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司法アクセス検討会(第20回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり



1 日時
平成15年10月30日(木) 13:30〜16:36

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
高橋宏志座長、亀井時子、始関正光、西川元啓、長谷川逸子、長谷部由起子、飛田恵理子、三輪和雄、山本克己(敬称略)
(説明者)
犬飼健郎(日本弁護士連合会副会長)
(事務局)
山崎潮事務局長、松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官

4 議題
(1) 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて
(2) 今後の日程等

5 配布資料
資料1 弁護士報酬の敗訴者負担(第20回検討会参考資料)
資料2 訴額別弁護士選任状況(地裁第一審・平成9年既済事件)
資料3 日本弁護士連合会提出資料
 (3-1)日本弁護士連合会意見の補充書(平成15年10月 日本弁護士連合会)
 (3-2)弁護士報酬敗訴者負担制度導入に関するアンケートの公表(公害対策・環境保全委員会のアンケート結果に基づく分析と評価)(2003年10月22日 日本弁護士連合会)
 (3-3)弁護士報酬の敗訴者負担制度調査報告−欧州における制度と運用−(2003年10月30日 日本弁護士連合会弁護士報酬敗訴者負担問題欧州調査団)

6 議事(○:委員、●:事務局、△:説明者)

(1) 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて

事務局から、資料1及び2に基づいて説明がされた。
日本弁護士連合会犬飼健郎副会長から、資料3に基づいて説明がされた。
その後、次のような意見交換がされた。

○ 当事者間の合意の有無により分ける考え方、訴額により分ける考え方もあったが、日本弁護士連合会としてはどのように考えているのか。

△ この検討会での議論も参考にさせていただいてと考えている。現時点では、意見を外部に発表できる段階ではない。

○ 片面的敗訴者負担の例として住民訴訟を挙げておられたが、例としては適当でない。住民訴訟は、自治体が有する権利を住民が自治体に代わって行使する構造になっており、訴訟によって利益を得た自治体に対して償還請求ができる。敗訴当事者に請求できるわけではない。住民訴訟を例に挙げるのはミス・リーディングではないか。また、行政訴訟全般が納税者の利益につながる訴訟かというと、必ずしもそうではない。原告の個人的利益だけが保護される行政訴訟もある。

△ 行政訴訟の全てが納税者全体の利益につながるわけではない点は、御指摘のとおりである。しかし、行政の行為は訴訟をしなければ争えないため、訴訟が不可避である。行政訴訟によって同じ間違いがなくなるので、皆の利益になる。

○ そうだとすれば、あらゆる訴訟について、ルール作りに役立つものは全て皆の利益になるということになる。私人間取引に関する訴訟であっても、ルール作りに役に立てば、皆の利益になるということになる。ある取引方法が許されるかどうかに関する訴訟は、皆の利益に役立つことになる。地方税に関しての訴訟は、皆の利益になるのに、実際に費用を負担するのは、訴訟で負けた自治体の住民だけである。皆の利益になるからというだけの論拠で片面的敗訴者負担を基礎づけるのは相当難しいのではないか。

△ 私人間の訴訟では、訴訟を避けることができるが、行政訴訟の場合はそれを避けることができないので、片面的敗訴者負担でいいのだと思う。

△ 私人間の訴訟でルール作りに役立つものも同じではないかという御指摘は、ごもっともである。しかし、行政訴訟では、公権力の行使に関する基準を具体化するという点で公益性がある。

○ 敗訴者負担が導入されると和解がしにくくなるという話を聞いたことがあるが、どう感じているか。

△ 勝訴すると思っている当事者は、和解に応じなくなるだろう。しかし、勝訴するかどうかが分からない事案が多いのが実状である。

○ 和解に至る要素はいろいろあり、一概には言えないのではないか。

○ ベンチャー・ビジネスに関わっている人は、大企業とは力に差があると言っていた。事業者と言っても下請けが多い。下請け業者は訴訟を起こせないこともある。事業者間だから敗訴者負担でいいとは言えない。

○ 資料3-1の4ページに、生活の維持に不可欠な訴訟については敗訴者負担を適用すべきでないという意見が書かれているが、裁判の利用を萎縮させないような敗訴者負担制度ならいいという趣旨なのか、敗訴者負担はおよそ駄目だという趣旨なのか。パブリック・コメントの結果を拝見すると、自分で依頼した弁護士等への報酬の工面に苦労するという意見もあり、各自負担のままでは提訴を萎縮するとも考えられる。各自負担のままでも提訴萎縮は起こり得るわけで、敗訴者負担制度を導入した場合の提訴萎縮とどちらが大きいのかという問題があるのではないか。

△ 後者の趣旨である。自分が依頼した弁護士への報酬の負担が重いというのは分かる。ただ、負けた場合に相手の弁護士報酬を負担するのが問題である。自分が依頼する弁護士への報酬は交渉次第で何とかなるが、相手の弁護士の報酬はどうにもならない。

○ 前回、いろいろな考え方が示された。できれば、新しい考え方についての議論を深めていただければと思う。また、委員から、どの考え方を中心にするのかを検討すべきという御意見をいただいていたので、中心にすべき考え方があるのかどうかも含めて御意見をいただければと思う。

○ いろいろな考え方があるが、諸外国では同様の制度があるのか。あるとすれば、それに対してはどのような評価がされているのか。ないとすれば、採用されていない理由は何か。

● 主な諸外国の制度の概要については、第6回検討会資料7で紹介したとおりである。

○ アメリカではどうなっているのか。

○ アメリカでは、各自負担が原則で、個別的に片面的敗訴者負担がある。

○ アメリカで片面的敗訴者負担制度が導入されているのは公民権訴訟などでである。差止請求の場合は、勝訴しても経済的利益は得られない。ヨーロッパでは、このような分野で敗訴者負担があるので対応できるが、各自負担だと弁護士報酬が持ち出しになるので片面的敗訴者負担になっているということではないか。日本でも同じ制度にすべきだということには必ずしもならないと思う。アメリカでは、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟では成功報酬制が採用されており、日本とは弁護士の報酬制度も違う。

○ 合意により敗訴者負担にする制度は、外国にはあるのか。

○ 全ての国の制度を調べたわけではないが、そのような制度はないだろう。

○ 法曹の専門性にギャンブルを持ち込むような印象を受ける。法律に疎い市民に敗訴者負担にするかどうかの判断を求めるのは問題である。弁護士と顧客の関係はどうなるのか。裁判官はどう判断するのか。不当訴訟については、別の制度で厳しく対応した方がいいのではないか。

○ ギャンブルになるという御意見だが、合意をするかしないかの選択権があることがギャンブルにつながるという趣旨か。

○ 合意が強制されるのではないかということを恐れている。

○ ここでは、合意の強制はないという前提で議論をしていたのではないか。訴訟提起前の合意では駄目で、訴訟提起後に訴訟上の合意という形で行うという前提での話ではなかったか。当事者双方に弁護士が付いている状態での合意であり、合意を強制されるということはない。

○ 駆け引きに使えるという面がないとは言わない。しかし、弁護士に相談した上で同意するかどうかを判断するという話である。あまり考えすぎると何もできなくなる。

○ 当事者に自信があるかどうかは、裁判所は和解の場面で見ている。同意により敗訴者負担にできる制度が導入されたからといって、変わるところはない。

○ 多少は駆け引きに使われることがあるのではないかと心配している。

○ どちらか一方が敗訴者負担にするかどうかを決められるというのなら駆け引きの道具にもされようが、合意ならそれほどでもないのではないか。

○ 裁判所が、本案の心証とは関係のないものだと考えてもらえるとよい。

○ そこは裁判所を信頼していただきたいと思う。

○ 裁判所を何度も利用している人はそのような制度になじむのだろうが、そうでない人にとってはどうか。まず、弁護士に依頼する際に、報酬はどうするかという問題がある。利用者から見れば、合理的な水準にしてもらいたい。そのような問題があり、さらに合意するかどうかという問題が出てくる。よけいに紛争が激化するのではないか。

○ 私は、日本の国民はそれほど弱い国民ではないと思う。敗訴者負担が嫌なら合意をしなければいい。原則各自負担にしておいて、合意があったら敗訴者負担にできる制度がいいと思う。各自負担が原則であることが大事だと思う。

○ 合意ができる分野は限定されるのか。それとも、全部の分野で合意ができるのか。資料ではよく分からないが。

● 資料1は、意見を対比させることが容易になるようにということで整理させていただいた。後ろの方で、前回の検討会での委員の御意見を紹介させていただいているが、その中には、全ての分野で、合意をした場合には敗訴者負担の適用ができるようにすべきであるという趣旨の御意見も紹介させていただいている。

○ 合意ができる分野を限定するのかしないのかについては、両論あり得るだろう。合意によるという考え方を提示された委員は、敗訴者負担になる部分とならない部分を分けて、ならない部分でも合意で敗訴者負担にできるという御意見を述べられたので、このような整理になっているのだろう。訴訟外で紛争になった場合の弁護士報酬について契約する場合は、消費者は自分で判断しなければならないが、今議論しているのは、訴訟になって、弁護士等が付いている場合に合意をするかどうかという話である。そこで大きく間違うことはあまりないのではないか。多くの弁護士は、確実に勝てるとは言わないだろうから、慎重に判断するということになろう。それでも合意するという場合は、自己責任の世界である。自己責任を全部排除するのはおかしいと思う。そこまで日本の国民が弱いとは思えない。

○ 訴訟提起後に合意で弁護士報酬を訴訟費用にする制度は外国にはないのかもしれないが、紛争になった場合の弁護士報酬について、予め契約で取り決めをすることは一般に行われている。分野によることもあろうが、規制法がない限り、これは法律上有効なのだろう。だとすると、合意により敗訴者負担にする制度は、全く新しい制度ではないと思う。

○ 現実に、紛争になった場合の弁護士報酬について事前に契約で取り決めをしておくことは、特許のライセンス契約などで行われている。合意により敗訴者負担にできる制度は、訴訟内の手続で償還請求できるところにメリットがある。訴訟外の取り決めは、請求のために別途手続を踏むことが必要である。今回の制度は、既に基礎ができあがっていて、その上に新たに作るというイメージである。

○ 敗訴者の負担となる額はどうなるのか。

○ 例えば、訴額をもとに上限額を決めておき、その範囲内にするなど、いろいろな考え方があり得る。定額にしてしまうこともあり得る。

○ 議論が錯綜している感があるが、ここで議論するのは、訴訟になってからの合意ということで進めてはいかがか。

○ 私の考えでは、外国では、濫訴が多いから敗訴者負担を採用しているという理解である。日本はこれから司法が使われるようにしていく段階である。敗訴者負担という制度を知らない人の方が多い。弁護士、司法書士へたどり着くまでにも落とし穴がある。敗訴者負担ということを訴訟が初めての人に説明すると、普通の感覚で言えば、お金も助かるし、そちらに行きましょうということになる人が多いかもしれない。金銭の状況にもよると思うが。

○ 今の御意見は、敗訴者負担にした方が訴訟が促進されるという趣旨の御意見か。

○ そうではなく、逼迫した状況の中で選択を迫られ、相手から弁護士報酬の一部を取れるかもしれないと言われたら、困難な状況から逃れるために選択をしてしまって、選択を強制されたようになってしまうのではないかということを申し上げている。

○ 通常は、弁護士が積極的に制度を使うことを勧めることはあまりないのではないか。

○ これまでの御意見では、全ての分野で合意があれば敗訴者負担、なければ各自負担という考えもあれば、別の基準で敗訴者負担になる領域とならない領域とを分けておいて、ならない領域でも合意があれば敗訴者負担にできるという考えもあるようだが、合意によって敗訴者負担にできる範囲についてはどう考えるか。

○ 敗訴者負担を導入しても問題がないのは、大企業間の訴訟くらいだろう。だから、どういう訴訟でも、合意があったら敗訴者負担にでき、合意がなければ各自負担というのがいいと思う。

○ 資料1には、合意がないと敗訴者負担になり、合意があると敗訴者負担を排除できる制度についても書かれているが、これは厳しいだろう。

○ 確かに、合意がないと敗訴者負担になるという制度は、司法制度改革審議会の意見書からややずれるという印象を受ける。敗訴者負担になる分野があって、それを排除する仕組みを作るとすれば、当事者の一方の意思表示だけで良いという形にした方が、意見書により近いと思う。

○ 一方の当事者だけが敗訴者負担にするかどうか選択できるというのはおかしいと思う。やはり合意だろう。

○ 弱者保護のために敗訴者負担にしないという前提での議論で、弱者がいいと言うなら敗訴者負担にするという趣旨の意見で、それはそれで合理性があるのではないか。

○ 私は、あるべき姿としては、敗訴者負担を広く導入すべきだと考えている。しかし、条件の整っていないところはあり、そのようなところには導入すべきではないという議論をこれまでしてきた。合意により敗訴者負担にできる制度をどう位置付けるかが問題である。意見を収束させる方向としては魅力的な案である。この案に反対するつもりはない。しかし、司法制度改革審議会の意見書では、勝訴した当事者が弁護士報酬の一部を回収できるようにするとされていた。相手方の同意を要件に敗訴者負担にできるというのでは、やや狭すぎるのではないかという気がする。

○ 意見書がそう言っているからといって、この検討会では敗訴者負担に向かうことを前提に議論をしなければならないというのはおかしいのではないか。

○ パブリック・コメントの結果を見ても、世論は、圧倒的に反対の意見の方が多い。世論に反しても敗訴者負担の導入をするというのはいかがなものか。全面的に導入しないというわけにはいかないから、慎重に導入して、世論がどう動くのかということだろう。

○ 当事者の合意があると敗訴者負担にできるという制度だけにしてしまうのがいいのかどうか。今でも契約でできることである。その延長だけでいいのかどうか。例えば、大企業間の訴訟は敗訴者負担にして、その他の分野は合意による敗訴者負担にするという制度が考えられる。法律にできるかどうかは分からないが。多くの委員が敗訴者負担にしてもいいと考えているところには、敗訴者負担を導入してもいいのではないか。最初は慎重にということでよいと思う。

○ 私には、敗訴者負担にしなければならない分野がはっきりしない。

○ 事業者間の訴訟には敗訴者負担がよいと考えることはできないか。

○ 中小の事業者も含めての話だとすれば問題だと思う。まずは、合意があれば敗訴者負担にできるという制度にしておいて、その利用状況を見て次のステップに進むという方法がいいのではないか。敗訴者負担がいいという分野がはっきり出てこないので。

○ 少額訴訟の上限額よりもう少し上のあたりの訴訟で、勝訴しても経済的利益が得られないような場合には、敗訴者負担を導入してそれに対応するということは考えられるだろう。こういうところでは、勝っても弁護士報酬を負担しなければならないのが問題になる。提訴萎縮という話はあるが、合理的な判断は期待できるのではないか。

○ 今までここで議論してきた中で、敗訴者負担にしない方がいいという範囲の議論は大切にしたい。当事者の属性で分けるという考え方があり、この考え方では、属性の異なる当事者間の訴訟は敗訴者負担にしないということだった。このようにすれば、多くの不都合な事案に対応できるのではないか。そこで、属性の異なる当事者間の訴訟には敗訴者負担を適用しないことにして、それ以外の領域では、合意があれば敗訴者負担にできるという形でもいいのではないかと思っている。敗訴者負担を導入しない範囲を確定させて、それ以外のところでという考えである。

○ 当事者の属性で分けて、敗訴者負担の適用がないとされているところでも、合意があれば敗訴者負担にしてもいいという議論をしてきたのではないかと思うが、今の委員の御意見では、属性の異なる当事者間の訴訟では、敗訴者負担にする合意もできないということになるのか。

○ そういうことである。

○ 当事者が合意をしているのに敗訴者負担にできないという分野があるのか。

○ あるとしても、少額訴訟だけだろう。少額訴訟は、制度の仕組みからして、代理人の関与は必要ないという説明がつく。しかし、合意という仕組みを作る以上、少額訴訟以外に、当事者の合意の効力を排除しなければならない分野はないだろう。

○ 訴訟は、勝敗を決めるところではない。敗訴者負担は、負けた人に非があるから勝った方の費用を払えと言っているように感じる。不当訴訟に対しては損害賠償請求ができるし、この場合は反訴もできると聞いている。アクセスの拡充には、敗訴者負担は役に立たないのではないかと思う。

○ 不当訴訟に対して損害賠償が認められるのは、レア・ケースである。反訴があるから大丈夫だということにはならない。

○ 一方当事者だけに敗訴者負担にするかどうかの選択権を与えるという案もあったが、これについてはどう考えるか。

○ 一方当事者を保護するために敗訴者負担にしていないという場合なら合理性があるだろう。しかし、そのような分野の切り出しができるかどうかが問題である。

○ 一方当事者が本人の場合も、合意で敗訴者負担にできるのか。途中から代理人がついた場合、途中で訴訟代理人が辞任した場合はどうなるのか。

○ 途中から代理人がついた場合、途中で代理人が辞任した場合の問題はあるが、それは敗訴者負担制度を導入する場合は出てくる問題で、そのような問題があるから合意で敗訴者負担にするのは駄目だということにはならないだろう。これまでの議論では、合意ができるのは、双方に弁護士等の訴訟代理人が付いているときという前提だった。

○ 不法行為に基づく損害賠償請求で合意をしない場合はどうなるのか。これまでは、判例で弁護士報酬が損害と認められてきたが、制度の導入により、合意しなかったら認められなくなるのか。

○ 損害としての弁護士報酬と敗訴者負担の弁護士報酬とは別だろう。

○ 合意をしなかったから損害としての認定もされなくなるということになっては困る。

○ 当事者の属性で分ける考え方、訴額で分ける考え方について、御意見はないか。

○ 営利法人か否かで分ける考えはどうか。

○ 銀行は営利法人だが、信用組合は営利法人ではない。同じ金融機関なのに別のグループに入ってしまうのはおかしい。保険会社も、株式会社だと営利法人、相互会社だと営利法人でないということにならないか。

○ 消費者契約法上の「事業者」の概念を使うのがいいのではないか。属性が同じ者の間の訴訟で合意があった場合は敗訴者負担にできて、属性の違う者の間の訴訟には各自負担しかなく、合意を認めないという制度もあり得るのではないか。

○ 当事者間に合意があっても敗訴者負担にすることを認めない理由は何か。

○ アクセスを阻害しないようにということである。

○ それはおかしいだろう。今議論している合意は、訴訟提起後にされる合意である。アクセスの問題は、訴えを提起する以前の場面での問題である。

○ 弱者であることも考慮すべきである。

○ 弱者であることを理由に合意を認めないのなら、弱者間の訴訟には合意は認められないということになる。

○ 間違って合意をする場合もあるのではないか。そのような心配があり、合意についても慎重に考えたい。

○ 今議論している合意は、当事者に弁護士等の訴訟代理人が付いているときの合意である。間違って合意をするという話をすることは、弁護士等が的確なアドバイスをできないということなのか。

○ 当事者は結構強気である。だが、弁護士の目から見ると勝訴の見込みは不確定である。弁護士が当事者の意向を無視して合意をせず、後で弁護士と依頼者の間のトラブルになることを恐れる。敗訴者負担を導入すると不都合な訴訟について議論してきたが、そのようなところでは、敗訴者負担は導入しない方がいい。

○ これまでの議論はそうだったが、今議論しているのは、別の基準で分けて、敗訴者負担が導入されなかった領域でも、提訴後に合意をすることで敗訴者負担にできるという制度である。

○ 事業者と消費者で分けるという考えもあったが、御意見はないか。

○ 前回の検討会で、事業者か否かで分ける考えについて、いい考えだと思った。しかし、よく考えてみると問題もある。例えば、医師が自宅兼診療所の建物の建築を依頼したが、瑕疵があったので、業者に瑕疵担保責任を追及するという場合、事業者間訴訟になるのか、事業者と非事業者の間の訴訟になるのかという問題がある。また、本案では、免責条項など、消費者契約法に関わる争点がない限り消費者契約かどうかは問題ではないが、費用の場面でそれが急に問題になってしまう。この点、法人か個人かで分ける考え方なら問題はないかもしれない。しかし、個人の医師を相手に訴訟をするのか、医療法人を相手にするのかで変わってしまうという問題がある。

○ 当事者の属性論は、属性の異なる当事者間にはバーゲニング・パワーの差があるというところを論拠にしていたと思う。典型的にバーゲニング・パワーに差があると言えるような事例を、当事者の属性という観点で上手く切り出せるかどうかという疑問がある。

○ 訴額で分ける考え方に対する御意見はないか。

○ 訴額が比較的に低い事件ほど弁護士報酬の持ち出しが問題になる。訴額でもなかなか分けにくいという問題がある。少額訴訟の上限額よりもやや上あたりまでで、弁護士等の関与が不要と認められるところがあるのだとすれば、そこでは敗訴者負担を導入しないという議論はあり得るのかもしれない。

○ 訴額で分けると、敗訴者負担を避けるために、請求額を減らして訴えを提起せざるを得なくなる。

○ 一部請求が増えるという問題はあるのだろう。訴額だけで分けるというのは難しそうでだという感じはするが、他の分け方と組み合わせるのはどうか。

○ 資料2によると、当事者双方がともに弁護士に依頼している率が75パーセントを超えるのは、訴額が3,000万円を超える事件である。例えば、訴額が3,000万円を超える事件に敗訴者負担を適用し、それ以外の事件には敗訴者負担を適用しないという方法も考えられる。ただし、敗訴者負担が適用にならない領域で合意による敗訴者負担の適用を認め、訴額が3,000万円を超える事件のうち人身損害を理由とする損害賠償請求訴訟は敗訴者負担を適用しないといった組み合わせはあり得るだろう。

○ 社会が複雑化している現在、上手く分けるのは難しい。個人の方が法人より強い場合もある。全ての訴訟で合意があったら敗訴者負担にできるようにすればいい。そうすれば、どこに敗訴者負担が必要なのかも見えてくるだろう。

○ 合意があった場合に敗訴者負担にするという御意見の委員は、敗訴者の負担となる額についてはどう考えておられるか。

○ 負担額についても合意を認めるのはどうかと思う。負担額の上限は必要だろう。

○ 訴額の一定割合の範囲内で負担額を合意するという方法はあり得るだろう。法律扶助の着手金の原則的上限額である22万円にこだわる必要はないと思う。訴額にかかわらず負担額を固定する考え方もあり得るが、そうしてしまうと、訴額が低いところでは制度を組むのが難しくなる。訴額に連動させつつ、上限を設けるのがよいのではないか。上限の設け方はかなり難しいかもしれないが。

○ 合意があったときに敗訴者負担にするにしても、当事者双方に専門家が付いている場合だけにしてほしい。

○ 訴額がそのまま認容されることは少ないのではないか。一部だけが認容された場合はどうなるのか。

○ 認容額を基準として負担額を決めるという制度は成り立たないだろう。訴額によって敗訴者の負担する額を決めておいて、一部認容の場合はそれを割り振ることになる。

○ 弁護士の報酬は自由化されるが、敗訴者の負担額が訴額連動になることに問題はないか。

○ 弁護士報酬は、今後も、訴額連動が多くなるのではないか。

○ 一部勝訴の場合は訴訟費用と同じような扱いになるのか。例えば、2,000万円の慰謝料請求をして300万円だけ認容された場合、訴訟費用は認容割合による場合が多いが、敗訴者の負担となる弁護士報酬もそうなるのか。だとすると問題ではないか。

○ 訴訟費用と同様の扱いにならざるを得ないだろう。認容割合によることが多いと思うが、これは裁判所の裁量に委ねられている。

○ 当事者の合意がある場合に敗訴者負担を導入という考え方は、落ち着きはいいと思う。しかし、敗訴者負担を導入していいところもあるはずである。そういうところまでもが、当事者間に合意がないと敗訴者負担にならないのは残念だという気がする。もっとも、先程来の議論で、当事者の属性で分けるというのはかなり難しそうではあるが。

○ 差止請求訴など、訟経済的な利益を得られない訴訟などでは弁護士報酬の持ち出しが問題になるので、敗訴者負担を導入するという考え方はあり得るのではないか。原告に敗訴者負担にするかどうかの選択権を与えることも含めてという趣旨である。

○ 今の御意見は、片面的敗訴者負担につながる御意見だと思う。差止請求訴訟では勝訴することが少ないので、原告が敗訴者負担を選択することは考えられない。片面的敗訴者負担ならそういうことはない。

○ そうではないと思う。被告は、常に、勝訴しても何も得るところがないわけで、原告が勝訴しても何も得るところがないという場合には片面的敗訴者負担にすべきだという議論に結びつくわけではない。原告が勝訴しても何も得るところがない場合に双面的敗訴者負担を論ずるのは理由があると思う。ただ、原告だけに選択権を与えるかどうかは、別に検討すべき問題である。

○ 差止請求訴訟に敗訴者負担を導入するのは危険である。

○ 敗訴者負担を導入すべき分野について御意見はあるか。

○ 差止請求訴訟など、勝訴しても経済的利益を得ることができない訴訟が考えられる。

○ 事業者間の訴訟、法人間の訴訟が考えられる。法人という制度を選択した以上はそれなりの責任を負うべきという議論はあり得るだろう。

○ 理想はそうかもしれないが、法律関係は契約に限られない。契約関係のないところで個人の事業者のことを考えると、なかなか難しい。

○ 個人事業者については、事業者色がある以上事業者として扱うということで割り切ってもいいのではないか。そうであれば、裁判所が判断に迷うこともなくなるのではないか。

○ しかし、例えば、医師が車にはねられたため損害賠償請求をするという場合、慰謝料は、事業者ではなく個人としての請求だと位置付けざるを得ないのではないか。

○ むしろ、法人か個人かで分けた方がいいのではないか。

○ 法人といってもいろいろな法人がある。

○ 法制上、個人と法人とで異なる扱いをしていることがあるかというと、そう多くはないのではないか。確かに、税法上は別扱いになっているが。

○ 中小企業を保護する法律もあり、法人であっても同じとは見ていないのではないか。

○ 中小企業間の訴訟に敗訴者負担を適用するのは問題だという話もあり、この部分は別の基準で切り分けざるを得ない。例えば、訴額が一定額以下の訴訟は敗訴者負担にしないなどの分け方と併用せざるを得ない。もっとも、このような形で敗訴者負担が適用されない場合も、当事者間の合意があったら敗訴者負担になるという組み合わせは考えられる。

○ 事業者の規模の大小で区別するのはおかしい。合理的基準を見いだすことができない。商法特例法上の大会社かどうかで分ける考え方があるが、特例法上の大会社は、敗訴者負担の適用範囲を画すために設けられたものではない。また、学校法人の中には、資産の面でもキャッシュ・フローの面でも、普通の株式会社より大きなものがある。別の基準でというのなら、訴額で分ける考え方しかないだろう。

○ 敗訴者負担を導入すべきという意見の委員にお伺いしたい。どうしても敗訴者負担を導入すべきだという理由は何か。

○ 敗訴者負担になる部分が全くなく、相手方の同意がないと敗訴者負担にならないということになると、司法制度改革審議会の意見書から若干ずれる。敗訴者負担制度は、多くの普通の民事事件では合理的なものであるし、当事者の利益にも適うものだと感じている。確かに、敗訴者負担の適用が適切でない事件はあり、そのような事件が敗訴者負担になっては困るという御心配は理解できるので、一律に導入すべきだとは申し上げていない。敗訴者負担を導入しても問題が無く、皆さんに納得していただけるところはあるはずで、それをどう法制化するかが問題だと思っている。

○ 判決を書く段階では委員のような感想をお持ちになることは分かる。しかし、最初から勝敗が分かっている事件は少ない。いろいろと考えた上で裁判に踏み切っている。だから敗訴者負担制度の導入は問題だと思う。

○ 被告になった場合のことを考えると、敗訴者負担を導入すべきという意見も理解できる。隣人間訴訟などではそうなのではないか。こだわるつもりはないが。敗訴者負担制度を導入すべきところがないということはないと思う。

○ 中小企業の問題があり、それに対して配慮が必要だという御意見は分かるが、理念的には、企業間訴訟は敗訴者負担ではないかと思う。

○ 隣人との紛争は感情的対立が激しく、そう簡単ではない。

○ 隣人間訴訟は、むしろ裁判所に関係調整を求めるところに本質がある。

○ 関係調整ができる場合は和解で解決することが可能である。それができない場合のルールはどうあるべきかを議論している。隣人間訴訟は、敗訴者負担制度を導入すべき典型例ではないか。

○ それは違うと思う。隣人間訴訟は証拠が少ない。もっと裁判所に事件を持って行けるようにという視点で考えたい。

○ こういう場合はこうなるというようなことが世の中にもっと広まらなければならないと思う。そうなれば、紛争予防効果も期待できる。お金が取れるだろうという角度で見ると、裁判のギャンブル性を増すことになる。お金を取られるかもしれないという角度で見ると、裁判の利用を萎縮させる。

○ 訴訟費用が敗訴者負担とされ、各自負担にされていないことはどう考えるのか。例えば、医療過誤訴訟では、ほとんどの場合に鑑定費用が生じるが、こういうものも各自負担でよいとお考えか。

○ 医療過誤訴訟では、鑑定費用を損害の一部として認定してもらわないと困る。

○ 医療過誤訴訟での鑑定は、当事者から鑑定の申請がされて、裁判所が鑑定を命じて行われる。当事者が鑑定を依頼するわけではない。鑑定費用は訴訟費用とされ、敗訴者の負担とされている。そういうことも適当でないということか。

○ 病院側がきちんと情報公開をしていれば、鑑定が不要な場合もあるのではないか。

○ 情報公開をしていても、鑑定は必要になる。鑑定費用は敗訴者に負担させるべきでないという趣旨か。現行法の下では、原告が鑑定費用を立て替えて予納し、勝訴すると、訴訟費用として相手方に負担を求めることになるが、原告に鑑定費用を負担させたままでいいという趣旨か。弁護士報酬について、敗訴者負担は絶対におかしいのだとおっしゃるのであれば、訴訟費用についてはどうお考えなのか。

○ 訴訟費用については、100年以上敗訴者負担とされてきた。弁護士報酬とは違う。医療過誤訴訟についてのパブリック・コメントを拝見していても、一定の費用負担は仕方がないということで納得されているが、それに加えて、敗訴した場合に弁護士報酬を負担するのは困るという御意見がある。鑑定費用については、原告が何とか都合を付けて立替払いをする。和解で終わった場合は和解の中で清算するが、判決まで行った場合は、あまり回収していないのではないか。

○ これからの弁護士は、訴訟費用についても回収するようにしないといけないのではないか。これまで回収していなかったということを前提に議論をするのはおかしいのではないか。

○ 訴訟費用は、訴訟を抑制するために出てきた。

○ それは違う。提訴手数料にはそういう面があるかもしれないが、それ以外のものは、国の負担があり得ないという中で、誰に負担させるのかというところで、敗訴者に負担させるということになっている。それも否定される趣旨かということをお聞きしている。

○ 法律ができていたからということである。しかし、形骸化し、使われてこなかった。

○ 使われなかったのは、確定手続が複雑で使いにくかったからである。そのために、確定手続を使いやすいようにした。およそ、弁護士としては確定手続を使うべきでないということが言えない限り、敗訴当事者に費用負担をさせるのはおかしいという議論は成り立たないと私は思う。どの程度の費用負担ならよいのかという議論の仕方をしないとおかしいと思う。

○ 当事者は、訴訟実費は、裁判のために必要な経費だと思っている。

○ これからは、弁護士への報酬の一部は裁判に必要な経費だと思われるようにしましょうというのが、司法制度改革審議会の意見書の基本線だと、私は思っている。

○ 弁護士への報酬は、弁護士と依頼者との間で決まるものである。訴訟実費とは性質が違うものだと思っている。

(2) 今後の日程等について

 次回については、引き続き、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて検討を進め、場合によっては、司法ネット(仮称)についても検討することとなった。

(次回:平成15年11月21日 13:30〜)