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ADR検討会(第6回) 議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり


1 日 時
平成14年7月22日(月) 13:30~17:30

2 場 所

司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者

(委 員)
青山善充、安藤敬一、髙木佳子、龍井葉二、原早苗、平山善吉、廣田尚久、三木浩一、山本和彦、横尾賢一郎、綿引万里子(敬称略)

(説明者)

菅野雅之(最高裁判所事務総局民事局第二課長)
小野瀬厚(法務省民事局参事官)
鈴木誠(日本弁護士連合会A DRセンター委員長)

(事務局)

古口章事務局次長、小林徹参事官

4 議 題

(1) 関係機関からの説明
(2) 裁判手続との連携について(説明)
(3) 関係機関及び事務局からの説明に対する質疑
(4) 裁判手続との連携について(討議)
(5) 執行力の付与について(第5回検討会の続き)
(6) その他

5 配布資料

資料6-1 関係機関説明資料(最高裁判所)
資料6-2 関係機関説明資料(法務省)
資料6-3 関係機関説明資料(日本弁護士連合会)
資料6-4 説明資料(裁判手続との連携)
資料6-5 参考資料(裁判手続との連携)
資料6-6 執行力付与のオプション(補足)
資料6-7 ADR検討会において出された意見等(各論)
資料6-8 参考資料(ADRの拡充・活性化関係省庁等連絡会議関係)

6 議 事

 (1)関係機関からの説明

最高裁判所、法務省、日本弁護士連合会より説明があった。
各説明者より、次のような発言があった。

・ 民事調停の現状については、(1)新受件数は近年増加を続けている。(2)平均審理期間は2.5ヶ月と、スピード化が図られている。(3)7割程度が円満な解決が図られており、実効性があがっている。
民事調停が利用される理由としては、

  1. 裁判官の関与による法的評価、調停員の研修の充実や各方面の専門家の活用などによって、調停制度への信頼が高くなっていること
  2. リーフレット・定型申立書の備置や、HPや手続案内システムの導入によって、アクセスが拡充されていること
があげられる。
ADRに求められるものとしては、
  1. ADRの存在自体を国民に知ってもらうために、地方公共団体にADRの窓口を置くことや、裁判所の窓口に訪れた者にADRに関する情報を提供すること
  2. 信頼性や中立性を高めるために、裁判所OBのADRでの活用やADRの主宰者を調停員に登用することや、裁判所とADRで協議会や研修会を開催して、知識・ノウハウを共有すること
などが考えられる。
ADRは裁判と並び立つ車の両輪と位置付けることができ、手続面・情報面での連携を図っていきたい。

・ 民事基本法である民法、民事執行法、民事訴訟法を所管する立場からいえば、

  1. 時効の中断については、裁判外の催告以上の効果を付与するのであれば、民事調停等との関係や、どのような要件を課すのか、その要件が明確なものとなるのか、手続が進められることが担保されるのかといった点について御検討いただきたい。
  2. 執行力については、現在認められている債務名義との関係や、どのような要件を課すのかについて、国家による強制力の行使を基礎付けるものとして、慎重な検討がされるべきである。
  3. 裁判所との連携については、(i)調停前置をADR前置に置き換えることについては、調停前置主義が採用された趣旨をどう見るかによって決まるのではないか。(ii)ADRに提出された資料の訴訟手続における利用については、現行の制度では、訴訟資料は当事者から提出されたものに限られることや、原則として証拠能力の制限がないこと、証拠制限契約が締結されたとの取扱いも可能であることに留意する必要がある。(iii)裁判所が事件をADRに付することについては、裁判を受ける権利との関係や、費用負担の問題にも留意する必要がある。

・ ADRに対する日弁連の基本姿勢としては、裁判手続を拡充・活性化することを前提とすれば、ADRを拡充・活性化することについては、基本的には賛成である。弁護士は、通常業務を通じて紛争解決に精通しているものであり、ADRには積極的に関与していくべきであると考える。
 弁護士会のADRに関する取組としては、仲裁センターの活動を最も重要視しており、近い将来には全国の単位会に仲裁センターを設置したいと思っている。
 ADR基本法を制定することについては賛成である。ADRの基本となる部分を法律で規定することで、活性化につながるものと期待している。ただし、法的効果の付与については、一定の要件を設けることが必要である。

 (2)裁判手続との連携について(説明)

事務局より、資料6-4、6-5に沿って説明が行われ、以下の論点が示された。
(論点1)ADRで得られた情報の裁判手続への引継ぎ、又はその制限
(論点2)証拠調べ等についての裁判所の協力
(論点3)調停前置のADR前置への置き換え
(論点4)ADR継続中の訴訟手続中止
(論点5)裁判所からの付ADR
(論点6)裁判所からADRへの争点整理等の付託

 (3)関係機関及び事務局からの説明に対する質疑

 関係機関及び事務局からの説明に対して、委員と説明者との間で、次のような質疑応答がなされた(○:委員、●:説明者)

◯ 最高裁に対して、(1)民事調停の件数が増加している理由は何か、(2)民事調停の結果に対する満足度の調査は実施しているか、(3)民事調停の進め方はどうしているか、(4)裁判所OBはどの分野のADRへの活用が考えられるか、(5)ADRが証拠調べ等について裁判所に協力を求めることに対してはどう考えるか。
法務省に対して、(1)法的効果を付与するADRの要件についての具体的な考え方はあるか、(2)民事訴訟の実務では、証拠制限契約はどのように扱われているか。
日弁連に対して、(1)仲裁センターを拡充していく際に、民事調停との競合をどう考えるか、(2)ADRでは法律に従った解決を行わなくてもよいと考えるか、(3)本日の意見をさらに深めた第2段の意見書が出るのか。

● (1)民事調停の増加の背景には、近年の景気の低迷による特定調停事件の激増があると思われる。(2)民事調停に対する満足度については正確な情報は持っていないが、調停に代わる決定に対する異議が出るのが2%に過ぎないことからも推し量られるのではないか。(3)ただ両者の言い分を聞くだけでなく、ある段階で合理的な調停案を提示したり、調停に代わる決定を出すことになる。(4)裁判所OBには書記官から裁判官まで幅広い人材がいるので、ADRの類型に応じた活用方法が考えられる。(5)裁判所がADRに協力することの重要性はあると思われるが、他方、簡易・迅速といったADRの特性となじむのかどうか疑問。

● (1)ADRの要件については現段階で明確なイメージは持っていないが、個々の法的効果ごとに、司法型ADRとの関係を踏まえて検討する必要があると思われる。(2)民事訴訟の場で明示的に証拠制限契約を主張するケースは少ないと思われ、実際には、裁判官の自由心証の中で証拠能力を低く見ることになるのではないか。

● (1)仲裁センターが魅力的になり、弁護士が大いに利用すれば、民事調停に劣らないものとなって、両立することは可能と思われる。(2)ADRでは、法の精神を念頭に置きつつも、必ずしも法律の規定に従った解決をしなければならないものではない。(3)日弁連においても、今後さらに検討を深めていきたい。区切りがつけば再度意見書を提出することもあり得る。

◯ 最高裁に対して、(1)近年の民事調停で、調停に代わる決定が増加したり、審理回数が減少しているのは、特定調停事件の増加と関連があるのではないか。(2)調停委員のうち、専門家の占める割合はどの程度になるのか。

● (1)特定調停事件とそれ以外の民事調停事件を区分した統計はないが、一般的には、特定調停事件については、調停に代わる決定を出したり、数回程度の審理で終結する場合が多いと思われる。(2)専門家の数は、提出資料4にほとんど網羅していると思われる。

◯ 最高裁に対して、事務局作成の資料に提示されている各論点に対する考え方いかん。

● 個人的見解として申し上げれば、(1)論点1については、ニーズに応じて、一定のレベルで引継ぎのルールを明確化することは検討に値すると思われる。(2)論点3については、調停前置をADR前置に置き換えることが可能なのであれば、むしろ明確に制度化した方がよいのではないか。(3)論点4・5については、訴訟による解決を求めている当事者に対して、裁判所がADRへの回付等を指示するのは、責任逃れの感が強く、当事者に誤解を与えることになるとすれば問題である。

◯ 日弁連に対して、法的効果を与えるADRを絞るための要件としては、どのようなものが考えられるか。

● すべてのADRに法的効果を付与することは適当でないという意見では一致しているが、どのような要件を課すかについては、議論百出の状態であり、明確な回答はできない。

● 一つの考え方として、法律家がどの程度関与するのかといった観点から、関与の在り方ごとに区分しつつ、検討しているところである。

 (4)裁判手続との連携について(討議)

裁判手続との連携について討議が行われ、以下のような意見が出された。

◯ 裁判実務に携わる立場からの意見を述べれば、

  1. 説明資料の論点1については、民事訴訟法をベースに考えざるを得ないのではないか。
    ADRに出された主張や書証については、訴訟の場に提出されなければ、裁判所としては取扱いようがない。一方で、訴訟の場に提出されたものについて、証拠能力がないとして裁判所が取り調べないということも有り得ず、証拠制限契約が結ばれている場合には、証拠価値が著しく低いものとして取扱うということになるのではないか。
  2. 論点2については、実態がわからない事件について、裁判所が的確な証拠調べを実施できるとは思えない。当事者の合意に基づく解決が特長のADRが、厳格な証拠調べを行う必要があるのかという点からも疑問がある。仲裁であれば一定の手続が規定されているので、証拠調べに協力することは可能かもしれないが、調停等についても同様の手続が整備できるのかどうか疑わしい。
  3. 論点3については、挙げられた論点の中で最もADRの特長が活かされ得ると思われる。ADRにおいて実際に話合いがされていて、さらに交渉の余地が無い場合には、調停前置の要件を満たすものと規定されれば、ADR前置に置き換えることは可能ではないか。
  4. 論点4・5については、少なくとも裁判所の職権で訴訟手続を停止したり、ADRに回付することはできない。ただし、当事者の同意があれば、事実上の対応は可能だと思われる。
  5. 論点6については、ADRの争点整理結果を当事者が利用するというのであれば、裁判所としてもこれを受け入れるというスタンスになるのではないか。

◯ ADRの手続が、裁判手続との連携を前提として行われることによって、運用の柔軟性が失われ、ADRの特性がかえって損なわれることになるのではないか。
ADRの特性としては、迅速性とともに納得性を尊重することも重要であり、ADRで合意が調達されなかったことにより、むしろ納得性の方を重視すべきではないかと思われる。PLセンターを中心に、裁判手続に自動的に移行するのは弊害が大きいのではないかという意見が強い。

◯ 6月にUNCITRAL調停モデル法が成立したところであり、これを踏まえた議論をする必要がある。

  1. 当事者間の合意がある場合を除き、調停手続で得られた情報を訴訟へ引き継ぐことを禁止する調停モデル法第10条の趣旨は十分に理解できるものである。デフォルトルールとして、調停合意がなされた場合には証拠制限契約が結ばれたものとみなす規定を置くことも考えられ、このような規定であれば、現行の民事訴訟法との整合性もとれるのではないか。
  2. 調停手続中に訴訟手続を中止するかどうかについては、賛否両論があって、最終的には調停モデル法の規定からは落ちたものであり、当検討会においても慎重な議論が必要である。

◯ 裁判手続との連携が必要かどうかは、個々のADRの特性によって異なってくると思われ、全体的な議論の中に位置付けて、さらに検討する必要がある。


  1. 論点2については、ADRでの解決は、あくまでも当事者同士の話合いによるべきであり、裁判所に協力を求めることには反対である。
  2. 論点1については、ADRにおける交渉の結果を、ADRの主宰者が証人として裁判の場で証言するという仕組みは考えられないか。
  3. 裁判手続との連携という論点を、時効の中断・停止の問題と関連付けて考えることはできないか。


  1. 論点1は最も難しい。ADRをどのように捉えるのかが定着していない段階で、制度化を図るのは適当ではないのではないか。運用面での問題と考えた方がよいと思われる。
  2. 論点3については、制度化を図ることが考えられるのではないか。
  3. 論点4はあまり意味がないと思う。
  4. 論点5・6については、ここまで踏み切って制度化する必要があるかどうかという疑問もあるが、長い先を見て法律を作ることを考えれば、漠然とした規定を入れておいてもよいのではないか。

◯ 長期的な視点で見れば、裁判手続との連携の問題を考えることは重要な論点であると思われる。裁判手続との連携は、諸外国でもADR振興策の中核として捉えられており、特に裁判所への信頼が強い我が国では、裁判所との連携を持つことによって、ADRの信頼性を高めることになると思われ、一定の規定を設けることを積極的に考えるべきである。
具体的には、

  1. 論点1については、当事者の意思に左右されるものであり、法律がなければ解決できないというわけではないが、デフォルトルールをどう決めるかという点については、国際的な潮流にも配慮が必要である。また、個々のADRが証拠の取扱いを明らかにすることによって、当事者が証拠制限契約を結ぶかどうかを選択する機会を与えることも考えられる。
  2. 論点2については、第三者に対する証拠調べが必要なのに、当該者が任意では話をしてくれないというような場面で必要となる制度であると考えられる。ただ、仲裁には認められているとはいえ、最終的に解決される保証が無い調停等においても、第三者に証拠調べを強制することが適当かどうかという議論もある。
  3. 論点5については、ADRに事件を回付するとすれば、コスト負担をどうするのかという問題があり、また、ADRでの合意内容に判決と同じ効力が付与されないとなると、裁判を受ける権利との関係でも問題があると思われ、やはり当事者の同意が必要となるのではないか。この論点は、ADRの振興という観点からみれば、大きな鍵になると思われる。

◯ 裁判所との連携の相手方となるADRの規模・力量・質がバラバラであり、未成熟な状態である。また、民訴法を前提にすれば、裁判官の自由心証主義との関係からも問題が生じると思われる。
裁判手続との連携の最大のポイントは、裁判からADRへの事件の回付であろうが、現時点で制度化することは難しいと思われ、将来的な課題として努力目標を規定したり、ADRと裁判所との協議組織を設ける規定を置くなど、現段階で可能なことを規定するのがよいのではないか。

◯ ADRはできるだけ自由に設計されるべきであると考えるが、一方で、裁判所からまったく離れて存在するということはありえない。このような観点から、裁判とどのような関係を持つのかについて考える必要がある。

  1. 論点1については、ADRにおける情報は原則として裁判所に提出して、できるだけ訴訟の場で活用されることが望ましい。
  2. 論点2については、裁判所の協力を求めて第三者に意見を聞くという道もあるのではないか。
  3. 論点5・6については、裁判所に提出した案件が職権でADRに振り分けられるというのは反対である。専門的な事案についてはADRを活用する方策があり得るかもしれないが、最低限、当事者の同意は必要であろう。

◯ UNCITRAL調停モデル法との関係については、この検討会の議論では仲裁を除外している上、民事調停等も検討の中核には置いていないため、調停モデル法とはかなりベースが異なっていることにも配慮しなければならない。

 (5)執行力の付与について(第5回検討会の続き)

第5回検討会に引き続き、執行力の付与について討議が行われ、以下のような意見が出された。

◯ 執行力は、実際に執行することよりも、履行を促進することに大きな役割を担っている。また、合意内容が履行されない場合でも、再度ADRにおける話合いを促進する役割もある。
執行力が認められている現行制度の中でも、実質的な合意内容は当事者が調達しているものもあり、さらに仲裁では公務員の認証を必要としていないことを考えれば、ADRにおける調停のように、主宰者が交渉過程に関与しており、さらに当事者の合意があるものについては、公務員の関与がなくてもよいのではないか。
調停人には仲裁人のような公正・中立義務が課されていないという意見もあるが、不満のある当事者に中途離脱が許される調停には、そもそも公正性・中立性に向かわざるを得ない力学があり、そのような批判は当たらない。
ADR機関に対して、執行力を付与するための要件を示して、再度要望を聞いてみることにして、その際に、各ADR機関の体制も調査すればどうか。

◯ 執行力の危険性については、十分認識する必要がある。裁判所における実態をみても、裁判所の後見的な役割が無いと、代理人がついていない者に不利な合意が結ばれる場合も多く、当事者間の合意にそのまま執行力を与えるの危険である。
執行力を付与する場合には、一度は裁判所を通す必要があると思われるが、そこまでして付与する必要があるのか疑問である。むしろ、ADRで合意された場合には即決和解の手続を早めるルールを作るなど、既存の制度を利用するルートも考えられるのではないか。

◯ 執行力というのは、国家権力の赤裸々な発現とみることもでき、その根源たる力をどのように付与すべきかということについては、慎重な議論が必要である。
ADR機関からの要望も強く、付与することによる利便性も高いことは間違いないが、だからといってすぐに付与するということにはならないはずであり、相当の要件や手続を求める必要があると思われる。
これまでの議論では、すべてのADRを対象に、両当事者の合意に直ちに執行力を与えるということは有り得ないという点では意見が一致しており、今後、

  1. ADRに独自の執行力を付与するためには、どのような要件・手続を求めるべきか、
  2. 既存の制度を利用して執行力を付与する方法を考えた場合には、どのような工夫が可能か といった点を議論していく必要がある。

 (6) その他

その他、ADR検討会の議論とも関係する動きとして、
  1. 推進本部顧問会議メンバーと各検討会座長との懇談会の概要報告
  2. UNCITRAL調停モデル法の採択
  3. ADRの拡充・活性化関係省庁等連絡会議の発足
 について、説明があった。

次回は、9月30日13:30から、専門家からのヒアリングを実施し、専門家の活用についての検討を行うとともに、裁判手続との連携についての議論(続き)を行うこととなった。

(以上)