行政訴訟検討会最終まとめ−検討の経過と結果−
平成16年10月29日 司法制度改革推進本部 行政訴訟検討会
行政訴訟検討会(資料1)は、平成13年6月に内閣に提出された司法制度改革審議会の意見(資料2)において「行政事件訴訟法の見直しを含めた行政に対する司法審査の在り方に関して、「法の支配」の基本理念の下に、司法及び行政の役割を見据えた総合的多角的な検討を行う必要がある。政府において、本格的な検討を早急に開始すべきである」との意見が述べられたことを受け、内閣に設置された司法制度改革推進本部事務局において開催された。行政訴訟検討会では、行政訴訟制度の見直しのための検討を行い、その成果を法案等に反映させるため、平成14年2月18日の第1回会合以降、平成16年10月29日まで31回の会合(資料3)を開催して検討を行った。
行政訴訟検討会では、平成15年4月25日の第16回会合において、「行政訴訟制度の見直しについて検討の方向性が概ね一致していると思われる事項」(資料4)について確認した。その上で、さらに検討を進め、平成15年7月4日の第19回会合において、行政訴訟制度の見直しについて行政訴訟検討会の検討状況を踏まえて広く意見等を募る際の資料とするため、検討の方向性が概ね一致している事項と更に検討が必要な点を掲げるとともに、その他の主な検討事項について検討会で意見が出されている考え方と更に検討が必要な点ないし指摘されている問題点を掲げた資料として、「行政訴訟検討会における主な検討事項」(資料5)をとりまとめた。行政訴訟検討会では、これを参考資料として行政官庁等からのヒアリングを行うとともに、事務局において行った国民の意見募集の結果をも参考にして、さらに検討を重ねた。
これらの検討の結果を踏まえ、平成15年10月24日の第24回会合において、座長が事務局と協議しながら行政訴訟制度の見直しの考え方と問題点を整理した資料として作成された「行政訴訟制度の見直しのための考え方と問題点の整理(今後の検討のためのたたき台)」(資料6)をたたき台として示し、それ以降、今次の司法制度改革における立法課題について検討を進めた。その結果、行政訴訟検討会は、平成15年12月22日の第27回会合までの検討結果を踏まえ、行政に対する司法審査の機能を強化して国民の権利利益の救済を実効的に保障する観点から、今次の司法制度改革における立法課題について、平成16年1月6日付けの「行政訴訟制度の見直しのための考え方」(資料7)をとりまとめた。
「行政事件訴訟法の一部を改正する法律」(平成16年6月9日法律第84号)は、このような行政訴訟検討会の検討の成果を踏まえて立案されたものである。行政事件訴訟法の一部を改正する法律により、義務付け訴訟・差止訴訟を法定し、確認訴訟を当事者訴訟の一類型として明示し、取消訴訟の原告適格について適切な判断を担保するための考慮事項を規定するなど、行政事件訴訟による国民の権利利益の救済範囲の拡大が図られた。また、審理の充実及び促進を図るため、裁判所が、釈明処分として、行政庁に対し、裁決の記録や処分の理由を明らかにする資料の提出を求めることができる制度が新設された。これらの改革は、行政に対する司法審査の機能を強化して国民の権利利益の救済を実効的に保障するという、行政訴訟制度の見直しの目的を実現するために重要な意義を有すると考えられる。
行政訴訟検討会では、行政事件訴訟法の一部を改正する法律の成立を踏まえ、行政訴訟制度に関し更に議論を深めておく必要があると考える論点について、平成16年7月23日の第28回会合以降、引き続き検討を行った。検討を進めた論点は、行政立法・行政計画の司法審査、裁量に関する司法審査及び団体訴訟である。今回の行政訴訟制度改革の意義の上に立って、行政訴訟検討会において上記の論点について更に議論を深めておくこととした趣旨は、次のようなものである。
すなわち、行政立法・行政計画は、行政過程の初期の段階で行われる行政活動であり、行政立法については、国民の多様な利益調整が一般的抽象的な形で行われるという特徴がある。また、行政計画については、国民の多様な利益調整が一般的抽象的な形で行われる場合も多く、行政計画は多種多様であり、個別の制度における各計画の性質・位置付けや具体的な法的効果が様々であるという特徴がある。一方で、このような行政立法・行政計画についても、国民の権利利益に影響を及ぼすものについては、法律上の根拠が必要とされ、その根拠となる法律に従って制定・立案されなければならないことは、他の行政作用と同様である。行政立法・行政計画の司法審査に関しては、その制定・立案の過程ないし内容において違法があった場合における国民の具体的な権利利益の救済の在り方について、行政立法・行政計画の特徴やそれが多様な国民の利害に幅広い影響を及ぼすものであることも考慮しつつ、新たに法定された差止訴訟や当事者訴訟として明示された確認訴訟の活用との関係も含め、適切な司法審査の在り方の観点から、更に議論を深めておく必要があると認識されたことによるものである。
また、裁量に関する司法審査に関しては、行政事件訴訟法の改正により、義務付け訴訟・差止訴訟や確認訴訟の活用などにより、多様な行政活動が司法審査の対象として取り上げられるようになっていくことが予想される中で、行政作用の基準・考慮事項などが抽象的に規定されている行政活動についても、適切な司法審査が行われる必要が増大すると考えられる。そこで、処分又は裁決の理由を明らかにする資料の提出等を行政庁に対して求める新設された釈明処分の特則の活用により裁量に関する審理の充実を図ることとの関係も含め、裁量に関する適切な司法審査を担保する観点から更に議論を深めておく必要があると認識されたことによるものである。
団体訴訟については、処分などにより侵害される利益が特定個人の利益でなく、広く消費者、地域住民など一般的に共通する集団的利益として把握できる場合に、そのような多数人の共通利益を法律上又は事実上代表する消費者団体、事業者団体、環境保護団体、住民団体等に訴えの提起を認めることができないかという問題である。現在、消費者問題の分野では、同時多数被害への対処という観点から具体的な検討が行われているところであるが、行政需要が多様化してきている中で、必ずしも特定個人の利益に還元し難い集団的利益についてどのような対処が考えられるかという問題意識から、民事訴訟制度における団体訴訟の位置付けや、行政事件訴訟法の改正により適切な判断を担保するための考慮事項が法定された一般的な取消訴訟の原告適格との関係を含め、更に議論を深めておく必要があると認識されたことによるものである。
これらの論点について、検討会において議論をした結果をとりまとめた資料は、資料8ないし11のとおりであり、よりよい行政訴訟制度の在り方を考えるに当たって、今後の参考に資することが期待される。
(参考資料)
資料1 行政訴訟検討会委員名簿
資料2 司法制度改革審議会意見書(抜粋)
資料3 行政訴訟検討会開催経過
資料4 行政訴訟制度の見直しについて検討の方向性が概ね一致していると思われる事項
資料5 行政訴訟検討会における主な検討事項
資料6 行政訴訟制度の見直しのための考え方と問題点の整理(今後の検討のためのたたき台)
資料7 行政訴訟制度の見直しのための考え方
資料8 行政立法の司法審査
資料9 行政計画の司法審査
資料10 裁量に関する司法審査
資料11 団体訴訟
※各資料はPDF形式ファイルです
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