ADR等に係る規律(主宰者に関する規律等)について、事務局より、資料13-2に沿って説明が行われた後、討議が行われ、以下のような意見が出された。(○:委員、□:座長、●:事務局)
(1.手続の公正性の確保・向上に関する規律)
○ [論点1-1]のUNCITRAL調停モデル法に「公平処遇」を盛り込んだ議論の中では、事業者と消費者間に存在する力の格差をどのように捉えていたのか。
また、資料では解決結果の「適正」という文言が入っているが、趣旨は何か。
○ UNCITRALが「公平」をどのような定義で使ったのかはわからないが、他の文言の中には当事者間の力の格差を是正する場面を考慮して調停モデル法に盛り込まれなかったものがあることからも、「公平」は当事者間の力の格差を埋めることを排除するものではないと思われる。
□ 「適正」の文言は、既存の他の法令でも多く使われている。
○ [論点1-1]は仲裁と調停では同じ議論にならないのではないか。仲裁では結果の適正まで義務を負うべきという考え方もあり得るが、調停では当事者が納得すればよいのではないかという考え方もある。UNCITRALでも、調停人の義務は仲裁人と同じではないとする意見が多かった。
□ ADR法では、仲裁・調停の両方に共通するものを規定することを目指すと理解している。
○ 公平な手続運営も解決結果の適正も、いずれも主宰者のマインドとして使われているのだから、これでよいのではないか。
○ 主観に関わるような規範は規定すべきでなく、UNCITRAL調停モデル法のように、手続の公正運営のような行動規範のみを盛り込むべきである。
解決結果の適正を求めると調停人が頑張りすぎる傾向があるので、規定しない方がよい。
○ ADR法が仲裁法と異なる規定ぶりとなった場合、仲裁法に加えて仲裁人に対する義務が発生するのであれば問題である。
○ 当事者間の力の格差を考えた場合、手続運営の公平だけでよいのかどうか。解決結果の適正も必要となるのではないか。
○ 労働分野にどのように当てはめるべきかはっきりしないが、一般論としては解決結果の適正も必要である。
○ 解決結果の適正さのジャッジを誰がするのかという点が重要。消費者としては、解決結果が適正であるかどうかを確認したいという気持ちもあるが、どのような形で法律に規定するのかとなると、難しい問題がある。
□ [論点1-1]は、手続運営の公平については、大方の合意があった。解決結果の適正には2つの意見があり、さらに調停人と仲裁人で区別すべきかという議論もあった。
また、義務の程度を努力義務とすることには異論がなかったということを踏まえて、3巡目の検討に向けて整理していきたい。
○ [論点1-2]の開示義務は、主宰者選定手続の前提として規定するということか。留意事項(2)の二つ目の○にある「当事者の合意」は何についての合意をさすのか。
● 当事者が主宰者を選定できることを前提とした義務である。主宰者の選定を含め、手続全体を機関に一任するようなケースには適用しないという趣旨である。
○ [論点1-2]の開示義務を司法型ADRについて考えてみると、調停委員の情報はほとんど開示されていないが、これはどのような理由によるのか。
○ [論点1-2]の開示義務が民事調停に適用されるかどうかは別として、民事調停における情報開示の取扱いの実質的な理由は、民間ADRに対して開示義務を設けるかどうかという本検討会での審議に生かしていくという趣旨からは参考となるはず。
○ 詳しい理由はわからないが、利害関係者は指定の段階で回避されることを前提としているので、情報開示の必要がないのかもしれない。
○ 情報開示義務は民間型ADRの信頼性を確保するために必要となる義務であり、司法型ADRには必要ないのではないか。
○ 義務の性質がプログラム的なものであれば、司法型ADRにも適用される余地もなくはないのではないか。
○ 開示すべき情報の内容は、個人的な利害関係の有無程度に限定した方がよい。
○ 当事者の合意による適用の排除を認めると、機関の規則に書いてあればよいということになるが、それでは適当でない場合もあるので、慎重に検討すべきである。
○ どの時点で合意をとるのかが問題。事前に合意をとってしまうと意味がなくなる。
○ [論点1-2]の開示義務は、事業者側の立場からは、どこまで情報を開示しても信用してもらえず、公正でないとされてしまうのではないかと思われる。どの程度の内容を開示すべきかを議論すべきである。
[論点1-3]の忌避等は機関の性格によっては必要となる場合もある。
○ BtoB紛争などでは、合意による排除が必要となる場合もあり、場面・類型を区分して取扱う必要がある。
○ 主宰者が利害関係者であることを承知の上で、当事者から頼みに来ることもありうる。
□ [論点1-2]は、開示すべき情報の内容を明確にする必要があるものの、開示が必要であることに異議はなかった。また、一部に合意による排除を組み入れることには慎重であるべきという意見もあったということで取りまとめたい。司法型ADRへの適用についてはいろいろ意見があったが、いずれにしても司法型ADRの考え方を今後教示いただくこととして、3巡目の検討に向けて整理していきたい。
[論点1-3]の除斥等は、規定する必要がないという意見が多かったということで、さらに整理していきたい。
(2.手続の円滑な進行の確保に関する規律)
○ 仲裁手続における守秘義務については、仲裁検討会では、モデル法に規定がないこと等を踏まえて規定を置かないという結論となった。したがって、ADR法においても仲裁を対象とすべきではない。
○ 解決結果の公表にはジレンマがあり、大きなテーマである。また、証言拒絶権を認めないと、ADRの主宰者が法廷に立たされることになるという問題点があり、意見を留保したい。
○ 既存の法令をみると、証言拒絶権は秘密漏示罪とセットになっており、守秘義務に罰則を設けない以上、証言拒絶権を規定することは難しい。ただ、ADRでの結果を後の裁判でどのようの取扱うかという点については、手続に関する規律の問題として、証拠能力や証拠制限契約という側面から別途検討することとなるのではないか。
○ 守秘義務の問題については、相談員を含めて議論すべきである。
□ 主宰者が民事上の義務としての守秘義務を負うことを原則とし、当事者間の合意がある場合や利用者の便宜を図る必要がある場合などをどのように考えるべきか、今後さらに検討していくこととしたい。また、証言拒絶権を認めることについては、消極意見のほか、手続の規律との関係で議論すべきとの意見があったということを踏まえて、3巡目の検討に向けて整理していきたい。
(3.主宰者の専門能力の維持涵養に関する義務)
○ [論点3-1]で「自己研鑽」を内容とするのでは弱すぎるのではないか。
● 専門能力を修得する場は研修には限られないので、幅広い意味で「自己研鑽」を使っている。
○ [論点3-1]の義務は将来的な目標として捉えられるものであるが、これと違って、主宰者に予め求められる資質のようなものがあるのではないか。
○ [論点3-1]の努力義務を基本法的な規定であると理解すれば、仲裁を含んだ広いADRに適用してもよいのではないか。
○ 主宰者には法的知識や紛争分野に係る専門能力が必要であり、あえて紛争解決に関する専門能力だけを取り出して規定する理由があるのか疑問である。
○ 将来的に資格制度と結びつけて考えていく方向をとるとすれば、このような義務は必要である。
○ 紛争解決に関する専門能力を有することを資格制度と結びつけることは、既存の機関の活動を阻害することになり疑問。努力義務程度ならばよいが、本当の義務になるのは反対である。
○ 当事者が主体的に紛争解決に関わりたいという意欲を主宰者が汲んでいく形になっていくことが必要である。
□ [論点3-1]の義務を規定することには特に反対はなかった。努力義務とすべきという意見が大方であり、それ以上に強い義務を課すことには反対する意見もあったが、資格との関連を滲ませた表現にできないかという意見もあったということを踏まえて、3巡目の検討に向けて整理していきたい。
高木委員より、髙木委員提出資料(1)(2)に沿って、日本弁護士連合会が単位弁護士会に対して行ったアンケート結果の説明と、主宰者の資格・要件等に関する意見が述べられ、引き続き各委員より以下のような意見が出された。(○:委員、□:座長、●:事務局)
○ [論点3-2]を議論する前提として、仮に結論が同じになるとしても、特にこの項目については、仲裁と調停を分けて議論すべきである。
仲裁人については、日弁連も理事会決定の中で、非弁護士の関与に柔軟な姿勢を示しているようにも見受けられる面があるし、UNCITRALにおいても資格の問題については仲裁人と調停人を分けて取り扱っていた。また、各国の法制度や実務の運用をみても、仲裁人に関しては立法措置や運用が定められていることが多いのに対して、調停人については議論が成熟していないように見える。さらに実務においても、仲裁を業として行っている者は存在するが、調停についてはあまり知られていないという違いがある。こうした状況も踏まえる必要がある。
○ ADR法ではあまり場面を区分して規定することはできないのではないか。紛争やADRには多様性があり、主宰者に求められる能力も様々である。また、弁護士の数という物理的な要素によってADRの限界を画するべきではなく、ADRに広く人材を結集できるようにすべきである。
このため、主宰者の要件については簡潔に概念のみを規定することとし、仲裁・調停・あっせんを公正かつ適確に行うことができると認められる機関において選任された者が行う業には、弁護士法第72条を適用しないこととしてはどうか。
弁護士の関与を必要とする旨を規定しても、形式的に弁護士を集めて悪いADRを作ることはできるであろうからあまり意味はないと思われる。主宰者の行為が72条との関係で正当であることだけを担保しておけば、ADRの信頼性の向上につながるのではないか。
72条は刑罰規定であるから、公正・適確という要件があいまいだという批判があるかもしれないが、他の法令にも定性的な文言を置く刑罰規定はある。
○ 高木委員提出資料(1)の3.にある「一定の実績と信頼性のある機関」をどのように決めるのか。この中にはPLセンターは含まれるのか。
○ 機関が適切であるかどうかは、第三者の判断に委ねなければならないと考えており、法的効果を付与する機関の選定の問題と併せて議論すべきであろうが、第三者機関としては、例えば行政機関などが考えられるのではないか。PLセンターも適切であれば対象となり得ると思われる。
○ 公序良俗違反や刑事罰に該当するものでないなど、適確でないことが明らかでなければよいのではないか。
○ 機関に着目して非弁護士の関与を認める場合、アド・ホック仲裁については、どのように理解すればよいか。
○ アド・ホック手続にはどのような能力・資質が必要であるかまだ見えていないと思われるため、今回は72条との関係については現状のままで置いておいて、将来アド・ホック手続が発達した段階で議論すればよいのではないか。
○ 仲裁人については無制約に認めることとしなければ、実務との関係で混乱を招くおそれがある。UNCITRALでも、仲裁人の資格は調停と異なり、日本を含め各国で既に決着がついているという理解で議題に取り上げなかった経緯がある。もし日本において、仲裁人の資格に関して現在より厳しくなるような印象を与える規定を置くこととなれば、問題が生ずるであろう。
○ 法曹人口は一朝一夕には増えないであろうから、弁護士の数の限界がADRの限界となってはいけないことは確かであり、72条の適用除外の幅を広げて専門性を活用する方向で検討すべきである。その際には、72条の適用が除外される機関のホワイト・リストのようなものを作ってもらいたい。その際、日弁連が機関の適確性をチェックするとなれば、ADR機関は日弁連に常にお伺いを立てなければならなくなって適当でないので、行政が関与することも考えられるのではないか。
○ 労働紛争は当事者間の力関係が歴然としている分野であり、資格の問題については、現在活動している個別労働紛争解決手続においてどのような問題が生じているかといった実態を見ながら検討していく必要がある。
□ [論点3-2]については、専門家を活用してADRを活性化するという方向性には反対はなかった。一方、弁護士法第72条との関係の調整方法や仲裁人と調停人の区分の必要性など、各論については様々な意見があったところであり、3巡目の検討で引き続き議論していきたい。
○ [論点3-3]の専門的な能力については、専門家間の協力関係が重要であるから、機関として専門家が揃っているというような総合能力が分かる情報が開示されるように、どの程度の義務付けをするかという議論が必要である。
○ 基本的には、ADRには多様な主体が参入してくることが望ましいと考える。この観点からは、悪意のある、つまり公益を害する意図のある機関・主宰者は排除する必要があるものの、善意、つまり公益を害する意図はないが能力に欠ける機関・主宰者については、国家が排除するのではなく、市場によって淘汰される仕組みを作るべきである。専門性の水準は高い方がよいに決まってはいるが、水準以下の者の関与を認めないという趣旨であれば問題である。
なお、事務局が作成した第7回ADR検討会資料によれば、調整型ADRよりも裁断型ADRの方が主宰者に高い法的能力が求められるということではなかったか。
○ 法曹資格の問題と法的能力の問題は分けて議論すべき。法曹資格については、仲裁人について法曹資格を求める制度は各国で廃止されており、また、仲裁は訴権を放棄する制度であって、利用者の選択も慎重であるだろうから、市場原理による淘汰は進んでいるのではないか。
法的能力については、調停に関しては利用者の一部には法律家的な解決を望まないものもあり、このようなニーズを埋める形でADRが発展してきたという背景もあるので、法的能力を必要とするとADRの本質を損なうことになるのではないか。
○ 消費者トラブルもかなり専門的になってきており、専門性を活用する道を開いておくことは必要である。少なくとも、足して二で割る程度以上の水準の専門性が必要であり、例えばパネル形式での対応が考えられるのではないか。
○ 専門的な能力の高低を判断できる者は我が国にはほとんどおらず、そもそもADR手続は非公開の場合が多いため正確な情報も集まりにくい。また、高いハードルを設定するとかえって手続が硬直化する。このため、情報開示や研修等の手当てをしておいて、後は各機関の自主性に委ねた方がよいのではないか。
○ 民事調停の建築分野においては、専門家が裁判所と協力して対応しているが、紛争内容の幅が広いため、専門家がメンバーである学会内で分野別に適任者を選んで裁判所に登録している。
その際、裁判所からは、高度な専門分野を有しつつ、さらにある程度広い範囲の分野を処理できる町医者のような人物が適していると言われている。
○ 利用者は主宰者よりも機関を選択することが多く、ADR機関が専門家をうまく活用できるようにすることが重要ではないか。まずは既に資格を持っている方々に活動してもらい、実績を積んだ段階で資格を作ることも考えられるのではないか。
□ 主宰者に専門的な能力が備わっていることが望ましく、これらの者を活用していくべきだという点については異論がなかったが、必要な専門性の程度やその確認方法といった各論については、様々な意見があった。本日の議論を踏まえて、3巡目の検討に向けて整理していきたい。
○ [論点3-6]については、欠格事由を規定する必要はないのではないか。
○ 何らかの形で欠格事由を規定することを検討すべきである。
□ 欠格事由については、積極・消極両方の意見が出たということを踏まえて、3巡目の検討に向けて整理していきたい。
○ 仲裁検討会では仲裁人の欠格事由は置かないという結論であったはずであり、[論点3-6]は専門性の活用の前提条件としての論点であるとはいえ、結果的に一般的な仲裁人の欠格事由につながるのであれば問題である。
(4.その他の規律等)
(5.相談(苦情処理)手続への適用)
○ 相談に関しても弁護士法第72条との調整に関する規定の対象とすべきである。
□ 本日は非常に多岐にわたって意見が出たが、どの論点についても必ずしも一つに方向付けたというものではなく、いただいた意見を参考に3巡目の検討に向けて整理していくということで了承いただきたい。