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ADR検討会(第27回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり



1 日 時
平成15年12月26日(金) 10:00~12:08

2 場 所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)青山善充(座長)、安藤敬一、佐成実、髙木佳子、龍井葉二、原早苗、平山善吉、廣田尚久、三木浩一、山本和彦、綿引万里子(敬称略)
(事務局)松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林徹参事官、山上淳一企画官

4 議 題
裁判外紛争解決手続(ADR)に関する基本的な法制について

5 配布資料
資料27-1 時効中断効の付与に係る制度案(骨子)の比較
資料27-2 ADRの利用者の選択と評価に資するための情報開示義務(イメージ)
廣田委員提出資料

6 議 事

 これまでの議論で依然として意見に開きのある時効中断効と弁護士法72条の問題について、事務局から配付資料の説明がなされた後、順次、議論が行われた。
 主なものは以下のとおりである(◎:座長、○:委員、●:事務局)。

(1) 時効中断効の付与に係る制度案

 時効中断効を付与する制度案として、資料27-1のとおり、従前提示されていた事前確認方式の下での個別労働紛争解決促進法タイプ(A案)、事前確認方式によらない特別催告タイプ(B案)のほか、事務局から、事前確認方式をとらず、かつ、実務にも配慮するとした場合に考えられる制度案として、B'案が提示され、これら3案をベースに議論が行われた。

○ B案については、要件であるADR合意等に書面性を求めているために、実務的な観点からみて機能する場面が極めて限定されると考えられること、民法の特例を設けるためには、主宰者が実効的な紛争解決能力を有することが求められるべきであるにもかかわらず、何ら主宰者につき限定が付されていないことの2点で反対である。B'案でも、弁護士が主宰者の中にいるからADRの適格性が十分確保されるのかという疑問は引き続き有しており、やはり、ADRの多様性を確保しうるA案が望ましいという立場に変わりはないが、A案が採用できない場合には、B'案でも十分支持はできる。

○ B'案には、催告がいつの時点でなされたかを主宰者が確認しなければならない等の実務上の不便があったり、主宰者の中に弁護士がいれば、それでADRの適格性が確保されたといえるのかという疑問があったりするので、制度の簡素性という観点からみても、やはり、A案が望ましい。

○ B'案では、ADR合意等に書面性を求めない点で評価できるが、弁護士が主宰者であることはADRの適格性を確保する上での必要条件でも十分条件でもないと考えられ、主宰者の中に弁護士がいることを要件とする点は、再考すべきではないか。ADRと呼べるものが実際に行われていれば、要件としてはそれで十分ではないか。

○ 当事者間の和解交渉では、いかに真摯な交渉が行われても催告以上の効果は付与されないことにかんがみると、時効中断の特例において主宰者に関する要件は必須ではないか。

○ 主宰者に一定の適格性が求められることは当然であろうが、B'案のように、弁護士が主宰者の中にいることをもって適格性があるとすることには違和感がある。弁護士法72条の関連で新たに提案されている情報開示義務を活用して、業務方法規程を定めているADRであることを条件とすることは考えられないか。そうすれば、一定程度の適格性は有しているものとの推認が働くし、規程に則った手続が実施されなければ、事実上、他の要件の立証も困難になることにかんがみれば、裁判所の立場からも、円滑な制度運用に資することとなる。

○ 提示されている情報開示義務では、実際に業務方法規程に則った手続が実施されているかどうかまでは確認が働かないという前提に立っており、たとえ業務方法規程を定めているADRであることを条件としても、裁判所は、結局、個々の手続ごとに運営実態を確認しなければならなくなるのではないか。そうだとすれば、事前確認方式をとる方がまだよいのではないか。

○ 他の意見と同様、B'案において、弁護士が主宰者の中にいることを条件とする点には疑問がある。また、合意の書面性については、少なくとも、消費者が一方当事者である場合を想定すれば、弱者保護という観点から必要なものと考える。

○ B案にせよB'案にせよ、時効中断効の期間がADR手続上の請求又は催告から1年間に限定されてしまうと、実務ではワークしにくくなるのではないか。

○ ADRの拡充・活性化の基本理念との関係で、いずれの案がふさわしいか検討されるべきではないか。弁護士法72条によって、たとえ暴力団員を排除したとしても、やはり示談屋が紛争に介入してくるという懸念は払拭されるものでなく、手続面だけをみて適格性を確保しようとすることは無理がある。A案では、それが公的機関によって事前に確認されるということになるのだろうが、事前確認方式をとらないとすれば、時効中断効の付与を法制に盛り込むのは難しいのではないか。

○ B'案において、主宰者を限定しなければ法制的に調整できないというのであれば、時効中断効の付与を法制に盛り込むことを優先し、何らかの資格者要件を付与することとなってもやむを得ないと考える。

○ B案又はB'案において、時効中断効の期間を1年間に限定したり、主宰者の資格を限定したりすることは、疑問である。

○ ADRの拡充・活性化に資するという観点から、A案がよいと考える。なお、最近の議論は、法技術面に流れすぎているのではないか。議論は十分に蓄積されており、両極端な意見は排した上で、決断してもよいのではないか。

(2) 情報開示義務

 ADR提供者の義務について、資料27-2のとおり、事務局から、弁護士法72条の適用除外のために事前確認方式をとらず、かつ、ADRの公正・適確性の確保にも配慮するとした場合に考えられる制度的担保としてのADR提供者に係る情報開示義務(義務違反には罰則)を設定する案が提示され、議論が行われた。

○ 情報開示義務を遵守していることは、弁護士法72条の適用除外の要件と位置付けるのか。

● 基本的には、それぞれ独立のものであって、情報開示義務違反があったことをもって、直ちに弁護士法72条の適用除外要件を欠くこととなるように制度設計しようとするものではない。

○ 提示された案は、義務規定に従って作成・公表された業務方法規程が実態と合致していなくとも、基本的には、罰則の対象とはならないという前提に立っているが、現に業界型ADRの中には言行不一致のADRがあり、それを消費者団体として問題視してきたという経緯にかんがみると、果たしてそれで十分といえるのか疑問がある。また、公表について、その方法の設定次第で選択・評価の実効性を大きく左右するし、対象となるADR提供者についても、有償性の設定次第で業界型ADRが含まれなくなることもあるので、慎重な検討が望まれる。

○ ADRの実施方法について規制を設け、それに罰則を科したとしても、何ら実効性はないものと考えられる。制度として意味がないのではないか。

○ 情報開示義務それ自体は、ある意味では、当然のことを求めているに過ぎず、義務を設けることは相当であろうし、そのような義務を設ける以上、罰則をもって担保することも仕方ない。ただ、適当な例えではないかもしれないが、公正・適確にADRを実施していれば、法的な効果といった特例を享受させるという意味での「アメとムチ」のバランスという観点からは、現在想定されている「アメ」の程度からすると、「ムチ」がやや過大ではないかという印象を持つ。

○ 提示された情報開示義務は、きちんと手続を実施しているADRにとっては規制強化となり、他方で、そうではないADRにとっては抑止効果が不十分であると考えられるので、制度として導入しない方がよいのではないか。

○ そもそも、これまでに議論されてきた弁護士法72条の規制緩和ですら、諸外国の関係者の中には、むしろ日本は規制強化を図っているのではないかと受けとめる傾向が強い。弁護士法72条をADR主宰に適用することの適否すら十分議論しないまま、このような情報開示義務まで持ち出すというのはいかがなものか。

○ 提示された情報開示義務については、いわゆるマル適マーク制度を導入しようとする場合には、その制度にどう吸収させていくかという観点から検討すべきと思うが、そのような場面以外で導入するのは避けるべきではないか。

○ 行政機関の監督によってではなく、市場の選択を通じてADRの適格性を確保していくというスタンスをとるのであれば、提示された情報開示義務は、最低限のルールとして、当然に設定されるべきであろう。ただし、罰則の構成要件の明確性を確保する観点から、更なる検討が必要ではないか。

(3) 意見の整理

 以上の議論が行われた後、今回の議論、さらにこれまでの議論を振り返って、ADR検討会としての意見集約に関し、座長から次のような発言があった。

◎ 本日の議論で、時効中断効、弁護士法72条のいずれについても、一定程度議論が整理されてきたという感もあるが、まだ、法制的な面をはじめとして、関係方面との調整が必要になってくる問題も残されている。また、ここ数回の議論における事前確認制度の採用を巡る意見の開きをみると、どのような手段でADRの拡充・活性化を図っていくのかという基本的な点で、検討会の中のみならず、意見募集の結果をみても、考え方に少なからぬ差異があるのではないかという感も残っている。
 したがって、現時点では、本日までの議論で検討会としての意見を整理してしまうことはせず、今しばらく、関係方面との調整と並行しながら、なおも残っている基本的な部分での考え方の差異についても、これを少しでも埋める努力を続けるべきではないかと思う。
 事務局からは、1月上・中旬の開催スケジュールの調整はなかなか困難とは聞いているが、再度調整を試みてもらい、1月半ばまでにもう一度検討会を開催してはどうか。

 上記の提案を委員に諮った結果、次回の日程については、事務局において、関係方面との検討の進捗状況も踏まえながら、日程調整を図った上で、追って設定することとなった。

(以上)