(社)日本商事仲裁協会、日本知的財産仲裁センター、日本証券業協会証券あっせん・相談センター及び(社)全国消費生活相談員協会より総合的なADRの制度基盤の整備につきヒアリングを行った。
各説明者よりそれぞれの配付資料に沿って説明が行われた後、委員と説明者との間で、主として次のような質疑応答がなされた。(○:委員、●:説明者)
【(社)日本商事仲裁協会に対する質疑】
○ ADR法のイメージとしてどのようなものを考えているのか。
● ADRへの国の関与は避けるべきであり、その意味で、規制的な規定は置かない方がよい。また、ADR一般について手続とルールを策定するのであれば、執行力と時効の中断効が与えられることを望んでいる。
○ 執行力と時効の中断効について、どのような考え方で盛り込まれることを望んでいるのか。
● 初めに機関ありきで、その適格性を前提として議論するのではなく、あくまでもアド・ホックADRを主眼に、ADR自体に執行力と時効の中断効を付与することについて、どのような方法があるのかを考えていくべきである。いずれにせよ、事前確認、事後確認にかかわらず、適格性についての判断を国が行う必要はないと考えている。
○ 執行力について、諸外国の動向を御存知であれば教えてほしい。また、主宰者と代理人の資格要件等について、主宰者に対する規律は一切不要と考えるのか。諸外国ではどのような資格要件が設けられているのか。事例を知っていれば聞かせてほしい。
● 主宰者を区別せず、民間の調停(conciliation)の結果に執行力を付与している米国州法もある。宗教上の理由などから制限を設けている一部の国を除けば、主宰者に資格要件をかけている国は殆どないと思う。代理ですら資格要件をかけることには慎重であるべきというのが国際的な潮流である。
○ 財政支援は個別ADR機関への支援ではなく、法律扶助のような間接的なものでもよいとのことであったが、協会の運営費のうち、利用者からの手数料で賄われているのはどれくらいか。
● 財務状況は公表されているので、詳しくはHP等で御覧いただきたい。
大まかに述べると、現在、本協会の収入は、手数料のほか、出版物の発行、会員からの収入によって成り立っている。国際仲裁にせよ国内調停にせよ、裁判所の民事調停と競争するためにも赤字覚悟で経営しているが、国からの財政的な援助をもらわなければ、利用者からの手数料収入だけではとても経営していけない。
【日本知的財産仲裁センターに対する質疑】
○ 最近になって貴センターの調停案件で「相手方不応諾」が多くなってきている理由を教えてほしい。また、ADRの魅力のひとつに「非公開性」があるが、一方で「透明性」の確保も必要となってくる。両者の関係についてどのように考えているのか。
● 個々の事案に関与していないので十分に承知しているわけではないが、利用者の信頼性が十分でないことによるのではないかと思う。「不応諾」となった後に裁判にもって行かれるケースが多いと聞く。
後者については、最近、秘密保持の原則を守りつつ、事例集作成作業を進行させているところである。
● 財政的な面については、以前に徴収していた調査手数料20万円を廃止し、利用者からは、申立手数料5万円のみを徴収する手数料体系としたが、利用件数は増えていない。1,600万円の援助を弁護士会と弁理士会から受けてはいるが、約8割が人件費や事務所の場所代などに消えるという状況である。
【日本証券業協会証券あっせん・相談センターに対する質疑】
○ 貴センターは、ADRの適格性の確認方法として事前確認制度を採用することやADRにおける和解に対して執行力を付与することには反対との立場であると承ったが、それでは、どのように行政が関与すれば、ADRの健全性を確保することができると考えるのか。
● 証券業界について言えば、証券取引法上の定めは限定されており、それ以外のルールは定款に定められている。定款の改正などは民間主導で行われ、ADRについても機関の会費など民間のお金のみで行っている。
○ HPで事案を公開するとのことであるが、このような事案を公表することについては紛争当事者の合意を得ているのか。
● HPを見ただけでは誰のいかなる案件なのかの特定はなされないため、事前に当事者の合意までは取り付けてはいない。
○ 時効の中断効については(貴センターの資料に)『「紛争を生じた日から3年を経過した紛争に係るものである時には」あっせんを行わないこととしている』とあるが、「紛争を生じた日」とはいかなる時点のことを指しているのか。
● 取引を行った日から3年という意味ではなく、当事者が会社に申し立てを行った日から3年という意味である。
また、「3年間」と設定した理由については、特段、不法行為の消滅時効の規定を意識したものでもなく、紛争解決の事例の蓄積に基づく経験則から、お互いの記憶に基づく証言の正確性が担保できるのが3年程度だと考えたからである。
○ やはり、直接会わずに電話で対応する割合が多いのか。
● 相談まで含めれば、90%近い割合で電話による対応を行っている。
○ あっせん委員の構成についてであるが、弁護士だけなのか。現在、どの程度の人数のあっせん委員がいて、事案ごとにどの程度の人数で対応しているのか。
● あっせん委員は協会規則上は「学識経験を有する者」とされており、現在は35名いるが、全てが弁護士となっている。ただし、過去には、裁判官を辞めて弁護士登録していない人なども委員になっていた。あっせんについては、事案ごとに1人で対応いただいているところである。また、一事案につき、3回程度の期日を設けている。
○ それぞれの事案について、いったんあっせん委員の手に委ねてしまうと、その後はあっせん委員に任せきりになるのか。
● センターの業務として、あっせん委員によるあっせん業務の補佐や事務処理を行っている。補佐や事務処理を行うためにあっせん委員に同席しており、任せきりということはない。
○ あっせん委員に任命されるに当たっては、当該証券会社との特別の関わりが考慮されるのか。
● あっせん委員の選定は、弁護士会の地区会長からの推薦に基づいて協会長が行っており、証券会社の顧問弁護士であるかどうかについては考慮していないが、やはり、証券業界に精通している人や裁判官OBが必要である。
なお、例えば、東京では10名のあっせん委員がおり、特別利害関係事案についての回避規定の下でも、事案ごとに対応できている。
【(社)全国消費生活相談員協会に対する質疑】
○ 会員のうち、大半の人間が消費生活センターの業務を兼ねているということであるが、その中でADR機関との間の連携を図っていくといった議論はなされているのか。
● ADR機関との連携は大いに考えていくべき事項と認識している。
ヒアリング終了後、委員間で意見交換が行われた。主な意見については、以下のとおりであった。
○ 従来の検討会では、国際的観点からの議論が十分とは言えないように思われるが、弁護士法第72条との関係など、国際的な波及効果のある事項もあることから、国外の動向等にも深い知見を有する者からのヒアリングを行うなど、国際的な観点からの議論を深める必要があるのではないか。
○ 消費者団体からは今回の意見募集で示された論点のうち、執行力の付与については反対、事前確認は慎重に行うべきとの声が多かったと思う。
○ 消費者の立場からは、次のような点に留意して、今後の検討を進めていく必要があるのではないか。
① 消費者契約の視点から、ADRも契約の一種である以上、「サービス提供に関する重要事項の説明義務」について更に検討が必要である。
② ADRの健全性の確保という観点から、ADRの「透明性」と「非公開性」の問題について、整理していく必要がある。
③ 既存のADR機関においても消費者の立場からしてみれば、その健全性に疑問符が付く機関も多く、ADR機関に対する苦情を適切に処理する仕組みについても考えていくことが必要である。
○ 情報を開示して紛争当事者の選択に任せていくだけで、本当にADRというシステムが円滑に機能していくのか疑問であり、利用者側が最適な選択ができるようにすることも必要ではないか。
○ アジア諸国やカナダ、アメリカなどは、日本のADRが将来的にどのような仕組みになるのかについて、非常に関心を有している。
これらの国々の関係者と意見交換すると、今回の意見募集の論点のうち、事前確認制度の導入については、ADRの最も良い部分を失わせるおそれがあるという懸念の声が多いという印象を受けた。
○ 「ADRの健全性」という用語が飛び交っているが、「健全性」とは誰がどのような基準で判断するのか。
「健全性」を追求していくうちに、ADR業務を実施する「人間」に対する評価に繋がってはいかないか。果たして、そこまで必要なのか。
○ ADRが適正に運営されていくためには、公的なものの関与を完全に排除するのは困難ではないか。
○ そもそもADRは法制化には馴染まない性質のものであるが、法制化して「ADRの価値」を国として認知するという選択をする以上は、国はADRについての最低限の信頼性を確保するという責任を負うこととなる。
付与される効果にもよるが、ADRの仕組みが不十分な現段階では、過渡的に規制を課すことも考えられるのではないか。
○ ADRを単なる契約と同視するのであれば主宰者の資格にそれほどこだわる必要はないかも知れないが、ADRに一定の公的効果を付与するならば、やはり「法の支配」の概念により、弁護士法第72条の規制の緩和にも限度があると考える。
○ 各国のADR制度において、法曹資格をADR業務を行うために必要としているような事例があるのか否かを調べるべきではないか。併せて、弁護士法第72条のような規定が各国の法制に存在するのかどうかも調べるべきではないか。
○ これまでの議論では、意見が十分かみ合わず、各々の意見言い放しに終わってしまっていた感がある。これからは議論をかみ合わせながら、より深い議論をすべきではないか。
また、ADRは既に存在するものであって、新たに国が認知するものではないのだから、法制化することが直ちに国の関与が必要になることにはならないのではないか。