- 1 日 時
- 平成14年10月28日(月)14:00~16:30
- 2 場 所
- 司法制度改革推進本部事務局第1会議室
- 3 出席者
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- (委 員)
- 青山善充(座長)、安藤敬一、髙木佳子、龍井葉ニ、原早苗、平山善吉、 廣田尚久、三木浩一、山本和彦、横尾賢一郎、綿引万里子(敬称略)
- (事務局)
- 松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林徹参事官、山上淳一企画官
- 4 議 題
- (1) 裁判手続との連携(第6回検討会の続き)
(2) 専門家の活用(第7回検討会の続き)
(3) 法律扶助の対象化
(4) その他
- 5 配布資料
- 資料8-1 ADR検討会において出された意見等(各論)
資料8-2 ADRにおける専門家の活用(論点の補足)
資料8-3 説明資料(法律扶助の対象化)
資料8-4 当面のADR検討会の日程
- 6 議 事
- (1)裁判手続との連携(第6回検討会の続き)
- 第6回検討会に引き続き、裁判手続との連携について討議が行われ、以下のような意見が出された。
○ADRで得られた情報を、後の裁判手続においてどのように扱うべきかという問題は、ぜひとも議論すべき重要な論点である。
考え方としては、①ADRで得られた情報は裁判手続にも引き継がれてよいというものと、②和解型手続においては裁断型手続では公にしないような情報も出てくる可能性があるため、裁判手続における利用を制限すべきとするものがあるが、世界的な潮流等を考えても、②をとることが適当ではないか。
ただ、②を証拠能力の否定という形で構成すると、すべての証拠は裁判官の自由心証に委ねられるものとしている我が国の民事訴訟法の原則との整合性が問題となるので、別段の合意がない限り、ADRで相手方が出した証拠や情報を一方当事者が勝手に裁判手続に提出してはならないとする黙示の合意があったものとするという構成を考えればよいのではないか。
○ADRにおける自分に不利な主張が相手方によって裁判で使用されないようにすべきという問題と、ADRに提出した証拠が裁判で使用されないようにすべきという問題とは、分けて議論した方がよいのではないか。
○引継ぎを制限したとしても、現実論として、当事者がADRの過程を主張しあうことは避けられないので、ADR機関が文書提出命令を拒絶できるかどうかという問題や、調停人や当事者が証言を拒絶できるかという問題は、議論しておくことが適当ではないか。
○ADRで得られた情報の証拠能力を制限するというのは、民事訴訟法と馴染みにくい制度でもあり、裁判官の自由心証に任せることが適当ではないか。
なお、ADR機関や調停人が、どのような場合に裁判所に対する文書提出義務や証言義務を負うかどうかという点は、守秘義務の範囲の問題として議論する必要がある。
○ADRから裁判への情報引継ぎが国際的な潮流となっている理由は、ADRの立場からみて、当事者がADRに出した情報が後の裁判に持ち出されるかもしれないと思ったときに、果たして自由な話合いができるかという点への配慮があるためであり、最終的には裁判官の自由心証によって妥当な解決が図られるとしても、なおこの点には留意する必要がある。
ADR機関や調停人に対して守秘義務を課し、証言拒絶権を認めるという点については、その範囲についてさらに議論が必要であるが、基本的には賛成である。
○守秘義務・証言拒絶権と情報の利用制限とは、別の論点として議論する必要がある。
情報の取扱いに関しては、ADR制度をどのように評価し、位置付けるかという観点から考えるべきである。どの範囲の情報を保護すべきかという点については、政策的な判断によるものと考えられるが、相手方が出した和解の提案や和解を前提に出した自白等は最低限保護すべきであろう。
○ADRにおける自白をそのまま裁判上の自白として取扱うわけではないのだから、ADRでの本音による自由な議論を妨げることにはならないのではないか。
○例えば、裁判官によっては、一方当事者がADRにおいて一旦過失を認めたことによって、過失ありとの心証を形成することもあり得るのではないか。
○ADRにおける自白は、合意が成立しなければ自白も撤回するということが前提条件となっているものと考えてもよいのではないか。
○下級審の判例では、弁論準備手続における相手方当事者とのやりとりの記録について、自由な意見交換を妨げるという理由で証拠能力を否定している例があることにも留意すべき。
○ADRが利用されるようになるには何らかの権威付けが必要と考えられ、このためには、ADRにおける情報が裁判に伝わる仕組みがあった方がよいのではないか。
○裁判所からの付ADRといった論点は、将来、司法の処理能力に限界が生じ、司法の民営化や委託すら問題となりかねない可能性も念頭に、今から受入環境の整備を行うという視点から議論してもいいのではないか。
○訴訟継属した事案を当事者の合意なくADRに付託することは考えられないのではないか。また、付託中は裁判手続を停止しておいて、ADRでの解決が得られなければ裁判手続を再開する形が考えられるのではないか。
この場合でも、継属後直ちに付託というのではなく、裁判手続の過程で、ADRに付託することが相応しいという見極めがついた段階で当事者に提案する形となるのではないか。
○フランスでは、付ADR中の裁判手続の停止と再開、停止期間が明文化されている。
○専門家の判断が必要な場合にADRに付託することが考えられるのではないか。
○付ADR制度を考える際には、ADRでの和解を目指すのか、ADRに争点整理を委ねるのかによって、制度の仕組み方が異なるものと思われ、区別した議論が必要である。
- (2)専門家の活用(第7回検討会の続き)
- 第7回検討会に引き続き、専門家の活用について討議が行われ、以下のような意見が出された。
○専門家の活用に関する大きな論点としては、①まず前提として、ADRの主宰者・代理人にはどのような資質・能力が求められるのか、②そのような能力を有する専門家について、どのような活用の形態があり得るのか、③個別論として、どのようなADRにおいて、どのような専門家をどのような形で活用することが適当か、④活用を図る上で、弁護士法72条など現行制度との間でどのような関係整理が必要となるのかといったことが考えられる。
○主宰者の能力・資質は、ADRの権威とも関わる問題として、担い手をどのように育てていくかを考えなければならない。
この場合、弁護士には資質が十分に備わっているということを前提として対象を拡大していくのではなく、弁護士も含めフィルターがかかる仕組みについても議論する必要があるのではないか。
○事務局作成の資料8-2では、ADRの主宰者・代理人として求められる能力として、「①法的知識等に係る専門能力」、「②紛争分野に係る専門能力」に加えて、「③紛争解決に係る専門能力」その他が挙げられており、このうち③の専門能力については従来必ずしも注目されていなかった分野であるが、重要であると思われる。
①の能力があれば③が備わるというものではなく、アメリカでは、弁護士も研修プログラム等を経て調停人となるための資格を得ているくらいだ。
○専門家の活用についての議論の前提として、①訴訟との決定的な違いとして、ADRにはフルタイムの調停・仲裁人がほとんどおらず、皆パートタイマーである(ADRに割かれる時間には限度がある)こと、②我が国には、調停・仲裁人としての理論・技術のトレーニングを受けた者がほとんどいないこと、③弁護士だからといって必ずしも専門性の高い分野の法律的知識をすべて兼ね備えているわけではないことが挙げられる。
また、議論の方向性として、ADRが当事者の利用しにくいものであってはならないはずであるから、全体としてADRの担い手の垣根を低くする必要がある。
このため、弁護士を中心とした考え方をとれば、弁護士がADRに割くことのできる時間・力の限界から、ADRのスケールが決まってしまうことになりかねないのではないか。
○消費者の立場からみれば、既存のADRは、「①法的知識等に係る専門能力」、「②紛争分野に係る専門能力」に特化しているため、利用者が説得されてしまうというイメージが強い。
このため、根本的に考え方を変えて、「③紛争解決に係る専門能力」を重視し、当事者同士の話合いを主体として、第三者がアドバイスするような関わり方で組み立ててもらいたい。
○紛争解決の基準の問題を考えた場合には、法的なものでない解決基準による場合であっても、法的な解決基準を横に置きながら考えていく必要があるのではないか。
このためには、「③紛争解決に係る専門能力」を否定はしないが、あくまでも「①法的知識等に係る専門能力」、「②紛争分野に係る専門能力」が重要となるはずである。
弁護士がカバーしきれないという問題に対しては弁護士を増やすことによって解決すべき問題であり、垣根を低くするとなると質の担保という観点から懸念が生ずる。
○例えばオーストラリアでは、弁護士や専門家というだけでは調停人とはなれず、各ADRの内規で、「③紛争解決に係る専門能力」に関し一定の研修を収めなければならないとされている。
また、「③紛争解決に係る専門能力」は「人格」的なものと捉えがちであるが、あくまでも「技術」であって、学ばなければ身につかない性格の能力であるADRに関わる専門資格の可能性までを視野に入れた議論が必要ではないか。
○①~③のすべての能力を一人が保有する必要はなく、それぞれの能力を有する者がグループとなって解決に当たることも考えられるのではないか。
○紛争の周囲には危険な利益誘導が存在するところであり、ADRの担い手には、①~③の能力以外に中立性、公正性といった資質が求められるのではないか。
○紛争解決の現状を考えた場合、処理されている案件のほとんどは、相談や苦情処理といった非公式な形態で処理されていることから、このような機関における主宰者のレベルアップを図ることは、ADRの活性化のひとつの鍵になると考えられる。
また、ADRの担い手に必要な資質として、倫理に関する資質は重要な問題である。この場合、主宰者には、あるいは代理については更に、当事者の利益を害するような権限の濫用が生じる可能性があるので、懲戒に関する実効的な制度による担保なども必要となるのではないか。
- (3) 法律扶助の対象化
- 事務局より、資料8-4に沿って説明が行われた後、以下のような質疑応答が行われた。(○:委員、●:事務局)
○法律扶助の申立数と援助開始決定数、立替金償還の実績、猶予・免除の条件はどうなっているか。
●代理援助の申立数は69,611件、援助開始決定件数は29,855件、立替金は概ね6~7割が償還されている。また、猶予・免除のより詳細な条件については手許には資料がない。
○計数及び猶予・免除の条件につき、追加資料を提出いただきたい。
○法律扶助という司法制度としての援助以外にも、行政型ADRでは行政という形で税金を使っている部分もある。このようなものを含めた国の負担のあり方について、諸外国ではどうなっているのか。
●主要国でも一定の要件を満たす場合にはADRも扶助の対象となっている。
○民事法律扶助法を作成した段階では、ADRの取扱いについては、司法制度改革におけるADRの議論をまって位置付けを検討すべきということで先送りになったところである。
裁判よりADRでの紛争解決の段階で税金を投入した方がコストが安いという考え方もあり、議論の必要はあると思うが、現在の法律扶助をめぐる予算の状況に鑑み、ADRに予算を配分することが適当かどうかについては、慎重な検討が必要ではないか。
○扶助の対象となるADR機関を見極めるためにも、現行のADR機関における代理人費用等の現状を調査した方がよいのではないか。
○ADRへの支援の方法としては、ADR機関への支援と利用者の支援という2通りの方法があり、場合によってはADR機関に対して支援した方が効率がよいこともあり得るのではないか。
●法律扶助において、ADRの利用手数料も法律上は対象となり得る。さらにADR機関の運営を支援するということについても、ADRへの関与の一環として議論の対象となり得る。
○当検討会で法律扶助が必要であるという検討を出しても、法律扶助予算全体との関係から実現できるかどうか定かではないところがあり、現実を踏まえた議論をする必要がある。
- (4)その他
- 当面のADR検討会の日程について、資料8-4のとおり開催することとなった。
このうち、次回(第9回)については、11月11日(月)13:30より開催し、2巡目の議論に入る前に議論しておくべき論点として、ADRに通則的な規律と法的効果の付与等の対象となるADRの限定方法について検討するとともに、総論に関する座長による論点整理メモに沿って基本的枠組みについての議論を行うこととなった。
また、次々回(第10回)は、基本理念等に関する2巡目の議論を行うほか、UNCITRAL国際商事調停モデル法の概要説明を行うこととなった。
さらに、第11回以降は、第10回までの議論の進捗も踏まえ、各論についての2巡目の議論を進めることとなった。