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ADR検討会(第26回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり



1 日 時
平成15年12月1日(月) 13:30~17:00

2 場 所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)青山善充(座長)、安藤敬一、佐成実、髙木佳子、龍井葉二、原早苗、廣田尚久、三木浩一、山本和彦、綿引万里子(敬称略)
(事務局)山崎潮事務局長、松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林徹参事官、山上淳一企画官

4 議 題
「裁判外における紛争処理制度(ADR)に関する基本的な法制」のイメージ(ADR検討会における議論の整理案)について 

5 配布資料
資料26-1 「裁判外における紛争処理制度(ADR)に関する基本的な法制」のイメージ(ADR検討会における議論の整理案)

6 議 事

事務局から、第25回ADR検討会における検討内容を踏まえ、所要の修正を施した「ADRに関する基本的な法制のイメージ(ADR検討会における議論の整理案)」が提示され、これを素材としてADRに関する基本的な法制について、更なる体系的な検討が行われた。(◎:座長、○:委員、●事務局)

 まずはじめに、事務局より、前回の議論を踏まえた修正のポイントなどについて、資料26-1に沿って説明が行われた。

◎ 今回は、前回検討会からの修正点を中心に、休憩時間を挟んで、「前文」、「Ⅰ.立法目的」、「Ⅱ.総則」の部分と、「Ⅲ.民法等の特例」、「Ⅳ.調停手続法」の部分とに分けて議論していきたい。また、本日は、細かな言い回しはともかくとして、前回の議論で意見の方向性に開きがあった論点を中心に議論を行いたい。

○ 2点ほど意見申し上げたい。1つ目は、前回の検討会の議論を踏まえて、P1の前文が相当程度、修正されているが、①、②について、あたかも、両論にわかれて議論されたような印象を与える書きぶりになっていることが気になる。委員は双方を意識しながら議論してきたのであり、実際に見解が分かれたのは、各論部分についてであるから、そのことがわかるように書き方を工夫すべきである。
 また、①の「ADRの将来性にも」の「も」は、言葉のニュアンスが弱くなってしまうので、削除すべきではないか。
 2つ目は、前回の検討会でも申し上げたが、P3の「3.ADR提供者等の義務」について、重要事項の説明と利害関係情報の開示については、責務規定ではなく、守秘義務と並ぶ義務規定としていただきたい。義務違反があれば、損害賠償をも請求できるような規定とすべきである。

● 1つ目の御意見については、①、②の書きぶりについては御指摘を踏まえて修正するが、「ADRの将来性にも」の「も」をとることについては、「ADRの将来性に」とした場合、現在のADRには重要性がないのかといった誤解を与えてしまう可能性があると考える。また、2つ目の御意見については、損害賠償の請求については、責務規定であっても契約法上の問題として請求は可能なのではないか。

○ 責務規定とすれば、違反した時における責任追及の方法は、ケース・バイ・ケースに行うしかないこととなってしまう。一方、義務としてADR法に規定すれば、すべての違反事案について責任を追及することができる。前者と後者では、生じる法的効果も自ずから異なってくるのではないか。

● 責務規定としたからといって、そのような請求ができなくなってしまうわけではない。

○ 重要事項の説明については義務規定とすべきと考える。他方、利害関係情報の開示については、その開示の範囲を判断することが難しく、開示を義務づけることによって、折角、うまくいくはずの事案が、利害関係 人が介在しているというだけでうまくいかなくなったりする場合が多い。実務では、円滑にADRが進行しなくなってしまう可能性があるので、ADR法に規定しなくともよいのではないか。

○ どのようなケースにおいてADRが円滑に進行しなくなってしまうのかを具体的に御教示願いたい。

○ 大きな弁護士事務所に所属している人間がADRを取り仕切ることとなった場合、実質的にはその人とほとんど関わりがないような、同じ弁護士事務所のメンバーやその配偶者が顧問弁護士などであったとしても、利害関係人であるとされてしまう場合がある。

◎ 例えば、一方の株を100株だけ所有している場合など、利害関係者の範囲について、明確な線引きを行うのは難しい場合が多い。

○ P1の前文のスタンスの①と②について、①と②を「他方」で繋いでいるが、①の後段だけを読んで②を読めば、両者を「他方」で繋ぐことに意味があるのか。文章の整理の問題であるが、重要なスタンスの部分に関する問題なので意見させていただいた。

● ①と②は、それぞれ別個の事項について述べたものであり、御指摘のとおり「他方」については、落とすこととしたいと思う。

○ 利害関係情報の開示については、少なくとも、努力義務では規定する必要があると考える。

○ 日弁連も、責務規定としてであれば置いた方がよいとしているところである。

○ そもそも、ADRに責務や義務を課すという発想そのものが間違いなのではないか。利害関係者の問題についても、それを問題とはしない側面があるところにADRの魅力があるのではないか。

◎ 前文については、この考え方については確かに重要ではあるが、この文言がそのまま法律になるわけではない。立法を行う際に、我々はこのような考え方で議論の集約を行ってきたということを示すものである。

○ 最終報告書のイメージはどのようなものとなるのか。このような書きぶりでよいのか。

● 今後の具体的なスケジュールについてであるが、現段階では法制化に向けた検討を優先して行っているため、将来の検討課題とされたものや実務的な事項についてお示しすることは難しい。現在は、法案に向けた入口段階のようなものをお示ししているとの認識である。いずれは整理していきたいと考えている。

○ 前文について、一番のポイントは、規制には馴染まないADRを法制化によって規制することである。ADRの信頼性、適正性を確保することは当然の要請であり、パブリック・コメント実施以前の段階においては、それが事前確認制度を導入することによって行われることが議論の前提とされていたが、意見募集等を行った結果、事前確認制度に反対する声が多かったことなどもあり、現在は、事前確認制度の導入は行わないことが前提となっている。このような事情の変化にもかかわらず、事前確認制度に代わるADRの信頼性、適正性を確保するために採るべき方法については、ほとんど議論がなされてこなかったと思う。話に上ったADR士の創設や調停手続法のモデル規則についても将来の課題としかなっていない。もはや、事前確認制度の導入が前提ではなくなっているにもかかわらず、弁護士法第72条については緩和するという話が依然として残っている。このような形でしかまとめられないのであれば、この資料の前半部分(総則まで)でしかまとめられないのではないかと考える。

● パブリック・コメントの段階でも、適格性の確保方法の問題と適格性の要件自体の問題とはわけた形で意見募集を行った。また、信頼性の確保の問題については、例えば、時効については延長を1年間までとすることや、主宰について弁護士と共同又は助言を受けて行うこととするなど、相当な縛りをかけているものと認識している。

○ パブリック・コメントの記述の端々に「適格性の確保が前提としてあって、法的効果を付与する」といった考え方が垣間見えるが、事前確認制度を導入することを前提として、パブリック・コメントを行っていたものと考えている。

◎ ADRの適格性をどのように確保するのかについては、法的効果との関係によって異なってくるだろう。この検討会においても、法的効果の問題と適格性の確保の問題とは別々に議論してきたところである。ADRの信頼性や公正性を確保するために、どのようなことを行うべきなのかが重要であり、場合によっては法的義務でないこともあろう。また、あくまでもこの整理案はADRの拡充・活性化を図るための第一歩という位置づけであって、より厳しいものにすべきというのであれば、これから検討していけばよいと考える。

○ 前回の検討会でも申し上げたが、この検討会の議論は、法律事項の検討に傾斜しすぎたと考える。ADR全体についてもより幅広に検討すべきではなかったか。

◎ 考え方については理解できる。それでは、後半の「Ⅲ.民法等の特例」以降の部分について議論したい。

○ 多少お時間をいただくことになると思うが、時効中断効の付与について御意見申し上げる。時効中断効の付与の問題については、これまで断片的な議論は行ってきたが、必要十分な検討を行ったとは言い難いところがあると思う。
 まず最初に、催告タイプが私の意見を踏まえて作ったとされているが、どの部分が踏まえられているのかが理解できない。催告タイプが私の意見を踏まえているということを前提にすると議論の混乱を招く懸念があるので、そういうお考えを持っているのであれば、それは今後は白紙に戻していただきたい。
 持論を押し付けるつもりはないが、私が提案した案について、理解を得られぬまま、整合性がない旨のレッテルが貼られて消えてしまうことには納得できないため、そのような批判に対して具体的な意見を申し上げることとしたい。私は民法の専門家として民法との整合性を念頭に置いた発言を行っており、無責任なことを申し上げているつもりはない。また、以前、森田教授が検討会で意見を述べられたが、あの意見が民法学者を代弁する意見ではない。
 民法との整合性に関して言えば、事前確認制度の導入の概念や催告タイプについても、全く整合性がないと考える。このような概念は、民法の時効制度のどこを探しても存在しない。
 例を挙げれば、事前確認制度の概念が、民法における時効制度のどこにも存在しないことについては、条文を御覧いただければ御理解いただけると考える。
 市民のための法律である民法にはそもそも、行政機関が事前確認を行い、認めたもののみに法的効果を付与し、それ以外には法的効果を与えないといった発想は原則として存在しない。
 また、催告タイプは確定日付を要求しているが、時効制度の中で確定日付を要求するものはない。催告についても承認についても、日付が問題となるが、いずれも意思表示によることとされており、あとは証明に委ねられているところである。
 しかしながら、事前確認制度や催告タイプが民法と整合しないことを強調しても、私の案も整合性がないと言われているのであるから、そのことについて回答したい。
 私の案が整合性がないとされる理由として、これまで、時効制度の公益性の問題と、時効利益はあらかじめ放棄することはできないという指摘があったものと理解している。
 確かに、民法146条は「時効の利益は予め之を放棄することを得ず」とされており、川島武宣教授が提唱する学説においては、時効完成前の放棄について「わが国の学者は永続している事実状態を保護するという時効制度の目的が公益に関するものと説明するが、この考え方を敷衍すれば、時効完成後の時効抗弁権の放棄も公益に反すると言わざるを得ない。」と書いており、私はこの考え方に与するものである。むしろ、窮迫した地位に置かれた者が、あらかじめ時効抗弁権の放棄を強要されることにかんがみ、民法90条の公序良俗違反の規定と同じ考え方に基づく政策的考慮によって説明するほかはないと考える。また、川島教授は公益という概念に拘束されると間違えるとも言っている。
 それでは、川島教授の指摘が実際上あり得るのかについて検証すれば、例えば、自動車損害賠償保障法第19条の規定によれば、自動車事故に遭った被害者は自賠責で保障されることとされているが、これは2年の消滅時効に係らしめられるものである。しかしながら、保険会社との交渉が長引けば、2年間などはすぐに経過してしまうため、何らかの措置を講じなければ、被害者が救済されないという不都合が生じることとなる。そこで実務においては、時効近くになると被害者が時効中断申請書を保険会社に提出し、保険会社はこれを認めて承認書を渡し、さらに2年の延長を行うこととしているところである。
 ここでは「承認」という時効中断が行われているわけであり、あらかじめ時効利益を放棄するものではないとの扱いがなされているということである。結果は同じであるが、この方法によらない限り被害者は救済されない。「公益」に拘束されて、不都合が生じないように実務では合理的な解決方法がとられている。したがって、相手方が調停を通して茶飲み話を行うことは、時効利益をあらかじめ放棄するわけではなく、自分が出頭する以上は時効中断を行っても構わないということとなるため、民法146条に違反することにも、整合性がないことにもならないと考える。
 窮迫した地位に置かれた者が、あらかじめ時効利益を放棄することを強要されることが調停や仲裁で起こり得るか否かが問題となりうるが、仲裁については仲裁合意があるから問題にする必要はなく、調停については合意の成立が要件となるため、出頭しなければそれで足りるであろう。
 私の案では、一定の期間出頭しなければ時効中断の効果がなくなるため、そのような問題は生じないと考える。
 強要されて調停に出頭する場合が残された問題点となりうるが、そのようなケースは現実的には想定できない。調停の席に強制的に呼び出す程度の強要を行うことが可能なのであれば、わざわざ調停の席に呼び出すことなどしない。また、調停機関と共謀して呼び出すようなことをすれば強要罪となるため、このような場合も民事上無効となるため問題にはなり得ないし、そのようなADRが行われた旨を私は聞いたことがない。
 茶飲み話の問題については、何らかの解決の糸口を探すために出頭するわけであり、茶飲み話を継続するだけのために相手方が出頭することはない。したがって、そのような状態が継続する限りにおいては時効が中断しても差し支えないであろう。仮に、そのような状態が続いた場合においては、「和解が調わない」として打ち切ればよい。私の案では和解が調わない場合においては、1カ月以内に訴えを提起しなければ時効中断の効力がなくなるわけであるから問題はないと考える。紛争解決を試みる旨の書面による合意などを要件とすることは、当事者感覚から外れていると考える。
 前々回の検討会で、事前確認を受ければ時効中断効が付与され、事前確認を受けなければそれが付与されないという選択の問題に過ぎないとの意見があったが、これは、言うことを聞く子には飴を与え、言うことを聞かない子には飴を与えないことと同じであり、自由意思を尊重する民法の基本精神に反するものである。これは自主性、独立性を重んじ、合意と私的自治を尊重するADRの精神と正反対の方法である。
 また、主務大臣や公務員は守秘義務が課せられているためADRの非公開性は保持されるとの意見があったが、そもそも、ADRの利用当事者は他人の目に触れること自体を嫌がっているのだから、説得的な意見になるものではないと考える。
 さらに、これまで断続的に発言がありながら取り上げられていないものに時効中断効の適用範囲の問題があり、事務局案においては、特例的事項については行政型ADRを外すという方向で進められているが反対である。また、行政型ADRと同様、司法型ADRも外す方向で進められているが、私は民事・家事調停などの司法型ADRをもカバーする案を提案しているものと考える。
 さらに仲裁や行政型・司法型ADRを除くこととしているが、これは、時効中断制度をバラバラにするという意味合いにおいて不適切な措置であり、また、今般、ADR基本法を策定するわけであるから、一般的な通則として規定すべきと考える。私の案であれば、これらの問題をクリアすることも可能である。
 以下、問題点についても意見申し上げる。
 第一に、「行政型ADRを対象外とする」とのことであるが、事前確認制度を導入しなければ、行政型ADRもADR法における時効中断効付与の対象に含めることが可能なのではないか。行政型ADRを対象外とするのは、行政型ADRを設ける官庁のほかに、事前確認をする官庁ができるため、行政型ADRは同時に2の監督官庁に服することとなり、行政組織上の大問題になるからではないか。
 それでは、行政型ADRには時効中断効が付与されないのかと問われればそうではなく、個別法に規定すればいいこととなる。しかしながら、例えば、私は中央工事建設紛争審査会の委員の職にあるが、建設業法等個別法について、時効中断効の付与のみを内容とする改正案を五月雨式に国会に提出するのは困難であると考えている。将来、他の改正事項が生じた場合に合わせて改正が行われるまでの間は、時効中断効は付与されないこととなり、民間型ADRとのバランスを失することにもなりかねない。事前確認制度を導入しなければ、行政型ADRと民間型ADRも一緒に規定することができるのだから、個別法に規定する必要もなく、行政型ADRを抱える官庁も苦労をせずに済むこととなる。現に、仲裁については、仲裁法1本で行政型も民間型もカバーしている。
 また、行政型ADRの中には地方自治体が設置・運営するものもあり、例えば、都道府県における苦情処理委員会は、一体どこに時効中断効を書き込めばよいのかわからず、時効中断効が付与されない可能性すらあるのではないか。例えば、地方自治体が設置する行政型ADRである東京都建築紛争調停委員会で言えば、この行政型ADRの根拠規定は、「東京都中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例」に書かれているところであるが、条例に時効中断効付与の規定を措置することは難しいと考える。
 以上の理由からも「個別法に規定する」との考え方は破綻するわけであるが、その原因は事前確認制度を導入しようとすることにより生じると考える。
 第二に、司法型ADRを外すことに関する問題について申し上げたい。御承知のとおり、裁判所における調停については民法上に規定がなく、「民法第151条の類推適用により、調停申立て時に時効中断の効力が生ずる」とした平成5年の最高裁判決が根拠となっているに過ぎない。もし、今回、司法型ADRを除くとなれば、判例はあるが法律はないという状態が続くことを意味するものである。また、判例は変更があり得るものであり、一般人の目にも触れにくいものである。
 このような状況下において、どうして、行政型・司法型ADRをADR基本法一本で規定しないのかが理解できない。私の案は平成5年の最高裁判決との整合性を保つために、民法第151条型を採用しているところである。司法型・行政型ADRを外すとするのは、民間型ADRをそれらの下位に置こうとしているからではないか。
 個々の事件を担当する仲裁人・調停人のレベルは、民間型も司法型や行政型と同程度であり実質的な中身は変わらないのに、これを下位に置くという考え方はいかがなものか。「裁判と並ぶ魅力的な選択肢」にしようとするのであれば、裁判と並ぶ制度を創設することが先決である。
 第三に、仲裁を外すということについて意見を申し上げたい。仲裁法は、仲裁手続における請求が放置された場合においても、時効が中断されたままとなることが問題と考えているが、私の案では、第一号から第三号に要件を設け、手当てを行っているところである。すなわち、第一号は相手方の出頭を要さずに仲裁判断を行う場合を除いて、申し立て後6ヶ月以内に相手方が出頭しないことを要件としたものである。6ヶ月は例示であり伸縮することも可能である。第二号は期日を開かずに仲裁判断を行う場合を除き、6ヶ月間連続して期日が開かれないこと、第三号はこの2つに該当する場合には申立てから6ヶ月以内に仲裁判断がなされないことを要件としたものであり、これらの要件に該当すれば、その事由が生じた時から1ヶ月以内に訴えを提起しなければ、時効中断の効力が生じないという案である。
 仲裁法のもう一つの問題点は、仲裁合意の取消し、無効、不存在によって、請求却下又は棄却という仲裁判断がなされた場合、その間に時効が完成してしまうケースがあるが、そのような状況をカバーする手当てがなされていないことである。
 私がこのことを指摘した後に開催された仲裁法の国会審議では、催告は日々行われているとの解釈により、終了後6ヶ月以内に改めて時効中断の措置を採れば時効中断効が維持されるという答弁を行っており、これがいわゆる「催告継続説」であるが、 この説は平成5年の最高裁判例に反するものである。この判例は、まさに催告継続説を排斥し、民法151条を類推適用したものであるから、国会審議の内容は最高裁判例とは矛盾しているということである。訴訟で争われた場合、裁判所は最高裁判例を尊重しなければならないから、国会で催告継続説という解釈をとっても、大きな意味合いは生じないこととなる。ADR法においては、仲裁法において発生するこのような曖昧さを残さない方がよいと考える。
 私は、合意の取消し・無効・不存在による場合における手当てとして、第四号に「仲裁合意の取消し、または無効、若しくは存在しない旨の仲裁判断がなされたとき」との要件を置いたものである。仲裁手続が仲裁判断によらずに終了したときは、時効中断の効力は直ちになくなってしまうという問題に対する手当てとして、1ヶ月以内に訴えを提起すればよいということにしている。
 以上が仲裁を含め、時効中断効をADR基本法に定めるべきという私の考え方の根拠である。
 なお、私の案は仲裁法に書いていない事項を定めるものであり、仲裁法に抵触することもない上に、ADR基本法はADR全般に及ぶものであり、仲裁もADRの範疇に入ると考えるのが普通であるから、ADR基本法に仲裁が入ることについては差し支えないものと考えている。
 さらに、紛争当事者にとっては、第三者を通じて相手方に請求をし、紛争解決しようとしていることについては調停も仲裁も同じであり、仲裁合意があっても調停を申 し立てる場合がある。また、仲裁と調停とは相互に移行することもある。にもかかわらず、仲裁については請求のみで時効が中断し、調停は要件が厳格で効果が少ないとすれば、例えば、建設工事紛争審査会について考えると、調停は建設業法、仲裁は仲裁法に書かれ、要件も効果も相当違うという事態が生じることとなり、このような齟齬を巡って争いが起こる可能性もある。以上は、仲裁を別立てにすることによって生じる問題である。
 時効中断効には行政型・司法型ADRも含めるべきであって、それが最も自然なのではないか。私の案はそれらのことも考慮したものとなっている。

 さらに、催告タイプの「通常の催告を一定期間の限度で延長する」という考え方にも 以下の理由により反対する。民法規定は、権利者自らが相手方に直接請求する催告と、 第三者を間に入れて権利行使を行うものとの間に線引きがなされているが、催告により一定期間の限度で延長するとの考え方は、この一線の間に新たな制度を割り込ませようとするものであり、民法との整合性を欠くと考えるからである。
 また、延長の期間についてであるが、仮に、6ヶ月を1年間へと延長したとしても、 落ち着いてADRに臨めないという意味においては、ほとんど変わりはないと考える。 当事者の資産状況の回復を待ったり、冷却期間を置く必要がある事案も多く存在する。 催告延長というやり方は中途半端である。
 さらに、既にあっせん、調停に時効中断が認められている法律が存在するとの問題があり、例えば、個別労働関係紛争処理法第16条はあっせんに時効中断効を認めているが、今回、ADR法において催告の延長を認めることとした場合、その効力は個別労働関係紛争処理法よりも弱いものとなってしまう。
 今後、ADR制度の根幹を支えるであろうADR法が中途半端なものであってはならない。ADR法は、仲裁法の問題点を包み込んだ上で堂々と船出させたい。

 なお、私の案について予想される反論に対してあらかじめコメントしておきたい。 まず、裁判所に負担がかかるのではないかということについては、申立て時と終了時について裁判所がチェックを行うこととなっているが、これらのタイミングにおける裁判所のチェックは、どのような制度を採用しても必要であるから問題ないと考える。事前確認制度を導入しても同じことであり、むしろ、事前確認があったか否かに係る主張や立証などが加わることとなるため、裁判所の負担はかえって増大するものと考える。ましてや、催告タイプなどは要件が争われた場合、裁判所の負担は一層増大することとなろう。
 また、私の案は申立てをもって時効中断の効果が生ずることとされており、送達を要件としていないが、これは、送達を要件とするとADR機関の負担が大きくなると考えたからである。裁判所における調停も普通郵便を用いており、送達に重きを置いていない。
 さらに、私の案は弱い要件に時効中断効という強い法的効力を付与するものと考える方がいるかもしれないが、本案は時効期間が経過することにより時効中断がなくなる1ヶ月以内に訴えを提起しなければ失効するとしており、弱い要件ではないと考える。
 なお、「秘密の保護も大切であるが、秘密を守りつつ公開することも大切である」という意見について申し上げたい。私も基本的にはこの意見に賛成である。公開できるものは公開しなければならない。公開を行わないこととすれば、世間からの批判に晒されることがなくなり独善に陥る可能性がある。ただし、情報公開の原則と秘密の保持とは、互いにジレンマの関係にあることも確かである。重要なことは、どうしても秘密を守ってほしいという人に対しては、ADRは絶対に秘密を守らなければならないということである。
 ADR基本法を策定することは、私的自治に基づいた紛争解決システムを作ることを意味するが、他方、ADR法が規制緩和、自己責任の原則に逆らった場合、そのシステムが破綻することも意味する。事前確認制度は、この流れに逆らって新たな規制 を作ろうするということであり、実態を考えてみれば大した効果はないのではないか。 私の案は以上の事項を意識して出したものであるが、これを押し付けるつもりは私にはない。色々と手直しを行う必要はあると思う。しかしながら、ここで長い時間をいただいて説明させてもらったのは、私の意見を理解してもらった上で時効中断効の問題を御議論いただきたいと考えたからである。

● 事務局が今回、どうしてこの案を採用しなかったのかについて申し上げたい。一番の問題点は、申し立てのみで時効中断効を付与するとしている点と、事前確認制度を導入することなく期間に限定のない時効中断効を付与している点にある。催告タイプについては、合意によって時効中断効を付与することとしている。
 また、確かにパブコメの段階では、特例的事項の対象から行政型ADRは除外されていたが、今回提示した案においては、司法型ADRは除いているが、行政型ADRは含むこととしていている。ただし、行政型ADRの制度の仕組み方は民間型ADRとは異なる側面があり、そのことによって生じる問題も色々とある。また、催告タイプによっても、実際上は書面による合意を要件とすることが難しく、何をもって合意をするのか判断が難しいところもある。

○ 事務局からではなく、検討会で議論してきた委員からの意見をうかがいたい。

○ 1、2点だけ申し上げたい。私が提示した催告タイプの案は、確定日付、合意の書面性を要件としているが、このことは要件として本質的なものではなく、むしろ、私はこのような事項を要件としない方が望ましいのではないかとすら考えている。催告タイプを採れば、当事者と調停人の意思がなければ調停を開始したことにはならない、つまり、単なる申し立てのみによっては時効は中断しないことがポイントである。司法型ADRは、純粋な意味でのADRではないと考えているので、比較することに意味はないと考える。

○ 廣田委員案は、すべてのADRに時効中断効を付与してもよいという発想が前提となっており、その考え方が私とは異なるところである。単なる申し立てのみで時効中断効を与えれば、相対交渉にも時効中断効を与えてもよいではないかといったことになりかねない。事前確認制度の付与はADRに多様性を与えるものであり賛成だという意見に対して、廣田委員は、飴の例を持ち出していたが、それは適当な喩えではないと考える。

○ その調停に応じる意思があるか否かが大きな本質的な問題なのであり、私は、出頭することに意味があると考えるものである。出頭すれば、調停を行う意思があるとみなしてよいではないか。すべてのADRに時効中断効を付与してよいとの考え方を前提としているとの指摘については、そのとおりである。仲裁についてはすべての事案について時効中断効を付与しているのだから、調停に与えない理由はないし、実務においては、ひとつの事案が仲裁から調停、調停から仲裁へと行き来することもある。調停には時効中断効を付与しない場合があるというのでは、実務が混乱する。

○ 書面性の要件についてはこだわるつもりはないし、外せばよいと考える。催告タイプと廣田委員の案とは本質的な違いはないものと考えている。

○ 効力に違いがある。

○ 期間を制限するかどうかについては議論の余地があると考えるが、私は一定の制限は必要なのではないかと考える。

○ 第三者に資格要件を課すべきではないのか。第三者が誰でも構わないにもかかわらず、当事者同士で行う相対交渉であれば時効中断効は発生せず、第三者が介在した途端、時効中断効が発生するとの仕組みをとることはできないのではないか。

○ 今の意見に賛成である。第三者に資格要件を課すことが必要と考えるし、裁判所の民事調停が申し立てのみで時効中断効を付与していると言われるが、やはり、民間の機関が行うADRと裁判所が行う民事調停とを全く同じであるとみなすことには無理があるのではないか。

○ 無限定に期間の延長を認めることには少し慎重な考えである。特別の催告とみるための「一定の要件」の内容を明確にしていく作業を行っていくことで、先が見えてくるのだろうか。

○ 無限定に期間の延長を行うのではなく、6ヶ月を1年間へと延長させる程度であれば妥当であることは、感覚的には理解できるのであるが、民法の催告制度の延長線上で説明できなければ説得力がないと考える。

○ 調停と仲裁とを切り離して考えても問題は生じないと考えているようだが、仲裁と違う制度を採って、本当にADRは機能すると考えているのか。

○ 確かに、調停から仲裁、仲裁から調停に移行するケースがあり得ることは認めるが、どちらか一方の当事者が納得していればそれで足りるわけではなく、両当事者が等しく納得することが要件となるのだから、調停と仲裁とを切り離して考えることができないとは、必ずしも考えていない。また、仲裁は裁判所に持っていけないので、仲裁で時効中断効を付与しない限りは、他の局面で認められないこととなってしまうが、調停であれば裁判所に持っていける。

○ しかし、実務においては、すべての利用当事者がこのような事情を知っているわけではない。

○ 調停と仲裁で時効中断効の付与の要件が異なるからといって、そのことが実務上の混乱を招き、争いが生じるという考え方は理解できない。

○ 同一の第三者機関が同一の事案で、調停と仲裁を行うような場合、混乱を招く可能性がある。

○ ADR利用者の立場に立てば、ADRの信頼性を確保するため、事前確認制度を導入してほしいと考えている。ADRには、紛争当事者の間に第三者が入ることにより解決を図っていくところに特色があると考えるので、第三者に信頼性がなければならず、そのための資格要件は必要と考える。また、前から申し上げているが、事前確認制度、時効中断効の付与、執行力の付与など、利用者が安心できるADRをアピールするための肩書きはやはり必要なのではないかと思う。

○ 成熟したものと未成熟のものが混在している民間型ADRにおいては、やはり何らかのお墨付きのようなものが必要なのではないか。

○ 事前確認制度の導入を前提とはしない催告タイプに賛成する。事前確認制度がないので、一般国民の目から見ても賛同しやすい案なのではないか。一定期間の時効の延長も、時効中断効の付与が問題となるケースは時効間際であることが多い実態を前提とするのであれば、一定の効果が期待できるのではないか。

◎ 時効中断効付与の問題は、次回にまた議論することとして、他の論点について御意見があればよろしくお願いしたい。

○ P3の「3.調停前置主義の不適用」についてであるが、調停前置主義は適用されることが前提であることから「不適用」という言葉は適当ではないので訂正願いたい。

○ 言葉の問題に関連して、P2の「立法目的」に「各種特例措置を講ずる。」とあるが、特例措置に「各種」と言えるだけの内容があるとは考えられないので、「各種措置を講ずる。」くらいが適当なのではないか。

○ 事前確認制度の導入を前提とする場合とそうでない場合とでは、法律の作り方が変わってくるはずである。事前確認制度を導入しないのであれば、ディスクロージャーや調停手続法などの何らかのセーフティネットが別途必要になるのではないか。セーフティネットが存在しないような状態で、これまでと同じような弁護士の関与を要求されても、それでは弁護士に対する責任が重くなりすぎると思う。

○ 検討会の議論では、法的効果の付与の問題に時間をかけすぎてしまったが、もっと、セーフティネットやディスクロージャーなどのADRの健全性を確保するための方法について議論すべきではなかったか。繰り返しになるが、情報の開示について、少なくとも責務規定としての具体化を図っていただきたい。また、弁護士の仕事は大変規律のあるものと理解しているが、ADRで取り扱う紛争の中には必ずしも、法律を使うものばかりではないのだから、弁護士がすべての事案に関与する必要はないと考える。

○ 弁護士との共同要件は非常に重い要件である。これは運用の問題かもしれないが、「必要に応じて」くらいに考えてもらえればと思う。また、代理についてもADR法に規定した方がよい。資料について言えば、少なくとも「個別法に措置」についての中身を明確にイメージできるようにしていただきたい。いずれにしても、この案が審議会意見からかなりトーンダウンしたものであることは確かだと思う。

○ 弁護士法72条の特例については、最初から広げるだけ広げて、淘汰を待つといった考え方を採るのはいかがなものかと思う。最初は、高いところからスタートし、現在は、過渡的な措置であると割り切って、「共同」という限定的なところからスタートしてもよいのではないか。

○ 弁護士法72条の特例について、仲裁に関する留保がなく法制化されるとするならば、今、仲裁においては資格要件は存在しないため、かえって、現在よりも規制が進むことになる。仲裁については、諸外国でも国内法で制限を課している例は殆どなく、マーチン・ハンターという仲裁法の権威が書いた書物の中でも、オフェンダーは日本とシンガポールのみであるとされている。うち、シンガポールは、UNCITRAL第4条の精神に近づきつつあるとされているので、残るのは、唯一日本だけということになる。外国企業は、日本で仲裁を行いたがらない。理由は、日本では弁護士が業務を独占しているからである。これは、国際的にも大変なマイナスであり、日本は極めて規制が強い国であると思われてしまう。資料では、国際慣行のくだりについて(注)書きで記載しているが、本文にキチンと書き込んでいただきたい。

○ 議論を先に進めるためには、まずは、事前確認制度を導入するという考え方を、そろそろ潔く捨て去るべきだと思う。事前確認制度はADRには馴染まないものであるし、この検討会でも事前確認制度を支持する委員は少数派である。これからの議論は、事前確認制度を採用しないという前提で進めてほしい。
 また、催告タイプを条文化して、私の案と、どこが同じであり、どこが異なるのかを検討したいので、催告タイプの条文化もお願いしたい。

◎ 事前確認制度については、現在の段階でも、11名のうち数名の委員はこれを支持しており、現段階では
 その意向を尊重したい。この段階で絞るのではなく、案として残すことを認めていただきたい。

○ 1)主宰の②の「一定の要件」について、このような書きぶりではどのようにでも解釈することが可能となってしまい、議論のしようがない。内容を具体的に提示していただきたい。

○ 次回の検討会においては、両論併記でも構わないが、それぞれの案に主従を付けていただきたい。また「一定の要件」については、具体的に内容を定めることが難しく、イメージが浮かんでこないのも理解できるので、ここのところは事務局に任せてかまわないのではないか。

○ 「一定の要件」について具体的にイメージを提示するとすれば、事務局はどのようなものを考えているのか。

● 現段階で案を出すとすれば、前回の検討会に出したもの程度しか用意できない。それぞれの案に主従を付けることについては、基本的なスタンスの問題になるので、それぞれの委員の方々からニュアンスをお伺いした上で判断したい。

○ 前回と同じということになれば、確定日付と書面性を要求しているはずであるが、それでは賛成しかねる。少なくともこれらの要件については、ここまでの議論によって変わっているはずである。案を提示するのであれば、次回は前回とは違うものを出してもらなければ困る。

◎ これを、わずか一週間の期間で事務局に準備させるのも物理的に難しいところがあると思う。主従をつけることとしてはどうか。催告タイプを主、個別労働紛争処理タイプを従とすることではどうか。

○ 現在と同じ要件を前提としたままで主従を付けることには反対する。書面性の要件は不要であるから外して提示すべきであるし、また、第三者要件に制限を付けないことに対して理論的な説明もついていないではないか。

○ 書面性の要件については、本質的な問題ではないので拘らないが、それに代わるような適当な要件があればよいのだが。今は思いつかないので、各委員から事務局に対して、意見を寄せる機会を設けてはいかがか。色々と考えてみて、適当な要件が見つからなければダメということである。

◎ 本日の議論の結果、時効中断効の付与の問題と弁護士法第72条の特例の問題が大きな論点として残った。次回の検討会でどの程度まで集約することができるのかわからないが、次回は委員間で意見が対立しているこれらの論点について事務局から案を提出していただくこととしたい。また、催告タイプの要件について良いアイデアがあれば、考え方を事務局までお寄せいただきたい。

 次回、第27回ADR検討会は、12月8日(月)13:30から開催されることとなった。
 (その後、本日の検討会の議論を踏まえれば、次回の議論をより充実したものとするためには、次回の日程 まで間隔を空けた方がよいとの判断に至り、12月8日に開催予定であった第27回検討会は、12月26日 10:00からに延期されることとなった。)

以上