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ADR検討会(第16回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり



1 日 時
平成15年5月26日(月)13:30~17:10

2 場 所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)青山善充(座長)、安藤敬一、髙木佳子、龍井葉二、原早苗、平山善吉、
廣田尚久、三木浩一、山本和彦、横尾賢一郎、綿引万里子(敬称略)
(事務局)古口章事務局次長、小林徹参事官、山上淳一企画官

4 議 題
(1)ADRを利用した紛争解決における時効の中断
(2)ADRの結果に対する執行力の付与
(3)その他

5 配布資料
資料16-1 検討事項1-9((民間)ADRを利用した紛争解決における時効中断)
資料16-2 検討事項1-10((民間)ADRを利用した紛争解決における執行力付与の方法)
資料16-3 参考資料
・時効中断効の付与のオプション(補足)(ADR検討会資料5-3 1枚目)(略)
・執行力付与のオプション(補足)(ADR検討会資料6-6 1枚目及び2枚目)(略)
・現行の主な債務名義(付与のプロセス等)(ADR検討会資料5-4 10枚目)(略)
・裁判外における第三者の関与による紛争の解決手続等の類型化のフローチャート
(ADR検討会資料11-1 3枚目)(略)
・「民事調停法に基づく調停の申立てと民法151条による時効中断の効力」
(法曹会・最高裁判所判例解説民事篇平成五年度(上)522~532頁)(略)
廣田委員提出資料

6 議 事

(1)ADRを利用した紛争解決における時効の中断

 ADRを利用した紛争解決における時効の中断について、事務局より、資料16-1に沿って説明が行われた。また、次々回の検討会で、再度、時効中断を議論する際には、民法の専門家にも出席願う予定である旨の補足があった。その後、討議が行われ、以下のような意見が出された。(○:委員、□:座長、●:事務局)

[論点1]について
(基本的考え方)

□ 時効中断に関して積極的に検討を進めていくという基本スタンスについては、これまでの検討で、大きな方向性として認識は一致しているものと考えてよいのではないか。

[論点2]について
(念頭に置くケース)

○ 事務局案は、主宰者により手続が打ち切られた後の訴え提起のみを念頭に置いているようだが、ADR不調前、つまり、打切りはされていないが時効期間は到来しているという段階での訴え提起は想定しないのか。また、「一定期間内に」とあるが、どの程度の期間を想定しているのか。

● 訴え提起までの期間の起算点を明確にする必要があると考えられるため、打ち切られた後、すなわち、不調後の訴え提起のみを想定している。また、「一定期間」の目安については、真摯にADRでの話し合いを継続してきたということであれば、余りにも間隔を空けるのは妥当かということがあり、一方で、余りに短期間内に訴え提起しなければ時効中断が生じないとすれば債権者にとって酷になりかねない。これら両方の要請を踏まえ、具体的な期間を考えていきたい。

○ その点は、例えば何日か以内に訴え提起をすれば時効中断が生じる、という規定の仕方をすれば曖昧さは残らないのではないか。

○ ADRの手続の打切り前に訴え提起があった場合を排除する必要はないのではないか。また、ADRと訴訟が権利確定手続として接続していれば、ADRが当事者の取下げによって終了した場合も排除する必要はないのではないか。

□ ADRが打切りにより終了した場合のほか、指摘のあったケースも念頭に、検討を進めていくこととしてはどうか。

(時効中断の方法)

○ これまで示された方法のうち、①「時効停止」という形については民法と平仄が取れないのではないか、②「催告継続タイプ」は、民法の解釈上、和解ための呼出しに催告継続の効果が認められていないにもかかわらず、権利行使の態様が明確性を欠くADRの申立てに催告継続の効果を認めることは難しいのではないか、③「民事調停タイプ」は、平成5年の最高裁判決を踏まえても、民事調停より権利行使が曖昧なADR申立てについて、民事調停申立て以上の効力を明文によって認めることは現行制度と整合性がとれないのではないか、といった問題がある。したがって、「個別労働紛争解決タイプ」が良いと思う。なお、不調前の訴え提起については、救済が必要であろう。

○ 民法との整合性や平成5年の最高裁判決を踏まえ、証明の問題として解決できるような要件の下で、民事調停等も含むADR全体の時効中断を対象とするような規定を置くためには、「民事調停タイプ」が良いのではないか。

○ 「個別労働紛争解決タイプ」を否定するものではないが、「催告継続タイプ」や「民事調停タイプ」も立法論としてはあり得るものであるから、民法の専門家の話を聴く段階までは、方法を一つに絞る必要はないのではないか。

○ 民間ADRを想定して時効中断を考えるのであれば、中断効を得るために手続が複雑になるということはない方がよいのではないか。
 なお、取下げによってADRの手続が終了した場合や不調となる前に訴え提起があった場合についても、時効中断を認めてもよいのではないか。

□ この問題については、次々回の6月23日、検討会に専門家をお招きして、もう一度議論したい。

[論点3-1]について
(ADR上の請求であることの要件)

○ 「ADR上の請求がなされた」こととは何かに関し、「事前のADR合意にもかかわらず、相手方が出頭を拒む場合」については、ADR上の請求がなされたと考えてよいのではないか。

○ 実務を踏まえると、ADR合意があることを要件とせず、ADR機関から相手方に申立てがあったことが通知されれば、ADR上の請求があったものとしてもよいのではないか。例えば、ADR機関に出頭する相手方は、ADRによる交渉に応ずる意思があって出頭する場合もあるが、そうでない場合もあり、両者を区分するためにADR機関の説明負担が重くなるという懸念がある。

○ ADR合意は仲裁合意と同じく、紛争発生後の合意も含まれ、事前の合意に限る必要はないが、いずれにせよ、一方当事者がADR機関の呼出しに応じただけではADR合意があるとまでは言えない。
 また、ADRは争う権利が何であるかという点が不明確なままに開始されることも少なくないので、ADR上の請求があったというための要件として、開始時点で権利行使の意思表示まで求めなくともよく、ADR機関の呼出しに応じ、かつ、紛争を調停で解決するという合意があることとすることで足りるのではいか。

○ 相対交渉とは異なる手続が始まったということがないと、時効中断を認める実質的根拠がない。事務局案が、少なくとも当事者間にADRで話し合うという合意と、ADR機関がそれを受ける合意を要するとしたのは、そのような実質的根拠を表したものといえるのではないか。また、そのためには、ADR機関と両当事者の三者間で合意が成立したことを確定できる仕組みがないといけないのではないか。
 なお、請求より手前のものであるADRの申立てに時効中断の効力を認めることとすると、ADR申立てに和解のための呼出しよりも強い効果を持たせることとなり、民法体系と整合性がとれない。

○ ADR機関が手続的に立ち往生しないようにすることも考慮する必要がある。相手方への送達も裁判所であれば公示送達ができるが、民間ADRの場合困難ではないか。そこで送達の有無にかかわらず、6ヶ月間相手方が出頭しないか期日が開かれないことをもって、時効中断の効力が生じないこととするのも一案ではないか。

○ 業界型ADRにおいて消費者側が紛争解決しようと思っても、事業者側がなかなか出てこず、時間ばかりが過ぎるという実態がある。

○ ADR合意の必要性に関し、合意を必要とすると実務ではやりにくいという考え方も理解はできるが、ドイツのように相対交渉であっても時効の進行が停止するという体系の下であればともかく、民法体系がそのようになっていない我が国では、ADR合意がない場合にADR上の請求があったものとして時効中断を認めることはできないのではないか。

○ 仲裁でも合意が必要であり、相手方とのADR合意がないにもかかわらず、一方当事者の申立てだけで時効中断を認めることは難しい。

(打切りによって終了したものであることの要件)

○ UNCITRAL調停モデル法では、和解成立、調停人の判断による打切り、当事者の合意、一方当事者の離脱終了を調停の終了事由として掲げている。先ほど、終了前に一方当事者が訴えを提起した場合への適用が問題となったが、要件を「打切り」ではなく「終了」とすれば、モデル法でいう一方当事者の離脱による終了に該当するものとして含まれてくることとなるのではないか。

○ 当事者が手続の終了を申し出ているにもかかわらず、主宰者が打ち切ろうとしないという事態も考えられるが、そのような場合、主宰者にかかわらず、手続は終了するということとし、時効中断を認めてもよいのではないか。事務局案のように、「打切り」というと、主宰者による行為がないと認められないというイメージを与えるのではないか。

(その他)

○ ADR上の請求といえる場合に、政策的に時効中断の効力発生時期をADR申立て時とすることができるかどうかという点について、個別労働関係紛争解決促進法において申立て時に時効中断を認めているのは、法令上のきちんとした手続進行の仕組みがあり、また、申立て時が明確に分かるようになっていることによる。仮に、このような仕組みができるのならば、時効中断の申立て時への前倒しということも考えられなくはないであろう。

○ 仲裁の場合、仲裁人の手続進行によっては、仲裁合意が不存在で却下という判断が出るまでに6ヶ月以上要する場合があり、仲裁法案の時効中断に関する規定では十分といえない場合があるので、仲裁への適用も念頭に、時効中断に関する規定を置く必要があるのではないか。ただ、仲裁手続中は催告が継続するものとされるならそのような懸念はない。

○ ADRは、相談とは異なる段階にあるものであることに留意して、この問題を考えるべきではないか。

[論点3-2]について

○ 裁判所の立場からすると、時効中断については、いつ、何があったかを確定できなければ非常に困る。中断事由ができたものの、中断事由を認めるに足りる証拠がないということになると、むしろ当事者の予測可能性に反することとなるのではないか。この点は、時効中断の方法と要件が決まった段階で慎重に議論しないといけないのではないか。

○ 事務局案では、一定のADR機関を利用したことをもって、ADRの適格性に関する要件を満たすものとする仕組みをとるという考え方も示されているが、どの程度のADR機関が対象になることを想定しているのか。また、仮にそのような機関を認定するという場合、機関に着目することになるのか、手続に着目することになるのか。

○ 手続について一定の要件を満たしているかどうかを求めるのであれば、何らかの手続に関する法律がなければ分からないのではないか。

● 対象となる機関としては、実体的要件を確実に満たしている期待が相当高い機関を考えていくということになるのではないか。また、手続法が必要かどうかについては、求める水準によるのではないか。

○ ADR機関等を認定するという方法ではなく、すべて立証で解決することを提案したい。時効中断が認められる要件として、例えば、期間内に出頭したか、期日が開かれたか、和解契約は締結されたか、申立ての取下げがあったかといった、誰でも証明できることを定めればよいのではないか。

□ 本日の議論は多岐にわたったので、事務局で整理の上、再度検討することとしたい。

[論点4]について

□ 調停の場合の時効中断効に関する議論が詰まった段階で、他の手続に適用する場合の問題を議論すべきではないか。

(2)ADRの結果に対する執行力の付与

 ADRの結果に対する執行力の付与について、事務局より、資料16-2に沿って説明が行われた後、討議が行われ、以下のような意見が出された。(○:委員、□:座長、●:事務局)

○ 執行力は国家機関の関与があってこそ与えられることが基本である。また、私法上の和解に執行力を与える理論的根拠を詰める必要もある。
 さらに、執行力を与えることによって、債務名義作成会社などが出てくるなどの弊害も考えられるので、公正さのチェック、合意内容の適正さを判断できるADRを余程選別していかなければならなくなるのではないか。また、債務名義の作成は技術的にも難しいという問題がある。
 これらを勘案すると、民間ADRの結果に執行力を認めることには消極的であり、仮に執行力を認める場合という形で議論を進めて、消極意見がなおざりにされないように留意願いたい。

○ パブリック・コメントでは機関のみではなく、利用者に対してもどういう意見を持っているかを聞いてほしい。

○ 執行力の付与については、改革審意見書にも指摘されている。実務でも、執行力を付与することによって、履行が確保されるという利点がある。また、理論的にも、国家機関の関与の必要については、裁判所の執行決定を必要とすることとしてクリアできるのではないか。また、弊害については、執行力を全てのADR機関に認めるのではなく、特定の機関に付与するということで回避できるのではないか。

○ UNCITRALの議論で、調停和解への執行力付与に反対した国の中から、契約法理との整合性の問題、すなわち、成立過程で調停人が関与するか否かだけで、私法上の和解という同一の効力を有する一般の和解契約から調停和解を区分して、後者のみに執行力を付与する根拠を理論的に説明できるのか、という指摘があったことを紹介しておきたい。

○ ADRの普及が一番の目標である。そのためには、執行力と資格が大切である。執行力があることによるメリットもある。

○ 消費者の立場からいえば、執行力の付与は不要とは考えておらず、どういう場面で必要になるかは一つ一つの案件について当事者間、ADR機関の合意に基づいて行う形がよいのではないか。

○ 裁判手続との連携において、訴訟手続の中止に関する制度や訴訟係属事件につきADR利用を勧告する制度等を設けるのであれば、執行力付与の必要性はより高まるのではないか。

[論点1-1]・[論点1-2]について

○ 多くの国においても調停と仲裁の手続は行き来することがあり、特に我が国では途中までどちらの手続かが分からないことも多いという傾向がある。したがって、執行力を付与する場合には、仲裁判断への執行力付与との整合性を確保することも必要ではないか。

○ 仲裁判断よりも簡易な手続はとれないということであれば、裁判所の関与が必要である。その場合、裁判所が判断しやすい条件整備が必要であり、裁判所に負担にならないようにしないといけない。とすると、要件に関連するが、ADRの適格性が必要になるのではないか。また、執行受諾文言という形で当事者の意思が明確にされている方がよいであろう。一方、執行拒絶事由として、合意の意思表示の瑕疵や手続上の瑕疵を挙げることとなると裁判所の負担が過大とならないか。手続上の瑕疵については、機関の適格性と主宰者要件を厳格にすることで代替できるのではないか。

○ 執行拒絶事由に合意の意思表示の欠缺・瑕疵を挙げることは必要であると考える。この点は、ADR合意に執行力を与えるための根本的な源泉になるからである。
 手続上の瑕疵については、調停の場合、合意は手続の最終段階にあるため、合意形成過程の瑕疵は、再審事由に相当するような重大な瑕疵はともかくとして、ある程度の瑕疵は治癒されるという考え方はあり得るのではないか。
 ADRの適格性については、予測可能性の確保の観点、執行力を付与する要件の実質性を確保する観点、裁判所の負担を考慮する観点から、事前チェックの仕組みを取り入れ、個々の立証を要しないという形としなければ、制度を置く意味がないのではないか。つまり、事前チェックの仕組みを前提としないのであれば、パブリック・コメントに付する意味すらないものと考える。
 また、執行受諾文言は、和解合意の段階で、当事者に執行力付与の有無について選択権を与えるという観点からも必要とされるのではないか。

○ 認証制度は、ADR機関にとって規制になると考えるので避けたい。また、認証するための膨大な手間や費用がかかり、ADR全般の活性化にとって無駄な労力が発生するのではないか。さらに、形式的に要件をクリアすることは難しくなく、ほとんどの機関に執行力が付与されてしまうことになるのではないかという懸念もある。
 こうした点を勘案すると、執行力は付与されるにふさわしいADR機関のみ個別に法律で付与すればよいのではないか。

○ 我が国のように仲裁と調停の関係が融通無碍である場合、両者で執行拒絶事由等が異なるのは望ましくないのではないか。そのような点からみると、手続上の瑕疵があることを執行拒絶事由とすることは必要である。そのためには、調停手続法の制定が前提として必要ではないか。
 また、事務局案には、主宰者に関する要件が掲げられているが、仲裁の場合にはこのような要件はなく、その点でもバランスを欠くのではないか。

○ 調停の場合、手続上の瑕疵は、強行法規に違反するようなものに限定されるのではないか。したがって、直ちに調停手続法が必要であるとの結論には至らないのではないか。

○ 適正な合意を取り付けている主宰者が関与する手続でなければ、合理性のない内容の合意に対して執行力を付与することになりかねないのではないか。その点を保証し得る仕組みを具体的に仕組めるかということが大切ではないか。

○ 事務局案に掲げられた要件のほか、ADR和解文書に調停人の署名があること等も考えられるのではないか。

[論点1-3]について

○ 実務では、土地や建物の明渡請求のニーズが大きい。したがって、債務名義となる給付請求権を金銭債権等に限定すべきではない。

[論点1-4]について

○ 一方当事者を拘束し、一方当事者を拘束しない裁定型の場合、一方にとっては仲裁、一方が調停と同じであるため、執行力を付与するということでよいと思われる。非拘束型の裁定は最終的に当事者間で和解するのであるからこれに執行力を付与するということは困難と思われる。

[論点2]について

○ 各ADR機関が工夫して進めていることでもあり、裁判所との連携は別として原則として法律に書くことではないのではないか。

(3)その他

 次回は6月9日の午後1時半から開催し、基本理念・国の責務といった基本法的事項、ADR機関や主宰者の義務等の一般法的事項、調停手続の一般的ルールに関する事項、弁護士法第72条に関する事項について議論を行うことになった。

(以上)