6 議 事
○青山座長 それでは、定刻になりましたので、ただいまから第37回「ADR検討会」を開催いたします。
前回、9月1日の検討会では海外出張のため欠席し、大変失礼をいたしました。
今回も定例の月曜日ではありませんので、安藤委員、原委員、平山委員、綿引委員の4名も御都合がつかずに御欠席となっております。
本日は、隣接法律専門職等に対する裁判外紛争解決手続の代理権付与等を主な議題として、関係各団体からのヒアリングを実施することといたします。
ただ、その前に本日午前中に「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律案」が閣議決定されたとのことでございますので、推進本部事務局から法案の内容について御説明いただきたいと思います。小林参事官、お願いいたします。
○小林参事官 今、座長の方からお話しがありましたように、本日午前中に「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律案」が閣議決定されました。後刻、国会の方に提出されるということになると思います。
本日は、前回9月1日の検討会で、その段階では十分御説明できなかった点、あるいは9月1日の検討会で若干御議論があった点を中心に、若干補足説明をさせていただきたいと思います。
今日は日程が非常に立て込んでおりますので、ポイントのみ簡潔に進めさせていただきたいと思います。
まず、法律の題名でございますが、これも9月1日の検討会では大分御議論いただきましたが、「法による」という文言は、この法律の題名からは落ちております。法律の題名としては「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律案」ということでございます。ただ、法による紛争の解決という理念につきましては、第三条が「基本理念等」でございますが、この基本理念のところに「法による紛争の解決のための手続として」とあり、引き続き法による紛争の解決のための手続という考え方は維持をいたしております。ただ、この点につきましては、9月1日の際にも繰り返し申し上げましたけれども、これは必ずしも実定法を判断基準とするという趣旨ではございませんで、不法な紛争解決を排除するという趣旨でございますので、その点は改めて申し上げます。
また、「総則」の部分が言わば、これまでの議論で申しますと基本法的な考え方を取り入れた部分でございます。対象といたしましては、認証制度の対象になっております民間の調停、あっせんのような手続のみならず、司法型、行政型、あるいは手続の類型としても、調停、あっせんのみならず仲裁も視野に入れた規定ぶりとなっております。
第1条の「目的」では、「内外の社会経済情勢の変化に伴い、裁判外紛争解決手続が、第三者の専門的な知見を反映して紛争の実情に即した迅速な解決を図る手続として重要なものとなっていることにかんがみ」という現状認識を明らかにいたしております。
また、第3条の「基本理念等」では、先ほど少し触れたところでございますが、第1項は、裁判外紛争解決手続全般を通じます基本的な考え方といたしまして、「法による紛争の解決のための手続として、紛争の当事者の自主的な紛争解決の努力を尊重しつつ、公正かつ適正に実施され、かつ、専門的な知見を反映して紛争の実情に即した迅速な解決を図るものではなければならない。」といたしております。
なお、第2項で、これも検討会でよく御議論のありました連携、協力に関する規定として、「裁判外紛争解決手続を行う者は、前項の規定にのっとり、相互に連携を図りながら協力するように努めなければならない。」という規定も置いております。
第4条は「国等の責務」として、第1項では「裁判外紛争解決手続に関する内外の動向、その利用の状況その他の事項についての調査及び分析、並びに情報の提供、その他必要な措置を講じ、裁判外紛争解決手続についての国民の理解を増進させるように努めなければならない。」として、国の責務を明らかにいたしております。
第2項は、それに準ずるものとして地方公共団体の責務を明らかにいたしております。 第2章以下がいわゆる認証制度関係の規定でございますが、第6条で「認証の基準」を明らかにいたしております。
この認証の基準についても、この検討会でさまざまな議論がございましたけれども、できるだけ内容を明確にするという観点から、第1号から第16号までかなり詳細にその内容を明らかにいたしております。勿論、内容的にはADRを実施しようとする場合には当然必要になると考えられる事項でございますので、決してその数が多いからハードルが高いということではございませんけれども、国民が安心して利用できるADRとして必要な基準を明確化いたしております。
内容的に申し上げれば、第3号で利害関係を有する場合の措置として、こういった場合には当該手続実施者を排除するための方法を定めていること、あるいは、第4号におきまして、言わば身代わりのADRをつくって、自分に有利なように紛争解決をするようなことが実施できないように基準を設けております。
第5号におきましては、弁護士以外の方が手続実施者になる場合の弁護士の関与についての措置を明らかにいたしております。
第7号におきまして、標準的な手続の進行について定めることということにいたしておりまして、これも前回御議論にありましたが、例えば、いつでも離脱ができるというようなこと、あるいは、合意をしていなければ最終的に和解に合意する必要はないというようなこと、こういった基本的な事項につきましても、きちんと手続利用者に説明をするということの前提となる規定も設けております。
第9条では、法務大臣の認証に当たりましては、認証審査参与員の意見を聞くということでございます。この認証制度審査参与員の位置づけにつきましては、第10条できちんと法律上の位置づけを明確化いたしております。第三者の意見をきちんと反映するようにという、この検討会での御議論を反映したものでございます。
なお、「附則」でございますけれども、附則第2条におきまして、「政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」といたしております。これだけ議論のあった制度の導入でございますので、いわゆる見直し規定というものも盛り込んでおります。
以上、非常に駆け足でございますが、前回十分御説明ができなかった点、あるいは前回御議論があった点を中心に御説明を申し上げました。
前回の検討会でも申し上げましたけれども、ADRに関します制度基盤の整備ということにつきましては、この検討会においても実にさまざまに御意見があったわけでございますが、それらの御意見を、例えば認証制度に対して若干懐疑的な御意見も含めまして、できるだけ幅広く反映できるように努めたつもりでございます。
国会審議はこれからでございますが、引き続き御指導の方、よろしくお願いいたします。
○青山座長 ありがとうございました。何か局長からございますか。
○山崎局長 ただいま参事官の方から御報告がございましたけれども、やっと本日、閣議決定までこぎつけたというところでございます。私もほっとしているというのが正直なところでございます。
これも、ひとえに座長を始め、委員の皆様方の長時間にわたる御議論のたまものと思っております。心から感謝を申し上げたいと思っております。
あとは、国会で御審議いただくことになりますが、非常に短い期間でございますので、この間にどうやってきちんと成立されるよう、全力を注ぎたいと思っております。
いずれにしましても、御礼を申し上げるとともに、若干いろいろと紆余曲折もございまして、長引いた点もございましたのでその点につきまして、おわびも申し上げたいと思っております。おわびかたがた御礼を申し上げるということでございます。 ありがとうございました。
○青山座長 どうもありがとうございました。
ただいま御説明いただきました「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律案」につきまして、何か感想なり、あるいは御質問なりございましたら、承りたいと思いますが、いかがでございますでしょうか。
よろしゅうございますでしょうか。
それでは、私の方から若干、感想めいたことを述べさせていただきます。
この検討会は三十数回にわたりまして開催してまいりました。今日、委員のお手元にお配りしてあります法律案は、その三十数回の検討会の集大成と言ってよいかと思います。
御覧になりますと、さまざまな感想をお持ちの方がいらっしゃると思います。効力の点に関して、例えばこれだけの効力では不十分だというお考えの方も一方ではおられると思いますし、また他方では、もっとシンプルな基本的なものだけでよいはずではなかったか、特に認証制度を導入したということについては、やり過ぎではなかったかという両方の方面からの御批判があろうかと思っております。
しかし、私としては、11人のメンバーの方々の意見のこれが最大公約数であったというふうに考えております。改めて「立法は妥協なしには生まれない」という古いことわざを思い出した次第でございます。
また、これまで検討会でさまざまな意見を出していただきました点をいろいろな点で反映したということも事実であります。
例えば、今、御説明ありました法律の名称が「法による」というのは要らないのではないかということを前回の検討会で何人かの方が御指摘になったと思います。私も、議事録で拝見したわけでございますけれども、その御指摘が反映されたと考えております。それから、その後、事務局が各方面と折衝をする過程で、幾つかの問題点がございまして、私も意見を申したところでございます。
例えば、10条に認証審査参与員という制度がありますが、この参与員が関与をし得るのはどういう範囲で関与するのかという議論がございました。問題のない案件、ADR機関の認証するのに問題のない場合には、もう関与しなくてもよいのではないかといった考え方もありましたが、もともと検討会では、第三者機関ということがかなり議論されておりましたので、私も第三者機関の設置を希望として、申し上げました。現在の情勢では、新しい第三者機関をつくるということはできないということから、参与員という中立的な学識経験者なり何なりそういう方々に関与していただき、審査に当たるというスキームとなりましたが、そこではすべての案件について関与することになった、ということがございました。
あるいは、小林参事官の方からも御説明がありましたが、附則の2条で施行から5年後の見直しが規定されました。これは、必要な場合にはそれを改善するということを入れてもらったことは、私としては、現段階ではこの法律は最大公約数であっても、さまざまな意見の集約でありますから、5年ぐらい施行してみるといろいろな欠点も出でくる、ほころびも出でくるかもしれませんので、そういうことがあれば、その段階で更によりよいものに直していくための点検をしようというところを入れていただいたとか、そういう改善は幾つかなされたというふうに思っております。
この法律の施行は、法律が通った暁のことですが、公布の日から起算して2年6か月を超えない範囲内において政令で定める日というのが附則1条に入っております。したがいまして、普通の法律に比べるとかなり周知期間と言いますか、準備期間に余裕をとっているということが言えると思います。そういたしますと、私としては、法律が制定され、2年なり2年数か月の十分な周知期間、準備期間の中で十分な準備をして、この法律が日本の民事司法体系の一環として定着するように、そして司法制度改革審議会の意見書にうたわれているように、日本におけるADRが裁判と並んで国民にとって魅力的な選択肢となるように活性化することを希望している次第でございます。
法律案は閣議決定されましたけれども、これでこのADR検討会の任務がすべて終わったわけではございません。弁護士法72条との関係で、隣接法律専門職種等の方々のADR代理権をどうするかということについて、その位置づけをするというのがこの検討会のもう一つの任務でございます。
そこで本日は、まずヒアリングをさせていただきたいというふうに考えた次第でございます。この72条との関係でADR代理権をどう位置づけるかという問題は、実は大変難しい問題であります。と同時に、これは日本の司法制度の中にADRをどう組み込むかという大きなところにも関係する問題でございますので、今日は8団体の方々にお越しいただきまして、御意見を聞かせていただきたいと思っている次第でございます。
それでは、ヒアリングに先立ちまして。
○廣田委員 ちょっとよいですか。
○青山座長 はい。
○廣田委員 ここまできて、こういう発現をするのは大人げないと思うのですが、今、妥協という言葉が出ましたので一言だけ申し上げたいと思います。
私は、この法案に妥協をしていません。反対しております。ですから、私は妥協をしてここに座っていると今後思われたら困りますので、反対だということをはっきり議事録にとどめておいていただきたいのです。
この法律がどういう運命をたどるかということは、私は目に見えているつもりですが、先取りして将来のことを言うのはやめにしたいと思いますが、ただ、反対だということだけははっきりして、私が妥協したと思われないようにしていただきたい。それだけ申し上げます。
○青山座長 わかりました。反対者も含めて13人の委員で議論の末、こういう法律案が提出されたという意味で申し上げた次第でございます。
それでは、ヒアリングに先立ちまして、推進本部事務局から、まず代理権付与についての検討の視点等について、御説明をいただきたいと思います。小林参事官、お願いいたします。
○小林参事官 それでは、資料37-1に基づきまして、簡単に検討の視点についての御説明をしたいと思っております。
資料上段右側にございますように、ADR代理権の付与につきましては、最終的にはADRの拡充・活性化が目的であるわけであります。ここにございますように、事案の性格・当事者の事情に合った代理人の選択を可能にしていくということが大きな目標ということでございます。ちょうどADR法によりまして、裁判以外にそれぞれの紛争の当事者が最もふさわしい紛争解決手段を選択できるようにということが法律の大きな目的であったのと同様に、代理人につきましても、事案の性格・当事者の事情に合った代理人の選択が可能になるようにということが今回の検討の主眼ということでございます。
ただ、この代理権の付与の問題につきましては、これも何回かこの検討会でお話をさせていただいたかとは思いますけれども、主宰者、手続実施者として弁護士以外の専門家の方が関与される場合とは少し異なる視点から検討してみる必要があるのではないかということで、検討の場も少し時間的にタイミングをずらしまして、検討をお願いしているわけでございます。
その場合の検討の視点としては、大きく必要性の問題と相当性の問題があるのではないかと考えております。
まず必要性の問題でございますが、この資料の上段左側「社会的ニーズ」と表現いたしておりますけれども、ADRについて先ほど申しましたように、できるだけ選択の幅を広げるということは1つのニーズとしてあるわけでございますが、ただ他方では、ADRというのは、先ほどの基本理念の中にもございましたように、当事者の紛争解決努力というのをできるだけ尊重するということがございます。言葉を換えて申し上げれば、当事者が主役という面があるわけでございまして、現実のADRにおきまして、あえて代理人を立てなければならないようなニーズというのがどの程度あるのかということを踏まえて、この問題を議論していく必要があるのでないかということでございます。そういった観点から見ますと、このADR代理につきましては、大きく2つのケースがニーズとしては考えられるのではないかと思われます。
1つは弁護士だけでは不十分な特定の分野の専門的知見に基づいた助言を得る必要があるようなケースが考えられるのではないかということでございます。高度な専門的知見の活用という観点から代理人の幅を広げていくべきではないかという考え方が、社会的ニーズの1つとして考えられるわけでございます。
それから、もう一つの社会的ニーズといたしましては、それほど専門性は高くないけれども、本人が直接、先ほど申しましたように一人でこの手続に参加するというのは少し荷が重いというようなケースも考えられないわけではないわけでございます。
ただ他方、その場合すべて弁護士に依頼するということになりますと、事案の性格上、少額あるいは簡易な事案でありますと、弁護士に頼むというのが事実上困難なケース、あるいは地域的に困難というケースもあるのかもしれませんが、そういったようなケースも考えられるわけでございまして、必ずしも専門性が飛び抜けて高いというわけではないけれども、少額・簡易な事案につきまして、弁護士以外の専門家の方に代理人をお願いするというニーズが考えられるということでございます。
このように必要性については、大きく2つのケースが考えられるのではないかと考えております。
それから、もう一つの問題は、相当性の問題でございますけれども、これは上段の枠囲いでいきますと、右側の「法律的・専門的能力」のところでございます。
先ほどのADR法の中でも手続実施者につきまして、必要がある場合には弁護士の助言が受けられるような体制の確保を認証基準の1つとして掲げてあるわけでございますけれども、同じように代理の問題を考える際にも、やはり法的サービスを公正、的確に遂行するに足る能力がその代理人の方に備わっているかどうかということが、やはり必要なポイントになってくるのではないかとに考えられるわけでございます。
勿論、どちらが重くてどちらが軽いということは一概に申し上げられるわけではございませんけれども、手続実施者の場合には、紛争の当事者がいて、話し合いをしていくわけでございますので、その両者の間で言わばチェック・アンド・バランスが働くと言えば働くわけでございますけれども、逆に代理人の場合につきましては、代理人がイエスと言えば本人がイエスと言ったと同じことになるわけでございまして、そういう意味である意味では責任が非常に重いと、倫理的な面も含めて責任がかなり重いという御指摘もあるところでございます。
そういったところから考えますと、この法律的・専門的能力といたしましては、この枠囲いの中にございますように、一定の紛争分野に関する専門的知識・経験のみならず、代理業務を行うために必要な法律的能力、あるいは代理人として本人のために仕事をするという意味におきましての倫理規律といったものが必要になってくるのではないかということでございます。
以上、申し上げたような社会的ニーズ、必要性と、法律的・専門的能力、相当性の両方が、代理権付与を考える際には是非必要な視点ではないのかということでございます。
それでは、具体的にどのように検討を進めるかということでございますが、今申し上げたような事情というは、当然それぞれの分野あるいは専門職種のお仕事によりまして、かなり個別的な事情が異なるわけでございますので、個別的な検討を進めていく必要があるだろうと思われますが、その際に、代理権を付与をするに当たり、どのようなことを考える必要があるのかというのが、この下の「検討項目」でございます。
幾つかの観点を挙げてあるわけでございますが、1つは「対象となる紛争の種類」でございます。これは、専門的知見、専門的知識、経験を要するものでございますので、それぞれの職種の方に応じた専門的分野というものを考えていく必要があるのではないかということでございます。
2番目が「対象となる紛争の規模」ということでございます。勿論、事柄の重要性、あるいは何か問題があった場合の問題の大きさというのは単純に紛争の規模だけで決まるわけではございませんけれども、やはり1つの大きな要素として対象となる紛争の規模をどう考えていくのかということは、代理権付与を考える際には必要な視点ではないかというふうに考えております。
3番目は、本件はADRにおける代理を議論していくわけでございますが、その場合の「対象となるADR機関」というものをどう考えていくのかという視点でございます。ADR機関を全く限定しないという考え方もあり得るとは思いますけれども、仮にADR機関を全く限定しないということになりますと、言葉は悪いですけれども、形式的にADR機関を介することによりまして、事実上相対交渉と同じようなことが行われる可能性があるわけでございます。相対交渉ということになりますと、このADRの機関における話し合いの下での代理とはかなり性格が異なるわけでございますし、その危険性といった点もかなり質的に異なってくるのではないかというふうに考えられます。したがって、やはり対象なるADR機関をどう考えるのかということも議論をしていく必要があるのではないかということでございます。
4番目が「弁護士の関与」でございます。ADR法の場合におきましては、専門的知識が必要な場合に弁護士の助言が受けられる体制の確保ということを認証の基準としたわけでございますが、代理の場合につきまして、弁護士の関与を要するとするのか、あるいは要するとした場合に、どのような形態が考えられるのかということは議論をする必要があるのではないかと考えております。
5番目でございますが、先ほど来申し上げているような代理権の付与される範囲に必要な法律的・専門的能力と、現実にそれぞれの士業の方が持っておられる知識、能力との間に何らかの事情でギャップがあるのであれば、それを適切に埋めていくための能力担保措置というのが必要になってくるわけでございますので、これについてどのように考えるのかというのが5番目の点でございます。
勿論、今の私の御説明でもおわかりいただけたかと思いますけれども、この5つの要素が相互に非常に関連をしているわけでございまして、一方の要素のハードルを上げれば、他方の要素のハードルは下がる。逆に、一方の要素を下げれば他方の要素でそれをカバーせざるを得ないというような相関関係にあるわけでございまして、それぞれの職種につきまして、この5つの要素を、どのようにバランスをとって組み立てていくのかということが大きなポイントになってくるのではないかというふうに考えております。
話が非常に抽象的になって恐縮でございますけれども、検討の視点として、これからヒアリングを聞いていただく際の1つの御参考になればということで申し上げました。
以上でございます。
○青山座長 これからヒアリングを行う場合のメルクマールみたいなのものを幾つか御提示いただいたわけですが、何かこれについて御質問がございますでしょうか。
それでは、早速ヒアリングに移りたいと思います。
最初に御説明いただく4団体の方は、どうぞ説明者席にお移りいただきたいと思います。
お手元に本日のヒアリングの予定表がお配りしてあるかと思いますが、本日は全部で8つの団体からお話を伺うことにしております。
まず、最初に日本行政書士会連合会の宮内会長、2番目に日本司法書士連合会の中村会長、3番目に日本土地家屋調査士会連合会の松岡副会長、それから最後に日本税理士会連合会の坂田専務理事からお話を伺いたいと思います。お四方には今日大変お忙しい中を御出席いただきまして、ありがとうございました。
最初にお願いしておきますけれども、今日は8団体からお話を伺うということで大変恐縮でございますが、お一人15分という時間を是非厳守していただきたいと思います。
それでは、宮内会長から、どうぞよろしくお願いいたします。
○宮内会長 日本行政書士会連合会の会長の宮内一三でございます。どうぞよろしくお願いします。
まず初めに、この司法制度改革推進本部ADR検討会が本日まで37回と長期にわたって裁判外紛争解決手続の御検討をされてきたことに対し、敬意を申し上げますとともに、今回その代理権について私どもへの発言の場を設けていただきましたことを、厚く感謝申し上げます。
それでは、私どもの考え方をお手元の資料に沿って御説明させていただきます。表紙をめくって、右下に2とあるページを御覧ください。
行政書士は制度が制定されてから半世紀にわたり、身近な街の法律家として極めて広範囲な行政手続や権利義務関係の書類の作成を行ってまいりました。3万8,000人の会員に地域的な偏在もなく、地域密着型な基本的なリーガルサービスの提供や相談を通して、国民の権利擁護を担ってまいりました。このような行政書士がADRの一端を担うことで、この制度が国民にとってより身近な、利用しやすいものになるものと思います。日本行政書士連合会、略して日行連と呼びますが、日行連は裁判外紛争解決手続の制度普及に積極的に貢献するために、基本方針として認証紛争解決事業者となり、併せて当事者の代理業務を行政書士が行えるよう改正を要望してまいります。
では、まず紛争解決支援における行政書士の専門性について御説明申し上げます。3ページを御覧ください。
行政書士は大きく分けて、A官公署に提出する書類を代理人として作成すること、B権利義務・事実証明書類を代理人として作成することを業務としており、特にBについてでございますが、権利義務・事実証明の書類とは、権利の発生や存続、変更、消滅を生じさせることを目的とする書類、それから実生活に交渉を有する事実を証明するに足る書類のことを指します。例えば、各種の契約書や交通事故の損害調査報告書などがあります。ここが、民民間で紛争が生ずる可能性が高い分野であり、紛争解決の場で専門家である行政書士が国民の皆様をサポートできる部分でもあります。
次に行政書士の専門性を活かして、これまでの紛争解決支援がどのように関わってきたか御説明させていただきます。4ページを御覧ください。
ここでは5つの項目を挙げました。
1つ目としまして、書類を作成するまでの過程において、関係者間の意見調整の支援などを行ってきたことです。行政書士は、書類の作成を代理人として行うことを業務としておりますが、依頼者の口述をそのまま書類にするということはまれで、書類作成の過程においては当然法的な判断に加え、紛争の予防措置を講じ、関係者間の利害調整の支援を行ってまいります。弁護士の先生方は、主に法的紛争をもった事案を取り扱っておられますが、行政書士はその紛争が極力生じないように、事前に予防する役割を担っています。つまり、弁護士と私ども行政書士の取り扱い業務は、ある意味では事前・事後の関係にあると言えます。
2つ目といたしまして、各都道府県行政書士会、通常単位会と言いますが、ここにおいて常設・非常設の無料相談を実施しております。ちなみに、毎年10月制度強調月間に全国一斉に開催しています無理相談では、平成15年度の実績といたしまして、総件数で7,549件あり、そのうち相続、離婚、権利義務に関する相談が4,582件で、全体の61%くらいを占めております。
3つ目としまして、民事調停委員や家事調停委員に選任されて活動している会員がおるということでございます。
4つ目としまして、著作権ADRセンターを立ち上げ、著作権に関する紛争事案についての相談や和解、あっせんの申込みを無償で行っております。
5つ目としまして、日行連研修センターや各単位会における司法研修の実施が挙げられます。日行連研修センターでは、平成15年度より大学、大学院と連携し、全国規模に実施しており、民法、家事審判法などを受講しております。また、各単位会でも独自の司法研修を実施し、会員の資質の向上を図っているところでございます。
次に5ページ目の日行連の裁判外紛争解決事業の構想については、本日のテーマが代理権の付与についてでありますので、ここでは説明をちょっと省略させていただきます。
それでは、行政書士による当事者代理に関する考え方に入ります。
まず、行政書士による代理の必要性について御説明させていただきます。6ページを御覧ください。
ADRの機関の利用者の中には裁判によらない解決方法であるけれども、法的判断が必要なので近くの専門家に代理をお願いしたいであるとか、代理を頼むにしてもできるだけ報酬費用を抑えたいといった要望、あるいは仕事を持っていて時間的な余裕がないとか、紛争の場に自ら出ていくこと自体がちゅうちょする方もいらっしゃると思います。つまり、国民の要望としては、信頼性は勿論、アクセスを含め、利用しやすく、経済的でもあることであろうかと思います。
そこで、僭越ではございますけれども、弁護士と行政書士の状況を比較してみますと、表にありますとおり、行政書士は会員数も多く、偏在性も低く、全国各地に事務所がございます。費用も比較的に抑えられるといった特徴があります。全国各地で法律サービスを提供できる体制にあること、そして専門業務や無料相談などにより、身近な町の法律家としての信頼性を培ってきたことから、行政書士による裁判外紛争解決手続の当事者代理が期待されているものと確信しております。
次にこの代理についての全体的な構想を説明させていただきます。7ページを御覧ください。
先ほど申し上げましたが、国民の期待に応えるべく行政書士に認証紛争解決事業者の下に実施される一定範囲における裁判外紛争解決手続の当事者代理を業として行うことができることにしていただきたいというのが私どもの要望の趣旨でございます。
今、一定の範囲内と申し上げましたけれども、すべての紛争事案について行政書士が単独で代理を行うというものではありません。一定の枠や条件が必要であると考えております。
まず、能力担保措置として、必要な研修を受講・修了した者のみに代理業務を認めさせます。更に、事案によっては弁護士の先生方の助力を得るよう、弁護士会と協力体制を構築してまいりたいと思っております。
次にどのような事案について取り扱うかについてでございますが、行政書士の専門性が広範囲にわたることから、個別対象分野を定めることはなじまないと考えております。その代わりに、一定の対象範囲を設け、その枠内で活動をすることを考えております。これについては、イメージ図が8ページにございますので、御覧になっていただきたいと思います。
図の点線以下の網かけ部分、このわずかな範囲における代理を行政書士に認めていただきたい。線引きは簡裁訴訟代理権の範囲とされる140万以下の事案を想定しております。簡易で少額な部分で、しかも認証事業者の下で行われる裁判外紛争に限る事案について認めていただくことで法律サービスの更なる充実につながっていくのではないでしょうか。
続いて、行政書士に関わっている事例を御説明し、御理解を賜りたいと存じます。9ページを御覧ください。
事例1として「外国人に関わるトラブル」を取り上げてみました。外国人の入国者数は平成11年では490万人であったのに対し、平成15年には572万人を超えております。4年間で82万人も増加したことになります。国籍で言いますと、上位から韓国、中国、アメリカとなっております。
行政書士は特定の研修を受けて、行政書士の専管業務として、この外国人の入国、在留手続を行っております。外国人の方々はその手続を取り扱った経緯から、行政書士にさまざまな相談をしてまいります。つまり、一次相談先になっているのです。何人かの行政書士の会員に聞いてみますと、相手の日本人が離婚に応じてくれないであるとか、雇用先からいわれのない理由で解雇されたが、未払い賃金があるといったものが多いようでございます。
外国人の方が日本での争いごとに巻き込まれたり、人権を侵害されるような事態になったときに、身近に自分のことをよく知ってくれる法律専門家が側にいて相談できるという環境は、異国で言葉がわからず、生活環境も違う中にあっては非常に心強いものであります。国際私法や準拠法に詳しい行政書士による代理が認められれば、これ以上のサポートが可能になり、実情に即した迅速な解決に大いに役立ちます。更に、言葉の問題などから紛争の相手方や手続実施者にとって理解をしやすくなるとも言えます。
次に10ページを御覧ください。
事例2として、「交通事故分野」を挙げました。交通事故は突然我が身に振りかかってくるものです。死亡事故は減少しておりますけれども、逆に負傷者数は増加の一途をたどっています。60年には68万人だったものが、平成14年には116万人にも膨れ上がっております。損害保険料率算出機構の調査によりますと、平成14年度のデータでは自動車事故のうち、軽度障害が全体の87.1%を占めております。また、その軽度な部分への弁護士への関与は比較的少ないものと伺っております。被害者となった方々は、一般に交通事故や保険制度に関する知識が余りなく、示談に際しては自分が被った被害に対する適切な賠償額や検証が困難です。そして、加害者側の加入している保険会社の提示をそのまま受け入れるケースが多いのが現状でございます。
そこで、行政書士は被害者のために、自賠責手続や医療調査、事故原因調査などを行い、損害の全体像を明らかにすることで損保会社との事務手続も円滑に早期の解決に努めており、自賠法の趣旨である被害者の権利保護に貢献しております。
しかし、不幸にも紛争という事態になった場合には、裁判外での解決手段として自賠責保険・救済紛争処理機構や交通事故紛争処理センターなどの機関が利用されています。その場において、加害者側は本人に代わって保険会社の担当者が出席できますが、被害者の損害の全体像を明らかにする調査報告書の作成などに携わっている行政書士は単独では出席が現在は認められておりません。つまり、被害者本人が会社や家庭を犠牲にして、何度も話し合いの場に出席するか、新たに弁護士さんに依頼するかの選択しかないのです。被害者の実情や被害の実態をよく把握している行政書士による代理を認めていただければ、実情に即した迅速な解決につながり、被害者の救済に大いに役立つものと確信しております。
最後に能力担保措置の1である研修制度の御説明をさせていただきます。11ページを御覧ください。
形態としては、現在実施している日行連研修センターでの司法研修を拡充する方向で考えております。
科目については、関係法令は勿論のことでございますが、司法倫理や調停技術などの研修も行います。現在は、雑駁な計画になっておりますが、今後所管省庁や弁護士会、実務精通者の方々とも協議しながら進めてまいりたいと思います。
以上が資料の説明です。
終わりになりますけれども、現在のように高度で複雑化している社会では、細分化が多方面にわたって進み、産業界はもとより社会生活全般に及んでいるとも言えます。この中で、各隣接士業はそれぞれの分野の専門職者としての活動を通し、国民に役割を認めていただいております。ADRの参入が行政書士としての知識だけで行えるものではなく、先ほど申し上げましたが法的解決能力を高め、併せて弁護士会や弁護士の助言を受けられる手当も構築し、日ごろ国民から寄せられるさまざまな紛争相談の中から今日御説明した分野における当事者のサポートをする助言者として認めていただきたく、微力ではありますが、ADRの活用範囲が広がりますよう努力してまいる所存でございますので、何とぞよろしくお願いします。
ありがとうございました。
○青山座長 どうもありがとうございました。
質問は後でまとめてやらせていただきますので、それでは、引き続きまして、日本司法書士会連合会の中村会長からお願いいたします。
○中村会長 日本司法書士会連合会会長の中村邦夫でございます。本日は、私ども日本司法書士会連合会に対しまして、このような貴重な機会をいただきましたことを心から感謝申し上げます。また、ADR検討会のこれまでの活動に関しまして、今日に至るまで委員の皆様方が熱心かつ真摯な御議論を続けてこられましたことに、心からの敬意を表したいと存じます。
さて、本日のヒアリングに関しましては、あらかじめ「裁判外紛争解決手続における司法書士の代理権について」と題する資料を提出させていただいておりますので、委員の皆様にはこの資料を御覧いただきながら、お聞きくださいますようお願い申し上げます。
また、冒頭お断りをさせていただきますが、以後、裁判外紛争解決手続という言葉とADRという言葉が必ずしも同義ではないことを理解しつつ、ここでは便宜的にADRという言葉を使わさせていただきます。
まず、私どもは裁判外紛争解決手続の特質をどのように理解するかによって、この手続における代理行為の必要性や、その取り組みへの方向付けもおのずと明確になるのではないかと考えています。ADRは御案内のとおり、紛争当事者が裁判手続によらず、相互の理解と納得の上に合意に至ることを基本とした自主的な紛争解決手段であります。つまり、ADRが当事者に処分権のある民事上の紛争を対象としていることから、私的自治の原則の下においては、紛争解決のための手続きやその方法、そして判断のための基準はいずれも当事者の自由な意思に基づく選択に委ねられるべきものと言えます。したがって、手続進行の全過程を通じて当事者の意思、すなわちその主体性が最大限尊重されなければなりません。ADRは常に当事者双方が出席した中で、当事者をその主役として実施されるということが基本的な形であろうと考えます。
そこで、ADRにおける代理の在り方を考えますと、このような紛争を抱えている当事者自身の主体性を重視する考え方に立つ限り、ADRにおいて専門家代理人を必要とする場面、更に具体的には当事者を伴わず紛争解決手続の円滑な実施に重点が置かれる形態としての代理人の利用頻度は必ずしも高くないものと予想しております。ただ、かような代理人が必要とされる場合として、例えば、次のような2つのケースが想定されます。
第1に、当事者が迅速で柔軟なADR手続を希望しつつも、さまざまな事由によりADR手続の場に出席が困難な場合であります。例えば、けがや病気による身体的な困難を伴う場合などであります。このような例外的なケースを考えれば、ADR代理を制度上準備しておかなければならないと考えます。
第2に、最終判断のために一定程度の高度な専門知識を求められる場合であります。まさに、ここが私ども隣接法律専門職者の活用の御検討をいただいている中核となる部分であると考えております。この第2の場合において、ADR代理に求められるものは、例えば合意内容から生じる法的効果の的確な理解であります。更に、ADRが順調に進まない場合などでは、将来それが不調となり、改めて裁判手続に移行するような場合、依頼者の請求の帰趨について一定の見込みを立てた上で、現在の、今ある手続の進行を判断しなければなりません。
こうした場面におけるADR代理とは、紛争の本質を理解し、変化していく手続の展開に即応できるだけの相当高度な法的知識と実務経験を求められるものと申し上げることができます。
ところで、私ども司法書士については、司法制度改革の一環として、司法書士法が改正され、昨年7月1日に施行されました。この法改正の結果として、司法書士は一定の範囲で訴訟代理権を有し、法律事務を行うことができることとなりました。ちなみに、資料の別紙1として、司法書士法の抜粋を付けさせていただきましたが、3条1項6号及び7号の業務として、簡易裁判所の事物管轄の範囲内における訴訟代理が規定されました。そして、特に7号に「民事に関する紛争であって紛争の目的の価額が140万円を超えないものについて、相談に応じ、または裁判外の和解について代理すること」という規定が設けられました。
この規定について、昨年実施されたADR検討会のパブリックコメント募集に際し作成された「総合的なADRの制度基盤の整備について」、副題として「ADR検討会におけるこれまでの検討状況等」とありましたが、そこにおいて現行制度では司法書士に対する簡易裁判所での訴訟代理権付与に際して、具体的な訴訟代理契約を締結していなくとも、すなわち訴訟代理を受任することを前提としていなくても、依頼者の利益にかなった解決を図るためには、相対交渉やADRによる和解についても代理業務を行う必要があるという考え方により、裁判外の和解についての代理権が規定上付与されている云々という説明が加えられております。
ところで、さきに申し上げました司法書士の訴訟代理権には、一定の能力担保措置を講じることとされ、昨年来延べ3回の能力担保研修並びに法務大臣の認定のための考査が実施されました。
別紙2は全国の司法書士会会員数と司法書士法3条2項の法務大臣の認定を得た会員の数を一覧表にまとめたものでございます。比率としては、全国会員総数の47%が認定を得ており、司法書士登録を得ていないものの認定を得ている有資格者も約四百名ほど存在しております。
更に別紙3では、過去9年間の司法書士試験合格者の受験地別全国分布と合格者総数の推移がおわかりいただけるかと存じますが、合格者の総数は受験者数の増加に比例して増えておりまして、平成16年度は850名を超えるのではないかと思われます。
そして、これからの司法書士試験合格者はそのほとんどが、先ほども述べました能力担保研修を受けるものと見込まれ、訴訟代理権を行使し得る司法書士及び資格者は現在の8,700名程度から早晩1万人を超えるものと考えます。つまり、人数の面で今後ますます増加していくであろう司法書士法3条2項の認定司法書士は全国津々浦々で国民の身近に存在する法律家として、ADR代理を含めた法的サービスの提供に努めていくと考えています。
ただし、現行の司法書士法においては、当然のことながら裁判外紛争解決における代理の文言が明示されておらず、3条1項7号の業務として行えるとの解釈が可能であるとしても、ADR代理権の範囲等の要件が明確ではないことから生ずる将来の疑義への懸念も抱いております。
そこで、私どもといたしましては、司法書士のADR代理等について、まず次のことを初めに要望するものであります。
その1であります。現行司法書士法の下で、司法書士は同法3条1項7号の範囲内でADR機関における代理行為を当然に行うことができると解釈しておりますが、その権限を明確にするため、司法書士法にその旨を明示していただきたいと考えます。
さて、遡って、それでは、司法書士はどのような分野においてADR代理を行うかという点について述べたいと思います。司法書士がADRにおいて行使し得る代理権の範囲は、今申し上げたとおり、現状において行使が可能と解釈され得る司法書士法3条1項7号に規定する紛争、すなわち国民の身近な民事紛争であることが明確であろうと考えております。したがって、司法書士が取り扱うADR代理の分野もそれと同一であると考えております。
ただし、ADR制度の導入の趣旨について、紛争解決手段の多様化の必要性や、国民の身近な司法を目指す司法制度改革の真の実現という点に立ち返り、国民にとって更に使い勝手のよい手続とするためにも、司法書士のADR代理を国民の日常生活において発生する民事一般の紛争事件とされることも、他の法律専門職種に対するADR代理権付与の動向も踏まえ、積極的に御検討願えればと考えております。
なお、我々司法書士のADR代理形態は、先に述べたADRの特質から、原則として当事者を同行する二人三脚的な代理形態を目指したいと考えております。
さて一方で、我々はADR代理を行使するに当たって、ADR手続を受任する前や相対交渉などADR期日外における活動についても行えることとするか否かに強い関心を抱いております。このことは、先に述べた昨年の当検討会パブリックコメント募集における論点にも掲げられておりました点でありますが、日司連としては、慎重な取り扱いを求める意見を提出しました。この考え方は今も維持しており、再度更に強く慎重な取り扱いを求めるものであります。
そこで2つ目として、次の点を強く要請するものであります。ADR代理はADR機関における紛争解決実施期日においてのみ行えることとすべきであり、ADR受任以前の交渉や協議、ADR受任後においても手続実施者を交えずに行う和解協議は、その代理権の行使として認めないものとすべきであります。改めてその理由を申し上げますと、ADR代理の権限にADR実施期日外における協議や交渉権限を付与することとなれば、当事者をないがしろにした行為が行われる恐れがあり、更にかかる行為は手続実施者を交えずに行われる行為ですから、ADR制度それ自体の否定につながるものと考えるからであります。
このような危険が生じない、確実な方策を明示し、国民が安心して利用できる裁判外紛争解決手続となるためのADR代理を御検討くださいますよう、お願い申し上げる次第であります。
最後にADR制度については、司法を国民に身近なものとするために有用な制度として導入が検討されてきたこと、そして一定の成果としていわゆるADR基本法案が国会で審議されようとしていること、また総合法律支援法においても国民の抱える法的紛争を解決する手段として、裁判外紛争解決手続の利用を想定していることなど、着実にその歩みを進めております。私ども司法書士会は利用者である国民の信頼を得て、ADRの理解と利用促進に大きな役割を果たしたいと願っており、今後とも誠意を持ってADR制度構築に対処する所存でございます。このことを一言申し上げ、私ども日本司法書士会連合会の説明とさせていただきます。
御清聴ありがとうございました。
○青山座長 中村会長、どうもありがとうございました。
それでは、引き続きまして日本土地家屋調査士会連合会の松岡副会長、よろしくお願いいたします。
○松岡副会長 日本土地家屋調査士会連合会副会長、松岡直武でございます。本日私ども隣接法律専門職団体に裁判外紛争解決手続に関する意見と要望を申し上げる機会を頂戴しましたことを厚く御礼申し上げます。また、ADR検討会の先生方の今日までの御努力に心から敬意を表する次第です。
私ども土地家屋調査士は、不動産の表示に関する登記に必要な調査、測量、申請手続などを所有者に代わって行うことを業する資格者でありますが、全国組織である日本土地家屋調査士会連合会と、各地域に置かれている単位調査士会では、かねてより土地家屋調査士の専門性を活用した裁判外紛争解決手続への関与としまして、土地境界への紛争解決に特化したADRについて研究を重ねてまいりました。
平成14年に愛知県土地家屋調査士会が名古屋弁護士会の御協力をいただきまして、あいち境界問題相談センターを創設し、試行を開始したのを最初に、現在では大阪、東京、福岡の各会がそれぞれの地域の弁護士会の全面的な御協力をいただきまして、弁護士と土地家屋調査士の協働体制による境界紛争の解決のためのADRを試行中であります。
さて、今般の法律案では民間の紛争解決手続の業務を行う者は申請により法務大臣の認証を受けることにより、時効中断の効果をはじめ、一定の法律上の効果を与えるものとし、認証を受けるための要件等を整備されるとお聞きしております。弁護士と土地家屋調査士の協働する紛争解決機関として、既に相応の実績を積み重ねつつあり、社会的なニーズにつきましても大きな反響と期待を得ているということを実感している土地家屋調査士会が運営するADRを、その力を更に発揮し、市民の不安の解決に全面的にお応えできる体制とするためにも、是非新しい制度による認証の対象としていただきたいとお願いを申し上げる次第です。
現在のところ、土地家屋調査士会が会の事業としてADR機関を設置し、事業者となることができることや、土地家屋調査士が手続実施者となることができるといったことが法律上明記されておりませんので、単位会の事業計画、予算措置との関係、あるいは手続実施者への報酬の支払いの可否等につきまして、さまざまな隘路があるというように感じております。
新しい裁判外紛争解決手続の利用促進に関する法律及び関連法の整備に当たりましては、土地家屋調査士会が認証民間紛争解決手続事業者となることができること、土地家屋調査士が手続実施者となることができることを明確にしていただきたいと要望する次第です。
なお、対象の範囲は土地境界の不明を直接、間接の原因とする紛争に特化するものというように考えております。境界問題という至って現地あるいは地域社会に密着した事案が対象であるという特殊性から、土地家屋調査士を代理人として活用したいという要望もいただいているところでありますが、現在のところ許されることではありませんので、そういった要望にお応えすることもできません。土地家屋調査士が専門分野におけるADRにおいて、代理人となることができるよう御配慮賜りたく、以下にその実情の一旦を申し述べたいと思います。
まず、土地家屋調査士がADRにおける代理人となることができるよう要望する理由でありますが、土地境界をめぐる紛争においては、ほかの紛争類型とは若干趣を異にする側面がございます。まず、相隣者間の紛争であるということ。次に、争いと言いましても、実際にはもともとの境界の位置が不明であったことに原因があって、必ずしも一方が悪意で権利を侵害したというようなことばかりではない場合が多いこと。争いの対象となる範囲が非常に狭いことから、紛争解決に要する費用対効果が考慮される必要があるということ。更に、法律上の問題といたしまして、御承知のように境界には公法上の境界と俗に言われております地番境あるいは筆界と言われておりますが、そういった概念と所有権の及ぶ範囲としての境界、これは所有権界とか占有界等とも言われるかと思いますが、この2つの概念がありまして、地番境は私人間の合意のみで変更すること等は許されない不動のものであるとされている一方で、所有権の範囲に関する境界は時効取得あるいは私人間で自由に取り決めをすることにより移動することがあり得るものと、こういうふうにされていますが、日常業務からの体験あるいは現在試行しておりますADRにおける実情をかんがみますと、多くの場合、紛争の当事者は前者と後者の区別を意識していないということが明らかになっております。そのため、一旦紛争となりますと、現場における当事者の主張の法律上の位置づけなどを踏まえた上で、事実関係の把握と争点の整理、紛争対象範囲の特定というのが必要となります。その点において、土地家屋調査士は日常の業務を通じて、常に境界とそれに関係する人々の心と真摯に向き合ってきたという実績を制度創設以来、54年にわたって積み重ねてまいっておるところでございます。
次に「土地家屋調査士の専門分野における代理人への社会的ニーズ」について申し上げたいと思います。調停におきましては、紛争当事者である本人が解決のために直接関与するということが通常でございましょうが、代理人に依頼して解決したいという期待も非常に高いと感じております。その理由はおおむね次のようなものです。
まず、この類型の紛争の相手方は最も争いを起こしたくない隣人であるということ。あるいは、隣人と争っているということを世間に知られたくない、至って地域密着型の紛争であるという特性から、できるだけ穏便に解決したい、また、本人ができることなら表に出たくないという気持ちもある。また、できるだけ早く解決したいと考えておる。更に、紛争当事者は土地の所有者ですが、高齢者あるいは病弱者である場合も少なくありません。共有者間の関係が複雑な場合もございます。現地と離れた土地に居住している場合も少なくないにもかかわらず、紛争解決のためには現地の存在、あるいは現地の状況の把握を抜きにして解決を図ることはできません。
そして、問題解決のためには不動産に関する一般的な知識のほか、境界及び所有、占有に関する歴史的な経過を知ることを含めて、当該、土地及び地域の特性とか慣習等についての専門的な知識も必要となってまいります。
更に、一般に境界に疑念がある場合、まず土地家屋調査士に相談することが多く、また紛争の対象となっている土地であること及びその事実関係を知る端緒というのも、何らかの必要があって土地家屋調査士に調査を依頼した結果、相隣者双方の境界に対する認識や主張が相違することを知るに至ったというような例が多いというふうに感じております。 そして、できることなら、境界問題は一般に専門知識が豊富であり、その土地をよく知り、依頼から調査までの過程を通じて、既に信頼関係が構築されている土地家屋調査士に相手方との交渉を含め、その一切を依頼したいというように思うのは、むしろ自然な流れかというふうに考えております。
次に、土地家屋調査士の紛争解決への取り組みの能力的なことにつきまして、若干現状を述べたいと思います。土地家屋調査士は全国津々浦々に事務所が存在し、国内のあらゆる地域において、土地所有者等の御依頼に応えることができること。いわゆる強制入会制度の下、会員への指導連絡体制及び研修体制が整っているということ。土地家屋調査士法による紛議の調停を行うことができるとされているほか、登記官の処分を不服とする場合の審査請求手続を土地家屋調査士が代理人として行うことができることが法定されていること。
また、民事調停委員、専門委員として、あるいは土地境界の鑑定人として既に多くの会員が裁判所及び弁護士等の嘱託、依頼に応えているという実績があるということ。日常行っている業務が資料図書を解析し、現地の状況を的確に把握し、依頼者の真意を汲み取るという作業でありまして、諸般の一切の事情を考慮した上での当事者双方の納得、あるいは合意を得るための説明とお互いの主張の調整というのが日常業務の一環であるということから、実務上における問題解決のための取り組みに関する経験が豊富であるということ。 そういったことから、専門分野の知識や経験を生かして、早い段階からより適切な解決への検討あるいは準備ができるということ。当事者である本人の意見を咀嚼し、その主張、ニーズを的確に把握した上で紛争解決の場に臨むことができること。相手方の主張を迅速に理解し整理し、適切に依頼者本人に伝え、本人の事情判断を容易にすることができること。また、先に述べました境界の持つ特殊性あるいは本人の主張が許容される限界などを常に考慮した判断や、本人へのより適切なアドバイスができることによって、合理的かつ迅速円満な解決を図ることができるといったような利点があるというふうに考えております。
そのようなことから、土地家屋調査士が代理人として関与した場合、依頼者が十分に納得した形でより迅速より適切に紛争の解決が図られ、結果として経済的負担も少なくて済むということが考えられます。
最後に「ADRにおける代理人として必要な能力向上策及び責任担保策」に関しまして、日本土地家屋調査士会連合会では、ただいま次のようなことを実施し、あるいは考えております。
専門分野の専門性を高めるための研修。これは土地家屋調査士法に研修の義務規定も置かれておりまして、当然のことでございますが、連合会及び各単位会でいずれも会の最重要事業として数多く開催してまいったところであります。
ADRに関しましては、事業計画の重要な柱として、裁判外紛争解決手続の手続実施者あるいは代理人として必要とされる能力を向上させるための特別研修カリキュラムの策定作業とモデル研修を各地で実施中であり、調停者として必要な技法の研修はもとより、民事訴訟手続はじめ、関連する分野の法律知識、あるいは倫理や権利の確保等についての知識の習得を図るため、学者、弁護士、裁判官、有識者、専門家等、外部の先生方による研修を企画もしくは実施しているところです。詳細は資料にも添付してございます。
次に会員の能力向上のための研修や研さん、あるいは研修の受講の成果を第三者機関が評価することによって、会員の学習意欲を高めるとともに、依頼者が依頼するときの判断の参考あるいは基準として資することを目的として、ただいまのところは技術系ではありますが、関連団体で運営するCPDシステム。これは専門職のための継続的研修の評価システムとも言われておりますが、これに連合会が参画し、共同試行を始めております。
なお、裁判外紛争解決手続における代理人となるためには、日本土地家屋調査士会連合会が主宰するADRの代理人となるに必要な研修を受講し、認定した会員でなければならない旨の規定を設けること、及び損害賠償責任保険制度への加入を条件とすることを予定しております。
以上、時間の関係で端折った説明になりましたが、詳しいことにつきましては、添付いたしました資料、あるいは現在試行中の調査士会型ADRのパンフレットを御参照いただければ幸いであります。
以上で、日本土地家屋調査士会連合会からの要望を終わります。御清聴ありがとうございました。
○青山座長 松岡副会長、どうもありがとうございました。
それでは、引き続きまして恐縮でございますけども、日本税理士会連合会の坂田専務理事、よろしくお願いいたします。
○坂田専務理事 日本税理士会連合会専務理事の坂田純一でございます。本日は、隣接法律専門職種等に対するADR代理権の付与に関する検討に当たり、私どもの会をヒアリングにお呼びいただき感謝申し上げます。
また、先の御報告のとおり、本日、法案が閣議決定されたということでございまして、委員の先生方の御労苦に対して、敬意を表したいと思います。
私どもが本日持ってまいりました資料に基づきまして、お話をさせていただきたいと思います。今般、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律、以下、ADR法と言わせていただきますけれども、これが制定されることを契機といたしまして、日本税理士会連合会は税理士の専門的知見を活かし、我が国におけるADRの拡充・活性化に資するため、前向きに対処していく所存であることを誓い申し上げたいと思います。
当会はADR法の施行に向けて、税理士会が認証を受けて、ADRの手続実施者となることの可否についても、調査研究をすでに開始しております。
ところで、ADR法の施行によりまして、今後、多種多様なADRが創設されることとなると思われます。私どもは従来から主張してまいりましたけれども、それらの紛争解決の結果、例えば、いろいろな紛争解決の段階において、収受した収入等について、税法で言いますと、所得税、法人税、相続税、消費税等の租税を負担することが多いのではないかということを考えておりまして、それらの課税関係が生じる場合には、既存のADR機関及び今後創設されるであろうADR機関に対しまして、税務の専門家である税理士をADR手続実施者の相談者として御活用していただくための政策を講じることを既に検討しております。これは本日のテーマとは少し離れますが、公益的、社会的貢献活動としての、例えば、ADR税務アドバイザー等の育成ができないかということを検討しているわけでございます。
本日のテーマであります、税理士が一定の範囲におけるADR代理人となって関与することにつきましても、私どもは利用者の利便性にかなうということを考えております。この場合、税理士の専門性の範囲をどう斟酌すべきかということが検討課題になろうかと思いますけれども、少なくとも次の範囲につきましては、税理士にADR代理権を付与していただきたいということでございます。
「対象とする紛争の種類」ですが、税理士に対してADR代理権を付与する場合の対象とする紛争の種類は、少なくとも以下の2つが考えられるのではないかと思っております。
Aは、私どもが本来的に持っておりますコアの部分でして、租税に関する法令の適用に関する紛争でございます。この場合、納税義務者と税務官公署の紛争は当然に除かれます。
Bにつきましては、先ほど視点の中でお話がございましたように、専門的知識、経験ということからいたしますと、私どもはBの財産の相続または贈与に関する紛争もその種類に含めるべきではないかという考えをもっております。
Aにつきまして、若干意見を述べさせていただきたいと思います。租税法令の適用に関する民対民の紛争といたしましては、例えば、税理士が行った税理士業務の適否をめぐって、当該税理士と依頼者との間に生じる紛争が考えられます。この種の紛争解決をするためのADRとしては、既に税理士法の規定に基づき、税理士会が主宰している紛議調停委員会がございます。この場合において、税理士が当事者たる納税者または当事者たる税理士の代理人となってADRにおける紛争解決に当たることは有用であると考えております。
また、例えば、相続税計算上の各種特例の適用の仕方により、各相続人が負担する相続税が増減することから、相続税法等の適用に関して、各相続人間で紛争が生じる場合や、消費税法の適用に関して、各契約当事者間において、売買価額等について、紛争が生じる場合等、租税法令の適用に関して、民対民の紛争が生じることがございます。これらの場合についても、税理士がその専門的知見を生かしつつ、ADR代理人として紛争解決に当たることは有用性があるものと考えております。
先ほど申し上げましたように、租税法令の適用に関して、納税者と税務官公署の間に生じる紛争を解決するためのADRとしては、既に国税不服審判所がございまして、国税通則法において、税理士はこの場合の不服申立人の代理人となることができるとされておりますので、この部分における法改正は必要ないと考えております。
2)の財産の相続または贈与に関する紛争について申し上げます。一般に相続人が財産の相続に関する事務を専門家に依頼する場合や、贈与者または受贈者が贈与に関する事務を専門家に依頼する場合には、税理士がアクセスポイントとなることが多いというのが現実でございます。したがって、全国に6万8,000人の税理士がおりますけれども、多くの税理士はいわゆる専門的知識を生かし、また経験を生かし、相続や贈与に関する事務については、実務経験が豊富であるということが言えると思っております。
財産の相続または贈与に関する紛争解決をするための要因としては、税負担が関係する場合が多いということからしても、税理士の専門的知見の活用は有用ではないかと考えております。
もとより、これらの紛争を解決するためには、相続または贈与に関連する民法等の法律的知識が必要となることは当然ですが、税理士試験には相続関連法令の出題も含まれており、多くの税理士がこれらの関連法令に関する研修を登録開業後も受講しています。
更に現在、多くの税理士が民事調停委員に任命されていることも、税理士がこれらの紛争におけるADR代理人として相応しいことを裏付ける証拠ではないかと考えております。
「対象とする紛争の規模」の問題につきましては、相続は親族間における財産の移転であり、多くの場合、贈与もまた親族またはこれに類する間で締結される契約でありますので、税理士に対して、これらに関する紛争に限定して、仮にADR代理権を付与する場合、紛争の規模について、金額的な制限をすることはかなり困難であり、または必要はないものであると考えております。
相続または贈与はいずれも無償による財産の移転であるため、紛争発生時点において財産評価額が確定していない場合も多いことから、対象となる紛争について金額的な基準を設けることはかえって実務上の混乱を招くことになるのではないかと思われます。
「対象とするADR」ですが、ADR利用者の利便性に資するべきとの観点から考えれば、税理士がADR代理人として関与する場合の対象はADR法による認証を受けたADRはもとより、非認証の民間型ADR、個別法の規定に基づくADR業務及び民事調停等を含むべきではないかとお願いを申し上げます。
「弁護士等の関与の必要性」ですが、ADR代理人は直接当事者の権利義務を処分する権限を有するため、法律分野における高度な専門能力が必要とされると当然考えられることから、税理士が限定された範囲において、ADR代理業務を行う場合でありましても、常に弁護士の助言を得られるような体制を会としても構築していきたいと思っております。ADR代理人となる税理士が常に弁護士に相談できるようなスキームを構築していきたいと望んでおります。このことについては、今後、日本弁護士連合会様との協議も進めさせていただきたいと思っております。
「能力担保措置について」ですけれども、税理士がADR代理人としての職責を果たしていくためには、関連法律分野における高度な専門的能力の習得が不可欠であることは当然でございまして、税理士会は会員を対象としてADRに関する研修を実施し、また、ADR代理業務を行う税理士には特にこの研修を受講しなければならないという義務付けをしていきたいと思っております。
先に改正された税理士法におきまして、税理士会は会則において研修に関する事項を定めなければならないこととされております。また、税理士は所属税理士会及び日本税理士会連合会が行う研修を受け、その資質の向上を図るように努めなければならないともされておるところでございます。
今後はこうした税理士法上の定めに従いまして、ADRに関する研修の充実を図っていきたいと思っております。
参考資料として、平成16年度の税理士試験の受験案内を添付しております。国税審議会が公表しております試験科目と出題範囲として、関連する他の法律に定める関係事項も出題範囲であるということがお読み取りいただけるのではないかと思います。
また、私ども日税連が全国的に実施している統一研修会の状況につきましては、平成14年度から16年度までの3年間につき資料として添付をさせていただきました。この全国統一研修会は日税連と各税理士会との連携で行っておる研修でありまして、このほか、各税理士会及び傘下の支部において、税理士は年間36時間の研修を受けるという義務を会則上も定めております。それらにつきましては、資料は添付しておりませんが、そのような研修を現在実施しているということでございます。
以上、私どもの要望を斟酌していただきまして、御検討いただけることをお願い申し上げまして、意見の発表とさせていただきます。ありがとうございました。
○青山座長 坂田専務理事、ありがとうございました。
それでは、ただいま4つの団体を代表される4人の方々から、それぞれ御説明をいただきましたけれども、委員の方々から何か御質問等がございましたら、せっかくの機会でございますので、お伺いしたいと思います。どうぞどなたからでもお願いいたします。
廣田委員、どうぞ。
○廣田委員 司法書士会の中村先生にお伺いしたいのですが、3条1項7号に裁判外の和解の代理をすることというのは職責の中に入っているわけですが、この規定の解釈について、ただいまの御報告はADR以外の裁判外の和解交渉あるいは相対交渉の代理はここに入らないという解釈をとられているのか、入るという解釈をとられているのでしょうか。
もし入らないという解釈をとっていらっしゃるのなら、今言われた2ページの真ん中のところにあるBというのは、これは確認の意味で言われたことだと思います。しかし、ADR代理以外の相対交渉、そういう裁判外の和解の交渉まで入るという解釈をとられるのでしたら、ここの意味がちょっとわからない。ADR代理の委任状を持って、そういう代理権を与えられたときに相対交渉をしてはいけないという趣旨に解釈できると、お聞きした限りではおっしゃったようにとれます。つまり、ADR代理の委任状で相対交渉をしてはいけないか、相対交渉の代理をするなら、相対交渉の代理の代理権ももらってくるようにという形になると思うのですが、それはそこの解釈によって2つに分かれると思うのです。
ですから、そこのところはどういう解釈をとられるのかという質問と、いずれにせよ、Bというのは、その相対交渉の危険性を意識したような御意見だと思いますけれども、その危険性が生じないように、ここで言われる能力担保措置を充実することによって、そういう危険性を回避しようというお考えを持っていらっしゃるのかどうか。そこのところを伺いたいです。
○青山座長 お願いします。
○中村会長 お答えさせていただきます。ADRのいわゆる和解交渉権がもともと司法書士法3条1項に入っているかという御指摘ですが、それは入っていると我々は解釈をしております。それでは、ADRのいわゆる和解交渉権といったものを、代理人になった司法書士がその相対交渉はどうなるのかということになってくると思いますけれども、それはADRの代理権の枠内でやることですから、ADRの実施期日内ですべきではないかと考えております。
ですから、司法書士は本来的にはそういった裁判外の交渉権はあるわけでございますけれども、それはそれとして一般的に使えばいいのであって、ADRということになっていきますと、それはやはり別の観点からもう一度考えなければならないだろうと思っております。
先生がおっしゃられた、色々なおそれや心配があるじゃないかということについては、研修などを通じてすればどうかという御指摘でございます。それはもう当然のことながら、研修しながら資質を高めるのは当然でありますけれども、ただ、私どもが心配しますのは、そういう理想的な状態というのは望ましいことではあると思いますけれども、なかなかそういう状況までは今の段階では行かないのではないかという感じを持っております。そういった意味で、やはりこのADR代理の場合においては実施期日内で行うようにすべきではないかと私も考えております。
○青山座長 佐成委員、どうぞ。
○佐成委員 ちょっと関連で、やはり司法書士の中村先生にお伺いします。Bのところで紛争解決実施期日ということに限られているようですけれども、これは手続実施者が関与するだけでは足りずに、期日として何か所定の手続を踏まないと関与できないというような厳格なものを考えられているかどうかということをお伺いします。
○中村会長 具体的にどのようにADRが運営されるかはっきりしないところがございますから、どうしても現行の裁判手続とかそういったものを想定しながらでしか考えることができませんので、このような説明の仕方になってしまったのですが、ADRに最終的な法的効果が付与されることを考えますと、相当大切な手続になってくるだろうと私どもは想定しているわけです。そういったことを考えますと、実施者が主体となって行う場合には、今言った裁判手続を受けることと同じように、期日といったものはやはり考えて、その段階でやっていただくことになっていくのではないかと思っています。
その期日の内容にどんなものがあるかということにつきましては、まだそこまでなかなか想定できませんので、今ここではちょっとお答えしかねるところがあります。
○青山座長 どうぞ。
○佐成委員 あともう一つ、関連で伺いたいのですが、かなり厳格にADRのことをお考えになっているようなのですけれども、今回導入されます認証制度に関して、認証を前提に考えられているのですか。それとも非認証のものを含めて考えられているのですか。
○中村会長 勿論、認証を基本に考えております。法的効果の問題は認証ということになっておりますので、だからと言って認証以外のADRを全然否定するものではなくて、それはそういう役割が当然出てくるだろうと思います。その場合であっても、先ほど申し上げたような期日とか、そういった問題については、やはり同じように規則などできちんと厳格にやっていけばよいだろうと思っております。
○青山座長 ほかに何かございますでしょうか。どうぞ。
○高木委員 日行連と日司連にお尋ねします。日行連も2ページで積極的に認証紛争解決事業者として認証を受けると書かれておりますし、日司連のレジュメも、全国規模で組織的に司法書士ADRセンターを多数配置することを企画しているとお書きになられていて、それぞれ団体として、団体の責任でADRの機関を設けられると伺いましたけれども、その団体相互間の協力とか、資格者間の乗り入れとかについてどうかということをお尋ねしたいと思います。
趣旨としては、多分おわかりだと思うのですけれども、専門家の方々がそれぞれに専門知識を持っておられることについては否定しないわけで、試験科目とかも示されましたから、それを合格した方々が一定の範囲において、かなり深い専門知識をお持ちになっておられるということは認めざるを得ないと思います。ただ、紛争の範囲というのは、専門知識の範囲と一致しないわけです。専門知識ですべて紛争が解決できるようにはなっていなくて、それは今日、ADR検討会資料37-1の紙の中で示されたように、弁護士だけでは不十分な特定分野の専門的知見と書かれているとおり、一応制度的にオールマイティーと言われている弁護士ですらすべてを満足をしない、充足をしないということが前提になっております。私自身としては、これは大きな前提で、なおかつ隣接職種者と言われる方々にも大切にしてほしいと思います。
このように、団体がそれぞれ独自にADR機関をつくられると、ある意味で縦割になってきまして、団体独自の論理で自分たちがつくっているADR機関で、自分のところで取り扱っている範囲で代理人となることができないのはおかしいといった短絡的な発想につながりやすいわけです。でも、そういうニーズがあるのはわかりますけれども、だからと言ってそれに基づいて代理権を認めたのでは、国民の権利義務の保護の観点から言うとかなり問題がある。そうすると、やはり相互に乗り入れたり、司法書士のところに税理士が入っていくとか、そこに行政書士が入っていくとか、お互いに乗り入れた形でのADR機関をつくっていくと。そこには、勿論弁護士も入る必要があると思いますけれども、そういった発想がおありになられるかどうかということをお尋ねしたいと思います。
○青山座長 今のは、行政書士と司法書士の両方ですね。それでは、お願いします。
○宮内会長 行政書士会でございます。本来から言えば、専門的な知見という範囲で、縦割という形で判断しているわけでございますが、今、先生がおっしゃられたような、事案によっては必ずしもそうじゃない、司法書士とラップする部分、また税理士の先生方とラップする部分も当然出ようかと思いますし、今後の課題かと思います。
私も当初このADRの話を聞く前に、士業全体でのADRという部分も1つ構想の中に考えてみたわけですけれども、今、現実はそれぞれの士業間でおけば、このような形で要望しなから、いずれはお互いに話し合いの中でのADRも当然必要であると思いますし、国民の視点から考えれば、それが一番ベターな方法だと思っております。
○中村会長 今、先生がおっしゃられたとおり、私どもがADRで行える範囲というのは、基本的には司法書士法の枠内であるというふうには考えております。それを超える部分については、恐らくこれはまず弁護士と相談しながらやっていくということになるだろうと思っております。
それと、そういう問題とはまた別に、今おっしゃられたように、例えば、税の問題であるとか、私どもの専門外の問題も当然あるわけでありまして、基本的にはそういう相談が来た場合には、そういうADRを行っているところにまず相談するということになるでしょうか。しかし、私どもが相談を受けた中でそういった問題まで到着する場合があるならば、それは当然のことながら一緒にやっていくということは考えておりますし、私どもとしてもそういうケースはあるだろうとは想定しております。
○青山座長 ほかにいかがですか。
それでは、私から、先ほどの廣田委員の御質問と関連いたしますが、日司連の方はADR期日代理ということを謙抑的に打ち出されたように承りましたけれども、ほかの団体は代理の場合に、ADR代理といってもどの範囲のことを考えておられるのか、期日代理なのか、それともADR代理ということであれば、相対交渉、すなわちADRを前提とさえすれば、相手方と直接和解等の交渉ができるというところまで考えておられるのか、その辺のところは何か突き詰めたお考えがあればお聞かせいただきたいと思いますが、行政書士の方から。
○宮内会長 私の一存で限定することはできませんけれども、当然主宰者側の一方の代理という形の中で、いわゆる当事者代理というものを考えておるのが今の現状でございます。
○青山座長 どうぞ。
○松岡副会長 私どもは、ADR期日における代理がやはり中心になるというふうに今のところ考えております。
○青山座長 どうぞ。
○坂田専務理事 会としてそこまで検討しておりませんけれども、私も司法書士会連合会様と同じ考えだということです。
○青山座長 ほかに何かございますでしょうか。
どうぞ。
○山本委員 私は、代理権の付与については、特に紛争解決での代理権ということですから、代理人としての倫理というのが非常に重要な問題ではないかと思っているのですが、それぞれの会でこの代理業務についてADR代理を求められるに当たって、代理人としての倫理について、会として、どのような形でお考えなのか。恐らくそれぞれ倫理について一定の規範というかルールを持っておられるのではないかと思いますけれども、この代理業務についての倫理ということについて、どのようにお考えか少し聞かせていただければと思います。
○青山座長 どなたにお聞きしましょう。
○山本委員 もし可能であれば、すべての方に。
○青山座長 それでは、どうぞ。
○宮内会長 行政書士会といたしましては、倫理規程というのが当然ございますけれども、特段代理についての倫理規程というふうな限定した議論はしておりませんので、全般的な倫理規程の中で、また適用し、また不足の点があれば補充していきたいと思います。
○青山座長 すみませんけれども、順にお願いします。
○中村会長 私どもは、倫理の問題については、相当前からその重要性を認識してまいりました。昨年の司法書士法改正を迎えるにあたりまして、その問題が今後一番大事な問題になるだろうと考えまして、昨年6月の定時総会上で、司法書士倫理を策定し承認を得ております。それから、その後、今年もそうですし、また来年も再来年もそうでありますけれども、いわゆる研修計画の中で、倫理を最重要なものと位置づけまして、今そのカリキュラムをつくっておりますし、実際にもそういう研修を行ってきております。
○松岡副会長 土地家屋調査士会でも、倫理というのは、とても大切なことというふうに考えております。今までも勿論倫理綱領とか、そういったものはございますが、ADRと向かい合うに当たりましては、この辺のところの研さんというのが非常に大事なものであろうということで、今年度モデル会というのをつくって、モデル的にそういった体制をつくるための研修、研さんと、同時にこのカリキュラムを組むことを、専門家の先生等もお招きしながら、共同研究しながらやっているところです。非常に大事なことだというふうに考えてはおります。
○坂田専務理事 我々税理士の場合は、そもそも税理司法第1条に、税理士の使命がございまして、税理士は、社会公共的使命を持つと言われておる職業でございます。したがって、その使命の下に、今いろいろなお話がございました倫理等々、綱紀については、既にかなり詳細な規程を持っています。
ところで、もしADR代理が個別法、つまり、税理士法に定められた場合には、当然それらを受けて、例えば、追加しなければいけない規程があればそれらの規律を入れていきたい。我々の使命は「納税者の信頼に応え」となっているので、今のものでも十分、国民の信頼に応えということは読み取れるのではないかと思います。当然それらの代理という新しい概念については必要に応じた倫理というものは付け加えていくことになると考えております。
○青山座長 ほかにいかがでしょうか。どうぞ。
○三木委員 先ほども何人かの方が伺ったことで恐縮なのですけれども、期日代理というのがよく理解できないので、そこだけ確認をしたいのですが、例えば、ADRの手続が終わった後に、代理人同士で、あるいは代理人と一方の当事者でもう和解しましょう、ADRの申立てを取り下げましょうというような代理はできないという御趣旨でおっしゃったのか、3団体の方が期日代理を中心とおっしゃったので、3団体にお伺いしたいんですけれども。
○青山座長 それでは、中村会長からお願いします。
○中村会長 原則的には、今、先生の御指摘の、例えば、それは認めるべきではないだろうと考えております。ただ、その具体的なケースはまだよくわからないところがありますから、どこまでそれをするかということでありますけれども、原則として期日の中であらゆる結論を求めるというふうに考えております。
○青山座長 どうぞ。
○松岡副会長 私ども、原則としましては、ADRの場における代理というように考えております。ただ、今、先生御指摘のように、それを取り下げということになりますと、場外ということになるかと思いますけれども、その辺のところにつきましても、そこまで具体的に検討したわけではないですけれども、原則としましてはADRの前における代理というふうに考えております。今のことにつきましては、また勉強していきたいと思います。
○坂田専務理事 我々の仕事の性格は、申告納税制度の下で基本的には本人の一義的には申告をする行為と言えます。税理士がそれを援助するということからしても、また代理権があるからといって本人の意向を無視して行うということはできないのではないかということで、先ほどの司法書士連合会様と同じような考えを持たざるを得ないのではないかというお話をさせていただいたということでございます。
○青山座長 ほかにいかがでしょうか。それでは、時間でございますので、これで4団体からのヒアリングは終了したいと思います。4人の方々には、御多忙のところ、今日は貴重な意見を述べていただきまして、ありがとうございました。どうも御苦労様でございました。
ここで、10分ほど休憩を取りたいと思います。再開は、3時55分から再開したいと思いますので、よろしくお願いいたします。
(休 憩)
○青山座長 それでは、再開させていただきます。休憩前に引き続きまして、隣接法律専門職種の関係団体3団体からヒアリングを行いたいと思います。
全国社会保険労務士会連合会の大槻会長。
続きまして、日本弁理士会の丸島副会長。
それから、社団法人日本不動産鑑定協会の横須賀会長。
そのお三方に、その順序でヒアリングをお願いしたいと思います。大変お忙しい中、お三方には御出席いただきまして、ありがとうございました。
それでは、まず大槻会長からお願いできますでしょうか。
○大槻会長 私は、全国社会保険労務士会連合会会長の大槻でございます。このたび、ADR検討会の議論が大詰めになったこの時期に、ヒアリングの機会を与えていただいたことに、全国2万8,000 人の会員を代表して、厚く御礼を申し上げます。
まず、資料の方ですが、個別労働紛争と社会保険労務士の対応の図表と、ADR検討会レジュメ、それから別紙ということでございますが、主に説明は図表とレジュメをもってさせていただきたいと思います。
初めに、社会保険労務士が予定するADRの個別労働関係紛争の分野に関して、我々社会保険労務士の基本的な考え方を申し述べます。今日、企業経営の3要素は、ヒト・モノ・カネと言われていますが、その最も重要なヒトの点に関しましては、企業組織の再編や、人事労務管理の個別化等に伴い、労働関係において事業主と個々の従業員との間の、いわゆる個別労働関係紛争が増加しているところです。
個別労働紛争に対して、日常的には事業主が従業員との相互信頼による協調の下で、健全な労使関係を構築するなど、未然防止に努めておられるところです。
しかし、それにもかかわらず、やむなく紛争が発生した場合には、自主的解決、あるいはADR機関へのあっせんや調停の申立て、または裁判所の民事調停などによる解決の方法が取られております。勿論、個別労働紛争の解決には、紛争当事者が誠意を持って早期に、自主的に解決するのが最善策であることは、改めて申し上げるまでもないことです。しかし、一方で紛争が長引くことは、取り分け中小・零細企業の事業主にとっては、事業の健全な発展に大きな支障を来すだけでなく、従業員にとっても一時的であれ収入の道が閉ざされるなど、不安定な立場に置かれることにかりかねない心配があります。
ところが、現実は、個別労働紛争が右肩上がりで勢いよく増えていることから、紛争当事者にとって、簡易、迅速、かつ安心できる解決の手続を強く望んでおられるのも事実でございます。
このような労働環境の下で、社会保険労務士は、顧問事業所において労務管理の業務、すなわち社会保険労務士法第2条第1項第3号を通して、例えば、裁量労働時間制の導入に伴う、定額残業手当の決め方と、割増賃金計算の方法、あるいは関係に伴うトラブルは、就業規則等の適切な制・改定、運用等の相談指導を行うことによって、未然に防いでいる、また、紛争が起きたときは、自主的解決の促進をサポートするなど、専門的な国家資格者として、その社会的使命を果たしてきているのです。
次に、ADRの代理に関して御説明します。これは、社会保険労務士に対し、個別労働関係紛争に限った裁判外における紛争解決手続の代理権の付与等の要望であります。3つございます。
まず、要望の1つは、個別労働紛争が発生した場合、紛争当事者は当然に自主的解決に全力を注ぎ、ADR機関や裁判所などへ持ち込まないで、いわゆる企業内部で解決したいと考えています。それには、身近に専門的知見を有する専門家が存在し、十分にサポートしてもらえる仕組みを求めておられるのです。そこで、その役割を弁護士に限ることなく社会保険労務士にも裁判外の和解について代理することを認めて、社会保険労務士法に盛り込むことを提言していただきたいことです。それは、さきに基本的な考え方で述べましたが、個別の労働紛争を早期に解決するためであり、特に中小・零細企業では紛争が長引けば、企業間の競争や事業の反映によい影響を与えず、場合によっては死活問題につながるからです。
2つ目は、社会保険労務士が関与できるADR機関を行政型から民間型まで拡大し、あっせんや調停を行い、和解についての代理権を社会保険労務士法に盛り込むことを提言していただきたいことです。それは、社会保険労務士が現在関与できるのは、行政型ADR機関である地方労働局の紛争調整委員会において、あっせんの紛争当事者の手続代理だけであり、極めて限定されているからでございます。
また、個別労働紛争解決促進法に基づく、あっせんを行う地方労働委員会、労政事務所や男女雇用機会均等法の調停を行う紛争調整委員会など、複数の行政型ADR機関が存在しているからです。
更に、現在でも弁護士会の救済センターなど、民間型ADR機関がありますが、ADR法に基づく民間型ADR機関として、都道府県社会保険労務士会の総合労働相談所が、ADR法の認定を受けて紛争調整機能を付加していく考えがあるからです。
ところで、これらを対象とする紛争の種類は、1ページの、1の個別労働関係紛争解決促進法の第1条に規定する、個別労働関係紛争であって、集団的労使関係の紛争や公務員関係の紛争は含まれないと理解しています。
2ページの、(2)の「対象となる紛争の規模」については、規模という意味を金額で区分することは、個別労働紛争の性格上、金額の大小により対象とするかを否かを定めることになり、それは適切であるとは言えません。
例えば、解雇事案の個別労働紛争を考えても、その事件の金額はあらかじめ確定されているものではないのです。そもそも本来的に個別労働紛争の解決は、健全な労使関係の再構築を目指すもので、金銭は副次的なものと言えるからです。なお、既に社会保険労務士が代理すことが認められている。個別労働関係紛争解決促進法においても、金額等の制限はなく、他の代理との差異を設けることは適切ではないと考えます。
(3)の「対象となるADR機関」については、先に述べたとおりでございます。
(4)の弁護士の関与・助言等につきましては、ADR制度の趣旨が専門的知見という法律以外の専門的知見を有する人を活用することであり、個々の事案について法制上は定める必要はないと思います。しかし、実際に実務上では、必要に応じて弁護士の助言等を求めているのが実態でございます。
(5)の「能力担保措置(研修、試験等)」につきましては、個別労働関係紛争への対応は、既に社会保険労務士は労務管理の相談、指導を業としていることから、実務上、倫理において自己責任の下で能力担保を有しております。それでも、ADRに隣接法律専門職種として参入を目指す以上は、それを視野に入れた司法研修を事業化し、既に憲法、民法、民事法等を中心に、第1ステージを実施し、約五千人が受講しております。この受講終了者を対象に、来年2月には日弁連法務研究財団の協力を得て、労働契約法制、あっせん制度、申立書、答弁書の作成などの実務を中心にした第2ステージを事業計画に盛り込み、予算化し、実施を予定しているところでございます。
3つ目の要望は、社会保険労務士を第23条に、労働争議不介入の規定の削除を理解していただきたいことです。このことにつきましては、ADR検討会の過去2回のヒアリングにおいても要望してきましたが、特に中小・零細企業において個別労働紛争に係るADRの業務を行うに当たり、障害となるケースが少なくないのです。
なお、削除の理由につきましては、別紙の「ADR検討会におけるヒアリング説明資料」の7ページのABCで詳しく述べさせていただいております。特に除外を開業社会保険労務士に限定しており、他者ならば制限がなく、無資格者であれ、誰でも労働争議に介入できる社会保険労務士法第23条は、極めて不自然な規定であると言えます。この法律が制定された当時の昭和43年時代の労使関係の状況を知る限り、むしろ当然の規定であったかと理解しておりますが、これについて平成10年4月の衆議院労働委員における社会保険労務士法改正法案審議の際、政府委員から労使関係が安定的に推移している今日、このような厳格が規定が必要かどうか。また、社会保険労務士法第23条の見直しにつきましては、今後労使の方あるいは社会保険労務士等の方を含めて、幅広い議論を踏まえて、なるべく早い時期、できれば次期の法改正時にもその実現が図られるよう、労働省といたしましても、協力・努力をしてまいりたいとする答弁が行われているのです。
これらの要望が満たされることによって、個別労働関係紛争の分野におけるADRを利用しようとする国民、すなわち事業主、従業員、及びその家族の方々に対する利便性が大きく向上し、ADR全体の活性化にもつながるものと固く信じております。
なお、我々は平成17年の通常国会において、社会保険労務士法の改正を実現させていただき、ADR法の施行や総合法律支援法の施行と合わせて、ADR機関を立ち上げる考えであります。
終わりに、当ADR検討会の座長、委員の先生方、そして推進本部事務局の皆様方のこれまでの御労苦に対し深く感謝を申し上げるとともに、ADR法の成就に向けて英知と勇気と情熱を持って、有終の美を飾られますよう、心から祈念しております。
ありがとうございました。
○青山座長 大槻会長、ありがとうございました。
それでは、引き続きまして、日本弁理士会の丸島副会長、どうぞよろしくお願いいたします。
○丸島副会長 御紹介いただきました、日本弁理士会副会長の丸島儀一でございます。本来なら会長が御説明申し上げるところでございますが、所用で今日は出席できませんので、私が代わりに説明させていただきます。
まずは、このような機会を与えていただきまして、本当に感謝申し上げます。また、先ほどお聞きしましたところ、法案が閣議決定されたということで、本当におめでとうを申し上げたいと思います。委員の皆様に、これまでの活発な御活躍と御成功に、本当に喜ばしいとお祝い申し上げたいと思います。
私ども弁理士会が、裁判外紛争解決についてお願いしたい事項の詳細につきましては、9月17日に、司法制度改革推進本部事務局あてに会長名で出させていただきまして、この中には、先ほど御議論になっておりました、機関外の相対交渉における和解代理ということについても希望したいということは述べさせていただいております。ただ、本日はADR機関における代理ということを理解しておりますので、私の説明はその範囲に限ってさせていただきたいと思っております。
今日、お配りしました資料を見ていただきたいと思いますが、まず2ページに「弁理士による仲裁、調停代理の現状」と書いてありますが、御承知だと思いますが、弁理士会というのは、産業財産権ひいては知的財産の専門家である弁理士が登録し、弁理士で構成している会でございます。知的財産立国を目指して、知的創造、保護、活用の知的創造サイクルが、今、盛んに問われておりますが、産業財産部門のみならず、広く知的財産分野で弁理士がこの知的創造サイクルにおいて活躍したいという希望で、日々研さんに努めている状態でございます。
特定侵害訴訟のための能力担保研修等においては、民訴法あるいは民法等、先ほども話題になっておりました倫理につきましても、法曹倫理を取り入れる等、厳しい研修を受けている状態でございます。
また、広く知的財産の活用という観点からしますと、知的財産の価値評価とか、あるいは信託とか、活用面で広い範囲での検討を今、委員会構成で勉強している最中でございます。
そういう背景をもって、今回のADR基本法をとりまとめる際、機関における代理ということで弁理士会がお願いしたいことを申し上げたいと思っております。
まず、第1に「弁理士による仲裁、調停代理の現状」ということで御覧いただきたいと思います。現在、弁理士法の規定によりますと、特許、実用新案、意匠、商標、回路配置または特定不正競争に関する仲裁事件の手続についての代理ができる機関としましては、経済産業大臣が指定する者が行う仲裁の手続、当該手続に和解の手続も含むと規定されております。
現在、経済産業大臣の指定団体としては、日本知的財産仲裁センター並びに日本商事仲裁協会がございます。
日本知的財産仲裁センターは、日本弁護士連合会と共同で運営させていただいているセンターでございます。右の表を御覧いただきたいと思いますが、現在までで申立件数を記載しており、特許権、商標権、意匠権、著作権、知財契約、形態模倣については調停でございます。それから、仲裁についての特許権、意匠権ということで、申立件数を記載しております。そのうち、弁理士が代理人として関与した件数、弁理士が補佐人として関与した件数がここに記載されております。表には書いてないのですが、このセンターではドメイン名も対象にしておりまして、申立件数は今まで31件、うち弁理士が代理人となった件数は12件でございます。このセンターは、弁理士の代理人としての活動のみならず、仲裁、調停人として、ここに候補者として登録し活動しております。現在、219人が登録候補者でございますが、弁理士はそのうち103人という構成になってございます。ちなみに、ドメイン名については35名という構成でございます。
次のページをお開けいただきたいと思いますが、ここに「日本弁理士の要望」として、1~4まで書かせていただきました。
第1項としては、現在、弁理士法第4条第2項2号に規定されている仲裁、調停からは、著作権事件の仲裁、調停代理権が省かれております。この著作権事件につきまして、仲裁、調停代理の代理権を付与していただきたいというのが、第1項でございます。
第2項としては、現在、知的財産仲裁センターにおいて、調停事件が主体であるにもかかわらず、弁理士法に調停代理権が明確になっていないということで、弁理士の調停代理権を明確にしていただきたい。
第3項として、現在、弁理士が関与できる不正競争につきましては、特定不正競争に限定されております。後に、特定不正競争については御説明いたしますが、これを「特定」を取って不正競争全般についての仲裁、調停手続の代理権を付与していただきたい。
第4項として、現在、経済産業大臣の指定仲裁機関の仲裁、調停代理に限られておりますけれども、これを指定機関外の機関における仲裁、調停手続の代理権を付与していただきたい。この4項目でございます。
特定不正競争と申しますと、弁理士法2条第4項に規定されておるわけですが、不正競争防止法2条第1項に規定する不正競争であって、同条第1号から9号まで及び第12号に掲げるものですが、この4号から9号までは技術上の秘密に限られております。これを、技術上の秘密に限らず、不正競争全体について対象にしていただきたいというのが趣旨でございます。
次のページをごらんください。
著作権事件に関する仲裁・調停代理をお願いしたいという理由でございますが、ここに記載されておりますように、産業財産権と著作権との関連性が非常に深こうございます。そういう意味で、産業財産権について仕事をしている弁理士に、是非仲裁・調停手続についても、著作権についてやらせていただきたいという趣旨でございます。詳細は省かせていただきます。
それから、著作権との現実の関わりでございますが、弁理士試験について、既に試験科目に著作権法が組み込まれております。それから、以前に合格した弁理士に対しては、義務研修として著作権法の研修が義務づけられております。
研修所におきまして、著作権に関する会員研修が随時開催されております。
日本弁理士会の会員が、支部や付属機関である、知的財産支援センターの活動について、会員外に対して著作権の講習、あるいは啓発活動を行っております。
それから、著作権と著作隣接権を侵害する物品についての輸入差し止め手続代理を行えるようになっております。
現在は、著作権に関する契約締結の代理が行えるようになっております。
著作権侵害訴訟に、裁判所の許可を得て補佐人として関与している弁理士もおります。 以上のことから、著作権についての仲裁・調停代理権をお願いしたいということでございます。
次のページはアンケートでございますが、5,413 名を対象にしたアンケートの結果、著作権に関わる案件を受任した、あるいはその相談を受けた弁理士の件数は、488人でございます。内容につきましては、法知識の教示を求める相談のみならず、紛争対応の相談もございます。詳細は省かせていただきます。
現状、著作権に関する仲裁・調停手続についての手続代理を行うことに生じた不都合として、ここに記載されております。このような社会ニーズもございますので、是非対象にしていただきたいということでございます。
次の8ページをお願いいたします。先ほどもちょっと触れましたが「調停代理権の明確化」、現実に仲裁・調停を日本仲裁センターで行っております。仲裁ができるということで、調停は当然という解釈の下でお話しさせていただいておりますけれども、明確にしていただくために明文化していただきたいという意味でございます。
9ページをお開きください。次は、不正競争防止法に関する問題です。先ほどの1項の4号から9号については営業秘密のうち、技術上の秘密に関するものに限られておりますが、企業では技術上の秘密と営業上の秘密を一体として価値を目指しており、それを分離して考えることは実質上不可能でございます。
そういう意味で、技術上の秘密でない営業秘密も含めていただきたいという趣旨でございます。
不正競争防止法第2条第1項第10号、第11号については、コピープロテクションに関する事項でございますが、これはハード的には特許の対象にもなり、技術的知識が要求されます。その意味で、技術的知見を有する弁理士にこの項目についても対象にしていただきたいという趣旨でございます。
10ページをお願いいたします。13号、15号につきましては、商品/役務の誤認、混同の問題、あるいは代理人の不当な商標使用行為等に関する問題ですが、これらについては商標の知識あるいは知見が相当関係すると思いますので、弁理士の対象にしていただきたいと思います。
最後の4番目ですが、第2条第1項第14号、これは虚偽事実の告知流布に関する問題ですが、これは産業財産権侵害訴訟において密接に関連しております。そういう意味で、是非対象にしていただきたいと思います。
その次のページは、アンケート結果でございますが、特定不正競争以外の相談を受けた弁理士が205人になっております。以上な理由でニーズがあると思いますので、対象にしていただきたいということでございます。
最後になります。13ページをお開きいただきたいと思います。ここで、ADR機関内における仲裁等の手続に限って言えば、経済産業大臣の指定を受けた機関であると否とを問わず、同じであると思いますので、ADR基本法に盛り込まれる認証ADR機関や認証外ADR機関において、経済産業大臣の指定の有無にかかわらず、広く弁理士が知的財産権に関わる裁判外の紛争処理に携わることができるようにしていただきたい。
以上でございます。ありがとうございました。
○青山座長 どうもありがとうございました。
それでは、最後になりましたけれども、社団法人日本不動産鑑定協会の横須賀会長、どうぞよろしくお願いいたします。
○横須賀会長 ただいま御紹介いただきました社団法人日本不動産鑑定協会会長の横須賀です。本日は、このようなヒアリングの機会を与えていただいたことを、心から感謝申し上げます。
それでは、当協会が目指す裁判外紛争解決手続に基づく代理権の概要、考え方についてお話いたします。
まず、お手元に配られている「(社)日本不動産鑑定協会提出書類」と「ADR検討会ヒアリング追加資料」を踏まえながら説明いたします。
当協会は昭和40年10月1日に、不動産の適正な地価形成に寄与するために設立された公益法人である社団法人です。(社)日本不動産鑑定協会は47都道府県にある士協会とそこに所属する不動産鑑定士を会員として組織しており、会員個人に対する研修や倫理規程の適用は本会と士協会とが一体となって運営しております。そして、会員がどういった研修を受講しているかは本会のホームページで検索できます。お手元「ADR検討会ヒアリング追加資料」に掲載されていることが本会及び各士協会が実施している研修内容です。
次に、当協会が目指す裁判外紛争解決手続きについてお話させていただきます。
まず、司法制度改革との関係ですが、我々不動産鑑定士を含めた国から資格を与えられた者は独占的な業務を行っているわけですから、資格に応じた専門知識を社会に還元するということは当然であると考えております。政府が進める司法制度改革についても注目し、平成12年頃から検討を進めてまいりました。そして、15年7月に司法制度改革特別委員会を立ち上げ、裁判外紛争解決手続に関するガイダンス研修会を実施して研鑽を重ね、また、不動産鑑定士調停センター運営のための諸規程を作成し、今日に至っております。なお、ガイダンス研修会の概要はお手元の「ADR検討会ヒアリング追加資料」のとおりです。 それから、当協会が目指す裁判外紛争解決手続ではどのような案件を取り扱うのかということですが、資料に記載されておりますように、地代や家賃の紛争、借地非訴事件に係る借地権の譲渡・増改築・更新料等の承諾料に関する紛争、遺産分割の財産評定、離婚に伴う財産分与等の不動産の経済価値に絡んだ紛争について円満な解決に導く調停センターを目指しております。
そして調停センターは本会に設置し、調停センター運営規則に基づいて運営を行います。また、東京都不動産鑑定士協会では士協会事務局と東京商工会議所で常設の無料相談会を実施しており、これらと連動した調停センターを立ち上げたいと思っております。
調停センターの調停人ですが、当協会の会員は民事・家事調停員に全国で662名が参画しており、借地非訴事件手続規則に基づく鑑定員にも全国で約800人が参画しております。競売評価人は約1,240名、そして専門員として、東京で200と書いてありますが、約20人の誤りです。その他に司法委員、その他特殊な技能を持つ会員に所要の研修を受講してもらい、これらの会員を調停人として運営していきます。
また、調停人は各自が精通している区域を持っておりますので、案件ごとにその区域に精通している調停人から3人を選定し、調停事案は調停人の合議によるものとし、調停の合意に達したときには、弁護士の協力を得て調書を作成いたします。
調停センターの設立は平成16年11月2日で機関決定がなされており、目下その準備を急ピッチで進めております。
本日のテーマである代理権取得の必要性ですが、当協会の目指す調停センターは不動産に係る紛争の調停に限定しておりますが、多くの紛争当事者は専門知識を有しておりません。
これに対して、不動産鑑定士は地代・家賃、借地借家人を巡る諸問題について専門知識を持っておりますし、かつ市場にも精通しておりますので、事案についての過去からの契約の経緯やその内容、更にそれを踏まえた価額や賃料等の市場動向等を説明し、紛争当事者の理解を得ながら調停を行えば紛争の範囲も限定され、相手も納得できる公正・妥当な結論を導くことにもなり、そのことが紛争解決の迅速化に寄与するものと信じております。
具体的に申しますと、東京の場合ですが、固定資産税は概ね地価にスライドしておりますが、地代や家賃は必ずしも固定資産税の動向にスライドせず、独自の市場を形成している場合が多いのです。不動産鑑定士は借地借家法11条や32条の地代家賃増減額請求に係る地価の資料や近隣の地代家賃の資料を十分に持っており、不動産鑑定士を代理人として起用していただくことが、社会のニーズに適っているものと信じております。
不動産鑑定士は従来から本会と47都道府県の士協会とで毎年4月と10月に無料相談会を実施しておりますが、平成15年4月で2,139件、10月で1,535件、年間で約4,000件の相談を受けております。
また、東京士協会の常設の無料相談会だけでも毎月30件前後の相談があります。ただ、不動産の適正な経済価値や紛争解決のためのアドバイスを相談所で行っておりますが、無料相談会では単に相談に応じたアドバイスを行うだけという域を脱することができません。
最近の相談事例で、高齢者が所有する借地権の問題がありました。相談の内容は高齢者が借地上に建てている建物が老朽化しておりまして、借地期間が到来したときに借地権の更新とその更新料の問題が生じます。相談者によれば「建物の老朽化が激しく、自分の余命を考えると多額な更新料や増改築等の承諾料を支払うことに意味があるか。また、更新料等の調達に非常に苦労しており、何とかならないものか。」ということでした。もう一つは、定期借家権を途中解約したいのだけれども、残りの契約期間の家賃を請求されているが、どのように取り扱ったらよいのか、という相談もあります。
こういう相談に対して、いろいろとアドバイスはいたしますが、アドバイスにとどまっております。そこで、更に一歩踏み込んで、何とか高齢者の力になりたいと思うのですが、現時点ではそれはできません。そんな結論の出せないアドバイスを聞いて、高齢者が寂しげな後姿で帰っていく様子を見ておりますと、何ともやり切れない思いで一杯になります。それは、高齢者が御自分では到底解決できないということが解っているからです。
そんな時、不動産鑑定士は裁判所において調停員として活躍しており、不動産に関しては専門家でありますから、調停センターの紛争における代理人になれたら、紛争当事者の身になって、相手方への納得のいく、公正・妥当な説明を行うこともできますし、そのことが紛争解決に役立つものと考えており、我々専門家を活用することこそが、まさに司法税度改革に合致するものと思っております。
不動産鑑定士が代理人となれば、その代理人は、調停センターの調停人と同等の専門知識を有しており、各地域に精通している不動産鑑定士の名簿を本会に備えて、紛争当事者の閲覧に供すれば、紛争当事者は事由に代理人を選任できます。また、事前の打合せや現地の確認もできるような仕組みを構築しようと考えております。
不動産鑑定士は以前から不動産に関するコンサルタント業務を行ってまいりましたが、本年6月に「不動産の鑑定評価に関する法律」が改正されたことにより、従来のジャッジメントとしての鑑定評価から、不動産市場に関する調査、不動産取引等に関するコンサルタント業務が法律に明記されたことにより、制度的にも業務の質が担保されるものと思っており、更なる資質の向上のための研修も実施しております。
以上のことから、不動産鑑定士は調停センターにおける紛争当事者の代理人にふさわしい条件を備えていると確信しておりますので、これらの専門知識を社会に還元する機会を与えてくださるよう、格別の御配慮をお願い申し上げます。
ありがとうございました。
○青山座長 横須賀会長、ありがとうございました。お忙しい中を、お三人の方々御出席いただきまして、厚く御礼申し上げます。
それでは、質疑応答をしたいと思います。どの委員からでも結構です。御質問がありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。
龍井委員、どうぞ。
○龍井委員 社労士会連合会に3つお伺いしたいのですが、まず今、個別紛争処理のところでやられているあっせん代理の実態でございますけれども、いわばアドバイスとか助言ではなくて、代理でなければ立ち行かないケースとして、どういうケースがあるのか。
それから、細かいことでございますけれども、実際に代理人が必要となるものがどれぐらいの割合と見ているのか。
3点目、最後ですが、私どもから見れば業務の資格としての社労士ではなくて、社労士会として活動されている領域については、契約内容から見て、代理となる場合はやはり使用者側の代理として立たれるということが自然だし、それがまたむしろわかりやすいと私ども理解しているのですが、その点について、どんなことを考えておられるか。その3点です。
○青山座長 大槻会長、よろしくお願いいたします。
○大槻会長 では、事例を挙げて説明させていただきます。例えば、こんな事例がございます。今の企業の状況からしまして、いわゆる企業年金を廃止されると。それと、その企業年金を廃止する場合に、解散をしますから、その場合の年金額は個人の方に全部支払うと。個人が受け取ったものを、会社側はこれは退職金に充てているものだから、一旦個人に返ったものは会社へ戻しなさいと。会社に戻しなさいといって、多くのものは戻しているんですけれども、何にはもうこれを会社に戻したら、私の退職金、先行きどうなるか不安で仕方がないということで戻さなかった。戻さなかったところ、会社の方は、これは不当利得であり、いわゆる就業規則等による懲戒処分に該当するということがあったのですが、その金額は、あの場合にはたしか700 万でした。それを、返すか返さないか。その場合に、社会保険労務士が相談を受けたときに、それでは話として退職金を先に受け取ったことで扱えるようにしてはどうかというようなことがあったのですが、会社側としては、それはそうはいかないということで、いわゆる不当利得、返還請求ということを訴訟という方向に切り換えられたと。
訴訟ということに切り換えられたので、社会保険労務士はそこから当然弁護士さんに頼むというようなケースに発展していくと。
だから、その場合にもう少し突っ込んで話ができれば、代理ということで話を進めれば、裁判に行かずに、企業年金の仕組み自体をよくよく話したり何かもして合意が得られるのじゃないかと。
それから、割合ということでございますが、割合につきましては、今、どちらかというと使用者側の依頼の方が圧倒的に多いです。しかし、かと言って労働者側からそういうものがないのかと言いますと、実際に労働者側からの依頼で対応している事実もございます。例えば、その金額は30万前後のものでございますけれども、そういう事例もございます。 それと、使用者側じゃないかということでございますが、先ほど説明をさせていただきました図表を見ていただきますと、確かに上の辺りで、まず防止策に講じております。社会保険労務士が顧問でおりますから、ここでどうしても紛争が起きたという場合には、何とか内部で解決してあげたい、わざわざ外へ持ち込んでいくというよりも、内部で解決してあげたい。
その場合に、内部で解決するのに、和解があって解決になるのか、解決するには和解が必要なのかといったことになるわけですけれども、要は企業に健全な発達するためには、労働者の福祉等の向上を合わせて考えなければいけないということからすれば、社会保険労務士が使用者側に添って労働者の方に考えないというのは、企業の健全な発達につながらないということですから、使用者側というよりも、公平・公正な立場に立って解決を促進するというふうに考えております。また、それが実態でございます。
○青山座長 ほかにいかがでしょうか。
佐成委員、どうぞ。
○佐成委員 丸島先生にお伺いしたいのですが、著作権の意見全般に広げてほしいという御要望で、プログラムや商標は非常に弁理士業務と非常に密接に関連してわかるのですが、それ以外の部分というのは、このレジュメにも書かれているとおり、若干著作権とは違うような部分があると思うのでけれども、その辺の専門性というのはどのようにお考えになっているか、ちょっとお伺いしたいと思います。
○丸島副会長 純粋な著作物と、いわゆる産業財産権の関係ということで、1つは創作性ということは共通しておるわけです。いわゆる著作物の翻案、あるいは複製なのか、あるいはそうでないのかという、実際にトラブルが起こる現象を見たときに、創作性との関係で判断することが多いのではないかと思うのです。勿論、基準は私は違うと思います。ただ、そういう思考は非常に共通性があるということ。
それから、普通の著作物でも、必ず契約のときに、その電子化というか、そういうコンテンツにした場合にどうなのかということは、必ず一緒について来るのではないかと。そういう点については、産業財産権との関わりというのは非常に強くなってくるわけです。ですから、一般の著作物についても関係が非常に深いと私は思っています。
○青山座長 ほかに何かございますでしょうか。
どうぞ。
○山本委員 不動産鑑定協会の横須賀会長にお伺いしたいのですが、代理権の範囲ということなのですけれども、このレジュメの1ページ目で、協会が目指す解決手続の取り扱う案件ということで、A~Gまで挙げておられるのですが、例えば、このCやDあるいはEというようなものの紛争の中で、勿論不動産の評価というのが問題になるのでしょうけれども、紛争の現われ方としては、多分離婚の紛争があって、そこで例えば親権者を誰にするかとかいうようなことも問題になり、財産分与も問題になって、その財産分与の中に不動産があれば、その評価が問題になるというような、あるいは、遺産分割でも、さまざまな遺産を巡るほかの紛争、寄与分とか、そういう問題もあって、その中で不動産の評価が問題になるということなのかなと思いました。
その紛争全体の中の1つの側面として、この不動産の評価という問題があるような紛争事案における不動産鑑定士の代理権というものは、一体どのようなイメージになるのかということが必ずしもよくわからなかったものですから、その辺りをお教えをいただきたいと思います。
○横須賀会長 東京都不動産鑑定士協会では常設の無料相談会を実施しており、そこで色々な悩み事があって、解決ができないかという相談が寄せられます。そういった場合、調停センターを設置していれば無料相談会から調停センターを紹介されて、不動産に精通している代理人を立ててみたらどうですかという話をすることもできます。例えば遺産相続といった場合、相続人は各人の都合の良い価格を主張し、話はまとまりにくいものですが、仮に相続が兄弟間の揉め事であれば、一方の代理人になって適正なアドバイスを行い、円満な解決ができるようなことを含めた代理を考えております。
相続の場合、高額の受贈者でない人が紛争当事者になることが多いので、まず価額を巡っての紛争になりますから、その価額についての代理に限定して考えております。
○青山座長 どうぞ。
○高木委員 ついでにお聞きします。今のような事例では、代理よりは、例えば、別の形の方がなじみやすいのではないか思うのです。例えば、遺産分割などで価額が争いになっているとしたら、鑑定人として登用することの方がより適切かもしれないし、もしどうしても当事者の代理人みたいなものになるとしても、代理人ではなくて補佐人、あるいは本人と一緒にADRに参加して、その価額の部分だけアドバイスするというやり方だってあるんじゃないかと思うのですが、その辺はどうでしょうか。なぜ代理人ではなければならないのか説明がされていないと思うのです。
○青山座長 横須賀会長、いかがですか。
○横須賀会長 今の価額の話ですか。
○高木委員 はい。価額の部分について代理することがあり得るじゃないかという、山本委員への御回答に関連した御質問です。
○横須賀会長 もう一回。
○青山座長 要するに、代理人という形ではなくて、むしろ鑑定といった形の関与が考えられ、むしろそちらの方が本筋ではないか、なぜ代理人でなければいけないのかということについての御質問です。
○横須賀会長 代理人でない関与も考えられますが、鑑定をとるとなるとお金もかかります。紛争が起こるということは紛争当事者が自分の都合の良い価格を主張し合うということで価額の合意ができないわけですから、妥協できる価額を求める代理人というように理解していただければありがたいと思います。
○高木委員 もう時間の都合もございますので、結構です。
○青山座長 ほかに何かございますか。どうぞ。
○三木委員 弁理士会の方にお伺いしたいのですけれども、弁理士会の場合は既に一定限度で代理権をお持ちで、その拡大や明確化ということが御要望だと考えておりますけれども、それとの関係で、ADRの手続というのは、それ自体だけがあるわけではなくて、ADR外の相対交渉を含めた交渉、あるいは相談と不可分なところはありますが、そちらの代理との関係はどのようにお考えなのかも伺いたいと思います。
○丸島副会長 特に契約の代理権をいただいているわけですけれども、紛争性のある契約かどうかという視点で見たときに、知的財産というのは非常にどっちとも取れるような内容を持つ性格だと理解しています。要するに、警告から始まって契約が起こる場合があるし、将来の予防法的に見て、あらかじめ契約する場合がある。その契約の内容そのものから見ると、結局相手の財産からの攻撃を防ぐということによる契約ですから、基本的には紛争性というものが内在しているのだろうと私は理解しております。
そういう意味で、契約交渉のときに、当然のことながら和解代理がしたいということはつきまとってまいります。冒頭申し上げたのは、そういう趣旨から、係争性がなければ和解代理ができる、係争性があるとだめということでありますと、その区別が非常に付きにくいということで、私は相対交渉における和解代理も含めていただきたいという感じございます。
○青山座長 よろしゅうございますか。それでは、時間の関係もございますので、これで3団体からのヒアリングを終了したいと思います。各団体の代表の方々、本日は御多忙の中どうもありがとうございました。
それでは、引き続きまして、これまで7つの隣接法律専門職種の団体から御意見を伺ってまいりましたけれども、今度は日本弁護士連合会の副会長でいらっしゃいます、木村副会長からお話を伺いたいと思います。大変短い時間で恐縮でございますが、15分の範囲内でどうぞよろしくお願いしたいと思います。
○木村副会長 日本弁護士連合会副会長の木村謙でございます。時間が押しておりますので、早速本問題について日弁連の意見を申し上げます。なお、この裁判外紛争解決手続については、以下簡単にADRと略称させていただきます。
結論を先に申し上げますと、ADRにありましても、法の支配の観点から、弁護士法72条は堅持されるべきであり、ADR手続の代理権についても、現行法制度で認められている以上の権限を、隣接法律専門職種に付与することは相当でないと考えます。
以下、平成16年8月20日付け意見書に基づいて理由を申し上げます。若干順序を入れ換え、あるいは表現を変えて説明しますことを御了承願います。まず、基本的な考え方を申し上げ、次に各隣接法律専門職種、以下各士業と申しますが、それについて申し上げます。
基本的な考え方について、3つの角度から申し上げます。
その1として、法の支配の観点から、弁護士72条は堅持されるべきであり、ADRが紛争の解決として、当事者及び第三者の法的権利義務を処分したり確認したりするものである以上、法の枠内で行われなければならないことは言うまでもありません。
先ほど御説明がありました、ADR法案の基本理念等の中に、法による紛争解決とうたわれていることは、まさにこのことを直接的に表現したものでありまして、裁判外であっても法による公正かつ適正な解決が図られなければならないことは、論を待たないところであります。
したがって、有資格者である弁護士が法の支配の重要な担い手として、ADR活動の中心に位置する必要があります。弁護士法72条の趣旨につきましては、昭和46年7月14日の最高裁判決が述べておりますように、法的知識もなく、倫理的な規律に伏することがない者が、他人の法律事件に介入することは、当事者その他関係者の権利利益を損ね、法律生活の公正、円滑な営みを妨げるということにあります。
ここで、代理行為の特性について触れておきたいと思います。代理とは、代理人の行為の結果が依頼者本人に直接帰属する効果を持つことであります。ADRについて言えば、代理人だけが出席したADRで、代理人が和解案に応諾すれば、仮にそれが本人の意思に反していたとしても、和解は法的に有効となります。また、代理人は依頼者と直接接っして相談に乗りアドバイスをして、本人の決断を導く立場にあります。その際、代理人は、本件が最終的に訴訟に移行した場合に、結論がどうなるのか、現段階で和解した方が実質的には依頼者にとって有利かどうか等々の、極めて困難な判断を迫られます。これらの問題を解決し、依頼者の権利を擁護していくためには、単に一定分野の法律知識だけではなく、紛争解決に関する専門知識、判断力、例えば、立証の難易、方法等の訴訟法に関する知識・能力が必要とされます。これに加えて、後にも触れます職業倫理が絶対的に必要とされます。
このようなことから、代理は手続実施者よりも高度な公的知識、いわゆる専門的知見、それに必要な法律的能力、倫理規律を要求されるということができます。したがって、各士業に代理権を付与するかどうかを判断する場合には、その士業本来の職務の内容、性格等に照らし、そのような専門知識、能力、倫理を有していると言えるかどうかを、後に述べる問題点や留意点も合わせて慎重に検討しなければなりません。
私ども日弁連は、その検討の結果、資料の「ADR代理に関する日弁連意見(要旨)」の2枚目にありますように、現行制度を超えてADRの代理業務を許容することには反対であります。すなわち、司法書士と弁理士以外の士業に、ADRの代理権を付与することは適切ではないと考えるものであります。各士業が主張されておりますように、自分が設立したADR機関であれば、その士業が代理できるということに論理必然性は全くございません。
基本的な考え方のその2についてでありますが、ADR手続代理について、隣接法律専門職種の活用に関する問題の位置づけであります。これについては、3点を申し上げます。 その第1は、ADRの簡便性から、必ずしも職業的代理人の関与は必要としないということであります。本来ADRは、当事者本人が自主的、主体的に紛争を解決する部分を支援するものでありまして、そのためにこそ専門的知識を備えた手続実施者がちゃんと用意されているからであります。
第2は、それとの関連で、弁護士以外の職業的な代理人がADR手続に関与することの社会的ニーズが、どれほどあるか疑問であることであります。確かに、税金、不動産、評価、土地家屋の調査、社会保険等の専門的な事業につきまして、弁護士の専門的知識が不足する分野があります。しかし、その場合は当該士業が、弁護士の補佐として関与すれば足りることであります。現に多くの場合がそのように行われております。紛争解決についての専門知識、経験がないこれらの職種について、新たに代理業務を創設するほどのニーズはないと言えます。
なお、知的財産分野につきましては、現在日本弁理士会と日弁連との共同事業で仲裁センターが設置される等、ADRが行われておりますほか、日弁連では知財研修を進め、知財弁護士の養成を図っておりまして、この点からもこういった問題の解決に大いに寄与できることと考えております。
これら以上の2点に関しましては、ここで少額・簡易な事件について検討したいと思います。弁護士は、少額・簡易な事件をフォローしきれるのかという疑問があろうかと思います。確かに、今次の司法改革におきまして、隣接士業の活用ということが言われるようになりましたのは、弁護士人口の不足等による、当面の法的需要を充足させるための措置を講じる必要があるからであります。しかしながら、現時点までに認定を受けた司法書士は8,700名を超えており、また、弁護士も年々増加の一途をたどり、本年10月1日司法修習生から弁護士として登録した者も900名を超えております。このように、現行の法制度のまま推移するならば、ADRが実施される時点では、弁護士と認定司法書士のみで十分フォローすることが可能であると考えます。また、ADRは本来本人自らが手続を執る簡便さに長所があり、本人に知識・判断力が不足しているときは、手続実施者が後見的機能を発揮して、その足りないものを補えばよいと考えております。
第3として、そのような問題があることから、本来限局的な問題であるADR手続代理の問題をもって、72条の在り方を規定したり、変容させるのは相当ではないということであります。
司法制度改革審議会の意見書も、弁護士と隣接士業との関係につきましては、弁護士人口の大幅な増加と諸般の弁護士改革が現実化する将来において、改めて検討する必要があるが、当面の法的需要を充足させるための措置を講じる必要から、隣接士業の活用を図るとしております。
ところで、今次の一連の司法改革におきまして、弁護士人口の大幅増加、総合法律支援法に基づく、日本司法支援センターの設立、法律相談センター・公設事務所等の充実、司法書士法、弁理士法、税理士法の改正による専門士業の活用のための措置が実施され、近い将来には弁護士が足りないことによる司法へのアクセス障害は、格段に改善される見通しがあります。
そのような時期に、しかも上に述べたような検討を行う前に、いかにADR代理という限局された局面であるとしましても、代理権の付与を安易に許容することは、弁護士法72条を根底から崩すものでありまして、大いに問題があります。
このことを、いわゆる相対交渉代理の問題に即して申し上げたいと思います。先ほど小林参事官からもその危険性についての御指摘がございました。これは、あくまでも仮定の話でございますが、仮に一定の範囲で隣接士業にADRでの代理権を認めると仮定した場合、ADRの手続外で依頼者の代理人が紛争解決のため、相手方と交渉することを許容するか否かがこの問題であります。現行法下におきましては、これは弁護士と簡易裁判所の事物管轄の範囲内での認定司法書士しか認められておりません。もしも、ある士業にこれを許容したとするならば、当該士業はADRの名を借りて、あらゆる紛争に介入し決着させることが可能となり、弁護士72条の趣旨は完全に失われることになります。仮に分野を限定したり、手続段階を限定したとしても同様であると思います。そして、これによる不利益は、直ちに利用者である国民に帰せられます。なぜならば、訴訟やADR手続においては、中立の第三者、多くは裁判官や弁護士でありますが、その第三者による後見的機能を期待することができますが、相対交渉ではそのような機会は得られないからであります。
また、特定の士業については、ADR手続代理の参入が、専門性の活用によるADRの健全な発展を目指すというよりは、領域拡大の意図が背後にあると考えざるを得ない状況にかんがみますと、この問題は今後の司法制度に立って、重大な意味を持っていると思われます。言わば「蟻の一穴」でございます。
したがって、手続外での相対交渉は一切許容されてはならないと強く指摘しておきたいと考えます。
基本的な考え方のその3、最後でありますが、各士業について個別検討を行うに当たっての留意点に触れておきたいと思います。3つの点を指摘いたします。
その第1は、専門性を活用するというときの専門性とは、単に当該紛争に関連する法律分野の知識、すなわち実体法の知識にとどまりません。紛争解決分野においても専門的知識、すなわち訴訟法的知識が必要とされるということであります。なぜならば、既に申し上げましたように、代理人はADR手続において、当該紛争が将来訴訟に移行した場合の帰趨をも見据えて判断しなければなりません。そのため、代理人には主張の選択の立証についても、的確に判断できる能力が求められるからであります。
その第2は、倫理性の確保であります。ADRの利用者に損害を与えないために、代理人には守秘義務、説明義務は勿論のこと、双方代理、違法行為への加担の禁止等を含め、さまざまな法的・倫理的規律が課せられなければなりません。しかし、隣接士業にあっては、必ずしも倫理規程が整備されておらず、あってもその実効性に疑問のあるのが実情であります。
また、特定の士業については、これまで当該士業が紛争解決の実績があると主張してきた事項は、その本来業務から外れ、弁護士法、司法書士法違反の疑いのあるものが含まれるのでありまして、当該士業団体がこれをもって実績とすることには、大きな疑問を禁じ得ません。
その第3は、各士業の職務の固有の性格です。ほとんどの士業は行政庁と民間との間の諸行為に関するもので、いわば行政権の円滑な遂行の補助を業務としております。でありますので、行政庁の監督に服しているわけであります。
したがって、これら本来の業務と、ADRのような紛争解決業務、これは司法の一分野でありますが、これとの間には截然とした差異がございます。
以上の基本的な考えに基づき、各士業に即して申し上げます。
まず、職務内容に高度な専門性があるかないかについて申し上げます。あるとしても、紛争解決分野について専門性があると言えるかどうかでありますが、司法書士、行政書士については、そのような専門性はございません。それ以外の士業については、法律分野において高度な専門性があると言えますが、そのうち弁理士以外の士業、すなわち税理士、不動産鑑定士、土地家屋調査士、社会保険労務士でありますが、これらは紛争解決分野における専門性に欠け、更に職種によっては代理業務が職務の固有の性質になじまない等、代理を業として営むことは不適切と言わざるを得ません。
これらに対し、弁理士は現在、経済産業大臣が指定する機関で、単独代理権が認められており、今後新設される弁護士会仲裁センター等での単独代理は認められてよいと考えるところであります。詳細については、先ほどの別表の方を御覧いただきたいと思います。
最後に司法書士と行政書士についてでありますが、これらは紛争解決分野について、いずれも専門分野を持ちません。しかしながら、両者には明確な違いがございます。すなわち、司法書士は既に現行制度上、簡易裁判所の事物管轄の範囲内で訴訟等の代理権が認められ、司法制度の一翼を担っているということであります。これに対し、行政書士には官公書への提出書類等々を代理人として作成すること、書類作成について相談に応じること等が認められているにすぎません。代理人として、紛争解決に関与するには、全くのその基盤を欠いていると言わざるを得ません。
その資格試験、職務の実体、その他既に指摘しました倫理性の確保、職務の固有の性格等々、幾つかの問題点に照らすならば、行政書士に代理業務を認めることは、たとえ限定された機関、限定された分野、限定された価額でありましても、強く反対せざるを得ません。これらは、能力担保措置によって代替し得るものではないと考えております。
以上のように、司法書士と弁理士につきましては、現行法制度の範疇で代理人としてADRの発展に一定の貢献を期待することができると考えております。
しかし、その他の士業について、代理業務を認めることは適切でなく、とりわけ行政書士に関しては、既に述べましたとおり専門性もなく、法律生活の公正・円滑な営みを阻害しかねないおそれがありますので、国民の権利擁護の観点から、これに代理業務を認めることは到底許容されるべきではないと考えます。
以上でございます。
○青山座長 どうもありがとうございました。若干、時間がございますので、質疑がございましたら、どうぞお願いいたします。
佐成委員、どうぞ。
○佐成委員 レジュメでは、司法書士、弁理士以外については代理権付与は不適当であるとされていますが、これは代理権とは直接関係ないかもしれませんけれども、ADRの拡充・活性化という目標に向かって、隣接法律専門職種は、代理以外のどのような形であれば、代理権付与をしなくても、拡充・活性化につながるという御見解なのか、確認させて頂きたいと思います。
○木村副会長 先ほど、私は、弁理士会及び司法書士会については認めるということを申し上げました。そして、先ほど申し上げました法律分野についての専門性が高い職種につきまして、代理業務よりむしろ手続実施者として関与することが、このADRの拡充・活性化につながるというふうに、基本的に考えております。
○青山座長 ほかにいかがでしょうか。
どうぞ。
○龍井委員 関連の質問になりますけれども、「代理を認めることは相当でない」などとされている士業について、細かいコメントを拝見すると、それぞれの職務内容、資格の内容として、「それが想定されていない」あるいは「経験の蓄積が不十分である」と、若干レベルが違う書きぶりになっているように読めるのですが、例えば、こういう条件なら今後認められ得るといったものあるのでしょうか。
○木村副会長 それについては、まだ未検討でございます。
○青山座長 ほかにございますでしょうか。
それでは、私の方からお伺いします。司法制度改革審議会の意見書でADRの分野で弁護士以外の法律専門職種を今後活用して、ADRを拡充・活性化すべきだということがうたわれているのは、御存じのとおりだろうと思います。
その場合の法律専門職種の活用というのは、今おっしゃった意味ですと、代理ではなく、主宰あるいは補佐という限度にとどまっているという御認識ですか。
○木村副会長 私の考えは、先ほどいろいろと申し上げましたような理由からなじまない。むしろ、その専門性を高く生かすためには、実施者として活動されることがより望ましいというふうに考えております。
○青山座長 意見書をそういうふうに読んでおられるという意味ではないですね。
○木村副会長 必ずしもそうではありませんが、いろいろ検討した結果は、そのように考えております。
○青山座長 そうですか。わかりました。ほかにいかがでしょうか。
三木委員、何かございますか。
○三木委員 先ほど弁理士の方に質問したのと同じことですけれども、弁理士については高度な専門性もありますし、現在既に一定の範囲の代理権もあるわけですが、その場合にADRの手続だけの代理というのは、なかなか非現実的で、ADRの周辺と言いますか、ADR外の部分の代理について、どうお考えなのか。ちょっとお聞かせいただければと思います。
○木村副会長 それについては、いろいろと難しい問題もあります。先ほどの相対交渉代理について申し上げたことも、やはり重なってくるかと思います。今までの検討では先ほど申し上げたとおり、弁理士につきましては特定の機関におきましての代理権というふうに考えております。
○三木委員 手続終了後に、よく裁判所の民事調停などでも、代理人同士で話し合いをするなどといったことは、手続外でも必然の流れとしてあることがあるわけですが、そういったものは認めにくいという御趣旨でしょうか。
○木村副会長 先ほどの司法書士会等々でもおっしゃっておりましたように、期日外ではできないと考えるべきではないかというふうに考えます。と言いますのは、例えば、ADRに持ち上げられたものを、相手方が、例えば、取り下げればどうこうするという交渉も可能にすることもありまして、そうしますと、ADRの実施者による後見的機能の枠内に出ることを許容することになると。そういうことはやはり相当ではないと考えています。
○青山座長 ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。
それでは、今日はお忙しいところを御出席いただきまして、どうもありがとうございました。
本日予定しております議事はこれで終了いたしますが、最後に事務局から、今後の検討会の予定について御説明をお願いしたいと思います。
○小林参事官 それでは、今後の検討会の予定についてお話をしたいと思います。検討会につきましては、あともう一度開催をしたいと考えております。その際のテーマといたしましては、1つは、今回の隣接法律専門職種の代理の問題、もう一つは、これも前々から宿題になっております、中長期的な課題についての議論を考えております。
このうち、隣接法律専門職種の代理の問題につきましては、今日のヒアリングをお聞きいただければおわかりいただけたかと思いますけれども、一方でかなり個別的な議論を詰めていく必要があるということがございますが、他方、やはり全体を見渡した議論を、場合によってはADR代理以外の問題にも波及しかねない問題ということもございますので、かなり慎重に議論を整理していく必要があるのではないかと考えております。
他方、これは誠に申し訳ないことであるわけでございますが、残された時間はかなり限られているということもございますので、今回のヒアリングの内容を踏まえまして、関係方面と十分意見調整をさせていただいた上で、次回の検討会にどういう形で整理していくのかということを事務局からお示しをして御意見を伺うという形で進めさせていただきたいと考えております。
よろしくお願いいたします。
○青山座長 この問題は、最初にも申しましたように非常に大きな問題ですので、すぐにこの検討会の設置期間内に法律改正というようなことをするということは考えておりませんし、もし法改正が必要であるとしても、方向性について十分に議論をして、その方向性にしたがってADR法の施行に間に合うように、各士業法の改正をして頂ければよいと考えております。ですから、検討会としては。その基礎としての議論を尽くしておきたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願いしたいと思います。
どうぞ。
○高木委員 時期的には、次回の検討はいつ頃になるのでしょうか。
○小林参事官 一応、今のところ予定いたしておりますのは、11月上旬から中旬にかけての時期を考えております。日程につきましては、できるだけ早く確定はしたいと思いますけれども、今しばらく時間をいただきたいと思います。
○青山座長 それでは、本日はどうもお疲れ様でございました。御苦労様でございました。