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ADR検討会(第11回)議事録

(司法制度改革推進本部事務局)



1 日 時:平成15年2月3日(月)14:00 ~16:00

2 場 所:永田町合同庁舎司法制度第1会議室

3 出席者

(委 員)
青山善充(座長)、安藤敬一、髙木佳子、龍井葉二、原早苗、平山善吉
廣田尚久、三木浩一、山本和彦、綿引万里子(敬称略)
(関係機関)
最高裁判所、法務省、日本弁護士連合会、関係省庁等
(オブザーバー)
日本行政書士会連合会、日本司法書士会連合会、日本土地家屋調査士会連合会
日本税理士会連合会、全国社会保険労務士会連合会、日本弁理士会
(事務局)
松川忠晴事務局次長、小林徹参事官、山上淳一企画官

4 議題

(1)ADRの手続の定義
(2)ADRの拡充・活性化の基本理念
(3)その他

5 配布資料

資料11-1 検討事項1-2(補足)(ADRの手続の定義)
資料11-2 検討事項1-3(ADRの拡充・活性化の基本理念)
資料11-3 今後の検討会の開催予定

6 議事

[開会]

○青山座長 ただいまから、第11回「ADR検討会」を開会いたします。
 振り返ってみますと、この検討会は、昨年の2月5日に第1回の会合を開きましたので、ちょうど1年が過ぎたということになると思います。先ほども、残された1年の間に全力を投球してよい成果を上げるためには、一層気を引き締めてやらなければならないのではないだろうかということを事務局と話し合ったところでございます。
 前回は12月9日で、約二か月の間がありますが、前回は2巡目の最初の会合ということで議論いたしました。
 今日は予定が2時間でございます。時間配分といたしましては、議事次第にありますように、今日は、「ADRの手続の定義」と「ADRの拡充・活性化の基本理念」の2つの問題を扱いたいと思いますが、最初の方は前回の続きでございますので、大体15分~20分ぐらいかと、後の方にたっぷり時間をかけて議論していただきたいと思っております。
 では、最初の問題でございますが、「検討事項1-2(補足)」という資料に基づきまして、「ADRの手続の定義」について御議論いただきたいと思います。まず、事務局の方から前回の検討を受けた再整理の御報告を受けてから議論したいと思います。

[(1)ADRの手続の定義]

○小林参事官 それでは「検討事項1-2(補足)」に基づきまして、御説明したいと思います。資料の3枚目をお開きいただきたいと思います。
 ここに全体のフローチャートをお示しいたしております。前回も申し上げましたが、今回の類型化は、ADR法の対象になる範囲内の手続につきまして、それぞれ重複なり、あるいは欠缺が出ないように色分けをするという作業でございますので、このフローチャートに沿って御説明していきたいと思います。
 まず、そもそもこの法律の対象になるかどうかということにつきましては、一番右側にございますように、紛争性のないものにつきましては適用対象外ということで前回整理させていただいたところでございます。
 次に、その中で、当事者以外の第三者の関与形態、この第三者がどういうものかということについては若干御議論がありましたが、ここでは一方当事者の代理人又は代理人に準ずるもののみで構成される場合以外を想定しているということでございます。そのうち、第三者が一方当事者のみと接触するケース、これにつきましては、右から2つ目の線がずっと下に伸びておりまして、「相談あるいは苦情処理」として分類するということでございます。
 もう一つ、「相談(苦情処理)」の類型に入れるべきものとして、第三者の関与目的としまして、左側にある2つの項目以外、「その他」と書いてありますが、つまり第三者が一方当事者の言い分を他方の当事者に単に伝達するにすぎないようなケース、そういったケースにつきましては、第三者が両当事者と接触した場合であっても、「相談」あるいは「苦情処理」として整理するということでございます。この辺りは前回の説明と特に変更はございません。
 残りの第三者の関与目的につきましては、大きく2つのタイプに分けておりまして、1つは「受諾義務のある第三者の判断の提示による紛争の解決」、もう1つが「当事者の互譲による紛争解決のための合意形成の促進」ということで、右側のケースについては、受諾義務のある第三者の判断の提示は予定していないという2つの類型に分けております。
 ここで1つ前回議論になりましたのは、この「受諾義務」という言葉、あるいは前回は「拘束力」という言葉を使っていたかと思いますけれども、この内容があいまいではないかという御指摘をいただいたところでございます。
 これにつきましては、右側の点線に囲ってございます「受諾義務の意義」というところにございますが、ここで言う「受諾義務」とは、当事者が、法律上あるいは契約上、その示された判断に異議を述べることが許されない。あるいは、いわゆる仲裁のように、そもそも判断に従うことが当然の前提となっているもの、こういったものを受諾義務があるというように整理いたしております。当該判断について、訴訟上争えることができるかどうかということとは別の整理というようにいたしております。
 そういう意味での受諾義務があるもののうち、「両当事者に受諾義務」があるものが一番左のグループでございまして、これについては仲裁法の規定の適用があるかないかによって、「仲裁」と「裁定①」と分けてございます。
 具体的な例といたしましては、2ページでございますが、「仲裁」については建設工事紛争審査会の行う仲裁、それから、「裁定①」は仲裁法の適用のないものでございますけれども、仲裁鑑定のようなケース、こういったものを想定いたしております。
 その隣りの「一方当事者のみに受諾義務」があるというものにつきましては、「裁定②」と整理してございますが、同じく2ページの例でいきますと、交通事故紛争処理センターの行う審査というものが該当するのではないかと考えております。
 それから、右側のグループにまいりますが、ここでは受諾義務のある第三者の判断は提示しないという類型でございますが、このうち右側の2つにつきましては、前回と同じ整理でございます。第三者が相当であると認めるときは判断を提示するというのは「調停」、そういった判断を提示するまでに至らないということを想定している場合が「あっせん」ということでございます。
 勿論、「調停」と「あっせん」を分ける実益が果たしてあるかどうかということについては、後の議論を待つわけでございますが、ここでの整理としては、一応そういった形で前回と同じように区分して整理させていただいております。
 前回にもう一つ議論になりましたのが、ちょうど真ん中にある「判断提示のみ」から線が引かれている「裁定③」というところでございまして、具体的には、2ページ(2)のDにございます「早期中立評価」と呼ばれているような手続でございます。
 これにつきましては、例えば裁判官OBのような方が、仮にこれが訴訟になった場合については、こういう結論が出るだろうというようなものを提示するということが手続としてはあるわけでございますが、これについては特段それに基づいて両者の合意形成を働きかけていくというよりは、むしろ判断提示を基にしまして、両当事者間で更に話をしていくということが想定されているわけでありまして、いわば左側の受諾義務のあるケースと、右側の合意形成を一般的に促進していくというケースの両方の性格を併せ持つ、あるいは必ずしもどちらかに属するというものではないという意味において、1つ別の類型として、ここでは整理をいたしております。
 以上が前回と変わった点でございます。
 この結果として、全体として類型は、対象内に限れば8つになったわけでございますが、何回も繰り返しになりますけれども、この8つで果たして足りるかどうか、あるいは8つにまで分ける必要があるかどうかということは、今後それぞれの措置について議論していく際に、必要があれば見直しをしていくということでございますが、作業仮説としてはこの8つに整理できるのではないかということでございます。
 以上でございます。

○青山座長 どうもありがとうございました。小林参事官から御説明いただきましたように、この8つの類型は、ADRの類型を作業仮説として分けて議論した方が今後の建設的な議論になるのではないかという前々からの議論を含めて、前回の議論を更に細かくしてこういうことにしたわけでございますが、これにつきまして何か御質問、あるいは御意見はございますでしょうか。
 どうぞ、原委員。

○原委員 消費者相談の整理というところから考えて、適切に分けてくださっていると思いますけれども、分ける意味があるのかというように最後に結ばれたので、分ける意味があるのかどうかということも含めてということになるかと思いますが、消費者相談の現場では「助言」という言葉も使われております。
 例えば、東京都の消費生活条例が改正されたばかりですけれども、この中では「助言」と「仲介によるあっせん」という言葉が使われておりまして、消費者保護基本法の中では地方公共団体に「あっせん」が認められているということになって、「あっせん」という言葉が使われているのですが、例えば国民生活センターでは「あっせん」というものが法律上はないものですから、実質的にはやっていますけれども、「助言」という言葉でも消費者の苦情相談で使われています。
 「助言」という言葉が、先ほどの「その他」の「相談(苦情処理)①」の定義からすると、少し「助言」のニュアンスが入らないという感じで、この①の書き方が、確か両当事者の意見を取り次ぐという規定ぶりになっていますので、ちょうど「あっせん」と「相談(苦情処理)①」との間ぐらいのニュアンスが実際の相談現場ではよく行われているということがあって、そういうことを分ける意味があるのかということと、分けたにしても、実際の現場が本当にそれに基づいてできるかというのは、また別問題ですけれども、少し問題意識としては提出させておいていただきたいと思います。
 それから、これはさほど意味はないと思うのですが、「あっせん」についてどういったものを念頭に置いているかというところで、2ページにFとして「弁護士会仲裁センターの行う和解あっせん」と書かれているのですが、実際には消費者センターなどでもあっせんを行っていますので、特に限定をされたわけではないと思うのですけれども、ここも補足的に意見を申し上げておきたいと思います。
 以上の2点です。

○青山座長 わかりました。後の点は例示ですね。

○小林参事官 ちょっと書きぶりが悪かったかもしれませんが、例示です。

○青山座長 最初の方はいかがでしょうか。「相談」だけではなくて、「助言」ということもある。それはちょうど「あっせん」と「相談(苦情処理)①」の間ぐらいの位置だとおっしゃるわけですが、それを分ける意味があるかどうかということですね。

○高木委員 「助言」というのは、一方の当事者に助言するのですか、それとも双方いるところに助言するのですか。

○原委員 一方で済む場合もあります。

○高木委員 「早期中立評価」と似たような感じのものになっているのかと思って、そこの実態がわからないですね。消費者センターでの助言というのが、どのように行われているのか。

○原委員 消費者に対しての助言ということもありますし、事業者に対しての助言もあるし、双方に対しての助言ということもあり得ます。
 だから、分けてどれほどの意味があるかということなのですが、そういう言葉も使われているということを念頭に置いておいていただければということです。

○小林参事官 消費者行政、特に窓口の業務につきましては、非常に御苦労されているということはよく理解いたしておりますし、それから消費者相談窓口の位置付けにつきましては、現在、内閣府の国民生活審議会の方で御議論されていると伺っておりますので、ここで特定の方向性なり、あるいは価値判断をお示しするつもりはないのですけれども、整理だけの問題で申し上げれば、いわゆる一方当事者への「助言」は、ここで言う「相談(苦情処理)」に該当するのではないかと思います。それから、双方当事者に対する「助言」ですが、これについてはここでいう「あっせん」に該当するのではないかと思います。
 それから、単に、単にと言うとちょっと語弊がありますが、そういう助言は付けずに、両当事者の間をつなぐということであれば、ここで言う「相談(苦情処理)①」に該当するのではないかと整理としては考えております。
 ただ、そのうちどれが適切であるとか、あるいは現実に行われているものがどれに該当するのかというのは、先ほど申し上げたように、おそらく、あるべき論を今御議論されているところだと思いますので、それについてこれ以上踏み込むつもりはないのですが、定義との関係で言えば、そういう整理ではないかと思います。

○青山座長 これはいわゆるイディアル・ティプスみたいに、こういう類型があるということですから、現実にそういうことが行われるとしても、それはどちらかに大体理論的には整理できるということでよろしゅうございますか。
 ほかに何か御質問なり御意見があれば承ります。

○安藤委員 今の件で、ちょっと難しいのですけれども、やはり「普及」、「啓蒙」、「相談」というジャンルで考えると、「相談」がポンと離れてしまっているというのは、やや不安です。「相談」と言いましても、相談に来るということは、これが苦情なんですという相談ではなくて、どうしたらいいでしょうという相談が結構あると思うのです。そうすると、それは「あっせん」なり「調停」なりに向かっていく「相談」という考え方もあると思うのです。ですから、図式で見ると、あまりにも「その他」というようにポンとはねられている感じがするので、その辺がもう一つそこまで割り切っていいのかなという気はします。

○青山座長 今、最初に「普及」とおっしゃいましたか。

○安藤委員 「普及」、「啓蒙」。これを兼ねた窓口、いわゆる下の方の考え方から言いますと、「普及」、「啓蒙」、「相談」というのは、ワンセットでやる窓口が必ずなくてはいけないという形から言いますと、そこへどうしたらいいでしょうという「相談」があって、それがあらゆるところへ入っていく、1つの道筋になるのではないかという感じがしますので、議論の面でこのように分けて議論しましょうというのはいいのですけれども、全体の流れとしてパッと離れてしまうような感じを受けるとまずいかなと思っています。

○青山座長 これは、さっきの説明にもございましたように、「その他」のところから縦だけに点線がありますけれども、それからまた左の方にいくということも当然考えられているところで、「手続の最初の段階で」という言葉が資料の方にございますけれども、手続の最初の段階で一方から相談を受けたと、それを他方にも助言なり意見を述べるということによって、今度は「あっせん」の方に移行するということもあるという理解ですね。

○小林参事官 はい、これはその場面場面を捉えていますので、若干ぶつ切りの感がありますが、当然移行していくと。特にこの場合ですと、右から左に移行するケースはよく想定されることだと思います。

○原委員 補足的に、多分「その他」という言葉が何か少し外されているという印象につながっているのではないかと思います。何かそれに代わる適切な言葉があればその方がいいですし、それがなければそのまま下ろす線でもいいのかなと思います。

○小林参事官 わかりました。これ自身いろいろ波紋を呼ぶと、それは全然意図するところではありませんので、もう少しポジティブな書き方にいたします。

○青山座長 よろしゅうございますか、どうぞ。

○龍井委員 すべての場面を想定できていないので、私もどのように質問していいか迷っているのですが、いわゆる「受諾義務」のところの「異議を述べることが許されない」という表記が、ケースによって、法律上、契約上、それから括弧書きで当然仲裁のようにと、許されないということ自体で、根拠とレベルと、つまりそれ自身がもう少し幾つかの段階が想定されていくものなのか。
 その辺がこの8ケースの中に全部網羅されているわけではありませんね。だから、他のケースがあった場合に、同じく「許されない」場合でも、あるいはケースによっては、また不服審査に戻ることも全くないわけではないということもあり得るのかもしれないし、それがまだ私自身わからないので、もう少し整理する余地があるのか、あるいはむしろこれで決めた方が論理仮説としてはすっきりしたものになるのだからやっておいた方がいいのか、ちょっと今、自分でも迷っているものですから、わかれば教えてほしいのです。

○小林参事官 冒頭申し上げたように、対象となる手続を一応どこか1か所に所属するという考え方で分けておりますので、そういう意味で言うと全部をカバーしております。
 逆に言うと、そのためにはやや概念の中で少し複雑なものが出てきてしまっておりまして、それがまさにここに表われているのですが、契約、法律、あるいはそもそも制度としてという、いろいろなものをこの「受諾義務」という言葉で括らざるを得なかったということでございまして、この中を勿論分けることは可能ではありますけれども、そこまで分ける実益は、この段階ではないのではないかと思いますが、いずれにしても、この8つで全部をカバーしているつもりです。

○青山座長 よろしいでしょうか、どうぞ。

○三木委員 作業仮説としては、これで結構だと思いますが、「調停」と「あっせん」ですが、これまでの議論では、「調停」というときは大体「あっせん」を含めた意味で使うことがほとんどでしたので、了解事項として毎回「調停及びあっせん」というのは煩しいですから、何も断わらずに特に「調停」と言えば、「あっせん」を含むということで、この検討会の議論としては、了解事項にしておけばいいのかなという気がいたしますが、いかがでしょうか。
 特に「あっせん」と分けたいときは、「調停及びあっせん」とか、「調停又はあっせん」と言えば済む話だという気がいたします。

○青山座長 これは、前から何のために議論をしているかということがありますが、同じ言葉を使いながら、しゃべっている人と聞いている人が異なるイメージを持つと困るということで、「調停」の方は案を示して、そしてノーということになっても説得の努力を続けるというのが「調停」だと、「あっせん」というのは、そうではないというように概念的に区別しておきましょうということで、これが実際に機関によって「あっせん」という言葉を使いながらそうではないことをやっていると、あるいは「調停」と言いながら「あっせん」だけで打ち切りになるということもあり得るけれども、ここでの概念整理はこのようにしましょうということなのです。
 ですから、三木委員のおっしゃるように、それで皆さんにわかればそれで構わないのですが、ここのところは少し注意して発言したいという場合には、きちんと区別してしゃべっていただくと、それで十分かと思っております。
 よろしゅうございますでしょうか。どうぞ。

○原委員 1点よろしいですか。言葉の使い方で、私は全くの素人なので、きちんと決められた中での使われ方だとは思うのですが、「当事者の互譲による紛争解決」の「互譲」という言葉は、これから基本理念の話に入っていきますけれども、当事者同士が主体的に解決したいというときに、どうもこの「互譲」という言葉が、私はなじまないというところがあって、何かもう少し主体的に関われるというような表現にならないのか、それとも全く落としても意味は通じるとも考えています。
 もう一つ、「苦情処理」というときの「処理」という言葉も、これは山本先生とも金融のADRの議論で御一緒しているのですけれども、「処理」という言葉ではなくて、「解決」という言葉を最近私どもは使い始めておりまして、苦情とか紛争の「解決」という言い方で、「処理」というのは、機関などがどういう形で苦情とか相談を処理していくかという、主体が向こうにあるような考え方で、消費者側としてはやはり苦情を解決してほしいということで、「解決」という言葉を使ってきていますので、言葉として気になる箇所を指摘しておきたいと思います。

○小林参事官 第一点は、「互譲による」というのは、確かにお互いに譲らせると取ればそういうことですが、もともとこの言葉が使われている趣旨は、むしろ委員がおっしゃっている「主体的に」という趣旨で使われているものと理解しておりますので、この言葉にこだわるつもりはありませんけれども、そう受け止められているのが一般的だということを申し上げておきたいと思います。
 「苦情処理」の方につきましては、「処理」という言葉はおそらくADRの訳語のときにも議論になり得ると思いますので、そういう御指摘は受け止めておきます。

[(2)ADRの拡充・活性化の基本理念]

○青山座長 よろしゅうございますか。
 それでは、議事次第の2番目の課題に入りたいと思います。検討事項1-3の「ADRの拡充・活性化の基本理念」でございます。
 それでは、資料に基づきまして、小林参事官から御説明をお願いいたします。

○小林参事官 それでは、資料1-3、全体で5ページになりますけれども、これに基づきまして御説明していきたいと思います。
 まず、ここで議論いたします基本理念につきましては、法案がどういう形になるかは、まだ今の段階ではっきり見えているわけではありませんけれども、可能であるのであれば、いわゆる法律の基本理念として盛り込むことが考えられる、あるいは盛り込みたいと考えている内容でございます。
 ただ、仮に内容的にこれでいいということになっても、法令の言葉としては、これはいろいろ他の法律との並びなり、あるいは明確性、その他いろいろな法律としての要請がございますので、このままの言葉が使えるかどうか、これは関係方面との調整が必要になるわけですけれども、基本的な考え方として、こういったことでいいかどうかという辺りを御議論いただければと考えております。
 3部構成になっておりまして、3つの切り口で議論を進めております。
 1.は、「ADRを拡充・活性化する意義」についてです。2.としまして、拡充・活性化を図っていく際に、どういう点に留意をしていく必要があるかということでございます。3.は、そういった拡充・活性化を図っていく上で、具体的にどのようなことがなされるべきかということでございます。
 こういった内容について、できれば法案の形でお示しし、国民一般の御理解を得ていきたいと考えております。
 なお、なお書きのところでございますが、これはADRを前提に文章は書いてございますけれども、前回御議論いただきましたように、ADRと並んで、この法案の対象として視野に入れていくべき相談、あるいは苦情処理につきましても該当し得るものと考えております。
 以下申し上げる点は、基本的には総体としてのADRの拡充・活性化を念頭に置いたものでございまして、特に2.の留意事項の辺りにつきましては、特に個々のADR機関がすべてこれを満たさなければならないというところまで考えたものではございません。総体としてADRの将来像がこういう形になるべきではないかということでございます。
 それぞれの項目に入りたいと思います。まず「1.ADRの拡充・活性化の意義」でございます。以下も同じですけれども、夏休みのレポートも含めまして、これまで皆様方からいろいろお寄せいただいた御意見をできるだけ幅広く取り入れる形でまとめさせていただいております。ただ、そうは申しましても、やはり分量的な問題もございますので、それぞれ3つぐらいを目途にまとめているということでございます。
 まず、拡充・活性化の意義につきましては、①②③に入る前の四角のところにございますが、究極的にはこういったADRの拡充・活性化によりまして、社会全体の紛争解決機能が拡充され、ひいては自由かつ公正な社会の形成という司法制度改革の基本理念に寄与していくというのが大きな意義ではないかということではございますが、そういった中で、ADRの位置付けというものはどういったものかというのが①②③でございます。
 まず、①につきましては、「相対交渉の限界を補完し、国民の自主的・主体的な紛争解決を促進」していくということでございます。
 枠囲いの下にございますように、やや大上段の議論になっておりますけれども、近代の私法関係におきましては、先ほども少し議論になりましたが、私的自治が原則とされておりまして、その紛争解決の解消につきましても、本来的には当事者間の合意を基礎とした自主的解決に委ねられているということでございます。また、現実問題としても、その方が、その後の当事者間の生活関係が円満にいく場合も多いのではないかと考えられるわけでございます。
 しかしながら、1枚めくっていただきまして、こういったいわば相対交渉で問題を解決していくということにつきましては、やはり自ずといろいろな問題点があるということでございまして、端的に申し上げれば、当事者間で解決して、あるいはそれぞれの情報格差、あるいは社会的な立場の強弱、そういったものがあるわけでございまして、すべてを当事者同士の相対交渉に委ねてしまうということになりますと、そもそも紛争が解決しない、あるいは表面的には解決したように見えても、それは社会的に見て必ずしも好ましくない結果を招来する可能性があるわけでございまして、こういったものを補完するシステムというのは、やはり必要ではないかということでございます。
 特に今後、事前規制型社会から事後チェック型社会へ移行するということになりますと、いい悪いは別として、紛争発生機会は増えていくと考えられますし、社会全体が高度化、複雑化してまいりますと、先ほど申し上げたような当事者間の情報格差あるいはそれ以外の格差というものもかなり出てくるケースはあり得るのではないかと考えられるわけであります。
 したがいまして、こういった相対交渉による紛争解決の限界を補完しまして、適正な解決結果が得られるように、当事者同士の合意を基礎に置いてはおりますけれども、そこに第三者が関与することによって、より適正な紛争解決を容易にするという意味において、相対交渉の限界を補完するADRを拡充・活性化していくことが必要ではないかということが第1点でございます。
 それから枠囲いの中の2.でございますが、「訴訟制度の限界を補完し、多様かつ広範な国民の紛争解決ニーズに対応」するということでございます。
 「限界」という言葉がややきついかもしれませんけれども、2ページの中ほど(3)にございますように、訴訟制度には、やはり訴訟制度が本来的機能を有しているがゆえに、紛争、手続、解決基準の面である程度限定がされてしまうと、あるいは国がそれを実施しているということからすると、資源配分上も一定の制約がある、端的に言えば、人的問題、あるいは予算面での問題ということになりますけれども、そういった制約もあるということで、訴訟制度によって国民の有する多様で広範な紛争解決ニーズのすべてに対応するというのには自ずと限界がある、すべてをカバーすることは難しいということがあるわけでございます。
 他方、先ほど申し上げたように、紛争解決のニーズというのは、今後ますます多様化、あるいは量的にも拡大していくということを考えますと、やはり訴訟制度との比較という意味においても、それを補完するものとしてのADRが必要になってくるのではないかということでございます。
 ③は、「司法制度への入口に位置し、社会における紛争解決機能の基盤を構成」するということでございますが、これは社会全体、訴訟も含めて紛争解決制度はあるわけでございますが、その中でもとりわけ比較的国民に近い位置、例えで申し上げれば、訴訟を中核とする司法制度の入口に位置して、紛争解決機能の基盤を構成するということが言えるのではないかと思います。更に言えば、そういった司法制度の中での水先案内人的な役割というのが、このADRにも期待されているのではないかというのが3番目の意義でございます。
 こういった点、3点を含めましてADRを拡充・活性化することによりまして、社会全体の紛争解決機能を強化していくというのがADRの拡充・活性化の意義として捉えることができるのではないかというのが1番目のポイントでございます。
 2番目でございますが、3ページ以降ですけれども、こういったADRの拡充・活性化を進める上での基本的な考え方ということでございます。
 3ページ中ほどの枠囲いにございますが、基本的には連携と競争を促進していくということを考えていくべきではないかと。この連携と競争というのは、ADR間の問題でもありますし、それからADRと訴訟という間でも考えられるものであると思いますけれども、そういった連携と競争の促進を図っていくべきではないかということでございます。
 その際に考えるべき点として、以下3つ挙げてございます。これもこれまで皆様からいただいた御意見をまとめたものでございますが、1つは「手続・解決基準の選択や手続の進行過程における当事者の主体性の尊重」ということでございます。これはADRの一つの大きな特徴と言えるのではないかと思います。
 2番目が、「当事者のニーズにかなった選択を可能とするための手続・解決基準の多様性の重視」ということでございます。これは現実にこういった多様な手続・解決基準を有するADRがないと、当事者の選択とはいえ、それが実現できないということでありますので、できる限りこういった選択が可能となるような手続・解決基準の多様性を重視していく必要があるのではないかということでございます。
 3番目が、「自由で公正な社会の形成に寄与する存在となるための信頼性の確保」ということでございまして、4ページでございますが、今申し上げたように、当事者の主体性の尊重、あるいは解決手続や解決基準の自主的な選択ということは、勿論それは意義を有するわけではありますけれども、しかしながら、それがゆえに解決結果が正当でないということはやはり好ましくないと考えられるわけでございまして、訴訟制度にせよ、あるいはADRにせよ、相対交渉ではなくて、第三者の関与の下で紛争解決を図るという意義につきましては、やはり相対交渉に任せていたのでは正当とは言えない解決結果が生まれる可能性があるわけでございます。
 それを改善していこうということにあるわけでありますので、それに値するだけの第三者の関与ということでなければ、逆に、これもこの検討会で何度か指摘されておりますが、ADRがあるがゆえにかえって紛争が複雑化する、あるいは長期化するという問題が生じかねないわけでございます。
 したがって、やはりADRがその役割を果たしていくためには、国民から制度として信任を得られる存在である必要があるのではないかということでございます。
 以上、「当事者の主体性の尊重」、「手続・解決基準の多様性の重視」、「信頼性の確保」という3点を旨として先ほど申し上げた連携と競争の促進が図られるべきではないかということでございます。
 勿論、これは基本的な考え方でございますので、具体的な制度設計に当たりましては、どの点を重視するかによって、制度設計の姿も変わってくるかと思いますけれども、やはり総論としては、いずれかということではなくて、この3つをバランスよく考えていくということではないかと考えております。
 5ページにまいりますが、それではこういったADRの拡充・活性化を具体的にどのように進めていくのかということでございます。ここでも3点挙げさせていただいております。
 1つは、この検討会発足以来、何度も強調されてきたことでございますけれども、「ADRに対する国民の理解の増進」ということでございます。これは、必ずしも個々のADRについての普及・啓発ということにとどまらず、5ページの(1)にございますように、そもそもADRの基本的な考え方でありますとか、位置付け、意義、それから具体的なADRについての理解の増進といった大きな意味でのADRに対する国民の理解の増進が必要ではないかというのが第1点でございます。
 第2点は、ADRそのものの「利便性、実効性、信頼性」の向上ということでございまして、単に一般的に理解を増進していただくだけではなくて、現実に利便性なり、実効性が上がらなければ、あるいは信頼性を得られなければADRは利用されないということになるわけですから、こういったものを確保していくということが2つ目のアプローチになるのではないかということでございます。
 3番目に「ADRを提供する体制の充実・強化」ということでございまして、勿論ADRにつきましては、アド・ホックに行われるものもあるわけでございますが、多くの場合は機関によって行われるケースが多いわけでございますけれども、こういったADRを提供する体制の充実・強化を図っていくということがないと、先ほど申し上げたような、利便性、実効性、あるいは信頼性の向上にもつながらないということにおいては、体制の充実・強化も必要ではないかということです。
 この体制の充実・強化には、財政面もありますし、あるいは体制の問題もありますし、現実には非常にたくさんのテーマもありますし、それは必ずしも法律によって担保されるものではない、現実的な連携の促進などによって担保しなければならない面も多々あろうかと思いますけれども、こういった体制の充実・強化も必要ではないかということで、以上、3点にまとめております。
 若干駆け足になりましたが、以上でございます。

○青山座長 どうもありがとうございました。それでは、ADRの拡充・活性化の基本理念について御議論いただきたいのですが、何のためにこの議論をするかと言いますと、これから各論に入りまして、さまざまな制度設計をしていく前提として、全委員が基本理念の面である程度共通の認識を形成しておくことが必要だろうということでございます。
 着地点の方から申しますと、この議論をしておきますと、将来ADR基本法というようなものができるとすれば、その第1条というような、この法律の目的というようなところに、これがそのまま役立つのではないだろうかと、そういう意味もございます。
 例えば、消費者保護基本法とか、中小企業基本法だとか、環境基本法だとか、たくさんの基本法の第1条というものには、その法律が目指している制度についての意義とか、機能とか、目的とか、そういうものが織り込まれているわけですが、今日の御議論は、共通認識を形成するとともに、そういう法律の第1条に相当するようなものが、これによってできるのではないかという気がいたします。
 今日の資料は、先ほど小林参事官の方から御説明がありましたように、昨年の夏休みに出していただいたレポートをなるべくたくさん集めて、こういうことでまとめさせていただいたというものでございます。
 大きく論点1、論点2、論点3と分かれておりますので、それぞれ20分ないし、30分で御議論いただきたいと思っております。
 まず、論点1が「ADRの拡充・活性化の意義」という、1ページから3ページの真ん中辺までの部分でございますが、これにつきまして、(1)から(5)まで分けてございますが、内容は先ほど小林参事官の御説明のとおりでございますので、(1)から(5)までのどの点からでも結構ですので、この論点1をまとめて御議論いただきたいと思います。
 どうぞ、原委員。

[1.ADRの拡充・活性化の意義]

○原委員 論点1の③の書き方ですけれども、「司法制度への入口に位置し」という表現ですが、大変言い方が難しいのですが、確かに訴訟へ行く前段階としての位置付けというのは、勿論あるかと思うのですけれども、必ずしも訴訟には行かない紛争解決の在り方というのがどうか。紛争解決というのは、必ずしも司法を最終的なところにするのかどうか、そこを最終的なものとしない紛争解決の在り方というのもあるのではないかと考えると、「入口」という表現が妥当かどうかというところが1つ気になります。
 よく消費者運動や市民運動がADRをどう捉えているのか、司法そのものをどう捉えているのかとよく言われるのですが、司法はすごく大事だと思っているのです。やはり、中心的な柱であろうと思っていて、ADRの拡充・活性化をしてほしいということは、司法をないがしろにしろということを言っているわけではないのです。
 司法についても非常に大事だと、ですから、司法制度改革ですとか、司法を強力なものに、社会できちんと機能していく役割を是非果たしていただきたいというように、そこは変わることなく思ってはいるのですけれども、「入口」という書き方にされてしまうと、紛争解決は最終的にはすべて司法に行くのだというのとは少し違うような感じがしておりまして、その辺りの考え方は、他の委員の方々はどのように思われているかということをお聞きしたいと思います。

○廣田委員 私もそういうところに少し引っかかるところがあるのですが、これは2ページの真ん中ぐらいに「強行的に紛争解決を図る制度」という言葉で狭く捉えますと、やはりADRとは少し違うのではないかという感じがします。
 しかし、この文章全体を読みますと、司法と訴訟制度という言葉を何か使い分けている感じがするのです。よく読むと使い分けているので、その点は問題がないのかなと思います。「司法制度の入口」という場合の「司法」という意味を広義に捉えているという観点からすれば、今の御指摘のところは狭く考えると、歴史的にもADRと別の流れが出てきますので、これは別ということがあるのですけれども、ここの③のところは大きくふわっと捉えているという意味だったらクリアーできているのかなという感じはするのです。
 その辺の広義、狭義のところの確認をお願いしたいです。

○小林参事官 ここの「司法制度」という言葉は、広義の意味で考えております。
 今、原委員がおっしゃったのは、2つの点が入っていたと思いますが、1つはすべての紛争解決が狭義の司法、要するに訴訟に行かなければならないと考えているのはおかしいのではないかとおっしゃったように聞こえたのが1点。
 もう1つは、広義の司法制度だとしても、訴訟に行く前にADRを通らなければいけないと読めるというのがおかしいのではないかとおっしゃっていたようにも聞こえたのですが、それは両方ともですか。

○原委員 後者の方は特に考えていたわけではなかったのですが。

○小林参事官 必ず訴訟に行かなければいけないというように読めるということですか。

○原委員 紛争解決のよりどころとなるものの話をしているような気がします。だから、必ずしも訴訟へ行って裁判などで法律判断するということではなくて、もっと広義の紛争解決という手法があるだろうと、そうすると、一番最初におっしゃられたように、入口という表現だけで括ってしまうとどうかなということです。
 廣田先生がおっしゃったように、ここは広義で使っているんですか、狭義で使っているんですかというのが関わってくるのだとは思います。

○青山座長 どうぞ。

○三木委員 私も原委員のおっしゃることに共感を覚えます。司法制度を広義に捉えるにしろ、狭義で捉えるにしろ、「入口」というのは、やや問題があるかもしれません。狭義で捉える場合には、究極の目的は訴訟かということになりますし、広義で捉える場合には、それはADRの入口でもあるし、出口でもあるわけですから、いずれにしても言葉遣いとしてやや誤解を招きやすいと。事務局が用意されたときに、そういう意図は勿論ないであろうことはわかっていますけれども、表現として誤解を招きやすいという気がいたします。
 おそらく③で言おうとしていることは、適切な比喩かどうかわかりませんが、「草の根民主主義」という言葉がありますけれども、それに近い意味で、訴訟というのは、国民からは敷居の高いもので、ADRを活性化することで、身近な紛争解決というものが周辺に配置されて、国民全体の紛争解決の意識とか、インフラの底上げになるというようなニュアンスがもう少し出るような表現の方がより望ましいかなという気はいたしております。
 その意味で、後半の方の「社会における紛争解決機能の基盤を構成する」という表現、この言葉が一番いいかどうかは別として、この辺りは適切な表現かと思いますけれども、前半の「司法制度の入口に位置し」というのは、繰り返しになりますけれども、誤解を招くおそれがあると思います。

○青山座長 ほかにございますか、どうぞ。

○安藤委員 私の立場としましては、「裁判と並ぶ」というのを疑問視しておりましたので、「裁判とつなぐ」という考え方からすると、この「入口」というのは、すっとのみ込めてしまうのです。ですから、相変わらず「裁判と並ぶ」という考え方が、もう一つ前段にも書いてあるのですけれども、私はむしろこっちの方に少し首をかしげている状態なのです。

○青山座長 これはいろいろな人のレポートをつなぎ合わせた点がありますので、必ずしも統一的にできているということでもないので御了解いただきたいんですが、私はこう考えております。
 勿論、裁判は権利救済の最後の堡塁であることは間違いないと思います。しかし、原委員がおっしゃっていましたけれども、それが中心的なものかと言うと、主従というようなもの、あるいは中心と周辺とか、そういうものではなくて、やはり「並ぶ」ということがおかしいとしても、裁判というものと、それとは別のものがあって、その総体が社会における正義の総量を増量していくというものとして、司法制度改革審議会の意見書は捉えている。だから、「裁判制度と並ぶ、国民にとって魅力的な選択肢」という言葉を使っていると思うのです。我々は、それを受けておりますので、個人的にはいろいろなニュアンスの違いがあっても、確かに「入口」と言うと、非常にぎらつくところですので、これがそのまま最終的に何かの文言になるということではございませんけれども、今、原委員や三木委員がおっしゃったのが、どうも改革審議会の意見書を受けた全体の流れではないだろうかと思っております。
 安藤委員が、そのようにお考えになるのは、勿論構いませんし、それはそういう考え方も当然ですけれども、そのように理解させていただいてよろしゅうございますでしょうか。
 綿引委員、何かこの点でございますか。

○綿引委員 別にADRが裁判制度への出発点だとか、前置だという意味でこれをお使いになっているのではないだろうと思います。
 あえて申し上げれば、別に「司法制度の入口に位置し」というのがなくてもいいのかもしれないですね。相対交渉の限界を補完して紛争解決を促進すると、それから訴訟制度の限界を補完して多様な紛争解決のニーズに応えるということで、全体として社会における紛争解決機能の基盤を形成していくのだと、この程度の理解で別に「入口」というのを、前置だとか、必ず裁判に行けと言っているのではないという共通の理解にしておけば、そこはよろしいかなと思います。

○青山座長 ほかの点でいかがでしょうか。

○原委員 もう一点、②の「訴訟制度の限界を補完し」という言葉も、言葉だけの問題ばかり言って申し訳ないのですけれども、綿引委員の方は、「相対交渉の限界を補完し、訴訟制度の限界を補完し」とおっしゃっていらっしゃったのですけれども、私はやはり訴訟制度に「限界」という言葉を使っていいのかなというのが気になって、2ページの(3)の○の3番目のところに「訴訟制度の限界を補完し、訴訟制度のみでは満たし得ない多様で広範な」と書かれていて、後半の「訴訟制度のみでは満たし得ない多様で広範な」という、私はここが主眼であって、訴訟制度に「限界」という言葉をくっつけて括ってしまっていいのかなと、これまた単純な国語的な問題で引っかかっていたのですが。

○三木委員 こちらはこの言葉を残すべきだと思います。ADRの歴史から見ても、もともと訴訟の限界というところからADRムーブメントは出発していて、世界各国の各種の公的、私的な文章にもよく使われている表現ですので、落とす必然性はないと思います。

○原委員 私は司法にも頑張っていただきたいと思っておりますので。

○綿引委員 司法が万能でないことは間違いないことですし、まさにアメリカなどでは本当に司法の限界を補完するためにADRの制度が出てきたというのは、歴史が語っていることだと思います。限界だからやらないと私たちも言うつもりはありませんから。

○青山座長 よろしゅうございますか。論点1のADRの拡充・活性化の意義の点は、他はよろしゅうございますか。
 それでは、大体、これについては共通認識ができたと思います。

○小林参事官 入口のところは、更に検討させていただきます。

[2.ADRの拡充・活性化を進める上での基本的考え方]

○青山座長 それでは、論点2の3ページの半ばでございますが、「ADRの拡充・活性化を進める上での基本的考え方」ということで、ここでは「連携」と「競争」というキーワードが使われており、①、②、③の「主体性の尊重」、「手続・解決基準の多様性の重視」、「信頼性の確保」ということがうたわれておりますが、これについてはいかがでしょうか。あるいは足りない点があるということもあるかもしれませんので、御指摘いただければと思います。

○綿引委員 前回から私が申し上げている議論の続きですけれども、ここでの議論の対象に行政型ADRを含めるという前提に立ってしまった場合に、「解決基準の多様性の重視」ということが、行政型ADRにも被ってくると言われると、これは困ったなということになるのではないかと思うのです。
 私は前回からも行政型は外してしまった方がいいのではないかと言っているのは、まさに民間型ADRのことを考える場合には、ここにお書きになっているようなことでよろしいのだと思いますが、先ほど小林参事官は全部が全部被るわけではないとはおっしゃったけれども、仮に行政型ADRにもこのように努めなければいけないと言われ、解決基準をもっと多様化しなければいけないのだというようなことが、行政型ADRで議論された場合には、非常に困った事態も起こり得るのではないかということがあるので、そこは少し御検討いただく余地があるのではないかと思っております。

○青山座長 行政型ADRとは、例えばどういうものですか。

○綿引委員 例えば、国税不服審判所の審判などで、「解決基準を多様化しろ」などと言われては絶対に困るということになると思います。

○小林参事官 先ほどの御説明の中でも少し触れましたが、これは総体としてのADRの拡充・活性化を図っていく上での考え方でございますので、特定のADR機関、個々のADR機関が個々のレベルにおいて全部これを満たせということを申し上げているつもりはありません。
 ただ、行政型ADRの特殊性というのは、御指摘のとおりだと思いますので、それは今後議論していく際に、必要な場面でそれに応じた措置を講じていくということになろうかと思います。
 ただ、行政型ADRの定義にもよりますけれども、かなりいろいろな性格のものが含まれておりますので、今、例にお出しになった国税不服審判所などというのは、確かにそういうことであるかと思いますが、行政機関が主体となって設立したものであっても、こういう考え方があるものもあり得ると思いますし、そこは個々の機関レベルでは措置を考えていくということではないかと思うのですが、全体としてのADRの拡充・活性化を考えていく際には、そういったものもあるし、そうでないものもあるという形で、やはり多様性というのは重視されるべきではないかという考え方ではあります。

○廣田委員 行政型でも、今の御説明のとおりいろいろありまして、例えば中央建設工事紛争審査会などで議論されているのは、約款に書いてあるとおり判断しなければいけないのか、それを多少柔軟に解釈してはいけないのかいう古い議論がありまして、もし柔軟に解決するならば何を使うかという議論があって、やはりそういう問題も出てきているのです。ですから、ADR機関によりけりだと思うのです。
 だとしても、やってはいけないところも確かにあると思うので、「可能な限り」とか、「現実に合わせて」というような含みを持った意味でのまとめということで理解すればクリアーできませんでしょうかね。

○綿引委員 私は、むしろ行政型を外しておいた方が議論が純化していいんではないかなという気が、前回、前々回からあるので申し上げているだけなのですけれども。

○安藤委員 そうですね、ADRの限界というのを決めないと議論もできなくなるかなという気はします。

○廣田委員 ただ、先ほどありました論点1で書かれているようなことは、まさに行政型ADRにも当てはめて、このとおり何とか方向付けをしたいというところが当然あるのです。そういう意味では行政型を入れたいという気持ちを持っております。

○三木委員 この「多様性の重視」という言葉の読み方ですが、これは私の理解では、例えば訴訟のように硬い手続もあるし、行政型ADRでも、綿引委員がおっしゃった国税不服審判所のような硬い解決基準を取っているものもあれば、そうではない緩やかなものもあると。つまり、いろいろなADR機関ができることが「多様性の重視」であるという趣旨で私は取ったので、一個一個の機関が内部手続として解決基準を多様化しろと言っているのではないと思うのですが。

○綿引委員 ただ、ここの言葉の流れはそうではないと、今、三木委員が言われたのとは少し違うのではないかなという気がしたのですけれども。

○三木委員 ここはADRの拡充・活性化を図る上での基本的考え方ですから、ADRをどういう考えで拡充・活性化するかと言うと、多様な手続や解決基準を持ったADRを揃えていって、国民に選択肢を広くするという趣旨であると私は理解しました。

○綿引委員 その限度では全く異論はないのですけれども、ただ、そこで拡充・活性化されるADRが、どういうものを目指さなければいけないかということも含んで、この問題は提起されているのかなと思ったものですから、そうなってくると少し違うのかなということで申し上げました。

○小林参事官 私の説明が少し舌足らずだったかもしれませんが、申し上げたかったことは、三木委員がおっしゃったことであります。
 ただ、より厳密に考えれば、例えば今のように整理したとしても、では税関係の紛争があったときに、硬いコースと柔らかいコースがあっていいのかという議論は当然あり得るわけなので、ですから、全体としての議論とはいえ、やはりそういう点に注意を払わなければならないという御指摘は、私は受け止めなければいけないのではないかと考えておりますが、ここは全体としての制度ということで御説明しております。

○青山座長 よろしゅうございますか。全体として行政型ADRもADRの中に含めるというのが前回の大勢でございましたので、それが入るという前提で、今のような具体的なケースについては、今後注意していかなければいけないということでよろしゅうございますでしょうか。
 論点2につきまして、他にいかがでしょうか。どうぞ。

○山本委員 2点申し上げたいと思います。第1点は、①の「当事者の主体性の尊重」に関係するのですが、先ほど原委員から提起された問題点とも関係するのですけれども、今ここに書かれていることは、ADRの手続に入ってからの当事者の主体性を尊重すると、このこと自体は私は全くそのとおりだろうと思うのですが、もう1つADRを選択するに当たっての主体性の問題というものがあるのではないか、主体性を担保する保障ということがあるのではないかということです。
 それはおそらく、訴訟手続が当事者にとって実効的な選択肢になっているということがADRの拡充・活性化の前提になるのではないかと私は思っております。
 これは、改革審の意見書の中でADRの拡充・活性化について、あえて「司法の中核たる裁判機能の充実に格別の努力を傾注すべきことに加えて」という文言が付されているということからも、改革審自身の御認識であったのだろうと思います。
 現在、ADR法、あるいはADR基本法といわれるものに対する議論について、幾つか批判的な論調の御議論が見受けられるわけですが、私の認識するところ、その多くはADRの拡充が結果として訴訟の利用を抑え込むことになるのではないかと、それによって法の支配がかえって実現されなくなるという結果になりはしないかということが主たる御懸念の点ではなかろうかと思っております。
 その点に配慮するとすれば、最終的な法律の文言がどうなるかはわかりませんけれども、共通の認識としては、やはり裁判手続の充実というものがADRの拡充・活性化を進める上での基本的な重要性を有することであるということを、もう一度確認しておく必要があるのではないかというのが、私の認識です。それが第1点です。
 第2点は、もう少しマイナーな話ですが、先ほども御議論があった②の「多様性」という点ですが、広い意味での「手続の多様性」ということにも含まれるのかもしれませんが、手続を運営する主体つまり機関、あるいは主宰者についてもその多様性を重視するということが言及されてよいのではないかという意見です。
 先ほども出ていましたが、司法型、行政型、民間型という、既にそういう意味での多様性はあるわけですが、その民間型の中でも、いわゆる公益型と言われるようなもの、あるいはNPO法人や中間法人が主体となるようなもの、更には株式会社など純粋に営利を目的とする団体が参入するということもあり得るのであろうと思っております。
 また、主宰者についても、これは③の「信頼性の確保」から一定の限定が付されるということは当然でありましょうけれども、できるだけ多様な人材がADRに参加してくるということは、充実・活性化にとって非常に意味があることではないかと思いますので、広い意味での手続を踏まえるということであれば、それで結構ですけれども、そういう点も基本的な考え方として重要ではないかと思っております。
 以上です。

○青山座長 今の御意見について、何か事務局の方からございますか。

○小林参事官 まず、裁判手続の充実と併せてと言いますか、むしろそちらを図りつつ、ADRの拡充・活性化を図っていくべきだということについては、意見書もそういうことでございますし、私どもも全くそういう前提で進めていくということだと思います。
 ただ、あまりにも大前提であるがゆえに、この3かける3の整理のどこに入れるべきかというのは、やや難しい面がありますので、場合によって全体を括る大前提として整理した方がいいのかなという感じがしております。
 2番目の主体の多様性の重視というのも必要ではないかということでございますが、これも特にそういうことも必要ではないかとは考えておりますが、若干御質問でもあるですけれども、手続・解決基準が同じでも、やはり主体はいろいろなものがあった方がいいということでございますか。

○山本委員 機関でも、主宰者でもそうですけれども、いろいろな主体、いろいろな人がADRに参入してくるのだということは、私は拡充・活性化にとって重要なことではないかと思います。
 それで、手続・解決基準が全く同じだったらどうかということもありますけれども、主体が違ってくれば、先ほども行政型の話もありましたが、通常はかなり違ってくるのであろうとは思いますけれども、姿勢として、そういう多様な主体が参加してくるということが望ましいということを明らかにするという趣旨です。

○小林参事官 総論として特に問題があるというわけではないと思います。先ほどの問題と同じで、主体の多様性の重視という場合に、いろいろ問題が波及しないかなど、少し気にはなりますので、他の方の御意見も伺えればと思いますが。

○青山座長 どなたか御意見はございますか。どうぞ。

○廣田委員 主体の多様性というものは、私は大事だと思いますので、それはどこかに置きたいと思うのですけれども、ここに置くのが適切なのか、「手続主宰者」という項目がいずれ出てくるのではないかと思うので、そこに置くのが適切かということで、懸案事項みたいな形にしておいたらどうかなと思うのですけれども、いかがですかね。それがいいのかどうかわかりませんけれども。

○青山座長 今の山本委員の御発言のうちの最初の問題は、多分大前提の大前提で、ここで言うと、例えば「連携と競争の促進」という中に入っていると。あとの「主体の多様性」というのも、②の「手続・解決基準の多様性」のバリエーションとして、ここで一緒に考えておくというくらいで、認識としてはいいのではないだろうかと思っておりますが、いかがでしょうか。
 今日の資料は、これで何かを決めるということではなくて、今日お出しして議論をしていくための素材として提供させていただいておりますので、この資料を更にリフレッシュしたものを確定版にするとか、そういうことは考えておりませんので、議論の素材になれば十分だと思っております。

○高木委員 どのように言っていいかわからないのですけれども、山本先生の御意見はわかる気分が半分以上で、ここに入れるのがいいのかなというのがもう1つの気持ちとしてあります。

○青山座長 第1点ですか、第2点ですか。

○高木委員 2点目の多様性の部分です。ここの整理の仕方は、当事者のニーズにかなった選択を可能とするためですから、確かにここに入れるという感じの分け方でもあるようにも思いますが、多様な機関がなければならないというのもわかりますけれども、どちらかと言うと、機関の多様性というのと、手続の多様性というのは違う問題なのかなと思いまして、ここに入れるがいいのか、何となく整理ができなくて申し訳ないのですが、考えてみたいと思っています。
 ③の「信頼性の確保」が被るというのは当然のことだとは思いますけれども。

○青山座長 ここで言う「手続」は、先ほどの8つの類型という意味での手続のことですか。

○小林参事官 それが1つの整理ではありますけれども、それに限らず、もっときめ細かくいろいろな手続があっていいのではないかということでございます。
 若干今ちゅうちょしているのは、手続・解決基準は確かに多様な方がいいというのは、すっと入るような気がするのですけれども、仮に手続、解決基準が同じでも主体がたくさんあった方がいいと、多様性があった方がいいということまで同じレベルで言い切れるのか、今の時点では自信がないと言いますか、勿論「信頼性の確保」はかかるとは言え、主体が多ければ多いほどいいという、そのこと自体が「手続・解決基準の多様性」と同じ程度重みのあるものなのかというのは、若干ちゅうちょするところがあるということです。

○青山座長 山本委員が提起された手続主体の多様性の問題につきまして、事務局は手続主体がたくさんあればあるほどいいと、そこまで含めて考えていいのかということを、事務局としては委員の御意見を聞きたいということですので、何かそれにつきまして、感触なり何なりをお聞かせいただければと思いますが。どうぞお願いいたします。

○綿引委員 おそらく「信頼性の確保」というのが被ってはくると思うのですけれども、やはり主体については、ある程度信頼性が確保されるようなものでなければいけないという頭が、事務局にもおありだろうし、我々にもあるような気がするのです。ですから、手続の多様性と言っているのと同じような意味で主体が多様になっていけばいいのだというようにただ言い切ってしまうことには疑問があるという事務局のお考えというのはよくわかるような気がします。
 だから、この②の部分というのは、要はメニューを豊富にしましょうという程度の意味で使っているということで、私も先ほどのところは理解しましたし、そんなところで、ここは一応留意事項として置いておこうと、廣田先生がおっしゃったようなところでよろしいのかなという感じがいたします。

○青山座長 山本委員、いかがでしょうか。

○山本委員 反論するつもりはありませんが、手続・解決基準の多様性にも同じ問題があるのではないかと思います。手続だって、一方当事者の意見だけを聞いて、他方の話を全然聞かないでやる手続は本当にいいのかと、それは解決基準も、まさに綿引委員がおっしゃったように、解決基準の多様性といっても紛争ごとに意味が違ってくると、それはそのとおりだろうと思うのです。
 ただ、ここでは私は一般論の話だと思うので、一般論としては、やはり私は多様な、勿論反社会的な集団がADRに関わってくるというのが排除されるというのは、当然の前提だろうと思うのですけれども、そういうものでなければ、できるだけ多様な主体が入ってくるのが、まさにADRの拡充・活性化にとって1つのキーであるというのが、私の個人的な認識です。
 ただ、問題の扱いは委員全員の方にお任せいたしますので、特にこだわるものではありません。

○青山座長 もうお一方かお二方。この問題について、原委員いかがでしょうか。

○原委員 どのように判断しようかなと思っていまして、山本先生の御意見だと、②の括り方で「手続・解決基準の」というのが入っているけれども、特にこれを入れずに「多様性の尊重」ということにして、手続・解決基準も勿論だけれども、主宰者と言うのでしょうか、主体も多様であればいいということだと思うので、基本的に私もそちらでうまく整理ができればいいなとは考えます。
 ただ、綿引委員がおっしゃったように、手続・解決基準の多様性の話と、主宰者の多様性というのが、同じところのレベルの範疇での議論になるのかというところでは、もう少し丁寧にしてみる必要があるのかなとは思いますけれども、大括りとしては、「主体性の尊重」、「多様性の重視」、「信頼性の確保」ということで並ぶのだろうとは思います。
 ちょっと半分半分の答えで申し訳ありませんが、今、考えているところはそういう感じがいたします。

○廣田委員 司法制度改革審議会の意見書に、多様なADRについてそれぞれ特長を生かし、その育成、充実を図っていくために云々という文言もありますし、専門家の活用という文言も出てくるわけです。多分、山本委員の御発言はそういうものを踏まえての話だと思いますので、だとすれば、ここでの約束は前向きに考えて、ADR基本法ができるのだったら、この意見書の趣旨を生かすという方向付けで考えておけばいいのではないかと思うのです。

○青山座長 ほかに御発言はありますか。

○安藤委員 私も表現の仕方だけかなという気がします。主体性の尊重だとか、多様性の重視、信頼性の確保、これを目的とするために、手続・解決基準の選択や手続の進行過程に十分留意するとか、そういう形になってくるのであって、書き方だけの問題かなという気がするのです。

○青山座長 ②の「手続・解決基準の多様性の重視」ということの中には、手続主体も入ってくるという御理解の方が、どうも大勢のように私は受け取りました。ただ、文言を変えるということではなくて、この中にそういうものも含んでいるという御理解で、先に進ませていただくということでよろしゅうございますでしょうか。事務局もそれでよろしいですか。

○小林参事官 「手続・解決基準の」と書くと、それ以外が排除しているように見えるので、そこは少し工夫してみたいと思います。

○青山座長 三木委員どうぞ。

○三木委員 大変細かい点で申し訳ないのですけれども、①の「当事者の主体性の尊重」というところで、これは「当事者の自治の尊重」という言い方もよくするのですが、「主体」と「自治」の言葉の選択で何か配慮された点があるのでしたらお教えいただきたいと思います。
 言葉だけの問題だろうと思いますが、「当事者の自治」という言葉を使う例も多いので、「主体性」という言葉と何か使い分けているんですかということです。

○小林参事官 そういう議論に耐え得る自信は全くないですけれども、気持ちとしては、「自治」と言うと、やはり最終的にはまとまると言いますか、お互いの関係というところがあると思うのですけれども、「当事者の主体性」というのは、もう少し個々人の方に着目した言い方として使っているつもりであります。

○三木委員 私の質問もそういう意味でして、「自治」という言葉を使うときは、両者の関係性を配慮した言葉なのです。当事者間で自らお互いに関係性を持って進めていって解決をしなさいというのがADRの本旨であると。
 「主体性」というのは、それぞれが言いたいことを言い合って、ぶつかり合いなさいというニュアンスが強くなるので、言葉だけの問題ですから、全くどちらでもいいのですが、若干そういうニュアンスの点も配慮して、むしろぶつかり合いなさいという方を選択したのですかという質問です。

○小林参事官 気持ちとしては、選択したということです。

○原委員 2点あります。補足的なのですが、「当事者の主体性の尊重」というところは、全国消費者団体連絡会のADRワーキンググループから冊子を送らせていただいていると思いますが、先ほどぶつかり合いかと言われましたけれども、消費者グループの中では、当事者の主体的な紛争解決の意思というものを尊重したものであってほしいということで、ずっと継続して意見を申し上げてきております。
 これは、少し反面的なところもありまして、これまでどうしても示された判断に従う、それから利用者側としてもどういう解決をしたらいいでしょうというお願いをするというような感じでしたけれども、そうではなくて、これからのADRというのは、主体的に自分たちが解決に関わるということを中心にしていきたいということ。そういったところを単なる私的自治という平たい言葉ではなくて拾っていただいたのだと思っておりまして、「主体」という意味は、消費者側もよく使っておりますので、そういう趣旨をこちらとしては考えているということです。
 2つ目ですが、「信頼性の確保」のところで、4ページに○が5つありますが、読んだときに非常に弱い印象があって、特に3番目の○に信頼性確保のための具体的な言葉が入っているとは思うのですけれども、ここで述べられているのも、解決機関の中立性の話と、解決基準の正当性の話だけなので、信頼性の確保のためには、本当にきちんと選択ができるかというための条件整備ですとか、透明性を図る、これは中立性や正当性にもかかってくるのかもしれませんけれども、透明性を図ることで信頼性を確保するとか、まだいろいろ肉づけをしていくような部分があるように思うのに、少しそこが弱くて、上から2番目の○を見ると、消極的な表現にとどまっているというような辺りで、今ということではありませんけれども、肉付けを今後図っていただきたいと考えております。
 以上、2点でございます。

○三木委員 先ほどのことと関連して、私はやや疑問がありまして、4ページの「(3)信頼性の確保」の2つ目の○のアンダーラインのところですが、「少なくとも相対交渉により解決を図る場合よりは低くし得る」という表現がいかがなものかという気がいたします。
 これは、相対交渉はADRよりも正当な解決が生まれる可能性が低いということを、アプリオリに前提にしているように読めるわけです。それはおかしいのではないかと思います。
 相対交渉であっても正当と言える解決が生まれる可能性は、ADRより常に低いという実証的な研究はありませんし、何よりも、特にこれはヨーロッパやアメリカなどでは顕著に見られますが、相対交渉こそが紛争解決の王道だと、相対交渉が勿論事案によっては機能しない場合もあると、そういうときにADRや訴訟を使うのだと。それは先ほど訴訟に限界があると言いましたし、ADRにも限界がある、相対交渉にも限界がある、いずれにも限界があるという話であって、相対交渉は、やはりすべての紛争解決の出発点だという気がいたします。
 原委員がおっしゃっている当事者の主体性という話も、相対交渉の地位を高く認めないと、それがADRになって当事者の主体性には結び付かないわけです。ですから、こういう表現自体が問題ではないかと思います。
 先ほど私が「主体性」と「自治」の言葉を気にしたのは、ここにあるように相対交渉を低く見ていることと、自治を選択せずに主体性を選択したことが結び付くのであれば、それは困るという意味です。

○青山座長 どうぞ。

○山本委員 私もよくわからないのですけれども、三木委員が言われることはもっとものようにも思えるのですが、おそらく事務局の意思を忖度しますと、ここで言おうとされていることは、BtoBの紛争のような話ではなくて、例えば一方当事者が消費者であるとか、あるいは労働者であるとか、定型的にさまざまな意味での力の格差があるというようなところで相対交渉に委ねると、場合によっては力関係が最終的な解決結果に反映してしまう場合があろうと、それは第三者が入ることによって、力の格差が均衡して、相対交渉の場合よりも紛争解決の最終的な結果が正当なものになる場合もあり得るということを言おうとされているのではないでしょうか。
 確かに常に低くし得るということではないんだろうと思いますが、そういう場合もあるのではないかということを言おうとされているのではないでしょうか。

○三木委員 山本委員がおっしゃるようなことを考慮しても、私はこの表現が妥当ではないと思います。
 なぜかと言うと、確かに事業者対消費者のように力の格差があるケースは幾らでもあるのですが、その場合でもそれがいきなりADRに行くわけではなくて、それぞれが例えば弁護士を立てて、つまり代理人によって力の格差を補って相対交渉をするというのもありますし、むしろ別に弁護士を付けなくてもよくて、国民生活センターの助言でも何でもいいのですが、相対交渉の場でも力の格差の是正というのはあり得て、それも含めて相対交渉こそが出発点だということだろうと思います。
 この点は、若干話を大きくするようですけれども、UNCITRALでの国際商事調停モデル法のときにも、ADRと、そういう交渉との関係というのは、かなり議論されまして、やはり交渉をおとしめるような議論は望ましくないということはかなり言われてきたわけです。そういったことも踏まえて若干表現を工夫いただければいいのではないかというのが個人的な思いであります。

○青山座長 わかりました。どうぞ。

○廣田委員 ここの2番目の○ですが、これは文章自体は、私は正しいことを言っているのではないかなと思うのです。しかし、私も相対交渉派ですから、三木先生の御意見に全く賛成なので、相対交渉をここで引き合いに出す必要はないのではないかという感じがするのです。
 むしろ積極的に言うべきこと、原委員がおっしゃったように、もう少し強い表現でいいと言えば、例えば一番気になることは、公序良俗違反だとか、強行法規違反です。そういうものをADRでは排除できるのだと、排除する可能性が高いのだということ、これはある意味では大事なことですし、またそうでなければいけないので、そのことを「信頼性の確保」の1つの柱として打ち出したらいかがかという感じがするのです。

○青山座長 これは原委員が最初に言われましたように、弱いと言われれば、確かにそのとおりで、特に2つ目の○のところは、正当でない解決が生まれる可能性が低いという表現ですので、裏返してもっと積極的に言えばいいので、そのときに相対交渉を必ずしも引き合いに出すことはないと思います。
 先ほど三木委員が、これを根拠として「自治」という言葉ではなくて、「当事者の主体性」という言葉を使ったのかという御質問には、そうではないと、事務局はそういう意図はございませんので、「当事者自治」と言うよりも、少し積極的な「当事者の主体性」という言葉を使ったということですので、この点は御了解いただきたいと思います。
 他に論点2はいかがでしょうか。
 よろしゅうございますか、それでは、論点3でございます。5ページ目の「3.ADRの拡充・活性化へのアプローチ」ということで、これは①②③と「国民の理解の増進」、「利便性・実効性・信頼性の向上」、「ADRを提供する体制の充実・強化」という3点がうたわれておりますけれども、これにつきましても御意見を賜われればと思います。

[3.ADRの拡充・活性化へのアプローチ]

○綿引委員 「実効性」というのは、どのような意味で使っておられますか。端的に申し上げると、あまりに具体的なイメージを持って書いているとすると、この段階で書いてしまうのは早過ぎるのかなということです。

○小林参事官 おっしゃる意味は、執行力を意味するのかということですか。

○綿引委員 執行力にしろ、時効中断効にしろ、具体的な法的効果の問題がありますね。そこのところを具体的に念頭に置いて「実効性」と書いておられるのか、それとも紛争解決に広い意味での実効力のあるものにしようという程度のことでおっしゃっているのか。
 ここがかなり法的効果のことを念頭に置いて書かれているのだとすると、もう少し議論が熟した後の問題ではないかという趣旨で伺っています。

○小林参事官 それは幅広い意味で使っております。広い意味と言えば、例えば先ほど議論になりましたけれども、ADRが第三者が関与することによって、ただの相対交渉ではなくて、何らかの付加価値を付与することができて、それによって両当事者がその解決結果を受け入れやすくなると、そういった意味も含めて「実効性」というように申し上げているので、ADRの質を上げていく、それによって実際に紛争解決の実が上がっていくということを想定しております。
 ただ、確かに御懸念の点はわかりますので、その点は気をつけていきたいと思います。

○青山座長 ほかの点はいかがでしょうか。

○安藤委員 3.の全体から見ると、最初に挙げました相談、苦情処理という部分ですが、これはどこに織り込まれている形になるのでしょうか。
 拡充・活性化へのアプローチという形で出ていますが、この5ページの全部の文章を見ても、相談、苦情処理、私が先ほど言った啓蒙周知といったようなものも含めてのものというのが、もう一つこの中に欠けているのではないかという気がするのですけれども。

○小林参事官 冒頭1ページのなお書きのところに書いた趣旨ですけれども、基本的には文章は全部「ADR」と書いてあるんですが、「ADR等」と言いますか、「ADR(相談も含む。)」というように読んでいただければと思っておりまして、全体に被っているというつもりであったのですが。

○安藤委員 何か紛争解決、紛争解決というようなことが全面に立ってしまっていて、気軽に窓口に来てくださいという趣旨が少しずれてしまうのかなという気がします。

○小林参事官 相談で問題を解決する場合も多々あるわけでございまして、そういう場合も含めて、ここで言うADRには、相談も含んでいるということで全体を整理したつもりです。当然、国民の理解の増進のところにも入っておりますし。

○廣田委員 個々のADR機関のことを言っているのではないというお話ですが、相談に関して言えば、例えば論点3の囲いの中の①②③のところの「ADR」という言葉を「国民生活センター」という言葉に置き換えれば、全部国民生活センターもこういう方向で拡充・活性化してほしいというような読み方になるわけですね。そういう理解でよろしいのでしょうか、今の安藤委員のお話だと。
 こういうように理解すれば、御心配のところはなくなるかなという気がします。

○青山座長 よろしゅうございますか、どうぞ。

○原委員 5ページの拡充・活性化のアプローチの「(1)ADRに対する国民の理解の増進」の書き方ですけれども、多様なADRが健全な発展を遂げていくためには必要ではないかと書かれていて、多様なADRが健全に発展を遂げるために理解をしてほしいというのは逆じゃないですか。
 というのは、ADRについて、国民から幅広い理解が得られていくことが多様なADRが健全な発展を遂げることにつながるのであって、目的が逆転しているような書き方になっているような感じがするのですが、それが1つです。
 もう1つは、ここに書かれている①②③はADRだけに注目して理解を増進するということで書かれているのですけれども、実際にいろいろな苦情とか紛争があると思いますけれども、消費者が抱えるトラブルに限定して考えると、実際にそういう苦情とか相談を抱えたときに申し出る人は半数にすぎないのです。半数の中の数%が消費者センターや国民生活センターに行っていて、だから半数の中のかなりは、販売店であったり、メーカーであったりしますけれども事業者へ行っている。でも半分は眠っているということなのです。
 そうすると、訴訟にも行かないし、ADRにも行かないし、苦情とかを解決しようということもない眠っている層というのはかなりあって、これは泣き寝入りと言うか、あきらめていると言うか、解決してもそれほどの金額ではないから何も申し立てないということになるかと思いますけれども、そういう今の国民の現状を考えると、ADRだけ急に理解を深めて活性化しようと思っても到底無理なような感じがします。
 もっと国民自体が自分たちが抱える苦情とか紛争について、どのように解決を図っていくか、その解決を図っていくということは、個人にとっての救済とか、そういうことに留まらずに、それが逆に社会の役に立つ、1つの苦情や解決の仕方が役に立つということがありますから、そういう考え方を持てば、消費者とか国民というのは、もっと主体的に動いたり、考えたりすべきであって、そういう大前提がないと、ADRだけが活性化することはあり得ないし、理解が深まることもあり得なくて、やはりそれが書かれるべきではないかなと思います。
 以上、2点です。

○小林参事官 2点関連していると思いますので、ややまとめてのお答えになるかもしれませんが、今回のADRの拡充・活性化の最終目的と言いますか、一番大きな目的は、1.で御議論いただいたように、社会全体の紛争解決機能を拡充して、自由かつ公正な社会の形成に寄与するということでございますので、原委員がおっしゃったような、現在、泣き寝入り、あるいは問題意識すら持たれずに眠ってしまっている、そういう問題についても本来であれば社会的に解決されるべきだという考え方に立っておりますので、そういう意味で言うと、多様なADR、特にこの書きぶりだとADR機関がという感じがするのだと思いますが、そういう意図ではありませんので、そこの表現ぶりは、もう少し工夫をしてみたいと思います。決して何かADR機関のために理解を深めてもらうというわけではありません。

○原委員 国語の話をしているとは思っていますけれども。

○小林参事官 訴訟制度も大事だという御趣旨もあると思うのですけれども、そこは②のところでも、これは「中で」ということになっていますので、訴訟制度自体について、広く言えば司法教育なり、あるいは司法についての国民の理解増進ということを考えていくべきであるというのは御指摘のとおりだと思います。
 そういう意味では、やや狭過ぎる書き方かもしれませんので、それは併せて工夫をしたいと思います。

○青山座長 ほかにいかがでしょうか。特になければ、時間もございますので、まとめてしまってよろしゅうございますか。
 今日のこの議論は、ADRの拡充・活性化の基本理念ということで、論点1、論点2、論点3に分けて御議論いただきましたけれども、全体としてADRをどう考えるかという、ADRの基本理念について、どのように我々はこれからの作業を進めるかということの前提として、共通の認識をなるべく持ちたいということでございますので、特に文言で、これがおかしいとか、あれがおかしいというのも、それが問題ということではなくて、我々の共通認識をこうした方がいいのではないかという御提言をいただいたということで理解させていただきたいと思います。
 事務局もいろいろお答えしましたけれども、それが確定的な答えということではなくて、それが共通認識をつくる上で役に立つだろうということで、今日御議論させていただいたということにさせていただきたいと思います。
 それでは、今日は2時間という制約がございますので、後は今後の日程を確認しておきたいと思います。
 お手元に資料11-3があると思いますが、これを事務局の方から説明いただけますか。

[(3)その他]

○小林参事官 11-3の1枚紙でございますが、今後の予定につきまして、皆様方からいただいた日程を調整させていただいたものでございます。
 これを見ていただくと、かなりタイトなスケジュールになっておりますし、更に注2を見ると、更に予備日まで予定されているということで、非常に御迷惑をおかけすることになって心苦しいのですけれども、予備日につきましては、極力使わない形で作業を進めさせていただきたいと思っております。
 若干背景を申し上げますと、ADRの問題は非常に新しい問題でもございますし、また関係方面が非常に多岐にわたっておりますので、可能でありましたら、夏休み前後に、でき得ればパブリック・コメントを実施したいと考えております。
 その際に、どういった中身のものをおかけするかということは御相談をしつつ進めていきたいと思っておりますが、いずれにしても全くの御意見をいただくということではなくて、何らかの議論の整理をした上でお伺いするというのが建設的なやり方だと思いますので、必ずしも1つに何か絞り込むということではありませんけれども、幾つかの選択肢をお示しするにせよ、何らかの形で議論の整理は行いたいと考えておりまして、そういったこともありまして、若干タイトなスケジュールになっているということでございます。
 皆さん大変お忙しい中ではございますが、何とぞ御理解を賜わりたいということでございます。
 以上です。

○青山座長 これで言いますと、2月がもう1回と、4月が2回、6月が2回で、夏休み前に正規の会合が8回入っております。
 そして注2で、「6月30日及び7月7日」となっておりまして、私はここは「又は」にしてほしいと事務局に言ったのですが、自信がないということで、そうなりますと、ここが6月23日から毎週と、4週続けてということでございますが、議論の進捗状況によりましては、予備日は解除ということになり、そういうことを願っております。
 その場合には、なるべく早くお知らせしたいということでございますが、今、小林参事官から申し上げましたように、やはりパブリック・コメントというものを行って、広く国民の各層から御意見を頂戴するというのが、よりよいものをつくっていくためには、私は必要だろうと思っておりますので、そのためにはこういうスケジュールでパブリック・コメントに出せるようなものを夏休み前につくりまして、夏休みの1か月ぐらいをそのための期間として、また秋から、今度は3巡目の審議を始め、半年で何とかよい成果を挙げたいと考えておりますので、手帳には一応予備日まで入れてキープしておいていただきたいと、大変恐縮でございますが、お願いしたいと思います。よろしゅうございますでしょうか。
 それでは、御了承いただいたということにいたします。どうぞ。

○高木委員 関連して質問ですが、スケジュールはこれで予定しますが、それぞれのテーマが大体割り振られて、時間も大体半日午後という感じでは予定するのですけれども、7月14日までスケジュールを当てはめていくと、検討事項との関係で大体何をするかというのがわかるのだと思うので、それを教えていただければと思います。

○青山座長 事務局の方はもう作っていると思いますが、これはどうしますか。

○小林参事官 遅くとも次回までには、可能であればそれまでに御連絡したいと思います。そのこと自体私どもだけで決めるのが適当かどうかという議論もありますので、そのことも含めて御相談したいと思います。

○青山座長 それでは、本日の議事は以上でございます。
 次回は、ここに書いてございますように、2月24日の午後2時から始めたいと思います。そのテーマでございますが、ADRの拡充・活性化を図っていく上での国の関与の在り方といった点を中心に議論を行うことにしたいと思っております。
 資料は、なるべく早く、少なくとも1週間前にお手元に届くようにお送りしたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたしたいと思います。
 本日は、どうもありがとうございました。本日の検討会は、これにて終了いたします。