカテゴライズするよりは、事業者かどうかというのが切り口としては適当なのではないか、特に消費者契約法でそういう切り口を打ち出してくれましたので、そこがポイントなのではないかという気がしています。
 消費者関係訴訟も、消費者契約に限らず、事業者対消費者という切り口で律していけば、始関委員がおっしゃったような製造物責任の問題というものも拾っていけるだろうと思います。立法技術的にはいろいろ難しい手当てが必要なのかもしれませんが、一応、消費者生活に係る問題点について、消費者と事業者との間で訴訟が起こったというのが1つの切り口ではないかと思います。根拠としては何があるかと考えますと、私は、訴訟にかかるコスト等を価格転嫁できる抽象的可能性があるかどうかというあたりが1つのポイントだと思っております。マーケットの関係や、業法規制との関係で、必ずしも価格転嫁できない事業者もいるわけですが、事業者は、抽象的には価格転嫁できるわけです。事業者は、自分の事業活動にかかるコストを価格転嫁することによって危険を分散できるわけですが、消費者はそれはできないわけです。保険に入るということもありますが、少なくとも、保険料については、自分で完全に負担しなければいけないし、それを転嫁する道というのはないわけですから、そういうことを考えますと、私は、事業者対消費者というのが、1つの切り口として、主体での区別という点では、そちらの方が優れているのではないかという気がしております。

【始関委員】 私も、分けようとすれば、事業者間、あるいは非事業間という分け方が論理的ではないかと思っておりました。

【高橋座長】 それはまた大きな問題で、大原則をどうするかで、また後で議論をお願いします。消費者関係訴訟という領域に限定しても、その中でも使えるのでしょうか。その中に包摂されてしまうことでしょうか。

【山本委員】 消費者関係訴訟は確実に含まれてしまうのではないでしょうか。

【高橋座長】 そうすると、特別に消費者関係訴訟という類型を設けなくてもいいということになるのでしょうか。

【亀井委員】 今、始関委員がおっしゃったように、消費者対事業者に関する訴訟でくくれば、全部入ります。先ほどの製造物責任も入ると思います。
 例えば、仲裁法などでは、定義だけを借用して、消費者契約法に言う消費者、事業者ということで条文の中に入れていますから、そういうやり方というのは可能だと思います。

【山本委員】 仲裁法の場合は約款規制ですので、消費者契約そのものでいけますが、この場合は、必ずしも約款規制ではありませんので、契約外の問題も入りますので、それだけでうまくいくかどうかという問題はあります。

【亀井委員】 入れないといけないので、定義だけを持っていくるというのが仲裁法の手法だと思いますから、同じように可能だと思います。

【高橋座長】 そうすると、ここで前から議論になっていた被告になった場合、悪徳業者が原告になって、契約書もできているから代金を払えと言ってきたときも、各自負担になりますが、それでいいということですか。

【亀井委員】 各自負担でいいと思います。

【山本委員】 そこは割り切りだと思います。原告、被告の役割によって変えるというのは、片面的敗訴者負担と同じような問題があり得ると思いますので、そこはもう割り切りであって、役割に関係なく、どちらかに割り振るということでいいのではないかと思います。

【飛田委員】 消費者対事業者ということで、大きい枠としては、私どももそういう枠に入れていただきたいと思っておりますけれども、ただ、少し確認させていただきたいのです。いろいろなケースがありますが、わかりやすい対事業間の取引という以外の広い範囲の問題で、例えば、スキー場内で死亡事故があったときの管理者の責任はどうかとか、あるいは、お店の中で掃除をした後、きれいに水を拭き取っていなかったために転倒してけがをしたというような場合、こういう場合は判例では勝訴になっているのですが、直接的な対事業者との関係でなく、付随して起こってくる出来事を含めていただきたいと思っております。

【藤原委員】 事業者を相手取ってやっているわけですから、ここの中には入るわけでしょう。

【飛田委員】 その辺ちょっと確認させていただきたいんです。余りダイレクトでないものですから、範囲が狭まってきますと。

【藤原委員】 そこの従業員が行ったことであれば、当然そうなるのではないですか。

【飛田委員】 時によっては、説明義務を怠っているような場合もあるでしょうし、例えば、近視の改善の手術みたいなもの、これは医療行為と言えるかどうかわからないのですが、そういうところでの説明義務を怠ったために、後で後遺症が残ったという問題などもあります。完全なる医療とはまたちょっと違いますが、そういう境界域の問題とか、輸入食品などの場合でも、レストランで輸入業者から仕入れたオリーブを出したところ、サルモネラか何かの中毒になったというような事故がありましたが、そういうような場合には、事業者も直接的な責任がどこにあるかということは非常に複雑になってきますが、因果関係を精査していただいて、当然含めていただけるということでよろしいでしょうか。あるいは欠陥住宅の問題で。

【山本委員】 商用の施設であれば別ですが、自分の住宅であれば全然問題はないはずです。

【飛田委員】 販売者以外の設計者とか建築士とかの責任もですね。

【山本委員】 それは勿論、全部入るという趣旨で私は申し上げました。

【飛田委員】 もう1つ、最近、消費者かどうかかりにくい境界域のアルバイト商法であったり、この講座を履修すると後でこういう仕事を紹介しますといったような資格商法的なものがあります。そういったものについて、消費者が、あなたは商売を目的としているのだから消費者ではないという言い方をされるケースが結構あります。しかし、よくよく聞いて突き詰めていくと、最終的なところで完全に就職の紹介をするわけでもなく、事業者はその前の段階のいろいろな利益を得ることを目的としているというような系統の問題があります。そういう問題も、判決では勝っているケースがありまして、事業者はクーリング・オフ期間を短くしようとしているわけですけれども、一方では、結局、業務を提供するということを思わせておいて、実際は内容を見ていくとそうではない、単なる教育の提供であったとかいう場合があります。その辺の境界域の問題も、消費者問題として最近とても増えてきておりまして、不景気になってまいりますと、仕事を紹介しますよという形で物を買わせる場合もあれば、講習を受けさせて、きちんとしたフォローをしないで、それはあなたの腕が上がらないからだと、いろいろなことを言って責任逃れをするケースがありますが、その辺の問題も含めていただけないと、範囲が狭まってしまうということを心配いたします。

【西川委員】 範囲が狭まってしまうのか、広がってしまうのか、どちらがいいのかということも議論でしょうが、先ほど合意ということを申し上げましたけれども、例えば、消費者の立場を考えますと、事業者対消費者の訴訟では、消費者には敗訴者負担を一方的に選択する権利を与えるという方法もあり得るのではないでしょうか。例えば、訴えられたときに、被告としての消費者が敗訴者負担でやりますと言えば、原告は応じなければならない、逆に、消費者が訴えるときに、これは勝ち目が非常に高いから敗訴者負担ということで、訴状の中にどちらかを書き込み、書かない場合には各自負担であるというようにすることが考えられます。消費者の利益を高めるという観点からすると、そういう制度を設けるのが最も合理的だろうと思います。そこまで消費者の利益を高めていいのかどうかという問題はありますが、アクセスという意味からすると、それが一番合理的だろうと思います。

【飛田委員】 西川委員がおっしゃっておられるのは、片面的な敗訴者負担とは違うのですか。

【西川委員】 片面的敗訴者負担を認めるというものではなく、各自負担か敗訴者負担かを、訴訟の始まる段階で消費者が選択できるというものです。

【飛田委員】 そうしますと、消費者が負けた場合には、相手方の弁護士費用の一部を負担しなければならないわけですね。

【藤原委員】 要するに、消費者の方に選択の権利があって、事業者にはその権利がないということなんですね。

【西川委員】 そうです。消費者のアクセスを高めるのには、それが一番いいだろうということです。

【飛田委員】 何も言わなければ各自負担であって、消費者が負けた場合は、事業者の方の弁護士費用の一部を負担しなければならないわけですね。

【西川委員】 敗訴者負担を選んでいればそうです。選んでいなければ各自負担です。

【飛田委員】 そこで、先ほどの属性ということになるのかもしれませんけれども、交渉力ですとか、情報の格差があります。

【山本委員】 リスクを取りたくなければ、何も書かなければいいんですよ。

【西川委員】 どうしても勝てるのに、事業者から訴えられているというときに、消費者の利益を守ろうとすると、このような方法しかないのではなということです。相手は悪徳業者である、弁護士さんに相談しても絶対勝てる、応訴しなければいけない、そのときには敗訴者負担適用とすれば、相手の人たちはやめるかもしれない。一定の訴訟においては、一方的選択権を消費者に与えるということも、1つの方向としてあるのではないでしょうか。消費者保護ということでは、そういうことが言えるのでははないでしょうか。

【山本委員】 将来の仲裁契約について、消費者だけにオプションを与えるという法制が取られていますから、全くあり得ない話ではないのもかしれませんが、ただ、難しいのは、当事者間の財貨の分配の問題を、一方当事者だけのオプションにかからしめるのが、何か私としては釈然としません。非常に面白いアイデアで、目を見張る思いがしましたが、そこのところはもう少し詰めなければいけない問題が残っているのではないかという気がします。

【飛田委員】 大変難しい問題だと思います。ある意味では御配慮いただいた、温い御発言というようにも伺えますが、実際のところ、消費者が直面している問題と選択ということがなじむかどうか。現実の状況からしまして、敗訴者負担制度の導入になるわけですので、消費者問題についての敗訴者負担ということになりますから、私は、現段階では時期尚早ではないかという気がいたします。

【西川委員】 泣き寝入りの場合は、もう仕方がないということですか。勝つことがわかっているのに。

【飛田委員】 勝つことがわかっているとおっしゃいますけれども、そこが難しいのではないでしょうか。

【西川委員】 弁護士さんに相談しても、これは100%勝てますから応訴しましょうというアドバイスをいただいたときに、勝っても自分の弁護士費用を、200万円を勝つがために50万円を弁護士に払うということでもいいということですか。私は、それはどうかと思います。消費者と言われますが、一市民という立場で、私もそういう場に置かれますと、そういう訴訟を闘うときには、敗訴者負担を選んでやっていくだろうと思います。

【飛田委員】 その判断がなかなか難しい問題の方が世の中には多いのではないかという気がするんです。片面的敗訴者負担制度という形で導入していただきたい分野はたくさんあります。製造物責任の分野とか、そういう形でやっていただくのならいいのですが、そうではない形で、消費者がそこで判断をするということは、もう少し法律に皆がなじんで、敗訴者負担という制度にもなじむと言いましょうか、そういう言葉を知ったり、知識を得ていく過程で、将来そういうことがあり得るのかもしれませんが、ちょっと私は判断に迷います。

【亀井委員】 私も判断に迷うので、それもいい方法かもしれないと思いつつ、今、管轄合意とか仲裁合意などが印刷されている定型約款がかなり多いので、それと同じように使われることになると困るとか、いろいろ考えてみたいと思います。耳目に値する御見解かと思います。

【長谷部委員】 この問題は、今日結論を出すというものではありませんし、じっくり考えていただければいいと思いますが、考え方としては、私も、よいアイデアだと思います。判断が難しいと飛田委員が御指摘になりましたが、もし、そういうリスクを取りたくないということであれば、行使しなければいいわけです。現在問題なのは、本当は自分は勝てるかもしれない、敗訴者負担にしたい、自分が正当な権利があるにもかかわらず、自分の弁護士費用を自分で負担しなければいけない、相手から損害賠償で取れる金額が少ない場合には、むしろ持ち出しになってしまう問題があるのではないかということです。そういう問題を解決するためには、やはり敗訴者負担でいいという人には、それを選ばせる権利は与えた方がいいと思います。

【飛田委員】 判例を拝見していますと、少しずつですが、事業者の側から弁護士費用の一部を回収している判決が出てきています。私は、そういう判決を積み重ねっていっていただいて、事例の積み重ねというものが重要な財産となっていくと言いますか、蓄積として、これから先生かされていくことがいいのではないかと思っています。
 必ず勝てるという保証があれば応訴するという、裁判をゲーム感覚で起こす人は一般の人にはいないのではないかと思うんです。よほど法律に習熟していて、なおかつ経済的にもゆとりがあって、そういうことにもチャレンジしてみようかという方がいらっしゃるかもしれませんが、現実には泣き寝入りしているケースが多い中で、どうしてもこれは訴えずにはいられないというような悪徳性を世の中の人に知ってもらいたいという思いから訴訟を起こされる方もいらっしゃるのが現状で、お金は取り返せなくてもいいから、とにかくこのひどさを知ってもらいたいという被害者も、実際に判例を見ていますとあるのですが、そういうことなどに象徴されるような状況が、私はあるような気がしていまして、それは理想的な近未来のお話のような気もするんです。

【長谷川委員】 1985年くらいから、建築家は、住宅に商品住宅という名前を付けたんです。それまでは、大工さんや工務店と住まい手と設計者と三者で話し合ってつくっていたものが、大手の企業によって、住宅が商品に変わってきたんです。食べ物もそうですし、洋服も、前はつくってもらっていたのが既製というようになって、消費者というものを生み出したんです。あわゆるものが消費社会の中で、私は、この中で司法というものは、もう遅いくらいでしょうが、見直した方がいいと思うんです。近未来のことだとおっしゃいましたけれども、私たち国民は、全部消費者なんです。あわゆるものが商品化してしまった時代を生きているんです。ここ20年近くそんな時代を生きていて、しかし、そういうものに対しての法的な対応というのは遅れています。建売建築も、かつての一品生産のときよりも、事業主が不法なものをつくって逃げるということがとても多いんです。私は、先ほど伺っていると、属性と言ったって、今や1円で株式会社がつくれるという時代で、若いコンピュータの人たちは、まさに法人化し出しているわけです。私の周りには、10人以下の法人はたくさんあって、事業主と言ったってピンからキリまであるわけです。そうすると、いろいろな意味で、事業主と言っても格差がある。実際、大企業間で訴訟が起こったときでも、本当に敗訴者負担を希望するかどうかだってわからないと思うんです。ですから、西川委員が言うように、敗訴者負担かどうかということを合意するというのは、なかなか進歩的な、消費者社会のいい方法ではないかと、私は感想としてはそう思っております。企業間のことでも、大変な隔りがある国です。何万人もいるところと、私のところような小さな会社もあります。
 私だって、私の名前で取った特許があります。使われたら訴えますよ、というようなことになるかもしれないんです。逆に、特許は嫌いだから使ってくださいという気持ちがあったりするんです。敗訴者負担だと裁判したくないのではないかと思ったりしますし、変な使われ方をしたら、敗訴者負担で裁判をしたいなという思いもあります。ケース・バイ・ケースだということはとても感じるんです。そうだとすると、あらゆることで敗訴者負担というのではなく、希望する人達が合意の上で敗訴者負担になるというのは、私には新しいイメージがします。感想です。

【三輪委員】 先ほど、消費者と事業者の関係で西川委員から発言がありましたが、そのような合意ないし契約等を手続法、あるいは実体法にどのように組み込むかという点についてはなかなか難しい問題もありそうですが、大変ユニークな、検討に値するアイデアだと思います。ただ、それをどこまで広げるかということも、併せて考えていく必要があるわけで、先ほど出ていた労働関係訴訟の労働者と会社との関係、人身損害の場合の被害者と加害者の関係というところまでは広げられるのではないかと思います。ただ、労働組合と会社の関係ということになるとどうなるのかとか、外縁はぼやけてきますね。ほかに仕組めるとすれば、消費者と事業者との関係以外にも広がる御提案だと理解します。

【山本委員】 一方当事者保護というのを根拠にして、敗訴者負担を導入しないで各自負担だとすべき領域には、西川委員のおっしゃった御提案はすべて妥当することだと思います。ただ、人事訴訟のように、対等当事者だけれども別の理由から排除する場合には、そのロジックは使えなくて、仮に入れるとすれば、先ほどおっしゃった合意型、両方が納得しないとだめだということになるのでしょう。

【高橋座長】 消費者関係訴訟を区切るときの、例えば消費者契約法が適用になる事件という区切り方は、立法上非常に難しいということでした。通常は、消費者契約法でいくとしても、併せて民法上の主張、例えば詐欺などを補充的に出しておくわけです。そうすると、裁判所は、どちらを取ってもいいわけです。まさに法律構成が変わるということですので、そのようなことでの類型化は難しいという問題があります。そういうこともあって、事業者対消費者という切り口で切ってみてはどうかという御意見や、当事者の合意という案はどうかという御意見が出ました。
 ここで、少し休憩を入れまして、休憩後は、事業者対非事業者、合意、これまでにも出てきていますが、この辺りでもう一度改めて片面的敗訴者負担についても議論していただくことにしたいと思います。その関係で、現在の判例理論との関係も出てくるのかもしれません。

(休  憩)

【高橋座長】 論理的順序とは違うかもしれませんが、合意ということをもう少し私なりに確認させてください。それから、事業者と非事業者という議論が出てまいりました。その辺りの議論をもう少ししていただいて、時間があれば片面的敗訴者負担の問題に入っていきたいと思います。
 最初に合意と言われたとき、学者の悪い癖で、世界で聞いたことがない、ほかの国にあるのだろうかということを思いました。敗訴者負担の額の合意というのは、イギリスにはそれに近いものがあるような気がしますが、敗訴者負担にするかどうかを合意にかからしめるというのはないのではないか。しかし、日本から世界に向かって新しい制度を出すことはいいことですから、それはここで検討していきたいと思います。
 まず、合意は、両方あり得るのかという問題意識を持っています。つまり、各自負担のときに敗訴者負担にしましょうという合意もありますし、敗訴者負担であると法律がなっているときに各自負担にしましょうという合意もあって、両方あり得るのかと思います。どちらが当事者にとって使いやすいのでしょうか。また、一方当事者による宣言でできるのかということも問題になります。私の問題意識はそういうことですが、敗訴者負担と当事者の合意をリンクさせるということについて、自由に御意見をお願いします。

【山本委員】 私は、合意は両方あり得るのではないかと思っています。つまり、各自負担から敗訴者負担にするという合意もありますし、敗訴者負担から各自負担にするという合意もある、これは片方に限る根拠はどうも見つからない感じがしますので、双面的に合意があるべきだと思っています。
 根拠は何かというと、結局は、これは当事者間の利害調整の問題ですから、当事者に委ねても何ら問題はないと思います。ただ、これを言い出しますと、訴訟費用についても合意ができるのかという問題が次に出てきて、そうすると、我々の管轄を越えて広がっていくところがありますので、そこのところをどう見るのかというのは、1つの問題ではないかと思います。

【高橋座長】 弁護士としてはどうなんでしょうか。依頼者の方から、これは各自負担の事件だけれども敗訴者負担で行ってくださいと言われたときに、負けそうだからやめましょうということは、弁護士は言えないですね。

【亀井委員】 そうですね。本人の意思というのが大変微妙だろうなという、そこで選択を誤ったら、後で弁護士の過誤になるのかとか、その問題があります。本人自身がよくわからないだろうから、ものすごくトラブルが増えそうだなという問題が1つ出てきますね。
 また、契約約款については、合意管轄を契約でもしています。最近、サラ金業者の事件などをきっかけにして、無効だというのが出てきていますけれども、そこまで行くまでに大変な時間がかかるという問題があります。
 それから、先ほどの悪徳業者の場合ですが、今でも悪徳業者の場合は、不法行為で弁護士報酬も1つの損害として立てている場合が多いので、そういう場合には、今でも救済策はあるのです。

【山本委員】 最後の点ですが、それは、原告側が損害賠償請求を立てているときだけで、悪徳業者から履行請求をされているような場合、例えば、最近では保証料を元本充当するような判例がどんどん出てきていますが、そのような場合には対応できません。被告側のオプションが1つあっても、問題は少ないのだろうと思います。
 もう1点、約款の話ですが、これは提訴後でないと合意はできないとすればいいのではないでしょうか。合意ですから、いつできてもいいのかもしれませんが、提訴後、結審までであれば、口頭弁論終結時までだったらいつでもできるということにすればいいのではないでしょうか。ただ、オプション行使は、後の方で確実に勝てるようになってからオプションを行使をするのは余りにも不公平なので、それは提訴時ということになるのだろうと思います。事前にというのは、いろいろな問題がありますから、それは制度としてはまずいだろうと思います。

【始関委員】 合意の時期は提訴後であるというのは、当然だと思います。今、山本委員は、口頭弁論終結時までとおっしゃられましたが、控訴審になってから合意することもできると考えるべきなのかどうかというのは考える必要があると思います。今日の資料2の中にも出ていたと思いますが、上訴審になってからの訴訟費用の負担というのは、控訴棄却の場合は、控訴の費用だけしか決めませんので、その建前と狂ってきますから。

【山本委員】 審級ごとというのも、1つの選択肢ではないですか。

【始関委員】 審級ごとで、控訴審になってから合意をして、それで原判決破棄になったときにはどうするのでしょうか。

【山本委員】 確かに、それは考える必要がありますね。

【飛田委員】 今のお話に関しまして1つ思いますことは、外国の例で、弁護士費用が敗訴者負担になっていて、どうしても負けられないからどこまでも訴訟をやっていこうというような、弁護士報酬を巡っての裁判の継続ということが、事例としてあるようなんです。そういうことを思いますと、その問題はいただけないと思いますので、避けるべきだと思っております。

【山本委員】 それは、タイムチャージの関係で言われている話ではないでしょうか。つまり、弁護士報酬の算定方法が、期日の数や時間で比例するように、弁護士が働けば働くほどいっぱいもらえるようになっている仕組みとの関係で、そういうお話があるわけで、それを事後的に当事者間でどう割り振るかという問題はとは関係がないだろうと思います。

【飛田委員】 先ほど、必ず勝てるという場合には、選べるようにというお話ですけれども、1つ思い出したことがありまして、変額保険の被害者の方のお話で、あんなに銀行と保険会社がぐるになって、やり方も巧妙でひどかった、あんなひどいことをされているのだから、当然勝つと自分は思っていたとおっしゃった言葉を、私は思い出しました。つまり、消費者サイドから見れば、勝てるだろうと思う、自分は何も落ち度がないという認識にあるわけです。このままではお孫さんや子どもたちにつけを回しますよということで脅されるような形で変額保険に入って、銀行も一緒に来ていて融資をしたというケースのようなんです。つまり、遺産相続にお金はかかるし、大変だということで、半ば脅されるようにその方は変額保険に入って大変な被害に遭った、自分は正常な判断をじっくりできないような環境に置かれて購入に及んだものであったし、やり方に問題があると、相手方に瑕疵があるというような認識にあったので、当然勝てると思っていたとおっしゃるんです。ところが、裁判所というのは冷たいものですよとおっしゃるわけです。自分たちの主張に全く耳を貸さなくて、銀行側がいろいろな情報提供をしてきたり、ちゃんとした書類を出さないで、都合のいい情報ばかり提供してきて、結局強いものの味方だったと、その方はおっしゃったんです。その方の一部始終を存じ上げているわけではないので、その方の正当性をここで申し上げるつもりはありませんけれども、消費者はそう思っているわけです。自分は勝てると思っているという強い確信が、もし、先ほどおっしゃったような形で、敗訴者負担の選択をすることが可能になった場合、そういう方だったら、これは元を取ってやろうとか、いろいろお思いになっただろうと思うんです。その方の判決が正当であったかどうかはわかりません。わかりませんけれども、結果的に、その方は負けて、大変な状況にあって、その方の知り合いにも、家財道具まで持っていかれるような大変な状況に負い込まれている人もいるんだという話もちらっとされていましたけれども、そういうこともありますので、消費者が選択をするということは、大変危険性が高まるのではないでしょうか。

【山本委員】 敗訴者負担の選択が問題になるのは、自分が弁護士を付けているときだけです。本人訴訟でやっているときには、オプションを行使する意味は何もないわけです。弁護士を付けているわけですから、弁護士の判断を前提としつつやるということですから、ある意味の消費者の倫理感から来る確信の問題とは違うレベルで、もう一度フィルターがかかるはずです。
 私は、仲裁法のときに、オプションを持つと、消費者が間違ったときに消費者が困るのではないかという議論があったと聞いて、唖然としました。やはり、消費者も、これからは、法的道具を戦略的に使う強い消費者になっていただくというのが、先ほど長谷川委員がおっしゃっていただいた近未来の消費者像だと思います。あなたはよく知らない、かわいそうな人ですねと言うだけが消費者政策ではないと、私は思っています。という意味で、オプションというのは、強い消費者になっていただく1つの手がかりとして、私は非常にすばらしい提案だと思っております。

【長谷川委員】 多分、合意をするというのは、弁護士が決めることになるのでしょう。クライアントが嫌だったら、弁護士は下りて合意してくれる人を選ぶので、弁護士が相当選択権を持つことになるのだろうと思います。敗訴者負担が嫌だったら弁護士は下りるでしょう。敗訴者負担をやるということは、弁護士の先生が決めるのだと私は思うんです。
 私は、敗訴者負担にすべきものというのが、伺っていくと、企業間のことくらいしかなさそうだし、余り敗訴者負担にすべきものが見えないからお伺いしているのです。根拠も見えてこないところが私にはありまして、公平さということを前から伺っていて一番強いのですが、しかし、これも、裁判長の考え方とか、社会の変化によって、判断というのも変わってくるだろうと思うし、なかなか公平というものが確実なものとだと思えません。あるいは、不当な訴えというのも、伺っているとそんなにたくさんあるわけではないしということで、勝ちたいために誰でもが訴えるわけではないとすると、提訴を萎縮することにつながるというのも、そんなにすごい根拠になれないと思うときに、私は、この敗訴者負担の根拠というのが、そんなに強いものではないように思うんです。ですから、基本としてはやはり各自であって、その中で、オプションとして、合意による敗訴者負担があるというように考えたいと思います。基本が敗訴者負担ではなくて、今までどおり各自負担があって、その中で、是非オプションとして、敗訴者負担にしたいという方が選んでいけるということであってほしいと思います。敗訴者負担というものを基準とするというところの根拠は、今まで伺ってみて、私は納得はしていないんです。

【高橋座長】 それは意見書以来のことですが、先ほどの議論は、消費者対事業者ということで、消費者側に選択権を与えようということでしたが、長谷川委員は、どちらでもいいと、事業者にも与えていいということですか。

【長谷川委員】 いや、基本は各自負担で、その上で、合意があれば敗訴者負担です。

【高橋座長】 合意はいいのですが、先ほど山本委員も言われましたけれども、オプションは、訴訟法的に見ると、ちょっと強過ぎるのではないかという感じもします。

【山本委員】 民事法的に見てと言った方がいいかもしれません。そこで、何かもう1つ理屈がほしい。なぜオプションなのかと。ただ、アイデアとしては本当に面白いので、私も、もう少し理屈をこれから考えてみたいと思います。

【高橋座長】 今日は新しい問題提起ですから、次回までに考えるとして、もう1つの大きな問題、事業者と非事業者で切ってしまう方がいいのではないかという御意見が、数人の委員から言われましたが、これについてはいかがでしょうか。

【山本委員】 事業者と非事業者というのは、非事業者の範囲がもう1つよくわかりません。町の発明家が趣味で特許を登録していますという場合、これは事業者なのか、非事業者なのかというのがよくわかりません。ただ、これは消費生活に関わる問題でないということにはなるので、消費者として訴訟に関わるわけではないと思います。だから、私は、やはり消費者としてというところに力点を置くべきで、事業者と消費者で分けるべきではないでしょうか。非事業者と消費者は、必ずしもイコールではないという感じがしていますが、始関委員はいかがですか。

【始関委員】 私が「消費者」という言葉を使わないで「非事業者」と申しましたのは、「消費者」と言うと、普通、消費者契約法で定義されている消費者ですが、たしか、消費者契約法上の消費者というのは、事業でなくして契約を締結した者ということになっていますので、消費者契約法上の消費者にしてしまうと、製造物責任などが全部抜けてしまいますから、消費者契約法上で言う意味での「消費者」という言葉は妥当ではないだろうと思いまして、それであえて「非事業者」という言葉遣いをしただけです。ですから、別の消費者概念をつくれるのであればそれでもいいのです。

【高橋座長】 始関委員は、消費者関係訴訟という類型の中でそう切りたいということですか。

【始関委員】 事業者と事業者の間の訴訟は敗訴者負担で、消費者と消費者の間の訴訟は敗訴者負担で、事業者と消費者の間の訴訟は各自負担という分け方が、1つ考えられるのではないかということです。

【高橋座長】 人身損害であっても、極端に言えば行政訴訟だって同じということになるということですね。

【始関委員】 極端に言えば、そうです。

【西川委員】 私は、もう一度繰り返しますけれども、同じ属性の当事者間においては、敗訴者負担を原則とする。ただし、双方が各自負担でやりましょうと合意をする場合はこの限りではない。それから、異なる属性の当事者間においては、各自負担を原則とする。ただし、敗訴者負担でやりたいと双方が同意するのであれば敗訴者負担でできる。ただし、一定の類型、人身損害であるとか、消費者の問題であるとか、一定のものについては、一方当事者にどちらかを選ぶ権利を与えるという仕組みがあってもよいのではないかということです。
 当事者の属性については、どう定義するかというのは、事業者、非事業者、いろいろあるでしょうけれども、私は、法人にしようというのは人の意思が働いているわけですから、社団法人であろうが、営利法人であろうが、法人か個人かで分けるのが極めてすっきりとしているのではないかと思います。国と県、国と企業が争う場合は敗訴者負担を原則とする。別途の法理がない限りは敗訴者負担を原則とするということです。

【高橋座長】 中小企業対大企業などという考えは入れないということですか。

【西川委員】 入れません。

【飛田委員】 お伺いしたいのですが、そうしますと、例えば、隣との境界争いなどはどうなるのですか。

【西川委員】 敗訴者負担を原則とするということです。

【飛田委員】 そうしますと、数多くの日常的に起こる法律的に解釈を必要とする事態、紛争ですね。それは私人間であれば敗訴者負担になるということですか。

【西川委員】 私人間であれば、事業者間であれば、敗訴者負担を原則とするということです。それでどうしても困るもの、そうすると、かなり限られていくだろうと思いますので、そこで除外するものを決めていけばいいのではないかと思います。いろいろな概念が入ってくるとわからなくなるものですから、議論の切り口として整理しやすくなってきますし、また、妥当ではないかと思います。

【飛田委員】 私は、違う考え方です。私どもは特定非営利活動法人で、何も財産のないところです。法人という名前が付いておりますが、とても訴訟当事者になれるような資力はないところです。それは別におきまして、私が見た判決の中にもあったように思いますが、家を貸していた人が家賃を滞納して困るので、それは業者が管理しているのですが、鍵を勝手に取り替えたという事例があります。家賃を滞納した側に、確かに滞納という落度はあるわけですが、勝手にその人の家の鍵を取り替えたという行為に対して、判決ではそれはいけないということが言われているわけです。そういう判決を拝見して思いますのは、やはり本人が直接に自立救済的なことをしていくことを認めると、こんなに今治安が悪化しておりますが、余計紛争が激化しまして、暴力的な解決を図る人も出てくるのではないかと思います。私人間の紛争がそもそも起こるのは、先ほどの山本委員の御意見を聞いたり、藤原委員と休憩時間にお話ししたときに思ったことですが、現状が、消費者であれ、私人であれ、非常に状況が弱いものであるという認識に立っていると、いつまでも社会は変わらないという、今の規制緩和の時代と言いましょうか、自己責任の時代と言いましょうか、そういうことを自覚すべきであるという御意見ですが、だから一歩を踏み出そうという積極的な目標へ向かう姿勢であると思うんです。私の立場と言いますか、考え方は、その一歩を踏み出す前に、まず準備運動をしましょうという立場なわけです。というのは、準備運動がなぜ必要かと言いますと、日本の社会の中で、法の秩序というのが果たしてどの程度浸透しているかということを考えるからなんです。私人間の紛争について、西川委員のお考えは理解はできるんですが、ただ、私は、今の日本の状況を考えますと、もっと法的に物事を解決していくことを積み重ねていく中で、一般的な常識として法律が普遍化してくるのではないかということを思うわけです。現状では、足踏みをしながら、徐々に体を暖めていって、踏み出していこうということが必要なので、敗訴者負担制度の導入というのは極力控えるべきで、そこは長谷川委員と同じです。ということで、私人間の問題はもとより、法人間でも有力な法人と特定非営利活動法人など、闘う前から結論が出ているような力の格差があることがございますし、法人は法人であっても、いろいろな状況があると思うんです。ですから、慎重に、準備運動時期であるということも、お考えいただけたらと思った次第です。

【高橋座長】 こういう類型はかわいそうだというだけでは、立法としてはなかなか通らないのですが、事業者対消費者、あるいは非事業者というようにすると、割と無色にいけるのかもしれません。

【亀井委員】 例えば、個人対個人という属性、企業対企業という属性、一般的に見れば公正かもしれませんが、それこそ千差万別で、同じ属性でも、とても十把ひとからげに同じとは事実上は言えません。ですから、訴訟類型からの検討も必要になるのだと思います。特に、個人対個人というのは、貧富の差もあれば、力の差もあれば、ものすごく幅があるわけです。そういう中で、類型的に見ると、個人間の事件も、証拠がほとんどありません。だから、勝敗の見込みもつきません。そういう中で、新しい権利がどんどんできてきて、裁判をすることによって法創造的な機能がどんどんできている分野だと思います。更に、相隣関係とか、近隣関係などは、勝ち負けということが余計に紛争を増長させてしまうと思います。裁判所は、紛争解決をする機能があるということを重視すべきだと思います。そういう意味では、訴外で大げんかをする、殺し合いをするというのを避けて、司法で解決するということを市民間に定着させるべきです。それには、司法にどうやって提訴しやすくするかという観点から考えざるを得ないと思います。例えば、借地借家ということで考えてみると、住むという生存の基盤の問題が多いわけですから、ヨーロッパなどでは、借地借家は除外している国が幾つもあります。そういう意味で、同じ属性だから全部同じということがとても言えない社会において、それで切るというのは、すごく不合理だと思います。

【藤原委員】 亀井委員のお話の中で、借地借家のお話ですが、大家さんはたまたまお隣に住んでいるのかもわかりませんが、私の定義では、借地なり借家を営んでいるわけですから、本人はそう自覚しているかどうかわかりませんが、カテゴリーとしては、大家さんはあくまでも事業主です。日本の場合は、余りにも事業を営んでいるという自覚のない大家さんが多いがために、借りている方が大変不都合をしているという場合もありますし、勿論、それが住んでいる人にとってアドバンテージになっている場合もあると思いますが、私自身がいつも気にしていた類型で、それを個人間だと、今、亀井委員がおっしゃったものですから、定義の中では、それは事業主と借家人ですから、カテゴリーが違うパーティーの間での訴訟ということに定義するべきではないかと思います。

【亀井委員】 そういうことでお考えいただければ、それで結構です。

【山本委員】 法人か個人か分ける考え方がしっくりこないのは、その点です。例えば、消費者契約法上は、個人商店で物を買っても消費者契約法の適用があるわけです。そういうことを考えると、今の司法の体系からすると、先ほど、「消費者」という概念がまずいということは始関委員から御指摘いただいて、そのとおりだと思いましたので撤回しますが、事業者対非事業者という切り分け方の方が座りがいいのではないかという気がします。事業者の中でも業法規制上法人になれない事業者もあります。弁護士はつい最近までそうでした。そういうことも考えますと、法人というのも絶対的なものでないと思います。

【始関委員】 私もそう思いました。例えば、消費者金融の問題などでも、消費者金融業者には、必ずしも法人格を取得せずに個人でやっている人もいますが、これはまさしく消費者関係訴訟なので、そういうものが除けるようにするには、法人かどうかという切り口ではまずいのではないかという気がします。
 長谷川委員がおっしゃったことが書かれているのではないかと思いますが、資料2の1ページ目の①の一番最後のところに、「弁護士報酬を経理処理できるかどうか」とあります。事業者は、貸借対照表に基づいて税を納入しますが、弁護士費用は負債ですから、負債として処理できるので、負債として処理できるもの同士、非事業者と非事業者であれば、お互いに負債処理できないもの同士で対等ということで、一応理屈はつくのではないかという気はします。
 勿論、人事訴訟のように、同じ非事業者同士でも敗訴者負担にしない方がいいというものもあると思います。それは西川委員がおっしゃるとおりだと思います。

【高橋座長】 立法的にどこまで書けるかは、今日ここでは議論しないということにして、大きなフィロソフィーですね。

【長谷部委員】 私も、訴訟類型で人事訴訟などで抜ける部分があるということは留保するにしても、事業者と非事業者、事業者同士であるか対事業者であるかということで区別でするのがいいと思います。その場合、事業者なのか非事業者なのか、どうくくるかということが非常に重要な問題だと思いますが、例えば、亀井委員がおっしゃった中で、個人の中でも、資力のある人もいればそうではない人もいる、情報量が多い人もいればそうでない人もいるということでしたが、いろいろなファクターを持ってきますと、結局、区分がすごくあいまいになってしまうと思います。資力云々ということであれば、例えば、法律扶助という手段で、ある程度対等にするということができるわけですし、情報格差ということであれば、それを埋めるために弁護士が付くわけです。これは、今までも何度がお話ししたことだと思いますが、情報格差ということを余り強調しますと、何のための弁護士費用の負担なのかという話になってまいりますので、先ほど山本委員がおっしゃった、訴訟に要するコストをほかに転嫁できるのかどうかいうことがメルクマールになると思います。そうすると、先ほどの大家さんなどの場合は、ほかにも借家を持っているということであれば、そちらに転嫁できるということがあるでしょうし、経済的なリソースが余り潤沢でない人か、ちゃんと持っている人かという区分で多少は調整をするにしても、そういう割り切りにした方がいいと思います。

【亀井委員】 今の御意見に対して申し上げたいのは、弁護士が付いたからと言って、情報がいっぱい出てくるわけでは全くありません。弁護士会照会をしても、回答をくれないところもいっぱいありますし、弁護士が付いたから証拠がいっぱい集まるというのは幻想です。大企業対中小企業の争いということになれば、中小企業は何も持っていないという、資料として請求書しかなかったということはいっぱいありますから、誰が付こうが、客観的に、最初から強い弱いという立場はもともとあるというしか言いようがありません。逆に言うと、そういういろいろなファクターがあるから、各自負担でやらざるを得ないだろうというのが、私の方の結論です。

【長谷部委員】 私は、証拠の話をしているわけではありません。証拠がないのは、いろいろな訴訟においてある程度宿命みたいなところもあると思っていますが、情報格差と言っているのは、訴えを提起して勝つか負けるわからない、判断がつかないという意味で、そういう意味での情報不足というのは、弁護士さんが付けばある程度埋められるはずだという、そういう趣旨で申し上げたわけです。

【亀井委員】 ある程度は埋められると思いますが、幾つも敗訴の山を越えてやっと勝訴に至ったという典型的な事例が幾つもあるわけです。今、古典的な裁判のほかに、新しい権利の主張がどんどん出てきて、新しい判例がどんどん出てきています。そういう意味では、弁護士でも全然勝つか負けるかがわかりません。

【始関委員】 事業者と非事業者の間は敗訴者負担の例外にするという話になっているわけですが。

【亀井委員】 そうではありません。事業者対事業者の場合でもという意味で言っているわけです。全く同じではないでしょうか。中小企業と商工ローンの裁判といういうのはいっぱいあって、やっと勝ちつつあるということです。ですから、最初に裁判を起こすときには、絶対勝つとか、勝つ見込みが5割というようなことは、弁護士としてはとても言えない事件がどんどん出てきています。

【山本委員】 貸金業者には個人事業者もいるというお話がありましたが、それでは、中小企業同士だとどうなるのでしょうか。

【亀井委員】 各自負担でいいと思います。

【山本委員】 しかし、基本的にマーケットプレーヤーとして事業に参入しているわけですから、そこは消費者、労働者とは立場が違うわけです。それについてはある程度リスクを取るということでないと、事業というのは成り立たないのではないですか。事業者の社会というのは成り立たないのではないですか。

【亀井委員】 日本の場合、

【山本委員】 日本の場合というのが強過ぎて、結局、あらゆる点で誰かが必ず中小企業を助けてくれるというようなことがまかり通ってきたがために、日本の経済の不効率がある程度温存されてきたという側面もないわけではありません。だから、ドラスティックに変えるのがいいかどうかは別の問題で、ソフトランディンクをしなければいけないと私も思いますが、その発想だけでずっと来ていいのかどうかというのが、今問われているのではないでしょうか。

【亀井委員】 ただ、現実の問題として、小規模企業というのが90%近くあるわけです。それと大企業との事件、中小企業でも大体300人ですね。

【山本委員】 それは、いわゆるディープポケット論です。ディープポケット論というのは不公正だというのは、私は、基本的に前提としなければいけないと思っています。金があるから出す、その人には幾ら負担をかけても構わないという発想を、この問題に持ち込むべきではないと私は常々思っておりまして、それはおかしいのではないでしょうか。何がディープポケットかどうかも今はわからなくなってきているわけです。名のある上場企業であっても、いつ法的倒産手続に入ってしまうか、産業再生機構のお世話になるかわからない、何がディープポケットかすらもわからない時代ですから。

【亀井委員】 私どもは、司法に対して萎縮効果があるかどうかで考えています。そうすると、原則として各自負担と考えるべきであると思います。

【山本委員】 非事業者対非事業者の訴訟については、まだ完全には決断し切れないところがありますが、事業者対事業者の訴訟というのは、例外を認めるのは難しいのではないかと思っております。

【飛田委員】 今のお話をお伺いしながら思い出したケースがあります。それは、中小企業者の範疇に属する人たちのトラブルです。A店で安売りをしたわけです。コスト割れのような値段で、どこかからかうまく仕入れてきて安売りをしたために、B社が経営を脅かされて、それが不当な、コスト割れの販売なわけです。消費者にとってみれば、安い方がいいというような別の角度からの見方もあるかもしれませんが、独禁法上の不公正な取引方法というのでしょうか、そういう不当廉売がA社によって行われて、B社が訴訟も起こせないくらいと言いましょうか、大変な損害を被って、差止めの請求をしたいけれども、差止めのためのお金を積むことすらできない状況に、つまり行政なりどこかに言ってもなかなか対応してもらえないがために、中小企業同士ですが、争うところまでいきにくいような、ですから、今、訴訟が起こった場合のことを話しているので矛盾するかもしれませんが、中小企業同士であっても、不公正な取引方法が絡んでくる問題もあります。

【藤原委員】 それに関して申し上げますと、例は悪いかもわかりませんが、今は、大企業であろうとも、新しいビジネスモデルが出た途端に、古いビジネスモデルにのっとったビジネスというのは、一夜にして崩れ去るという時代です。そういう場合には、勿論、大企業は大企業なりの資力を傾けてすらそうなわけです。今おっしゃっているようなことが、個人商店だとか、流通業の間で熾烈な闘いが行われていることは事実ですが、資力が等しい、あるいは比較的近い間ですらそういうことが起こり得るというのは、既に今の産業、あるいは事業という環境から見れば、まさに先進国の経済状態というのはそうなってきてしまっていて、これに関しては、もう我々の歴史を昔に戻すという段階ではないような気がしますし、そういうことによって、企業というのは、大変言葉が悪いかもわかりませんけれども、常に更新されて、刷新されて、スクラップ・アンド・ビルドの時代に入ってきているわけです。ですから、事業を営んでいる者が、昔なからの商法でいつまでも生き延びることができる云々というのは、それはそのコミュニティーに対してどういう弊害があるかとか、そういうことに立脚すれば議論はまた全然違ってくると思います。だけれども、現在、我々が直面している産業界の変革、それによって消費者も不利益ばかりを被っているわけではない現状だと思いますし、そういうことは、与えられた現実として受け取らざるを得ないのではないかと思います。

【長谷川委員】 意見募集に企業人がどれくらい意見を出してきているかというのも興味があります。日本は、亀井委員がおっしゃるように、家内事業の人もあれば、中小企業がたくさんいるんだということならば、中小企業同士の訴訟については敗訴者負担がいいかとか、大小の企業にとって敗訴者負担がいい理由とか、本当に企業の人が望んでいるかどうかという、そういうアンケートを取っていただくことはできないのでしょうか。企業の人からの考えが出てくると、本当に敗訴者負担を必要としているかどうかが明快に出てきていいような気がします。企業人の考えは、今日の資料1をざっと見ても少ないような気がします。望んでいるか、望んでいないかで決めることはないと思いますが、どのように考えているかというのは参考にすべきことではないかと思います。

【高橋座長】 今日は、今までと議論の立て方そのものを変えるような御発言がありました。先ほど言いましたように、世界初の合意型というのも面白いと思いますけれども、ほかにも何かありましたら、早目に出していただければと思います。

【始関委員】 先ほど来の議論を伺っていて、基本的には、属性が違う者同士は敗訴者負担にしないで、今までどおり各自負担でいくということについては大方の意見の一致があったと思います。しかし、同じ属性の者同士をどうするかというのは問題があって、事業者であっても、例えば商工ローンで、この資料1の2ページのところにも、商工ローンの事件は消費者事件ではないということを書いておられる意見がありますし、先ほども、事業者というカテゴリーには一応なるけれども、妥当ではない場合もあるのではないかという御指摘が亀井委員からもありました。
 事業者でも、例えば、民事再生でも、小規模な事業者については特別な手続をつくったりしていますが、今3,000万円で、今度は5,000万円にする法案が出ることになります。また、別な形で、少額訴訟を除くという発想もありましたが、訴額でも線を引くということも考えられないわけではないと思います。それがいいかどうかは、必ずしも今は申し上げませんが、反対される方にも配慮するとすれば、1つの方策として、そういう形での切り分け方があるかもしれないと思いました。しかし、額が低い訴訟で被告になった場合ほど本当は困るということも気になるところで、それで自分の意見は申し上げないのですが、そういう切り分け方も、もしかしたらあるのかもしれないと思って、お話を伺っていました。

【高橋座長】 訴額が低い方は、基本的には各自負担ということですね。

【山本委員】 私もそれは1つの考え方だと思っております。ただし、やはり人身損害をまず類型的に除くというのが前提条件で、それプラス、合意の有無によっては変動があり得るとすれば、1つの考え方だという気はします。

【始関委員】 当事者の属性と、訴訟類型と、訴額と、合意とをうまく組み合わせてということでしょう。

【山本委員】 パズルのようになって大変ですが。

【長谷部委員】 訴額が低い方は各自負担でいいという理屈を考えるとすると、訴額が低い事件は、少額訴訟まで低くはなくても、比較的単純な事件が多いので、弁護士が必ずしも必要でない場合も結構ある。そういう理屈があれば、弁護士を付けたい人は各自負担でしなさいという理屈が立つかと思いますが、果たしてそのようになっているのか。金額が低ければ、中には単純な事件もあるのではないかという感じはしますが、必ずしもそうでもないとも思います。例えば、訴額ごとに本人訴訟がどのくらいあるかという資料でも出てくると、少し議論はしやすいのではないかという気はします。

【亀井委員】 以前、簡裁の事物管轄の拡大に関して最高裁から資料が出ていましたが、その中に、多分、本人訴訟の割合などが簡裁と地裁とに分けて出ていたように思いますが。ただ、イングランドでも、100万円以下、いわゆる少額裁判というものは各自負担になっています。

【長谷部委員】 日本の少額訴訟は今度60万円までになりますが、イングランドはもう少し高くなっています。

【高橋座長】 簡易裁判所が140 万円までですね。訴額だと、どの辺りで切るかということが問題になります。山本委員も言われましたように、人身損害などは、人の命ですと億までいきますから。結局、始関委員が言われるように、組み合わせることはいいのですが、どう組み合わせるかは問題ですね。
 当事者の属性という考え方が出ました。訴訟類型については、今まで議論してきました。そして、今、訴額でという考え方が出ましたし、合意の有無でという考え方も出ました。ほかに何か切り口がありますか。

【飛田委員】 団体訴権が導入されるとどうなるのでしょうか。少額多数被害の場合などが結構あります。

【高橋座長】 委員がおっしゃっているのは、クラスアクション的なものですね。議論が二段階になっていて、とりあえずは、ヨーロッパ型の約款の無効の差止めなどが第一歩で、次に、アメリカ型の損害賠償まで行くかという二段階の検討になっているのではないでしょうか。

【飛田委員】 ドイツでは財産の請求もできるような形になっていますが、敗訴者負担の問題もあったりして、なかなか消費者団体が訴訟を起こしにくいような状況がたしかあったと思います。

【高橋座長】 団体訴訟については、特別法になるのでしょう。そこで議論していただけるのではないでしょうか。

【山本委員】 団体訴訟ですと、おそらく、団体に特別の請求権を与える方向で立法化されていくと思いますので、立法的に、特別法上の手当てが可能だと思います。ですから、一般の司法の問題とはかなり様相が違いますから、ここで必ずしも議論しておかなくてもいいのではないでしょうか。しかるべきところ、公正取引委員会や国民生活審議会その他で議論していただければいいのではないかと思います。

【高橋座長】 ある種の訴訟類型論ですね。ほかに何かありますか。

【亀井委員】 片面的な敗訴者負担についてですが、提案しておきます。日弁連の意見書にも出ていますが、何でもかんでも片面的敗訴者負担と言っているわけではありません。行政事件の場合、独占禁止法24条の差止請求訴訟、消費者契約法10条による約款の無効確認訴訟、それから、公害、環境訴訟の差止請求訴訟の場合に限って申し上げています。公益性が高いということと、本人だけの問題だけでなく、周辺のものに対する影響も大きいということで、これらについては片面的敗訴者負担を導入すべきであると提案しています。

【山本委員】 今の点ですが、何度も申し上げていますように、公益性があるからと言って、なぜ、被告が原告の必要費用をファイナンスしなければならないかというのは、私は説明はできないと思っております。公益性だけでは弱いのではないでしょうか。つまり、公益のために、なぜ、私人が犠牲にならなければいけないのか、行政訴訟はまた別ですが、私人間の利害調整問題で、なぜ、一方的に、片面的に負担を負わされるのかというのは、私は説明できないと思っております。

【亀井委員】 ほとんどが大企業相手の訴訟です。

【山本委員】 先ほど来申し上げていますように、大企業だからというのは理由にならないと、私は思っております。

【西川委員】 私人同士の訴訟で公益的な政策目標が実現されたとしても、負けた方もいい議論を展開していくわけです。原告の方も、被告の方も、いろいろな主張をぶつけ合いながら、1つの判断、たまたまどちらかが勝ってどちらかが負けるかもしれませんが、そういうことも踏まえて、1つの政策形成になっていくわけですから、一方的に、公益目的が実現されたから負けた方が全部もちないというのは、全く筋が通らないのではないかと思います。

【亀井委員】 今でも、不法行為の判例理論では、それでほとんど確定しています。

【西川委員】 それは、公益目的だからという理由ではないのではないですか。人的損害のものは、損害の回復という理由ではないですか。

【亀井委員】 そこまで広げているわけではありません。すごく限定をして提案をしています。最初ですから、慎重にということで、アメリカなどに比べると、すごく分野を絞っています。

【山本委員】 棄却されても、公益目的は実現されるわけです。ルールがわかるわけです。こういう場合は不公正な競争方法を取っていないということがルールとして明らかになって、それによって取引社会が安心してこういうことをやっていいということがわかるという意味で、公益は実現されるので、認容されたときだけ公益目的が実現されるというのは、公益概念について、やや偏った考え方を取っているのではないかと、私は思っております。

【飛田委員】 例えば、対行政の場合などですが、行政におられる方は、それぞれ御自分の役割を一生懸命果たしていらっしゃると思いますが、人員の問題とか、情報の収集の過程、あるいは行政手腕の問題とか、行政の予算の問題とか、いろいろなことで果たし得ない、つまり積み残しの問題ですとか、あるいは積み残されている人がいることを認識できない状況というのが現実にあると思います。そういうところから不服を申し立てる人が出てくるということは、つまり、やるべき仕事がまだあるということを、そこで積み残されて困っている、権利の侵害に当たる場合もあるでしょうし、そこまで至らない場合もあるかもしれませんが、警鐘を鳴らすという社会的な役割を果たしている、貢献をしているというように、私は考えたいと思います。この前にちょっと申し上げましたが、パブリック・コメント制度にしても、政策評価の仕組みにしても、つい最近導入されつつあるという現在進行形の過程で、十分な成果を上げ得ていないかもしれませんが、意見聴取の仕組み、それからリスク・コミュニケーションなどの体制の不備とか、そういったものが背後にあるということを知らしめたという貢献度に対する御褒美と言ったらいいのでしょうか、そういう考え方もあるのではないかと思います。

【山本委員】 誰が御褒美を払うのかということを私は問題にしているわけです。例えば、独禁法訴訟で勝訴して、ある種の人たちが大幅に救われたとすると、救われた人が払うということであれば、私は構わないと思いますが、なぜ相手なのかということが説明できないのではないかということを再三申し上げているわけです。行政訴訟によって多くの人が救われたのであれば、ワン・オブ・ゼムである1人がやったことでみんなが利益を受けたのなら、利益を受けた人がその人にファイナンスをしてあげるというのが1つの考え方で、私は、それは非常に合理性のある考え方だと思います。クラスアクションの弁護士報酬の定め方は、まさにそういうことでやっているわけです。ところが、なぜ相手方なのか、なぜ相手方が原告をファイナンスしてあげなければいけないのかということが、到底説明できないと思っています。

【亀井委員】 行政訴訟の場合には、行政が違法なことを行った結果による結論ですから、行政が片面的に負担してしかるべきではないでしょうか。

【山本委員】 それを言い出すと、原告が負けたときに敗訴者負担にならないようにすべきだとおっしゃっているところの論拠が崩れると思います。提訴時の不確実性を議論されるわけですが、裁判で原告が負けたということは、原告に権利がないということが、司法の世界で確定したわけです。にもかからず、その人はリスクを負わないという主張がずっとされているわけです。各自負担だという形でしかリスクを負わない。ある種のカテゴリーの人たちが負けたときだけ、その人たちが悪いことをしたから負担すべきだという議論になぜなるのかということが、私は理解できないのです。

【亀井委員】 それこそ、公平の概念なのではないでしょうか。

【山本委員】 それは、やはりディープポケット論です。

【西川委員】 銀行が、外形標準課税はけしからぬと言って、裁判で勝ったわけですが、そういうときには、我々タックスペイヤーの負担でもって、銀行の弁護士にお金を払うべきである、独占禁止法でカルテルだと認定を受けた審決に対して争って、国に対して企業が勝った、そのようなときには、タックスペイヤーが企業に対して弁護士費用を払うべきであるということですね。銀行や企業が勝ったときにだけ。それでタックスペイヤーは納得するのでしょうか。

【飛田委員】 対行政に関しては、社会を発展させていく、不備を少しでも是正するという役割を担っている、言わば住民の代表という役割を担っているという認識で申し上げたことなんです。企業対行政の問題も考えていかなければいけないと思いますが、とりあえず限定させていただきますけれども、そういうようなことで申し上げました。

(2) 今後の日程等

【高橋座長】 今日は、かなり根本的な問題の提起がありました。随分議論が進化したと思いますので、次回以降も引き続き御議論いただきます。なお、大体の方向性は見えていると思いますが、そもそも金額が幾らかということも、完全に了解に達しておりませんし、これは最終的には立案当局にお願いするのもしれませんが、資料2の後ろの方に記載がありますとおり、訴訟技術的にはいろいろな問題があるということです。次回以降、今予定しているのは2回ですが、よろしくお願いします。
 それでは、昨年当検討会で検討していただきました訴訟費用額確定手続の簡素化について、最高裁の方で、民事訴訟費用等に関する規則等の一部改正案をつくっていただきましたので、最高裁判所からその御説明をいただきたいのですが、いかがでしょうか。

(各委員了承)

【最高裁判所舘内課長】 民事訴訟費用等に関する法律が改正され、来年の1月1日から施行ということになっています。この法律において最高裁判所規則に委任された事項につきまして、最高裁判所規則案がまとまりましたので、御説明させていただきたいと思っています。お手元に、資料を用意させていただきましたので、御覧ください。
 全体としては、民事訴訟費用等に関する規則、民事訴訟規則、その他について改正を考えています。
 まず、民事訴訟費用等に関する規則の改正の関係ですが、主立ったものとして、4つの点があります。1点目が、「当事者等の旅費の額の設定」です。去年の5月に開催されました検討会で、私も、旅費の計算等は非常に大変だというお話をさせていただきましたが、この点につきましては、法律で、住所地の簡易裁判所と出頭地の簡易裁判所間の直線距離を基準として、最高裁判所が定める額とされました。そこで、改正民訴費用規則では、距離で金額を決めてしまうということで、10キロ以上100キロ未満は1キロごとに30円、100キロ以上301キロ未満は1キロごとに50円、301キロ以上は、301キロ未満の部分は1キロごとに50円、301キロ以上の部分は1キロごとに40円といった形で計算していってはどうかと考えたところです。また、同一簡裁内の場合には、基本的には定額の300円とし、裁判所から500メートルという至近距離の場合には、歩ける範囲でもありますので、ゼロでもいいのではないかと、このような区分をさせていただきました。勿論、これには法律上例外がありまして、実費を請求したい場合には、領収書等を出していただければ実費を認めることになっています。ただ、それが非常に面倒であるという方もいらっしゃいますし、旅費の改定や鉄道運賃の改定などがあると、昔の時刻表を引っ張り出して、昔の費用を計算するといったこと、もしくは鉄道が新しくできたとか、いろいろな場合があると思いますが、それを遡って調べるというのは非常に大変だということもありますので、領収書等がなくても、一定金額については保障しましょうというものです。大体、現行の6割か7割くらいになるようにしてあります。例えば、松本から東京地裁へ出頭する場合ですが、今、きちんと計算しますと、合計で1万3,090円となります。一方、直線距離が172 キロになりますので、単価50円で計算しますと、172×50=8,600円、約7割弱ですが、これだけは、領収書等がなくても請求ができるということになります。このようなことで、旅費の簡素化を図っていこうというものです。
 2点目が、「書類の作成及び提出費用の額の設定」です。書記料は、もともと、1枚ごとに150円ということで、裁判所に提出した準備書面や書証を1枚1枚数える必要がありました。これは、数えるのも大変ですし、1枚150円という額、現在のコピーの発達などを考えると高いのではないかというような御意見があったところです。そこで、法律から委任をされた範囲で考えまして、訴訟については、基本単価1,500円と定めさせていただきました。ただ、当事者間で書類を複数交換し、大部にわたる場合には、準備書面や書証の写し等の通数に基づいて加算をしていくことにしました。また、相手方の数が多いという場合も、加算の基準にしていこうと考えたところです。基本的に、ごく普通の事件では、準備書面は5通くらい、書証は15通くらい提出されると考えられますが、この辺りまでは1,500円としまして、さらに書類の通数等が増えれば一定額を加算するということになっています。これが、書類の作成及び提出の費用です。
 第5回の検討会で、計算が非常に大変であるという御説明をした際に使った「訴訟費用額計算書」いう表がありますが、これを改正案によって作成してみますと、非常にあっさりしたものになります。合計額につきましては、現行では6万9,000円余りであるのが、改正案だと5万9,700円余りになるということで、若干低くはなりますが、これには手数料の引下げ分も入っていますし、現行の書記料・提出費用は高過ぎるのではないかというところがありましたので、リーズナブルなものにはなっていると思います。
 3点目は、「当事者の日当及び宿泊料の額の設定」です。これも証人へ支給する額を考慮しながら、出頭したら幾らということで、単価を決めたものです。
 4点目は、「手数料の現金納付」です。手数料につきまして、検討会でも、高額の現金を持ち歩くということについては、いろいろな意味で危険が多いのではないか、不便ではないかという御意見がありました。そこで、手数料の額が100万円を超えるときは、振込等により現金で納付できるということにしました。ちなみに、手数料の額が100万円というのは、訴額は3億2,700万円になります。
 次に、民事訴訟規則の改正の関係ですが、「訴訟費用額確定処分の手続の簡素化」です。訴訟費用額の確定手続をするときには、必ず、相手方に対して計算書等を出すように催告をしなければならないことになっています。しかし、先ほど御説明したような改正により、負担額が客観的にわかるような場合、記録だけで明らかな場合も出てきます。そこで、訴訟費用について、相手方が100%負担する場合で、負担の額も記録上明らかなときには、相手方に催告をしなくても負担の額が定まるという形にしてはどうかということで、この催告の部分を省きました。
 その他につきましては、申立て手数料のうち、人身保護請求につきましては、従来から、最高裁判所規則である人身保護規則で手数料が決まっています。申立て手数料につきましては、今回の法改正で全体的に見直しがされ、手数料が引き下げられたもの、物価等の経済的な変動を考慮して見直しがされたものがあります。人身保護請求は、民事保全と基本的には同じ形でとらえられているものであるところから、民事保全の申立ての手数料と同じように、現在1,500 円であるのを2,000円にすることを考えているところです。
 以上、最高裁判所規則としては、民事訴訟費用等に関する規則、民事訴訟規則、それから人身保護規則、これら3つの規則の改正について御紹介させていただきました。また、先ほど御説明しました旅費等の訴訟費用の額については、裁判所の方でも、今回の法改正の趣旨などを踏まえながら、各裁判所における運用の参考となるように、例えば、書類作成・提出費用については、どの事件を単位として、どのくらい回収できるか容易にわかるような表のようなものを作成したり、申立書の作成等が容易にできるようなひな形なども準備していきたいと考えているところです。

【高橋座長】 ありがとうございました。何か御意見、御質問がございましたらどうぞ。

【山本委員】 要望ですが、訴訟費用が簡単に計算できるようなソフトウェアを是非開発していただきたいと思います。倒産法関係で、非常に難しい計算を要する法務省令がありますが、それなどもソフトウェアを使って簡単に計算できるようにしておりますので、それと同じようなことを、是非御配慮いただければと思います。

【高橋座長】 是非、訴訟費用もどんどん回収するというように実務慣行が変わっていけば、私どもの検討会としては幸いです。
 それでは、事務局から、今後の日程についてお願いします。

【小林参事官】 次回については、10月30日の木曜日の同じ時間です。引き続き、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて検討をお願いしたいと思っております。今回、かなり多岐にわたる論点が出ましたので、次回までに、どのような意見があって、どのような切り口が出たか、もう1回整理し直して、引き続き検討をお願いしたいと思っています。

【高橋座長】 今日は随分議論が出ましたが、立法的に無理だというものもあるかもしれませんので、事務局でも検討していただきたいと思います。
 それでは、次回は10月30日ということで、今日はこれで終わりにいたします。どうもありがとうございました。