事務局から、資料1に基いて説明がされた。
その後、次のような意見交換がされた。
○ 将来において弁護士報酬の敗訴者負担を議論することは否定しないが、現時点では、当事者間の合意を条件とした弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入も時期尚早である。裁判にギャンブル性を持ち込むことになる。リピーターに有利な制度である。約款で敗訴者負担にされる恐れもある。判例で不当訴訟に対して損害賠償が認められているが、それを法文化して明らかにする限度にとどめるべきである。司法過疎問題もある。地域格差があると、平等という点から問題である。司法についての情報の周知徹底が図られていない。弁護士のサービスについても、どのようなサービスがどのくらいの料金で受けられるのか分からない。個々の弁護士の経験年数や専門分野、懲戒を受けたことがあるかどうかという情報の提供が不十分である。法律扶助を拡充して、国民の50パーセントが法律扶助を受けられるようにする必要がある。権利保護保険も必要である。司法のユニバーサルデザイン化が必要である。利用者を増やす必要がある。敗訴者負担に対する不安感が蔓延している。
○ ただ今の委員の御意見は、弁護士報酬の敗訴者負担制度が司法へのアクセスを阻害するものだという観点からの御意見だと思う。以前に、委員から、ヨーロッパでは濫訴防止のために弁護士報酬の敗訴者負担制度が採用されているという御意見を伺ったことがある。しかし、ヨーロッパ諸国では、濫訴防止のために弁護士報酬の敗訴者負担制度を採用しているのではない。当事者間の費用負担の公平を図るために採用している。その根底には、弁護士は訴訟をするのに不可欠な存在であるという意識がある。弁護士報酬を各自負担にしておくと、弁護士なしで訴訟をすることを促進する方向に働くと思う。本人でできない事件が増えれば、弁護士の必要性は増加する。弁護士報酬の敗訴者負担制度は、弁護士による訴訟を促進するのに適合する制度であると思う。
○ 弁護士報酬の敗訴者負担制度には、訴訟を抑制する機能がある。日弁連が行った調査の限りで申し上げると、イギリスでは、中世に、地主が小作人による訴訟を抑制するために、弁護士報酬の敗訴者負担制度を始めたのではないかと聞いた。国によってそれぞれ違うかもしれないが。日弁連は、訴訟を抑制する機能は、今の日本にはそぐわないということで、弁護士報酬の一般的敗訴者負担制度に反対してきた。
○ イギリスの制度についてのお話は興味深く伺った。しかし、イギリスでは、弁護士報酬の敗訴者負担制度は、今日までずっと維持されてきているし、20世紀になって、労働者等を支持基盤とする労働党が政権を取っても、廃止されなかった。その意味で、訴訟抑制の制度だということは、説明し切れていないのではないか。
○ もともとどのような目的で制度が導入されたのかということと、現在その制度が果たしている機能とは、異なる場合もある。当初の制度の目的がこうだからということで、今その制度が果たしている機能を説明したことにはならないと思う。提訴後に、当事者間に合意があったときに、弁護士報酬を敗訴者負担にする制度なら、訴訟抑制効果は考えられない。この検討会では、どのような形にしたら当事者間の費用負担の公平を図れるかという点で委員の意見が分かれていたが、各自負担を基本としつつ、当事者が、敗訴者負担の方が公平だと判断して敗訴者負担の適用に合意しているときに敗訴者負担ルールを適用するという制度なら問題はない。合意を要件としてもアクセス障害になるのだという議論はおかしいのではないか。不安がある場合は、合意をしないはずである。合意が強制されているわけではない。訴訟にギャンブルを持ち込むものだという御意見もあったが、100パーセント勝てるという裁判が少ないとすると、裁判自体がリスクを伴うものだということにならないか。リピーターに有利であるという御意見もあったが、それはおかしいのではないか。この検討会では、当事者の双方に弁護士等の訴訟代理人が付いているときに合意ができるという前提で話をしていた。訴訟代理権が認められているのは一部の資格者のみで、業務独占が認められている。リピーターでない当事者とリピーターとの格差を埋める能力があるということで、業務独占が認められているのではないのか。そのような有資格者の助言を受けて判断をするのだから、問題はない。約款に敗訴者負担条項が入るのではないかという御意見もあったが、訴訟外で弁護士報酬の敗訴者負担の約束をすることは、今でも、特に法規制がない限り可能であり、実際に一部では行われている。消費者や労働者に対してそのような条項の効力が認められると困るという御意見もあろうが、消費者契約法第9条、第10条や労働基準法第16条で規制がされているのではないか。法規制がない限りそのような条項の効力は認められるはずであるのに、一部でしか行われていないのは、ほとんどの場合、そのような条項を設けて相手に請求しても、ペイしないからだろう。この検討会で議論している制度では、おそらく、訴訟費用償還請求の中で訴訟代理人の報酬を扱うことになるだろうと思われるので、別訴を提起する必要はない。しかし、契約で定めた条項を理由に裁判でそれを主張して請求するとすれば、まず、本来の紛争の裁判に勝った後で、改めて弁護士報酬を請求するための訴訟を起こさなければならず、弁護士報酬として認められる額も、合理的な額になるだろう。だからペイしないのだろう。要するに、経済合理性がないから行われないということであり、契約に敗訴者負担条項が入るのではないかという点は、それほど懸念すべき問題ではないと思う。
○ 日弁連として、合意を要件とする案について意見を表明できる段階ではないが、この案について、いくつか聞いておきたいことがある。約款に敗訴者負担条項が入って、それをもとに裁判で請求されることを心配している。今でも契約ではできるということだが、私は、そのような条項を見た経験がない。知財に詳しい人の話では、仲裁合意の中では、そのような条項を定めることがあるそうである。訴訟上の合意で敗訴者負担にできるという制度が導入されることにより、訴訟外の契約で敗訴者負担条項を入れることが流布することを心配している。そのようなことにならないよう、何らかの措置はとれないものかと考えている。約款での敗訴者負担条項の場合、先ほど委員が指摘されたように、まず、裁判で勝ってから、別の裁判で弁護士報酬を請求するという形になるのが筋だと思う。そうなってくると、少額だからという話もあるのだろう。しかし、その説明に納得しない人もいる。
○ 今議論している合意を要件にする案は、訴訟上の合意を要件としている。今でも法規制がない限り、契約で敗訴者負担を定めておいて、訴訟で契約に基づく請求をすることは可能であるが、それが行われていないのは、ある程度大きな額でないと意味がないからだろう。例えば、金融業者の場合は、訴訟で主張できるのは、利息制限法の範囲内である。実際は、これを超えて、出資法の範囲内での利率で、裁判外で債務者に請求しているのが通常であるが、債務者に請求している額をそのまま訴訟で主張すれば、部分的には確実に敗訴する。そのような人達が、訴訟外で、弁護士報酬について敗訴者負担の契約をするとは考えにくい。また、事業者に生じる弁護士費用を一方的に消費者が負担するという契約内容なら、消費者契約法第10条で、その効力が否定されるのではないか。
○ 委員が指摘されたとおり、事業者の弁護士費用を一方的に消費者に負わせるような条項であれば、消費者契約法により無効となるのだと思う。しかし、裁判に勝った方が弁護士報酬を請求できるという条項の場合はどうなるのか、よく分からない。
○ 消費者金融のように、原告になる場合が圧倒的に高い事業者が敗訴者負担条項を用いる場合には、その事情を考慮してということもあり得るのではないか。大学の入学金の返還訴訟では、裁判例で、入学金の予納は損害賠償の予約であるという考え方が示されている。このような裁判例を前提とすると、裁判例は、消費者契約法第9条を拡張する方向で解釈する傾向にあると言える。労働契約については、労働基準法第16条の問題になるのではないか。
○ 不法行為に基づく損害賠償では、弁護士報酬を損害として請求できると聞いた。しかし、それ以外の分野では、弁護士報酬は各自負担となっている。これは不公平ではないかという気もするが、日弁連としては、この点に関してはどのように考えているのか。
○ 今は各自負担になっているが、そのことに対して異論が出されていない。各自負担から敗訴者負担に移行するというときに、その論拠は何かという視点から考えている。論拠としては、司法アクセスの拡充にプラスになるかどうかしかないのではないか。
○ ギャンブル性の話について、更なる金銭的なギャンブル性の問題が加わるという趣旨であることを明らかにしたい。問題を抱えている人は、判断力を無くしている場合もある。たとえ高学歴な人であってもである。普通の人にとっては、最後の救済の砦としての裁判である。対等な当事者間の合意ならいいが、裁判をする人にはいろいろな人がいて、必ずしも対等とは言えない。
○ 日弁連の調査でも、訴訟を起こしたいが、相手方から弁護士報酬を取れないから訴訟はしないという人が十数パーセントくらいはいたように記憶している。そのような人達への対策は考えなくていいのかという点について、日弁連の見解をお聞きしたい。契約で敗訴者負担を定められるようになって不都合ではないかという議論があったが、先ほどの委員の御意見にあったとおり、実際には、ほとんど影響はないのではないか。万が一、そのような事案が裁判になったとしても、裁判所が契約で定められた額をそのまま認めるかというと、そうではなく、適正な額にとどめるということになるだろう。契約で敗訴者負担条項が使われるようになる可能性がゼロとは言えないからと言って、訴訟になってからの合意で敗訴者負担を選択できる制度を否定するのはいかがなものかと思う。
○ 弁護士報酬を相手方から取れないために裁判を諦めるという人を無視していいとは思っていないが、そういう人達は少なく、むしろ、弁護士報酬の負担を恐れて裁判を諦めるという多くの人を巻き込んでいいのかという問題がある。そういう意味で、当事者間の合意があったときにだけ敗訴者負担を適用するという案は、個人的には、両方を救済できる案ではないかと思っている。私法上の契約として敗訴者負担にするとされた場合の問題について、各委員からの御発言はごもっともと思うが、実体法の解釈で対応できるという話だと、どうしても不安感が残るのではないか。現実的には、少額の弁護士報酬のために裁判を起こすということはないのだろうと思うが、今でも、利息制限法に違反して請求している業者が裁判通告をしているという問題があり、そこに敗訴者負担が入り込まないかと心配している。例えば、仲裁法のときのように、労働、消費者については、訴訟上の合意に限るというようにして、それ以外は効力がないというようにすることはできないか。
○ 労働と消費者を除くという考え方は、仲裁法の附則にならうものだと思う。しかし、仲裁の場合は、訴権を失うという大きな効果があるために、特別な定めをしている。この検討会で議論されている合意というのは、弁護士等が当事者双方に付いている場合に、当事者の意思表示によって、弁護士等への報酬の一部を敗訴者負担にするかどうかという付随的な費用の話で、本体の請求について訴権を失うかどうかということとはレベルが違う話である。契約条項の効力を否定するような規定を設けると、かえって悪影響が出るのではないか。委員から、消費者、労働を除いてはどうかという御提案があったが、消費者、労働をどうするかということを訴訟類型や当事者属性という角度で議論して、いいアイデアが出なかったために、当事者間の合意の有無という角度でいいアイデアを出せないかという議論になった。この場で改めて消費者、労働をどうするかという議論を始めると、訴訟類型や当事者属性について議論していたときに逆戻りするだけではないか。
○ 委員の御意見は分かる。しかし、この他に、駆け引きに使われるのではないかという懸念がある。弱者は、合意をしたくないのにせざるを得ない状況に追い込まれるのではないかと懸念する。
○ 裁判の場では、本案の判断に影響はないということを申し上げておきたい。
○ もし、駆け引きに使おうという弁護士がいて、そのような訴訟活動をしたとすると、裁判所に対しては、かえってマイナスの印象を与えるだけではないか。訴訟費用という付随的なものに関しての当事者間のやり取りを主張するというのは、付随的なものについての主張をしないと本案で負けかねないという状況を明らかにしているようなものである。和解については、裁判所は中立である。当事者間で話がついたときだけ受ける、それ以外は知りませんという形になるのではないか。
○ 先ほど、当事者間の合意を要件に敗訴者負担を適用するという考え方に対して、委員から、裁判にギャンブルを持ち込むものだという御意見があった。しかし、私は、「ギャンブル」という言葉を使うのは不適当だと考える。「ギャンブル」という言葉は、世間でマイナスのイメージを持って受け止められる。「ギャンブル」という言葉を使うと、一般人の誤解を招くことになるのではないか。「リスクを伴う」という言い方なら理解できるが、「ギャンブル」という言葉を使うことについては理解できない。これまでの御意見を伺っていると、裁判は、常に100パーセント勝つとは限らないものが多いということだった。だとすると、裁判自体、勝つか負けるか分からないものが多いということになり、裁判にはリスクを伴うということになる。弁護士報酬の敗訴者負担に反対する理由として、巨額の費用負担を強いられるという話をして反対をしている人達がいるのは事実である。しかし、私たちは、裁判で企業に負けると何億円もの負担になるという制度を考えていないことは事実である。これは情報が一人歩きをした例で、私達検討会のメンバーとしては、事実無根の話が世間に流布したという印象である。正しい情報と正しい理解をもとに裁判に臨むのが理想的であるという思いを強くした次第で、そのような方向で制度設計を考えるべきだと思う。委員から、金融業者の裁判通告に敗訴者負担と書かれて、消費者がおびえるのではないかという御指摘があった。それも、正しい情報が消費者に伝えられれば解消できる問題ではないか。正しい情報が伝わっていないために正しい判断ができない状況を放置することこそ、アクセスの観点からは問題である。正しい情報を国民に伝え、それに対する懸念を解消することが、この検討会に求められていると思う。
○ 「ギャンブル」という言葉が適切でないという御意見があったが、私が言いたいのは、裁判の場にたどり着くだけで疲れ切ってしまった人達に、更に、費用負担についての合意をしますか、しませんかと聞くのが問題ではないかということである。
○ 当事者の合意を要件として敗訴者負担を選択できるという制度は、当事者に合意が強制されていない、つまり、敗訴者負担を選択したい当事者間においてのみ合意をすればいいという制度である。弁護士が、このケースでは敗訴者負担は不適当と判断すれば、それを勧めることはないだろう。必ず敗訴者負担にするかどうかの意思確認をしなければならない制度ではないのではないか。
○ 相手方が敗訴者負担にしたいと言ってきた場合には、話題になるのではないか。
○ その場合でも、訴訟外で、依頼者と弁護士が話し合えば済むだけである。その結果、敗訴者負担にするのはやめるということなら、相手方にノーと言えばいいだけの話である。このようなやりとりの状況は、共同申立てという方式にしてあれば、裁判所には分からない。
○ 裁判は、お金を請求するためだけに利用されるものではない。決着をつけたいと思って裁判を利用する場合もある。合意があれば敗訴者負担ということになると、お金の問題は抜きにして決着をつけたいという人達の間に、お金の問題を持ち込むことにならないか。
○ 純粋に裁判で決着をつけたい、お金のことは問題にしたくないというのなら、合意をしなければいいだけの話である。合意が強制されていないのだから、お金の問題を持ち込むことになるという議論はおかしいのではないか。
○ 不法行為に基づく損害賠償請求の場合には、判例により、弁護士報酬の一部が損害と認められている。合意によって弁護士報酬の一部を敗訴者の負担とする制度ができると、合意をしなかったことにより、合意をしていれば相手方から回収できたであろう額が、損害として認められていた弁護士報酬の額から控除されるのではないかということを心配している。合意の方法についても、裁判所から見えないところで合意をするという方法は考えられないか。
○ 私は、当事者の属性によって分ける考え方も検討に値すると思っている。私は、法人か個人かで分ける考え方も加味してはどうかと思っている。合意案をベースとしつつも、法人対個人の訴訟は敗訴者負担にせず、個人のみが敗訴者負担にするかどうかの選択権を持つという制度も検討に値すると思っている。もっとも、憲法上の問題などがあり得るので、そのような問題をクリアーできるかどうかは検討しなければならないと思っている。このような問題をクリアーできるのなら、消費者、労働関係の訴訟には対応できるのではないか。
○ 合意があっても各自負担という分野を設けて、少なくとも、消費者と事業者の間の訴訟、労働訴訟はその分野の訴訟とすることはどうか。
○ 委員から、合意をしなかったことにより、判例で認められている損害としての弁護士報酬の額が減少するのではないかという御意見があったが、どう考えるか。
○ それはおかしいのではないか。合意をしなかったからといって、合意をしたら相手方から回収できたであろう額を放棄したという構成はできないのではないか。合意をした場合に、二重取りはおかしいので、損害として認められる額と合意により敗訴者の負担とされる弁護士報酬についての調整が必要だという話ならごもっともだと思うが。
○ 損害として認定される弁護士報酬の額が合意をしなかったことを理由に減らされるというのは、説明のつかない話だと思う。損害論に関連して申し上げるが、判例で認められている損害はそれはそれで認められるとして、合意を要件として敗訴者の負担とされる弁護士等への報酬の一部について、損害とは併存すると考えることもできるのではないか。もっとも、実際に弁護士等に支払った額を上限とすべきかどうかについては検討する必要があるのだろう。
○ 理論的には、ただ今委員から御指摘いただいたとおりということになるのではないか。相当因果関係は切れないということだろう。先ほど、委員から、裁判所から見えないところで合意をするような制度にできないかという趣旨の御意見をいただいたが、何かお考えはないか。
○ 弁護士から、駆け引きに使われるという懸念が示されているのなら、弁護士が自主ルールで定めるしかないだろう。弁護士が合意に関して裁判所に何か言うのではないかという点に関しては、法律で対応することは難しいのではないか。弁論を制限することになりかねない。そういう意味で、もしルールを作るというのなら、弁護士会のルール作りにならざるを得ないのではないか。
○ 当事者が共同で申し立てるという形にして、書面での申立てを要するという形にしておけばいいのではないか。
○ イギリスでは、和解申立ての制度がある。和解申立てをして、一定額を提示して、もし和解を蹴ってトライアルになった場合に、トライアルを経て認められた額が和解申立ての際に提示した額未満だったときは、弁護士費用は、和解を蹴った側が負担しなければならないという制度である。これも参考になるのではないか。
○ 共同で申し立て、かつ書面によるという方式は、現在でも、民事訴訟法第265条で採用されている方法である。当事者間の駆け引きが裁判所に見えないようにするという趣旨で、共同の申立てという形になっている。そのような方式にすることは可能ではないか。
○ 全ての訴訟で原則各自負担としておき、当事者間に合意があるときにのみ弁護士報酬の敗訴者負担を選択できるという制度に賛成する。それに、当事者の属性で分ける考え方を併用して、法人と個人の間の訴訟では、個人にのみ各自負担か敗訴者負担かを選ぶ権利があるという制度にすることも考えられる。もっとも、憲法の平等原則に抵触しなければという前提での話だが。
○ 全ての訴訟で原則は各自負担としておいて、当事者間に合意があるときにだけ弁護士報酬の敗訴者負担を選択できるという制度について、日弁連としては、それでも駄目だとお考えなのか。
○ その点については、現時点でお答えすることはできない。
○ 先ほど、委員から、当事者の一方にのみ各自負担か敗訴者負担かを選ぶ権利を認めてはどうかという御意見があったが、これは慎重に考えないといけない問題だと思う。
○ 以前に、変額保険の被害にあわれた方の話を紹介した。弁護士が当事者をミスリードした場合のことはどう考えるのか。
○ 今委員から指摘のあった問題は、訴訟代理人を選任する場合には常に生じる問題で、当事者間に合意があったときにのみ敗訴者負担を選択できるという制度に固有の問題ではない。
○ 私もそう思う。弁護士がミスリードした場合の問題は、当事者間に合意があるときにだけ敗訴者負担を選択できるという制度について論じる際に敢えて論じるべき問題ではないと思う。敗訴者負担にするかどうかという問題に限らず、弁護士が判断を誤ることはあり得る。その場合は、依頼者と弁護士との間での弁護過誤の責任問題になる。
○ 新たな問題について裁判所の判断を求める際に、弁護士によるミスリードを避けるための情報が不足している。弁護士の経験年数や、得意分野、懲戒を受けたことがあるかどうかという情報の提供が不十分である。依頼者と弁護士の間で新たな紛争が起きるのではないか。
○ 弁護士と依頼者の間のトラブルが増えるのではないかということを心配する声は多いようである。
○ 合意があったときにだけ敗訴者負担を選択できるという制度は、当事者がお互いに納得して裁判に臨むという意味で望ましい制度だと思う。弁護士と依頼者とのトラブルは、今の制度のもとでもあり得る話であり、制度を導入したら弁護士と依頼者の間のトラブルが増えるというマイナス評価をして制度の導入に反対するのはいかがなものかと思う。必要な裁判を受けるためには、今でも、お金、時間、決断が必要である。決断すらさせずに誰かを保護するというのは、行き過ぎであると思う。
○ 弁護士の中には、敗訴者負担という言葉に過敏に拒絶反応を示す人がいるように思う。敗訴者負担の合意を勧める弁護士がどれだけいるのか。日弁連に懸念があるのなら、日弁連に、合意があったときにだけ敗訴者負担にするという制度の問題点を示してもらって、どのような形の合意ならいいのか考えてもらったらどうかと思った。
○ これまでのこの検討会での検討は、司法制度改革審議会意見に沿って、敗訴者負担制度の導入が適切でない場合は何かという形で進められてきた。そのため、原則導入で例外的に除外という形に見えたかもしれない。しかし、合意があったときにだけ敗訴者負担にするという制度は、原則は各自負担というところから出発している制度である。
○ 当事者間の合意により敗訴者負担を選択できる制度について、他の分け方との組み合わせについての議論もあったが、どのように考えるか。
○ 理論的にも、これまでのこの検討会での検討結果からも、合意を要件として敗訴者負担を適用するという考え方と、何らかの基準で、当事者の意思にかかわらず敗訴者負担になる分野を設けるという考え方とを組み合わせるのは難しいように思う。
○ 同様に、何らかの基準で、合意があっても敗訴者負担にならないという領域を設定することは難しいだろう。少額訴訟であっても、当事者双方が司法書士に依頼して、しかも合意をしているのなら、敗訴者負担が選択できてもいいのではないか。
○ 委員から、消費者と労働の分野では、合意を要件として敗訴者負担にすることも認めるべきでないという御意見があったが、その理由は何か。訴訟提起後に、弁護士が選任されているのに合意ができないというのは、理論的に説明が可能なのか。そもそも、消費者、労働の分野では、訴訟類型について議論している際にも、どのような切り分け方をするか難しいという問題があったのではないか。
○ 当事者間の格差が理由にならないか。
○ 消費者と労働を除くというのは、おそらく、仲裁法の附則を参考にしておっしゃられた御意見ではないかと思う。しかし、仲裁法で排除されたのは、将来の紛争についての仲裁契約だけで、現実に紛争になった場合に仲裁契約を認めないという形にはなっていない。この検討会で検討されている、当事者間に合意があったときにのみ敗訴者負担を選択できるという考え方は、現実に紛争が起きて、訴訟にまで発展した段階で合意があったときにのみという考え方であり、仲裁法の取扱いから言っても、この段階での合意の効力を排除することは、理論的に難しい。
○ 消費者と労働を除いておけば、約款に敗訴者負担条項が入らないのではないかという考えもある。合意をするにしても、判断のための資料がないという事情もある。
○ それは関係がないのではないか。判断のための資料が十分でないなら、弁護士としては合意を勧めるべきではなく、仮にそのような状況で弁護士が合意を勧めたとしたら、それは弁護過誤ということになるのではないか。
○ これまでのこの検討会の議論を収束するという意味では、原則として各自負担にしておき、当事者間の合意があったときにだけ敗訴者負担を選択できるという考え方はいいと思う。合意があっても敗訴者負担にできない領域を認めるという話になると、逆の立場から、合意の有無にかかわらず敗訴者負担にすべきという議論も持ち上がってくる。合意案の問題点についていくつか指摘をしていただき、それについて議論している。収束させる案としては、合意案は十分考慮に値するのではないか。
○ 裁判のリピーターの割合や、契約の中で訴訟になった場合の弁護士報酬の敗訴者負担について定めている割合は分からないか。
○ 特許などの分野で、委員が御指摘になったような契約がされていることは知っているが、どの程度の割合なのかというデータは持ち合わせていない。
○ 裁判のリピーターなら、合意で敗訴者負担にできるという制度でもいいと思うが、そうでない当事者の場合はどうかと思う。
○ 合意をできる場合を制限するのは難しいのではないか。事前規制社会に戻しましょうと言っているのと同じように思われる。今の世の中の流れを考えると、そのような法制度は難しいのではないか。
○ しかし、当事者間にハンディキャップがあると思う。
○ 当事者間のハンディキャップを埋めるために、弁護士等の訴訟代理人がいるのではないか。
○ 理想論としてはそうかもしれないが、現実は異なるのではないか。
○ リスクを考慮して合理的な制度にするというのなら分かるが、最初から合意は認めないという制度にするのは行き過ぎではないのか。
○ 訴額と合意を併用するというお考えもあったが、訴額はかなり粗いふるいであるように思う。このような制度設計は難しいと思うがどうか。
○ 従来、司法制度改革審議会意見は訴訟類型ごとに検討を進めることを予定しているのではないかということで、訴訟類型をもとに考えてきた。しかし、例えば、人身損害について考えてみると、かなり難しいと思う。人身損害と物損との両方が請求されている場合、さらには、人身損害分と物損分を合わせて慰謝料をこれだけ請求するという場合などを考えていくと、現実に制度化するには、かなり難しい問題を伴うように思う。当事者の合意を要件とするという案が出てきた後では、訴訟類型論を維持して制度設計をするのは、かなり難しいのではないか。
○ 私も同意見である。当事者間の合意を要件に敗訴者負担を適用するという考え方に対して、唐突だという御意見もあるようだが、これまで、この検討会では、訴訟類型ごとに弁護士報酬の敗訴者負担の適用の可否を検討してきて、なかなか難しい問題があるということで、当事者間で合意があったときにのみ敗訴者負担にできる制度を設けるという案が出てきた。そのことは、国民に分かりやすく説明しておくべきだったと思う。例えば、労働者と使用者の間の訴訟は、訴訟類型ごとに検討していた際には、多くの委員が敗訴者負担を適用しないという方向でいいのではないかという御意見だった。しかし、明らかな不当解雇で、勝訴の見込みが十分にあって、各当事者が敗訴者負担を希望しているときに、合意は許さないと言う理由はないように思う。実際には、そのような人は少ないのかもしれないが、そのような人が出てきたときに、合意を制限する理由はないのだろう。およそ合意は認めないというのは、アクセスの阻害になると思う。
○ 消費者と労働の分野は、訴訟類型で検討していたときには敗訴者負担を導入しない方がいいという方向になっていたのに、なぜ、個別的合意を認めるのかという考えがあるのだと思う。このような分野は、各自負担で固めてもらいたい。
○ 以前は、この検討会では、当事者の意思にかかわらず敗訴者負担を適用するのか、それとも各自負担にするのかという形で議論を進めてきた。当事者の合意を要件とする案は、それとは全く異質な制度である。敗訴者負担か各自負担かを議論していたときは、どちらか1つのルールを適用するとすればどちらにするかという問題だったが、当事者間の合意を要件とする案は、ルールの選択を認めるという案である。その点を混同すべきではないと思う。
○ この検討会の議論は、技術論に偏っているように思う。パブリック・コメントの結果も、敗訴者負担に反対の意見が多かった。現実抜きで話を進めるべきではないと思う。
○ パブリック・コメントを求める段階では、この検討会では、当事者が嫌だと言っていても敗訴者負担になる領域を設定するという前提での議論だった。しかし、当事者間の合意を要件とする案は、当事者が嫌だと言っている場合には、敗訴者負担にならない。当事者が敗訴者負担を望んでいるのにそれを認めないのはおかしいということを申し上げている。
○ 将来はともかく、現実はどうなのかを問題にしている。
○ 当事者に選択の自由すら認めないのはおかしい。他の多くの場合はこうだからという理由で、ある事件で当事者が敗訴者負担を選択をしたいと言っているのにそれ認めないのは理不尽である。現状がこうだからという議論はあるのだろうが、当事者に選択を認めないことを正当化できるとは思えない。選びたくない場合は選ばない自由が認められている。
○ 委員がおっしゃられているのは、レア・ケースではないか。
○ レア・ケースであったとしても、その事件の当事者には、その事件が全てである。そういう事件の中で、当事者の選択の可能性すら摘み取るのはおかしいのではないかということを申し上げている。
○ 議論は尽きない感じだが、この辺りで、各委員にお諮りしたい。これまで、この検討会で議論してきた弁護士報酬の敗訴者負担制度の制度設計の基本となる事項についてである。
第1の問題は、敗訴者負担となる弁護士報酬は、訴訟における弁護士報酬に限るのかどうかという問題である。弁護士報酬は、保全や執行の場合にも生じるが、弁護士報酬の敗訴者負担という制度を設けるに当たって、訴訟に限るかどうかという問題である。以前にも、この検討会で若干議論していただいたように思うが、その際の議論の状況も踏まえると、訴訟に限ってはいかがかと思うが、それでよろしいか。
(各委員了承)
第2の問題は、弁護士に限るかどうかという問題である。現在、訴訟代理権は、弁護士だけでなく、司法書士、弁理士にも認められている。以前に委員から御意見をいただいたが、弁護士に限るのは説明がつきにくい面があり、弁護士、司法書士、弁理士とするのが合理的なように思われるが、それでよろしいか。
(各委員了承)
第3に、既に御意見をいただいていたが、当事者の双方に訴訟代理人が付いている場合に限定するということでよろしいか。
(各委員了承)
第4に、当事者が複数の訴訟代理人を選任している場合でも、負担額を訴訟代理人の人数によって増額させない、つまり、1人分に限るということでよいかということだが、それでよろしいか。
(各委員了承)
○ 敗訴者の負担となる額の定め方について、従来から、訴額にスライドさせるべきという御意見が多かったと思うが、それでよろしいか。
(各委員了承)
○ 敗訴者の負担となる額に上限を設けるかどうかという点については、どう考えるか。
○ 上限は設けてもらいたいと思っている。
○ 例えば、訴額10億円の手数料の額あたりを上限としてはどうか。訴額が低い部分では提訴手数料より高めに設定して、訴額10億円あたりで提訴手数料と同額になり、それより訴額が高くなっても敗訴者が負担する額は増加させないという考え方である。
○ パブリック・コメントでは、交通違反の罰金程度にすべきという御意見もあった。
○ 敗訴者の負担となる金額について当事者間での合意を認めるかどうかという点については、どのように考えるか。額の合意まではできないという場合は、訴額で定まる額ということになるというイメージだが。
○ 法律で一定の上限額を定め、その額以下で合意の効力を認めるという考え方もあれば、訴額にスライドして定められる負担額を上限として、それ以下の額で合意の効力を認めるという考えもあるだろう。
○ 法律扶助の着手金程度という御意見もあった。部分的に導入するにせよ、将来に禍根を残さないようにする必要がある。
○ 訴額算定が不能な場合について、提訴手数料では、法改正後は160万円とみなすことになるが、それでいいのかどうかは検討する必要があるだろう。
○ 弁護士報酬規定はなくなる。唯一残るのは法律扶助の支出基準なので、これを参考にしてもらいたいと思う。
○ しかし、法律扶助の場合は、訴額10億円の訴訟はないのではないか。
○ それはそうだろう。敗訴者の負担となる額については、裁判所に裁量を認めてもらいたい。外国では、当事者の経済的事情に配慮するという制度もある。
○ 当事者の経済的事情に配慮するというのはおかしいと思うが、訴額が比較的に高額であるにもかかわらず、審理自体は早く終わるという事案もあるので、そのような事情を考慮して、裁判所が裁量で額を定めるという方法はあってもいいように思う。
○ 額について裁判所の裁量を認めてはどうかという議論に関して、この検討会では、弁護士等への報酬について、訴訟費用的なイメージで考えているように思うが、訴訟費用については、不必要な訴訟行為を行った場合や、訴訟を遅延させた場合の費用負担について、民事訴訟法第62条、第63条が裁判所の裁量を認めている。一部勝訴の場合も、民事訴訟法第64条が裁判所の裁量を認めている。これらの規定を活用することによって、ある程度の部分はカバーできるのではないか。
○ 負担額の合意の話があったが、合理的な範囲内ならば、当事者間で負担額の合意をすることを認めてもいいのではないか。
○ 例えば、当事者間に合意があれば、法律で定める負担額の5割増しまではその効力を認めるというような考え方はあり得るだろう。
○ 敗訴者負担の合意をした人が、負担を恐れて和解に応じることにならないよう、慎重に検討する必要がある。
○ 一部勝訴の場合はどうなるのか。例えば、慰謝料として1,000万円請求して300万円が認容された場合はどうなるのか。慰謝料としてこれだけの額を認められたら、実質的には全部勝訴という感覚だが、にもかかわらず、700万円分は敗訴したということで費用負担を命じられるなら問題だと思う。
○ 委員がおっしゃるのは、慰謝料の額は低すぎると言われ、適正な額の慰謝料を認めてもらうためにかなり高めの額を請求してきて、裁判例でも、最近は以前より高額の慰謝料が認められるようになったが、認容割合によって費用負担を命じられると、慰謝料の認容額の相場を大幅に超える請求はしにくくなって、判例の発展を妨げるおそれがあるのではないかということか。
○ そういうことである。
○ そのような戦略で訴訟をする場合は、合意をしなければいいだけの話である。一部認容であっても、実質的には全面勝訴に近いこともあるので、現行法は、認容割合によって費用負担を定めることはせず、裁判所の裁量に委ねている。私は、それでいいのではないかと思っている。
○ 民事訴訟法第64条で裁判所が適正に判断するということか。
○ 付け加えさせていただくと、弁護士報酬を訴訟費用に組み入れる考え方の他に、訴訟費用と似たものとして、訴訟費用の負担原理に似てはいるが若干違うような形での制度設計もあり得ると思う。
○ 一部勝訴の場合に裁判所が負担割合を定めるとしている民事訴訟法第64条は、特定の訴訟費用について、他の訴訟費用とは別の負担割合を定めることを排除しているわけではない。弁護士報酬が訴訟費用と同様に扱われることになるのなら、敗訴者の負担となる弁護士報酬について、他の訴訟費用と別の負担割合とすることで結論の妥当性を維持することは、現行法によっても可能である。
○ 合意ができた後に、一方当事者の一方的な撤回を認めるのはいかがかと思うが、異論がある委員はおられるか。
(異論なし)
○ 合意の時期、方法については、どのように考えるか。これまでのこの検討会での議論を前提とすると、訴訟になってからの合意でなければならないということだと思う。
○ 合意ができる時期を、訴訟提起後一定期間内に限ってもらいたい。
○ しかし、そのような制度にすると、途中で弁護士を選任した場合や、最初に選任した弁護士が合意に応じず、その弁護士が何らかの理由で解任されて、後に選任された弁護士が合意に応じるのが適切だと判断した場合に対応できなくなる。合意の時期を制限するという考え方は、駆け引きに使われるのはまずいということを論拠にしているのだと思うが、それに対しては、共同申立てとすることで解決できる。合意の時期を制限する必要はないのではないか。
○ 私もそう思う。口頭弁論終結まではいつでも合意できると考えるべきである。訴訟の初期段階では、訴訟の結果について見通しがつきにくい場合もあり、そういう段階でしか合意ができないというのはおかしいように思う。訴訟係属後、口頭弁論終結までということでよいのではないか。
○ 訴訟の終わりの段階での合意を認めると、いわゆる踏み絵になる、つまり、勝てると思った方が申立てをしてきたときに、負けると思っている方は、裁判所の心証を気にして、合意をせざるを得なくなるのではないかという問題が生じるのではないか。
○ 共同申立てという形にすれば、その問題は生じないだろう。むしろ、証拠調べがある程度進んでいる段階では、裁判所は、証拠調べの結果で心証を取っている。一方の当事者から敗訴者負担の申立てがあって、それに対して相手方がどう反応したかで心証を取るよりも、証拠調べの結果で心証を取っており、いわゆる踏み絵論が懸念するような実態はないと思う。
○ もう少し考えさせてもらいたい。
○ 合意の対象となる弁護士等への報酬は、審級限りのものと考えてよいか。
○ 必ずしも、審級限りのものと限定する必要はないだろう。第一審の場合は、第一審の弁護士報酬についてのみ合意してもいいし、上告審までの分を合意してもいいという考え方もあり得るのではないか。
○ 上告審の場合の手続については、検討しておく必要があるだろう。
○ 団体訴訟の場合はどうなるのか。
○ 団体訴訟の場合でも、合意を認めない理由はないだろう。逆に、訴訟費用についての合意の判断すらできないような団体に訴権を認めることの方が問題とされるのではないかと私は思っている。どちらにするかは立法政策の問題で、いずれにせよ、団体訴権を定める際に、法制度上の手当てはされるだろう。
○ この検討会では、弁護士報酬の敗訴者負担を導入しない範囲をこれまで検討してきた。当初は、訴訟類型によって導入しない範囲を特定できないかということで検討してきた。委員からは、賛否両方の立場から、貴重な御意見をいただいた。事務局において行った国民からの御意見募集の結果からも、様々な角度から、貴重な指摘をいただいた。このようにして検討を続ける中で、訴訟類型によって敗訴者負担を導入しない範囲を切り分けることには、どうしても過不足が生じるという議論が出てきた。例えば、使用者と労働者間の訴訟は各自負担でよいという御意見が多かったが、最近では、未払い賃金を請求する訴訟で労働者が勝訴するケースも増えており、そのような場合に各自負担だと気の毒ではないかという御指摘もあった。それで、委員からの御提案で、当事者の属性によって分ける考え方、当事者間の合意の有無によって分ける考え方、訴額によって分ける考え方について検討してはどうかということになり、検討を続けた。その結果、当事者の属性によって分ける考え方は、属性設定自体がそう容易ではないことなどの問題点が明らかになり、訴額によって分ける考え方も、具体的にどの額にするのかなど、問題があることが明らかになった。そこで、当事者間の合意の有無によって分ける考え方をベースに、各委員から御意見をいただいた。委員の中には、当事者間の合意の有無によって分ける考え方に対しても、懸念を表明する御意見も出された。多数決というわけではないが、これまでの委員の御意見を伺っていると、全ての分野で、当事者間の合意を要件に敗訴者負担を選択できる制度を支持する御意見が多かったように思うが、当事者間の合意を要件に敗訴者負担を選択できるようにする案と、何か別の切り分け方とを組み合わせるべきであるという御意見の委員はおられるか。
(意見なし)
○ それでは、全ての訴訟で、当事者間の合意を要件に敗訴者負担を選択できる制度を前提に、本日議論していただいた制度設計の基本になる部分も含めて、事務局の方で、制度の概要が分かるような資料を作成してもらい、それをもとに、更に次回の検討会で議論を深めたいと思うが、いかがか。
○ 事務局に資料作成をお願いすることに異論はない。ただ、こちらもまだ意見を決めたわけではないということは申し上げておきたい。
○ では、そういうことでよろしいか。
(各委員了承)