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行政訴訟検討会(第18回)議事録



1 日 時
平成15年6月13日(金) 13:30〜18:00

2 場 所
司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者
(委 員)
塩野宏座長、市村陽典、小早川光郎、芝池義一、芝原靖典、成川秀明、
萩原清子、福井秀夫、水野武夫、深山卓也(敬称略)
(事務局)
松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官、村田斉志企画官

4 議 題
(1) 論点についての検討
(2) 今後の日程等

5 配布資料
資料1 主な論点【審理手続・証明責任・判決、裁量の審査】
資料2 主な論点【費用の負担、行政不服審査法等の他の法令との関係・個別法上の課題】
資料3 主な論点【行政訴訟の目的・行政の適法性を確保するための訴訟】
資料4 行政訴訟検討会において検討されている主な検討事項
資料5 行政官庁等からのヒアリング等の実施について(案)

6 議 題

【塩野座長】それでは、所定の時刻になりましたので、第18回行政訴訟検討会を開会いたします。事務局から本日の資料について、説明をお願いいたします。

【小林参事官】本日の議事次第にございますように、本日の配布資料の1から5までを用意してますが、その他に前回の検討が残っている部分がございまして、本日の検討に関係する部分として、お手元右手の資料の一番の上の部分に、前回の検討会資料の第4の、主な論点【行政訴訟の対象・取消訴訟の排他性・民事訴訟との関係、出訴期間】この部分から、前回の資料13まで、検討会の議論の概要をまとめた資料の部分まで、これを再度お手元にお配りしております。これも御参照して、本日の御検討をお願いしたいと思います。
 それから、なおこれは議題の、今後の日程等のところで御説明いたしますが、本日配布しております資料4ですけれども、これはあらかじめお手元に皆さん方にお配りしたものと若干、その後の委員の方々の御意見を伺いまして、目次を付けるとか、それから後ろの方の考え方についても、枠を付けるとか、若干の修正をしてございます。

【塩野座長】資料の御確認をお願いいたします。本日の検討の順序としては、今参事官からも御紹介ありましたように、前回残りました論点でありますところの、前回の資料4の、主な論点のうちの5の「排他性又は出訴期間を伴う処分を限定する考え方」と、それから6の「出訴期間の延長」、及び前回の資料5の主要な論点、つまり「原告適格・訴えの利益・団体訴訟」、これにつきまして御議論をいただき、そして本日の資料1から3の論点について、順次検討をするということにしたいと思いますが、それでよろしゅうございますでしょうか。

 (委員から異論なし)

 それでは、「行政訴訟の対象・取消訴訟の排他性・民事訴訟との関係、出訴期間」のうちの「排他性又は出訴期間を伴う処分を限定する考え方」、それから「出訴期間の延長」についての検討をお願いいたします。検討の方法は前回と同様でございます。なお、この部分については、前回既に事務局から説明を済ませておりますので、直ちに御意見の発表をお願いするということになろうかと思います。どうぞ、どなたからでも結構でございます。できれば、順序を追って、5から入っていただければと思います。

【芝池委員】それでは私の方から、まず私なりの考えを申し上げさせていただきます。最初から話させていただきますが、取消訴訟の対象として私は行政処分を中心にしまして、後はその他の行政立法でありますとか、行政計画とか、あるいは通達ですとか、そういうものをいわばプラスアルファのような形で考えております。ですから法律で書くといたしますと、行政処分その他の行政決定、または行政処分その他の行政の行為になると思います。以前、行政決定を取消訴訟の対象にすべきであると申し上げましたが、その後考えてみますと、やはり行政処分といいますのは行政の行う様々な行為の中で、特に裁判によって争う必要が大きいと考えるに至りまして、したがって行政処分を中心に、後はプラスアルファの形で取消訴訟の対象を考えるということであります。 それから、ちょっと順序を変えさせていただきたいと思いますが、出訴期間でありますが、これは以前は個別法で定めるけれども、新しい行政訴訟法でガイドラインのようなものを定めてはどうかという発言をいたしましたけれども、これはなかなか難しい話でありますので、現在思い切って出訴期間を1年にするということを考えております。1年にしますと、従来出訴期間について言われていました弊害というものがかなり少なくなると考えております。
 それから、排他性でありますが、これは前回申し上げましたけれども、取消訴訟の排他性を法律で、訴訟法に書くということは非常に難しいことであると思いますので、将来の課題とするという意味におきまして、排他性については新しい行訴法では規定をしないことにするのがいいのではないかと思っております。この排他性又は出訴期間を伴う処分を限定するという考え方のところでございますが、またどなたか御意見がございましたら、私なりの考えを述べさせていただきます。なお、先ほど申し上げました出訴期間が妥当するのは行政処分だけであると思っております。その他の取消訴訟の対象になる行為につきましては、それは裁判所が個々のケースにおいて、取消訴訟の対象にするかどうかを考えるものでありますので、例えば民事訴訟で争う場合には出訴期間はかかってこないということになると思います。ただやはり、取消訴訟を起こそうとしますと1年なり、1年という出訴期間はかかってくるのだろうと思います。以上です。

【水野委員】今の芝池先生の御意見ですと、いわゆるプラスアルファの部分は裁判所が取消訴訟の対象とするかどうかを考えて、取消訴訟の対象になるとすると出訴期間がかぶるという御意見ですか。

【芝池委員】いえ、ですから取消訴訟を起こそうとしますとそれはやはり1年なら、1年と書いてあれば、その出訴期間はかかってこざるを得ない。

【水野委員】なるほど。そうするとそれを民訴で起こしたとしますね、そのときに裁判所が、いやこれは民訴ではなくて、行訴でやるべきだ、あるいは行訴でもやれるか。

【芝池委員】1年が経ってからですね。

【水野委員】はい、1年が過ぎてからという場合は出訴期間はかぶらないということですか。つまりプラスアルファの部分は民訴でもやれるのだから、民訴でやったきた場合にはそれでいいじゃないかと。

【芝池委員】例えば、行政指導などについては、それは考えられます。

【水野委員】だからプラスアルファの部分はいわゆる排他性とか出訴期間はかぶらないわけですね。民訴で起こしていればそれで受け入れると。行訴で起こしてきた場合には1年間なら、1年間の出訴期間があるからだめよということになると。

【芝池委員】と思います。

【水野委員】こういう整理ですね。

【芝池委員】行政立法、それから行政計画につきましては、それぞれの独立の訴訟の問題とかありまして、それはまた別の問題だと思いますので、先ほどは触れておりません。

【水野委員】この件は何度も意見を申しておりますので、排他性や出訴期間については本来認めるべきではない。もし認めるとしても、その領域について必要であれば、個別法で例外として定めるべきだというのが私の意見です。それで、それに対する反論的な意見として、まずアというのがありますけれども、これが「行政の円滑・効率的な遂行による国民の利益を検討すべきである」という御指摘、これは検討していただいたらいいと思いますが、検討をしてみたところで、排他性とか出訴期間を廃止することによって、行政の円滑・効率的な遂行に支障が生じることにはならないだろうと思うのです。ですから今までは何ら、そういう検証もなしに、行政の早期安定みたいな、漠然としたもので、そういうものが無反省に設けられてきたというのが問題だろうと思います。それはイも同じです。それからウについては、条例の問題がありますから、その条例も当然例外を設けるのであれば、条例で設けるべきであろうと思います。

【深山委員】私も何度も言ってあれですが、今のアとかイとかに類することをかねてより言っておりますが、出訴期間に限って言いますと、これを廃止して、出訴期間が必要な処分については個別法で書けという、お話でしたが、いくつあると思っておられるのかなというのがまず一つ。処分かどうか争われるような類型の行為も多々ある中で、すべての処分について、それぞれの所管省庁が取消訴訟の提起の可能性を検討して、その場合に出訴期間の特例を設ける必要があるかどうか、原則、ないとしますと、個別的に考えるということは非常に大変なことです。やってできなくはないですから、やるべしということになれば、できないことはないという意味ではやれますが、ものすごく大変なことだと思います。それから出訴期間が設けられていて、法律関係を早期に安定することのメリットは検証されていないと言われましたが、検証するためにまずやめてみるという実験的なことを法制度で行うことは難しいことなので、そういうわけにもいかないだろう、ある程度予測的な判断で、どちらが予測として妥当かという形で物を考えるしかないのだろうと思います。この出訴期間について、このペーパーの方で提案されているもの、個別法で定めるというのが、今の水野委員が言われているように、全部やめてしまって、必要なものは全部個別法で手当てするというのなら、私がいったような問題があるのかなと思います。今でも出訴期間については特例を設けている個別法はたくさんありますので、3ヶ月がいいのかどうかはともかくとして、仮に延ばしたり、縮めたりする、特例を設けることを個別法でやるべきだという趣旨であるとすれば、それは今と同じで、大いに結構なことだと思います。
 それから、第三者の権利義務に変動を及ぼす処分に限って出訴期間を設ければ十分ではないかという考え方はこれまでも出ていますが、第三者の権利義務関係に変動を及ぼす処分かどうかという判断は、一つの処分が誰の権利利益にどういう影響が及ぶかということはそう簡単なことではありませんので、しかも明確になるのかというところで、この考え方、理屈としてはよく分かるのですが、法制度化するに当たっては難しい問題があるなという感じがいたします。
 出訴期間の延長のこともついでに言いますと、かねてより私は教示制度が整備されれば、3ヶ月でもそう短くはないと言っていましたが、どうも6ヶ月、あるいは1年というような説が皆さん強いようなので、そこはあまり固執はいたしません。ただし、教示制度を整備することは別の問題ですから、実現しなければこの話は別ですが、それはやるという方向で皆さんほぼ一致しているのだとすれば、この出訴期間を延長する必要性というのは、現在いろいろ言われている弊害を除去するために必要だということのようですけれども、教示さえしっかりしていればそんなことはないのではないかなという気がいたします。

【水野委員】今の深山さんの御発言ですけれども、私が言ったのは別に、行政コストが増えるとか、それから行政の効率・円滑的遂行に支障が生じるかどうかということを今回の法律改正で実験をしようと言っているわけではないので、むしろ出訴期間が廃止されたことによって、本当にそういうものが弊害が生じるのかということについての検証が必要だろうと申し上げているので、その辺の議論がないと思うのです。これは個別法で、例えば消防法などで短い出訴期間を定めている例が、それから国税の場合、2ヶ月の異議申立期間で、これは異議申立前置主義ですから、実質的には出訴期間は2ヶ月なのです。そういった例がある。これは、それぞれ必要性があるかどうかということについては私も異論もありますから、一応それは留保しますが、そういう必要性があるということで個別法が設けられているとすれば、それはそれでいいじゃないか。そうすると、そういったものが設けられていない一般的な行政処分について、3ヶ月の出訴期間を本法に置いておく必要性が本当にあるのかということについては十分に検証する必要がある、おそらくはないだろうと私は思っていますが、そういうことを申し上げたいと思います。

【市村委員】今の御意見に対してお尋ねしたいことが、2つほどあります。まず一つ目の、原則的に排他性は意味を持たないのではないかとおっしゃっている部分で、例えば今、非常に大きい行政訴訟の中心的な、量的に言えば中心的なものをなしているのが課税処分の取消訴訟があり、増額更正処分の取消訴訟などがありますが、そうしたものについて今のように排他性がないというお考えですと、例えば増額更正処分がされたときに、増額更正処分取消訴訟というのに拠らずして、例えばダイレクトに不当利得返還だとか、あるいは債務の不存在確認訴訟を民事訴訟で起こせばよろしいというお考えかどうか、これを第一点にお伺いしたい。
 それから出訴期間についての問題ですが、出訴期間を廃止するという、それはあまり影響がないという御指摘ですが、例えば最近の税金に関わる訴訟というのは非常に高額化しております、1千4百億円の租税債権についての取消訴訟というのもありますが、例えば異議申立まではやったと、しかしそれから先はどうするかというのを数年ペンディングにしておくということは許容されてよろしいのかどうか、それは非常に影響が大きい。それが予算的に組み込めるかどうかというのは大きいことだろうと思いますが、そうした点についてはどのようにお考えか、この2つについて。

【水野委員】まず1番目の点は、これは前から申し上げているとおり、やれるということです。つまり、民事訴訟というか、現行法で言えば当事者訴訟になると思いますけれども、要するに税金を返せという給付訴訟はやれるということです。そうすると、いつまでもやれるのかと言いますと、これは要するに税金の還付請求というのは5年間という、時効制度があります。ですから5年を経ちますと、判決をもらっても還付を受けられないということになりますから、そこでの制約はかかる。つまり時効制度によって、一定の期間制限的なものは生ずる、これは仕方がないのですけれども、それをわざわざ今のように2ヶ月という極めて短い期間を定めて、そして出訴期間にするということをする必要性は全くない。これは何遍も言っておりますけれども、証拠の散逸とか、いろいろ言われるのです。しかしながら、課税庁は3年間更正ができるのです。さらに脱税の場合には7年間更正ができることになっている。一方は、3年ないし7年間やれると言っているにもかかわらず、納税者の方は2ヶ月過ぎてしまったらもう争えないという今の制度は誰が考えてもおかしいと思います。ですから、市村さんの一番目の質問については、前から申し上げているとおりに、それは民訴でやってもいいわけであって、出訴期間については時効にかけるということです。
 それから、2番目の税金の高額化ということで、予算に組み込まれているという御議論ですね。これは、例えて言えば、東京都の銀行税の訴訟を考えていただければわかるわけですけれども、あれなんかでも争っている期間というのは何年間かあるわけです、裁判ですから、すぐに決着がつかないですから。それも同じようにペンディングなのです。だから出訴期間があって、例えば3ヶ月なら3ヶ月内に出訴をした。出訴したなら、それによってずうっと何年かはペンディングになるわけで、その間は予算は確定しないとおっしゃる御議論でいきますと、結局、あういう判決が一審判決で確定したなら、すごい還付加算金を付けて返さなければいけないという事態が何年か後に起きるわけです、3年後とか。あれは東京都で大きな問題だと思いますけれども、それは今の制度でもあり得るわけで、出訴期間を設けたら裁判が1年以内に決着つくということではないわけで、それは問題にならないのではないか。

【市村委員】後の問題について言えば、今のような、むしろ訴訟が決着つかなければならないのではないかというのは、まさにそれは訴訟が係属するということがちゃんとノーティスになっているわけです。それに比べて、あらゆる部分について、出訴期間についてそれを外すということは、極端に言えば、徴収した全額について、みんな不安定なものを抱えているという形になることになると思います。その異同というのはどうお考えかというふうな、ここに眼目があったのですけれども。

【水野委員】そういう意味では、全てが不安定と言ったら、そうですね。つまり、積極的に課税処分をしたものについては、全てが不安定になる。しかし、世の中にはたくさんの課税処分があります。現実に、それが確定しないことによって、実際上何か不都合が生じるかと言ったら、私はないと思うのです。不都合が生じるのであったら、そう言ってもらえたらいい。それは抽象的に、何となく確定していないから不安定だという、極めて抽象的な話でありまして、現実には課税処分をして、大半はそれで済んでいるわけで、問題になりそうな部分だけ争いになっているわけです。だから、抽象的には不安定だとおっしゃるが、実際はそうではないのではないかということです。

【福井(秀)委員】今の市村委員の質問に関連してのやりとりは、私も水野委員の言われることに分があるような気がするのです。結局、出訴期間の問題というのは、実体上、本当は違法があるものかもしれないものを一体いつまで争わせるのが妥当かという手続的な、一種の制約ですから、出訴期間を設けて非常に短くするということは、実体上、違法なものを結局は確定させてしまうという発生確率を高めるわけです。これは政策判断なのですけれども、本当に違法だったらやっぱりできるだけ是正させた方がいいと考えれば、第三者という議論が出ていますけれども、例えば第三者が迷惑を被るということでなければ、行政庁なり、国なり自治体にとってみればお金で後始末が付くような問題であれば、一定程度、例えば時効の期間内に争われて戻ってくるということでも別に実際上支障はないわけです、お金のやりとりがあるだけで。債務負担行為は手続上こういう場合何の問題もなくできるわけですから。とすると、いつ遮断するのがいいのかということを考えると、抽象的な法的安定とか、行政の効率ということだけからは演繹的には結論は出ないと思うのです。そこがまさに、水野委員も言われるような、実際になくなったときに誰がどのように困るのかということの具体的な指標を検証してからでないと、あんまり空中戦で行政の効率的執行、円滑執行という抽象論からは、結論はいずれにせよ出ないという印象を持ちます。だからこそ、具体的に出訴期間が、例えば半年なり1年なりに延びたときに、誰の利害が、どれだけ損なわれるのかということは、まさに行政庁をいずれ呼ぶことになっているわけですから、そこでじっくり聞いた上で判断してもいいのではないか。もし、だけどそれは逆に言えばネガチェックですから、行政庁の利害というよりは行政庁が代弁する国民の利益が損なわれるような領域が出たら、それはそれに対応するように気を付ける、だけど、逆に出なかったとしたら、やはり今の3ヶ月は非常に短いという感覚はある程度流布していると思いますので、先ほど御意見も出たように、私も、原則として1年ぐらい、個別法でより短いものを定めることがあるかもしれませんけれども、何も書いていなければ原則1年という方向は、大変現在のニーズにも合っているし、もし支障があるのなら、個別対応できるということからするとリーズナブルな方向ではないかという気がいたします。

【塩野座長】前からちょっと疑問に思っている点があって、私なりの疑問を申し上げたいのですけれども、実は韓国でこの行政訴訟検討会をやったのですけれども、排他性と出訴期間は一切問題にならないのです。むしろ行政立法をどうするか、そういったところに中心がある。私が制定法準拠主義とか何とか言いますと、そんなことぐずぐず言わないで、もっと日本の提訴件数が少ないのは日本のシステム、あるいは官と民のシステム、そこに根本的な問題があるのではないかという論調でして、その3ヶ月を短くという議論は一切というか、そのシンポジウムの場には出てきていない。それから外国法の検討のところでも、3ヶ月の出訴期間、あるいはドイツの場合全部訴願前置ですけれども、そういうことがあるために国民の出訴権が侵害されているという議論はあまりないのです。むしろ日本よりもずうっと高いバリアーがあるにもかかわらず、何十倍という出訴件数がある。そこは一体どういうふうに説明するのか。やはりそれは日本がいろんな意味の基盤整備が足りないので、この際国民に元気をつけるために、あるいはもっと出訴をしてもらうというインセンティブを与えるために出訴期間を外すとか、あるいは排他性をなくすとか、あるいは出訴期間をもう少し短くするとか、そういう議論をしているのかどうか、その辺がちょっとまだ未整理かなと思うのです。およそ、出訴期間があると国民の権利の制限をして、国民はそれを萎縮して出訴がなくなるということだと、フランスであれドイツであれ、ヨーロッパ大陸諸国は日本、アメリカよりずうっと出訴率が低くなければ、日本よりも場合によっては低くなければいけない。そこをどういうふうに説明するかという点が、これから世の中に、一般的に訴えていくためにはそれだけの整理はしておかないといけないと思いますので、私の意見は別として、そういう客観的な状況というのも踏まえて議論していただきたいと思いました。どうぞ、市村委員。

【市村委員】期間をどうするかということは、先ほどの芝池先生の御提案はペーパーで言いますと、③でしょうか。つまり1年というのは、処分があったことを知った日という切り方の方は外してしまって、処分の日から1年という画一的にするという御意見でしょうか。確かに、実務的には、処分があったことを知った日というのは、それが争いになったときには、非常に立証しにくいテーマといえます。知った日というのは、現実に知った日と解釈しておりますので、そこはなかなか難しいところなのです。だから要件として、難しいハードルを設けてまで、やらなければいけないかどうかということも、この際、考えてみたらいいのかなと思います。

【水野委員】今座長がおっしゃった、裁判が少ないことについてはいろんな要因があると思います。ただ、私ども弁護士として、いろんな相談にかかっている経験から申し上げますと、ある相談者が来た。いろいろと相談を受けて話を聞いてみると、それは行政訴訟として訴えを提起しておかなければならなかったのだが、しかしあなたは出訴期間が過ぎているから、3ヶ月を過ぎているから、結局は争えないのですよというようなことを言わざるを得ない場面はあるのです。これはおそらくいろんな弁護士に聞いてみれば、そういうふうに言って断念させたというケースはかなりあると思うのです。それは実感なのです。いやしかし、そういうものは3ヶ月より前に弁護士のところに行って相談すればいいではないかと言うのは簡単なのですけれども、それが行政訴訟として起こさなければならないものなのかどうかということさえ分かっていないというケースも結構あるのです。いろいろ相談にのっていくうちに、結局はここのところで争っておかなければならなかったのだと、しかしあなたはもうそれは争えませんよと言わざるを得ないケースは結構ある。これは弁護士の実感なので、だから出訴期間については、最低限、1年ぐらい延長するということぐらいはやってもらわないと困るということです。

【塩野座長】つまり日本は異常だと。随分皮肉っぽく言われたのです。制定法準拠主義とか何とか言っているけれども、日本の国家の体制ですかというふうに非常に皮肉っぽく言われたものですから、そういうことをあえて申し上げた次第でございます。どうぞ。

【福井(秀)委員】塩野先生の話に関連してなのですけれども、私も実感として、実際に処分をやってたころ、例えばいきなり裁判を起こすわけではなくて、原告予備軍の人達が行政庁にいろいろ相談に来たりすると、これはひどいのではないかというものがあるわけです。そういう応対も随分一手にやっていましたけれども、収用などですと、よくある混乱は裁決の中の補償部分とそれ以外の部分とで完全にルートが分かれていますので、要するに本当は金に文句があるのだけれども、たまたま教示制度があるから不服審査を使ってしまい、その後取消訴訟に移行する。弁護士も付いているのだけれども、どう考えても主たる争点は金目にしかないのだけれども、取消訴訟だけやっている。そうこうしているうちに、損失補償の当事者訴訟の出訴期間を今度は徒過して結局は争えなくなる。こういうものが随分散見されました。実際に相談に来る段階でも、そうなってしまっているというものもありました。これは、ルートが截然と分かれている割には、実際に収用された人にとってみれば、どの部分を何で争ったら、しかもいつまでに争ったらいいのかが、さっぱり分からないというので、かなり混乱している。幸いに直ぐに相談に来られた方には、親切に教えてあげるということはしていましたけれども、ちょっと時間が経ってからですと取り返しがつかないという例は現実にかなり経験しました。もちろん教示は非常に大事なのですけれども、でも教示に必ずしも乗らない第三者効のある処分などもあることを考えると、できるだけ、本当は実体上は違法なのに残ってしまったという部分を可能性として小さくしておくことは良い政策という気がします。
 それからもう一つは、法曹人口の人口比率が、韓国はよく知りませんが、ドイツ、フランス辺りは日本に比べますと膨大ですから、訴訟提起件数からしても、行政訴訟に習熟した弁護士の数は日本に比べものにならないほど多いわけです。そういう意味では今のところ、残念ながら、日本では行政訴訟に関する水野先生のような弁護士の過疎の問題は依然解消されていないので、出訴期間の方でもそれと釣り合いを取る形で、ある程度救済を広げておいた方がいいのではないかという気がします。

【塩野座長】分かりました。ただもう一つ、一般的な前提なのですけれども、行政手続法、あるいは情報公開法もそうだったのですけれども、基本的には自分の権利を主張するという、そういう方々のために主張したいと思っている人に、それを妨げるのは大変よろしくない、それは近代国家ではないという前提で、行政手続法、それから情報公開法の制定に関与したことがございます。やはり行政訴訟についても、そういったアクセスのルートをきちんとしておくことは必要なのですけれども、それがあえて国民に、是非これを使ってくださいということを、一種の国際的な標準以上に、なぜ日本の場合にそういった手を差し伸べなければならないのかという点がもう一つここでは十分に議論がされていないのかなと思って、今日あえてお伺いした次第です。お二人も、経験に即したお話でありまして、どうもありがとうございました。他にどうぞ。ただ、理論的に言うと、やりとりの議論の筋は大分議論が出てまいりましたので、他に何か新しい論点でもお出しいただければというふうには思いますが、他に何か新しい論点を付け加えていただけるなら、どうぞおっしゃっていただきたいと思います。

【福井(秀)委員】排他性については、出訴期間とダブルで問題になりうるということは繰り返し申し上げているのですが、特に縮減と言うかはともかくとして、あらかじめ少なくともはっきりとは境界線が決まっているということは重要だと思いますので、その点は繰り返し申し上げておりますけれども、交通整理の意味での訴訟選択ができるだけ迷いがないようにするということが重要だと思います。

【市村委員】ちょっと、今の福井委員に確認的にお伺いしたいのですけれども、今おっしゃっているのは排他性の排除の問題と、今おっしゃった迷いがないようにというのは。

【福井(秀)委員】排他性がある部分についてはどこに排他性があるのかが分かっていた方がいいという趣旨です。

【市村委員】なるほど。

【芝池委員】要するに、行政処分という形で切るのがいけないのですか。

【福井(秀)委員】それは、決めておけばそれで全然構わないと思います。

【市村委員】取消訴訟を例えば設けておいて、例えば国税で、課税処分についてはまず取消訴訟を提起しなければいけないと決めておけば、決めること自体が合理的であればという前提があるのでしょうが、決めておけばそれは特に反対ではないということですか。

【福井(秀)委員】私は完全撤廃論ではありませんので、排他性が、ちゃんと割り振り上外目に明らかで、割り振りに合理性があれば、それはそれで支持するということです。

【塩野座長】大変重要な問題ですので、今日議論していって、例えば原告適格を議論していって、はたと前の方のところを思いついたということがあれば戻って、御意見を発表していただくことは私としては、それこそ排除するつもりはございませんが、そろそろ時間のこともございますので、次の「原告適格・訴えの利益・団体訴訟」について御検討をお願いしてよろしゅうございますでしょうか。

 (委員から異論なし)

 それでは、これについては事務局からまだ説明がございませんので、事務局の方から御説明をお願いいたします。

【小林参事官】前回の資料5「主な論点【原告適格・訴えの利益・団体訴訟】」で、1で「原告適格の拡大」、2で「自己の法律上の利益に関係のない違法の主張制限の規定の削除」、それから2頁の3で「団体訴訟の導入」、この3つの論点を掲げています。この論点についての考え方で、1の「原告適格の拡大」については、①、②、③とありますが、「処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」という現在の行政事件訴訟法第9条の定める原告適格の規定について、根拠となっている行政法規が原告の利益を個別具体的に保護していることを原告適格があることの判断基準にしており、これが現在の判例であるというのがこれまでの理解であり、この現在の判例で認められる範囲よりも原告適格を拡大すべきであるという意見があります。そして、その観点からの意見について、具体的にそれではどういう規定をすべきかということになると、様々な意見があり、例えば①として、「現実の利益を侵害され又は侵害されるおそれのある者」について、原告適格の範囲を拡大してはどうか、これは、いわゆる法律上保護された利益ではなくて、事実上の利益にも拡大すべきだということです。②の「法的利益を有する者」は、法律上保護された利益ではなく、法的に価値があるものと評価されるべき利益という意味だと思われますが、そういう範囲のものについて、要するに個別具体的に行政処分の根拠となっている法律で保護されているかどうかということは必要ではないという考え方です。③の「処分又は裁決につき利害関係を有する者」は、民事訴訟等において、通常の裁判に対する不服申立て等の利益を有する者について、「利害関係を有する者」と規定されていることから、このような形で考えることによって、個別具体的に行政法規が原告の利益を保護しているかどうかという判断基準ではないという趣旨を明らかにしてはどうかという趣旨です。
 これらの考え方については、アからエまでの指摘を掲げています。アの指摘は、処分の根拠となっている行政法規によって、法律上保護されているかどうかという基準と比べた場合に、判断基準としての客観性や予測可能性を確保することができるかという問題です。イの問題については、判例で認められている現在の範囲について、条文の規定を変えることによって、どの範囲が拡大するのかというのがある程度明確にならないと、立法ができないのではないだろうかという考え方です。ウの考え方については、「法律上の利益」という現在の法律の規定そのものが、規定の解釈自体についても、そもそも法律上保護された利益という意味ではないとしても、侵害を受けた利益がどの程度のものであっても全ての場合に原告適格がある、ということを意味することにはならないのではないだろうか、あるいは法律上の利益という規定を変えるにしても、そこで言う利益の判断基準というのは法的に評価したという形での利益、法的に評価されるべき利益という意味での、法的な利益という範囲にはいずれにしても限られるべきではないのだろうかという点について、では規定を変えた場合に、そこはどこが変わるのかということを考えなければいけないのではないかという問題です。エの問題は、判例で今解釈されている法律上の利益を法律上保護された利益として考える考え方について、具体的な適用を仮に広くあるべきであるという考え方を取った場合に、実はそれが法律上の利益という現行の規定の問題であるのかどうか、むしろ現行法の規定を柔軟に解釈して、その法律上の利益というのはむしろ法的利益と同じような意味合いのものを意味して規定しているのだという趣旨で解釈すれば、柔軟に解釈、運用することによって、原告適格を広く認められることもできるのではないか、判例の解釈が狭いということが、立法課題になるのか、それとも解釈上の問題なのかということを問題として指摘しています。
 2の「自己の法律上の利益に関係のない違法の主張制限の規定の削除」については、そこに掲げた考え方は記載のとおりであり、その考え方に対する指摘については、例えばアの考え方については、そもそも原告適格があれば全ての違法を主張できることになると、取消訴訟が主観訴訟であるという性質が変容するのではないだろうかという懸念があることと、イの指摘については、手続に関する軽微な違法で、処分に影響を及ぼすおそれがないときというのを考慮し、そのようなときには取消しができないということを規定した例が他の法律にもありますが、そのようなときにも全ての処分を取り消すことにもしなるとすれば、それは適切ではないのではないかという考え方もあろうかという指摘です。
 3の「団体訴訟の導入」については、意見として出ているのは、歴史的・文化的な遺産や自然環境、つまり一旦損なわれてしまった場合に回復が不可能な価値というのがあるのではないか、そのような価値を保全するという観点からは、原告適格という厳格な訴えの利益の規制ではなくて、団体訴訟の制度を導入することによって、その価値を保全するための訴えをしやすい仕組みを考えるべきではないかというような考え方が出されています。その具体的な方策として、これまでの検討会の中で出ている意見として、①と②の考え方が掲げられており、①は元々個人で原告適格が認められる、つまり、ある意味で訴えの利益がある場合についても、その原告適格が認められる個人の訴える権利というのを、団体が代わって訴訟するというような形で、団体について、一種の訴訟担当の形で原告適格を認めるという団体訴訟の制度の考え方もあるのではないかという意見です。②は、個人に原告適格が認められない場合、ある意味で、非常に薄まった利益であって、いわば公益について、個人の訴えの利益が認められる場合ではないと認められるような場合であっても、そのような特定の利益を保護することを目的とするような団体にはその利益を守るための訴訟の原告適格を認めるような団体訴訟の制度を設けてはどうかという考え方があります。この団体訴訟を導入すべきであるという考え方に関しては、次の指摘のうちのアは、「団体訴訟については、法分野ごとに、個別の実体法において、その法律の目的やその法律が保護しようとしている権利、利益等を考慮して検討されるべきである、との指摘」や、それからイの「原告適格を広く解釈運用することも考えた上で、なお団体訴訟が必要な場合がどういう場合かを検討する必要がある」、このような指摘があります。

【塩野座長】それでは今の点、大きく3つに一応分かれておりますけれども、1、2はかなり連動することでもございますので、1についての意見の御開陳のときに、あわせて2についてもどうぞ御意見をおっしゃって結構でございます。ここで出ている、この点についてもかなり議論はいたしましたけれども、大事な問題でございますので、どうぞ場合によっては繰り返しでも結構ですから、御意見を述べていただきたいと思います。

【水野委員】原告適格を拡大せよというのは、おそらくほとんどの方の、行政訴訟改革を考える方の御意見だと思います。行政訴訟の改革と言ったときに、まず1番に出てくるのは原告適格、処分性の拡大というのが1番に出てくる。だから、他にもいろいろたくさん改革はあるのですけれども、この2つはいわば行政訴訟改革の象徴みたいな意味合いで語られているのではないかと思います。だから原告適格を拡大することは、当然のことだろう。それで、1のエという意見があります。つまり、「法律上の利益」という現行法の規定が悪いのではなくて、それを狭く解釈している裁判所が悪いのだという御意見がある。しかもそれをもっと批判して、最高裁の判例を変えるべきではないか、法律はこのままにしておいて、という御意見があるわけですが、これは今まで散々やってきたわけです。散々やってきたけれども、最高裁は変わらない。ですから、今求められているのは最高裁に解釈を変えろということをここで言うのではなくて、やはり解釈を変えざるを得ない形で、法律を変えるしかない。そこのところをまず押さえる必要があるだろうと思います。それで、この1、2、3と整理されていますが、細かいことを言いますと、この③の「処分又は裁決につき」というのは、これは要らないと思います、①も②もある意味そうですから。要は、現実の利益でやるのか、法的利益でやるのか、利害関係でやるのかという、3つです。それで、日弁連の意見は1番だということで提案しているわけですが、私もどれがいいかということは必ずしも固執するつもりはありません。一番通りやすいという意味では、3番の「利害関係を有する者」かなという気もする。というのは、「利害関係を有する者」ということで、法令用語を検索しますとたくさん出てくるのです。その中でもいろいろ濃淡はありますが、深山さんに後で御説明いただいたらいいかと思いますけれども、会社更生法とか民事再生法の関係では即時抗告ができるかどうか、つまり例えば民事再生に関して再生開始決定が出た場合に、誰がそれに対して、それが不服な人に対してです、倒産事件ですから、たくさん関係しているわけです。その中で、誰が即時抗告ができるのかという議論がありました。その場合に、再生の場合ですと、再生手続に関する裁判につき利害関係を有する者は即時抗告ができるという規定になっているのです。ですからこれは一種、行政訴訟の出訴と読めるところがあって、裁判所に訴え出るという、即時抗告という形で訴え出るということについて、利害関係を有する者という形で縛りをかけている。いろんな議論がされて、結局最後はそこに落ち着いたということだったと聞いているのです。そういう意味からしますと、前例もあることですから、③だったら通るのかなという気がいたします。それに対して、下のアとかイとかウとか、どこの範囲までというのが、利害関係を有する者という書き方にしたときに、どこまでの範囲なのかはっきりするのかという反論があり得るわけですが、これはどんな文章を書いても、はっきりするのかということはあり得るわけなのです。だからこれは現にそういう重要な場面、つまり倒産法の即時抗告ができるかどうかという極めて重要な場面でも、こういう形で使われているわけですから、少なくとも③で書けば、いわゆる外縁がはっきりしないではないかという反論は通らないのではないかと思っております。

【芝池委員】私も今の水野委員の御意見に賛成に近いような感じを持っております。要するに文言の問題なのです。もちろん原告適格が広がるようにという前提があるのですけれども、通りやすい文言になればいいです。ですから、③の文言でも別に結構です。ちょっと水野先生にお尋ねしたいのですけれども、今の③の「利害関係」というところ、これは「法律上」というのを付けてはだめですか。

【水野委員】いや、「法律上」と付けてはないのです。付けているものは一つもありません。

【深山委員】付けているものもあるのです。付けているものと付けていないものの違いは、当たり前だから付けないということがあるのと、それは当たり前のことでも確認的に書いておいた方がいいだろうということです。ちなみに倒産関係は自分でやったものですから、よく分かっておりますが、当然のことだから書いていない。感情が害されたとか、こういう事実上の利害関係はあるかもしれないけれども、そういうことを言っているわけではなくて、法律上の利害関係を意味して、「利害関係を有する者」としているのです。

【水野委員】それから、行政手続法18条の文書閲覧の関係ですが、これは「自己の利益を害されることとなる」参加人が、閲覧の関係ですけれども、そういう表現があります。ですから、「法律上」というのは出ていないのです。解釈としては両方あり得るのではないでしょうか。

【市村委員】③でいいのではないかという御提案の中身をはっきりお伺いしたいのですけれども、そうすると、ここは「法律上の利害関係」というふうに読まれるものを含めればいいのだということで、先ほど、例えば、現実の利益というものとの間には当然開きがあると思いますが、それはそれでやむを得ないということでよろしいのですか。

【水野委員】ですから、「利害関係を有する者」という規定でも、いいかなという話なのです、私が申し上げているのは。これは現実に例がありますから。それが「法律上の利害関係」でないとダメだというふうに解釈されるかどうかは、次の段階の話ですから、現実に訴訟が出てきたときに、その人が。

【塩野座長】それはしかし、立法段階である種、利害関係とは何か、他に「法律上」という言葉があるのとないのがあるといったときの説明としては、深山委員が言われたような説明をする場面に追い込まれますよね。そのときにはこれは解釈に委ねます、という御提案として承ってよろしいですか。

【水野委員】「法律上の」というふうに限定する必要はないだろうと思います。それは実際には「法律上の」というのは、私が見た限りではないのです。

【市村委員】普通はこの「利害関係」という言葉が出てくる法律の解釈においては、「法律上の利害関係」と解釈するのが一般的であって、例えば「現実の利害」も含むのだという解釈をするのが解釈手法として一般かというと言えないと思います。もしそういうことであれば、むしろたくさんの法規が、「利害関係」というものを今のような意味で使っていますので、御提案を、もしそこを是非含みたいという御趣旨であれば、判然とするような形で、御提案なさった方がよろしいのではないでしょうか。

【塩野座長】別に今日、確定というわけではありませんので、フリートーキングの段階でございますので、どうぞ御自由に御議論いただきたいと思います。

【小早川委員】私も、言葉の問題よりは実質を議論すべきではないか、「法律上の」という場合にも、何が「法律上」であり、何が「法律上」でないかということがまさに問題なのであって、言葉だけで全員一致しても問題の解決にはならないのではないかという気がします。
 私自身は、繰り返し申しますけれども、一つは行政手続法の第10条を作るときに相当議論した。近鉄特急事件の最高裁判決が出て間もないときでした。あれなんかは判例では原告適格は認められないけれども、行手法10条は、申請者以外の者の利害を考慮すべきことが当該法令において許認可等の要件とされているもの、この文言がスマートかどうかはちょっと分かりませんけれども、考え方としては、行政庁がそういう権限を与えられている、その趣旨は一定の広い範囲の利害も考慮して値上げを決めろということである。最高裁の言うようにそれが個別にその人たちの利益を保護する趣旨かどうかというところまではここでは問題にしないということだったと思うのです。
 私はこの際、処分の名宛人と第三者を分ける必要があると思います。名宛人は、不利益を受けていればあとは大体問題ない。第三者については、原告適格は、私の言葉で言えば法律の保護範囲に入っていれば、それは一般的にはまずは認めていいのではないか。最高裁判例の言うような、それプラス個別保護要件というのは課する必要はないだろうというのが一つであります。ただ、保護範囲が広くて薄い場合があります。そういう場合は、誰でも訴えられるかというと、それはそうではないだろう。そこは、その中で十分に利益の濃い人を選別しなければならないだろう。ただ、それはそんなに大変な話ではない。別の面から言えば、およそ行政庁が何らかの決定をするということを法令で定められている場合に、国民にとってどうでもいい話というのはあるはずはない、だから行政庁の決定はどうでもよくはないのだから、そこは法的に何らかの縛りがあるはず、明文または不文の縛りがあるはずで、それをきちんと守られているかどうかというのは誰かが訴訟で訴えることができてしかるべきであろう、もう一つの原則として、そう思います。もちろん、ものによっては、行政庁の決定であっても、これは全くの政治的な問題であって法廷ではなく投票所で決着をつけるべきものというものはある、全くの政治的な事柄というのは別だと思います。けれども、そうでなければ誰かが訴えることができてしかるべきではないか。そういう観点から、適当な人が出てくるような、そういう絞り方はすべきだろう。ですから、文言としては行手法の10条を睨みながらこれをもう少しリファインする。かつ、今のようなことがどこまで表現できるかということはありますが、そこは考え方さえ定まれば、裁判所に分かっていただければ、裁判所が適当に運用してしていただくのが、裁判所は大変かもしれませんけれども、やっぱりあるべき姿なのではないかという気がいたします。ですから、伊場遺跡のような、あういうものは政治的な問題ではない、国民共有の利益が法的にきちんと守られているかどうかということであり、それを争うのに一番ふさわしい形があの事件では出ていたと思うのです。それでも認められないのはおかしいのではないか。いやしかし、考古学者というのは法律など分かっていない、訴訟などうまくやれないということであれば、それはもちろん弁護士さんがいればいいし、後は団体訴訟の問題になってくるのではないかと思います。

【塩野座長】一般的に国民の目から見て、ここで原告適格が今までの判例では狭すぎるのではないかという御感触を受けておられると思いますけれども、何かコメントをいただけますでしょうか。

【成川委員】私も是非、原告適格の拡大はする必要はあるのではないかと考えております。それは、現実に今までの判例を見ますと、ほとんど却下されているということなので、それをどうやって救うかということで、この書きぶりで、ア、イ、ウというふうないろいろな御指摘があるわけで、この辺はどうするかは考えないといけないと思いますが、少なくともエに書いてあるような、今まででもできる解釈の問題ではないかということについては、現実にこれでなかなかできてこなかったということがあるので、このエの解釈については先ほど水野委員からも出ましたが、もう理由からは、今後のまとめでは削除すべきではないかと、私は思います。

【塩野座長】今の御提案はちょっとまだ直ぐに削除するということにはいかないものですから、どうぞ。

【松川事務局次長】事務局として、これからヒアリングなり、国民の意見を募集したり、あるいは検討会の議論を踏まえて立法作業をする立場として、あえてさらに御議論いただければという趣旨で発言しているのですが、抽象的な議論の背景はよく理解しているつもりでありますが、問題は、例えばこの法律上の文言を変えようとする場合に、変えることによって、今後新たに救済されるというか、原告適格が拡大される典型的な、具体的なタイプを1つ、2つどんな例かというのをはっきりしないと、それが妥当かどうかは判断できないと思うのです。行政庁にとってもとても怖くて判断できないと思うのです。こういう場合を主として念頭に置いているということであれば、その程度ならいいという判断をされるかもしれないし、いやそれは困るというかもしれません。それは予断を許しませんが、そこはもう少し明確にしていただきたい。
 それから、それとの兼ね合いで、たとえ文言を変えたとしてもここまでは広げすぎだと考えている、だから外縁がある程度、解釈の指針がないと、結局は文言を変えてみてもはっきりしないということになれば、今の使い勝手の良い判例の理論により近づいた解釈に行われる結果に、仮に結果としてなってしまったら、文言を変えてみてもあまり何も変わらないということになりますので、少なくとも文言を変えるとするならば、どこの部分を念頭に変えようとされているのか、もう少し明快に御示唆いただければと思います。

【芝池委員】それは原告適格だけの話ですか。ほかの場合も改正案を出す場合に、例を挙げろというお話ですか。

【松川事務局次長】原告適格の場合は、事程左様に文言というのが非常に、そういう意味で必ずしも固定的な運用になっていないわけですから、それは過去の判例を調べていただいても、かなり固定的に狭く解釈していた例も多々あることは承知しておりますけれども、弾力的な判例の例もありますし、まだ固いというものもありますし、いろいろございます。その判断は非常に難しいと思います。それで具体的にどうするかということはこれから議論して考えていくわけですけれども、その際の判断の拠り所としては、非常に原告適格の方は非常に抽象的な文言であるだけに、もう少しどのところを念頭に置いて、議論されているのか明瞭にしないと、特に行政庁辺りは答えにくいと思います。

【芝池委員】原告適格だけの話ですか。

【塩野座長】差し当たり。具体的な判例を挙げてほしいということですか、今の次長のお話は。

【松川事務局次長】いや、判例というよりは判例でなくてもいいのですけれども、こういう事例の場合だと、従来の判例を当てはめると、なかなか否定される例になるのではないかと思われるけれども、これは救済するべきだから、変えるべきだというのなら議論はやりやすいということです。

【市村委員】先ほど小早川委員が御指摘なられた近鉄特急の例で、これなら入るのではないかと、こういう配慮の仕方も出てくるのではないかというところ、そういう具体的なところだと思うのですが、私も同時にその中で、例えばその中の適当な人というのがありましたけれども、例えば特急料金の場合の、適当な人というのはもう一つどういうものが適当な人か、例えば定期券を持っているということがあればいいのか、あるいは具体的に先予約していて、その頃には増額運賃を払わなければいけない立場にある人だとか、そういう適当な人とは何ぞや、ということがもう少し議論になればいいのかと思います。ちょっと申しますと、つまり私も狭いという御指摘を受けている部分についての、何らかの、これはやっぱり誰かに争わせるべきだという、御意見はよく分かるつもりです。そのときに、ある種の偶然によって、獲得した地位というか、偶然に近い地位で獲得した人に、そういうことを代表させて争わせるのが本当にいいのかという点が引っ掛かるのです。つまりそういうものであれば、手続における公聴会制度と同じように、本当に全体として、例えば環境なり、あるいは広く薄い公共的な経済的な利益も含めて、そういうものに対しては、何かもう少し制度を広げて、そういう団体なり何なりに争わせる、後から出てくる団体訴訟のようなものというのも一つの連動する対案として考えうるのではないか。だから、この適当な人の選び方というのが、主観訴訟の中で本当に主観訴訟に帰属する適当な人が選べるのであれば、そういう道もあるでしょう。ただ、それが非常に選びにくいという、適当な人が本来主観訴訟的な属性をほとんど持っていないということになってしまうということになってしまうのならば、客観訴訟の中で上手に仕組んでいくということで、同じ目的を達しうるのではなかろうかという気がします。

【福井(秀)委員】私も今の松川次長の御指摘と市村委員の御指摘、同感です。言葉の問題というよりは、各委員の頭にある、この例はひどいから救おうとか、例は確かに、今では間に合わないかもしれませんが、次回ぐらいまでに持ち寄っていただくのと同時に、事務局の方でも、今までの議論で出ている判例がありますので、それについて例えば、この①、②、③の書き方をしたときに、それぞれごとにどこまで広がることになりそうかという、普通の解釈を前提としたときの対照表をお手伝いただく。

【松川事務局次長】それがなかなか難しいものですから、むしろ具体的な提案をされている方にお伺いしたい。

【福井(秀)委員】もちろん、事務局で分かる範囲については整理していただけると、手掛りがあってやりやすい気がするのです。

【塩野座長】資料的には今までの中でかなり出ているのではないかと私は思うのです。日本の判例、最高裁の判例、こういうのがあります。そして、それを今度は外国法に照らし合わせたときに一体どうなりますかということで、外国法の専門の方に大変時間を掛けて整理していただいて、それがもうジュリストにも載っているわけです。ですから、それぞれ御覧いただいての上での御発言だと思いますけれども、さらには議論を細かくしていくためには、あるいはこれから法制的に向かっていくためには、具体的なことを少し明確にしながら議論する必要があるのではないかと思います。

【小林参事官】今の座長の御指摘のとおりだと思いまして、原告適格につきましては、次長からも申しあげて、福井委員からも御指摘があったように、具体的な事例をいくつか挙げて検討してはどうかと、今まで差止め訴訟とか確認訴訟でかなり事例をたくさん出してみて検討しておりますので、それと似たような形で、改めて御検討いただけるような準備をしたいと思います。

【塩野座長】バックグランドも一応できているので、もうワンステップだなというふうに思います。これから外に出て行くときにはそういう作業が必要だと思います。

【芝池委員】確かに具体例というのは一つ問題だと思うのですけれども、私が従来判例に不満を持っておりますのは、木で鼻をくくったような形で原告適格の判断が行われている例が割合とあることです。例えば、以前場外馬券売り場の設置承認処分について、周辺の住民が取消訴訟を起こした事例があったのですが、(これは下級審の判決です。)そのときの判決は、競馬法ですか、それから下位の政令とか省令を見ても、どこにも周辺住民の利益を保護をしている規定は存在しない、そういう論法で結論を導いている。そういう個別具体的なケースというのは妥当性の問題もあるのですけれども、そもそもその判断を許容するような法律の仕組みというのはまずいのではないかと思います。

【小早川委員】私は次回とか何とか言わずに、どんどん例を出したいと思います。今出したのは近鉄特急事件です。あれは個別保護ではないと言われれば、そういう読み方もできるかもしれません。ただそこは法文には何も書いていないわけで、非常に主観的、悪く言えば恣意的な、といいますのは結果を見てから議論するようなそういう最高裁のスタイルだろうと。それは良い方に出ていることもあります。ただいずれにせよ、あの場合で言えば従来そこに住んでいて、従来からそれを通勤に使っていて、これからも使うであろう人が原告団の中の大きな部分を占めていれば、もうそれでいいのではないかと思います。
 それから伊場遺跡の場合ですと、そこの遺跡の研究を生業にしていて、それも営利目的でもなくて本当に好きでやっているという学者たちであれば、それはいいのではないか。
 それからジュース訴訟でしたら、あらゆる人たちがジュースを飲む可能性があるということですと、外国人も日本に観光で来て飲む可能性があるからということになりますが、それは多分ダメで、その場合は利益は非常に薄くて、拡散しているけれども、しかし全体を合わせれば大きなものであって、それを従来から実績をもって、主婦連という団体が消費者の利益を擁護している、そこがこれを問題にして訴訟を起こすというのが認められるような、そういう団体訴訟の穴を空けるのがいいと思っています。ですから、環境であれば、当該事項について実績がある環境保護運動をやっている団体は見れば分かるわけです。そういうものであればそれでいいのではないか。法技術的に、諸外国がやっているように、団体訴訟を認める場合に何らかの政府の認可、承認、資格付けのようなものを別途考えることはなくはないと思います。それは今後必要に応じて考えればいいのですけれども、あるべき大まかな方向はそういうことではないかと思います。それでなお、そういうこの人なら、あるいはこの団体なら大丈夫だというのがいないケースは仕方がないということはあるかもしれません。非常にわけの分からない、ちょっとは自分も関係がありますよと、まさに何らかの意味での利害関係はあるよと言ってきても、その人に訴訟をやらせるのがいいかどうか、裁判所がどうしても自信が持てないというケースはあると思います。そういうものは却下されても、それは仕方がない部分はあるかなと思います。

【市村委員】これもやはり質問なのですけれども、先ほどの適格者を選び出すときの一つの要件として、法律の保護の範囲に入っていればという留保があったと思いますが、その場合の法律というのは、当該根拠法規のことを言っておられるのでしょうか、それとも法的という意味なのでしょうか。

【小早川委員】そこは行政訴訟ですから、結局行政庁の行為規範があって、それに適合しているかどうかということが主たる課題になりますので、そういう行為規範があることが前提です。それは成文の法律、法令の規定であればはっきりしますが、そうでない部分の規範もあるだろう。ただ、いずれにせよ、その人との関係で、ある利益との関係で、行政庁に拘束がかけられているということが前提になるわけでして、ですから先ほどの馬券売り場のようなケースですと、そこは微妙で、競馬法は周辺住民のことは何も考えていない、そこは一般民事法の世界に任せているということであれば、それは民事差止めでできるという筋になるのではないかと思います。

【市村委員】考え方は分かりました。

【塩野座長】ですから、エの議論をするときに、最高裁の判例が全然変わらないという前提で議論しなければいけないのかということがもう一つのポイントだと思います。最高裁判所は微妙に玉筋を変えているのです。これでどうか、これでどうかということで、ただあそこの議論の中でやっぱりどうしても引っ掛かるのは個別利益という、個別と公益という仕分けがそんなにできないのではないかというのが、行政法学で大体、そういう傾向にあるときに最高裁判所は個別の利益という、さらにその個別の利益については制定法の、個別根拠法で迫る、新潟空港の判決は別として。それで頑張っていると、なかなかここでみんなが議論してたようなことにはいかないと思うのですが、ただ最高裁も最近の判例は個別利益と言いながら実は、この間の事件を見ますと、かなり踏み切った議論をしているという段階にあるということも一つの情報であると私は思いまして、あえて情報提供を申し上げた次第でございます。
 そこで、2のところは今日のところはあまり御議論なかったのですけれども、どうぞ。

【福井(秀)委員】原告適格ですが、私は基本的には広げた方がいいと思っていますし、広げるに当たってはできるだけ明確に書いた方がいいという一般論を持っております。先ほど御指摘があったように、この事件のこの人は救うべきだとかいった評価はあった方がいいと思いますので、そこは追って私も整理して表明したいと思いますが、現時点の資料の段階で気が付いたことは、アからエまでいろいろありますけれども、特に論点になっているエですが、最高裁の解釈自体をなかなか行政庁がこうあるべきだと言っても変わらないものは変わらない。三権分立の国ですから。現時点で立法でできる範囲は、せっかくこういう立法の場があるので、できるだけ先取りして、最高裁に対する一種のお願いというか、要請という意味で立法的解決をしてしまう方がよろしいかと思っております。
 ア、イ、ウとあるのですが、これだけ出るといかにも難点がいっぱいあるように見えるのですけれども、これも先ほど、どなたかがおっしゃったように、現在の原告適格の実定法上の基準だって、権利を侵害された者としか書いていないわけですから、それをどう解釈するかについて、最高裁の判例を補えば分かるけれども、条文だけ見れば分かりにくいということであれば、五十歩百歩だと思うのです。そう考えると、できるだけ明確に書く努力をするのは当然ですけれども、新しい案と比べて、今の形がそれほどいいかどうか。そういう問題も、こういうことを記述するのであれば、指摘しておいた方がよろしいのではないかということです。
 それから、行政庁の行政法規の立案者の感覚というのを少し御披露申し上げます。行政庁で行政法規を作るときに、処分の要件をいっぱい書きますけれども、最近は第三者効を持つ条文を作るときには、流行ですから、一般国民とか周辺住民のことを配慮する規定を設けるのは主流になっていますが、一昔前だとあまり考えない。要するに実際に処分を下した当の相手方の権利保護は、古典的な行政法理論の枠内ですから、かなり考えて書く。しかし他のことはそんなに考えない。あまり熟考した上で条文を作らないという場面は一杯あるのです。そう考えると、今の最高裁のアプローチの根本的におかしいところは、ある条文の要件をいろいろひっくり返して、どこか手掛かりはないかと、救いたいものを救う手掛かりを一生懸命、いわば行政庁が多少思いつき的に書いた要件の中をひっくり返して探すところがあって、やや滑稽な感じがあるのです。端的に、先ほども近鉄特急が出ていましたけれども、行政庁の作った法律の要件の細部に、作る方は意味を持たせて作っているのではないというものは昔の法律には山のようにあるわけですから、それを原告適格の非常に根幹的な拠り所にするというのは、元々ミスマッチだと思います。そういう読み方をされているとしたら、所詮その程度の雑な前提で作った行政法規も多いのだと割り切って、条文の中に、特に正面切って相手方になっているわけではない、第三者に影響するところの手掛かりがディテイルにせよあるかどうか、というアプローチよりは、先ほど来出ている法的な利害関係なり、あるいは現実の利益の侵害なりという明確な基準で割り切った方が、実質的な法的な常識に合うと思います。
 もう一つ、法的な利害関係という意味なのですけれども、侵害の評価が法律上救済に値するかどうかというのが一つの側面と、もう一つはその当該処分に因果関係の根源があるのかという意味での、一種の因果関係論の意味での法的評価という意味もありうると思うのです。後者について言うと、例えばよく収用などで出てくるのは、都市計画もそうなんですけれども、起業地外の人が環境を理由に訴えることがあるのですが、これは今の裁判だと原告適格なしというのが通説判例だと思います。こういうところまでは広がらない方がいいと思っております。ただ、一方では小中学校統廃合で、よっぽど苦痛のある者だけ原告適格を認めるというのは是非直していただきたいということです。

【塩野座長】どうもありがとうございました。そろそろ、2の方に移りたいと思います。どうぞ。

【水野委員】2の関係では、日弁連の試案では、今の10条に代わるべき法律の文言として、むしろ逆に、もっぱら第三者の利害に関わる違法事由を主張することはできないというような形で、逆の方向で書くべきでないか。但し、公益に関する事由についてはこの限りでない、という但し書きも入れる。そういう形で、むしろ積極的に逆の方向で変えるべきではないかという提案をしているのです。これについては、このアに書いているように主観訴訟という性質が変容するのではないかという反論があるだろうと思います。だけど、これはやはり行政訴訟の目的をどう考えるかという、そこにもちろん関連するのですけれども、原告適格というのはそこで絞りをかけているわけですから、原告適格で絞りをかけている限りは、行政の違法性を正す訴訟という意味で、主観訴訟という枠をはみ出ることにはならないと私どもは考えております。
 それからイの指摘はここの指摘として適切なのかどうかよく分からないのですが、イはここの問題点の指摘になるのでしょうか。場所が適切ではないような気がいたします。

【塩野座長】他にどうぞ。2のところ、あるいは3のところも既に出ていますけれども。

【水野委員】それで、そこまで行くのが無理ということであれば、少なくとも10条は削除すべきだという意見です。

【芝池委員】今の10条に関する水野委員の御発言につきましては、私もほぼ同様に思っております。一つ議論を進めるというようなことで申し上げさせていただきますと、公益に関する規定と言われるものの中には、私的な利益に関するものも含まれているのではないかと思っておりまして、以前大阪であった事件だったと思いますけれども、病院の開設の許可を周辺の住民が争ったのです。その理由は外部に、例えば換気扇のようなものを通じて外部に向けて空気が流れるといったこと、つまり外部との関係での衛生設備の不備に関することだったのですが、裁判所はそういう衛生に関する規定は公益に関する規定であると言って、原告適格を認めなかったのです。しかし、私は公衆衛生が公益であるとしても、同時に周辺住民の利益を含んでいるものであると思いますので、それについての規定違反があれば、周辺住民も違法を主張できるということでないとおかしいと思っておりまして、そういう点で公益に関する規定が、全て原告側が主張できるかというとちょっと躊躇するところがありますけれども、内容によっては私人である原告が違法を主張できる、そういう公益保護規定というのはあるだろうと思います。そういう意味で現在の規定はちょっと狭いと思います。

【市村委員】御指摘の問題点というのは、むしろ自己の法律上の利益に関係のない違法という、現在の定義であっても、本当にそれが、今問題が自己の法律上の利益に関係がないという結論付けをしたことがいいのかどうかというところにまずあるのではないかと思うのです。確かにそういう意味で、この規定は狭く解されやすい。逆に言うと理由を制限しやすい傾向を持つという御指摘はもっともなところがあると思うのです。ただ、純粋な形で捉えていってしまうと、もっぱら第三者の利益である、かつそれは公益であるから、違法事由として主張できるとなるとやはり、私はこの性格は客観的な性格を持ってしまうのではないかと、つまり自己の法律上の利益に関係がない、今芝池先生がおっしゃられたのは、むしろそこは自己の法律上の利益に関係がある部分だというところで、そこを間違った解釈をするなという御指摘だと思うのです。そういう意味で、文言をそういう間違われないように、適切な文言に改めていこうという方向であれば、基本的には賛成でございます。ただ、その中に水野先生がおっしゃられたところの最後の、もっぱら第三者であり、かつ公益であるから私が言う、というところは主観訴訟からはやっぱりはみ出ていると思います。そこの部分だけは、文言を変えるというのではなくなって、性格を変えることになろうかと思います。

【塩野座長】この点、条文解釈をここで詰めても難しいし、なかなか一般の方に分かりにくいところかと思いまして、こういう形でこれからパブコメをかけるのはあまり適切ではないのかと思いますが、重要なポイントではありますので、このように書いて出しているところでございます。ただ、今のお話の公益の点も、例えば土地収用の場合には、まさに公益が本当にあれば自分の土地が取り上げられても構わない、違法ではないということにある意味で、公益についての問題は今の場合でも排除されていないです。ですから、どの程度のものが本当に排除されるかという点について、ちょっとそれぞれ考えるところが違い、それが今の法律の案文の作り具合が必ずしも適切でないので、そういった誤解を生じているとすれば、それを改めるのにやぶさかではないというのも、市村さんもそういうお考えだと思いますので、今日のところはこの程度にしておきたいと思います。
 それでは、「団体訴訟の導入」について、既に多少の御発言もございましたけれども、何か。

【深山委員】団体訴訟の導入、それ自体の問題の是非というのは別途あると思うのですが、行訴にこういう形の、「回復不可能な価値を保全するなどの観点から、団体訴訟の制度を導入する」ということを行政事件訴訟法でやろうとしている趣旨ではないのですか。それぞれの文化財保護なり、環境保護なりそれは個別法がありますが、そういうところで一定の団体はその法律で決めるということで、原告適格を付与して、一定の処分を争わせるということを個別法で書けば、それは是認していいでしょうということであるとすれば、今でも是認されるのであろうと私は思っていますから、何ら問題もなくて、あるとすればそういうものができたときの判決効などについて、行訴法中に特殊な規定を置いておくということを考えるかどうかという論点なのかなとずうっと思っていたのですが、この資料の書き方は個別法のことを言っているのか、何か特殊な行政の分野については行政事件訴訟法に類型化して何か書くということを言っているのか、今ひとつよく分からないなという感じがしたのですが、そもそもどういうことなのですか。

【芝池委員】それは今から一つの論点になりうると思うのです。つまり、新しい行政事件訴訟法でどこに書くか、どこまで書くかということが一つの論点になり得ると思っておりまして、私の意見を申し上げますと、全部個別法に委ねてしまいますと、いつまでたっても団体訴訟の導入は図られないだろうということもあり得ると思いますので、手掛かりになる規定は新しい行政事件訴訟法に書き込む。後はどういう分野で、どういう団体に原告適格を認めるかは個別法に委ねざるを得ないと思います。

【深山委員】手掛かりになる規定というのは、例えば判決効に関する規定でもいいですが、置けば、そういうものがあり得ることになって、作れば受けられるということになりますか。

【芝池委員】極端に言えば、団体訴訟については、別に法律で定めるところによる、とか、判決効なんかもそれは言えると思います。

【塩野座長】それはこれから議論するところだと思います。

【小早川委員】そこはまだ詰める段階ではないのかなと思うのです。個別法なしには団体訴訟なしというふうに割り切るか。そうでなくて、私の考えをストレートに伸ばしていけば、薄い利益でも基本的に原告適格なしということにはならない、だけれども、そういうときに薄い利益の持ち主一人一人に原告適格を認めるよりは、裁判所として、こういう団体が出てくればその利益を代表しているものとしてそれは認めますよという形で、一種の任意的訴訟担当かもしれませんがそこは訴訟技術的にいろんな整理の仕方があると思います、そういう裁判所の選択の余地を認めるような、そういう穴を一般法で空けておくか。そこは両方あると思うのです。どちらがよいか。もちろん、前の方の選択で、行訴法なりなんなりに書くときには、個別法が全然動かないで絵に描いたもちで何も意味がないというのはつまらないですから、それなりの見込みをもって、ちゃんとお土産が出るような形で、進めていくべきだろう。そこは立法のやり方の問題だと思います。

【塩野座長】そっちのことを申し上げますと、団体訴訟の導入のところについてはいろんな角度からの御発言があり、それを一応こういう形でまとめたということで、団体訴訟はやはりいろんなことを考えたときに認める方がいいのではないかということはずうっと出ていたと思います。ただ、それを今の話のように行訴法でどういうふうに受け止めるかという、ある種法技術的な点についてはまだ議論は詰まっていない。その段階で、一応こういう形でパブコメ、あるいは行政庁の意見を聞こうという段階だと思います。

【水野委員】ちょっと議論が分からないところがあるのです。団体訴訟という場合に、いわゆる法人格がある団体、ないしは法人格なき財団、社団、そこまでは訴訟適格があるわけです。ですから、法人格なき社団でも、行政訴訟の原告になりうるわけです。問題は、個人とはちょっと違った形で、団体についての原告適格の認め方というのは少し違うから整理しようかと、そこのところが一つあると思うのです。
 それから、もう一つは人格なき社団とまではいえない個人の集まりみたいなものについても、例外的に訴訟適格を認めるのかという議論、そこのところをきちんと区別しないと、ここで言っている団体というのは訴訟主体になり得る団体を前提にしているのか、していないのか、そこの区別があるだろうと思うのです。例えばNPOが、伊場遺跡の裁判をやるときに、それは訴訟の当事者適格はあるわけで、問題は原告適格、訴えの利益、そういうものが特に要件を定める必要があるかどうかという議論なので、そこを整理しないといけないのではないかなと思います。

【塩野座長】大体予定している時間は過ぎましたので、もしよろしければ、「原告適格・訴えの利益・団体訴訟」について、御意見を承ったということにしたいと思います。
 そこで次が、「審理手続・証明責任・判決、裁量の審査」ということでございますが、時間がまいりましたので、10分間休憩ということにしてはいかがと思います。15時20分に再開したいと思います。どうもありがとうございました。

(休 憩)

【塩野座長】それでは時間がまいりましたので、次に、「審理手続・証明責任・判決、裁量の審査」について御検討をお願いいたします。まず事務局から資料の説明をお願いいたします。それでは事務局、よろしくお願いいたします。

【小林参事官】本日の資料1で、審理手続・証明責任・判決、それから裁量の審査に関する項目を掲げています。論点については、1で「主張・立証責任を行政に負担させること」、2で「処分の理由等の変更の制限」、3で「事情判決の制限」、4で「裁量の審査の充実」を掲げています。
 1の「主張・立証責任を行政に負担させること」については、行政訴訟では、行政の説明責任や原告の主張・立証の負担を軽減する観点から、国又は公共団体がその行為が適法であることの主張・立証責任を負うことを定める規定を行政事件訴訟法に設けるべきであるとの考え方があります。これについては、原告の主張・立証責任を軽減する観点から国や公共団体の費用で事実の調査をする制度を設けてはどうかという意見もあります。この考え方については、アとイの指摘を掲げており、アについては、証明責任というのは、法律に定める要件ごとに実体法の解釈によって定まるものであるということから、それぞれの実体法の規定の趣旨や要件の内容などを個別に検討することなく、訴訟法において一律に定めることは適切ではないのではないかという御指摘、イの指摘は、処分又は裁決の理由の説明や記録の提出等を行政庁に命ずることなどで原告の主張・立証の負担を軽減するということが今検討されているので、そのことを考えながら証明責任に関する実体法まで変更するかどうかは、慎重に検討する必要があるという指摘です。
 次に、2の「処分の理由等の変更の制限」は、処分の理由等が訴訟の前やその初期の段階で示されたものからその後に変えられることによって、原告の主張・立証の負担が増大することがないように、そういう観点から、例えば行政手続法で理由の提示が要求されている処分については、訴えが提起された後に理由を変更することができないことを規定するなど、処分の理由等の変更を制限すべきでないかという考え方です。この考え方については、例えば、アで、行政手続法で理由の提示を定めた趣旨は行政処分が慎重にされることを担保するためであり、その後の理由等の変更を制限する根拠にはならないとの指摘、イで、処分の理由等の変更を制限すべき範囲を一概に定めることは困難ではないか、それからウで、民事訴訟法の一般原則でタイミングに後れて出された攻撃防御方法は却下することができるという民事訴訟法157条の規定があるが、そういった民事訴訟法の一般原則と異なる主張の制限を規定する必要があるかどうか、この点については慎重に検討する必要があるという指摘です。
 3は「事情判決の制限」で、これは事情判決の制度によって国民の権利救済が必要以上に制限されないようにする観点から、損害賠償等の代替措置を講ずることができない選挙訴訟などでは、事情判決をすることができないものとする考え方です。この考え方については、事情判決があるということで、行政の違法の判断がされやすい面もあるのではないか、という指摘もあり、事情判決の制度は濫用されているとはいえないのではないかという指摘もあります。
 4の「裁量の審査の充実」で、行政の裁量については、現在行政事件訴訟法30条で、「裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる」とされていますが、これによって行政の裁量に対する裁判所の審査というのが必ずしも充実してはいないのではないかという指摘を基に、それを充実させようという観点から、①から④のような考え方が指摘されています。考え方の①については、現在の「裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合」、つまり権限の逸脱、濫用の場合に限って処分を取り消すことができるという趣旨を定めた行政事件訴訟法第30条の規定については、決してこれらの場合に本来限られるべきではないのではないか、比例原則や合理性の基準など、裁量処分が違法になる場合を他にもあり得ると規定すべきでないかという考え方です。②は、そもそも今のような権限の逸脱、濫用に限って、裁量処分が違法になる、取り消すことができるという行政事件訴訟法30条の規定は、その規定のあり方からして、裁量審査を抑制する効果を持つおそれがあるから、それを削除すべきではないかという考え方です。③は、さらに積極的に、費用便益分析手法などの客観的科学的な基準で裁量の審査をすべき旨を規定してはどうかという考え方であり、④は、裁量基準及びその基準の適用の合理性を行政庁に主張立証させて行政庁の判断過程を明確にし、その判断の方法又は過程に誤りがある場合には処分が違法になるとの規定をしてはどうかという、こういう訴訟手続的な規定をすべきだという考え方です。
 これらの考え方に対する指摘として、アからエまであり、アは、裁量は実体法の解釈の問題であって、裁量の司法審査の幅は多様であるから、考えられるものをすべて規定することは困難であるとの御指摘です。イは、社会の熟度や社会の流れによって裁量の幅が変わることに法律の規定がどういうふうに対応できるか検討する必要があるのではないかという指摘で、ウは、費用便益分析手法など、まだ未熟で進歩していくような過程の技術を審査の基準とすることは適切でないのではないかという指摘で、エは、裁量の審査は、実体法の趣旨に沿って個別具体的に検討する手法が判例では確立しているのではないか、したがって、行政事件訴訟法第30条の規定が裁量審査を抑制しているとはいえないのではないかという指摘です。

【塩野座長】どうもありがとうございました。項目、多少性質の異なったものがございますので、できれば前の方から順次に御意見をいただければと思います。主張・立証責任の話からでございます。どうぞ。この点も、ときどき既に議論して、その結果こういうふうな問題が出ているということですので、全く同じ議論をもう一度積み重ねても、効率性からいかがかとは思いますが、ただ念には念のため強く言いたいということがあればおっしゃってくださって結構です。

【芝池委員】最初の主張・立証責任のところですけれども、行政は行政処分になる理由とか、根拠になる事実、あるいはそれを主張する資料を裁判所に出すことは別に議論しています。ここで書かれておりますのは、審理不明の場合の負担を原告、被告どちらに負わせるかという立証責任だと思うのですが、立証責任については学説はばらばらでありまして、判例でもあまり出てきていないように思います。規定できるような形で議論がまとまるかどうか、はなはだ疑問に思っておりまして、私もここでは発言いたしません。

【塩野座長】他に何か付け加えるような御発言はあるでしょうか。

【水野委員】この冒頭の考え方、つまり行政事件訴訟法の原則規定を設けるということだと思うのです。それで、アとイの反論があるわけですが、アについて言いますと、行政事件訴訟法の一般法に原則を定めておいて、後は個別に別の規定を設けるということは、別に何ら問題はないと思いますから、一律に定めることは適切でないという指摘は当たらない。これは、例えば国税通則法116条という規定、原告が行うべき証拠の申出という規定があります。これはいわば例外を定めたものでありまして、つまり原告が「必要経費又は損金の額の存在その他これに類する自己に有利な事実につき課税処分の基礎とされた事実と異なる旨を主張しようとするときは、相手方当事者となつた税務署長又は税関長が当該課税処分の基礎となった事実を主張した日以後遅滞なくその異なる事実を具体的に主張し、併せてその事実を証明すべき証拠の申出をしなければならない」という規定があります。これは一種の例外を定めているわけです。ですからそういった原則をまず訴訟法に定めておいて、個別法に例外を定めるというのはあっていいのではないかと思います。
 それから、イがどのことを言っているのかよく分からないのですけれども、「証明責任に関する実体法まで変更するかどうかは、慎重に」。

【塩野座長】これは、今芝池委員が言われたことです。

【水野委員】前段の行政庁の処分を命ずるだけでいいじゃないか、という御意見ですね。

【塩野座長】命ずることでいいじゃないかということではなくて、そういった議論をしてきたと。ですから、そういった議論を踏まえて、もう少し深く検討をしたらどうかということだと私は理解をしております。

【水野委員】だから、「慎重に検討する」と書いておりますけれども。

【塩野座長】この点もまだまだ学説も何だか分からないところが多いのです。この際、行訴法に1条、いかなる取消訴訟についても行政庁に立証責任がある、それを客観的に見て、主観的に見るのではなく、書くということまでは学説も判例も固まっていないというか、まだ混乱の状況にあるので、意見は差し控えたいというのが芝池委員の御発言です。

【水野委員】ただ、行政処分をした行政庁が、行政処分の根拠となった理由を主張して、それを基礎付ける事実を立証する、これは一致しているのではないでしょうか。

【塩野座長】ここでの議論は、そういう主観的な問題ではなくて客観的な、それこそ審理不明というときになったときにどうするかという、そういう立証責任です。

【水野委員】ですから、今のレベルで言いますと、そこのところは行政庁に立証責任があるというのが、これはもう一致しているのだと思います。

【塩野座長】今のレベルというのは、どのレベルですか。

【水野委員】つまり行政庁が処分をした根拠ですよね。ですから、それをきちっと書いておくことは必要なことではないでしょうか。

【塩野座長】それは前回済んだところだと思いますが。

【市村委員】おそらく立証責任と言っているのは、先ほど芝池先生が御指摘になったときに、真偽不明の状態になるような要件についての負担はどちらが負うべきかということで、そのレベルで言えば、例えば、こういうことで自分は免除が受けられるべきであるというようなことで免除申出をしたような者に対して、あなたは免除に必要な、かような要件について何ら資料を出していないので、これについては免除の要件はなく認められませんというような処分が不服だった人が、その取消しを求めたときに、どちらも何も出さなかったというときに、どっちを勝たせるかという形だろうと思います。それはやっぱり、利益的な処分、受益的な処分であれば、それを求める人が主張・立証責任を負っているのだという理解で、実務では皆さんおやりになっているのではないでしょうか。逆に、課税処分のように負担させるというか、侵害処分という呼び方をすることが多いと思いますが、そういうものについては、その要件の具備をそういうことを負担させることを命ずる側がやるということで、ここで一律に定めると言ったときに、その一律というのがどの範囲か分かりませんが、そういうものを個々具体的に、ではこれについてはどっちということを一律だと言うのなら、およそそういういろいろな状況において、それを、侵害処分はどちら、受益処分はどちらということも、乱暴すぎてとてもできないというのが実情ではないのでしょうか。

【水野委員】ただ、第一次的には受益処分であっても、それを拒否する場合ですよ、それはやっぱり行政庁に主張・立証責任があるのではないでしょうか。

【市村委員】今おっしゃっているのは、なぜ拒否処分したのかというのは、受益の要件を満たしていないことを説明しなさいという部分を言っているのでしょうか。

【水野委員】いや、主張して、立証する。

【市村委員】だから、もし両方出さなかったら、課税庁は、例えば免除の要件であることを満たしていることが分からなかった、そういう事実が資料から認められなかった、そう主張して何も出さなかったら、免除を受けなかった方が負けて、免除をすべきだということになるわけですか。そうはならないと思うのです。フラットなところより、有利なことを求めるなら、一般的にはそちら側に資料もあり、その人が求めるのだから、そっちに負わせる方が適当だという考え方で現実の分配をしているのだと思うのです。

【水野委員】そうでしょうか。つまり原告の方でまず、特定はしますよね、一般的な主張ではなくて、こういう理由だとします。それに対して、そういう理由がないということで拒否処分をするわけです。そのときに、あるかないか分からないという状態になったときに、原告の負担になりますか。

【市村委員】それはそうだと思います。

【小早川委員】しかく左様に議論がされていますけれども、今の論点につきましては、私は私なりの考え方を書いたことがあります。最終的には行政庁が証明責任を負うんだと、しかし申請の場合には行政庁の調査義務は軽いものなので、行政庁が証明すべき事項というのはごく単純な話でいいんだという筋で書いたことがあります。ですが、そういう事実もあれば、それとは別に、裁量処分の場合、行政庁の担当職員が実はねじくれた心でもって意地悪してやったのではないかという事実が問題になったときに、それについてどっちが証明責任を負うのかとか、そこはいろいろあるわけです。私も芝池さんとやや似ていますが、ここはまだ一般ルールを明文化するには、私の説を取っていただければそれでいいのですがそれは多分無理でしょうから、まだ時期尚早ではないかという感じがしております。

【塩野座長】少し時間の関係もありますので、先に進ませていただきます。2の「処分の理由等の変更の制限」、この辺は如何でしょうか。

【福井(秀)委員】1でちょっとよろしいでしょうか。1のイの前半部分は、この話を独立にやるという選択肢はないという整理ですか。要するに資料提出等を行政庁に命ずることができるというのが、これだと対立論点になっているように見えるのです。それはそれでやるという議論もあったような気がするのですけれども。

【塩野座長】それは、そうです。

【福井(秀)委員】それはよろしいのですね。確認です。アの説明について、ちょっと疑問がありまして、証明責任が実体法の解釈で定まるということなのですが、これだけ書かれると、この法律を作るときにそういうつもりで作れば、例えば民事法でならいいのですけれども、行政法規で一々、挙証責任の配分を考えながら立案するということは聞いたことはありませんので、行政庁の立案する法律で、実体法の解釈によるのだということが裸で出てくると、これは大分ミスリードになると思います。アのようなことを書くのなら、今私が申し上げたようなこともフェアに並べておいていただかないと、必ずしもかみ合わないなという気がします。
 それから、義務付け訴訟の義務付け要件の立証要件というのは、ここでの議論ではないという整理ですか。

【塩野座長】今の問題は、やや義務付け訴訟的なあれですね、免除をしてくれという問題ですね。

【福井(秀)委員】例えば、さっきの議論に関わるのですが、生活保護拒否処分のような場合には、立証責任はどっちにあるのか。

【塩野座長】どっちにあるのか、という難しい問題があります、そういうことです。

【福井(秀)委員】分かりました。

【塩野座長】それから、アのところも整理がなかなか難しいのですが、こういう指摘なのです。民訴の人はこういうふうに割合おっしゃる。つまり実体法上の問題だとおっしゃるのです。行政訴訟法関係のコンメンタール、あるいは教科書、あるいは一番立派なのは雄川先生のだと思いますけれども、その辺を見ると、民訴の実体法の作り方が違うので、なかなか簡単にはいかないだろうということで、小早川さんだけが説を出しているわけではなくて、私も説を出していますが、誰も通説はない、そういう状況だと、そういう説明だと思います。
 では恐縮ですが、2の方に行ってよろしゅうございますでしょうか。

【芝池委員】これは処分の理由等の変更の問題も前に散々議論して、座長の方から、要するに結論が出なかったという、まとめがあったという記憶をしておりますけれども。

【塩野座長】結論が出なかったということではなくて、懲戒処分と分限処分の問題はこういうふうなことですという説明をしたという段階で終わって、この検討会も今の段階ではこういう整理をしたようなレベルかなという、そういう趣旨でございます。

【芝池委員】それは結論的には、これも新しい行訴法では規定しないということでいいのではないかと思います。

【水野委員】これは規定すべきだと私は思います。この反論として、アが書いてありますけれども、行政手続法で理由の提示を定めた趣旨は行政処分が慎重にされることを担保するためだと、その後の理由等の変更を制限する根拠にならないという指摘、しかし、これは変更を認めるというのであれば、慎重にする必要はないのです。

【塩野座長】この文章は私の教科書にも書いてあることです。

【水野委員】後で理由の変更を制限されるからこそ、処分をされる段階で、慎重にすることになるわけであって、後でいつでも変更ができますよということであれば、これは慎重にされることの担保にはならないと思います。

【塩野座長】いい加減なことをやっておいて、後で変更した場合には、それは前の理由付記が不備であったと、そういうことになると思います。あるいは慎重に検討をしていなかったということになります。いろんな理屈が100頁書いてあって、きちんと調査をしないで、ただのんべんだらりとくだらないことを書いているということであれば、それは理由付記の不備だということになります。一生懸命調査をして、一生懸命理由を書いたにもかかわらず、さらに新しいものが発見をした、いろんなことがあったときに、変更ができるかどうかというところがここの問題。行政手続法はとにかく慎重に相手方の意見を聞くなりなんなりして、きちんと理由を書いて決定をしなさいというのが、行政手続法の立案に関係した者の考え方ですが、その考え方を今まで書いてきましたので、その考え方はおかしいという御批判は十分に承ります。

【水野委員】いや、批判ではなくて、要するに行政処分を慎重にされることを担保する、これは別に、判例がいっている話です。判例が昔から言っている話でありまして、だから、そういう趣旨からしますと、その後に理由の変更ができるということであれば、行政処分が慎重にされることを担保するということにはならないのではないか。これは前にも議論しましたけれども、全く処分理由をつけないで、処分をしたら、これは取り消されるのです。しかし、これでとりあえず行っておけと、慎重でなくて、これで行っておけといった。ところが、後になってもう一遍調べてみたらこっちで行こう、これは有効になるのです。ですから、その点からもおかしいわけでありまして、やはり慎重にされることを担保するための制度であるというのであれば、これは変更に一定の制限を設けるということは当然の論理的帰結だと思っております。
 あと、イの、「制限すべき範囲を一概に定めることは困難である」という御指摘がございますが、これはつまり、例えば青色申告の更正事件で京都地裁から最高裁へ行った事件がありますが、あれは要するに処分の理由の変更に当たらないと言ったのです。これは譲渡所得の取得費が問題になった。ところが、その後に譲渡代金の方に理由を変えたというケースで、ですから最高裁の判例は両方とも同じ譲渡所得で、取得費か譲渡代金かという争いなので、処分の範囲内なので変更に当たらないといったものだと思います。ですから私は前にも申し上げたのですが、要するに刑事事件の公訴事実の同一性と同じ考え方で、つまり処分の同一性の範囲内であれば、これは変更に当たらない。しかし、処分が違えば変更に当たるわけで、その処分が同一かどうかはそれぞれの事案で判断をしていけばいいわけであって、イは必ずしも反論にはならないと思います。
 ウの民訴の時機に後れて提出された攻撃防御方法、これは民訴の場合は両当事者間、要するに主張を出し合ってやっている裁判なのです。今問題になっているのは、とりあえず第一次的な行政処分の違法性があるかないかが問題になっているわけですから、この民訴の時機に後れた攻撃防御方法の却下の問題をとり出して、違う制度を設ける必要があるのかということは、これは必要があると言わざるを得ないので、これは反論になっていない。

【小早川委員】解釈論としては、アのところは私も塩野座長と同じです。ただ学界ではどちらかというと少数説かもしれません。そこの議論をしようと思えば、私も座長をサポートして大いにやりますけれども、ただ解釈論を離れて考えた場合には、気分としては私は、訴訟の早い段階で行政庁に理由を特定させる、今の前提で行けば行政手続法にしたがって書いた理由と同じである必要はないと思うのですけれども、結局行政の立場はこうですということを訴訟の早い段階で確定させる、土俵をそこで決めてしまうということが、むしろ両当事者間の公平という観点からしてもバランスがいいのかなという気がしないでもありません。ですが、技術的に今度は、理由を特定したといっても、理由の同一性がその後の訴訟の中でまた問題になるということはあり得るわけです。主要事実、間接事実みたいなことを新たに行政庁が出してきていいのかどうか、その辺で非常に紛らわしい話になってくるのではないかという気もいたしまして、そうすると技術的に難しいかなという気もしていて、結論は出ません。

【福井(秀)委員】理由変更は実際上、原告側にとってみると、やはり被告が理由を変更する度に振り回されるという意味で、防御権が実質的には損なわれるのは間違いないわけですから、今のように変更自由というのは、全く行き過ぎだと思います。そういう意味で、何らかの理由変更の規制は当然に必要ではないかと思います。行政手続法との関わりはともかくとしても、立法論でそれこそ考えれば、訴訟の段階で簡単には理由が変更できないというのは、当然に処分庁に対する注意義務を高めよというメッセージ、インセンティブを与えることになりますから、処分段階での適正な、あるいは適法な行政処分をもたらす上で実質的な寄与をすることは間違いないわけです。そういう意味でも、手続法でもまさに慎重にということで、こういう規定があるのだとすれば、精神はそう異ならないわけですから、訴訟法の方でも、政策判断としての理由の変更のコントロールはやった方が現段階ではベターと思います。イとかウとか当てはまりにくいというのはさっきの水野先生の意見と同じでありまして、これだけを出して、外に出すというのは若干バランスが悪いと思います。
 係争中の処分の変更なり追加という論点もあると思いますが、そちらも規制した方がいいという意見です。例えば、課税処分の取消訴訟の係争中に更正とか、再更正といった新しい処分が次々に出るという場合に、新しい訴えを提起させるのかどうか。あるいは新しい訴えを提起して、その負担を負えということを常に要求するのは必ずしもフェアではありませんので、こういったものについても、例えば当初の処分を適法に争っていれば十分だという扱いにすることが考えられると思います。

【水野委員】1点だけ補足しますけど、御案内のように理由付記を要求されている根拠はもう一つは、原告に対して不服申し立てをさせるかどうかの判断をさせることにあるのです。その点もやはり考慮する必要があると思います。それで、今福井さんが振り回されるとおっしゃいましたけれども、確かに私自身が経験したケースでも、控訴審になってから、理由を追加するというケースがあるのです。それが一審の段階で、その主張をするのかといって、問い詰めた、釈明した、それらしいことを言っていますからね。それは主張しないと言ったのです。主張しないと言って、一審では負けてしまった。すると控訴審で予備的に、その主張をしてきたというケースもあるのです。やはり一定程度、歯止めをかけないと、調査権もありますから、どんどん調査をして、いつまでも理由を追加していくということにもなりかねない。だから、例えば第3回口頭弁論までなら変更を許すと。第1回では答弁書が出ます。つまりそこで処分の理由が分かる。第2回ではそれに対する反論が出る。少なくとも第3回目ぐらいまでにはそういう機会があるわけで、そこの辺りまでなら変更は許すけれども、それ以後はダメだとか、それでもかなり原告側としては助かる、負担の軽減になるのではないだろうか。だからそういった点もやっぱり考えていく必要があるのではないでしょうか。

【塩野座長】どうもいろいろと問題を提示していただき、ありがとうございました。ただ、なかなか難しい問題、拘束力はどこまで働かせますか。つまり、その段階で敗れたとしても、その理由が敗れたのですけれども、別の理由が見つかったものですから、もう一度打てますよね。ところが、その理由の変更を認めることになりますと、その拘束力ないし既判力は全部に及びますから、一時的な解決というのはそちらでできる、担保できるのです。ですから、その場合の許さずという意味が、どの程度のことをおっしゃっているのか。拘束力も既判力も全部、訴訟物に及びますというのか、その辺の議論をしないといけないというふうに思いまして、難しいなということをつぶやいているのです。

【小早川委員】私は、処分理由特定後の差し替えを制限するからには拘束力も処分そのものに及ぶ、繰り返しはできない、そこまですることがまさに両当事者間の、行政と私人との間の公平ではないかと思いつつ、しかし結論は留保します。
 それからもう一つは、福井さんが、再更正、再々更正を許すという前提でおっしゃってて、そこのところ、理由の差し替えを制限することと平仄が合うか合わないかという議論は一つあると思いますが、そこは私もよく分かりません。ただ、1点気が付いたのですが、この検討会では、まからずや事件的な、あの種の訴訟物論の議論というのは今までされていなかったような気がするのです。今の行政訴訟の一つの非常に具合の悪いところであることは確かだと思います。

【福井(秀)委員】今の塩野先生の御指摘ですが、今小早川先生がおっしゃったような前段の整理で、既判力も拘束力も差し替え制限する以上は当然、処分全体の違法に及ぶという理解をしております。

【塩野座長】そのときに、いろんな処分があるときにそういう形で一律に整理していいのかどうかというのが問題なのです。

【市村委員】ちょっとその辺のところを申し上げたかったのですけれども、例えば増額更正決定処分というふうなものであれば、前提があることで、ほとんどその要件は全体が分かるわけですけれども、一つの何かの段階の処分では、例えば手続的なものだけしか考えない、手続的に何か既に瑕疵があると判断したから、実体的なところまで踏み込まないで、 そこに対する行政的な判断は何もしないで拒否だとか、そういう判断が仮にあったとします、そうしたときに今のそういう理由でやった処分の外縁とは何かという辺りはなかなか難しい問題だと思うのです。手続と実体がクリアーに切り離せるか、あるいはどこまで行政庁が見たかということを基準にできるか、それも何か変な、そういう意味で処分の1個単位というのがなかなか難しいところがあって、制限するということと裏と表になると思うのですが、今の福井先生のように考えたとしても大きい問題は残ってしまうと思うのです。そこら辺の議論がもう少し詰まったならば、もう少し適切な議論ができるのではないかという気がいたします。
 それから、先ほど水野委員がおっしゃられた一つの例に対しては、まさにウのところで、時機に後れた攻撃防御方法というふうなことは民訴一般の、そのままそれは使えることは使えるだろうと思います。

【塩野座長】それでは、3の「事情判決の制限」、これはかねて福井委員の御主張のところで、その趣旨で書いて、選挙訴訟などということで書いてあるわけですけれども、この点について、その後何かお考えはありますでしょうか、御主張自体は承っておりますので。

【芝池委員】選挙訴訟というのはどういう趣旨で書いてあるのでしょうか。

【塩野座長】それはかねてより福井委員が言っておられるように、選挙訴訟などに使われていると。

【芝池委員】しかし、それは当然の法理によるものです。

【塩野座長】その議論はいたしました。ただし、検討会として、こういう問題提起があり、そしてこれについては、この考え方については、という指摘があったということを客観的に書いてあるということでございます。この点は、行政庁の方で、こんなことがあるからと事例を出してくれればもっと議論しやすくなると思います。従来の判例では、ときに変なものがありました。今はあまり変な判決はないと思います。それでは、新たな事情判決の制限について、御意見を承ることも結構でございますが、時間の関係もございまして。

【福井(秀)委員】事情判決は代償措置の問題が重要なので、これも例えば裁判所が事情判決を下すときに、当事者の意見を聞かねばならない。しかも原告はその場合に損失補償請求を追加的に併合できるとか、そういった措置まで手続的に入れておけば、かなりの制度の趣旨が生かせるのではないかと思います。

【塩野座長】それは、ですから損害賠償か、損失補償かという議論がいろいろとありました、御承知のように。裁量のところは如何でございましょうか。

【深山委員】判決の今の言われたのは、する前に事情判決をするからと言う訳にはいかないですよね。

【塩野座長】中間判決があります。

【福井(秀)委員】これは言っておいてもいいのではないでしょうか、まずいですか。事情判決というのは、結局敗訴の自認みたいな要素があるので、当事者からはなかなか言い出しにくいわけです。だから裁判所がある程度、音頭を取ってあげる実益はあると思うのです。

【塩野座長】私もその点では福井さんのような意見なのですが、要するにいろいろと話し合って、このままだと負けそうですよという判断をせざるを得ない。取消判決をせざるを得ない。だけれども、こういった点でいろんな賠償問題、あるいは補償問題、あるいは施設の点について、準備をするならば、ということで事情判決ということに、実際の運びはそういうことになるのではないかと、私はこの制度を理解しているのです。およそ裁判官は頭の中でずうっと考えていて、最後になって事情判決だということにはおそらくならないのではないかと、そういう例ができちゃったのは最高裁のこの選挙訴訟の例なので、それはおかしいというのが福井委員のおっしゃるとおりだと思います。

【福井(秀)委員】あれは元々は確か塩野先生の御見解だったと理解しております。

【塩野座長】どこがですか。

【福井(秀)委員】選挙訴訟に使ったのは、事情判決制度としてはのりを越えているというのは先生の御講義だったと思います。

【塩野座長】あれは雄川先生が何とかあれを正当化しようということで、一生懸命苦労して、私はそれを横で見てて、ちょっと茶化してやろうということです。あれは判例評論ですか。

【小早川委員】いや、論文です。

【塩野座長】それでは裁量の審査について、どうぞ。今まででの御議論は私、比較的盛り込まれていると思いますが、ただちょっと申し上げたので、今回ここに載せるかどうかというのは別問題として、裁量処分、裁量権という概念自体が、オーストリア系の先例を行訴法の制定のときに、それからアメリカの例も引かれて、こんな例があるではないかということで、行訴法に入れられたのです。小委員会等の議論の過程を見てみましても、あまり詰めた議論はしていない、私が見た限りでは。つまり、それは19世紀あるいは20世紀の始めの頃の裁量処分、裁量権という概念が、そのまま学説上固定されているので、我々は21世紀の議論をしているときに、こういう古典的な概念をそのまま維持した立法を維持するのかどうかという論点があることも申し上げておきたいと思います、残すか残さないかは別問題として。そういう論点があるということです。

【福井(秀)委員】裁量なのですが、基本的に行政裁量ないし、裁量という言葉自体を廃止した方がいいのではないかということです。趣旨は、行政はそもそも法律にのっとって判断して、しかも判断や行動の選択の余地がある場合でも、全く自由ではないということが大前提なわけです。それぞれの処分ごとに具体的な判断、ふさわしい判断が求められているとすると、やはり権限ある行政庁は、判断の根拠を説明する責任を元々法治国家では負っているのだと考えるべきだと思います。そうしますと、具体的な事案では、少なくとも処分の基準や考え方が説明できないはずは行政庁にとってはないわけでありまして、それは別に覊束処分と言われているものでも、いわゆる裁量処分でも、同じ事情だと思います。そういう意味では、裁量処分という範疇自体を残して、何かマジックワードとして意味を持たせるということはあまり実益もないと思います。連動して行訴法の30条も廃止した方がいいと思います。先ほどの論点にも関わりますが、元々立証のために、膨大な資料を用意しないといけないということがありますが、これは本来は被告がまず当初の段階で、処分の根拠として用意すべきものでありまして、むしろ原告は疑問点を挙げて、裁判所が争点整理をする。被告に釈明して進行するというような手続きが原則になるべきで、そうすると別に裁量という独自の領域を残す実益もないし、むしろ実害の方が多いと考えます。

【芝池委員】今の発言は理解できないのですが、実は法律が抽象的な概念を使って規定している場合について、裁量というわけです。それは、具体的な文言で規定している場合に比べますと、それなりの自由といいますか、判断の余地みたいなものが行政にあって、それを認識の枠組みとして裁量という言葉を使って、表現している。それがなぜいけないのでしょうか。

【福井(秀)委員】もちろん認識概念として、裁量的な領域があることは私も全く否定するものではございません。しかし、この行訴法30条が典型的ですけれども、その裁量処分に道具性があるといいますか、特殊な効果があるかのごとき、解釈や判例が現実に流布しているのは間違いないわけでして、そう考えますと、裁量と言っても言わなくても、要は法律にしたがって判断するという観点から見ると、道具性を持たせた概念として、こういう区分が本当に必要だろうかという趣旨です。

【芝池委員】どういう趣旨か分からないです。

【福井(秀)委員】だから、裁量処分であれば、逸脱、濫用に限り取り消せるというのは一種の道具的な使い方です。

【芝池委員】だから逸脱、濫用というのは、従来の枠組みです。その他に、憲法原則とかというのがあって、要するに法律による拘束が及ばないところで、そういういろんな、昔で言うと条理を使って審査をしたわけで、要するに法律ないし、法令による拘束がないところが裁量というだけで、それ以上なぜ害があるのか、よく分からないです。

【福井(秀)委員】結局、比例原則とか専門技術性とか、個別に還元できる要素があるのなら、それに着目して判断すれば良い。別に裁量という言葉自体が何か実益を持って、何か具体的な効果をもっているわけではないということです。

【芝池委員】実益は持っていないです。要するに拘束の弱さを示しているだけですから、法律の。

【塩野座長】どうぞ、新しい議論はどうですか。

【小早川委員】私も、裁量という言葉を廃止せよと言われると行政法の授業ができなくなる。それは認識概念とか何とかと言われれば、そうなのかもしれません。ただ、本条はまず裁量処分という言葉を使っているわけですよね。ということは裁量処分を裁判権の対象外に置くというか、行政裁判所の法制に根ざしているもので、そこはおかしい。ある処分の中で裁量の部分もあるだろうし、ない部分もあるだろう、ということが一つ。それから裁量権という言葉もおかしい。おかしいと言いますか、誤解を招く。それは、立法がきちんと指図を最後までしていない部分を行政庁がきちんと立法の趣旨を忖度して補わなければいけないという、むしろ裁量の義務であるわけです。それをきちんとやっているかどうかということをまさに行政訴訟の重要なミッションとして審査をするのではないか。裁量権の範囲内だからということで、その裁量権の範囲内では何をやってもいいだろうというイメージを持たせるのはよろしくない。文言を直すか、それとも条文をなくすか、いずれかの必要はあると思います。

【芝池委員】それから、30条につきましてはいくつか御提案がございましたけれども、大きく分けますと、30条を廃止し、新規規定を全然置かないという選択肢が一つと、それから新しい何らかの規定を置くという、そういう2つの選択肢があるのではないかと思います。

【福井(秀)委員】このペーパーの反論的なアからエなのですが、これもやや書き方に疑問がありまして、例えばアについて言えば、「考えられるものをすべて規定することは困難」というのはそれはそのとおりなのですが、立法論の度に考えられることを全て規定することを求められたら、およそ立法などできなくなるわけですから、これもあまりにも極端な懸念だと思うのです。
 ウの「費用便益分析手法など、まだ未熟で進歩していく技術」とありますが、これも大分認識が異なるわけで、どなたの発言か記憶しておりませんが、未熟で進歩していくということは事実認識として誤りです。現在まさに行政評価などでも、現実に行政庁が行政決定にあたって、現にその手法を用いて、しかもそれに対して第三者的評価もやって、現実に行政システムに組み込まれているわけですから、未熟で進歩していくものであれば、そういうことをやること自体がおかしいということになるわけでありまして、こういう見解がそのまま一人歩きすることはまったく問題です。もしこれを掲げるのであれば、今私が申し上げたことも並べて書いていただくべきですし、またこういう議論は、やらない方がより良いのかということにつながるわけです。それはおかしいと思うのです。やらないより、やった方がいい。未熟なら未熟な部分について反証をあげられるようにしておけばいいということですので、どうかなと思うのです。しかも、この費用便益については、③の方で一律に使うかのように書いてありますが、これも繰り返して申し上げておりますが、例えば土地利用計画とか環境訴訟とか馴染む領域というのは、やはり一定の限界があるのは当然のことでありまして、馴染む領域だけやるのだということをむしろ書いていただかないと、こんなもの全部に使えるわけないじゃないかという、ある意味で当たり前の反論を招くわけで、そこは正確に書いていただきたいと思います。なお、例えば米国等で使われているという事実があるのと、それから米国で使われる場合も裁判所がこれをやるわけではなくて、行政庁がやったことを裁判所が、分析手法のプロセスに齟齬がないかということをレビューするわけですから、裁判所があたかもこれを自分自身が習熟してやる、専門家にならないといけないかのごとき、出回り方をするのは本意でない。そこは是非正確に書いていただければと思います

【塩野座長】ちょっと今の点でよろしゅうございますか。これから後の議論に関係いたしますが、この資料で、行政に投げかけるときに、今までここで出したのは再論、あるいはそれに対する反批判等々、これから付け加えるのはなかなか難しい話ですので、ここはどうしてもというところは、また御意見を賜るとも思いますけれども、反論も随分なされましたので、それを全部入れ込まないとダメだということになると、事務的にも無理かなという感じもしないでございませんが。

【福井(秀)委員】これはホームページにも出すわけですか。

【塩野座長】はい、そうです。

【福井(秀)委員】だとすると、やはり別に全部が全部ではなくてもいいのですが、少なくとも今日の議論で、論点になったことぐらいは簡潔で結構ですので、入れていただきたいと思います。

【塩野座長】それはまた後で御相談いたしたいと思いますけれども、そういうことがございますので、これは是非これは入れなければ絶対ダメだということですと、後で事務的になかなか難しい問題があろうかと。それはまた後で御相談したいと思います。
 それでは、「費用の負担・行政不服審査法等の他の法令との関係・個別法上の課題」についてお願いします。

【小林参事官】本日の資料2で、「訴えの提起の手数料の軽減」が第1の論点であり、これについては①、②、③というような考え方が指摘されています。①は一律に定額の手数料、それから例えば②は、取消訴訟については財産権上の請求でない請求に係る訴えとみなしてしまってはどうかということ、③については複数の原告が同一の処分の取消しを求める場合は、各原告について訴えの利益が共通していると考えて、一人分の手数料でいいのではないかという考え方です。それに対する指摘については、アからウまで掲げてありますが、なお御参考までに民事訴訟一般について、訴え提起の手数料の額の見直しを図るために、現在、司法制度改革のための裁判所法等の一部を改正する法律案を国会に提出して、御審議をいただいているところです。
 次に、「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」については、行政訴訟の訴えの提起を不当に萎縮させないとの観点から、例えば①のように、行政訴訟については、弁護士報酬の敗訴者負担の制度を導入しないものとしてはどうかという考え方や、あるいは②のように、原告が勝訴した場合について原告の弁護士報酬を被告に負担させ、被告が勝訴した場合には被告の弁護士報酬は原告には負担させないという片面的敗訴者負担の制度を導入すべきであるとの考え方があります。これに関する指摘については、次のア、イに掲げたようなものがありますが、なおこの点に関しては、弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いについて、司法アクセス検討会で現在検討を進めているところです。
 「不服審査前置による制約の緩和」については、①で、不服審査前置をそもそも定めることはできないこととしてはどうかという考え方と、②で、不服審査を経ないで訴えを提起することができると考えて、訴えを提起した場合に、そのときにも不服審査請求をするなど必要な補正をすれば訴えを却下しないで訴訟手続を中止しておいて、そのまま不服審査手続を経て、裁判を受けることができるようにしてはどうかという考え方があります。

【塩野座長】どうもありがとうございました。それでは、この論点、それぞれ異質なものがございますので、1から順にお願いしたいと思います。

【水野委員】これは弁護士が関係することなので申し上げます。1の訴え提起の手数料の軽減については、①、②、③いずれも賛成でございます。つまり、①にするか②にするかという選択がありますが、どちらでもいいのではないかと思います。③については、前にも申しましたけれども、かつてはこういう考え方で裁判が行われていた時代があるのです、民事訴訟と違って。それが段々変わってきて、最高裁がああいう判決を出したという事情があります。ですから、③は是非立法で明確にすべきだと思います。

【芝池委員】手数料でよく分からないのですけれども、前に水野委員の方から税務訴訟の場合に、これだけ手数料が掛かるのだという例を出されましたけれども、手数料が高くて困るというのは他にどういう分野の訴訟なのでしょうか。

【水野委員】他にですか、何があるのでしょう。

【芝池委員】許認可などの場合は算定不能で処理しているのでしょうか。許認可の取消しとか、許認可の拒否処分を争う場合には。

【水野委員】許認可でも、ものによります。一般的には算定不能です。

【市村委員】あとは、算定されるとしたら社会、年金関係です。ただ、これも実は算定するのは非常に難しくて、例えば何級から平均余命はどうだとか、あまり現実的なことでないことを特定させないといけないというのが現状です。

【芝池委員】しかし一応計算するのですか。

【市村委員】やっぱりそれは経済的利益であれば計算します。

【水野委員】違法な行政を是正するわけですから、一律でいいのではないかというのは、非常に説得的な理由があると思うのですが、そうしたら例えばこの前の銀行税訴訟のようにすごい利益を得るのに一律でいいのかなという議論は当然あり得ると思います。ただ、そこは割り切ってしまって、行政訴訟については一律にするということでいいのではないか。これは要するに、違法な行政を是正するわけですから、そのための訴訟ですから、もちろんその人の利益もありますけれども、それでいいのではないかと。

【塩野座長】その点も一般的に、一種のファクトの話だと思います。だけれども、一般的にこれからか弱い国民と強大な国家という対立ではなくて、おそらく多くのものが都道府県、あるいは市町村レベルでの訴訟になると思うのです。つまり、処分権がずうっと下りていますので、そうしますと力の強い市町村というのはあまりないわけで、そこで大企業の問題が出てきたときに、今の手数料も一律になっていいのかという問題があって、いろんなところで力強い、あるいは強力な行政主体、つまり国家、霞ヶ関なのですけれども、どうも敵は霞ヶ関だけではない、むしろこれからの問題はいろんな大企業とそれから市町村の問題ということも考えて、議論しないといけないなという感じをちょっと持っておりますので、申し上げたところでございます。

【水野委員】その点は、考え方についてはわかりますけれども、ただ、強い原告で、弱い行政庁であっても、印紙の問題は直接には関係ないと思うのです。強い原告で、弱い行政庁だから印紙を高くてもいいという議論ではないと思うのです。

【塩野座長】ただ、私が申し上げたのは強い弱いに関わらず、行政として、こうあるべきだという御議論であればそれはそれでいいです。つまり、説明責任でも理由付記でも、それは弱い市町村だから理由がいい加減だといってはいけないわけで、それは弱い強いとかというファクトの問題ではなくて、ゾレンの問題、あるいはミュッセンの問題ですから、それはどんな弱い人だって、人権を侵害するような、市町村がどんなに弱い市長村だって、権利利益を侵害しようものなら、それなりの作法を守らなければいけないということなので、私は手数料の専門家ではないので、よく分からないのですが、手数料もそういうミュッセンの問題、あるいはゾレンの問題として語れるのかどうか、その辺でございます。

【小早川委員】手数料というのは国庫に入るのですね。

【塩野座長】そうです。

【小早川委員】そういう前提で考えれば、昔確か行政裁判所時代には訴訟費用もなしにすべきだという議論が結構真面目にされていたと伝説的に伺っております。そこは時代が変わったかもしれませんけれども、やっぱり、特に公定力とか何とか、行政の側の権力性を必要と認めた上での、行政訴訟というのが残るのであるとすれば、その部分については、権力的な行政の執行がきちんとできているかできていないかというところは、そこまではやっぱり公共側が、できれば税金でもって面倒を見るべきではないかというのが一つの筋ではないかという気がいたします。その後は、弁護士報酬とか、これは実際に訴訟を当事者がどういうふうにやるかということと関わってくるのでまた別かもしれませんけれども、それは別として、基本的に税金を投入していい世界ではないかという気がするのです。ただそれは今までの考え方からのかなり大幅な転換になるかもしれません。

【福井(秀)委員】私も印紙代は一律少額というので構わないという考えです。理由も今小早川先生がおっしゃったことに共感いたします。やはり違法是正という機能がある、しかも行政は適法に振舞う実体上の義務があるのだと考えると、あんまり訴えのハードルのところで、金銭的なものを高くしない方がいいのではないかと思います。もう一つ、民訴法の主張する利益が各請求について共通する場合に一人分にできるという論点があるかと思いますが、合算するのが一人分でいいのか、吸収するのかという議論で、最高裁は林地開発行為許可処分取消訴訟で、原告の水利権、人格権、所有権等の利益は原告がそれぞれ有するもので、全員に共通ではないから合算だ、という判決を出していますが、これと逆の判決が大阪高裁で2つばかり出ていると思います。これも、解釈論はともかくとして、政策論としては、最高裁の判断的なものはやや行き過ぎではないかと思われます。何故かというところですが元々この林地開発の訴訟でも、原告が主張しているのはあくまでも開発許可自体が違法だということで、だからこそ訴訟物も違法だということになっているわけですから、開発許可のない状態の回復というのが、訴えで主張する利益だと解釈すべきでありまして、そうするとそれは原告全員に共通だと考える方が素直だと思います。水利権とか人格権とか、そういう権利の主張というのは何で原告適格があるのかという説明にはなっても、本案の違法の問題の根拠に過ぎないわけで、この最高裁の議論で言うと、結局みんなが印紙代を出さないといけないということになって、実質的にはちょっと行き過ぎではないか。とすれば最高裁でこういう判決が出た以上、あとは立法しか出番はないわけですから、こういう場合については吸収説を明確にとるような立法を講じた方が妥当ではないかと思います。

【深山委員】訴訟費用は行訴に限らず民訴も含めて、裁判手続一般にありますが、これも御案内のとおり各国まちまちの伝統を持って、およそ取らないという国だってあるのです、全ての訴訟に。日本の訴訟費用の一般的な考え方は、いわば今の行訴に反映しているわけで、経済的利益を問題にする場合には、それはそれに応じた応能負担の形で取ると。算定不能のときは仕方がないから、一定の額で、95万円でみなすと。それを機械的に行訴に持っていくというのが今の状況で、それが問題だとしたときに、特例を設けるという話ですが、その特例の根拠を何に求めるのかというのが、他の訴訟制度と無関係に決まっているものでは元々ないですから、違えてももちろんいいと思いますし、今の福井委員のお話も、ある場面ではそういう特殊性が処分の取消訴訟にはあるのではないかという御指摘だと思うのですが、そういう形で、はっきり言えば国の収入ですから、国の収入が減るなり増えるなりということについて、合理的な説明を第三者にできるような切り口や論拠というものが十分用意できなければ原則でもいいのではないかということになってしまいますので、そこが、私自身はどうしろというつもりはないのですけれども、非常に重要で、気分として何となく気の毒だから一律下げようということでは通らないし、それから違法を是正するのだからいいじゃないかと言っても、勝った場合には戻ってくるのですから、結果的に違法が是正できた場合には全部戻ってくるわけです、訴訟費用というのは。結局訴訟費用の負担が重いというのは訴訟に勝てなかった場合、つまり違法でなかった場合、違法を主張した原告から見た話です。こういう場合に負担させられるのを気の毒だと思う話であることも考えると、そこの説明はそう簡単ではないのではないかというのが印象です。

【福井(秀)委員】おっしゃる御趣旨は基本的にはそれはそのとおりだということは前提ですが、ただ、今の行政訴訟は全体に渡って、あらゆるところで論点になっているように、訴えてみて、しかも裁判所にかけてみても、なかなか違法か適法か分からないということはよくある。特に裁量の問題は、本案に乗るか乗らないかというところもありますし、乗ってからだって裁量の問題もありますから、なかなか事前予測可能性がない段階で、ひょっとしたらこれは勝てるかもしれないけれども、必ずしも自信がない。ところが勝っている例も結構ある。そうすると、あまり今のような構造を前提にしたときに、入口自体で、ひょっとしたら勝てるかもしれないのがシュリンクして退いてしまうと、結果的には違法是正する機会を逸するということにもなりますので、これは別に原理的なものではないですけれども、現在のように、非常に有利不利の構造がはっきりしている段階では、あまりハードルを上げない方がいい、という政策判断として考えた方がよろしいのではないかということです。

【塩野座長】それでは、ちょっと今2の方にも入りかけているような感じもいたしましたので、2の「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」についての御意見をいただきたいと思います。

【芝池委員】一つ確認なのですが、この問題については司法アクセス検討会の方で検討が行われていると聞いておりますが、現在は聞いたところによりますと、この弁護士報酬の敗訴者負担制度を導入する訴訟としない訴訟の区分けが行われていると聞いておりますが、それはそうなんでしょうか。

【小林参事官】そのとおりです。

【芝池委員】そのときに、行政訴訟は議論の対象にはなっていないと。

【小林参事官】現に議論されております。

【水野委員】どんな具合にされているのですか。

【小林参事官】まさに、いろいろと除外すべきではないかと議論されています。現状のままでいいのではないかという意見、片面的敗訴者負担にすべきではないかという意見、それから片面的敗訴者負担というのは慎重に検討すべきであって、なかなか難しいのではないか、というような多様な意見が出ています。まさに検討しているところで、我々としてはここでの御意見ももちろん承るが、基本的には司法アクセス検討会で検討を進めたいと考えています。

【塩野座長】ここで出た御意見は記録に残りますし、ここに入れるようになると思いますが、多少時間が掛かるようでしたら、出た御意見はなるべく早く向こうの方にでも伝えていただけますか。

【小林参事官】そうします。

【小早川委員】そういうことであるとしますと、ここもやっぱり似たようなことかなという気がして、一言。もし原告が勝つ場合を考えますと、それは本来行政としては、訴訟になる前の段階で行政がきちんとやっていればこういうことにならなかったはずです。私人間で、とにかくどっちもお互いに対してそんなに義務を負っているわけではなくて、両方の権利主張を戦わせて裁判所で決着をつけましょうというのとは、民民関係とはやっぱり違うのではないか。そういう行政に対して、行政側が結果的には間違っていた場合に原告国民の方が余計に金を払わないといけないというのはおかしいのではないかという気がするわけです。他方、行政の側は、これは私の持論ですが、行政訴訟段階に至っても適正な行政を、何が適正かということを、客観的に真面目に追求すべき立場にある。そのために国として訟務検事の方々を用意しておく。これは勝つためではなくて、行政訴訟を通して最終的に適正な行政を担保することだろうと思います。自治体なんかですと弁護士に依頼することになるかもしれませんけれども、やっぱりそこは行政の本来必要なスタッフを、アウトソーシングしていると考えた方がいいのではないか。基本的にはそうです。

【水野委員】この問題については、前にも詳しく意見を申し上げていますし、繰り返しませんが、この反論のア、多様な行政過程で様々な紛争が生じるから、一律に取扱いするのは適切かというのは、要するになぜこういう疑問が出てくるかというのは理解できないと思います。
 それからイの意味がちょっとよく分からないですけれども、これはどういうことを言っているのでしょうか。後の方は分かるのですけれども、冒頭の1行半。

【塩野座長】何か、事務局の方から。

【小林参事官】これは、訴訟費用そのものはむしろ敗訴者負担の制度が導入されれば、相手側から取れることになり、勝訴する見込みが多いのであれば、敗訴者負担が導入されることによる司法アクセスの効果もあるのではないかということで、司法制度改革審議会の意見が出ているので、そういう効果も一方ではあります。

【水野委員】後段ですね。

【小林参事官】後段については、敗訴する場合であっても、相手側の弁護士報酬を負担しなくてもいい場合を設ける方がいいのか、勝訴をした場合に相手側の弁護士報酬を取れるようにしてあげた方がいいのか、どっちがいいのかということは、両方のメリット、デメリットがあるから慎重に検討すべきでないかということだと思います。それはむしろ、訴訟費用全体についてそう言われています。

【水野委員】いや、冒頭の意味がよく分からない。「敗訴者負担制度が導入されても勝訴した場合には相手方の弁護士報酬を負担しないから」。

【小林参事官】相手の弁護士報酬を負担するということは敗訴した場合で、むしろ勝訴した場合には自分の弁護士報酬を相手から取れるので、相手の弁護士報酬を負担するわけではありません。相手の弁護士報酬を負担するかどうかというリスクは、勝訴する可能性と敗訴する可能性を当事者がどう評価するかによって、司法アクセス効果あるいは提訴萎縮効果というのは変わってきます。どういうふうに当事者が予測するか、そういったことによって変わってくるものではないか。そうすると、これを導入するとすれば、勝訴すると予測して訴える方にとっては逆にメリットではないかという評価も可能性だし、仮に敗訴者負担をしないことによって、敗訴するかもしれないと思って訴える方にも、ある程度の機会を与えるべきだと考えるという考え方もあるだろうし、そこはどちらを重視すべきかは慎重に考えるべきではないかという考え方です。

【福井(秀)委員】今おっしゃったようなことがはっきりと分かるように書いていただかないと、この文章を読んでそれだけ想像できる人はいないと思います。

【塩野座長】ここは委員の御発言をできるだけ書いたということでしたので、これから最後にお計りしますよう、分かりにくいところはできるだけ分かりやすいように考えますが、それで3のところは如何ですか。

【水野委員】①は賛成です。それで②ですけれども、これは訴えを提起して、第1回の裁判が行われる頃には異議申し立てや審査請求の期間が過ぎている場合が多いのではないでしょうか。

【小林参事官】その指摘も、議論したときにも委員から御指摘があったかと思いますが、具体的な制度設計についてまで触れているわけではありません。もしこういう制度設計をするのであれば、不服審査前置であることによる不利益についての対応も必要ではないかとは考えると、補正すれば不適法な訴えにはならないようにするということも考えられます。

【水野委員】②は分からないでもないですけれども、現実問題として解決になるのかなという気がするのです。税務訴訟などではほとんど意味がないのではないでしょうか。要するに、出訴期間は3ヶ月ですけれども、異議申し立ては2ヶ月ですから、訴えを起こして、第一回のときにはもう過ぎてますよね。だから、どういう場面で、これがどれだけ意味があるのか、ちょっとよく分からない。

【福井(秀)委員】基本的には前置を義務付けるのはやめて、選択ができるようにした方がいいと思います。不服申立前置というのは言い換えれば、行政の判断を必ず司法に行く前に仰げという、一種の強制的な措置であるわけですから、それが適切な判断の担保になるかどうかということに、機能しているかどうかがかかっていると思われます。そうすると、一種の独占的な判断でありますから、判断の適否が第三者の評価にさらされないことがどうしても生じると思います。こういう前置が正当化されるのは、実質的に考えてもその前置段階で事件が精選されて、裁判所に行く事件を適切なものに絞り込むのだという効果がある場合だと思いますが、3ヶ月待つと、結局出訴ができることになってしまいますから、そうすると現実問題、3ヶ月間は不服申立をして、その後はとにかく出訴に行くというケースがあることはあるわけです。そういうものがあると、結局不服審査庁も何をやるかというと、どうせ自分のところは通過点だということで、放置してもどうせ裁判の方で片が付くということになりますから、だったらそういうことのために置いている制度というのは無駄が多いということになるわけです。そういう意味では行政庁の実態調査にも関わるわけですが、やはり前置をやっているものは調べて、今のような実態で、単にスルーするだけになっているものがあるのかないのか、あるとしたら何件ぐらいあるのかということを具体的なデータとして出していただいて、機能していない前置主義は基本的には当然廃止と考えないと、ただ今あるからいるんだという議論は成り立たないと思います。不服申立ては基本的にはあってもいいのですが、自由選択にして、制度間で訴訟に行きたい人、不服申立を経由したい人など、競争ないしは選択ができるようにしておいて、どっちが選んだ人が多かったかということで、場合によっては制度の存続をやめてしまう、置いておくだけムダだというのであれば、行政コストがかかるだけ国民にとっては負担ですからやめてしまうということもあり得ると思います。

【市村委員】あまり機能していない制度等を見直すという御意見には私も賛同するところです。例えば、たまたま手元で、前に気になって資料を探してみたのですが、国税関係の不服申立というのはどのくらいあって、どの程度の機能をしているのだろうということを統計的に見てみようと思って調べてみたのですが、そうするとこれは平成13年の統計ですけれども、異議申立てというのが5,071件起こって、そのうち一部取消しが624件、全部取消しが132件、両方合わせると750件ぐらいで、パーセンテージで15%ぐらい。それからさらに審査請求に進みますと、3,294件が審査請求に進みまして、そのうち一部取消しが324件、全部取消しが135件、異議申立ての段階で132件の全部取消し、審査請求で135件、取消しという形になっています。その後訴訟に移行しているのは何件かというと、同じ事件ではないと思いますが、同じ年で訴訟の数を見ますと、約390件ぐらいなのです。そうすると、例えば先ほど取り消された事件について、ダイレクトに自由選択にした場合、そのうちのどの程度が来るか分かりませんが、ダイレクトに来たとすると、かなり課税事件の数を押し上げることは事実だと思うのです。それで15%、15%ぐらいの2段のスクリーニングが意味がないと考えるのかどうかは人によって違うと思いますが、絶対数から見ますと、ある程度の働きはしていると、私は見てもいいのだろうと思うのです。むしろどちらかと言うと、全くそういうことをやっていないのではないかと思われる前置というのがあるのか、そういうものについての見直しの方に重点を置いた方がいいのではないかという気がいたします。

【水野委員】今、税の関係が出ましたから。弁護士の感覚からしますと、率直に言って、裁判所よりも不服審判所の方が救済の可能性が高いという認識がある。ですから、3ヶ月裁決が出なかったら直ぐに訴訟に移行できるのです。しかし裁判所に訴えて勝てるかといったら、最近は別にしまして、これまでは裁判所では勝てないという認識がありましたから、少なくとも不服審判所で最後まで頑張るということになっている。
 もう一つは、国税の場合、前置でもいいではないかという議論なのですが、これは例えば最初から明らかに不服審査をやってもムダなケースがあるのです。例えばこの間の、ストックオプションの事件みたいに、これまでの通達を変えて課税したと、それで訴訟が起きた。これは確かに国税通則法では、不服審判所が通達と違う判断は一応できることになっているのです。これはただし国税不服審査会にかけて、かなりの手続を経てやるわけですから、だから今変えたばかりの通達を直ぐに、それに反する裁決を出すはずがない。あれは例外的かもわかりませんけれども、本当に審判所でやっているのはムダな手続なのです。そういうケースは他にもあります。いきなり裁判所に持ち込んだ方が手っ取り早くていいというケースがやっぱりあるのです。だから選択性にしておくべきだというのは非常に実際上も理由があるわけです。

【塩野座長】この問題はなかなか立法政策は議論できると思うのですけれども、①のように、およそ定めることはできないということを法律上書いてどういうことになるのかというのは私ももう少しよく考えさせていただきます。この段階で、このアイデアをつぶすつもりは全くありません。

【小早川委員】いろいろとあるのですけれども、従来言われたように、通達とか、法解釈の対立とか何とかということはあると思います。それは、多分現行法でも「正当な理由」ということで直に救われるのではないかという気がいたします。
 それからもう一つ基本的には、どうしても不服前置が必要だというのは、むしろかなりの部分は裁決主義にしてしまった方がいいのではないか、その方がすっきりするのではないかという気もいたします。多分そこはいろいろあるでしょうが、ひょっとしたら社会保険とか労働保険というのはそういうものではないかという気もするのです。ただ、税の場合は違うのかもしれません。不服審判所が最終的に課税処分するというイメージは落ち着きが悪いのかもしれません。
 とにかく、できるだけ刈り込んでほしいというのは前から言っているのですけれども、この検討会の問題ではないということで。この①みたいな言い方が出ているのですが、①は確かにおっしゃるとおり何かおかしいです。ではどうするかといわれると困ります。不服審査前置がどういう趣旨で本当に必要なのかということを行政庁に聞いて、正直なところを言ってもらう必要はあるだろうと思います。

【塩野座長】私も個人的な考え方というよりは、この検討会は国民の権利利益の実効的な確保ですから、不服審査前置の制度が実効的な権利利益の救済の確保に役立っていない、障害になっているということがあれば、あるいはそういうものがある可能性があるということを前提にして、一種の立法政策的なことにまで、多少踏み込んでも、それは役目の外ではないと思いますので、どうぞ今後とも議論を重ねていただきたいと思います。そのときにおそらく外国でも、いわゆる裁決手続というものが結構あるものですから、そういったことも含めて、アメリカはそれで成り立っているような国ですから、アメリカ人にみんな自由選択にしろと言ったら、アメリカ人は引っくり返るかもしれません。そういった点も考え、それから行政改革会議で、行政審判制度というものも拡充、もっと充実しろということがありまして、その行政審判制度との関係もある種、目配りをしておかなければいけないというふうに思います。
 そこで最後に、主な論点としての、「行政訴訟の目的・行政の適法性を確保するための訴訟」ということでございます。

【小林参事官】本日の資料3で、論点を2つ掲げています。1の「行政訴訟の目的規定の新設」については、行政訴訟の目的を明確にする観点から、例えば行政による国民の権利利益の侵害の救済と行政の適法性の確保、この2つをいずれも目的とすることを明らかにする規定を設けるべきであるとの考え方があり、この考え方に対する指摘として、アとして、行政訴訟の目的は基本的に権利侵害の救済にあり、適法性の確保は行政訴訟の独自の目的ではなく、法に定められた権利の侵害を救済することを通じて適法性が確保されているとの指摘があります。イは、権利侵害の救済を目的とする行政訴訟と適法性の確保を目的とする行政訴訟、これは主観訴訟と客観訴訟という趣旨だと思いますが、これを分けて考えるべきであるとの指摘です。
 2「国の公金の支出の適法性を確保するための納税者訴訟の創設」では、国の公金の支出に対し、訴訟による行政の適法性の確保の機能を拡充する観点から、例えば公金の支出に違法があると思われるときに国民が会計検査院に対し公金検査の請求をして会計検査院の判断に不服があれば国民が訴訟で争うなど、国の公金の違法支出に関する納税者訴訟の制度を創設すべきであるとの考え方があります。この考え方に対しては、例えば、アで、会計検査院の憲法上の位置づけを検討する必要があるとの御指摘、イとして、会計検査院と裁判所の役割分担を検討する必要があるとの指摘があります。

【塩野座長】2つの論点、いずれも関連するところもございますけれども、まず1のところから入っていただきましょう。

【芝池委員】1の方ですが、目的規定の新設で、特に障害がなければこういう規定を入れることは結構なことであると考えます。アとかイのところに、ちょっと違うような考え方が書いてあるわけでありますが、この権利救済とそれから適法性の確保といいますのは、アとかイに書かれておりますような形には尽きないと思うのです。例えば原告適格を判断する場合に、権利保護に加えて適法性統制の見地を入れて考えるとか、そういう形で適法性統制の考え方が働く場合もあるわけでありますし、あるいは行政計画に対する訴訟を考えますと、権利救済的な訴訟もあるわけでしょうし、それから適法性統制を強く指向するような訴訟もあります。それから、一つの訴訟で訴訟に参加する人によって、力点の置き方が異なってくるという場合もあるわけです。要するに権利救済とそれから適法性確保といいますのは、微妙なところに表れてきますように、訴訟形式の問題には問題が尽きるということではないわけでありまして、様々な局面で両者がかみ合っているというふうに考えております。それで最初に申しましたように、こういう規定を入れること自体は結構なことだと思います。

【水野委員】前に申し上げましたと思いますが、行政訴訟の目的の規定を置くべきだし、国民の権利利益の救済と行政の適法性の確保というのは2つの目的だと考えるべきだと思います。主観訴訟の現在の取消訴訟ですが、これは要するに訴訟物は行政処分の違法性でありまして、違法な行政が行われたときに、それが違法であるかどうかの判断をする、これは本来は司法の役割だと思います。もちろん司法権の議論を承知でしておりますけれども、基本的には司法の役割である。違法か適法かを誰が裁判所に持ち込むのかということはまさに原告適格の問題だろう。ですから、そういった違法性の是正を求める裁判を起こす、裁判所に持ち込むのに誰が適しているのか、どういう人が適しているのかということが原告適格の問題なのです。原告適格をクリアーして、裁判所が本案に入ったら、あとはそれが違法かどうかを判断すればいい。権利利益の侵害の救済というのはその結果についてくるわけでありまして、違法かどうかを判断すればいい。こういうことが行政訴訟本来の姿だろう。やはり権利利益の救済だけではなくて、行政の適法性の確保ということも独立の目的として掲げるべきであろうと思います。そうしたら、いわゆる取消訴訟で、適法性の確保が目的だと言ったときに、主観訴訟の枠をはみ出るではないか、客観訴訟になるではないかという議論があります。これは先ほどの議論のときにも申し上げましたけれども、私は必ずしもそれは客観訴訟というふうに言う必要はない。つまり主観訴訟の枠で考えたらいいのではないだろうかと思っております。
 それから、いわゆる客観訴訟として考えられてきた、いわゆる住民訴訟とか、これなどは外国法の報告をお聞きしますと、必ずしも従前のように純粋の客観訴訟と考える必要はなくて、主観訴訟として考えられている国もある。取消訴訟でも本来的には主観訴訟でありますけれども、客観訴訟的なものはあってもいいし、いわゆる民衆訴訟についても本来客観訴訟として規定されているけれども、主観的なものは当然入ってきてもいい。その辺りは少し柔軟に考えたらいいのではないかということが今回の検討会でいろいろ勉強させていただいた私の考えです。

【小早川委員】どうも話を伺っててよく分からないところがあるのです。権利利益の救済だけではなくて適法性の確保を強調すべきであるということが言われると同時に、客観訴訟と言ったって主観的なところがあるではないかということも言われる。2つは違うから強調しろということと、両方共通しているということを、一度におっしゃっているような気がするわけです。私はこういう目的規定を置くことに反対ではありませんけれども、私自身の理解ではやっぱり行政訴訟の主目的は権利利益の救済にある、そもそも行政に関する法の体系全体が国民の基本的人権その他の諸権利利益の適正な保護のためにあるわけで、それを離れて、抽象的な法があり、適法性の確保の必要があるということではないだろうと思うのです。ただ、それ以外に純粋な客観訴訟も政策的に必要かもしれないし、それは行政訴訟の体系の中に入ってくるかもしれませんが、それが本体ではない。何が本体かということを十分踏まえた上であれば、こういう書き方でもいいかなと思っておりますけれども、いろんな方がいろんなことを言われるのでちょっと心配です。

【市村委員】意思だけははっきりさせておきたいと思います。結論から言えば小早川先生の御意見に私は全く賛成です。要するに最後のところですが、そういうことであれば入れても入れなくても、ということで入れることにあえて異議を唱えないというところにニュアンスはほとんど同じなのですが、ただ別の解釈、他の今までやってきた解釈のところで、これをてこに違う解釈が出てくるということだけは懸念しておりますので、そこら辺の議論を、入れるということならそれでも構わないのですが、そこら辺の議論と組み合わせて、十分にやった上でならば、ということでは異議を唱えないということです。

【福井(秀)委員】私も結論としては、入れた方がいいということです。ただ書き方はさらっとしたものにならざるを得ないと思うのです。頭の整理としては、小早川先生の発想に近いのですけれども、むしろアの書き方に近いのかもしれません。権利救済するときに反射的に違法が是正されるという側面は、元々主観訴訟として整理した以上は否めない点がある。しかし、権利侵害の救済のときに、それこそ訴訟物が違法性である以上は、そこは徹底的にきちんと審査できる体制ができていないといけないし、対等性も確保できていないといけないという意味で、別にそんなことは書く必要はないのでしょうけれども、権利侵害されたときには常に適法性が確保されなければならないという意味においては両方が目的だという頭の整理と考えております。
 もう一つ、目的も意味があると思いますけれども、もっと重要なのは解釈指針ではないかという気がします。こういう行政訴訟法なり行政法規自体が、権利の包括的で実効的な保障や権利救済方式を明確にするという要請、あるいは当事者の実質的な対等性を確保するという一種の原則のようなものを、目的に沿うような形で、そういうものとして解釈されなければならない、という指針が入るのであればそれに越したことはないと思います。

【塩野座長】ここのところ、事実のことだけ御紹介させていただきますが、法律に目的規定を書くということはやや日本法、あるいは東アジア法系統の考え方なのです。ドイツの行政裁判所法、あるいは情報公開法、あるいは行政手続法、あるいはアメリカの情報公開法等々見ても、目的規定は書かないのです。では彼らは目的について議論しないかというと、これは散々議論して、詰めに詰めた上で、議会を通す、そういうやり方をしております。ですので、目的規定があるのが当然だということは日本人の発想だということが一つございます。
 それからもう一つは、目的規定について解釈が分かれたときの問題がもう一つあるのと、ちょっと私が勉強してて懸念したのは、解釈が固定されてしまうという危険性を常に持っているのです。仮にアで書いていきますとイが出てこないという問題があって、非常にコントロバシーな議論をしているときにどれか一つで目的規定を書いてしまったときに、そこで解釈が固定されるということがあるのです。ですから、最近都市計画法で目的規定を書きながら、しかし最高裁判決の中では目的の中には入っていないけれども、根拠条文のところで何か、利益を探求するということもやっているわけで、結構裁判所も目的規定があるために拘束されて解釈が少し幅が狭まっているというところもありますので、外国の法令のことも含めてお話ししたわけです。ただ、私が一番言いたいのは目的は何かということは徹底的に議論すべきだ。そして、それについてもし完全に議論の一致を見れば、目的規定をお書きになることもそれはそれとして結構です、というのは日本では刑事訴訟法がやや訴訟法の中では独特なのです。刑事訴訟法第1条には理念的なことが書いてございます。しかし、その他民訴法等々については目的規定はない。民訴法に目的規定がないから、民訴法の解釈はおかしいという議論はおそらくないだろうと思います。そういう意味で、ここで出ている権利救済とそれから適法性のことについては別のところの仕組みもいろいろ御議論の上で十分していただきたいと思います。

【水野委員】今福井さんもおっしゃったのですが、もしそうだとしますと、行政訴訟では処分の違法性だけではなくて、権利利益の侵害をやっぱり言わないといけない、立証責任がどちらにあるかは別にして、言わなければならないというふうになると思うのです。そうすると民事訴訟とどう違うのか、民事訴訟はまさに権利利益の救済を求める、ストレートに権利を主張しているわけです。それ以外に行訴法を置いた意義はどこにあるのかという議論はあると思うのです。だから行政訴訟が処分の違法性を訴訟物として、その監視を裁判所にさせるのだという制度である以上は、やはり権利利益の救済というだけではなくて、法律の目的として、適法性の確保ということは考えるべきである。要するに今の制度を言っているわけではなくて、新しい制度論を言っているわけですから、新しい制度としてはそうあるべきだというのが私の意見です。

【塩野座長】独立の目的という意味がまたよく分からないところがあるわけですけれども、全然別にあって、民衆訴訟なんかもまさに行政訴訟の目的かということになると、また違和感を感じる方もおられるかと思います。ですから、繰り返しになりますけれども、1条にどう書くかということではなくて、我々として行政訴訟にどういう機能を持たせる、というふうに考えるかということを徹底的に議論したいと思います。
 そこでやや似たような問題がもう一つ出てきておりますが、一種の各論でございますが、時間の関係もございますので、2の「国の公金の支出の適法性を確保するための納税者訴訟の創設」という点に入っていただきたいと思います。この点についての御趣旨は大分承っておりますので、改めて御趣旨を承る時間、時間的余裕がないということではなくて、国民に対する問いかけで、この程度で分かるかどうかということは私もちょっと、これで難しいというか、よろしいのかという点はありますが、官庁に対してはこれで何とか分かるかと思いますが。

【市村委員】この辺りは会計検査院からのヒアリングはあるのでしょか。

【塩野座長】それはちょっと先走って申しますと、一応予定はされているということで、この文章ができているということでございます。

【小早川委員】納税者訴訟という言葉は、こういうふうに使うのですか。

【小林参事官】一般的に教科書にはそういう表現が。

【小早川委員】地方自治法のやつもかつては納税者訴訟と言っていたのを、あえて制度改正して、趣旨も違うということで、住民訴訟になっているわけです。ここはあえて、納税者ということを制度のコアに置いた制度設計を予定しているのかどうかなのですが。

【塩野座長】そういう御主張と承って、こういうふうに書いたと思いますが。

【小早川委員】そういう御主張が今まで強く出てたのか。

【塩野座長】御主張というよりは、御提案はお二人しか出ていないものですから、お二人がこれでよろしいということであれば。

【水野委員】一般的にはいろんな用語が使われているのです。納税者訴訟というのはタックスペイヤーズシュートの翻訳で使っているのではないかと思いますけれども、大阪弁護士会の提案では公金検査訴訟というネーミングをしていた。納税者訴訟と言いますと、何か納税をしていない人は訴えを起こせないような感じがあって、必ずしもネーミングが適当ではないという意見があるのです。ですから国民訴訟とやるか、あるいは公金検査訴訟とやるか、あるいは国民訴訟(公金検査訴訟)とやっていただくか。

【福井(秀)委員】私も意味、論理的には同じなんでしょうけれども、納税者訴訟と言いますと納税をしていない低所得者は関係ないのかという、妙な誤解を招きかねないと思いますので、どちらかと言うと、住民訴訟という言葉が定着していることからすると、国民訴訟と言う方がいいのかもしれないと思います。

【塩野座長】その点、今回一種ぼかして出した方がいいかと思いますが、ただこの制度設計についてはいろいろと理念があり得るのです。つまり、ここでは公金の支出ということで、ある種絞り込んでおられるところがありますし、それからよくいろんな所で議論するときに、自分の税金の使い方の問題だというふうにおっしゃいます。私はこの世に生活していて、税金を1銭も払っていない人はいないと思うのです、消費税は払っていますから。消費税もおよそ払わない、あるいは旅客運送料も何も払わない、そんな人はいないわけですから。どんなに少ないお金であっても、払っている人は言えるということになります。そういう意味で、納税者としての国民の声をあるいはここで吸い上げているのかなと思います。ここは言葉にあまりとらわれません、何か。

【小早川委員】国民一般からの訴訟とか。

【塩野座長】国民一般からと言うと、外国人はどうなるのかということになります。

【小早川委員】そうおっしゃる方は多分そう考えておられると思います。

【塩野座長】外国人は入らないのですか。国籍でやりますか。

【水野委員】そういう反論というか、意見が出てくるでしょう、国民訴訟でやった場合には。

【小林参事官】一般的に教科書にはそういう表現があります。

【塩野座長】理解としては国民訴訟で、しかし、別にここで国籍とか何とか言っている筋合いのものではない。

【小早川委員】国民訴訟というのは確かにそう言っておられる方もありますけれども、この検討会として定着した言い方ではない。

【塩野座長】では、どうしますか。

【小早川委員】国民一般からの訴訟ぐらいかと思います。

【塩野座長】さっきもう一つ、御提案がありましたね。

【水野委員】公金検査訴訟。

【塩野座長】そっちの方がわかりやすい。

【芝池委員】その場合には公金だけに限定されるのですか。国有財産は対象にしないのですか。

【水野委員】それは入るでしょう。

【芝池委員】ここには公金と書いてありますけれども。

【水野委員】公金と言っても広いですから。

【塩野座長】そういう趣旨で、広くこういった議論があるではないかということで今提案されておりますので、あまり個別のところに突っかかって、議論を詰める必要は私はないと思います。

【水野委員】納税者訴訟でいいかもしれませんね。

【塩野座長】私もこの方がぴったりすると思います。どうもありがとうございました。
 それで時間も大分押してまいりましたので、今後の日程及びヒアリングの要綱について、御説明をし、御議論をいただきたいと思います。そこで事務局からの説明でございます。

【小林参事官】資料4と5を用意しており、資料の4については、注に書いてあるように、行政訴訟制度の見直しについて行政訴訟検討会の検討状況を踏まえて広く意見等を募る際の資料とするために、第16回行政訴訟検討会において「行政訴訟制度の見直しについて検討の方向性が概ね一致していると思われる事項」として確認された事項と更に検討が必要な点を掲げるとともに、その他の主な検討事項について検討会で意見が出されている考え方と更に検討が必要な点ないし指摘されている問題点を掲げたものです。16頁の「取消訴訟の排他性又は出訴期間の限定、行政決定の違法確認訴訟の創設」について、前回の検討資料で、2と5のところに行政決定を確認する排他性のない訴訟の創設という論点と、排他性又は出訴期間を伴う処分を限定する考え方が分かれて記載されており、これでは論点が分かりにくい、排他性の問題と出訴期間の問題、そういった問題の論点をまとめて書いた方が分かりやすいのではないか、ということで、論点を明確にするためにそれを一体化した上で、選択肢を増やしてあります。それから、18頁の(4)の「取消訴訟の排他性の拡大解釈の防止」という項目が、従来の「取消訴訟の排他性の縮減」という項目として書いてあったが、それでは趣旨が分かりにくいということで、排他性の拡大解釈がされることがないようにという趣旨を明確にするように改めています。それ以外のところは検討資料と同じです。
 資料5の要領で行政官庁等からのヒアリングを実施したいと考えています。
 ヒアリングの実施時期は、大変対象が多いこともあり、集中的に実施する観点から、7月24日を検討会の日として追加した上で、翌25日については午前10時から午後5時30分まで、検討会を開催したいと思います。
 参考事項として、行政等へのヒアリングに並行して、「行政訴訟検討会において検討されている主な検討事項」を踏まえ、行政訴訟制度の見直しに関して国民からの意見も募集することにしたいと思います。
 併せて7月4日の検討会については、前に委員からの御指摘もあった民事訴訟法の関係の方からお話を伺ってはいかがと思っており、民事訴訟法の山本和彦一橋大学教授からお話を伺ってはどうかと考えており、民事訴訟との関係において、検討すべき論点も多々あろうかと思います。それと、今日、原告適格の議論が抽象的なところで止まってしまったというところがあり、できれば今日御指摘いただいた判例なども次回準備して、特に訴えの利益や民事訴訟とのバランスといった問題もあろうかと思うので、その点の検討も深めていただいてはどうかと思っています。

【塩野座長】以上、事務局が考えた今後の日程等でございますが、どうぞ御意見があれば。

【水野委員】昨日日弁連で説明に来ていただいて、いろいろと御意見を申し上げまして、昨日の夜から今朝の間にいろいろと手直しをしていただいて、大変御苦労さまだと思います。体裁は多少整理されておりますが、ただ基本的にこのペーパーについて疑問に思うのは、要するに体系的な並べ方になっていないのです。なぜそうなっているかと言いますと、目次を見ていただいたら分かりますが、第1と第2の3まで、これはいわゆる概ね一致した事項ということで整理された、前のペーパーで。4以下はいわゆる第2トラックと称していたものです。それが機械的に付けてあるだけでありますから、例えば被告適格の見直しとか管轄の後に原告適格が出てきたり、ばらばらで、出訴期間等の教示については1の(3)で出てくるけれども、後にもまた出訴期間は出てくる、5の(5)には「出訴期間の延長」が出てくる、という形でばらばらになっているのです。概ね一致している事項だけ並べて、それ以外の事項を後ろに回すというのも一つの整理かも分かりませんが、やはり今行政官庁ないし広く一般国民に意見を求める場合には、これでは非常に分かりにくいと思います。概ね一致している事項であるという注記をするのは構わないと思うのです。やはり体系的に並べて、これについては概ね一致していますよ、これについてはそう書いていないから一致していないでしょうという形で、体系的なまとめをすべきでないか。これは明らかに第2の3までが第1トラック、4以下がいわゆる前の言い方で言いますと第2トラックというのが分かるような形になっておりますので、それがよくないのではないかと思います。
 それからもう一つ言わせていただくと、この第2の4以下でも、4と5以下ではニュアンスが違うのです。3まではどうなっているかというと、例えば3のところは「必要な制度の整備を図る」とあります、この枠の中は。つまり、必要な制度の整備を図るになっている。ところが、今の4の冒頭のところ、10頁の一番上では、「範囲を拡大すべきであるとの考え方」と違えている。これは意見が一致していないからという御趣旨なのでしょうけれども、それは仕方がないとしても、これの考え方については、「次のような更に検討が必要な問題がある」という書き方なのです。これは要するに導入を前提として、更にこういった点について検討をしていく必要があるということが書いてある。ところが、5、つまり15頁以下は同じ枠の中は考え方でありますが、その後は、「この考え方については、例えば次のような指摘がされている」ということで、反対論が書いてある、ア、イ、ウとして。そう見ますと、これはまさに4が第2トラックで、5以下が第3トラックだということが、この書面で提示されたというふうに受け取られても仕方がないのではないだろうかという気がいたします。それでやはり、これはまた申し訳ありませんが、体系的に並び替えて、きちっとした形にしないと、この書面というのは我々が2年間議論してきた現時点での、一種の成果だと思うのです。つまり当初は第6回の検討会で、参考資料としてあらゆる論点を網羅した書類を作っていただきました。これはあの当時言われているものを全部網羅したのです。あのフリートーキング参考資料に基づいて、ずうっと議論してきた。その結果、現時点で我々としては論点整理として、こういうものを提示したい、国民の前に提示したい、あるいは行政に提示して意見を求めたいということで出す書面でありますから、この体裁ではちょっと私としてははずかしいなという気がするのです。だから大変申し訳ないですが、そこのところをもう一遍考えて直していただけないだろうかと思うのです。それから5以下の書き方なのですけれども、5以下の書き方についても、一応、こういう考え方ということで枠囲いの中で提起していまして、その後に反対論を並べている。この反対論を詳細に検討していけば、必ずしもそうではないというところもないわけではない。具体例をいいますと、さっき福井委員が指摘されたところですが、24頁の下の方のウの費用便益分析手法などは適切でないという記載がありますね。これは、芝原委員の御発言ですが、適切でないとまでは言っておられないと私は思いますね。当時の議事録を見たらわかると思いますが、それを適切でないと言い切って、こういう形で載せるというのはいかがなものかという気がしました。他にも、きちんと読んでみましたところが、違うところがあるのではないかという気がします。それから、いわゆる、枠で囲った提示に対する反論が書いているわけですけれども、その反論の反論がないんですよ。そうすると、これだけ見ますと、何かもう、いかにも問題があって、要は消極であるという、国民に対するメッセージを出しているような印象を与えるんです。そこは、もう少し工夫をしていただいて、こういう反対意見に対する反論もまたあるわけですから、それも公平に載せて、意見を求める形にしていただかないと、ちょっと具合が悪いのじゃなかろうかと思うんです。いろいろと時間的な制約の中で、どうするかというのがありますが、その辺りは、他の委員の御意見も聞いていただいて、よくお考えいただきたい。

【塩野座長】今の御提案について、どうぞ。

【小早川委員】これは、名宛人はヒアリング対象者、それからパブリック・コメントも。両方ですね。その両者によってちょっと違うかとも思うんですけども、私も、この書き方ですと、後の方は水野委員と同じような感じを持ちますね。こういう考え方が出されているけれども、こういう問題点がありますね、と終わってしまうと、ああそうか、これはやっぱり問題なんだなと。国民の方はまだいいのですけれども、行政庁の方は、意見を言わせるためにヒアリングをするのではないというのは確か前に福井委員がおっしゃったんで、それはそうかなと思いますけれども、それにしても、何か試験問題を出すのに模範答案を最初から書いているような。向こうは喜んで、そのとおり、そのとおり、となるのではないかという気もして。ここまで書かなくとも、全部落とすかどうかはあれとして、検討会として一部にこういう意見が出ている、それにはそうでない意見もある、というくらいでおさめた方がよかったのかなというような気もする。

【松川事務局次長】よろしいでしょうか。御意見は後でさらにうかがうとして、事務局で用意させていただいた趣旨なんですけれども、行政庁からのヒアリングをするのと、国民一般に意見を募集するための資料の提供ということですから、そのためには検討会のこれまでの議論の経過なり、議論の状況を反映させつつ、かつ、国民一般にとっても何が論点になっているかわかりやすい資料を作るべきだと考えて、意識としては作成させていただいたつもりです。ただ、個別事項についていえば、そうなっているかどうかというのは御意見があろうかと思いますので、それは、直せるところは直したいと思いますけれども、そういう観点からしまして、個々の論点について、例えば、一つの考え方の提示とそれに対する反論という単純なものだけではいけないということであれば、必要に応じて補足的なことが必要な事項が仮にあるとすれば、今日の議論も参考にして再検討させていただきますが、全体の構成につきましては、いろいろと御意見はあろうと思いますけれども、事務局としては、体系的というのは学者向けであればおっしゃるとおりよくわかるのですが、行政庁なり一般国民のことを考えると、むしろ今までの議論の経過をある程度踏まえた、別にそれで濃淡を付けたつもりは事務局としては全くございませんので、それがわかりつつ、体系的でなくとも、ある程度関連性があるものとして議論されてきた経過がわかるような並べ方の方がむしろわかりやすいと考えたということなのです。それで、議論の構成をどうするかは議論していただければよいのですが、この間、論点についてはある程度大括りにしなければいけないので、基本的な考え方と、それに対する反対論というか、考慮すべき事項を並べるというのは、ある程度やむを得ないのかなと思いますし、誤解がある点があるとすれば表現ぶりは工夫しますけれども、大まかな構成はできれば尊重していただければと思っております。

【福井(秀)委員】私も、水野委員と小早川委員の御意見に全面的に賛成です。構成については、やっぱりもともと議論した順番は論理的整序を追ってやってきているわけですから、それをあえて変えられるというのは、価値の軽重を付けられていると周りが見るというのはやむを得ないことだと思うのです。もちろん、全員一致したかどうかという事実の違いがあるというのはおっしゃるとおりですが、それは、例えば、これについてはこうだけれどもと目次に印を付けるとか備考を付けるとかいろいろなやり方があると思うのです。論理的な整序関係でいえばもとのような体系を守っていただいて、だけど、本文の中では、あるいは目次の中では、それについて何らかの印が付いている、そういう整理ならまだわかる。これも明らかに資料作成者の非常に主観的な害意が感じられる資料になっているというのが私の率直な印象でありまして、「次のような指摘がされている」として悪いことだけをひたすら針小棒大に並べているのが後ろの方、前の方については、あとここだけ詰めればもう一息ですよと。こういう資料を公表するべきではないということで、私は断固反対です。非常に恣意的な資料だと、今一読し、今の水野委員の御指摘を聞いて、全く同感か、それ以上にひどい資料だというのが私の直感です。さらに申し上げれば、前半の議論にもありましたけれども、この針小棒大な些末な反論の列記というと失礼ですけれども、これについては、少なくとも今日出た議論だけでもずいぶん違う意見があるということは明らかですから、それはきっちりと、分量の多寡はともかくとして全部盛り込んでいただきたいと思います。さらに、国民に聞くというときにもミスリードがあり得るわけでして、それは意見分布が違うということは事実ですから結構ですけれども、議論そのものを誘導するような資料の作り方は抜本的に改めていただくということが公表する上で私が了解できる絶対の前提です。

【松川事務局次長】今の御意見ですが、こういう議論の仕方については、この検討会で皆さんの発意で行われた順番に従ってやってきたことがある程度わかった方がいいと考えて準備させていただいたので、論理的に戻せば、ということでは、論理的に戻す作業は不可能ではありませんけれども、そうすると、最初の論理的な順番というと、最初に用意した資料に戻るのかというと、それは昨年7月の時点に戻ってしまうことになりますけれども、その方がわかりやすいとあえておっしゃるのであれば、全体の意思ですからそういうふうに作らさせていただきますけれども、そうすると、たぶん、フリートーキング参考資料に沿った参考意見の意見を単に並べるもので、それだと判断がしにくくなる点があるということを御留意いただきたい。並べ替えた意見のここがやや中立性に欠けるのではないかと、趣旨が間違っているのではないかと、それはちゃんと指摘を受けて調整させていただきますので、全体の構成としては、私どもが用意した配列の順番にはそれなりの意味があるということは一応斟酌していただきたいと思います。

【芝池委員】害意があるとして、だからといって全然書類を作らないわけにはいかないのであり、パブリック・コメントにかける必要はあるのです。私は、最初、お話を聞いておりまして、論理的に並べた方がよいと思っていました。出訴期間の話が何か所かに分かれているのはまずいと思っていたのですが、これを見てみますと、枠の中だけですけれども、水野委員の説明がありましたけれどもに、何々するものとする、というように断定的に書いてあるところと、それから、こうこうこういう考え方、と書いてあるところとがあるわけで、考えの対立するところですけれども、分けるというのは一つの在り方だろうと思います。つまり、概ね一致している事項とそうでない事項とを分けて書くというのは、一つの書き方だろうというふうに思います。ただ、それは、わかりやすく、その旨がわかるように、ですから、第1と第2の見出しの作り方ですけれども、変えられた方がいいのではないかと思いました。あと、ア、イ、ウというのは確かにわかりにくいのはわかりにくいですので、小早川委員とは違いますが、むしろ、パブリック・コメントにかけるときには、もう少しわかりやすい書き方ができないかなと思います。

【松川事務局次長】具体的にはどういう方法でしょうか。

【芝池委員】ですから、そうですね。枠の中にA案、B案、C案と書けないですかね。

【塩野座長】大分時間が経ちましたが、御意見をいただきたいと思います。萩原委員。

【萩原委員】パブリック・コメントに関連するのですが、まさにその一般国民に広くというときに、もしこのまま、もちろん順番は変えてなどということをした後で、これを示した場合に、おそらくやはり専門的にかなり理解している人でないと意見は言えないのではないかなという気が致しました。つまり、私ども、今日の議論でなかなか発言ができなかったというのは、先ほど次長もおっしゃいましたけれども、原告適格の場合について、①、②、③とあって、これはどういう違いなのかというのが本当によくわからないのですね。ただ、具体的な判例が示されて、これが①の場合だとこう変わるとか、②だとこう変わるというようなことが示していただければ分かりやすいというようなこともあり、もし広く本当に一般の国民の意見を求めるというのであれば、もう少し、そういうようなことも含めた分かりやすい表現があったらいいなと思いました。

【市村委員】私は、このペーパー自体は、何について意見を言ってくれというのかがはっきりしないまま、現状はこんな議論ですということをやっても、むしろ分からないのではないかなと思います。ただ、一方で、今、萩原委員が御指摘になったように、国民に知らしめるときに、これだけで分かるのかということがありますから、むしろ、各行政官庁などに回答を求め、意見を求めたいことはこういうことなんだというふうに、あまりたくさんのものを付け加えないこの形のものを出しておいて、パブリック・コメントをかける部分には、そのほかその資料としてこの議論の過程に出たこういう資料があります、各項目について、この点については、第何回のここで議論した、あるいは、インターネットで出しているこういう資料に詳細があります、というふうな少し親切な解説を付けるというような手立てでもしたらよろしいのではないでしょうか。これ自体をあまり、さらに反論だとか、あの意見はもっと小さいものではないか、というようなことをいったら、これはなかなか収まらないことだろうと思いますので、ここはテーマだというように考えたらよろしいのではないかと思います。

【小早川委員】先ほどちょっと舌足らずだったかもしれませんが、皆さんのおっしゃることもそれぞれもっともなんですが、要するに、検討会として何を外に対してここで発信するのかということなんですね。今、市村委員がおっしゃいましたけれども、要するにこの枠の中をいいたい、とにかく示すということが、今回やることの本体だと思うのです。後は、その枠の中についての説明なり、あるいは付属資料なり、こういう意見もあるけれども、検討会で議論していて既にこういう論点、問題点も出されていますよということなのでして、そこが、枠はそういう意味だというふうにはっきりしていればいいのですが、必ずしもそうでない。私としては、構成は別にこだわりません。このままでもいい、どっちでもいいのですけども、せめて、枠の外の字をポイントを小さくするとか、注とか、そういうことでメリハリをもうちょっと付けていただいたら、大分趣旨がはっきりするのではないかと思います。それから、もちろん、わかりにくいところは今日の議論を踏まえて、補足していただきたいと思います。

【福井(秀)委員】後ろの方の賛否の両論なのですけれども、結果的に、枠で理由もあまり書かずに非常に簡単な命題で書いたものが並んで、だけど批判があったものだけはずらっとありったけ並べてあるという、このバランス自体に問題があるんですね。そこは、そうであれば、枠の中を支持する議論についても、こういう賛成の論拠があり得るとか、あるいは、後ろに出てくるような議論についても意味があるということは、対等なわけです。いくら枠で囲っても、後ろの方で山のように反論が出ていたら、どうしたってフェアな提示にはならないわけですから、そこのところを徹底的にきっちりやっていただくということであれば、私も、構成自体は、順序を変えることにはそれほどこだわらないということです。

【水野委員】私はやはり順序にこだわっています。もちろん、概ね一致している事項と、そうでない事項というのを書いていただくのは構わないのですよ。ただ、そのためにバラバラになっているでしょう。一般の人が見て、意見を書くのは非常にやりにくいと思うのですよ。やっぱり、ある程度きっちり体系的に並べておかないと、一般の人から見れば、あるいは行政庁から見れば、検討会の意見が概ね一致しているかどうかということは、はっきりいってあまり関係がないんですよ。つまり、自分はこれを言いたいということがあるわけですから。我々だって、一応一致しているわけだけれども、いろいろな意見を踏まえてもう一度修正することもあり得るわけだし、だから、聞かれる方の立場から考えますと、自分たちはこれだけは決めたよと、やりますよ、それ以外はこうですよ、というような聞き方よりも、やはり体系的にきちんと並べていく方がよいのではなかろうかと思いますので、是非その点をお願いしたい。

【塩野座長】まあ、両方の議論が出ましたので。

【成川委員】我々の問題意識を四角に囲っていただいたのは非常にいいのですが、これを最初行政庁に聞くということなんですが、どこを聞くのか、全部細かい後の説明についてもいちいち回答を求めるのか、そうではなくて何を聞きたいのかというのが、もう一つはっきりしない。特に後段の方にいろいろな意見やこういう意見がありますよというのが羅列して出てくると、私自身でさえも、どれとどれの関係がどうなのかというのが、非常に頭の中で整理しにくい形になっている。こういう意見が出たことは事実なのですけれども、検討会で意見が出ている中で、次に何を明らかにしなければいけませんねという、そこまで出ていないわけなんですよね、その段階で聞くというときに何を聞いたらいいのかというのを、聞かれる方にもわかりやすく、ここについて是非お答えをいただきたい、という点を是非工夫をしていただきたい。特に、国民に対するとなりますと、これではなかなか答えにくいんです。もう一段ちょっと工夫する必要があると思います。

【塩野座長】なかなか、まとめの案を出すといっぺんにつぶされそうなのですが、座長としての私なりの率直な意見というか感想を申しますと、私としては、別に、本来、ここまでまとめた運営の成果物ではないというように考えているのですね。今までこういう議論をして参りました、この段階で御意見を承りたい、というのがこの趣旨だと思いますので、そうすると、最初、この論点項目、フリートーキング参考資料で議論をして参りましたが、去年の秋頃からそれをやりまして、その後どういうような議論の仕方をするかということで、今のような形で、言葉の使い方は別として、第一段階では大体まとまったものと、それからだんだんまだ併行して詰めていくものというようにやってきたのは、これは事実でございます。恥ずかしいというように水野委員はおっしゃいましたけれども、もしそれが恥ずかしいなら、我々は恥ずかしいことをみんなでやってきたということでございまして、そういう恥ずかしいことをするなという国民の御意見があれば、私は真摯に受け止めるべきだと思います。しかし、我々としては、一生懸命こうやって、まとまるところはまとまってきた、まだ議論をどんどん詰めるところは詰めます、という状況を率直にお示しするというのが、私は透明性の確保ではないかと思います。ただし、それでは何のことだか分からないという御指摘は確かにあると思いますので、これは、書き方の問題として、どういうような議論をして参りましたが、ということを少なくとも国民の皆様にはホームページのところではきちんと書いて、今ではこういう段階です、ということで、説明文章を付けるということになろうかと思います。そこで、構成の点につきましては、水野委員の御意見はございますが、我々が歩んできた道を率直に出すということでどうでしょうか、と思っております。それから、私が国民として見ると、ここはまだやっていないのか、それではここは手助けしたい、ということで発憤されることもあると思うのですね。前の方は大体決まったのか、しかし、自分はこういう反対意見がある、後の方でまだなかなか問題があるのだとすると、では私もということで、御意見をお出しいただく、という問題もあろうかと思いまして、それが真ん中に散らばっていますと、そこがかえってわかりにくくなるということもあるのではないか、ということで、体系としては、順序としてはこのままでいかがでしょうか、というのが第一段の私の感想でございますが、いかがでございましょうか。

【福井(秀)委員】それと、個別に書き方をどうするかとはセットで決めていただきたい。

【塩野座長】第二段目の点につきましては、いろいろな問題があるのですけれども、これはまず第一に、行政庁のヒアリングとして作った資料ということになります。ですから、これと、国民一般に対してこのままの形でお出しするのはいかがなものかという御意見は、私は、十分に参考にしなければいけないというように思っております。そこでもまた二つに分かれるわけですけれども、行政庁に対してヒアリングをするときの資料ということでどうかという点につきましては、ここはなかなか私も分からないところがあるのですけれども、これで行政庁に手助けをしたとか何とかということにはならないんで、きちんとした勉強をした行政庁であれば、これを材料にしていろいろ考えると思うのですね。次のような指摘があるなどといっても、きちんとした行政庁であると、先ほどいろいろな方々からすぐ反論が出てきたように、この意見については、まさか本当に考えているのかね、というようなことを考える材料にはなると思っております。それから、問いかけについては、行政庁であれば、四角で括った問いかけについて何が自分に聞かれているのかということが分からないような行政庁は私は日本にはまさかないと思います。この程度の書き方で大体自分には何が聞かれているか、それもまた、行政庁にもいろいろございますから、全部について行政庁が答えてくるということにはならないと思います。自分の関心のあるところをねらい打ちしてやってくることももちろんありますし、全部にベタで答えろといっても、これはなかなか無理な話だというように思いますので、自分のところとしてはこの点にきちんと自分の意見を言いたいということについては、問いかけとしてはこれで一応成り立っているかなと思います。それでは、この問いかけの中の点ですが、これは、それぞれの御意見で御不満のあることも、私も、自分でも、自分の意見を本当はもう少し書きたいなということはいろいろあるわけなのですけれども、ここをいじくり出すと大変なことになるのですね。指摘があり、それに反論があると、その反論もまたありまして、どこまでの反論をこの段階でお示しすべきかということがあります。そこで、事務局とも相談していないのですけれども、お願いがございます。一つは、国民に対するバージョンについては、もう少し何日間か余裕をいただいて、つまり7月4日までの期日までもっていきますと、もうちょっと時期が遅くなりますので、どんなバージョンを作ったらいいかということは、事務局一生懸命考えて、国民に対してこれで分かるかね、というようなことで御意見を賜りながら、作っていくというのが、もう一つの私の提案でございます。問題は、行政庁に対してこのままでいいかどうかという点については、ここは譲れないと、例えば、先ほどの費用便益のところでも、何も自分は全部に費用便益をかぶせるといっているのではない、それは、もちろんメリハリを付けた、というようなことで、ここはきちんとしないと誤解を与えるという問題があろうかと思います。その点について、どういうように取り運んだらいいかということがありまして、これは、事務局の時間に追われた作業ということになりますが、私の方で、すぐ今日、皆様方に、御意見のある方は残っていただいて書き込んでくださいといっても、なかなかそれは通らないかもしれませんので、そうしますと事務局の方で、今日の御意見を承った上で、一遍作業をしなければいけないということになりますが、そういったことが、来週早々までにできてそれを皆様方にまたお目にかけなければいけないという問題もあるんですね。そうすると、勝手に直された他の人が反論して、そうするともう一遍会議をやらなければいけないかというような、いろいろな技術的な問題がありますので、一つの便法としては、できるだけはやく、メールでも何でも結構ですから、ここはもう是非譲れないので、ここはこうやってくれ、というのを、今、第一段階のところですし、また、特に行政庁に対してはその場でいろいろなやりとりができますし、また、行政庁が何だか分からないといってきたときには事務局の方で答えるということもありますので、私としては、早急のうちに行政庁に対するヒアリングのペーパーをまとめたい。国民に対するバージョンについては、もう少し時間を、これはまた期限がありますけれども、委員の皆様方の個別の意見も聴取しながらまとめていったらどうか、というのが、私の、全体のコンプリヘンシブな考え方でございます。

【水野委員】順番についてはですね、どちらでもいいという意見が多かったのではないかと思いますが、その点はもうあまりいいません。ただし、ここで、第2の1から3までが第1トラックで、4が第2トラックで、5から9までが第3トラックであるというような前提で作られているものではないということを、まず確認しておいていただきたい。

【塩野座長】その点はですね、第1トラック、第2トラックというのは、私がたぶん司会のときにいった言葉だと思うのですね。検討会全体として、第1トラックという名前を付けましょう、あるいは第2トラックという名前を付けましょうという、そこまではいっていないのですけれども、審議の順序として、一応意見の統一されたものは統一されたもの、しかし、そこでまたいろいろな問題があるのに、意見が大体まとまったものについてだけ議論していたのでは、せっかくの他の論点が落ちてしまうではないか、だから併行して第2トラックを走らせましょうということを言ったわけでして、第2トラックだから疎かにしようなどということは、私は一切言っておりません。

【水野委員】ですから、座長がどうおっしゃったかではなくて、これを、第三者、つまり国民が見たときに、あるいは第三者である行政が見たときに、第2の1から3まではやりましょうと、4はまあ大体やりましょうと、5以下は出すけれどもやりませんよ、というようにとられる恐れがあると申し上げている。だから、そういうことではないと言うことはまず確認してもらいたい。それから、もう一つは、5以下の点について、これをとりあえず行政に出すという文書であれば、ア、イ、ウと書いてあるいわゆる反論ですね、これは、小早川委員が先ほど行政の答案を先に示すと話されていたが、これは、出さなくたって行政はいろいろといってくると思うのですよ。そういう意味からしますと、むしろ出すのであれば、このア、イ、ウというのを全部カットして出すというのが一番いいのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

【市村委員】意見の、こういうことをやりましょうかという提案がありますけれども、ある程度、本来ならば法案というか条文の案のような形になったもので、そういうもので出せる、だからその時に載っているものはある程度までここまで進んでいる、載っていないものはそこまでいっていないのだと分かりますけれども、今回の場合、そこまでいかなかったから、みんなこの状態で、とにかく出てるものは皆出しましょうというんですから、ぜひこの程度の指摘があるということ、私など、もしこれ全部カットされると、私の言っているところは何にも他の意見を聞いてもらえないのということになったら、非常に寂しい結果になりますので。活字がどうのという先ほどの話なら分かりますけれども。それは全部カットということはおっしゃらないでください。

【福井(秀)委員】質問ですが、先ほどの座長の整理では、行政庁向けの資料と国民向けのは別にされるという御提案ですか。

【塩野座長】内容的には一致していないとおかしいですし、体系的にも一致していないとおかしいですが、国民にこれだけで本当に分かっていただけるかということが、あるいは国民に対してここまでいちいち書いて、かえってわかりにくくなっているのではないかということは、思い切って取った方がいいということがございます。例えばですと、3頁の終わりの方の第11条関係の問題として、だあっといかにも事務局一生懸命勉強しましたというように出ていますけれども、ここまでいちいち国民にお知らせして御意見を承る必要もないし、あるいはこれは、行政庁に対してもここまでやらなくてもいいではないかということ、そういう趣旨で申し上げております。それから、行政庁ならば当然分かる事柄について、例えば、国民の皆様には、あまり注を付けるとかえってわかりにくくなるのですけれども、わかりやすいような表現と注を付ける、あるいは、この辺の点についてはホームページのここを御覧くださいというようないろいろなやり方もあろうかと思います。それは工夫させていただきます。

【福井(秀)委員】それは、行政向けのは公表しないということですか。

【小林参事官】ヒアリングの資料になるから、どういう資料になったかというのは次回検討会の資料にして、公表したい。

【福井(秀)委員】そうすると、議論は振り出しに戻ると思うのです。要するに、行政庁向けといっても、行政庁と密室で何か議論するということではなくて、議論自体がオープンだということは、既に作った時点で国民に対して一種説明責任を負う資料ができあがったということを意味するわけですから、もちろん補足資料として国民向けにわかりやすいものを作ることは、今塩野先生が整理されて、それはそれで意味があると思うのですが、ただ、行政庁向けだからといって、それを国民が誰でもアクセスできる形で自動的に公表されてしまうことになる資料であれば、先程来御指摘申し上げているような、少なくとも内容上の配慮はした上でないと、やはりまずいと思います。内容上の配慮としてはやっぱり詰めた方がいいと思うのです。再反論、再々反論とかということは、あまりエンドレスだったらどこかで整理があると思いますが、自ずと先程来の議論でも、ある程度論点は絞られているわけですから、出す以上はきっちりと検討会内部で合意した形で、もちろん異論があるのは構わないですけれども、異論については、少なくとも、こういう大きい論点があるという事実を知らせるのが検討会の責務だと思うのです。あまり拙速にせずに、せっかく行政庁にも国民にも聞くというのであれば、今日の資料は資料でもうこれ自体が公開されているわけですから、これはこれで行政庁に、まだ暫定版というような形でお配りになって、例えば、1週間とか10日とかの間に、本日具体的に議論があったようなものについては、できるだけ事務局で作業していただいて、それを確認する作業と同時に、この点についてはもうちょっとこう整理した方がいいのではないかとか、こういう反論があり得るというものについては、メールなりで、来週前半とか期限を切っていただき委員からの意見として集約する。それをある程度すりあわせた上で、本来のホームページに載せる、あるいは行政庁に正式に聞く書類にするという手続を、どうせならやっておいた方が、後々の議論もスムーズに行くのではないかと思いますので、是非そのようにお願いいたします。

【塩野座長】もう一遍期日を入れるという、そういう御意見ですか。

【福井(秀)委員】期日を入れる必要はないと思います。メール等のやりとりでまとまれば、もうそれで十分だと思います。

【塩野座長】ある程度、事務局と私にお任せいただけますか。

【福井(秀)委員】それは、最後やっぱり確認は取っていただく必要があると思います。

【塩野座長】1人1人に確認を取るのですか。

【福井(秀)委員】はい。

【塩野座長】意見が分かれたらどうしますかね。

【福井(秀)委員】意見が分かれたら、分かれた意見をそのまま載せていただければいいわけですから、集約する必要はないと思うのです。

【塩野座長】ここを削れという意見と、ここは残すべきだという意見が出たらどうしますかね。

【福井(秀)委員】自分の意見でない意見を削れということはできないわけで、少なくとも、これにはこういう意見があり得るというものについては、できるだけ集約した方がいいと思います。

【芝池委員】今から補充されるということですか。福井委員なら福井委員の意見を。

【福井(秀)委員】補充というよりも、少なくとも、今日出たような意見は盛り込むということです。

【芝池委員】それは当然です。

【塩野座長】さすが福井委員、いい知恵を出していただきました。暫定案としてということですが、ただ、暫定案としてしまうと、先ほど小早川委員が言われた、模範答案を先に示してしまったのでは示しが付かないということがありますが、ただ、これは、事実上、今日お配り致しましたし、記者の方もおられますので、これはもう公開したものと実質上同じだというように思います。しかし、オープンで会議を進めていく以上、そういうことがあるのは当然のことだと思います。そういうことで、多少の時間をいただけるということですので、その点は、しかし私がやりますというわけにはなかなかいかないところですが、これも、精査のいかんによると思いますね。今日もいろいろな御意見があり、なかなかこれを起こすのも大変ですね。テープを聴けばいいではないかと言うけれども、そう簡単に聞けるものではありません。その意味で、できれば、こういうお願いをしてよければ、自分の方で今日こういう意見を言ったのだ、ここはやっぱりだしてくれ、という形で、まず御提言をいただき、そして、それについて私が事務局と見まして、入れられない場合にはもう一度お返事を申し上げる、入れる場合にはそのままですます、という、そういったものを今考えたのですが、まだダメですかな。

【福井(秀)委員】我々はしゃべりながら自分の発言をメモに取れる環境にないですから、そのために事務局がいらっしゃるわけで、やっぱり第一次案はそのために働いておられる存在だと思いますから、今日の発言のポイントは事務局でまず御呈示いただくのが筋だと思います。

【塩野座長】さて、そこはなかなか議論の分かれるところです。

【小早川委員】福井委員の御意見は、行政庁向けのも、暫定案はこれでいいのですね。

【塩野座長】とりあえずね。多少時間があることはありますからね。

【福井(秀)委員】要するに、今回、まさに今日いただいて、これを行政庁向けにということは、突然の話ですから、行政庁向けにせよホームページ向けにせよ、そういう前提で見るのであれば、いろいろ見方があるということです。あえてそんなに拙速に決める必然性はないと思います。

【塩野座長】そこで、いい知恵を出していただきましたので、最初は、少し時間をいただけるならば、あるいは、事務局の方で、これはというのをまず書いてお目にかけるということもあろうかと思います。

【福井(秀)委員】時間も限られてますから、もし、何か、これは絶対だというものがあれば、一定の短い期間切っていただいて、一応集約していただく。

【小早川委員】ですから、今日、いろいろ、私もたくさんしゃべったし、みなさんたくさんしゃべったんですけれども、ただ、今までの繰り返しも多いですし、それももう飲み込んでこれができている部分もかなりあると思います。ですから、そこは、座長がおっしゃったように、今回のもので完璧な集約をするということではないので、中間での資料を広く一般に提供するということですから、私の感じとしては、一定の期間を区切って、事務局としては、今日の議論をふまえてここを直すということがもしあれば、そこは直していただいてもいいのですが、それと、やっぱり事務局任せではなくてどうしても直したいということを早急にメールしてですね、後はもう座長にお任せすることでいいのではないかと思います。

【塩野座長】国民向けのバージョンも委員の皆様方それぞれに、お示ししながら、ということになると思います。

【成川委員】原告適格の拡大のところは、少し、判例など工夫して、改善したいというお話ありましたので。

【小林参事官】それは、資料の問題ではなくて、次回の検討会のことです。

【成川委員】次回の検討会のことですか。それは、各省庁向けのものにはどういうふうに反映させますかね。

【小林参事官】基本的に、場合によって補足が必要であれば、補足するような資料を作って、この項目の議論については第何回の検討会のこの部分とか、どこの資料のこの辺にあるというような、そういう補足を付けることも考えている。国民向けの資料にこれに似たようなものを作った上で、若干の説明資料として、この論点については第何回のこの検討会でこういう議論がされているというところを御紹介するような補足を作ると、なにしろ、これまでの検討会でかなりの資料が出ておりますし、かなりの議論も出ておりますので、それを、どこにあるのかというぐらいは明らかにした方がよろしいかと思っている。

【成川委員】そういう点だけでなしに、例えば、原告適格についての書きぶりの中で、これはバカッと要するに中心の論点だけ書いてあるわけですけど、もう少し、この課題については、具体的な判例の論点が出ているではないか、とそこを補った形にした方がわかりやすいと思われますねという話になったのですね。そうすると、そういうようなものについても、省庁に聞くときに、聞かれた方が、返事も、そこまで考えた上での御意見を求められたのかな、となるとは思うのですね、原告適格については。確かに、時間がずれ込むというのはそのとおりだとは思いますけれども。

【塩野座長】先ほどちょっと申し上げたことで、また反論するようで申し訳ありませんが、原告適格についての判例を知らない行政庁は、私は行政庁ではないと思います。

【小早川委員】今の点ですけれども、次回4日に、原告適格問題についての追加資料が出るわけですよね。

【小林参事官】そうしようと思います。

【小早川委員】その資料はすぐに公表されるし、24日までまだありますから、口述試験の前に追加資料として送っていただきたい。できれば、検討会としてどういう関心を持っているかということもわかるような資料であるともっといい、それはちょっと難しいかもしれませんが。

【塩野座長】国民の皆様に問いかけとしてこれでいいかどうかという点が、大変気になっておりますので、今の判例についても、場合によっては、国民の皆様には、注的なことで、多少まだ時間もありますので、作ってみたらどうかというふうには思っております。

【福井(秀)委員】基本的には、今整理されたような方向で結構だと思いますが、くれぐれも意見の集約の仕方については、先程来申し上げた趣旨に尽きますけれども、検討会のスタート時点でも一回ちょっと問題があったと思うのです。資料の作成は事務局の専権事項であって委員の意見を盛り込むわけではない、という経緯があったように記憶してますので、今回はそういうことはなさらないでいただきたい。最終的には、今のような形で十分意見を聴取していただいて、事務局の方で各委員と十分なすりあわせ、調整をしていただく。誠実にそれをやっていただくという前提で、その後の資料については、差し当たり時間がないのであれば、やむを得ずお任せするということはあり得ると思います。

【小早川委員】提案ですけれども、24日、25日、非常に時間が限られているので、委員は皆いろいろ聞きたいことがあると思うのですけれども、私としては、事前に各省庁からペーパーが来るということであれば、それを事務局で整理していただいて、メリハリを効かせて、各省庁に聞くべきことを絞った方がいいのではないかと思います。できれば、事務局でペーパーを整理していただいて、座長がまずはポイントになる質問をするとか、そういうことをしていただいた方がいいのではないかという気がします。まだ先のことですが。

【塩野座長】御提案として承りますが、御指摘ありがとうございます。それから、ヒアリングの時に、皆様お忙しいときにこういう時間をセット致しましたが、普通、我々、審議会、あるいは検討会等でヒアリングをいたしますときには、必ずしも常時定足数を満たしていなければならないというものではありませんで、多少の出入りということはあり得べしということで、御参加いただきたいと思います。その代わり記録はきちんととって御覧に入れるということでございます。さはさりながら、できるだけ御参加をいただきたい。私は全部出ますので、よろしくお願いしたいと思います。それから、次回は、7月4日金曜日の午後1時30分からということでございますが、先程来のお話のように、その間、委員としての職務を全うしていただきたいところも多々ございますので、事務局からの問い合わせ等があったときには、是非機敏にお伝えいただきたいと思います。