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行政訴訟検討会(第16回)議事録



1 日 時
平成15年4月25日(金) 13:30〜17:30

2 場 所
司法制度改革推進本部事務局第2会議室

3 出席者
(委 員)
塩野宏座長、市村陽典、小早川光郎、芝池義一、芝原靖典、成川秀明、
萩原清子、福井秀夫、福井良次、水野武夫、深山卓也(敬称略)
(事務局)
松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官、村田斉志企画官

4 議 題
(1) 論点についての検討
(2) 今後の日程等

5 配布資料
資料1 行政訴訟制度の見直しについて検討の方向性が概ね一致していると思われる事項
資料2−1 国及び公共団体への被告の一元化の具体的な制度内容の案及びこれに関連して派生する問題の項目
資料2−2 国及び公共団体への被告の一元化の具体的な制度内容の案及びこれに関連して派生する問題
資料3 管轄の拡大についての主な論点
資料4 出訴期間等の教示についての主な論点
資料5 行政の作為・不作為の給付を求める訴え、確認の訴えの主な論点
資料6 行政訴訟検討会における意見の概要

6 議 題

【塩野座長】それでは所定の時刻になりましたので、第16回行政訴訟検討会を開会いたします。事務局から本日の資料について、御説明をお願いしたいと思います。

【小林参事官】本日の資料はお手元の議事次第にありますように、資料の1から資料の6までをお手元に配布しております。御確認をお願いいたします。その他に右手の方にこれまでの検討資料を御参考までに再度置いております。以上でございます。

【塩野座長】本日の議題といたしましては、引き続き論点についての検討を行っていただきますが、第1、第2ラウンドの検討に続き、いわば第3ラウンドの検討として、さらに掘り下げた検討を行っていただきたいというわけでございます。
 今まで非常に多岐にわたる御意見の表明、問題点のご指摘等をいただきました。これまでの検討会における皆様の御意見につきましては、この本日の資料6のところにまとめてありますので、ときどき御参照、御覧いただければと思います。委員の御要望に基づきまして、事務局が一生懸命作ったものでございますので、参考にしていただきたいと思います。
 そこで今後の進め方ということで、前回の検討会で色々お話を伺いましたところ、今までの御議論で方向性が概ね一致していると思われる検討事項について、その項目、内容を確認の上、なお検討が必要な論点について審議を進めるとともに、行政訴訟の特殊性を考えると不可欠なことなのですけれども、行政の実情についての情報を得るということで、行政庁側の意見を聞くと。またその他の検討項目についても重要なものについて、並行してダブルトラックで行こう、並行して引き続き検討を進め、可能な限り具体化を図っていくということで、委員の皆様方の御了承を得たというふうに一応私は理解をしております。つまりダブルトラック、一つは意見の一致を見ていると思われることについてもっと掘り下げた検討をして、ヒアリングの準備を進める。それから同時にその他の重要項目についても検討を引き続き検討を進めると、そういうことでございました。こういうような形で、前回のいわば確認でございますけれども、進めてよろしゅうございますでしょうか。

(委員から異論なし)

 ではまず検討の方向性が一致している点についての確認を行い、それを踏まえて先に進むという作業がどうしても必要になると思います。そこで資料の1として、お出ししております資料「行政訴訟制度の見直しについて検討の方向性が概ね一致していると思われる事項」、これにつきまして委員の皆様に御確認をいただく、御意見等があればいただきたいと思います。そこでまず事務局から資料の1についての説明をお願いいたします。

【福井(秀)委員】ちょっと質問よろしいですか。本日の資料はどこで作成したのですか。

【小林参事官】この資料1、2、3、4、5、6は事務局で作成しました。

【福井(秀)委員】つい最近気が付いたのですが、この文書作成名義とかタイトルに「最高裁意見確定」とか「法制局見え消し」とか、「最高裁修正済み」とかが付いているのですが、これはどういう意味ですか、プロパティの中に出てくるのですが。

【小林参事官】いろいろな過程でいろいろなところと意見交換をしている。

【福井(秀)委員】要するに委員に配布する意見は、事前に最高裁の意見を聞いて確定されてから、意見照会されているということですか。

【小林参事官】いろんな意見を伺っているということです。

【松川事務局次長】事務局で今までの議論を踏まえて、整理させていただいていると理解しております。その過程でいろいろ事実関係を確認する必要で、やりとりはしているものだと思いますけれども、意見を聞いて、事務局でまとめるという形にはとっていない。

【福井(秀)委員】作成者に情報管理課と出てくるのはこれはどこのことですか。

【松川事務局次長】これは全体のコンピュターシステムを情報管理課が管理しているんじゃないかと思われますけど。

【福井(秀)委員】よく分からないのは検討会の議論というのは、あくまでも行政庁内閣府に置かれている司法制度推進本部の素案作り、しかも検討会の事務局として資料を作成していただいていると認識しているわけですけれども、最高裁は司法権の一翼、最高責任者であって、そこが検討会の委員の意見を聞く前にあらかじめ意見を言って、しかも修正とか意見で確定ということがあるとすると、これはちょっと妙なことになるのではないか。本来政策判断を検討会で行う、あるいは検討会に最高裁から委員が派遣されているわけですから、その場でオープンに議論していただくのは何ら支障がないと思いますけれども、委員に配る前提として最高裁に意見を聞かれて、確定というのがどういう意味かわかりませんけれども、何らかの形で合意ができたものについてのみ、委員に配られるというのは如何なものかと思います。

【小林参事官】決してそういう過程があったということではないと考えております。いろいろな過程でいろいろな意見をお伺いしているということです。

【水野委員】昨日の晩、お聞きしまして、いつもメールで送ってもらってますから、そのメールをプリントアウトしている限りでは全然分からなかったのですけれども、何かコンピュターの出所はわかりませんが、別の画面でそういうのがあるということで見ましたら、「最高裁案に修正したもの」とか、「最高裁意見プラス法制局見え消し」とか、「最高裁修正で確定」とか、そういったものが出ているのです。これは何かこの文書が「最高裁で確定」とか、そういうことなのかどうか私自身は判断できなかったのですけれども、今お聞きすると、最高裁と事前に協議しておられるということになりますと、意見を聞かれるのはもちろん良いと思いますけれども、何かこういうのが出ると、最高裁と事前に案を作っておられるような印象ですから、これは如何なものかと思います。

【塩野座長】わかりました。わかりましたという意味は私の理解と言いますか、今の事実関係は私自身全然存じませんけれども、要するに私としては事務局の責任において今日の案をお出ししていただいていると理解しております。そしてその事前の、誰かと相談してそこで確定したとかなんとか言っても、それは検討会の今後の検討に何らかの全く影響を及ぼすものではない、御自由に御意見をいただきたい、ということでございます。時間の関係もありますので。

【福井(秀)委員】座長のおっしゃっていることは当たり前のことで、事前に確定した意見に拘束されるいわれはないことは当たり前のことなんですけれども、意見の取りまとめプロセスとして、李下に冠を整すべきではないと思うのです。本来このオープンの場で議論することが検討会の趣旨だとすれば、最高裁の意見を聞かれるのであれば、オープンにここでどういうことは最高裁に相談しましょうと相談した上で、事前に聞いていただくなり、あるいは最高裁の方にここで意見を開陳していただく、それは問題ないと思いますが、全くわからないところで、しかもこういう確定とか修正とか重みの序列があるような形で、不透明な形で、しかも司法権の頂点にある最高裁と行政の立案体制の部局とが事前に相談されるというのは今後やめていただかないとまずいのではないかと思います。

【小林参事官】具体的な内容については承知しておりませんが、そういうことで確定しているとか、そういうようなことではありません。

【福井(秀)委員】確定しているかどうかを問題にしているわけではありません。そういう手続があったということ自体が問題ではないかという指摘です。

【塩野座長】両方のご意見がありまして、水野委員もいろんな連絡を取り、あるいは事務的な打合せをするということ自体についてはありうることかなというようなお話でもございました。その点はなかなか私も実際にこういういい案を作ろうというときに、どういう調整をするかは私も詳しくは存じませんけれども、私は先ほども申しましたように当たり前のことをもう一度ここで当たり前のこととして、確認したいと思いますので、よろしゅうございますでしょうか。
 それでは先に進めさせていただきます。しかし御指摘ありがとうございました。今後、事務局としても注意させていただきます。
 そこで先に進めさせていただきますけれども、まず資料1の「行政訴訟制度の見直しについて検討の方向性が概ね一致していると思われる事項」につき、御意見をいただくということでございますので、資料1の説明をもう一度お願いしたいと思います。

【小林参事官】資料1につきましては、1頁の星印にありますように第15回行政訴訟検討会までに行政訴訟制度の見直しに関し基本的な方向性について概ね一致がみられると思われる事項を挙げたものです。現実の制度設計の可能性や見直しの具体的な内容については、この資料の注にもございますように、さらに検討が必要と考えられるものでございます。
 第1と第2に分かれておりまして、第1は「基本的な見直しの考え方−権利利益の実効的救済の保障」という項目でございます。内容につきましては、「行政訴訟制度を見直して、国家賠償や行政不服審査の制度と相まって、国や公共団体による権利利益の侵害を受けた者の救済を実効的に保障することができる制度とする」、こういう項目でございます。
 第2は具体的な見直しの考え方でございます。この第2の項目は1と2と3。1につきましては、「行政訴訟を利用しやすくするための見直し」、それから2は2頁にございますが、「審理を充実・迅速化させるための方策の整備」、3は「本案判決前における仮の救済の制度の整備」、この3つの項目に分かれております。1の「行政訴訟を利用しやすくするための見直し」、1頁のところですが、これにつきましては(1)の「被告適格者の見直し」と、(2)の「行政訴訟の管轄裁判所の拡大」、それから(3)の「出訴期間等の教示」、この3点を挙げております。
 (1)の「被告適格者の見直し」につきましては、「被告適格を有する行政庁を特定する原告の負担を軽減することにより、訴えの提起を容易にする等のため、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に関する不服の訴訟については、行政庁を被告とせず、処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体を被告とする」、このようなことでございます。注につきましては、「抗告訴訟の被告適格者を行政庁から国又は公共団体に改めることに伴う関連規定の整備の要否等については、なお検討が必要である」ということでございます。
 2頁の(2)の「行政訴訟の管轄裁判所の拡大」につきましては、「行政訴訟へのアクセスを容易にするため、行政訴訟の管轄裁判所を拡大する」という項目でございます。注といたしまして、「土地管轄をどのように拡大するかについては、行政事件を扱う裁判所の専門的な体制の問題等と関連して、なお検討が必要である。また、土地管轄を拡大した場合の移送に関する特別の規定の要否等についても、なお検討が必要である」というものです。
 (3)の「出訴期間等の教示」につきましては、「訴え提起の機会をより実質的に保障するため、行政庁は、処分をする際に、その相手方に対し、出訴期間の制限などを教示しなければならないものとする」というものでございます。注といたしまして、「教示の内容、相手方の範囲、教示義務に違反した場合の効果等については、なお検討が必要である」というものです。
 2の項目でございますが、「審理を充実・迅速化させるための方策の整備」でございます。「訴訟関係を明瞭にし、審理を充実・迅速化させるため、訴訟の早期の段階で処分又は裁決の理由を明らかにするための方策を講ずる」というものです。注といたしまして、「処分又は裁決の理由を明らかにするための具体的な方策については、①処分又は裁決に関する理由の説明や記録の提出等を行政庁に対して命ずること、②裁決の取消しの訴え又は裁決を経た処分の取消しの訴えにおいて、裁決をした行政庁に対し裁決に関する記録の提出を命ずること等の意見が出ているが、その採否等については、なお検討が必要である」というものです。
 3の「本案判決前における仮の救済の制度の整備」につきましては、「本案判決前における仮の救済に関して、権利利益の救済の実効性を確保する観点から検討し、必要な制度の整備を図る」というものです。注といたしまして、「権利利益の救済の実効性を確保する観点から、仮の救済について具体的にどのような見直しを要するかについては、①執行停止要件の緩和、②執行停止に対する内閣総理大臣の異議の制度の見直しを含む執行停止決定に対する不服申立ての具体的在り方の見直し、③執行停止以外の多様な仮の救済方法の整備等が必要であるとの意見が出ているが、どのような制度を採用するか等については、なお検討が必要である」、以上のような項目を挙げております。

【塩野座長】ではこれに基づいての色々御意見をいただきたいと思いますが、資料の2から4の方は最初に御説明はしませんか。

【小林参事官】資料2−1、2−2、それから資料の3、それから資料の4、ここまでにつきましては本日の資料1の第2の1の(1)、(2)、(3)、これに対応する検討に参考資料として作成したものでございまして、資料の5につきましては、これはその他の取消訴訟以外の救済の問題について、御検討いただくための資料でございます。

【塩野座長】資料2につきましては、細かいところですけれども。

【小林参事官】内容については個別に論点に入ったときに説明したいと思います。

【塩野座長】それでは今の順序で議論といいますか、御意見をいただきたいと思います。なお、今日の議題について冒頭に申し上げましたように、ここで挙げられている事項について、なお第2トラックとして並行して審議するべきものとして、まだこんなものがあるのではないかという御意見があろうかと思います。それは後の後半の部分でお伺いすることにいたしまして、まず最初のところはこの資料1のペーパーについて御議論を、あるいは御意見をいただければと思います。
 それでは第1から始めてよろしゅうございますか。一応順序を追っていった方がよろしいかと思いますので。芝池委員、何か進め方について。

【芝池委員】この資料1の文書が持つ意味なんですけれども、今日議論をいたしまして、修正が入ると思いますが、その文書は今後の検討会での議論において、ある種の、憲法とまではいかないと思いますけれども、方針を示す文書ということになるのでしょうか。

【塩野座長】その点は私の理解するところでは、次の段取りを踏まえての検討だと思います。次の段取りと申しますのは、今日もちょっと申し上げたように、これがある程度まとまりましたならば、行政庁の意見、あるいは同時に国民の皆様の御意見を承るということになっておりますので、そのための資料というふうに御理解をいただければと思います。そのときに際して、ただ単に問題点を指摘するだけでは国民に対して、あるいは行政官庁に対して聞く際の資料としては不十分ではないかということで、ある程度の方向性をもらった。場合によっては方向性の中で選択肢を付け加えてお聞きするものということが、これからの議論の仕方によってはあり得ると思います。そういうものですので、もう変えられないということではなくて、国民の意見、あるいは行政庁の意見を聞き、あるいは国民の皆様方の幅広い情報を得て、変えることだってある。しかし最初、こういう形でお伺いすると、そういう趣旨でございます。ということで私は理解しております。よろしゅうございますか。

(委員より異論なし)

【松川事務局次長】事務局の問題意識を申し上げますけれども、行政訴訟の問題は御案内のように、非常に多くの国民の利害に関係する項目でありますので、これまでの多岐に渡る御意見を開陳されているわけでありますけれども、いよいよ来年の通常国会への立案に向けての作業ということで、概ね一致した項目を確認した上で進めてはどうかという前回の議論がありましたので、そういう意味の途上の段階のものという意味で、座長がおっしゃったとおりだと思いますし、今後も様々な議論の過程で、修正していくべきものはそこは弾力的に考えていくべきと思っております。

【塩野座長】よろしゅうございますか。萩原委員、どうぞ。

【萩原委員】前回欠席いたしましたので、今後の進め方についての確認なのですが、前回の議事録も読ませていただいて、おおよそ私も理解しているつもりです。ただ、今回のこの「概ね一致していると思われる事項」に関連していろいろ資料、2−1から4までですか、いろいろ示していただいているのですが、概ねというところの、概ね一致しているという方向の資料にしては何かかなり私のような素人からすると、非常に細かいといいますか、かなり専門的だということであって、なかなか意見を言いづらいところがあるので、概ねという、ある意味では素人用語で言う、大雑把というような、そういうところの意見も今後、何らかの形で採用していただいて、結果として技術的な議論やなんかは本当に専門家の方にしていただいて、私どもの意見としてはこういう方向でとにかく行ってもらえれば良いんだということにしていただけたらなと、そういうふうにちょっと思ったものでございますので、一応そういうことで申し上げました。

【塩野座長】是非そうしていただきたいと思います。私も資料を見まして、行政訴訟法の専門家でもこんな細かいところまであまり気を配っていないところがありまして、それについての資料が出ております。それは、しかしたまたま前回そういった細かい点もあるから、そういう点についても十分目配りをしていくように、というこの検討会の場で委員の御指摘がありましたので、事務局なりに整理をしたものでございます。そういうことで、例えば行訴法の何条のこの行政庁というのを行政主体、国又は何かと書く必要があるかどうかということについて一々、この場で確認をするということは私もする必要はないと思います。ただこういった難しい作業があると。しかしそういう点については一応事務局なりに勉強したということで、この資料として出ていることでございますので、特に萩原委員、成川委員 芝原委員からはもっと国民の目から見た率直な御意見をいただければ、それをどういうふうに今度は法律上生かしていくかということについて、これは事務局がいろいろと考えてくれることだと思いますので、是非そういうことでお願いしたいと思います。はい、どうぞ福井委員。

【福井(秀)委員】関連して、今の萩原委員の御指摘全く賛成なんですが、やはり専門家の目から見ても、最高裁の意見を聴取されているせいか、大変技術的で専門的な議論が多いと思うのです。やはりここで検討すべきは法制局で作る条文ということではなくて、やはり政策のコンセプトだと思いますので、たとえばコンセプトを決めれば条文は技術的にどう書くかはともかくとして、そう技術的に問題なく決まるという論点と、いややっぱりコンセプトは決めたけれども、基本的にどっちに転ぶかはやはり政策判断しないといけないという論点は厳格に分けていただいて、後者についてはここで合議する価値がある、しかし前者については後で法律職人との間でゆっくりやってください、というのがこの検討会の正しいスタンスだと思います。あまり細かい論点をここで議論するということは時間の効率も悪いので是非避けていただきたいと思います。

【塩野座長】私もその方向で考えておりますので、よろしくお願いいたします。ただあえて言いますと、この前市村委員だったか、このところは大丈夫かと聞かれたので、事務局は一生懸命勉強して、これだけのものを作ったということだと思います。

【小早川委員】細かいことをここで議論する必要はありませんが、専門的だからと言ってここで議論しないというのは、結局細かくやっていったらできなかったということもありますので、そういうことのないように、多少専門的になってもここで可能性を詰めておくということは、事柄によっては必要だろうと思います。

【市村委員】まず確認させていただきたいのですけれども、そうすると1番目の基本的な見直し方というのは全体を貫く総論的なスタンス、この委員会のスタンスということを決めたもので、具体的にこの前、この場でコンセンサスが得られた、概ね一致したところから検討に入りましょうというのはここに挙がっている第2の1から3までに書かれた各事項である、こういうふうに理解してよろしいですか。

【塩野座長】はい、私はそういうふうに理解しております。

【市村委員】そうしますと、今いろいろ確かに御指摘のあったところで、これからやろうとする議論というのは非常に法律的な話で、細かい話になると思うのですが、実は元々やっているテーマが非常に技術的な訴訟法の話でありまして、その中の大きな考え方を取るだけでは決まらない部分というのはかなり多くあって、そういうところについても、どういう議論があったのかということを前提にして、どうそれを条文化するかというのは後で詰めていただくとしても、ここでどういう考え方に立つべきか、という議論はした上で、それが一つにまとまるかどうかは別として、議論を少し深めた上で立案作業をやっていただかないと、事務当局として方向性を見い出しにくいのではないかという気がします。我々も、その後、これが成案になって現実に現場で使うという状態になったときに、どういう議論の考え方の下にこうなってきたのか、ということが是非分かるような、裏付けのあるようなものをやっていただきたい。そういう意味で、この第2の論点についても、十分な議論をしていただきたいというふうにお願いしたいと思います。

【塩野座長】いろんな御意見がございましたけれども、私も、これは当たり前だと言われてしまうと困るのだけれども、議論すべきところは議論し、あまり細かい点について、それこそプロフェッショナルに任せた方がいいものは任せておくということで、その辺の判断は場合によっては私にお任せいただくことがあるかもしれません。この点のところはここではやらないで、事務局に任せて、成案を経て、もう一度、成案を経ないでやってみますと、思わぬことが書いてあることがあるものですから、そういうことはまたここでちゃんと議論しましょうという、そういうやり方になるかと思います。どうもありがとうございました。
 それでは中身に入らせていただきますが、第1のところからどうぞ。

【芝池委員】第1のところについて枠の中の表現ぶりについて意見よろしいでしょうか。

【塩野座長】はい、どうぞ。

【芝池委員】1行目のところで、「国家賠償や行政不服審査の制度と相まって」とありますけれども、ちょっと曖昧な感じがします。現在行政訴訟の役割が限定されておりまして、その結果、国家賠償の役割が救済手段としては広くなっている、ということがありまして、そこのところを踏まえるとすれば、国家賠償と行政訴訟を完全に並列するだけでは新しい行政訴訟のあり方を示すことにはならないと思うのです。ですから良い文言は思いつかないのですけれども、現在のそういう国家賠償に比重が傾きすぎているところを正すんだという方向性を出すような文言にできれば、可能であればするべきだと思います。

【水野委員】この第1に書いてあること自体は、権利利益の実効的救済を保障する、これはこれでもちろん異存はないわけですけれども、行政訴訟制度の目的としまして、もう一方では行政の適法性の確保という、そういった面があるという議論はされていたわけで、そういう方面からも見直しをする必要があると思います。ただそれが全員一致しているのかどうか、それは分かりませんが、この面だけで見直すのだということで一致したということではないということだけは、これは確認してもらいたい。これ自体は異存ありません。

【塩野座長】今の点は、きちんとテイク・ノートしたいと思います。

【小林参事官】芝池委員のおっしゃた趣旨もこれはその趣旨を表現したつもりで、ここで皆さんの意見が一致しているのは国家賠償とか行政不服審査とかあるけれども、行政訴訟というのはそういうところに依存しすぎて、活用されていない。あるいは取消訴訟中心主義みたいな問題があって、本来活用すべき場合に活用されていないのではないか。少なくとも権利救済という面からはその部分は改善していかなければならないのではないか、そこは一致したのではないかと思って、ここを書いておりますので、お二人方の趣旨はそのとおりで、ここに盛り込んだつもりです。

【塩野座長】これはできあがった憲法ではありませんので、今の御意見を踏まえながらまた、考えさせていただきます。どうぞ、小早川委員。

【小早川委員】修正意見ではありませんので、言わなくてもいいのですけれども、私の印象としては、権利利益の侵害を受けた者の救済を実効的に保障する、これはもちろん必要なのですが、訴訟制度というのはそれだけではなくて、自分は権利利益の侵害を受けたと思った、そんな気がしているという人に対して、本当にそうなのかということをきちんと公の場で調べて、その結果、いやそれはあなた我慢しなさいということもあり得るわけです。あり得るけれども、とにかくそういう不満を持った人に対して、その不満に適切に対処できるような、これはおそらく訴訟制度に関わっておられる方からすれば常識でしょうからこの文章で誤解は生じることはないと思いますし、広く国民一般の方にはこの方が分かりやすいかなということもありますので、修正は求めませんけれども、そこまで含むというふうに理解していきたいと思います。

【塩野座長】今の小早川委員の御指摘について、前から私ここで申し上げた記憶がありますけれども、それぞれの御意見、それぞれの人生経験を背景にしているものですから、いろいろな意見があるわけです。ですからこの場合に自分はこう思うと、こう思うから納得できる。自分の立場からどうにも納得できないのでしたら、どうぞおっしゃっていただきたいのですけれども、自分はこういうふうに思ってこの点は納得したという御発言も大変重要な御発言だと思います。私としてはそういう形で皆様方の自分なりの納得をできるような案文、あるいはシステムを作り上げていきたいと思いますので、よろしくお願いしたいと思います。それで他に何かございますか、第1のところは。
 それでは第2の点については、1、2、3という点を掲げておりまして、それぞれに多少、細かいところにも入っているところがありますが、こういう論点を掲げましたということで、了解を得られれば細かいところに入っていきたいと思います。ただいつも申し上げていることですけれども、後から思いついて、実はこの点はこの項目の中でもあったではないかということは後からでも結構でございますので、まずこの項目を取り上げて、これから逐次検討に入っていってよろしいかどうか。よろしゅうございますか。何か。

【市村委員】細かいと言われてしまうかどうか分からないので、ここで発言すべきか迷ったのですが、被告適格者の見直しを考えるときに、この枠組をどの範囲でやるか。つまり行政事件訴訟法を変えれば、それで足りる範囲だけでやるか。つまり個別法で行政庁を被告にすべきと規定しているものがたくさんあるわけです。そこの射程をどうするか。それから主観訴訟だけでやるのか、客観訴訟まで同じように見直すのか。これは本当は枠組みとして非常に大きいことで、もしこの改正をやった後も行政庁を被告というものが残る形態というのはたくさんあるのであれば、全体の組み立て方をどうするかというときに、必ずしも「行政主体に統一してしまうから後は問題ありません。」とは言えなくなる。行政庁であるときはこうなる、それから行政主体のものはこうなる、という2重の手続法を作らなければいけなくなります。ですから可能な範囲がどこなのかということを少し考えておかなければ、議論の前提ができないように思います。まずその点を指摘しておきたいと思います。

【塩野座長】今のうちの民衆訴訟、機関訴訟の点についてはこの資料の2−2の9頁のところに取り上げて、事務局作成の段階ではその点は意識しているというふうには私は理解しております。個別法のこの点、この点というところまでは行っておりませんので、その点についてはこれは専門的なので、この場でこの条文についての行政庁は行政主体にすべきという議論はちょっと私は無理ではないかと思います。

【市村委員】ただ要するにそういう行政庁が主体になるものが、個別法を改正しないということを前提に残るものであれば、そういうものを手続法としての行政事件訴訟法というのは持っておかないといけないということになります。そうすると2重に持つのか、それとも主観訴訟においては個別法の改正、あるいは読み替え等を考えて、みんな統一していくという方向で整理するのか、そこら辺は議論しておく必要はあると思います。

【塩野座長】それはまず事務局から御意見を伺いましょうか。

【小林参事官】それは個別の論点の検討のところでお願いしたいと思います。

【塩野座長】それでは個別の方で検討しましょう。はい、どうぞ。

【水野委員】それから(3)の「出訴期間等の教示」というところ、これ自体は異存ありません、一致したでいいですけれども、私は前から申し上げているとおり、出訴期間そのものを廃止しろと言っているわけで、今までどおり一律に出訴期間を持つことを前提にして、教示制度を設けることについて意見が一致したということではないということだけ言っておきます。

【塩野座長】出訴期間についてはまた後の方でまた議論の対象にいたしますので、出訴期間等々、この検討会でいつの時点でどう取り上げるか、という点はまた後で議論したいと思います。はい、どうぞ。

【小早川委員】被告適格者に関連して、これもまた専門的特殊な話になるかもしれませんが、現在は、国、地方公共団体以外の各種法人で、その法人の機関の行為について行政事件訴訟法で行く場合と民事訴訟法で行く場合と両方あって、その仕切りの問題というのがあります。ここでの見直しというのには論理的には関わらないのかと思いますけれども、ただ今、特に独立行政法人とかそんなのが増えてくる傾向にあるということもありますので、その辺は行政訴訟の守備範囲をどこまでにするのかという問題が実際には絡んでくるだろうなと。その際に、これ以上行くと細かくなりますが、今は公権力の行使かどうかということで切っているのですが、その切り方が今後も続いていくのかどうかという点も、関連してあるのではないかということを指摘だけ。

【塩野座長】はい、分かりました。論点としては私も独立行政法人等の扱い方というのはなかなか難しい問題であると思っております。それではよろしゅうございますか。はい、どうぞ。

【福井(良)委員】資料2−1に書いてあることについて申し上げるのですけれども、「その他の法律で、検討が必要と思われるもの」ということで、「行政不服審査法の規定の整備の要否」ということが書いてありますが、行服法の場合は処分庁ですとか審査庁を特定をすることによって、スタートする制度ですから、もしこの文章が行服法の不服申立て先を行政事件訴訟法で考えておられるような国ないし地方公共団体とすることを想定しているのなら、それは無理ではないかということを申し上げたい。

【塩野座長】それでは先程来のいろいろ御意見を交換していただきましたけれども、今日出た一致ペーパーのところについては、実効的な権利救済、利用しやすい訴訟制度、審理の充実・迅速化、あるいは適時適切な救済といった点から私も重要な課題と考えております。注にもありますように、まだこれから検討しなければならない事項、既に諸委員から御指摘のあった点もございます。さらに検討する必要があるということ、これは共通の認識でございますし、またこの辺は自分はこういう形で読んでいるので、注意してほしいという御指摘も伺っております。ただ現段階では方向性が一致している事項はこの資料ということで、今後のステップに入らせていただいてよろしいということでございますでしょうか。
 はい、芝池委員。

【芝池委員】表現でもよろしいですか。

【塩野座長】はい、表現でも結構です。

【芝池委員】第2の1の(1)の被告適格ですが、枠の中の下から2行目、「事務の帰属する国又は公共団体」と書いてありますが、確かに国又は公共団体を被告にするという点では合意はあったと思うのですけれども、私はそのときはむしろ行政機関、行政庁が帰属する国、公共団体というふうに理解しておりまして、両者が異なる場合というのがあるわけです。両者というのは行政機関が帰属する国又は公共団体と、事務の帰属する国又は公共団体であり、これらが一致しない場合ということがあり得るのではないかと思うのです。

【塩野座長】そこは小早川委員に聞いた方がいいですか。

【小早川委員】機関委任事務がなくなったものですから、ほとんどなくなったと思いますけれども、行政ではないけれども、刑事捜査の際の司法警察員の行為というのはあるいはあるかもしれません。他にも個別には、機関委任事務は全廃したと言いながら、実は生き残っているのがあるような気もします。ゼロとは言えない。

【芝池委員】ちょっと気になりまして。

【塩野座長】私は今度の地方分権一括法でそういう問題はなくなっていると、一応原理的には。しかし取りこぼしがあるかもしれません。

【芝池委員】文化財保護法を見ていましたら、文化庁長官の事務を都道府県の教育委員会に、委任でしたか、委任させられたと言われまして、あれと思ったのですが。

【塩野座長】委任した以上は事務が向こうに移りますが。

【芝池委員】委任かどうかはちょっと表現は覚えてないです。

【塩野座長】その点、ただここは原則的なことを書いてあるというふうに理解していただきたいと思います。例外中の例外があるかもしれません。はい、どうぞ。

【小早川委員】一番最後の仮の救済のところですが、この枠の中のここにこういうことが書いてある趣旨は、現行法では取消訴訟の規定の中に執行停止の規定が置かれていますが、それに対して仮処分の排除は取消訴訟の関係に限らず一般的に置かれている。いずれにせよ、義務付け訴訟や不作為請求、差止め訴訟のような、そういう場合の仮の救済はどうなのかという議論はあるわけです。ここに挙がっている問題は別に取消訴訟との関係に限るものではないと理解してよろしいか。私はそういうふうに広く見直した方がいいだろうと思います。

【小林参事官】要するにここで出た意見は非常に多角的な意見があって、表現はこのとおりで、取消訴訟に限っていないわけです。ですからそういう意味で幅広く、仮救済を充実していこうという意味では一致はあったけれども、ではその仮処分の禁止を本当になくしていいのかどうかということになると、これは具体的な問題についてまだ一致はなかったと思うのですが、ただ全体を見ながら充実を図っていこうという、その抽象化したレベルでは一致があったと見られるということで、こういうふうに記載したものでございます。

【塩野座長】他にどうぞ。それでは今の四角に入った点について、これでよろしいという御意見をいただいたということにしていきたいと思います。

(委員より異論なし)

 そこで、次の問題でございますけれども、第2トラックについての問題がございます。どういったような項目があるか、実はこの点について今日議事進行中でお伺いすることも申し上げたところにございますので、どのような項目があるか委員の皆様方から是非、御意見をいただきたいと思います。どうぞ、どなたからでも結構でございます。既に先ほど、水野委員からも出ましたけれども、出訴期間の点については、他に何かあればどうぞ、どうぞ今の段階でおっしゃっていただければと思います。

【水野委員】第2トラックとおっしゃった部分で議論すべきことはそれはいっぱいあるのではないでしょうか。それは一々挙げていたらきりがありません。要するにこの検討会で当初、今日も配られておりますけれども、第6回フリートーキング参考資料の中で、今さっき出たのは大体意見が一致した個別の項目と言いますか、事項についてはこの程度のことだということで、それはそれでいいと思いますけれども、要するに行政訴訟制度の趣旨・目的から始まって、行政訴訟と民事訴訟の関係、まさにこの目次に書いてあることは全部、もう一遍議論して、一つ一つ確定していく必要があると思っております。

【塩野座長】一当たり御意見を伺いましょう。

【福井(秀)委員】今ここで、今回であと何をやるか決めるという趣旨ですか。

【塩野座長】いえ、今日一応御意見を承りたいということです。

【福井(秀)委員】それは今水野委員が言ったとおりで際限なくあるわけです、いろんな項目ごとに並んでいるので。それは今回の委員ごとのまとめとか、項目ごとにまとめされているように、非常に大部にわたる論点があるわけでして、こういった主張の中から、各委員ごとにまた同じ内容を繰り返しても仕方がないわけでして、これはやっぱり決める作業を、前回も申し上げたと思いますけれども、やはりどの論点について、どういう見解なり、政策を取るのかということを決定する作業が何らかの形で必要だと思います。ここでもう一回自分が言ったことをまた言っても、これは時間も浪費だと思いますので、やはりどういう論点が残っているのかということも含めて、事務局の方でできるだけ公正な形で、今回のような形ではない公正な形で整理していただいた上で、それを決する作業に何らかの形で手続的には移っていただきたいと思います。

【塩野座長】私が今のようなことを申し上げました趣旨は大分何回もここで議論を重ね、そしてここにありますように意見の概要、各項目・各委員毎のまとめというのがまず手元に届いております。今日は先ほど、御議論をいただいて御了解を得ましたようなペーパーで、ここでまずここの部分についてはいろんな方の、外部の意見を伺いましょうというところまでは来たわけです。そうしますと、今度は何をとりまとめましょうかというときにはやはりそれぞれのご自分の今までの御発言の中から、これは是非、やはり第2トラックに位置付けて、そろそろ外部の意見を聞くことを事務局に詰めてもらう必要があるものではないかということの御意見を承りたいと思うのです。今日は最初の会議ではございませんので、水野委員は確かにこれ全部やりたいというお気持ちは私も十分に分かりますけれども、この段階になりまして今のステップになると、ではどれを自分としてはやはり取り組むべきなのか。例えば報奨金支給制度というものを是非取り上げろという御趣旨なのでしょうか。これはやるのに1回かかりますけれども。そういうものを重ねていったときに一体どういうことが起こるか、ということはもうそろそろよくお分かりのこと、時間的な問題もございますので、ですから水野委員としてはたとえばこの点については是非、これを取り上げるべきである。第2トラックで並行して取り上げるべきだという、そういう趣旨の御意見を承りたいと思います。それをお伺いしないままに、事務局の方で、事務局はこれが今大体一番大事ですということで、第2トラックのものを整理するわけには私は今までの検討会の審議の仕方からしてできないと思いますので、ご自分としてはいろいろ取り上げてもらいたいものは、あるいは国民の目から見て、これはどうしても取り上げるべきだと思う、全部取り上げるべきだと思うという場合でも、この点については是非、というようなことがあれば、それはこの場で意見の交換をし合いまして、そしてそれを第2トラックとして本当に集中的に議論して取り上げるかどうかという点は、また福井委員御指摘のようにしかるべき手続きをとっていきたいということにしたいと思っております。突然として、漏れているものは何ですかと聞いたので、今のような御質問が出たのかもしれません。それは私の司会不手際で失礼をしました。

【水野委員】ただ今日の資料6で意見の概要をまとめていただいております。この目次のところはフリートーキング参考資料の目次に合わせて、整理していただいている。つまり、この意見の概要に出ている項目について、我々は一生懸命議論しているわけなので、この中で、それぞれの項目について、たとえば報奨金支給制度についてはあまり賛成する人はいなかったから、これは外しましょうかということであれば、それはそれでいいと思うのです。だから、この中でどれとどれを次に議論してくれという立て方をされましても、これは全部ではないですかと言わざるを得ないです。何のために議論してきたかということになるわけで、この中で事務局がこの意見の概要を整理していただいたわけですから、この項目について、今日のたとえば資料2−2のような整理をしていただいて、そういった整理をこの意見の概要を基に整理していただいて、議論して、ここはこういう結論で行かざるを得ないとか、場合によれば多数決で決めないといけないこともあるかも分かりませんし、そういった形で、やはり一番最初に作った、いわゆるフリートーキング参考資料、それに基づいて議論してきて、そのまとめとして資料6があるわけですから、それはやはりずうっと追っていくというのは当然のことではないでしょうか。その議論をしていく中で、たとえばこれについては意見が一致していますから飛ばしましょうということがあってもいいと思うのです。

【市村委員】たくさんの論点がこれまで話題に上ったわけですけれども、検討会のこの検討に残された時間というのは相当迫ってきているのだろうと思います。その中で全部をやるということが可能かどうかということは段々、この時間の残りを見ていくと、難しい状況になっているのかなという認識を持っております。やはり第2トラックというのは結局、意見の隔たりがまだ解消できていないという部分です。そうするとそういうものについて、たとえば行政庁のヒアリングをするなり、パブリックコメントをかけるという場合に、どういう具体的なものというところまで持っていかずに、ただ賛成か反対か、どちらが多かったかという形で、そのままの形で、今のような手続きをするということはできないのだろうと思います。そういうことで、この前2つの仕分けをして、もっとそれができる程度のものに仕上げるものと、それから早くそれに乗せていけるものを選ぶ作業を分けましょうということになってきたわけですから、この中では少なくとも座長がおっしゃったことは優先順位というか、それぞれの希望がきっとあるでしょうから、優先順位を決めて、とにかくやりましょうというお考えではなかろうかと思うのです。現実問題としては、それは長い時間、何年かけてもいいという議論になれば、おっしゃるとおり網羅的にやればいいと思いますが、残された中ではやはり優先順位を決めながら、効率的な議論、確かに福井委員が御指摘のように、同じことを何度もやってもしょうがない、それはごもっともだと思います。ただ、具体的にしなければいけないというものはもう少し、この中で具体的にしていきましょうという作業を是非、やっていかなければならないのではないかと思います。

【塩野座長】はい、福井委員。

【福井(秀)委員】時間がないというのは理由に全くならないと思います。というのはあらかじめいつ頃までに何をしなければいけないというのは設置された段階から決まっているわけですから、設置された段階から決まっていることを今まで延々議論してきたわけで、その議論の中で優先順位を付ける必要がもしあったのであれば、一人5つづつ言えとか、10づつ言えとかということにして、最初から議論の無駄な時間を避けるのが適切な審議手続きだったわけです。やはり真面目に議論してきた問題について時間がないから絞れというのは、検討会としては全く正しくない判断だと思います。議論をして、ある程度、全員一致ではないけれども、煮詰まっている論点もあるでしょうし、概ねの方向については一致しているということがあるでしょうから、それはもちろん整理が必要だと思いますけれども、一定の整理をした上でやるのかやらないのかということを、各人ごとの優先順位ではなくて、議論として真面目にやってきたものについては全部、検討会として、合議体として決するということをやった上で成案に乗せるということはあまりにも当然のことではないでしょうか。時間がないから優先順位を付けて上の方だけやろうというのは、この検討会として決して取るべき態度ではないと思います。

【塩野座長】具体的にどういうふうな御提案ですか。

【福井(秀)委員】要するに、各人が今ここで私はこれは重要だということを出しても、もうそれは仕方がないと思います。各人プレゼンテーションは終っていると思うのです。もちろん念押しが必要であればそれはやっていただいてもいいと思いますけれども、まさに今回まとめていただいた論点について、要するにやるのかやらないのかということについて投票でもあるいは議決でも何でも結構ですけれども、何らかの形で採択する方向にするのかしないことにするのか、あるいは一致しているとか似ているものであれば、括った上で実現できるのかどうかということをできるだけ前広に検討していって、決する手続きに直ちに入った方がいいと思います。

【塩野座長】その決する手続きの資料はどういうふうにいたします。

【福井(秀)委員】それは事務局で作っていただくのが一番いいと思います。

【塩野座長】事務局としては作りようがないですね。今まで出してきた論点はこの目次のように並んでいるわけですから、このうち、どういうことを第2トラックとして最初に国民の意見を承るときに資料として出しましょうかというときにどれを取り上げるのか。

【福井(秀)委員】しかしそれができない事務局だったら、何のための事務局でしょうか。全員一致していること以外は事務局は作業できないということだったら、そんな事務局はあっても意味がないと思います。

【塩野座長】そこは私はそうは思わないですけれども。はい、どうぞ。

【小早川委員】あまり今のような議論をしていると、どんどん時間が経ちます。福井委員もおっしゃっていますけれども、やっぱり、整理することは意味のあることだと思いますから、多少時間があると思いますので、今までこういうことをたくさん議論しましたけれども、議論した中で本当に優先順位をどうするかということからすれば皆さんそれぞれ御意見があると思います。まずはそれを、私も含めて、何が大事かということを、改めて意見を徴されるのは意味があると思います。

【福井(良)委員】この論点の膨大な範囲の議論ですが、最初はなるべく広めに議論してきましたけれども、やはり時間との関係を考えたら、大変厳しい状況にあることは否定できません。そのときに論点を広げたものにつき、全ての採否を決めないと第2トラックが始まらないということになりますと、これは時間が足りないことになりますので、多分座長の御提案は、第2トラックに上げるものの順位がつけば、まず上げていって、場合によっては第3トラック、第4トラックがあってもいいわけですので、やはりそういう形にしないと、網羅的に今まで議論してきたものの採否を決めないと議論できないということは避けていただきたいと思います。

【塩野座長】という趣旨で申し上げているわけでございますけれども。なかなか難しいところで、事務局が先にやってしまうと事務局主導でけしからんという話を承って、結局は先ほど来の御指摘は私の司会に対する御批判かというふうに真摯に受け止めておりますけれど、弁明はいたしません。しかし私としてはできるだけ皆様の御意向に沿った形で運営してきてまいりたいと思いまして、そこでこれだけの論点を十分に拾っていただいたというわけでございます。しかし席上、何度も申し上げておりますように時間の問題もございます。そういうことで、この前の行政事件訴訟法、7年かけておりますが、今回はそれよりも数分の一の時間で成案を得なければならないという枠の中にありますので、その時間の関係というのは私やはり意味の持つものだと思っております。そこでこれ一々、一つ一つ全部つぶしていくのかということになり、この資料2的なものを作れということはそれはそれとして承りますけれども、しかしそれはやはり私は無理であると思います。これだけのものを作るのに大変な力、時間をかけて作っているものでございますので、私としては事務局にこれ以上負担をかけて、病人を出したくはございません。そういうことで、ここはやっぱりどうしても必要だという点については、自分としてはこれはやるべきだという御意見が承れ、それを事務局なりが整理するということはお引き受けいたしますが、今のこの段階で、これで福井委員、どうですか。

【福井(秀)委員】これをこと細かに一個づつの発言について、採否を問うということはもちろん有り得ない話だと思いますけれども、しかし折角まとめていただいた中でやはりそれぞれの項目ごとにいくつかの大括りの論点というのは必ず存在していると思うのです。排他性についてもそうですし、あるいは訴えの利益なり原告適格についても。今回の全員一致ではないけれども、随分建設的な議論で、かなりの程度基本方向が一致しているという論点は随分あると思うのです。そういったものについては、少なくともここまでであれば、たとえば全員一致で可能性があることかもしれない、あるいは大多数の方がこの辺りであれば落ち着きがあるかもしれないということについては、少なくとも一々繰り返しませんけれども、それぞれの委員がこれは重要だということで強調されたことについては議事録上明らかなわけですから、それを整理するのは事務局のやはり仕事だと思います。何もこれを逐一、全部法的な論点を洗い出す必要性は全くなくて、その大きな意味での論点は括っていただかないと、たとえば今、ここで優先順位を付けて言えと言われて、言い忘れたり、あるいは今時間がなくって整理できなかったものは、ではやりませんということではまずいということだと思います。

【塩野座長】そんなに私が言っていることは難しい話ではなくて、目次を第1から第3までずうっと見てまいりますと、大体拾われているのです。たとえば裁量処分については出ていないからこれは一体どうなのか、これは是非自分はやるべきだという御意見があればそれは承りますし、それから訴えの提起と請求の特定、これが自分としては非常に重要だと思うからこの場で議論すべきだという点があれば、それは御意見として承りますけれども、それに対してはややそれは少し専門過ぎだという御批判もあるかもしれません。そういう形での、それぐらいのご自分の今までの経験からして、これを落としたらやはりこの行政訴訟検討会は何をやっていたのだという点があれば是非、おっしゃっていただきたいと思って、先ほどから言っている次第でございます。

【福井(秀)委員】限定列挙ではなくて、今もう1回頭の整理をするという議論であれば別にやっていただいて結構だと思いますが、今言い忘れたら失権するのだとか、あるいは議論の対象にしないということはやめていただきたい。

【塩野座長】それは何回も言っております。

【福井(秀)委員】しかし時間の制約があるという前提で第2トラックを決めて、第3、第4があるわけがないということもこれも常識の帰結です。

【塩野座長】いえ、第3、第4のトラックに何を載せるかという問題もありますから。ですから今日言ったことはまだ実は、ではもう一遍繰り返しましょう。今日締め切りということにはなりません。

【水野委員】ですから、時間がないということからしても、それぞれが自分はこれを議論してもらいたい、自分はこれを議論してもらいたいということを出して、体系的ではなくて、あっち行ったりこっち行ったりやるような議論の仕方というのは非常に非効率的だと思うのです。ですから事務局主導とおっしゃるけれども、当初は何も我々検討会の委員が議論していないのに、する前から論点はこれだけですよということを事務局がやるのは、それはちょっと事務局越権ではないですかということは当初問題になったわけであって、今散々議論してきたわけです。それが事務局の努力でこういうふうにきちっと整理していただいたわけですから、自ずとこれを見ていけば、このテーマについては大体委員の方向性というのはこういう方向ではないでしょうか、といったことを事務局が言われる、それは誰も否定しないと思うのです。そういう形で議論をまとめていかなければ、いつまでたってもまとまったものは出来上がらないと思います。だから、今はその時期ではないでしょうか。ですから資料がないのだとおっしゃるけれども、今回の2から5までの資料というのはそういうような形で作っていただいているわけですから、確かに大変だと思いますが、そうやって一つづつつぶしていくというか、やっていかないと終らないのではないでしょうか。

【塩野座長】その点はまた事務局の方から異論あるかもしれませんが、私の方から申し上げさせていただきますと、これは意見の一致が見られているからこういうのができたのです。そうでないものも一杯あるのです。ですからその点については、先ほどから繰り返して申し上げておりますように、この段階で是非これはやった方がいいと、意見の一致は見ていないかもしれないが、とにかくこれは議論してほしいというのがあると思うのです。たとえば原告適格はまだ一致していないけれども、とにかく第2トラックで議論しないとおかしいではないかというのをおっしゃっていただきたいというふうに思っているわけです。つまり、意見の一致を見たのはこの第1トラックで一応出してありますので、意見の一致を見ていないけど、しかし第2トラックとして並行的に議論してほしいものは何でしょうかということを申し上げているわけでございます。ですから今日で別に限定列挙するわけではないので、とにかく自分はこれをやりたいということをおっしゃってください。おっしゃらなければ議論は進みません。

【松川事務局次長】今までの御発言の趣旨をお伺いしたいのですが、両面あって難しい問題なのですが、確かに、時間がないから十分な議論をしないわけにはいかないわけなので、十分な議論をするように努力をさせていただきたいと思いますが、事務局主導にならないのではないかという指摘の趣旨は、ある程度今までの議論のことを勘案した上で、事務局でたたき台として第2トラックの進め方について、こういうテーマでという提案はしてもいいのではないかという御趣旨でしょうか。その前提として言えば、この資料6の意見の概要について、この第1から逐一ということなると、これはまた議論の蒸し返しになる可能性がありますので、はなはだ効率的とは思いませんので、今までの議論の中でも、かなりこれだけは意見が対立しているにせよ、何が対立しているか、何が問題なのかということを幅広く国民に分かってもらう必要があるというのはあると思われますので、そういうことを中心に、ある程度細かい括りではなくて、ある程度大きな議論として分かる括りである程度括った上で、事務局の方で整理をしてやっていけという御趣旨なのでしょうか。ですから、そういうことであるならば、ある程度そういうことも考えさせていただきます。ただし、そうはいっても、事務局はやっぱり何らかのヒントをいただかないと、ある程度ニュアンスを出していただかないと、これは事務局主導と言われても、なかなかやりずらいので、これで意見出し漏れだから、後で取り上げないということは決してございませんので、またそれは意見を聞きますので、ある程度ヒントとなるものを大振りで結構ですので、ちょっと御議論いただければと、こういう趣旨なのですけれども。その上で、前提で今事務局でそんなものをまとめた上で、議論していくということであれば、そういう御趣旨であれば、そういう方向で考えさせていただきたいと、こういうふうに思っています。

【福井(秀)委員】今のような趣旨であれば、大きな意味での議論をした上で、後はある意味ではかなり細かい点も含めて明らかになっているものを一定の大局的観点で整理していただくことは誰も事務局主導などと非難しないということは、おそらく意見が一致していると思われますので、そういう前提として議論されるのであれば結構だと思います。

【塩野座長】私が舌足らずで申し訳なかったのですけれども、そういう趣旨で、御意見としてまず承って、それは本当に取り上げるかどうかはまた資料等を見て判断したいと思います。何かございますでしょうか。どうぞ。

【福井(秀)委員】補足ですが、要するにそういう意味で取り上げるべきかどうかについて、ここで多少ブレイン・ストーミングをして、少なくともそこで出たような論点については、今までどの説ないし、どの考え方とどの考え方について論点があったのかということについては、次回なりに整理していただいて、そこで取り上げるかどうかも含めて、もう少し突っ込んだ議論ができれば非常に効率的ではないかと思います。

【塩野座長】そういうことになります。どうも、はい、萩原委員。

【萩原委員】どの論点からということになるとなかなか難しいと思うのですが、元々の検討会の趣旨からして国民がアクセスしやすい、それから国民が利用しやすいということからすると、簡単な言葉で言うと、いわゆる門前払い構造をなくすということになると私は理解しているのですが、いろいろ今までの議論を聞いておりますと、なかなか本案審理に入る前に様々な色々な理由で持って、本案審理に入らない。そのときのいろいろ本案審理に乗せるのが適当ではないという理由のところに、いろいろ、類型が違うとか、裁量の問題だからダメだとか、あるいは原告適格の問題でダメだとか、訴えの利益がないとか、おそらくいくつかあると思いますので、アクセスということを考えたときに、そこに関係するようなことについて、だからどれを1番にということではなくて、あくまでも門前払い構造をなくすということからするとどれとどれをまず考えなければいけないのかということについてちょっと議論していただきたいと思います。

【塩野座長】それは私の理解では2つあると思うのです。つまり原告適格、出訴期間等の門前払いにするのは厳しすぎるのではないかという、そういう個別の問題があります。それから何も分からないで裁判所に来た人に、実はあなたの訴えはこういうふうにやればうまく行きますよとか、あなたの訴えはとにかく受け止めて、こちらの方で審理できるように綺麗に整理しましょうとか、そういった意味でのアクセスの便利さ、2つの問題があって、それぞれについて今まで御指摘もあったところだと思いますし、アクセスの重要性というのは萩原委員、芝原委員、成川委員等から常に御指摘がございますので、何らかの形でそれをどういう形で議論するかは今すぐにお答えできませんけれども、非常に重要な論点だとは思っております。

【市村委員】今の萩原委員に対する私の意見ですけれども、アクセスをどうするか、いわゆる門前払いにになぜなるかということを考えてみますと、たとえば出訴期間が切れている、正しい行政庁を被告にしなかった、それから訴えの利益が早期に消滅してしまう、そういうふうな諸々の原因があるわけです。そういう中で、たとえば、今回行政庁という被告、どれが行政庁か判別難しくて間違うということをやめましょうということで、被告を主体にしましょう、それから出訴期間も見直しをしましょう、あるいは出訴期間がありますよという教示をしましょう、それから訴えの利益について、仮の救済制度、たとえば執行停止を使いやすくして、意味がある期間というのを長くしましょう、みなそういう意味ではアクセスの拡大には繋がっていると思うのです。おそらく議論としては原告適格を広げましょうという議論もあると思うのです。ただそれは何でやったら効率がいいかというのはやっぱり全体の仕組みですから、今たとえばここが直ったときにそれでどうかという議論が必要だと思いますので、たとえば今のような整備をされた上で、あとさらになおどこが必要かという議論をする方が効率的かと思いますので、私はある程度固まりつつあるところと言うか、一致するところは今の萩原委員の御趣旨にも沿っていると思いますので、そういうことを固めつつ、後は何が足りないかという目配りをしながら、建設的な意見を出し合えばいいのではないかと思います。

【塩野座長】萩原委員のおっしゃりたいことはこういった視点を忘れるなということで、それを具体的にどういう形で取り上げていくかはいろいろ考え方はありますけれども、今の御指摘の視点は私は重要なポイントだと受け止めております。市村委員もその点は同じだと思います。どうぞ、小早川委員。

【小早川委員】中身的に、私が第2トラックでどういう議論をしたらいいのではないかと思っていることを申し上げたいと思います。今の門前払い構造の点で、確かに既にいろいろと手は着いていると思いますが、あと一つはやっぱり、ゾーニング型とか計画型の行政決定をどうやって訴訟に乗っけるべきか、どういうふうにしたら乗っかるのかという、その辺が、今の門前払い構造の観点で言えば、重要な論点としてあると思います。この分類で行けば、行政訴訟の対象という辺りになるのかと思います。ただ、これを議論していると、そういうものを対象にする訴訟は今の取消訴訟の考え方とは違うのでしょうかねということになってきて、では取消訴訟についてのコンセプトを少し変えないといけないということになるかもしれない。そこは議論していかないといけないと思いますが、この、対象の広がりの問題を全然論じないということになると、これまでの何十年の議論に照らして、一体この検討会は何だったのかということで、フラストレーションをただ増やすだけではないでしょうか。要は議論をしていただきたいというのが一つです。
 それからもう一つは、今のは間口ですが、入った後どこまで奥まで行けるのかという点で、やはり従来の議論との関係で、義務付け訴訟の問題というのは是非、議論していただきたいと思います。行訴法の3条の書き方から出発していろいろ長い間に堅苦しい殻ができてしまっているわけですので、その殻から脱皮して成長するには、やっぱり条文に手を付けるということは必要なわけで、この検討会としても、そういう意味で行政事件訴訟法の条文にどういう変更が可能かという形で議論していくべき、そういう種類の論点として、今のようなものがあるのだろうと思います。
 今度は、行政訴訟の類型と言った場合に、諸類型の中で取消訴訟に特別な地位を与える今の仕組みがいいのかどうかという点は、これも従来この検討会で非常に議論されてきましたけれども、ただここはなかなかどうも。今の議論ですと、時間がないかどうかというのはいろいろと認識の違いがあるかもしれませんが、しかるべきタイミングでこの検討会としての発信、提案をしなければいけないとすると、今の行訴法をこういうふうに変えたらというところまで果たして行けるのかなという気が、このごろしてきたわけであります。ただそれにしても、この議論は是非する必要がある。取消訴訟の排他性ないし、出訴期間付きの取消訴訟の利用強制という、そういう今の仕組みをどう評価するかということは、もちろん、なお議論していく必要があると思います。できれば検討会としての何らかの考え方は出すべきではないか。
 それに対して原告適格の問題というのは、今の、条文をどう取り替えたらという点からすると、非常に先行きの見えにくい話であります。私も、これも答えを出さないとこれまたフラストレーションの種になるのですが、どういうふうに進めていったらいいかよくわからないところです。私としては、正面切ったあれではないのですけれども、裏から、これも資料にも出ていますけれども、団体訴訟の問題について何か具体的な提案をする、それが、視野を広げてみれば原告適格問題そのものについても何らかのメッセージになる、というようなのも一つの方向だと思っております。ただ、今のこういう言い方はちょっと議論の先取りをしているのかもしれません。それが原告適格問題についてです。
 あともう一つ、やはり条文をどうするかという点で言えば、現行行訴法の30条の裁量処分の審査のあり方についての条文は、是非、変更の方向で考えていただきたい。これは第1トラックでは正面から出ていませんけれども、第2トラックで取り上げていただきたい問題であります。以上のあたりが中心かなというのが私の考えです。

【塩野座長】はい、どうぞ水野委員。

【水野委員】今回の行政訴訟制度の改革はまさに、今回基本的な見直しの考え方ということで一致したとおり、現在の行政訴訟制度が権利利益の侵害を受けた者の救済が実効的に保障されている制度になっていない、そういう制度に変える、こういうところが出発点だと、これは今日一致しているというところで確認されたわけです。そこで、一番大事な議論は、根本的に今の行政訴訟制度、つまり抗告訴訟制度というのがこのままでいいのかどうか、やはりそこのところを根本的に考えなければならないのではないか、そこの議論なのです。これは今小早川先生がおっしゃったとおり、いわゆる取消訴訟中心主義といったもの、あるいは公定力といったもの、そういったことをどう考えるかということで、私なんかはそういったものはなしにして、つまり確認訴訟という形でやるべきであるということを前から申し上げているわけでありまして、とりわけ民事訴訟との関係においても、民事訴訟でも行政訴訟でもそれぞれの要件に当たるのであれば、その要件で訴えができるというのが当たり前のことであって、こちらがやれるからこちらがやれないというのはこれは制度としてもおかしい、民事訴訟の関係もそういった形で整理すべきだと申し上げているのですけれども、そこの根本的なところの議論をそろそろ結論を出していかないと、なんとなく今まで議論をして、全部ぼやっとしているのですけれども、そこを変えるのか変えないのかということは委員の方々の御意見を基に結論を出していかざるを得ないのではないかというふうに思うのです。私はさっきのような意見を持っておりますが、たとえばそれが私1人の意見で、他の委員の先生方がそれに賛成でないと言われたら、それはそれで仕方がない。この検討会の結論としてはそうなるわけでありまして、逆のこともあるかもしれません。だから、そこのところをまず議論してもらいたい。もうそろそろ決めていこうではないかという気がいたします。

【塩野座長】どうもありがとうございました。はい、どうぞ芝池委員。

【芝池委員】私が議論していただきたいと思いますのは、今日の意見の概要の目次で言いますと、第3のところでありまして、その点では小早川委員の見解と一致するわけです。後は、気になりますのは仮の救済でありまして、第5になりますけれども、仮の救済というのは本案訴訟に付随するような形で存在するものであり、そこのところの手当てがきちんとできないと、たとえば義務付け訴訟というものを認めるということにつきましても、義務付け訴訟に実効性が発揮できないということになるわけです。そういう点で仮の救済は是非、議論をしていただきたい。ただこの仮の救済の問題というのはかなり技術的な問題でありまして、今回で細目まで全部詰め切れるかという、そういう問題はあるだろうと思います。ですから一般的に言いますと、ここでは大雑把な方向を出していただいて、何らかの形で作業グループを作って、技術的な詰めをする、そういう体制を作った方がいいのではないかと思います。
 それから水野先生の御意見なんですけれども、先ほどおっしゃいましたのは矮小化することになるかもしれないのですけれども、要するに取消訴訟の排他性の問題でしょうか。

【水野委員】ええ、そうですね。

【芝池委員】民事訴訟との関係ですね。

【水野委員】ええ、それもありますね。

【芝池委員】それもあると。

【塩野座長】どうもありがとうございました。仮の救済については事務局の整理では第1トラックで、今日ではなくて次の第1トラックということで、今日と大体同じ程度の資料ができていると思います。

【福井(秀)委員】今御提案のあった小早川委員、水野委員、芝池委員の指摘された論点、その方向性は全部賛成です。是非、取り上げていただきたいと思います。その上で若干、補足的なところで申し上げれば、排他性の問題はやはりこの検討会として何らかの結論は出さないといけないという点は私も非常に強く感じます。排他性について少なくとも、特に問題として象徴的なのは大阪空港判決のような事例でして、あのような案件について航空行政権という得体の知れない概念が出てきて、民事訴訟のほとんどの可能性が閉ざされるというような判決は少なくとも書けない条文を作る必要がある、ということは、排他性についての非常に重要な論点ではないかと思います。書き方について、昨日も小林さん始めと議論してなかなかうまい書き方がないなあという議論をして、それはそのとおりだと思うのですけれども、概念として申し上げれば、たとえば建築確認と民事の差し止め訴訟は併存するわけですから、これと大体空港の設置はパラレルだと思うのです。飛行機を飛ばしていいという免許があるからといって、騒音を出してもいいということにはならないというふうに考えればいいわけでありまして、何らかの意味での航空行政権の排他性なり、公定力というのは、その行為自体の覆滅を目指すような別の手段を用いることはできないのにすぎないというような内容を、確認的にでも書けば、過度の運用拡張は随分防げるのではないかということを考えています。ただ、ここは技術的な議論ですので、ここでは詳細は申し上げませんけれども、いずれにせよ大阪空港判決のような形にならないような排他性の縮減というのは是非とも検討会として結論を出していただきたいと思います。
 それから出訴期間についても、出訴期間はやはり2段階ないし長短、少なくともバリエーションが必要だと考えております。教示はもちろん重要なのですけれども、出訴期間で、たとえば相手方と行政庁との間の関係だけであれば、たとえば資料の散逸に着目して長めでいい、第三者や計画的多数当事者に関わるような領域では短めの方がいい、もちろんこれは何ヶ月、何年にするかはともかくとして、やはりバリエーションを設けた上で、最短については3ヶ月ではなくて、6ヶ月とか10ヶ月とか、もうちょっと長めにしておかないといくら何でもきつい、という辺りについても是非、議論の上、決していただければと考えております。
 それから裁量についても、30条の規定をあのまま残すことについては問題が多いというのは小早川先生も御指摘でございまして、できるだけそこで立法による裁量の統制という形が全うできるように、何らかの客観的な基準、客観的な行政の取り組み姿勢について、もう少しきっちり事後審査になじみやすいような基準を書く努力をしていった方がいいのではないかと思います。
 それからこれはおそらく予定されている資料にもあると思いますけれども、違法の確認とか義務付けとか、それから差止めとか、いわゆる無名抗告訴訟の領域に入るようなものについて、どのような要件の下に使えるのかということを前広にきっちり書いておいて、運用上問題がないようにしておくということも重要だと思いますし、またやはり小早川先生から指摘があったような計画とか、環境について、何という訴訟類型で争うかどうかはともかくとして、何らかの形で統制ができないのはおかしいということも是非取り上げていただきたいと考えております。
 通達や行政指導についても、これも計画とちょっと似たような側面があるかもしれませんけれども、熟度は低いけれども何らかの形で争えるという手段の対象として検討していただきたいと思います。
 原告適格ですけれども、これについては少なくとも今の最高裁の取る、法律上保護された利益説、は考え方はともかくとして運用上は極めて狭い運用になっていると思われますので、これについても基本的には拡大、拡大のときにはやはりその行為がもたらす具体的な権利侵害なり苦痛なりに応じて判断するということをもう少し条文上明らかにできれば、ということも課題にしていただければと考えております。
 それから仮の救済については、これは事務局でいろいろ資料を用意していただいていると思いますけれども、やはり迅速に、明日執行されるかもしれないというものについて、止めうる機会を与えるような制度でないと、本当の救済にならないので、仮の救済の仮というのはないわけですけれども、何らかの意味で早い決断ができるというような制度は是非、検討が必要ではないかと思います。併せて関連では内閣総理大臣の異議、行訴法27条ですけれども、これについてもある程度議論があったかと思いますが、要するに自治体が被告の訴訟でも内閣総理大臣が常に差止めができるというのはやはり異様な制度でありまして、これを廃止した上で、しかしたとえば執行停止については行政の方できちんとした抗告の制度を整備するといった代替措置を講じて廃止していくということも、是非考えていただきたいと思います。
 さらに事情判決ですけれども、これもたとえば選挙無効で使われるというような、本来制度が想定していない異常な適用例がなぜか最高裁でも確定しております。要するに代償措置のないような事情判決は本来書いてはいけないという当たり前のことももう少し条文上、手当てできないだろうかと思います。
 あと印紙代とか片面的敗訴者負担とか、それから報奨金という論点ですが、できるだけ負担軽減になるような措置も、どこまで取り入れるかはともかくとして是非、議論いただければと思います。
 最後に今のは主観訴訟の類型ですが、客観訴訟ないし規範統制訴訟としては納税者訴訟のようなものをやってはどうかと考えておりますが、これも納税者に留まらず、計画とか環境とか、適法性確保訴訟のような類型について、必要性が強いと認識されるに至っているようなものについては検討してはどうかと思います。さし当たり以上です。

【塩野座長】ありがとうございました。他に何かございますか。芝原委員何かございますか。

【芝原委員】先ほどの萩原委員に近いのですが、基本的に使いやすさ、実効性という観点から行くと、国民の目から見たら、やっぱりアクセス、入り口でどうか、それから実際のプロセスでどうか、それからコスト的にどうかと、こういう一つの大きな軸があるかと思います。入り口については、既に御意見が出ているような原告適格とか類型の問題が今非常に大きな問題だと思います。ここら辺が結果的に今回どうするのかという辺りの整理がいるのではないかと思います。
 もう一つはプロセスの問題で、このプロセスが実は入り口以上に結果として、国民には心理的にプロセスが非常に硬直的で時間が掛かるとか、いろんな意味で使いにくい、あるいは実効性がどうもないのではないかという印象を持たせている可能性もあるので、そこら辺りに手当てが今回できるか、あるいは既に議論されていることをそういう目で見たときに結果としてどうなるのか。そういう意味では、たとえば行政については行政裁量がかなり、ある意味では実体としてあることに対して、司法裁量がどこまであり得るのか、それに対して、その意味でこの資料にもありますような仮の救済というのが一種の司法裁量に近いのではないか。そういう観点に立てば、もっとしなやかな司法ができるのではないか、司法プロセスが取れるのではないか、そういう観点で行けば少し違ってくるのかなとちょっと感じがしておりまして、是非そういう目で仮の救済をもう少し技術的にうまく組み立てられないか。それとしなやかなさという意味では適法性のコントロール、予防的措置の辺りをどこで仕組みとしてできるか。この辺がもう少しあってもいいのではないかという感じがしております。いずれにしてもその辺のしなやかさ、迅速さはおそらく裁判の判決、あるいは裁判所、あるいは裁判の判決の持つ信用の問題とそれからリスク回避、多分いろんな微妙なところで司法を縛っているかと思うのですが、そこら辺のバランスを考えて、この辺のプロセスのしなやかさをどういう形で担保しうるのかというのは気になっているところです。
 それからあと1点言えば、訴訟遂行能力の問題でして、個人で組織に対抗できるか、被告に対する。そういう意味で原告適格、あるいは類型の問題に入るかもしれませんけれども、そちらの観点から団体訴訟的なものがあってもいいのではないかということで、団体訴訟というものが原告適格、類型だけの問題ではなくて、私としては訴訟遂行能力のパワーアップという意味であってもいいのかなという感じがしておりまして、そういう目でも見てほしいかなという感じがしております。

【塩野座長】どうも貴重な視点の御指摘いただきまして、ありがとうございました。成川委員、何かありますでしょうか。

【成川委員】大体皆さんと同じ関心で見ております。パブリックコメントにかけるという意味で言うと、やはりこの行政訴訟に対して国民がどういうふうに見ており、それに対してこの検討会がどう答えていくのか、こういう視点にもなると思うので、この間の第1回のパブリックコメントで出ているような皆さんの意見で出ているような論点について、この検討会で検討した中身については、やはりこの第2トラックのところで、しっかり答えて、意見の違いはあるとしても、こちらでしっかり検討して、こういう意見の分布と言いますか、結論があったというふうなところはやはり出していくべきではないかと思っております。皆さんが出した大体の論点は、ほぼそういう点で私としては賛成であります。ただ時間もあまり気にするなということもあるのですが、比較的パブリックコメントでは費用などの面についても関心を持っている方がかなりおられるので、私の印象としてはあまり十分に議論がされなかったという点があるのですが、今後もし余裕があればこの辺についてもやって、検討会としてのパブリックコメントを出すことが必要だと思っております。

【塩野座長】どうもありがとうございました。深山委員、この段階で何かありますか。

【深山委員】もうお腹が一杯になるぐらいたくさんの論点の指摘があって、事務当局の立場を考えると、これに加えてというつもりはありませんけれども、およそ重要だと一般に言われているものは全て挙げられたのではないでしょうか。ただ、論理的な関係でポツポツとやれないという話が多々ございます。特に水野委員が言われた民事訴訟との関係、取消訴訟の排他性の問題について、日弁連は既に我々もいただいておりますし、検討会でも示されていますが、あういう考え方をとるのかとらないのかということは、私自身は必ずしも賛成しないところはあるのですが、その包括的な訴訟類型を設けるというようなことを考えたときに現行法では処分でないものについても、統制をする、あるいは是正のための訴訟手続を設けていくという手段をとる前提としては、民事訴訟と取消訴訟との関係についての議論はやっぱりどこか早い時期に議論をする必要があるのではないでしょうか。それで、皆さんの概ねの方向が、それはなかなか核心的なのだけれども難しいのであったら、では予備的主張はもちろんおありなんでしょうし、そちらの方を是非、聞かせていただきたいなと。私自身はそこはなかなか難しいと思いますので、別の形で今抜けている救済類型を法制化する方がいいと思っておりますので、その辺りの論理的な順序は事務局にお任せいたしますが、機械的に前の方からというのではなくて、やはり最初にある程度ここで大きく分かれるかなというところを早い時期にやった方がいいかなと思います。

【塩野座長】市村委員、何かありますか。

【市村委員】今までの改革論議に手が付く前に、権利の実効性確保に何が有益かという議論としてしきりにされていたのは、無名抗告訴訟をもっと使いましょう、制度があるのにほとんど使っていないではないですか、という指摘があったのです。私どもの頭の中では、もう少し要件がきちっと皆で合意できてていけば、かなり使えるのかなと思いつつも、ただ非常に茫漠としているものですから、なかなか使えなかったというのがあるわけです。もし権利の侵害を受けた者の救済の実効的な保障というものに何か使えるかということを考えるとしたら、まずそこら辺をどういうふうに整備していくか、というところに頭が行ってしまうのです。もちろんそれで出来るのかどうか、要件ができるのかどうかというところはまだ私も全然わかりません。ただ、割合今までの議論があるところですので手を付けやすくうまくいけば実効的な保障というのに役立つのではないかと思われますので、私は、実現できる見込みがありそうな、この辺からやってはどうかという提言をしたいと思います。

【塩野座長】どうもありがとうございました。実は前回アナウンスメントをいたしまして、そのときに今の作為・不作為の給付の問題、それから確認の問題については第2トラックの頭出しとして、今日多少の御議論はいただきたいということでここに用意はしてございますので、早速今の市村委員のご要望にお答えするということになろうかと思います。
 なお、今日で締め切るわけではございませんが、ただ皆様方の御意見を伺っておりますと、大体事務局でも整理できるのではないかというふうに思いました。

【松川事務局次長】ただちょっと申し上げておきますが、次回に全てというわけにはいきませんので、先ほどの論理的な順序ということも勘案しつつ、できるだけ効率的に御議論ができるように順序を追ってやっていきたいと思います。

【塩野座長】次回に今日の2−1までのような資料が出てくるということではなくて、第2トラックとして、どの点をちきんと取り上げましょうという整理はできるのではないかと思いました。後は事務局の方でどこまで準備ができるかということだと思います。
 そこで大分時間が押してまいりましたので、ちょっと私の司会の不手際がございましたが、休み時間を5分ほどいただきます。3時20分から再開するということにしたいと思います。よろしくお願いいたします。

(休  憩)

【塩野座長】それでは時間がまいりましたので、会議を再開させていただきます。そこで今までで第2トラックでどういった項目があるかについて、いろいろ御指摘をいただきまして、先ほど申しましたように事務局において整理して、濃淡いろいろあると思いますけれども、次回の会議に出させていただきたいと思います。
 それから第2トラックのトップバッターとして、時間の許す限り今日は「作為・不作為の給付を求める訴え、確認の訴え」についても資料を用意しておりますので、御検討を行っていただければと思います。
 そこで次に「検討の方向性が概ね一致していると思われる事項」のうち、第2の「具体的な見直しの考え方」のうち、行政訴訟を利用しやすくするための諸制度と申しますか、それについて、各論点について検討を進めていただきたいと思います。「被告適格者の見直し」、「行政訴訟の管轄裁判所の拡大」、「出訴期間等の教示」でございます。これらについて順次検討をお願いしたいと思います。事務局から資料の説明をお願いいたします。どうぞ。

【村田企画官】まず資料の2−1を御覧ください。「国及び公共団体への被告の一元化の具体的な制度内容の案及びこれに関連して派生する問題の項目」と書いたものが2−1です。被告適格を有する者の見直しにつきましては資料が2つお出ししております。今申しました2−1とそれから若干、詳しいと申しますか、細かく書いたものが2−2でございます。2−1の方は見直しの具体的な内容を簡潔に記載しますとともに、見直しに関連して派生する問題の項目だけを拾い上げたものでございまして、2−2といいます方は関連して派生する問題について、行政事件訴訟法の条文に必然的に影響が出る可能性があるというような条文について、論理上どういう見直しが必要となる可能性があるかを検討した資料ということでございます。
 まず資料2−1の方でございますが、見直しの具体的な内容として記載いたしました。基本的には「取消訴訟は、当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体を被告として提起しなければならないものとする」ということでございます。この点については先ほど芝池委員から御意見がございまして、事務の帰属するという形がよいのか、その行政庁の行政機関が帰属するという国又は公共団体の方がよろしいのか、そこはさらに検討しなければならない問題であろうと思います。そうした解釈の幅を含め、文言が適切かという点についてはさらに検討が必要と思われます。なお補足として申し上げますと、芝池委員から御発言がございましたように行政機関が帰属するという形にした場合に、仮にかつてありました機関委任事務のようなものがある場合には国の事務であっても、処分した行政庁の帰属する地方公共団体の方が被告になるということになるのだろうと思いますけれども、そうなりますとこれまでの整理とは異なった結論になるかと思いますので、そのどちらがよいかといったことの判断を要することになるかと思います。
 それから関連して派生する問題のうち、行政事件訴訟法の条文については2−2の方に譲ってありますので、この2−1の関係では一番下から裏にかけて記載しております「その他の法律で、検討が必要と思われるもの」について若干御説明いたしたいと思います。裏の方を見ていただきますと、(1)としてまず「行政不服審査法の規定の整備の要否」を挙げてございます。これについては被告適格を有する者を見直した場合に論理必然的に生ずる問題ということでは必ずしもないかとは思いますが、被告適格を有する者を見直すことによって、かえって行政不服審査法との関係で誤りを誘発することにはならないだろうかという観点から、この見直しについての必要性の御意見もあったところでございます。これに対しては先ほど福井(良)委員から御指摘のあったところで、それによりますと、行政不服審査法は、処分をした処分庁に対する異議申立てというものとそれから上級庁に対する審査請求を相手方によって区別をしていますので、そういう構造上の問題もあり、なかなか被告適格ほど簡単な問題ではないのかなという感じもいたしております。
 それから行政庁を当事者とする訴訟というような形の言葉が、国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律の規定にもございますので、こちらにもどういう影響が及ぶかは検討が必要になろうかと思います。
 その他、先ほど市村委員から御指摘もございましたが、個別法で特定の行政庁を被告として定めている法令というのがあるかと思います。一例を挙げますと、たとえば特許法の179条では特許庁がした決定ですとか審決など、そういったものに対して、そういうふうに判断したのは特許庁なのですけれども、被告としては特許庁長官を被告とするといった制度がございますし、同じようなものが海難審判法54条でも、高等海難審判庁がした判断に対して、被告としては高等海難審判庁長官を被告とするといった個別に定めている例がございます。こういったものをどのように扱うか、わざわざそういう別の行政庁を定めている趣旨からして、どういったふうに見直しがいるのかいらないのかといったところは個別の法律の趣旨に関わって検討が必要であろうと思われます。
 それから最後に記載しておりますのは、訴訟手続上、処分をした、あるいは処分をすべきものとされる行政庁を特定するための方策を講ずる必要はないか、という点でございますけれども、これは処分庁自体の特定の要否、必要性が審理の上であるかないかという問題もございましょうし、別の観点から申しますと、審理の対象と考えられるような処分自体を特定する要素として、関係した行政庁、処分をした行政庁はどうかといったことが問題になってくることもあろうかと思います。そういった観点から、何かしら方策が必要なのか、必要でないのか。こういった辺りも問題になってかというところで挙げてございます。2−1の関係はそういったところでございます。
 資料2−2の関係でございますが、これは先ほど御指摘になられました技術的な、という記載がございます。これは内容的には先ほど申し上げましたとおり、被告適格を有する者を見直した場合に論理的に影響が及びそうな条文というのはどんなものがあるだろうかということで、その範囲内での検討をしたものでございます。たとえば同じ被告適格を有する者について定める11条でも現行法の規定では1項のただし書にこういった規定がございまして、2項ただし書ですと、処分、裁決をした後にその権限が他の行政庁に移った場合に誰を被告とすべきかといったような問題でございます。あるいは11条2項ですと、処分または裁決をした行政庁が後でなくなってしまったときには誰を被告にしたらいいかという、こういった問題がございますけれども、被告適格を今、その事務の帰属する国又は公共団体ということにするのであれば、こういった点については条文上の手当てはいらなくなるのではないかということで、一応の考え方を示しているところであります。なお、この資料では今申し上げたような形で、一つの論理を辿っていくと、何らかの改正が必要になりそうだなと思われるところについては二重線のアンダーラインを引いているということになっております。
 それから先ほどの御意見の中でも御指摘がございましたが、国や地方公共団体以外に被告となるものがどういう範囲か、どういうふうに考えられるのかということでございまして、これについては2頁から3頁にかけて記載しております独立行政法人ですとか様々なものがあり得るわけです。これについては今でも処分をする行政庁というのはどういうところかということで、解釈もされておりますし、判例もございます。それと同じような考え方を辿っていくのではないかということで記載してございます。
 それから管轄は別途、管轄の資料に基づいて御説明をしたいと思います。
 なお、この資料は申し上げておりますように、論理的な必然性に重点に置いて検討したものでございますので、それだけのものでしかないと言いますか、別途の観点から、この際、条文を別の角度から見直すべきだといったことも御意見としてはあろうかと思います。その場合にはその旨の御意見を是非、いただきたいと思うところでございます。また、論理上から見ても、ここはちょっとこう書いているけれども、検討がちょっと足りないではないかとか、こうも考えられるではないかという点もあろうかと思いますので、そういった点でお気づきのところがあれば是非、御指摘をいただきたいと思います。ただ若干事務局としても、なかなか難しいなと思っている点を1、2点挙げさせていただきますと、4頁から5頁にかけて、15条の関係を挙げております。被告を誤った訴えの救済のところでございますが、これについては民事訴訟の原則と異なって、行政庁という一機関を被告とする制度を置いたがための複雑なものに対応した規定だと考えますと、被告適格を有する者を改めると、こういった救済は必ずしも必要ではないのではないかという考え方も成り立つところですし、他方でこれが出訴期間の制約があるがために救済をしてあげようという制度だというところに重きを置きますと、やはり救済の必要があるのではないかという考え方も成り立つところで、それをどういったところで調和を取っていくかというところではなかなか教示の制度の関係も含めて、全体的な制度の必要性をもう一度吟味する必要があるのではないかというように思っております。
 また、8頁のところで判決の拘束力、33条の関係も記載してございます。これは一応それなりの手当てが必要ではないかということで記載をしておりますが、これはそもそもこの判決の拘束力と言いますものが一般に民事訴訟で言われておりますような判決の既判力といった効力と、どう違うのかといった辺りから、実は見解が分かれ得るところだろうと思います。そういったことも含めて、どういった単位、つまり行政庁単位で拘束力を及ぼすのか、あるいは国又は公共団体といった行政主体と言われますような単位で拘束力を及ぼす方がいいのか、この辺は単に論理的な問題だけでは決まらない面があるのかもしれません。さらに検討を要するところもあるのかなというように感じております。
 それから先ほども御指摘がございました民衆訴訟あるいは機関訴訟の場合、客観訴訟の場合にどういうふうに規定を整備するかということも一応記載をしてございますけれども、民衆訴訟の場合には地方自治法で、あえてやはり被告を行政機関として定めている例がございます。これについては、個別法でそうしているものを今回の見直しの際にはどちらに寄せて考えるべきかということは別途の検討が必要でしょうし、機関訴訟は本来、機関と機関の争いですので、それを行政主体という形で統一するのが良いのか悪いのか、ここら辺もなかなか判断を要する問題ではないかと思っております。大体大きな問題としては以上のところかと思います。被告適格の見直しの関係では以上でございます。

【塩野座長】どうもありがとうございました。今のところについては、今日大体全部そうなのですけれども、先ほどの萩原委員の御指摘で言えば、アクセスの容易さの視点に立って、全体ではございませんけれども、その一部分を抜き書きしていると、そういうふうに御理解をいただければと思います。以上の説明を前提といたしまして、どうぞ御議論をいただきたいと思います。

【市村委員】先ほどのことと実は同じことなのですが、議論の大前提として、行政訴訟の全てに被告を行政主体で統一するという方向を出すのか、そうでなくて個別法の具合を見ながら、個別法の立法者に任せていくのか、それによって大きく違ってきます。後者であれば行政事件訴訟法は両方に対応できるように訴訟法なければいけないわけですから、そこはかなり大きな仕組みの違いになってくると思います。これは早いところでどうするのか、どうできるのかも含めて検討しておく必要があるのではなかろうかと思います。とりあえずその点だけです。

【塩野座長】はい、どうぞ福井委員。

【福井(秀)委員】今の御指摘にも関連するのですが、ちょっと基本的な質問なのですけれども、行政主体に被告を改める場合に、個別実体法の中で処分権限は今は行政庁が保有するように書いてあるわけですけれども、そっちはそのままにするという前提の議論ですか。

【村田企画官】ここで作ってあります資料は、そういう、今申し上げたような前提で行政庁が処分をするといった構造は変えないで、単に訴訟の場面において被告と名指しするものを国又は公共団体とするとしたら、その関係で最低限手当てがいるだろうかと、その範囲の検討でございます。

【福井(秀)委員】そうしますと、元々のこの議論の出発点というか、心は、原告に被告を特定する紛らわしさの負担を強いるべきではない、というところから出発していたはずですから、実はかえってややこしくなるかもしれないという可能性がないかという心配をします。と言いますのは、たとえば農林水産大臣から何らかの許認可を受けたと、それを争うときには農林水産大臣を被告と書いてはいけないということになると、あえて国と書かないといけない。処分庁ではない、これは国なんだっけ、何とか公団なんだっけ、何とか公共団体なんだっけ、ということを忖度して書かないといけないということにもしなるとしたら、これはかえってややこしい。特に名宛人に関する限りはむしろ処分庁そのものを訴えた方がかえって楽だということになりかねない。第三者効のようなものはともかくとしてそういうことがありますので、原点は被告の紛らわしさに関する間違いを防ぐということだとすると、かえって選ばないといけなくなるという事態が発生するのは避けた方がいいという意見です。

【小林参事官】被告を誰にするかということと、その表示をどういうふうにするかというのはその表示を国を被告としたものと認めるという方法もありますので、どこまで受け付ける裁判所の方でサービスをするかということで対応できる問題でもあろうかと思います。ですから、まず被告がそもそも違うということになると、手続上複雑になりますので、被告は一つとした上で、後はその表示方法をどうしたらいいかという今の御提案だというふうに受け止めて、その辺どんな工夫ができるか、どんなサービスができるか、当事者の使いやすさという観点から検討していきたいと思います。

【福井(秀)委員】まったくおっしゃるとおりで、表示上、被告が国になったとしても、表示が行政庁であったときに無下に蹴飛ばすということではなくて、そういうのは当然に適法にしてあげるという配慮を是非していただければと思います。

【市村委員】その辺り、そうすると、裁判所が、今言われている行政庁がどこに帰属するのか、これを探さないといけないことになるのですか。

【水野委員】探すというのは。

【市村委員】なかなか細かい機関であれば、こちらもどこだったという。

【水野委員】裁判所が分からないようなものは。

【市村委員】ただちょっと申し上げておきたいのは、相手方を特定する責任はやはり今の当事者訴訟構造の中では、本来的には原告が負っています。この前提をとって、違ったときの救済をどうしてあげるかという視点で考えさせていただかないと、そこだけ少しバランスが悪くなるのではないかと思って、申し上げた次第です。
 もう一つ大きい問題として、先ほどの事務の帰属する国又は公共団体、この解釈ですが、現在では権限の異動があったときによく問題になることがあります。それをどうするかという問題と、この帰属するという意味は現行と同じように現に帰属するというふうに理解すればよろしいでしょうね。

【村田企画官】そういう趣旨で記載しております。中でちょっとひょっとして齟齬があるところもあるかもしれませんが。

【市村委員】3頁の、これはいいのですけれども、後で土地管轄の関係の辺りで行くと、裁決をした行政庁の所在地にできると、「した」というところがあるので、そこで少しずれが出てきてしまうような気がしたので、後で御説明いただければと思います。
 それから、国又は公共団体というふうなことで、大原則はほとんどこれだから問題ないと思うのですけれども、先ほど独立行政法人ならまだ法人だから、この中に飲み込んでいける、読み込めるかなと思うのですけれども、たとえば細かな話で恐縮ですけれども、建築基準法の77条の25というところで、指定検査機関というものが建築確認をするというふうになっていまして、この建築確認については処分かどうかはいろいろ議論があるかもしれませんが、一応審査請求ができ、訴訟もできるという構造になっていると思います。ところがこの指定検査機関というのは必ずしも法人でなくてもいいようです。そういうことを念頭に置きますと、団体という言葉でもちょっと引っ掛かってこないものがあるかもしれませんので、その辺りは検討いただいて、大体国又は公共団体だと思いますが、団体以外のいわゆるみなし公務員の行う処分のようなもの、これが拾えるような形で整理することは必要かなと思います。

【塩野座長】他にございますか。はい、どうぞ。

【小早川委員】一つは、今市村委員から御指摘のあったのは、行政庁の所在地で管轄を決めるという場合の、事務権限の異動の話ですが、被告そのものについても、地方分権で事務が移りますので、国の事務としてやった処分が訴訟のときには県の事務に移っていることがあり得る。それも含めて条文をお考えいただくのだろうというのが一つです。
  それから、行政主体、法人を丸ごと被告とするというのであれば、アイデアとしては今の原処分主義をやめてしまうということもあり得る。処分と裁決は大体同じ法人の中でされるということであれば、ひっくるめて訴訟の対象にしてしまえということもあり得るかと思うのです。そうしますと、裁決固有の瑕疵で原処分取消しということになるのかとか、いろいろ法律職人的にはおもしろい問題が出てきてしまうのですが、ただ、利用する側からすれば、そんな細かいところで勝ち負けを決めるよりは、対象となる処分の記載を間違えたために変なところに連れ込まれてしまって勝てないというようなことはやっぱりまずい。ちょっとそこは、これから検討に値する問題ではないかと思います。

【市村委員】たびたびで申し訳ありませんが、今の関連になりますので、実はもしこういうふうになったときに懸念されると思うのは、今おっしゃられたようにまさに裁決の原処分という区分けが今は主体が、被告が違うということでしっかり仕切りされる。ところが、被告が同じ主体に入ってきますと、とにかくそれは同じでないのではないかという話が出てくる。ある意味救済の方法としては、その点、そういうものはくっ付けてもいいじゃないかというのは一つの考え方としてあると思うのですが、一方で訴訟というのはできるだけ迅速に判断しなさいということになりますと、対象は本当に絞られて、きちっと本当の不満があるところに絞られている必要がある、余分なものは見ないという形でないと、これは迅速化の方では非常に障害になると思うのです。私は、今回の改革では主体が難しいというところから出発して、こういうことになったのではあるけれども、同じ主体に属する、たとえば連続的なものはそこは区別せず、1個でやっていいとか、あるいは裁決と原処分とを全部出てくればみんな審理の対象にするとか、そこら辺はそんなにルーズにすべきでないし、マイナスの面もよく考える必要があると思います。やはり処分の単位で考える、というこの構造は、基本的には維持していただいて、その範囲であとどのように拡大をすべきかという形を是非、仕組んでいただきたいと思います。

【塩野座長】他に何かございますか。この点についてはまだ専門的にはいろいろ御意見があろうかと思いますけれども、技術的な問題がありますけれども、これは事務局で法制的な検討を進めてもらいまして、行政官庁の意見あるいは国民皆様の御意見を聞いた上で、特に個別法に関わる点については所管庁の意向も聞きながら、検討していただきたいと思います。それは検討会にも適宜報告をしていただくという格好になろうかと思います。被告適格について、まだ次回もございますので。はい、福井委員。

【福井(秀)委員】資料2−2の5頁にも指摘がありますけれども、被告を誤った訴えの救済なのですが、今までの判例上大変厳しいと認識しておりまして、今度、先ほど御指摘した論点とも関わりますけれども、行政庁と行政主体の間で多少何らかのミスがあった場合があり得る、むしろ増えるかもしれませんので、この15条の救済の可能性が今ぐらいの程度であるというのだとするとちょっと狭すぎるのではないかという気がします。15条自体をやはりある程度見直して、多少選択の余地が広がったことに伴う救済手段として、誤った場合についてもできるだけ救済しやすいように手当てをした方がいいと思います。

【塩野座長】どうぞ、水野委員。

【水野委員】冒頭に小早川先生、市村先生の問題提起があった点ですけれども、そして今、座長が個別官庁の御意見を聞いてとおっしゃいました。今のいろんな規定は個別法に定められている、誰を訴えるかという。たとえば国税通則法の中にも税金の関係の規定があります。これはやはり今の行政事件訴訟法が行政庁を被告とすることを前提で、それを受けて作っているわけですから、特にその制度、根本的な制度を変えるときに個別法でこれだけはどうしても行政庁を被告としてもらわないと困るのだというケースというのはまずないと思うのです。ですから、やはり個別法も当然それにならって、右に倣えで主体を変えてもらうということでいいのではないかと思いますし、むしろ国に変えれば、今まで個別法でどこを訴えるか、高等海難審判所長ですか、先ほど例が出されましたけれども、それを訴えるのか、高等海難審判所を訴えるのかという、そういう議論はなくなるわけで、ですからむしろ個別法の手当てが要らなくなるのではないかと思いますから、今そういう個別法のことも含めて、当然変えるという前提で考えていってほしいと思います。

【深山委員】同じ論点ですが、私も当然単純に考えていましたので、行訴法で主体が被告になれば、個別法の行政庁を前提とする訴え提起に関する規定は全部関連整備で、一斉に変わると、そうなるものだと思っておりました。ただ客観訴訟は別です。民衆訴訟や機関訴訟というところは一つ一つ手作りのところがありますので、これはこれで、住民訴訟もいわば自己完結的な手続きになっていますので、それはそういう形で主体を被告としないという選択肢をどうしても取りたいと言っている要請があったのであれば、それはそれで分かるのですけれども、一般の抗告訴訟については全部自動的に関連整備として、あと変えられてしまうと。ただどうしても何かある処分については、こうしたいということがあれば、それは自分のところで手続法を作ってくださいと。特則を住民訴訟に書いてください、その特別な手続き、行訴に倣わない手続きなら、そうした旨、被告適格者を維持しなければ、何かいろいろ問題があるというものは考え難いのですが、どうしてもと言われたら、そういうことになるだけではないかなと思っております。

【市村委員】15条の問題なのですけれども、たとえば今嫡出否認の訴えだとか、認知の訴えだとかあるいは取締役会決議取消しの訴えだとか、これはみんな出訴期間はありますが、出訴期間の救済の規定というのは特には設けられておりません。民訴一般原則だけです。そういうものと比べて、この改正後の行訴の出訴期間の働きがどうかということは一応検討する必要があるのかなと思うのです。ですから、確かに行政主体を書くべきときに行政庁と今までどおりに表示してしまった、それは何らかの救済をする必要がある、そのレベルでは何らかの救済をする必要があると思うのですが、出訴期間の面で今までの他の法規、民事関係法規と比べて、行政の方が今度は特異性を持つのだろうかということは一応、根本的なゼロのところから考えて議論した方がいいのではないかと思います。ここでそんなところまで詰めて議論できるかどうかは別です。

【塩野座長】出訴期間はまた別の機会にしたいと思います。どうもありがとうございました。そこで、私もヒアリングするときに行政官庁の方で思い違いしていると困るので、そこはある程度こちらの方のスタンスを明確にしておいた方がいいのかなと、つまり私も深山委員と同じような割合単純な考えをして、これは整備法の話かなと。ほっといたら、どうにもなりませんから、整備法の話かなというふうに思っておりまして、ですからそういったニュアンスを出したような形で聞かないと、自分のところは今までどおりだなと思われるとかえって困りますので、そこのニュアンスは少し明確に出すようにした方が私はいいのではないかと思いますが、市村委員そこはどうですか。

【市村委員】それで方向性はいいと思います。ただ地方自治法を考えてみますと、機関が被告になった場合に、たとえば相反のときに相反者を排除する規定とか諸々ございますので、かなりその辺りは大きくいじることになって、各省庁大変なのではないだろうか、準備が。ただそれがばらばらの制度を持っていると、もう余計混乱しますので、できるなら全部統一していければと思います。

【塩野座長】どうもありがとうございました。それでは時間の関係もありますので、先の方に進ませていただきたいと思います。
 そこで次に管轄の問題になります。事務局から資料の説明をお願いいたします。

【村田企画官】資料の3でございます。「管轄の拡大についての主な論点」ということで1枚の表裏の資料でございます。先に現行の条文を記載しておりますけれども、現在は「行政庁を被告とする取消訴訟は、その行政庁の所在地の裁判所の管轄に属する」、これを原則とした上で、2項、3項で例外規定を設けておりまして、2項の方では「不動産又は特定の場所に係る処分又は裁決についての取消訴訟は、その不動産又は場所の所在地の裁判所にも、提起することができる」とプラスアルファをしております。3項はさらに「事案の処理に当たつた下級行政機関の所在地の裁判所にも、提起することができる」とこれもまたプラスアルファの規定を置いております。
 まず1として記載しておりますのは、今御議論いただきました被告適格を行政庁から国又は公共団体と改めた場合に現行法の管轄の範囲を少なくとも狭めるようなことはしてはいけないのではないかという御意見は既にいただいていますので、最低限それに見合った手当ては必要だろうと。その範囲内だけで変えることになった場合には(1)、(2)と書いてありますような2つぐらいの方向があるかなというところでございます。ただむしろここで管轄の問題として議論していただくべきところは現行の規定よりも管轄の範囲を拡大すべきだと、その場合にどの範囲でさらにどのように拡大すべきかというところがこの場での問題ということになろうかと思います。なお、被告適格を見直した場合に伴う管轄の見直しの仕方の条文的な表現について、先ほど市村委員から御指摘のあった、現に事務の帰属するというところと平仄が合っていないのではないかというところについてはもう少し事務局の方で検討させていただきたいと思います。
 2の方に移らせていただきますけれども、土地管轄を拡大する範囲のところでございますが、これについてはいくつかの考え方を提示していただいているところだと思いますけれども、大きく大別いたしますと(1)と(2)という2つの考え方に大別できるのではないかと思って記載したものでございます。(1)の方は原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも提起することができることとする考え方、すなわち個人の場合ですと原告の住所地がありまして、それを管轄している高裁単位で考えよう。全国を8つのブロックに分けて、高等裁判所の管轄の範囲内でもって、管轄を拡大しようというものであります。
 (2)の方は原告の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所にも提起することができることとする考え方、個人の場合ですと、原告の住所地を管轄する地裁のところにも訴えを起こせるようにプラスアルファの管轄を考えたらどうかということでございます。管轄の拡大について御検討いただく際には既に御検討を一度していただいたときに最高裁から現在、原告の住所地で行われている事件、そうではない事件について、どのようなデータになっているかの御紹介をいただきました。またその際に地理的に離れているということの不便さを解消するための一つの手立てとして、審理の仕方において電話会議システムですとか、テレビ会議システム、こういったものを実際に使っているという御紹介もあったところですので、そういった実際の審理手続上の工夫というものも併せて管轄の拡大についてはどのように考えるべきかをお考えいただきたいというように思うところでございます。
 それから3に記載しております論点は、行政訴訟の場合には様々な被告があり得るわけですけれども、この被告を問わず一律に同じような拡大の仕方をしてよろしいかどうかという問題点でございます。2の方の(1)、(2)の高裁単位か、地裁単位かといういずれの考え方を取る場合にも、その問題は生ずるのではないかと思います。ここでたとえばとして挙げておりますのは、被告が地方公共団体の場合はどうかということでございます。原告が全国に支店を有していて、被告は地方公共団体と、その被告の地方公共団体とは異なるところにその原告たる企業の本店があると、こういうような場合にどういうふうに考えるべきか。さらには裏の方にもありますけれども、地方公共団体に限らず、最近どんどん増えてきているものと思いますけれども、独立行政法人、さらには地方の住宅公社みたいなところもございますけれども、こういったもの、必ずしも全国に拠点を有しないような行政主体というものも被告になる可能性があるわけでございます。こういったことについても、原告の住所地の方に寄せた管轄の拡大ということに同じように乗せて考えてよろしいのか、その場合に不都合がないのかどうか、こういったところも御検討いただきたいというところでございます。
 それから4のところは移送の規定の要否ということでございまして、管轄を拡大した場合には何かしら民事訴訟と異なる移送の規定を設ける必要があるかどうか。民事訴訟法自体に既にいろんな事件の審理の都合を考えたり、あるいは当事者間の公平を考えた移送の規定があるわけですけれども、それで不十分な場合があるかどうかということでございます。それから最後に挙げておりますのは管轄もものによっては拡大すべきではないという類型の事件というのは果たしてないのだろうかということでございます。個別法の問題になるわけですけれども、例として挙げておりますのは中央労働委員会の救済命令取消訴訟につきましては、表の方にも条文を記載しておりますけれども、行政事件訴訟法第12条第3項の適用を排除しておりまして、下級行政機関が処理した場合の管轄を認めておりません。これによって事件を東京に集中しているというような事情がございますので、こういった個別の配慮をしているものについてはどういった方向で考えるべきかという問題点もあるかという指摘でございます。こういった点を中心にして御検討いただければと思うところでございます。以上です。

【塩野座長】どうもありがとうございました。それではどうぞ今の説明につきまして。はい、どうぞ芝池委員。

【芝池委員】最後におっしゃったのは東京高裁ですか。

【村田企画官】地裁です。

【芝池委員】前の方から行きます。1の(1)ですけれども、民事訴訟法4条に定める裁判所のほか、ということでいきますと、東京になるのですか、中央官庁は。

【村田企画官】国が被告になる場合は東京となります。まず東京とした上でさらに実際に処分をした行政庁の所在地というやり方が(1)でございまして、(2)の方はまず被告の、国なら国の普通に認められる管轄である東京というのを考えないで、最初から行政庁の所在地ということで手当てをする。

【芝池委員】そうしますと(1)は現在よりも原告の方からしますと、不利になると、そういうことですか。

【村田企画官】現在よりもオプションが増えるということです。

【市村委員】たとえば今、新潟の税務署長が被告になるべき事件があったとします。それは東京地裁に提起できるということになります。そうするとそのときに受ける行政庁側がそういう適切な対応がそれでもできるのかどうかという問題はあります。管轄のその便宜はありますけれども、その辺はもう少し行政庁のヒアリングをやるべきことではないでしょうか。管轄の問題は確かにうんと広くすれば、どこでも選べるという意味では原告には選択の幅が広がるということで原告には有利ですが、被告の逆に負担が増すという側面と常に表裏になっていますので、その辺りの広げる部分については聞いてみる必要があると思います。

【塩野座長】はい、どうぞ小早川委員。

【小早川委員】今のお話ももっともですし、それから、ペーパーに書かれている地方公共団体の場合はどうかということ、別荘所在地の町村が所有者に対して税金を掛けている場合に、町村が東京や大阪まで出てこなければならないようにするか、逆にするか、どっちが公平かと、確かにこういう問題があると思います。
 それから、もう一つは、現行で東京高裁の専属管轄になっているものはここの話から外れていると考えてよろしいのか。

【村田企画官】基本的な管轄だけを定めている場合であれば、ここで管轄が付加される場合には加わる場合があると思います。管轄が完全に集中している規定の場合にはその規定ぶりによっては広がらないということになると思います。それは個別の規定を見てみないと何とも申し上げられない。

【小早川委員】そうでしょうね。それから、もう一つは12条3項の、事案の処理に当たった下級行政機関についての規定、これも当然に残すという選択肢もあると思いますが。

【村田企画官】そこはちょっと説明が不十分でございましたが、12条の2項、3項については基本的に残す前提で、1項に関係する手当てだけで、今の管轄よりもプラスアルファする方向の関係しか記載しておりません。

【福井(秀)委員】全部これは1項がらみの議論ですか、1番から5番までは。2項、3項には影響しないという理解でよろしいですか。

【村田企画官】2項、3項には影響しないであろうという前提で記載しております。

【水野委員】1の(1)、(2)はどちらでもいいと思います。特に意見はありません。それでどうしても東京地裁でやりたいと、市村さんのところでやりたいという人がいれば、そこでやれるようにすればよい。
 それから2の方は、これは(2)の方で是非、やっていただきたいと思いますが、少なくともどちらかは採用すべきだと。(2)がダメなら、(1)を採用する。(1)も(2)も採用しないということはこれは困るということです。これはやはり今回の改革で拡大したということがないといけないと思いますので、どちらかを採用してもらいたい。
 それから3の地方公共団体の場合、これをどう考えるかなのですけれども、元々たとえば本店があって、支店で処分しているという場合にはこれはやはり被告の行政の側がその負担を負わなければしょうがないのではないかと思います。ですから、その場合には被告の所在地と違う裁判所で起こすことも認めざるを得ないのではないか。その負担は被告が負うべきではないか。ところがいわゆる行政決定があった後、原告が住所地を自分で変えた場合、そういう場合についてまで被告の負担にさせることは、これはちょっと問題かなという気もしますので、その辺りで整理したらどうかなと思います。
 それから5番の関係では、もし、そういう必要性があるのであれば、これは個別法で入れてもらわざるを得ないので、ここではあまり議論の対象にしなくてよいのではないでしょうか。

【小早川委員】今の話を伺っていて補足ですけれども、話が段々細かくなってきますが、確かに従来の行政庁所在地管轄というのは、結局どこで案件の処理したかという、そこと割と一致しやすいシステムではあった。それを補う形で、事案の処理に当たった下級行政機関というのまでくっ付いていた。そういうことで、それはそれなりの合理性もあったと思いますが、他面で、事案によって、行政庁の所在地で事案が処理されたのか、それとも、土地に関する2項がそうですけれども、事案によっては行政庁の所在地よりも案件の対象物の所在地の方が重要だということがある。水野委員が言われた地方公共団体の場合も、両方あるわけで、法人の本社相手に地方公共団体が調査をして処分をしている場合であれば、地方公共団体も、元々東京大手町までやって来て仕事をしていたわけですから、事業者の本店所在地でやっても別におかしくない。そうでなくて、東京の業者が青森まで行って不法投棄をした、そこから青森県が課徴金を取ろうというようなときですと、それについて青森県が被告になる場合、本当にわざわざ東京まで来て、東京で応訴しなければいけないのか。それはどうかなということもあって、だからちょっといろんな案件を頭に浮かべた上で、どの辺が落ち着けるのかなということを考える必要があるのかなと思っています。

【塩野座長】今後の予定としては、国の行政官庁だけでなくて、地方公共団体でこういった訴訟担当をしている方に類する方にまたいろいろヒアリングすることがあるべしということでお考えいただきたいと思います。はい、どうぞ深山委員。

【深山委員】一番議論のあるところは2のところだったわけですが、先ほど水野委員は少なくともどちらか、できれば(2)の方が、ということを言われましたが、私がかねてより(1)がいいのではないか、というのはユーザーフレンドリーということからすれば、それは原告の普通裁判籍所在地というのはそれはよく分かるけれども、行政事件訴訟をやる裁判所の方の専門性を高めるということからすると、全国津々浦々の地方裁判所でやるよりはある程度の集約を図るという要請、専門の裁判官が適格な迅速なサービスを提供するという体制を制度として用意するという要請も非常に重要なので、両方を兼ね合わせている(1)がいいのではないかなと、前から申しておりましたが、思います。
 もう一つ、これは最後の5のところに書いてある特殊なものをどうするかという話、ここは各、それぞれの極めて特殊な処分の取消訴訟の管轄を個別法でどうするかという話ですし、ですからここであまり議論しても、だからやめようとか何とかという類の話ではありませんし、もう少し言えば、ここで管轄のルールを今回大きく変えるとそれでどうしても不都合があるということになると、先ほどの関連整備をする一環として、整備に止まらないような気もしますが、そういうふうに管轄の大本のルールが変わるなら、うちの法律のこの処分はやはりこういう形で適用してほしいとか、特則を設けてほしいという話は出てくると思うのです。しかしそれは今の段階で、どれほどどういうところから言ってくるか分からないし、まずはある程度の方向性、基本ルールとしてはこういうふうに変わるということを示した上で、各省庁の意見を聞いてみるということではないでしょうか。

【塩野座長】分かりました。では福井委員、どうぞ。

【福井(良)委員】今の深山委員の関連ですけれども、事務局で知的財産訴訟の検討がされていると思いますけれども、大阪と東京に集約するということです。あれは民事訴訟を中心に検討になると思いますけれども、行政事件訴訟は視野に入っていないのでしょうか。

【村田企画官】知的財産事件にも行政事件はございますので、その関係の調整は必要になろうと思います。

【福井(良)委員】やはりあそこの考え方というのは、知的財産訴訟の専門性のあるものの扱いについては、やはり効率性ということも検討されていると思います。行政事件一般も、かなり特殊な領域であることは間違いないと思いますので、全面的に一律に広げるということのマイナス面はかなりあると思います。一律に広げる場合にも、特定の扱いをする必要性がある行政分野は、あり得るのではないかと思いますし、地方公共団体、あるいは独立行政法人を相手にする場合の議論も先ほど事務局側がおっしゃったとおりだと思いますので、よく所管省庁の実情を聴取した上で検討すべきだと思います。

【塩野座長】どうもありがとうございました。ちょっと今の関連ですか。

【福井(秀)委員】知財の関係と行政事件はやはりちょっと違うと思うのです。知財の中に行政事件が含まれておりまして、その限りでは重なってますが、より大きく知財で集約化を図るという趣旨は、要するに訴える方の利益でもあるわけです。できるだけ迅速に集約化された専門的組織の裁判を受けないと諸外国に遅れを取るという、むしろ原告の利益でもあるわけでして、ここで議論しているのはもちろん知財的なものもありますが、大多数は行政に自分はひどい目にあわされたと考えている零細な原告たる市民なり、企業の救済ということですから、知財のようなそもそも非常にプロフェッショナルライクな当事者しか紛争のゲームに参画してこないというものとは一般的に言えば大分違うということがあります。知財のアナロジーで集約した方がいいという意見には反対です。

【市村委員】やはりこの問題も特に2の土地管轄を拡大する場合に(1)の案によるか、(2)によるかの問題で、私どもの立場からすると、再三になりますけれども是非御理解いただきたいのは、行政訴訟というのは専門性が必要で、その必要性というのはやはりお医者さんの専門医とちょっと似ているところがあって、現実に臨床経験をどのくらい踏むかということは非常に大事なことで、本だけ読んでもなかなか身につかない。そうするとどうしてもある程度の数が必要である。それをやることが必要がある。そういうことを考えていくと、やはり全国全部というのはなかなか難しいのではないか。そういう意味で(2)はどうかなという気がいたします。しかしアクセスの拡大を図るという意味がありますので、できるだけ、民事訴訟もそうですが、テレビ会議だとかそれから電話会議だとか、こういったITの活用というのをもっと積極的に進んで、現に今、やりつつあることは前に御紹介したところですが、そういうのが進められていくことによって、双方向からアクセスが容易になっていくというふうに思われますので、その辺りも是非、検討材料にしていただきたいと思います。

【水野委員】ちょっと一言だけ。深山さんと市村さんが言われた御意見もよく分かりますが、ただ全部の行政事件をそこに集めるというのであれば、これは話は別だけれども、多数の事件は各地裁でやるわけです。その一部の事件だけをどうするかという話ですから、だから知財のケースとは違うと思うのです。

【塩野座長】いろんな問題があると思います。

【福井(秀)委員】今の市村委員の問題提起は、これも前に大分、テレビの審理等との関係で詰まった議論があったと思いますが、私も、できるだけ専門性を高めた方がいいという観点では、ブロックの中心地に集めるということに合理性はあると思います。ただ、その場合には、実際上の審理のあり方として、たとえば常に高裁所在地に毎度、毎度出廷をしないと審理を受けられないということではなくて、できるだけテレビ審理なり、電子メール審理なりを通じて、便宜の図られた形で審理を受けられるということとセットでブロックの中心地で行うということに合理性があると考えます。

【市村委員】ちょっと付加して申し上げますと、今のたとえば高裁所在地でやるとなった場合には、むしろ高裁所在地に来なくて済みまして、沖縄の方でしたら、福岡高裁の方に一方の、行政側が出頭しますが、当事者はたとえば最寄りの裁判所が沖縄の地裁でありましたら、沖縄の地裁に来ていただければできるわけですから、そういう形でかなり推進できると思います。

【塩野座長】どうもありがとうございました。一番議論が分かれていると言いますか、いろんな角度からお話を伺いましたのは、2の土地管轄を拡大する範囲のうちの(1)、(2)の選択の問題だと思いますが、この点は今日どちらかということではなくて、それこそいろんな角度からの意見を聞くということだと思います。ただ今日いただいた御意見はそれぞれ貴重な御意見ですので、十分に検討したいと思います。どうぞ。

【芝池委員】1点追加ですが、今の土地管轄の拡大の(1)の案なのですけれども、一つの選択肢としては高裁の支部の所在地の地裁ということもあり得るということです。

【塩野座長】その議論は常につきまとう議論ですので、これから各論的にまた出てくるところだと思います。そこでちょっと時間が押しておりますので、先に進んでよろしゅうございますでしょうか。次は「出訴期間等の教示」でございます。事務局から資料の説明をお願いいたします。

【村田企画官】「出訴期間等の教示についての主な論点」という資料でございます。ここで挙げていることを簡潔に御説明いたしますが、1としては「教示義務の対象となる行為」でございます。対象となる処分等の行為の範囲について、どのように考えるべきかということで、たとえば書面でする行為に限定すべきか否かといった辺りも検討しなければいけないのではないかと思っております。この点、行政不服審査法では第57条で教示の規定、一番一般的な規定がございまして、57条を見ますと「行政庁は、審査請求若しくは異議申立て又は他の法令に基づく不服申立てをすることができる処分をする場合には、処分の相手方に対し、当該処分につき不服申立てをすることができる旨並びに不服申立てをすべき行政庁及び不服申立てをすることができる期間を教示しなければならない」として、その後にただし書がございまして、「ただし、当該処分を口頭でする場合は、この限りでない」として、行政不服審査法の場合には口頭の処分の場合は除かれているというようになっております。
 それから2番目の点は教示の相手の範囲でございます。この点について、処分等の教示義務の対象となる行為の相手方、処分でしたら処分の相手方だけに教示をすればよいということにすべきかということでございます。この点は今読み上げました行政不服審査法57条は1項におきましては、「処分の相手方に対し」ということになっております。他方で57条の2項では行政庁は利害関係人から教示を求められたときはその事項を教示しなければならない。こういう形になっております。その点も御参考にしていただければと思います。
 3番目に挙げておりますのは「教示義務の内容」でございます。教示すべき内容について、どのように考えるかということで、いくつか例示をさせていただきました。これ以外にももし教示すべきだと思われる事項があれば、挙げていただきたいと思いますが、例示をしておりますのは①取消訴訟を提起できる行為であること、②それから訴訟の場合に被告となるべきもの、③不服申立前置の定めが適用される場合はその旨、④出訴期間の定めが適用される場合はその期間、⑤訴えを提起することができる裁判所、こういったことは教示義務の内容としてふさわしいかどうか御議論いただくべきものとして、とりあえず例示として挙げられるのではないかと思った次第でございます。
 それから4のところは「教示の効果」でございますけれども、誤った教示をした場合、内容的に間違った教示をしてしまった場合や教示義務が定められているのに教示をしなかったという場合について何らかの法的効果を定めるべきか否か。さらに効果を考えるという場合であれば、教示が追加された場合、すなわちたとえば処分の際には本当にはその際にしなければいけなかったのだけれども、後で気が付いて、別の機会に教示をしたと、こういうような場合については効果が違ってくるようなことがあるだろうかといった点。そういう法的効果を定める場合という場合にはどのような法的効果が考えられるだろうか、これは教示義務の内容によってもその効果というのはそれぞれ考えられるところかと思いますので、併せて御検討いただければと思うところでございます。

【塩野座長】どうもありがとうございました。以上でございますが、御意見等ございますでしょうか。はい、どうぞ市村委員。

【市村委員】この問題が今までなかったところですので、どういうふうな位置付けになるのかということを少し議論していただいた上で、導入していただきたいと思います。特に教示の内容、それからその間違った場合、どういう効果があるのか。非常にそのときにかえって混乱を招くのではないかという気がします。元々それが処分性があるのかということはいつも我々も悩まされるところでありますので、そういう分野について全部あまねく教示をやらなければいけないというふうにしていると、やり過ぎて、実際にあったのですが、間違えて出訴ができるか如くにやった例などもありますけれども、そういうことにもなりかねない。あまり固くすると、かえって変な結果になるかもしれないというふうに思います。その辺り、十分な御議論をしていただいた上で導入していただきたい。
 それからおそらく行政庁にとってはかなり今までやっていなかったことですので、負担にはなると思うのです。その負担とプラスのものとがどの程度でバランスが取れるのかということも今のことに関係すると思いますので、行政庁の意見というのもいろいろと聞いていただければと思います。

【塩野座長】はい、どうぞ水野委員。

【水野委員】今の市村委員の言われたことはこれは逆だと思うのです。負担をしなければならないのは行政であって、一般国民にその負担をさせるのはおかしいことです。行政が間違えるのは論外なので、だから行政が間違えることがあり得るから問題だとか、それから負担になるからというのはちょっと。

【市村委員】何と何を比較して、御批判いただいたのかちょっと分からないのですが。出訴期間というのは元々法律で決まっていて、これらのものについては他の法律でもそうですが、たとえば嫡出否認の訴えは何日ですよというのは一々、言いませんね。あるいは取締役会の決議無効の取消しの訴えは何日以内ですよという、こんなことは言いませんね。しかし行政処分をするときにこのことを言うことにしようというのは、それは当然そうでなかったら国民が特別の負担を負うということには繋がっていないのではないかと思います。これで誤ったりする人もいるので、さらにサービスを増して、そこで出訴期間の徒過によって是正を求める機会を奪わないようになるべくしましょう、こういうことだと思うのです。よりいっそうのサービスではないかと、普通の法律の比べれば。ですから行政が負わないから、行政に軽くするとそれが利用者である国民の方に増すという理屈にはならないのではないかと思っております。

【水野委員】ただ行政に新たな制度だから、何かするについて意見を聞けという御意見だったけれども、それは何もそんなに負担ではないのではないか。行政側からすればね。それは、たとえば典型的な処分であれば印刷しておけば済む話でありますし。だからそんなに行政のことを思うことはないのではないかと思います。
 それからこの教示の相手ですが、これはいわゆる処分の相手方、この場合ははっきりとしていると思いますけれども、それが特にない場合、一般処分みたいなもの、その場合にどうするかということだけれども、それは官報とかいろんな形で告示とか、公示とかする場合にはやっぱりそこに書かないと仕方がないのではないか。むしろ書くべきではないかという気がします。それで問題は名宛人がある場合に、第三者が訴えるときにどうするかというのは非常に悩ましい問題だと思うのですけれども、妙案があるわけではありませんが、その場合はどうするかという問題が一つ。どなたか良い知恵を出していただければ非常にいいのではないかと思います。

【塩野座長】はい、どうぞ芝池委員。

【芝池委員】今の水野委員のおっしゃった処分の第三者の場合と、それから一般処分の不特定多数の相手方の場合には、請求に基づいて教示をするというやり方しかないのではないかと思うのです。官報に載せるというのはちょっと適切ではないと思います。
 それから難しいのは、むしろ1の方の教示義務の対象となる行為です。つまり、典型的な行為、処分については教示をするということにして、取消訴訟の対象になるかどうかはっきりしないグレーゾーンの行為について、どのようにするかということでして、これは悩ましいのです。請求に基づいてやるとしても、そういう仕組みを作った場合に教示をしますと、行政の判断としては取消訴訟の対象性を認めるということになりますので、なかなかこれは難しいと思います。これは人から聞いた話なのですが、むしろ2の教示の相手方に関わることなのかもしれないのですが、グレーゾーンにある行為について教示を求めたところ、地方公共団体はどういう教示をしたかと言うと、不服申立てできませんという教示をしたという話を聞いたことがあります。確かにそういうふうにせざるを得ない場合も出てきかねない。それは好ましくないことなので、避けなければならないのですけれども、実際にはあり得ることも考えて、制度を作らないといけないという気がしております。

【塩野座長】はい、どうぞ福井委員。

【福井(秀)委員】今の論点に関連してなのですが、処分性があやふやな行為は結構ありますし、はっきりとしているのにも関わらず行政庁が認めていないという処分性の領域もありますので、教示する場合に、客観的に処分だ、処分でないということに疑義がある、ないしは紛争がある行為について正確な情報、要するに最高裁で確定されるであろうとおりの情報を事前に提供するのはなかなか難しい、ということもある。ですからこういう場合は、もうちょっと良い案があるのかもしれませんけれども、たとえば最高裁判決があるものについてはこれはできると絶対言わないといけない。行政庁の独自の解釈は許さずとする。下級審段階で分かれているとか、疑義があるものについてはその旨の事実を教えてあげるとか、何らかの形で争いができるかもしれないし、ダメかもしれないというものは正確にそういう状況が分かった方がよろしいのではないかという気がします。

【小林参事官】基本的には取消訴訟によらなければ不服を申し立てることができない処分については、取消訴訟によらなければ不服を申し立てることはできません、という趣旨を教示するのではないかと思うのです。不服を申し立てることはできませんという教示はできないのであって、つまり、取消訴訟は排他性もあり、出訴期間もある、当事者に大きな不利益をもたらしていて、それなりに行政の、ある意味特権も与えているわけですから、それにふさわしい教示義務を認めようということを考えるのではないかと思います。そうだとすると、教示の効果をどう考えるのかと言うと、取消訴訟によって行政側が受けているそういった利益とリンクさせていくかどうか、つまり、行政が処分かどうか分からないのに、訴えが起こったら処分だとして、出訴期間を主張していいのかとか、そういうところとどうリンクさせていくかというところはこれから議論する必要があるのではないだろうかと我々は考えております。

【福井(秀)委員】結局、どういうことですか。

【小林参事官】行政が処分でないと思って、取消訴訟によらなければ不服を申し立てることができないという教示をしていないのに、1年ぐらい経ってから取消訴訟で訴えたら出訴期間はもう過ぎていますよというので本当に行政はいいのかということです。

【福井(秀)委員】教示しなかったものは後からそれは処分でなかったということにして、違法性の承継を前提として、後行行為で争わせるということですか。

【小林参事官】具体的にどういう効力を持たせるかというのは一番難しい問題ですから、効力というのは、ある意味で行政が持っている訴訟上の利益をいかに制限していくかというところから考えないといけないのではないかと思うのです。

【福井(秀)委員】それはそのとおりなのですが、実際にファジーなものはあるので、そういうものをどうするか。

【小林参事官】後で取消訴訟が起こったときに、処分であったときにそれは出訴期間は経過していますよと言って判断していいのかということです。

【福井(秀)委員】教示しなかったときにはそういう主張はさせない。

【小林参事官】そういったことを考えないといけないのではないかという意味です。

【福井(秀)委員】小林さんのおっしゃることはファジーなものは教示義務はないということですか。

【小林参事官】あると考えるべきではないかと思います。

【水野委員】逆にこれは何日以内にという出訴期間がありますよと言ったものが正しければ、それは出訴期間の枠が生じる。ところがそういうことを一切言わなかった、あるいは教示しなかった場合には、後になって、出訴期間が徒過しているということを言えないことにすればいい。

【塩野座長】教示の点については基本的にはサービスだと。しかしサービスすることによって逆に迷惑を被る人がもしあるとすると、それはできるだけ防ぐように、相手方が別に普通の考えの人が間違えるような教示をしたならばそれはやはり制度の欠陥ということで、不利益が及ばないようなことをすることだと思います。ただこの点については行政不服審査法の方で多少経験もあり、蓄積もあり、また教示をしなかったときに出訴期間はどうなるのかという判例もありますので、そこは従来の官庁の方の経験があれば是非、それは教えていただきたいと思います。
 そこで時間も大分経ちましたので、最後に予定しております第2トラックのトップバッターとして提示しております「行政の作為・不作為の給付を求める訴え、確認の訴え」について、残りの時間御検討をいただきたいと思います。事務局から資料の説明をお願いいたします。

【村田企画官】資料の5を御覧ください。資料5は行政の作為の給付を求める訴え、不作為の給付を求める訴え、確認の訴えに関する主な論点を簡潔に記載した資料でございます。民事訴訟の判決は、その内容に応じて、給付判決、確認判決、形成判決に分類されるのが一般的であると思いますけれども、給付判決に関連いたしまして、民法においては、第414条で、債務が作為を目的とするものか不作為を目的とするものかによって、その履行の強制の方法を違えております。このようなことから、この資料では、判決の形式を一つ念頭に置きまして、訴えを、行政の作為を求める訴え、それから不作為の給付を求める訴え、そして確認の訴えという形で分類してみました。行政の作為の給付を求める訴えについては、「義務付け訴訟」という言われ方ももちろんあるのですけれども、「義務付け訴訟」という言葉は多義的でございまして、給付の訴えのみならず、行政庁が一定の処分をする義務があるということの確認を求める確認の訴えを含めて、行政庁の公権力の行使の発動を求める訴訟として「義務付け訴訟」を捉える立場もございますし、差止め訴訟というような形で言われる行政の不作為の給付を求める訴え、あるいは不作為義務の確認を求める訴えも不作為の義務付けであるとして、これらを含めて「義務付け訴訟」というように捉えるような立場もございます。様々な考え方のあるところだと思いますが、この資料では、当面の分類として、作為の給付を求める訴え、不作為の給付を求める訴え、確認の訴えという形で、求める判決の形に応じて場合を分けたものでございます。
 ただし、確認の訴えにつきましては、いわゆる義務付け訴訟や差止め訴訟という文脈で捉えられる確認の訴えに限らず、民事訴訟の確認の訴えとの関係も含めて、広く確認の形の判決による救済全般を対象として議論していただきたいという趣旨でございますので、その趣旨が若干わかりにくかったかもしれませんが、確認の訴え一般という観点で御議論いただきたいと思います。
 まず、1の行政の作為の給付を求める訴えの論点でございますけれども、この資料で(1)として記載しておりますのは、このような不作為による救済を求める訴えによる救済が必要とされるのはどのような場合かという点です。①から④として例を挙げておりますが、①は、法令に基づく申請に対して行政庁が応答しないという場合に処分等を求める事例です。この場合には、現行法上は不作為の違法確認の訴えによる救済も考えられる場合であるということができると思います。②は申請に対する一部拒否処分があった場合、③は全部拒否処分の場合で、これらの場合は現行法では、拒否処分の取消訴訟を提起して救済を求めることが考えられる場合でございます。②の場合は、③の場合と異なりますのは、取消判決が下されますと、申請が一部認められていた部分まで取り消されてしまうことになるのではないかというような問題もあるところでございます。④は、違法建築物の隣地居住者が行政庁に対して規制権限の発動を求める申請権、そういった申請権を今認めた規定がないのだという場合を前提としまして、違法建築をしている者に対して行政庁がその是正命令を発することを求める、こういう場合でございます。現行法上明示的に規定されている訴えでは、この事例に対応した訴えは想定し難い場合ということになるのではないかと思います。これらの場合に作為の給付として行政庁が処分等をするように求める訴えを認めるべきか否かという点を含め、どのような場合に行政の作為の給付を求める訴えによる救済が必要と考えるべきか御議論いただきたいと思います。この資料の別紙では、4頁から別紙が始まっておりますけれども、4頁の1のところで行政の作為の給付を求める訴えに関する裁判例を挙げておりまして、これはもちろん網羅的に裁判例を挙げたものではありません。例示に過ぎないのですけれども、それでも、受刑者の処遇ですとか、公務員関係、それから租税関係、建築基準法や外国人の在留関係、土地区画整理、社会保障給付など、非常に多様な分野で、訴えが提起されております。適法な訴えと認められた例は少ないと言えると思いますけれども、これらも参考にしていただければと思います。
 次に、論点の(2)として1頁のところに記載してございますのは、この訴えと取消訴訟や不作為の違法確認の訴えとの関係をどのように考えるかという点でございます。これは、論点の(1)とも関係するところでございまして、(1)の例示で挙げております①は先ほど申しましたように不作為の違法確認の訴えによる救済が考えられる場合ですし、②・③というのは取消訴訟による救済が考えられる場合ですので、これらの救済と行政の作為の給付を求める訴えによる救済との関係をどのように考えるかによって、作為の給付を求める訴えの適用範囲が異なってくると考えられるわけでございます。この点に関しては、別紙の方で言いますと項目の2として関連の裁判例を挙げてございます。項目の2は5頁の下から始まっておりますけれども、この2の(1)では、処分の取消訴訟と併せて提起された作為の給付を求める訴えについては、取消訴訟による救済があり得ることを理由として、作為の給付を求める訴えについては訴えの利益がないとしたり、あるいは作為の給付を求めることができる例外的な場合に当たらないとされている、そういった例がありますので、そういった例をいくつか挙げております。また7頁のところにあります(3)としていくつか挙げておりますけれども、こちらでは取消訴訟と併せて提起されたものではないけれども、取消訴訟による救済というのがあり得るからという理由で作為・不作為の給付を求める訴えを不適法とした例を挙げております。取消訴訟と作為の給付を求める訴えの併存関係を認めたものはここでは6頁の下から7頁にかけて(2)として挙げております一つの例、これしか調べた限りでは見つけることができませんでした。これらも参考にしつつ、救済方法の間の適切な役割分担、これをどのように考えるか。その中で、取消訴訟中心主義といわれている考え方が過度に影響を及ぼしている部分がないだろうか、こういった点についても御検討いただきたいと思う次第でございます。
 それから1頁に戻りまして、(3)として、その他として書いておりますのは、行政の作為の給付を命ずる請求が認められるためには要件をどのように考えるかという点、それから判決の効力・判決の執行についてはどのように考えるかという論点を挙げております。判決の執行については、これこれの処分をせよ、というような形で一定の作為を命ずる判決がされたが、行政側がこれに従わないという場合が有り得ないとはいえないのではないか、そういう場合にはどのようにしてその判決の内容を実現するのかという問題ですが、そもそもそのような場合は想定する必要がないという考え方もあるかもしれません。そういった点の問題でございます。
 それから行政の作為の給付を求める訴えが認められるための要件の点でございますけれども、これにつきましては下級審の裁判例では3つの要件を満たす必要があるのではないかといわれることが多いように思われます。たとえば別紙の1で行政の作為の給付を求める訴えに関する裁判例を挙げておりますもののうちで言いますと、比較的時期も新しくて、高等裁判所の判断に至っている例で考えますと、⑱というのが5頁の下の方にございます。この事例では、行政の作為の給付を求める訴えの適法性の判断について、高裁まで行っているのですが、原審である地方裁判所の判断を高裁ではそのまま引用しておりますので、大阪地裁平成2年4月26日判決の該当箇所をご紹介致します。少し長くなりますけれども、この判決では、次のように言われております。「原告は、請求の趣旨2項において、被告に対し、原告が岸辺住宅にかかる簡易ガス事業を営むことの許可を求めている。しかしながら、本件のような義務付け訴訟は、裁判所が、行政庁に代わって自ら行政処分をすることとなるから、三権分立の制度上原則として許されないというべきであり、ただ行政庁が特定の処分をなすべきこと、又はなすべからざることが法律上羈束されていて裁量の余地がなく、しかも、第一次判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でなく、さらに行政庁の行政処分を待っていたのでは多大の損害を被るおそれがあり、事前の救済の必要があるが、他に適当な救済方法がない場合に限って、極めて例外的に許されるものと解するのが相当である。」として、この事案では、簡易ガス事業の許可申請に対して、許可の基準を満たすか否かの判断に当たっては通商産業局長にある程度の裁量権が認められていることなどから,義務付け訴訟の許されるための要件のうち、行政庁が特定の行政処分をすべきこと,又はすべきでないことが法律上覊束されていて裁量の余地がなく、しかも、第一次判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でないという要件を満たしていないということで、不適法とした事例です。
 このように、下級審の裁判例には、作為の給付を求める訴えが認められるのは例外的な場合であるということで、その訴えが適法になるための要件として、一つ目に今申しましたような、行政庁が特定の処分をなすべきこと又はなすべからざることについて法律上羈束されており、行政庁に自由裁量の余地が全く残されていないことなど、第一次判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でないこと、という要件が挙げられます。つまり「明白性の要件」ということで言われることがございますけれども、これが必要であるとされます。二つ目としては、事前審査を認めないことによる損害が大きく、事前救済の必要性が顕著であるというような要件、これを「緊急性の要件」というふうに言われることがございますけれども、これが2つ目として必要である。さらには、3つ目の要件として、他に適当な救済方法がないこと、これを「補充性の要件」というように言うことがありますが、これも必要である、とする場合が多いように思われます。資料の別紙の1の(2)で作為の給付を求める訴えを不適法とした訴えを18個挙げてございますけれども、これは概ね、この3つのうちのいずれかの要件を欠くというような形で、訴えを不適法であると判断した事例でございます。
 これは、下級審の裁判例が、行政の作為の給付を求める訴えについて現行法上明示的な規定がないわけでございますけれども、そういう明示的な規定がない現行法の解釈として、そのような要件が必要であるとしているわけでして、そういう解釈論でございます。立法論として行政の作為の給付を求める訴えの要件を考える場合には、これらの判決の中でも出てまいりましたが、三権分立の観点、それから取消訴訟や不作為の違法確認の訴えといった現在明示的に法定されている訴えとの役割分担、さらには取消訴訟中心主義という考え方がどこまで強調されるべきなのか、あるいは強調されるべきではないのか、このような観点を含め、何らかの要件がいるのかいらないのか、いるとする場合どのような要件を設定すべきなのか、という辺り改めて検討していただく必要があるのではないかと考えた次第です。
 次にこの資料2頁目の2のところでございますけれども、2番目の項目として挙げておりますのは行政の不作為の給付を求める訴えでございます。こちらもやはり、(1)として、この訴えによる救済が必要とされるのはどのような場合かという点を挙げております。①から③として例を挙げておりますが、①は、懲戒処分あるいは場合によっては刑罰といった重大な不利益を受けることを防止する必要がある場合を考えているものです。②は、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為の効果が短期間に終了してしまうような場合、たとえばこの例が良いかどうか分からないのですが、受刑者が懲罰処分を言い渡され、その執行が目前に迫っているのだけれども、懲罰処分の執行自体は長期間にわたるものではなくて、懲罰処分の取消訴訟を提起して、併せて執行停止を申し立てたとしても、執行停止が認められるまでの間に懲罰処分の執行が終ってしてしまうと、こういうような場合があるのではないか。このように取消訴訟による救済、併せて執行停止も含めて、そういった場合の救済が実効的に機能しないような場面もあるのではないかというところでございます。
 それから③は一旦実施されますと原状回復の不可能あるいは困難な行為の差止めを求める場合、そういった場合も検討に値するのではないかというところでございます。これらの場合に不作為の給付として行政庁が処分等をしないように求める訴えを認めるべきか否かという点を含め、どのような場合に行政の不作為の給付を求める訴えによる救済が必要と考えるべきか御議論いただきたいというところでございます。この資料の別紙では、項目の3といたしまして7頁の下のところから始まっておりますけれども、行政の不作為の給付を求める訴えに関する裁判例を挙げております。これももちろん網羅的に裁判例を挙げたものではございませんが、参考にしていただければと思います。
 それから行ったり来たりして大変恐縮ですが、2頁に戻りまして、この不作為の給付を求める訴えの2つ目の論点、(2)として記載しておりますのは、やはりこの訴えと取消訴訟との関係をどのように考えるかという点でございます。この点に関しては、別紙の方の項目の2、7頁の真中に(3)というのがございますけれども、ここで両者の関係について触れた裁判例を挙げております。この(3)の②として挙げております古都保存協力税の関係の事例を挙げてございますけれども、この裁判例ではどのような判断がされているかと言いますと、「法定抗告訴訟によって救済の実を挙げることのできない例外的な場合に当たらず、訴えを許容すべき場合に当たらないから、訴えの利益がない」、こういう判断をしております。こうした例も参考にしつつ、救済方法の間の適切な役割分担をどのように考えるか、その中で、この訴えについても、取消訴訟中心主義といわれている考え方が過度に影響を及ぼしている部分がないのかどうか、こういった点についても御検討いただきたいというところでございます。
 それから行政の不作為の給付を求める訴え、差止めと言えるかもしれませんけれども、これの論点の(3)としては2頁の一番最後に、差止めの要件を規定すべきかという点を挙げております。下級審の裁判例では、先ほど作為の給付を求める訴えの適法要件としてあげられる3つの要件を御紹介いたしましたけれども、これとほぼ同じような要件を満たす必要があるというふうに判示している裁判例も中にはございます。たとえば、別紙の3で申し上げますと、比較的新しいもので言いますと、8頁の上の方に(2)として5つ挙げておりますが、この一番最後の⑤の東京地裁平成3年6月28日という判決がございますけれども、供託官に対し供託金の還付の差止めを求めた事例でございます。この判決では、次のように判示しております。「行政庁に対し、一定の不作為を求める給付訴訟は、法律上第一次的判断権を有する行政機関の判断権を裁判所が代わって行使する結果となるから、三権分立の原則に反し、原則的には許されないというべきである。ただ、行政庁が将来行うこと明白確実な処分について、行政庁の第一次判断権を侵害せず、当該差止めを認めないと、回復しがたい損害が生じる恐れがあり、かつ、その損害につき、他に適切な救済方法もないときは、かかる訴訟も認められると解する余地がある。これを本件についてみるに、右判断権の侵害の点はともかく、供託金の還付請求権は金銭債権であり、その還付の差止めを認めないと原告らに回復しがたい損害が生じるとか、他に適切な救済方法がないということはできない。」として、この訴えを不適法としています。
 他方、差止めの要件に関しましてはこれまでいろいろ御検討いただいた中で、他の制度の差止めの請求の場合を御紹介しております。株主による取締役の違法行為の差止めの請求に関する商法第272条は「回復の困難な損害を生ずるおそれがある場合」というのを差止めの要件としておりますし、侵害の停止又は予防の請求に関する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律、独禁法でございますけれども、この第24条は「著しい損害を生じ、または生ずるおそれがあるとき」を要件としております。また、住民訴訟にも差止めの請求がございますけれども、この住民訴訟としての差止めに関する地方自治法第242条の2第6項では、これは改定されたところでございますけれども、「差止めは、当該行為を差し止めることによつて人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがあるときは、することができない」という逆の方向からの制限を設けている例は既に御紹介しているところであります。
 こういった他の制度なども参考にしつつ、立法論として、不作為の給付、すなわち差止めを求める要件についてどのように考えるべきかについても御検討をお願いしたいというところでございます。
 最後に、確認の訴えについて若干御説明させていただきたいと思います。資料で言いますと3頁に戻りますけれども、これについても(1)として記載しておりますように、確認の訴えによる救済が必要とされるのはどのような場合と考えられるかについて御検討願いたいと思います。ここで申し上げております確認の訴えは先ほども申し上げましたが、義務づけや差止めといった文脈で捉えられる、公権力の行使の発動・不発動を求めるための確認の訴えに限って検討していただこうという趣旨ではございません。むしろ、民事訴訟か行政訴訟か、あるいは抗告訴訟か当事者訴訟かというような区別はさておいても、取消訴訟のような典型的な訴訟では必ずしも十分な救済が図れないけれども、確認の訴えであればその救済機能を発揮するというような場合があるとしたらそれはどのような場合なのか、といった観点から、確認の訴えによる救済の必要があるのはどのような場合かを御検討いただきたいという趣旨でございます。
 また、(2)では、確認の利益に焦点を当てております。行政訴訟における確認の利益と民事訴訟の確認の利益とはどのような関係にあるのか、また、どのような関係に立つべきなのか、という点、そして、これまで取消訴訟という制度があることが、確認の利益の判断になにがしかの影響を及ぼしてきた場合があるのか、これがあるという場合には、その点についてどのように考えるべきなのか、という点も併せて御検討をいただきたいと思います。今申しました最後の点に関しましては、この資料の最後の方の別紙の4の確認の訴えに関する裁判例を御覧いただきたいと思います。資料としては9頁のところに例として(1)、(2)、2つの最高裁の判決を挙げております。これらは、いずれも実質的には公権力を発動しないことを求めるための確認訴訟という性格を持った訴えということができるかと思いますけれども、この二つの判決では、資料でアンダーラインを付しているところがございますけれども、訴えの利益の判断において、処分を受けてから事後的に争ったのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがある等の特段の事情があるかないか、こういう点が問題とされております。ここで言われている事後的な争い方は、最初の方で言いますと懲戒処分などの処分を受けてからその処分を取消訴訟で救済を求めることを想定しているものと考えられます。この点で、取消訴訟による救済があり得るということが確認の利益の判断に影響を与えているのではないかというふうにも考えられるわけです。この点をどのように考えるのかについても併せて御検討をいただきたいと思います。
 なお、二つ目の(2)の平成元年の最高裁判決の事件では、高等裁判所段階では、訴えを無名抗告訴訟というふうに捉えまして、その要件として、この資料ですと10頁の下から12行目から記載しておりますように、高裁判決ですけれども判断をしております。一般に、行政庁の公権力の行使について予防的に行政庁の不作為義務の確認又は処分権限の不存在の確認を求める無名抗告訴訟が適法なものとして許容されるのは、当該行政処分について、三権分立の原則を考慮しても、行政庁の第一次的判断権を実質的に侵害することがなく、しかも、その処分がされ又はされないことによって発生する損害が重大であって、事前の救済を認めるべき差し迫った必要性があり、他に救済を求める手段がない場合に限られるものと解されるところ、この場合には当事者訴訟というのが実質的当事者訴訟ができるからということで、無名抗告訴訟として許容される場合に当たらないということで訴えが却下されております。また、(2)の平成元年の最高裁判決には、伊藤正巳裁判官の補足意見が付されております。その補足意見の中では、3つの要件について触れておりまして、御紹介いたしますと「上告人は、本訴において、本件土地につき、将来、河川法七五条にいわゆる監督処分その他の不利益処分を受けるおそれがあるので、これを防止するため、あらかじめ、河川管理者たる被上告人が河川法上の処分をしてはならない義務があることの確認(第一次的訴え)ないし河川法上の処分権限がないことの確認(第二次的訴え)を求め、さらに、本件土地が河川法にいう河川区域でないことの確認(第三次的訴え)を求めるというのである。右の第一次的訴え及び第二次的訴えは、講学上いわゆる「無名抗告訴訟」に当たるものと考えられる。このような訴訟は、行政事件訴訟法の認めるものではないということはできないが、その性質上例外的な救済方法であつて、それが許容される場合は限られたものというべきである。原判決は、その許容される要件として、当該行政処分について行政庁の第一次的判断権を実質的に侵害しないこと、その処分がされ、又はされないことによつて生ずる損害が重大であつて、事前の救済を認めるべき緊急の必要性のあること、他に救済を求める手段かないことを挙げているが、この見解は正当として是認することができる。本件の場合、上告人が、右の監督処分その他の不利益処分をまつて、これに関する訴訟等において、事後的に、本件土地が河川法にいう河川区域に属するかどうかを争つたのでは、重大な損害を被るおそれがあるとは認められず、したがつて、事前の救済を認めるべき緊急の必要性があるとはいえないから、上告人は、右の義務の存在の確認(第一次的訴え)ないし処分権限の不存在の確認(第二次的訴え)を求めることは許されない。」と述べられております。
 こういった点もご参考にしていただいた上で、確認の訴えの論点について御検討いただければと思います。

【塩野座長】どうもありがとうございました。この問題はこの検討会で取り上げなければならない非常に一番重要な問題点の一つだと思います。そういうことで、今日の段階で今指摘のあった問題以外にもこういった問題があるから検討すべきだという点があれば是非、お願いしたいと思っております。どうぞ、どなたからでも結構ですから。福井委員どうぞ。

【福井(秀)委員】一つ質問ですが、今の説明の中で1頁の1の(1)の②の一部拒否処分、受益処分の一部拒否処分について、取消しですと受益していた部分までひっくり返るので、まずいのではないかという指摘がございましたが、それは要するに受益部分を残して、不利益部分取消しをすれば足りるということにはならないのですか。

【村田企画官】そういう考え方はありうるところだと思います。訴訟の対象をどのように捉えるかによって、工夫ができる場合もあるのではないかと言えますが、中には一部認めている部分も含めて、全体が1個の処分として、取消訴訟の対象になっていると、こういう考え方も多々されているところではないかと思います。

【福井(秀)委員】土地に関するものだと、分割して取り消している判決はいくらでもあります。

【市村委員】たとえば年金給付なんかで、障害1級か2級かという場合に、本当は1級で申請したのだけれども、2級と認定された、これが不満だという場合に、その差額を取ってくるというのはなかなか難しいのです。2級として認定した処分を取り消して、1級にせよと、こういうふうな形で請求するものですから、全部1回消えちゃって、また積み上げていくという形になる。

【福井(秀)委員】分かりました。今の1の(2)の取消訴訟等との関係に関連する論点なのですが、今のような受益処分の一部にせよ、全部にせよ拒否処分になった場合に、要するに給付せよと求める場合は取消訴訟の排他性と求める訴えとの関係を理論的にはどう整理されているのでしょうか。

【村田企画官】そこは問題になるところであろうと思います。取消しを一旦してからでなければ、給付が求められないという考えもできるところだと思いますし、この給付を求める訴えにはそもそも取消しを求める請求が含まれているから、そちらでできるのだという考え方もできると思いますし、両方一遍に請求しないといけないという整理もあり得るところだと思います。

【福井(秀)委員】いずれにせよ、排他性が立法の産物だから、そこは立法論だから別の定めは可能だという理解でよろしいですか。

【村田企画官】はい。

【水野委員】最初にラフな議論を申し上げますが、事務局が丹念に具体的な例を出していただいたのですが、これを法律家でない人が見られたときに、こういう裁判はそもそもダメなんですよと、頭からダメなんですよという説明をして納得されるかどうかという、そこを本当は法律家でない委員の方にお聞きしたいぐらいなんです。これは、誤解があったらいけないのは、この請求を認容すべきかどうかという議論ではないのです。それはその中身に入って、こういう請求をしているのだけれども、それは認められるかどうかは裁判をやってみないと分からない。ところが、ここで出された例は、そもそも頭から、そういう請求はできませんよと言って、裁判を受け付けない例なのです。これで良いのかどうか、国民の常識に合うのかどうかということを是非、法律家でない委員の先生方には感想でも聞かせていただきたいという気がします。
 それでちょっとこれも誤解があったらいけないと思いますが、先ほど村田さんが例に出された独禁法と地方自治法の住民訴訟、あれは要件がなければ請求棄却の話でしょ。

【村田企画官】訴えの適法性の要件か、実体要件というところは、解釈の分かれるところかと思います。

【水野委員】独禁法はどうですか。

【村田企画官】独禁法はちょっと。

【水野委員】独禁法は少なくともあれでしょう。

【小林参事官】棄却した例があります。

【水野委員】だから、先ほど出ていた独禁法の関係で、差止めが認められるかどうかについては、こういう要件があると書いている。独禁法の関係では頭から裁判を受け付けないのではなくて、審理をした結果、その要件に当たるかどうかを判断してもらえるわけです、独禁法の場合は。ところが今出された例は頭から判断してもらえない、裁判所に入れてもらえないという、こういうケースであるということをまず御理解いただいて、その点はこれでいいのかどうかということを考えていただきたいということです。

【萩原委員】今のことについてちょっと質問なのですが、先ほどの要件についてというところで、これは全て判例の理由というのは私もよく分かりませんが、どうもこの要件を満たしていないということで、要件に第一次判断権、裁量の余地がない場合といえるかとか、それから緊急性、それから適当な救済方法がないとか、そういう理由があるのですが、この行政事件訴訟法にそういうことがないのに、どうしてそういう要件が出てくるのか、素朴な質問です。

【市村委員】先ほど、むしろ村田企画官が読まれた裁判例の中で、伊藤正巳判事の補足意見のところに端的に書いてあったと思います。やはり国の仕組みというのは、司法、行政、立法と分立している。たとえば本来なら、行政に何か、こうやってくださいというべきものを、そこをパスして、いきなり司法の方で行政にお願いしてやってもらうべきことを司法に代わってやってくださいということは許さない、これがしきりと言われる三権分立という中で何回か出てきている部分だと思います。この辺りは本来は行政作用であって、行政府がまず判断するという建前になっている事項ではないか、そういう事項について、裁判所が行けるというのは先に行政庁より先に判断できる、そこで第一次判断権という言葉が出てきたのだと思いますが、行政庁が少なくとも判断する、そこが先に判断できるというのが建前で、それもやらないで、なおかつ、司法の方が先行して判断することが、許されるというのは、やはり三権分立から言うと例外的なことなのでしょう。そういう中で、そういう例外的な場合に当たるというのはこんな要件が必要なのですよという、何でも求めてくればいいということではなく、やはり例外は例外として、どんな場合に許容するか、だから、たとえば緊急性だとか、明白性だとかそういうことを言って、裁判では要求しているのです。

【水野委員】今のお話で誤解があったらいけないので話をしておきますが、行政の第一次の判断がないからダメなんだよという話は、行政に一度もそういう話をしないで、いきなり裁判所に持ち込んだ、そういうふうな誤解があるだろうと思いますが、決してそうではないのです。これは行政に対していろいろとやった挙句、結局行政はやってくれないとか、という場合にやむなく裁判所に持ち込むのであって、きちんとした形であってもなくても、第一次判断権と言いますか、行政の判断が出ているのです、実際には、社会的事象としては。だからこそ裁判所に救済を求めるのです。つまり行政がやらないとかダメだと言っているからこそ救済を求めていっているわけで、その場合に正式のそういうものがないからダメだとか、そういうふうなことでそもそもはねてしまうのはおかしいのではないかということです。

【塩野座長】はい、福井委員どうぞ。

【福井(秀)委員】今の水野先生の御指摘に全く私も同感で、さらに補足申し上げます。三権分立から第一次判断権の尊重を導き出すというのはこれは一種のドグマないし、マジックワードだと思われます。と言いますのは三権分立というのは、まさに権力機構の分立のシステムの話でありまして、ここで問題になっている義務付けや差止めの無名抗告訴訟の領域は、社会実体があって、そこで行政が違法な拒否処分とかあるいは違法な処分をしようとしている、ないしはやるべき義務を果たしてくれないというときに、それが法に適合していないからこそ、何とかしてほしいということを司法判断として求めているわけですから、これは熟した限りにおいては三権分立と何も関係もない話だと思うのです。第一次判断権というのも、これも裁判官が好んで使う言葉ですけれども、これは一種のごまかし用語でありまして、第一次判断権を尊重するということで、適法に行われるべき行政から、そうでないと考えている人にとって、何か不利益を被る場合に、それに司法権が口を出してはいけないということとは何も関係がない話でありまして、こういうマジックワードにごまかされないで、実質的に適法な行政をやらせるための司法統制だと考えれば素直に結論が出てくる論点だと思います。
 それと基準について補足ですけれども、3つの基準のうち、最初のは第一次判断権を振りかざすという判例の議論は全部おかしいと思いますが、それはさておくとして、2つ目の基準です、村田さんも先ほどおっしゃられた2つ目の基準で、回復し難い重大な損害、ということをやたらと言うのです。これは全く間違った基準だと思います。と言うのは取消訴訟になってから争うよりも、1%でも、0.1%でもちゃんと回復される可能性があるのだったら、重大かどうかだとか回復し難いかどうかなどと一切関わりなく、多少なりとも取消訴訟よりもちゃんと救済の道が得られるのであれば、第2要件については完全にクリアするとしなければ、これは一体何の意味があって回復し難い重大な損害などと、条文にもない勝手な基準を振りかざすのか全く理解できない。これは絶対やめるべき基準の最典型ではないかと思います。

【塩野座長】はい、芝池委員どうぞ。

【芝池委員】今の要件論はこれから詰める必要があると思いますけれども、第一次判断権について前にも申し上げましたが、第一次判断権があるのは当たり前なのです。どの程度尊重するかという程度の問題だと思うのです。今回の改革では、第一次判断権を以前よりもうちょっと後退してもらう、そういう話でありまして、ですから第一次判断権が全く意味のない議論であるということにはならないと思います。
 それで内容、少し技術的な話に入りますが、要するに作為の給付を求める訴え、つまり義務付け訴訟ですが、義務付け訴訟は1頁に書いていただいていますように大きく分けますと、拒否処分とそれから行政の不作為の場合の両方について考えられるものですね。現在の拒否処分につきましては取消訴訟、それから不作為につきましては不作為の違法確認訴訟というのがあるのですが、そういうものでは不十分なので義務付け訴訟を考えるということになっておりまして、私も以前義務付け訴訟の導入論者でありますけれども、ただその際一つ問題になりますのは典型的な義務付けの判決が出る場合というのはそうないのではないかと、思っております。あるという御意見もあるかもしれませんが、もし私の判断が正しいとすれば、これは一つのあり方ですけれども、拒否処分については取消訴訟の延長で義務付け判決を考える、それから不作為については不作為の違法確認訴訟の延長において義務付け判決を出しうる場合には義務付け判決を出すという仕組みが考えられます。つまり取消訴訟プラス義務付け訴訟、それから不作為の違法確認訴訟プラス義務付け訴訟という感じの制度にするのが一つの制度作りのあり方ではないか。またそれは現在の制度の延長上にきますので、立案しやすいところがあるように思えます。ただ、このやり方には欠点がありまして、仮の救済がうまくいかない。取消訴訟は今は執行停止になっていますが、それに義務付け判決をくっつけますと、執行停止だけではうまくいきませんので、仮命令的なものが必要になってくるのですけれども、そこのところの制度がちょっと仕組みにくいという問題はあるだろうと思います。

【市村委員】むしろ義務付けタイプのものを何か考えるべきだということですけれども、難しさは要件をどのように定めるべきかだと思うのです。先ほど来、3要件というのはおかしいという御批判がありますけれども、それでは何を要件にするか。たとえば申請制度があるときに全く行政に対する申請をしないままダイレクトに給付を求めるというのは、これは誰でもダメだろうと言うと思うのです。そうするとどういうところで線引きをしていったらいいのか、そこはなかなか難しいところで是非、要件論の形で、これならという御提示の中でそれをやる方が、建設的ではないでしょうか。
 それともう一点芝池委員御指摘の点、確かに実体的にはそういうふうに仕上がれば、働くことが広くなるのかなと思うのですが、これは先ほど別のところで申し上げたのですけれども、何らかの義務付け的な要件を別途に認めるというと、単に取消訴訟の違法があるかどうか、処分に違法があるかどうかというテーマではなくて、もう一つの新しくなった要件の充足という問題をやらざるを得ない。これはかなり当事者の負担としても審理は重くなると思います。だから、何でもかんでもそれがプラスになるという原則にすると、形は広くなっているようですけれども、非常に重たい訴訟になってしまうということがあるので、そこは切り離し自由、あるいはくっ付けたければくっ付けるという2つです。それは当事者の選択ができるようにするべきでなかろうかと思います。

【塩野座長】取消訴訟との関係だと思います。どうぞ、小早川委員。

【小早川委員】今日は第1回、この問題はまだ時間があるということなので、少しのんびりした話をさせていただきます。今も市村委員が申請制度があったらどうこうとおっしゃられました。私もやっぱり、法システムという言葉はあまり使いませんけれども、でもまさにこういう場合は、全体としてバランスの良いシステムにするということがまず議論の前提という気がいたします。およそ行政官というのは国民の敵であって弱みを見つけては相手の権利を否定しようとするそういう人種だというふうに前提すれば、それはもう、いかに行政官に決定させずに裁判所が国民の権利をとことん擁護するかということになるのですけれども、その前提は差し当たり取るべきではないだろうと思うわけです。そうなりますと、個々の権利と全体の権利がうまく実現できるようなシステムというのは、ここで出ています1、2、3のうちの1の部分で言えば、立法でもって行政機関への申立ての手続を整備するということがまず第1にあるはずであります。この1頁の分類で言いますと、最初の(1)の①から④までありまして、①から③までは、一応申請の制度があって、そこを通ってきたうえで裁判所でどこまで立ち入るかという話ですが、④についてはそもそも申請の制度がないということが多いわけで、そこで現行法ですと第三者から裁判所に裸の義務付け訴訟を提起するということになるのですが、これなども、もしそういう権利実現が必要であれば行政法上のシステムとして第三者による申立ての制度というのが本来あるべきなわけです。実際の行政過程では、やっているのだと思うのです。その第三者は、まず役所に行って、陳情したのだけれども取り合ってもらえないから、仕方がないから裁判所に行ったということだと思うのです。最初のところをきちんと制度化するのが本当は大事なのではないかと思います。ただ、これは結局、個別法で必要に応じてきちんと作りなさいという話でして、この検討会でいくら言っても各省が作ってくれるとは思えませんので、そこが大事だという前提を置きながら、しかし最小限、現行システムでうまくいかない権利救済は裁判所がどこまで乗り出すかという、そういうスタンスがいるのではないか。現行法はそこを割り切ってしまって、取消訴訟中心主義、必要なものは申請の制度があるはずで、申請拒否決定の取消訴訟ということで国民は満足しなさいという立場を取っていると思いますが、おそらくそこは固すぎる。申請拒否処分プラス取消訴訟という救済ルートで十分でないときは義務付け判決がされてもしかるべきではないか。先ほど芝池委員が取消訴訟プラス義務付け判決という考え方を言われたのは私も同感するところなのです。その先、うまくいかない場合の救済としての義務付け判決の要件の話になりますけれども、私は義務付け判決の要件は少し緩めてもいいのではないか。これも前に既に御指摘があるように、実際問題としては、悠長な救済手続きを踏んでいたのでは間に合わないという、そういうケースが問題だと思いますので、重要なのは仮の救済なのです。私も、実体判決の要件論も重要だけれども、仮の救済制度をきちんと作るということが、さらにここでは重要ではないかと思っております。それぞれの部分の細かい要件論はまたおいおい考えていきたいと思います。

【塩野座長】どうもありがとうございました。はい、水野委員。

【水野委員】民事訴訟では給付訴訟が原則なのです。どうこうしろとか、どうこうするなとか、これは権利救済としては一番端的だからなのです。ところが、こと行政を相手にするときだけはそういうことはダメよというのが今の制度なのです。だからもしも要件論で言うのであれば、本来給付訴訟ができていいはずなのだけれども、やはりこれは行政相手だから、給付訴訟では困るという場合には給付訴訟は遠慮してよというのであれば、そっちの方で要件を書くべきだと思うのです。だからこういう場合に、いわゆる義務付け、給付訴訟ができるという要件ではなくて、たとえば第一次判断権が出されていないような場合にはこれはできません、まず行政に行ってやってみてください、これはこれで理由があると思います。先ほど市村さんがおっしゃったように申請権があるのに、申請もしないで裁判所に訴えてきたと、これは申請してきてくださいよと、これは分かると思うのです。だから、そういうふうに、こういう場合は逆に給付訴訟は困るのだという場合の要件を書くべきではないかと思います。

【塩野座長】どうもありがとうございました。はい、どうぞ成川委員。

【成川委員】今率直にどういうふうな感想を持ったかということなので、確かに4頁、5頁で見させていだいて、給付を求める訴えについて、現状ではそれを適法として認めたというのは1件で、後はゼロで認めなかったというのを見ると、どうしてこうなってしまうのというのが第一感のところで感じとして受けました。今それぞれの御説明を受けてみますと、申請をしたのにも関わらずそれに対する処分が出ていないとか、拒否されているとか、そういうことの中で、この争点になり、裁判所に訴えたと。しかしその場合にさらに緊急性なり要件を付けて、まず行政とやりなさいと、こういうふうにやるのは原告にとって重たい負担を課しているという印象を持っておりまして、やはりそこでも争点になったとすれば、その点について司法、裁判所として判断、それが義務付け訴訟ということであれば、そういう訴訟を出すというのは非常に納得的だというか、我々今まで学んだことでは争いの成熟ができているということであれば、義務付け訴訟を出すということになるのではないかという感想を持っているところであります。

【塩野座長】どうもありがとうございました。大分時間が経ちましたので、次回への橋渡しということもございますので、私の方でコメントさせていただきますが、要するに現行法をどう見るかということで、現行法は取消訴訟中心主義を取っているというふうに解釈した学説もありますし、裁判例もそういうふうに解釈したわけですが、この取消訴訟中心主義が三権分立からきて、当然の帰結であるかというと、そこはいろいろ議論のあるところだと思います。個人的な意見は差し控えますけれども、一つの意見としては立法者が選択をしているのだと。だから我々が今度は同じ憲法の下で、今までの取消訴訟中心主義から脱却しようということを考えたとしても、それは直ちに三権分立原則違反という問題は生じないのではないかという感想を持ちました。その辺を整理しておかないと、取消訴訟中心主義が三権分立の原則だと言われると、少しだけ緩めようかと、そういうお話になってしまいますので、それは少し議論が矮小化されすぎているのではないかという問題がございます。その取消訴訟中心主義から来ると、今の第一次判断権とか、それから3要件とかもそれなりの説得性と言いますか、論理はあるわけでして、第一次判断権は判例と田中先生の御意見とどっちが先かという歴史的な考証はしておりませんけれども、田中先生の行政事件訴訟特例法時代、早くから第一次判断権ということは言っておられました。3要件は確かに裁判所が出したものです。そこで取消訴訟中心主義を皆さんどういうふうにお考えになるか、そこを是非、整理していただきたいと思いますが、そこがある程度日本独特の法制度とすると、それをある種外して考えるということになると要件論は取消訴訟中心主義の下での要件論なので、そうではない、パラレルだ、取消訴訟とそれから確認訴訟と給付訴訟、これが一応3つ並んでいるのだ、と。この関係をどういうふうにすれば、一番先ほど小早川委員の言葉で言えば大きな行政法システムができるということになりますと、どうも3要件そのものとは違った角度から違った問題が出てくると思いますし、それから要件論がよく分からないのですけれども、実体法上の要件論だとすると、我々あまり考える必要はないです。これは給付請求権があればそれはあるではないかという、それだけの話になります。差止め請求権があるではないかと言われればそれだけの話なので、訴訟法上の要件論があるのか、あるいは訴訟上の要件論ではなくて、どうも実体法上の要件でもこの際書かないと裁判官なかなか大変だよという、そういうお話であればそれはそれとしてそういう要件論として今後議論をしていただければというふうに思った次第でございます。
 それから今日は確認のことが出てこなかったのですが、要するに取消訴訟をどう見るか、設計するかによって給付訴訟、さらに確認訴訟が非常に重要なものとなると思いますので、こういった点については確認訴訟でできるのではないかということについてもいろいろ御議論をいただければと思う次第でございます。
 そこで次の橋渡しになりますが、実はこの問題は三権分立の問題は日本の三権分立の問題なので、実は外国人はあまり議論しないようですので、義務付け訴訟、確認訴訟、不作為、差止め訴訟というのが比較法的に見て、どういう点にあるのか、どういう具体的なケースがあるのかという点についてはそれぞれ勉強しておられると思いますので、また追々何らかの形で披露していただければと思っております。この義務付け訴訟等については今日皆様方の御意見をお伺いしていると、たとえばこの取消訴訟だけは最後までやってみる、どうしてもダメな場合に救うというのではなくて、もう少し義務付け訴訟、あるいは確認訴訟の可能性を探ってみたら、というようなお話だったと思いますので、その方向で整理をさせていただきたいと思います。ただこの点については、あと次回でも御議論をいただくことになろうというふうに思います。
 そこで次回ということになりますけれども、今後の日程等につきまして、事務局から説明をお願いいたします。

【小林参事官】資料1の第2の2の「審理を充実・迅速化させるための方策の整備」、第2の3の「本案判決前における仮の救済の制度の整備」、これは(注)に書きましたようにかなり論点が多岐にわたろうかと思いますので、この点について資料を用意したいと思っております。それから第2トラックの検討につきましても、今日の議論を踏まえて、さらに具体化できないかどうかも含めて、それから今日いろいろと御意見をいただきましたので、そういった論点について補充して、御検討お願いできるように準備したいと思っております。

【塩野座長】そんなことを考えておりますが、いかがでしょうか。大体そういうことでよろしゅうございますか。

 (委員から異論なし)

【小林参事官】次回は5月23日(金)の1時半になっております。

【塩野座長】それでは最後に確認をいたしますけれども、今事務局の提案につきまして、一応御了承いただいたとしますと、検討の方向性が概ね一致している事項についての2の「審理を充実・迅速化させるための方策の整備」、それから3番目の「本案判決前における仮の救済の制度の整備」、これについてペーパーに基づき検討を進めたいと思います。
 第2トラックの検討につきましても、本日の議論を踏まえまして、給付訴訟、確認訴訟について実効的救済という観点から具体化できないかどうか、これも引き続き、検討するということでございますが、先ほど第2トラックについて、こういう点を議論すべきだという御提案がいろいろございましたので、それは事務局で整理をし、できるものは次回に御提示をし、無理であれば次々回になろうかと思います。そういうことでよろしゅうございますでしょうか。

 (委員から異論なし)

 それでは、終らせていただきます。今日はどうもありがとうございました。