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行政訴訟検討会(第12回)議事録



1 日 時
平成15年1月15日(水) 13:30〜17:30

2 場 所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
塩野宏座長、市村陽典、小早川光郎、芝池義一、芝原靖典、成川秀明、萩原清子、福井秀夫、福井良次、水野武夫、深山卓也(敬称略)
(事務局)
松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官、村田企画官

4 議 題
1.論点についての検討
2.今後の日程等

5 配布資料
資料1 執行停止・仮の救済に関する検討資料
資料2 行政訴訟のその他の論点に関する検討資料
資料3 行政事件訴訟法第8条第1項ただし書に定める不服申立前置を定めた規定一覧表

6 議 事

【塩野座長】本日、第12回でございますが、本年においては第1回ということになります。昨年中は司会進行不手際で、毎度皆様にご迷惑をお掛けいたしました。にもかかわらず、大変熱心なご意見を賜りまして、感謝申し上げておりますけれども、今年は昨年にもまして、あるいはそれ以上にご協力をしていただきたいと存じます。と申しますのは、やっぱり本年、大きな山場になると思います、そういうことで、あるいは積極的なご参加をお願いする次第でございます。よろしくお願いいたします。
 では、事務局から、第12回行政訴訟検討会の資料につきまして、ご説明をお願いいたします。

【小林参事官】お手元の次第に、4の配布資料に記載しましたように、「執行停止・仮の救済に関する検討資料」、「行政訴訟のその他の論点に関する検討資料」、それから「不服申立前置を定めた規定一覧表」、これは事務局で調査したもの、それを付けております。以上です。

【塩野座長】本日の議事日程は、「論点についての検討」ということにしたいと思います。フリートーキング参考資料の第5と、それからその他の論点、二つ、大きくございますが、前半に「執行停止・仮の救済」、そして後半に「その他の論点」と、そういう形で議論を、2つに分けて進めたいと思います。その間10分間ほど休憩を取りたいと思います。そういうやり方でよろしいでしょうか。
 最初に前半のテーマでございます、「執行停止・仮の救済」について検討を進めてまいりたいと思いますが、事務局から資料の説明をお願いいたします。

【小林参事官】お手元にお配りしております資料1をご覧下さい。「執行停止・仮の救済に関する検討資料」でございます。一番最後の13頁に別紙1として、「執行停止制度の仕組みの概要」がございますので、この仕組みの概要とそれから2頁に参照条文を記載しておりますので、まずこの両方をご参照いただきながら、制度の概要についてご説明させていただきたいと思います。執行停止につきましては2頁にあります行政事件訴訟法第25条にありますように、まず第25条第1項で、処分の取消しの訴え、取消訴訟ですが、「処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。」という規定が置かれています。これが執行不停止の原則と言われているものです。
 それから第2項、これは執行停止の要件を規定している規定ですが、別紙1では、左の方に「積極的要件」と書いてある、これに当たるものが第2項に規定があるものです。具体的に見てみますと、「処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。」と規定しております。それから、先ほどの別紙1に「消極的要件」と右側に書いてあるものですが、これは次の項でございます。第25条第3項におきまして、「執行停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、することができない。」と、このような規定が設けられています。それから、そうしますと裁判所の決定でするわけですが、別紙1、13頁の下の方を見ていただきますと、「事情変更による取消し」と「内閣総理大臣の異議」という項目が一番下の括弧にございます。事情変更による取消し(行政事件訴訟法第26条)でございまして、2頁の条文に戻りますと、事情変更による執行停止の取消しとしまして、「執行停止の決定が確定した後に、その理由が消滅し、その他事情が変更したときは、裁判所は、相手方の申立てにより、決定をもつて、執行停止の決定を取り消すことができる。」。したがいまして、執行停止というのは決定が確定した後でも、取り消すことができると、こういう暫定的な措置であるという性質から、事情変更による取消しの規定も設けられています。
 それから、執行停止に対する不服申立と内閣総理大臣の異議との関係を申し上げますと、先ほどの別紙1の一番下に内閣総理大臣の異議(行政事件訴訟法第27条)というのがございますが、行政事件訴訟法第27条におきましては、「内閣総理大臣の異議」といたしまして、「第二十五条第二項の申立てがあつた場合には、内閣総理大臣は、裁判所に対し、異議を述べることができる。執行停止の決定があった後においても、同様とする。」ということになっております。この内閣総理大臣の異議には第2項で、「前項の異議には、理由を附さなければならない。」。それから、第3項におきまして「前項の異議の理由においては、内閣総理大臣は、処分の効力を存続し、処分を執行し、又は手続を続行しなければ、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのある事情を示すものとする。」、このような規定になっております。内閣総理大臣の異議があった場合には裁判所はどのような手続を取ればいいのか、ということは第4項に規定がございまして、「前項の異議の理由においては、内閣総理大臣は、処分の効力を存続し、処分を執行し、又は手続を続行しなければ、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのある事情を示すものとする。」と、されております。それとの関係で、参考までに執行停止に対する不服申立はどういうふうにすればいいのか、ということについて、第25条に戻りますと、執行停止については第4項で、「第二項の決定は、疎明に基づいてする。」と、され、第5項におきまして「第二項の決定は、口頭弁論を経ないですることができる。ただし、あらかじめ、当事者の意見をきかなければならない。」。このような手続において、決定がされるわけですが、それに対する当事者の不服申立については第6項で規定され、「第二項の申立てに対する決定に対しては、即時抗告をすることができる。」ということになっております。この即時抗告は、したがいまして、執行停止の申立が却下された場合でも、執行停止決定が出た場合でも、申立をした側、それから執行停止を受けた行政側、両方から不服申立ができることになっておりますが、第7項におきまして、「第二項の決定に対する即時抗告は、その決定の執行を停止する効力を有しない。」と、されております。したがって、執行停止決定がもし地方裁判所で出されますと、行政の側から不服申立をしても、その執行停止がされているという状態は変わらない、ということで、その執行停止の決定に対する即時抗告に対する判断が出るか、あるいは先ほどの事情変更による執行停止の取消し、こういうものが行われない限りは、執行停止、それ自体は効力が維持されたまま、行政の執行ができない、ということになるわけです。
 これは取消訴訟の規定ですが、条文の下の方に第38条がありまして、2頁の第38条第3項を見ていただきますと、 「第二十五条の規定は、無効等確認の訴えに準用する。」ということになっておりますので、取消訴訟と無効等確認の訴えについて、行政処分の執行停止の申立ができる、ということになっております。したがいまして、取消訴訟に関する規定の準用について、他の訴訟にはこの準用はありませんので、他の抗告訴訟には執行停止の規定は適用がない、ということになっております。
 次に仮処分との関係につきましては、まず仮処分とは何かというと、9頁の注3、民事保全法第23条におきまして、第1項が係争物に関する仮処分、そして第2項が仮の地位を定める仮処分と言われているものですが、通常の民事上の請求を前提とする仮処分はどういうふうに行われているか、ということでございますが、第23条第1項におきましては、「係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。」。通常は建物の明渡しを請求しようとするときに、その建物が第三者の占有に移ってしまわないように、占有移転禁止の仮処分をする。こういうのが典型的な事例になります。
 それから第2項の仮の地位を定める仮処分命令、これは「仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害」、先ほどの執行停止の決定の要件は第25条第2項で、「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」という要件だったわけですが、仮の地位を定める仮処分命令については「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」、こういう要件になっております。この争いのある権利関係について「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。」仮の地位を定める仮処分命令というのは、典型的な場合は解雇された場合に解雇の無効を争うときに、雇用契約上従業員としての地位を引き続き有しているという地位を裁判所が仮に定めて、さらにその賃金を本案判決が出るまでの間仮に支払え、というような形での仮処分を命ずる場合、これが典型的な場合でございます。
 それから仮処分の方法については、民事保全法第24条の規定、注3の下の方にございますが、これは具体的に仮処分の方法は何なのか、ということですが、「裁判所は、仮処分命令の申立ての目的を達するため、債務者に対し一定の行為を命じ、若しくは禁止し、若しくは給付を命じ、又は保管人に目的物を保管させる処分その他の必要な処分をすることができる。」と、要するにその他の必要な処分、いろんなことが必要に応じて出来るということになっております。もちろんこれは先ほど申し上げたように第23条第2項の必要性があるときに限って、その必要性の範囲内で相当な処分ができると、いうことにされております。仮処分は、民事上は規定があるわけですが、それが行政訴訟になりますと、どういう扱いを受けるかと言いますと、2頁の参照条文、行政事件訴訟法第44条に、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については、民事保全法に規定する仮処分をすることができない。」ということになっています。「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については」と限られておりますので、行政に対していろんな仮処分をする場合、これはいろいろあるわけでございまして、国家賠償を請求するとき、それから例えば恩給の給付の決定がされているのに、支払わないときとか、そういうときに行政に対して、何らかの形で仮差押えは必要性がないからめったにないと思いますが、支払いを受けないと生活が困るときに仮に支払えというような、そういう仮処分が禁止されるわけではもちろんないわけです。「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為について」という、そういう限定の下において、当事者が例えば、本案訴訟として考えているのが、先ほど申し上げた取消訴訟、あるいは無効等確認訴訟ではない本案訴訟を予定して、例えば無名抗告訴訟、つまりそれ以外の抗告訴訟として、何らか行政に対して積極的な行為を求めたりとか、行政の行為を予防的に止めたいとか、そういうふうな裁判を求めようと思ったときに、それが仮処分という形で、仮に何か行政との間の権利関係を仮の救済として決めようかということになりますと、そういう場合に限っては、行政事件訴訟法第44条で仮処分をすることができない、こういうことになっているわけでございます。こういう全体としての仕組みを前提にいたしまして、この関係の問題点についての検討ですが、8頁に記載したように、諸外国における仮の救済がどうなっているか、ということを調べますと、アメリカとイギリスは報告をお伺いしましたところでは、行政訴訟における仮の救済も民事訴訟一般における仮の救済と同じ手続が使われているのではないかと思われます。ドイツにおいては、行政裁判所法に執行停止制度と仮命令制度というものが設けられておりますが、執行停止制度が行政行為の取消訴訟に関する特別の規定であって、それ以外の仮命令制度が、一般的な行政訴訟、その他の行政訴訟に対する包括的な一般法で、仮命令の規定をよく読みますと、民事訴訟法の仮処分、我が国の係争物に関する仮処分と仮の地位を定める仮処分、これはドイツの民事訴訟法と日本の民事保全法は保全処分はほとんど同じなんですが、ドイツの行政裁判所法に規定している仮命令制度というのは、ドイツの民事訴訟法の係争物に関する仮処分と仮の地位を定める仮処分に相当するような規定が行政裁判所法にも規定されている。したがって、ドイツも民事訴訟と行政訴訟との保全処分の制度はドイツの国内をみれば、同じような制度がとられているということになります。
 それからEUの規定については、そこに記載されているとおりですが、フランスについては、そもそもフランスの本案の行政訴訟は、基本的には行政決定について、それを争うという形の訴訟形態をとっておりますが、その執行停止については、行政決定について取消又は変更の請求がなされた場合に、緊急審理裁判官が、申立てにより、当該決定の執行又はその効果の一部の停止を命ずることができるほか、明白に違法でかつ重大な基本的人権の侵害を行った公法上の法人又は公役務管理を付託された私法上の組織体に対して、基本的人権を保護するために必要なあらゆる措置を命ずることができる、こういうような規定が設けられています。
 そこで、検討の視点につきましては、9頁以降に記載したとおりですが、執行停止の制度が設けられて、取消訴訟と無効等確認訴訟に関しては、処分の効力を停止するという執行停止制度が設けられておりますけれども、それ以外の抗告訴訟、あるいは当事者訴訟や民事訴訟の中で、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為について、何らかの仮処分を求めたい場合については、執行停止ができない一方で仮処分ができるかというと、仮処分も出来ないのではないか。そういう問題が現行の規定の中では生じているのではないか、という問題をまとめてあります。
 それから、その関係で民事保全法による仮処分は先ほども申し上げたように、要件も極めて抽象的な要件ではあるのですが、その方法についてもその場合に応じて、必要な処分ができるということで、多様ではあるのですが、では具体的な場合に何をできるのか、というのははっきりはしない。そういう、柔軟ではあるけれども、どういう救済ができるのか具体的にはっきりはしていない。そういう規定が置かれているわけですが、行政に対してそういった仮処分に類似する制度を設けるとした場合に、その救済方法が明確ではないというところ、それを多様であると捉えるのか、明確でないと捉えるのか、そういう問題があるのではないか。それから、その場合に行政と司法との役割分担をどう考えるのか、という問題があるのではないか。それから問題点として、執行停止は本案訴訟を提起したことを前提にする執行停止制度ですが、それと本案訴訟の提起を前提としない民事上の仮処分、そういった違いがあることをどう考えるのか、というようないくつかの問題がありそうだという指摘でございます。
 それから、執行不停止の原則については、10頁にまとめてあるとおりです。これは質問に対する答弁書で、政府の方でその長所、短所についてまとめたことがありますので、10頁の6のところで括弧書きで引用しています。
 それから内閣総理大臣の異議につきましては、この制度の位置づけについて、やはり同じ質問に対する政府の答弁の中で、これは11頁の9行目以降にございますが、その括弧書きの中にまとめてあるように、これ自体憲法に違反するという見解もあるのですが、政府の見解としては、執行停止そのものは行政作用に属する事柄である、という扱いをしておりますので、「執行停止の決定を覆す権限を内閣総理大臣に認めたとしても、司法権を侵害することにはならず、内閣総理大臣の異議の制度が憲法に違反することにはならない。」、このようにされております。
 今後の検討の視点としてまとめておりますのは、11頁の下から8行目以降でございますが、諸外国の制度ではこのような制度は見当たらない。つまり仮の救済の最終的判断を裁判機関とは別に行政機関に留保している制度は見当たらない、ということで、これを前提にした上で、内閣総理大臣の異議の制度について検討するに当たりましては、執行停止に伴って、行政側が不服を申立てても、先ほど申し上げたように、高等裁判所の判断があるまで、執行停止決定の効力自体は変わらない、ということになるわけですが、そういうような意味で、行政側からは、執行停止決定が出てしまいますと、内閣総理大臣の異議を出して執行停止の効力を止めるか、あるいは事情変更による取消を求めるしか、現状は制度が出来ていない、ということを前提にしながら、この内閣総理大臣の異議の制度、それ自体をこのような形で行政と司法との関係を仕組んでいくのがいいのか、司法権に最終的には判断が委ねられるような形で行政側の執行停止に対する不服申立てが実効的に機能するような、そういうような制度を考えていくのがいいのか、そういった点について検討する必要があるのではないか。このような視点でまとめたものでございます。以上でございます。

【塩野座長】どうもありがとうございました。それでは重要な論点については今、ご説明があったところかと思いますが、その他、いろいろな細かな点についてもいろいろご意見がおありかと思います。そこで、いつものようにどうぞ、質問でも結構ですし、ご意見もいただければと思います。どうぞ、どなたからでも結構です。はい、どうぞ福井委員。

【福井(秀)委員】民事の仮処分も行政権に属する、という解釈になるのですか。要するに行政の仮の救済は行政訴訟本体は司法権だけれども、行政の仮の救済は行政権というのが政府解釈であるわけですよね。それは仮の救済はおよそ行政権であるということなのか、行政訴訟の仮の救済だから、その仮の救済に限っては行政権だということなのか、それはどっちなのか。

【塩野座長】それはおそらく政府答弁は田中二郎先生及びその他の当時の有力説に従った結果だと思いますが、田中二郎先生の論文、どこを読んでも民民の間の仮の救済については何も言っておられません。その意味では射程の範囲は行訴法に限定されている、というふうに私は理解しておりますが。政府の見解もこちらとの関係だというふうに理解しております。

【芝池委員】今の福井委員のご質問は内閣総理大臣の異議の制度の取り扱いに関するものでありますけれども、この内閣総理大臣の異議の制度といいますのは行政法の研究者におきましても違憲であるとか、違憲の疑いが強いですとか、そういう非常に評判の悪いものでありまして、その点ではこの検討会としては廃止の方向で考えるべきではないか、と思っております。

【福井(秀)委員】今の関連ですが、私も内閣総理大臣の異議制度自体、疑問なんですが、例えば公安委員会がした処分というのは自治体の事務なので、それについて国の行政権の長である内閣総理大臣がいきなり止められる、というのも非常に奇異な感じがするのです。元々、国の事務と自治体の事務というのは一定の配分のルールがあって分けたわけで、自治体に権限を与えておきながら、異議というか、仮の救済の段になると、いきなり文句を国家の行政権の長が言えるようになっているという点でも、非常に奇妙な制度であるように思います。そういう意味では行政権か司法権かというと、本当に行政権であるのか、かなり疑問を感じますが、それはさておくとしても、最終的な判断はやはり司法権に留保した上で、行政庁の意見を最終的に司法権が斟酌して判断する、という制度に抜本的に変えた方がいいと思います。

【水野委員】私も両委員の意見に賛成ですが、田中二郎説というのはちょっとよく理解できないのです。行政処分の執行停止をなし得る権限は司法権の本来の作用に含まれない、それが行政作用であると、こう言っておられる。ところが行政訴訟本体は司法作用なんですね。だから裁判所が終局判決で取り消す、というようなことはこれは司法作用だけれど、その前提として、仮の措置として執行停止をするのはこれは行政作用だ、というのはちょっと論理一貫しないのではないかと思うのです。今日の資料で引用していただいている別紙2で、最高裁判所昭和28年1月16日大法廷判決における真野毅裁判官の補足意見は正に行政訴訟というのは司法権に属するということで、それに対して内閣総理大臣が異議を言う、というのは、むしろ、司法判断に対する干渉で、こちらの方が憲法違反だ、ということをおっしゃっているわけで、私はこの見解には全面的に賛成であります。したがいまして、芝池委員がおっしゃったように内閣総理大臣の異議の制度というのは憲法違反の疑いが強いので、これは廃止すべきであると思っております。

【深山委員】内閣総理大臣の異議の制度が違憲でないか、ということはかねてから言われているわけですが、現行法が違憲ではないのか、ということについては一貫して政府側はこう答弁している。それは立案当時、こういう考え方、つまり行政訴訟で、取消訴訟で行政処分が違法であるかを決めるのは司法権の判断になりますけれども、その最終的な判断を司法権に留保していれば、その行政処分の効力を途中で、その最終判断が出る前に、止めるかどうかというのは、行政作用であるので、これを内閣総理大臣に委ねても司法権の侵害にはならないという考え方を前提にこういうふうに立法されたと。現在はどうかといえば、それなりに有力な考え方にしたがって、されたんだろうし、現行法であるから、普通は公権性が推定されているとは言いませんが、なるべく憲法適合的に解釈するということになれば、こういう解釈は十分可能であろうということを言っているわけで、先ほど小林参事官が指摘したとおり、これしかないとか、立法政策上こういうことにしたことはそれはそれで許されることなんだから、今直ちに憲法違反だという必要はないですと、こういう答えを返してきているだけです。これは言うまでもないことですが、本質的には行政権に属することを裁判所の権限にする、ということはいくらでも例があるわけで、そこは正に立法政策ではないかと。ですから、違憲だからこれをやめろ、ということで立法をすることにしなくても、そういう意見があることは重々承知していますから、仮に違憲でないという考え方もそれなりに十分あると政府は言っているとしても、この際見直すわけですから、立法政策的に相当ではない、ということで見直すということであれば、それはそれで私も個人的にはこの機会に、違憲かどうかはともかく、こういう制度自体を廃止するという方向で考える、というのは十分可能だと思います。ただそのときにただなくせばいいのか、この論点の資料にありましたが、代替する装置をどうするか。今のように即時抗告で執行停止効がないという形にしておいて、いいのかどうか、という点が実は一番問題だろう。結論として内閣総理大臣の異議という形での制度をやめるということになったときに、次に考えるのはやはりそれに代替する行政の側の不服をどういう仕組みで構築するか、ということだろうと思います。この資料を見ると、保全執行の停止の規定が参考に書いてありますが、これは一つの要件を立てて、非常に厳しい要件だと思いますが、「取消しの原因となることが明らかな事情及び保全執行により償うことができない損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があったとき」には停止すると。ここまで厳しいものにするとほとんど停止が認められないんじゃないか、という感じもします。一番緩やかなところでは不服申立てがあれば停止するということですがそれでは行き過ぎかもしれないということもあるでしょう。いろんな幅があると思います。そのあたりを実際にどうしていったら合理的なバランスの取れた不服申立ての制度ができるのかといったあたりが実質は一番詰めないといけないことではないのかなと思います。

【福井(秀)委員】私も今の深山さんのご意見に基本的に賛成で、違憲の疑いが強いとは思いますが、違憲だと何も衆議で一致する必要はないわけで、立法政策として少なくとも合憲違憲の議論を棚上げにしても、立法政策として少なくとも妥当ではない、という点で一致できれば、十分議論はできると思います。それで代替措置について、保全処分の例を挙げるのも一つだと思いますけれども、もう一つ、今の執行停止は本案の判決確定まで一回決めたら、ずうっと変わらないのです。ということは途中で事情変化があるとか、あるいは行政の必要が生じて、執行の必要が生じた場合にも極めて硬直的に完全に止めてしまわざるを得ない。本案判決確定というのは、場合によると何十年もかかることもあるわけですから、要するに、それだけの止めることについての覚悟がないと、裁判所も執行停止決定が出せないということは、逆に言えば、裁判所が非常に執行停止を行うことに対して、慎重にならざるを得ないようなインセンティブを今の法制度は与えている、ということです。これは執行停止自体のハードルを人為的に高くしているので、裁判官のインセンティブのコントロールの手段として非常に悪いと思うのです。ですから、一旦執行停止をしたけど、後で随時見直せるようにする。例えば暫定的に行うとか、見直しの機会を設けるとか、あるいは行政庁の何らかの申立てによって、もう一度判断を覆す余地を認めるなど、そういうフレキシブルな制度にしておいた方がよろしいのではないかと思います。
 それからもう一つはちょっとさらに拡大した論点かもしれませんが、執行停止は本案と一緒でないと申立てができませんが、その執行停止だけで申立てを認めて、本案に先行して判断する、というようなこともあって、しかもそれについても随時見直しができるというふうな形にしておくと、フレキシブルの度合いがより強まるのではないかと思います。

【市村委員】今、異議のところから始まってしまったので、前のことがちょっと言いにくいのですが、私は現在の執行停止制度そのものについて、大きく分けて3つぐらい問題点があるのかな、と感じております。一つは先ほど指摘がありましたとおり、争点訴訟、当事者訴訟等について、25条の準用がされていないということで、やはり理論的には、ここに少し穴が空いているのではないかという気がいたします。
 それからもう一つの問題は、処分の名宛人以外の者から執行停止がされている場合に、その処分の名宛人の立場に当たる者の保護、例えば建築確認がされている場合に、その効力停止を第三者が求めるといったことが想定されますけれども、その時に元々建築確認を受けた者、処分の名宛人をどうやって保護するか、ということについて、あまり配慮がされていないのではないでしょうか。例えば、処分の名宛人について、意見聴取の機会というのが確保されていませんし、経済的な損失を被るということも考えられますけど、民事保全と違いまして、担保を立てるという仕組みがなく、そういう面の手当てがされていない。これから第三者の原告適格というのがかなり広く出てくるということが考えられますと、そういう点の配慮が必要なのではないかという気がいたします。
 そして3番目が、今議論になってた部分なんですが、執行停止決定について、これを不服に抗告した場合にも、一旦出された仮の判断というものを是正する制度が設けられていないという、この点です。これは実は民事保全についても、民事保全法以前には立法的な手当てがなかったわけです。ただ、古い昭和23年の最高裁の決定の中で、そのようなことができるということをうかがわせる判断があったために、その後、実務の中では抗告があった場合には、旧民事訴訟法の仮執行宣言付判決に対する控訴があった場合の規定、512条の規定、あるいは上告再審等についての規定、500条、これを類推的に適用できるという考え方で、実際の停止が行われていたわけです。保全法が立法されたときに、やはりこの停止の規定を入れるか入れないか、ということで、確か非常に大きな議論があったと思います。最初の政府案では、この点は入ってなかったのです。実務の運用に任せればいいじゃないか、という議論が強かったのだと思いますが、実際実務はどうだったかと言いますと、具体的な事例の当てはめでいきますと、抽象的な文言は一致しているのですけれども、どういう場合に当てはめていくかということの判断基準が非常にばらついていたのです。やはりそういう点については大事な部分ですから、基準を明確にしておく必要があるだろうという、そういう議論がされたように聞いております。そういうことで、先ほど深山委員が指摘されましたが、非常にきつい、なぜきついかと言うと、やはりまず仮の判断というのをやっているわけですから、それを同じような要件でまたひっくり返してしまうと、いつまでも行き着かない、やはり暫定的なものに対して、それを覆すためには、やはりもっと強いものでないといけないだろう、そういうことであういう要件に至ったのだろうというふうに考えられます。
 私は行政の執行停止においても、その必要性、つまり一つの段階での判断に基づいて執行ということが先行して、その結果、ある程度の事実形成ができると、されてしまうということがあって、他方に、その判断に対する是正の機会というのがまだ残っていて、それが覆る可能性がある、というふうな場合には、やはりそれに応じて、損害が回復不能にならないように、やはりある一定の要件、厳しい要件の下に、執行停止の停止という形になってしまいますが、そういうものを停止する制度、そういう装置を設ければ、全体の状況は相当変わってくるのではないか、と考えております。

【小早川委員】私も今の議論と少し離れるかもしれませんが、全体のバランス論から始めたいのですけれども。民民間の紛争についての仮処分の制度の意義ないし機能、役割と、それから行政訴訟における仮の救済。共通するところもあるし、違うところもある。違うところの一番の極端な場面というのは、行政というのは公権力の行使であって、特に人に対して強制的に、意思に逆らってでも不利益を課することができる、というところが違うわけです。それとの関係で、この執行停止の制度をどう位置づけるかということです。日本の場合は、他の国でもある程度そうですけど、行政庁が判断して、行政処分をして、不利益を課す。そうするとそれは直ちに発効する、効力を生ずるわけです。しかも、その上さらにそれを名義として、強制執行できる場合も多々ある、ということになります。ですから、そこでもう既に、一方的に攻撃する力が行政の方にある。必要な範囲はあるわけですが、現行法ではややそれが行政の側にイニシアチブがありすぎるのではないか、という感じが全般としてはいたします。そうすると、それを司法がとにかく暫定的にチェックをするという機能を、そこにかませる必要がある。そういう意味で現在の執行停止制度、仮処分の排除プラス執行停止というこのシステムが、そういう要請に応えきれているかというと、やはりこれは応えきれていない。その結果、バランスが悪い。行政の側も慎重に善意をもって判断すれば無理やりな執行はしないかもしれませんが、しかし法的にはその権限はある。たまにそれが、一般常識から見ると行政がむりやりやっているというように見える現象が出てくるというところが、それを押さえきれないというところが、現行法の基本的な問題点ではないかと思います。ではそのために、どういうふうにバランスを回復させるかということで、いろんな制度論上の工夫が議論されるということになるわけですが、いろいろあると思います。
 元々、バランスが悪い上に、異議の制度がくっついている。それはやめろというのは、私も結論はそれに賛成であります。それは憲法とどう関わるかというところはいろいろとあると思います。先ほどの議論に出ていませんが、国民の裁判を受ける権利の側から見て、どこまでが司法権が関与できなければいけないか、という、そういう憲法論ももう一つあると思います。
 それから、今市村委員がおっしゃった中で、例えば第三者の利益をどう反映させるか、という点で、今の現行制度では不備であると。それはおっしゃるとおりだと思います。
 それから、やはり基本的に現行法の積極要件の書き方がちょっときついのではないだろうか。ここは、民事の仮処分の場合と単純に比較できないだろうというのは最初に申し上げたところでありまして、ある意味では行政の方が元々権力を持っているのだから、それを裁判所が民民間よりももっと立ち入ってチェックをする、反対のバランスをかけるということも、それなりの意味があるのではないか。そうしますと、回復困難な損害、という言い方がちょっときついのかなという気もしないではありません。
 それから行訴法の問題であるか分かりませんが、行政活動の態様によって、問題状況が違ってくるわけです。特に人身の自由に関わるような話、外国人の取り扱いのような話、ということになりますと、これは何らかの形で、特に司法の方にバランスを傾ける必要があるのではないか。だからそこはあるいは個別法で訴え提起に停止効を認めるとか、ということは十分考えられるのではないかと思います。
 それから、ついでですが、市村委員も言われて、従来学説で、争点訴訟、当事者訴訟に準用がないのはこれは立法の不備であるという見解が強いですが、私はそうは思わないで、必要であれば、それは無効確認訴訟を起こせばいい。多分、立法者ははっきり言っておられないけれども、現行法のシステムはそれなりに説明できるのではないかと思っています。他にもあるかもしれませんが、さしあたり。

【芝池委員】先ほど挙手しましたのは、市村委員が3つの問題点を指摘されましたので、一つ補完をさせていただきたいと思うのですが、それは現在の許認可に対する申請に対する拒否処分につきましては執行停止制度は働かない、ということになっております。したがいまして、拒否処分につきましては仮の救済の制度がないということになるわけでありまして、これはどうしても是正をすべきであろう、と考えております。なお、もし義務づけ訴訟という訴訟形式を導入して、拒否処分はそちらで争うということになりますと、この拒否処分に対する仮の救済の問題は執行停止制度の枠の外の問題であるということになります。
 それから、第三者が争った場合の処分の名宛人の方についての配慮の規定がないというお話でありましたけれども、これは現在の執行停止の要件が非常に厳格であって、そのことによって、執行停止の第三者の利益が配慮されることになっているのではないかと思います。つまり現在、執行停止をしてもらうためには、回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき、という要件になっておりますが、これは非常に厳格でありまして、文言上、これ以上厳しい表現ができないのではないかと思われるほど、厳格であります。ちょっと余計な話になりますが、私は大学院で仮の救済に関する文献を読んでおります。そこで発見したのでありますが、ドイツの場合、規範統制訴訟というのがございますけれども、その時には重大な不利益の防止と緊急の必要性、2つの要件がかかってまいりますが、一般の執行停止ではそれはございません。仮命令の方の資料がありますので申し上げますが、9頁にドイツの行政裁判所法の123条の規定の紹介があります。仮命令についての規定でありますが、そこでは基本的には、4行目の後ろの方に書いてありますように「本質的な不利益を避けるため」という要件があれば、仮命令が認められる、ということになっておりまして、日本の執行停止ほど厳格な要件はかかっていないわけであります。こういうことも参考にして、執行停止の要件の緩和にはこの検討会として、努力するべきではないか、と考えております。

【小早川委員】何か言い忘れていたことがあったと思ったのですが、ありました。今の関係ですが、申請拒否処分に対する仮の救済がないというのはやはり現行法で非常につらい、問題が大きいところであると思います。これについては、一つは抗告訴訟システム全体の見直しの中で、各種の金銭給付、社会保障関係とか、その辺のものを本案においても、この検討会で議論がありましたけれども、取消訴訟の利用強制というものを緩和していく、ということを考えるとすれば、44条の仮処分の排除についても、そこからまた外して、一般法である仮処分、民事の仮処分でいくというような、そのような部分を増やす、ということは十分考えられると思います。他方、金銭的でない各種の許認可の申請の拒否のような場合に、確かに問題が、今、芝池委員がおっしゃったとおり、あるのですが、これについてはしかし、裁判所が仮に許可をする、警察規制における営業の許可を裁判所が仮に与えるということがいいのかどうか、ということはこれは確かに、日本の相場観からすると、難しい問題があるかと思います。ただここもさらに遡れば、現在の司法裁判所の裁判官の方々、あるいはそういう司法システムを前提にして考えると、どうかなというところもあるかもしれませんけれども、別のところで繰り返し申しておりますように、法律を適正に執行するということは行政庁の任務でもあるけれども、裁判所がそれを助けるという観点がやはりどうしても重要であると思います。そこで全部ひっくり返して考えれば、法律の趣旨を適切に執行するのは裁判所もできないはずはないというふうに考えれば、そこはクリアできるわけであります。そこを処分の性質、規律対象の性質ごとに考えるとすれば個別法の問題になりますけれども、一般法で、裁判所が処分を先取りするような、そういう執行停止、仮の救済が考えられるかというのは、ちょっと今私自身結論がでていませんけれども、考える余地はあると思います。

【市村委員】議論が現在の執行制度の問題点ということと、仮の救済というものを分けて考えるのかなと思ったので、発言しなかったのですが、それでは仮の救済の方について少し考えているところを述べさせていただきたいと思います。特に民事保全と比べて、行政事件の対象となる権利等について、仮の救済を及ぼすというふうな制度を設けること自体には、私も賛成でございます。ただ考慮しなければいけない問題として、やはり民事と似ているところもあるけれども、大きく違うところがあるのではないか。その一番大きいところはやはり公益性とか、あるいは公共の福祉への影響というものが全般的に不可避だろうという、その点だと思います。行政事件の対象となる権利等について、仮の命令等によって保全を図ろうとする場合には、当該原告利益の保護と、その一方で多かれ少なかれ、まず必然的に公共の福祉に対する影響、というものをどう調整するか、ということを考えなければいけないと思います。それに対して、民事保全の場合には基本的には相対立する私人間の利益、それも大体、経済的利益と経済的利益といって、同じはかりの上で、比べやすいものが出てくるものがあるのです。それと比べて、今のような仮の救済によって生ずるものとして考えなければいけないものは、かなり異質なものである、という点であります。そのために、例えば、民事保全のように金銭による担保を立てさせるということで、バランスを取る、ということはあまり効果的な方法ではない、という点でまず、民事保全とは異っているということがあるのではないかと思います。
 それから、行政事件の対象となる権利等について、その保全を図ろうとする場合には、一旦、保全措置をとれば、原状回復することが非常に難しいものがかなり多く含まれている。民事でも全然ない、というわけではないですが、建物の収去なんかについて、そういうことがあり得ると言われていますが、大半のものは金銭、最終的には金銭賠償という方法になりますが、かなり原状回復あるいはそれに近いことが考えられますが、例えば、文書の公開・非開示決定、これはおかしいと言った場合に、これを仮の処分でやってしまったら、元に戻りようがない。これに対して、先ほど、小早川委員がおっしゃられたような金銭的なもの、例えば年金の給付、生活保護の給付だとか、そういう金銭的なものは割合、復帰性があるのではないかということはあると思います。そういう意味で、質が違うものですから、当事者双方の利益、あるいは損害の比較衡量というものが非常に難しい。民事でも難しいことは難しいのですが、それよりも、もっと質的な違いがあるので、難しいといえると思います。
 それからもう一つは、その公共の福祉への影響、現在の規定の中でも消極要件としてあるわけですけれども、この把握の仕方というのが非常に一般抽象的になりやすい。あると言えばあるし、ないと言えばない。それは小さい大きい、という言葉で詰めて言えば、かなり幅を持っていて、客観的に裏付け検証する、あるいは証拠によってそれを明らかにするということは、非常に難しい分野だと思うのです。そういう点で、どういう要件を立てるか。大きな枠として、どういう要件を立てるかによって、結論がかなり決まってしまうので、その要件の立て方については十分注意する必要があるだろう、という気がいたします。そうすると、そういう点で、民事保全をそのまま使ってくるというのは、やはり制度としては十分ではないのではないか。やはり行政で、もしこれを作ろうとすれば、行政独自のいろんな視点でもう一回組み立ててみる必要があるのではないかと思います。
 それで、後は具体的にどういう場合が考えられるかというと、まず要件としては、やはり私は権利利益が明確であることが大前提になるのではないかと思います。先ほど、小早川委員がご指摘なられましたけれども、裁判所といえども、その法律を適正に執行すれば、処分のようなものに至れないということはないというお話でしたが、一義的なものであれば、つまり法律をずうっと詰めていけば、結論が出るというものであれば、それはできることだろうと思います。しかしながら、その一方において、やはり裁量的なもの、専門性というか、全体を見渡してやらなければいけないという、そういう行政専門的なものについて、それを裁判所にやれと言われると、それはかなり難しいことではないかな、という気がいたします。
 それから、もう一つの要件としては、「著しい損害とか急迫の危険を避けるため」というような要件、これが厳しすぎるかどうかという議論がありますけれども、その辺については、やはり程度をどうするかはさて措き、やはりもう一つの事前救済でやるわけですから、そういう要件というものを設けることが必要だろうと考えております。
 そして最後に、やはり公共の福祉に対する重大な影響を与えないということ、こういうものを消極要件として入れることはやはり止むを得ないのではないかと考えます。例えば営業免許について、公衆の衛生とか、あるいは交通関係で全体の抽象的危険が増加する、そうしたことを配慮する必要は、当然あるだろうと思います。
 ちょっと付言しますと、今の制度の中で、要件としてある公共の福祉ということについて、消極要件でこれを判断するということは実際にこれを運用していくと非常に難しいという気がいたします。実際の決定例をご覧いただくと分かると思うのですが、随分前には執行停止の部分についてはこの公共の福祉に対して重大な影響があるという消極要件の存在を根拠に執行停止決定を排斥するといったものがありましたけれども、最近はそれは少なくなっていると思います。むしろ、多かれ少なかれ、公共の福祉への影響があるわけですけれども、やっぱり最後は比較衡量になってくると思うのです。そういう使い易い要件というのは、もう少し細かく考えていただけないかな、というのが現場の意識です。つまり、大きな包丁1本を持って、これを包丁でみんな料理せよと言われているようで、使い勝手が悪い。使えばすぱっと全部切れてしまうようなもので、適宜に使うのが難しいという気がします。以上です。

【水野委員】私は仮の救済として、仮処分を行政事件では排除しているというのが必然性があるのかどうかということについて、根本的に疑問を持っています。つまり、行政事件についても仮処分を認めたらいいじゃないか、というのが基本的な私の意見です。今、市村さんがおっしゃった点で、まず一番目には、公益性とか、公共の福祉の観点が必要である、ということをおっしゃった。しかし、これは現に仮処分の事件で、そういった判断をしているわけです。つまり、例えばごみ焼却場を市が建築するといったときに、仮処分を利用することが認められています。その仮処分事件では、ごみ行政と言いますか、そういった公共性ということについて、十分斟酌されて判断されているわけです。ですから現在の仮処分が民民を対象にしているから、そういった公共性ということについて、判断されていないかと言ったら、決してそうではない。既に判断されている、というのが第一点。
 二番目は原状復帰が難しいものが多いとおっしゃった。例えば、文書の公開なんかはそれはそのとおりでしょう。仮処分で文書を公開してしまったら、それで終ってしまう。しかし、いわゆる民事事件だってそういうことはありますよね。商法に基づいて、帳簿書類の閲覧請求権があるかないか、という裁判になった。これは仮処分で緊急の必要性があるから閲覧させた、といったら、それはおしまいになってしまうので、それは何も別に行政訴訟特有の問題ではなかろうと思います。
 それから、いわゆる利益衡量が難しい事件が多いという3番目の点ですが、これも民事事件でも同じだと思います。例えば私は大阪国際空港の事件をやりましたが、仮にあれを仮処分でやっていたとすれば、差し止めることによって与える、いわゆる公共の福祉とかですね、外国とも絡めると非常に複雑な利益衡量をしなければならない。これは仮処分だからできない、行政上の救済制度だったらできるというものではなかろうと思います。現にあれは本案訴訟でしたけれども、仮処分でやったとしてもそういった判断をせざるを得ないわけで、現にしておられる。他にも仮処分の事件でも探せばあると思います。ですから、今、市村さんがおっしゃったいくつかの点があるから、民事保全法をそのまま適用するのは妥当ではない、というのは私は必ずしも賛成できない。むしろ、仮処分を認めるということで解決するのではなかろうか、というふうに基本的に思っています。

【市村委員】議論になって、やりあってもしょうがないのですが、私が申し上げているのは、先ほどのような特質が必然的に出てくるものだから、仮に民事の保全と同じでいいというなら、行政の中にそのまま、それをまず基本条文を取り込んできて、その中で吟味したらいいじゃないですか、ということです。民事の事件で先ほどおっしゃったような事件で、公共性が吟味されるのは当たり前のことだと思うのです。しかし、それだからといって、民事の保全でやる方が具合がいいということにはならない。つまり、民事では担保制度というのが大きな機能を果たしておりますが、そういうものがあまり働かないという状況の中で、どうするかということです。仮に民事の規定と、最終的に同じになるなら、それはそれで構わないと思いますが、一度、行政の今のような特質を全部チェックした上で、それで組み立ててみるのがいいでしょう、と申し上げているので、民事の方で、公共の福祉が論じられるのがおかしいなどとは、毛頭言っているつもりはございません。

【福井(秀)委員】大きく3つあります。第一は、公共の福祉の点は結局は個々の判断になると思うのですけれども、結局のところ、司法権の判断に熟せばいい、というのが究極の姿だと思います。と言いますのは、どちらにしても本案で問題になるような事態を司法権の判断に委ねたのだとすれば、そこが本案で最終的に審査される以上、仮の救済の段階で、司法審査が熟して、しかも行政庁の疎明等も得た上で判断されるのであれば、それはそれでいい。やっぱり公共の福祉というのは、抽象的な文言で非常に問題が多いので、これは市村さんもおっしゃったようにもうちょっと具体的なレベルで考えると結果的には民事とあまり変わらなくなるような気がしております。できるだけ具体的レベルで、条文化した方がいいという気がします。
 仮の救済で先ほど来のご議論がありましたけれども、基本的に不利益処分は執行停止で、例えば義務づけ等のそれ以外は仮の命令で救済する、というような、流れがよろしいのではないかと思います。生活保護の受給ですとか、あるいは公立高校の不合格のようなものでは、仮の地位がないと非常に原告に過酷な仕打ちをすることになる。そういった場合の本案としては、やっぱり義務づけを想定して、セットとして仮命令を置いておくというのが、大きな意味での適切なスキームではないかと思います。仮処分の禁止なんですけれども、結局整理するとしたら、執行停止をどこに設けるのかというのは、取消しと無効でいいのかどうか、ということがありますけれども、いずれにしても重要なのは執行停止が設けられないところで、一律に仮処分が排除されるというのはやっぱりおかしいわけでありまして、執行停止で補えないような領域や項目については、少なくとも、その他公権力の行使に関する行為についても仮処分ができるとして、漏れがないように仕組んでおくことが、絶対必要な視点ではないか。そうでないと、裁判を受ける権利を侵害するということにもなりかねないと思います。
 二つ目が、例えば申立てがあったら止めるというふうに、執行停止の申立てがあったら、さしあたり止める。そうでないと、退去強制のようなものですと、外国に行ってしまったら、戻って来れないということも現実に起こっておりますので、事前に本案の前に申立てができるということを前提にして、しかも申立てがあったら止める。少なくとも裁判所の判断で却下、という判断が出るまでは停止しておいて、それ以降は執行してもいい、という原則に転換した方がよろしいのではないかという気がします。
 これに関連して第三者の利害関係というのがありましたけれども、確かに第三者の建築確認のようにその処分の名宛人の利害を調整する場合には、執行停止の要件を多少変えてもいいように思います。例えば、そういう場合は本案について理由があると見えるときに行うなど、裏返しの書き方もありうると思います。
 3点目ですけれども、建物取り壊し命令とか、外国人の退去強制とか、これで執行停止をしたけれども、後でそれが間違っていた、本案ではその執行停止した判断の前提がひっくり返った、というような場合の後始末の話なんですけれども、今は後始末が多分国家賠償で、故意過失が要求されている、ということになると、なかなか取れないことが多い。むしろ無過失賠償、過失の有無を問わず、ひっくり返った場合には賠償するという原則を入れる。しかも賠償の場合に単純に損失分を補填するというのではなくて、割増賠償で救済することも考えられると思います。特に民事の方では、例えば一審で仮執行の宣言が付いて、二審でひっくり返ったという場合には無過失賠償だ、ということになっているわけですから、それとのバランスでもそんなにおかしくはないという気がします。仮処分の場合も結局、ひっくり返った場合には原告の過失が推定されるということになっているようですから、それとのバランスでも、ひっくり返った場合には無過失賠償で割増賠償ということが、むしろ妥当でバランスが取れると思います。
 それから、滞納処分など金銭に関する不利益処分の場合も執行停止については、これも割増賠償と関連しますけれども、後で多少の割増が付いて、もう一回払わないといけないかもしれないということがあれば、それとの兼ね合いでリスクは本人に判断させればいい話ですから、申立てがあれば基本的にはかなり自由に認めてもよいのではないだろうか、ということです。

【成川委員】執行停止の制度で、いろんなご意見があったわけですが、パブリックコメントなり、この間の議論を振り返って見ますと、やはり要件がかなり厳しいのではないか、というご意見があって、執行不停止が原則になっているのですけれども、なぜその原則にしなければならないかというと、この間の議論で、公権力の行使であろうとも、訴訟の場合には対等でないという、こういう話もあったので、なるべく申立てで執行停止があれば、それをなるべく認める、という面で考える必要があるのではないか、というのが私の第一点の感想です。確かにその際、今ご指摘がありましたけれども、第三者と関係する場合にありましては、当然それらのことを考えながら、やらなければならないのではないだろうか。しかしそういうものがない場合には、現在の要件について緩和の方向で考えるという必要があるのではないかというのが第1点です。
 第2点は仮の救済の件ですが、先ほど来ご指摘のように、拒否処分の場合にはどうも執行停止も現在できませんし、また執行停止の実益もないと、こういうことなので、これら執行停止がかからないものについては仮の救済を認める、という形をとる必要があるのではないかというのが第2点。
 それから第3点は、先ほどの内閣総理大臣の異議申立てなんですが、条文を読んでいる中で、急に内閣総理大臣というのがぽんと出てくるのは、違和感がありまして、行政の代表者として、言っているのかなという感じで読んだのですけれども、行政として何らかの措置があれば、それで手立てを講じればいいので、それが内閣総理大臣ということが出てくることが何か司法と行政の関係の中で、説得性に欠けるというのが私の感想です。

【水野委員】先ほど、仮処分を認めたらいいじゃないか、という意見を申し上げましたけれども、行政訴訟に今の執行停止という制度を残すとすれば、これは成川委員がおっしゃったように、やはり執行停止を原則とすべきでないか、というふうに思うのです。やはり今、執行停止の要件が非常に厳格なものですから、成川さんご指摘のように、なかなか執行停止が認められない。裁判をやっているうちに期間が過ぎ去って、訴えの利益がなくなるといったふうなことになっております。ですから、まず執行停止を原則にして、そして一定の場合には執行不停止にする。原則と例外を逆にするべきではないかと。それからやはり拒否処分なんかに対する救済、これは皆さんおっしゃっておりますけれども、仮命令といった救済措置を採用すべきであると思います。

【芝原委員】今のことに関係したことですけれども、執行停止、仮の救済の一つの事象が我々、一般人から見たら、信じ難い事情判決です。ここに象徴的に表れているのではないかと思うのです。要するに執行停止ができない、仮の救済ができないがために、結果的に事情判決が。そういう温床にこういうのがなっているのではないかなと、私、法理論的に正しいかどうか判りませんけれども、図式的に見るとそういう感じがするわけです。そういう意味でも、事情判決をなくせるような仕組みにやっぱり事前にしておくべきだというのが1点あります。
 それからもう1点は仮の救済的な意味で、これは一種の緊急性をある意味では軸としてあると思うのですけれども、どうも先ほどの公共の福祉という文言と同じで、国が使う緊急性というのは非常に長いスパンの緊急性を言っている、という実感があります。例えば、緊急特別措置法も緊急といいながら何十年も続いています。こういう意味合いでの緊急性なのか、本当に今日明日という意味合いで、急がれる緊急性なのか、というのは非常に違うと思いますので、そういう意味でこの仮の救済というのであれば、どこかに書いてある緊急性という文言がどういう意味合いのものかということを、もう少しはっきりしておかないと実効性は多分持てないのではないかと、いろんな過去を見てきた経験から言うと、そんな感じがちょっとしています。

【芝池委員】執行停止の原則を取るかどうかという点につきましては、私の考えを申し上げさせていただきます。執行停止原則を取ることは現在の執行不停止の原則を改めて、執行停止の原則にする、というのはかなりの決断が必要だろうというふうに思います。いずれを原則としましても、もし例外を柔軟に認めていくのであれば、どちらを原則にするかというのは、あまり重要な問題ではない、ということになります。ただ、現在の執行不停止原則につきましては、行政がいわば安住している感がある、と私は思っております。したがいまして、今回の行政訴訟制度の改革が国民のためのものであるというのでありましたら、この点はどうしてもうやはり変える必要があるだろうと思います。
 一つの方策は水野委員もおっしゃいました執行停止の原則を採用するということです。それからもう一つの方策は私が先ほど申し上げましたように、裁判所による執行停止のための要件を緩和する、ということでありまして、このあたり、この検討会で検討すればいいのではないかと思います。

【福井(秀)委員】後始末の点で、若干の補足なんですけれども、例えば滞納処分で執行停止をして取り消されたという場合、滞納処分が取り消されたときには確か14.6%が、執行停止期間中も含めて、超過金利で掛かってきます。執行停止という形で法的にきちんと認められた停止期間中に、こういう懲罰的な金利が掛かるというのも妙ですので、こういう場合についての何か手当てが必要でないかということです。
 それからもう一つは、執行してしまった場合の話、例えば滞納処分をやってしまって、家屋が誰か第三者の手に渡っているという、そういう段階で滞納処分が取り消されると、後始末が大変になるわけです。今は後始末は自分で所有権に基づく返還請求だとか、登記も自分でやるのですけれども、このようなものはそもそも、滞納処分をやるときには、税務署に登記を移すのは職権でやるのだから、後始末も行政の責任で、職権で移す、さらに取り返してあげて、どうぞ、と提供をするとか、もう少し対等な立場で後始末もできるようにした方がいいのではないか。

【塩野座長】どうもありがとうございました。時間が大分まいりましたので、いろいろとご意見もあろうかと思いますけれども、かなりいろんなご意見も出ておりますし、また共通の要素、傾向がございますので、この辺でこの問題についてはご議論を終結させていただきたいと思います。
 そこであまりまとめるという意識もございませんけれども、要するに仮の救済について穴があってはいけないというのは当然の前提だと思います。現行法で穴が空いているのか、空いていないのか、というところはいろいろと議論があるところで、仮処分の禁止もあれは穴は空いていないはずだという杉本解説もございますし、また他の点のところでもやりようによっては穴が空いていないのに、裁判官がちゃんと動かないからという、そういう異論もあるかもしれません。しかし、ここはやっぱり国民に分かりやすく穴はきちんと埋めました、という必要はあると思います。これは仮処分排除の問題もございますけれども、この仮処分排除の規定についてはやはりきちんと見直す必要がある。もし穴が空いているとすれば、それはきちんと穴を埋めるということだと思います。その穴の埋め方については、これは民訴そのままでいいという意見とそうではなくて、やはり行政の方できちんと考える。あるいは考えた上でどうするかというふうに、ということはあったかと思いますけれども、仮の救済については外国の法令を見ましても、日本の法令はかなり穴のあるように見える法令だというふうに読めます。そこで外国の制度も踏まえまして、仮の救済、国民の権利の保全のため、十分な機能を果たせるかどうか、あるいは裁判官として使いやすい、あるいは国民も使いやすい、というそういう制度の構築をこれから考えていく必要があるというふうに思いました。
 それから内閣総理大臣の異議の制度につきましては、大体のところのご意見は検討見直しの方向で検討をするということは一応一致を見ていると私は思います。それが違憲であるかどうかという点については、この検討会で詰めてみても、多少いささか問題があるところもございますので、むしろ廃止するなら廃止するで、しかし廃止した場合もそれこそ公共の利益をどういう形で担保していくか、という点について詰めた議論をする必要があると思います。私があえて申しましたのは、昭和37年の行政事件訴訟法の制定の過程で、国会で議論になった唯一と言っていい点が、この内閣総理大臣の異議なんです。それだけ、日本法としては、この点についてはきちんと議論した上で、先ほどの前の立法政策は誤りだったということならば、そこは直してもらうということの段取りを取るべきだろうというふうに思いました。
 それからもう一つは執行停止の固有の問題がいろいろ出ました。仮の地位の問題もございますし、それから要件もございますし、この点については当然のことながら穴があればそれを埋めるし、また不十分ならばそれを是正する方向で検討していくということになるだろうというふうに思います。それとの関係で、執行不停止かどうかという点については、両方のご議論がございまして、停止制度をとっている例えばドイツなんかも、それなりにどうも手当てをしている、ということのようで、裸で停止しているわけではございませんで、例外も設ける場合もありますし、それから行政庁の言い分も聞くというやり方もある、聞かないで行政庁にやらせるという言い分もあろうかと思います。その点はまた機会を見て、ドイツ法あるいはその他の外国についての状況も要件論に入った段階で、少し詳しくご紹介をしていただくことがあるというふうにも思っております。
 そんなところで、後は福井委員からは後始末の問題についても、いろいろ興味のあるご提案がありましたので、その点については今後考えてさせていただきたいというふうに思います。大分時間も回ってまいりましたので、この辺でそれでは一休みいたしましょうか。

(休 憩)

【塩野座長】次の「行政訴訟のその他の論点」についての検討を進めたいと思います。フリートーキング参考資料の第6、第7、第8、第9というテーマがここに含まれておりますが、項目がたくさんでございますので、いくつかに区切って議論をしていったらどうか、というふうに思っています。まず「第6 訴訟費用等について」で一つ、それから「第7 行政不服審査法等の他の法令との関係」とそれから「第8 行政事件訴訟法以外の個別法上の課題について」ということで、行政救済法、あるいは行政実体法がらみの話をここでしていただく。そして、「第9 行政訴訟の基盤整備上の諸課題について」で一つとして、3つに区切ってご議論をいただいてはどうか、というふうに思っております。そういうことでよろしゅうございますか。ご異論なければ先に進めていきたいと思います。
 まず、「第6 訴訟費用等について」についての検討をお願いしたいと思います。具体的には、訴え提起の手数料、弁護士報酬の片面的敗訴者負担、報奨金支給制度、訴訟費用、法律扶助といったようなことでございます。かならずしも、この順序に従い、あるいはこれに含まれていないのはシャットアウトするつもりはございませんので、どうぞ、ご自由にご発言をいただきたいと思いますが、その前に事務局から資料の説明をお願いいたします。

【小林参事官】訴え提起の手数料に関しては、2頁に記載したとおりで、基本的に行政事件訴訟についても訴えの提起の手数料は、他の民事訴訟と同じになっている。これがまず基本の仕組みで、民事訴訟費用等に関する法律により、民事訴訟、行政事件訴訟を通じて、訴えの提起については、「訴訟の目的の価額」に応じて、手数料が定められている。そこは同じです。それから訴え提起の手数料の見直しにつきましては、司法制度改革推進計画におきましても、2頁の下から3行目からですが、「訴訟の目的の価額に応じて順次加算して算出するいわゆるスライド制を維持しつつ、必要な範囲でその低額化を行うこととし、所要の法案を提出する」こととされており、この点については事務局で司法アクセス検討会を中心に現在検討を進めているところです。
 それから3頁、訴訟の目的の価額の算定につきましても、これも民事訴訟と行政訴訟に何ら変わるところはない、というところでございます。若干、行政訴訟において、やや特殊に、よく起きてくる問題として、3頁の(3)に、複数の原告が同一の行政処分の取消しを求める場合、こういう場合があり、そういう場合でも、適用される法律は民事訴訟法と同じですが、この場合について、各原告の主張する利益というのは、それぞれ原告個別に存在するものだということで、この(3)の下から3行目のところですが、 各原告が訴えで主張する利益は全員に共通であるとはいえず、その訴えの提起の手数料は、利益によって算定される訴訟の目的の価額、1人について、つまり95万円、算定不能の場合95万円とされていますので、その算定不能な利益を1人95万円ずつ加算して計算する、こういう最高裁判所の判決がございますので、これは一つの処分の取消を求める場合について、特に環境に係わる問題について、こういった多数の原告が訴える場合というのがございますので、参考までに記載したところです。
 それから、「訴訟費用の負担」のところですが、3頁にありますように、訴訟費用負担の原則は、敗訴の当事者の負担とする、とされておりますが、この点につきましては4頁にございますように、訴訟当事者が弁護士に支払う報酬は敗訴当事者負担の適用対象となる訴訟費用に原則として含まれない、とされております。そこで、この点についても司法制度改革推進計画においては、「弁護士報酬の敗訴者負担制度について、不当に訴えの提起を萎縮させないよう、敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲及びその取扱いの在り方、敗訴者に負担させる場合に負担させるべき額の定め方等制度設計について検討した上で、一定の要件の下に弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入することとし、所要の法案を提出する」とされ、これについても司法アクセス検討会を中心に検討を進めているところです。
 民事法律扶助の制度は、訴訟費用とされない、特に弁護士報酬等に関しまして、その支出が困難な者を援助する制度です。4頁の下から2行目にありますように司法制度改革推進計画で 「民事法律扶助制度について、対象事件・対象者の範囲、利用者負担の在り方、運営主体の在り方等につき更に総合的・体系的な検討を加えた上で、一層充実することとし、本部設置期限までに、所要の措置を講ずる。」とされ、これも司法アクセス検討会を中心に検討を進めているところです。民事法律扶助におきましても、行政事件は民事事件と同じような扱いで、民事法律扶助事件の対象とされています。こちらからの補足説明は以上です。

【塩野座長】どうもありがとうございました。それでは今の説明を前提にいたしまして、色々とご議論をいただきたいと思います。この点は弁護士さんが一番、経験がおありかと思いますので、まず口火を切っていただけますか。どうぞ。

【水野委員】訴えの手数料、いわゆる印紙代につきましては、日本は非常に高額である、ということでございまして、これを少し低額化すべきだと。要するに行政事件訴訟だけではなく、民事訴訟一般の議論としてそういう議論がされておりますので、是非そういう方向で実現してもらいたいと思います。さらに行政訴訟については、例えば複数の原告が同一の行政行為の取消しを求める場合、これはかつては行政処分は一つであるという理由で、原告が何人いようと一つでいいというのが裁判所の取り扱いでありました。私がやりました甲子園浜の埋め立て公害訴訟というのがありまして、これは兵庫県知事を相手に港湾計画の取消訴訟です。原告の数が2,000人でありましたけれども、これは行政処分が一つであるという前提で、95万円相当の印紙を貼ってやっておりました。ところが、途中で処分性の問題で却下されるおそれがあるということで、予備的に人格権に基づく差し止めの民事訴訟を併合提起しました。その段階で、最初に裁判所から話しがあったのは、人格権に基づく差し止め請求は、個々の一人一人の合算する必要があるということで、印紙を貼ってもらいたい。こういう要求がなされた。仕方なしに、原告の数を3分の1ぐらいに減らしました。つまり3分の2は訴えを取り下げました。3分の1ぐらいの原告にしまして、印紙を貼ったのです。それでも5百何十万円の印紙をカンパして集めて貼った、ということがありました。こういうことで、実際に、ある意味では公益的な、もちろん人格権に基づく裁判ではありますけれども、貴重な甲子園浜、自然海浜を守ろうという、公益的な要素が強い裁判であっても、そういった負担がある、ということをご理解いただきたいのです。ところが平成12年の最高裁の判決で、行政訴訟についても合算しろといった判例が出るに及んでいます。これはやはり立法的に手当をしていただく必要があるだろう。つまり行政訴訟については、対象が同一である場合においては原告の数が複数であっても、訴訟物は一つとしてみて、印紙はそれに見合う分でいいといったことを立法的に解決する必要があるのではないだろうかと。最高裁判所は住民訴訟については、95万円の算定不能でいいと言っているのです。それから原告の数が何人であっても、一つでいいと言っている。そういう最高裁の判例もございます。昭和53年3月30日の判例でございますけど、そういう判例もありますので、これは立法的に解決してもらう必要があるのではなかろうかと思っております。
 それからもう一つ言いますと、そういった公益的な要素が強い裁判については、印紙を例えば一律1件千円とか、そういった制度が検討できないだろうか。つまり、本来適法に行われるべき行政が違法に行われている、ということを住民が主張して、裁判所にその是正を求める。しかも、それは非常に公益的な訴訟であるといった場合には、通常の個々の個人の利益を前提とした民事訴訟費用法の印紙ではなくて、特別のそういった制度を設けるということを検討すべきでないかというふうに思っています。
 それから、弁護士報酬の敗訴者負担の問題でありますが、これにつきましては、一律にこれを導入することについては反対であります。これは日弁連でも総会決議をしまして、一律導入については反対ということで、今、対策本部を設けて、様々な主張を展開しています。これはなんと言いましても、一律導入ということになりますと、訴訟提起を萎縮させるという効果があることは紛れもない事実でありまして、私も反対であります。ただ行政訴訟については、これは原告が違法な行政が行われている、ということで、訴えを提起した。そして勝訴した。勝訴したというのはその人が訴えを起こしたことによって、違法な行政が是正された、という一種公益的な効果が生じたわけです。訴えを起こすということは、実は国民にとっては、大きな負担なんです。すぐに濫訴の弊というようなことが言われますけれども、現実にいろんな裁判を経験しておりますと、裁判を起こすことが一般の国民にとって、いかに大変なことか、これは個人的な利害でどうしてもやらざるを得ないという場合なら、やりますけれども、ある程度公益的な裁判について違法な行政を是正するといったときに、そういった裁判に参加するというのはなかなか大変な負担であります。したがいまして、もしそういった負担を克服して、裁判所にそういう違法な行政の是正を求めた。そして、それが実現したという場合には、その原告の弁護士費用は行政が持つべきではないか、というふうに思います。つまり片面的敗訴者負担制度を行政事件には導入すべきではないかと思います。住民訴訟には立法的な手当がされております。これと同じような制度を行政事件について導入すべきだと思っております。
 それから、民事法律扶助でありますが、民事法律扶助につきましては、ご案内のように民事法律扶助法が成立いたしまして、法律扶助というのが法律で認められた制度として出発しているわけであります。現在、行政訴訟も一応、この民事法律扶助制度の対象になっておりますが、現実的に行政訴訟について、民事扶助を受けているケースは少ないのが現状であります。これはいろんな原因がありますが、現在の行政裁判の現状から見て、いわゆる勝訴の見込みという判断が非常に難しい、というのが一つの大きなネックになっている、ということは扶助を担当している担当者が述懐しているところであります。したがいまして、行政訴訟についてはこの民事扶助制度の中で、何らかの特別の取り扱いを検討する必要があるのではなかろうか。行政訴訟について、別途要件を緩和するなど、法律扶助を充実させる必要があるのではなかろうか思っております。

【塩野座長】どうもありがとうございました。いくつか項目が分かれているのに、ある程度まとめてお願いいたしましたが、どうぞ、ご発言はどの部分でも結構でございますので、意見交換をしたいと思います。
 司法アクセス検討会の方では、法律論からいろいろと検討をしておられると思うのですけれども、行政訴訟の問題という点については、アクセスの検討会の方でも一応視野に入っているわけですね。

【小林参事官】はい。特にご指摘になりました弁護士報酬の負担の問題につきましては、一律に導入をすることではなくて、訴えの提起を萎縮させないように、導入しない訴訟類型はどういうものか、ということについても、当面次回の検討会もございますし、今後検討していくことになっております。
 それから、法律扶助、それから訴え提起の手数料についても検討することになっておりますが、訴え提起の手数料については、これまでの検討の中ではそういった行政訴訟の固有の問題というよりは全体としての手数料水準の引き下げという形で検討が行われております。法律扶助については、まだそこまで具体的な検討はいたしておりませんので、今後今のようなお話も踏まえて検討をしたいと思います。

【塩野座長】私がそういうことを申しましたのは、一方ではアクセスの方でいろいろ議論をしているときに、この問題に関して言えば、あちらの方が専門的に深く掘り下げ、かつ広く検討をしておられると思われます。そうすると、我々の方の役目はそれは進行しているのを注視しながら、行政訴訟の問題について、特にこういった点があれば考えてほしい、そういう形になる場合と、それからアクセスの方が先に終わってしまって、出来て見たところが行政訴訟とかに、こういう問題が残されているということで、意見を申し上げる、ということもあろうというふうに思っておりますから、そういうご質問を申し上げたところであります。今のところ、担当参事官の方から、幅広く視野を広く見ながら、検討を進めていく、というご返事をいただいたところでございます。ただ現段階において、こういう点があるから、注意して欲しい、というそういうご意見はもちろん承りたいと思いますし、先ほどの水野委員のご発言もそういう趣旨のものと考えておりますので、どうぞ。

【水野委員】ちょっと件数を私が調べた範囲で申しますと、平成13年事業報告書によりますと、統計がきちんとされているかどうか若干疑問があるのですが、一応行政事件とされている事件というのは扶助を受けた事件は37件でありまして、29,855件のうちの0.1%にすぎない。37件のうち25件は国家賠償訴訟でありまして、残りの12件が行政訴訟に対する扶助件数だと、こういったのが実情のようでありまして、これはやはり先ほど言いましたように、勝訴の見込み、これは今の法律が勝訴の見込みのあるとき、ということから勝訴の見込みがないとは言えないとき、と一応要件が緩和されたのですけれども、それでもなかなか行政訴訟についてはこの要件をクリアーしてると言えないということで扶助を受けられる事件が少ない、というのが実情であります。
 もう一つは行政手続に関する法律扶助が認められていないという問題点がありまして、これについても法律扶助で拾うべきではないか、という意見があるということを申し上げておきます。

【成川委員】ちょっと教えていただきたいのですけど、訴えの手数料ですが、先ほどの話しですと、ここに書いてある2頁目のところにそれぞれ金額ごとにいくらの額を納めなさいというのでしょうか、制度として定められていますが、具体的には平成15年の通常国会では低額化ということで下げるという方向で検討中ということなんですが、どの程度下げるのかとか、非常に高いという意見も出てますし、今のお話ですと、行政訴訟の場合は別途、行政訴訟ということで金額を考えた方がいいんじゃないか、というご指摘もあるのですけど、一つとして、どのぐらいのとこまで下げるというお考えなのかという1点と、第2番目に、先ほど出ている金額の算定できないものについては95万円相当とみなして、8千2百円になるそうですけれども、8千2百円ではない行政訴訟の場合、それ以上の手数料を得ているようなそういう訴訟事件というのはどのくらい比率を占めているのか。その辺は払う人は払っているのでしょうけれども、ちゃんと払えるような形になっているのか、かなり無理をしているのか、その辺の実情についてお分かりになればちょっと教えていただきたいのですが。

【小林参事官】第1点の方ですが、まだ確定的に法案の方、詰めていないので、具体的にどのぐらいの割合かというのは申し上げられませんけれども、検討会の結果については、訴えの提起の手数料については、結局のところは全体としてそれを誰かが負担しているということになりますので、その手数料を軽減するということになりますと、最終的には一般国民の負担との間の公平、訴訟利用者と一般国民、あるいは訴訟利用者相互の間でも大きな利益を追求する場合と小さい利益を追求する場合、そういった場合との負担の公平の問題、それから実際にそれぞれの手続において裁判所にかかる負担がどの程度のものか、ということも全体として考慮した上での、裁判所にかかるコストを最終的には誰がどういう形で負担すべきかという公平の問題を考える必要があると、そういうような形で検討を進めた結果、平均的な手数料水準よりかなり高いところ、そういったところについては引き下げを図っていく、ということで一致しております。それで平均的な手数料水準というのは目安としては300万円程度のところが通常の訴え提起の平均的な、1件納めている手数料の水準なんですが、そこで2万円程度になるのですが、それよりも高い手数料、それよりも訴額が高くなると、負担しなければなりません。さらにずうっと行きますと、何億円ということになると、さらに積み上がっていくわけですが、そういったところについて手数料の負担水準がどのくらいになるのか、ということも考慮しながら、それに応じた引き下げを図っていくべきだろう。しかし、平成4年に一度引き下げをしておりますので、その平成4年に引き下げをしたことも考慮しながら、その負担の公平を図りながら、引き下げをしていこうと。さらに一番上、10億円を超えるところについて、500万円ごとに1万円ということになっていますが、これよりもさらに高い訴訟も、順次、最近になって増えてきておりますので、そういった高額の訴訟について、さらにやはり裁判所がこういうのを受け入れていくと。そういう訴訟も提起しやすくする必要もあるということで、さらに上の方にはもっと低い手数料水準を設定していくべきではないだろうかと、そういうことについては意見の一致をみておりますので、現在それに沿った作業を進めております。
 それから第2点の訴えの提起の手数料が行政訴訟でも高くなる場合ですが、これは事件については調査が出来ていないし、多分難しいのではないかと思うのですが、例としてどんなことがあるかということになりますと、一つとして税金、課税処分の取消訴訟になりますと、これは課税処分の額と自分の方で訴額の税金を払う義務があると。認めている額との差額が多分訴訟の目的の価額になるのではないかと思われますので、場合によっては高額な手数料になる場合がございます。

【福井(秀)委員】基本的に水野委員がおっしゃったことに賛成なのですが、元々、位置づけとして、行政訴訟は権利回復の部分はもちろんあるのですけれども、本来適法になされてないといけない行政について、その適法性を担保する。言い換えれば、違法性を是正するための機能も全ての行政訴訟は持っているわけですから、これを一律に、個人の、民民の単なる権利回復と同じような基準で手数料や法律扶助を考えるのは問題が多いと思います。印紙について言えば、多分細かく算定しても甲斐がないと思うのです。行政事件は大規模プロジェクトもあれば、小規模もあれば、税金だって高額なものから非常に些細なものまであるわけでして、こういったものを金額換算して手数料を算定する、というアプローチ自体にかなり無理があるように思います。多少の差はあってもいいのもしれませんけれども、できるだけ行政訴訟については一律で、しかもあまり法外でないような手数料で処理できる、というような方法が良いのではないか。その根拠は、行政訴訟で得られる利益は民事とは違って、本来一般国民に利益が広い意味で帰属するものだからだ、ということでよろしいと思います。それで、特に課税の場合は元々、行政庁が私人に対して税金の請求権を持っているわけでして、本来は行政側から請求すべきものと考えてもいいわけです。取り間違えたときにそれを救済してくれというときに、またとんでもないお金が掛かるということはやっぱり構図として、釈然としないものがあるわけでして、やっぱり課税処分についてもできるだけ一律の方向で、金額によって極端に異なるということがないようにするのが妥当と思います。特に先ほども例が出ていましたが、環境訴訟とか計画統制訴訟の場合には、もちろん個別に還元すれば薄く一人一人の主観的利益があるのかもしれませんけれども、こういった訴訟類型をもし認めるとすれば、それは限りなく客観訴訟に近いわけですから、それは請求するものは同じだということで、一人分でいいと考えてよいと思います。
 それから片面的敗訴者負担は、是非行政の場合は必要でありまして、原告が負けたときに行政庁の弁護士代金を全部負担するということには決してするべきではないと思います。

【小早川委員】あまり普段考えていないことで、お話を伺いながら考えていたのですけれども、一つは印紙の方で、今おっしゃられたご発言のことは行政訴訟の特殊性、行政訴訟をひっくるめて特殊だと言って、あちらの検討会の方で納得してもらえるかどうかということは一つ問題があると思います。ただいずれにしても、この3頁に挙がっている最高裁判例はあるのですが、ある種の行政訴訟について、多数当事者の行政訴訟でも処分が分割できるという場合、例の保険料告示の取消訴訟の場合は可分かどうかという議論がありましたけれども、もし可分だとすると、それは各人が自分の金銭的な利益のためにその部分の訴訟を起こしているんでしょうと言われると、それはそうなのかもしれないということもあるかもしれません。それに対して、先ほど水野委員なんかも言われたように、処分が可分ではなくて、一つの処分で、しかしそれが多数人に影響するから、そういう多数人が訴訟を起こしているという場合は、不可分なら一人で起こせばいいじゃないかと言われるかもしれませんが、そこはやっぱりそういうものでもない、影響を受ける人みんなで訴訟を起こすというのはそれはそれで自然な形ですから、そういう場合にこの最高裁判決の法理そのままでいいのか、という問題はやっぱりあると思うのです。その辺はもし立法的に解決できるのであればちょっと考えてもらってもいいのかな、というのが印紙についての考えであります。
 それから弁護士費用の方は結論的には私も、行政訴訟の場合はちょと特別かな、という感じがいたします。行政訴訟全部が不法行為訴訟に類似するとまでは言い切れないかもしれませんけれども、やはり行政庁というのは私的一当事者とは違って、普段から相手側の利益も適正に考慮しながら適切に行動していくべき、そういう立場にあるわけなんで、その行政庁がもし判断を間違って違法な行為をやったということであれば、それはやはり普通の契約関係を巡る訴訟の場合などとはちょっと違うんじゃないかという気がいたします。しかしそれも、不法行為に近い違法処分と、それからそうでもない、多様な行政をやっていればこういうものもあるよという程度のもの、いろいろあると思いますので、全部引っくるめてというわけにはいくのかいかないのかというところはちょっと問題があるかもしれませんが、考えることとしてはそういう要素は一部あるのではないかと思います。

【市村委員】特に3頁に挙がってます判決の点が出ていましたけれども、裁判所としては算定の仕方というのは費用法で決まっているわけで、そうすると決まっている以上、特に例外を設けていなければ、それに従った計算をせざるを得ないわけです。そういう部分について、公益性の強弱だとか入れて考えるべきだとかいうのなら、それは立法してもらい、その点をきちっとルールとして適用できるようにすべきである。あまり印紙の算定の部分で、悩まなくていいように作ってもらいたいと考えます。
 それともう一つ言えば、先ほどの人格権に基づくものは今までの訴訟物の考え方からすると、こういうふうに計算せざるを得ないと思いますし、特にこの判決が従前の例を変えたということではないと、私は理解しております。ただ、例えば今においては同一の行政行為の取消しを求めるので、複数の人が求めるような場合には、これはみな、訴訟物はお互いに合算して1個だと、価格は一つに吸収してしまっていいだろう、というコンセンサスが取れるのだとすれば、そういうふうな提案をしていただいて、明確にそれを書いておいていただければいいんじゃないかと思います。裁判所が政策的にやっていることではないと考えています。

【芝池委員】先ほどの水野委員のご発言は真意としては共感するところはあるのですけれども、その場合国家賠償訴訟は民事訴訟ですよね。そうしますと、民訴と同じような計算になるわけです。それはそれで割り切っておられる、ということでしょうか。

【水野委員】突き詰めて考えていませんけれども、国家賠償訴訟、それと今の税金訴訟、そういったものをどう考えるか、というのは一つ考慮に入れる余地はあると思いますけれども。国家賠償訴訟については他の民事訴訟といっしょで仕方がないかな、というふうにも思いますけれども。

【福井(秀)委員】この後申し上げようと思っていたばかりなんですが、国家賠償もある意味、取消訴訟と同じ構図になっている側面があるわけでして、もちろん個人の侵害された利益を回復する、という機能は大きいですが、あくまでも国家賠償請求訴訟が認容される前提は行政庁の行為が違法だ、ということですから、その限りでは取消訴訟と同じ構図だと思うのです。要するに違法是正という機能では、国家賠償と行政訴訟は共通する面がありますので、国家賠償についても同様に考えた方がいいということを申し上げたかったのです。

【芝池委員】その場合、そうしますと国賠訴訟というのは民事訴訟だけれども、普通の民事訴訟とは違う訴訟だという、そういう位置づけになるのですか。

【福井(秀)委員】そうです。

【芝池委員】そういうふうに立法的にやるということですか。

【福井(秀)委員】そうです。

【深山委員】今のはそうすると国が違法行為をした不法行為訴訟とか、人格権に基づく差し止め請求でも同じような話ですか。先ほど水野先生が言われたように、同じような港湾工事の開発なりを争うときには人格権侵害でいくと、一人一人の人格権侵害だから合算になると。行政処分の場合も同じだけど、それは改めたらどうか、といった話がありましたが、人格権侵害、あるいは国が行政法規に違反したと、処分の根拠法規ではなくて、いわゆる違法な行為をしたという場合だと、みんな同じ考え方で、違法の是正に役立つのだから、別立てにするということなんでしょうか。

【福井(秀)委員】私のイメージはそうです。要するに行政の行為が先決問題になっている、要するに適法か違法かが先決問題になっていれば、訴訟形式を問わずに、行政の適法担保機能を果たしたという側面に着目して、印紙や弁護士代の負担については考慮する余地はあると思います。

【深山委員】結果論として、是正に役立った場合は敗訴者負担ですから、それは原告が勝てば本当に違法だったと、それは人格権侵害で違法だった、ということで人格権侵害が認められようが、それが行政訴訟でも取消訴訟でも認められようが、勝てばまさに違法状態が是正されて、その結果、勝訴した原告は費用を負担することはないわけです。ですから、今言われていることはどうも、訴訟を起こすこと自体が違法の是正になると取れるのですが、是正になるのは原告が勝訴する場合です、結果として。インセンティブとして、奨励しようというお考え、それ自体はそうかなと思うのですが、実際に適法性維持に貢献した場合、つまり勝訴した場合には当然のことながら、費用の負担は相手側の負担になり、原告側は負担する必要はありませんので、今の制度で何か問題があるのかなという気がするのと、それから言われている実質は私も分からないわけではないのですが、先ほど市村委員の話とも共通するかもしれませんが、印紙の制度というのは一つの全体について、非常にある意味では大きくなたをふるって、明確なルールでいくら印紙を貼ればいいかをはっきりさせることで、ありとあらゆる訴訟類型がありながら、ある意味では従量制、金額だけで単純に切って、あとは足し算すれば誰でも簡単に計算できる、というルールになっているのです。このこと自体の当否は立法論的にあると思うのです。他の国で全然取らない国もあれば、一件いくらということで取る国もあるというのもそれはそうなんですが、わが国は長い間、この従量制、つまり経済的な利益の額を基準に、いろいろとあるけれども、印紙の額というのはある程度明確であり、いくらなのか分からないのでは訴訟も起こしにくいから、すぱっと割り切って、割り切りが割り切りすぎだ、ということでいろいろと穴を空けろという議論は十分分かりますが、制度として考えると、あんまり複雑な穴は空けても、それじゃ民事訴訟その他の特殊なやつは、人格権侵害の環境訴訟というのは民事訴訟でもあるわけです。そんな場合もまた穴を空けるとか、これは穴を空ける、空けないとか、そうなってしまうと、印紙の制度全体、訴訟費用の制度全体がどうも分かりにくい、説明がつきにくいものになるというきらいがどうしてもあるのです。再々お話に出てる、アクセスの検討会ではおそらく全訴訟類型をにらんで、訴訟費用のあり方、あるいは訴え手数料のあり方を考えているのでしょうから、そういう目で見るのが非常に重要なことで、その際にこちらからはこういう点もいろいろ議論がある、意見があるということをお伝えするという程度に留まざるを得ないんじゃないでしょうか。ここの世界だけで考えるといくつか類型ができそうなんですが、民訴まで、他の訴訟まで考えますと、いくつどういう観点から穴を空けるかについて、到底議論はなかなかまとまらないんじゃないかという気がするんですけど。

【福井(秀)委員】それはそうだと思いますけれども、ただやっぱり重要なことは、いざ、印紙代の算定のときに裁判所が分からないことがないようになっていれば、あらかじめ類型がいくつあるかどうかということと、そのときに判断に迷うかどうかということとは別次元の問題ですので、判断に迷わないようになっていて、あらかじめこういう類型なら減額していいと分かっていれば、それはできるだけ前倒しして出しておいた方がよろしいのではないかと思います。結局、勝てば大丈夫じゃないかというのはそれは確かにそのとおりなんですけれども、ただ訴訟提起のときにあんまりハードルが高いと、今の行政訴訟自体、事前に勝てそうかどうかというアセスメントはきっちりとは出来ませんから、一旦裁判所という土俵に乗せる、という機会をあまり狭くしないという政策的考慮も重要ということです。

【塩野座長】この訴訟印紙やなんかの問題はそれなりのドグマティックがあると思いますので、あまり素人が言わない方がいいかと思いますが、ただ行政訴訟の場合、特に取消訴訟の場合には、原告が実定法上、国民に限定されるわけです。民事の場合には、寝ている方が得する場合といいますか、仕掛けてくるまでは寝ころんでればいいということになりますが、行政の場合には特に公定力が備わっている場合には、原告として国民が立ち上らなければいけない。そういうシステムを作っていることを訴訟費用、訴え提起の手数料の点でどう考えるか、という問題は問題点としてあるのだろうと思います。ただ、だからといって印紙のドグマティックはこうだと言い切る自信はございませんけれども、そういった意味での特色はアクセス検討会の方でもお考え頂いて、どうか頭の片隅にでも入れておいていただければと、これは座長としてでなく、委員としての要望ということになります。

【福井(秀)委員】一つだけ補足ですが、報奨金の問題です。これは神戸大の阿部先生が書いているとおり、私も基本的に賛成なんですが、行政処分が違法になった場合、まさに深山さんがおっしゃったように、原告本人だけではなくて、他にもフリーライダーで得する人がいっぱい出てくることが結構発生するわけです。そうすると、ある意味では、1人でこの訴訟の負担を背負って、みんなのためになったという人には、その是正した分について何らかの意味で、功労金というか報奨金と言うかは別にして、報いてあげてもいい。勝った場合にはなおさらだ、という気がします。お金はどうするのだという論点はあるの思うのですけれども、それは違法行為をやった行政庁の予算をその分削ればいい。そういうふうに割り切れば、国家財政に影響するわけでもないという気がいたします。

【小早川委員】私は報奨金というのは品が良くないと。出したい人は財団をつくって民間で奨励の制度をおつくりになればいい。

【塩野座長】この辺はいろいろ議論があるところだと思いますけれども、私は今度の行政訴訟の検討の中の一つの基本的な考え方は、権利はやはり主張すべきだと。報奨金があろうがなかろうが、権利は主張すべきだと。あるいは侵害を受けたなら、自ら排除するという、そういった自律的な国民、あるいは市民を前提にして、初めて成り立つ制度である、あるいは改革である、というふうに思います。それで、報奨金というのはそれをさらに自律性を高めるんだという話なら、これはまた考えますけれども、基本はそういうところにあるということで、この報奨金の制度の議論をしていただければというふうに思います。よろしくお願いいたします。はい、どうぞ成川委員。

【成川委員】教えていただきたいのですが、3頁に「訴訟費用の負担」という2の項目がございまして、ちょっと読み方が私よく分からないのですが、一番最後の4行目で、「村議会議員除名決議取消しの訴えにおいて、」云々と書いてございますが、この場合の上告審に申請の利益がなくなったため、敗訴の判決を受けるといった場合に、この費用負担は実際には敗訴を受けた原告が負担したのか、そうではなくて上に書いてある括弧書きの民事訴訟法第62条の規定によって、この負担は受けなくてよくなった、というふうに読むのか、ちょっと私よく分からなかったのですけれども、ここはどう読むのでしょうか。

【村田企画官】これは最後のところに、「訴訟費用は上告人に負担せしめるのが相当である」ということになっております。このときの上告人というのは、ちょっと固有のものは忘れましたけれども、行政側の負担、ということになりまして、ですから後者の方の第62条でもって、原告が負担しなくてよいと、敗訴の結論であるけれども、負担しなくてもよい例です。

【成川委員】それでそれの関係ですけれども、そういう判決にならって、こういうふうに途中で利益がなくなったということで、訴訟が消えた場合に、大体原則ですべて訴訟の負担というのは行政側が負担する、というふうな形になっているのでしょうか。そうではなくて一定の部分については原告側もやっぱり負担させられちゃっているのかどうか。この原則というのはどのくらいちゃんと実際、適用されているのでしょうか。もし適用されていないとすれば、やっぱりそれは行政側の事情でそういうふうに訴訟がなくなるんだったら、行政側が何らかの手当てをするという形が納得的ではないでしょうか。

【小林参事官】この資料を作成した趣旨は、成川委員ご指摘のように、行政に関わらず、訴えの利益が途中でなくなるということは民事でもありうることであって、それは民事訴訟の基本原則の運用次第であるという判例がある、ということをご指摘した趣旨であって、行政の特殊性ということを考慮して、行政について規定することについては、それなりの相当難しい検討が必要ではないかと思ったものですから、民事訴訟の基本原則とその運用の範囲で、こういう取り扱いをしている例があるので、参考にしていただきたいという趣旨です。それでは、具体的にどういう現状か、というところまでは把握はできておりません。

【市村委員】実際にどうしているかといいますと、例えば文書の非開示決定の取消しなどを求めてした場合に行政庁側が途中でよく考え直して、自庁を取り消す場合など、稀にございます。そうした場合に訴えの利益そのものはなくなるわけですけれども、それでも判決ということになりますと、私どもでは、被告負担、つまり行政庁側の費用負担ということでやっている例の方が多いと思います。私の部ではそうしていますし、他の行政部の判決でもそういうふうになっていると思います。ただそもそも訴えの提起のときにはいろいろな主張があって、途中で取り下げる、例えば今の文書であったら、文書が2つの機会にされたようなもので、一つについてはむしろ原告側の主張が無理で、もう一つの方は被告が自庁を取り消した。その無理な方については途中で取り下げちゃったというふうな場合があります。そうした場合については当然ながら、その部分を考慮して何分の一と、何分の一は原告負担、何分の一は被告負担と、そこは公平を配慮して、実務上の運用がされているのではないかと思います。

【福井(秀)委員】今の点に関連してですけれども、例えば違法建築物で除却命令を受けて、それを取消訴訟で争ったという場合に、係争中に執行してしまって、訴えの利益がなくなってしまったということがあり得るのですが、そういう場合は訴訟費用はやっぱり原告負担のままになるのですか。却下になると思うのですが。

【市村委員】自分自身はやったことはないのですが、その辺は原告負担になっている例の方が多いのではないでしょうか。被告行政庁がどうしたといったことではなくて、事実の方が進行してしまった場合ですね。

【福井(秀)委員】そうです。待っていれば建物も残ったわけで、被告が早とちりで早く壊しちゃったから、たまたま却下になっただけで、こういう場合まで原告負担にするのは、もしそういうふうに読めてしまうのであれば、立法的に手当てをしてあげた方がいいという気がするのです。

【市村委員】ただ、先ほどの例をちょっと申し上げましたけれども、条文の上ではその事情を勘案して、場合によっては相手側の負担にすることができる、という規定があるので、書くとしても、これ以上書きようがなくて、中身の問題として、そこで議論すれば足りることで、新たにまた立法上の手当てがいるというふうな場面ではないのではないでしょうか。

【福井(秀)委員】でも、今のは最初の市村委員の発言とは逆のことですよね。

【市村委員】だから、それはむしろ認識の問題だと思うのです。それの原因がどちらにあるかという認識を裁判所が、それは被告の側に原因があるんだと認識すれば、被告の負担にすると思います。ただ、そういうふうに例えば原告でもない被告でもない第三者の行為によってなくなるということがあります、訴えの利益が消滅することがありますよね。そのときどういうふうにお考えになるかというと、おそらくその意味では、原告被告がイーブンだったら、訴えの利益がなくなったというときには原告に持っていくことが多いのではないかと申し上げただけです。

【福井(秀)委員】例えば本案で、勝てそうだったかどうかは実質的に考慮されるわけですか。要するに違法な除却命令だったか、適法な除却命令だったかということも一応、訴訟費用の負担のときに判断されるということですか。

【市村委員】ある程度考慮いたしますけれども、もしそれを必ず考慮するというふうにみますと、どっちが勝ったんだろうかという判定をするために、訴訟費用の負担のところだけのために訴訟が継続するという、妙なことになってしまうのです。ですから、そこは今の規定の中の動かし方で、ある意味では付随的な部分ですので、裁判所の方に任せていただいているやり方で、バランスは取れているんじゃないかなというふうに私は思っています。

【塩野座長】いろいろ議論があるかと思いますけれども、後、大事な問題が控えておりますので、この辺で今の問題は一応、終わらせていただきたいと思いますが、土俵をアクセスの方に移して、相撲をとってくれ、というのも如何なものかと思いますけれども、やはり本来の場で、きちんと議論をしてもらう。そのきちんとしてもらう材料はこちらできちんと出していく、ということで今後進めていきたいと思います。今日もいろいろご意見を承りましてありがとうございました。今後、そういう機会はあろうかというふうに思います。そういうことですが、報奨金支給制度はそちらの方で受けようがないですね。これは今日議論を戦わせて、ということで、国民一般の支持が得られるかどうか、この辺も慎重に見極めていきたいというふうに思います。検討の項目としては挙がっておりますけれども、必ずしも正面からここで議論する筋合いのものかどうかはそれぞれお考えいただきたいと思います。
 それでは、次に「行政不服審査法等の他の法令との関係」、それから「行政事件訴訟法以外の個別法上の課題」について検討をお願いしたいと思いますが、事務局から資料の説明をお願いしたいと思います。

【小林参事官】5頁から7頁までです。まず、「第7 行政不服審査法等の他の法令との関係」ですが、この点について、意見書を引用しています。5頁の下から6行目、行政訴訟制度の見直しを含めた行政に対する司法審査の在り方について、「この問題に関する具体的な解決策の検討は、事柄の性質上、司法制度改革の視点と行政改革の動向との整合性を確保しつつ行うことが不可欠であり、また、行政手続法、情報公開法、行政不服審査法等の関連諸法制との関係、国家賠償制度との適切な役割分担等に十分留意する必要がある。」とされております。さらに、「行政委員会の準司法的機能の充実との関係にも配慮しなければならない。」とした上で、「そもそも、司法による行政審査の在り方を考えるには、統治構造の中における行政及び司法の役割・機能とその限界、さらには、三権相互の関係を十分に吟味することが不可欠である。国民の権利救済を実効化する見地から、行政作用のチェック機能の在り方とその強化のための方策に関しては、行政過程全体を見通しながら、「法の支配」の基本理念の下に、司法と行政それぞれの役割を見据えた総合的多角的な検討が求められるゆえんである。」とされています。
 それから、「第8 行政事件訴訟法以外の個別法上の課題について」です。ここについては6頁の下から6行目以降にございますように、行政事件訴訟法は、その性質上、行政訴訟に関する手続を定めることを目的とするものではないだろうか。行政に対する関係での国民の権利義務というのは、本来的には、行政に関する個別法ないし実体法が定めるところによるものであって、訴訟手続は、このような権利が存在することを前提として、その権利の実現のために機能することが本来期待されるものではないだろうかということを書いています。また、訴訟手続に関しても、これは行政事件訴訟法第1条で、「行政事件訴訟については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。」と規定しておりますので、個別法において具体的な手続が定めることは元々、許容しているところです。したがいまして、行政との関係において、いかなる権利が国民に認められるべきか、あるいは訴訟手続においても、個別法においてもその行政に即した具体的な手続をいかに定めるべきかと、そういうことが重要な課題ではないだろうか、というふうに考えている次第です。
 それから、処分の取消の訴えと審査請求との関係につきましては、行政事件訴訟法第8条で、「処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。」と規定しているのですが、したがって基本的には審査請求を経ないで直ちに処分の取消しの訴えを提起するかどうかというのは国民の自由な選択に委ねられているのですが、行政事件訴訟法第1条によって、他の法律に特別の定めを置くことが許容されているわけです。それで資料3が、他の法律の定めを調査した結果です。以上です。

【塩野座長】どうもありがとうございました。それでは今の不服審査法その他の法令との関係という問題と、それから個別法上の課題について、多少ニュアンスが違っているところもございますので、行き来することは結構でございますけれども、まず差し当たり、審査法との関係について、何かご意見があればいただきたいというふうに思います。

【小早川委員】実質的な意見ではありませんが、端的に言って、例えば行政庁の処分という言葉が今行政事件訴訟法で使われ、それが不服審査法でも同時にそれが使われ、そのことを前提にして何十年か後に行政手続法上もそれを使っている、それを前提として、良かれ悪しかれ行政処分についての一連の手続過程についての法制が出来上がっているというところがありますので、今回の司法改革で、行訴法だけが対象だというふうにあまり狭く考えないで、技術的に調整できる部分は、当然、他の法令にも手を加えざるを得ないし、そうすることが国民にとってわかりやすい、行政についての基本法制がわかりやすくなる。そこは是非、技術的な調整は必要だと思うのです。が、それを超えて、およそ、行政庁の処分ということが行政法の体系の根幹をなしちゃっているわけですから、そこを、行訴法を変えたからといって、あらゆる法律全部直すわけにはいかないかということになる。これは気の遠くなるような話で、あまり生産性もないということで。その程度です。

【塩野座長】整備法はつくることになるだろうと、それは当然の話だと思います。

【福井(秀)委員】技術的な話ですが、前にも議論になりました被告適格との関係で、もし行政訴訟の方が行政主体に被告を変えてしまうと、不服審査法の方はどうなるんだろうか、ということがありまして、実際上、不服審査から行政訴訟に移行する例が多いことを考えますと、途中で被告が変わるというのは、大変使い勝手が悪いような気がするのです。混乱を避ける意味でも、行訴法も変わるのであれば、不服審査法も被告適格を変えていただくなど何らかの平仄合わせをした方がいいと思います。

【芝池委員】あまり重要でない問題を発言をさせていただきます。審査請求という用語は行政不服審査法では不服申立ての一つなんです。ところが行政事件訴訟法では広い意味での不服申立てイコール審査請求という意味になっておりまして、これは大学で講義をするときにいつも困りますので、行政事件訴訟法の改正の際にはきちんとしていただきたいと思います。

【小早川委員】もう一つの項目の2番の「国家賠償制度との役割分担等」について、これは実際上非常に重要な問題だと思いますが、いろんな見方があると思いますけれども、現在は、行政のプロセスに沿った司法によるチェックの仕組みが十分でないために、国家賠償の制度がやや本来の領分を越えて、利用されざるを得ないというところがあるんじゃないか。ですから、今回はこの点はスタンスとしては、そういう歪みをなくして、本来なされるべき行政の是正機能というのをこの行政訴訟の制度の中でできるだけつくっていって、名目的に賠償を求めるというような形で何とか是正を求めようということはできるだけその必要がなくなるような、そういう方向での考えをするべきではないか。国家賠償制度があるからいいじゃないかというような発想は最初に置かない方がいいのだと思うのです。

【塩野座長】この点は例えば、行訴法のこの条文をこう変えた方がいいじゃないかと、そういうような趣旨も全くないとは言いませんけれども、ここでの問題提起の趣旨は私なりの理解では行政過程において、制度整備が進んでいる、というときに、その成果をどういう形で、行政事件訴訟法に生かしていくか、ということが問題だというふうに思います。別の言い方をしますと、行政訴訟の成果を運用するためにはせっかく出来た新しい過程、行政過程の制度整備をこういうふうに生かすともっと、うまく行くんだとか、そういうことをこちらの報告書のどこかに書けばよろしいのではないかという気持ちも持っております。例えば、行政手続法をもっと活用すれば、裁判所だって審理の仕方も違ってくるし、あるいは情報公開法の精神を生かせば、裁量統制の仕方も違ってくるではないかとか、そういったことで我々は考える場合にも、この行訴法だけを考えないで、こういう点をもっと力を入れれば、行訴法も生かせるではないか、そういうような議論をし、あるいは報告書にそういう趣旨が出てくればなという、そういうことでの問題提起であるというふうに理解をしているところでございます。
 それから、国家賠償制度の役割分担はまさに小早川委員が言われたように、私は国家賠償制度は少し負担過重になっていると思うのです。最高裁判所の判決の中でも却下しておいて、あとは国家賠償があるじゃないか、というニュアンスのものもあるんですけれども、国民の不満はいくばくかの金を貰うのではなくて、違法を宣言してもらって、自分のされた侵害、精神的侵害でも何でもいいのですが、それを違法宣言という形で、回復して欲しいという願いがあるとするとすれば、それは正面から受け止めて整理すべきではないか、という問題意識はここにあるのではないかというふうに思います。今の点の関係で言えば、訴訟類型を多様化することによって、国家賠償への負担過重は少しでも和らぐのではないかと思います。そういった問題意識も含まれていると思います。そういうことで、ここでは何がどう意見がまとまったかというようなことはありませんで、こういった問題提起について、ご意見があればいつでも、根本論でございますので、いつでも議論していただきたいということで、そろそろ8の方に入りたいと思います。先ほど、8の方でまず、芝池さん。

【芝池委員】一番最初に書いておられます、不服審査前置主義でありますが、ご承知のように行政事件訴訟法では不服申立てと取消訴訟の自由選択主義が採られておりますが、例外がかなり個別の法律で設けられているわけであります。それを許容する規定が6頁の参照条文の8条の1項のただし書きに書いてあります。このただし書きが活用されているわけでございますが、結論的に申しますと、自由選択主義を規定するような形に、行政事件訴訟法ないしは新しい行政訴訟法に規定すべきだろうと思っております。行政としては不服申立てが望ましい場合もあるでありましょうけれども、それは行政不服申立制度を充実することによって、国民にそれを利用したいという、そういう気持ちを起こさせる、そういうことによって解決することができるのではないかと思っております。その一番いい例は情報公開審査会でありまして、情報公開に関しましては、不服申立ては義務にはなっておりませんけれども、私の知る限り、ほとんどの人が不服の申立てを用いているわけでありまして、それは現在の情報公開審査会の役割が国民にとって期待できるものであることによるわけです。ごく限られた例外、不服申立前置を定めるべき例外というのはあり得るだろうと思います。税金の分野でありますとか、あるいは社会保障の分野、こういうところでは例外を認めるべきなのかもしれません。ちょっと断定は避けますが、その可能性はあります。ですから、そういうことを一般法であります行政事件訴訟法で、どういうふうに書けるか、難しいところでありますけれども、考え方としては最初に申しましたように、自由選択主義を現在でも徹底する方向で考えるべきだろう、と思っております。

【塩野座長】なお、先ほどちょっと申し忘れましたけれども、この第8のところで挙げた項目の中には既に一度議論をしていたもの、例えば納税者訴訟あるいは国民訴訟というカテゴリーにつきましても、個別法上の課題として第8のところでも挙げておりますので、行政訴訟法の課題として、一度触れたもので、ここで個別法上の課題として挙げられているものについても、どうぞご自由にご意見を発表していただいて結構でございますので、よろしくお願いいたします。

【福井(秀)委員】不服申立前置、今の芝池先生のご意見に賛成ですが、私は税務訴訟等も含めて、原則として自由選択主義、よほど事情がない限りは自由選択主義ということをこの機会に導入していただければと思います。と言いますのは、不服申立前置ということはそれだけ、司法権における救済を受ける権利を人為的に遅らせる、ということですから、元々不服申立に期待をしていないという国民から見たら、迂遠な手続になっているのです。それを本当に強制するだけの実益があるのかどうか。実体判断の問題だと思うのですが、本当に実益があるなら残してもいいのかもしれませんけれども、課税も含めておそらくそういう領域は一つもないような気が個人的にはしておりますので、自動的に今まで前置になっているものをそのまま存続するのではなく、もう一度検証して、必要性の有無を判断した上で、どうしても残さざるを得ないものなら残すけれども、原則としてなくしていくという方向がよろしいかと思います。私がやっていた収用手続は前置ではなかったのですけれども、正直言って、行政庁からすると先に審査請求とか異議申立てが出てきますと、原告の争い方の手の内が分かって、非常に後で裁判になったときに争いやすくなるのです。実質的には原告の争いそうな手口を学習するという機能が不服申立手続には大きいものがありますので、そういうことをしたくないという人に無理に先に不服申立をしろ、と強制するのはやはり裁判を受ける権利の実効性確保という観点からも極めて問題が多いと思います。

【市村委員】全体のことはよく分かりませんが、ちょっと今、手元に統計がもしあればいいのですが、国税審判所に継続する案件というのは、かなりの件数があるところ、私が統計を見たときの印象は、実はこれほど、のぼっているんだな、という印象がありました。そこで入れられなかったもののうち、どのくらい裁判所に来るんだろうというと、非常に低い割合です。それがハードルが高いとかいろいろご批判もあるでしょうけれども、それなりに私は国税の申立制度については、中には改善する部分もあるかもしれませんが、相当程度、機能を担っているのではないかという気がしております。全体からすると、そこで取り消される数は、裁判所に係属する案件と比べると、かなり多いわけです。例えばもし裁判所に来た場合には事件数の問題などもありますけれども、そうではなくて、やはりその中で本来の機能に近いものをある部分は営んでいるのではなかろうかと思います。そこで、見直しをするという議論をするにしても、少し全体の統計などをきちんと見た上で、どこが制度として生きていないのかということを踏まえた上で、議論をするべきではなかろうかというふうに思います。以上です。

【福井(秀)委員】今の点、確かに考慮要素だと思うのですが、もう一つやはり重要なことは、本当に国税不服審判所がきっちり機能を果たしている、ということが訴える側の納税者側にも分かっているのなら、自由に選べてもそっちを利用する人が多くなるはずですから、やはり強制するのではなくて、国民に利用しやすい、というときに、本当に当てになるものなら、そっちは利用されるだろうし、そうでなければ裁判所に来るだろう、ということで、バイアスをかけた制度にしておかない方がいいというのが私の見解です。

【小早川委員】とにかくいろいろ議論を整理しなければいけないところはあると思います。国税不服審判所ですと、裁判所から御覧になると、市村委員が言われるように前審としての重要な機能を果たしている、それは必ずしも国民にとって便利だとかいうことではなくて、むしろ国家の司法制度の合理的な資源配分なんだということかもしれないわけです。そういうのもあると思います。それからもう一つは、現在の不服申立前置の在り方というのはやや中途半端なところがあって、裁決主義までを採れば、これは徹底するわけです。それならそれでいいと思いますけれども、原処分でとにかくこれで間違いないとやっておきながら、その上で、しかし間違いがあるかもしれないねということで不服申立ての道を開き、かつそこを通らなければ裁判所に行けないよ、ということは制度としてはどうも論理が通らないようなところがちょっとある、元々あるような気がするのです。ですから、その辺も不服審査前置の現行法の在り方、それからその設定の立法の基準の考え方なり、その辺をもう一度整理する必要があるのではないだろうか、昭和37年当時には確か3つの基準ができたということで、あれは今でも法制局辺りで通用しているのかなと思うのですがその辺が、本当にこれからもそういう考え方をそのまま持っていくか。あまり実体論をここでする段階ではないと思いますけれども、やはり不服申立前置の在り方、前審の在り方について、どう考えていくかということを、この検討会としても何かのメッセージとして出すことが必要ではないかと思います。

【萩原委員】この検討課題について、①はもっともですし、例えば、ということで②のアからオまであるところについて、非常にもっともだと思います。これまでの、例えば対象の問題とか原告適格の問題とか、それぞれの個別法上においてそれを非常に修正、あるいは改正するなりをすればかなり解決がつく問題でもあると思います。また、第7とも関連するのですけれども、情報公開法とかパブリックインボルブメントとか、そういうような様々な制度が出来てくることによって、訴えそのものをしなくてもよい状況というものが生まれるのが一番望ましいことになるのですが、とはいえ、現状を見ますと、個別法でなかなかそれだけの整備が出来ていない、そういう中で、この行政事件訴訟法の考え方として、どうあるべきかということを、これは私の疑問でもあり、皆様方に対する質問でもあるわけですけれども、個別法がまだ整備されていない中で、行政事件訴訟法としてできることはあるのか、あるいはないとしたときに、先ほど座長がおっしゃったように報告書の段階でちょっと添え書きのような形で付ける程度のことしかできないのか、あるいはこういう法律の条文という形で、もし明確にできるのであれば、いろいろ聞くところによると、この個別法上の改正なり、修正というのはそんなに簡単にはできないと伺っています。したがって、一国民としての訴訟のしやすさ、あるいは訴訟をして、それが勝つというような状況を得るためにはやはり何らかの具体的な措置が講じられることが一番望ましいのではないかと思いますので、その点に関して、全くの素人で、分かりませんので、もう少し専門家の意見をお聞きしたいというふうに思っております。

【塩野座長】どうもありがとうございました。ごもっともなご質問だと思います。私の感じを申しますと、この①のところについては議論は少なくとも定性的にはできると思うのです。例えば定性と申しますのは、審査前置主義について、先ほど小早川委員からご指摘がありましたように、行訴法の制定過程では大変な議論をして、審査前置を置く場合にはこういうカテゴリーならば置ける、という議論の整理をしたわけでございます。それから数十年経っておりますので、現時点で見て、審査の前置をきちんと置くとすれば、それはこういう形ならば、認められるということで、報告書にまとめてみようということはあり得るというふうに思うのです。それはこの段階で、できるはずのものだし、場合によってはやらなければならないことだと思います。
 それに対して、②のところでは既にいろいろな方から、いろいろな議論が出ているところなんですけれども、例えばエのところ、行政手続法において、というかあるいは個別法で、それこそ都市計画法のところで、きちんと原告適格なり訴えの対象なりを、例えばドイツのように判決の効力も含めて、きちんと書き込めという声が非常に大きいし、私も大変重要なことだと思うのですけれども、それをこの検討会で一体どこまでできるのかなという問題は時間との関係もありまして、非常に悩ましいところです。ただ、これからの議論の対象となると思いますけれども、是非、この点についてはあるべき方向性ぐらいは出せるといいな、というふうに私は思っておりますが、ただそれをいつの段階で方向性みたいなものが出せるかなというのはこれからのご議論で、来年の通常国会に間に合わせる法律案の中にうまく仕組めるかどうかということになると、それはなかなか難しいという問題も起こるかもしれません。ただ非常に重要な問題であるということは私なりに意識をしているところでございます。

【水野委員】国税の話が出ましたので、そういう事件を担当している弁護士の感覚をちょっと申し上げておきたいと思います。今国税不服審判所にまいりまして、3か月経ちますと、訴訟に持ち込むことができることになっているのです。しかしながら、私が担当した事件について、裁決が出ないから訴訟に持ち込むかといったら、それはしない。それはなぜかと言うと、国税不服審判所での救済に期待するからです。救済の率は最近はかなり下がっていますが、そこそこあるのです。ある程度和解的な救済もできなくはない。それじゃ、その次に裁判所はどうかといいますと、これは私だけの考えではありませんで税務訴訟をやっている多くの弁護士の共通の考えだと理解していただきたいのですが、最近の東京地裁は別にしまして、裁判所では税金の訴訟では勝てない。これは共通の認識なんです。ですから裁判に持ち込むようなことになったら、これはもうダメだ、というのが税金事件を扱った弁護士の大体の共通の認識です。できるだけ、裁判所に持ち込まなくて救済を勝ち取ろうということでやっているのです。ですから、先ほど市村さんが、不服審判所で救済されなかった件について、裁判所に持ち込まれている率が低いとおっしゃったけれども、それはそれで仕方がない、諦めたといいますか、裁決に満足した結果ではなくて、弁護士に相談すると、裁判所は余計悪いよと、こういうことで持ち込まない。ただ、最近は変わってきましたね、東京地裁なんかは。これは最近は随分我々の感覚も変わってきました。今度は逆に不服審判所の方については非常に不安があります。これはご承知のように、今から30年ぐらい前ですか、鳴り物入りで、いわゆる第三者機関として、国税不服審判所という制度をつくったのです。ご承知のように、今も国税不服審判所長は裁判所、東京国税不服審判所長は検察庁、大阪国税不服審判所長は裁判所から行っております。そして、若手の裁判官も審判官として、数名、大きな所には行っています。かつては南博方さんみたいに学者をやめて、審判官になられた方もいらっしゃった。そのころは非常に救済率が高かった。ただ最近はどんどん救済率が下がってきまして、はっきり言って、最近の国税不服審判所の機能低下は著しいと私どもは感じております。そして時間もかかる。そうすると、これはむしろ国税不服審判所を飛ばして、裁判所に持ち込んだ方がいいというケースも、最近の東京地裁を見ていますと、出てくる。これは例えば、ストックオプションの判決がありました。これは要するに今までは一時所得として課税をしていたが、あるときから通達を変えて、給与所得として課税するというふうに国税庁は方針を決めた。そうして課税したために、全国でたくさんの訴訟が起きました。しかし、訴訟が起きる前は不服審判所で裁決が出るんですが、これは全く無駄なことです。つまり国税不服審判所は通達に反する裁決ができるという例外規定がありますが、原則としてはできません。さらに通達を変えたばっかりのときですから、不服審判所がそれに反する裁決が出るということは考えられないのです。そうするとあの手続というのは全くムダで、すぐに裁判所に行くべき事件なのです。そういう事件だってあるのです。そうしますと、やはりこれは国民の選択に任せる、つまり不服審判所でやりたいという人はそっちに行ってもらっていいし、しかし今のストックオプションのように不服審判所が全くの時間のムダだという事件についてはさっさと裁判所に持ち込む、という選択の余地を与えておくのが国民にとって、非常に使いやすい行政訴訟の制度だと思いますから、これは福井委員もおっしゃったように原則としてはどちらかの選択ができるようにしておくべきだというふうに思います。

【塩野座長】ありがとうございました。そこでこの不服審査前置のところをいろいろとご議論いただきまして、先ほどのようなご提案の方向で、基本的な考え方の整理をする必要が私もあると思っておりますが、次のアからオのところで、かねて国民訴訟や納税者訴訟の点についてのご発言がございましたら、今日多少時間がございますので、もしご発言があれば承りたいと思いますが、どなたからでも。

【水野委員】大阪弁護士会では、いわゆる納税者訴訟、これは公金検査訴訟というネーミングをしておりますけれども、これについてずうっと検討をしてまいりまして、1月20日の月曜日にシンポジウムをし、そこでいろいろとご意見を伺って、そして具体的な提案をしていきたい、というふうに考えております。それでできましたら、次回にこの検討会でその資料を配らせていただいて、おそらく大阪弁護士会のどなたかに説明をしてもらうか、あるいは私が説明するか、そういう機会を是非、設けていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【塩野座長】今日はご発言は。

【水野委員】今日はちょっと資料を用意しておりませんので。

【塩野座長】福井さんも次回でよろしいですか。

【福井(秀)委員】結構です。

【小早川委員】それは行訴法の中に規定しようというのですか。

【水野委員】いえ、行訴法の中ではちょっと無理ではないかなとは思います。

【市村委員】ただ、私は後のスケジュールの話になったときに非常に詰まっているのではないかなという気がしているんです。あと何回、もっと詰めた形での議論ができるのかということがあるので、そこら辺との兼ね合いを、もうそろそろ、いろいろ考えていだたきたいな、という気がします。

【水野委員】これはかなり国民からの要望も強い事項ですから、一度議論する機会を是非設けていただきたいと思います。

【福井(秀)委員】これは個別に議論しだしたら、きりがないので、一般的な発言に止めますが、どれも、行政訴訟法でいくら成果がでても、個別実体法が今みたいに不明確なままだと、やっぱり行政訴訟は機能しない。行政訴訟制度がちゃんと機能する前提として、個別法で、例えば裁量が客観化されている、先ほど来議論の手続法や情報公開法できっちりとした情報が得られる、などが大変重要であると思いますので、ここで直接やるかはともかくとして、この種の論点について、行政訴訟検討会としても重要だということは述べることは重要だと思います。

【塩野座長】どうもありがとうございました。先ほどの萩原委員のご質問について、もう一点補足いたしますと、今まで皆様方、行訴法を中心にお考えいただいて、そのことがそのまま実現できるかは別として、それがかなり充実した形で実現すると、私はかなりの効果を持つと思います。個別法、実体法が整備できなければ、ちっとも国民の救済がされないということではなくて、きちんとした受け皿と申しますか、訴訟の場が用意されますと、実体法もそれなりに生まれてくると思います。ドイツでもよく山本さんからご紹介がありました結果除去請求権というのは実定法、どこにも書いていない。しかし、訴訟の場で、裁判官が生み出した実体法なんです。その他、実体法、いわゆる法源というものも、裁判の判例の段階で、実体法が権利が生み出されているということがあるということは外国の研究で明らかになっているところでございますので、この8の中のいくつかができないと、ちっとも何の成果が上がらないということではないということを申し上げておきたいと思います。実は昭和37年の立法者も、そういう考え方ではないかと私は最近、反省しているのですが、ただその後にそれがうまく機能しなかった。例えば公法上の当事者訴訟とか、あるいは無名抗告訴訟でも、やろうと思えばできたのではないかというのがおそらく立法者の考え方ではなかったかと思うのですけれども、いろんな情勢でそれがうまくいかなかった段階で、現在ではそれを意識しながら、行訴法を整備、充実するということでかなり効果をあげられるのではないかと思います。ただ、個別法の点では是非いろんな知恵を、都市計画法ではこんなところを注意した方がもっと良くなるとか、そういった点は是非知恵を出していただきたいと思います。それは芝原委員も同じようなことでありますので、よろしくお願いいたします。
 それではまだもう一つ大きな問題が残っておりますので、「行政訴訟の基盤整備上の諸課題について」という方に移ってよろしいでございますでしょうか。それではこの点についても、事務局の方から資料の説明をお願いしたいと思います。

【小林参事官】「行政訴訟の基盤整備上の諸課題」、8頁以下ですが、司法制度改革審議会の意見書を引用しています。「国民的基盤の確立(国民の司法参加)」ということで、「訴訟手続は司法の中核をなすものであり、訴訟手続への一般の国民の参加は、司法の国民的基盤を確立するための方策として、とりわけ重要な意義を有する。すなわち、一般の国民が、裁判の過程に参加し、裁判内容に国民の健全な社会常識がより反映されるようになることによって、国民の司法に対する理解・支持が深まり、司法はより強固な国民的基盤を得ることができるようになる。このような見地から、差し当たり刑事訴訟手続について、下記(1)ないし(4)を基本的な方向性とし、広く一般の国民が、裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的、実質的に関与することができる新たな制度を導入すべきである。具体的な制度設計においては、憲法(第六章司法に関する規定、裁判を受ける権利、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利、適正手続の保障など)の趣旨を十分に踏まえ、これに適合したものとしなければならないことは言うまでもない。また、この制度が所期の機能を発揮していくためには、国民の積極的な支持と協力が不可欠となるので、制度設計の段階から、国民に対し十分な情報を提供し、その意見に十分耳を傾ける必要がある。実施段階でも、制度の意義・趣旨の周知徹底、司法教育の充実など制度を円滑に導入するための環境整備を行わなければならない。実施後においても、当初の制度を固定的にとらえることなく、その運用状況を不断に検証し、国民的基盤の確立の重要性を踏まえ、幅広い観点から、必要に応じ、柔軟に制度の見直しを行っていくべきである。なお、刑事訴訟手続以外の裁判手続への導入については、刑事訴訟手続への新制度の導入、運用の状況を見ながら、将来的な課題として検討すべきである。」とされております。
 次に法曹等の相互交流の在り方に関しましては、「法律専門職(裁判官、検察官、弁護士及び法律学者)間の人材の相互交流を促進することにより、真に国民の期待と信頼に応えうる司法(法曹)をつくり育てていくこととすべきである。」としております。
 次に調査官制度でございますが、調査官制度は裁判所法第57条1項によりまして、「最高裁判所、各高等裁判所及び各地方裁判所に裁判所調査官をおく。」と定めておりまして、同条の2項で、「裁判所調査官は、裁判官の命を受けて、事件(地方裁判所においては、工業所有権又は租税に関する事件に限る。)の審理及び裁判に関して必要な調査を掌る。」ということになっております。
 それから裁判外の紛争解決手段(ADR)の拡充・活性化につきましては、司法制度改革推進計画は資料のとおりで、具体的な内容は、ここでは省略させていただきます。以上でございます。

【塩野座長】どうもありがとうございました。なお、今の基盤整備上の諸課題の具体的な問題提起は既に皆様方からいただいているところで、7頁に細かくリストアップしておりますので、これを見ながらご議論いただければよろしいかと思います。
 それから、「裁判所の体制」の点につきましては、管轄の議論に関連して、ある程度ご議論をいただいているので、それを思い出しながら、議論を深めていただきたいというふうに思います。どこからでも結構ですので、どうぞ。

【水野委員】参審制の導入については私は賛成であります。これは行政事件訴訟というのが非常に専門性が高い、そういうところに一般の国民が参加していいのか、という議論があるかもわかりませんが、まず行政事件についても、例えば税務訴訟なんかはかなり事実認定に関わる訴訟なんです。刑事事件で事実認定をすると同じように行政事件についても、いわゆる国民が参加して事実認定の作業を行うということで、十分参加する余地はある。それから、法令の解釈が争われる事件、争点になる事件につきましても、どちらの解釈が正しいかといったことについて、やはり国民の、いわゆる健全な常識と言いますか、そういったものを反映させる必要があるだろうと思うわけでありまして、国民から見て、非常識と思われるような行政事件についての判決があるわけでございますけれども、そういったものが是正されるということで、参審制の導入には大いに賛成したい、是非実現したいというふうに考えています。
 それから、専門性の強化ということ、これは弁護士会もこれまで行政事件について、その専門的な研修も含めて、必ずしも十分ではなかったという反省の下に、やはり弁護士も、もっともっと行政事件について精通した弁護士の数を増やす必要がある。しかも、全国津々浦々にそれを広げる必要があるだろうと思っております。これは弁護士、あるいは弁護士会としての反省材料として、今後、改善していかないといけないだろうというふうに思っております。
 それから、判検交流でありますが、これも私自身が体験した実例を申し上げます。大阪高等裁判所で税務訴訟をやっておりまして、結審いたしました。ところが主任の裁判官が転勤したものですから、弁論再開になりまして、新しい裁判官がそれに参加する、という具合になったのです。その後任の裁判官がどこから来たかというと、大阪法務局の訟務部の副部長であります。大阪法務局の訟務部というのは大阪管内の訴訟全部を掌握しておりまして、近畿全部ですね、それで部長と副部長が2人、それと訟務検事が数十名、副部長は全事件を2つに分けて、分担しておりまして、決裁しているという体制であります。私が担当していた事件が、その副部長が担当していた事件であったかどうかは私はわかりません。当然、副部長の名前は出てきませんから、わかりませんが、幾らなんでも、大阪法務局から帰って来た人が担当することはないだろうということで、最初に書記官室に行きまして、事前にそういうことを申し上げました。それは避けてもらいたいと。しかもその大阪高裁の部は4人の裁判官だったのです。ですから、帰って来た人がその転勤した人の後任でありますけれども、その人が担当する必要はない。他の3人でやればいい。ところが、いざ法廷が開かれますと、その人を含めて、裁判所は構成されている。そこで私はまた法廷で、これは是非避けてもらいたいということを申し上げました。ところが、裁判長はそれを聞かずに訴訟を続行しようとした。そこで私はやむなく、生まれて初めてですけれども、忌避の申立てをいたしました。しかし、忌避は棄却になったのです。それで最高裁判所に抗告をしましたが、最高裁判所もそれを受け入れなかった。これは誰が考えてもおかしいと思うのではないかと思うのです。昨日まで、相手方被告代理人の上司として決裁業務を担当してた人が、翌日、裁判官として、その事件を担当する。これは非常に稀なケースかもしれませんが、現にそういうケースがある。しかも最高裁判所はそれを認めている。これが判検交流の一番の大きな問題だと思うのです。こういう実態があることを是非、ご認識いただいて、判検交流は是非なくすべきだというふうに思っております。
 それから指定代理人制度でありますけれども、これもいろいろと問題点があって、これはいわゆる訟務検事以外に担当の官庁の訟務官なんかが指定代理人として出てまいります。大体、一つの事件で、多いのは10名を越えるのもありますけれども、簡単な事件でも8名とか9名とか。その結果、まず期日を決めるときになかなか期日が入りにくい、ということが一つあります。それで、2番目は準備書面を被告が出す場合、いつ出すかということを聞きます。これがなかなか先にしか入らない。なぜかと言うと、これは決裁が結構あるのです。例えば大阪の事件ですと、大阪の担当者が起案して、本省の決裁を経ないといけないというケースも、全部ではないかもしれませんが、その辺りは深山さんからご説明をいただいたらいいと思いますけれども、そういうことで、いわゆる関係官庁を含めた指定代理人制度のために、それが行政事件訴訟の遅延の原因になっていると私は思います。これは是非改めるべきではないかと思います。これから、弁護士の数も増えるわけですから、弁護士を国ないし、地方公共団体等に代理人として選任していくべきではないかと。これは弁護士の職域拡大のために言っているわけでなくて、そういうふうにすべきだと。
 もう一つはやはり担当の官庁の訟務官が担当しますと、もうとにかくしゃかりきになって、何が何でも勝たないといけないという、そういうことがあることはこれは否定できないと思うのです。外部の弁護士ですと、やはり少しは客観的にものが見られるわけでして、やはり指定代理人制度は廃止すべきだ。それから経済的に言いましても、指定代理人はすごい数ですから、訴額がわずかな事件でも、9人の指定代理人がついている。これは判例集をピックアップすれば分かりますから、なんだったらいろんなものをピックアップすればいいと思いますが、そういうことになっているわけでございまして、経済的な面から言っても、指定代理人制度は廃止すべきだろうというふうに思います。
 それから調査官制度、租税に関する事件の調査官制度ですが、これは例えば一部認容の場合、計算その他で、調査官が必要であるということは分かります。しかし、現在、どういう方が調査官になっていると申しますと、国税庁の人が調査官に行っているのです。これは調査官に来て、ずうっと調査官でいるのでなくて、要するに人事異動のルーチンの一つのポストになっている。確かに裁判所は法律的な判断事項について、あるいは事実認定も含めて、調査官の判断に従っているわけではないとおっしゃる、それは理解できますが、やはり国民の目から見ますと、国税庁の担当者がルーチンで、人事異動で調査官として裁判所にいる、というのはこれはなかなか納得し難い実状だと思います。例えば租税に関する調査官ですと、例えば税理士さんから起用することも可能ですし、いくらでも方法はあると思うわけでありまして、現在の調査官の人事についてはこれは是非改めるべきであると、運用の問題ということになるかもわかりませんが、改めるべきではないかというふうに思っています。

【塩野座長】いろいろと実態についてのご紹介いただきましてありがとうございました。判検交流というのは皆様方、私も含めてあまりご存知ないと思いますが、ちょっと説明をしていただいた方がいいのではないでしょうか。あるいは、けしからん例だと私も思いますけれども、あれが全てだとお思いになると問題ですので、実状をちょっと説明していただけますか。どんなものがあるのか。

【村田企画官】例えば、法務省あるいは検察庁の方に出向している裁判官の数は現時点で言いますと、約100人というような具合になっております。そのうち訟務、訴訟事件を担当している者は昨年の12月1日現在で言いますと、約半分、50名ぐらいというふうになっております。

【福井(秀)委員】それは本省だけでなくて、出先も含めてですか。

【村田企画官】今のは法務局の訟務部長など、部付も入っております。それから平成14年、昨年1年間に裁判官から検察官に、例えば転換した者の数ですと、45人ということになっておりまして、その中には私も入っております。検察官から裁判官に転換する例もございます。これは38名という具合に聞いております。大体把握しておりますのはこんなところです。

【塩野座長】今のような例は珍しい例なんでしょうか。

【水野委員】それは日常茶飯事にやられてはいるとは思いませんけれども。もう一つ申し上げておきますと、判検交流でもう一つ問題なのは検事、検事というのは要するに捜査検事が、裁判官になるという、その点もあるのです。これは刑事事件について、裁判官が捜査検事になって、捜査を担当して、また裁判所に戻ると。これは刑事事件について、検察官寄りになるではないかと、こういう意味で、その分についても問題があると言われております。深山さんとか行政官庁に出ておられる方はそう批判はないのだけれども、訟務検事と捜査、あるいは公判検事、これについてはいろいろと批判が多い。

【芝池委員】今の判検交流の法的仕組みと言いますか、それはどういうふうな法的根拠に基づいて、行われるのですか。

【小林参事官】検事として、併任になる場合もあれば、元々、検事を充てる職というものもあります。

【芝池委員】それは国で、一般の省庁が変わるような感じなんですか。

【小林参事官】転官の承諾がないと裁判官を検事に任官することはできません。

【塩野座長】単なる転勤ではないですよね。

【小林参事官】また戻るときにはまた任命していただきます。

【芝池委員】省庁間でも任命権者は異なりますよね。

【塩野座長】今の事例だけ見ると、けしからんということになりますけれども、そういった運用についてはもとより、これからいろいろと考えていかないといけないと思いますけれども、そのことだけで、この検討会として、判検交流はやめるべきだということにはなかなかならないだろうし、すぐそういったことについて結論ができるかどうか、わかりませんけれども、裁判の公正を確保するということは国民の信頼を確保するということで非常に重要なことだと私共は考えておりますので、この点については、後から申し上げようと思ったのですけれども、裁判所の人事の在り方も含めまして、裁判所側からの説明は聞きたい、というふうに思っておりますので、どうもご指摘ありがとうございました。指定の範囲の話はご説明を伺っている限りでは、運用の問題であって、その制度の本質ではないのではないか、という感じもいたしますが、どうでしょうか。

【水野委員】ただ国の訴訟についての、法務大臣の権限に関する法律がありますよね、あれで指定代理人が指名できますよね。

【塩野座長】それはそうなんですけれども、そういうのはムダであるということで、改めることはもちろん可能だと思いますので、制度論にそのまま結びつくかどうかという感じが。私はあまり訴訟に関わったことがないのですが、両方ともいつも弁護士の数が大分、随分多いですよね、ちょっと有名な事件だと。

【水野委員】いや、大型の訴訟は別ですけれども、普通の事件は原告は大体弁護士は1人です。被告側は10人ぐらいずらっと、代理席に座れなくて、証人席に座ったり。

【塩野座長】それは今度、役所の方に何でそんなに座るの、かということを一遍聞いてみたいと思いますので。

【福井(秀)委員】その件で、ここだけは水野先生とニュアンスが違うのですけれども、まず判検交流については、私はかなり意味もある、良い面での効果もある制度だと認識しています。と言いますのは、今の判検交流そのものがいいかどうかはともかく、交流すること自体の意味はある。何故かと言いますと、やっぱり裁判官はあまり通常行政事件に触れる機会がないわけで、こういった機会に、行政の手口を学んでいただいて、戻ってから行政に手厳しく判決を書かれる方はいくらでもいるわけです。要するに学習に良い機会として意味があるという気がしています。これは実質的な論議ですが、理論的に申し上げても、例えば別途法曹一元の議論があるわけでして、法曹一元とは弁護士が裁判官に任用されるということが、おそらくイメージとしてあると思うのですけれども、その場合に原告の代理人をやった人は、判検交流がダメだという原理を押し詰めれば、裁判官になれないことになりますし、弁護士として被告行政庁の代理人をやった人もなれない。だけど、弁護士はどちらかの立場に必ず立つわけですから、弁護士の任官制度が充実すればするほど、かつてどっちかの立場に立った人が裁判長になるということは頻繁に起こるようになるわけで、そこはおそらく日弁連も促進しておられるわけですから、単に元検事で、行政庁の側に立ったことがあるという前歴だけで裁いてはいけないとするのはやや短絡的というイメージがございます。
 ただ、今の判検交流は、先ほど小林さんから承諾書を得て、ということがあったと思いますが、実質的に最高裁の事務総局の人事ローテンションの一貫として、サラリーマン的に行ってらっしゃいということでなされていると理解していますので、そういう将棋の駒のような形で、裁判官が行政庁に行って、被告の立場をやるというのがいいのかどうか、という人事任用の運用の在り方として問題を提起する余地はある。ただ、一概に前歴がそうだったらダメなのかと言うと、私も行政庁の代理人をやったことがありますから、それ以外の立場はとれない、ということになりかねませんし、そこは学習の効果や原理的なことから、運用の在り方として考える余地もあると思います。
 それからもう一つ、経験があるので申し上げますが、指定代理人も、例えば私がやっていたときは学部を卒業してすぐでしたけれども、本省からは全国どこでも私1人しか、出かけて行きませんでしたし、一緒にやる検事さんと2人でやる事件がほとんどでした。次回の日程期日も弁護団は逆に5人も6人もいて、次が決まらない要因のほとんどは弁護士さんの都合だった、というのが個人的経験では大部分でした。これは一概には言えないし、運用しだいで指定代理人をできるだけ倹約してやる、という余地もあります。実質的には指定代理人をやったから、例えば私も随分勉強させていただいたということもあるわけで、裁判に絶対に出て行ってはいけないということになってしまうと、逆に行政を客観的に見る人も世の中から少なくなってしまうということも懸念します。そこはやり方の問題として考えていただければと思います。

【芝池委員】判検交流の話ですけれども、確かに福井さんが言われたように、積極的な面も一般的にはあると思いますけれども、現在の法曹の流動性が乏しい中で、判検交流だけが活発である、というのはおかしいと思います。

【小早川委員】私は今の芝池さんのおっしゃることとはちょっと逆かもしれませんけれども、8頁にありますように司法制度改革の行く末は、非常に幅広く、層の厚い法曹、そういう集団をつくって、それが法曹一元そのものかどうかはわかりませんけれども、そういう集団が役所の中にも、それから在野法曹にもいるということが理想像として描かれていると思うのです。ですからそうなれば、今議論しているような問題は解決されるか、あるいは全然別の形になる、というふうに思いますが、そうでない今の、特に行政事件についてわかる法律家が非常に限られているという段階では、現にあるスタッフをいかにうまくやりくりして使うかという観点はこれは現段階では必要なんではないかというふうに思います。それはしかし、前審関与とか、バイアスみたいな話にならないように、そこは運用の問題だと思います。ということで、長期的な話と短期的な人事運用の問題とちょっと別なのではないかと思います。

【塩野座長】どうもありがとうございました。なお、参審制の形ですけど、これは他のところで、刑事で進めておられると承知しておりますが、他の訴訟に、例えば民事訴訟に参審制を設けるべきだとか、そういった議論は既に行われているのでしょうか。

【小林参事官】審議会の方で将来の課題として整理されておりますので、私ども事務局としては具体的な検討は進めておりません。

【塩野座長】ご意見があったということはよく言っておいてもらいたいと思いますけれども、ただ例えば、先ほど事実認定の話がありましたが、おそらく全てということではないと思うのです。情報公開のときは事実認定で、おそれがあるようなときに一般国民の声も聞いてみる方がいいという、そういうことですか。

【市村委員】情報公開は地方自治も含めて、審査会を組織していただいています。そういう意見というのは非常に参考になりますから、それをどこまで拡大していくかということと、延長としては考えられなくはないと思います。

【塩野座長】その場合も水野委員、義務的に、刑事で今考えておられるような裁判員と同じような形のものを考えて。

【水野委員】いや、具体的に義務的か、選択性かとかですね、裁判員を何人にするとかは、そこまではまだもちろん考えていないのですが、やはりまず刑事事件に導入すると、次に導入するのはやはり行政事件ではないかというのが私の意見なんです。

【塩野座長】ドイツにはライエンリヒターという、素人裁判官の制度があって、大学の先生が結構入っておりますが、その点はどうですか。

【山本隆司外国法制研究会委員】大学教授は確かに入っておりますが、高裁ですね、上級行政裁判所の裁判官を兼ねることが非常に多いです。法律問題が争点になることが多いものですから。最上級審というのはあまりないですけれども、二審の上級裁判所に入るということは非常に多いです。

【塩野座長】水野委員のご発言の趣旨とはちょっと違う趣旨ではありますけれども、職業裁判官以外に、その裁判官が行政訴訟に加わっている例というのは、例えばドイツなんかにはあるということです。はい、芝原委員どうぞ。

【芝原委員】この行政訴訟の基盤整備の関係なんですけれども、いろんな処理体制とか言われているのですけれども、大体我々の世界から見て、日本の司法のコストはいくらなのか、ということがよく分からないのです。それで、別に今回でなくてもいいのですけれども、日本の司法のコストの内訳がどういう流れできているのだろうかと、果たして今、司法の充実とか言っていますけれども、本当にそういう方向に国としては手当てができるのか。そういうバックボーンがない限り、いくら議論しても、事務的手当てができないし、今の人的交流の中でやりくりするだけなのか、というあたりは非常に基盤整備の上では大きいので、ちょっとその辺の日本の司法のコストの内訳のトレンドとかを知りたい、というのがありまして、次回以降分かれば教えてもらいたいと思います。コストの意識、あるいは財源措置がないと本当に本気かどうか分からないし、本当に出来るのかどうかも、この辺の話は全部関わります。非常に少ない予算だし、大丈夫かなという感じもします。

【塩野座長】率直なところを言うと、例えば最高裁判所はそれが一番頭が痛いところだと思います。ここで専門性、全国に全ての裁判官を早急にと、答申を出したときに一番困るのはおそらく最高裁判所ではないかなと。全国に優れた弁護士を全て配置してくださいと言って、困られるのはおそらく弁護士連合会だと思います。そういった点ではなかなか実現し難いという、そういうネックは、そういう点にあるということは感覚的には分かるのですけれども、なかなかそれを定量的に表したものは直ぐに見付かるかどうか。次回までということはちょっと苦しいかもしれませんけれども、少し時間を下されば、何かの形で司法のコストをお知らせすることがあるかもしれませんが、そこはちょっと請負いませんけれども。はい、どうぞ福井委員。

【福井(秀)委員】参審制に関してです。さっきの判検交流とも多少関わるのですけれども、参審という概念がどこまで入るのかにもよるのですが、行政訴訟を判決する裁判官として、弁護士や行政法の研究者などが、現場に出て行くルートをもっと拡大してはどうかということです。判検交流は判事が一方の側に来るということですが、いろんなチャネルがあって、しかるべきです。それこそ、そうすると小早川先生がおっしゃったように大分相対化されるわけです。裁判官の立場にも在野の方、弁護士や研究者も来て、学習して、知見を蓄えて元に戻る、あるいは行きっぱなしでもいいと思うのです。参審ということに止まらず、できるだけ、行政訴訟を巡る当事者関係が固着化せず流動化する人事運用や制度的対応をしていく、ということが行政訴訟を公正にして、活性化するために意味があると思います。

【塩野座長】先ほどのドイツのライエンリヒター、素人裁判官の話もそれに通じるところがありますので、検討課題にはなるかと思います。

【市村委員】参審制の問題に関してなんですけれども、先ほど芝原委員がコストのことをおっしゃられましたけれども、私もその点では、かなり参審制をやるとなるとコストが掛かる、国民の負担という意味でも、相当なものだと思います。以前、地方の支部をやっているときに、検査審査会の委員というのを任命しました。それで選ばれた皆さんに来ていただいて、どういうことをやっていただいて、それからどういう義務があるかという説明をしました。離島の支部でしたので、皆さん、いろんな島から来るのですが、1日仕事で来るわけです。それで「何で、自分がこんなものに選ばれちゃうのだ。自分達は1日漁に出れないと、いくら減収になるんだ。」と、こういう人がたくさん出てきたわけです。そういうコストを払って、やるほどの見返りが本当に国民にあるのか、ということを十分検証した上で検討すべきで、頭の中でばっかりやると、やっぱりそういう部分を忘れてしまうのではないかという気がします。このような検討をするについては、是非、それも、検討材料に入れていただきたいと思いました。

【水野委員】これは一言、今の点について、去年私は大阪弁護士会の会長をしまして、初めて検察審査会のことが分かったのですが、確かに検察審査会の委員に選ばれて、迷惑だという人もおられるだろうと思います。しかし、検察審査会の協議会といいましたか、要するにOB会があるのです。これは全国にありました。大阪ですと、大阪検察審査協議会がありまして、これはどういう人がなっているかと言うと、かつて検察審査会の委員になった人が、ずうっと自発的に集まって、組織をつくっているのです。今、それは何をやっているかと言うと、検察審査会のPRだとか、いろんな情報公開だとか、もう検察審査会の委員でもないにも拘わらず、まったくのボランティアでやっている。これは私、全く知らなかったのですけれども、全国的な組織もありまして、非常に熱心にやっておられるのです。これを見まして、私はやはり日本にはそういう参審制なり、陪審制なりが十分に根付く余地があると確信いたしました。その体験だけ、ちょっと申し上げておきました。

【成川委員】同じ参審制あるいは裁判員制度は、労働組合でもここら辺につきましては議論しておりまして、司法改革をどうすべきかということなんですが、一番、労働組合のリーダーの関心を持ったのはこの陪審制、参審制の問題で、自分がやれるかどうかと、こういう議論をしまして、しかしやはりそういう議論を、この課題があったがゆえにこそ、やはり司法とか立法について、もっと自分の問題として考えないといけないと、こういうインパクトを持ったのは事実でありまして、ここでは刑事訴訟から入ると、こういうことなんですけれども、やはりこの国民参加という意味ではこの参審制、極めて個々の国民に対しての教育と、それから裁判について自ら考える力は非常に多いと、こういうふうに受け止めております。私としてはなるべく無理のない形で、国民に預けられるような形を準備して、整えて、広がっていくというのが好ましいのではないかと思っております。

【小早川委員】私もコストの問題で、専門部のことで一言。既に今まで管轄のところで議論していたことで、言う必要もないかもしれませんけれども、事件が東京に集中するのはこれはいろんな事情があって、これはどうしようもないという趣旨のご説明もあったし、それはそれで事情はあると思いますけれども、やっぱり高裁所在地の地裁に有能な行政事件の専門家がいて、そこへ事件を持っていけば、それなりの成果が得られるということが分かれば、今はあきらめている人たちも訴訟を起こすということが当然、考えられるわけです。もちろん、需要もないのに有能な人をそこに貼り付けるのはムダだというのは正しいのです。半分正しいのですけど、やっぱりそれだけではなくて、将来を見越した合理的な投資をして、それでもって、国民に対してもPRをすると、そういう意味はやっぱりあるだろうし、そこはバランスよく、少し先取りして、お考えいただければと思います。

【塩野座長】どうもありがとうございました。今ちょうど、小早川委員からもお話がございましたし、またときどき先ほどの判検交流もそうですけれども、それからコストの話もそうですけれども、いずれかの段階で裁判所のご意見を一遍、聴する必要があるのではないかというふうに思います。管轄の見直しと併せて、ご意見を伺うということにしたいと思います。また、それよりも前にいろんな、例えば不服審査前置主義等々、それから出訴期間の問題も含めて、何度か出ていますけれども、行政側の意見も聴するという機会を設けたいと思っております。そういうことを前提にいたしまして、いろいろなご意見をこの際、承りましたので、今後の議論の参考にさせていただきたいと思います。必ずしも、一致した意見だけではございませんで、それぞれの立場からのご意見、あるいは知見を披露していただきまして、ありがとうございました。
 そういうことで一応、今日予定しておりました議題についてはご意見を承ったというふうに私なりには理解しておりますけれども、今後の予定についてはこれから申し上げますが、何か落ちている点があればどうぞ、申して下さい。

【福井(秀)委員】裁判所の体制の問題で、大体前に議論のあったとおりだと思うのですけれども、例えば横浜とか神戸とか、要するにブロックの中心都市ではないけれども、結構行政事件がある所での処理を考えますと、そういうところは例えば、巡回裁判所のような形で、ニーズのあるところではできるだけ不便なく、一定の近いところでできるようにするということを検討いただければと思います。

【塩野座長】その辺も含めて、裁判所の方でまた。

【水野委員】それからもう1点だけ。先ほど、いわゆる納税者訴訟についてもお話ししましたけれども、もう一つ、いわゆる団体訴訟も、これはかなり重要なのではないかと思っているのですが、これについての議論が必ずしも十分ではなかったのではないかという気がしまして、できましたら、これも一度議論をしていただければというふうに思います。

【塩野座長】私の理解では、おそらく訴訟類型、あるいは原告適格の辺で、その辺が出ると思いますが、そういうことで今の申出はしっかりと受け止めたいとは思います。よろしいですか。
 それでは大分時間も経ちましたので、論点についての検討は一応、終わらせていただきます。そうしますと今回までで、一通りの議論が終了なされたということになります。その間、委員の皆様から多岐に渡る、かつ非常に貴重なご意見をいただきましてありがとうございます。項目によっては意見の一致を見た部分もございましたし、それから、さらにしかし項目によっては検討を深めるべき部分もあったように私は伺っております。そこで1読が終わったところで、どうするかということでございますが、まだ1読でございますので、次回を含めて、2回、ないし3回程度、議論をさらに深めることが必要な項目について、事務局からこれまでの議論を踏まえた資料を補充していただきまして、委員の皆様に第2ラウンドの検討を行っていただければ、というふうに思っております。一応、今までの議論をもう一度、事務局に正確にフォローしてもらいまして、議論をさらに深めることが必要な項目については資料を補充していただく。場合によっては、例えばこういう選択肢、こういう選択肢、こういう選択肢があるではないか、ということをきちんと整理をしてもらうということもあろうかと思います。そんなことを考えておりますけれども、如何でしょうか。

【市村委員】あまり、いろんなことの全部に触れると、そのために、最後に出来上がらなくなったら困るなあと、そういう感想を持っております。

【塩野座長】深山委員、こういった会議、随分いろんなところで、特に法制審議会を中心に出ておられると思われますけれども、昔のような法制審議会のような、ゆっくり、しかしじっくり、というところまでいきませんけれども、ご覧になってて、もう少し速度を速めた方がいいとか、こういった点に、こうした方が、むしろ皆様方の意見を引き出せるのではないかというふうな、何かご提案でもあれば、お願いします。

【深山委員】2読をするということはよくあることで、審議会でもどこでもよくあることですが、その際には1読と同じ資料に若干付け加えたようなものをいただいてもしょうがないので、1読は皆さん、したわけですから、そこの中で一致したところはさらに、こういう方向は一致したけれども、さらにこういう方向で行くなら、こういう付随的な問題を考えないといけない。そういう論点の指摘を是非していただきたいですし、意見が分かれたところも全部数えれば、5つ、6つ分かれたかもしれませんが、なるべくそれをいくつかに論点とともにまとめていただいて、こういうふうに前回はこの点は分かれたけれども、それぞれこういう根拠でこうなったけれども、さてどうだろうかと、もう少し色分けができないだろうかというような形で少しずつ、全体が集約していく方向での資料を作っていったらどうでしょうか。前々からこれは座長が言われていましたけれども、裁判所はもとよりですが、是非被告行政庁の側の意見も聞く、ある程度の選択肢が決まった段階で、今3つの考え方で分かれているけれども、おたくの省庁としてはどうですか、ということを聞く機会を是非近いところで持っていただく必要があるのではないでしょうか。最後、行政事件訴訟法と関連法の整備、整備がどこまで及ぶかちょっとよく分からないのですが、これは少々ではない可能性もあり、立案事務に相当時間を取られることが予想されますので。ゴールは来年の通常国会といっても、実際のこと考えると、そう長くはないかと思うのです。

【塩野座長】そういうことで、今、ゴールは来年の通常国会ということをおっしゃいましたが、まさにそのとおりなんですが、ゴールにどれだけの球を持っていくかということです。この委員一人一人の球を全部持っていくということになると、これは大変なことになりますが、皆さんでこれは是非、来年の通常国会で実現させるべきだという球は是非、私はそれを国民の皆様にお返しをしたいというふうに思っているものでございます。あれもこれも一緒に行こうというのは、言葉としては美しいのですけれども、なかなかそうはまいらないということもご承知の上で、これからのご議論、是非実りのあるものにしていただきたいと思います。ただ、その間、こういった点について、会議の進行上不満があるとか、ここは少しおかしい、という点があれば、これは是非検討会の場でおっしゃっていただきたいというふうに、私からのお願いでございます。
 何か今までのところでご意見。はい、福井委員。

【福井(秀)委員】資料の作り方について、お願いですが、今、深山さんもおっしゃったとおりでございまして、もうちょっと見やすく、箇条書き的に作れないものか。通常の中央官庁の資料の作り方からすると、最悪の作り方の一つです。もっとポイントが分かって、これが重要だ、という箇条書きがあって、それについて論点はこうであるとか、だらだらとした文章ではなくて、もうちょっとましな資料を今度は作っていただきたいと強くお願いしたいと思います。
 何度いろんな方が申し上げても全然直らないようですので、是非こういう資料はやめていただきたいと思います。

【塩野座長】それには私なりの反論もあるのですけれども、なかなかこの会議難しい、資料作り、本当に苦労しているなと思います。つまり、中央官庁ですと、これは悪口を言いますと、行き先がある程度決まっている審議会もございます。その場合にはこういった、こういった点について議論をしてくれ、ということで出すということで、重大な審議会が成り立っているところもありました。

【福井(秀)委員】そういう問題ではない。論点の提示の仕方の問題で、末尾に論点がいつのまにか出てくるというのではなくて、最初に論点を提示していただきたい。それは官庁の性格と全く関係がないと思います。資料の見やすさの問題を申し上げているだけです。

【塩野座長】その点も非常に苦労していると思います。できるだけ事実を明かして、それから論点をおもむろに出す、あるいは検討の視点を出すという、そういうやり方でやってきたと、私はそれなりに理解をしているところでございます。ただ、2読の段階になりますと、きちんと論点をまず整理して、そして資料を整えるというふうにやるかどうかは、そこは従来の1読の資料のことについても反省も加えながら、事務局と、私も一応、相談いたしますけれども、整理の資料を提示していきたいというふうに思っておりますので、そこもよろしく、ご教示をお願いしたいと思います。
 他に何かありますか。

【水野委員】さっきの納税者訴訟の点については次回でよろしいですか。

【塩野座長】よろしいというか、考えます。委員からの申出があったのをいけないというわけにはまいりませんので。

【水野委員】是非、冒頭の。

【塩野座長】冒頭にするかはあれですけれども、次回に予定させていただきますが、時間の関係については、どの程度の時間が割けるかということにつきましてはまた事務局とも相談していただきたいと思います。

【水野委員】資料についてもご相談させていただきます。

【塩野座長】他に何かよろしゅうございますでしょうか。それでは次回の点については2月5日、水曜日の午後1時半から、事務局の会議室で第2ラウンドの検討を行うということでございます。今日はどうも大変、長時間ありがとうございました。