民間の紛争解決機関、利用者として消費者団体、仲裁人としての実務経験者として(社)日本商事仲裁協会、消費生活用製品PLセンター、大阪弁護士会民事紛争処理センター、全国消費者団体連絡会、英国仲裁人協会東アジア支部日本分科会の5機関より「民間紛争解決業務の認証制度」(仮称)の導入に関するヒアリングを行った。
各説明者からそれぞれ資料32-1から資料32-5による説明が行われ、それらの説明に対して質疑応答がなされた。主なものは以下のとおりである。(○:委員、●:説明者)
【(社)日本商事仲裁協会に対する質疑】
○ 国際仲裁について認証制度の対象外とし、BtoB紛争については情報開示しないで良いように配慮がなされることが適当とのことであるが、例えば、電子商取引に係る紛争などのBtoC間での国際調停についてはどのように考えるか。BtoC紛争なのだから、事案を非公開とするのは困るだろう。
● (社)日本商事仲裁協会では、国際的なBtoC調停は取り扱っていないので判断は難しいが、このような紛争を我々が取り扱うべきであるかどうかも含め、今後の検討課題であると考えている。
○ 認証制度を受けることのメリットについては、どのような考えを持っているのか。
● 現在の段階では、認証制度の基準や報告義務の内容が具体的に明らかになっていないため、これらについて結論が見えてきた段階で判断させていただきたい。
○ 第一に、前々回の資料30-1で掲げられている認証基準の要件程度のことは、現在でも行っているのではないか。第二に、ADRの機密が保持されないことを懸念しているが、仮に、個別の案件にまで立ち入って検査されることとなるのであれば、認証制度に反対するつもりか。第三に、国際調停のような場合であっても認証の対象外とすべきと考えるのか。第四に、現在、商工会議所では、商工会議所法が定めるあっせん、調停、仲裁の処理に当たり、過半数の会議所は貴協会に事案処理を委託しているが、認証制度を導入すると、協会に委託していない残りの半分の商工会議所は、認証を受けるのか、受けないのか。そうすると、認証を受ける商工会議所と認証を受けない商工会議所が出てくることになり、混乱が生じると考えるが、そのことについてはどのように考えるのか。
● 第一の質問について、資料30-1の要件は、現在でも充足していると思うが、これ以上要件が加重されるとすれば容認できない。ただし、報告用の書類の作成などについては行っていない場合もあるかも知れない。第二の質問について、個別の案件にまで踏み込まれるようなことがあり、それが国際的な案件にまで及ぶ可能性があるような場合は、認証制度について慎重に検討せざるを得ない。第三の質問について、国際調停についても国際仲裁と同じような懸念は否めないと考える。
第四の質問について、現在、全国五百数十機関の商工会議所のうち、あっせん、調停を行っていないところが存在するのは御指摘のとおりだが、仮に今後、そのような商工会議所がADRを行うことになるとすると、やはり、実質上は当協会が実施するような仕組みになっているため、当協会が認証を受ければ、あとの商工会議所が個々に認証を受ける必要はないと考えている。
○ 貴協会は社団法人であり、現在も既に主管省庁の監督を受けていると思うが、実際に、事業報告などの方法により、個々の事案を開示している事案は存在するのか。また、そのことが実際の紛争解決に何らかの影響を与えているか。また、弁護士の関与について、各ADR機関の判断に委ねられるべきであるということだが、実際上の運営方法はどのようにするつもりなのか。
● どこの国の案件か、年間の件数などを集計した、案件の具体性を払拭した統計的なものしか公表しておらず、個別の事案に係る情報は一切公表していない。また、当協会は公正性・中立性を旨としているので、各官庁の存在を念頭に置いた紛争解決は行っておらず、主管官庁の監督が紛争解決に影響を及ぼしているという事実は一切ない。弁護士の関与については「必要に応じて」としか言えないが、例えば、事案の中でも特定の法律の解釈が焦点となり、それが全ての結果を左右するなどという場合には、弁護士の判断を仰ぐこととなるだろう。
【消費生活用製品PLセンターに対する質疑】
○ 認証制度を受けることのメリットについては、どのような考えを持っているのか。
● 法的効果が付与されることであると考えている。ただし、執行力の付与については、現段階においては必須のものではないと考えている。当センターの現在のスタンスとしては認証制度の導入の可否についてはニュートラルな状況であるが、費用や負担が相当なものになるようであれば、改めて検討する必要があると考えている。
○ 前々回の資料30-1で掲げられている要件程度のことは、現在でも行っているのではないか。また、時効の中断については、PLを含む不法行為に係る紛争の消滅時効は3年と比較的短期であることにかんがみれば、時効中断が認められることが望ましいとあるが、企業関係の案件は、実際上は時効中断効を取得するメリットは乏しいのではないか。
● 資料30-1に掲げられている要件については、きちんとした検証は行っていないが、かなり努力すれば満たすことはできるのではないかと考えている。また、時効中断効についてであるが、当センターが事案を迅速に処理すれば、時効中断効が付与されなくとも不利益を回避することができると考えている。
○ 貴協会は現在も既に主管省庁の監督を受けていると思うが、実際に、事業報告などの方法により、個々の事案を開示している事案は存在するのか。また、そのことが実際の紛争解決に何らかの影響を与えているか。また、弁護士の関与について、各ADR機関の判断に委ねられるべきであるということだが、実際上の運営方法はどのようにするつもりなのか。
● 事業報告としては、消費生活センター向けに公表しているデータと同程度のものを主務官庁に対して行っている。
また、主管省庁の監督が紛争解決に影響を及ぼしているという事態はない。どのような場合に弁護士に相談するのかとの御質問については、現在のところ、調停はもちろんのこと、相談やあっせんについても法的な解釈が必要となれば、その都度、顧問弁護士に相談している。
【大阪弁護士会民事紛争処理センターに対する質疑】
○ 御提示の資料(資料32-3)3ページの認証の要件について、要件はシンプルにしたいと考えているが、退出のルールはどのようにすれば良いと考えるのか。利用者の申し立てはどこで受け付けることを想定しているのか。
● 苦情処理担当窓口を設け、そこに行わせれば良いのではないか。もしくは、第三者機関に行わせても良いと思う。
○ 個々の事件についての記録・情報については開示義務はないことを明確にすべきとあるが、それは、個別事件については開示はしないということか。
● 個別事件の開示については、利用者の不満があっただけで事案処理の結果の是非を判断するために個別事案を開示することを義務づけるべきではないと考える。ただし、利用者の便に資するべく、取り扱った事件の類型や、その事件の解決にどの程度の時間を要したのかなどの事項については開示すべきと考える。
○ 前々回の資料30-1で掲げられている要件程度のことは、現在でも行っているのではないか。また、貴センターはADRの機密が保持されないことを懸念しているが、仮に、個別の案件にまで立ち入って検査されることとなるのであれば、認証制度に反対するつもりなのか。
● 資料30-1に掲げられた要件については、現在でも、当センターで実施している。認証についてはこれまでどおり普通に業務を実施していさえすれば取得できるようにしてほしい。また、個別の案件にまで立ち入って検査されることになるのであれば、認証制度には反対せざるを得ない。
○ 弁護士自治と主務大臣による認証は矛盾するように思われるが、どのように考えているのか。また、時効中断効の付与などの法的効果について、認証制度に絡めずに設けることが可能であれば、認証制度を導入しなくても良いと考えるのか。また、ADRに法的効果が付与されることにより応諾率が向上するとのことであるが、法的効果が付与されることになると、利用者が強制執行を受けるなどという事態も想定され、そのような事態を回避するために、逆に応諾率が下がる可能性もあるのではないか。
● 認証制度は弁護士自治に抵触しないと考えている。また、法的効果が付与されることが大切なことなのではなく、ADR利用者の視点を持つことが大切であると考える。法的効果はADR以外の他の方策により賄うことは可能であるとしても、そもそも、法的効果が付与されないような制度は利用者にとってマイナスではないかと考えると、法的効果を認めた方が良いのではないかと考える。確かに、ADRに法的効果が付与された場合、利用者が強制執行などを受ける可能性も否定できないが、それは総合的に考えればよいと思う。ADRに不満がある場合は裁判に移行すれば良いのだから、むしろ、柔軟性などといったADRのメリットを活かすようにできれば良いわけであって、ここでADRに時効中断効を付与したとしても特に利用者にとっても致命的な事態にはならないと考える。
【全国消費者団体連絡会に対する質疑】
○ ADR機関から不適格者が排除されていることは重要な要素であるとのことであったが、例えば、不適格者が紛争当事者を監禁して強引に調停に持ち込んだ場合など、法令違反があれば、現行の法律によっても民事的、刑事的な責任を負うことがあり得るので、現行法体系で十分、不適格者に対する処罰を行うことは可能ではないか。もし、そのような既存の司法制度できちんと不適格者を排除することができれば、それで構わないと考えているのか。
● 消費者にはそういったことも知らない人が多い。信用性の確保という観点から言えば、一般的なADRの利用者は、マル適マークなどにより判断することになるのではないか。また、認証制度の基準については、くれぐれも最低のレベルで設定していただけるようお願いしたい。
【英国仲裁人協会東アジア支部日本分科会に対する質疑】
○ 消費者問題などのBtoCについては、何らかの配慮を行うことが適当であるとのことであるが、そのようなBtoCを特別扱いしているような事例が外国でも存在するのか。また、電子商取引に係るBtoCについては、どのような紛争解決の方法を採ることが適当と考えているのか。
● 米国では、数年前から消費者問題について特別な配慮を行った判決が裁判所でも出始めているが、実態は各州ごとに異なっており、まとまった制度にはなっていない状況である。また、私見になるが、電子商取引に係るBtoCなどについては、今のところはニューヨーク条約に従って処理すれば問題はないのではないか。
ヒアリング終了後、前回の検討会までに論点として挙がっていない事項について意見聴取を行った。(◎:座長、○:委員、●:事務局)
○ 認証制度の導入を前提に議論を行うのであれば、時効中断効などの法的効果と弁護士法72条はわけて議論した方が良い。記憶によれば、認証制度のメリットを主張する者も時効中断効などの法的効果の付与を前提に議論しており、72条との関係において認証制度を積極的に支持する意見は伺っていない。そもそも、時効中断効の付与などの問題と72条の問題とは向いているベクトルの方向が逆である。すなわち、法的効果の問題は、認証制度の導入による利用者の保護という議論に繋がるという点で、紛争当事者である国民を守るという側面がある。他方、72条の方は、ADR機関にとってはプラスの側面があるにせよ、紛争当事者である国民にとっては、これまで守られていたものが守られなくなるというように働く議論であり、双方の議論はベクトルが違う。72条を厳格に運用せよと申し上げているつもりはないが、いずれにせよ、72条の問題と時効中断効などの法的効果の付与の問題とは同列に論じるべき問題ではないのではないか。72条の適用除外については、時効中断効の付与などとともに、こっそりと紛れ込ませて一律に議論できるものではないというのが明らかであり、一度、真正面からきちんと議論を行う必要がある。
○ 72条に「他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」と規定した趣旨は、他の法律に規定すればそれで当然に72条が適用除外されるという意味合いではなく、その法律の中に72条の規定の趣旨が盛り込まれていること、適用除外とする合理的な理由があると認められることが当然に求められるはずであるから、単に認証を受けただけで72条の適用除外を認めるのではなく、義務と合わせて考えた上で適用除外とするように考えるべきである。
○ これまで、行政型ADRや民事調停法や家事審判法に基づく司法型ADRについては、必ずしも72条の免除を正当化できるような根拠がないにもかかわらず、法に規定されているというだけで72条は問題とならないと考えられているが、行政型、司法型ADRの手続実施者に72条違反があれば処罰すべきではないか。72条問題については、その辺りから議論しなければならないのではないか。そうでないと、72条と認証制度を組み合わせて議論することなどできないのではないか。
○ 実務では、弁護士でない者もADRを行っているが、これについては実務の慣行で正当業務行為として認められている。これを72条の適用除外として追認するのかどうかが問題となってくる。これは、72条は認証制度とは切り離して議論して良いのではないか。
● この問題については、全体の枠組みにも関わってくるものなので一言コメントしたい。72条の議論については審議会意見書からの流れがある。また、非法曹専門家の活用という視点から言えば、ADRの利便性を高めるものであって、ベクトルが逆方向であるとは言えないのではないか。
○ 72条について緩和せよということについては、同意見である。ただ、認証制度を前提とした72条に関する議論をしていないのではないかということが言いたいだけである。
◎ 72条の問題については、この検討会のはじめの頃の議論の結果、あくまでも認証制度を採り入れた場合、72条問題をどのようにクリアすれば良いのかという問題を検討することとし、議論を開始したはずである。
次回の検討会については、5月31日午後1時半から、今回のヒアリングも踏まえ、法案策定の方向性の取りまとめに向けて、本検討会の議論を収斂させていくこととなった。