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ADR検討会(第5回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり


1 日 時
平成14年6月10日(月) 15:30~17:30

2 場 所

司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者

(委 員)
青山善充、安藤敬一、髙木佳子、原早苗、平山善吉、廣田尚久、三木浩一、山本和彦、横尾賢一郎、綿引万里子(敬称略)

(事務局)

山崎潮事務局長、松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林徹参事官

4 議 題

(1) 法的効果の付与等について(その1)(時効中断効の付与)(第4回検討会の続き)
(2) 法的効果の付与等について(その2)(執行力の付与)

5 配布資料

資料5-1 ADR検討会において出された意見等(総論)
資料5-2 ADR検討会において出された意見等(各論)
資料5-3 時効中断効の付与のオプション(補足)
資料5-4 説明資料(執行力の付与)
資料5-5 参考資料(執行力の付与)
資料5-6 参考資料(主なADRの手続比較)
資料5-7 ADRの拡充・活性化関係省庁等連絡会議の設置について

6 議 事

 (1) 開 会

 (2) 法的効果の付与等について(その1)(時効中断効の付与)(第4回検討会の続き)

第4回検討会に引き続き、時効中断効の付与について討議が行われ、以下のような意見が出された。

○ 次のような観点からも、時効中断効は広く認められるべきであると考える。

  1. ADRへの申立てに時効中断効を付与することによって、時効中断の有無についての争いが裁判所に持ち込まれ、裁判所の負担が増えるのではないかという議論があるが、現在、時効が中断するかどうかについて裁判所に持ち込まれている争いは、法律で制度を作ることによって減り、仮に争いとなってもごく形式的なものとなるはずである。また、現在、時効中断を目的として訴えが提起されるケースがあるが、その一部がADRに回ってくることなどのプラスマイナスを勘案すれば、裁判所の負担は軽減されるのではないか。 
  2. 時効は立証の問題であるから、ADRが第三者として証明することができるように制度を仕組めば、立証も簡単になると思われる。
  3. ADRへの申立てに時効中断効がないために、ADRでの紛争解決中に時効の完成が近づいてきた場合、主宰者は申立人に対して、時効中断のための訴え提起を打診すべきかどうかという問題が生じる。 この場合、主宰者が時効の援用について打診することは、主宰者としての中立性が疑われることになりかねないが、他方で、主宰者が打診しないまま時効が完成し、権利が消滅してしまっては、ADRは不信を買うことになり、いずれにしても問題がある。

○ 時効中断効の付与のオプションについて、効果という面からみると、

  1. 「時効停止タイプ」は魅力的な制度ではあるが、日本の法制度の中では異例なものであり、導入は困難ではないか。
  2. 「仲裁タイプ」のように、ADRでの手続開始自体に時効中断効を与えるという考え方は、当事者の合意が形成されなくても必ず第三者の判断により解決されるときにのみ可能であって、調整型を含むADR一般に適用するのは困難ではないか。
  3. そうすると、「民事調停タイプ」や「個別労働紛争解決促進法タイプ」が考えられるが、「個別労働紛争解決促進法タイプ」のように、権利確定を担うのは訴訟であることを前提として、そのつなぎの手続としてADRを捉える方が、要求される要件が軽くなると考えられるし、現行の個別制度との整合性の面でもよいのではないか。
  4. 民法第151条の類推適用が可能かどうかという点については、なお解釈論として残るものの、制度論としては「個別労働紛争解決促進法タイプ」がよいと考える。
時効中断効を付与するための要件としては、
  1. ドイツ民法のように、ADRでの交渉に入ることへの相手方の合意を時効中断の手がかりとすることができれば、ADRの独立性や公正性は必ずしも必要ではないと考えることもできるのではないか。
  2. 合意の有無は立証の問題とならざるを得ない。基本的には、現行制度の催告や承認の場合と同じ問題と捉えてよいと考えるが、手続的安定を確保するため、一定のADR機関を認定する方法をとってもよいのではないか。この場合には、(ⅰ)認定された機関に直ちに時効中断効を付与する仕組みと、(ⅱ)電子署名法の仕組みのように、法的効果を与えずに、より緩い基準で、記録管理等がしっかりしている機関を認証することで、事実上の効果として、証明を軽くする仕組みとが考えられる。

○ 消費者の立場としては、時効中断効の付与は必要であると考えており、そのために整備すべき条件について今後提言をしていきたいと考えている。

 時効中断効の付与のための条件として、機関・要件・制度のタイプについて考えてみると、

  1. 機関に関しては、悪質な事業者による利用を排除することが必要と考えている。そのために、機関の認定という手段以外にも方法がないかを考える必要がある。
  2. 要件に関しては、利用者が主体的に手続に関わることができるものとしてもらいたい。その際に、当事者の同意を必要とするだけでよいのかどうかについては、なお議論が必要である。
  3. 効果に関しては、「個別労働紛争解決促進法タイプ」のように、ADRでの手続開始時に遡って時効が中断する方式でよいと思われる。この場合、事案がたらい回しにされることが多い現状も踏まえ、ADRでの手続開始時といってもどこまでの機関を含むのか、苦情処理からスタートするケースにはどこまで遡るか等について議論する必要がある。

○ 時効中断効を付与する制度としては、広い意味での「時効停止タイプ」の方が、ADRの趣旨に沿っていると思われる。

  1. UNCITRALにおける調停モデル法の議論の中では、「時効停止タイプ」を想定して議論がなされているが、これは、調停終了時にこれまで進行していた時間をゼロにまで戻す必要がないのではないかという考え方が根底にあったために、時効中断ではなく時効停止を選択したのではないかと思われる。
  2. 現行の民事調停にせよ、個別労働紛争解決促進法にせよ、不調の場合には、後に訴え提起が控えている場合にのみ時効中断を認めており、広い意味での時効停止タイプとみることもできなくもないから、既存制度との整合性について考えてみても、それほど異なる哲学に基づくものではないといえるのではないか。
  3. ただし、ドイツ民法では当事者間での交渉による時効停止を規定していることから考えても、ADRでの紛争解決と交渉との間に線を引くことがよいのかどうかについては、なぜ時効が停止するのかといった基本哲学の問題であり、よく考えなければならない。

○ 「時効停止タイプ」という言葉を広い意味で捉えるとすれば、民法で規定されている時効停止の概念との混乱が生じないように、用語を整理して議論する必要がある。 また、民法から離れた時効中断事由を認めるべきではなく、基本的には民法で認められている中断事由をベースに(例えば、和解のための呼出と同視できるADRへの申立てについては、「和解のための呼出」とみなす)、対象や要件を考えた方がよいのではないか。

○ ADRを「裁判と並ぶ」ものでなく、「裁判につなぐ」ためのものとして活性化を図るものと捉えれば、あまり大きな権力をADRに付与することは適当でなく、現行制度を少し拡大する形で、ADRにある程度の力を付与することが望ましい。時効中断効を付与するための制度についても、このような観点から考えるべきである。

○ アンケートの結果などを見ても、時効中断効が必要であるとの要望は強いようである。
 時効中断を認めるための制度としては、仮に、以下の4つの方法について考えてみることができる。

  1. 民法が規定する中断事由とは別のメニューとして、ADRへの申立て自体に時効中断効を与える方法が考えられるが、民法では訴えが却下されたり取り下げられた場合には時効中断効が生じないこととされていることとのバランスから考えて、和解にまで至らない可能性が高い類型を含むADRへの申立てに、時効中断効を認めることはかなり難しい。
  2. 現行の民事調停法、個別労働紛争処理法や公害紛争処理法などは、民法第151条の内容を立法によって個別的に明らかにしたものと解することができ、これと同様に、ADRでの紛争解決が不調に終わった場合に、訴えを提起すればADRへの申立て時に遡って時効が中断するという方法は、現行制度との比較から考えても無理がないと思われる。今後、効力を付与するための要件を絞っていけば、立法は可能かもしれない。
  3. 民法第153条の催告に当たるものとして、6ヶ月以内に訴えを提起すれば時効中断効が生じるものとする方法も考えられる。
  4. ドイツ民法のように、交渉開始から終了までの間は、時効が停止するものとする方法も考えられる。このような規定を民法に設けるのは困難かもしれないが、民法とは別の法体系として規定するのであれば、可能かもしれない。
今後は、これらの方法のうち、特に2.~4.の可能性について、要件を絞りながら考えていかなければならない。

○ 時効中断効を付与する対象として、相談や苦情処理を取り込むにはどうすればよいかを考えなければならない。例えば、ADRを介して当事者同士が話し合っていることが分かる場合などは、それなりに交渉の実態がある部分を取り込む形で時効中断効を認めることはできないか。

 (3) 法的効果の付与等について(その2)(執行力の付与)

 事務局より、資料5-4に沿って説明が行われた後、以下のような討議が行われた。

○ 債務不履行が生じる原因は、当初の合意内容が不十分であったためとも考えられる。ADRは当事者の合意に基づいて紛争解決を図るものであることを考えると、このような場合に、再度合意を得る努力をせず、すぐに国家権力による執行に結び付けるのは、私的自治による紛争解決というADRの基本理念に反するという考え方もあり得るのではないか。

○ 消費者の立場からの考え方としては、

  1. ADRの定義付けがはっきりしないままに、執行力を付与するかどうかの議論を進めるのはよくないと考えている。また、アンケート等で要望が高いからといって、既存のADRの現状を追認する形で執行力を付与するというのはありえない。
     まずは、ADRをどのように定義するかを考えるべきであり、執行力を付与するかどうかは第2ステップの段階であると考えられる。
  2. 当事者がどの段階で執行力の選択という問題と向き合うのかに注目している。(i)ADRへの入口の段階で執行力が必要かどうかを選択することになるのか、(ii)ADRの手続が開始された後に、手続又は案件に応じて、執行力の選択という場面に遭遇することになるのか、(iii)ADRでの結論が出た後で執行力を付与するかどうかを選択することになるのか。
     (iii)のような形で執行力が付与される制度であれば、あった方がよいとする意見もある。
  3. ADRでどのようなことが行われているのかについての情報が必要である。ADRの特長として非公開性が挙げられることが多いが、これによって、執行力の選択に必要な情報まで得られないことになるのは問題である。

○ UNCITRALにおける調停モデル法の議論の中では、時効中断(停止)効の付与に関しては、調停モデル法に規定を置くことは技術的な面で難しいとしながらも、時効中断(停止)効を付与すべきという考え方の方向自体には各国の間で争いはなかった。一方、執行力の付与に関しては、各国の間で、そもそも付与することが望ましいかどうかという点で議論があり、考え方の方向自体が一致しているとはいえない。
 また、今後、執行力の付与について検討する際には、仲裁から相談・苦情処理までの幅広いADR全体について漠然と議論するのではなく、はっきりと調停・あっせんを念頭に置きつつ、その性格を見据えながら議論を進めていくべきである。

○ 弁護士会仲裁センターからは執行力の付与を望む声が大きいとの紹介があったが、これは、すべてのADR機関について考えているのではなく、弁護士会仲裁センター自体又はこれと同視し得る程度の機関のみを対象に、執行力を付与すべきかどうかを議論していることを付言しておく。
 また、弁護士会の内部でも、必ずしも執行力の付与に賛成というわけではなく、

  1. 執行力の付与によってADRの良さが失われてしまい、そもそもADRとは言えなくなるのではないかという危惧があるため、執行力の付与には反対である。
  2. 執行力を付与するADRには、一定の要件を求めるべきである。
  3. 裁判所との連携の問題と捉え、即決和解や公正証書の形で執行力をつけるものとして、これらの手続を簡略化する方法を考えられないか。
といった多様な議論があることに注意すべきである。

○ 次のような理由により、執行力の付与については政策論と捉え、法律により執行力が付与されるADRを個別に指定する方法によってはどうかと考える。

  • 既存のADR機関の中にも、執行力を付与するための要件を満たしているところはあると思われるが、ADR全体を念頭に要件を議論すると、場合によってはADRを規制する方向につながりかねない。
  • 一方、規制を避けるためには、即決和解等の既存制度をいわゆる便法として利用しやすくすればよいという議論もあるが、便法自体にもいろいろな問題があるし、そもそも当事者に二度手間をかける方法であり、今後ADRが取扱う事件数が増えれば、このような方法では対応できなくなる可能性がある。
  • 時効中断効と執行力とでは問題の深刻さが異なる。時効は権利が消滅するか否かの問題であるが、執行力は権利が消えるものではなく、ただ、ADRでの結論と履行との間に時間・手続をかけるか否かである。時効は法律論で解決すべきだろうが、執行力は「政策論」で解決すべき問題である。大抵の案件は任意履行されていることは確かであるが、不履行が生じた場合に二度手間となることを避けるために、合意時点と執行との間の時間的な間隔を縮小することも、政策的にはありうるのではないか。
  • それでは、執行力を付与するADRをどのように選別するかであるが、執行力の付与を政策論として捉える立場からは、現行制度では執行力が与えられる場合がすべて法律に定められていることも考えると、ADRについても、具体的にどの機関にどのような形で執行力を付与するのかを特定して、法律によって定めるべきであると考える。その場合には、ADR基本法では執行力を他の法律で付与できる機関の類型を定めることになるだろう。

○ 執行力の付与について議論する場合には、既存の法制度との整合性について考えなければならない。

  1. 現行制度では、仲裁判断に執行力が与えられているが、UNCITRALの調停モデル法の議論の中でも、仮に調停に執行力を付与するとしても、手続面でも効力面でも、仲裁を超えることはできないという考え方が共通の認識であった。
  2. 契約についての一般理論では、調停における和解合意には、単なる民法上の和解契約の効果しか与えられておらず、当事者間の合意に執行力を持たせる制度は存在しない。このことを考えれば、ADRであるから直ちに執行力を与えてよいのではないかという議論は短絡的すぎるのではないか。
  3. 現行の執行法制では、一定のプロセスに着目して執行力を与えているというより、むしろ、公務員が関わった場合にのみ執行力を与えることとしているとみることもできる。仲裁手続であっても、民間人である仲裁人が、収賄罪の対象となったり、忌避事由に服するなど、公務員、裁判官に近い取扱いがされているものであり、さらに、執行力を得るには裁判官が関与する執行判決が必要である。
 ADRに執行力を与えるかどうかを議論するには、このような現行制度の仕組みを越えることが望ましいのかどうか、越えるとすればどのような理由によるものかを考えなければならない。

○ 一般論としては、現場のADR機関からの需要はできるだけ尊重すべきであると考えるが、執行力の問題に関しては、アンケート結果の見方には慎重であるべきである。すべてのADRにおける合意に執行力を与えるべきとする要望に応えるのは無理であり、何らかの限定をせざるを得ない。
 執行力を付与するためのアプローチの範囲は、それほど広くないと思われ、

  1. ADRにおける合意の公証という観点からみた場合、ADRに公証に代替する効力を付与することが考えられる。しかし、国の機関である公証人に代替する権限を民間に認めるべきかどうかについては議論があるところであり、少なくとも認証制を採らざるを得ないし、さらに、執行力を付与できるのは金銭給付を目的とする請求権に限られるなど、公証制度の要件を越えることができないと考えられるが、それでもなおADR機関からの需要があるのかどうか疑問である。
  2. 内容や手続のチェックという観点から見た場合、裁判所の執行判決(決定)など、いずれかの段階で裁判官によるチェックを行うことが考えられる。 しかし、類似の制度をもつフランスでは、対象は、裁判所が付調停とした場合や公認の調停人が関与する場合に限定されており、すべてのADRに認めることができるかどうかは疑わしいし、また、現行の即決和解を利用する方法に比べてどれだけメリットがあるかという疑問も生じ得るが、そのような制度を前提としてもなおADR機関からの需要があるのかどうか、直ちには明らかでないのではないか。
 このように、時効中断効の議論と比べて、執行力の付与についてはより慎重な検討が必要である。

 (4) その他

その他、ADR検討会の議論とも関係する動きとして、
  1. ADRの拡充・活性化関係省庁等連絡会議の設置
  2. 推進本部顧問会議メンバーと各検討会座長との懇談会
  3. 議員立法による社会保険労務士法の改正の動き
 について、説明があった。

 次回は、7月22日13:30から、執行力の付与(続き)と裁判手続との連携についての議論と、関係機関として最高裁判所、法務省、日弁連からのヒアリングを実施することとなった。

(以上)