[開会]
○青山座長 それでは、ただいまから第16回「ADR検討会」を開会いたします。横尾委員は3時ごろから御参加ということでございます。
本日はお手元の議事次第のとおり、まず「ADRを利用した紛争解決における時効の中断」の問題を議論していただいた後で、休憩をはさみまして、後半に「ADRの結果に対する執行力の付与」につきまして、検討してまいりたいと思います。今日は時効中断と執行力の付与という2つの問題を取り上げることにしておりますので、よろしくお願いしたいと思います。
それでは、最初に資料16-1の検討事項1-9に基づきまして、時効中断について議論をしたいと思います。まず事務局に資料の説明をお願いしたいと思います。小林参事官お願いいたします。
[(1)ADRを利用した紛争解決における時効の中断]
○小林参事官 それでは資料16-1と、本日は資料16-3として参考資料をお配りいたしておりますが、その最初に綴じてある「時効中断効の付与のオプション(補足)」、これは前に議論したときにも提出した資料でございますが、これを適宜御参照いただきつつ御説明したいと思っております。
それでは、資料16-1に戻ります。1ページの前注でございますが、今回の議論の適用範囲についての整理をしております。
まず仲裁に関しましては、仲裁法案で仲裁手続における請求が時効中断の効力を生ずるものとなる予定でございます。また、民事調停、家事調停につきましては、民法第151 条の類推適用によりまして、その申立てが時効中断事由となるものとされております。また、行政型ADRにつきましては、この部分だけに限らずまとめて御議論していただく必要があるわけでございますけれども、とりあえず今回の対象からは外しております。
したがって、前注の第2パラグラフでございますけれども、以下の説明及び検討につきましては、民間型で、仲裁以外のADRについての手続を念頭に置いた議論ということで御理解いただきたいと思います。
続きまして、1ページ「1.制度創設の必要性」につきましては、これまでも御議論いただきまして、おおむね必要性については方向性が出ているのではないかと考えておりますが、1ページ最後の○以下にございますように、当事者が安心して時効のことを心配することなく、ADRの利用が可能になるように、時効中断制度を設けることが必要ではないかということでございます。
2ページの1.の最後の○ですが、先ほど申しましたように、民間型ADRを念頭に置いた議論ではございますけれども、とりあえずはまず調停についての整理をした上で、それ以外の、この検討会での整理で言えば「裁定」と呼んでいるようなものについても議論を進めていくという順序を取りたいと思っております。
2ページの「2.時効の中断方法」でございます。論点2では、先ほど御紹介しましたADR検討会資料5-3のうち、3番目の「個別労働紛争解決促進法タイプ」を中心に議論を進めることとしてはどうかということを提案しております。
この資料5-3をご覧いただきますとわかりますように、この検討会で提出された意見も含めまして、時効中断については幾つかのオプションが考えられるわけでございますが、ここでは個別労働紛争タイプをモデルにして議論を進めさせていただければどうかということでございます。
その大きな理由の一つについては、時効中断の制度を導入する必要性についてはおおむね御理解いただいていると思いますが、そういった目的を達成する手段として、どういったことが望ましいのかということについて、私ども事務局といたしましては、今回の制度導入の趣旨にかんがみまして、あまり大きな制度改正というのはなかなか難しいのではないか、同じ目的が達成できるのであれば、最も実現性の高い手段をまずは中心に考えていきたいということでございます。
最も実現性の高いものということもいろいろな判断があろうかと思いますが、1つのメルクマールとしては、現行制度との整合性が比較的取れているものといったことが考えられるのではないかということで、このタイプを中心に議論を提案しているわけでございます。
勿論、同じ目的が達成できると申し上げても、やはりどういう手段を取るかによって得られる効果は違うわけでございまして、廣田先生からも御提案いただいておりますが、私どもがここで提案している案に比べれば、結果的にはかなり多くのケースで時効が中断することになるわけですけれども、この辺りはなかなか現在の時効制度との関係については、難しい問題があるのではないかと考えております。
いずれにしても、そのような現行の時効制度との関連も深い問題でございますので、この問題については、パプリック・コメントの前にもう一度全体を通した議論をしていただく機会があると思いますので、その機会に民法の専門家の方をお招きして一度お話を伺う機会を設けたいと考えております。
それから、同じ目的を達成するための手段として、どういうものが考えられるかということで、今回提案しているタイプにつきましては、勿論、弊害を懸念される意見もこれまで出されてきているわけでございます。必ずしもストレートに結び付くわけではありませんが、このスタイルを取る場合には、どうしても事前の認証、認定ということについて考えなければいけないことになるわけでございまして、これについて懸念を表明する御意見もあったかと思っております。
その1つには、国がそのような権限を持つことが適当かどうかという御議論もあったかと思います。勿論、こういったことを奇貨として権限の拡大を図るというほど行政庁が情ない発想をするとは思えませんけれども、他方、認定性を取ることによって、いわばADRの中が二分化されるのではないかという御懸念については、それなりに考えなければならない問題ではないかと考えております。
しかし、そういった問題点を十分踏まえつつも、先ほど申しましたような現行制度との整合性を考えますと、少なくともパブリック・コメントで御意見を伺う際には、この方向性について検討を深めておく必要があるのではないかということで御提案しているわけでございます。
この個別労働紛争タイプを取る場合の法的効果の問題点は後から出てまいりますが、それ以外のものにつきまして、3ページ以下でコメントしております。
参考にございますが、まず「ア 時効停止という方法」ですけれども、これにつきましては、民法に照らすと直ちに採用することは困難ではないかということです。
「イ 催告継続という方法」ですけれども、これも民事調停でも催告が継続するとは必ずしも考えられていないということを踏まえますと、やはり現行制度との整合性にはかなり難しい問題があるのでないかということでございます。
ウにあります、ADR上の請求を裁判所の請求、あるいは仲裁手続における請求と同列の時効中断事由とするタイプですが、これにつきましては、仲裁や裁判と異なりまして、ADRにおいては最終的解決に至らない可能性が少なからずあるということを考えますと、やはりこれは取り得ないのではないかということでございます。
それから、ウの2つ目の○ですけれども、即決和解の申立てや民事調停の申立てと同列の時効中断事由とするということでございます。これは横長の紙の上から2つ目の選択肢になるわけですが、前回議論したときにも触れたかと思いますが、かなり今回の個別労働紛争タイプと似ているところはあるわけでございますが、両者を比較いたしますと、その結果が確定判決と同一の効力を有しないADRにおける請求それ自体を時効中断事由とするということは、やはり現行の時効制度の下ではやや異質ではないかという議論がございます。
それから、民事調停の申立てについて時効中断事由としているのは、民法151条の類推という形を取っているわけでございますが、これにつきましては、その部分を明文化しないまま、こちらのADRの方だけ規定を置くというのはバランスを欠くことになるということで、これはある意味では技術的な問題ではありますけれども、こちらも採用は難しいのではないかということでございます。したがって、残るものとしては、個別労働紛争解決促進法タイプが考えられるのではないかということでございます。
それから、4ページにまいりまして、その場合の時効中断の効力発生時期につきましては、基本的には訴えの提起があったものとみなされるADR上の請求がなされた時と考えるべきではないかと考えております。
この「ADR上の請求がなされた」ということにつきましては、いろいろな要件があるわけでございますが、一旦その要件が満たされた上で、それではどこまで遡るかということにつきましては、後ほど触れますように、政策的な判断として、若干それから前に遡るということは考えられるわけですし、前例によればむしろそちらの方が通例ではありますけれども、そもそも時効中断を認めるためには、このADR上の請求がなされたということが大きな要件となろうかと思います。
具体的な要件の内容としては、4ページ中ほどにありますように、①として、一方当事者から他方当事者に対し、ADRによって紛争解決を図ることの目的となる請求として、権利行使の意思表示がなされていること、②として、ADR手続が開始されることが確定していること、この2つが必要ではないかということでございます。
具体的にどのようなケースになるのかということにつきましては、4ページの参考に触れてございます。
5ページですが、先ほど触れましたように、そういう請求がなされた時点を時効中断の効力が生じる時点とするかどうかということですが、これまでの民事調停上の請求、あるいは個別労働紛争解決促進法につきましては、中ほどにございますように、ADRが開始された場合には、ADR申立てのときに時効中断の効力が発生するということにいたしておりますので、こうした扱いを考えていくということでもいいのではないかということでございます。これは具体的には、意思表示が相手側に到達したときか否かというところで差異が出てくるわけですけれども、これまでの例にならえば、むしろADR申立てのときまで時効中断効を遡らせているということでございます。
5ページの「(4)その他」ですけれども、ADR不調の後、裁判に訴えるケースに時効中断効を認めているわけでございますが、同じく最終的な解決に至るという意味では、裁判のみならず仲裁に移行するケースも考えられるわけでございまして、5ページの最後の○にありますように、ADR不調後に仲裁に移行した場合にも、時効中断の効力を発生させる必要がないか、ほかの制度との整合性も踏まえつつ検討する必要があるのではないかということでございます。
6ページの具体的な要件ですけれども、要件の内容といたしましては、大きく3つを考えております。①は、ADR開始後にADRが打切りにより終了したこと、②としまして、ADRの申立てをした者が、その終了後、一定期間内にADRの目的となった請求について訴えを提起したこと、③としまして、そのADRが一定の適格性を有するものと認められることということでございます。
要するに、最終的には裁判で紛争解決が図られるわけですが、その前段階において、裁判にかなり近い紛争解決のための真摯な努力がなされているということが評価できるのであれば、それについての申立てがなされたとき、あるいは請求がなされたときに、時効中断の効力を遡らせてもいいのではないかという考え方に基づくものでして、その場合には、こうした要件が必要になるのではないかということでございます。
まず、①のADR開始後の打切りによる終了でございますが、これにつきましては、ADR手続が一旦開始されたこと、それから、当事者の申出又は主宰者の判断により、ADRが打ち切られたことが必要になるわけでございます。
7ページにまいりまして、「ADRに係る請求と訴えに係る請求の同一性」でございますが、これは先ほど申し上げたように、訴訟で最終的に解決が図られるわけですけれども、その前段階でそれに匹敵するような真摯な話合いが行われている、紛争解決の努力が行われているということを評価するのであれば、当然その間には同一性が必要であろうということでございます。
その場合の同一性の程度ですが、これはなかなか一般論で申し上げるのは難しいのですけれども、個別労働紛争の場合によれば、例えば申立ての時点のあっせんを求める事項、及びその理由というのは、参考に掲げている程度のものということでございます。
「(3)ADRの手続進行の適格性」ですけれども、これは先ほど来申し上げておりますように、ADRで話合いがなされているということについて、時効中断の効力を認めてもよいだけの内容を有していることが必要になるわけでございまして、そのためには、やはり最初の○にありますように、ADRが時効中断措置を講ずるための暫定的なものとしてではなく、真摯に紛争解決を図るための手続であり、かつ、開始から終了までその状態が継続していることが必要ではないかということでございます。
この「状態が継続している」ということでございますけれども、この段階でいたずらに、何もせずに事態が経過しているという状態を放置することになりますと、これはいわば、当事者によって時効期間が延長されることと同じ効果を生ずるわけでございまして、これは好ましいことではないと考えられます。そうなりますと、やはりADRの終了については、当事者に委ねるだけではなくて、主宰者が適確に判断し、これ以上やってもしようがないという場合にはきちんと手続を終了させることが必要になるのではないかということでございます。
以上のことを踏まえますと、8ページにございますように、ADRにつきましては、①の手続開始・不開始の決定が公正・適確に行われる必要がございますし、②にありますように、その打切りについての決定も、公正・適確に行われる必要がございます。
また、その開始後、打切りに至るまでの間がいたずらに時間の空費になることのないように、進行管理が公正・適確に行われることも必要となるではないかということでございます。
それから8ページの論点3-2ですけれども、これは今申し上げたような要件を前提に、時効中断効を与えるということになった場合、その立証はどうすればよいのかということでございます。
これにつきましては、勿論、今申し上げたような条件が満たされていることを時効中断効の発生を主張する側から立証していただくということになるわけですが、これは今申し上げたような要件ですので、現実問題としてはなかなか難しいケースもございます。
また、ADR機関側の記録の保管などが十分に行われていない場合については、必ずしも当事者に帰責しない事由によって、その立証が難しくなるケースもございますし、この制度の導入の趣旨からいって、やはり相当程度、予見可能性というものを確保する必要があるのではないかということも言えるわけでございます。
さらに、これを個別の事実認定で行うということになりますと、これは裁判実務にもかなりの負担になることも懸念されるわけでございます。
こういった点を踏まえますと、8ページの下から2つ目の○にございますように、1つは、ADRの適格性に関する要件としまして、手続過程の記録管理の適確性を求める必要があるのではないかということ、それから、そもそも一定のADR機関・手続を利用したことをもって、ADRの適格性に関する要件を満たすものとする仕組みを取ること。これは先ほど冒頭に触れました認証なり認定という考え方につながっていくわけですが、こういったことを検討する必要があるのではないかということでございます。
それから、9ページの「4.その他」ですが、これは最初に申し上げましたように、以上のことは、調停を念頭に置いて議論したわけでございますが、それ以外の、この検討会で言われていた裁定あるいはあっせんについても、こういった時効中断制度を設けることは可能か否かということでございます。
これにつきましては、基本的には調停と同様の仕組みを取ったとしても、特に問題はないのではないかということでございます。
ただ、これは分類の考え方として、裁定につきましては、裁定案の提示後一定の考慮期間を経過することによって、裁定案を受諾するか否かにかかわらず手続を終了するという考え方を取ったわけでございますので、この場合については、その時点でADRが打ち切られたものと考えるということ、ここが若干バリエーションとしてあるだけで、基本的には同じように考えていいのではないかということでございます。
以上、時効中断の関係についての説明でございます。
[論点1(制度創設の必要性)]
○青山座長 ありがとうございました。ただいまの時効中断の御説明につきまして、御質問、あるいは御意見をいただきたいと思います。廣田委員からは、この時効中断の問題と執行力の付与の問題につきましても、条文案の形で資料が提出されておりますので、これを席上に配付しております。廣田委員には、御発言の際に適宜御説明いただきたいと思っております。
そこで、論点1から論点4までありますが、順次論点ごとに御意見を賜りたいと思っております。まず論点1でございますけれども、これは時効中断に関して、積極的に検討を進めていってはどうかという基本的スタンスを示したわけでございまして、これにつきましては、これまでの検討でも大きくこういう方向で行こうという認識は一致しているように私は受け取っておりますので、もし差し仕えがなければ論点1はこういうことで御了承いただいたとして、論点2から御議論を賜ればと思っておりますが、それでよろしいかどうか。論点1についても、なお議論すべきだという方がいらっしゃれば、それをすることにやぶさかではありませんけれども、論点2から入った方が効率的かと思いますがいかがでしょうか。
(「はい」と声あり)
[論点2(時効の中断方法)]
○青山座長 よろしゅうございますでしょうか。論点2の中でまたここへ戻ってきても結構でございますので、それでは時効中断の方策を設けるということを積極的に検討しようという前提で、それでは具体的にどのような方向があるかということで御意見を賜りたいと思います。
論点2は、調停をまず念頭に置いた上で、先ほど小林参事官からお示しいただきましたけれども、1巡目で幾つか示されたオプションのうち、個別労働紛争タイプの時効中断制度を中心に検討を進めてはどうかというものでございます。調停以外の手続につきましては、論点4でまとめて議論をいたしますので、ここでは調停に絞って議論をしていこうということでございます。
関連資料として、既に御説明いただいていますが、1巡目の資料の抜き刷りと、綿引委員が平成5年に最高裁調査官時代に執筆された民事調停申立の時効中断に関する最高裁判例解説を席上に配付しております。これを参考にして御議論いただきたいと思います。
先ほどの小林参事官の御説明にもありましたように、現行の時効制度全体を見直すことは難しいということで、現行の時効制度全体には手をつけないで、このADRについての時効中断という制度を設けていくとすると、論点2の枠内に書いたような考え方が妥当ではないだろうかということが事務局の考え方であり、また、私もそのように考えるわけでございますけれども、これについて御意見をいただきたいと思います。どなたからでも結構でございます。
○原委員 質問からお願いします。論点2の4行目から括弧書きでこういう方法がどうかと書かれている部分について2点あります。一つは、「ADR不調後」と書いてありますね。そうすると、途中でADRが不調になりそうだなと思っている段階での訴えの提起は含むことになるのか。やはり、不調後ということが明確になっていればそれもあるかと思いますけれども、多様なADRがあると明確になるのかなという辺りまで、この言葉に入れるかどうかというところは判断しにくいのではないかと思います。
二つめは、「一定期間内に」と書いてあるのですが、この「一定期間」というのは、裁判や訴訟ではよく使われていて、ある程度の目安がある期間という意味の言葉なのか、教えていただきたいと思います。
○小林参事官 まず不調の方ですけれども、これはやや正確さを欠いているところがあるかもしれません。厳密には先ほど申しましたように、打ち切られた後ということで、そういう意味で不調だということが明確になった時点を想定いたしております。
それから、一定期間につきましては、これは特にこの時点で何らかの日数を考えているわけではございません。勿論、最終的には決めなければいけないわけですけれども、1つの要素としては、先ほど申しましたように、訴訟の前段階として、それまで真摯な努力が継続していたということを考えるのであれば、あまり間が空くというのはどうかという要請が一方でございますが、他方、あまり短い期間内に次のステップを踏まないと時効中断効が生じないということになりますと、これは債権者側からするとやや酷なケースがありますので、おそらくはその両方の要請を踏まえて、これまでの制度を参考にしながら、具体的な数値を決めていくということになります。
○原委員 数字は入るわけですね。
○小林参事官 入ります。
○青山座長 原委員の最初の御質問は、訴えの提起をした後にも、ADRも両方続けたいということでしょうか。
○原委員 それもあり得るかと思いますし、それから、小林参事官は打ち切られた後とおっしゃったのですが、そうなると、ADR機関が打ち切るということの意思を表示することになりますけれども、自分が打ち切って訴訟をするということもありますね。それも入るわけですか。
○青山座長 それは、打切りという言葉がどこまで意味するかということですので、後の議論にさせていただきたいと思います。
○三木委員 原委員の質問の確認をしてよろしいでしょうか。
○青山座長 はい。
○三木委員 打切りの話はおっしゃるように後で議論するとして、そうではない方ですが、原委員の御質問の趣旨を私なりに理解しますと、調停が継続中に当事者の一方が訴えを提起したとして、その訴えの提起の時点では本来であれば時効は完成しているというときに、この場合には時効の中断の利益は得られないのかという御質問だと思うのですけれども、その点を確認したいと思います。
○小林参事官 その部分につきましては、この文言上は含まれないことになりますが、ただ、それがなぜだめかということについては、なかなか私自身必ずしも明確な御説明が難しいという気がいたしております。
ただ現実問題としては、そういうものを不調後という形で整理しないと、あいまいさは残るのではないかと思います。
○山本委員 あいまいさは残らないように規定できるのではないかと思います。要するに、ADRの不調とそれから何十日の間ということにしないで、そのADR不調から何十日経つ前の時点で訴えが提起されれば時効中断があったという規定の理解をすれば、ADR不調前の訴え提起も含まれるという規律の仕方は十分可能ではないでしょうか。
○三木委員 山本委員がおっしゃったのも1つの方法だと思いますが、それが唯一の方法かどうかは議論の余地があると思います。いずれにしましても、原委員の御質問は当然の疑問だと思いますし、おそらく大方の人がそういう疑問を持たれるのではないかと思います。小林参事官がおっしゃったように、そのケースを排除する理由というのは、この段階では私には思いつかないので、できればそういうケースを含める方向でなお検討を続ける方がいいのではないかと思っております。
○青山座長 ADRの申立てを自分から取り下げるというのでは、これは時効の中断はないと思うのです。訴え提起のときも、訴え提起をして、その訴えを取り下げれば時効の中断はないわけですから、自分から取り下げるということではなくて、このままでいくとにっちもさっちもいかなくなると判断して、自分としてはやめたい、訴訟でやりたいという判断をして訴えを提起した場合に、「不調後」という言葉ではなくて、もう少し別の言葉を使ってそれも含めるような工夫をお考えいただきたいと思いますけれども、いかがでしょうか。
○三木委員 今の点は打切りの議論に関わると思うので、後の議論だと思いますが、気になったのは、訴えの場合には取り下げればもはや時効中断効は発生しない、だから、調停の場合も取り下げるのはだめだということにはならないのではないかと私は思います。
というのは、訴訟の方は、取り下げればそれで権利を確定するための手続自体は消えてしまって後に何もそういう手続は残らない。それに対してこちらの場合は、調停を取り下げても、その後に何日か以内に訴えを提起するわけですから、権利確定手続というのは必ず接続するわけです。接続しないと中断効は取れないということを今考えているわけですから。そうしますと、取り下げの議論は訴えとパラレルには論じられないのではないかと思います。
○青山座長 わかりました。そういうオプションも論理的に排除するわけではありません。この論点2について、ここでは大きく言うと、催告継続タイプと、あるいはADRの申立て自身を中断事由とするタイプと、それから平成5年の最高裁判例のように、ADRの申立ては一応中断事由だけれども、その後一定期間内に訴えを提起しなければ、解除条件のようなことでなくなってしまうという考え方でしょうか。
そういういろいろなオプションの中で、個別労働紛争タイプのように、訴えの提起の時期を前に遡らせるということでどうだろうかということです。これは停止や時効の中断そのものを認めるというドラスティックな方法とは違って、現行法の中でも割合マイルドな方法として取り得るのではないだろうかということで、事務局がこのように用意していただいたということでございますけれども、これはいかがでしょうか。
綿引委員と廣田委員に御意見を伺いたいと思います。
○綿引委員 基本的には個別労働紛争タイプということで私はよろしいかなと思っています。まず、停止については、基本法である民法が一時的に時効の進行を止めるという停止の制度を、時効完成直前の停止の制度しか設けていない中で、ADR法で一般的にADRの申立てで時効進行が一時的に停止するということを入れるというのは、どうも今の民法とも平仄が合わないのではないかという感じがします。停止型というのは、今後時効制度を考えていく上で広く考えていく必要はあるのかもしれませんが、ここでの議論としては、停止型というのにはどうも賛成しかねるという感じを持っております。
催告継続型という考え方につきましては、この解説の中にも若干書いておりますが、民法の解釈上、和解のためにする呼出しの場合でも催告継続の効力は認めていない。そうしますと、和解のためにする呼出しよりも権利行使の態様としての明確性を欠くと思われるADRに対する申立てについて、催告継続の効果を認めるというのは難しいのではないかと考えております。
もう一つは即決和解型で、ADRの申立て自体に時効中断効を認めるという形が考えられるのだと思います。これは考えられないオプションではないのかもしれないのですが、民事調停でさえも、民事調停の申立て自体に時効中断効があるという形で民事調停法が規定しているわけではなく、民事調停法は、不調後2週間以内に訴えを提起すると調停の申立てのときに訴えの提起の効果があるという形で時効中断に結び付けようという形を取っていたのを、この最高裁判決は若干救済的な意味もありまして、民事調停の申立てに即決和解の申立てと同じような効力を認めていいではないかという、解釈で一歩踏み出すような形を取っております。そうしますと、権利の行使態様としては、民事調停よりも更にあいまいなものが残るADRの申立てに民事調停申立て以上の効力を、解釈ではなくて、明文上それ自体に時効中断の効力を認めるというのは、どうも現行法とは合わないのかなと思います。
今回、時効中断という効力を認めていくとしますと、事務局が言っておられる個別労働紛争タイプというものでよろしいかと思いますが、先ほど原委員が御指摘になったところは、おそらく事務局も十分考えていなかったところではないかと推察します。私もそういうパターンは考えていなかったのです。確かにADRでの話合いの途中で時効期間は経過してしまった。それで、まだ不調になる前に訴えを提起するということはあり得るわけで、そのときに不調後の訴え提起なら時効中断効があって、そうでなければ時効中断効が遡らないというのは明らかにおかしいことになりますから、そこは先ほど山本委員が言われたように、そこが外れることのないような立法上の手当はしていく必要があるのだろうと思います。
以上です。
○青山座長 どうもありがとうございました。
○廣田委員 私の意見は全般にわたっていますので、後で申し上げたいと思っていたのですが、今の個別労働紛争タイプにするかどうかということに限って申しますと、私はむしろ民法151 条タイプ、民事調停タイプということで分類されていますが、その方がいいのではないかと思っております。
この民法151 条を講学上、停止と言うのか中断と言うのか、これは問題があると思いますけれども、しかし、民法151 条では中断という言葉を使っていますので、そのまま民法151 条を借りて、中断という言葉を使いますが、そこに持っていく方が、私はこの場合は全体としてやりいいと思っています。
その理由は、1つは民法との整合性があるということです。ADRに乗せる時効中断というのは、私のADRでの時効中断効は全般を見るということなので、前注と意見が違うのですが、とにかくそういうことであれば、民法との整合性を重視すべきである。これが第1点です。
それから、民法151 条タイプの方が事務局案の方で後から出てくるいろいろな懸念や問題点をクリアーしやすいのではないかと思うのです。ただいまの原委員の御質問の中にあった懸念の点も、最初の段階で中断するわけですから、そういうものはクリアーできる。後で申し上げますけれども、いろいろな要件を設ける必要がなくなってきますので、そうすると証明の問題で解決できるということが1つです。
第3点は、綿引委員が起案なさった、最高裁の平成5年の判決ですね。これとも整合性があるということです。つまり最高裁の判決をそのまま追認して、それを更にADRに広めるということになるのではないかと思います。そういう意味では最も素直ではないかと私は思っています。ですから、文章の書き方によって、それほど大きく違いはないのかもわかりませんけれども、すっきりとしていてその方がいいのではないかと思っております。
○青山座長 ほかに御意見はありますか。
○三木委員 今日の検討で、この個別労働紛争タイプを基本に据えてやるということには特に異論はありませんし、これが1つの有力な選択肢であるということについても異論はありません。
また、現行法の下で、資料5-3に挙がっている幾つかのオプションを考えた場合には、いろいろな問題があるというのは、綿引委員の御発言に特に付け加えるところはありません。ただ、先ほどの小林参事官のお話ですと、近い将来、民法の専門家を呼んで、本格的な議論をする機会があるということですから、この段階で選択肢を個別労働紛争タイプだけに絞ってしまって、あとは完全に落とすということまではしない方がいいのではないかという気がします。
ただ、資料5-3に挙がっているものすべてを継続的に可能性として残せという趣旨ではございませんが、少なくとも今、廣田委員がおっしゃった民法151 条類推タイプは選択肢の1つして、民法の専門家の御意見を伺う機会までは残しておいた方がいいのではないかと思います。
もう一つ、催告継続タイプも、実際に採用される可能性がどのくらいあるのかわかりませんが、可能性としては一応残しておいた方がいいのではないかと思います。
確かに現行の下ですと、綿引委員がおっしゃったように、訴訟上の和解の呼出しでも催告の継続の効果はないということでしょうが、仮に催告継続タイプでADRの時効中断効が組まれますと、そちらの規定が和解の呼出しの方にも解釈上影響を与えるかもしれませんので、立法ですから、可能性としてはまだあり得るのではないかと思っております。
この事務局案と合わせて3つくらいは、本日検討する必要はないかと思いますけれども、可能性を残してもいいのではないかと思っております。
○髙木委員 私も確かに残すことに反対ではありません。ただ、結論としては事務局提案のような形にしかならざるを得ないのかなと思っていますし、理由は綿引委員がおっしゃったのとほとんど同じです。
先ほどの原委員の質問ですけれども、そういう場合を結論として排除することはないと思うので、論点2の枠囲いの中に書いてある文字上は外れるかもしれないけれども、それを工夫して入れるべきかなと思います。それから、取り下げの場合は不調とは別かということに関しても、これは同じように扱うべきかなと思っています。
結局なぜこういう結論にすべきいかというと、ここでの問題というのは、民間のADRが想定されていて、なおかつ調停なのですが、要するに、弁護士なしで当事者が手続を行うことを予定しているということから考えると、あまり難しくなくて、わかりやすいことにしなければならないのではないかと思うのです。不調と取下げというのは確かに違うかもしれないけれど、話し合いがまとまらなかった結果に着目してそこはやはり同じように扱ってあげる必要があるだろうと思うし、不調後、一定の期間内に訴えの提起をすれば遡って中断効を認めるのと同じように、それをそのままにして訴え提起をした場合だって認めてあげる必要があるだろうと思います。
以上です。
○青山座長 ほかに御意見ございますか。この問題につきましては、事務局の方としては、個別労働紛争タイプを中心に議論していきたいと考えたわけですけれども、パブリック・コメントに出す前にそこまで絞る必要もないというお考えの方もいらっしゃいましたか。
○山本委員 今の御議論で私が伺ったのは、民法の研究者の方の御意見を伺うまでは選択肢として残しておいてよいという御意見であって、民法の研究者の御意見を伺うのはパブリック・コメントの前の段階であると私は認識していて、パブリック・コメントの段階で複数の案で聞くということについては、必ずしも今の段階で賛成しているわけではありません。今の私の整理でよろしいかどうか、御確認いただきたいと思います。
○青山座長 そのとおりです。この問題について次は、次回が6月9日ですが、その次の6月23日にもう一度これを御議論いただきたいと思います。できれば、事務局ではまだそこまで調整しておりませんけれども、その席上に民法学者にお越しいただければ、一緒に民法の考え方も詰められるかなと思っておりますので、とりあえずそこまで延ばさせていただきたいという趣旨でございます。よろしゅうございますでしょうか。それからどうなるか、まだちょっとわかりせん。
それでは今の段階では、個別労働紛争タイプを中心としつつ、まだなお、民法151 条類推タイプと催告継続タイプも一応残しておいて、23日に御議論いただくということでよろしゅうございますでしょうか。
○小林参事官 パブリック・コメントをどういう形でやるのかということは、委員の皆様にもよく御相談して決めたいと思っておりまして、必ずしも1つの試案のようなものをお出しして、御意見を伺うということだけではないと思っておりますので、それは十分御相談したいと思っております。
[論点3-1,3-2(要件等)]
○青山座長 なお柔軟性があり得るということでございます。
それでは続きまして、論点3-1と3-2の個別労働紛争タイプの制度によるとする場合の要件等について御議論いただきたいと思います。
論点3-1はいわば制度論の問題、論点3-2はいわば政策論といった分け方もできようかと思いますが、これは関連する問題ですので、2つの論点を合わせて御議論いただきたいと思います。
今日は個別労働紛争タイプに絞るわけではないということでございますので、これとの関連で要件等につきまして、民法151 条の類推タイプの場合の要件、これは廣田委員の案が既に出されておりますが、あるいは催告継続タイプの場合の要件で従来のものと別に考えなくてはいけないというものがあれば、併せて御議論いただきたいと思います。どなたからでもどうぞ。
○綿引委員 論点1の(3)の時効中断の効力発生時期の問題が今の議論の中から抜けてしまったと思いますが、このADR上の請求がなされたといえるための要件は何なのかという議論をしないまま、論点2の方に進んでしまってよろしいのかどうか、この部分の事務局の考え方で皆さんがよろしいのかどうかというところを、もう少し詰めておいた方がいいように思うのですが、いかがでしょうか。
○青山座長 これは何かございますか。
○小林参事官 どれを選択するかということに議論が集中しましたので、抜けていたかと思いますが、ある意味では次の要件とも絡んでくる問題だと思いますので、もしよろしければこの議論の中で触れていただきたいと思います。
○綿引委員 論点2の中で一緒に議論するということでよろしいですか。
○青山座長 それではそういう前提でお願いいたします。
今、綿引委員から御指摘いただいたのは、論点3-1で言いますと、①の「ADR開始後に」というところに関連しまして、3ページでは、「ADR上の請求がなされたときに訴えの提起があったものとみなす」というところの「ADR上の請求」というものとADRの開始との関係がどうかという議論になるかと思います。
○山本委員 4ページの注の4のところで、事前の合意があったけれども、相手方がADRへの出頭を拒む場合をどうするかということで、両論併記の形になっているわけですが、私自身はこれは前段の方でいいのではないか、つまり、合意があった場合には、それで相手方は実際のADRには応じなくても、ADR上の請求がされたと考えていいのではないかと思っております。
これは、ここに書いてありますように、相手方は契約上の義務に反しているわけでありますから、それは勿論、その後出てこないわけですからADRがうまくいくとは通常はあまり考えられないわけですけれども、一応このADR上の請求がなされたということで、そこから何日以内かに訴えを提起すれば時効の中断を認めていいのではないかという意見を持っております。
以上です。
○青山座長 ほかにいかがでしょうか。
○髙木委員 私はADRの合意を要求することがどうかと思っていまして、ADRで解決するという、いわゆる仲裁合意に相当するような合意が事前にあることを念頭に置くとすれば、そういう場合は通常はほとんどないわけです。民事調停と同じように、調停人に申し立てるのではなくて、別の機関に申し立てるということがほとんどなので、これを要件とされてしまいますと、なかなか弁護士会の仲裁センターなどでは使われないのではないかと思います。
どの段階のどういう行動や意思をもって合意があったと考えるのかというところがわからないのですが、例えば呼出しを受けて行きますと言っただけで、合意があるということに擬制してしまえば確かに大体入ってきますけれども、行くというときに、とりあえず申立人の考え方を、あるいは申立人に話を聞くだけに行くということもあるのです。
実際、弁護士会の仲裁センターでも、申立があった時に、こういう話が来ているけれどとりあえず話を聞いてみてはどうですかと言って呼び出す。まさに出頭確保が難しいところで、そういった便法で呼出しをしているのですが、そこに応じること自体が時効中断につながる行為になるというようにもし当事者が考えたとしたならば、一生懸命時効中断効を持つような承認にならないようにみんなが書面に苦労するのと同じように、それは留保していきますとか、何か面倒くさいことまでしなければいけないようなことにもなるし、そういう説明もしなければいけないようになって、そこがあまりに過大なものを要求し過ぎるのではないかと思っています。
ですから、申立てがあって、それがきちんと管理されていて、相手方に送られて了知可能な状態になって、応諾の可能性ができたという程度で留めておいていただけるとありがたいと思っています。
○三木委員 まず、山本委員がおっしゃった4ページの注4の点について、私も山本委員と全く同意見で、前者の考え方でよいのではないかと思います。
2つ目として、今、髙木委員がおっしゃったADR合意の点ですが、これは私の理解ですが、現在、調停に限った議論になっていますから調停という言葉を使いますと、調停合意は必要だという文章だと思います。そこで言う調停合意というのは、仲裁合意と同じ意味で使われているのだろうと思います。
仲裁合意の場合には、事前の合意のほかに紛争発生後の合意も含まれているわけですから、髙木委員がおっしゃった懸念のように、事前の合意に限って読む必要はないのではないかと思います。
ただ、一方当事者が申し立てて、調停機関から呼出しがあって、その呼出しに応じたという段階では、これは調停合意があるとは当然言えないと思います。どういう話なのか一応聞きに行きましょうというだけですから、調停によって紛争を解決する合意まであるとは、その段階では思えないわけであります。
やはり出頭に応じて、かつ、調停で紛争を解決しましょうという合意、それが明示の合意であるか黙示の合意でもよいかという点は、黙示の合意でもよいと思いますけれども、紛争を調停で解決する合意というものがないとだめなのではないかと考えます。
3点目ですが、私はむしろ4ページの(3)の①の要件がやや引っかかる気がします。確かに民法の時効中断事由と平仄を合わせると、「請求」という言葉に引っかけざるを得ないのですが、しかし、時効中断の効力発生時期という問題との関係では、この資料にある「権利行使の意思表示が請求としてされていること」というのはちょっと強過ぎる気がします。実際に調停で一般人が紛争解決を図るときというのは、権利行使の意思表示まであるケースは必ずしも多くないのではないかと思います。
そもそも何が権利であるかすらわからずに、調停を始めることも少なくないわけですから、むしろ紛争解決の意思でいいのではないかと考えます。
○髙木委員 ADR応諾の意思表示に関しては、もし合意を必要とするというのであれば、三木先生がおっしゃったとおり、本当にきちんと話を聞いて、その手続でやりますということまで含まないと承諾にはならないのだろうというのは、そういう考え方もよくわかるし、普通はそうなのだろうと思うのです。
そこまできちんとしてしまうことによって、ADRがますます使われなくなる可能性があるのではないか、あそこへ行っても、結局は時効中断効が発生しないことが多いのだという話になると、今の申立てが減るのではないかということを、実は弁護士会が心配しているのです。
○廣田委員 もう少し議論を伺ってからの方がいいのかもわかりませんけれども、前提が大分事務局案と違いますので、今の議論とも絡んでいますけれども、私の意見を説明したいと思います。
まず、今日のペーパーの冒頭にある前注で、仲裁手続その他入らないものがあるということですが、私は仲裁手続、民事・家事調停、行政型ADRも全部含めて、ADRにおける時効中断効全般の一般法として規定するということを前提としたいと思っています。仲裁は仲裁法案があるではないかと言われますけれども、これを読んでみますと、仲裁における請求がそのまま継続されて、放置されている場合でも、いつまでも中断されているという形になっていると思うのです。ですから、それでいいのかという問題が1つあると思います。
それから、仲裁合意の取消し、無効、あるいは不存在によって請求却下又は棄却という仲裁判断がなされたときに、その間に時効が完成してしまう可能性もあります。つまり、6か月の催告期間が経過するということがあると思うのです。そのときには訴えが提起できなくてもいいのかという問題が1つあります。先ほど出ました催告継続説というのは、最高裁の判決の理由の中で否定されていますので、あの説を採らないとちょっと苦しいので、仲裁合意が無効だと言って却下された後でも訴えが出せないというのは問題が残ると思うのです。そうだとすれば、仲裁法案はあのままでいいと思いますけれども、一応一般法として規定しておく必要があるのではないかというのが1つです。
また、民事・家事調停では、確かに判例理論がありますけれども、この機会に立法で解決しておく必要もあるのではないかと思います。さらに行政型ADRは、これは行政型ADRができるたびにそれを考えなければいけない、対応しなければいけないということがなくなりますので、ここで決めておけばそのような対応の必要がなくなるのと同時に、現行の行政型ADRについても、一々法改正をしなければいけないという問題がなくなりますので、これも一般法として規定しておくと大変便利ではないかということで、前注のところから意見が違うわけです。
それから、今日の事務局案の懸念されていること、あるいは問題点の指摘はごもっともですけれども、だからこそ同時にこの問題点をクリアーする方法はないかという点を模索する必要があるのではないかということです。
それから、私が考えたのは、証明の問題として時効の問題を考えるということで、もともと時効制度は、これも学説が分かれるところですが、証明の問題であるという有力な学説があります。また、証明の問題として現実には解決されているわけです。ですから、そういう観点で解決するのがいいと思うのです。
今、御意見がいろいろ出ました事務局案に対する懸念や問題点を、例えば要件がいろいろ挙がっていますが、紛争解決を試みる合意だとか、5ページには到達することの高度の蓋然性、7ページには真摯な手続というように、要件にかからしめておくと、これが争われたときに裁判所の負担が大変だと思うのです。そうなると、予測可能性も乏しいことになるので、私は客観的で明快な証明で足りるという方向に制度設計すべきではないかと考えているわけです。
そこで、先ほどの個別労働紛争タイプと民法151 条タイプということになるのですが、私は民法151 条タイプの方がクリアーしやすいと思って先ほど申し上げたので、この点は省略します。そこで今日お配りいただいたペーパーで、時効中断に関する条文案ということですが、ここに書いてあるとおり、「あっせん、調停、仲裁の申立てには、時効中断の効力が生ずる」ということにして、「ただし、左記事由の一に該当するときは、その事由が生じたときから1か月以内に訴えを提起しなければ時効中断の効力を生じない」として、訴えの提起のところで、調停前置が義務づけられている紛争については調停の申立てという括弧を入れたのです。
それから、1~6号までざっと説明しますと、「申立て後6か月以内に相手方が出頭しないとき」、これは先ほどの要件を6か月の中に全部入れてしまうということになると思います。仲裁のときには、相手方の出頭を要しないで仲裁判断をするときがありますから、それは除く。第2号が、「6か月間連続して期日が開かれないとき」、これは仲裁判断を期日を開かないでする場合がありますので、それは除く。そこで仲裁判断ですが、「相手方の出頭を要せず又は期日を開かないで仲裁判断をする場合に、申立てから6か月以内に仲裁判断がなされないとき」、これによって放っておかれるという心配がクリアーされるということです。
それから4番目は、「仲裁合意の取消し又は無効もしくは存在しない旨の仲裁判断がなされたとき」、これは先ほど6か月請求が継続しないということの心配点を除く。それから、「和解が調わないとき」と「申立ての取下げ」という案です。
もう一枚付けている案は、これは今の案はただし書に持ってきましたので、これですと、主張立証責任は主張する側の反対側に立証責任が転換すると読まれてしまうおそれがありますので、主張立証責任は主張する側にしたものとして、「あっせん、調停、仲裁の申立ては、左記事由の一に該当する事由が生じたときから1か月以内に訴えを提起しなければ時効中断の効力は生じない」ということで、これは151 条とほとんどそっくりだと言っていいと思います。それから1~6号までは前と同じということで、一応こういう案をつくってみたのです。
後の方は「時効中断の効力が生ずる」とはっきり書きませんけれども、151 条もこのように書いてありますから、当然中断の効力が生ずるという趣旨です。
両方とも注として書いたのは、「本条の内容を証明することは、守秘義務の例外として認める必要がある」ということですから、ADR機関はいつ申立てがありました、期日が開かれましたということだけ証明すればいい。証明しろと言われれば証明すればいいし、当事者でもこの点は証明は簡単であろう。ということであれば、今、議論されている要件は全部期間で線を引いてしまうという考え方の方がいいのではないかということです。私はこういう案を提案したいと思います。
それから、後の方で裁定という問題をどうするかということですが、これも時効中断ができれば、それも裁定の定義をして、それで必要に応じて1から6号までの間にどこか文言を加えるか、どこかに号数を加えるかということで、やはり裁定についても時効中断ができるということにした方がいいと思います。
以上です。
○青山座長 廣田委員の案についてでも結構ですし、事務局案の論点でも結構でございますけれども、もう少し御議論いただきたいと思います。
○綿引委員 先ほどの髙木委員と三木委員との間で調停合意が必要かどうかという議論がありましたが、ここは一つ重要なポイントなのかなと思います。要は、相対交渉の場合には時効中断効はないわけですから、相対交渉を越えて、当事者間に相対交渉とは違う何かの手続が始まったということがないと、やはり時効中断効を認める実質的な根拠が失われるのではないかという感じがします。その意味では事務局案で言っておられ、また先ほど三木委員が言われたように、少なくとも当事者間でADRで話合いをする合意というものがあり、かつADR機関にそれを受けようとする合意が要るという事務局案の考え方というのは、その実質的根拠に拠って立つ考え方だろうと思います。
ただ、非常に難しいのは、先ほど三木委員もどこで合意が成立したかというところをどうするかとおっしゃったのですけれども、出頭しただけで合意があったかどうかを判断しろと仮に後で裁判所に言われるとすると、非常に困る。やはり、当事者間でADRをやろうという合意と、ADR機関がそれを受け入れようという合意を、この2つを併せて三者間合意と申し上げますけれども、そういう三者間合意が成立したことを何らかの形で確定できるような仕組みが、この制度をつくる場合には必要なのかという感じを持っております。
廣田委員が言われたお考えは、それ自体としては非常にすっきりとするのですけれども、ADRの申立てというのは、申立てが相手方に届いていないという点では、単なる請求より更に手前のものではないかと思います。第三者機関に対して話合いをしたいと言っただけという段階で、それを時効中断事由、しかも、裁判上の和解の申立てと同じような強い時効中断事由にするというのは、廣田委員は民法と一番合うのではないかとおっしゃったのですが、私にはどうも民法の全体系と合わないことになるように思われます。第三者機関に対して話合いをしたいと言っただけの、ある意味では請求の一歩手前で時効中断になるのはいかがかなという感想を持ちました。
以上です。
○髙木委員 ADR合意を手続開始の確定のために必要とするかどうかですけれども、どうしても実務的にはもたないような気がするのです。書面でなくても確かに合意が成立するとなれば、つまり相手方の書面はなくてもよいということになればあり得るのかもしれないけれども、結局、誰が責任を持って判断するかという話になってくると、機関側もなかなか責任回避的になりそうな気もするので、やはり相手方から書面を取ることになるだろうと思うのです。
そうすると、あまりにも冒頭の手続がきついし、実務的には動かないような気がしてしょうがないものですから、ここは少なくとも②の要件として書いてある「紛争解決のためのADR手続が開始されることが確定している」ということで言えば、受付けで確定というように見ていただきたいという気持ちが先に立ったような意見ですけれども、そうしないと、ADRにここまで要求しては動かないという感じがするのです。
○廣田委員 髙木委員のおっしゃるとおりで、これにかかるとまずADR機関は往生してしまって、どうにもならなくなるのですね。実務がまず動かないと思うのです。
同じように、送達というのも非常に実務が動かしにくいですね。裁判所はどん詰まりに公示送達がありますからできますが、ADRであれをやれというと、とてもできない相談だという気がします。
つまり、合意を前提に送達ができるということが前提にありますが、そういうことを決めると、実務というのはまず動かない。私はそこのところは、合意の有無にかかわらず、送達の有無にかかわらず、6か月で切ってしまうのです。時効中断効がなくなるようにしてしまうという考え方ですから、そういうことにかかわらなくても、6か月という期間をもって、始まらなければだめ、呼出しをしても期日を経なければだめということにして、そこで解決してしまおうという考え方ですから、その問題はここでクリアーできます。
そうしますと、綿引委員は、民法151 条と同じくらい強くていいのかとおっしゃるのですが、今の1号、2号のところで、時効中断効を消してしまうものがあるのですから、これはそういう意味でははるかに弱いのです。151 条よりもADRの方がかなり弱くなります。
ですから、そういうところも御配慮いただいて、私はあまりいろいろな要件にかかわらせないで、すっきりとこれは認めた方がいいと思います。しかも、請求権は消えないわけですし、あと、だめだったら1か月後に訴えるということですから、それだったら、当事者にとっも予測可能性があると思います。自分が申し立てたのに、果たして合意があるのかどうか、それから先がわからなければ、せっかく申立てをしたのに、中断したかどうかもわからないわけです。それでは予測可能性がなくなるということになりますので、私は民法151 条タイプにした方がいいという考え方です。
○原委員 髙木委員の方から実務の話が出たので、消費者側と事業者側のトラブルを扱う業界型のADRの状況も似たようなところがありまして、消費者側の方でADRを利用しても相手方の事業者がなかなか出てこない。ずるずると時間ばかり経って、ADRで解決できるかなと思いつつ、先延ばしになっていくというようなことで、どの段階でというところは同じような感じを持っておりますので、消費者側の方の意見としても申し添えておきます。
○三木委員 廣田委員の条文案のお話を伺って、この条文案そのものは別として、民法151 条類推タイプの方がすっきりと解決できる部分もあるというのは、そのとおりだろうと思います。したがって、先ほどの話の繰り返しになりますが、この場には時効の専門家は一人もいないわけですので、是非時効の専門家を交えて、どちらのタイプがより欠点が少ないのか、より長所が多いのかということを議論すべきだろうと思います。
ただ、あまり細かい話に踏み込みたくはないのですが、どうしても時効というと技術的な話になるのでお許しいただきたいのですけれども、廣田委員のおっしゃることで、若干、前提の認識として違うのかなと私が思ったのは、仲裁の場合に、仲裁が却下などになって仲裁判断が出なかった場合に困るのではないかとおっしゃいましたが、これは後で綿引委員にお伺いしたいのですけれども、この最高裁判例との関係で言っても、これは調停の場合には催告継続は認めらない。しかし、訴訟の場合には、訴訟継続中の催告継続というのは認めてよろしいと言っているわけです。
仲裁というのは、どちらかというと、訴権が仲裁に移ってしまうわけですから、これは訴訟と同じように解釈すべきだろうと思うので、この点はこの判例の射程からいっても問題ないのだろうと私は思っておりますが、これは後で綿引委員に教えていただきたいと思います。
それから、調停の合意が要るかどうかという点で若干争いがありますが、髙木委員や廣田委員がおっしゃるように、実務の方でやりにくいというのは私も理解できないわけではありません。しかし、綿引委員がおっしゃったように、調停合意がない段階で時効中断効を認めると、それは調停に時効中断を付与したという話にはならなくて、むしろ違う議論になってしまうのではないかと思います。
例えばドイツ法のように、交渉そのものによって時効の停止を認めるということを議論することは、この検討会の守備範囲を超えているかどうかは別として、それは結構だと思いますけれども、現在、ADRの開始に時効中断効を付与しようかという議論をしているときには、やはり調停の合意がないと、それは調停が始まったと言えないという気がいたします。
○山本委員 今の合意の議論は、私も従来あまりよく考えたことはなかったのですが、髙木委員、廣田委員の御指摘は、非常に考慮しなければいけないものではないかと思いました。ただ、理論的に見れば、これは三木委員、綿引委員がおっしゃったように、合意がなくて、相手方が受けないにもかかわらず、一方当事者の申立てだけで時効中断を認めるということは非常に難しいだろうという感じはします。
民法に規定されているような裁判所での手続であれば、それは一方当事者の申立てだけで中断を認めるということはいいでしょうし、仲裁申立ては、勿論その前段階として仲裁合意が存在するわけです。この調停について、一方当事者の申立てだけで認めるということはなかなか難しいことは間違いないのだろうと思いますが、ただ、可能性としては、1つは、5ページの最初の○の後段に書かれているように一定の通知が遅滞なく到達するということが保障できるような場合には、政策的に時効中断を前倒しすることが検討されるのではないかと思います。これがもし一定の機関について認められるとすれば、その場合には、要するに、必ずしもどの時点で正確に合意がなされたかということは認定しなくても、最終的にどこかの時点で合意が成立していたとみれば、いずれにせよ申立てのときに時効が中断されたということになるわけでありますから、これが導入されればある程度問題の解決は図られるのかなと思いました。
この点については、私も更に考えてみたいと思います。
○綿引委員 私も髙木委員が言われたような実際上の問題があるだろうという感じもしていますので、個別労働紛争タイプも時効中断効が生ずるのは、あっせんの申立ての時点なのですね。ただ、個人労働紛争のあっせんの手続も申立申請書の様式が決められていて、申立てがあった段階であっせんをしようというときは、必ずあっせん人の指名や通知を紛争当事者にしなければならないという手続が規則などできちんと組み立てられているのだと思うのです。そういう仕組みができてくれば、今、山本委員が言われたようなことも考えられるのかという気はいたします。ただ、理論的に説明がつくのかというところは、なお三木委員と同じ考えです。
○廣田委員 先ほどの仲裁に関する問題ですが、そのときに、例えば仲裁合意が不存在であるという仲裁判断が出る前に、仲裁人から示唆されて、当事者が仲裁の申立てを取り下げる場合を想定すれば、そういう場合には、催告継続説では中断されることになりますね。ただ、催告継続説を採らないと中断されませんから、仲裁を長くやっている間に6か月の催告期間が過ぎてしまえば、それで時効が完成してしまうということになるので、そこで大違いになってくるのです。だとすれば、催告継続説を採るかどうかも書いていないのですから、むしろこちらでそれを規定しておいた方がいいのではないかという考えが私にはあります。
それから、先ほどの合意の要件を前取りにするか後にするかという問題ですが、そのことも含めて、期間で合意の有無を擬制してしまう、要するに始めて6か月経っても何かやっていれば中断されるわけですが、6か月経ってしまって呼び出ししても来ない、期日も開かれなければだめということにしてしまえば、合意の有無にそれほどウェイトを置かなくても、少なくともここの調停で話合いをしようという程度の合意は大体あったということになる、それで十分であると考えますので、文言でそれを要件して書くよりも、期間で切ってしまった方がいいというのが私の考えです。
○安藤委員 ADRでやる以上は、裁判にかけずにお互いに解決しましょうという前提条件があると思うのです。当然、始まる段階は、一番多いのは相談からスタートして、どこかのADR機関に持ち込まれる。そうするとその場合は、原告の方だけの状況になっているわけです。
ADRで受けたときに、被告の方に向かって、ADRでやりますけれどもどうでしょう、受けますかという形で、そこで受けると言ったら、既にそれは解決に向かって努力しますよということで、ADRの合意が得られたという判断で十分ではないかと考えます。それ以降相手が出てこないということであれば、ADRの問題ではなくなってしまいますから、そこでは中断効であろうと、私は停止がいまだに頭の中に入っていますし、それから、催告という方へ偏ってはいますけれども、どういう決定にしろ、とにかくADRというものが裁判ではないという、1つ手前の段階での判断から進んでいかないと、あまりにも調停、仲裁型に行き過ぎているのではないかという気がするのです。
○青山座長 ほかに御意見はありますか。
○原委員 個別労働紛争タイプが一番マイルドでいいでしょうというお話だったのですが、今はこの1行しか書いてありませんけれども、綿引委員からもありましたように、前後にいろいろ仕組みとして組まれているようですので、そういったものも参考資料として見させていただければ、検討をもっと深めたいと思っておりますのでお願いします。
○小林参事官 個別労働紛争についての資料ですか。
○原委員 はい。
○山上企画官 主なADRの手続比較という形で以前にお配りしております。
○原委員 何回目のときの資料ですか。
○山上企画官 第5回であったかと思います。先ほど綿引委員が御発言になったような、開始をどういう形で決定し、そうすればどういう形で相手方に通知をするかといった実務上コアになるような部分については、そこにまとめてございます。
○綿引委員 様式などもあった方が、イメージとしてははっきりするのではないかと思います。これだけの手続がきっちり踏まれているので、申立ての時点でも大丈夫ではないかという発想はあり得ると思うので、イメージを具体的にする意味では、様式などもわかった方が議論のためにはよろしいかと思いますが、いかがでしょうか。
○小林参事官 わかりました。
○青山座長 今までの議論は資料3-1についてはある程度出てきましたが、3-2の方はいかがでしょうか。
○三木委員 3-2に移る前に、打切りについて議論してよろしいでしょうか。
○青山座長 はい。
○三木委員 私はこれがどうして打切りによる終了でなければいけないのかよくわからなくて、ADRの終了でよろしいのではないかと思うのです。打切りによるというのは要らないのではないかと思います。
UNCITRALの調停モデル法を見ましても、調停の終了事由というのは4つあるとされておりまして、1つ目が調停がうまくいって和解合意が成立した場合、この場合は中断効を認める必要はありませんから、今日の議論からは除かれます。2つ目が調停人がこれ以上の調停をすることはもはや相当でない旨を宣言した場合、これがこのペーパーでいう打ち切りにほぼ相当するだろうと思います。それ以外に、第3として、当事者の全員が調停手続を終了する旨を合意して宣言した場合、これは当然それで調停が終ってよいだろうと思います。
4つ目が、当事者の一人が調停から離脱する旨の宣言をした場合、これは申立人側からすれば取下げになると思います。先ほど多くの方が取下げを含めていいとおっしゃったように、取下げのようなものも当然含めてよいという意味から言いますと、このモデル法の第3や第4のようなものも含めて、調停の終了ということでいいのではないかと思います。
この考え方の方がメリットはたくさんありまして、1つは、冒頭の原委員の疑問との関係ですけれども、山本委員がおっしゃったような解決方法も私はあると思いますが、もう1つは、打切りではなく終了でいいのだとしますと、当事者の一方が調停を継続しながら訴えを提起するというのは、モデル法の4番目の第B号に当たる「一方が離脱した」ということになります。訴えを提起するわけですから、調停を継続する意思がないことを宣言したというのは当然ですので、それから一定期間以内に訴えを提起しろということで、整合的に原委員の疑問の点も解決できるように思います。
以上のことを考えると、打切りという概念をあえて入れる必要はないと考えます。
○小林参事官 今の点ですが、私どもの整理が悪かったのかもしれませんが、6ページの本文のイの最後は、「当事者の申出又はADRの主宰者の判断により、紛争解決の見込みがないものしてADRが打ち切られる」という表現になっておりまして、三木委員のおっしゃったもののうち、当事者の申出、これは双方か片方かはともかくとして、打ち切ってくださいという申出があった場合については同じ扱いを考えております。
その下の注9をご覧いただきますと、それ以外のケースとしては、今御指摘のあったように、和解が成立したケースと、それから取下げによって終了したケースですが、取下げ等は外すという考え方を取っているのは、私どもとしては、見込みがないからということではなくて、自分が考え違いをしていたとか、これはもういいんだということを判断して取り下げるようなケースを想定して、そういうものについては、あえてそのような効力を与える必要はないのではないか、あるいは訴訟とのバランスから言っても、こういうものまで入れる必要はないのではないかと判断して外したわけでありますけれども、当事者が打ち切ってくださいと言ったケースについては、当然含めると考えております。
2番目におっしゃった点ですが、確かにADRの継続中に訴訟を提起するということについては、むしろADRと訴訟が並存する状態をどのように評価するかということをどう考えるかによって変わってくるのではないかと思いまして、仮に終了という言葉を使ったからと言って、解決されるということではないのではないかと思います。
○三木委員 私が言ったのは、時効を中断させたくて訴えを提起したのだったら、それは当然終了するはずですし、時効と関係なく訴えを提起した場合には、並存の余地もあり得るという趣旨です。
○山本委員 参事官の御説明についてもう一度伺いたいのですが、当事者の一方又は双方が申し出て打ち切られるというのは、ADR主宰者の行為は特に必要ないという理解でいいのですか。
○小林参事官 行為というものがどの程度のものかにもよりますが、終了が確認されるということです。
○山本委員 多分、三木委員がお考えになっているのは、当事者が申し出たにもかかわらず、主宰者の側は打ち切ろうとはしないという状況があり得るのではないか。だから、両方の当事者、一方の当事者が紛争解決の見込みがないから、ADRを終えて訴えを提起したいという場合には、ADR主宰者がどう言おうとも、それで手続は終わるということでいいのではないかという御趣旨かと思います。
○小林参事官 その点について言えば、それで終了するということになります。
○山本委員 打切りという言葉が問題なのではないですかね。これは打ち切る方が主宰者だというイメージを与えそうな感じがするのかもしれません。
○廣田委員 今の打切りや終了は手続の中に入ると思います。ADR機関が手続をしろと言われたら、これもなかなか非常に紛れることがありまして、土壇場になって、相手が何回呼び出しても来ないような状況が続きますと、打切りを言いたくても言えない状態があるし、終了という手続をしようとしても、できないときがあるのです。それが後々争われて、裁判所に御迷惑をかけるということになるといけないので、そこは私の案では簡単に「和解の調わないとき」ということにしまして、それでも問題が出てくるから6か月で切ってしまうということにしました。
ですから、後は手続そのものをしたかしないか、期日が開かれたか開かれないかだけでわかってしまいますから、そこで全部クリアーしてしまおうという考え方で先ほどの案をつくったということを説明しておきたいと思います。
○青山座長 打切りの関係はよろしいですか。事務局としても、ここで「打切り」という言葉は強いけれども、主宰者あるいは機関の行為そのものを考えているわけではない。「打ち切られる」というように受け身に書いているのは、何とかそれを表そうとした趣旨だとお受け取りいただきたいと思います。
論点3-2の立証の負担の方の関係は、どのようにこれを考えればいいかということですが、いかがでしょうか。
○綿引委員 裁判所の立場から言いますと、やはり時効の中断というのは、時間との闘いの中で、ある時点に時効中断に当たる当たる事実があったということが確定できないと、我々は非常に困ることになるだろうと思うのです。
ですから、例えば合意ができたことが要件となるのではないかとか、申立てがあったということでいいのではないかというような、いろいろな議論をしているのですが、いずれにしても、時効中断事由になるもの、それから何がいつあったということが確定できるような形の制度でないと、やはり制度として本当には機能しないことになってしまうのではないかと思います。
その辺は、実体法上の要件が何かということとともに、そういう事実の存在が確定できるような仕組みがどうなるかというところはかなり慎重に議論していただかないと、実は何か中断事由らしいものができたのだけれども、裁判上時効中断の主張をしたら、中断事由を認めるに足りる証拠はないなどということで時効中断が認められないことになりかねず、まさに当事者の予測可能性に反することになってしまうと思います。その辺の仕組みは、実体法上何が要件かということが決まった段階で慎重に議論していただく必要はあるだろうということを申し上げておきたいと思います。
○青山座長 ほかに論点3-1と3-2の関係で御意見はありますか。
○原委員 綿引委員のおっしゃられたことはよくわかります。事務局案として、8ページの論点3-2の3つ目の○の②に書かれている選択肢ですが、「一定のADR機関・手続を利用したことをもって」ということで代替できないかという1つの提案だと思いますが、ここで書かれている「一定のADR機関・手続を利用」というのは具体的にはどの程度のことを考えていらっしゃるのですか。
○小林参事官 利用ということではなくて、要件そのものですか。
○原委員 そうです。
○小林参事官 それは綿引委員からお話があったように、実態的な要件をほぼ確実に満たしているだろうという期待が相当高い機関を考えていくことになると思います。勿論、その機関を利用すれば必ず100 %とするのか、あるいは相手方に反証を許すのかということは、一度御議論いただいたと思いますが、それは程度があると思いますけれども、そういうことがきちんと行えることが期待できる機関でないと対象にならないのではないかと考えています。
○原委員 手続と機関とは多分同じくらいのウェートを置いていらっしゃるのだと思いますが、どちらかというと、今の回答から察すると、機関の方を優先して、そういう手続を持っていらっしゃるだろう機関の認証ということを考えていらっしゃるのですか。
そうすると、一番最初に御説明があったときに、ADR機関を二分する話にもなるかもしれないということがあったわけですけれども、そうすると、二分されたときの分け方として、例えば一方は弁護士が関与しているとか、そういう具体的な構想があるのでしょうか。
○小林参事官 具体的なイメージは、御議論いただいた要件を満たせるかどうかということであって、弁護士が関与するというのはその1つの証しであればそういうことになるでしょうけれども、あくまでも基本は今まで御議論いただいているような要素についてきちんと行えるかどうかということだと思います。
○三木委員 「一定のADR機関・手続」と書いてありますが、機関と手続とではかなり違う話だろうと思います。「機関」というときには、今、原委員がおっしゃったように、どういう人が構成しているかとか、勿論それだけではないでしょうけれども、そのようなことが念頭に浮かびます。
他方、「手続」ということになると、それは一定の手続を備えているといいますか、一定の手続にのっとって調停を運用することを予定しているADRである。そうなると、手続の方を何かの要件にしようとすると、手続に関する法律がないと、要件を満たしている手続かどうかという要件自体がわからないので、後者の方だと調停手続法なりあっせん手続法をつくることが前提になると理解してよろしいのでしょうか。
○小林参事官 手続と機関の問題は、どちらの方面から担保していくのかという問題で、中ポツにしているのはまさにそういうことです。機関に着目すれば、基本的にその機関が行う手続はこういうものだからということで限定できるかもしれませんし、逆に手続を押えておけばそれでよいという考え方もあると思いますが、その手続の適格性を担保するために、どのような機関が行うのかというところまで見ないといけないということであれば、その両方を見ていくことになると思います。
それから、手続に着目するのであれば、手続法のようなものが必要ではないかということについて言えば、求める水準をどこまで考えるかということに関わってくるので、手続の具体的なやり方まで見ないと、例えば時効中断効が与えられないということであれば、それはそういうことになると思いますが、開始・不開始の決定が適切に行えるかどうかというようなことを要求するのであれば、必ずしも個々の手続について法律をつくる必要はないのではないかと考えます。
○三木委員 開始・不開始の基準も、これもやはり手続の一種だと思いますが、結局、何か条を置くか、どこからどこまで置くかは別として、手続に着目する以上は何らかの意味での手続法が要るということにならざるを得ないと思うのです。
○小林参事官 そのような御趣旨であればそういうことだと思いますが、三木先生がおっしゃっておられるような、いわゆる調停手続についての一般規定を置く必要があるかどうかという意味での手続法まで想定しているわけではないということです。
○三木委員 調停手続法ではない手続法というと、どういう法律ですか。
○小林参事官 何か仲裁法に該当するような、手続について最初から最後までやり方をいろいろ定めたものを念頭に置いておられるのであれば、そういうものではないということです。
○三木委員 調停モデル法は14か条ありますが、この14か条を全部置くのが調停法だということを言っているのではなくて、その中の一部を抜き出したようなもの、あるいはこのモデル法に規定のないような条文を置くものでも構いませんが、いずれにしても、このような要件を設ければ何らかの手続法は要るのですかということの確認です。
○小林参事官 もし手続に着目するということになれば、一般論としてはおっしゃるとおりです。
○廣田委員 ただいまの議論を聞いておりまして、機関や手続という要件を設けるというのは、今の話だけでまだ入口だと思うのです。では、どういう機関にするか、どういう手続にするかというのは、膨大な議論をしなければいけないので、そこから先は私は見えてこないと思うのです。今の議論だけでも、多分見えてこないだろうなという予感がします。私はそういう要件は決めるべきではないと思っています。では、どうするかというと、だからこそ証明の問題で解決するということで、綿引委員がおっしゃったように、誰でも証明できる簡単なところで決めておけばいいということですから、私が言ったのは、機関に出頭したかしないか、期日が開かれたか開かれないか、和解が調ったか調わないか、申立てを取り下げたかどうか、申立てをしたかどうかですから、それだけを証明すればいいわけです。
だとすれば、今存在しているADR機関はこの程度の証明はできるのです。それでも裁判所はだめだとは多分おっしゃらないと思うのです。あとはアドホックですけれども、弁護士法72条にもし手をつけないのだったら、アドホックでやるのは、国内でやる限りは弁護士だけですから、この証明は簡単で、裁判所の心証で大変困らせるということは多分ないと思います。この問題で証明さえできれば、後で要件を決めてそれに合っているかどうかが争われるよりはるかに簡単であると私は思っています。
だからこそ、先ほど言った私の案がいいのではないかと思って提案しているのです。
○青山座長 時間の関係もありますので、今までの議論のをまとめたいと思います。今日の議論は非常に論点が多く、錯綜しておりまして、考えていることが非常に違うと思います。
もともとこの発想は、ADRを活性化していくためには、ADRの手続や機関を利用している間に時効が進行してしまうと、これは安心してADRを利用できない。だから、ADR手続を利用したことによって時効の中断効をなんらかの形で認めようということです。
それから始まると、時効の中断を非常に広く認めて、廣田委員の言われたように誰でも証明できるというところを捉えて時効の中断効を認めるというのは1つの考え方だと思います。
他方、時効の中断というものは民法に規定があり、民法の規定では裁判所への権利行使が顕在化しているというところを捉えているわけで、学説には対立がありますけれども、権利の上に眠らないというところがはっきりしているときに、時効の中断というものを結び付けている。ただ、一方の人が何かをすれば、それに時効の中断を結び付けるというのは、やはり民法との齟齬が少し大き過ぎるような気もいたします。
そこで事務局の案は、初めの発想では時効の中断を広く認めようというところからいろいろ検討し、前回のものも含めて6つくらいの中の一番取りやすい形で、民法を動かさないで、民法を変えるということであれば、ここで議論はできませんから、民法を変えるということではなくて、民法の範囲内で時効の中断をどういう形で結び付けていくか。それは姑息な手段だと言われれば姑息な手段かもしれないけれども、現実的には非常な隘路を通り抜けながら、時効の中断というものを持っていかなくてはいけない。
そうすると、権利の行使という実態と、証明がしやすいという2つのことをにらみながら、どのように持っていくかというところで苦心をしているわけで、今日は個別労働紛争タイプというところから始まりましたけれども、それを今、絞るというのは確かに少し狭過ぎるとすれば、民法151 条類推タイプとか、あるいは催告が継続しているというタイプまで含めて、権利行使の実態と証明の容易さというものを、開始も打切りも、その手続の中でどういうところを具体的に着目していくかということを更に事務局の方で検討させていただかないと、今日、これ以上議論をしても、更に議論が拡散するような気もいたします。
そこで、次の機会までにもう少し事務局の方も整理し、あるいは必要なら資料もお配りしてお考えいただき、更にまだはっきりはしませんけれども、民法の研究者の方に来ていただくことができるとすれば、そういう方の話も聞きまして、また、この問題を更に詰めたいと考えておりますけれども、そういうことでよろしゅうございますでしょうか。
(「はい」と声あり)
[論点4(その他)]
○青山座長 それでは、そういうことにさせていただきます。
次に論点4は、それまでのところが調停中心で考えてきたものですから、そして、事務局の案だと個別労働紛争タイプで考えてきたものですから、それとの応用で、これについて何かというところまで踏み込んでいるのですが、今日は、基礎がしっかりしていないのにここを議論してもあまり意味がないと思います。ただ、是非この論点について、つまり、裁定2と裁定3とあっせんという他の紛争解決タイプ、そういうものについても、何かここだけは言っておきたい。あるいは相談も含めて、相談のときにどうするかということも、この延長線上には勿論あるわけですので、もし御発言があれば承っておきたいと思いますが、いかがでしょうか。
○三木委員 考えることはありますが、座長がおっしゃるように、基本となる調停型の方が固まらないと、むだな議論になる可能性もありますので、私の意見は次回に譲りたいと思います。
○青山座長 ほかによろしゅうございますか。
(「はい」と声あり)
それでは、これで時効中断の議論は終わりまして、3時40分まで休憩をさせていただきたいと思います。
(休 憩)
[(2)ADRの結果に対する執行力の付与]
○青山座長 それでは、議事を再開いたします。
後半は資料16-2の検討事項1-10に基づきまして、執行力の付与の問題について議論したいと思います。
まず、事務局から資料の説明をお願いします。
○小林参事官 それでは、資料16-2と、先ほどと同じように参考資料としてお配りしている横長の紙を適宜御参照いただきながら、御説明を進めたいと思います。
まず、資料16-2ですけれども、1ページ目に前注が2つございます。まず前注1ですが、これはこれまでの議論の主だったところをとりまとめたわけでございますが、執行力の付与につきましては、①にありますように、ニーズがあるなら積極的に検討を進めるべきという御意見、②にありますように、むしろ既存制度の活用を図ることで対応すべきではないかという御意見、この既存制度につきましては、横長の資料の「執行力付与のオプション(補足)」の中で6つ挙げてある中で、後段3つ枠囲いをしてある部分にありますし、それに関わりますいろいろな面でのコストにつきましては、その次のページでまとめてございます。いずれも過去にお出しした資料でございます。こういった既存制度の活用で対処すべきではないかという御意見がございました。
それから③にありますように、こういった国家権力の発動である執行力に結び付けるというのは、むしろADRの理念に反するので付与すべきではないという御意見など、いろいろな御意見が出ておりまして、先ほどの時効中断は、方法についてはいろいろな御意見がありますが、方向としては付与すべきではないかというのに対しまして、この執行力については、そもそも方向性から意見が分かれているという状況でございます。
いずれにしましても、今後パブリック・コメントをする場合には、当然既存制度の活用と新しい制度の創設ということをお示しすることになるとは思いますが、仮にこういったものを付与するとした場合、どのような方法、あるいは要件が考えられるのかということをお示しした上でないと、なかなか御意見は伺えないのではないかと考えておりまして、そういう意味でパブリック・コメントに付すことを念頭に置いて検討をお願いしたいということでございます。
前注2ですけれども、これは先ほどの時効中断と同じような検討の範囲でございますけれども、仲裁に関しましては、仲裁法案におきまして、確定した執行決定のあるものは債務名義とされておりますし、民事調停、家事調停についても、調停証書は債務名義とされております。それから行政型ADRにつきましては、これは別途の議論が必要なのではないかということでございますので、やはり先ほどと同じように、仲裁以外のADRを念頭に置いて御検討をお願いしたいということでこす。
具体的な検討に当たっても、まず調停について議論した上で、更に裁定の場合はどう考えるのかということで進めたいと思います。
2ページにまいります。考えられる方法でございますけれども、これにつきましては、結論から申し上げますと、仮にこういったものを付与するという場合には、これも先ほど時効のところで触れたのと同じように、現行制度との整合性ということを考えますと、仲裁に倣い、確定した執行決定、この執行決定というのは改正後の仲裁法を念頭に置いておりますが、確定した執行決定のあるADR和解文書を債務名義とするという方法を中心に御検討いただくこととしてはどうかということでございます。
現行制度との整合性につきましては、先ほどの横長の資料の後ろから2枚目に現行の債務名義についてのプロセス、これは全く私どもが手探りでやったもので、学問的にきちんと裏づけのあるものではありませんけれども、これを見ただけでも中立的な第三者の関与、あるいは国の認証というものは必要になってくるのではないかと考えております。
そのような考え方にのっとりますと、2つ目の○にありますように、やはり事後的に合意成立過程の瑕疵でありますとか、公序良俗違反の有無などを裁判手続などによって認証するプロセスが必要になってくるのではないかというのが1点でございます。 それから2点目として、2ページの最後の○ですが、ADRの和解文書は既判力がなく、私法上の和解としての効力しかないわけでございますので、こういったものに確定判決と同一の効力を有している仲裁判断よりも簡易な手続で債務名義とすることには問題があるのではないか、これは要するに、仲裁よりも簡易な手続で与えることには問題があるのではないかというのが2番目の議論でございます。
3番目ですが、3ページの○の「さらに」というところですけれども、現在の仲裁法案におきましては、これは仲裁手続進行中に和解が成立した場合の問題ですけれども、これについては仲裁判断としての効力を認め、したがって、仲裁判断として執行決定を経て債務名義になるということにされているわけでございまして、こういった仲裁上の和解とのバランスも考える必要があるのではないかということでございます。
これらが満たされれば、与えもいいという意味ではありませんけれども、仮に付与するのだとすれば、最低限こういう要件は必要ではないかという意味においては、やはり先ほど申し上げましたような、裁判手続によって認証するプロセスは必要になるのではないかということでございます。
そのそもそも執行力付与の必要性ですけれども、現行制度の下でも和解成立の段階で執行力を得ようとすれば、これは和解調書、執行証書というもので債務名義化することは可能でありますし、現に相当そういった制度も利用されているわけでございますが、今回、執行力を付与する意味といたしましては、和解成立後に執行の必要が生じた段階、これは具体的に言えば相手側が任意に債務を履行しなくなったようなケースについては、そういう問題が生じた時点で執行力を付与することかできるということでございます。何かもめたときにはちゃんと手当はされているけれども、和解が成立したときには特段の手続を取る必要がないという意味においては、仮にADRというのは和解によって成り立つので履行の可能性が高いということであれば、そういう意味で言うと、このようなスキームはADRの場合になじむのではないかということが考えられるわけでございます。
そういうことで仮に必要だということになれば、先ほど申し上げたように、考えられる方法としては、3ページの最後から4ページにありますように、裁判手続において公序良俗違反の有無、あるいは和解成立過程の瑕疵の有無などについてチェックするというスキームが考えられるのではないかということでございます。
5ページにまいりまして、具体的な要件を大きく3つ挙げてございます。1つは、執行拒絶事由が存在しないことということですが、これはある意味では当然ですけれども、具体的にどういうものが執行拒絶事由として考えられるのかといいますと、1つには公序良俗違反があること、2番目としては、合意の意思表示について、意思の欠缺、又は瑕疵があること、3番目として、合意成立の過程において手続上の瑕疵があることというのが執行拒絶事由として考えられるわけでございます。
このうち2番目と3番目の意思の問題、あるいは手続上の瑕疵については、5ページの注10にございますように、合意成立の過程においてそのような問題があったとしても、合意が成立すれば、いわば治癒と申しますか、その時点で解決されると考えれば、もう少し限定して公序良俗違反のみをチェックすればいいのではないかという考え方もあり得ると思いますが、一応候補としてはこういったものが拒絶事由として考えられるということでございます。
2番目が、ADR和解文書が一定の適格性を有するものと認められる手続、あるいは主宰者の下で作成されたものであること、3番目が、これは後ほど触れますように、必須かどうかという議論はあろうかと思いますけれども、ADR和解文書に債務者の執行受諾文言があること、執行してもらっても構わないという受諾文言があることということも、要件としては考えられるわけでございまして、こういった大きく3つのものを念頭に置くことが適当ではないかということでございます。
各論に入りますが、まず執行拒絶事由につきましては、今申し上げたような例が考えられるわけですけれども、更に具体的に申し上げれば6ページの仲裁判断の執行拒絶事由、こういったものも参考にして検討を進める必要があるのではないかということでございます。
2番目が「ADRの適格性」です。これも手続なのか主宰者なのか、機関なのかという問題はあるわけでございますけれども、これにつきましては、執行力を付与した場合には、通常の訴訟の場合であれば債権者側が負っている合意の成立ということについて、債権者側は改めて立証することを要しないということでございます。
したがって、6ページの最後の○にございますように、ADR和解文書に係る実体的請求権は、裁判所が改めて実体審理をする必要がないほどその存在の可能性が高いものでないといけないということが言えるかと思います。
それから、強制執行が行われてしまうということになるわけですから、強制執行し得る請求権の範囲、条件などは、あいまいなものであってはならないわけでございまして、これは明確になっていなければならないということになるわけです。そうだとすれば、7ページの○にありますように、やはりそういった問題が生じないような一定の適格性を有すると認められるADRにおいて作成されたADR和解文書であるときに限り、執行決定を求めることができるものとする必要があるのではないかということになるわけでございます。
ここでまた、先ほどの時効中断と同じような問題が生ずるわけですが、そういった適格性を満たしているどうか、これは手続なのか主宰者なのかという問題はありますが、これをどのようにして立証するのかという問題があるわけですけれども、今申し上げたような要件だとすれば、かなり立証が難しい面がございます。
それから、これは執行力という非常に強い権限を付与するわけですから、そういう意味からすると、その付与の対象は慎重に選ばれるべきではないかということもございます。とするのであれば、これらを個別に立証するということではなくて、適格性を有すると見込まれるものについて、何らかの方法で事前に認証すべきでないかという考え方も当然出てくるわけでございます。
では、具体的にどのような機関なり手続なのかということについて言えば、実体面、これをチェックできる体制ということになると思いますけれども、それと手続面で分けて(ア)(イ)のような要件が必要になってくるのではないかということでございます。
7ページの最後の○ですが、執行力を付与する場合には、仲裁人と同様、収賄罪の対象として職務執行の公正性を罰則をもって担保する必要があるのではないかということでございます。
8ページで、3番目の要件としまして、執行受諾文言の問題がございます。この執行受諾文言につきましては、上の○にありますように、執行拒絶事由として合意の意思表示についてチェックするということであれば、必ずしも必要ではないのではないかという考え方もあろうかと思います。論理的に必ず必要かどうかということについては、先ほど触れましたように、必ずしもそうは言い切れない部分もあるわけでございますけれども、ただ、制度として設計することを考えますと、仲裁判断ではいわば手続の開始の段階で執行受諾文言があるのと同じように考えられるということからすれば、それ以外のADRについても、執行受諾文言を念のために要件とするということも1つの考え方としてあり得るのではいなかということでお示ししております。
それから、論点1-3につきましては、これは更に付加的な要件と申しますか、政策的な判断を含めてではございますけれども、不当執行の可能性があり得るとするのであれば、安全サイドに立って債務名義となる給付請求権を金銭債権などに限定するということも考えられるのではないかということでございます。
上の○にありますように、現在の債務名義のうち執行証書、あるいは仮執行宣言付支払督促については、金銭債権などに限定しているわけでございます。これは最後にありますように、不当執行の可能性を考慮し、その場合の損害を金銭賠償により回復できる性質の請求権に限定するという趣旨だと言われております。要するに、取り返しのつかないような事態は避けるということだと思いますけれども、そういうことからすると、ADRの和解文書には既判力がないということになりますと、若干その辺りは不安が残るわけでございまして、そういうことも考慮すると、この債務名義の対象を限定するということも、制度設計としては考えられるのではないかということでございます。
それから、9ページの論点1-4は、先ほどの時効中断と同じように、調停を前提にして考えてきたわけですが、それ以外のものについて考える場合はどういうことになるのかという問題でございます。
これも基本的には調停と同様の考え方が可能ではないかということでございますが、2つ目の○にありますように、裁定の場合については、少なくとも一方当事者が仲裁の当事者と同様の立場に置かれますので、その場合には、手続上の瑕疵がないことをより厳格に求める必要があるのではないかということです。これはあくまでも一般論でございまして、具体的にそれをどう反映するかという問題があるわけですけれども、考え方としては、より慎重を期す必要が出てくるのではないかということでございます。
9ページの2は、今申し上げたのはすべて新しい制度を導入する場合ですけれども、もう一つ、既存制度を活用する場合に考えられる工夫ということでございます。
既存制度につきましては、先ほどの横長の紙でもありますように、3つの方法があるわけでございますが、このうち特に即決和解につきましては、9ページ最後にありますように、請求権の内容に制限がございません。それから、10ページにまいりますが、注13をご覧いただければ2,000 円と4,000 円と、比較的コストが低いということで、ほかの方法に比べてメリットが多いのではないかと考えられるわけでございますが、他方、時間を要するという指摘もなされております。
したがって、これは運用上の問題になるのかもしれませんが、一定の適格性を有するADRについて、和解が形成された場合には、その手続を早く進めることができるような何らかの工夫ができないか検討していく必要があるのではないかという問題提起をさせていただいております。
なお書きのところは、先ほど請求権の内容に制限はないと申し上げましたが、若干、調停前置との関係で利用に制約がある部分について、付言してございます。
以上が執行力の付与の関係でございます。
○青山座長 ありがとうございました。この執行力の付与の問題は、先ほど私どもが議論した時効の中断の問題と違いまして、かなりこの検討会でもいろいろな議論があったところでございます。
時効の中断につきましては、そういう時効の中断効を付与することを積極的に検討しようというスタンスでございましたけれども、執行力につきましては、今御紹介にありましたように、そもそもこのような制度を置く必要がないという議論も今まであったところでございます。そうは言いましても、今の参事官の御説明にもありましたように、パブリック・コメントの段階でもし意見を伺うとすれば、制度を設計する場合の案をある程度具体的に示した上で意見を求める必要があると思いますので、そういう趣旨で御検討をお願いしたいと思います。
早速、論点1-1から御議論を伺っていきたいと思います。この論点1-1は、ここでも調停を念頭に置いた上で、具体的に言いますと、確定した執行決定のあるADRの和解文書を債務名義とするという方法を中心に検討を進めることとしてはどうかと言っております。これは民事執行法の22条に債務名義のリストがありますが、そこに1つ債務名義の例を加えるという方法でこれを考えていくということを1つのイデアルチィプスとして考えてはどうかということでございますけれども、まず、この論点1-1につきまして御議論いただきたいと思います。4ページまでの範囲で自由に御議論いただきたいと思います。どなたからでもどうぞ。
[総論]
○髙木委員 法律的な中身ではないのですが、3ページの執行力の付与の必要性として2つの○があるところで、いずれも従来の議論ではあるのですけれども、この中には裁判所との連携の議論からの視点が抜けているかなと思いました。
ここに付け加えていただきたいと思ったのは、前回、裁判所との連携の議論の中で、裁判手続とADRの両方あるときに訴訟をいったん中止をして、ADRに行くことを認めようというものと、ADR利用の勧告をしてはどうかという議論があったのですけれども、その2つを仮に制度として設けると、ADRに行った場合に、もしそこで合意が成立したらどうするかということがありまして、また訴訟に戻るというのも一案ではあるのですけれども、ADRで完結させる道も開く必要があるのではないかという観点で、必要性のひとつとして付け加えていただいた方がよろしいのではないかと思いました。
○青山座長 ほかにいかがでしょうか。
○綿引委員 今日の議論は、執行力を認めるとしたならばという議論なのでしょうか。というのは、執行力を認めるとしたならばという議論だけをしてしまうと、執行力を認める必要はないのではないか、執行力を認めるのはむしろ危険ではないかという議論が置き去りにされてしまうのは、やはりふさわしくないのではないかという気がするもので、その点を確認したいのです。
○青山座長 執行力を認める必要はないというのは、そういう意見があるというのは、勿論パブリック・コメントに出しますけれども、しかし、認めるとすればこういうオプションがあり得るというのを入れておかないと、意見が返ってこないのではないかと思いますので、執行力を認める必要はないという議論はここで展開していただいても結構ですが、それと同時に仮に執行力を認めるとすればという、そちらの方も併せて御議論いただきたいという前提でございます。
○綿引委員 私は、1巡目の議論を踏えた上で、やはり執行力は認めるべきではないのではないかという考えを持っておりますので、その議論がパブリック・コメントに付すときにの困る思いますので、この章について申し上げさせていただきます。
まず、横長の一覧表を見てみますと、やはり理論的に見て、なぜ執行力というものが与えられるのかというのは、やはり国家機関の関与の下で請求権の確定なり何なりがされているということに基本的な根拠があるのかという感じがしてきます。勿論、仲裁の部分はそうではないのですけれども、仲裁というのは当事者双方が裁判上の解決を放棄するということになっているので、それに執行力を与えなければ仕方がないということで仲裁には執行力が与えられるとしても、そうではない、いわば私法上の和解に執行力を与えるという理論的な根拠が本当にあるのだろうかというまず理論的な問題があると思います。執行決定とかませることを年頭念頭に置いても、ADR和解に執行力とは与する根拠には疑問であるのではないかという感じがするのが1点あります。
それから、実際上の弊害のおそれということは、よほど慎重に考えないといけないのではないかという感じがしています。1巡目の議論でも申し上げたのですけれども、やはり金融業者と消費者というような関係の紛争で執行力が与えられるということになると、いわば債務名義作成会社のようなものができてしまう危険性が非常に高いのではないか。そうすると、執行力が与えられるADR機関をよほど絞っていかないといけない。公正なチェックができる、合意内容の適正をチェックできるというADRを絞っていかなければいけない。これは実際上非常に困難なのではないか。実際上の弊害のおそれを考えると、ADR機関をよほど選別しないといけないけれども、これは非常に困難なのではないかというのが2点目です。
それから3点目は、執行力を付与できるような和解文書をつくるのは、技術的に大変難しいのではないかというのが3点目です。私どもが裁判所でやっておりますと、大変失礼な言い方になってしまいますが、弁護士の方が和解案をつくってきてくださることがあるのですけれども、なかなかそのままでは使えないものが多いのです。
例えば保証人と主債務者の債権者にお金を払うというときに、単純に例えば、被告らは原告に対して1,000 万払うという条項だと、1000万を連帯してというつもりであっても、債務名義としては、500 万ずつ払うということを書いていることになってしまう。そんなつまらないことなのですけれども、そういう技術的な部分、条件付きの債務名義だとか、引換え給付だとかになると、技術的に非常に難しいところがあって、そういう技術的なものができるのだろうか。せっかく債務名義にするつもりでADR和解文書ができました。ところが裁判所の執行部へ持っていったら、これでは執行不能ですと言われてしまったり、思ったような執行力ではない執行力が付与されてしまったりというようなことが起こるくらいであれば、そう無理して執行力を付与しなくてもいいのではないかということです。
今、申し上げた理論上の問題、それから実際上の弊害のおそれを考えた場合に選別をしなければいけないという問題、技術的に非常に難しいのではないかという問題があって、私は執行力の付与について消極の意見を持っておりますので、もう一度整理して述べさせていただきました。
○青山座長 今のお考えに賛成の方もおられましたら、おっしゃってください。
○龍井委員 1ページ目の前注、これが最後まで生きるわけではありませんけれども、パブリック・コメントを出すときのスタンスとして、全く中立的な両論併記なのか、私も今の綿引先生の意見に近いわけですけれども、「仮に付与するとしても」という書きぶりにするのか。パブリック・コメントの出し方のときの整理の仕方だと私は思いますので、それだけ整理していただきたいと思います。
○青山座長 この検討会で更に御意見を伺えば、執行力を付与しないという方が大勢であれば、そちらの方が大きくなってくると思いますし、それで御意見を伺わせていただきたいと思っているわけです。
○原委員 1巡目と2巡目の議論の資料を事前に見てきたのですけれども、横尾委員は執行力付与には反対されていて、山本委員が、81のADR機関のアンケートを見ると、執行力の付与を求めている機関が多いので、それは尊重しなければいけないのではないかという御意見を出されていました。私としては、ADR機関へのアンケートで「執行力の付与」と言っているものを、各ADR機関はどう受け止めて回答なさったのかもう少し聞いてみていただけませんかと申し上げているのです。
このようにきちんと法律の中に条文として入れることを望んでいらっしゃるのか、それとも、既存制度をもうちょっと利用しやすい、活用しやすいということで望んでいらっしゃるのか。もう少し精査していただきたいという意見を申し上げているのですが、そこはそのままになっているのでしょうか。
○小林参事官 機会を捉えて、その辺りはできるだけ生の声を伺おうとしているのですが、基本的にはパブリック・コメントでそこをきちんとした形で、付与する場合もどういうイメージなのかということは当然あるわけなので、そこはお伺いしたいと考えております。
ただ、これまでの意見交換の感じで申し上げれば、やはりあるものならありがたいという意見があることは事実だと思います。ただ、アンケートに出たような圧倒的なものかどうかというのは、あるいはそれをどのくらい強く切望されているのかというのは、これはちょっと確かではありません。
○原委員 私も綿引委員と同じような感想を持っておりまして、アンケートでは希望している人が6割以上あって非常に高かったですね。逆に内容的なところはあまり理解されたわけではないのではないかと思っておりまして、対象機関が本当に千差万別といいますかか、いろいろバラエティーに富んでいて、手続規定さえ持っていらっしゃらないようなところもあったりする中で、あの率の高さがちょっとミスリーディングにならないかなと感じております。
○小林参事官 消費者団体の方も相談をやっておられるということで対象に入っていますが、基本的にはADR機関側に対するアンケートですから、ADR機関側として積極的に要らないということはないのかもしれません。ただ、委員がおっしゃるように、若干誤解をして、例えば出頭しないときに出頭させるとか、そういうものを執行力だと考えて入れられた方もおられるかもしれませんが、設問としては、きちんとその辺りは聞いているわけですから、ADR機関側としては、少なくともある程度のニーズはあるのではないかと思っております。
ただ、これはADR機関側のニーズだけで判断できる問題ではなくて、むしろ利用者側の問題でもございますので、そこはパブリック・コメントで、仮に付与するとした場合はこんなイメージですという前提で、いろいろ御意見を伺いたいということでございます。
勿論、この場で否定論が非常に強ければ、その否定論が非常に強いということも併せてお示しした上で御意見を伺うということは当然だと思っています。
○山本委員 私自身は依然として定見を持ち合わせておりませんで、パブリック・コメントで、参事官がおっしゃったように、ADR機関に加えて、更に利用者、まさに司法制度改革は利用者のためにやっているわけですから、利用者の方々がどういう御意見をお持ちかということを踏まえて、自分の考えを固めていきたいと思っております。
ADR機関も、原委員がおっしゃったのと同じような感じを持っておりまして、何にもなくて執行力が自分たちがつくったものに付くのであれば、誰だって欲しいと言うのに決まっているのではないかと思いますので、確かにあのアンケートはそういうくらいの意味しかないものなのかもしれない。
ただ、ここでこういう形で、例えば7ページに書かれているような、いろいろな適格性が必要である、場合によってはそれを事前に認定するような仕組みが必要である、しかも更に裁判所の決定が不可欠であるという前提で、なお執行力を求めるのか。あるいは利用者の側も、それでもなお執行力があった方が自分たちの利便性を高めると考えるかどうかということは、これは結果がどうなるか私は予測がつかないところですので、この点自体は勿論否定説もあるところですが、司法制度改革審議会の意見書にも取り上げられている問題でありますので、私としては是非皆さんの御意見を伺ってみたいということを依然として思っております。
以上です。
○廣田委員 私は司法制度改革審議会の意見書にありますように、執行力を付与した方が利用促進になると思います。それから実務上も、これが付与されていますと、履行を促進するのであって、必ずしも執行するわけではないのです。執行されるぞということで履行が確保できるので、非常に有効であるということは言えると思うのです。
これについては便法がありますけれども、しかし、ADRを促進するならは、便法というのではなくて、便法はあくまでも手間暇がかかったり、当事者に対して、例えば即決和解をしなさいとか、あちこちに振り回すような形になりますから、それでなくても済むものならそれは避けて、しかるべき期間に執行力を付与させた方がいいという意見です。
私なりの案は後で申し上げますが、綿引委員のおっしゃったことについて若干言いますと、第1の理論的な面ですが、これは国家機関が関与するものであるということですので、だからこそ私は執行決定は必要だと思います。自動的に債務名義になるということではないようにしようということで、執行決定ということでその面はクリアーしたいと思っています。
もう一つ、仲裁はそうなっていない、それは訴権放棄が合意の中に入っているからということなのですが、つまり、裁判所に行かないということですけれども、これは入口の問題であって、調停の場合でも成立すれば裁判所に行かないのですから、裁判所に行かないというところにウェイトを置けば、これはADRの活性化や拡充ということにつながってきますし、その点は共通している部分があります。そういう意味では理論的な問題もクリアーできるのではないかと思います。
第2に、綿引委員がおっしゃった弊害のおそれがある、確かにそれはそのとおりですので、これは非常に限定したADR機関に認めればいいという考え方です。ですから、すべてに認めるという考え方は持っておりません。
第3に、弁護士が書いた文書でもなかなか執行ができないのではないかとおっしゃいましたけれども、大抵のADR機関にいる弁護士は、そういうことは多分ないと思いますので、それもADR機関を限定して、大丈夫だというところに付与するということでいいのではないかと思います。
同時に、執行決定という段階で二重のハードルがありますので、その点では綿引委員が御懸念するような問題も、機関によってはクリアーすることができるということを考えて、私は特定の機関に執行力を付与するという制度設計をしてはどうかという考え方を持っています。
詳細については後ほど申し上げます。
○青山座長 入口の総論のところはいかがでしょうか。
○髙木委員 確かに綿引委員のおっしゃることはわかりますけれども、この段階では、前注1に関しては、この整理でいいいのかなと思っていまして、パブリック・コメントの付し方はかなり難しいかと思いますが、①、②を前提に考えてパブリック・コメントに仮に付したとしても、③の見解が自動的に出てくるということではないかもしれないので、③の見解が出てくる形で付さなければいけないのだろうと思います。つまり、検討会レベルで確定的に一方の立場を落とす方がどちらかというと問題なのだから、それは両方の立場を平等に出すということでしようがないのかなと思っています。
○三木委員 必ずしも定見がないという点では山本委員に近いのですが、私はこの問題をUNCITRALの場を含めてかなり長い間いろいろと議論する機会があって、考えれば考えるほど、現実にはやりたくてもなかなかきちんと制度を仕組み、それが他の法制度と説明がつくようにするのは難しい、ハードルが非常に高いという印象を持っております。その意味では、結論においては、現段階では綿引委員にかなり近い意見と言わざるを得ないかもしれません。
一言だけ申し上げておきたいのは、綿引委員が1つ目の理由として、理論的な問題があるのではないかとおっしゃった点ですが、その点は必ずしもこれまでの検討会ではあまり詰めて議論されていないのですが、いよいよ本当に制度を置くかという話になると、そこは改めて検討しなければいけないことだろうと思います。
UNCITRALの議論でこの点はものすごい時間を使って議論をした訳で、御報告しましたように、結論において世界中の約半分の国が執行力を置くべきではないと言い、約半分が置いてもいいのではないかというような、過去に例のないような形で意見が割れた訳ですが、それは各国は各国の国内法を前提にしているから各国に任せればいいという面がかなりあるのですけれども、1つ考えなければいけないのは、反対するグループの中から出た理論上の問題を説明し切れるのかという点です。
その議論の詳細のペーパーを持ってきておりませんので記憶が確かではないのですが、1つ覚えているのは、契約法理の一般原則との整合性がつかないという議論をする国がある程度あったわけです。
それは、調停で成立した和解も、最終的には和解契約という契約になるわけです。契約が執行決定を要件とするにしても、ほかの契約は持たない執行力を持つということはどういうことかということです。その契約の成立の過程において調停人が関与している。しかし、最終的には当事者間の契約であるわけです。調停人との三者間の契約ではない。ですから、成立過程がこうであったから、最終的な契約の効力が通常の契約とは異なるのだということが、契約法理から説明がつくのかどうかという議論がありました。
これは我が国でも考える必要のある議論ですし、その他、執行力に反対する国が出した議論、それは私の報告書に箇条書きしましたので、その中で我が国に共通に妥当する問題は同じようにクリアーしなければいけないであろうと思いますが、それはなかなか難しい問題があると感じております。
○安藤委員 私もADRの普及というのが一番の目標だと思うのです。ADRをどのように立ち上げるか、そのためには執行力と資格というものは絶対になくてはいけないと考えているのです。当然アンケートを取れば非常に要望が高いというのは、今までいろいろやっている中で、執行力、資格がないことによって、何の解決もできなかったという反省の部分がいっぱいあるのではないかという印象を受けています。
下世話な話ですけれども、水戸黄門だって、副将軍という資格と印籠がなかったら何にもできませんし、助さん格さんという執行力がなかったらできないわけで、それにしたって、あれだけの番組の中で最後の4分間ですね。ですから、執行力というのも、最後に何か出るものがあるし、それは裁判所を頼ってできる執行力でも構わない。何かそういったものを持っているということによって、相談とADRというものもはっきり分けられると思うのです。それは必要だと思っています。
○原委員 多分、一般の消費者もそうですけれども、執行力の付与という言葉と履行確保という言葉が出てきたときに、執行力の付与と言われると何かすごく強権的な印象があって、ただ、履行確保という言葉が全面に出ると、やはりそれは欲しいわね、相手方とこういう形でという結論が出たときに、履行確保という点では欲しいわねというようなイメージになるのかと思います。法律的な用語を厳密に皆が知っているわけではありませんから、言葉として、廣田委員が先ほど執行力の付与というよりも履行確保だとおっしゃったようなところがあるのではないかと思います。
安藤委員は執行力が必要だということが前面に出されたのですが、私にしても、執行力の付与は全く要らないとは考えていないのです。執行力の付与や履行確保ということは必要であって、それはどういう場面で必要性があるのかということを詰めた方がいいのかなと思っていて、廣田委員は機関の話をなさったのですけれども、やはり機関で頭から振り分けられているものではないのではないかと思います。
一つひとつの案件について、これは執行力を付与して、やはり履行確保をしてほしいということで当事者同士、それからADR機関で何らかの形で合意に達して、やれる形の方がいいのではないかと感じております。全く執行力付与は要らないと思っているわけではないということです。
○青山座長 建設工事紛争審査会などに長く関与しておられる平山委員は、その建設工事紛争審査会で、調停で解決したような場合は、その後、履行確保や執行力付与という問題に遭遇されたことがありましたら、その御経験をお話しいただけますか。
○平山委員 経験はありませんが、ADRというかなり広い範囲で議論しているので、全体にそれがあるというのはかなり難しいのかと思います。ただ、ある部分においては、こういったものがないとしようがないのではないのかなと漠然と思っています。
○青山座長 ここでも総論の部分は半分ずつに意見が分かれている状況かと思いますけれども、仮に付与する場合の方法というところに進めさせていただいてよろしゅうございますでしょうか。
(「はい」と声あり)
[論点1-1,1-2(ADRの結果に執行力を付与する場合に考えられる方法等)]
○青山座長 それでは、仮に付与する場合について、論点1-1の方法ということから入っていくというのはいかがでしょうか。
○三木委員 仮に付与するとした場合には、事務局案にありますように、仲裁判断の執行力付与と基本的には同じ仕組みを取るということはどうしても必要なことだろうと思います。
仲裁の方が手続がより厳格なのですから、その仲裁より軽い手続で執行力を付与するというのは考えにくいところがありますし、また、我が国もそうですが、多くの国で調停と仲裁は手続が行き来することもありますし、あるいは手続の途中までどちらの手続をやっているのかはっきりしないというのが我が国のADRの一部に見られる傾向ですので、そういったことも考えますと、仲裁に倣うということは非常に必要なことだと思います。
○青山座長 ほかにいかがでしょうか。この論点は、執行力は要らないとお考えの方も是非一度一緒にお考えいただいて、御発言いただきたいと思います。
○綿引委員 三木委員の意見に賛成です。
○青山座長 そうすると、論点1はこういうところから出発するということでよろしければ、要件の方に入らせていただいてよろしゅうございますか。
論点1-2には、要件として3つ、拒絶事由がないこと、第2に一定の適格性を有する手続又は主宰者の下でそれが作成されたということ、第3に執行受諾文言があることです。
この3つの要件ではどうだろうかということですが、特に問題になるのはこの真ん中の、適格性のある手続又は主宰者という、ここのところをどう考えるかという問題ですけれども、それ以外の点でも結構です。どうぞ自由に御発言ください。
○髙木委員 論点1-1の前提、つまり、執行力について、仮に認める場合でも仲裁判断以上のものは与えられないという前提からスタートすると、裁判所の関与が当然必要になるわけです。そうすると、裁判所の判断が行いやすい条件整備はやはり必要になるということになると思うので、裁判所にあまり負荷をかけないようにする必要もあるし、必ずしも綿引委員のように優秀な裁判官ばかりではないということを考えると、余計に軽くしなければいけないと思うので、機関の適格性や主宰者要件は必要になるのかなと思います。
それから、③の執行受諾文言も、どちらでもいいのかもしれないけれども、当事者の意思がはっきりと推測させられた方が判断が容易なのだろうと思うので、これは入れた方がいいだろうと思います。
①の拒絶事由ですけれども、中ポツが4つあるのですが、公序良俗と一番下の和解可能性がない紛争に係る和解文書、これは見ただけではっきりしているからいいと思いますけれども、意思表示の瑕疵、それから手続上の瑕疵というところまで言うと、裁判所にとって負荷が多過ぎるかなと考えています。ですから、合意の欠缺や瑕疵の部分は、後の執行認諾文言で代替させることができないか、後は請求異議で争ってもらうことでいけないかと考えています。もう一つ、手続の部分は、適格性と主宰者の方を厳格にすることによって代賛できるから、ここも外すということは考えられないかと思いました。
以上です。
○山本委員 基本的には今の髙木委員のお話に賛成ですが、①については、意思の欠缺・瑕疵の点については、これはどうしてもこうならざるを得ないのではないかというのが私の認識です。これこそがまさに、ADR合意に執行力を認める根本的な源泉にならざるを得ないからでありまして、執行受諾文言でもいいわけですが、それは執行受諾文言がきちんとした合意に基づいてなされたということが立証されなければいけないわけで、同じ問題なのかと思います。
ただ、手続上の瑕疵はおっしゃるとおりで、これは仲裁の場合とは違って、合意が前にあるか後にあるかの違いですから、調停の場合には合意は後にあるわけですので、事務局が書かれているように、その前の段階での手続上の瑕疵というのは、ある程度は治癒されると考えてよいのだろうと思います。
ですから、どうしても治癒されない重大な瑕疵、訴訟上の和解でも議論がありますけれども、再審事由に相当するような重大な瑕疵があれば、例えば主宰者が一方当事者から賄賂をもらっていたことが後からわかったというような場合は、これはさすがに執行拒絶事由とするということになるのかもしれませんけれども、ある程度は瑕疵は治癒されるという前提でいいのではないかというのが私の印象です。
②の点については、これは髙木委員のおっしゃったことと全く同じでありますけれども、利用者の利便の面から見ても、予測可能性の重要性というのは、時効の場合と同じように執行力の場合もあるのではないか。後から立証できなくて、執行力は実はありませんでしたと言われると、訴訟に結局行くしかないわけですけれども、そんなことがわかっているならば最初から合意が成立した時点で即決和解や執行証書を取っていたのにと利用者は思うことになるのだろうと思うわけなので、それはやはり望ましくないだろうと思います。
それから、時効の場合と比較しても、6ページに挙がっているような適格性というのは、はるかに実質的な要件ということになってきますので、これを一々訴訟で立証するということは裁判所も勿論大変でしょうし、利用者の側から見てもこれは非常に大変なことになってしまうわけでありまして、そうだとすれば、これは事前に何らかの形でのチェックを経ていれば、この適格性の面については執行決定手続において立証しなくても認められるということでなければ、この制度を設ける意味はほとんどない。したがって、パブリック・コメントに付す意味はほとんどないと思いますので、少なくともパブリック・コメントに付す段階では②の点はある必要があるのではないかと思っています。
③も髙木委員と同じように私も必要ではないかと思います。これは先ほど原委員がおっしゃいましたけれども、同じADR機関がつくるADRの合意であっても、執行まで要るものと要らないものはあるのではないかと思うので、執行まで要るということであれば、これは債務者の執行受諾文言を取って、執行力が付与される余地をつくることが必要だということになるでしょうし、そこまで要らないということであれば、別に執行受諾文言まで付けずに、単なる合意ということで処理すればいいのではないか。そういう選択を認めるという観点からも、③の要件はあってもいいのではないかと思っております。
以上でございます。
○廣田委員 私の考えは、細かいことは別にして、基本的には事務局案に大体賛成ですけれども、一番問題になるのは、7ページの上の○にあります「国があらかじめ認証すること」という、一定の適格性を定める方法が一番問題になるのではないかと思うのです。
そこで、その方法として、ADR機関を認証するということであれば、私はそれは問題があるのではないかと思います。
一つは、認証するということになれば、認証を得るための要件を設ける必要がありますが、それはADR機関に対して規制することなので、規制は避けたいというのが1点、もう一つは、誰が認証するのかという大変難しい問題があると思うのです。
それから第3は、認証するためには膨大な手間や費用がかかります。認証を受けるためにも膨大な手間や費用がかかる。それはADR全般の活性化については、むだな労力ではないかと私は思っています。
第4には、認証制度を設ければ要件さえクリアーすれば認証せざるを得なくなるのですが、形式的に要件をクリアーすることはそれほど難しくはないということになれば、ほとんどのADR機関に執行力を付与するということになってしまって、それでよいのかという問題が出てくると思うのです。
それから、認証制度そのものが紛争解決を仕事とするADRにふさわしくないと思いますので、執行力を付与するということは、それを必要とする立法政策上の問題であると考えて、立法政策上それにふさわしく必要な機関にのみ限定的に付与されればいいと考えています。
どうしてそうするかと言うと、既存のADR機関、立法政策上必要なADR機関に法律によって執行力を付与するということにすればいいのではないかと考えているわけです。つまり、法律によらないで執行力を付与するという例はまずないのです。ですから、法律以外の方法で認証されたADR機関に自動的に執行力が付与されるというのは私は避けなければならないと思うのです。したがって、法律によって執行力を付与するということをADR法に書けばいいと思っているわけです。
そこでお手元のペーパーの条文を考えてみたのですが、これは前提としては、仲裁は仲裁法案のとおりでいいと思います。仲裁法の文章を借りてきますと、最初の方が、「民事執行をしようとする当事者は、組織、人的構成、手続規則、実績、必要性等のうえから特別に法律で定めるあっせん機関、調停機関において選任されたあっせん人、調停人が署名した和解契約書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているものにより、債務者を被申立人として裁判所に対し、執行決定を求める申立てをすることができる」。執行決定は、括弧書きの中に、「和解契約書に基づく民事執行を許す旨の決定をいう」というものを、仲裁法の形を借りて書くとこんなことかなと思っています。
これでは文章が長くて何のことかわからないので、当然ここには執行認諾文言と執行決定は要件に入っているわけですが、特別の法律で決めるということにしてしまって、次の紙に書いてあるものにしましたが、内容は全く同じです。この執行力に関する条文案ですが、これは民事執行法22条や公催仲裁法802条1項を参考にすると、こんなところかということで、執行は「特別に法律で定めるあっせん機関、調停機関において選任されたあっせん人、調停人が署名した和解契約書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されたものにより行うことができる」として、第2項で、「前項の和解契約書によって行う強制執行は、裁判所の執行決定をもってそれを許す旨の決定があったときに限りなすことができる。」ということにしています。
後は、その機関を別法に設けるか、あるいはこの法律の別表にするかという問題が残ってくると思いますけれども、こういうことを骨組みにして、これでも強制執行は必要ですかというアンケートは確かにした方がいいと思います。それによって欲しいと言われても、必ずしも認めるわけではないでしょうから、そのような形にしておけばいいのではないかと思います。
そうすると、今の検討事項ですが、①に関しては、山本委員がおっしゃったことに賛成で、「最初の合意の内容に公序良俗違反があること」、これは必要だと思います。次の「合意の意思表示について意思の欠缺があること」、これは必要ではないでしょうか。「又は瑕疵があること」、これはむしろ請求異議の問題だと思うので、必要ではないと私は思っています。その次の「合意成立の過程に手続上の瑕疵があること」、これは公序良俗違反に含める考えにして、要らないということにする。3番目の「和解可能性のない紛争に係る和解文書があること」、これは必要である。こんなことを考えますので、私の書いたペーパーに今のところを付け加える必要があるとは思います。③は当然必要だと考えております。
○青山座長 どうもありがとうございました。
○三木委員 まず①ですが、これは山本委員や廣田委員のおっしゃることに反対です。先ほど、仮に執行力を付与するとすれば、仲裁の執行決定の仕組みと合わせなければいけないと言った趣旨の中には、執行拒絶事由についても、性格の違う部分は別として、基本的には合わせなければいけないということを含んでおります。それは先ほど申しましたように、途中で手続が仲裁と調停を行き来した場合に、拒絶事由が違っていたらどうするのかということもありますし、非常に極端なことを考えますと、ずっと仲裁で手続が進んできたが、仲裁判断でやると拒絶事由がいっぱいあって、執行を拒絶されるおそれがあるので、最後に調停の和解合意に切り変えましょう。そうすると、手続上の瑕疵がなくなって、拒絶されにくくなる。そんなことが許されるようでは困ってしまうということで、手続上の瑕疵を含めて、仲裁の場合となるべく合わせる必要があるという気がいたします。勿論、調停の独自性がありますから、2番目の意思の欠缺又は瑕疵のようなものを付加するという必要はあろうかと思います。
3番目の執行受諾文言につきましては、これはUNCITRALの議論でも、仮に執行力を置く場合には執行受諾文言を要求するという意見も有力にありましたし、あり得る選択肢だろうと思います。形式要件としてこれだけでよいのかという問題があって、執行力を付与したいという各国の中には、執行受諾文言のほかに、更に例えば両当事者の署名プラス調停人の署名も要るといった付加的な形式要件を要求するという議論もありましたので、むしろこれだけでいいかどうかということはあろうかと思います。
2番目の適格性という言葉の意味によるわけですが、手続の適格性というのは、7ページを見ますと抽象的に書かれているわけですが、これを私なりに理解しますと、調停手続法のようなものが前提としてあって、その調停手続法に従った手続という意味だろうと思います。そういった意味では、仲裁も仲裁法の手続規定があって、それに従う必要があるということですから、同じことになると思います。
他方、主宰者の適格性というのは、これは仲裁法にはないわけで、どうして仲裁では主宰者の適格性がなくても執行力が付与されるのに、調停では主宰者の適格性が必要なのかという点の御説明をいただきたいと思います。
○小林参事官 仲裁の場合に執行力が付与されている理由をどう考えるかによると思いますが、先ほどの綿引委員のお話では、むしろその場合には訴権が放棄されているのだから、執行力はそもそも与えないという選択と、しかしそうは言っても、それではどうしようもないから執行力を与えるというものがあって、どちらを取るかということで執行力を与える方が取られたのではないかという御説明だったと思います。そうだとすると、やはりもともと執行力を与えるべきか否かについての水準は、仲裁と同じでよいかという問題は残ると思いまして、そういう意味からすると、手続と同じように主宰者についてもある一定の要件を求めるということは、考え方としてあり得るのではないかと考えております。
○三木委員 そこがよくわからなかったのですけれども、手続に関してある程度の執行力を付与するのだから要件を置くというのはわかりますが、どうして主宰者の方に要件を置かなければいけないのか。主宰者が誰であれ、きちんとした手続を踏んでいれば執行力を付与するというのが仲裁法の建前で、同じく調停でも、誰が主宰者であれ、立派な手続を踏んでいれば執行力を付与するということでなぜいけないのかということがよくわかりません。
○小林参事官 主宰者に要件を要求しているというのはどの部分でしょうか。
○三木委員 論点1-2の②の「一定の適格性を有するものと認められる手続、主宰者(機関ADRの場合には組織を含む。)」という部分です。
○小林参事官 これも先ほどの時効中断のところで、機関を見るのか見ないのかということと関係してくると思いますが、手続の適格性を確保するために、その手続を行う主宰者、ないしは機関についても、一定の担保を求めるという考え方は、理論的に必然だとは申し上げせんが、慎重を期すという意味からすれば求めるということも考えられるのではないかということです。
○三木委員 先ほど言いましたように、弁護士会仲裁センターもそうですが、最後の最後まで調停でやっていて、最後で仲裁判断にするとか、あるいは組織によっては途中まで仲裁か調停かをあまり明確にせずにやっていて、最後の段階で仲裁判断をつくったり、和解合意書をつくったりするというときに、一方の法律が要求していなくて、一方が要求する場合に、この主宰者要件の問題はどういう処理になるのかということで、どちらの法律が適用されることになるのかということが問題になろうかと思います。
我が国のように仲裁と調停の関係が融通無碍である国では、あまり仲裁と調停との要件を違えることは特に望ましくないという意見です。
○綿引委員 論点1-2について申し上げます。①について皆さんの意見が違っているのは、「合意成立の過程において、手続上の瑕疵があること」というところに主に意見の違いがあるようにお見受けしました。
もし、こういうものが執行拒絶事由ということになるとすると、三木委員が言われたように、調停手続法のようなものが必要になって来ざるを得ないのだろうと思います。各ADR機関が独自に決めている手続を前提に手続上の瑕疵があるかどうかということを判断しろと言われても、裁判所としては困ることになりますので、これを要件に入れるということになると、調停手続法が必要になってくる。果たしてそういう形でADRを手続的に縛るような形になるのがいいのかどうかという問題が起こってくる。執行力のためにそういうことまで必要になってくるのだろうかということで、元の議論に戻っていくのですが、そういう感じがしています。
ただ、三木委員が言われるように、仲裁は手続上の瑕疵が拒絶事由になりながら、ADRはならないというのはアンバランスだというのは全くおっしゃるとおりだという感じもしますので、執行力を認めるために調停手続法までつくるのかという観点からこの議論をしなければいけないのかなという気がします。
一番問題なのは、おそらく②の適格性のあるADRをどのように仕組むのか、ここは本当に仕組めるのだろうかというのが、私が執行力を認めるのは難しいのではないかという結論に到達している理由でありまして、よほどきちんと適正な合意を取り付けていけるような主宰者の運営するADRでないと、内容の合理性のない合意に執行力を付与するという結果にもなりかねないような気がするものですから、ここが本当に仕組めるのだろうかと思います。
先ほどから、主宰者はどうなのか、手続はどうなのかという質問が三木委員の方からも出ていたと思いますが、そこを具体的に仕組めるということでないと、ここのところは非常に難しいだろうと思います。そこで廣田委員は立法で決めてしまえとおっしゃったのですが、今の段階で、このADRだけは執行力が付与されるADRですと、誰がどうやって決めるのだろう、誰がどう立法するのだうろかという、立法政策だとおっしゃったのですけれども、やはり立法政策にしても、立法するからには何らかのセレクトをしなければいけなくて、そのセレクトのための要件が何なのかということがなくて立法はできないのではないかという気もするものですから、そういう意味で執行力というのは難しいという感じを持っております。
○山本委員 前提として、この執行力を認めるためには、調停手続法のようなものが必要であるという御指摘が綿引委員からあったわけですが、私はその認識を共有しておりません。先ほど申し上げたように、私は基本的には、手続上の瑕疵というのは重大な再審事由に匹敵するようなものである、つまり、強行規定に反するようなものであるということを念頭に置いております。
私の認識では、三木委員が調停手続法ということを主張されているのは、基本的にはデフォルトルールの話、つまり任意規定の話をされていたのではないかと思いますので、私は勿論、一定の強行規定が存在して、すべてではないかと思いますが、その強行規定に反した場合には執行拒絶事由が存在するということになると思いますけれども、それはデフォルトルールを置くことが必然であるということにはならないと認識しております。
○三木委員 今の点は私は山本委員とは認識を異にしておりまして、私が今まで調停手続法を置くべきではないかと言ったときは、それぞれの文脈に応じてイメージする手続法は違っておりまして、主としてデフォルトルールであっても置かなければいけないのではないかという文脈で議論したこともありますが、もし執行力を付与するとなると、これはまさに山本委員がおっしゃったとおり、ある程度の強行規定を含んだ手続を置かざるを得ない、言葉を変えて言うと、手続法として強行規定の部分が全くないわけにはいかないだろうと思います。
現在のUNCITRALの調停モデル法は強行規定はわずか2か条で、基本的にはデフォルトルールですけれども、これは私の報告に含んでいたかどうか記憶にありませんが、UNCITRALの議論の中で、今回は執行力を置かないモデル法にしたということで、この程度の強行規定でいいだろうということになったわけで、もし執行力を置くのであれば、この程度の強行規定ではだめだというのが一般的な認識でありました。
他方、それではデフォルトルールは全く要らないかというと、手続違背の中には当事者の合意した手続に違背するというものも含まれるわけですが、現実には調停で当事者が手続を合意するということは滅多にないことです。それから、常設の調停機関でも、手続ルールというのは、調停の場合にはあまり詳細なものが置かれていないことが多いのです。すると結局、当事者の合理的意思を探索するとか、意思解釈をどうするという話になるのですけれども、裁判所の立場からすると、そこにデフォルトルールがないとなかなか合意の探索は難しいだろうと思いますので、デフォルトルールも必要だと考えております。
○廣田委員 この①は、裁判所が執行決定を出すときに、こういう基準で出せばどうかということだと思うのです。だから、目的はそれだけのことですので、そういうことだと先ほどから何度も言いましたように、山本委員の意見に賛成で、それ以上のことはそれほど議論する必要はないと私は思っています。
○青山座長 時間の関係で少し先に進ませていただきますが、論点1-2ですけれども、これについても非常にたくさんの意見の対立、分岐状況がございましたが、次回の会合、6月23日までに事務局の方でもう少し今日の議論を整理して詰めさせていただいて、再度御意見を伺うということにさせていただいて、先に進ませていただきたいと思います。
次は仮に執行力を付与するにしても、執行力の付与される権利、債務名義となる給付請求権を金銭債権等に限定することもあるかどうかということでございますけれども、この論点は非常に小さいものですから、2、3の方に御意見を伺うことにさせていただきます。
[論点1-3]
○廣田委員 実務で必要なのは、建物の明渡し、土地の明渡しですね。これは大体反対給付もありますから、履行促進のためには執行力が極めて有効なのです。即決和解だとか、和解調書、調停調書はそうなっていまして、そのために即決和解を利用するということがありますので、これは金銭債権に限定しない。そのかわり機関をきちんと限定するという考え方です。しかも、執行受諾文言だとか執行決定というものがあれば、ここに書いてあるような不当執行の可能性は少ないと考えます。
○青山座長 ほかの考え方の方いらっしゃいますか。あるいは賛成の御意見でも結構です。○横尾委員 私は執行力の付与自体には消極的でありますけれども、廣田委員の御説明のとおり、この程度のことであれば即決和解等を利用すればできますので、むしろ執行力の付与を考えるのであれば、特定の動産、不動産の引渡請求権等について対象にしなければ意味はないだろうと思います。
○青山座長 わかりました。ほかに何か御意見ございますか。
それでは、この点は限定をするのは不要だという御意見があったということにさせていただきまして、先に進ませていただきます。
次は論点1-4でございます。今までは調停を念頭に置いたわけですが、調停以外のADRについては、何かここで考えておくべき点があるかということでございますが、これはいかがでしょうか。もしここで御指摘いただく点があれば伺っておきたいと思います。
[論点1-4]
○三木委員 裁定が残るわけですが、裁定のうち、一方当事者を拘束し、他方を拘束しないというタイプの裁定につきましては、それは一方当事者にとっては仲裁と同じであり、他方にとっては調停と同じですので、執行力を付与するということでよろしいかと思いますが、一部の方の御議論にあるように、調停と仲裁で、執行拒絶事由等を別にするというのであれば、当事者ごとに拒絶事由が別になるのかどうか、そういうことも議論しなければいけないということはあろうかと思います。
もう一つ、非拘束仲裁型の裁定の場合には、最終的には二当事者間で和解をするわけですから、これに執行力を付与するというのは、今の議論の枠から行っては難しいのではないかと思います。
○青山座長 ほかに何かこの点はよろしゅうございますか。
それでは、これが最後の論点でございますけれども、論点2で、既存の制度を活用して、執行力を新たに債務名義にするという方向ではなくて、それはそれで検討するにしても、それとは別に即決和解という手続をもっと簡易、迅速にして、ADRにつなげていくというような工夫がもし考えられるならば、ここで検討してみたいというのがこの論点2でございます。
これについては即決和解の御経験が豊富な方からまず御発言をいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
[論点2(既存制度を活用する場合に考えられる工夫)]
○廣田委員 これは各ADR機関でかなり工夫して進めていますし、現実問題として法律に書く問題ではないのではないかと思います。書くとすれば、裁判所との連携の辺りの問題かと思います。むしろ端的に、どこにどのように執行力を付与するかということを議論するだけでいいと思います。
○青山座長 即決和解の手続そのものの改革、改正ということはよろしゅうございますか。
○横尾委員 即決和解の実態はどうなっているのかという点について、何か資料のようなものを事務局には是非準備していただきたいと思っております。
今回の執行力の付与というものは、既存の制度の改善と並行してということがここに書いてありますけれども、必ずしも対立するものではないと思いますが、2つの制度はどちらも同様に執行力を付与するものでありますので、2つの制度がある場合に、片方の制度が劣後して使われなくなる可能性もあろうかと思います。従がってあらかじめ具体的にどちらがどういったところが優れているかということも比較してみたいと思っております。
即決和解は申立てから期日の指定まで2か月くらいを要しているというのが現状だとも聞いておりますので、コストだけではなくて、時間の問題なども是非調べていただきたいと思います。
○小林参事官 それはまた御相談したいと思います。
○青山座長 よろしゅうございますでしょうか。
それでは、本日は、時効中断効の付与という問題と、執行力という2つの問題を、1巡目では別々の期日に十分時間をかけてやったものを、2巡目ということで一緒に議論していただきまして、そのために十分議論が煮詰まったかと言いますと、なかなか煮詰まらなかった。むしろ時効中断の方が非常に議論が拡散して、むしろ執行力の方は意見は対立するものの2つの考え方についてかなりコンクリートなイメージがわいてきたというのが私の実感でございます。
この反省を踏まえまして、次回6月23日には、もう少しこちらも今日御要望のあった資料等も踏まえ、実情の点も資料を提供しながら整理した形で3巡目の議論をさせていただきたいと思います。
それでは、次回の期日をアナウンスしておきたいと思います。
次回は6月9日月曜日午後1時半から、基本法的な事項として、基本理念や国の責務という問題、2番目に、一般法的な事項として、ADR機関や主宰者の義務といった問題、3番目は、今日も問題になりました調停手続法に関する事項、調停手続に関する一般的なルールというものが考えられるとすればどういうものかということ、4番目が、弁護士法第72条に関する事項、これも大変盛りだくさんでございますけれども、6月9日は、この基本法的な事項、一般法的な事項、調停手続法に関する事項、それから弁護士法72条に関する事項の4つの問題について御議論いただきたいと思います。これについては、夏に予定しておりますパブリック・コメントも念頭に置きながら、これまでの検討状況を整理した資料をあらかじめお送りさせていただきますので、お考えいただきたいと思っております。
それでは、本日は御出席ありがとうございました。本日はこれで終了します。