経済団体連合会、全国消費者団体連絡会、日本労働組合総連合会よりヒアリングを行った。
各説明者より、次のような発言があった。
・ 経済界の立場としては、簡易・迅速、廉価に、消費者契約法やPL法に関連するようなB2Cの紛争(消費者との対応)や知的財産権やITのような専門性の高いB2Bの紛争を解決する手段としてのADRに期待があり、その充実には賛成の立場である。また、私的自治を重視する観点から、市民コートのような新しいタイプのADRにも目を向けて議論して欲しい。
なお、ADRについて検討する上では、(1)ISOなどの国際的動向にも十分注意を払い、すぐに手直しが必要となるような事態を避ける必要があること、(2)B2Bの紛争は今後増加することが予想され、合理的な解決方法の提供が望まれること、(3)業界型ADRなどB2Cの紛争解決機関については、中立性を追及するあまり当事者の納得が得られないという結果が生じるおそれや、アウトサイダーへの対応による過重なコスト、裁判との連携等のため手続を厳格にするとかえって解決が進まなくなるおそれがあることなどについて留意する必要がある。
・ 消費者の立場としては、消費者問題を解決する選択肢としてのADRに期待がある一方で、現在のADRや司法に対しては、例えば、業界型ADRにつき手続が可視的でない、有償で紛争解決に携われる者が法曹に限定されている等の点で不満を有している。消費者の立場からは、(1)ADRは、当事者が合意し、納得する解決が得られるものであることが重要で、(2)当事者が主宰者や解決方法を選択できるよう、情報開示等が行われる必要があり、また、(3)主宰者は、法的知識以外に、コミュニケーション能力を習得する必要があると考える。
なお、ADRに関する手続が機関によってまちまちである状況のまま、執行力等の法的効果を付与することは時期尚早であり、まずADRの定義付けをはっきりする必要があると考える。
・ 労働者の立場としては、基本的には、行政型ADRの充実が必要であると考える。一方で、現状をみると、労働委員会は紛争解決の迅速性が失われつつある。また、一方当事者が労働委員会での解決に消極的である場合は解決の場としては無力である。そのため、労働委員会の権限を強化するなどして、ADRとしての実効性を確保することが重要である。また、労働組合で交渉に携わってきた者の委員への登用や、事務局体制の専門化等についても検討されるべきである。
委員と説明者(説明者である委員を含む)との間で、次のような質疑応答がなされた(○:委員、●:説明者)
○ 経済界の立場からADRが「廉価」であるというのは、どのような状態を念頭に置いているのか。
○ 業界にとっては、ADRの運営にはコストがかかると思われるが、総体として業界が負担するコストについてはどう考えているか。
● 一般に、弁護士費用がかからないことをもって「廉価」であると言っている。
○ 中小企業の場合、PLセンターでの解決事例は次の製品を作るための重要な資料となるため、紛争解決にコストがかかっても「廉価」であるということができる。
○ ADRといっても、仲裁型と調停・あっせん型とでは、手続の質がかなり異なってくると思われるが、消費者、経済界はそれぞれ仲裁型と調停・あっせん型のどちらを主眼にADRへの期待を表明しているのか。
● 消費者問題の分野では、当事者間の情報格差が大きいこと等を前提とすると、現実問題として、最初から仲裁を念頭に置くことは難しく、調停・あっせんが中心とならざるを得ない。一方、当事者の一方のみが主宰者の判断に拘束される片面的な仲裁も現に議論されており、消費者問題の中で仲裁をどのように取り扱うかについては、引き続き考えていくべき問題である。
● 仲裁は当事者の選択肢を狭めてしまうという意見もあって、経済界でも広く活用されるということにはなっていない。
○ 消費者団体としては、調停・あっせん手続の担い手を法曹有資格者が独占するのは適当ではないと考えているのか。また、ADRの定義付けを考える際のポイントはどこにあると考えているか。
● ADRの担い手を法曹有資格者に限るべきではないと考えている。また、司法制度改革審議会意見では隣接法律専門職種の活用が挙げられているが、そこでとどまっていては法曹有資格者が独占するという従来の枠組みが大きくは変化しないのではないかと危惧している。
ADRの定義付けについては、第三者の関与の仕方について考えるほか、手続のプロセスを細かく分析してADRの定義を明らかにする必要がある。
○ 消費者団体としては、ADRには法曹有資格者が入っていない方がよいと考えているのか。それで本当に紛争が解決できるのか。
● 紛争には、法的な論点が問題となっている場合もあれば、当事者間のコミュニケーションの不足が問題となっている場合もある。ADRは解決方法の情報を開示して、どのようなADRで問題を解決するのが適当かについて、当事者が選択できるようにすべきである。
○ 当事者が選択するためにADRが開示すべき情報としては、どの程度のものを考えているのか。
● 手続主宰者のプロフィールのほか、解決方法の内容や、これまでの解決事例など当事者が選択できるだけの情報の開示が必要と考える。
○ 労働委員会は制度が確立したADRの典型例であると思われるが、紛争解決の実効性が失われていると思われる理由は何か。
● 当事者が労働委員会の命令等に従わない態度を強く示すような場合などには、労働委員会は無力化してしまう傾向があり、強制力を担保する手段の付与が必要である。
○ 私的自治による紛争解決を実現するためには、当事者全体のレベルの底上げを図る必要があると思われるが、実際にはどのような者がADRに相談に訪れているのか。
● ADRに相談に来るケースは氷山の一角であり、苦情を持つ者はその何十倍もいると思われる。
● まず不満を聞いてくれる場があるということが重要であり、多くはアドバイスをすることで解決している。