首相官邸 首相官邸 トップページ
首相官邸 文字なし
 トップ会議等一覧司法制度改革推進本部検討会司法アクセス検討会

司法アクセス検討会(第22回) 議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日時
平成15年12月25日(木)13:30〜16:06

2 場所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
高橋宏志座長、亀井時子、始関正光、西川元啓、長谷川逸子、長谷部由起子、飛田恵理子、藤原まり子、三輪和雄、山本克己(敬称略)
(説明者)
犬飼健郎(日本弁護士連合会副会長)
(事務局)
松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官、菊池浩企画官

4 議題
(1) 司法ネットについて
(2) 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて
(3) その他

5 配布資料
資料1 司法ネット構想
資料2 司法ネットについて(概要)
資料3 弁護士報酬の敗訴者負担について(第22回検討会参考資料)
資料4 敗訴当事者の合意による弁護士報酬敗訴者負担制度に対する意見(平成15年 12月22日 日本弁護士連合会)

6 議事

【高橋座長】 それでは所定の時刻になりましたので、第22回の司法アクセス検討会を開会いたします。
 初めに、事務局から、本日の議題と配布資料についての説明をお願いいたします。

【小林参事官】 お手元の議事次第にありますように、本日は、「司法ネットについて」と、「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて」の御検討をお願いしたいと考えています。配布資料につきましては、資料1が、司法ネット構想のイメージ図、資料2が、司法ネットについての概要の資料です。また、資料3が、「弁護士報酬の敗訴者負担について」の検討参考資料、資料4がそれに関する日本弁護士連合会の意見です。御確認いただきたいと思います。
 なお、机上には、弁護士報酬の敗訴者負担制度に関する日本労働組合総連合会からの意見そのほか各種団体等からの意見、司法ネット構想に関する日本弁護士連合会からの意見も配布してあります。

(1) 司法ネットについて

【高橋座長】 それでは、最初に、事務局から、議題1の「司法ネットについて」に関する資料の説明をお願いいたします。

【菊池企画官】 お手元に、資料1の「司法ネット構想」と題したカラーの紙と、資料2の「司法ネットについて(概要)」と題したものの2点をお配りしてあります。
 資料1は、司法ネット構想をイメージ図にしたものです。このイメージ図の上半分に、現状の問題点など司法ネット構想のいわば背景を記載し、司法ネット構想の必要性、目的といったものが明らかになるように工夫をしたつもりです。
 資料2は、当検討会におけるこれまでの議論などを踏まえまして、司法ネット構想の概要という形で、立案の骨格となるものをまとめたものです。資料2の内容ですが、大きく「第1 司法ネットの趣旨」、「第2 運営主体の在り方」という2つの項目に分けて整理しました。
 まず、第1の司法ネットの趣旨につきましては、「新たに設ける運営主体を中核として、民事・刑事を問わず、国民が全国どこでも法律上のトラブルの解決に必要な情報やサービスの提供が受けられるような総合法律支援の体制を整備する。」としました。運営主体を中核としたネットワークを構築して、既存の各種機関、団体と適切な連携・協力関係を保ちながら、ネットワーク全体として、国民等が必要とするサービスの提供を受けられるようにするというのが、司法ネット構想の眼目であるかと思います。
 第2の運営主体の在り方につきましては、「1 運営主体の設立」、「2 運営主体の業務」、「3 運営主体の組織等」という3つの項目に分けて整理しました。
 まず、運営主体の設立につきましては、「司法ネットの中核となる運営主体を新たに設ける。」としています。
 続いて、運営主体の業務につきましては、利用者が必要とするサービスを手軽に受けることができるようにし、かつ効率的な業務運営をするためには、民事・刑事のサービスの提供を1つの組織が行うのが最も適切であるというのが検討会での御議論であったかと思いますが、このような御議論を踏まえまして、(1)相談窓口(アクセスポイント)、(2)民事法律扶助、(3)公的刑事弁護、(4)司法過疎対策、(5)犯罪被害者支援という5つの項目に分けております。(1)の相談窓口業務につきましては、「法律上のトラブルについての相談の受付、情報提供、関係機関等(弁護士会、隣接法律専門職種団体、各種ADR機関等)への振り分け業務等を行う。」としています。また、既存の窓口の自主的な取組を尊重しつつ、相互の連携・協力を図ることによりアクセスポイントのネットワーク化を進めていくことが重要であるという御議論を踏まえまして、「関係機関等との連携の確保等に努める。」としています。(2)の民事法律扶助につきましては、「民事法律扶助事業(資力が十分でない者に対する法律相談、裁判書類の作成の援助、代理援助等)を行う。」としています。また、スタッフ弁護士の活用による効率化という議論がありましたけれども、そういった御議論に基づいて、「事業の実施に当たっては、一部に常勤弁護士等を活用する。」としています。(3)の公的刑事弁護については、公的弁護制度検討会において御検討いただいているところですが、同検討会における検討状況などを踏まえまして、「迅速な選任が必要とされる捜査段階の公的弁護制度及び連日的開廷による集中審理(裁判員制度によるものを含む。)に対応し、全国的に充実した弁護活動を提供できるようにするため、契約により弁護士を確保し、国選弁護人の候補を指名して裁判所に通知する業務を行う。」と整理しています。2ページ目になりますが、(4)の司法過疎対策につきましては、司法過疎と呼ばれる地域においても、住民に実際に法律サービスを提供できる仕組みが必要であるという御議論であったかと思いますが、そういった御議論を踏まえまして、「司法過疎地域等において、常勤弁護士等による法律サービスの提供が行われ得る態勢を整備する。」としています。最後に、犯罪被害者やその遺族が法的な救済から取り残されることのないよう工夫する必要があるといった御議論を踏まえまして、(5)の犯罪被害者支援として、「犯罪被害者に対して必要な支援を行う。」としています。以上が、2の運営主体の業務です。
 最後に、運営主体の組織等については、(1)組織形態、(2)弁護活動・訴訟活動の独立性という2つの項目に分けています。(1)の組織形態につきましては、独立行政法人になじむのではないかというのが当検討会の御議論であったかと思いますが、独立行政法人のように、「公正中立で、運営責任の明確性及び経営内容の透明性が図られ、かつ、提供するサービスの質及び効率の向上を図る仕組みを備えた法人とする。」のが適当であろうと考えています。それとともに、「運営主体の行う業務が司法に密接に関わるものであること等を踏まえた適切な組織形態とする。」のが適当であろうと考えています。なお、具体的な組織形態につきましては、関係機関、団体との協議も必要ですので、当検討会では、このような方向性について御理解を賜れればと思います。
 また、運営主体の組織を法制化するに当たっての重要な柱としまして、(2)の弁護活動・訴訟活動の独立性として、「運営主体は、契約関係にある弁護士の個別の弁護活動・訴訟活動について、指揮命令できないものとする。また、運営主体による業務の運営に関し、特に公正かつ中立な判断を確保する必要がある事項を審議するため、有識者等から成る機関を置くこととする。」と、このように整理させていただきました。

【高橋座長】 ありがとうございました。意見交換に移りますが、特に項目を分けずに、どこからでも自由に御発言、御意見をお願いいたします。

【飛田委員】 ただ今の御説明をお伺いいたしまして、方向性を示すものということでございましたので、そのためではないかとも思うのですが、大変骨格のみで、スリムな内容です。そこで、法律をおつくりいただく際に御留意いただきたいと思われることを少し述べさせていただきたいと思います。
 社会一般では自立が求められ、自分たち自身が課題を解決するべきだという方向に今なりつつあるわけですけれども、実際に非常にトラブルも多発しており、昨今では治安も悪化してきておりますので、こちらでは刑事の問題なども含めてということですけれども、そういう社会的背景の中にありまして、このような対応策としましては、できるだけ社会のセーフティネットとしての役割を持っていただきたいと思っております。そこで考えることですが、例えば、資料2のところで5項目挙げておられるわけですが、それに、これらの業務を円滑に推進する、あるいは業務の円滑な推進を図るために必要な手だてというものも法案の中に必要ではないかと私は考えたわけです。例えば、人材の育成などです。情報の収集とか発信、これは地域による格差もあるわけですし、各種の研究ですとか調査の実施、意見聴取、そういったことを行っていく必要があるのではないかということです。予算の枠を決めていただく際に、項目が全くないと予算も取りにくいということがあるのではないかと思いまして、申し上げる次第です。
 それから、また、自治体によって独自性を持っていろいろ進めておられるところもあるわけですが、その自治体の相談窓口の特色を生かすものであってほしいと思いますし、また、その他の民間の相談窓口等のそれぞれの良さを十分に生かして、独立行政法人ができたからといって、全国一律にこのような形にすべしということではなく、良いものはさらに良さを伸ばすという方向付けが必要ではないかと思っております。そういうことで考えてまいりますと、自治体や民間の活力の利用といいましょうか、活力との共同作業、パワーを活用していくという方向付けも必要ではないかということを考えております。そういう中に、民間にも様々な団体もあり、また研究機関もあり、いろいろあると思いますけれども、それぞれを含めて使えるパワーをフルに活用していただくというような方向付けをしていただければと、実は考えております。
 それから、運営主体の組織等のところの(2)で、「指揮命令できないものとする」ということを入れていただいているのは結構なことだと思っておりますけれども、ここで第三者機関、「公正かつ中立な判断を確保する必要がある事項を審議するため、(第三者機関等)有識者等から成る」ということがうたわれておりますけれども、この第三者機関を緊急事態のときのみということでなく、日常的に方向付けが正しく図られているかどうか、全国的な相談内容の格差が生じていないかとか、データベースをつくったりする上でもこういう機関を活用したりしてやっていく必要があるのではないかということを感じております。ともあれ、新しく今までの相談業務よりも、より国民が司法に身近になれるような形の法人の緩やかな弾力的な運用と、これから人口も高齢化してまいりますし、ますますそういう意味では過疎地の問題だけでなく、地域性、年代別、その他、いろいろ障害持っておられる方のこととか外国人の方、いろいろな問題を抱えておられる方たちにとっても身近なものとなるような方向付けをしていただきたいと思っております。
 それから、お金のことが何も触れられていないのですが、有料とか無料の問題は、そういうことは最初から決めるのもいろいろなケースがあるのではないかと思いますが、何か項目があって、こういうことに関しては、それぞれの地域に委ねるとか、無料を原則とするとか、何らかのものはなくてよろしいのでしょうか。

【高橋座長】 サービスとしていろいろなものがありますので、決めきれないのではないでしょうか。現在やっているものを統合するような場合ですと、例えば無料法律相談でやっているものは、その趣旨は勘案され、それも全体としての効率性等を検討する際の大きなファクターにはなるのだとは思います。そういう御意見があったということは承りました。

【山本委員】 資料2の中身が実現された後の運営の問題だろうと思いますが、1点気になるといいますか、将来、御勘案いただきたいことを申し上げたいと思います。
 例えば、公的弁護と犯罪被害者支援というのは、コンフリクトを起こす可能性があるわけです。同じ犯罪の被害者の支援をしつつ、一方で公的弁護を行って、被疑者、被告人の弁護活動も行うというようなこと、あるいは、司法過疎対策として訴訟代理をすることを含めて弁護士のサービスを行うということになりますと、両当事者が司法ネットに所属する弁護士を、同一人物というのはあり得ませんが、別の人物にお願いするというような事態があり得ます。そうすると、担当する個々の方は別々であっても、組織全体として見れば、役割コンフリクトを起こす、利害相反問題が起きるというようなことが考えられないわけではないわけです。弁護士法上も、利害相反の問題については一定の手当てがされていますが、従来は、弁護士の数が少なかったので、直接的な利害相反を除いては、組織としての利害相反については、日本ではあまりうるさく言ってきませんでした。アメリカでは、所属する事務所単位でコンフリクトの問題を考えていたわけですが、日本では、そこまでは現状進んでいませんけれども、今後弁護士の数が増えてくるとなると、今までのような甘い利害相反の基準でいいのだろうかというようなことが問題になり得ます。私は京都弁護士会の綱紀委員会の参与をやっていますが、現にそういう問題提起が実務ではなされているというような話もちらほら聞いたりもします。そういうコンフリクトをどのように調整していくのかという問題を、今後、別途詰めていっていただきたいと思っております。

【西川委員】 資料2ですが、第2の2のところで、(2)の民事法律扶助については、「一部に常勤弁護士等を活用する」と書いてありますが、(3)の公的刑事弁護については、「契約により弁護士」と書いてありまして、これは常勤を意味するのかどうか、明らかではありません。それから、3の(2)には、「契約関係にある弁護士の個別の弁護活動・訴訟活動について、指揮命令できない」と書いてありますが、常勤の弁護士も含まれるのかどうか、明らかではありません。このあたりを明確にしておいていただきたいのですが。

【菊池企画官】 まず、第2の2の運営主体の業務の(3)の公的刑事弁護という項目の3行目にある「契約により弁護士」というときの契約は、いわゆる常勤弁護士との間の契約も含む趣旨です。それから、3の運営主体の組織等の(2)の弁護活動・訴訟活動の独立性という項目の1行目の「契約関係にある弁護士」ですが、これは、当然、常勤弁護士との間の契約関係も含みます。

【藤原委員】 司法ネットの趣旨の中に、「国民が全国どこでも法律上のトラブルの解決に必要な情報やサービスの提供が受けられるような」と書いてありますが、自分が法律上のトラブルに遭遇したり、それを起こしてしまったり、いろいろなケースが考えられると思いますが、まず第一歩は、誰かに情報をもらったり、誰かがサービスを提供してもらう以前に、自分が置かれている状況を判断する目安になるようなものが必要なのではないかと思っています。
 以前、この検討会の場でも申し上げたかと思いますが、1月になれば毎年のように成人式が行われるわけです。自治体によっては、歓迎されない成人式のお祝いを自治体の方が行っては参加者との間にいろいろなトラブルを起こしたりとか、あまりニュースとしても聞いていて気持ちのいいものではないわけですけれども、例えば、成人をした人々に、成人をしたあかつきに、今であれば未成人の場合もケースによっては関係してくるかと思いますが、少なくとも成人した日本の青年たちが法律的にどのような意識を持つべきなのか、どういう権利を有していて、どういう他人の権利を侵してはいけないかとか、そういうようなものを配布するのがいいのか、そういう会合を持つのがいいのかわかりませんけれども、伝えるチャンスとしては、全国一律に成人の日もあります。何かそういう日を定めて、そして自分の置かれている状況を把握する。そのためには、最低限自分の権利と義務をわきまえる。それから、トラブルに遭遇したときにはどういうフレームワークで物事を考えていったらいいのかとか、そういう何か手助けになるような情報提供はなされるべきではないかと思うのです。
 自分がトラブルに巻き込まれたこと、あるいは、自分が生み出してしまったときを想定してみますと、多分一番わからないのは、一番冷静になって考えなくてはいけないのは、そのトラブルがどういう性質のものであるかとか、これに対してどういう姿勢なり心構えで対処していかなくてはいけないかという、イロハのイに当たる部分がとても重要な事柄ではないかと思いますので、相談窓口へ行く、あるいは相談をしてくださる方を紹介していただくというのは大変重要なことですけれども、それよりもまだ以前に、わかりやすいフレームワークできちんと物事を整理したり、事柄を順序立ててきちんと追ってみたり、もちろん相談に行けばいろいろな質問を受けるかもわかりませんけれども、そのときに必要な事項の確認だとか、いろいろなケースがもちろんありますので、それをすべて情報提供でカバーできるとは思いませんけれども、おおよそ頻繁に起こりそうなトラブル、そういうようなものに関して、例えば、貸家やアパートに入居するとか、交通事故、人のものを借りてそれを破損したりした場合とか、大してたくさんの事例は要らないかもわかりませんけれども、そういうものを示しながら、下敷きになっている考え方がどういうものかということがわかると、相談窓口へ行くにしても、そこへ携えていく情報とか証拠の物件まで持っていくかどうかは別ですけれども、そういうような整理ができるのではないかと思いますので、一人一人が自助努力も含めて司法の分野で明るくなっていくことが重要なわけですから、それも司法ネットの担う役割の1つに是非位置付けていただきたいと思います。それは、ただ右へ左につなげるとか、交通整理をするという以前のことで、学校でも多分行われるべきことなのだろうと思うのですけれども、必ずしも十分な時間がとれないわけです。
 それから、そういう問題に遭遇して初めて気が付くこともあるわけですから、その時点で、例えばインターネットのWebページにアクセスすることによって、それがわかりやすく説明されていることは大変重要なことではないかと思いますので、このあたりは全国一律でもいい情報提供の部類なのだと思いますので、それも是非掲げていただければと思います。

【亀井委員】 今の藤原委員のお話は、私もそのとおりだと思います。資料1を見ると、相談窓口という中に「アクセス情報の集約、整理、提供」というものが入っていますので、異質なものが一緒のところに入っているような感じもします。例えば、司法教育みたいなもの、町中にローセンターを置いて、そこで講座を開くというようなことまでこの中に入っているのではないかという気がしますが、入れてほしいと思います。今、裁判所も独自に努力していて、「出前裁判官」というものが新聞にも出ていました。弁護士会も、出前で消費者教育などを中学、高校などでやっています。そういうものも、「アクセス情報の集約、整理、提供」の中に入れてもらいたいと思います。この中に入っているのかどうか、私もよくわからないのですが、そこまで広げた方がいいと思います。それが1つです。
 資料2は概要ですから、あまり詳しいことが書いてありません。運営主体がどうなるのかということについては、新たに設けるというだけで、あまり内容がよくわからないのですが、いずれにしても、独立行政法人が基本になるのだろうと思います。そうすると、一般的にはワンマン体制になります。多分、細かい組織は法律には書き込まれないと思います。ですから、運営上の問題かもしれませんけれども、いくつかの中間組織を置いてもらいたいと思います。今、民事法律扶助法の下には寄附行為というものがあって、この中でいろいろな組織の形が書き込まれているわけです。例えば、法律には今でもありませんが、寄附行為の中に、理事会、評議会、地区協議会、運営委員会という組織が法律と同じような形で書き込まれていて、そこでワンマン体制を支えるという形をとっているわけです。そういう意味から言うと、ワンマン体制がいい部分もありますが、ほかの独立行政法人とは違って、法律扶助にしても、相談にしても、刑事にしても、2万人の弁護士を使って、それで現場をやるわけです。そうなると、ワンマンだけでいきなり指示が通るわけでもないので、中間組織をいくつか置いて下からの意見を聞く、そして上からのトップダウンの指示を下まで貫徹させるという、両方の働きがどうしても必要になりますので、いくつかのそういう組織を、業務方法書になるのかどうか、いずれにしても、きちんと置いてもらいたいと思います。独立行政法人は、他のものを法律などで見てみると、理事も3人とか大変少ないです。しかし、2万人の弁護士を使って動かすには、理事を、今、法律扶助協会は27人、それは多過ぎるという発想があるのかもしれませんけれども、かなりの人数を揃えた民主的運営体制、理事長なり会長なりを支える組織を運営主体としてつくってもらいたいと思います。
 もう1つ、運営主体の業務というところで、(1)、(2)、(3)、(4)、(5)とありますが、これは大変結構なことです。民事法律扶助法では、もう1つ、最後のところに、「以上の業務に附帯する業務」というものが入っています。それは入れてほしいと思います。
 もう1つ、今、法律扶助協会は、予算をもらっていないで、自前の資金又は委託資金でいろいろな事業をやっています。例えば、難民の事件は、国連高等弁務官から資金をもらってやっています。ただ、それだけでは足りないので、自前の寄附によって集めた資金を使って難民業務をやっています。それから、中国残留孤児の就籍業務は、厚労省の資金と日本財団と両方から資金をもらってやっています。自主事業という形で国の補助金をつけるまでには大変な努力が要るわけです。今は、犯罪被害者支援も、自主事業として、これは日本財団の資金でやっています。そういうように、法律扶助協会は、市民の需要が出てくると、それによって新しい業務を開拓していかなければならないのです。そういう業務が取り残されないように、国の補助金外の事業もというか、目的外の業務というか、そういう事業もできるような法律構成にしてもらいたいと思います。

【飛田委員】 先ほど申し上げました中の情報の収集・発信というところに、今、お二方から御指摘のありましたような情報提供とか教育的なものなども、私は含めたつもりで簡単に申し上げましたので、その点は御理解いただきたいと思っております。
 それから、トラブルの処理ということになりました場合に、先ほど藤原委員がおっしゃられたこととも通ずるのかもしれないのですが、法律に関わる問題なのかどうかという最初の判断ということが、それをしてもらいたいと思われるような一般の市民にとって、敷居の低いところでないとかえってだめなんです。法律に通じた方々がおられて、きびきびと法的問題に関しては処理していただけるようなのですけれども、周辺にある問題の中の何をどういうふうに自分が今解決すべきなのかという方向付け、極めて人間的な問題に対処していただけるような、例えば、民間といいましょうか、保護司のような活動がありましたり、民生委員のような活動がありましたり、いろいろあります。官と民を結ぶような間のところで直接いろいろな人と接しているような方たちもいますので、そういうような方たちだけに限らないと思いますが、幅広くその辺の窓口の在り方、それは座って待っている人だけに限らないわけですけれども、その接点については御配慮いただきたいと思います。
 それから、緊急事態の場合、相談がなされた内容が、警察に連絡をした方がいいような場合とか、あるいはその人を保護しなければならないような危険な状況、ドメスティック・バイオレンスですとかストーカーですとか、これから犯罪につながるかもしれないような問題についても、どうも後手後手に回っている節が見られますので、こういうところでの対応が望まれると思います。緊急問題の処理ということです。
 それから、広域的な問題、消費者問題などですと、多くの場合、悪徳業者というのは、ここで成功したら他県に進出しようとか、センターからさんざん言われると別のところに行こうという、そういうことがよく見受けられるところで、犯罪がまた広域化していく場合もありますので、そういう意味での事後的な処理ということだけでなくて、予防的な措置ということが望まれるのではないかと思います。新たな発足ということですので、そういうものがなければ、従来のものを編成し直したというのでは、時代の要請にそぐわない面があるのではないかという気がいたします。
 もう1つは、新しい権利につながるような、現行法では処理しきれないけれども、こういう新たな問題が提起されているというような問題があるはずなので、連絡を密にとっていただいて、皆様の業務に当たっておられる方たちのレベルの問題、レベルの平準化とか何かもありますけれども、それよりも新たな法益というのでしょうか、新たな権利につながるような問題点を収集していただきたいと思います。その辺が、立法と司法との役割の違いがあるかもしれませんけれども、やりようによりましては、説得力のある提案ができるのではないかと思います。そういうことで、それをその窓口だけにとどまらないデータベースが必要だというのは、個別案件で処理してしまって、その人の胸のうちにおさめられたり、棚ざらしになることのないような処理が新たな発展につながるのではないかと、私はつい過大な期待をしてしまいますが、そういうことにも御配慮いただいて、そのためには、十分な調査活動などもやっていただきたいと思います。何が今問題なのか、この窓口についても、皆さんどういうことを感じているかということを、何かの調査、これ独自でやろうとするとお金がかかるかもしれませんけれども、国の調査の中にそういうものももぐり込ませて、皆さんの意識調査なども図る必要があるのではないかと思います。民間レベルでそういうことをやってもいいという、そういうことを委託するということであれば、協力する団体はたくさんあると思いますし、そういう意味では、調査をしていただくということが目的にかなうことではないかと実は思っておりますので、よろしくお願いしたいと思っております。

【西川委員】 今の飛田委員の御意見に同調するところがあるのですけれども、この司法ネットの趣旨というのが、「法律上のトラブルの解決に必要な」となっているわけですが、これは、あくまでもトラブルが起こった後、どうしたらいいのだろうというように、こう読めるわけです。相談窓口のところも、「法律上のトラブルについての相談」、何か起こった、どうしましょうということなのですけれども、それ以外に、こういう法律問題が、こういう契約、遺産なら遺産相続とかいろいろあるだろうと思いますけれども、こういう場合はどこに相談に行ったらいいのだろうかという、トラブルの予防法務というか、トラブルの未然防止に資する情報というようなものも、起こったトラブルの処理も重要ですけれども、もっとストレスをなくす社会というのは、本来トラブルが生じないようにしていくということが重要なものですから、そういう未然防止的な観点を書き込めるのかどうか、業務としても、そういうことを司法ネットの対象とするのかという議論が必要だという感じがいたしました。
 それから、司法教育も非常に重要だと、私も思います。亀井委員が言われたように、司法教育への支援、これは各自治体なりいろいろな学校なりあると思いますが、先生を派遣してくださいというときに司法ネットに相談すると、そこからそういうサービスを例えば提供していくとか、司法教育への支援というものを言葉として入れるべきなのか、そもそもそういうものは範疇外なのかということも、その法律をつくっていく中で検討していただきたいと思います。

【長谷川委員】 確かに、今のお話の中のトラブル後より前の予防の大切さというのがアクセスでとても重要なことだと伺いました。今、仕事をしていて、地方へ行くと実に高齢化が進んでいて、いろいろな法的な問題をたくさん抱えています。しかし、高齢者というのは情報がなかなか入ってこないのだということを感じます。そうした人たちは、孤立して生活していたりして、関係が持てないわけです。こういう場所をつくって待っているのではなくて、積極的に出かけて行って、どうやってそういう人たちと関係を持てるかというようなことがすごく大切なのではないかと思います。司法の学生の人たちもひっくるめて教育の場にも使えるし、情報も得ることもできるし、調査にもなるので、積極的にいろいろなグループのところへ出かけて行って、支援をしていくみたいなシステムをぜひ持ってほしい。高齢社会のことを思うと、そういう新しいアクセスが必要という感じがいたします。

【長谷部委員】 今までお話があったことと大体同じようなことですけれども、確かに、先ほど西川委員も御指摘になられましたが、個別の紛争に対する解決という感じ、そういう印象がなきにしもあらずというところがありますが、紛争が起こった後ではなくて、未然に防止するというのも非常に大事なことです。そういう意味では、飛田委員もおっしゃいましたけれども、個別の紛争に対する情報提供ということだけではなくて、一般的な調査ですとか、一般情報の提供というようなことも、これは併せてしていく必要があるのではないかと思います。ただ、司法ネットのコンセプトとしては、紛争の法的解決、あるいは法律問題に対する取組みということなので、その範囲に入ってくるものについては予防まで含めて広げた方がよいと思いますが、さらに広げて、行政がやるべきことについてまでやってしまうのは、それは恐らくなかなか大変なことだろうと思います。高齢者の問題にも法律的な問題もありますけれども、それ以外のいろいろな問題があって、そういった法律以外の問題については、ネットワーク化というところで書いてありますけれども、適切なところ、自治体の方に回すとか、行政による対応の方にうまく連携させるというようなことが必要で、何でもかんでもやろうとすると、およそ法律問題ということでいきますと、どんどん波及していくところがありますから、司法ネットでできること、ここが重点なのだということをした方がいいのではないかと思います。

【菊池企画官】 委員の方々の御意見を伺っておりまして、改めて、この司法ネットに寄せる期待というものがいかに大きいか、殊に、相談窓口、アクセスポイントの業務に寄せる期待が大きいということを感じた次第です。もちろん、資料2の中でも、情報提供はございますし、また、資料1のポンチ絵の方では、「情報の集約、整理、提供」とありますように、1つの発生した法律上のトラブルについて、その内容を分析して、しかるべき機関に引き継ぐなり、自らサービスを提供するということのみではなくて、そういったことを通じて蓄積されていく情報やノウハウなどを、さらに一般的な情報提供としてフィードバックしていく。そのことによって、同じような紛争を未然に防ぐことにもつながるでしょうし、あるいは、インターネットの活用などによって、Web上の自己診断のようなこともできるようになっていくかもしれません。そこは、法律で書いたときにどこまでの内容になるかというのは難しいところですけれども、いずれにしても、運営主体の相談窓口業務を実際に行っていく中で、どのような工夫ができるのかということを考えていかなければいけないのではないかと思います。長谷部委員からお話がありましたように、一般的な情報提供に当たっても、既存の関係機関の取組との連携・協力を図っていくべきものなのだろうと思っています。

【藤原委員】 既存の団体の活動に関しては、私は、司法ネットの存在がない現状において、いろいろな活動をできるところからやっているというのが、多分、大変多いと思います。私は、むしろ、より良くサービスができる主体がサービスを行うべきではないかと思いますし、全国で統一的にやった方が効率的で、なおかつサービスの質が上がるものであれば、わざわざ地方自治体が今やっているからといって、そこから手を引く必要は全然なくて、そこで空いた時間はほかのことに使っていただくような取組みも必要なわけで、現状も改めて見直すということが、大変重要ではないかと思います。
 私は、先ほど、成人式の話をしましたけれども、例えば、賃貸のアパートとかに入るといったときに、契約書というのは基本的にはこういうことが書かれていなければいけなくて、チェックしなくてはいけないとか、何か自分がごくごく自然にサインしてしまうような、印鑑を押してしまうような契約書が自分の目の前にあったときに、ちょっとインターネットをチェックして、これとこれとこれがクリアーされているかとか、ものすごくベーシックなことでも構わないと思うのです。そういうものが整っていると、何かあったときには、まずそこをチェックしてみようとか、これで本当に契約書というのは整っているのかどうかというのは、初めて契約を交わす人、特にそういう契約書を今まで見たこともない人はわからないわけです。多分、何度も見ていてもわからないこともあるのかもわかりませんけれども、とても必要不可欠なもので骨格になるようなものはどういう事項なのかとか、そういうようなことを徹底させることによって、少しずつ法律的にもといいますか、司法的にも成熟した市民が育っていくのではないかと思いますので、トラブルよりは、トラブルに巻き込まれたり、起こしたり、そういう紛争に至らないためにどういう自衛手段というか、自助努力ができるかというのは大変重要で、そういうWebページなどができれば、案外、全国どこからでも、一瞬にして、この契約書はすごく相手側に有利につくられすぎているのではないかとか、それを基にまたいろいろな疑問を自分自身も持ったり相談をすることができると思います。情報をきちんと見せてあげることで解決することも随分たくさんありますから、そういうものは全国に1つあれば、それを核にして、そこから、また、いろいろな手だてが考えられてくるのではないでしょうか。
 それから、もう1つは、企業などでは、だんだんサイズが大きくなって、多国籍にわたる企業活動もあるわけです。そのときによく使う言葉で、「ベストプラクティスはみんなでシェアしましょう」と言います。だから、どこかアジアのこういう街でこういうことをやった、こういう取組みをやったら、例えば生産性が上がったとか、消費者とのパイプがとても太くなって支持を得られたとか、そのところどころでは臨機応変に自分たちが考えついたことを実現したけれども、大変大きな成果をもたらしたというようなことです。それを、できれば全社的に共有したいというので、自分たちの会社が持っているベストプラクティスをいろいろアイデンティファイして、それをみんなでシェアする。だから、この司法ネットも、これに至るまでに、今自治体がどういう相談窓口を設けてどういう活動をしていらっしゃるかという御報告も伺ったわけですけれども、レベルの高いところに早くほかのところも到達できるように、あるいは、ここでこういうことをやったらすごく効率が良かったというものをいち早く取り入れることができるようなページも、担当者専門のWebページもあるとすごくいいのではないかと思います。そのページにはいろいろ書き込みができて、今ここでこういう問題が起こって困っていると書き込めば、その伝言板のところへ、誰かほかの自治体の人が、それとよく似たようなことは我が町ではこういうふうに解決しましたというような書き込みをするといったように、ある情報を上手に集めて、そこからまた自ら質の高いサービスにつながるような努力につなげていけるような仕組みができれば、それは1つのところで運営する大きな意義があるのではないかと思います。

【高橋座長】 司法ネットについていろいろと御意見、御要望を伺いましたが、基本的には、資料2のような方向で、事務当局が立案作業に入るということは、御了承いただけますでしょうか。

(各委員了承)

【亀井委員】 1つよろしいでしょうか。確か、今、1月9日までの期間でパブリック・コメントをやっていると思います。是非とも、パブリック・コメントに寄せられる意見にもきちんと配慮して政策を考えていただきたいと思います。

【高橋座長】 それでは、事務局の方で立案作業の方をお願いすることとします。

(休 憩)

(2) 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて

【高橋座長】 次は、「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて」の検討ですが、初めに、事務局から資料の説明をお願いいたします。

【小林参事官】 資料3について説明をします。この資料は、これまでのこの検討会での議論を基に、弁護士報酬の敗訴者負担の制度設計について、事務局において作成した案です。この検討会におきましては、当初、当事者の意思に関わらず、一定の訴訟においては弁護士報酬を敗訴者の負担とする制度を導入するべきではないかという視点で御検討いただきました。そして、一定の訴訟については、例えば訴訟類型で考えてはどうかというような御意見、あるいは商人と非商人、事業者と非事業者というような当事者の属性によって考えてはどうかというような御意見、一定の訴額以下の訴訟については敗訴者負担は導入しないけれども、一定の訴額を超える訴訟については導入をしてはどうかというような御意見など、様々な角度からいろいろな御意見をいただき、御検討いただいていたところです。その中で、例えば、訴訟類型に関する検討に当たっても、司法制度改革審議会の意見書でも述べられておりますような、費用の負担の公平化を図りながらアクセスを拡充するという視点と、当事者に不当に訴えの提起を萎縮させないという視点、このような考え方を適切に調和させながら、導入する範囲と導入しない範囲を過不足なく区分するという、その理念に合わせるような形でどのように区分できるかということで様々な御議論がありました。その理念と適切な訴訟類型の切り分けとの関係で、例えば人事訴訟、離婚のような訴訟についても、一方では、むしろ導入した方が当事者にとってメリットがあるではないかという考え方ありましたし、いや、それは逆ではないかというような考え方もありました。また、労働訴訟というような例を挙げてみても、様々なものがあり、細かく類型分けをしていくと、特定の類型の訴訟をどうすべきかという点で委員の御意見が分かれたところもありました。そういった経緯から、今申し上げたような形で、負担の公平化、アクセスの拡充、不当に訴えの提起を萎縮させない、このような様々な要請を適切に調和させて訴訟類型をうまく引き出すことはなかなか難しいのではないかというような御意見が多くなってきたところです。商人と非商人というような当事者の属性による区分につきましても、特定の訴訟、特定の事件を前提にしながら、その請求が、そういった属性に対応した請求なのかどうかということを区分することは一概にはできないのではないかという御意見、あるいは、属性そのものが切り分けの基準として、先ほど申し上げたような理念に適切にマッチしたものなのかどうかというような問題がやはり残されるとの御意見が出されてきたかと思います。また、訴額についても、アクセスを拡充するという理念を考えた場合に、少額の訴訟を本当に除いていいのだろうかというような御意見もいただきました。
 このように、様々な視点から御検討いただき、また、それを負担の公平化、アクセスの拡充、不当に訴えの提起を萎縮させないという要請との関係で検討していただいたわけですが、いずれにしてもなかなか難しいということから、委員の中から、今回の基本的な制度設計の基礎としているような御意見、つまり、当初の制度設計の基礎にあった、当事者の意思に関わらず一定の訴訟においては敗訴者負担を導入するという前提ではなくて、逆に、弁護士報酬は当事者の自己負担であるという原則は変えないでおいて、当事者が訴訟において合意をした場合について敗訴者負担を適用するというような形をとり、その訴訟において弁護士報酬について回収できるチャンスを当事者に与えることによって、訴訟の使い勝手なり、訴訟を使ったことによる当事者のメリットを高めて裁判を使いやすいものにする、こういったような視点からの御意見が出てきたものではないかと、私どもも理解しているところです。また、当事者の意思によるということであることから、司法制度改革審議会の意見書で述べられているような、不当に訴えの提起を萎縮させるということもなく、負担の公平を図るという観点でも、問題は起こらないということから、このような御意見がこの検討会で出されてきたのではないかと理解をしています。
 資料3は、このような検討会での御議論の流れを踏まえまして、制度設計についてまとめてみたものです。もちろん、検討の中で御懸念を表明されている委員の方ももちろんいらっしゃいますが、事務局としては、これまでの検討状況を前提にこの案をお示しして御検討をお願いしたいという趣旨ですので、御理解を賜りたいと存じます。
 まず、簡単に、基本的な制度設計について御説明します。1の「基本的な制度設計」というところの①で、制度の対象としては、まず、訴訟手続に限ってはどうかということです。したがって、民事保全や民事執行、非訟手続などは除いてはどうかということです。2つ目に、「訴訟代理人(弁護士等)」、これは司法書士等が代理人になった場合も考えられますが、弁護士等への報酬に限ってはどうかということです。次に、②の要件ですが、「当事者双方に訴訟代理人が選任されていなければならない。」、つまり、一方が本人訴訟であって、一方的に弁護士報酬を負担しなければならないようなリスクを負うことのないような制度設計にしてはどうかということです。また、その訴訟において、誰が敗訴者負担の申入れをしたのかというようなことが裁判所にわからないようにする制度設計にしてはどうかと考えました。訴訟において当事者の主張を裁判所に理解してもらうときに、自分が弱い立場にあるのではないかと思われることのないような制度設計をするという観点から、「訴えの提起後に当事者双方による共同の申立てがなければならない」ことにしてはどうかということです。しかも、それについては、例えば契約書等で、訴訟になったら敗訴者負担の共同申立てをしましょうというような、「約款等で共同の申立てをする旨の一方的な取り決めがされないようにする」というような配慮をしてはどうかと考えているところです。それから、③の効果のところにつきましては、「訴訟代理人の報酬の一部が訴訟費用と同様に扱われる」という考え方をとっています。次の「当事者が複数の訴訟代理人を選任している場合でも、そのことによって、訴訟費用と同様に扱われる訴訟代理人の報酬の額は増加させない。」というところは、以前から御議論いただいているところです。
 2の「負担額の定め方」につきましては、これまでの検討の状況を踏まえまして、「訴訟の目的の価額に応じて法律で負担額を定める」ということです。また、その負担額については、上限を定めてはどうかということです。その中で、当事者が負担額についても合意することを認めるかどうか、あるいは、認める場合にどのような範囲で認めるかについては、この検討会での御議論もいろいろあったかと思いますので、この点は、なお検討が必要ではないかと考えているところです。

【高橋座長】 資料4といたしまして、日本弁護士連合会から提出された意見がございます。この資料についての説明を日本弁護士連合会にお願いするということでよろしいでしょうか。

(各委員了承)

【犬飼副会長】 日弁連でこの問題を担当しています副会長の犬飼健郎です。司法アクセス検討会の大詰めの場面で、このような貴重な時間を与えていただきまして本当にありがとうございます。資料4を中心に御説明させていただきたいと思います。
 前回までの検討会の議論を基に、日弁連でも、原則は各自負担、双方に代理人が付いて、共同書面で裁判所に敗訴者負担の申入れをしたときのみ敗訴者負担とするという、いわゆる合意論について真剣に検討いたしました。本日資料として提出しました12月22日付け意見書に、日弁連の考えをまとめております。
 このいわゆる合意論につきましては、原則各自負担とする点で日弁連も評価をしております。しかし、代理人が付いて合意する場合だけ敗訴者負担になるのであるから問題はないのではないかというわけには、やはりいかないと考えております。特に消費者・労働者、一方が優越的地位にある事業者間の契約における劣位的地位にある当事者にとっては重大な問題があるという意見が、会員や市民、市民団体から多数寄せられました。この問題は、結局は、司法を利用する市民の立場にとって利用しやすいかどうか、司法アクセスを促進するかという観点が重視されるべきであろうと思います。今回の日弁連の意見書は、多くの市民や日ごろ法律相談等を通して市民と接している弁護士が肌で感じている問題点をいくつかまとめたものです。
 資料4を見ていただきますと、第1に意見の趣旨で、1項から4項まで記載いたしました。3項、4項につきましては、既に検討会でも、そこに記載した内容に沿って議論がなされていると思います。したがって、あとは目に見える形にできるかどうかという点が問題であろうかと思います。1項、2項について少し敷衍をして説明させていただきたいと思います。
 第1の意見の趣旨の1項は、少なくとも消費者訴訟及び労働訴訟においては、弁護士報酬を訴訟手続上両面的敗訴者負担としない領域とし、訴訟上の合意による両面的敗訴者負担を認めないようにしてほしいというものです。2項は、これは訴訟前の問題でありますけれども、消費者契約、労働契約、さらには一方が優越的地位にある事業者間の契約など構造的に格差の認められている当事者間の私的契約・約款等に盛り込まれた「弁護士報酬敗訴者負担」条項については、その効力を否定するために必要な何らかの立法上の措置をとってほしいというものであります。
 第2の意見の理由ですけれども、最初の1の趣旨の1項について、(1)、(2)、(3)
と分けて述べております。(1)、消費者訴訟及び労働訴訟は、もともと経済的あるいは情報的にも対等な関係・立場にはなく、構造的な格差が認められている当事者間における訴訟でありまして、このような訴訟における当事者間におきましては、合意による敗訴者負担制度はなじまないと思います。(2)、また、訴訟上とはいえ、合意による敗訴者負担制度の導入は、事業者ないし使用者に対して、私的契約・約款等により、敗訴者が弁護士報酬を負担するとの条項を盛り込ませる誘因になると思います。このような敗訴者負担条項の効力については、後で述べますように、無効と解する説も唱えられておりますけれども、それが有効か無効かに関わらず、私的契約・約款等に敗訴者負担条項が盛り込まれること自体が、消費者あるいは労働者の立場にある者にとっては、司法アクセスの萎縮効果をもたらしかねないと思っております。今でも、契約に実際記載がないにも関わらず、業者の方から、払わなければ裁判を起こすぞ、裁判を起こせば弁護士報酬も請求するぞと言って、訴訟前に回収を図ろうとする、そういう動きがあるわけで、それらがもっと激しくなっていくのではないかと思います。このような弊害をなくすために、少なくとも消費者訴訟、労働訴訟においては、絶対的に、訴訟上の合意による弁護士報酬敗訴者負担を認めないものとすることが必要であると考えております。(3)、消費者団体や労働者団体も、この合意論について強く反対しております。審議会意見書では、「国民の理解にも十分配慮すべき」との見地から、そのような意見を述べておりますので、このような見地からも、訴訟利用者の声に十分に耳を傾けるべきであろうと思います。
 それから、意見の趣旨の2番目に関連する理由ですけれども、司法アクセス検討会では、次の①、②のような議論がされております。①「訴訟に要した弁護士報酬を敗訴者が勝訴者に支払う」旨の訴訟外の私的契約に基づく請求は、これはさらに別途に訴訟を起こさなければならない。そうであれば費用倒れになって実際別訴を提起する者はいないので弊害がないのではないかといった議論、 ②消費者契約や労働契約における敗訴者負担条項は、消費者契約法9条、10条、労働基準法16条によってそれぞれ無効となる、といったような議論がされました。このような議論が検討会でされたこと自体が、訴訟上の合意による敗訴者負担制度が導入された場合、これが私的契約・約款等に敗訴者負担条項が盛り込まれる誘因となって、それがそのまま法的効力を有することになれば敗訴者負担制度が導入された場合と同様に司法アクセスを阻害することになるという共通の認識があって、それが実際にはそうにはならないといったような解釈論が展開されたものと思います。実際、例えば、消費者契約の場合、消費者は、契約に際して、将来紛争になったときのことまで考慮して契約することはほとんどありません。また、両当事者は、対等な関係、立場になくて、契約内容は、予め事業者によって用意される印刷された不動文字の契約書によってされる場合がほとんどです。そうすると、消費者は十分に意識せずに、あるいは意識したとしても否応なしに敗訴者負担の合意に服する契約を締結することになってしまうと考えています。また、労働契約においても、使用者と労働者とは対等な関係、立場にはありません。労働契約の締結に際して、労働者の採用を決定するのは使用者であり、採用後も、労働者個人が使用者に対して対等な立場で交渉することができないのは明らかであります。使用者が、労働者を採用するに際して、使用者が決めた内容の敗訴者負担条項に同意することを求めた場合に、労働者は、自分が採用されるためには、その合意を拒否できずに、使用者の求めに応じざるを得ないという場合がほとんどであります。このようなことは、消費者契約や労働契約だけには限りません。下請契約、フランチャイズ契約、最近問題になっている事業者向けの融資の場合の融資者と融資を受ける者との間などで顕著であろうと思いますけれども、一方が優越的な地位にある事業者間の契約の場合にも同様の事態が発生すると考えます。その結果、消費者、労働者あるいは一方が優越的地位にある事業者間の契約における劣位的地位にある当事者は、裁判で争って敗訴したら相手方の弁護士報酬を本案訴訟で請求される負担をおそれて訴訟を回避することになって、それでは一般的な敗訴者負担制度が導入された場合と同様になって、市民の裁判を受ける権利は抑制されることになってしまうと思います。このようなことは、今次の司法制度改革が目指す司法アクセス拡充の理念に反すると思います。検討会における前述の消費者契約法と労働基準法を根拠とする敗訴者負担条項無効論は、それなりに有力なものと見ることができますけれども、現在、広く共通の理解になっているものとも言い難いと思っております。したがって、消費者契約、労働契約、そして先ほど述べたような事業者間の契約などにおいては、その私的契約・約款等に盛り込まれた「弁護士報酬敗訴者負担」条項については、その効力を否定するために必要な立法上の措置を講ずることが必要であろうと思い、意見の第2項にまとめたものです。
 それから、最後になりますけれども、合意論が出されたこと、日弁連でもその点については評価しておりますけれども、合意論が出された背景の1つには、8月に多数のパブリック・コメントが寄せられて、それらの市民の声を酌み取っていただいた点にあると思っております。本来は、この合意論についても、パブリック・コメント等の方法によって、市民の声を汲み上げていただきたかったという思いがありますけれども、時間の制限があり、制約があって、その手続はとられませんでした。しかし、日弁連がこの合意論を検討する過程で、合意論について多数の意見が寄せられております。消費者や労働者あるいはその団体、公害訴訟関連団体等々であります。司法は、権利救済あるいは保護の最後の砦として、特にこれら経済的、情報等で格差があって劣位にある人たちの訴訟上の不利益、契約上の不利な立場はできるだけ取り除くような制度設計をする必要があると思っております。現在でも、経済的な劣位の人たちを保護する法律は多数存在するわけでありますから、日弁連としては、司法アクセスの観点から、これらの経済的劣位の人たちを保護する手当てがなされることが、この合意論を導入するに当たっての不可欠な点であると強く訴えて、この意見書を提出させていただいた次第です。

【高橋座長】 それでは、委員同士の意見交換に移りたいと思います。長らく議論してまいりましたので、どこからでも、どなたからでも御意見をいただければと思います。

【飛田委員】 私は、消費者、生活者の立場から、敗訴者負担制度の導入については、終始一貫反対を申し上げてきました。今でもその気持ちに変わりはございません。今、この資料について、あるいはどこからでもということでお話がありましたので、ちょっと質問させていただきたいのですが、訴訟上の合意という、訴訟に入ってからのということなのですが、一番心配だということは、今、犬飼副会長のお話の中にもありましたけれども、アナウンス効果とか、日本では約款についての総合的な規制がなされておりませんので、私的な契約等の中で敗訴者負担的な合意のことが触れられる可能性がどうしても心配ですが、その辺については、それをストップするという手立てを考えていらっしゃるのでしょうか。

【西川委員】 今の飛田委員の御指摘ですけれども、この資料3によりますと、この制度の利用をする旨の合意は無効だと言っているわけです。そうではなくて、これとは別のシステムとして、当事者間でそういう合意をすることを禁止するのかどうかということですね。これは、この制度を導入するかしないかとは関係のない問題です。これは、今でも、法規制がない限りできるのです。それが契約自由の原則ですから、それはできる。権利の濫用になるかどうかは、裁判官が判断する問題だということだろうと思いますので、この制度を導入するからといって、契約自由の原則に、今までの法規以上のものを書き加えるというのは、私はやるべきではないと思います。

【飛田委員】 契約自由という原則があることは承知しておりますけれども、例えば消費者契約などの場合、プリントされた契約書というものがありますけれども、契約に当たって、内容について十分な説明をして事業者と消費者の間で理解し合うということがほとんど実際には行われないことなんです。昨今では、いろいろな媒体といいましょうか、例えばファクスなども活用されまして、申込用紙が表側にありまして、裏面に消費者にとっては重要事項の説明が付いているような場合、事業者によっては、本人が店に来る前に資料がほしいといっても、なかなか必要な情報を提供しないでいて、一応申込んでくださいというような形をとる場合があります。その場合に送られてくるのは、ファクスの表側の、本人に氏名を書かせたりするような、何か契約にまつわる個人の情報を書かせるような形になっていまして、重要事項は消費者のところに届かないようなケースも実際にございます。そういうことを考えますと、契約自由の原則はあっても、契約が自由に行われているとは思えない、自由な契約を消費者が結んでいないケースがありまして、それで後で気が付いたときに、この契約はおかしいではないかと、例えば敗訴者負担的なものがその中にも含まれていたとして、それを言った場合に、まず契約を解除しなければならないという最初の一歩から、不自由な下でなされた契約の解除をしなければならないという第1の障壁があるわけです。例えば、大企業の方々が日常的に取り交わすような、双方が十分、法的なことも手続も熟知し合った中で行われる契約と、消費者契約などの場合、約款などの十分な配慮のないままに行われるようなものについては、そこに契約の行為をする自由はあっても、契約を自由にしたかどうかという、その問題が残るんです。つまり、情報提供の不十分さというものがあります。そういう場合のことを懸念するわけでございます。それは、例えば労働者の方も、今日もたくさん要望書が机上に置かれておりましたけれども、言っておられるのと相通ずるかもしれません。ノーと言ったらば、何も得られない。消費者は、その商品そのもの、あるいはサービスそのものについての契約は結ぶという意思はあるかもしれませんが、将来に起こり得るトラブルのことまで意識して、そこまでの十分な説明もないし、そこまで考慮して契約を結ぶことはないわけですので、そういう意味では非常に弱い立場に置かれております。そういう意味での自由です。

【西川委員】 今の御意見もよくわかるところがありますが、それはこの司法アクセス検討会で決めるのではなくて、消費者保護法制であるとか、労働者保護法制であるとか、別の審議機関の方で、この合意制度ができたときに、契約自由の原則に対しての規制を加えることの是非については、別の観点から、保護法制という形で、別の機関でやるべきだろうと思います。ここで議論をしていって、こうすべきである、こうすべきでないと言っても、まとまらないのではないでしょうか。しかるべき場に検討を委託というか、そもそも我々の任務ではないだろうと思うものですから、しかるべき機関で御検討願ったらどうかと思います。

【山本委員】 西川委員の御意見に同感です。今、飛田委員は、恐らく2つのことを言われたと思います。1つは不当条項規制の問題であり、もう1つは説明義務違反の問題です。内容規制と成立規制の両方をおっしゃいましたが、成立規制については、消費者契約法4条で既に一定の手当てがされています。ただ、今の御趣旨は、現行の消費者契約法4条4項の重要事項が狭過ぎるという御趣旨ではないかと伺いました。また、もう1つの不当条項規制の関係では、不当条項リストが、現行の消費者契約法では、リストアップの対象が十分ではなかったという御趣旨だとお伺いしました。まさにこれらは、消費者契約法改正問題そのものだと私は伺いました。あまり言いすぎると、何か縦割り行政に与しているようにとらえられるのかもしれませんが、基本的には、消費者保護法という基本法制を使って消費者契約上の消費者の劣後的な地位を解消しようとしているという法制をとっている以上、そこでそういう立法提案をどんどんされていくべきだろうと思います。
 既に申し上げましたように、私は、多くの場合は消費者契約法第9条で拾えると思います。多くの場合は拾えますので、それでなおかつだめだということがあるのなら、それをもう少し明らかにしていただいて、国民生活審議会の方でぜひ議論していただければと思います。

【始関委員】 私も、西川委員や山本委員がおっしゃることはごもっともだと思います。先ほど飛田委員が例に挙げられたような場合、つまりファクスで送られてきたものが表しかなくて裏がなかったと、それで出向いていったら、裏面について十分な説明もないままにサインをさせられて、後で紛争になって初めて、裏面に小さい字で書いてあることがわかったというときに、現行の消費者契約法や民法その他の法律の下で、裁判所は、それに基づいて消費者を敗訴させる裁判をするのかというと、それは私よりも飛田委員の方がずっとお詳しいと思いますが、今までの裁判の歴史から言うと、そういうものは、まさにおっしゃられたように契約を自由にしていないのだから、自分で判断して合意しているわけではないということで、そのような類型のものでは契約の効力を排除してきたのではないかと思います。今、挙げられたような例については、現行法の下でも十分対処できるのだと思います。

【三輪委員】 私が言うほどでもないと思いますが、始関委員のおっしゃったとおりだと思います。そもそも契約が成立してない可能性もあります。

【飛田委員】 今、諸先生方がおっしゃられたことは、裁判を起こしたときには法が保護してくれる、あるいは、多少現行法には問題があるというお話だったかと思いますが、心配しておりますのは、この合意による制度というものが成立しますと、そのアナウンス効果、一般にはそういう言い方をするようですが、波及効果として、つまり、専門家が付いている場合には敗訴者負担制度が導入できるというようなことが広く伝わるわけです。現に、この間も、たまたまニュースを聞いておりましたらば、今日の検討会が開かれる前に、既に一部のマスコミにその情報が流れておりまして、そこで言われたのは短い一節でございますから、一般的には導入されていないがというようなことは触れられていないわけです。こういうものがアナウンス効果ではないかと思って、なぜ、先にこういう情報が流れるのだろうかと思いながら伺いましたが、それは昨今のマスメディアの在り方にも問題があるかもしれません。事態を変更されたところのみをかいつまんで言われる傾向とか、あるいは、日常的に問題を追わないで記者会見のみを追ってというような、それは別に置きまして、いろいろメディアにも問題があることは確かですけれども、一般的な効果というのは、メディア等の情報の威力は大変大きいものがあります。メディアというのは一種の権力でございますから、そういうところが敗訴者負担制度導入ということを大々的に言えば、悪徳業者、それを悪用しようと思っているような人は渡りに船とばかりに飛びつく可能性が私はあると思います。消費者問題などで、昨今、大変うなぎのぼりにトラブルの件数が増えておりまして、非常に情けないことですが、社会が病んできております。そういう中で、こういう問題がこのような形で導入されるときに、よほど慎重であっていただかないと、ですから消費者とか、先ほど日弁連さんがおっしゃられたような、現場を知っておられる方の御指摘は、私は傾聴してしっかり対応していただければと思った次第です。

【亀井委員】 皆さんのおっしゃることはよくわかります。もちろん、実体法の方で解決するというのも1つの方法だろうと思います。ただ、そうなると時間差が出てくるわけです。訴訟手続の法律の方が先にできて、実体法が、例えば消費者契約法の改正というのは、またそれから何年か待たなければできないと思います。もちろん、消費者契約法に不備な部分があるわけです。訴訟上の合意というようにわざわざしたのに、それが全く脱法的な形で私法上の合意ということでまかり通ってしまうというのはやはりまずいだろうと思います。本当に脱法であるならば、確かに消費者契約法の第9条か第10条に反するというようなことになるわけですけれども、微妙な問題があると思います。前回、皆さんが、消費者契約法の第9条、第10条で無効になるのではないかとおっしゃっていただいて、そうではないかと私も思いますけれども、全部が全部これで解決するわけではないだろうという感じもするわけです。そういう意味で、やはり訴訟手続の中で同時に解決してもらえないかということが、私どもの提案になっております。
 労働問題については、今日見ると3つ意見書が出ています。連合と東京地方労働協議会と労働弁護団と3つ出ています。共通しているのは、就業規則でも合意になる可能性が強いということ。さらに就業規則の上に、入社のときに就業規則を誓約して入社しますなどということはよくあることで、それで合意という形になってしまう可能性が非常に強いということを皆さんこの中で書いています。確かにそういう部分があって、飛田委員がおっしゃるように、契約の自由ということが契約の自由ではないものが多いわけです。ただ、誓約書まで書いてしまえば、それを無効だというのは大変厳しいのではないかというように思うのですね。三輪委員がおっしゃるように、無効になるならば、それで解決するのですけれども、もう少し明確なものが欲しいというのが私どもの意見です。

【山本委員】 訴訟手続の中で解決してほしいというような御趣旨をおっしゃったかと思うのですが、そこの意味がよくわかりません。

【亀井委員】 訴訟手続の中で私法上の合意は無効とするとか、どういう書き方になるのか、私どもよく検討しているわけではありませんが。

【山本委員】 それは、例えば、消費者が製品に瑕疵があったという訴えを起こしたという訴訟手続の中にということですか。それとも、法文として、訴訟法の中にという御趣旨ですか。

【亀井委員】 法文であれば一番ありがたいと思います。

【山本委員】 アナウンスメント効果というのは、いずれにしろ、無効だというようなことをどこかに書くことによって、かえってアナウンスメント効果が出る可能性もあるわけです。そのアナウンスメント効果がどうしたら出ないかというのは、もうみんな知ってしまった以上は、それほど斟酌しようがないのではないかという感覚を持っています。それに、アナウンスメント効果があるとしても、最終的には別訴の問題になってしまいます。任意に消費者が履行してしまうなり、労働者が履行してしまうというような場合を除くと、あとは別訴の問題で、そこでは多くの場合、消費者保護法、労働法、労働基準法、あるいはそれ以前の問題で、ほとんどは切れるのではないでしょうか。訴訟外の場合については、どこに「無効」と書こうが、それを全国民が周知していない限りは、いずれにしろ、そういう問題は起こるのではないでしょうか。どれが一番アナウンスメント効果を最小化するかというのはよくわかりません。放っておく方がかえってアナウンスメント効果が少ないということもあり得ますし、「無効」だということを特にそこで書くことによってアナウンスメント効果が出るということもあるのではないでしょうか。

【亀井委員】 アナウンスメント効果と、さらに、こういう合意があったということで、私法上の合意が強制されることにはならないか。考え方によっては、別訴ではなくて、同じ裁判の中で請求できるという意見もあるようです。まだ学者の意見も全部聞いているわけではないのではっきりはしませんが、併合して訴えることも、要件さえあれば可能なのではないでしょうか。

【山本委員】 民訴の一般的な見解では、将来請求であって、訴えの利益はないと考えるのではないでしょうか。離婚の場合などに、給付訴訟との関係では別の考え方をしているところもありますが、一般の給付訴訟との関係では、それは考えないのではないでしょうか。私も精査しているわけではありませんが、直感的にはそういう感じです。

【亀井委員】 それであればありがたいのですけれども。

【長谷川委員】 合意ということがこのように大変な問題を引き起こすとは、私はわかりませんでした。大変な問題というのは、飛田委員がおっしゃったように、契約の中にまで入り込んでいくような、そうした波及があるということです。合意というものに賛同していたのですけれども、言葉が自由にすべり出して、まさに上下関係があるような契約にまで及んでいくことになるならば、それはとても問題だと私は感じております。
 弁護士が立ち会う訴訟の手続に限るということをいつもおっしゃってくださっていたので、私は、そういうところまで波及するということを考えておりませんでした。しかし、次々にそうしたところまで書き込まれるならば、なかなか大きな問題が潜んでいるように感じました。例えば、私は建築家ですから、マンションの契約であるとか、賃貸の契約に立ち会うことがあります。敗訴者負担的なことが書いてあってそれが通るならば、やはり優越的な企業と個人とで、トラブルが起こっても敗訴者負担になると書かれる契約はいろいろな問題が含まれていると思います。この要件の3番目のところに、約款等で共同の申立てをする一方的な取り決めがなされないようにすることの方法を是非知りたいものだと思います。何法の何条というようなことでは、なかなか私はよくわからないのですけれども、ここで決める合意という考えは、そのようにして波及していくことになるならば、私にはちょっと思いがけないことであって、飛田委員の考えに同調したい、そういう思いでおります。

【山本委員】 今の問題は、この制度を導入しようがしまいが、ある問題です。同じ問題です。訴訟上の簡易な手続で敗訴者から弁護士報酬の一部を回収できるということを法律に規定しようが規定しまいが、ある問題であるというのが前提です。

【長谷川委員】 これまでもあったわけですか。

【山本委員】 ええ、そうです。気付いている人がほとんどいなかった問題が、今回議論したことによって気付いてしまったということです。規定を置こうが置くまいが、気付いてしまった以上は、そういう問題はあるわけですが、先ほど来申していますように、消費者契約法や労働基準法で相当程度対処できると、私は考えております。私は裁判官ではありませんので、最終的には、最高裁の判例が出ないと裁判でどうなるかというのはよくわかりませんが、普通に労働基準法や消費者契約法を読む限り、対処できるだろうと、私自身は判断しているということです。

【長谷川委員】 既に契約で合意できることなのに、なぜ、今日もたくさんの反対の意見書が出てくるのですか。

【亀井委員】 今までは、弁護士費用を敗訴者の負担にするという制度がなかったわけです。だから、一般業者もそこまで気が付かなかった。多分、今までの約款には、ほとんどそういうものはないだろうと思います。ところが、弁護士費用敗訴者負担という制度に気付いて、建築の契約や消費者金融など、特に商工ローン関係では、弁護士費用敗訴者負担という条項が入ってくる可能性があるだろうと思うわけです。今までは、それが一般的な問題ではなかったから、アナウンス効果というか、そういう言い方をしているわけです。

【長谷川委員】 この国でも、今までも、いろいろな契約で書き込めば、敗訴者負担というのがあったということをおっしゃっているわけですね。

【亀井委員】 理屈としてはできると思います。

【長谷川委員】 それであるならば、何も合意なんて要らないのではないですか、それができるなら。

【山本委員】 いや、そうではなくて、訴訟外の合意と訴訟内の合意が違うところは、訴訟外の合意ですと、そういう弱者規制に必ずかかるわけです。労働基準法であるとか、消費者契約法のような弱者規制にかかります。ですから、訴訟外であった合意は、事前合意については、だめなものはだめということになるわけですが、訴訟内の合意では、ちゃんと弁護士や司法書士というような専門家がサポートした上で合意するのだから弱者規制はかからない。だから真の意味の契約の自由が担保されるというところが違うということです。

【長谷川委員】 しかし、今、外側の様々な約款や契約にそうした合意とか敗訴者負担という言葉がこれから今まで以上に強調されることにもなるかもしれないというおそれをたくさん訴えてきているわけですよね。それを何か弱者救済ができるということですけれども、そう簡単にできるかなという疑問は持ちますね。

【山本委員】 先ほど来申しておりますように、それは、法律に書こうが書くまいが、こういう議論をしたことによってアナウンスメント効果は既に生じているわけです。ですから、どちらが強いかというのはよくわかりません。放っておくのがいいのか、法律で無効と規定するのがいいのか。「無効」だと書いてしまうことによってかえってアナウンスメント効果を生じさせてしまう可能性もないわけではないし、何がアナウンスメント効果を持つかいうのは、全然予測ができないわけです。既に議論してしまったことによってアナウンスメント効果は発生しているという認識から議論すべきだと、私は思います。

【長谷川委員】 しかし、否定すべきだということならば、そういう項目を内側できちんと書き記しておくこともできるのではないですか。「無効」なことは。そういう要望があったように読みましたが。

【山本委員】 どの法律でやるかという問題は次に出てまいります。先ほど西川委員や私が申し上げたのは、それは消費者保護法制の問題であり、労働者保護法制の問題ですから、消費者契約法や労働基準法によるべきだということを申し上げたのです。

【長谷川委員】 訴訟の内側の合意のところにはつけないで。

【山本委員】 訴訟内の合意のところには、つける必要が特にないのではないでしょうか。つまり、先ほど来申しておりますように、弁護士ないし司法書士という専門家が適切に判断した上で、当事者のニーズを法的にコントロールした上で、両方、基本的に、両方というのは、自分と自分の弁護士と相手方と相手方の弁護士、その四者がやろうということにならないとできないという仕組みにしてありますので、もはや弱者保護規制というのは特に必要がないということです。

【亀井委員】 訴訟法では、弁護士が両方付いて、それで合意した場合、しかも共同申請という形と、かなり厳格な要件をつくるわけです。それが普通の約款でもって、何もそういう規制がない中で、しかもほとんどが印刷した契約約款の中で入ってしまう、訴訟費用、弁護士費用は敗訴者負担にするという条項が入ってしまうということになれば、訴訟法できちんと条件を定めた意味が全くなくなってしまいます。

【山本委員】 それは全然違うのではないでしょうか。規制対象が違うわけですから。

【亀井委員】 でも、市民にとっては同じでしょう。

【長谷部委員】 お話を伺っていると、アナウンスメント効果が悪い方に悪い方にということを想定しておられるようですけれども、まず、先ほど来お話がありますように、不動文字で書かれてあって、それが当事者には見せられていなくて、それでたまたまサインしてしまったというような場合には、そもそも意思表示がないわけですから、契約が無効になります。また、相手の弱みにつけ込んで不当な過程で契約が締結されたようなものは、効力が認められないと思います。万一、認められたとしても、そうだからといって、大企業などが約款にどんどん入れるかというと、私は、それはちょっと疑問だと思います。先ほど、もしそういう合意があったとすると、併合請求、あるいは反訴請求という形で請求してくるのではないかという御疑問がありましたが、山本委員が言われたように、将来請求なので、そもそも確定しているものかどうか、訴訟法上クリアーできるかどうかという問題もあります。また、仮にそれがクリアーされるということがあったとしても、弁護士費用の敗訴者負担は、片面的ではなく双面的ですから、消費者なり労働者の側も、弁護士費用の請求をすればよいわけですから、大企業だけに有利ということには決してならないと思います。あまりいろいろなことまで考えて、だからこれはだめだというのは、ちょっと本末転倒だと思います。

【亀井委員】 見せられていなかったから効力がないというのは、当然だと思いますが、そのことを証明するのは難しいことです。そういう場合もあるだろうし、一般的に、契約条項は、細かい字で印刷してあるのをそのまま名前を書いてしまったというケースはいっぱいあるわけで、見せられてないというケースばかりではないわけです。連帯保証人でさえそうです。先ほど飛田委員が挙げた例は、確かに契約が成立していないということが言えるかと思いますが、一般的に、保険約款も、大体皆さん見ません。印刷した文書にただ署名捺印するという形の契約が多いわけですから、それが簡単に無効になるかというと、いろいろと問題があるのではないかという感じがします。訴訟上の合意ということで、かなり厳しい条件の下でやっているのに、それが契約約款で私法上は有効になってしまう。それは、やはり問題ではないでしょうか。それでは、訴訟上の合意ということで決めたことが全く無意味になってしまうと思います。
 私どもは、できることなら実体法を改正してもらいたいと、もちろん思います。ただ、それが難しいのならば、例えば訴訟手続で法律まで変えるのが難しければ、何らかの措置がとれないかということを今考えているところです。附則に書くとか、附帯決議をするとか、規則の中に入れるとか、何らかの形がとれないか、実体法の改正までの間だけでも何かほしいと、そういうことです。

【山本委員】 附則は難しいかもしれませんが、附帯決議については私も同感です。それはスタンスは変わりません。ただ、訴訟法に規律対象として実体法上の契約の効力を取り込むのは難しいという話をしているだけであって、事の是非についての判断は全然違わないわけです。ですから、現在の日本の法制の仕組みの中で、可能な範囲で是非そういうことを、今後、国会なり政府に考えていただきたいということをアピールするぐらいなら、それは我々の任務の範囲内だと思いますので、それはそういうことでよろしいのではないかと思います。
 ところで、資料3の1の②の要件の3点目ですが、「一方的な取り決め」という言葉が使われていますが、私のこれまでの議論の理解だと、一方的でなくても、共同申請をする義務を双方当事者ないしは一方当事者に課す合意はおよそ無効だと理解しておりまして、一方的取り決めということでは、先ほどのような就業規則の話であるとか、約款を用いた契約ぐらいに限定するようなことになりそうなので、その点を確認させていただきたいのですが。

【小林参事官】 限定する趣旨ではありません。わかりやすく、わかるように書いたということです。

【山本委員】 わかりました。

【飛田委員】 訴訟に入ってから、訴訟上の、双方に専門家がついた場合というのはよくお話もわかりましたけれども、そうでなくて、むしろ外側の問題の方が大きいということを心配しているわけです。そういうことが実際社会の制度を変えるということは、様々な波及効果ということ、いい意味でも悪い意味でも推し量っていき、また調査をしていく必要があると思われるものですから、そういう意味では、悪い方のケースは、特に慎重であらねばならない。どういう弊害が起こるかということをよく検討していただく必要があるのではないかということです。
 消費者問題と日常的な世の中のトラブルを見ておりますと、契約は、理屈の上では無効かもしれませんけれど、一度そこでお金を払ってしまったり、印鑑を押したりしてしまったときに、相手方が消費者に対して、あるいは契約当事者に対して、あなたはここにこういう形で印鑑を押したではないか、契約した以上、例えばカードで決済した以上、その手数料がかかるとか、いろいろなよくもまあと思えるような口実を設けてくるわけです。その人たちの事前の情報提供のいい加減さとか、そういったことを棚に置いて、弱い立場の人は、脅しにも似たような行為で、あなたがそういうことをした場合、こちらが裁判に訴えるのだというようなことにでも出てきますと、びくびくして、それでは適当なところで手を打って事を大きくしないでおこうというようなケースもありますし、世の中、そう理屈どおりにいかない場合が特に多いのです。少額をめぐってのトラブルの場合などは、特にそういうことになりがちです。ですから、周辺の問題を何とか考えていただかないと、余計心配になるということを申し上げているわけでございます。

【長谷部委員】 御心配はごもっともだと思いますし、私も、山本委員が先ほどおっしゃったように、そういう弊害が生じないようにする、それをここでアナウンスするということは、非常に重要なことだと思っております。しかし、本来無効であるものについて、向こうがそれを言ってきたのでそれを受けてしまうというようなことが現状としてあるというのは、現状はそうなのかもしれませんが、それは別の問題ではないでしょうか。それこそ司法ネットの問題でして、今後はそういうようなことでだまされないように、消費者契約なり情報提供なりで解決していくべき問題ではないかと思います。今は確かに御心配かもしれませんけれども、司法ネットと一緒にすることによって、弁護士費用の敗訴者負担の合意ということの意味についても、正確な理解が広まっていくということを私は期待しています。

【飛田委員】 長谷部委員のおっしゃっておられることは、私はごもっともだと思うのですが、私も公的なADRの被害救済に関わらせていただいていることなどもありまして、まさに唖然とするようなことが世の中には実際にあるわけです。そういう人を、それこそ刑法で裁けないものかと思うような、そういうような人が実際にいまして、ですから制度を変えていくことが、当然制度の中にいろいろな要素があるわけですから、悪い面ばかりではないという御趣旨もよくわかるのですが、少なくとも、私も、ここの合意の話になってから、パブリック・コメントを前のときに出したけれども、合意性についてはパブリック・コメントはやらないのかと言われましたり、合意なんて言ってもいろいろな問題が起こってきて、裁判を受けにくくするような感じで、やはりアクセスを妨げるのではないか、アクセス推進に何が結びつくのかなどというようなことをおっしゃる方がいるんです。私もそういうことを伺いますと、これは裁判になったときの合意だから、既にアクセスとは関係なく、事態が進んだ時点の話だし、その方がおっしゃるのもごもっともだと思ったりもしまして、あなたはアクセス検討会に関わっているのでしょうという意味を込めて言われているのだろうと思いますと、大変胸が痛んでまいりまして、なおかつ、悪徳ないろいろな方たちの社会的な罠みたいなものを、このアナウンス効果か何かで増やすようなことになりますと、大変私としては納得のいかないことなものですから、それで、周辺問題を何とか処理する必要があるということを申し上げるわけなんです。

【藤原委員】 今までの議論、随分長い時間をかけてまいりましたけれども、私がつくづく感じたのは、現状をよしとする状況を覆すというのは大変難しいということです。すなわち、我々は、いつも大変自然体でありながら、保守的なものだなとつくづく思います。どうしてかと申しますと、これは1つの例ですけれども、働いたにも関わらず正当な労働報酬を受け取れずに泣き寝入りせざるを得なかった人、あるいは、ようやく裁判に勝訴したけれども、それにかかった費用、時間、未払いのために自分の生活あるいは家族が受けた不都合、不幸、そのようなことがあったにも関わらず、それを回復できなかった人は大変たくさんいるわけです。今、ここで、保守的であるということがすごく私は問題ではないかと思ったのは、今までは、一方で消費者のあるタイプのケースにおいてひどい状況に置かれた人と、もう1つは、例えば未払賃金などで泣き寝入りしたり、賃金が払われないだけでなくて、その上、自分の代理をしてくださった弁護士の費用をわざわざ自分で払っていかなくてはいけないというような、そういう不合理も天秤にかけて、一方に対してはそれでもいいのではないかという立場をとり続けるということです。両方とも完全ではないにしろ、私は、この制度でもって担保できるものが少しでも広がったとすれば、やはり勇気を持って、保守的な立場だけを死守するのではなくて、考えてみる糸口にするべきではないかと思います。そして、合意に基づくということだけですべてが解決すると思えないかもわからないけれども、少なくとも、今まで解決できなかったいくつかのケースは、この制度によって、問題提起だけではなくて、実際に実利を取ることができるチャンスが広まってきたわけです。ですから、保守主義をとるのは、もしかしたら、とてもわかりやすい。みんなも実感として、今までこうだったのだから何も変える必要ないのではないかと言われてみればそれまでかもわかりませんけれども、だけど、今までですら、既に理不尽な結果に泣いていた人がいるということも、やはり覚えておく必要があって、どこかで少しずつでもいいから前進しているという実感があるべきなのではないかと思います。それが得られるのであれば、少なくとも、これだけの基本的な方針を下敷きにして、実務を担当される専門家にお任せするという勇気も必要なのではないかと、私は思います。

【亀井委員】 藤原委員のおっしゃることは、一面正しいとも思いますが、私どもが考えているのは、例えば、未払賃金で絶対勝つ、絶対取立てができるというケースというのは、あまり裁判にならないと思うわけです。やはり裁判になるのは、かなり難しい事件が今でも多いわけです。だから、労働事件も少ないわけですし、一般的な裁判自体、日本では少ないわけです。証拠がないからなかなか裁判が起こせないという問題、そのために、結局、未払賃金でさえ、勝つか負けるかわからないということがいっぱいあるわけです。結果的に、勝てば、藤原委員がおっしゃるように、それでも弁護士費用も取り立てられないのはおかしいではないかと皆さんおっしゃるのは事実です。ただ、最初に裁判を起こすときに、皆さんは、勝つか負けるかなんてわからないで、とにかくこんな不合理なことがあっていいのかということで裁判を起こすわけです。だから、裁判を起こすときに、もし負けたら相手方の費用、会社側の費用も払うんですよということだと、労働者にとってはすごく萎縮効果があるわけです。そのことを、私どもは、今まで問題にしてきたわけです。ところが、勝てる見込みが強い事件は多分あるだろうと、それは私も思います。そういうことから言えば、合意ということでチャンスを与えられるということは、私どもも評価はしています。ただ、そのときに、就業規則などで敗訴者負担であるということが規定されているということが、労働者の足かせになる可能性があるのではないかということを、危惧として挙げているわけです。そういう危惧がもう少しないように、何とかしてもらえませんか、何らかの措置がとれませんかということを言いたいというだけで、合意で敗訴者負担にするということを否定しているわけではありません。そういう意味では、私どもは、敗訴者負担ではないから訴訟を起こさなかった十数パーセントの人たちにも、これである程度回収の見込みがつくということでは、いい制度ではないかとは、一面思っております。それが1つです。
 もう1つ、前回も申し上げましたけれども、仲裁法の中で、仲裁合意について、労働契約は無効で、消費者契約は解除できると附則に書いてあります。一面、訴訟手続とも一体となった法律だろうと思いますので、同じような書き方ができないものかどうか、御検討いただければと思います。

【山本委員】 今の最後の点ですが、仲裁法というのは仲裁契約の効力を定める法律であって、一面においては、国家の裁判所の裁判権を排除するということで訴訟法的な意味もあるわけですが、基本的には仲裁契約の効力を定める法律ですから、そこで仲裁契約についての有効・無効についての基準を一応立てることは、法制上特に大きな問題はないのですが、なぜ附則になったかというと、最終的には消費者保護法制、労働者保護法制の問題だから、附則でやりましょうということになったと、私は理解しております。今回のお話は、あくまでも訴訟費用の確定手続そのもの、それと同等の手続によって弁護士報酬を訴訟費用として敗訴者の負担にできる制度を実現するという限りのことをやっているわけです。私法上の請求権を考えているわけではありません。今、議論になっている、訴訟外の契約で弁護士報酬の負担を定めたときの効力の問題は、私法上の請求権として弁護士報酬の償還請求権を認めるべきかどうかという問題です。それは、全く実体法の問題です。ですから、先ほど来申しておりますように、アピールするのはいいと思いますが、しかし、それは法律の役割分担上、今までの日本法の法制の切り分けではなかなか難しい、限界があるのではないでしょうか。ですから、アピールということで、政府なり何なりに働きかけるというのが現実的な選択肢だと申し上げているわけです。

【亀井委員】 ただ、法律のつくり方ですし、仲裁法自体、私法上の契約であり、訴訟手続の法律であるという両側面持った珍しい法律なのだろうと思います。そういう意味からいえば、今、これから法律の中に書き込むわけですから、いろいろな形が検討されるのではないかと思います。訴訟法、実体法とそんなに区分けしなくてもいいのではないかという気がしています。

【飛田委員】 たびたびで申し訳ありませんが、申し上げたいと思っていることで忘れてはならないと思っていることが2点あります。
 1つは、パブリック・コメントに寄せられたものを全部読破したとまでは申しませんけれども、全部一応見せていただきました。そうしましたら、皆さん本当に心配しておられる向きが、保守的なということもあるのかもしれませんが、敗訴者負担制度に対して、司法がこれだけ遠い存在なのに、なおさら遠くするのではないかというような声、特に高齢化が進んできておりますから、私は年金生活者ですが、そういう者もいっぱいいることを覚えておいてくださいというような御意見もありましたり、誠にいろいろな御意見がございました。ですから、おまとめになるに当たって、パブリック・コメントに寄せられた御意見を無にしていただきたくないということです。
 もう1つは、アクセス推進のために片面的敗訴者負担制度が有効ではないかということは、パブリック・コメントの中にもたくさん触れられておりました。これから先、司法アクセスというものを本当に今回限りのことで終わらせないということであるならば、敗訴者負担の制度だけに終わらせないで、両面的なものでない片面的な敗訴者負担制度についても、その功罪、その必要性など、その辺りのところを研究していったり、議論をしていく必要があるのではないかと、私は思っております。ですから、これからの課題として、その問題を忘れないでお取り上げいただくようにお願いしたいと思っております。

【長谷部委員】 私も一言だけ申し上げさせていただきたいと思います。パブリック・コメントで反対の意見が多かったと、確かにそのとおりだと思いますけれども、重要なのは、この問題は多数決で決まることではないということです。また、高齢者で年金生活をしておられる方、敗訴者負担になったら困るとおっしゃっている方は、合意をしなければよいという形で取り込んでおります。それは、先ほどの日弁連のプレゼンテーションでも評価していただいたというように、私は理解しております。パブリック・コメントの結果を踏まえた上でこのような合意案ということで落ちついたのだと、そのように理解しております。

【西川委員】 私としては、この案で、最終的には妥協させていただいています。私も消費者の立場を持っているわけですし、労働者の立場も持っているわけですので、そういう人のアクセスを推進するためには、本当は、そういう方々にオプションを与えてはどうかと、私は前回申し上げました。恐らく、弁護士会も、消費者の方も、もろ手を挙げて賛成してくれるだろう、これこそ消費者・労働者による司法アクセスを推進するものであると思っていました。しかし、それすら嫌がっておられるというのは、一体どこにそういう理由があるのか、ちょっと私としては残念です。ただ、一方では、消費者、労働者は別扱いすべきだということになってきますと、訴訟類型的な議論がまた出てくることになってきますので、すべての訴訟について、訴訟が起こった後の当事者の合意ということで、最終的には賛成させていただきます。
 負担額につきましては、この前申し上げましたように、訴額10億円くらいでキャップにしてはどうでしょうか。金額として300万円ぐらいがいいところではないでしょうか。負担額の合意については、敗訴者負担にしようかどうかという議論をしているときに、では、いくらまでだったらという議論になると大変なものですから、法律の決めたままということにする方がいいのではないかと思います。

【亀井委員】 もちろん、多数決で決めることではないだろうと思います。ただ、パブリック・コメントに寄せられた意見は、やはり世論であるということは重要視してほしいと思います。最後まで、本日も、消費者団体、労働団体からも意見書が来ています。国民の理解を得るというのは、審議会意見書でも書いてあったわけですから、世論は、意見として受けとめていただきたいと思います。
 それから、合意しなければいい、オプションを与えるということで、それも1つの方法だろうと思います。私どもが言っているのは、これが形骸化して、合意しなかったのに、それ以前の約款でもって決めてしまった、ほとんど考えもしないで、弁護士がいないときに決めてしまったことが、有効ということでひとり歩きしないようにということを申し上げているわけです。とにかく、弱い人たちが、訴訟上の合意をしなかったのに、そうではない、訴訟外の合意でもっていやいやながら敗訴者負担になるということだけは避けていただきたいと思うだけです。

【山本委員】 概ね、制度の概要のコンセンサスはできたのではないかという気はするわけですが、今、西川委員がおっしゃったような、もう少し細部に入った議論を若干しておかないと、事務局としても、今後、法案づくりのときに困るのではないかと思いますので、私も、西川委員がおっしゃったようなことについて申し上げたいと思います。
 負担額については、最初の出だしをいくらぐらいにするのかという問題と、キャップ制をとった場合にどのぐらいをキャップにするのかという問題が、法定額の定め方としてあります。最初の出だしは、今日も配布していただいてておりますが、法律扶助協会の着手金額あたりが適当な線ではないかと考えます。また、上限については、感覚的には、西川委員がおっしゃったあたりがいいのではないかという気がしております。
 それから、負担額の合意を認めるかどうかですが、私は、できるだけ制度は単純な方がいいと思います。今回新しいことを行う上で、制度はできるだけ単純にしておいた方がいいと思います。ですので、負担額についての合意は認めなくてよいと考えています。先ほど飛田委員がおっしゃったように、制度の見直しということをしていく中で、単純な制度では十分賄いきれないニーズがあったり、弊害があるかどうかということを検証していった上で、さらに制度をいいものにしていくという形にしていった方がいいのではないかと思いますので、できるだけ制度を単純にしていただきたいと思います。

【亀井委員】 負担額の定め方ですが、訴額に応じて逓減方式とするのがいいのではないかと思います。
 負担額についてですが、私も、以前から、法律扶助協会の基準と申し上げています。ただ、法律扶助協会の基準でも、低い方はかなり高めになっています。低いところでは、法律扶助協会の基準よりも低くてもいいのではないかと思います。今までの扶助規程では、最低が10万円になっていましたので、一部と考えれば最低が5万円ぐらいでもいいのではないかと思います。上の方は、10億円で300万円をキャップにするとおっしゃるなら、私どももどう考えていいか及ばないところなので申しません。訴額10億円でキャップを決めて、訴額が1億円ならばその10分の1と考えれば、30万円、40万円というぐらいでもいいのではないかと思います。
 単純化するためには、負担額を合意するというのはなしにした方がいいだろうと思います。

【長谷川委員】 最後まで、私には、本当に誰が敗訴者負担を求めているのかと考えてしまいます。こうして弁護士の先生を通していろいろな考えが出てくると、ますます釈然としないところがあります。本当に世の中が敗訴者負担を求めているのかどうかということは、とても疑問に思います。合意というものが出てきたときに、経済活動をするための人たちが一番必要かなと思ったのです。けれども、それが社会の進歩だと言われると、本当にそうなのかとまだ疑問を感じます。とにかく弱い立場の人が不利にならないような方向に行くことが進展につながるので、そうなることを願って、最後に発言しておきたいと思います。

【高橋座長】 そういたしますと、資料3に書かれているような案、つまり、各自負担を原則としますが、当事者双方に訴訟代理人が付いたときに、訴えの提起後に当事者双方による共同の申立てによって訴訟代理人の報酬の一部が訴訟費用と同様に扱われる。そして、敗訴者の負担となる額につきましては、訴額を基準に法律で額を定める。具体的な金額についてはいろいろな意見が出ましたが、一定の上限を設けるという意見が強かったようです。負担額の合意を認めるべきであるという意見はありませんでしたので、法律で定める額とする。
 このような御意見がこの検討会では大勢であったと思います。ただ、飛田委員もおっしゃいますように、そもそも、敗訴者負担という制度そのものについて疑問を表明される委員もおられました。また、合意案につきましても、訴訟上の合意そのものについては強い異論はなかったかもしれませんが、それが私法上の契約にどのように波及していくかについては、今日も懸念を表明される委員が複数おられました。
 以上が、この検討会で各委員に検討いただいた結果ではないかと思います。藤原委員がおっしゃいましたように、半歩でも一歩でも進めるという御意見も強かったということを、私は印象深くお聞きしましたが、このような検討会での検討を参考にしていただき、具体的な立案作業を事務局にお願いすることとしたいと思いますが、それでよろしいでしょうか。

(各委員了承)

(3) その他

【高橋座長】 では、事務局にはよろしくお願いいたします。

【小林参事官】 委員の皆様方には、御多忙の中、2年近い間検討会に御参加いただき、様々な視点から貴重な御意見をお寄せいただきました。心より御礼を申し上げます。
 本日は、司法ネットと弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて御検討いただきました。この検討会での御検討の結果を尊重し、立案作業に取り組んで参りたいと思います。ありがとうございました。
 次回の日程については、追ってお知らせします。

【高橋座長】 当面はしばらくおいて、また、何か招集がかかるかもしれないということです。それでは、本日はこれで終りです。