○ 検討事項1-1(総則的事項① ADR法の適用範囲)
ADRに関する共通的な制度基盤を整備するための法律(ADR法)の制定を念頭に置いた議論として、まず、ADR法の適用範囲について、事務局より、資料10-2に沿って説明が行われた後、項目ごとに討議が行われ、以下のような意見が出された。(○:委員、□:座長、●:事務局)
(2.紛争内容)
○ 私的自治を尊重し、国民の司法参加を促進するという観点からは、ADRの外延はできるだけ広くとるべきであると考えるが、①今回議論する各項目のいずれか一つにでも該当しないADRは、法の対象から外れることになるのか。②ADR法の適用範囲と個々の法律効果との関係はどうなるのか。
● ①各項目のいずれか一つにでも該当しなければ、法の対象から外れることになる。②今回は法が適用されるための基本的な要件を議論するものであり、個々の法律効果については、それぞれにふさわしい要件を付加することになる。
○ 「(1)紛争分野」について、行政事件は当事者間の話合いには比較的馴染みにくく、ADR法の対象として主に念頭に置いている型の紛争解決手続とは質が異なるため、議論の中心となるものではないことを認識しておくべき。
○ 「(2)法律上の紛争性」について、法律上の紛争以外の紛争も視野に入れることは構わないが、その中でも、法律上の紛争に転化する可能性がまったくないものは対象から外してもよいのではないか。
「(3)合意による解決の可能性」について、B案をとることによって、話合いによって合意した内容がその後の手続にもつながらないような紛争が持ち込まれることになると、ADR機関も困るのではないか。
○ 「(3)合意による解決の可能性」について、例えば、人事訴訟事件の対象で合意による解決の可能性がないとされる紛争であっても、ADRの場で実質的な話合いをした後で、解決に至る協議離婚の届出をしてもらうケースもある。このため、合意による解決の可能性がない紛争も念頭に置いたB案をとり、後で争いの対象となるような事態を避ける必要がある。
○ 「(2)法律上の紛争性」について、入口の段階で紛争性のないものを対象とすることはよいとしても、およそ法律上の紛争となる可能性がないものまで含むべきかどうか疑問。最終的には法的な紛争である必要があるのではないか。
□ 議論の方向性としては、
「(1)紛争分野」については、行政事件は議論の中心となるものではないことには留意しつつ、B案に沿って、民事に関する紛争全体を対象として議論を進める。
「(2)法律上の紛争性」については、A案では狭すぎるので、法律上の紛争に限定しないという意味でB案に沿いつつ、ある程度の限定はあり得ることを念頭に、議論を進める。
「(3)合意による解決の可能性」については、当事者の合意による解決の可能性がない紛争であっても、ADRにおいて実質的な話合いを行うことは考えられることから、私的自治による解決が可能な領域には自ずから限界があることに留意しつつも、B案を基本に議論を進めることとしたい。
(3.紛争解決基準)
○ 「条理」の内容にもよるが、仮に社会通念なども含んだ広い解釈をとるのであれば、A案をとってもよいのではないか。
○ 一般的には、「条理」はある程度限定的に解されており、例えば国際商慣習などは含まれないことが多いため、これらも判断基準となるB案が望ましい。
○ 判断基準を当事者の合意に求める解決方法もあり得るため、B案とすべき。
○ 「最終提案仲裁」のように、仲裁人が両当事者からそれぞれ出される2つの案からいずれかを選択する方式は、条理による解決とはいえないが、A案とした場合には、これが適用対象から排除されてしまうので、B案とすべき。
○ ADRがどこまで責任を負うかという議論と関わる問題であり、ADRが最終的な合意の場に立ち会わないケースもあることを考えれば、B案が望ましい。
□ 議論の方向性としては、特に実定法や条理を判断基準として位置付けない手続も対象とするB案に沿って進めていくこととしたい。
(4.手続の最終目的)
□ 議論の方向性としては、終局的な紛争解決を目的としない手続も念頭に置くB案に沿って進めていくこととしたい。
(5.第三者の関与形態)
○ 「(1)関与の原因」については、A案を支持するが、これは訴訟上の和解を除外するものであって、裁判官が関与する民事調停手続を除外するものではないことに注意すべき。
「(3)独立性・中立性」について、何らかの意味での独立性は必要であると思うが、中立性については、必ずしも中立とはいえない者が主宰者となっているケースも多くみられ、難しいのではないか。UNCITRALでも議論されたが、国際的に共通の理解を得るのは難しく、規定は置かれなかった。
○ 「(3)独立性・中立性」について、消費生活センターのあっせんなどを考えると、中立性を定義するのは難しいが、かといって最初から外してしまうのも問題である。また、当事者間の情報の格差をどのように埋めていくかという点も難しい。
○ 「(3)独立性・中立性」について、独立性を精神的な面で定義することは難しく、外形的にしか定義し得ないという問題がある。
○ 「(3)独立性・中立性」について、独立性についての共通認識がとれないのであれば、代理人やこれに準じる者の間で行われる交渉をADRの範囲から排除するメルクマールがあればよいのではないか。中立性については、力の格差を埋めて実質的な平等を確保することが中立性に反するのかという問題もあり、中立性を求めることでADRの外延を狭めてしまうのであれば、このような概念は使わない方がよいのではないか。
○ 「(3)独立性・中立性」は主宰者のあり方の問題と捉えればよいのではないか。
□ 議論の方向性としては、
「(1)関与の原因」については、訴訟上の和解を除外するというA案に沿って議論を進める。
「(2)片面的関与」については、B案に沿って、相談も含めて念頭に置いて議論を進める。
「(3)独立性・中立性」については、「中立性」については第三者性のメルクマールとしないが、代理人やこれに準ずる者が第三者である手続はADRとはいい難いので、実質的には同じ意味ではあるが、C案にもう少し限定を加える、あるいは、B案によりつつ「独立性」の概念を明確にする方向で議論を進めていくこととしたい。
(6.役務提供主体)
○ 「(1)機関の類型」については、A案に賛成だが、今後個別の論点についての議論を進めていく際には、司法型ADRや行政型ADRについては、民間型ADRとはまったく異なった考慮が必要であることを念頭に置くべきである。
○ 「(2)アド・ホック性」について、沿革があり厳格な法規制もある仲裁はともかく、合意調達型の手続にアド・ホックを含めるのは現実的ではなく、国の責務の対象とするのは不適切であると思われるので、念頭に置かない方がよいのではないか。
○ 「(2)アド・ホック性」について、通則的規定を置く場面を想定すれば、アド・ホック手続のみ規定の適用を受けないというのは考えにくい。UNCITRALでもアド・ホックを念頭に置いて議論されており、アド・ホックを除外して議論することはできないのではないか。
○ 「(2)アド・ホック性」について、調停やあっせんにおいては、アド・ホックが手続の原型であるといえるから、このようなものを除外すべきではない。
○ 「(2)アド・ホック性」について、フランスにも裁判所がアド・ホックに調停人を選任するという制度があり、このような可能性を除外すべきでない。
□ 議論の方向性としては、
「(1)機関の類型」については、司法型ADRや行政型ADRの特殊性に留意しつつ、これらを適用対象とするA案に沿って議論を進める。
「(2)アド・ホック性」については、A案に沿って、アド・ホック手続も念頭において議論を進めていくこととしたい。
(7.場所的適用範囲)
□ 場所的適用範囲の問題は、法的効果の付与等の個別の論点において問題となると思われるので、3巡目で改めて議論したい。
○ 国際的な紛争解決の際に問題となるこの論点については、ぜひ前向きに議論していただきたい。
○ 検討事項1-2(総則的事項② ADRの手続の定義)
ADRの手続の定義について、事務局より、資料10-3に沿って説明が行われた後、討議が行われ、以下のような意見が出された。(○:委員、□:座長、●:事務局)
○ 裁断型と調整型の区分のメルクマールについて、行政審判のように行政訴訟として事後的に争うことが可能なものはどちらに含むことになるのか。また第三者が評価を下すEarly Neutral Evaluationや、非拘束仲裁はどうか。
● 一方当事者である行政機関は判断に拘束されることになるので、裁断型の片面仲裁に該当するだろう。Early Neutral Evaluationや非拘束仲裁は当事者を拘束しないので調整型の調停となると思われる。
○ Early Neutral Evaluationや非拘束仲裁は手続の進め方も主宰者の役割も仲裁に近く、調整型とは分けて考えた方がよいのではないか。例えば、裁断型を「第三者の判断によって手続が終結することが当事者間で合意されているもの」のような定義としてはどうか。
○ 裁断型の類型として、「その他第三者が判断を示すもの」という定義を別に立てればどうか。
○ 裁断型のメルクマールとなる「拘束」の定義をよく検討する必要がある。
○ 消費者相談の分野では、相談とあっせんの中間あたりに、苦情処理という類型が置かれることが多い。苦情処理の一般的な定義としては、「相手方の責任を求める申出について、その内容を先方に問い合わせて、先方からの回答を申し出た者に伝えること」となっている。担当者の実務にとっては、相談と苦情処理の定義がていねいに書き分けられていると大変参考になる。
また、事務局案では、手続の定義の主語が「第三者」となっているが、主語を「両当事者」とし、第三者はそこに関与してくるものとして位置付けてもらえるとなお良い。
○ 両当事者が主体となるということは、定義というよりも望ましい手法として位置付けた方がよいのではないか。定義として、第三者が判断する形態のADRを否定するものではないはず。
● 一方当事者が第三者に何らかの解決策を求めるものを「相談」としており、このうち相手方当事者への取次ぎを行うものを後段で定義しており、意見の趣旨は資料の原案に活かされている。
○ 調停とあっせんを区別することがよいのかどうか。現実には両者の区別は難しいので、両者をまとめて定義して、個々の制度設計の場面で使い分けした方がよいのではないか。
○ 今回の定義の議論は、今後の作業仮説として、効果に違いが生じ得るような手続については一応区別しておくというものであるから、議論が混乱しない限りで、できるだけ細かく分けておいた方がよいのではないか。
○ 現場の実態をみると、定義を巡ってかなり混乱が生じている。今後の作業仮説としては、定義を区別しておいた方がよい。
□ 議論の方向性としては、
裁断型の定義については、本日の議論を踏まえて、事務局で見直し作業を進めてもらいたい。
調整型の定義については、調停とあっせんは区分して進める。また、苦情処理は相談の定義に含まれているが、これを明確にするため、「相談(苦情処理)」と言う形で定義を置くこととして、議論を進めていきたい。