ADRの手続の定義について、前回検討会における委員の指摘を踏まえ、事務局において改めて整理した資料(資料11-1)について、事務局より説明が行われた後、以下のような意見が出された。(○:委員、□:座長、●:事務局)
○ 消費者相談の現場では、「あっせん」と「相談(苦情処理)①」の中間的なものとして、「助言」という手続も行われており、このことも念頭に置いて議論してもらいたい。
● 事務局案の整理では、「助言」の態様に応じ、一方当事者に対する「助言」は「相談(苦情処理)②」に、双方への「助言」は「あっせん」又は「相談(苦情処理)①」に含まれてくるものと理解している。
○ 相談には、普及啓蒙のようなあっせんに近い形態のものも含まれており、相談だけを他の手続から切り離した形で議論すべきではない。
○ 「相談(苦情処理)①」について、第三者の関与目的を「その他」としていることで、受ける印象がよくないのではないか。
○ 受諾義務の意義として、「異議を述べることが許されない」とあるが、その根拠やレベルにはいくつかの段階があるはずであり、そのあたりをもう少し整理する余地はあるのか。
● 受諾義務のレベルをさらに区分することは可能だが、この段階ではその実益は少ないと思われる。
○ 「調停」と「あっせん」については、これまでも「調停」の中に「あっせん」を含んで議論されていることが多く、今後も、単に「調停」と言えば「あっせん」を含むものであることを了解事項としておいた方がよいのではないか。
□ 議論の流れの中で「調停」に「あっせん」が含まれることが明らかであれば構わないが、「調停」と「あっせん」を区別したい場合には、その旨を注意して発言するようにしてもらいたい。
○ 「当事者の互譲」という言葉は、当事者が手続に主体的に関与したいという立場からは違和感がある。また、「処理」よりも「解決」という言葉の方が適切であることを指摘しておきたい。
● 「当事者の互譲」という言葉の趣旨は、一般的には、当事者が主体的に関与することであるとも受け止められているのではないか。
ADRの拡充・活性化の基本理念について、事務局より、資料11-2に沿って説明が行われた後、討議が行われ、以下のような意見が出された。(○:委員、□:座長、●:事務局)
(1.ADRの拡充・活性化の意義)
○ ADRの拡充・活性化の意義として、「③司法制度への入口に位置」するとあるが、すべての紛争解決が訴訟を最終的なものとする必要があるとは限らないはずであり、そのような必ずしも訴訟を最終的なものとしない紛争解決というものが位置付けられないのではないか。
○ 「司法」をどのように捉えるかという問題であり、狭く捉えればADRは位置付けられないということになるだろうが、訴訟に限らず紛争解決全般を含むというように広義に捉えればよいのではないか。また、資料は広義の意味で「司法」を用いている。
○ 「入口」という言葉は誤解を招きやすい。「司法」を広義に捉えたとしても、ADRは司法の入口にも出口にも位置付けられるはずである。むしろ、身近な紛争解決という意味で、国民全体の紛争解決意識のインフラ・底上げを行うという趣旨となるような表現が望ましい。
○ ADRが裁判とは異なるものであるという観点からは、「司法制度への入口」という表現はわかりやすい。
□ 裁判が権利救済の最後の砦であることは間違いないが、裁判とADRを中心と周辺という観点で捉えるのはおかしいのではないか。裁判やその他の紛争解決手段が総体として社会の正義を増していくことが望ましいとするのが審議会意見書の趣旨であったはずであり、当検討会で議論すべき基本理念も、これを受けたものであると理解したい。
○ 「②訴訟の限界を補完」するとあるが、「訴訟の限界」という言葉を使うことは適当か。
○ 世界的にも、ADRの議論は訴訟の限界を認識することからスタートしている。
○ 司法が万能ではないことはわかっているはず。
(2.ADRの拡充・活性化を進める上での基本的考え方)
○ 基本的考え方として「②手続・解決基準の多様性の重視」とあるが、私法分野はよいが、それ以外の手続や解決基準が厳格に決まっている行政型ADRにまでこの考え方を適用すべきではない。
● 「多様性の重視」とは、総体として多様であるべきということを言っており、個々のADRに対して多様化を図ることを求めているものではない。行政型ADRにも様々な手続・解決基準を有する機関が存在しており、③の考え方が適用される部分もあると思われる。
○ 行政が設置するADRでも、(私法分野の紛争に関する機関では、)柔軟な解決を図るよう努めているような機関もあり、もちろん硬い手続しかとり得ない機関もあるだろうが、可能な限り現実に合わせた解決を図るべきという意味で理解すればよいのではないか。
○ 行政型ADRにも、硬い手続をとる機関もあれば柔軟な手続をとる機関もあるというように読むべきである。
○ 総体として多様化を図るという限度では異議はないが、個々のADRがめざすべき手続として多様性を求めるとなると問題である。
□ 前回の取りまとめのとおり、行政型ADRも含んで議論することとした上で、今後、具体的なケースごとに注意して検討していくこととしたい。
○ 「①当事者の主体性の尊重」には、ADRを選択するに当たっての主体性を担保する保障が含まれるべきである。そのためには、訴訟手続が当事者にとって実効的な選択肢であることが前提となるべきであり、これは審議会の認識にも沿っているものと思われる。ADRの拡充・活性化の方向性に対して反対を唱える立場からは、ADRの拡充が結果として訴訟機能の低下につながるのではないかという意見があり、このような意見に配慮するためにも、ADRの拡充・活性化を図る前提として、裁判手続の充実が重要性を有することを確認しておくべきではないか。
また、「②手続・解決基準の多様性の重視」に加えて、運営機関や主宰者の多様性にも言及すべきではないか。様々な形態の機関や多様な人材がADRに参加することは重要である。
□ 訴訟手続の充実が重要である点については、議論の大前提として位置付けられるべき問題であろう。
○ 主体の多様性の重視は重要な問題である。ただ、検討事項のどの部分に位置付けることが適当かという点を考える必要がある。
○ 主体にはある程度の信頼性がなければならない。手続と同じような意味で、主体も多様である方がよいと言ってしまってよいかどうか。運営主体の多様性については留意事項として置いておくのがよいと思う。
○ 信頼性の確保が重要であることは、解決基準の多様性についても同様である。反社会的な集団が排除されることを前提として、一般論としては、主体の多様性を図ることがADRの活性化の一つのキーであると考えている。
○ 「多様性の重視」にも信頼性の確保が関わっていくことは当然であると思うが、そうであっても、主体の多様性と手続の多様性は、異なる問題であるという気がする。
○ 主体の多様性と手続・解決基準の多様性が同じレベルの議論であるかどうかわからないが、基本的には、主体も多様であった方がよいということで整理できればよい。
○ 審議会意見書でも専門家を活用すべきとされており、前向きな議論をするということであれば、意見書の趣旨を生かす方向で考えてはどうか。
□ 「多様性の重視」は主体にも該当するという意見が大勢のようである。「②手続・解決基準の多様性の重視」の中に主体の多様性も含んでいるものと理解することとしたい。
○ 「①当事者の主体性の尊重」を「当事者の自治の尊重」としないのはなぜか。「主体性」という言葉を使うと、両者のぶつかり合いを選択するという意味に取られるのではないか。当事者間の関係性に注目するのがADRの特長であり、そのような意味で「自治」という言葉の方がよいのではないか。
○ 消費者団体の中では、当事者が主体的に関与していきたいという趣旨で、「主体性の尊重」ということについて議論をしている。
また、「③信頼性の確保」については、条件整備や透明性の確保の必要性など、さらに肉付けを図ってもらいたい。
○ 「③信頼性の確保」の説明の中で、「少なくとも相対交渉により解決を図る場合よりは低くし得る」という部分は、相対交渉がADRより正当な解決に導かれる可能性が低いということを前提としており、問題がある。相対交渉はすべての紛争解決の出発点であり、相対交渉を低くみることは当事者自治を尊重しないことに結びつくことつながりかねない。
○ 労働紛争や消費者紛争のように、相対交渉の方が正当な解決に導かれる可能性が低くなる場合を念頭においた説明ではないか。
○ 相対交渉であっても、代理人によって力の格差が補われる場合もある。UNCITRAL国際商事調停モデル法の議論でも、相対交渉をおとしめるような議論をするのは望ましくないと言われていた。
○ 相対交渉を引き合いに出す必要はないのではないか。ADRにおいては公序良俗違反や強行法規違反を排除できるということを、信頼性の確保が必要な理由として打ち出せばどうか。
□ 相対交渉を引き合いに出すのではなく、ADRに信頼性の確保が必要なことを積極的に言及する方がよいと思われる。
(3.ADRの拡充・活性化へのアプローチ)
○ 「②ADRの利便性・実効性・信頼性の向上」にある「実効性」の意味は何か。具体的な法的効果を念頭に置いて書いているということであれば、もう少し議論が熟してからの方がよいのではないか。
● ADRの質の向上を通じて実効性を確保するということも含め、広い意味で捉えている。
○ 相談や苦情処理に関するアプローチはどの部分に含まれているのか。紛争解決が前面に出ていて、気軽に相談に来て下さいといった側面が欠けているのではないか。
● 基本的には、「ADR」と書いているすべての場面で相談(苦情処理)も該当し得ると考えている。
○ 国民の抱える紛争の半分は表に出ないで眠っているという現状を考えると、ADRに対する理解を深めるだけでは足りないのではないか。一つ一つの苦情や紛争について、その解決に向けた行動が社会全体の役に立っているということを書くべきである。
□ 今回の議論は、ADRの拡充・活性化の基本理念についてどのように考えるかという議論を通じて、今後作業を進めていくための前提となる共通の認識を持ちたいという趣旨であった。各委員からいただいた御意見は、資料の文言自体を修文するということではなく、共通認識をどのように持つべきかという観点からの提言をいただいたものと理解したい。