最高裁判所から資料1に基づいて説明がされ、日本弁護士連合会から資料7に基づいて説明がされ、日本司法書士会連合会から資料2に基づいて説明がされた。
これらに基づいて、次のような意見交換がされた。
○ 立替金、求償金、貸金等の事件について、1回あたりの審理の時間は、平均してどのくらいになるのか。
△ 簡易裁判所の事件全般についての平均審理期間は、資料1-11にあるとおり、平成13年の場合、2か月くらい、少額訴訟に限って言えば1.6か月くらいである。
○ 1期日当たりの平均審理時間はどのくらいか。
△ 立替金、求償金請求事件では、クレジット・カードを使っていないという主張がされるケースは少なく、分割払いにしてもらいたいので話し合いがしたいと希望されるケースが多いように思うが、分割払いにしてもらいたいので話し合いがしたいという希望があった場合は、利用者とクレジット会社との間に裁判所が入って話し合いを進めることになるので、一定の時間がかかる。被告が欠席した場合は、原告の主張に対する争いがないということになるので、あまり時間はかからない。
○ 被告が欠席した理由については調査をしているか。被告の年齢構成についての調査はしているか。
△ 欠席理由の調査はしていないが、事前に都合が悪いので欠席するという連絡があった場合は、期日を別の日にしている。利用者の年齢構成については統計はない。
○ これからの経済社会の展開がどうなるのか、その中で裁判所がどういう役割を果たしていくのか、司法制度が私たちの生活にとってどのくらい重要かという観点からの議論が十分でないという気がする。司法の役割が増えるように思うが、それが経済ビジネスの動きに応じているのであれば、司法を支えるスタッフに過剰な負担をかけるのは問題であり、経済の動きにあわせて何らかの手数料を取るなどの措置を講じないと、制度がどこかでパンクする。司法制度はインフラという部分もあるが、インフラでないという部分もあるのではないか。税金で賄っていてはサービスの供給に限界がくる。利用料金面では、ある程度受益者負担の考えを入れてはどうか。
△ 地方裁判所と簡易裁判所の機能の違いとしてどのようなものを考えているかというと、金額の大きい事件は専門的な問題が含まれている場合が多いのではないかと思われるので、地方裁判所で厳格な手続の中で審理し、軽微な事件は簡易裁判所で簡易迅速にというふうに考えている。簡易裁判所では立替金、求償金の事件が多いと言われているが、少額訴訟制度を使いやすくする、少額訴訟の上限である訴額が30万円を超える事件についても、少額訴訟のノウ・ハウを活用し、できる限り1回の審理で解決する等の工夫をしている。このような工夫により、今まで裁判所を利用されなかった方にも、裁判所を利用していただけるようにと考えている。
○ 日本は司法型社会に向かうという話なのだから、利用者から見て、何か不安があったときに裁判所に行けるかどうかが問題なのではないか。裁判所側から議論をしている気がする。利用者側の視点が欠けているように思う。問題を抱えているときに、こんなときにこういうものが使えたらいいのにという利用者側の意識とぴったり一致していないような気がする。
○ 裁判所側から事件を探してくるというわけにはいかない面がある。ADRと裁判所の結びつきをどうするかも重要だろう。
○ 日本司法書士会連合会から少額裁判サポート・センターの話があったが、これは、少額訴訟事件を対象にしたものか、それとも、少額訴訟事件に限らず、訴額が比較的に低い事件全般を対象にしたものか。また、利用状況はどうか。
△ 少額訴訟事件に限らず、訴額が比較的に低い事件全般が対象である。日本司法書士会連合会としての取り組みは7月1日からだが、それ以前から同様の活動をしており、かなりの実績はある。ただ、本日は、利用状況に関する数字的なデータは持ちあわせていない。
○ 実際に簡易裁判所に行って審理を傍聴すると、短時間の間に目まぐるしく人が出入している。二言三言言葉を交わし、書面のやりとりをしておしまいである。事件数が多いせいかもしれないが、次の事件、次の事件という感じで審理が進められている。審理には時間がかけられていない。事前の証拠調べなど、きちんとした判断ができるようになっているのなら問題はないのかもしれないが、的確な判断ができるのかといった疑問があり、不安を感じる。当事者が何をしているのか分からないうちに審理が終わってしまうというようでは問題ではないか。庶民の身近な裁判所としての簡易裁判所がこのような現状では心配である。これ以上簡易裁判所の事件が増えて大丈夫なのか。審理の質が保てるのかどうか心配である。また、消費者トラブルでは、高齢者等が被害に遭う例も増えており、高齢者等にも分かりやすい手続になっているかどうかという視点から考えても不安を感じる。高齢者等が審理の場に臨んだ場合に、何がされているのか把握できないのではないか。裁判所に出頭しても何をやっているのか分からないので出頭しないというのが欠席裁判が多い理由であるとしたら問題である。少額訴訟に関しても、気軽さ、便利さが前に出て、しっかりとした審理がされないということになると問題である。
○ 簡易裁判所が扱う事件数が多いのは事実であり、傍聴してみると、人が入れ替わり立ち替わりというのはそのとおりだと思う。しかし、裁判所は、訴状が提出された後、審理の前に十分な準備をしており、何の準備もなくその場限りの審理をしてるわけではない。他の事件の審理をしなければならない関係で、一つの事件の審理に多くの時間をとれないのが実情だが、例えば、貸金請求事件で、被告から、お金を借りた覚えはないという主張がされた場合、司法委員が別室で事情を聞くといった対応をしており、主張の骨子を聞いて事件に相応しい審理の進め方を考えているはずである。傍聴席から見ただけでは分かりにくいかもしれないが、裁判所としては相応の配慮をしている。先ほど、平均の審理時間という話題が出たが、平均の審理時間を出すことはあまり意味がないと思う。審理時間は短くても、裁判所は事前準備に相当時間をかけている。また、簡易裁判所では、いわゆる業者事件が多いということは事実であるが、それ自体は悪いことではないと思う。裁判所外で変な形で取り立てがされるよりも、裁判という公明正大な手続の中で、相手方にも十分に言い分を言う機会が確保されて事件が解決される方が望ましいのではないか。むしろ、問題は、いわゆる業者事件が多いことの裏返しの問題として、本来簡易裁判所を利用して紛争を解決したいと考えている国民が、様々なアクセスの問題もあって、簡易裁判所を利用しきれていないという実情があるかどうか、あるとすればどの程度あるのかだろう。その場合、どういう事件が簡易裁判所に相応しいのか、各委員のご意見を伺い、その中で事物管轄の問題も考えていったらいいのではないか。
○ 簡易裁判所には、いろいろなメニューが用意されている。通常訴訟、少額訴訟など訴訟にも複数のメニューがあり、法制審議会では少額審判手続も議論されている。この他にも、督促手続や即決和解、特定調停などいろいろな制度がある。市民からのアクセスという面から見ると、このようないろいろなメニューの中で、どういう状況の場合にどういう制度があって、どういう特徴があるのかといったことを広報する必要があるのではないかと感じている。
○ 訴訟は今後増えていくだろう。訴訟外で解決するよりも、訴訟で透明な解決をという方向になるだろう。顧問会議のアピールでは、どんなに複雑な事件でも2年以内で解決と言われているし、司法制度改革審議会意見でも、審理期間の半減が提言されている。複雑、高額な事件をどのようにして迅速に解決していくのかが問題になってくる。このように考えると、地方裁判所の負担はできるだけ減らすべきだろう。簡易裁判所は、地理的には最もアクセスしやすい裁判所であり、経済指標の動きも考慮すると、簡易裁判所の事物管轄は拡大の方向に向かうのだろう。もっとも、利用者の中には、地方裁判所の厳格な手続で審理してもらいたいという人もいるだろう。そういう要望に応えるためには、例えば、経済指標に従って事物管轄を拡大し、それを超える額についても、一定額までは、簡易裁判所に訴えを提起して当事者間で異議が出なければ簡易裁判所で審理、異議が出たら地方裁判所で審理というような競合管轄的な制度を設計してはどうか。簡易裁判所、地方裁判所ともに、司法の容量という意味で拡大していく中では、簡易裁判所の事件が増えると簡易裁判所が大変になるといういう観点は妥当ではない。大変になるならなるで、法曹人口の増加など、必要な対応をしていかなければならない。
○ 質的に異なるプロセスについて、誰がどの時点で、こちらのプロセスが適切だと判断するのかが問題だと感じる。どこかで線引きをするとして、どういう理念で線引きをするのか。裁判というと、今までは、時間がかかり手続きが面倒だというイメージを持たれていた。はじめから裁判所の利用を諦めていた国民も多かったと思う。必要なデュー・プロセスをどのようにして確保するかが課題だろう。利用者が何らかのアドバイスを受けて、地方裁判所の手続がいいのか、簡易裁判所の手続がいいのかを判断して選択するという流れを考えた場合、アドバイスの部分が重要なのではないか。簡易裁判所と地方裁判所への事件の振り分けという問題だけでは収まらないのではないか。
○ 事件数が多く、しかもこれから事件が増えるという中で、やはり、何らかの基準で事件の割り振りをしていかなければならないと思う。諸外国でも割り振りをしており、いろいろと考えた結果、訴額で割り振りをしているのだと思う。金額が大きい事件がほぼ難しい事件であるということは統計的にも出ているので、金額で固定せざるを得ないと思う。簡易裁判所の管轄は、現状の制度の枠組の中で考えるべきで、競合管轄という制度設計は妥当でないと思う。当事者に、どの手続が適切かの判断を求めるのは問題があり、たとえ弁護士が付いていても判断に迷うところがあるだろう。弁護士の感覚としては、簡易裁判所の事件は本人でもできる事件だと考えている。簡易裁判所が地理的に身近な裁判所であるというのはそのとおりだが、地方では、裁判官が常駐していない簡易裁判所も多いのではないか。実体がないのに理念だけで考えるのはどうかと思う。
○ 相談所を充実すべきではないか。最初のアクセスがそういうところにあるということをもっとPRすべきだろう。境界紛争などでどこに相談に行ったらいいかと聞かれ、役所に行けば何か情報があるのではないかとアドバイスした経験があるが、一般の人にとっては、最初にどこに行ったらいいかが分からない。
○ エキスパート・システムのように、インターネットで、質問に答えていく中で自分にとって最も適切な手続が分かるようなものはできないか。簡易裁判所は「民衆の駆け込み寺」だという表現があるが、適切ではないと思う。重要なのは、個人個人が、必要な情報を得て、自分で意思決定をすることであり、意思決定のための情報を得やすくすることが大切である。外国でも教会に逃げ込むということはあるが、それは、人権を侵害された者が自分の人権を守るためにすることである。駆け込み寺というと、とにかく困っているから助けてくれという意味のように感じるが、そういう姿勢では問題だろう。
○ エキスパート・システムの話があったが、どこがやるかが問題になるだろう。
○ 確かにそのとおりだと思う。間違った情報提供をした場合の責任の問題がある。
○ 簡易裁判所の機能を考える際に、長期的な問題と短期的な問題があるが、これらの問題は分けて考えるべきだろう。司法の容量拡大は今回の司法改革の重要な理念であり、簡易裁判所の機能の充実も、この理念に密接に関連するものである。しかし、裁判官、裁判所書記官といった専門職は、人材育成のための期間が必要で、短期的に対応できる問題ではない。簡易裁判所の機能を拡充していって、将来はこういう方向にもっていきたいという話は大切だと思うが、簡易裁判所の管轄の拡大は目前に迫った検討課題であるので、管轄の拡大は、現在の状況、現在のマンパワーに拘束されることを免れない。少額訴訟では、本来弁護士がすることを裁判所が負担しており、そのことによって1回審理が成り立っているので、少額訴訟の上限となる訴額の引き上げは、裁判所の負担を増加させることにも注意すべきである。地方裁判所から簡易裁判所への人材移動がない限り、簡易裁判所の管轄の大幅な拡大は難しいという選択肢もありうるのではないか。長期的には、地方裁判所の審理の迅速化のために簡易裁判所の管轄を拡大し、簡易裁判所の人的物的体制をそれに見合ったものにするという話はあり得るが、現在の簡易裁判所のマンパワーを前提とすると、簡易裁判所の管轄の大幅な拡大は難しいという印象を持っている。
○ 先ほど、エキスパート・システムの話が出たが、やや問題があるように思う。実際に相手に会って、資料も見せてもらってという形でないと、正確な助言ができない。電話相談だと、資料の内容を確認できないため、間違える場合もある。何も見ないで答えるのは危険であり、相談は慎重にしなければならない。
○ 私が言いたいのは、相談の話ではない。利用者に分析能力がないので、利用者が自分で自分の置かれている状況を分析をすることができるシステムが必要なのではないかということである。理想論を言えば、学校教育の中で自分で分析できるようにしていくべきなのかもしれないが。他人に判断を任せるのではなくて、自分で判断することが重要である。
○ 日本では、国民が裁判に関わるということがなかった。教育が重要だという点はそのとおりである。弁護士会では法律相談が受けられる場所の設置に努力している。司法書士会でも同様の努力をされているようである。以前に比べれば、自治体の公報やインターネットなどを通じて、どこに行けば相談を受けられるかという情報の入手が容易になっていると思う。
○ 消費生活の分野でもアドバイザーがいる。各方面からの情報提供をお願いしたい。裁判官が常駐していない簡易裁判所があるという話があったが、地域格差の問題は考えていかなければならないと思う。