(□:座長、○:委員、△:最高裁判所、▲:日本弁護士連合会、▽:日本司法書士会連合会、●:事務局)
□ それでは、所定の時刻になりましたので、第7回の司法アクセス検討会を開催することにいたします。
最初に、事務局から、先日行われました顧問会議におけるアピールについて御説明があるということです。よろしくお願いします。
● 皆様の机の上に、「国民一人ひとりが輝く透明で開かれた社会を目指して」という資料が配布されていると思いますので、御覧いただきたいと思います。7月5日に顧問会議が開催されまして、その場におきまして、この資料にありますようなアピールが顧問会議の意見として取りまとめられまして、司法制度改革推進本部長である小泉内閣総理大臣に提出されたものでございます。このアピールは、司法制度改革推進本部令の第1条第2項に基づき、顧問会議が司法制度改革推進本部長に意見を述べたものであり、同時に、国民に向けたアピールとしての意味も持つものと位置付けられております。アピールの内容は、司法制度改革審議会意見の趣旨に従いまして、21世紀の日本を支える司法の姿として、「国民にとって身近でわかりやすい司法」、「国民にとって頼もしく、公正で力強い司法」、それから「国民にとって利用しやすく、速い司法」の3つを掲げた上で、推進すべき具体的な改革の内容を示したものとなっております。特に、2ページ目の真ん中あたりにありますように、「2年以内に判決がされるように、制度的基盤の整備や人的基盤の拡充を十分に行う」との目標を掲げた点が注目されております。
このアピールを受けまして、小泉内閣総理大臣は、資料の最後につけておりますけれども、「全国どの町に住む人にも法律サービスを活用できる社会を実現すること」、「裁判の結果が必ず2年以内に出るようにすること」などを具体的な目標として改革を進める必要があるとし、改革に向けた強い決意を述べられております。
本検討会におかれましては、このアピール、総理大臣の発言の趣旨も十分に踏まえていただきまして、今後の検討を進めていただけるものと存じます。どうぞよろしくお願いします。
□ 何か御質問はございますか。では、これを肝に銘じて作業を進めていただきたいと思います。
それでは、本日の議題と配布資料について、事務局から御説明をお願いします。
● お手元の「司法アクセス検討会(第7回)次第」に記載してありますように、議題につきましては、第1に簡易裁判所の機能の充実について、最高裁判所事務総局、日本弁護士連合会、日本司法書士会連合会からの御説明を予定しております。その関係の配布資料につきましては、配布資料の1が最高裁判所事務総局の説明資料、準備の都合上直前になってしまったものですから資料番号が7になっていますが、資料7が日本弁護士連合会の説明資料です。それから、資料2は、日本司法書士会連合会の説明資料となっております。
第2の議題として、訴え提起の手数料についてを考えております。その点につきましての資料3、「経済指標の変動と手数料についての参考試算」、それから資料4、「過去の手数料改定と事件数の動向」を用意しております。
第3の議題の訴訟費用額確定手続につきましては、資料5、「訴訟費用額確定手続の簡素化に関する検討参考資料」を用意しております。
最後の今後の日程等につきましては、資料6として、「司法アクセス検討会の今後の日程等(案)」を用意しております。
本日の配布資料、議題については、以上のようになっております。
□ それでは、議事次第に沿いまして、まず、今日時間的にも一番多くとる予定のものでございますが、簡易裁判所の機能の充実について、最高裁判所、日本弁護士連合会、日本司法書士会連合会から、それぞれ御説明と申しますか、意見を伺うことにしたいと思います。順番はこの順序で行い、その後意見交換をするということでよろしいでしょうか。
それでは、最高裁判所から御説明をお願いいたします。
△ 最高裁判所事務総局総務局の第一課長をしております。よろしくお願いします。本検討会では、一般国民の視点に立って、利用しやすい司法の在り方について熱心に御議論いただいているところでありまして、各委員の御尽力に最初に感謝いたしたいと思います。
本日は、国民の身近に設置されております簡易裁判所の機能とその充実について、事物管轄という視点を中心に意見を述べさせていただきたいと思います。お手元の資料の1を御覧いただきたいと思います。
最初に、「事物管轄の見直しの視点」と書いております。第一審訴訟を担当する裁判所として、我が国では簡易裁判所と地方裁判所の2種類が設けられておりますが、民事訴訟については訴訟の目的の価額、金銭請求の場合ですとその請求額、その他の場合には請求するものの価額でございますが、これが90万円以下の場合には簡易裁判所が、90万円を超える場合には地方裁判所が、それぞれ管轄をするということになっております。このような簡易裁判所と地方裁判所の権限の分配を、事物管轄と呼んでおります。そこで、事物管轄の見直しの視点ということについて申し上げたいと思います。我々の方では、この見直しにつきましては、以下のような視点から検討することが必要ではないかと考えております。まず、簡易裁判所、地方裁判所、それぞれが果たすべき紛争解決機能の違いという視点であります。すなわち、その2つの裁判所は、ともに第一審の民事訴訟事件を担当するわけでありますが、それぞれ固有の機能を有しておりまして、それに応じた手続が定められております。事物管轄の見直しに当たっては、このような機能の違いを踏まえて、それぞれの裁判所にふさわしい事件はどのようなものかという点を御検討いただく必要があろうかと思っています。特に、その中で大きな意味を持ってくるのが、簡易裁判所の数であります。簡易裁判所は、国民の身近な法的ニーズに応えるという目的のために全国各地に置かれております。こうした点に見られるアクセス面での利便性というのが、簡易裁判所の大きな特徴でございます。
そこで、具体的に、簡易裁判所と地方裁判所の機能がどのように違うかというところを御覧いただきたいと思います。まず、簡易裁判所でございますが、簡易裁判所は、少額軽微な事件を簡易な手続で迅速に解決する裁判所として設立されたものでありまして、次のような特徴がございます。第1に、今申し上げた数でありますが、国民の理由しやすい裁判所として全国438か所に設置されております。第2に、簡易裁判所で手続を主宰します簡易裁判所判事でありますが、法曹資格を有する者のみならず、その職務に必要な学識経験のある者から任命できるとされています。第3に、手続でありますが、簡易裁判所にふさわしい簡易な手続で迅速に解決するという観点から、民事訴訟手続の特則が設けられているところであります。更に、平成8年の民事訴訟法改正に際しまして、30万円以下の金銭請求事件について、当事者がより簡易な手続でより迅速な解決を求めることができるように、原則として1回の期日で審理を終えて、直ちに判決を言い渡すことができるという内容の少額訴訟手続が導入されたところであります。これに対しまして、地方裁判所は、通常訴訟事件のほか、人事訴訟事件、あるいは行政訴訟事件、民事執行事件、破産事件、あるいは簡易裁判所の判決に対する控訴事件など、幅広い事件を取り扱う原則的な第一審裁判所であります。その特徴といたしまして、まず、地方裁判所本庁は、県庁所在地を中心に50庁設置されております。そのほか、それぞれの管内の主な都市に203庁の支部がございます。第2に、地方裁判所の裁判官でありますが、これは幅広い事件を担当する原則的な第一審裁判所であることから、司法修習を終了した法曹有資格者である判事または判事補で構成されております。第3に、訴訟代理人となるのは原則として弁護士に限られておりまして、当事者の主張・立証の機会を十分に確保して、慎重な審理を行うための手続がとられているところであります。
次に、簡易裁判所と地方裁判所の機能分担の指標というところに移りたいと思います。それでは、裁判所法では、簡易裁判所、地方裁判所の事件の振り分けをどのように行っているかということについて見ていきたいと思います。現在の裁判所法の建前は、冒頭に申し上げましたとおり、民事訴訟事件の経済的利益、訴額の大きい少ないによって事件を振り分けているわけであります。これは大数観察的に見ますと、訴額に比例して事件の内容の複雑さ、あるいは困難さが増すという経験則に基づいているわけであります。そこで、添付してあります資料を御覧いただきたいと思います。それでは、このように訴額を基準として軽微な事件と複雑な事件を振り分ける仕組みが、果たして合理的なものと言えるのかどうかというところを見ていきたいと思います。これを、第一審の民事訴訟事件の審理状況等について見たものが資料1から5であります。まず、資料1でありますが、これは、簡易裁判所、地方裁判所双方に係属している事件を合計したものを訴額別にどういう事件がその中に含まれているかというのを見たものであります。御覧いただきますと、30万円までの事件、あるいは30万円から90万円までの事件では、かなりの部分が立替金・求償金、あるいは貸金といった事件で占められているわけであります。これに対して、90万円以上のところを御覧いただきますと、そうした事件が徐々に減っていくわけでありまして、これに対して、損害賠償、あるいは不動産といった事件が増えてくるわけであります。これはどういう意味があるのかということでありますが、立替金・求償金、あるいは貸金関係の事件といいますのは、ほかの類型の事件に比べましても法律関係が単純で、当事者として何を主張すればいいのかというのが比較的明白であります。例えば、立替金・求償金でありますと、いつ、クレジットで何を買ったかということが、請求のために重要であります。また、貸金でありますと、いつ、幾らの金額を、どういう利息で、期限をいつとして貸し付けたのか、こういうところが必要であります。かつ、比較的明確な事件でありますので、事実関係に争いがある場合が少ないわけであります。これに対しまして、損害賠償、あるいは不動産関係の訴訟の場合には、例えば、医療過誤の事件、あるいは登記に関係する事件をお考えいただきますと、いろいろな事実関係が複雑に入り組んでおりまして、その複雑な事実関係を法律的に主張を組み立てて、証拠をきちんと整理して提出していただくということが必要になってまいります。そうした事件について、個々の事案に即して、柔軟かつ慎重に審理を進めるということになるわけであります。そういった事件の類型的な違いというものがございます。そうした違いというのが、審理の状況にどのように表れているかというのを御覧いただくのが資料2以下であります。まず、資料2を御覧いただきますと、これは、弁論の実施回数を訴額別に見たものであります。大体30万円まで、あるいは90万円までの事件というのは、ほとんどの事件、8割以上が1回で終わっているわけであります。これに対しまして、訴額が増えるに従いまして、2回、3回、あるいは5回以上という事件が非常に増えてまいります。平均で御覧いただきましたのが、右の下の方に平均回数を書いてありますが、90万円までの事件では、平均的な弁論の実施回数が1.5回であります。これに対しまして、90万円以上になってまいりますと、2.3回、あるいはそれ以上というように増えてくるわけであります。次に資料3を御覧いただきますと、これは、訴額別に証人本人の尋問を行った人数を見たものであります。まず、30万円まで、あるいは90万円までの事件では、証人本人の尋問の数というのはほとんどないわけであります。平均を御覧いただきましても、90万円までのところでは、平均して0.5人ということになっております。これが90万円以上のところになってまいりますと、証人尋問の数が徐々に増えてまいるわけであります。次に、資料4ですが、これは、判決で終局した事件のうち、対席と欠席で終わった事件がどれだけあるのかという表であります。欠席と申しますのは、被告が不出頭の事件でありまして、その結果、被告は原告が主張する事実を争わないものとみなされて、原告の勝訴判決がされるものであります。これに対しまして、対席というのは、被告が出頭して、あるものは事実関係を争わずに話し合いで終わるということもありますし、あるものは事実関係を争って証拠調べに至るというものがあるわけであります。そうした相手方が出頭して争う事件というのが、訴額が増えるにつれて増加してくるわけでございます。それから、資料5が、訴額別の控訴率であります。これも90万円までのところの事件を御覧いただきますと、判決に対する控訴がされた割合というのが、平均しますと大体2.5、6%であります。これが90万円を超えますと、約2倍になりまして、5.4%、5.5%、更に金額が増えるごとに控訴率が上がってくるわけであります。このように、訴額を基準としてそれぞれの事件の性質を見てまいりますと、事件の性質がかなり違っているという状況が御理解いただけるかと思います。こうしたことから、訴額によって事件を振り分けるという制度そのものは、合理的なものというように考えられます。そこで、資料6ですが、これが結論として、簡裁と地裁それぞれに申し立てられた事件の種類であります。平成13年に簡易裁判所に申し立てられた事件の約97%は金銭請求事件でありまして、その大部分が売買代金、貸金、立替金、求償金という比較的定型的な事件で占められているわけであります。このように、定型的な事件が多いことから、簡易な手続で解決することになじむということが言えますし、必ずしも法曹資格は有しないけれども、健全な社会常識に富む簡易裁判所の判事が、簡便に、かつ的確に事件を解決することが可能ということが言えようと思います。これに対しまして、地方裁判所は、訴額200万円以下の事件を見ても、不動産を目的とする事件が37%に上るなど、複雑な事件がかなりの割合を占めているところであります。
また本文の方に戻っていただきまして、事物管轄の見直しの手法というところにいきたいと思います。従来、簡易裁判所の事物管轄の見直しを行う際には、基本的に、経済事情の変動、あるいは国民生活の変化に応じて、簡易裁判所と地方裁判所の事件の分布の動向を検証・分析して、そのずれがある場合に、振り分けの基準となる訴額を見直すという手法をとってきたわけであります。この理由は、経済事情の変動があるにもかかわらず、振り分けの基準となる訴額を固定しておきますと、簡易裁判所に訴えることができる事件の窓口を狭めて、本来国民に身近な裁判所で簡易迅速に紛争を解決するという利便性を損なってくるために、これを是正することが必要とされたわけであります。このような考え方に基づきまして、設立当初は5,000円でありました簡易裁判所の事物管轄の上限も、昭和25年に3万円、昭和29年に10万円、昭和45年に30万円、昭和57年に90万円と、順次引き上げられてきたわけであります。そこで、従来の見直しの際の経済動向を示す指標、それから簡易裁判所と地方裁判所の事件の分布の状況を示す資料が、資料7と8でございます。これを御覧いただきますと、まず資料7でございますが、昭和29年に事物管轄の改正がございまして、その次の改正は昭和45年であります。その間の経済指標の状況というのは、ここで御覧いただけますとおり、非常に強い右肩上がりを示していたところでございます。それから、その次に改正されましたのが昭和57年であります。その間の経済指標の動向を見たのが上から2番目の表でございます。この間にも、経済指標というのは約4倍に上るものがあるなど、右肩上がりを示しているわけであります。これに対しまして、昭和57年以降の経済指標を示すものが一番下の表でありまして、上の表と比較しますと、経済指標の状況というのはかなり異なるところがあろうと思います。とりわけ、平成9年以降のところでは、指標によりましては、右肩下がりになっているものもございます。それから、資料8が、簡易裁判所と地方裁判所の事件比率を見たものであります。従前、事物管轄の見直しがされた際には、見直し前に、地裁の事件がかなり増えていっていたという状況がございます。例えば、昭和29年のところを御覧いただきますと、地裁の事件が当時約56.5%を占めておりましたところ、事物管轄の見直しによりまして、見直し後には42.5%に下がっております。その後、徐々に地裁の事件が増えてまいりまして、昭和45年の改正の際には、見直し前には68.7%でありましたが、見直し後には、地裁の事件は51.6%に減少しております。その後、昭和57年の改正の際でありますが、地裁の事件は見直し前が59.7%であったものが、見直し後には38.7%になっております。その後、昭和57年以降、一たん地裁の事件が増えたこともございましたが、簡裁の事件が非常に増えているということもございまして、現時点においては、地裁の事件の割合は33.5%となっているところであります。この33.5%という数字は、この表の中では一番少ない数字になっております。こうしたことからしますと、従前の見直しの際の指標とはかなり違ったところがあろうかと考えられます。その次の資料9、10ですが、これはその当時の訴訟事件数を見たものであります。資料9を御覧いただきますと、従前見直しがされました昭和29年、45年、57年の直前の状況を御覧いただきますと、地裁の訴訟事件数については、新受事件がかなり増えてきているという状況が見られます。これと同時に、既済事件もある程度は増えておりますが、新受の伸びには追いつかない結果、未済事件も増加している状況にございます。これに対しまして、最近の状況でありますが、新受事件は増えてきておりますが、既済事件がそれを上回るようになってきておりまして、最近は、未済事件は減少傾向ということが言えるところであります。
地裁の審理期間の状況を示すものが、資料11です。資料11を御覧いただきますと、地裁の通常訴訟の平均審理期間は、10年前の平成3年が12.2か月であったものが、平成13年には8.5か月というようになってきております。このように、未済事件が減少しつつあるということ、それから平均審理期間も短縮傾向にあるということから、現在の地裁の事件処理状況というのは、総じて順調な状況にあるということが言えようかと思います。これに対しまして、簡易裁判所の状況でありますが、資料10を御覧いただきますと、これが昭和24年以降の簡易裁判所の訴訟事件数の推移であります。従前見直しがされたときには、昭和29年、45年、57年、総じて、簡易裁判所の事件数というのは、大体安定的に推移していたところであります。最近の状況としまして、平成2年以降でありますが、簡裁の事件が非常に増えてきている状況というのが御覧いただけるかと思います。これに併せまして、既済事件も増えておりますので、未済事件は横ばいとなっておりますが、かなり繁忙な状況というのがあるわけであります。これを御覧いただくのが資料12であります。現在、簡易裁判所におきましては、民事訴訟事件の増加に加えまして、資料12にございますとおり、赤い線の数字でありますが、民事調停事件もかなり増加してきているところであります。このほか、簡易裁判所で取り扱っている事件といたしまして、民事関係では、民事訴訟事件のほか、支払督促事件、これは当事者が裁判所の支払いを求める命令を求めて申立てをするわけでありまして、これは相手の言い分を聞かずに裁判所の方で一方的に支払いを命ずるものであります。これは、現時点で約56万件であります。そのほか、刑事事件の軽微なものについても担当しているところであります。加えまして、最近の特徴といたしまして、少額訴訟事件が新たに設けられましたところ、この少額訴訟事件も、かなり利用が伸びているということがございます。現時点では、平成13年には約1万4,000件の少額訴訟事件の申立てがあったところであります。少額訴訟事件は、原則として1回の期日で審理を集中的に行うわけでありますが、そのためには、書記官が事前に当事者に対しまして手続の流れを十分説明したり、あるいは必要な主張、あるいは訴訟の準備を促すなどしているわけでありまして、職員の方には、相当の負担が生じているところでございます。こうした状況からしますと、現在の90万円を基準とする事物管轄の定めは、簡易迅速に処理するにふさわしい少額軽微な事件を選別する基準として、概ね有効に機能しているということが言えようかと思います。
事物管轄の引上げにより簡易裁判所へシフトすると予想される事件数は、資料13の方であります。資料13を御覧いただきますと、まず右側に、それぞれの価額に応じて、現在地裁にどれだけの事件数が係属しているかというのを見ております。これが、事物管轄の見直しによって、どれだけ簡裁にシフトするというように考えられるのかということを見たものであります。例えて申しますと、左側の方の価額階級120万円のところを御覧いただきますと、120万円まで引上げがされるとしました場合に、現在地裁に係属している90万円から120万円までの事件が1万5,137件であります。これが簡裁に全部シフトするといたしますと、シフト後の地裁の事件数が13万4,837件で、これはシフト前の地裁の事件数と比較しますと、約89.9%でありまして、約1割の事件がシフトするということになります。同様に、150万円までの事件がシフトするといたしますと、シフトする事件が2万5,339件でありまして、シフト後の地裁の事件数は12万4,635件、シフト前の事件数と比較しますと約83.1%になる。こういう状況にございます。今申したような事件数が簡易裁判所へシフトすると予想されるところでありまして、先ほど来申し上げましたような、90万円を超える事件の質というものを考慮いたしますと、事物管轄の引上げにより、地方裁判所での審理がふさわしい事件が簡易裁判所に係属することになりますと、簡易裁判所の負担が著しく高まり、かえって簡易裁判所の長所が損なわれる可能性もあろうかというように考えられます。
それから、国民の簡易裁判所へのアクセスという観点からも検討が必要であります。国民の簡易裁判所へのアクセスという観点から見ますと、簡便な手続、方法による解決のニーズが高いにもかかわらず、現在の仕組に簡易裁判所の利用を妨げている点はないのかという面からの検討であります。これまでの事物管轄の改正の前後における第一審全体に占める簡易裁判所に申立て可能な事件の割合を見たものが資料14であります。そこで、資料14を御覧いただきますと、昭和29年に事物管轄が10万円に引き上げられた段階では、10万円以下の事件は、民事第一審全体の59%でありました。この割合が、経済動向の変動に応じて徐々に減少するわけでありまして、次の見直し前の昭和44年には、10万円以下の事件は34%まで減少したところであります。その後、昭和45年に10万円から30万円に事物管轄が引き上げられたわけでありまして、30万円以下の事件は、昭和45年では56%であります。したがいまして、56%の事件は、簡易裁判所に申立てが可能になったということであります。この数字が、また経済情勢の変動によって減少してまいりまして、昭和57年の段階では、43%まで減少しております。そこで、昭和57年に事物管轄が90万円に見直しがされたところでありまして、その見直しによりまして、90万円以下の事件は65%、すなわち約3分の2の事件については、簡易裁判所に申立てが可能になったわけであります。その後、90万円以下の占める割合というのが多少上下いたしますが、平成5年以降のところを御覧いただきますと、概ね62%、63%、64%で安定的に推移しているところでありまして、現時点においては、民事第一審全体の事件の63%が簡裁への申立てが可能という状況になります。これは、前回90万円への見直しがされた直後の状況とほとんど同じということが言えようかと思います。その意味では、簡易裁判所への申立てが可能な事件の割合という面から見ますと、アクセスの水準の低下というのは見られないということが言えようかと思います。また、少額訴訟手続は、先ほど申し上げましたとおり、導入以降大幅に利用者が増加したところでありますが、司法制度改革審議会の意見では、30万円以下の金銭請求事件という少額訴訟手続の訴額の上限を大幅に引き上げるべきであるという提言がされております。現在、具体的な見直しの額につきましては、法制審議会において検討が進められているところでありますが、これによりまして、金銭請求事件についての簡便な手続、方法による解決のニーズに応えていくことができるというように考えられます。更に、国民に身近な裁判所としての簡易裁判所の機能を充実させるという観点からは、このような訴額を基準としたアクセスの面だけではなく、国民の身近に生ずる事件であって、簡易裁判所が担うにふさわしいものがあるかという国民ニーズに基づいて、簡易裁判所・地方裁判所・家庭裁判所の全般的機能の在り方といった広い観点からの検討も必要ではないかと思われます。
最後になりますが、簡易裁判所は、国民に身近な少額軽微な事件を簡易な手続で迅速に解決する裁判所として創設されたものでありまして、裁判所といたしましては、今後とも、このような機能を活かし、国民にとって一層利用しやすいものとするための制度上の工夫を期待するとともに、運用上の工夫を重ねてまいりたいというように考えております。司法制度改革審議会意見では、「簡易裁判所の事物管轄について、経済指標の動向等を考慮し、訴額の上限を引き上げるべきである」とされているところでありますが、この引上げに当たりましては、簡易裁判所の機能と実情に見合った引上げ額を検討いただきますとともに、当検討会における簡易裁判所の機能の充実の検討に当たっては、国民にとって利用しやすい裁判所とするため、簡易裁判所がどのような役割を担うべきか、幅広い視点からの検討がなされることを期待しているところでございます。
長くなりましたが、以上でございます。
□ 全般的な意見の交換というのは最後に行いますので、この段階で、ただいまの最高裁判所の御意見に対する御質問がありましたらお聞きいたします。
○ お尋ねいたします。ただいま御説明いただきました中で、特に立替金、求償金、貸金等の事件でございますが、これにつきましては、それを処理するに当たって、例えば、第一審通常訴訟において90万以下のものまでについては1回当たりの裁判の審理の時間といいましょうか、それは平均してどれくらいのものでしょうか。
△ 今お尋ねいただいているのは、立替金・求償金、貸金に限って見た場合に、どのくらいの期間がかかるかということでしょうか。
○ 相当数を占めておりますので、全般的な統計でもよろしいのですが。
△ 全般的な統計につきましては、19ページの資料11を御覧いただきますと、簡易裁判所の事件全体になりますが、簡裁の通常事件の平均審理期間は、平成13年では2か月でございます。その表の右から2つ目の欄の一番下であります。それから、少額訴訟につきましては1.6か月という状況にございます。
○ すみません、質問の仕方が言葉が足りなかったんですが、1回当たり、当事者がどのくらいの時間をとってやっているかということです。
△ 1回当たりどのくらいの時間をとってやっているのかという御質問ですね。これはなかなか難しいんですが、立替金、求償金のような事件ですと、例えば、通常は、クレジットを使ったことがないという言い分であることは極めて少ないわけでありまして、今お金がないのでなかなか支払うことができない、ついては分割弁済であれば払うからそういう話し合いをしたいというような希望が述べられる方が多いわけであります。そうしますと、あとは、原告であるクレジット業者と被告である利用者との話し合いを裁判所の方で仲介するということになります。そうしたときに、それに一定の時間がかかる。それ以外に、そもそも欠席されるという場合もあります。その場合には、争いがないというようにみなして、原告の請求どおりの判決をするということになります。こうした事件はすぐ終わるということになります。
○ 本人が欠席した場合には、直ちに終わるということですね。
それから、簡易裁判所の利用者の欠席の理由の調査をなさったことがおありでしょうか。利用者の年齢構成などの御調査はなさったことはおありでしょうか。
△ 欠席の理由の調査というのはいたしておりませんが、事前に、今回は都合で欠席するという連絡がありましたときには、もう1回期日を入れるというようにしております。
○ 事前に断りがあった場合には、もう1回やるということですね。ただ、黙って休んだ場合には、権利放棄をしたとみなされるということですね。
△ そうですね。連絡なく欠席された場合には、原告のクレジット会社の言い分を認めたものとみなして、事件を終結して判決をするということになります。
○ それから、利用者の年齢構成ということは。
△ 年齢構成についての調査は、我々の方で統計はございません。
○ わかりました。ありがとうございました。
□ ほかに御質問はありますか。
○ 今のお話の最後の方で、簡易裁判所の機能ですが、その機能をどのようなレベルにしていくかということで、国民の身近に生ずる事件であって簡易裁判所が担うものか、そうでないものかどうかという国民のニーズに基づいてという観点が必要ということ、訴訟の価額の上限を引き上げるべきかどうかということも出ているようですけれども、要するに、今の経済社会の動きとの関連性というもの、つまり、これから経済社会がどういう展開を見せるのか。今までは泣き寝入りとか、第三者にお願いするのではなくて、どっちかというと、いきなりクレジット会社に行って直接に談判する。しかし、それでもうまくいかない場合に、第三者に期待するようになるのかどうか、よりみなさんが期待することになるのかどうかということですね。こういうビジネス社会が出てくるような問題を裁判所が積極的に取り上げていくのか、経済社会の前に非常にポジティブになっていくのか、そこの議論がちょっと弱いものだから、そこが非常に難しいと思うんです。私は経済の方しか見ていないので、司法制度そのものがどうというよりは、これから我々の生活にとって、これがどのくらい重要かどうかという、その議論がすごくきれいにしたいんですよ。それで、流れから見ると、だんだん大きくなるのかなという感じもするし、それが経済ビジネスの動きに応じているならば、それはおっしゃるように、過重な労働で過労になるほど働いて、スタッフの方が頑張るというのもちょっと変な話で、やはり、経済の動きにあわせて何らかの手数料を取れるとか、そういうふうにしないと、どこかでパンクしてしまうんですね。このまま放っておいていいものなのか、我々として、これからこういう第三者仲介による、いわゆる問題解決というものが、どのくらい21世紀に必要なのかなという感じがするんです。今までは示談だとか、当事者同士で何とかしているとか、そういうことだと思うんですけれども、やはりこれは必須のものであって、しかも、インフラだけれども、ある程度ニーズに応じるということではインフラではない部分、これは税金だったら青くなっちゃうという、むしろ、サービスのサプライも非常に限界がある可能性もあるわけで、使いやすい制度にするためには、ある程度料金的なものとか、受益者負担みたいなものをもっと入れた方がいいのではないかと思います。そこはどうでしょうか。
△ 地方裁判所と簡易裁判所の機能の違いということから、例えば利用者としてどういう違いを考えているかということを申しますと、先生がおっしゃいましたビジネスサイドのニーズというのはかなり金額が大きい事件で、なおかつ、専門的ないろいろな問題が中に含まれているような事件というのが多いのではないか。そういうものは地方裁判所で、しっかりした手続の中でやっていく。それもできるだけ迅速にやっていくということが必要だろうと思っています。これに対しまして、簡易裁判所というのは、あくまで簡易軽微な事件を迅速にやるという機能を有しているものですので、確かにこの事件の分布を見ますと、立替金、求償金、貸金ということが多いわけですが、現在我々が力を入れているものとしましては、少額訴訟をできるだけ利用しやすくしていくということが1つあります。それから、少額訴訟の運用を少額訴訟の現在対象になっていない事件、30万円以上の金銭請求ですとか、あるいは、金銭請求以外の事件についても、この少額訴訟のノウハウを適用して、できる限り1回で国民相互が出てこられて解決ができるようにしていこうという工夫をしているところであります。そういう意味で、我々が考えております簡裁の機能というのは、こうした国民の個人と個人の間に生ずるような事件を、今まで裁判所に来ていなかった方についてもできるだけ利用しやすくして、1回来られればそこで解決がつくような運用をしていきたいと思います。
○ そのくらいだと、あまり私なんかは利用する気になれないんですよ。つまり、その合間がすごく問題なのではないか。完全に個人、個人といっても、片一方は不動産屋だったり、片一方はやや強い立場にあって、片一方は弱い立場にあるとかで、個人間のことであれば、あまり利用する気になれない。
△ 個人間と申しましても、実際に少額訴訟などで申立てがある事件というのは、例えば、賃金不払いの事件のようなものもあるわけですね。それから、資金返還請求権とか、あるいは交通事故の損害賠償事件、こんなものもあります。それはビジネスそのものの企業と企業の非常に真剣勝負のような事件とはやはり異なるところがありまして、一方の方はいわゆる普通の市民または国民のような方がおられるわけでありまして、そこに簡易裁判所として、ある程度後見的な役割を果たしながら、できる限り妥当な解決を迅速に図っていきたいというところを工夫しているところであります。
○ 議論が何か細か過ぎるというか、今我々が向かっているのは新しい司法サービスである。それから、人材が増えてくる、司法サービスに生きようと思う方もだんだん増えてくる。やはり、もうちょっとどかんとした、日本が司法社会に近づく、そういうふうになっていくんですよというような、そういう大きなフレームが1個あって、その中で、我々が身近に感じる疑問とか問題というのを、気がついたときにどのくらい裁判所に提案できるかというところだと思うんだけれども、今のお話は、裁判所の方の側から何か議論を提起したように見えて、本当にユーザーが日頃問題として持っている、こんなときにこういうのを使えたらいいのにという問題と、ちょっとピタッと一致しないところがあるような感じなんですけれども。
○ 裁判所は、自分から事件を探してくることはできない。してはいけないんですね。ですから、裁判所はそういう御説明になるんでしょう。ですから、裁判所からの説明は説明として、我々の中でどう見ていくか。例えば、ここに面白い資料がありますね。資料9と10を比べますと、地裁の事件はだんだん伸びているんですね。地裁は利用者が増えている。簡裁は山がぽこぽことあるんですね。また、先ほどの利用者の調査のアンケートなんかは裁判所はしませんし、また、誰が利用するかなんていうことはいけないんでしょうね。そういうような議論が出てきます。
また、先ほどの委員の御質問は、司法制度改革推進本部にもう一つのどこかで、ADRという裁判所以外でいろいろ紛争を解決する、これは数がどんどん増えていくことは間違いないんですが、それと裁判所とどう結びつけるかというのが、また議論として出てきます。
△ 今委員から御指摘のありました資料10の簡裁の事件数が昭和58年に伸びて、その後落ちた一つの理由は、貸金業法の施行によりまして、当時問題になっておりました貸金関係の事件というのが、かなり規制されて減ったというところが一つの理由としてあろうかと思います。
○ その直前に急に伸びて、また減った。そして、またどんどん伸びるんですね。
△ 一つの理由がそれであるわけです。
□ それでは、3者から御説明を伺って、後でまた議論するということで。
次に、日本弁護士連合会からお願いします。
▲ 私は、名古屋という地方都市の弁護士会の会長をやっておりまして、日本弁護士連合会の副会長を兼務しております。お世話になっております。
資料7の「簡易裁判所の機能の充実に向けて−事物管轄の見直しの視点は何か」というペーパーを基にお話ししていきたいと思います。今、最高裁の方からは、統計的な数字が目の前にちらちらするお話でしたので、私からは、実際の裁判の流れについてお話をしたいと思います。しかも、簡裁の理念を語るときには、簡裁のことだけを語ったのでは、実はよくわからない。地方裁判所とどう違うのか、地方裁判所の裁判の在り方はどうなのかということを片方に置きながら、あるいは、そのほかのADRとか調停とか、いろいろな紛争解決機関があるわけですから、その全体の中で、訴訟事件について実際に簡裁にどういう機能を与えられているのか、そこをお話ししたいと思います。
まず、簡裁の理念でございます。これは、先ほどの最高裁のプレゼンにございました、少額軽微な事件を簡易手続により迅速に判断を下そうということでして、民事訴訟法の第270条にその旨の規定がございます。裁判を受ける権利というのが、憲法に書いてあります。しかし、裁判を受ける権利といいましても、これは、憲法上は事件の軽重によって本来差はないわけでありますけれども、すべての事件に厳格かつ精緻な手続を採用しますと、少額軽微な事件には、権利の実現に多大な時間と労力を要することになってしまいます。結果としては、権利の実現をあきらめざるを得ないことになるわけでございます。そういうことから、少額軽微な事件に簡易に利用できる手続としての簡易裁判所ができているわけであります。
では、実際に地裁と簡裁でどの程度取扱いが違うのかであります。これは、市民の方々から見ますと、訴訟事件の地裁の法廷を実際に御覧になっていただかないとわからないだろうと思います。一度この検討会でも、そういう企画を設けていただけると、簡裁との違いというのがよくわかっていいのではないかと思います。訴訟事件では、民事訴訟法上は弁論主義をとっております。弁論主義というのは、文字どおり弁論すると書いてあるんですけれども、実際には、訴訟事件は、地裁では書面化されたもので進行しています。訴状、答弁書、これも書面で用意いたしますし、その後の主張、お互いの争点をかみ合わせるための書面、これも準備書面とし、あるいは、証拠の申請も書面として用意いたします。訴状一つとりましても、請求の原因、要件事実とか関連事実という概念がございますが、そういう民事訴訟法に基づく概念に基づいて記載しなければなりませんし、答弁書においても、請求原因に対する認否とともに抗弁を記載しなければいけない。いわば、法律知識や訴訟技術を持った者でないと、なかなかその作成は難しいというのが現実でございます。訴状、答弁書、準備書面の交換によって次第に争点が整理されてくる。不明な点は裁判官から釈明され、争点の整理が終わりますと、その争点に絞った証拠調べが行われるわけでありまして、通常は、証人尋問、当事者尋問を経て、判決となるわけであります。欠席判決など、争わない事件は別として、争点の比較的少ない標準的な事件を集中審理、これは民事訴訟法が改正されたとき以来私たちが活用している手続ですが、この集中審理によった場合、口頭弁論、弁論準備、あるいは証人尋問などで、第1回期日から判決まで、標準的にいうと10か月から1年ぐらい、時として、争点が多くて多数の人証を調べなければならないものになりますと2年以上かかるのが実情であろうと思います。こういった事件を担当しています裁判官は、法曹資格を有する経験10年以上の判事であります。今は経験5年の特例判事補もそれに加わっております。また、訴訟代理人も、原則として弁護士に限られる。理論的には本人訴訟も可能でございますけれども、訴訟技術を知らない市民の方には、現実にはなかなか不可能に近い状態でございます。
これに対して、簡易裁判所では、口頭での提訴を可能としております。答弁書や準備書面などの書面提出は義務付けられておりません。それから、請求の原因や抗弁など、法律構成をしなくても、紛争の要点を明らかにすれば足りるわけでありまして、法律的な知識や訴訟技術がなくても対応できる。そして、簡裁の実際の実務におきましては、貸金、売掛金、敷金返還など、事件の種類ごとの典型的な訴状が窓口に用意されておりまして、裁判所書記官の説明を受けて、当事者が所定の事項にレ点を打ったり、金額を記入するだけで訴状が完成できる扱いがされております。また、簡裁事件を担当する裁判官は、法律の素養は必要でございますけれども、必ずしも法曹である必要はないものとされています。多くは、書記官経験者からの特別選考によって任命された方であります。代理人も、許可があれば、弁護士以外の会社の使用人や家族でもなることができる。そして、先ほど、簡裁での審理についての審理期間の話が出ましたけれども、多くの法廷では、法廷の一番高いところに裁判官が座っておりますが、その壇の下に司法委員が立会しております。司法委員は5人も6人もその下に立会して、事件ごとにその司法委員に次々と割り当てをし、もし争いがなくて、あるいは和解ができるという事案については、その場ですぐ別室へ行かせて、別室で和解を進めさせるというようなことをやっております。判決も、地裁判決は非常に精緻なものであり、裁判官が裁判官としての精魂を込めて書いておられるわけでありますが、簡裁の判決というのは、要旨で足りるということになっておりまして、非常に簡易なものになっております。簡裁では、もともと争点の少ない事件を対象として考えています。争点が多くて厳格な証拠調べを要するようなものについては、仮にそれが90万円以下でありましても、申立てまたは職権で、地裁に裁量移送いたしますし、不動産訴訟については、そもそも申立てによって必要的に地裁に移送するという手続をします。統計上も、弁論の開かれる平均回数は、先ほどの最高裁の資料2にございましたが、1.5回、証人や本人の尋問数も0.5人で終わっているわけであります。地裁が法律の要件に従って事実を整理し、立証するという高度な訴訟技術を要する厳格かつ精緻な手続で解決を図るのに対して、簡裁は、軽微な事件について、市民自ら出頭して権利の実現を図ることができる「民衆の駆け込み寺」ともいうべき裁判所というふうに位置付けられているわけであります。そして、簡裁に自ら出頭して権利を実現しようとする市民をサポートするために、市民に身近な法律家と標榜されます司法書士の皆さん方にも、簡裁の代理権が認められたわけであります。
審議会の意見書では、その24ページと25ページ、簡裁の機能の充実の一項として、簡裁の管轄の拡大、少額訴訟手続の上限の大幅引上げを指摘しております。簡裁の機能の充実を検討するに当たっても、このような簡裁の理念を損なうようなものであってはならないというふうに、日本弁護士連合会は考えているわけでございます。
簡裁の事物管轄の問題に少し論点を絞って申し上げます。これまでの簡裁の事物管轄の上限の引上げの経緯と考え方でございますが、幾らにするのが妥当なのかということ、要するに、手続の利用者にとって、幾らをもって少額軽微な事件として、このような簡易迅速な手続に乗せるのがいいのかという問題でございます。市民にとって、厳格精緻な手続ではなくて、簡易迅速な簡易裁判所の手続の中で解決するような紛争は幾らぐらいまでのものが妥当なのか。しかも、それは市民の感覚で見てどうなのかというところが重要であろうかと思います。昭和22年の発足当時に5,000円からスタートしました。当時の総理大臣の月俸は2万5,000円であったそうで、その5分の1の金額でスタートいたしました。昭和45年に30万円になりましたけれども、このときには、当時の三ヶ月法務大臣は、後に民訴法の論文の中で、この30万円という金額は、中の上のサラリーマンの月給の金額である、だから30万円程度が妥当としたと書いております。昭和45年当時、30万円になったときの事件比率は、簡裁が39.8%、地裁が60.2%でございました。これは、最高裁の先ほどの資料8に載っております。昭和57年に90万円になったときの事件比率は、簡裁が48.7%、地裁が51.3%。現在までの経緯は、発足以来の簡裁の理念を変えることなく、物価上昇等を勘案して、また、地裁の事件比率が50%を超えたようなときに行われてきたというのが、過去の経緯だというふうに伺っております。
司法制度改革審議会の意見書によっては2つのことを書いております。
事物管轄については、経済指標の動向等を考慮し訴額の上限を引き上げるべきと書いてあります。もう一つの項目において、少額訴訟手続の訴額の上限、これは30万円が上限ですが、こちらは「大幅に」引き上げるべきという書き方をしております。前段の説明では、昭和57年の裁判所法改正によって現在の金額が決まったけれども、軽微な事件を簡易迅速に解決することを目的とし、国民により身近な簡易裁判所の特質を十分に活かして、裁判所へのアクセスを容易にするという観点から、簡裁の事物管轄については、経済指標の動向等を考慮し、その上限を引き上げるべきというふうに書いています。私は、この意見書の立場というのは、従来からの簡裁の基本的な性格を維持しつつ、これまでの改定と同趣旨で、経済指標の動向等を考慮して訴額の上限を引き上げるべきと結論付けているというふうに読むべきではないかと思います。
次に、簡裁の現状と改革への試みについてお話したいと思います。以上のような簡裁の理念にもかかわらず、現状は、決して、一般市民が気軽に利用できる紛争解決機関になってはいないのが現状でございます。委員の方々は、少額訴訟の傍聴に行かれたと聞いておりますけれども、隣で、おそらく通常訴訟の法廷をやっておりましたので、本当は、そのときに通常訴訟の法廷を見ていただくとよかった。現状は、消費者金融、信販事件が急増しておりまして、その事件の7、8割方がその種の事件でございます。都心部では、簡裁の事務量の相当部分がその処理に充てられておりまして、一般市民が気軽に利用できる紛争解決機関という簡裁の本来的な機能は大きく後退していると言わざるを得ない状況でございます。私自身は調停委員をやっておりますので、ときどき簡裁へ行きますけれども、法廷をのぞきますと、消費者金融、信販業者が原告の事件が黒板にびっしりと書いてあります。それが実態でございます。このような現状を改善する方策として、平成10年に施行されました新民事訴訟法では、訴額30万円以下の金銭請求につき、1期日により解決を目指す少額訴訟、それから、これは皆さん余り御存じないかもしれませんが、事業者の利用を1年間に10回限りに制限するといった手続を設けています。これは、日弁連が提案した制度でありまして、本当に簡易裁判所を市民のものとするには、こういった思い切った改革をしなければいけないということで、この少額訴訟を提案し、それが制度化されたわけでございます。それについては一定の評価を受け、また、更に運用上それの工夫を訴額30万円の少額訴訟以上にも広げる試みが、東京簡裁をはじめ大規模簡裁で、準少額訴訟として今動いております。しかし、まだその運用は緒についたばかりでありまして、その運用を伸ばしていくには、まだまだ相当の努力がいると思います。
また、法制審の今回の民事訴訟法改正要綱中間試案の中では、少額訴訟の上限の大幅引上げを提案されております。日弁連も、簡裁の改革の一方策として、その引上げに前向きに検討しておりますけれども、簡裁の本来的機能を回復させるための少額訴訟の上限の引上げ、つまり、一般の市民を簡裁にいかに呼び戻すかという問題と、事物管轄の上限引上げ、つまり、地裁と簡裁で簡裁の簡易迅速な手続にどのくらいの大きさの事件を担当させるといいかという問題とは、全く理念を異にした問題です。一方が仮に倍になったときに、一方が同じ倍率になるとか、スライドさせると片方が1.5になるから片方が1.5になるという問題ではない。それぞれ違った理念から考えられるべき問題だというふうに思います。簡裁が一般市民にとって気軽に利用できる紛争解決機関としての機能を回復することこそ、意見書の言う簡裁の機能の充実であると、日弁連は考えております。そして、その改革を進めるためには、早期の審理完了を目指すための事前の問い合わせ、主張整理、争点整理、それに必要な書記官や裁判官など人的、物的整備が求められていると思います。
もし、事物管轄の訴額の上限が大幅に引き上げられたということになった場合に、どのような事態が生ずるかということを想定してみました。現在、先ほども言いましたように、一般市民事件を少額訴訟あるいは準少額訴訟、あるいは少額訴訟の上限の引上げによって、簡易裁判所の職分としてその部分を育てていこうとしている、今始まったばかりのこの計画が大きく狂ってくるのではないかというふうに、私は思います。簡裁の通常事件の審理件数は、平成元年から13年まで11万件から30万件、約3倍に増えております。簡裁、地裁の事件比率も49.2%対50.8%から、現在では66.5対33.5と、簡裁の負担に偏っている現状でございます。このような現状の中で大幅な引上げを行いますと、先ほどのシフト率の表がございましたが、簡裁の事務量の増加となり、簡裁の本来的な機能を取り戻そうとしている私たちの試みは挫折するのではないかという危惧をしております。簡裁判事の定員は、平成元年以来806名のまま増員されておりませんし、簡裁の数も全国438か所にとどまっている。事件増に見合った人的、物的な手当が求められると思います。そもそも、なぜ,高額な事件まで簡裁に担わせることが必要なのか、その合理的な根拠もコンセンサスも、私は得られていないというふうに思います。高額な事件は、法律上の争点も多いわけであります。必然的に、証拠調べも厳格なものであるべきです。簡裁の軽微な事件を簡易迅速に処理するという機能と相入れないものがございます。その意味におきまして、90万という金額が一般市民にとってどういう金額なのかということを、もう一度お考えいただきたいと思います。確かに、迅速に解決することは大切であります。私たちは、地方裁判所の事件についても、集中審理等の試みによって迅速に解決する試みをやっておりますけれども、要は、地方裁判所で厳格な証拠調べ、裁判官の強力な和解勧告、そういったものを武器にして権利実現をしなければいけない事案と、そういうことをしなくても、少額ですから適当なところでともかく迅速に解決していくのがいいというふうに判断すべき事案と、そこのボーダーラインをどこにするか、そして、市民の皆さん方にとって、90万円という金額がどういう金額なのか、普通の勤労者にとって2か月、3か月分の給料になるわけですけれども、その金額がどういう金額なのかということをよくお考えいただきたいと思うところであります。もう1点、上限の引上げがされた場合に、法律上の争点も多く、厳格な証拠調べを必要とする商工ローンを原告とする事件が簡裁に持ち込まれるという問題を、私たちは非常に心配しております。先ほど、クレジット事件、あるいは貸金事件で90万円未満の事件というのは、証拠があって、そんなに争いはない事件が多かろうと言われました。そういう部分もあると思います。商工ローンが原告となる事件になりますと、これは、保証人が必ずついています。保証意思があったかどうかという認定、実はこれは事実認定として非常に難しいケースが多いわけです。形式上印鑑がある、形式上署名はある、だけども、それはだまされた、あるいは、他人が書いたものである、本当に保証意思があったかどうか、こういうような事件については、果たして、先ほど私が説明しましたような簡易迅速な手続で、事実認定ができるのでしょうか。あるいは、利限法の引き直しで相当大きく金額が違ってくるような事案では、法曹資格を持った裁判官が和解を勧告したり、証拠調べをした上で和解勧告をするのでは、その説得力が相当違うのではないでしょうか。更に、このような商工ローン関係の事件になりますと、倫理を含めた能力担保の裏付けのない業者の従業員が、裁判所の許可を得て法廷で活動するようになる。被告である一般市民の権利保障に重大な懸念を生ずるのではないかというふうに考えております。
以上のとおり、簡裁の機能の充実は、簡裁が簡易な手続により迅速に紛争を解決するという、簡裁の理念を損なわない形で行っていただきたい。そして、とりわけ、事物管轄の訴額の上限の引き上げは、慎重に、くれぐれも慎重にしていただきたい。それが日弁連の思いでございます。お願いでございます。
□ 全体の意見交換は後でやりますので、続けて、日本司法書士会連合会からお願いします。
▽ 日本司法書士会連合会の会長をしております。今日はこのような機会をいただき、ありがとうございます。私ども、この検討会において、国民の裁判所へのアクセスという観点から検討がされることに敬意を表しますとともに、期待を持っているところでございます。と申しますのは、私どもは、この度の司法書士法改正によりまして、簡易裁判所における訴訟代理権を付与されることになりました。そしてまた、法律相談も併せて行えるようになったわけです。これは、国民の司法へのアクセスの希薄さから、司法書士が少しでも力を尽くせというような要請があったからだと思っているところです。このような観点から、今日は、簡易裁判所の役割等について意見を述べさせていただきたいと思います。資料2の1ページと2ページが私の発言の要旨でございます。お目通しいただきたいと思います。
司法制度改革審議会意見書では、簡易裁判所の機能の充実に関し、「軽微な事件を簡易迅速に解決することを目的とし、国民により身近な簡易裁判所の特質を十分に活かし、裁判所へのアクセスを容易にするとの観点から、簡易裁判所の事物管轄については、経済指標の動向等を考慮しつつ、その訴額の上限を引き上げるべきである。」
また、少額訴訟手続につき、「国民がこの手続をより多く利用しうるようにする見地から、少額訴訟手続の対象事件の範囲については、それを定める訴額の上限を大幅に引き上げるべきである。」との提言がなされています。現に裁判所に提出する訴訟関係書類の作成業務を通して、国民の裁判を受ける権利に一定の役割を果たしている司法書士の立場から、この提言に盛られたキーワードを検証し、当連合会の意見を明確にしたいと思っています。
まず、「簡易迅速に解決」についてですが、紛争解決の方法は裁判が主体となりますが、その中で、国民に身近で軽微な紛争については、簡易かつ迅速に解決することが特に望まれています。また、この場合の簡易とは、訴訟手続そのものを指すと同時に、裁判所へ気軽に行けるという観点を含むものでなければならないと思っています。次に、「国民により身近な簡易裁判所の特質を充分に活かし」についてですが、裁判所と国民との距離が離れていると言われる中で、簡易裁判所は、多くの特則を設けることにより、すみやかに紛争を解決できる諸策がなされており、比較的国民の身近にあるということができます。この機能をさらに充実すべきであるということを示していると考えております。そして、「裁判所へのアクセスを容易にする」については、簡易裁判所を一層利用しやすくし、国民の司法へのアクセスを拡充するということを意味していると思っております。以上のような認識の下に、簡易裁判所の事物管轄の引上げが提言されたものと理解いたしております。
これまでの簡易裁判所の事物管轄引上げについては、訴訟物の上限を5,000円としてスタートした簡易裁判所の創設以来、一定期間を経て、事物管轄の引上げが繰り返されました。これら、過去の事物管轄の引上げの背景、理由は、概ね物価水準等の経済指標に連動させることと、本来簡易裁判所で審理されるべき事件が地方裁判所にまわっているということから、上級審の負担軽減という2点に集約できますが、今般の事物管轄引上げ論議とは、相当背景が異なっているといえるのではないかと考えています。したがって、今回の事物管轄の引上げを考えるにあたりましては、「簡易裁判所をさらに国民に身近なものとして広く利用するため」という視点が必須の要件であると考えるわけです。簡易裁判所と地方裁判所を比較したとき、簡易裁判所には、以下のような特色があると思います。簡易裁判所は、地方裁判所に比して地域に広く分布しており、国民がアクセスしやすい市民の裁判所として、まさに国民に近接する裁判所として位置付けられています。また、手続が簡便であり、審理そのものも利用者に理解しやすく、本人による裁判も追行しやすい等の特性があります。迅速な審理についても司法改革の大きな論点とされていますが、平成12年の簡易裁判所における第一審通常訴訟平均審理期間は2.1か月であり、8.8か月の地方裁判所と比較すると、4分の1弱の期間で審理がなされています。調停委員・司法委員制度により、市民参加による解決が期待され、現に相当の効果を挙げています。また、少額訴訟手続、特定調停制度の導入等により、着実に国民の利便性は向上していると思います。簡易裁判所の事物管轄の見直しについては、このような簡易裁判所の特質を積極的に活用すること、言い換えれば、国民の簡易裁判所へのアクセスを拡充するという観点で検討されるべきであります。
ところで、簡易裁判所の事物管轄の引上げについては、先ほども御意見がありましたように、慎重な見解も伺えます。現状の簡易裁判所は、クレジット・サラ金業者等の債権回収事件が大半を占めており、このうえ簡易裁判所の管轄を広げれば、商工ローン等の今まで地方裁判所で審理されていた業者事件が簡易裁判所にまわり、簡易裁判所が市民のための裁判所でなく、業者が取立てを行うための裁判所になるのではないかというようなことを危惧する意見であろうかと思います。クレジット・サラ金や商工ローン等の債権回収につきましても、裁判によって解決しようとすることは当然であります。しかしながら、その多くは、事実関係がそれほど複雑でないため、原告は、会社の支配人等の弁護士でない者が出廷し、一方、被告は、事実関係に争いがないため、法律専門家が関与していないことが多いということが、私どもの経験で見受けられます。そのために審理が停滞したり、あるいは攻撃防御方法が充分に尽くされていない面があります。この傾向は、簡易裁判所であろうと地方裁判所であろうと同様であると思うわけです。当事者が法律専門家を積極的に活用できる環境が必要であり、危惧される問題の所在は、事物管轄、裁判所の管轄にあるのではないと思ってるところです。今後、司法書士は、書類作成援助に加えて、簡易裁判所の訴訟代理人となれることから、その専門家として役目を果たすべく、また、問題点を解決するように努め、国民が法律専門家へアクセスしやすい環境を充実していくことが大きな使命だと思っているところでもございます。
また、その検討にあたりましては、少額訴訟制度の関連も考慮されなければならないと思います。司法制度改革審議会では、簡易裁判所で取り扱う少額訴訟制度について、その訴額を大幅に引き上げる提言がなされており、司法書士会では、これまで、その普及や手続の支援を全国的に心がけて参りましたが、新たに本年7月1日から、全国50の司法書士会が「少額裁判サポートセンター」、これは30万円までに限りませんが、国民が少額と思うものに対して、相談をはじめ裁判手続に関わる支援事業を開始しました。少額訴訟制度は迅速、低廉、簡易な面から、金銭の支払い請求に関わる紛争事件については非常に効果的な制度であると思っています。そこで、司法制度改革審議会の提言のとおり、対象事件の範囲内で訴額を増額させる等、さらに制度を充実させ、制度の利用を広めることにより、一層の有効性を高める必要があると考えています。現実に、東京、大阪の簡易裁判所では、30万円以上の事件であっても、市民紛争型事件の一部については、少額訴訟手続に準じた取扱いがなされるケースがあり、その評価をみれば、簡易裁判所で取り扱うべき事件は、今以上にあると思われます。そして、通常訴訟と少額訴訟を有効に機能させることによって、国民に身近な、頼りがいのある簡易裁判所として、一層の充実を図っていくべきだと思っています。
司法書士のことを申し上げますが、司法書士は弁護士に比べて全国にあまねく存在しております。本人訴訟を支援してきた実績や、クレジット・サラ金などの借入を原因とする多重債務などの消費者問題、あるいは成年後見制度などにもかかわりの実績を有しております。また、平成12年10月以降、民事法律扶助事業の書類作成にも積極的にかかわってまいりました。先の司法書士法改正によって、来年4月以降、司法書士の簡易裁判所における代理活動が実現することになりました。今次の法改正を実質化するため、訴訟代理を担う司法書士がくまなく全国に存在するよう、信頼性の高い能力担保措置をはじめ、多くの課題に、今、鋭意取り組んでいるところであります。ちなみに、現時点では、全国に司法書士は1万7,000有余いますけれども、その会員のうち7割近くの会員が簡易裁判所における訴訟代理を担う姿勢を強く示しているところであります。来年4月以降には、能力担保措置をクリアした相当程度の司法書士が簡易裁判所における代理活動を行えるものと、私たち自身も大きく期待しているところであります。とりわけ弁護士による簡易裁判所での代理活動が希薄化している現状をかんがみますと、不足していると言われる専門家の関与という観点から、司法書士が関与することにより解消することができ、また、それにより、簡易裁判所の円滑な運営や機能向上に寄与することができるものと思っているところであります。
終わりになりますけれども、市民の裁判所としてのこれからの簡易裁判所のあるべき姿について、少し意見を述べさせていただきます。現に、近くに存在し、アクセスが容易であり、しかも、事件の内容や性質から簡易裁判所での解決がふさわしいと思われる場合でも、請求金額などの関係から地方裁判所で扱われる事件が存在します。簡易裁判所と地方裁判所は、利用者である国民が裁判所という門戸を叩く際の最初の裁判所であります。請求金額などにより簡易裁判所または地方裁判所に訴えの審理を振り分けられる以上、利用する国民の視点から、簡易裁判所と地方裁判所のどちらにアクセスしやすいかという客観的評価も、訴額の引上げに当たり重要な要素だと思います。このような検討が、国民の司法への信頼につながるものと考えます。また、そのための環境整備をすることが喫緊の課題であるとも言えます。自己責任による事後監視、救済型社会への変革を迫られている現下の日本において、本人訴訟はある意味では自己責任の究極の形態でもあると言えると思います。そのためにも、「市民の駆け込み寺」としての簡易裁判所の機能を深め、誰でも、より積極的に当事者が主体として訴訟に関与できるよう検討を行うことも重要だと考えている次第であります。更に、より発展的に簡易裁判所の役割を考えるとき、個別具体的な紛争が重装備の本格的訴訟でなければ解決できないのか、または訴訟要件を緩和した簡易裁判所でも対応できるものなのかを訴えの提起などの初期の段階で選択できるような裁判手続を、大胆かもしれませんが、積極的に構想していくことも必要ではないかと考えている次第であります。この発言の前提には、簡易裁判所の人員や制度を拡充し、飛躍的に向上させる努力をすることが大前提であるということを申し述べて、私の意見とさせていただきます。よろしくお願いします。
□ どうもありがとうございました。それでは、意見交換の方に移りたいと思います。今の御説明を受けて委員内部での討論ということですが、今までの御説明は、我々に与えられた課題が事物管轄の拡大をすべきかどうかということにあるものですから、どうもそこに傾斜しておりますが、「簡易裁判所の機能の充実」というのが今日の我々の議題ですので、事物管轄にとられわることなく、機能の充実全般について御意見を交換していただければと思っております。今日すべてを決めるわけではなく、まだ機会はありますが、今日の段階での意見交換が充実したものになっていただければと思っております。どなたからでもどうぞ。
○ 簡易裁判所を利用しやすくするための環境整備全般という観点からですが、先ほど司法書士会連合会の方から御報告がありましたが、少額裁判サポートセンターというのが今月1日から発足したということがレジュメの方に御紹介がありますし、新聞記事の資料なども机上に配布されているようですけれども、これについてちょっと伺いたいんですが、「少額裁判サポート」ということですと、30万円以下の相談、事件に限っておられるのかどうかということが第1点です。それから、今月始まったばかりということですので、まだそれほど統計などもとられていないかと存じますが、今の時点でわかっている相談者の数など、おわかりでしたらお教えいただきたいのですが。
▽ 「少額裁判」で、「少額訴訟」とうたっておりません。したがいまして、利用者の方が、自分の生活に直結する事件につきましては、「少額裁判」として、私どもが相談や手続支援を行っているものであります。この対応は恒常的に行っておりましたけれども、今後は組織としてきちっと全国単位会にそれを設置したいということで、7月1日から開始したわけであります。ですから、7月1日以降についてはまだ把握しておりませんけれども、それ以前より、継続的に相談、支援等を行ってきたところであり、かなりの件数がありますが、申し訳ありません、今日は数字を持ち合わせておりません。
○ ありがとうございました。
○ お三方の御説明をお伺いしまして、先ほど私が質問させていただい理由を述べさせていただきたいと思います。まず、次々と持ち込まれてくるクレジット、サラ金関係のトラブルに関します審理といいましょうか、それに要する時間というのが、私もそんなにたくさんの傍聴経験を持つものではございませんけれども、拝見しておりますと、目まぐるしく、人々がそこでただ文書のやりとりと、本当に二言三言発するだけで、件数が多いためか、次の方、次の方というような形で次々と進められていく状況にびっくりした次第なんですが、そういう状況といいますのが、事前の証拠調べですとか、あるいは事務的な準備で補われていればよろしいんですけれども、果たして金利が正当なものであったのかどうかとか、いろいろな意味での的確な判断が、大変口幅ったい言い方でございますけれども、できるのかどうか疑問を持った次第なんですね。そういうことから、時間が長ければそれでよしということにはならないと思いますけれども、現状においてもこれだけ大変な労働を強いられておられる裁判所の皆様方は、労働という視点から言えば、そういうことになるかと思いますけれども、一方、受けさせていただく市民の側からしますと、どうも十分飲み込めているのかどうかわからないままに、はい次の人というように、自分の審理は終わってしまうというようなことになってはいないだろうかということを懸念いたします。したがいまして、簡易裁判所がクレジット、サラ金問題だけをやっておられるわけではございませんけれども、庶民の身近な裁判を扱っていただくところとして考えた場合に、現状においても大変心配な状況がありますので、これで事物管轄を拡大いたしまして、更に仕事量が増えてきたりいたしますと、果たして一体その中で質は保てるのかということを心配いたします。それが質問させていただいたまず第1の理由でございます。それから、年齢的な調査など、利用者の調査をなさったことがあるかということは、別にプライバシーにかかわる問題をそこで調べるということではなくて、あのように目まぐるしく展開されてまいりますと、実は、消費者トラブルは高齢化が進んできておりまして、果たしてこの場合のユニバーサルデザインという発想を導入することがふさわしいかどうかわかりませんが、高齢者があの場に臨んだときに、その内容を把握しきれるかどうか、あるいは、例えば、耳に障害がある方なども同様かと思いますけれども、とにかくテンポが早いし、私どものような一般の市民があのような場に臨んでおりまして、それほど高齢ではございませんが、それでも早いと思ったぐらいでございますので、高齢のトラブルを抱えている方、やや判断がしにくくなっている方なども同様かと思いますが、そちらに臨まれた場合にいかがなものかということも感じた次第です。したがいまして、欠席が多いということが、行っても何もわからないから行かないというようなことであるならば、これは大いに問題にしなければならないですし、そうではない理由であるなら、これはまた内容分析をしていかなければいけないのではないかということを、市民の身近な裁判所としての簡易裁判所の機能の充実という視点から疑問に思ったので質問させていただきました。
少額訴訟についてもよろしいでしょうか。今までも大変大きな役割を果してきているし、利用度も高いということで、額の見直しなども検討されて、それは然るべきではないかと思うんですけれども、気軽さ、便利さということでしっかりとした手続がとられないようなことになりますと、これはまた積み残していく問題というのが心配されるところでございます。したがいまして、少額訴訟の在り方というのも同時に考えながら、現状の要望をそこにどのように加味するかということを、関係者、例えば弁護士さんや司法書士さんの方々で過去にいろいろ手掛けておられる方のお話なども十分に伺い、そしてまた、実際に起こっている事例からの判断も加味されるべきではないかということを印象として持っております。
以上でございます。
○ 今、委員が言われたところの趣旨に反対するわけではありませんが、一言述べさせてください。簡易裁判所がたくさんの事件を扱っているのはそのとおりでして、傍聴されていて、目まぐるしく入れ替わり立ち替わりというのはそのとおりだろうと思います。ただ、裁判所は、そのとき事件を初めて見るわけではなくて、訴状が提出された段階から内容を必ずチェックしておりますから、法廷だけでその場限りの審理が行われるわけではなくて、十分な準備をしているわけです。それが第1点です。2点目は、例えば、借りたお金を返せという訴訟で、被告が出頭して、借りた覚えはないとか、一定の言い分があるときに、その後の事件も控えていますので、その場で長々と事情を聞く十分な時間をとれない場合もありますが、その場合は、例えば、別室に司法委員等が控えていて、そこで事情を述べてもらい、後で裁判官がもう一度確認してその後の手続を進めるなど、その事件にふさわしい審理の仕方をしているはずです。傍聴席から見ていただいて、書面のやりとりや、「陳述します」という当事者の発言等だけからはわかりにくいかもしれませんけれども、裁判所は、後見的な配慮も含めた相応の準備を必ずしております。先ほどの質問にまたつながるんですけれども、1件当たりの時間というのは、平均を出すのはほとんど意味がないんですね。20〜30秒程度で終わるような事件もありますし、1件当たり第1回の期日だけで30分、40分かけている、あるいはもっとかけている事件もあるんだろうと思います。こういう全体の中で裁判所がどういう役割を果たしていくかというようなところを考えていただけたらいいと思います。
付け加えて感想を述べさせていただきますと、簡裁事件においてサラ金、クレジット事件が多いというのはそのとおりなんですが、これは、むしろ悪いことではないと思うんですね。裁判所を経由しないで取立てが変な形で行われるよりは、裁判所の中で公明正大に権利を主張し、そして相手方が争う機会も制度として保障されているわけですから、これは悪いことではないと思うんです。ただ、こういう事件が多いということの裏返しの問題として、本来簡易裁判所を利用して法律問題の紛争を解決したい国民、市民の方が、いろいろアクセスの問題で必ずしも十分に利用しきれていないという実情があるのかどうか、これがどれくらいの割合であるのかということの方が問題でして、そちらの方向からの検討をすべきではないかと思います。その場合に、実際どういう事件が簡裁にふさわしいのかということも含めて、いろいろな委員の方の御意見を伺って、その中でこの事物管轄の問題も考えていくといいと思いますので、そういった観点から、いろいろな情報提供をしていただきたいと思います。
以上です。
○ 先ほど事物管轄の話が出ましたけれども、今日は、具体的なそういう話ではなくて、もっと簡易裁判所の機能の充実という観点から何か検討すべきことはあるかというようなことだったと思います。そこで、先ほど委員がおっしゃったように、今の簡易裁判所で行っている少額訴訟の手続等について、利用しにくに面があるとか、不満があるということであれば、我々も、そういう制度の設計を担当する立場から伺っておきたいなということでございます。
実は、簡易裁判所というのは、改めてこの場に来ていろいろお話を聞いていると、いろいろなメニューが用意されているなというのを非常に痛感しました。簡易裁判所全体としては、勿論、通常手続で訴訟をやるという制度もあるわけですが、少額訴訟という制度があり、更に、今、法制審議会でもテーマに上がっています少額審判という新しい制度を検討したらどうかということも言われております。それ以外にも、運用面で考慮されている準少額手続といいますか、こういう制度が運用されている。それ以外にも、支払督促があり、即決和解があり、特定調停、民事調停と、いろいろな制度があるんですね。恐らく、市民からのアクセスという観点から見ると、いきなり簡易裁判所に行ってお金を取り返したいというときに、今申し上げたようないろいろな制度があって、果たしてそれをどういう立場になる人がどういう状況の下でどれを利用するのが最もいいかと、こういうあたりのサービスといいますか、広報的なPR活動であるとか、窓口でのPRとか、そういうのもやはり、恐らくアクセスという観点からは考える必要があるだろう。そういうあたりを、運用面、サービス面を含めて、少し考えていく必要があるのかなと思います。
○ 事物管轄に関する意見の表明なんですけれども、先ほど、今日の議題にはふさわしくないということだったのかもしれませんけれども、御意見をお三方からいただいたのがすべてそれに関するものでありましたので、意見なり感想を申し上げたいんですけれども。
いずれにしても、訴訟の件数というのは、飛躍的に増えていくのははっきりしている。今まで、闇解決、裏解決であったものが、透明な解決を目指していくであろうと。司法書士の皆様にもいろいろと相談に乗っていただいて、こういうふうに解決していこうというふうになっていくのが目に見えていると思うんですが、いよいよ訴訟が増えていく。先ほど顧問会議のアピールにありましたように、どんなに複雑な事件でも2年以内で解決だと。それから、司法制度改革審議会の意見書にもありますように、今までの半分でやっていこう、1年でやっているのは6か月でやっていこうということになるわけですから、司法にかかる負荷というのは、大変な重さで増していくだろうと思うわけであります。そういう中で、いかに複雑、高額な訴訟を迅速にやっていくかという観点から考えますと、やはり、地裁の負担というのを下げてあげなければいけない。それから、四百何ポイントと二百何ポイントの差がありますけれども、地理的なアクセスということからすると、やはり、簡裁へのアクセスを増やしてあげた方がいい。3番目には、先ほど経済指標が大体1.5倍になったということがありましたので、その3つの背景からいたしますと、やはり、簡裁の事物管轄というのは、拡大の方向になるだろうということなんですけれども、一方で、簡裁ではなく地裁で慎重な審理を受けたいというユーザーもいるということも事実だろうと思うものですから、例えば、先ほどの3番目のポイントの経済指標という点からしますと、90万円の1.5倍の120万か、130万か、140万かは知りませんけれども、そういうあたりは専属管轄に持っていく。でも、それだけでは恐らく足りないのであって、120万から130万、140万と決めたそれを超える部分、300万とか、400万とか、500万、そういうものについては、当事者間で誰も異議が出なければ簡裁に、一人でも原告、被告どちらかでも異議が出れば地方裁判所に持っていく。原告が地裁に行ったらそれで地裁だし、原告が簡裁に訴えて、被告が嫌だと言わない限りはもう簡裁だと。そういうふうな競合管轄的なものも、先ほど日本司法書士会連合会さんの御説明の資料の中に、将来的にはということが書いてございましたけれども、将来的にというか、今の段階で、そういう設計をしたらどうだろうか。そういう中に、いずれにしても、簡裁、地裁とも、司法の容量というのは飛躍的に拡大しなければならないことがはっきりしていることでございますので、簡裁の事件が増えるから簡裁は大変になるという問題ではなくて、大変になるのであれば、大変になるための容量、それは法曹人口の拡大であり、施設の拡大であるということなんでしょうけれども、全体的な容量の拡大の問題なのではないか。アクセスという意味から、また司法制度、裁判迅速化という意味からすると、適切な分担というのは、やはり、今よりも簡裁に行った方がいいのではないか。手法としては、今言ったようなことであるという意見の表明であります。
○ 簡易裁判所が我々の生活に身近な裁判所として機能を十分こなす上で重要なことだと、皆様方からいろいろ御意見をいただきましたけれども、その中で、私は、基本的にはどの場所で行われるにしろ、必要不可欠なことをどうしたら担保できるかということに尽きるのではないかなと思うんですね。それを金額で定める、あるいは、今委員がおっしゃったように、当事者間で異論がなければそこで審理をするとか、いろいろな方法があると思うんですけれども、私は、むしろ額をどうするとか、どのように身近にしていくかといったときにですね、要は、質的に異なるプロセスを、誰がどの時点で、ここで解決するのが適当である、適当でないという見極めをするかということが、すごく重要なように伺ったんですね。たとえ少額であっても、大変入り組んだ問題、比較的高額であっても、当事者同士がもう既にその事実を認めていて、要はそれをどのように返済していくかというような、本人同士が歩み寄る、そしてそのすべを第三者の前で探りたいというような場合とか、当然、どこに線を引いても、その線だけでは解決できない部分があるので、何をよりどころにしてそれを決めるかというのが大事なような気がいたしまして、1つには、やはり、今まで裁判所が、どのレベルでも身近でなかった第一の理由は、国民が、大変手続が面倒であり、なおかつ時間がかかりそうだと、実際にはかからないのかもわからないんですけれども、そのような印象を受けていて、どうせ持っていっても、自分が希望しているような時間内で解決を試みてもらえないとか、あるいは解決に至らないのではないかというような、初めからあきらめているというケースもあると思うんですね。ですから、大変迅速に行われる可能性が高いのであれば、当然それは周知すべきであるし、それからどこへどういうふうに振り分けるかというのは、これはすごく難しいことだと思うんですけれども、しかし、よりどころは、どのような必要不可欠なデュー・プロセスがそこで行われるかというのはそういうようなことで、それをどういうふうに定めるかということだと思うんですね。それで、前回も私、弁護士費用に関して意見を述べましたけれども、要するに、弁護士の知見、あるいは知識、ノウハウというようなものが、それを解決するに最もふさわしい資源であれば、当然それが認められるべきであるし、そうではない場合は、更に迅速に当事者間で進めることが容易だと思うんですけれども、その入口の一番端の第一歩のところをどのように周知して、そして、必ずしもここに限るわけではないけれども、スタートラインはここら辺からやってはどうですかというようなアドバイスが受けられたとして、簡裁へ行ったとします。でも、そこで十分ではなければ、当然、地裁の方へまた再びということもあり得るでしょうし、そのあたりの線をここに引いたということであれば、どういうふうに行ったり来たりするかというルールも、多分、今の場合は、簡裁の方から地裁で、地裁の方から簡裁というのは原則としてないんですよね。初めに地裁に持っていったら地裁からスタートするわけですね。そのあたりの入口にというか、相談に来た人たちに納得できるような、あるいは判断が可能なような何か情報提供というのは、これは大変必要な部分ではないかなと思いますね。簡裁がやるべきことが増えたら、当然簡裁の機能も充実するだけではなくて、その規模も充実していかなければいけない。それから、地裁に当然持ち込まれなければいけないような件数が増えるのであれば、そちらも充実されるべきであって、どちらからどちらに振り分け直すというような議論では到底収まらないし、それをしてしまうと、基本的には、必要不可欠な審理を尽くしたことにはならないような気がするので、そのあたりの少額訴訟の額をどうするとか、あるいは、事物管轄の額をどうするというような論点と重なり合えば合うほど、何か入り組み過ぎるような印象を私は受けますものですから、そのあたりを別に議論した方がいいのではないかなという気がいたします。
○ 今のは大変貴重な御意見で、確かに、受付がたくさんあって充実していれば、この事件はどっちに振り分けるというふうに、個別にやるというのはいい意見だと私も思います。しかし、地裁に16万件、簡裁に32万件という事件があります。これでも日本の場合は、外国に比べて事件が少ないんですね。そういう中で、日本もどんどん事件を増やしていくというときに、どこかで制度として割り振りを固定しないと難しいと思います。そういういろいろな悩みがある中で、どこの国でも、みんな大体金額で決めている。ただ、小さい裁判所と大規模の裁判所で金額を幾らに区分けするかというのを、いろいろな国で悩みながら、何回も改正を重ねていっているんです。ただ、先ほどの最高裁の資料を見ても、審理の期間とか出ていましたけれども、金額の大きい事件が、大体内容が難しい事件ということになるんだろうというのは、統計的に出ているわけですね。だから、それであれば、金額で簡裁と地裁を基本的には振り分けておくという制度で固定せざるを得ないんだろうと私は思っています。そういう意味で、委員がおっしゃった、ある程度競合して当事者に選択させればいいというのは、大変難しいだろうと思います。本人にそれだけの仕分け能力がないし、弁護士にとっても、ではどっちにするのがいいかというのは、割合に難しい部分があるんだろうと思います。ですから、やはり、固定した額で決めておくということがいいだろうと思います。大体、弁護士の感覚としては、簡易裁判所は、本人でやれるような事件を簡易に、しかも、資格がなくてもいい裁判官、法律的素養があって、人格識見がある裁判官でやるという形に振り分けをしているわけですね。そういう意味から言えば、弁護士をつけないでやるというのは、市民の中にも、ある程度、簡裁という名前を聞いただけで振り分けがあるだろうと思います。そういう意味で、地方裁判所の裁判というふうになっていれば、弁護士をつけてきちんと対応しようということが、今の社会でもよいだろうと思います。そういう意味から言うと、競合管轄で本人に選ばせるというのは、かなり難しい。やはり固定して、金額で振り分けしていくというのがいいんだろうと思います。不動産の場合は、これは競合になっていますが、ほとんど地裁の方に回しているんだろうと思います。やはり固定的な金額で決めておく。これが無難な制度ではないかと、私自身は思います。
もう一つですが、簡裁は確かに身近にあって、地裁が支部もあわせて253で、簡裁が438あります。数から言えば、確かに身近かもしれないです。ただ、では、日本全国の簡裁が全部充実しているかというと、大都会ではかなり充実している。東京簡裁を見れば、裁判官は充実しているだろうと、少額訴訟を見学しただけでも思います。ただ、地方では、ほとんどのところで、裁判官が常駐でないところが多いですよね。地裁支部でさえ常駐でない。北海道なんかは、地裁でさえ、月1回というところがかなり多いです。簡裁も同じように、常駐ではなくて月1回というところがかなりあるだろうと思います。そうすると、やはり、身近な裁判所でやるということについて、あまりそういう実態がないのに、何か理念だけでもって、簡裁が充実しているから身近な事件は簡裁へというふうに考えるのは、少し早急過ぎるのではないかという感じがしております。
以上です。
○ 自分で裁判所に裁判を起こそうとしたらどうするだろうと、今考えていたんですけれども、地裁に行くのか、簡裁に行くのかというような判断さえもわからない人もいると思うんですね。そういうアクセスについて、今日いただいた司法書士会の相談所みたいなパンフレットもありますが、あちこちに、そうした相談所というのがまずあって、そこのところで、いろいろとディスカッションすることで知識を得るとか、どのようにしたらいいか案内を受ける。内容によっても本人の主張も聞いていただいて、これは時間をかけてやりたいので、金額の問題ではないと言えば、地方裁判所の案内もあるだろう。あるいは、審理は紛争型のものがこうやって少額訴訟でできて、先ほど伺うと金額ではないと。たくさん身近にあることが、相談ができるようなところもあるわけで、最初のアクセスというものを、もっともっとPRする、少額訴訟の相談所があることは今日初めて知りました。自分が仕事をしていても、境界線の争いとか、家を建ててほしいというクライアントの多くが持っています。大体、市役所へ行くといいだろうと言っているんですけれどももっともっと、一般市民を裁判所に行きやすくするアクセスを考えるならば、最初に行くところを、わかるようにしてほしい。そうすることで、専門家とさまざま相談をすることができ、複雑な紛争や、集団型紛争もひどくならないうちに専門家と対話できるような感じが、今伺っていていたしました。初めてそういうことを起こそうとする者は、そんなレベルですよ。私はそう実感して、今伺っていました。
○ 例えば、エキスパートシステムみたいなものが、ウエブページであって、いろいろクエスチョンがあって、自分の考えていることに、こういうふうに希望しますとか、私はこういう意思を持っていますとか、○×ではないですけれどもつけてみて、当然白黒、完全にこっち、完全にこっちとも決まらないけれども、ここへ行ったらこういうメリットがありますよ、しかし、こういう費用がかかりますし、時間もかかります、そしてそのためにこういう代理人もたてた方がよろしいでしょうというように書いてあって、こちらにこういうふうに書いてあったりしますと、そうすると、情報としては、私は何をベースに選択すべきかということがわかります。
ここで何度も出てきて、この言葉は皆さんよく使い慣れていらっしゃるのかもわからないんですけれども、「民衆の駆け込み寺」というのは、駆け込み寺というもののコンセプトが、私の持っている駆け込み寺のコンセプトと、ここで使われている意味がちょっと違うような気がしておりまして、駆け込み寺というのは、あまりよい意味ではないような気がして、むしろ、自分たちが、自分たちの意思でもって選ぶために、何か必要な情報を得て、そして、自分たちが、ある程度自分たちの判断の下に、行動を起こせるという意味で、駆け込み寺というのは、日本語でもたくさん使う言葉なんですか、それとも外国語の何かの翻訳したんですか。日本語なんですね。というのは、外国で駆け込み寺と言った場合は、比較的意味合いが違います。要するに、窮地のようなところで、不法に自分の権利を阻害されている人が、自分の人権を守るために駆け込むという意味合いがすごく強くて、日本的な感覚で言う駆け込み寺は、とにかく、何かわからないから助けが欲しいというような意味合いです。でも、私は、両方とも不適当なような気がするんですね。もうちょっと、比喩も含めて、エキスパートシステムで、私だって、このコンピューターの画面でインターネットでこうやれば、一応こっちの方が楽らしいというのがわかるような、エキスパートシステムというのは、先ほど、ケースを司法書士会の方の資料で書いてくださいましたけれども、当然匿名なんでしょうけれども、こういうケース、ああいうケースというのがわかるだけで、私のケースはこれに似ているなとか、これよりも深刻だなとか、いろいろ、コンピューターのエキスパートシステムのような自己判断ができるようなプログラムというのも、案外、入口としてはいいような気がして、パーソン・トゥ・パーソンで相談に行くのも大変いいことだと思うんですけれども、まず手掛かりとして、そういうものも、今の時代ならば、案外、受け入れられるかなと思います。
○ コンピューターで、そうしたことが知ることができるということは、とてもいいですね。
○ 自分自身が、「あなたの場合はこういうケースですか」に○というふうにしておいて、この場合はこちらへ行ってくださいというようなエキスパートシステムで、自己判断が、自己診断ができるような、そういうプログラムは、皆さんいろいろなケースを扱った方にとっては案外わかる分かれ目がちゃんとあると思います。そういうものも設計可能かなと、今思っているんです。
○ どこがやるかですよね。
○ それは責任問題、間違った場合に国賠訴訟になることを考えれば、国がそういう施設はなかなかつくれないと思いますけれども。
○ 先ほどの委員の御発言、あるいは日本司法書士会連合会のプレゼンテーションとの関係で、若干の感想めいたことをお話ししたいんですけれども、簡裁の機能の問題を考えるときには、長期スパンの問題と短期的な問題というのは、やはり分けないといけないと思うので、司法の容量拡大というのは、今回の司法制度改革の一つの重要な理念であるわけですが、簡裁の機能の拡充というのも、それと密接な関係にあるということは、日本司法書士会連合会、あるいは委員がおっしゃていただいたとおりだと思うんですが、これは短期的で一気に増えるわけではないわけですね。人を増やそうと思ったら、それだけ働く場所が必要ですし、建物も拡充していかなければいけない。そうすると、それには当然予算措置が必要ですし、現在の予算の状況では、そう簡単に進みそうにもない。それから、人の問題につきましても、余り適当な比喩ではないかもしれませんが、例えば、ハンバーガーショップを大増設してそこに人を増やすというのであれば、マニュアル化されていますから、そこで働く人の拡充というのは比較的容易である、働いてくれるという希望者がいればの話ですが、容易であるわけですけれども、裁判官、あるいはそれを補助する裁判所書記官というのは、一つの専門家ですから、それは、当然養成するのに時間がかかってくるわけです。どなたでもいいからやってくださいというわけにはいかないわけですね。そうすると、拡充していって、最終的にはこういう方向に持っていきたいというのは、この検討会でやはり提言すべき事項だと思うわけですけれども、もう一つ事物管轄の改正も、目前の、すぐに改正要綱のようなものを推進本部でつくらなければいけないテーマであるわけですね。そうすると、そこでは、現状のマンパワーの配置というものを考えざるを得ない、それに拘束されざるを得ないところがあると思うわけです。しかも、先ほど来、少額訴訟の拡大というのも重要なポイントだという意見があるわけですが、少額訴訟というのは、実は、あれは、本来弁護士が負担している労力を裁判所が肩代わりしている、そのことによって1回審理が成り立っているという制度であるわけです。ということは、それを拡充するということは、負担増になる。簡裁の事件数は増えなくても、その中における少額訴訟の割合が増えるということは、簡易裁判所の負担増になるということを意味しますので、やはり現在のマンパワーを前提としますと、簡易裁判所の事物管轄の大幅アップということは、これは地裁からのマンパワーの移動を伴わないことには成り立たない。そういう選択肢もあり得ると思うんですが、地裁はむしろ負担軽減して、難しい事件に集中的に取り組むことを可能にして、それによって複雑事件の審理期間を短縮して適切妥当な判断を下るようにしようというお話でしたが、それはちょっと現状では、私は難しいのではないかと思います。将来的な課題として、簡裁の機能を充実して、人員も配置してというお話ですと、私は当然納得できますし、合理的な選択肢だと思いますが、やはり、短期スパンの問題として、大幅アップ、あるいはそれに代わる手段、大幅アップに至らないけれども、その間をとったような方策というのは、ちょっと今は難しいのではないのかなという感想を持っております。
○ 先ほどの委員の御意見ですが、確かにインターネットなどでいろいろやるということは、危険性もあるんですね。弁護士もいろいろと試行錯誤して、例えば、電話相談というのをずっとやってきました。ところが、それも間違いが多いんですね。個人の事件が定型的ということは、ほとんどないんです。一つずつみんな違うのに、登記簿謄本も戸籍謄本も何も物を見ないで答えたら、それは違っていて、後から苦情が来たというのがあるので、やはり相談というのは、かなり慎重でなければいけないので、個人の弁護士では、インターネットで法律相談をやっている方もいるんですけれども、弁護士会としてやるのは、まだまだちょっと慎重な構えでおります。
○ 私が申し上げたのは相談ではなくて、当事者が自分のケースを分析する能力がないわけですよ。ですから、近くに司法書士の先ほど説明をしていただいたような方たちがおられて、そこへ行けるならそれに越したことはないわけですね。ですから、更に充実した情報もアドバイスもいただけるという可能性があると思うんですけれども、我々は、もしかしたら一生裁判所にお世話にならなくても死んでいける人もたくさんいるわけですね。そうしますと、まず裁判に、あるいは訴訟を起こす、あるいはそれに巻き込まれるというようなことを全く予測だにしていない生活をしているときに何かが起こったときに、自分が置かれているシチュエーションが何なのかというのすら判断が困る。私が申し上げたエキスパートシステムというのは、誰かが責任を持ってどうこうという話よりも、むしろ、自分が置かれているシチュエーションを、自分のために分析するような手だてです。これは、理想論を申し上げますと、学校教育の中で本当はやられるべきものだと思うんですね。私は常々、都道府県で成人式を行うようなことはもうやめてしまって、成人した人たちには、自分が成人としてどれだけの義務と権利を持っているのかというような、まさにこれからの一生にかかわる必要不可欠な情報として、裁判あるいは訴訟、あるいはそれにかかわる権利と義務その他をつぶさに説明したようなものを、あの日を使って配布できるようになる方が、ずっと国民のために資するのではないかと思っているわけです。要は、自分で自分の状況を判断する能力を養うことがすごく重要でありまして、それができるようなものというのをやはり提供すべきかなと。だから、それを相談とか、だれに委ねるとかではなくて、セルフヘルプといいましょうか、自助努力の教材みたいなものですね。
○ そうですね。外国に行ってみると、そういう司法教育が物すごく行き渡っています。それと、やはり陪審裁判なんかがあると、市民が、自分が裁判をやらないでも裁判にかかわる機会がいつかはあるというので、陪審裁判のときに、アメリカでも小学生が見学に来ていて、裁判官が説諭するのを、みんな涙が流れるぐらいに感動して聞きましたけれども、そういうのは、子どものころから、あなたたちもいつかこれにかかわるんですからよく見ていってくださいねという話を裁判官がなさったのが感動的でしたけれども、そういう国民が裁判にかかわるというのは、日本では、今まであまりなかったんですね。これからいろいろ出てくるのではないかと期待をしていますけれども、そういう教育が、やはり必要だなというふうに思います。
もう一つなんですけれども、司法書士会の方も、今度は法律相談ができるので、あちこちにこういう相談センターをつくっていただけるということで、これは大変ありがたいことだと思います。弁護士会の方も、顧問会議の内閣総理大臣のごあいさつの中に、弁護士が一人もいない地域がたくさんあるという、これは事実なんですけれども、私どもは、一人もいない地域に相談センター、公設事務所を一生懸命つくって、相談に市民が来やすいような環境を今つくりつつありますので、もう少しそこら辺も御理解をいただきたい、少しずつ努力をしておりますので、よろしくお願いいたします。そのほか、地方自治体の法律相談にも全部弁護士を派遣していますし、法律扶助協会の無料相談、社会福祉協議会の相談、最近は郵便局でも弁護士を派遣していますので、いろいろな無料相談が今発達しています。それから、この前、簡易裁判所に行きましたら、受付相談というのもかなり充実して、一生懸命なさっていたのを見ましたが、広報は厳しいと言われても、区の広報を見ても、それはかなり出ているんです。インターネットを見ても、どこに相談所があるというのは出しているので、昔に比べれば、かなり相談する設備というのが行き渡っていったのではないかと思いますが、これからも努力していきます。
○ 今お話をお伺いしながら思いましたのは、消費生活の分野でも、消費生活の相談に当たっている方たちが、トラブルに出会ったときにどのようにそれを解決したらいいかということを司法手続のところまでいろいろな形でアドバイスをされておられますので、そういう意味では、各方面の方たちからアクセスのしやすいような情報提供を今後もお願いしたいと思っておりますけれども、同時に、裁判所自体が偏在していて、ある地域では便利に、比較的皆さんが行きやすいところにあるけれども、あるところは簡易裁判所といっても月に1回しか、先ほどのお話をお伺いしまして、私どもは認識を新たにいたしましたけれども、てっきりこの近所で考えますと、立派な建物があって、そこに日常的に意欲を持てば行けるというようなイメージを持ってしまいがちですけれども、地域格差があってはならないと思います。したがいまして、アクセスする場合の基本的な条件として、まず、地域格差の問題というのも考えていく必要があるのではないでしょうか。先ほどのマンパワーの問題もですし、そういう意味では問題が山積していると言いましょうか、まだまだ、この際思い切って解決を図らなければいけない問題があるようにお話を伺いました。私どもも、問題解決に少しでもお役に立てればと思います。よろしくお願いします。
□ 今日は、フリーディスカッションでしたので、このあたりで引き取らせていただきます。
まだ、今日の議題の3つのうちの1つしか済んでおりません。時間が超過しております。事務局には申し訳ないのですが、何を我々が考えればいいのかの説明だけに絞ってお願いいたします。
● あわせて御説明させていただきます。資料5の「訴訟費用額確定手続の簡素化に関する検討参考資料」と申しますのは、前回までに様々な論点を御指摘いただいた部分につきまして、事務局で、理論的にこういう検討の視点があるのではないだろうか、論点と考えられるところを網羅的に挙げたものでございますので、今後の検討の参考にしていただきたいという趣旨でございます。読んでいただければおわかりいただけるかと思いますので、説明は省略させていただきます。
訴え提起の手数料につきましては、資料3と資料4がございますので、簡単に趣旨を御説明いたします。資料3の「経済変動と手数料についての参考試算」は、スライド制の手数料を定めている訴えの提起と一定額で定めている手数料について、それぞれの制定当時の手数料体系がその時点における合理的なものであると仮定した上で、その後の経済変動による影響を考慮して、現時点に置き換えた場合に、訴訟の利用者と一般国民との負担のバランス、それから、スライド制の手数料を負担している訴訟の利用者と定額制の手数料を負担している訴訟以外の裁判の利用者との間の負担のバランスがどのように変動しているかを、参考に試算してみたという趣旨の資料です。基礎とした経済指標は、第5回司法アクセス検討会の資料7に掲げた8種類の経済指標を用いています。そのうちの5つの経済指標は、簡易裁判所の管轄の上限を30万円から90万円に3倍に引き上げました昭和57年の裁判所法改正の際に国会に提出した参考資料として使った経済指標です。その5種類の経済指標とは、一つは「国内総支出」、GDPです。昭和57年当時は、「国民総支出」というGNPが用いられていましたが、現在の一般の取扱いに準じて「国内総支出」、GDPを用いています。なお、第5回の検討会の資料7では、数字は「国内総支出」でしたが、誤って「国民総支出」と記載してしまいました。資料を訂正しておきたいと思います。二番目は「1人当たりの国民所得」、三番目は「一般職公務員の平均給与」、四番目は「勤労者世帯当たり可処分所得」、五番目は「消費者物価指数」となっており、この五つが、昭和57年の裁判所法改正の際に国会に提出した参考資料として使った経済指標です。そのほかに、3つの経済指標を加えておりまして、それは、六番目として「常用労働者の平均賃金」、七番目に「勤労者世帯当たり実収入」、八番目が「勤労者世帯当たり消費支出」、この三つを付け加えて、全部で八個の経済指標を参考にお示ししていたわけです。これらの経済指標というのは、それぞれが表わす経済活動の性質ないし局面はまちまちであると思われますので、具体的な政策決定にどのような経済指標が重視されるべきかは、それぞれの政策等に応じて様々な考え方のあり得るところではないかと思います。事務局では、この試算をするに当たっては、たまたま平均値を利用したという限りのものでございます。
資料3の1ページ目の上の方のグラフですが、スライド制が採用されている訴え提起の手数料につきましては、訴訟の対象の金額が上がりますと手数料率が小さくなるというスライド構造を採っていますので、実質的な価値が変わらなくても、経済変動によって名目的な金額が高くなりますと、手数料の名目的な金額は、訴訟の対象との対比からみると相対的に低くなり、実質的な手数料負担の割合が低くなるという構造になります。この試算の内容については、昭和46年と現在において、実質的に見て同じ価値の訴訟があったと仮定した場合に、その負担の重みを、昭和46年当時の3,000円という手数料を現在の経済指標等で実質的な価値を置き換えたとすると1万3,500円になるのではないだろうか、それが、訴訟の目的の価額も同じようにスライドして、経済指標に応じて変動していたとすれば、現在訴訟を提起すると、その金額ですと手数料率が下がりますので、そうすると1万1,400円の手数料負担にとどまることになり、その差額の2,100円相当分が、一般国民の負担にバランスが移行しているのではないだろうか、そういう考え方もできるのではないかという試算です。
資料3の1ページ目の下の方のグラフですが、一定額の手数料については、昭和55年以来22年間変わっていません。経済変動等で、裁判所のコストというのは名目的な金額では大きくなっていると考えられるのですが、一定額の手数料というのはまったく変わっていないということになります。そして、昭和55年の600円に相当する手数料負担の重みを現在の経済水準で評価すれば、960円という評価が試算としては可能でないだろうかということで、その差額の360円相当分が、国民一般の負担にバランスが移行していると考えられるのではないかという試算です。
資料3の1ページの下の方にある※は、スライド制の手数料を負担している訴訟の利用者と定額制の手数料を負担している訴訟以外の裁判制度の利用者との負担のバランスが、経済変動によりどのように変動しているかを試算するために、参考までに、これまでの検討会資料で地裁と簡裁の平均提訴手数料を出していましたので、それをあわせて、第一審事件全体の平均提訴手数料の伸びを算出したものです。簡易裁判所の管轄が拡大された後の昭和58年と平成13年とを比較した数字を出していますが、スライド制が採用されている訴え提起の手数料は、平成13年までに1件当たり平均1万7,097円から2万4,522円に43.4%増という伸びになっています。平均手数料の伸びの原因は、必ずしも経済変動だけでなく、訴訟の利用のされ方や経済構造の変化など様々な要因があると思いますので、経済変動によって名目的に訴訟の対象の価額が上がったからそれにスライドして手数料額が上がってきたというそれだけの効果とは言えませんけれど、そういった効果も、その中に含まれているだろうということは否定できないのではないかと思われます。その意味で、定額の手数料は変わっていないということになりますので、相対的に見ると、一定額の手数料を負担している訴訟以外の裁判制度の利用者の負担とスライド制の手数料を負担している訴訟の利用者の負担のバランスというのが、その制度が決まったときとは、大分変わってきているのではないかという試算です。
資料3の2ページ目は、訴え提起の手数料と一定額で定めている手数料について、それを最近定めた後の経済変動を反映させた表を参考として作ったものです。例えば、昭和46年に、「訴額30万円までは5万円ごとに500円」という定め方がされておりますので、その当時と実質的に同じ価値をその後の経済変動をもとに試算した場合は、現在では、「136万円まで22万6,700円ごとに2,267円」と定めていることと同じ価値と考えられるのではないかという試算です。
資料4は、過去の手数料改定と事件数の動向との関係について、統計資料から検討してみた資料です。昭和55年の改正というのは、1の項のところですが、訴え提起の手数料について、訴訟の目的の価額が30万円を超え100万円までの部分について、手数料の割合を0.7%から0.8%に、100万円を超え300万円までの部分の手数料の割合を0.5%から0.7%に、それぞれ引き上げて、さらに、一定額を定めている定額制の手数料については、100円、200円、300円、500円という手数料体系だったものを3倍の300円、600円、900円、1,500円という今使っている手数料体系に引き上げる改定がされたものです。これに伴って事件数がどうなったかといいますと、改正前の昭和54年の統計がなかったため、年度途中で引き上げが行われた昭和55年とその翌年の昭和56年を比べましたところ、結局のところ、増加は別に止まっていませんでした。特に、低い額、訴額が30万円を超え100万円までの部分は、事件数が約12.4%増となっていまして、訴訟全体の事件数の増加率8.8%を上回っています。そういう意味では、手数料の金額が比較的低いところについては、手数料の引上げは、事件の動向にはあまり影響を与えていないのではないかと考えられる資料です。それから、その下の2の項のところの平成4年の改正ですが、このときは、1,000万円を超え1億円までの手数料の割合を0.5%から0.4%に、1億円を超え10億円までの手数料の割合を0.5%から0.3%に、10億円を超える部分の手数料の割合を0.5%から0.2%に、それぞれ引き下げたものです。改正前の平成3年と改正後の平成5年を比較しますと、一番下の1億円を超える事件を見ますと、平成3年から平成5年には40%の事件の増加が見られており、全体の事件数の増加率27.7%を大幅に上回っています。しかし、1,000万円から1億円までについては、同じく下げていますが、事件数の増加は20.4%で、全体の事件数の増加率を下回っていますので、下げたから増えたとはこれだけではなかなか言えません。ただ、この時期は、バブル経済の崩壊によって訴訟事件全体が急激に増えた時期に当たっているため、訴訟の利用のされ方や経済構造の変化というのもかなり大きい時期にあると思われますので、こういうことだけから、下げても増えないとは、一�」には言えないだろうと思います。高額の手数料である1億円を超える事件については、かなり事件数の増加が見られていますが、これも、原因が手数料にあるのかないのかということは、これだけで言えるということにはなりませんが、客観的な数字として、このような動向が出ているということです。
以上です。
□ 何か御質問があればどうぞ。
それでは、我々が今後どうするかという、今後の日程ですが。これについても、事務局から御説明をお願いします。
● 資料6について御説明します。第8回以降、9月10日、9月30日、10月15日、それから11月28日、この日程につきましては、既に皆様方の御都合をいただいております。それから、その中での検討事項ですが、現在、平成15年の通常国会に法案提出を予定しています事項として、訴え提起の手数料、訴訟費用額確定手続、簡易裁判所の管轄拡大、この三つの項目があります。したがいまして、顧問会議等の日程、それから法案提出の準備等を考えますと、この三つについては、第10回の10月15日ころまでには、検討の方向性をまとめる必要があるのではないかと考えられます。そうしますと、相当程度この辺りの検討のスケジュールは厳しくなると思われますので、この点の検討を、9月以降詰めてお願いをできないだろうかというのが第1点です。それから、第11回の11月28日は、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて、前回御検討いただいたものの引き続きの検討と、さらに、先ほど委員から御指摘のありました司法の利用相談窓口、情報提供をどうやって充実させていくか、これは非常に重要な問題で、意見書の中でも取り上げられているところでございまして、利用者のアクセスの拡充という視点から、常にあわせて検討の対象になってくるとは思いますが、集中的に検討するとすれば、法案の準備が整った11月の検討会にお願いしてはいかがかと考えているところです。
(各委員了承)
□ 9月が2回ということで、御多用中恐縮ですが、日程をよろしくお願いします。
では、本日はこれでよろしいでしょうか。
それでは、時間を大幅に超過しましたが、第7回の検討会はこれで終了ということにさせていただきます。