事務局から、これまでの検討会の議論のほか、意見募集の結果、さらに、法制的な側面からの要請等を勘案した「ADRに関する基本的な法制のイメージ」が提示され、このイメージを素材としてADRに関する基本的な法制についての体系的な検討が行われた。(◎:座長、○:委員、●事務局)
まずはじめに、事務局より、このイメージの位置づけなども含めて、資料25-1の説明が行われた。
◎ この資料は、大きく分けて4つの分野(Ⅰ.立法目的、Ⅱ.総則(基本的事項/一般的事項、Ⅲ.民法等の特例(特例的事項)、Ⅳ.調停手続法(調停手続法的事項))にわかれている。そのうち、Ⅲの1.の時効中断効は、後ほど、別途議論することとして、最初にこの資料について、各委員から御意見をいただき、御意見の状況を踏まえた上で、必要に応じて個別の論点を議論したい。
それでは、各委員から御意見を伺っていきたいと思うが、特に異論がない部分については省略してもかまわないが、基本的には資料全般にわたって意見を頂戴したいと思う。それでは、座席の順番に従って、龍井委員からお願いする。
○ 今回提示されたイメージ案は、ADRそのものの拡充・活性化を目的としていた当初の検討会での検討から較べると、少し後退気味の感が否めない。このイメージ案が法律になって具体的にどのようにADRが拡充・活性化されるのかがイメージできない。案によれば執行力について、将来の検討課題とするとされているが、私は、前々から申し上げてきたとおり、執行力は必要であると考えている。例えば、マル適マークのように、誰にでも与えられるわけではないが、情報の開示や社会的なお墨付きを与えるとの意味合いで、例外的に執行力を与えることができるような仕組みにはならないか。
○ 資料のP1の上から2つめの※のような書きぶりは、ADRの拡充・活性化を目的とするADR検討会の考え方に反する記述なのではないか。ADRに対して懐疑的な評価をしているような書きぶりである。2.(3)の「国民の役割」について、規定の整備を見送るとしたことには賛成する。3.の「ADR提供者等の義務」については、ADRの多様性を重視しながら不適切なADR機関を淘汰するという意味においては、重要事項の説明については、個人的には義務規定を置くことができればと考えている。義務規定が無理であればせめて、責務規定でもいいから法律に規定してほしい。
Ⅲの2の「執行力の付与」については、ADR法の実際の効力の問題を考えると必要であり、仮に、付与しないこととなれば審議会意見書から大きく後退することとなる。濫用を懸念する意見があることは承知しているが、限定的な者に執行力を与えるのであれば差し支えないのではないか。5の「裁判所によるADRの利用の勧奨」については、諸外国もこれをADR振興の中核的手段と位置づけており、我が国でも審議会意見書でADRと裁判手続との連携が謳われているため、何らかの規定を置くことが必要ではないか。6の「ADRに係る法律扶助制度の見直し」については、検討会では議論をしていないし、意見募集の結果を見ても大半は賛成している。そのような状況であるにもかかわらず結論を「将来の検討課題とする」ことはいかがなものか。この論点については、引き続き議論の対象とすべきと考える。
Ⅳの「調停手続法(調停手続法的事項)」については、諸外国でも規定されている事例は多い上に、UNCITRALモデル法にも規定が存在する。我が国のADR法にも規定を設けるべきと考える。
また、「将来の検討事項とする」とされている事項がいくつかあるが、ADR検討会としても、これらの「将来の検討事項」とされたものについてどのようにフォローアップを行っていくのかが重要と考える。
○ 昨日の朝日新聞の2面で「裁判所調停民間で代替」という見出しの記事があったが、ADR検討会の議論が世の中に出る時にはこのような表現ぶりをされるのかと寂しく感じた。また、世間においては、ADRという言葉すらほとんど知られていないのが現状である。また、記事には執行力も当面与えないこととされた結果、ADRを裁判と並ぶ魅力的な選択肢とするとした審議会意見書からは大きく後退することとなったと記述されているが、執行力を付与することだけがADRの魅力を増すものではない。それにしても、最近の検討会の議論は、あまりにも手続的な部分のみに集中してはいないか。このイメージ案が消費者や利用者にとってどれだけの効果があるのか疑問を感じる。特に、当事者が対等の立場である状況のみが念頭に置かれており、弱者保護の観点に欠ける部分が気になる。資料P1の上から2つ目の※については、魅力と弊害が並列の関係で書かれているが、ADRは将来的には魅力的になっていくと書くべきではないか。また、1.の立法目的の文言から信頼性の観点が落ちている。「利便性」、「実効性」に加えて「信頼性」も明記してほしい。
2.(2)や3の「ADR提供者等の責務」については、消費者にとっては大変重要な問題であり、もう少し整理が必要なのではないか。公正な手続運営の確保、利用者への情報提供、質の高いADRの担い手の確保などについては、努力義務とするのことであるが、どの程度の内容を考えているのか。重要事項の説明義務や情報の開示義務は責務規定ではなく、義務規定として法案に盛り込むべきである。「法律扶助制度の見直し」については、将来の検討課題とはせずに、ぜひ、規定として盛り込んでいただきたい。弁護士法第72条の特例の取扱いについては、資料のとおりでかまわないと思う。
全体として、一市民の視点に立った議論が不十分であるとの印象を受ける。弱者配慮の姿勢に欠けており、「適正な契約」「適正手続」の視点が見えにくいので、法案には目に見える形で規定してほしい。ADRの非公開性とADRの選択機会の拡充を図るための情報の開示との関係性の整理ができていないことも気になる。また、BtoCなどにおいては、悪質な業者を排除することが大切であるが、そのような問題については考えられていないのではないか。
○ イメージ案全体については、時間的な制約も考えれば、これでよいと思う。
ただ、執行力について「既存制度の利用者の利便に資する方策を検討する」とあるが、具体的にどのようなことを行っていくのかを検討することが重要と考える。また、事前確認制度はADRの多様性の要請からは導き出しにくいと考えており、違和感を感じている。例えば、その必要もないのに無理に認定を受けようとする機関が出現する可能性は否定できないのではないか。時効中断効や執行力がどの程度まで必要なのかは疑問を感じる。事前確認制度と結びつくくらいであれば、限定的なニーズしかない時効中断効や執行力を敢えて導入する意義があるのか。
○ この資料は、検討会の意見の最大公約数をとったものでもなく、最小公倍数をとったものでもない。現状追認以下であると考える。この資料を読んでも、どのような法案になるのか、条文のイメージが浮かんでこない。特に、弁護士法第72条の特例の部分はそうである。また、理念と各論の記述に乖離があり、立法目的の部分で「各種特例措置を講ずる」とあるが、各論を見ると特例措置が複数存在するとは考えられない。さらに、「重要事項の説明義務」については、可能であれば理念か責務の規定に盛り込むべきであり、その方法については、仲裁法第25条が参考になるのではないかと考える。また、理念からADRの多様性という視点が全く欠落している点が気になる。執行力が「将来の検討課題」とされている点も多様性の視点が欠落している証拠ではないか。事前確認を受けて、執行力を付与されるか否かについては、それぞれのADR機関の判断、選択に委ねられるのであるから、問題ないと考える。これまで行政型ADRに認められていた制度を民間型ADRに下ろすのであるから、多少の規制はあって当然である。5.のADR勧奨については、将来の検討課題とするのであれば、事案を回していく仕組みを考えた方がよい。弁護士法第72条の特例の問題については、一定の不適格者がどのように取り扱われるのか、関係性がわかりにくい。そもそも、不適格者であるか否かを確認する方法があるのか。仮に、ADRを行っていた者が不適格者であると事後的に判明した場合、そのADRは無効となるのか。また、この前の検討会において、私は国際的な慣行を考えれば仲裁については72条から外した方がよいのではないかと述べたが、国内仲裁の状況を考えてみると国際的慣行には馴染まない部分もあり、必ずしもそうとは言い切れないと思うので、ここで修正させていただきたい。
○ イメージ案を見ると、法的効果を付与するような規定や手続的な規定が少なく、基本法的な規定が多いが、そのような基本法的な側面も長期的な視野に立てば重要と考える。ADR検討会解散後にこのADR法に基づいてどのような検討を行っていくかがポイントであり、今回作る法案は、それらの検討を支える柱といった位置づけになるのではないか。各論については、P1の2つめの※の文章は、少なくとも私の認識では、弊害が表に出たこともないのであるから、大きな視点に立てば順調に発展していくものであるというトーンに書きぶりを変えた方がよい。3.の「ADR提供者等の義務」における重要事項の説明義務については可能であれば民事上の義務として規定すべきであり、情報の開示義務については可能であれば義務規定、少なくとも責務規定とすべきではないか。5.の「ADR利用の勧奨」については、諸外国の例を見ても中核と位置づけられているテーマであり、義務規定とすることが無理なのであれば、せめて、裁量的な規定として法案に位置づけるべきなのではないか。弁護士法第72条の特例の問題については、弁護士と共同し、又は助言を得て行うことが望ましいのか強い疑問がある。とりわけ、国際性のある事件については、国際性やグローバルスタンダードに相当程度、配慮する必要があるのではないか。また、ここでいう弁護士とは外国弁護士も含むのかどうかを検討する必要がある。Ⅳの「調停手続法的事項」については、どのような手続がADRのスタンダードになるのかを示すとの意味においても、少なくとも任意規定として法文化すべきではないか。これまで、この検討会においては一般的な議論を中心として行ってきた。例えば、行政型ADRについては必ずしも議論してこなかったわけであるが、我が国における今後のADRを考えれば、行政型ADRのような政策に基づいて行うADRについても検討していくことが必要である。
○ イメージ案の大枠に異論はない。ただし、どのような名称の法案にするのか、日本語のタイトルを詰めていく必要があるのではないか。6.の「法律扶助制度の見直し」については、実効性がないと考えるので、資料からは落とすべきなのではないか。また、弁護士法第72条の法律事務の取扱いについては、高度の専門的知識を有する者が「弁護士の助言を得て」行うことができる旨をシンプルに書けばよいのではないか。
○ 1.「基本理念」の「民事上の紛争の解決方法を選択する機会の拡充」については、審議会意見書の裁判と並ぶ選択肢よりも書きぶりがトーンダウンしていると考えるので、もう少し積極的に書けないか。6.の「法律扶助制度の見直し」については抽象的な文言でよいから法案に書けないものか。72条の特例の要件は、余り厳しくしない方がよい。また、「代理」について「個別法で措置することについて、検討する」とあるが、漠然としすぎていてイメージできないので、いかなる措置を行うのかについて具体的に書いてほしい。
○ イメージ案はまさに「骨子」そのものといった感じのものになったが、時間に制限があることやこれが出発点であるということを考慮すれば、これくらいの内容が必要十分ではないかと考える。執行力の付与については検討会でのコンセンサスが得られないようであれば見送るべきと考えていたが、そのような結論となっており大変結構である。また、6.の「法律扶助制度の見直し」についても、ADR法ができて今後のADRのイメージが明確になってから考えていくべき事項であるから、将来の検討課題とすることはやむを得ないと考える。
◎ 御意見ありがとうございました。一通り御意見を伺ったところで、事務局から何か発言しておくことはあるか。
● 資料の書きぶりや議論の進め方についての御意見はありがたく承った。各論の書きぶりは、これから議論し修正・拡充していくこととして、ここでは総論について若干発言したい。基本的事項については、パブコメ段階の考え方を原則として維持している。一般的事項は、信頼性を確保するためにADR全般に共通するルールを設定するものであり、この案ではスリムなものとなったが、ADRのあるべき姿を示したものであると考えている。特例的事項は「将来の課題とする」とされているものが多いが、それなりに、利用者の利便に資する方策となっているのではないかと思う。前文の2つ目の※の表現ぶりにはやや配慮に欠けるところがあったと思う。私が申し上げたかったことは、ADRの拡充・活性化を図っていくための基本的な考え方にも色々あるということである。前文の①や②は、考えられるひとつのスタンスを採り上げたものであり、それ以外の考え方も十分あり得る。
ここで、15分間の休憩があり、休憩後、議事が再開された。
◎ それでは、議事を再開する。先ほど、各委員からイメージ案についての御意見を承ったが、現状にかんがみればこの程度で必要十分であるという意見と不十分であるという意見に大きく分かれた。この検討会が始まった当時の期待と較べれば確かにトーンダウンしたという印象は拭いがたいものがあるが、すべての論点に答えを出すことは難しい。私は、先ほどの意見でもあったとおり、ADR法というものは、それができれば直ちにADRの拡充・活性化が図られるものではなく、あとからジワジワと効いてくるものだと考えている。これからADR法に基づいてどのような検討が行われていくのかが重要だと思う。それでは、なぜ100パーセントのものができなかったのか。検討会の意見も意見募集の結果も十分に参考とした。ただし、法制的な議論も存在する。ただ今からの時間は、第1巡目の意見では言い足りなかったことや、論点を絞るつもりはないが、是非、御発言したい意見があれば、それらについて議論を行い、その後に、時効中断効の付与の問題について、時間をとって議論したい。
○ もっと早い段階で各委員間で共通の土俵があれば、ここまでトーンダウンすることはなかったのではないか。事前段階におけるコンセンサスが不十分だったのではないのか。基本を見ることなく、手続をどのようにするかに拘りすぎた結果、このような結果となったのではないか。
◎ 我が国の法制度の壁をどのように突破するかという問題もあったし、わずか3年間でどこまでやれるのかという問題もあった。その中で色々検討した結果がこのイメージ案である。
● ADRについては、まさにゼロからのスタートであった。まずは議論の土俵から設定するということでその段階からかなり時間をかけて慎重な議論を重ねてきたつもりである。その中で基本的事項、一般的事項、特例的事項という3つのテーマが浮かび上がってきたわけである。
○ 基本理念の書きぶりで「民事上の」と限定することはトーンが弱い。基本理念の書きぶりは考えてもらいたい。また、先ほど仲裁法第25条の話があったが、是非、BtoCに対する配慮を盛り込んでいただきたい。
◎ ADRとは、そもそも紛争当事者双方が和解することが可能な紛争を対象としたものであり、刑事事件などのような和解には馴染まない事案を対象とするものではないと考えるが、それでも「民事上の」と限定をかけることは適当ではないと考えるのか。
○ 基本的な枠組みについては、議論した結果、時間に制限があることやこれが出発点であるということを考慮すれば、これくらいの内容が必要十分なのではないかと考える。マル適マークの問題などは、ADR法が世に出てから考えていくべき問題であり、現段階では、とりあえずはここまでやってみるということが重要なのではないか。
○ ADRの定義規定はどのように規定するつもりなのか。
● 定義については、基本的にはパブリックコメントでお示しした定義に従いたいと考えている。また、「選択機会の拡充」という言葉について誤解のないように申し上げれば、裁判と並んで選択肢となるという意味で使用させていただいているものであり、 決して、裁判よりも劣るというニュアンスで用いたものではない。
◎ 立法目的の部分については、検討会でもかなり議論があったものと理解している。審議会意見書の「裁判と並ぶ」の解釈については、裁判制度との関係性の問題であり、色々な考え方があるところなので、ここではあっさりと規定させていただいたところである。
○ この検討会では最終的にはどのようなまとめ方をするつもりなのか。
◎ この検討会においては、ADRの基本法を作るための要綱案を作るといった位置づけを担っており、それを法律の形にするのは事務局の仕事であると考えている。法律ができた後に、我々検討会として残されている仕事は、検討会報告書をとりまとめる仕事なのではないかと考えている。その報告書などにおいて、それから先の検討の方向性のガイドライン、努力目標を指し示す。3年間でできるのはこれくらいかなと考えている。それ以降は、引き継がれた者に任せるしか方法がない。
● 最終的にどのようなまとめ方をするのかについては定まってはおらず、推進本部にはこの検討会を含め、11の検討会があるが、様々なアプローチをとっていて一律的なものではない。このADR検討会においても、どのような形をとるのかはわからないが、何らかのまとめのようなものを世の中に出す必要はあると考えている。年内において残された検討会はあと3回しかないということもあるので、これからは次期通常国会に法案を提出するために行う議論と残された課題を将来に向けてどのように繋いでいくのかという議論を分けて考えていただきたい。ADR検討会以外の検討会においても色々な議論があり、法案の立案のため、課題を絞り込むことについて理解をいただいている。
◎ 今、事務局からもお願いがあったとおり、当分の間は、ADR法を次期通常国会に出すための議論の集約という観点から検討を進めていただきたい。
○ 次期通常国会以降の場で法案を提出するようなことは考えているのか。
● 法案は次期通常国会に提出することのみを考えており、それ以外のケースは考えていない。
○ 年内に開催される検討会はあと3回しかない。そのような検討時間の短さを考えれば、現段階で、特に弁護士法72条などについて条文化された要綱案のようなものがないと検討することすら難しい。もう少し時間をかけて丁寧に検討していくべきではないか。
◎ 希望は希望として承るが、それを事務局に命令するわけにもいかない。
○ それでは、この検討会の委員にも法律の専門家は数名いるのだから、そのような委員を集めて小委員会のようなものを開催し、どのような条文にするのかについて検討するというのはいかがか。
◎ このことについては、検討会終了後に検討したい。それでは、時間的な制約もあるので、時効中断効の議論に移りたい。それでは、事務局から時効中断に関する資料の説明をお願いしたい。
事務局より、時効中断について資料25-2の説明が行われた。
◎ 資料25-2については、従来案の個別労働紛争解決促進法タイプとこの前の検討会で三木委員が提示した別案(催告タイプ)の2つの案を提起してみたわけであるが、まずは、ただいま説明があった別案について、議論を進めていきたいと考えているがよろしいか。それでは、特段の異議はないようなので、まずは、別案の提案者でもある三木委員に口火を切っていただきたいと思う。
○ 催告タイプという名称をいただいたが、これについては特段反対はしない。従来案を「個別労働紛争
解決タイプ」と称し、私の案を「催告タイプ」と称すれば、両者間に大きな違いがあるとのイメージが強くなるが、両者間において決定的に異なるのは、事前確認制度導入の必要性があるかないかであって、個別労働紛争解決タイプを採れば、事前確認制度に直結するという、それ以外の点については見かけほどの大きな差異はない。あとは、個別労働紛争解決タイプにおいては訴えの提起までの期間に上限はないが、催告タイプにおいては上限があるという程度のものである。しかしながら、その違いについては、調停にどの程度の時間をかけるのかという問題になるが、通常の裁判においても2年半程度であるから、迅速性を特長とするADRにおいては1年もあれば十分なのではないかと考える。
また、いつ時効中断効の効力が発生するのかという点において、個別労働紛争解決タイプではADR申立て時、催告タイプではADR三者合意が行われた時との違いがあるが、これも、多くのADR事案においては、実質的な時間的な開きが生じるものでもない。
このように考えていけば、両案の差異は事前確認制度を採るか否かという部分に尽きるのであって、催告タイプでも問題はないと考えている。
○ 私は、4つのADR機関の調停人や仲裁人を行った経験があり、実務に通じている。そのような観点から意見を述べたい。現在、個別労働紛争解決タイプと催告タイプの2案が提起されているが、私が提起した案が採り上げられていない。ADR法を作る目的はADRを機能させるソフトを作るということである。確かに、法の整合性という観点は重要であることは認めるが、実務と整合的であるかどうかが最も重要であり、今回提起された別案ではADRは機能しないであろう。私が提起した案は、「期日管理」がテーマとなっているものであるが、統計を取ってみても意見募集の結果においても、私の案を支持する者が過半を占めており、今回のペーパーで抹消されてしまうのは甚だ遺憾である。時効中断効は援用されてはじめて効力を有するものであり、実務上では、裁判所は時効を援用するわけではない。時効を援用するためには、相手方の同意があってはじめて可能であるが、相手方が「はいそうですか」とすんなりとその申し出に合意をするわけがない。しかも、書面で合意などするはずがない。もし仮に、そのような書面が作られるとなれば、中立であるべきはずの第3者が一方に加担することとなってしまい、ADRの制度趣旨に反することとなる。また、例えば、建設関係の紛争においても起算点が争いになる場合が多く、書面性までを要求するとなれば、そこで2次的紛争が生じてしまい、本来の争いどころではなくなってしまうだろう。このような制度ではソフトが機能しないし、現場はとてももたない。
○ 個別労働紛争解決タイプと催告タイプの両方にメリット・デメリットがあり、私は、2案が両立することも理論的には可能であると考えている。前回の検討会の発言からここまでのものをブラッシュ・アップする事務局の検討を高く評価する。催告タイプの案は、民法上の催告の期間を6ヶ月間延長するものであるが、そもそも、民法上で6ヶ月という期間が与えられている趣旨は、 提訴のための準備期間が6ヶ月程度は必要であり、6ヶ月以内に交渉が成立していればよいということによるものと考えている。そのような考え方を拡張していけば、催告タイプのような考え方を採ることは十分にあり得るのではないかと思う。更に検討すべき点として、「明示の合意」を得ることは、確かにADR機関の立場を考えれば、困難であろう。書面性を要求するかどうかについては、なお検討すべきところであると思う。また、催告タイプと個別労働紛争解決タイプとは、「合意」という積極的事項を要件とするか、「ADR手続から離脱しない」という消極的事項を要件とするかの違いもある。さらに、「第三者の合意」を要件とすれば、第三者についての明確な規定がないため、どのような第三者であってもよいのかということにはならないか。第三者が介在することによって、紛争解決の可能性が高まるので確定しやすいという側面は理解できるが、一定の不適格者については排除すべきなのではないか。
○ 催告タイプにおいて通常よりも長い1年間の猶予を設ける根拠としては、ただの催告では信頼性は薄いが、第三者を介在させれば信頼性がより高まってくるといった側面があると思う。この点では良いアイデアだと思う。しかしながら、確かに、書面で合意を取り付けるのは困難であろう。書面をもって第三者を介したものを立証できればよいのではないか。書面をもって立証されればよいこととすれば、6ヶ月を1年間に延長することも民法との整合性に欠けることはないのではないか。
○ なぜ、時効中断効くらいスッキリと認めないのか。裁判は正しいものであり、ADRは間違いを犯すという前提に立った議論を行うこと自体がそもそも問題なのではないか。
○ 三者間の合意であるADR合意をとれるとすることは、実務においては有り得ないので、通用しないだろう。また、3人が合意するだけで時効を延ばすことができるとする考え方が、法制的に認められるとは考えられない。個別労働紛争タイプでは、時効が無制限に延長されるという指摘があったが、実務上では1,2回で打ち切られるので、こちらを採用した方がベターなのではないか。
◎ 時効中断効については、御指摘のとおり、確かに、今回提起した2案以外にも廣田委員からの案があって、廣田委員からはパブコメを作る際にも盛り込んでくれとの注文があったことは承知しているが、このような形をとって時効中断効を付与することができるのであれば何らの問題もないが、そもそも法制的に通るようなものなのか。また、おっしゃるとおり、確かに意見募集の結果では相対的に賛成が多かった案ではあるが、検討会の場においては少数説である。今回の催告タイプは、事前確認制度を導入することなくどのような制度設計が考えられるのかについて、私が廣田委員の案を活かすような形で三木委員にアイデアを求めたものである。書面による三者合意が非常にハードルが高い要件であることは認めるが、それはそれとして、この案であれば法制的にクリアするであろうというものを作り上げるのは、これからの話なのではないか。単に請求したということだけではなく、相手方にも通知して、相手方に出てきてもらって交渉を始めることを要件とする仕組み立てを採るという意味においては、催告タイプの案も廣田委員の案も、それほどの違いはないのではないか。私は、催告タイプを採用することで各委員の御理解をいただきたいと考えているが、どうか。
○ 私はこの案を認めないが、事前確認制度の導入を前提とする個別労働紛争解決タイプを採用されることについては、より認めがたい。事前確認制度を導入するとなれば、日本のADR制度は壊滅してしまうだろう。ADRはそもそも非公開であることが特長であるにもかかわらず、事前確認制度を採ることとなれば、保持しようとする秘密も知られてしまうこととなり、誰もADRを使おうとはしなくなるだろう。資料のP2の3.の(1)に、「事後確認方式の下での制度導入は困難と結論せざるを得ないのではないか。」とあるが、そんなことはない。また、3.(2)に「このように、事前確認方式の下であれば、当事者保護に欠けることなく、予測可能性及び立証可能性を確保することは可能と考えられる。」とあるが、これも間違いである。むしろADRが衰退してしまうだろう。抗弁、再抗弁、再々抗弁といった訴訟の手順に相当する要件を課せばよいのではないか。もし、それだけでは不十分なのであれば、再々抗弁に付ける要件を加えればよいのではないか。催告タイプは、再抗弁に相当するところの要件が過剰に重くなっていると考える。
○ UNCITRALにおいても時効中断効を付与できないかどうかが議論されているが、これは調停手続に時効中断効を付与するものである。手続が存在することと、両当事者がいて第三者がいることが時効中断効を付与するに当たっては不可欠な要件であるとは思うが、書面によらない合意でもよいという意見が多数を占めれば、私はこだわらない。議論の材料としていただくために、要件は敢えてハードに設定したものである。第三者が不適格者であってもそのことで直ちに時効中断効が付与できない、または無効になるとは考えておらず、私の案ではこのことをチェックできるような仕組みとはなっていない。それでは、事前確認制度を導入すればそれで大丈夫なのかと言われれば、事前確認制度は、最初のADR機関の適格性にお墨付きを与えることに過ぎないものであり、その後は、不適格者が第三者になろうとも、そのことを確認する方法は存在しない。
○ 事前確認制度を導入し、個別労働紛争解決タイプを支持する意見は変わらない。また、「不適格者が第三者となった場合でもそのことを確認する方法は存在しない」との御懸念については、事前確認制度によるADR機関の認定後、当該ADR機関からの定期的な報告書の提出を求めることなどにより回避できるものと考える。さらに、事前確認制度を採った場合、秘密事項が知られてしまう可能性はあるが、その秘密を知ることとなるのは大臣や公務員になるわけであり、彼らには守秘義務がある。よって、提出された報告内容が外に漏れることはないはずである。
○ 三者間の合意は、実務上においては口頭でもなされていないのではないか。当事者は自分の都合しか考えない。相手や調停人を見ており、何かあればいつでも手続からの離脱を考えているものである。何回か会合を重ねれば、それでADR合意があったと見なすことには無理があるのではないかと思う。
○ 三者合意があったかなかったかについて争うことになれば、熾烈な争いになることは間違いないだろう。それに、調停人が争いに巻き込まれてしまうこととなるため、そのようなADRは誰も行おうとはしなくなるだろう。
◎ 書面によって三者合意を取り付けることは非常に厳しいものがある。よって、ADR機関が「このような申し出があるのだがこちらに来ていただけないか」と訊いて時効中断の相手方を呼び出し、ここで相手方が来なければ難しいが、来てもらえればADR合意があったとすること程度までに基準を緩和することができればよいのではないかと考える。
○ 私が「出頭」と言うところの意味はそのような趣旨である。
◎ ただ申し立てを行うのみで時効中断効が付与されるとすることは、法制的に持たない議論である。
○ ADRの拡充・活性化を図るためには、その程度までに範囲を広げるべきということである。
○ 消費者の立場から考えてみれば、「書面をもって第三者を介したものを立証できればよいとすること」を要件とすることでよいのではないかと考えるが、第三者の介在を立証することは本当に可能なのか。
○ 一方当事者が調停を申し立て、他方当事者が出頭し、次回も行うということであれば、調停が行われたと判断して間違いはなく、立証もさほど困難ではないと思う。
○ 時効中断効付与のシステムは主宰者のためにも必要と考える。主宰者が裁判所に提出すればよいのではないか。
◎ 終了予定時間をオーバーしているので、そろそろ本日の議論を終了することとしたいが、時効中断効付与についても表面上は意見が対立しているようにも見えるが、実際は、各委員間の見解に大きな開きはなくなってきているものと考えている。
次回、第26回ADR検討会は12月1日(月)13:30から開催し、本日の議論を踏まえ、事務局より「イメージ案」の第2稿を提出してもらい、引き続き、ADRに関する基本的な法制についての体系的な議論を行うこととなった。