ADR・訴訟手続(裁判所)間の連携について、事務局より、資料15-1に沿って説明が行われた後、討議が行われ、以下のような意見が出された。(○:委員、□:座長、●:事務局)
([論点1-1]ADRにおける和解交渉進行中の訴訟手続の中止)
○ 裁判所の現在の実務でも、当事者間で和解交渉を行っているのでしばらく待ってくれと言われれば、次回期日を入れるのを遅らせるなどして柔軟に対応しており、そのような運用で対応可能ではないかとも思われる。
民事調停に付する場合には、期間を区切ったり調停部と連絡を取って、進行が遅延しないように気を配っているが、裁判所外のADRとの間では連携が取りづらいものと思われる。
中止を制度化するのであれば、ADR機関や中止期間を限定することによって、紛争の迅速な解決に反しないようにする配慮が必要であるし、ADRで合意が成立した場合には、必ず裁判所にもその旨の連絡をしてもらう必要がある。
○ 訴訟迅速化との関係でも、訴訟手続を中止できる根拠がある方がよいと考えるが、中止の決定を裁判所の自由裁量に委ねるのであれば、ADRを利用して和解交渉を進めることについての当事者間の合意以外の要件(手続を中止することについての当事者間の合意、中止期間や機関の限定)については不要ではないか。
○ 裁判実務は十分理解するものの、裁判官には訴訟手続を中止することに抵抗を覚える向きもあると思われるので、訴訟手続の中止に関する根拠規定を置くことは意義がある。
ただし、そのための要件としてADR機関を限定することは適当ではなく、ADRの手続の実効性に関する実質的な要件を規定して、その可否は裁判所の審査に委ねるべきである。また、中止期間についても、法令で限定するのではなく、裁判所の裁量によりほぼ必ず期間が限定されるような運営をすることでもよいのではないか。
なお、このような規定は、両当事者にも調停での解決を促すような広い意味での義務が背景にあるものと考えられるので、裁判所の権限・義務規定のみを置くのではなく、併せてUNCITRAL調停モデル法13条のような規定も併せて置く必要があるのではないか。
○ 訴訟手続において計画審理が重視される中で、裁判所が、必要に応じて、事実上の措置として訴訟手続を中止するという柔軟な実務が続くとは限らないので、訴訟手続を中止することについての根拠規定を設けておく必要があるのではないか。
要件としては、フランスに倣えば、中止期間を定めておくことも考えられる。また、ADR機関についても一定の限定が必要であると思われるが、付調停とは異なり、当事者の同意や期間限定を要件とするならば、民事調停に匹敵するようなADRに限る必要はないと思われる。
○ 「訴訟手続の中止の決定に対する不服申立ては許されない」とあるが、当事者が申し立てた場合でも許されないことになるのか。また、UNCITRAL調停モデル法13条では、ADRが訴訟よりも優位にあるようにみえるが、事務局案との関係はどのように整理すべきなのか。
● 中止の決定については当事者の合意を前提としており、決定が中止を認めるものである場合には、不服が出ることは想定していない。また、事務局案は、UNCITRAL調停モデル法の規定とは違って、主に訴訟がADRに先行したケースを念頭に置いているので、両者が正面から矛盾しているわけではない。
○ 裁判所の裁量に多くを委ねることになれば、ADRへの信頼が欠けることになりかねず、むしろADR機関の限定や中止期間の限定を含め、事務局案の要件はすべて規定する方がよいのではないか。
□ [論点1-1]については、要件に関しては様々な意見があったものの、このような制度をつくってもよいのではないかというのが大方の意見であった。このような御意見を踏まえて三巡目の検討に向けて整理してきたい。
([論点1-2]ADRの審理のための裁判所による証拠調べ等)
○ 資料の注書に「訴え提起前の証拠収集手続を利用することも可能」とあるが、これは収集した証拠をADRで使えるという趣旨か。
□ 訴え提起前の証拠収集手続は、後から訴訟が提起されることを前提とした制度であるが、場合によっては、訴訟に至らず、収集した証拠を活用してADRで解決されることも結果としてあり得るということを否定するものではない。
○ 行政庁や第三者に対して証拠の提供等をお願いするような場合、事業者団体の主宰する民間ADR等からの要請にはなかなか協力いただけないことが多く、裁判所に援助してもらいたいというニーズがあることは確かである。
ただ、一方で既判力のないADRについて共通の制度として認めるべきかどうかという疑問もあり、意見としては留保したい。
○ 消費者の立場からも、民間ADRでは行政のデータや調査の分析結果が得られにくいという意見があり、法律に規定すべきとまではいいづらいものの、なお検討は必要であると思われる。
○ そもそもADRは双方の当事者が解決を望んで持ち込まれるものであり、裁判所の援助が必要なほど困難な事件であれば、ADRではなく訴訟手続で解決を図るべきである。
○ 第三者に証拠提出等を求める場合を想定して議論するとしても、解決に至ることが保証されておらず、また既判力もない調整型ADRにおける解決のために、第三者に対して強制力を持って証拠提出等を迫ることは、制度上困難ではないか。
将来、社会的にADRに対する信頼性が高まってくれば、公的機関などの協力が事実上得られるケースも多くなっていくのではないか。
○ 第三者からの証拠が得られない場合であっても、当事者の主張や間接的な証拠などを総合的に見極めながら調停を進めることができると思われるので、現段階では無理に制度化する必要はないのではないか。
○ 裁判所の証拠調べは、既判力をもって事実関係を確定するという厳格な制度の一環であり、裁判実務に携わる立場から言えば、このような制度を利用する必要があるのであれば、訴訟を提起していただきたい。
○ この論点は非常に重要であるので、制度整備を行うかどうかは別として、このような論点が議論の過程で取り上げられたということは記録に留めておいてほしい。
□ [論点1-2]については、共通的な制度とすることには慎重な意見が多かった。ただ、将来的には、ADRにおいて必要な証拠調べ等について第三者に協力を求められるような制度が必要となるかもしれないという意見もあったということを踏まえて、さらに整理してきたい。
([論点2]訴訟手続におけるADRを利用した和解解決の促進に関する制度整備)
○ ADRの本来の姿からいえば、当事者が主体的にADRとの話合いを選択すべきものであると思われる。また、ADRの専門性を活用することが望まれる場面もあるかもしれないが、裁判実務に携わる立場からあえて申し上げれば、現状のADRを前提とすると、利用をお勧めできるようなADRはない。ADRの情報開示とその真実性に関する裏付けがなければ、例え制度化されても裁判所がこれを使うことはできないのではないか。
○ 我が国の現状をみると、ようやくADRに関するポータル・サイトの充実を図っていこうという段階に至ったばかりであるし、実際に裁判所が勧告することは難しいであろうから、将来的にはともかく、今回の法案に盛り込むことは時期尚早ではないか。ただ、裁判所が事実上ADRの利用について助言することはあり得るものと思われる。
○ 当事者による訴訟手続の選択が常に適当とは限らず、裁判所に持ち込まれる紛争には、話合いでの解決や専門家による解決が適切な場合もあるので、制度化の必要性がないわけではない。
この制度は、ADR法の枠組みの基本に関わるものであり、後年に法律を見直すとしても、その範囲を越える問題であると思われるので、今のうちに道筋をつけておいた方がよいと思われる。
○ 訴え提起の手数料が高額となる事件では、裁判所が弁護士会の仲裁センターの利用を勧めたという実例があるし、率直に言えば、ADRに携わる者としては、このような制度があって欲しいという気持ちがある。
そのためには、裁判所が安心してADRを勧められるような環境整備が前提となるとは思われるが、将来的な課題として頭出しをしておくことは考えられるのではないか。
○ フランスでは、同様の制度を創設して以降、それなりの件数がADRに回付されている。我が国は、裁判所への信頼性が強いという特徴があり、中長期的な観点からは、ADRにとっても裁判との連携を保っておくことが極めて重要である。政策判断の問題とは思うが、ADRに対する国の姿勢を示すという意味で、積極的に検討してもらいたい。また、フランスでは、ADR利用に伴う当事者のコスト負担の問題が大きな議論となり、そのために最終的には当事者の同意を必要とする制度となった。
実際には、裁判所とADR機関の間で事前協定があって、そのようなADR機関の利用を勧告するという形で運用されることが想定されるが、何らかの根拠規定がなければ運用していくことは難しいのではないか。なお、ADR側も裁判所の下請けの役割を嫌う向きもあるので、ADR側の同意を要件とすることが必要である。
○ 制度化に当たっての困難性は多々あるが、一方で将来に対する芽を残しておくことがどの程度必要かという観点から考えなければならない。
現実的には、例えば、国際商事事件について当事者がADRの存在を知らずに訴えを起こした場合や法律上の争訟にあたらない事件について訴えが却下されるような場合において、裁判所が適切なADRを紹介することは、十分にあってよいと思われる。この場合、勧告というよりも、紹介や情報提供といったイメージで捉えた方がよい。紹介の対象となるADRについては、調整型ADRだけでなく、裁断型ADRも視野に入れて検討すべきである。
□ [論点2]については、このような制度を設けるべきかどうかについて、積極、消極の両方の意見があった。ただ、その基礎にある現状認識については一致しており、積極意見も中長期的な視点から必要ではないかというものであった。
この件については、今後パブリック・コメントで意見を伺った上で、さらに具体的な議論をしていくこととしたい。
([論点3-1]調整型ADRを経た場合の調停前置主義の不適用)
○ 資料の注書に「離婚・離縁を他の調停事件と同列に扱うことは適当でない」との記述があるが、その趣旨は何か。離婚・離縁関係は調停前置の大半を占める分野であると思われ、これらを含めるかどうかによって、現実の意義はかなり異なってくるのではないか。
● 離婚・離縁を含む家事事件については、身分関係の形成に関わる問題であるので、合意の適正さを裁判所がチェックする必要があるという考え方もあり得るのではないかということである。
○ 家事調停では、家裁調査官や調停委員が参加して、子供の福祉や養育などの環境調整を図りながら調停を進めており、そのような環境調整を行っていない通常のADRをもって家事調停に置き換えることは適当でなく、離婚・離縁事件を対象とすることには慎重であるべきであろう。
また、現在の人事訴訟でも、当事者に訴訟を望む声が大きいこともあって、家事調停で十分な話合いをしないで訴訟に上がってくる事件が多く見られている。今回の論点のようなものを制度化することによって家事調停前置主義の空洞化が一層進むおそれがあるのではないかと心配しており、家事調停の役割・意義をきちんと議論するとともに、対象となるADR機関を見極める必要がある。
○ この問題は特に機関の限定が必要となってくるところであり、それほど無理をして制度化する必要はないのではないか。現行の条文には、ただし書として「裁判所が適当でないと認めるとき」は調停前置としない旨が規定されており、弁護士会仲裁センターなどのADRで話し合われた場合には、事実上これに該当するものとして取り扱ってもらえばよいのではないか。
○ 裁判所の調停が適切に機能していない場合も多く、逆に弁護士会仲裁センターなどでは調停と同程度以上に話合いがされていることもあるので、制度化について積極的に検討してもらいたい。
なお、事務局案では対象となるADRの限定についてどのように考えているのか。
● ADRにおいて真摯な努力がなされたことが実質的に判断できるものであるべきと考えるが、本件に関しては予見可能性が重要であることから、制度化の際には定型的に判断が可能であるようにすることも考えられる。
○ 裁判所の調停に代わるものであるから、調停と同等程度に真摯な話合いの場を提供できるADRでなければならず、対象となるADR機関についてのきちんとした見極めが必要と考えている。
また、家事事件について言えば、フランスでは、民間ADRで扱われている案件の大半は家事関係であり、我が国でも将来的かどうかはともかく民間でもきちんとしたADRを提供できないわけではないので、家事事件の特性を勘案する必要は理解するとしても、ADRの適切性の観点を踏まえつつ積極的に検討してもらいたい。
○ ADRにおいて実質的に話合いがなされたことが重要であって、どのような機関でなされたかという問題ではないはずであり、対象となる機関を限定する必要はない。
この問題は、調停前置の回避を事前に意図するものではなく、手続が無駄に繰り返されることのないようにするものであり、予測可能性はそれほど重要ではないと思われるため、訴訟が提起された後に実質的な話合いがあったかどうかを裁判所が判断すればよいのではないか。
現行制度では調停前置が原則となる旨規定されており、調停前置の不適用を運用上実施していくとすれば、法律に反する運用を定型的に行うことになりかねず適当ではないため、根拠となる規定が必要である。
○ 調停前置に関する現行の例外規定にのっとって規定を整備するのであればよいが、特定のADRを経ている場合には原則と例外を逆転させるとなると、裁判所としては、ADRでの話合いが十分に行われなかったときでも改めて調停に付することは難しくなり、問題がある。
○ この問題に関しても当事者の予見可能性が確保されなければ意義がないと思われるので、利用者の利便性を損なわないための何らかの担保が必要である。
□ [論点3-1]については、現行規定のただし書の運用として、あるいはその範囲内で制度を整備することについては反対がなかった。また予見可能性を確保することも重要であるという意見もあった。この点については、パブリック・コメントの結果も踏まえ、さらに具体的な制度設計をした上でさらに検討していきたい。
([論点3-2]ADRによる争点・証拠整理、証拠調べの結果の訴訟手続における活用)
○ ADRの結果を訴訟手続で活用したい場合には、当事者側の意思で訴訟手続の場に持ち出せばよいのであるから、共通的な制度として設ける必要はない。
○ ADRで得られた情報は原則として訴訟手続に出すべきではなく、このような制度設計をすべきではない。
○ 当事者間での話合いのために提出された証拠が法廷に提出されることには問題がある。