【高橋座長】 所定の時刻になりましたので、第21回「司法アクセス検討会」を開催いたします。最初に、事務局から、本日の議題と配布資料についての御説明をお願いいたします。
【小林参事官】 本日の議題につきましては、「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて」の御検討をお願いしたいと思っています。配布資料につきましては、資料1が、「弁護士報酬の敗訴者負担(第21回検討会参考資料)」です。また、日本弁護士連合会から、「イギリス調査報告書」が提出されていますので、これを資料2としています。
なお、飛田委員から先ほどメモをいただきましたので、これもお手元にお配りしています。
【高橋座長】 それでは、事務局から、配布資料の説明をお願いいたします。
【小林参事官】 資料1につきましては、従来と同じような形で整理しているものですが、特に付け加わっている部分を中心に、簡単に御紹介をしたいと思います。
1ページに2として、「敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲及びその取扱いの在り方」という項目がありまして、その②のところに「範囲設定の方法」という項目があります。この中で、前回は、特にウの「当事者の合意の有無で分ける考え方」についての検討がかなりされました。これまでの議論の中で出てきた御意見としては、「全ての分野で当事者間に合意があるときのみ敗訴者負担を適用するという考え方」、「別の基準で敗訴者負担が適用される分野とされない分野を区切り、敗訴者負担が適用されない分野で、当事者間の合意があるときは敗訴者負担を適用する考え方」、「別の基準で敗訴者負担が適用される分野とされない分野を区切り、敗訴者負担が適用されない分野で、当事者間の合意があるときは敗訴者負担を適用し、敗訴者負担が適用される分野で、当事者間に合意(又は当事者のどちらか一方の意思表示)があるときは敗訴者負担を適用しないという考え方」、「別の基準で敗訴者負担を一切適用しない分野を設定し、それ以外の分野で当事者間に合意があるときは敗訴者負担を適用するという考え方」、「一定の場合には、当事者間の合意ではなく、一方の当事者のみが敗訴者負担の適用の有無についての選択権を持つという考え方」という5つではなかったかと思います。
「範囲設定の方法」についてのこれまでの議論の概要につきましては、3ページ以下にまとめてあります。例えば、1の「訴訟類型で分ける考え方」については、同一の事実関係について複数の法律構成が可能な場合があって、当事者が複数の法律構成を主張した場合、原則として、裁判所はどの主張を認めてもよいことになっているので、訴訟類型で考えた場合、こういった問題をどうするのかというような御指摘がありました。また、訴訟類型が細かくなり過ぎるのではないかというような問題の御指摘もありました。
それから、2の「当事者の属性で分ける考え方」については、法人と個人、あるいは事業者と消費者、事業者と非事業者というような形で分けてはどうかということで議論していただきましたが、4ページの上から3行目以下に記載がありますように、個人事業者の場合は、事業者として訴訟をしている場合と個人として訴訟している場合がはっきりしない場合があるのではないか、例えば、自宅兼診療所の建築を依頼した場合の個人の医師が業者に瑕疵担保責任を追及するときは、事業者になるのか否かはっきりしないのではないかという御指摘がありました。また、事業者として訴訟をしている場合でも、慰謝料請求などは個人として請求しているというようにも見られるのではないかというような御意見もありました。4ページの④に書いてあるように、当事者の属性で分ける考え方は、属性の異なる当事者にはバーゲニング・パワーに差があるという考え方を論拠にしていると思うが、そのような属性というものを典型的にうまく切り出すことができるのかどうか疑問ではないかというような意見もあったかと思います。
3の「当事者の合意の有無で分ける考え方」について、若干御紹介をさせていただきます。①の「全ての分野で当事者間に合意があるときのみ敗訴者負担を適用するという考え方」の論拠として、これまでに出てきた御意見の中では、社会が複雑化していて、一定の基準で敗訴者負担の適用範囲を決めることは困難ではないかということで、原則は各自負担としておいて、当事者間に合意があるときのみ敗訴者負担を導入することとするのが進歩的であるという御指摘がありました。また、敗訴者負担制度を導入しても問題のない分野はあるはずであり、そのような分野でも当事者間で合意ができなければ敗訴者負担にならないというのはいかがなものかという御指摘もありました。一方で、合意があるときに敗訴者負担にするというのは法規制がない限り今でも契約でできるのであって、その延長上の制度だけでいいのかというような問題点の御指摘もありました。
②の「別の基準で敗訴者負担が適用される分野とされない分野を区切り、敗訴者負担が適用されない分野で、当事者間に合意があるときは敗訴者負担を適用するという考え方」については、敗訴者負担を導入しても問題のない分野があるはずであって、そういう分野に敗訴者負担を導入すべきで、それ以外の分野で、当事者間に合意があるときのみ敗訴者負担を適用してはどうかというような御意見もありました。これに対しては、敗訴者負担の導入に反対の意見が多いということや、導入する分野をどのように設定するのかというような問題点の御指摘もありました。 ③の「別の基準で適用される分野とされない分野を区切り、敗訴者負担が適用されない分野で、当事者間に合意があるときは敗訴者負担を適用し、敗訴者負担が適用される分野で、当事者の合意(又は当事者のどちらか一方の意思表示)があるときに敗訴者負担を適用しないという考え方」については、ここで掲げたような御意見もありました。
次に④の「別の基準で敗訴者負担を適用しない分野を設定し、それ以外の分野で当事者間に合意があるときは敗訴者負担を適用するという考え方」については、当事者が合意をしているのに敗訴者負担にできない分野というのはないのではないか、仮にあるとしても少額訴訟だけなのではないかというような御意見もありました。
⑤の「一定の場合には、当事者間の合意ではなく、一方の当事者のみが敗訴者負担の適用の有無についての選択権を持つという考え方」についても、記載のような御指摘がありました。
⑥に「その他」として、これまでの御議論の中で出てきた御指摘を掲げてあります。例えば、約款での合意の効力を認めるのは問題ではないかというような御指摘がありました。これに対しては、訴訟提起後に行う合意に限って効力を認め、約款の効力は認めなければよいというような御指摘がありました。また、合意が強制されて、判断を誤って合意してしまうようなことはないだろうかというような問題点の御指摘がありました。これに対しては、当事者双方に弁護士等が付いているという状態での合意を検討しているのであって、そうであるとすれば、合意が強制されるとか、判断を誤るということはないのではないと思う。もしそこで判断を誤って合意するという前提を取るとすると、弁護士等が的確なアドバイスができないという話になってしまうのではないか。規制法などが別にない限りは、紛争になった場合の弁護士報酬の負担については、あらかじめ契約で決めることはできると考えられているのであって、そういった場合には、当事者が自分で判断しなければならないが、訴訟上の合意であるとすれば、弁護士の専門家の助言を得て判断できる点で判断の適切さが担保されるのではないかというような御意見がありました。それから、弁護士が双方に付いている場合を前提にした御意見だと思いますが、例えば、途中で弁護士が辞任して本人訴訟になったような場合はどうなるのかというような問題点の御指摘がありました。これに対しては、例えば、当事者双方に弁護士が付いて初めて合意が可能になるという前提であれば、それは問題にはならないのではないかという御意見がありました。他方で、駆け引きの道具に使われたり、裁判所の心証に影響を与えないかという問題点の御指摘もありまして、これに対しては、例えば、裁判所は和解などもするので、合意を要件とする弁護士報酬の敗訴者負担制度を導入したからといって特に問題はないし、裁判所の心証が変わるものではないというような御指摘もありました。また、不法行為による損害賠償の場合は、判例が弁護士への報酬を損害として認めているので、それとの関係はどうなるのかという問題の御指摘もありまして、これに対する御意見としては、例えば、損害論とは別の問題であって、合意を要件とする敗訴者負担制度が導入されたからといって、損害として認められてきた弁護士報酬が認められなくなることはないのではないか、最終的に二重取りができなくなるという限りの問題であって、その調整の問題ではないかという御意見もありました。
4の「訴額で分ける考え方」については、前回とほぼ同じような御指摘であろうかと思います。
これまで、合意の位置付けについて、委員の方からさまざまな視点、意見が出ておりまして、前回、委員からは、わかりにくいので図にしてはどうかという御指摘をいただきました。7ページは、合意の位置付けに関する御意見の幾つかを御紹介したものです。1は、合意型のみを採用する考え方で、全ての訴訟で原則として各自負担とした上で、当事者間で合意があったときのみ敗訴者負担とするというシンプルな考え方を取ってはどうかという御意見です。2は、当事者属性型等と合意型を併せて制度設計に組み入れてはどうかという考え方です。2の①は、当事者の属性等によって敗訴者負担が適用される、つまり、合意がなくても敗訴者負担になるという分野を入れるべきではないかという考え方です。例えば、事業者間の訴訟など、合意がなくても敗訴者負担を適用する分野をつくり、それ以外の分野では原則として敗訴者負担は適用されずに弁護士報酬は各自負担であるが、当事者間で合意があれば敗訴者負担を適用するという考え方です。2の②は、当事者の属性等により、弁護士報酬の敗訴者負担を適用しない分野を設ける考え方です。例えば、少額訴訟などは、当事者間の合意があっても弁護士報酬の敗訴者負担は適用しない分野をつくり、それ以外の分野についても原則として各自負担であるが、当事者間で合意があれば敗訴者負担を適用するという考え方です。3は、訴額型と合意型とを併せて使ってはどうかという考え方です。例えば、訴額が3,000万円を超える訴訟については、当事者間の合意がなくても原則として敗訴者負担を適用し、訴額が3,000万円以下の訴訟については原則として各自負担にしておいて、当事者間で合意があれば敗訴者負担にしてはどうかという考え方です。
合意の位置付けについても、このように幾つかの考え方に分かれていたのではないかと思われます。7ページのイメージ図の黄色の部分は、原則としては各自負担であるが、合意があれば敗訴者負担にできる分野、青色の部分は、当事者間の合意がなくても敗訴者負担を適用する分野、赤色の部分は、当事者間の合意があっても敗訴者負担は適用しない分野です。
【高橋座長】 それでは意見交換に入りますが、これまでにいろいろな御意見が出ました。訴訟類型で分ける考え方、当事者の属性で分ける考え方、訴額で分ける考え方、を従来検討してきたわけですが、当事者の合意の有無で分ける考え方も出ました。更に、それをまたどのように組み合わせるかということも議論していただきました。ここでは、焦点を絞らずにフリーディスカッション的に、と申しましても時間的な制約もありますので、そのことも念頭に置いて御議論をいただければと思っております。
【飛田委員】 先ほど事務局から御紹介をいただいたわけですが、メモ書きをつくりまして、配らせていただきました。私の話が要領を得ないものですから、前回お話したこともよく伝わっているかどうか心配になったものですから書かせていただきました。
私としては、合意論は、成熟した将来の中での1つのメニューということで検討するときが来るのかもしれませんが、現時点におきましては、現状がいろいろな意味で成熟しておりませんので、裁判にギャンブル性を持ち込んだり、弱者とか一部の人たちにとっては大変わかりにくい面がありますので、逆に強い方とか、リピーターは余り多くはなさそうですが、リピーターの方に有利に働いて、周辺の約款などへの影響も懸念されるということを思っております。したがいまして、結論としては、成熟した状況が生まれるまでは、今の不当提訴、不当応訴の損害賠償義務などの判例で定着しているものを新たに法文に明記して、そういうことの周知徹底を図ることによって、社会への影響度を増していただくという必要性があると考えておりますが、現状においては、すべての訴訟において、原則として各自負担にしておいていただく必要があるということを思っております。
と申しますのは、まず、現状では、既に御説明いただいておりますように、弁護士さんも、司法書士さんも、ゼロワン地域があり、今、一生懸命増員を図ったりしておられる途上にあります。地域格差をなくさないと、国民の間の平等ということも欠くわけです。お願いしようと思っても周辺にいないという、まず数の確保の問題もあります。
それから、2番目に、社会問題の医師としてのこれらの専門職の法曹関連の皆様の存在の周知徹底ということがまだ図られておりませんので、「表示に関する公正競争規約作成など」ということを書かせていただいておりますけれども、やはり、どのようなサービスを、どういう料金で受けられるのか、どういうメニューがあるのか、そして新しく法曹の方が巣立っていらっしゃったりした場合には、当然若葉マークの方も出てまいりますし、また、過去において懲戒等いろいろ不祥事を起こされたような方もおられるわけですので、そういう方々の、それらの関連業種の皆様の能力と、それから専門分野などを含めて、契約書を作成したり、また領収書を発行したり、近代化を図っていくいうことが必要ではないかということも思っております。周知徹底を図るということが、信頼度を増すし、存在を知らしめるということにもなるという意味です。
3番目に、法律扶助制度に関しましては、具体的な予算の問題などについてここで議論する機会がなく、私はこれでいいのだろうかという思いに駆られているのですが、今、日本では2割の方々ぐらいだろうという御説明がありまして、なおかつ、今、問題が多発している関係で、もう年度内に希望者に支給できないような、途中でお金がなくなっているという状況があると伺っております。少なくとも国民の50%程度が受けられるような、お金の問題で裁判が受けられなくなる、お金がないからアクセスできないというような事態を、諸外国のように防ぐ手立てが必要ではないかと考えております。
4番目に、同様に権利保護保険についても、今では交通事故保険などに含まれているという、一部そういうものがあるようですけれども、パブリック・コメントなどを拝見しておりますと、私もまだ全部見せていただいておりませんけれども、そういう保険の契約者と、そうでない人がまたそこで格差があって、保険会社の方のゴーイング・マイウェイ的なやり方に入っていない人は従わざるを得ないような問題を訴えておられる方が、実際に複数あります。ですので、権利保護保険というのも、抜本的な見直しをしていく必要があるのではないかと思います。
更に、これらの条件に加えまして、司法教育の充実を図っていただいたり、これは今、裁判所さんでもいろいろ御努力いただいたりしているようですし、また日弁連さんや司法書士さんたちも、それぞれの場で御尽力いただいているようですが、それを更にスピードアップしていただいて、なおかつ、今、進行中の司法制度改革、裁判員制度なども、国民が司法に目を向け、責任を持つということにうまく導入されるならば、とてもいい制度として使えるのではないかと思います。そういう制度を始めとして、この間検討させていただいた相談窓口の充実、これから勿論法曹人口の増加などが図られていくということで、その諸条件が整いアクセスが進んできて、リピート・プレーヤーも増えていくようになれば、成熟した段階で、自分自身が自分の道を決めるという、主体的な権利意識とか、相手に対する配慮とか、そういうものが醸成される体制が必要だと考えております。そういう環境をつくっていく過程にあると思っておりますので、私の考え方では、現状では、敗訴者負担制度の導入は、損害賠償義務等定着している判例も知らない人がいっぱいいるわけですから、まずはこれを法文に明記するということ。そうしますと、怪しげな嫌がらせのようなことをしようとしている人も、こういう制度があるということを知れば自粛するのではないかということが期待されますので、そういうことを思った次第でございます。
メモに、「司法のユニバーサルデザイン化」というような耳慣れない言葉を書かせていただきましたが、これは社会的に認知されているかどうかわかりませんが、他の分野におきましては、製品あるいはサービス等で、バリアフリーよりも更にあらゆる年代、あらゆる層の人たちが使いやすいものや、制度、そして安全設計といったことが、相当広範囲に、今、国際的に進められてきております。そういう中で、司法においても、せっかくの司法制度改革ですので、やはり今までの利用者の層を増やすという必要があるのではないかということを、私は、生の、まだ途中ですが、皆様のパブリック・コメントなどを拝見しておりますと、司法を大変利用しにくいということを訴えている声が圧倒的多数を占めておりまして、敗訴者負担制度導入に対する不安感が蔓延しておりますので、そういった意見もこの議論の中に十分取り入れていく必要があると思いまして、メモを出させていただいた次第です。
【長谷部委員】 飛田委員は、前回の御意見が伝わったのかどうかよくわからなかったのでということをおっしゃいましたが、前回もよくわかったつもりですし、また、今日のメモをいただいて、説明も伺って、一層よくわかったような気がします。
ただ、1点確認させていただきたいことがあります。弁護士費用の敗訴者負担というのは、専らアクセス阻害になるというようなお考えで、恐らく、敗訴者負担に不安を持っておられる方も多いというお考えなのかと思います。しかし、例えば、ヨーロッパで敗訴者負担原則が取られているというのは、確か、前回も、濫訴防止という観点から敗訴者負担を導入しているのだと言われたのですが、私は、それは違うと思います。濫訴ということで言えば、ヨーロッパよりも、アメリカの方がもっと訴訟の数が多いということがあるわけで、それを濫訴というかどうかはともかくとしまして、濫訴だから敗訴者負担を導入しているということではなくて、やはり、当事者間の公平ということだと思います。加えて、ヨーロッパにおいて敗訴者負担原則が取られているのは、やはり、弁護士費用が訴訟をするのに不可欠な費用だという意識があるからだと思います。ですから、現在の各自負担の方が、必ずしも弁護士は必要ではない、むしろ、弁護士を付けないで訴訟をしなさいという、どちらかというと弁護士なしで訴訟をする方向に働く制度だと思います。今後、訴訟が複雑化して、自分ではとてもできないという事件が多くなってきますと、やはり、弁護士を付けざるを得ません。その費用を、勝った場合は相手方から回収できるという制度にしておくというのは、恐らく、弁護士訴訟を促進するという観点から言えば、敗訴者負担原則の方が適合していると思います。ですから、濫訴抑止のためとか、弁護士費用の敗訴者負担は専らアクセス阻害の方向に働くということは、ちょっと違うのではないかと思います。
【亀井委員】 日弁連では、最近、ヨーロッパの調査にあちこち出かけていて、濫訴というか、訴訟抑制のためという機能が大きいというように伺ってきております。イギリスでは、今日の資料2の調査報告にも書いてありますが、この敗訴者負担が導入されたのは、小作人が地主階級に裁判をたくさん起こすということがあって、それを抑制するというのが始まりではないかというように聞いてきております。ローマ法からやっているという国もあるようなので、国によってそれぞれ違うかもしれませんが、日弁連の調査で聞いてきたところでは、今の機能としては、ドイツでも、フランスでも、イギリスでも、訴訟抑制の機能という感じがしております。そういう意味では、今の日本に訴訟抑制機能というのは、全くそぐわない機能だろうということで、日弁連は、基本的には反対をしてきたわけです。
【長谷部委員】 資料2の日弁連の調査報告書は、大変興味深く拝見しました。今おっしゃったのは、4ページの辺りで、敗訴者負担は中世の13世紀に導入されたと、賃借人が地主を訴えるという訴訟を抑制するためであるということが書かれています。しかし、13世紀からもう随分経っておりますし、20世紀から労働党が政権を取ったりして、労働者であるとか、賃借人であるとか、そういった方の利益を代表するような政権もできているにもかかわらず、敗訴者負担原則が変更になっていないというのは、ちょっと説明ができないのではないかという気がいたします。
【山本委員】 歴史的淵源と現在の機能というのは、あらゆる制度によって違うわけですので、13世紀にそうだったから今もそうだというのはどうかと思います。私は、イギリス法は専門ではありませんので、感想程度にとどめさせていただきます。
仮に、アクセス障害になる場合があるとしましても、今考えられている合意案は、アクセスをした後の問題ですので、アクセス障害とは全く切り離された制度として考えられているのではないかと思います。先ほど長谷部委員から、当事者間の公平というのも1つの重要なポイントだというお話がありましたが、結局は、各自負担なのか、敗訴者負担なのか、どちらが公平なのかということについて、今のところコンセンサスがないというところなのではないかと思います。そして、現状は各自負担であるわけでして、現状を出発点としつつ、なお、両当事者が納得の上で敗訴者負担の方がより公平だと、自分たちの当事者間の利害調整としては公平だと判断した場合に合意をするというのがこの仕組みだと、私は思っています。ですから、アクセス障害という点については、それがアクセス障害になると思う方は、そもそも合意をしなければいいわけですから、合意というのは、あくまでも任意のものであって、強制されるものではないというのが合意の出発点ですから、アクセス障害を根拠に合意案に反対するというのはいかがなものかという気がします。
裁判にギャンブル性を持ち込み云々という議論をされていますが、裁判というのは、もともとリスクを伴うわけです。100%勝てる裁判というのは、たまにはあるのかもしれませんが、多くの場合は勝つか負けるかわからないという意味で、リスクを伴うものであると思います。このリスクが大きくなるという御趣旨なのか、それがよくわかりませんし、契約というものも、そもそもリスクを伴うわけです。現状を変更するわけですから、当事者間のステータスを、財の移転であれ、サービスの提供なり何なりであれ、リスクを伴うわけです。先ほど申しましたように、きちんとこちらが絶対公平だというルールが立てられない、恐らくこの検討会の認識としては、立てるのが難しいというところまでは一致していると思います。そういうルールを立てられない以上、合意によるという制度をつくるというのが適当だろうと思います。
強者や一部のリピーターに有利に働くというお話もよくわかりません。先ほど申しましたように、嫌な人はノーと言えるわけですから、その機会が保証されていて、なお、強者や一部のリピーターに有利に働くのでしょうか。とりわけ、この制度については、全員がそう思っておられるかどうかはわかりませんが、少なくとも、私は、弁護士ないし司法書士ないし弁理士という、有償で訴訟委任を受けた訴訟代理人が双方に付いているときにのみ、この合意が許されると考え、かつ、先ほど来申しますように、訴え提起後にしか合意が許されないと考えております。そうしますと、何のために、資格を持った士業のうちの弁護士はじめ一部の者だけが訴訟代理人になれるのかという問題と絡むわけです。そういう人たちは、まさに、強者や一部のリピーターとその他の人たちの間の格差を埋めるためにおられるわけです。その人たちのアドバイスを受けて判断するわけですから、これで有利に働くということは、結局、そういう一部の士業の人たちがなぜ独占的に訴訟代理資格を有しているのかという説明がつかないと、私は思います。まさに、有利に働かないようにするためにこそ、弁護士さんたちがおられるわけです。
約款等については難しい問題があると思いますが、先日西川委員から御紹介がありましたように、大規模な企業間取引については、弁護士報酬を求償できるような規定が入っている場合もありまして、従来、これは有効だとみんな信じていたわけです。そうすると、訴訟外の契約でされた場合の問題は、今でもある問題です。この制度をつくったから出てくる問題ではなくて、今でもある問題でして、それが仮に消費者契約や労働契約に含まれてくるとなると、それは消費者契約法第9条、第10条、労働基準法第16条の解釈論の問題として処理されるべき問題です。
企業間取引では弁護士報酬の相互に償還するという規定がある場合もあるのに、なぜ消費者契約に今までなかったのかというと、基本的にはペイしないからだということなのではないかと思います。少額の訴訟で、少額の報酬を取るために、また訴えを起こさなければいけない。つまり、今回の仕組みは、訴訟費用の確定手続をそのまま使うか、類似した仕組みになるかは別として、基本的にそういう仕組みで、同じ裁判の中で弁護士報酬の問題を処理し、かつ、強制執行がすぐにできるようになるという仕組みをつくろうということだと思いますが、訴訟外で合意したもので弁護士費用の償還を仮に求めるとしても、本来の紛争の裁判に勝ったか負けたかが決まってからでないと償還できない仕組みです。そうすると、一旦訴訟が終わった後、次の訴訟をもう一度起こさなければいけませんし、しかも、何でもかんでも契約に書いてあるとおりに償還できるかというとそうではなく、多分、裁判所は、合理的な範囲のみ、弁護士費用の償還を認めることになると思います。例えば、消費者金融訴訟で50万円の支払いを求めた場合、弁護士報酬と認められるのはごくわずかな金額になると思いますので、それをまた別途訴訟を起こして取りにいくということは、基本的に経済合理性を欠いているわけです。なぜないかという説明としては、余り経済合理性がないからだという説明も可能なわけでして、私は、それほど懸念しなくてもいいのではないかという気がしております。
【亀井委員】 日弁連として、急に持ち出された合意を要件とする案について、まだ意見を表明できる段階ではありません。疑問点がいくつか出てきていますので、皆さんにここで御議論いただければと思っています。
1つは、今、山本委員がおっしゃったとおりの問題です。今日もらったチラシにも、「裁判外の契約条項による敗訴者負担の普及」ということが書いてあります。それから、先ほど小林参事官が紹介された資料1の5ページの⑥のところに書いてある問題が、皆さんが一番疑問、不安に思っているところです。山本委員がおっしゃったように、確かに、先ほどらいのルールというのは、双方弁護士が付いた場合で、かつ、訴訟後の合意であるということで、それはそのとおりだと思いますが、結局、この契約約款でやられてしまうと、私もこの案が出てきたときから心配しているのですが、尻抜けになってしまうわけです。今でもできるとおっしゃいます。実際私は見たことはありませんが、大企業であれば、そういう合意があるのでしょうか。知財の方に聞いたら、仲裁合意の中に入っていることはあるけれども、実際はほとんど使っていないということも聞いています。厳しいのは、例えば、敗訴者負担がこういう形で合意でできるということが流布、周知されれば、すぐに契約約款で、例えば貸金の条項とか、フランチャイズ契約とか、いろいろな契約約款でこれから流布されてしまうだろうという心配があるわけです。これは、大企業ならば余り問題にしないから、今まで余り異議も出なかったのだろうと思いますけれども、こういう形で一般市民の中に今度この契約約款が入ってくるということの効果の大きさというのが、どうなのだろうかという問題です。これは訴訟上の合意に限るということで、何らかの形でこの契約約款を無効にするとか、効力がないという形に何らかの担保措置が取れないものだろうかということが、1つの大きな問題になっています。理屈としては、今、山本委員がおっしゃったように、裁判が決まってから別訴で起こすというのが筋だろうと思います。少額だからほとんど裁判は起きないだろうというのでは、消費者の皆さんを納得させられません。今、消費者金融などが裁判通告というだけで皆さんびっくりします。利息制限法違反のものですから、裁判できるはずがないのに、裁判通告という通告書だけで、皆さん怯えるわけです。今度は、理屈として、別訴でも起こせますよということになったらば、大変大きな影響を国民に与えてしまうだろうということを心配しています。ですから、弁護士が付いた後とか、訴訟後の合意であるというのは、もう全く意味がない制約ルールになってしまうわけです。何か担保措置が取れないものだろうかということが、まず第一番の問題になっています。
【始関委員】 今、亀井委員がおっしゃられたお話、合意で取れるということになれば、約款でというものが出てくるのではないかというお話ですが、ここでは、先ほど山本委員がおっしゃられたように、訴訟提起後の、それも両方に弁護士等の訴訟代理人が付いていて、その訴訟代理人が入った上での合意があった場合にはということなので、訴訟提起前の合意の約款には何の意味もありませんので、それが普及するというのが、まずよく意味がわかりません。それと、合意自体は、勿論訴訟外でもできるわけで、別途訴えを起こすことは今でもできるだろうというのは、前回西川委員がおっしゃられたとおりです。しかし、それは、山本委員がおっしゃられたとおりで、ある程度大きな額にならなけれは全然意味がありませんし、例えば、先ほど亀井委員がおっしゃられた消費者金融の場合ですと、実際には、利息制限法の利率を超えて出資法の範囲内の利率で請求しているのが通常ですが、そのまま訴えを起こすと、部分的には確実に敗訴しますし、逆に利息制限法で計算されて返さなければいけないような立場です。そういう人たちが、弁護士報酬の返還訴訟を起こすということは考え難いですし、弁護士報酬について敗訴者負担にするというような約款は、多分つくらないのではないでしょうか。
また、先ほど山本委員もおっしゃられましたが、消費者と事業者との関係ですと、消費者契約法が適用されますので、仮に、事業者側の弁護士費用だけを一方的に負担しなければいけないという約款だと、それは、消費者契約法第10条で、一方的なもので民法の趣旨に照らして不合理なものということで、無効になるのではないかと思います。
【亀井委員】 始関委員のおっしゃるとおりならいいのですが、消費者契約法第10条の方は、公序良俗、または一方的な不利益ですから、例えば、一方だけ、事業者だけが利益になるような条項であれば、これで無効になるのだと思いますが、裁判に勝った方が弁護士報酬を請求できるという条項の場合はこれに当たるのかどうか、私もよくわかりません。
【山本委員】 一方的というのを、実質的に考えるのか、形式的に考えるのかということで、特に消費者金融のように、原告になる頻度が一方的に業者側に高いような場合ですと、実質的に考えるという余地もあるのではないかと、私は思っております。消費者契約法の立案の経緯は余り存じませんので、そういう考え方もあり得るのではないかという程度ですが。
最近の大学の入学金の返還訴訟では、損害賠償の予約だという考え方を示して認容する判決も出ています。そうすると、消費者契約法第9条の趣旨というのは、拡張的に解釈されてきているのではないかというような気もしますので、消費者契約法は相当限定的な書き振りになっていますが、判例の展開の中でいろいろと裁判所が考えてくれる可能性が相当あるのではないかと、私は期待しています。
労働契約については、労働基準法の第16条の問題になるのではないかと思っております。
【藤原委員】 ちょっと角度を変えた質問を亀井委員に伺いたいのですが。
現行においては、損害賠償請求の場合は、弁護士報酬を損害として請求できるということですが、それ以外の分野では、弁護士報酬は各自負担で、応訴する場合もあるでしょうし、そうでない場合もありますが、裁判に勝ったにもかかわらず、自分が負担した弁護士報酬を相手から部分的にでも取れないという実情があります。それは不公平ではないか、公正に欠けるのではないかという気もしますが、それに関しては、日弁連としては、どのような方策なり、考え方をお持ちなのでしょうか。
【亀井委員】 今、各自負担でやっていて、そのことについて市民の立場から異議があるわけでも何でもないんです。今、各自負担から敗訴者負担に変更しようというときに、何が根拠なのかということから考えているだけです。その場合に、司法アクセスを推進するのかどうかという感覚で見ざるを得ないのではないでしょうか。皆さん、結果として勝ったときは取りたいということはあると思っています。ただ、裁判を起こすときにどうなのかという基準で考えるというのが、今の司法アクセスの問題ではないのでしょうか。
【飛田委員】 先ほど山本委員から御指摘のあったギャンブル性の話について、それは、その前に、「更なる金銭的な」というような言葉を入れていただければ御理解いただけるのではないかと思っております。訴訟の案件以外に、更なる金銭的なギャンブル性ということが加わるわけです。お話を伺いながら、どう表現したらいいものかと思ったのですが、一般の、私のような平凡な市民が訴訟を起こすに至る過程というのを考えてみますと、私は、幾つか、このアクセス検討会のお話をいただいてから感じたことがあります。1つは、近所の家庭裁判所に、お昼に様子を見にいったときのことです。そうしましたらば、離婚の問題だということのようでしたが、午後1時からの相談を受けたいという方で、もういかにも疲れ切った、はためで見ても憔悴し切っているという人が、お二人そこに待っておられました。それから、私は、知り合いの人からいろいろ相談を受けたことがありますが、ある人の場合は、親族間に非常に複雑な問題があり、それに相続なんかも絡んできたということでしたが、その人は十分な教育を受け、本来であれば私よりもしっかりと判断ができそうな人でしたが、そういう問題の中に自分が入り込んでいるという状況の中では、全く判断力をなくしていました。その人は、相手の親族の側に付いた企業側から派遣されている弁護士さんに自分のことを相談するということを言うものですから、私は、一方に付いている弁護士さんにあなたの相談をすることはできないと言って、あなたも弁護士さんを頼んだ方がいいのではないかということをその人に伝えましたが、一般の人というのは、人生の中で大きな問題に直面したときに、全てのエネルギーがそういうことの中で尽きてしまうと言ったらいいでしょうか、それで国民が裁判を起こすということは、最後の救済の拠り所として裁判にたどり着くという状況も、一方であると思います。
大変狡猾なサラ金とか、一部の目に余る事業者たちのような人たちは論外としまして、その問題はその問題で別途やらなければいけない大きな社会問題ですけれども、一般の人がたどり着くということは、大方の人はもう自分が一体お金はどのようにしたらいいんだろうかという、まずポケットマネーから出すわけですから、経費から落ちるわけでも何でもないので、お金の心配をして、果たして裁判なんかできるのだろうかということです。三審制ですから、本当だったら納得いかなければどんどん上にということもあり得るわけですが、お金がいつまでもつかということを心配している人が、かなり多くの人に見られるわけです。ですから、現状で私の体験していることは、あなたの言っていることはごく微々たるものだと御判断になれば、それは仕方がないと思いますが、アクセスの問題を考えるに当たって、様々な訴訟に直面しておられる方のお話なんかを伺いますと、今、申し上げた事例とはまた違う方たちであっても、最後の砦として救済を求める裁判という言葉が、私の中にはなるほどと思って納得せざるを得ない迫った状況というのがあるんです。したがいまして、理論的にはこうあるべきだとか、それは自立した人間として合意でも何でも、あるいは裁判まで行くまでに既に自力で双方が話し合って事態をいい方向に持っていくことだって考えられるわけですし、消費者問題であれば事業者に交渉するということとか、それが暴力的なものでなく、お互いが主体性を持ってそういうことができれそれに越したことはないんですが、なぜこの長い人間の歴史の中で、裁判がこのように存続してきたか、特に近代政治の過程の中で、裁判制度を非常に重要だということを位置付けてこられたということは、やはり社会の中での多様な利害が、特に資本主義の発達に伴って衝突してくるということもあって、非常に重要な役割になってきたのではないかと思います。私は、司法の役割をもっと大きく、皆さんの、今でも十分社会的な信頼度は高いですけれども、更に信頼度を増し、多くの人が気軽に専門家の御意見を伺うということを願うわけです。くたびれ果てて、解決が見出せずに死んでしまう人もあれば、寝こんでしまって病気になる人もあるし、多種多様な悲惨な結末だってあるわけです。健康被害を受けたまま亡くなる方もあるし、ですから、そういう社会的な進歩というのは、安全性の進歩であって、私ども別の分野では、いろいろ安全性を高めるような微々たる制度設計とか、いろいろなところでかかわらせていただいておりますが、そういう意味では、裁判というのは、社会の安定性の確保ということが非常に重要な役割だと思うんです。ですから、前回もちょっと申し上げましたが、貧富の差が徐々に日本も拡大してきて、預貯金を持たない層が2割になっています。それから、自殺者も多いし、失業者も多い、将来への不安を訴える、年金なんかでもそういうことをおっしゃる方が大変大勢いるという中で、やはり合意というのは、それは平等な、対等な関係であれば、それは成り立つことですけれども、その裁判の相手方が必ずしもフィフティー・フィフティーの間柄ではない場合がいっぱいあるわけです。それを認識していただきたいと、それがやはり基本にならないと、国民の立場というものが見えてきません。優れた一部の、それこそ資本主義の初期のころであれば、一部の資本を持った人たちとか、一部のブルジョアジーのための制度というのが、かつて問題になったことがありましたけれども、それがもてはやされ、また非難され、いろいろな思想が生まれてくるとか、そういう歴史があったように思いますけれども、そういう時代ではなく、より市民社会が平穏無事に過ぎて、より豊かな社会を目指していくとすれば、やはり私は、勿論おっしゃっていることはわかりますけれども、わが国では、アクセスを推進することが一番問われているわけです。今後、いい判例をたくさんつくっていただいて、そこへ至るまでにこんな判例もあるんだから、あなたの言っていることはおかしいんだからということで、きちんと解決がつけば一番いいわけです。またADR等に対するいい範を示していただくためにも、多くの人が裁判に尻込みしないように。というのは、多くの方が大変な状況で裁判を起こしているのに、合意にせよ何にせよ、もし負けたときに負担が増えるようでは、もう裁判なんかとてもできないということをおっしゃるんです。ですから、訴訟当事者の方々の声というのは、私は無視できないんです。
【高橋座長】 飛田委員は、結論としては、全ての訴訟は各自負担でということですね。
【飛田委員】 現状においては、ということです。ですから、これから将来はわかりません。
【三輪委員】 先ほど、藤原委員から質問があった件に追加して、私も亀井委員にお尋ねしたいのですが、日弁連の調査でも、訴訟を提起したいが、自分が依頼する弁護士費用を相手から取れないから訴訟をしないという人が、十数パーセント以上あったように記憶しています。そういう人たちにとっては、むしろ、敗訴者負担制度を導入することによって司法アクセスが推進される、また、そのような人たちの存在は、弁護士の業務の在り方としてもあるべき姿に近付く健全な問題意識を持っていると評価できるように思いますが、日弁連としては、現段階では、そういう人たちについては考えなくていいということになるのでしょうか。
また、もう1つ、この合意に基づく敗訴者負担制度を導入すると、私法上の合意の方に悪影響があるのではないかという、亀井委員の発言にあった懸念ですが、これは山本委員、始関委員が言われたように、ほとんど影響はないのではないかと私も思います。また、仮に影響するところがあったとしても、それは私法上の契約の合意の実質的な効力ということで、先ほど来議論されているような問題の中で妥当な解決が図られるべきであろうと思いますし、そういう事情があるからといって、敗訴者負担制度を合意にかからしめるという、今の進んでいる方向がまずいという理由にはならないのではないかと思います。その2つを申し上げておきたいと思います。
【亀井委員】 もう大分前から、12、13%の方を無視していいのかということをおっしゃられているのは、よくわかっています。ただ、逆に言うと、残りの80数%を巻き込んでいいのかということが問題になるわけです。その意味では、合意で選択するというのは、両方を救済できるということはあり得ると、私個人としては思っています。どういう形なのかは別にしてということです。
それから、私法上の合意の問題です。裁判官からそういうお答えをいただくと、大変ありがたいとは思いますが、ただ、実体法の解釈でもって解決できるからいいではないかということでは、やはり、どうしても不安が残るだろうと思うのです。現実には、確かに、少額のものについてひとつひとつ裁判を起こすというのは、始関委員がおっしゃるように、ないだろうという感じはするのですが、市民の方にそう言って納得してもらえるかというのは問題です。金融業者が裁判通告というものを出すだけで、皆さん怯えるわけです。今でも、そういう通知を、違反だろうと何だろうと出しているところが多いのです。今度は、弁護士費用は敗訴者負担だ、あなたは絶対負けるぞということがそれに付け加わることになる。ですから、訴訟上の合意に限るというような手当てができないだろうかというのが、私どもの考えです。例えば、仲裁法では、附則でもって、消費者の問題、それから労働者の裁判に限っては、解除できるとか無効という規定を置いています。そのような形で、訴訟上の合意に限ってそのほかは効力がないとか、除外を法的に担保できないのかということが希望です。
【山本委員】 仲裁合意は特殊な契約です。国家の裁判権にアクセスする権利を両方が放棄して仲裁に行くという意味で、極めて訴訟法的な契約です。その両者が裁判に行くことを放棄するということについてものすごく大きな意味合いを認めた上で、必ずしも合意どおりに実現することが適正でない場合があり得るということで、2つの例外が附則で認められたと理解しております。それに対して、今回の問題は、使ったお金をどちらが最終的に負担するかという、明らかに、ごく私法的な問題なので、大きく差があるのではないかということです。そして、以前から申しておりますように、企業間取引で紛争が生じた場合において弁護士報酬が大きいものについては、それは当たり前のように行われているわけです。先ほど亀井委員がおっしゃったように、仲裁と組み合わせないと、実効性というのはかなり減じられるとは思いますが、そういうものが求められてきたわけですから、変な条項を置くとかえって悪影響があります。仲裁のときは2つだけでしたが、では実質的にどういう場合に限定していくのかということになると、また非常に難しい問題が出てくるのではないでしょうか。これまでさんざん議論して、類型論、属性論でうまくいかないからこそ、最終的に、合意論を中心に考えましょうという流れできたわけですが、類型論、属性論にそこでまだコミットせざるを得ないということになってしまうのではないでしょうか。
【高橋座長】 先ほど、亀井委員は、いろいろな疑問が出ているとおっしゃいました。その1つが今の疑問で、ほかにはどのような疑問があるのですか。
【亀井委員】 今日もらったチラシにも書いてあるのですが、強者に有利で弱者に不利な制度だという意見が、消費者団体から寄せられています。確かに、合意をするときに、やはり弱者と強者の考えが対等ではないから、どうしても、裁判官の心証にいい影響を与えるために、合意をした方が有利ではないかとか、駆け引きに使われる可能性というのは、やはりあるだろうと思います。そうした場合に、弱者の方は、対等ではないのに、無理に合意をせざるを得ないような、強制に近いようなものがあるのではないかという意見があります。
【高橋座長】 弁護士等が付いていても、あるいは、弁護士等が付いているからこそ、裁判官の心証を気にするということでしょうか。
【亀井委員】 そういうこともあるかと思います。
【三輪委員】 先ほど小林参事官にまとめていただいた中にあることと繰り返しになってしまいますが、駆け引きに使われるという要素が絶対にないとは思いませんが、だからと言って、そのこと自体によって裁判の結論が変わるということはおよそあり得ないと考えられます。逆にお聞きしたいのですが、そういうことを駆け引きに使う弁護士さんがいるということを前提にこの議論をしろということになってしまうのでしょうか。
【山本委員】 私も、それが品位を害する行動なのかどうかは別として、弁護士としては相当問題があるのではないかと思います。こちらは持ちかけましたが向こうが断わりましたなどということを法廷で言ったり、準備書面に書いたりするような弁護士というのは、ちょっと品位に欠けるのではないか、かえって裁判官に悪印象を与えるのではないかという気すらするわけです。前回も申しましたが、和解の場合、裁判官も、この事件についての最終的な落としどころということについて、やはり自分としてのコミットメントがあった上で和解を進めていくということがあり得ますが、これについて裁判官はニュートラルですから、裁判所がコミットしていくこと自体がほとんど考えられないわけでして、そういう意味では、裁判官は、あくまでも当事者間で話がついたときだけ受けて、それ以外のことは知りませんということになっていくのではないでしょうか。
【藤原委員】 飛田委員のメモの中にある「ギャンブル」という言葉は、ごくごく普通の日常用語の中では、余りいい意味を持たないと思います。私は、この言葉は、とても不適当な感じがします。リスクが伴うものであるという解釈であれば大変納得いくわけですけれども、ギャンブル性を持ち込むということ自体は、言葉尻をつかまえて大変恐縮ですけれども、やはり表現は不適当なのではないかと思います。裁判というのは、まさに勝つか負けるか、当事者は自分の方が正当だと思っているにしろ、どちらかが初めから100%勝てるというようなケースは大変まれで、物事をことごとく判断したときには、お互いに言い分があり、立場があり、お互いの主張があるわけで、裁判には常にリスクは伴います。それは、人生にリスクが伴うのと同じで、結婚にもリスクが伴い、すべての決断にリスクが伴うという意味合いであれば、私はそれでいいと思いますけれども、「ギャンブル」という文言を使うと、世間でのギャンブルに対するマイナスイメージもあって、また更に誤解を招く原因になるのではないかと思います。
今まで、敗訴者負担になったらこういうことが起こるんですよというように、そういうことは到底起こり得ないような情報、例えば、企業を相手に裁判で負けたら、敗訴者として、数億円の弁護士費用を負担する可能性だって出てくるんですよというような、私の理解では事実無根というか、想定不可能な可能性についても、そういう情報が一人歩きしているという節があります。例えば、消費者金融から通知が来ただけで、消費者金融からお金を借りている人たちは、それだけで震え上がるということは、あり得ると思います。「オレオレ詐欺」でも、あれだけの額の被害があるわけですから。しかし、正しい情報と正しい理解の下に裁判に望むというのが本当のアクセスであって、一方に見識を伴わないような判断をさせるということ自体が、アクセスに関して言えば、もう既に遠回りをしたり、アクセスを阻害する要因だと思いますので、情報に関しては、くれぐれも正しい情報の提供が必要であり、そこから憶測して、あるいは行間を読んで、こういう恐れがあるのではないかとおっしゃる方がいらしたら、その方々が持っている情報を正すという形での更なる情報発信、情報提供ということが必要になってくるのではないかと思います。萎縮が何によって起こるかという原因についても十分に考慮する必要があって、正しい情報に基づいた萎縮効果があるかないかということを論拠にしたいと私は思うのです。それが我々に課された課題だと思っておりますので、ですから、アンフェアであったり、不十分な情報であったり、間違った情報であったり、あるいは間違った情報ではないにしろ、そこから憶測してきた人たちの勝手な解釈であったりしたときの要望というものをこの場で議論するのは、私は不適切なような気がしております。
【飛田委員】 今、私の使った言葉についての御指摘がありまして、確かに、その言葉は、いろいろな解釈のしようがあるかもしれません。ただ、不適切なとおっしゃいましたけれども、藤原委員は、文部科学省の主催するサッカーくじというものを御存じでしょうか。文部科学省に垂れ幕が下がっています。青少年のスポーツに、我が国ではギャンブルを持ち込んだわけです。そういうお国柄で、町を歩けば、パチンコ屋はいっぱいあります。ですから、そういう意味では、余りにもきれいな世界ということをお考えになっておられると、私がここで使った言葉が不適切かもしれませんが、なぜこういうふうに言ったかといいますと、大変疲弊して裁判にたどり着いた人に、またそこで、負けたときに相手方の裁判費用を持つ、あるいは、勝てば逆に持たせることができるけれどもあなたどうしますかというようなことを、くたびれてたどり着いた人に新たなる問題を提起するということになるわけです。
【山本委員】 必ず決断しなさいということは、誰も言っていないわけです。この制度は、敗訴者負担でやりたい人だけやればいいので、やりたくない人は、弁護士さんが最初から向いていないと思ったら、勧めもしないし、そのままずっと行ってしまうわけで、どちらにするかを必ず明らかにしなさいということは言っていないわけです。
【飛田委員】 でも、相手がそれを望んだ場合には、当然話題として上るわけですね。
【山本委員】 訴訟の場には、裁判官の前には上がってきません。弁護士さんの助言の下に、訴訟の外でノーと言うと、訴訟には、基本的に上がってきません。
【飛田委員】 その仕組みは、御説明を伺ってよく承知しているつもりですが、裁判というのは、そもそも、金銭だけを巡って決着をつける、金銭に成果のすべてを見出すものとは違うと思うんです。今、私の言葉の使い方が不適切と言われましたけれども、弁護士費用についても、それは心情はよくわかります。もし相手方に不当なことがあった場合には、なぜ起こされた裁判で自分が払わなければならないのかという思いは、私も人間ですから、全く同感ですけれども、ただ、今、裁判を増やさなければならない、司法アクセスを考えなければいけないときに当たって、疲れてたどり着く人がもっと増えなければならないときに、もう自分のお金のことだけでも手一杯な人のところに、新たなる判断を求めるということは、またそこで、金銭の問題ではない解決を考えていた人に、そこでお金の問題に事態を変化させるという可能性はないでしょうか。
【山本委員】 なぜ拒否できないのですか。その方は、なぜ拒否しないのですか。お金の問題だと思っていませんという人は、拒否すればいいだけではないですか。それを拒否できない根拠というのは、どういうことでしょうか。
【飛田委員】 ただ、弁護士さんにお願いした場合に、まず、自分の抱えている課題についての説明をするという、お互いにそこでコミュニケーションを図るということが、非常に重要な仕事になってくると思いますが、それをまず全うすることが第一だろうと思います。そこに、もし、相手方から合意論を持ち込んでこられたときに、費用の問題がまた重くのしかかってくる可能性があるわけです。
【山本委員】 なぜ、重いのでしょうか。
【高橋座長】 亀井委員の疑問というのは2つだけですか。ほかにもあるのでしょうか。
【亀井委員】 その前に、藤原委員のお話の中で出てきましたが、負けたら多額の負担になる可能性があるというのは、正しくない情報ということではないと思います。負担額については、一部ということが決まっているだけで、パーセンテージが決まっているわけでもありませんので、見方によっては、多額というのも、別におかしくはありません。例えば、何億円という訴訟も、今、公害や医療過誤でも随分ありますので、1%としても、かなりの額になります。そのことだけ申し上げます。
そのほかには、やはり契約合意について、それから今の踏み絵というか、心配をしております。
【高橋座長】 裁判官の心証への影響ですね。
【亀井委員】 はい。あとは、不法行為については、今、判例理論でほぼ確立していますけれども、合意しなかったということで、弁護士費用を放棄したという形に取られてしまう心配があるのではないかということがあります。また、先ほど山本委員は、裁判官に見えないようにすればいいとおっしゃいましたが、どういうルールならばそのようになるのかお聞きしたいと思います。
【西川委員】 属性論などはすべて捨てられてしまって、もう合意のみということになりそうですが、当事者の合意がある場合に限って敗訴者負担制度を導入する、これが大原則だということにしたとしても、法人と個人の間の訴訟においては、合意いかんにかかわらず、個人がどちらかを選択する権利を一方的に持つ、個人に一方的選択権を与えるというのは、まだ主張したいところです。もし、それが法人の財産権の侵害だという憲法違反の問題がないのであれば、そのようにすれば、消費者の問題、労働者の問題も、99.9%は片付いていくと思うものですから。
【亀井委員】 資料1の一番最後のイメージ図の2の②の「各自負担の分野」を固定して、「例えば少額訴訟など」となっていますが、例えば、少なくとも労働事件訴訟とか、消費者対事業者の事件は、この各自負担の分野として固定していただければ、先ほどの疑問点が解消できるのではないかと思ったのです。
【高橋座長】 それでは、ここで10分程度休憩を入れます。
(休 憩)
【高橋座長】 再開いたします。合意論で本当に大丈夫かということを、もう少し検討していただきます。
まず、亀井委員から、現在、不法行為訴訟等では、判例で、弁護士報酬は、認容額の1割ぐらいが相当因果関係がある損害として原告が取ることができることになっていますが、今回の合意案がそれにどのような影響を与えるかという問題提起がされました。この点についてはいかがでしょうか。
【長谷部委員】 逆に、合意したとした場合に、金額まで合意できるかどうかという問題はありますが、ともかく何らかの金額を相手から取れるわけです。事務局からの説明にもあったと思いますが、それを二重取りするのはおかしいと思うのですけれども、合意しないで従来どおりということになっていながらそれを放棄したというように考えるのは、一歩飛んでいるのではないでしょうか。あくまでも現在の取扱いを前提とした上で、もし合意した場合にはその分控除されますということだと思います。
【山本委員】 そういう議論は、損害保険に入ってないから損害賠償をもらえないということに近いところがありまして、どうもおかしいのではないかという気がします。私は、合意をした場合でも、完全に損益相殺の中に含めていいかどうか自体、問題だと思います。それは違う解釈もあり得るのではないでしょうか。つまり、実際に払った額を超えない範囲で両方並存するという解釈も成り立つと思っております。
【高橋座長】 理論的には、両委員が言われたようなことになるのでしょう。前回も同じような議論が出て、三輪委員からも、相当因果関係が切れるはずはないだろうということでした。
もう1つ、少し技術的な問題になりますが、合意するかどうかの交渉過程を裁判所から見えないようにする工夫が必要ではないかという論点が上がっておりましたが、この点についてはいかがでしょうか。
【山本委員】 私は、そういうことは、是非、弁護士の自主ルールでお考えいただきたと思っております。いろいろ問題があるということを弁護士会がおっしゃっているわけですから、その問題を解決することを弁護士会に強く求めたいと思います。どういう場面でこれをしゃべってはいけないとか、問題を出した途端に退廷にするということはできないでしょうから、裁判所のコントロールで何かやるというのは、非常に難しい問題だと思います。基本的には自主ルールで、それを紳士協定的に考えるのかどうかいろいろなことがあり得ると思いますが、交渉の場を規制するというのは、私は難しいと思います。
【亀井委員】 例えば、管轄の合意ですが、双方の申立書を書面で出しています。そういう形になるのでしょうか。
【山本委員】 多分同じだと思います。
【高橋座長】 書面によるとしておいても、法廷でやってはいけないとまでは言えないかもしれませんが、書面によるとしておけば、それは法廷外で、裁判所には見えないところでやることになります。そして、申し入れたのに拒否されたということを準備書面で書くような弁護士に対して、弁護士会がどうするかという話になるわけですね。
【亀井委員】 弁護士倫理の問題ですね。
【山本委員】 弁護士会は、その点についてものすごく問題があると言うのであれば、自浄性を是非発揮していただきたい。
【長谷部委員】 少し補足させていただきます。日弁連はイギリスへ調査にいらっしゃったようですので、聞いてこられたかと思いますが、イギリスに、和解の申出というものがあります。一方当事者から和解の申出をして、一定額を提示して、それを蹴ってトライアルに行った場合に、和解で提示した以上の額が取れなかったときには、弁護士費用は和解を蹴った方の負担になります。そういう弁護士費用の負担に関わるような問題で、和解の申出があってそれを蹴ったかどうかということは、トライアル担当裁判官には一切知らせないということになっており、それが慣行になっています。そういう制度を見てこられたのですから、それをモデルにしていただきたいと思います。
【始関委員】 当事者の共同の申立てで、かつ、書面でしなければならないという例としては、民事訴訟法第265条に、裁判所が定める和解条項について規定があります。これは、一方の申立てとそれに対する同意だとやり取りの問題があるということで、ちょうど先ほど議論されていたのと似たような問題を避けるためです。だから、全部話がついた段階で書面で共同の申立てをすることにして、裁判所にはそれまでの過程は全然知らされないということはできると思います。それ以上、話がつかなかった場合に、話がつかなかったということを暴露するかどうかというのは、それは弁護士倫理の問題ではないでしょうか。
【高橋座長】 先ほど、すべて合意ということではないはずだという御意見が西川委員から出ました。もう一度西川委員のお考えを言っていただいて、それを検討したいと思います。
【西川委員】 まず、すべての訴訟は原則として各自負担で、当事者間で合意があったときのみ敗訴者負担というのを基本とします。私は、今までの主張を随分譲ってきているわけです。ただし、アクセスを推進する意味でありますとか、先ほど言いましたが、弱者が一方的に契約で強制されるという約款の問題もあるということですから、法人と個人の間の訴訟につきましては、個人がどちらかを一方的に選択することができる。つまり、敗訴者負担でやりたいと言えば敗訴者負担になるし、各自負担でやりたいと言えば各自負担になる。法人は個人の言うがままにしなければならないということです。もちろん、憲法の平等原則に反しなければという前提での話ですが。
【山本委員】 選択権を行使しなかった場合のデフォルトは、どちらだとお考えでしょうか。
【西川委員】 原則は各自負担ですから。
【藤原委員】 各自負担が原則で、そして合意が成立したときのみ敗訴者負担ということですね。ですから、一番上位概念は、現在と同じということですね。それでもまだ弁護士会はだめだということですか。
【亀井委員】 回答できる立場にはありません。ただ、個人が一方的に選択した場合、負けたときは敗訴者負担になりますね。
【西川委員】 敗訴者負担を選択すればですね。
【亀井委員】 そういう法律があるか、私もよくわからないのですが、慎重に検討すべきでしょう。
【山本委員】 法律で、契約をしたとか、何か一度財の変動が起こった後、片方の当事者にオプションを与えてそれを解消するという例は幾つもあります。ところが、無のところからいきなりオプションが出てくるような感じがします。探せば例があるのかもしれませんが、果たしてそういう例が今までにあるのかどうか。西川委員御自身がおっしゃったように、財産権の保障の問題をどう考えるかということも慎重に考えなければいけませんので、確かにおっしゃるように、格差がある場合におけるアクセス促進効果というのはすごくあると私も思いますが、手段として過剰なのかもしれないという気もします。
【飛田委員】 前回述べさせていただいたようなケース、変額保険の融資を受けた被害者の問題で、相手は銀行と保険会社が一緒になって、ミスリードと言いましょうか、半ば強引に脅すような形で消費者の契約を取りつけたようなケースがあって、御本人は、その内容からして自分の方に正当性があるので、この裁判は負けるはずがないと思ったということを言っているようなケースもあるわけです。そうしますと、その人が弁護士さんを頼んでいない場合には、これは弁護士さんがすべて付いているという条件があるわけですね。そして、相手方にのみ付いているということであってはならないと、双方に付いていることですね。そうしますと、私が思いますのは、対弁護士さんとの関係です。例えば、私が変額保険の被害者であったとして、もし弁護士さんのミスリードがあったようなときに、新たなる紛争がそこで生じてくる可能性があると思います。
【藤原委員】 弁護士との関係では、いつもあり得る可能性です。そのときだけではありません。誰か代理人を立てるということは、代理人の是非は本人が選ばざるを得ないわけです。だから、ゼロワン地域というのが大きな問題であるということだと思います。ですから、自分が選ぶ代理人の是非に関してまでここで議論する必要はないような気がするのですが。
【高橋座長】 弁護士がミスをしたら、弁護過誤訴訟、これがどれだけ実効性があるかというのは別問題ですけれども、理論的には、弁護過誤訴訟を起こすということですね。
【山本委員】 例えば、和解交渉などは、いつもトラブルの元になります。スペキュレーションの問題ですから、どういう結果が出るかについて、予測が弁護士さんと当事者で違って、弁護士さんは悲観的、当事者は楽観的で、でも弁護士は、あなたおかしいですよといって和解してしまうと、必ずその後、いろいろと問題が生じるわけです。スペキュレーションが違う限りは、訴訟のあらゆる場面に生ずる問題です。なぜ、この問題を特に取り上げなければいけないのかというのは、今、藤原委員がおっしゃったとおりであって、自分の事柄を他人に預けた場合、任せた場合には、訴訟の場に限らず、あらゆる場合にある話ですから、委任制度というのはそういうものだと、そこは割り切らなければいけないのではないかと思います。
【飛田委員】 そうしますと、訴訟で新しい問題などについて、社会の問題はまだ法律の明文化がなされていないような問題について、裁判で状況を判断してもらいたいと思った生活者がいた場合には、その人は、危険性を回避するためには、弁護士さんを頼まないでしないと、弁護士を頼んで、もしそこでミスリードされて、そういう複雑な過程を考えると、結局、先ほど申しましたように、弁護士さんが社会のお医者さんであるなら、どこにどういう方がおいでになって、どういうことを得意としておられてというような基本的な条件がまだ整備されていないんですね。ですから、それはいつになったら整備されるのかという、勿論先々の問題というのはありますけれども、今これから改革のスタートを切って、少しずつ離陸しようと、エンジンを吹かしつつあるという時点ですから、私はそれを心配するわけですね、こういう制度を導入していいものかどうか。私たちの消費者問題などを含めて、よき弁護士さんと巡り合って、いろいろな形で応援していただいたというような、そういう経験もいっぱいありますが、まず、そういうような、私個々人がということではないですが、そういうことがある反面、誰に頼んでいいかわからない。例えば、困惑している相談を受けた人に対しても、その人の住んでいる県が遠くの方だったりしますと、どこに聞いていいかわからないというか、それでは県の弁護士会の方にまず声をかけてみたらどうかというような話になるわけですが、フェース・ツー・フェースの人間関係というのが今ないんですね。そこで恨みがましく新たな紛争を抱えて、あなたミスリードしたねというような、そんなことをトラブルを抱えた上に、更に、私が裁判を起こす側でしたら、もう疲れますから、そんなことは避けたいと思います。弁護士さんもお困りになるでしょうし、何か社会に紛争を、この制度が導入された場合に、新たなる紛争が、またそこで起こってくるような気がして、先ほどの山本委員のお話ですと、そうでなくたってほかにもあるよとおっしゃっておられますけれども、この制度が入ったための紛争、あるいは猜疑心なり、状況がまだ整備されていないための、社会整備がなされていないための疑心暗鬼なりという問題が生じるのではないかという気がします。
【亀井委員】 おっしゃるとおりだと思います。弁護士と依頼者のトラブルというのが増えるのは間違いないだろうということを心配している方もたくさんいます。弁護過誤の裁判も増えるのではないかと思っています。
【藤原委員】 それもアクセスの拡大の方策の一つですね。結果として、それは望ましいのだと、私は思います。お互いが納得できる形で、裁判に委ねるということで、それが更なる問題であるというとらえ方はしていません。私は、そのようなケースを増やせばいいということではなくて、ケースが増えて、必要な人が結論を委ねられるということが重要だと思っています。それが必要となれば、そういう傾向は強まる可能性は多いにありますし、それは、決して今まで飛田委員がおっしゃっていた方向、望んでいらっしゃった方向と矛盾するとは、私には思えません。だから、いいとこ取りという話はあり得なくて、公正ということは、何を目標とするかといったら、公正で、なおかつ必要な人が必要な裁判を受けられるということを大目標にしたとしたら、そのための様々な努力と、様々な時間と、様々な選択と、様々な決断というのは、個人はやってのけなければ始まらないわけで、それに関してまでも誰かを保護したいというのは、それはまさに過保護以外の何ものでもなくて、それは取り越し苦労のような気がしております。
【長谷川委員】 机上に合意論に反対する意見書というのがあるので、少し読んでいたのですが、やはり最初のスタートの部分から、ここに出席していらっしゃる先生とか関係者が、どこかで敗訴者負担ということを目指しているとしか思えない議論があったということがあると思います。弁護士の先生に会っても、ここにある意見書を少し斜め読みしても、とにかく合意による敗訴者負担であっても、何かその先に敗訴者負担に持ってゆくためではないかと、弁護士の先生はとにかく考えてしまうようにこれは読めるのです。「敗訴者負担」という言葉に、大変な反応を示されている文章だと思います。
先ほど、西川委員は、原則として各自負担と、今日初めて聞いた感じがいたしますが、私はほっとしているわけです。これまでの発言だとどうも違うのではないかと思ったりもしたものですから。もう一度、弁護士の中で敗訴者負担というものを進めたいと思っているパーセントというのは、どれぐらいいらっしゃるのか。いつも反対の人にばかり会うものですから。弁護士の方々が一番国民に近いところにいるわけですが、そういう方々が、私には、全員反対のように見える状態があるわけです。ですので、敗訴者負担について進めたいと思っている弁護士が見えないから、どれくらいいらっしゃるのかもよくわからないところがあるのです。とにかくここにある意見書を読んだりしている限りでは、少なくとも、この言葉への拒否反応というのが、大変あるものなんだなと思うわけです。もう一度基本が日本では各自負担でいいんだという原則の下に、敗訴者負担を合意の中で推し進めていくことに、弁護士としては、本当にどういう問題があるのか、改めて伺うと同時に、弁護士にとって合意というのはどういう方法がいいのかということも、はっきりとするといいのかなという感想を抱きました。ちょっと斜め読みしてみると、すべてこの検討会の委員たちは、敗訴者負担を進めたいばかりに、こんな合意論を出したような感じでもある。原則にしたいばかりに、敗訴者負担を少し導入したんだというようにとらえているようです。
【山本委員】 私は弁護士ではないので、御質問の趣旨とはちょっと違うことを申し上げるかもしれませんが、むしろ、今までの例外論とすみ分け論というのは、敗訴者負担を原則として、違うところを探そうというニュアンスが相当強かったと思います。しかし、むしろ各自負担出発で、合意があったときに例外的に、合意があったときというのは、これは明らかに例外的なんです。それをなぜ、敗訴者負担が原則であるというようにとらえられるのかというのは、私はちょっと理解できません。多分、普通の法律家がこの制度を解説するときに、原則は各自負担です、合意があったときに例外的に敗訴者負担を導入するとした制度ですと、こう書かない人というのは、ちょっと考え難いです。学内の試験でそういう答案が仮に出てきたら、私は絶対に落第に付けると思います。
【高橋座長】 資料1の最後のイメージ図ですと、2になります。組み合わせるということ、これも検討しておかなければいけません。先ほど西川委員は、これとは違う形のものをおっしゃいましたが、従来ですと、こういうこともあり得るということで出ていたもの、それを一つひとつ見ていたきたいと思います。2の①は、「当事者属性等により敗訴者負担の適用分野を設ける考え方」、つまり、例えばということですが、事業者間訴訟は敗訴者負担、そうではないものは各自負担でとして合意を入れる、このような区切り、組み合わせについてはいかがでしょうか。 従来ですと、この事業者間訴訟ということは、少しふるいの目が粗過ぎるという御議論があったわけですが。
【長谷川委員】 事業者には大変幅があります。
【山本委員】 法人は基本的に事業者ですが、ただ、消費者契約法の適用におよそ抽象的にはなり得ても、消費者契約を結ぶことがあり得ない事業者というのも、法人の中にはあるわけです。そういうことを考えると、やはり法人という切り方も少し難しいのではないかという気がしておりまして、属性論というもので切り分けていくというのは、私も自分でそれなりに考えたのですが、どうも難しそうな気がします。
【高橋座長】 これは今まで議論して、ややデッドロックに乗り上げたところです。
②は少し違います。例えば、少額訴訟は合意があっても敗訴者負担を適用しないというようなことですが、これはどうでしょうか。亀井委員が先ほど言われましたが、少額訴訟だけではなくて、労働などもそこに入れるというのは、次に行くような気がしますが、2の②です。少額訴訟でも、司法書士が付いていて、合意すれば敗訴者負担を適用してもいいという考えもあると思います。西川委員はそういう御意見でしょうか。
【西川委員】 そうです。
【長谷川委員】 2の②にすると、飛田委員の心配に応えられそうな感じもしますが。
【始関委員】 飛田委員の御心配については、訴訟提起後の合意に限って、しかも訴訟代理人が両方に付いている場合に限るということで、実際にはその御心配はほとんどいらないのだろうと思います。そのときに、両方に訴訟代理人が付いていて、訴訟提起後なのに、労働と消費者だけは合意ができないことにしてしまうわけですね。そうすることを、どのように説明するのでしょうか。説明はできるのでしょうか。少額訴訟も同じ問題があると思いますが、少額訴訟の場合は両方に訴訟代理が付くことはほとんどありませんから、実際には、除いても除かなくても同じなのかもしれません。それと、消費者というと、さっきも少し出ましたが、事業者、消費者という区別問題が、前にデッドロックに乗り上げたものが、また別の形で入ってきてしまうということもありますので、理屈上も、実際上も、難しいのではないでしょうか。
【亀井委員】 格差がある当事者の場合で、しかも、ここについては検討会でもかなり合意がありましたので、除外するということで固定してもいいと思います。
【山本委員】 約款規制とか、基本契約中に入っているものは約款規制でうまくいきます。ところが、この場合はそうではありません。それから、仲裁契約についての議論を援用されますが、労働者と使用者の間でも、現に紛争が起こった後の、その当該紛争に関する仲裁契約は、結んでしまえば有効です。それは消費者と事業者間の、いわゆる消費者紛争についても同じです。現に生じてしまった紛争との関係での仲裁は有効です。あくまで将来の紛争に対する、つまり、スペキュレーションが非常に大きいところで保護してあげるという発想で、当該事件というように、ある程度スペキュレーションの範囲が限定された段階ではもう保護しない、自己責任を取ってくださいという立場に立っているわけです。ですから、ここでもやはり同じことが言えるわけです。約款規制は、どういう契約から、どういう紛争が、争いごとが起こるかということについての予測が非常に困難で、そこで合意することがスペキュレーションを多く含んできて、やはりそれは格差がある場合などには不適合だというような判断はしやすいのですが、しかし、この場合のように、事件になったときはまだスペキュレーションの余地は残りますが、それでもなお、ある程度限定された範囲なら、自己責任を取ってくださいというように言わざるを得ないのではないでしょうか。だから、多分仲裁法の附則を援用されて、そういう議論をされるのだろうと思いますが、利害状況は全く異なると私は考えます。
【亀井委員】 そういう意味ではなくて、先ほど疑問に呈した契約約款で合意をした場合でも、ここで各自負担の原則の中に入れて固定すれば、契約約款というのは余り出てこないだろうという含みがあって、ここに入れた方がいいと思うのです。
【山本委員】 それは関係ないのではないでしょうか。
【亀井委員】 各自負担原則ということになれば、それを一般的な契約条項に入れるということは余り考えられないのではないかと思います。だから、ここに入れておけば、それがかなり阻止できると考えます。消費者、労働者の場合には、証拠があるわけでもないし、判断能力も余りないという、弁護士が付いていても判断材料がないという意味で、各自負担の原則で固定しておきたいという、そういう意味です。
【山本委員】 弁護士が付いていて、なおそういった場合に合意するというのは、完全に弁護士の過誤ではないでしょうか。弁護士が仮に指導したとして、本人がそれでも合意するといって強気でやった場合は別ですが。
【三輪委員】 合意があっても敗訴者負担にできない領域を認めるというお話は、議論としてはわかりますが、それを言われると、逆に、合意がなくても敗訴者負担を原則とするような領域も認めるべきだということになるはずで、今後検討すべき材料として、その両方の議論を残しておくべきだと思います。私は、前回申し上げたとおり、敗訴者負担の制度を合意があった場合に限るのは、この制度のあるべき姿としては不十分だと考えています。しかし、この検討会での今までの議論を現段階で集約させるということになると、合意を基礎に置くという方向性に十分理由があると思います。この合意に基づく制度を採用した場合の不都合がほかになければ、合意案でこの検討会の意見をまとめるべきだと思います。
【飛田委員】 お尋ねしたいことが2点あります。西川委員がおっしゃられたことで、先ほどよく理解できなかったのですが、企業対企業では、もう既にそういった内容、合意に関する取決めを一定の契約によって持っているということでした。そういう企業の割合というのはどれぐらいありますか。
【西川委員】 一部に契約で取り決めているという話は聞きますが、どの程度あるのかは全くわかりません。各社の契約事項ですから。アンケートを取ったこともありません。
【飛田委員】 そうしますと、お互いによく対抗するチャンスの多い相手方との合意ということですね。
【藤原委員】 契約関係にある人たちだから、別に相反した利害を持っているというわけではなくて、むしろ、契約関係を築いた上で一緒に事業をやったり、協力関係を持っている人たちという方が多いと思います。
【飛田委員】 ちょっと誤解されてしまいましたけれども、そうではなくて、お互いに日常的な交流と言いましょうか、お互いの商取引上のパートナーと言いましょうか、そういう方たち同士で、そういったことがもう既に行われているという現状があるわけですね。
【西川委員】 あります。
【飛田委員】 わかりました。もう1つは、裁判に初めて臨むという国民の数が圧倒的に多いのではないかと思いますが、ある種のサラ金等の裁判では、あちこちにそういう借金をつくっている人もいるようですから、ちょっと状況が違うのかもしれませんが、一般的に言って、リピーターというのはどれぐらいの割合なんでしょうか。
【西川委員】 そういう統計はありません。
【飛田委員】 私が思いますのに、法律関係、司法関係というのは、言葉の問題も難しいですし、雰囲気もなかなか市民になじみにくいような雰囲気もありますから、そういう意味では、経験豊富な方は、もし一歩譲って合意論を導入するということになれば、リピーターは状況の把握もできているということになりますし、西川委員がおっしゃるような、契約を交しておられるような間柄の方たちの間の既にあるものについても、それはもうやっておられる以上認めていいと思います。ですから、現状では、損害賠償の問題と、それから既に実行されているもの、あるいはリピーターについては合意を導入するということです。
【山本委員】 合意ができる場合を定めるというのは、かなり難しいです。それは規制社会に戻りましょうということです。こういう合意ができる人は、こういう人に限りますというのは、必要性がある場合は、勿論全くないわけではありませんが、それは完全に事前規制社会に戻りましょうということで、現在の社会の流れに反するわけです。経済合理性があると考えることを当事者が基本的に定めていき、不合理があるときに事後規制にしましょうということになってきているわけで、この場合だけ合意できますというのは難しく、合意ができるのが原則だけれども、こういう場合にはだめですよという書き方しか、恐らくできないことになってくると思います。
【飛田委員】 ハンディというのが明らかに、市民間といいましょうか、ここに並んでいらっしゃる皆様方と、私のところだと相当の差がありまして、私はそういう意味では、裁判に関してはいハンディキャップを負っているというように思っているんです。皆様方は、特にプロ中のプロでいらっしゃるので、情報も豊富ですし、ここに明らかなる人的な格差があると思います。私はこの場にいさせていただいていますから、少し難しいお話もお伺いしたりしますけれども、そうではない、この場にいらっしゃらない方は、なおさら縁遠い世界だと思ったり、あるいは恐怖感を覚えたり、いろいろな反応を示されると思いますが、そのハンディキャップというのを埋めるものが何かほしいと思います。
【山本委員】 それはまさに弁護士の役割です。プロフェッションとしての弁護士に説明義務を負わせるというのは、医者のインフォームドコンセントと同レベルに求められるべきです。だから、そこで解消されるべき問題であって、現に今まで弁護士さんが必ずしもそういうことをやってこなかったとすれば、それが問題であって、この制度の問題ではないと思います。
【飛田委員】 現実の社会の状況ということは、私は常に意識の底に持たなければいけないということを思うものですから、山本委員のおっしゃる話はなるほどと理解はいたしますが、ただ、現実問題として、そうあるべきだ、弁護士さんはこうあるべきだという理想論に偏ってはいけないのではないかという、御説を覆すようで恐縮ですが、そういう気がします。
【山本委員】 ですから、そういう危険もあるから、上限規制をしようとか、そういう議論をするわけです。お互いに出したものを全額丸々敗訴者負担にするという合意ができるかどうかとか、そういう形で、初めて導入する制度ですから、それはリスクを伴うものだから、そういうことは考えていかなければいけないということは、私も承知しているつもりですが、入口で全然だめだと、弁護士さんが説明義務を果たさないかもしれないからだめだということになるのでしょうか。それは、私は、少し行き過ぎのような気がします。
【高橋座長】 飛田委員の御懸念は議事録に残りますから、少し先に進ませていただきますと、イメージ図の最後の3、訴額型と合意型を併用する考え方というのも、制度としては、理屈の上ではきれいに切れそうですが、やはり訴額というのは、かなり粗いふるいですね。確かに、金額が高いほど両方に弁護士が付く確率が高くなるとか、そこは言えるのでしょうが、これまでの議論でも、逆に金額が低いときでも、特に被告になったときには回収できた方がよいのではないかという御意見もありました。この考え方についても、いろいろ難しいということでよろしいですか。
【山本委員】 ちょっと逆戻りしますが、イメージ図の2の①について1点だけよろしいでしょうか。先ほどは属性論の話だけが出ましたが、類型論の問題もあり得ます。私は、従来、審議会の意見書というのは、類型論を前提としているというように読み込んでいた関係で、相当類型論にコミットしてまいりました。そして、人身損害訴訟というのも、敗訴者負担から外れる領域だと私は申し上げましたが、これもまともに考えていくと、かなり難しい問題を持っております。例えば、物損と人損の両方を含むような訴訟、あるいは、人損と物損の両方をあわせて慰謝料はこれだけの額というような訴訟もあり得るわけです。そう考えていきますと、確かに、私自身は、理念的にはまだ若干のこだわりは持っていますが、現実に制度化していく上で、非常に難しい問題を伴うのではないかというように考えておりまして、やはり類型論もかなり苦しい。そういう意味で、3についても、類型論と組み合わせていますが、このような考え方もやはり難しい制度設計なのではないかと、今は考えております。
【長谷部委員】 今、類型論の検討をしてきた結果の行き詰まりのような話が出ましたので、私も少し申し上げたいと思います。
合意論に反対する意見書では、類型論で、例えば労働訴訟などは除かれるという、そういう話がまとまっていたのに、なぜいきなり合意論になったかというようなくだりがあります。これまで、この検討会では、訴訟類型ごとに弁護士報酬の敗訴者負担の適用の可否を検討してきて、なかなか難しい問題があるということで、当事者間で合意があったときにのみ敗訴者負担にできる制度を設けるという案が出てきました。我々としては、それほど無理な感じなく来たわけですけれども、恐らく、議事録などを御覧になっている外の方にとっては、その辺りのつながりがちょっと見えにくいのかもしれません。
類型論では、技術的に、先ほどの人身損害と物損とが一緒になっているような場合、不法行為でもどっちになるのかという、そういう切り分け方も難しいということに加えて、やはり、労働訴訟などの場合には、実質論としても、敗訴者負担から全く除いてしまうというのは妥当でないような場合もあるのではないかと思います。休憩前に藤原委員が御質問された問題にも関わるわけですけれども、結局、勝訴しても相手方から弁護士費用が取れない人が、自分でそれを調達して払っていかなければいけないわけです。恐らく即金では払えないでしょうから、分割払いというような形で払っていくことになるのだろうと思いますが、そういう負担を課すということでいいのかという問題があります。そういうことを考えると、御本人は、敗訴者負担の合意をしたいと考える人もおられるかもしれません。勿論、飛田委員の御心配のように、実際にはそういう方はそう多くはないかもしれませんけれども、いかにもこれは不当解雇であるということで訴えを提起し、できることなら弁護士費用も相手から回収したいという人が出てきたときに、そういう人は少ないのかもしれませんが、それはだめですよという理由は何もないのではないかと思うのです。ですから、これも前半に申し上げたことの繰り返しになるかと思いますが、むしろ労働訴訟のようなときに、提訴を萎縮させるためではなくて、そういう人が弁護士費用を払わなければいけないという心配なく訴えを提起できるためには、敗訴者負担を導入する、合意によって敗訴者負担にするということは、十分意味のあることだと思います。ですから、それは本人が選択すればよいことであって、それをだめだというのは、むしろアクセス阻害になりはしないかと、私は心配します。
【亀井委員】 今の長谷部委員の御発言に関係してですが、今、労働団体と消費者団体としては、訴訟類型で検討していたときには、消費者と労働の分野については適用除外ということで一応の合意を見たのに、何でいきなり、全部1件ごとに合意ということをさせられるのかということです。ですから、適用除外ということで、ある程度合意を見た部分については、各自負担で固定してもらいたいということをもう一度申し上げます。
【山本委員】 あのとき議論していたのは、法律上、各自負担と敗訴者負担の領域を分けようという議論をしていたわけでして、仮にそういう制度設計を法律で分けたとしても、それぞれについて、敗訴者負担の領域で各自負担の合意を許すという制度設計も、それプラスαとしてできたわけですし、ルール上、各自負担の領域について合意によって後で敗訴者負担に変えるという制度的設計もできたわけです。ですから、これはレベルが違う問題なので、それを混同していただくとのは非常にまずいのではないでしょうか。あのときは、ルールとしてどうするかという問題を議論していたわけです。今度は合意の問題ですから、それは全然レベルが違うところのお話をされていると、私は思います。
【飛田委員】 労働訴訟の関係者の方は、一様に、敗訴者負担制度の導入に反対しておられます。そういう御趣旨というのは、裁判を起こすに至った過程の非常に過酷ないろいろな出来事もあったし、また、裁判によって職場の環境が変わってきたと、必ずしも勝てなくても、職場の環境がいい方向に向いてきた場合もあって、裁判の意義というものがあるということを言われる方がいました。敗訴者負担制度がどういう形であれ導入されると、なかなか力関係も厳しいし、訴訟を起こすということが難しくなるというお話だったかと思います。
私は、理論的な構成ということにおいては、全く十分なものを持ち合わせていませんが、現実の声、その声というのは、例えば労働問題にしましても、今、リストラが随分行われていて、それに関して正当なものもあるかもしれませんけれども、自らが起こして招いたという経営者責任というのが全く問われていないという現状がありますし、また、リストラの過程で、大変非人間的な扱いをされているということを聞きます。ですので、私は、現実から離れて、ここで理論的なことだけで決着を着けるということを、是非お控えいただきたいと思います。そうでないと、私などの存在している意味もないわけです。ですから、現実抜きで話を進めるということであれば、私も役割を終えているのかなという気もいたしますが、ただ、多くの方の声も伺い、実際にパブリック・コメントも拝読させていただいている過程ですけれども、そういうものを見ますと、やはり、私のような者も何らかの道具として果たすべきものがあるのではないかという気がしますので、辛うじてここにおりますけれども、余りにも技術論に偏り過ぎているのではないかという気がして心配しております。
【長谷部委員】 パブリック・コメントを求める段階では、当事者が嫌だと思っていても敗訴者負担になる分野を設定するという前提での議論でした。私は、労働訴訟などで無理やり敗訴者負担にすべきだと言っているわけでは決してないわけです。それが嫌だと、敗訴者負担になってしまうと提訴が萎縮されるという方は、各自負担で構わないわけです。そうではなくて、むしろ相手から取りたいという考えの方が、今はおられないのかもしれませんけれども、将来出てくるかもしれない、そういう人のために、その人にとってはそれがよいチョイスだということですから、それまで摘んでしまうということはないのではないかと申し上げているわけです。
【飛田委員】 私は、なぜ現実にこだわるかと言いますと、将来社会が成熟したときは、また別の検討があるでしょうということは、かねてから申し上げているんです。現在の、今、この世の中の、この経済、社会情勢の中で、どのようにこの事態をとらえて、また解決をしていくかということで、そういう意味でのお話なんです。ですから、長谷部委員がおっしゃっていることはよくわかります。私だって、そういうような考え方は十分にあり得ますから、それは理屈としては十分わかりますが、現実がそうではないのではないかということを心配するんです。
【藤原委員】 そう考える人の、そうしたいという自由を奪うという根拠はないと思うんです。ですから、あくまでも本人が本人のリスクにおいてそれを選択したいと希望したときに、その人が選択できないという根拠は、多くの他の人がそうだからというのは、その人のユニークなケースにおいては全く理不尽な、他の人がそうだからというだけでは、その人の選択の余地が極めて狭められた、それが理不尽だと考えざるを得ないと思います。だから、現状がどうであるかということは大変重要ですけれども、私は、それ以前にと言いたいんです。それ以前に、一人の人が有する権利として、それを選択するという余地を、現状がこうだからといって、未然にその可能性を摘んでしまっていいのかということの方が、むしろ重要な決断のような気がします。ですから、選びたくない人には選ばなくていいという自由度は100%与えられているにもかかわらず、選びたいという人に対してそれをノーと言えるという根拠は、私には理解できないということです。
【飛田委員】 藤原委員がおっしゃっておられることもよくわかります。わかりますけれども、私は労働者の代表ということではないですが、ただ、今までいっぱい御意見が寄せられましたね。ヒアリングが行われていないので、生の声というのは、皆さんまだ、私もいろいろな労働者の方もおられると思いますが、伺ったとは言えない状況にあるわけですけれども、寄せられている御意見とか、書かれたものなどを拝読する限り、藤原委員のおっしゃるのは、レアケースなんです。
【藤原委員】 レアケースであるにしろ、その提訴をしなくてはいけない人にとってはすべてのケースなんです。ですから、その人の権利を、原則各自負担とうたっておいて、その中で当事者間で合意があったときのみ敗訴者負担という可能性を、すべてに関して、例えば労働関連の訴訟に関してあらかじめ摘み取るというのは、私は根拠がないのではないかと申し上げているんです。その議論がとてもかみ合っていないように思います。
【高橋座長】 飛田委員の御意見は、どういう言葉で表現するかはともかく、勿論、我々は最後まで留意しておりますので、少し議論を別のところに置かせてください。 まだまだ詰めておかなければいけないことがたくさんあります。
最初は確認的なことです。合意案を中心に議論が進んでおりますが、まず、敗訴者負担となる弁護士報酬は、訴訟における弁護士報酬に限るのかどうかという問題です。弁護士報酬は、保全や執行の場合にも生じますが、弁護士報酬の敗訴者負担という制度を設けるに当たって、訴訟に限るかどうかという問題です。以前にも、この検討会で若干議論していただいたように思いますが、その際の議論の状況も踏まえると、訴訟に限ってはいかがかと思いますが、それでよろしいでしょうか。
(各委員了承)
【高橋座長】 次に、弁護士に限るかどうかという問題です。現在、訴訟代理権は、弁護士だけでなく、司法書士、弁理士にも認められています。以前に委員から御意見をいただきましたが、弁護士に限るのは説明がつきにくい面があり、弁護士、司法書士、弁理士とするのが合理的なように思われますが、それでよろしいでしょうか。
(各委員了承)
【高橋座長】 それから、もう今日既に御意見をいただきましたが、当事者の双方に訴訟代理人が付いている場合に限定するということでよろしいでしょうか。
(各委員了承)
【高橋座長】 当事者が複数の訴訟代理人を選任している場合でも、負担額を訴訟代理人の人数によって増額させない、つまり、1人分に限るということでよいかということですが、それでよろしいでしょうか。
(各委員了承)
【高橋座長】 そして、金額はすぐ後で議論しますが、敗訴者の負担となる額の定め方については、従来から、訴額にスライドさせるべきだという御意見が多かったと思いますが、それでよろしいでしょうか。
(各委員了承)
【高橋座長】 そこで、今まで少し議論が十分でなかった金額について御議論をお願いします。例えば、合意によった場合でも、報酬額、負担額をどうするか。今までの議論ですと、訴額に応じてという議論は出ていましたが、もう少し詰めますと、例えば、何百億円の訴訟だとすごい金額になると、何%の世界ですが、何千万、何億円の弁護士報酬の敗訴者負担ということになるかもしれませんが、そういうことまで認めていいのかどうかという問題があります。また、それとは少し違った問題で、既に少し出ておりますが、報酬額まで合意で定めることができるのかできないのかという問題もあります。
まず、上限についてははどうでしょうか。やはり設けておいた方がいいでしょうか、それとも、合意なんだからもう要らないということでしょうか。
【亀井委員】 上限はあった方がいいですね。法律扶助金額程度としか、私は言いようがありませんが。というのは、余り高い合意ということは、やはり合意しにくいでしょうね。やはり、少しでも使おうとするならば、低い金額の方がいいと思います。
【山本委員】 上限というのは、どういうイメージなんでしょうか。訴額にスライドさせて、それにキャップが付いてということでしょうか。
【亀井委員】 そうです。
【高橋座長】 そこの御議論をお願いしたいのですが。やはりキャップはあった方がいいということでしょうか。あるいは、もう計算上出てくるわけですし、訴額が高くなれば、だんだん率が低くなっていくのというのが、手数料の考えですね。そうだとすれば、キャップはなくてもいいのかという辺りはいかがでしょうか。
【西川委員】 今、訴額10億円だと、印紙代は幾らぐらいになりますか。
【瀧澤補佐】 改正前ですと311万7,600円、改正後は、302万円になります。
【西川委員】 その辺りがいい線なのかもしれませんね。訴額10億円程度の印紙代ということで、その辺りをキャップにしてはどうでしょうか。
【高橋座長】 仮に合意案になった場合の前提としてということです。
【飛田委員】 承知しております。お話はよくわかります。パブリック・コメントの中に、そういうものを導入する場合は、されては困るけれども、されたときには、交通違反の罰金程度にするべきだという御意見がありました。
【高橋座長】 キャップについては大体わかりました。次に、金額自体も合意で定めることができるのかどうかということですが、金額の合意ができない場合、敗訴者負担にする合意まではできるけれども金額の合意はできない場合もありますから、そういう場合に備えて、標準といいますか、金額の合意ができない場合の金額は、訴額にスライドさせる形で決めておくとして、それよりも高い額にする、あるいはそれよりも低い額にするという合意を認めるのかどうかいうことが問題になります。もう合意を認めないで一律にやってしまうというのも、すっきりはします。 しかし、合意をするならいいではないかという考え方もあると思いますし、合意を認めるとしても、やはりキャップは付けるべきだろうとか、いろいろな考え方があるかと思いますが、いかがでしょうか。
【山本委員】 訴額連動で定まる額、あるいはキャップをはめた額よりも下であれば合意可能だというイメージはあり得ると思います。法律で一定の上限額を定め、その額以下で合意の効力を認めるという考え方もあれば、訴額にスライドして定められる負担額を上限として、それ以下の額で合意の効力を認めるという考えもあると思います。上は、やはり飛田委員がおっしゃるようないろいろな御懸念がありますから、現状では、何でも合意に任せるということはちょっと危険があるだろうと思いますので、トラブルを防ぐ意味でも、先ほどと言っていることがやや矛盾しますが、規制をかけておくというようなことでもよいのではないかと思います。
【飛田委員】 とにかく社会不安ということにならないように、私は、とても慎重にしていただいた方がいいと思います。せっかく長い間ディスカッションしてきましたのに、社会的な、たくさんの御意見も寄せられて、それを多いと読むか、あるいはこれだけの人口の中で少ないと見るかは別ですけれども、反対の中で一部にせよ、そういうことを導入するのであれば、法律扶助制度の額などがありましたり、そういうことなども考えてしませんと、非常に将来に禍根を残すのではないかという気がして、私はならないんです。
【山本委員】 離婚訴訟や、株主総会決議取消の訴えのように訴額が算定不能とされているような場合は、実は、手数料との関係では、なかなか額の設定は難しいのですが、弁護士さんがある程度定型的にどのぐらいの労力を要するのかというのはある程度予測可能で、訴額160万円とみなすというのは、少し厳しいのではないかと、もう少し高い金額に設定しないと、弁護士さんの労力が報われないということになりはしないかと思っております。
【西川委員】 訴額の算定できない場合、訴額160万円だと、今の提訴手数料でいくと幾らになりますか。
【瀧澤補佐】 1万円は少し超えてしまうと思います。
【西川委員】 訴額が算定できる場合であっても、訴額の小さいものについては、訴え提起の手数料よりも高い金額にしなければいけないかもしれませんね。
【山本委員】 それを踏まえた上で、更に考えなければいけないという趣旨です。
【西川委員】 わかりました。
【高橋座長】 従来の弁護士報酬規定でも、離婚などは訴額とは別にしていましたね。
【亀井委員】 たしかそうです。今度、報酬規定もなくなるので、多分、唯一の基準として残るのが法律扶助の規定なので、それも参考にしていただきたいと思います。法律扶助ですと、普通は22万円が上限で、更に特別な場合、例えば代理人が何人も付いた大事件とか、そういう場合に35万円ですから、そのぐらいをある程度の基準にしてもらいたいという気がします。
【西川委員】 法律扶助の場合、訴額10億円というような訴訟は余りないのではないですか。
【亀井委員】 ないですね。敗訴者の負担となる額については、裁判所に裁量を認めてもらいたい。フランスでは、当事者の経済的事情に配慮するという制度もある。
【山本委員】 経済的事情に配慮するというのは、私は必要ないと思います。合意した以上は、それは仕方がないと思っております。ただ、あっという間に終わってしまうというようなこともあり得ますので、当初合意した額の償還を求めることが適正ではない場合というのは、事件の推移によってはあり得ると思います。だから、その事件の推移を考慮して額を下げるということについて、裁判官に裁量を与えるという考え方はあり得ると思います。
【始関委員】 合意ができた場合は、いろいろな訴訟費用の中に、訴訟代理人の報酬の一部が入るということですね。そうすると、基本的には、負担の裁判は、民事訴訟法の第61条以下の負担の裁判と確定手続で賄えるようにするのが簡明だと思います。そうだとすると、原則は、民事訴訟法第61条により敗訴当事者の負担ですが、今おっしゃられたようなことは、第62条で、事情によっては勝訴の当事者に負担させることができるという規定もありますし、第64条では、一部敗訴の場合は裁量で定めるということになっていますので、それでほぼ賄えるということではないですか。別の規定を設けるというのは、なかなか厄介だと思いますが。
【高橋座長】 負担額を下げる方の合意は認めてもいいが、上げる方の合意は認めない方がいいということでしょうか。
【長谷部委員】 悩ましいところではありますけれども、前提として、訴訟代理人が付いていて、その意見も聞きながらということですから、もしかしたら訴訟代理人同士で金額についても話し合いをすることがあるかもしれませんが、そんなにべらぼうに高い額の合意をするということは、余り考えにくいように思われます。もし、スペキュレーティブなというか、ギャンブル性というか、訴訟を機会にして弁護士費用を取って儲けようとか、そういうような合意がやたらあるようですと、それは規制しなければいけませんけれども、今申し上げたような前提があるとすれば、そういうことも起こりにくいですし、事件によっては、標準的な額よりももう少しかかるというような場合もあり得るとは思いますので、合理的な範囲内であれば、当事者間で合意してもいいような気はします。
【山本委員】 合理的な範囲というものを決めるために、訴額にスライドさせて負担額を決めるのではないかという気がします。それを超えてなお合理性の判断を裁判所に求めていくということになりますね。つまり、合理的な範囲内であれば当事者間の合意が許されるとすると、結局、事後規制として裁判所が関与せざるを得ないので、上を認めるのであれば、公序良俗違反に当たらない限りは認めてしまうということになりはしないでしょうか。
【高橋座長】 法律の規制で、1.5倍の範囲内なら合意を認めるとか、工夫はいろいろあると思います。
【山本委員】 更に2段構えになるわけですね。それならいいのですが。そうすると、額を決めなかったときに、これが作用するということですね。
【高橋座長】 そういうことです。
【山本委員】 わかりました。
【飛田委員】 例えば、弁護士報酬の敗訴者負担の合意をしてしまった人がいるとします。額が高くなればなるほど、そのために、早めに、ちょっと納得いかないけれどもこの辺で妥協して和解しようとか、あるいは、その話を聞いただけで、裁判まで至らないで入口でUターンするという人もいるかもしれません。そういうことを考えますと、本当に慎重にやってほしいと思います。
負けた側が本当に悪いのだろうかということに、また単純な話をして恐縮ですが、負けるという法的な判断を下すことが、現行法が完璧なものであるなら、裁判官も非常に優秀な方ばかりがおられるのならば、誠に失礼な言い方をさせていただきますが、それでいいかもしれませんが、現行法は大体後追いですし、裁判官自体も、裁判員制度の導入の背景にはいろいろな意見が噴出しているがために、より国民に身近なものにしようという動きが一方であるわけですから、そういうことを両方考え合わせていかないと、私はちょっと制度設計としてはまずいのではないかと思うのです。
私たちが社会を発展させていくために、より多くの人が参加することで、例えばある判決がおかしかったとしても、次のときに別の裁判長が別の判断をなさって、こういう判断もあるということでそれが覆されて、今の時代だからこちらの方がいいでしょうということになって判例が積み重ねられていくというような、そういう秩序形成とか法形成の役割というのが、恐らく、幾らでもお互いに合意すればということになれば、損われてくるという可能性を感じるのです。
負けた方がもし悪い場合ですが、非常に不当なことをしたのであれば、損害賠償として、きちんと裁判官がはっきり相手方に指示するという体制を取らない限り、不当な訴訟というのは減らないかもしれませんし、私は、現実にどれぐらいそれがあるのかという割合をよく把握しておりませんが、また、やり得を認めないためには、別途、そういうような非常に不心得な、法の間をかいくぐっていろいろ悪事を働くような人たちのための懲罰的賠償制度というものを別に立法していく必要があるのではないかと思っております。そうでないと、本当に心配でならないです。Uターンしそうな人がいっぱい出てくるし、和解も、意に沿わぬ内容であっても、これ以上負担には耐えられないというような思いで、うかつに合意してしまったがために、引き返さざるを得ないような状況が生まれてきたり、一方では、勿論、皆さんおっしゃるようなすっきりしていい面もあるということはわからなくはないですけれども、現実の社会に適用したときに、それが本当にそういう形に行くかどうかがやはり心配なので、うるさいでしょうが、どうぞお聞き置きください。
【亀井委員】 疑問に思っていることがありまして、前回も申し上げましたが、勝訴、敗訴というのをどこで分けるのか、裁判官の御意見も伺っておきたいのです。例えば、慰藉料を1,000万円請求して300万円認容という例は、大変多いですね。
【三輪委員】 どのような制度を組み込むかということですが、今の訴訟費用の場合と同じような運用になるのかどうかは、議論していただいていいことではないでしょうか。
【亀井委員】 今の訴訟費用の考え方でいいのかということに疑問を感じないではないのですが。1,000万円請求して300万円取れたら、勝ったという感じもするのではないかと思うのですが。
【高橋座長】 慰藉料などは典型的ですが、従来裁判所が認めてきた額が低過ぎるから高くすべきだという声は、学者の中でも随分あって、弁護士さんも努力されて上がってきています。弁護士さんも、どうせ300万円以上取れないとわかっていても、訴額は1,000万円で出すということが今まであったわけで、それは一定の効果があったのかもしれません。そのような場合、形式でいうと、1,000万円請求して300万円認容ですから、700万円は負けていますから、これは敗訴だということで敗訴者負担を適用されたら困るということですね。そうすると、予想される1つの効果としては、今の判例の相場だと300万円しか取れないなら、350万円とか、400万円ぐらいに抑えて提訴せざるを得なくなって、判例の発展が阻害されることになるのではないかということですね。
【亀井委員】 そういう意味です。
【山本委員】 そのような戦略で臨まれているときは、合意しなければいい。そのような場合には、断固としてやらないということですね。弁護士さんも心に決め、当事者を納得させればいいのではないでしょうか。それ以上のことを、なぜ合意してしまった後にそういうことを考えなければいけないかというのは、今のコンテクストではわかりません。ただ、実質全面勝訴だけれども一部敗訴という場合はあり得るということで、現行法も、完全に認容率で切っていないわけです。ある程度の幅を持たせているので、私はそれでいいと思います。
【高橋座長】 いいところは、両方取りたいわけですね。提訴額は高くしておいて、勝ったら取りたいと。しかし、それは、先ほど藤原委員が言われたように、少し虫がよすぎるということでしょうか。
【亀井委員】 一部敗訴の場合の民訴法第64条に、「裁判所が裁量で定める」と書いてあります。それで若干融通ができるということですね。
【三輪委員】 以前、西川委員から質問があって、そのときにお答えしたことがありました。弁護士費用が訴訟費用の一部という形で入ってくると、訴訟費用の裁判について、どのような運用が落ち着きいいかということを考えていかなければいけない問題になると思います。場合によっては、他の訴訟費用とは別に、弁護士費用部分についての負担を定めることも必要になるかもしれません。これは問題提起として、重く受け止めさせていただきます。
【山本委員】 制度論で細かいところですが、私は、訴訟費用と弁護士報酬の問題を完全に一本化してしまうのがいいかどうかという点について、かねて疑問を持っています。従来は、弁護士報酬の一部訴訟費用化というようなことが議論されてきたことがあるわけですが、今回は、訴訟費用化という枠には入れていないんですね。そういう意味では、オプションとしては、基本的に訴訟費用の裁判と近いことをやらなければいけないことは確かですけれども、全く訴訟費用と同じ制度の中に組み込まなければいけないかという点については、なお検討を要するだろうと思います。 ばらばらの制度ということもあり得ますし、負担原理についても、訴訟費用とは少しずらしたようなこともあり得るというぐらいの柔軟な構えで、仮にこの案が法律になるのであれば、そういう形で制度設計をしていただきたいと、私は思っています。
【始関委員】 それは、今の民事訴訟法第61条以下の規定を使えばできるのではないですか。つまり、先ほど出た一部勝訴、一部敗訴の場合でも、裁判所は裁量で定めるので、訴訟費用中、当事者が合意した弁護士報酬というか、訴訟代理人報酬、それについてはこういう負担にして、ほかのものはこうするということも裁量でできるはずです、あるいは全部勝訴した場合でも、弁護士費用だけはこのようにしますという定めはできることになっているわけですから。
【山本委員】 始関委員は、以前、上訴審の場合にうまくいかないのではないかという御指摘をされたのではなかったですか。
【始関委員】 私も何を申し上げたのか、記憶がさだかではないですが、上訴で初めて合意したときにどうするかという問題は、それはここでは賄えない話で、どの範囲が訴訟費用になるかという話ですので、上訴審で一審の分までさかのぼって全部訴訟費用にするのか、上訴審の分だけ訴訟費用にするのかについて、明確に合意する必要があるのではないかと思います。
【高橋座長】 訴訟費用の中に入れるのか、別の法律、民訴の特例とするのかといったようなことは、立法するに当たっての技術的な問題もありますので、この検討会で考えることではないでしょう。ただ、訴訟費用に似た扱いにすることを排除するということは、この検討会も考えなかったという辺りでいいのではないかと思います。 負担額の合意を認めるかどうかについては、標準額より下の合意は認めてもいいのではないかというご意見が多く、上の合意については両説あるということでしょうか。
【山本委員】 私は、標準額の1.5倍がいいかどうかは別にして、一定の範囲内なら自由に設定できるというような制度設計であれば、その標準額より上にいくことについて特に問題を感じません。標準額というのは、完全にがちがちの上限だという意識というか、それ以外に上限を設ける余地がないという趣旨で私は理解しておりましたが、その点は撤回させていただきます。
【高橋座長】 さらにもう少し議論しておきますと、合意による撤回は構わないのでしょうが、一方当事者による撤回ができるのかどうか、また、合意はいつまでできるのか、最後までできるのか、判決の直前までできるのか、それともある時期で区切るのかというような問題もあります。
まず、一方当事者による一方的な撤回は、ちょっと理屈は通らないと思いますが、異論がある方はいらっしゃいますでしょうか。勿論、詐欺、脅迫があったとか、刑事上罰すべき他人の行為による場合は別問題ですが。
(異論なし)
【高橋座長】 合意の時期、方法については、どのように考えればよろしいでしょうか。これまでのこの検討会での議論を前提とすると、訴訟になってからの合意でなければならないということだと思いますが。
【亀井委員】 合意ができる時期は、できるだけ早い時期でしょう。
【始関委員】 ただ、そうすると、提訴後一定の期間というように限ってしまうと、最初は一方当事者だけしか代理人が付いていなくて、途中から両方に代理人が付いたという場合には困るのではないですか。また、途中で代理人が代わっても、後から付いた代理人は、合意した方が得だということで合意するというようなことができなくなってしまいます。合意の時期を制限するという考え方は、駆け引きに使われるということを論拠にしているのだと思いますが、そういう事態にならないよう、共同の申立てにしてはどうかと申し上げました。
【山本委員】 始関委員がおっしゃった点もありますし、余り早い時期に限ってしまうと、スペキュレーションが強くなり過ぎて失敗するということもありますので、早ければいいというものでもないように思います。ですから、最後の結審段階になったら、大抵の事件では両当事者結論が出ていますから、それは事実上合意をしないということであって、特に規制する必要はなくて、やはり一審であれば、訴え提起後、訴訟係属発生後、口頭弁論終結時までということでよろしいのではないでしょうか。
【亀井委員】 それでは余りにも広過ぎて、不安感が出てきます。最初の方がいいのではないでしょうか。
【高橋座長】 亀井委員の不安感というのはどういうことなんですかね。最初の方だと、それこそまだ見通しが立たないときということになりますが。
【山本委員】 相手方の出方も見ないうちに合意してしまって失敗したということにもなるのではないでしょうか。
【亀井委員】 遅くなればなるほど、踏み絵的要素が強くなるのではないですか。
【始関委員】 そうならないように、共同した書面でという話を先ほどしたわけですから。
【亀井委員】 もう一度考えさせてください。
【始関委員】 しかも、後の方になれば、裁判官は自分でも証拠を見ているわけですから、踏み絵も何もありません。最初だからこそ、踏み絵としても働き得るのではないですか。
【亀井委員】 どういうところでやるのが無難か、検討したい。
【高橋座長】 私が今日御議論いただきたいと思っていたのは大体以上ですが、何か抜けているところがありましたら、どうぞ。
【山本委員】 今の関連で、審級限りにするかどうかという点については、先ほど始関委員が言われたので、少し議論をしておいた方がいいのではないでしょうか。各審級ごとにやるのか、審級代理の原則からすれば、そうなるという理解でよろしいでしょうか。
【始関委員】 ただ、そうすると、上告審がどうなるのかという問題はあります。
【亀井委員】 訴訟費用は、最後のところですね。
【始関委員】 一審で合意するときは、その一審限りにしてもいいし、全部でもいいし、二審までにしてもいいという考え方もあるのではないでしょうか。合意なんですから。その代わり、それを書面ですることにするのであれば、書面上はっきりさせてもらわないといけないでしょう。
【山本委員】 合意があれば、それでもいいのかもしれませんね。
【藤原委員】 一審限りにしても、上訴したときに、そこでもう一度合意をすればいいわけですから。
【始関委員】 最後の結果が出るまで一括してというのが普通の意思で、一審だけで二審になればだめだという、そんな合意はしないとは思いますが。
【山本委員】 それはわからないのではないですか。
【始関委員】 だから、どっちにするのかということをはっきりさせる。
【山本委員】 上告審については、口頭弁論が開かれない場合もありますから、上告審の手続については検討しておく必要がありますね。
【飛田委員】 将来、団体訴権の制度が導入された場合のことは、何かお考えでしょうか。
【高橋座長】 前回も出ましたが、それは、団体訴訟制度をつくるときに、そこで考えるはずです。
【山本委員】 団体訴訟の場合に、合意を外すという選択肢は、余り考えにくいのではないでしょうか。そういう合意を適切にできないような団体に、そもそも訴権を与えること自体がおかしいと思いますので、それは合意案であれば、勿論、今、座長がおっしゃったような選択肢も残されているわけですが、余り説得力がある議論ではないというような気がします。勿論、ルールとしてどうするかという問題を別途考えるのであれば、それはまた話は別です。
【高橋座長】 団体訴訟は、これからからつくるわけですから。
【飛田委員】 証拠開示制度とか、いろいろな諸制度を充実させていきませんと、私のいろいろ受けている印象からしますと、お金持ちしか裁判が起こせなくなる時代が来そうです。合意ということが非常に難しい、まだ初心者たちにとって、弁護士さんとのコミュニケーションを取り、自分の状況を把握していく過程で、それが果たしてできるかどうか。まず、Uターンしてやめておこう、訴訟も起こさないで泣き寝入りした方がお金がかからないで済みそうだからというような話にもなるのかもしれないですし。
【藤原委員】 そうであれば、原則として各自負担にしますということは、当事者は言えるのではないですか。
【飛田委員】 でも、相手方のあることですね。合意というのは、相手があってのことですから、自分自身がつぶやくこととは違います。
【藤原委員】 相手から合意をしませんかと言われたときに、いいえ、原則として各自負担であるから、私は各自負担を望みますと言えば、それでもう二度とそのイシューは持ち上がらないわけですよ。
【飛田委員】 何と申しましょうか、非常に理論的に、藤原委員のように物事を明晰にとらえられる方はいいかもしれませんが、世の中はそうはいかないんです。
【藤原委員】 明晰な弁護士が付いているわけです。それが前提ですから。弁護士が明晰ではなかったら、ほとんど話になりません。
【長谷部委員】 御懸念は本当によくわかりますけれども、恐らく、今まで弁護士さんという人に、一生のうち一度も会ったことなく人生を終えるという人が普通であるという、そういう時代においてはまさにそうだったと思いますが、これからアクセスしやすくなっていきます。次回、多分司法ネットの議論をされると思いますが、今後、合意をするときにも、やはり弁護士さんにまず意見を聞いて、どうするのがいいのかということをいろいろ話し合った上で、それで最終的に合意するという、そういう前提で、では司法ネットとしてどういうものができていったらいいのかと、そちらの議論につなげていただければよろしいのではないかと思います。
【飛田委員】 スムーズに行けば、皆さんがおっしゃるお話もわかりますけれども、現実が先行してしまうと、その辺がちょっと心配ですけれども。
【高橋座長】 もう予定された時間ですから、少し私の感想めいたことを言わせていただきます。従来は、訴訟類型論を中心に十分議論をしてきましたけれども、例えば、労働者対使用者の訴訟については、各自負担でよいという御意見が多かったわけですが、しかし、最近の労働者対使用者の訴訟は、未払賃金を払えという訴訟が起きて、労働者が勝つことの方が多いので、そのような場合に各自負担だと気の毒ではないかいう御指摘もありました。これは1つの例ですが、訴訟類型論で敗訴者負担を導入しない範囲を切り分けることには、どうしても過不足が生ずるという議論が出てきました。パブリック・コメントでも、様々な角度から貴重な御意見をいただきました。それで、委員からの御提案で、当事者の属性によって分ける考え方、当事者間の合意の有無によって分ける考え方、訴額によって分ける考え方について検討してはどうかということになり、検討を続けました。その結果、当事者の属性によって分ける考え方は、属性設定自体がそう容易ではないことなどの問題点が明らかになり、訴額によって分ける考え方も、具体的にどの額にするのかなど、問題があることが明らかになりました。いずれにしても、やはり過不足が生ずるということで、過不足なくいく可能性の高いものとして、当事者間の合意の有無によって分ける考え方をベースに、各委員から御意見をいただきました。飛田委員からは、当事者間の合意の有無によって分ける考え方に対しても、しばしば御指摘されましたような不安とか、懸念、心配が表明されました。
当事者間の合意の有無によって分ける考え方についても、別の切り分け方と組み合わせることができるのではないか、単独でいいのではないか、その点を今日は随分議論していただきました。多数決というわけではありませんが、これまでの委員の御意見を伺っていますと、全ての分野で、当事者間の合意を要件に敗訴者負担を選択できる制度を支持する御意見が多かったように思いますが、当事者間の合意を要件に敗訴者負担を選択できるようにする案と、何か別の切り分け方とを組み合わせるべきであるという御意見の委員はいらっしゃいますか。
(意見なし)
【高橋座長】 それでは、全ての訴訟で、当事者間の合意を要件に敗訴者負担を選択できる制度をベースに、今日の議論も参考にしていただいて、たたき台といいますか、制度設計の基本になる部分も含めて、事務局の方に、制度の概要がわかるような資料の作成をお願いし、それをもとに、更に次回の検討会で議論を深めたいと思いますが、それでよろしいでしょうか。
【亀井委員】 お願いするのは結構ですけれども、まだこちらも全部賛成したという意味ではありませんので、もう一回検討させてください。
【高橋座長】 決めたというわけではございません。議論を進めるためには、もう少し具体的な案を出してもらった方が進めやすいということです。
では、そういうことでよろしいでしょうか。
(各委員了承)