【塩野座長】それでは、時間になりましたので、第23回「行政訴訟検討会」を開会いたします。
事務局から、本日の資料についての説明をお願いいたします。
【小林参事官】本日の議題につきましては、資料1「意見募集の結果と行政官庁のヒアリングにおける行政訴訟制度の主な論点」と前にまとめました「行政訴訟検討会における主な検討事項」の主な検討事項の論点について御検討をお願いしたいと思っております。資料の2におきまして、厚生労働省から追加の資料が出ております。その他に、平成14年度の行政事件の概況を最高裁判所でまとめておりますので、それを資料の3としてお配りしております。
【塩野座長】よろしゅうございますでしょうか。本日は、前回の検討会の中でも御議論がありましたとおり、事務局から意見募集での国民からの意見、それから行政官庁等の意見、それからヒアリングの際に出ました委員とのやりとりの意見について対比できる資料をまとめていただきました。それに沿って論点ごとに検討いただければと思います。
そこで、それをまとめたものが先ほど御紹介申し上げたものでございますが、ただ、検討すべき項目は多岐にわたりますので、多少整理をさせていただきますと、3つの部分に分けまして「第1 基本的な見直しの考え方−権利利益の実効的救済の保障」から、第2の「3 本案判決前における仮の救済の制度の整備」のうちの「ウ 公権力の行使に当たる行為についての執行停止以外の仮の救済」の前までの部分で1つ、それから第2の「3 本案判決前における仮の救済の制度の整備」のうちの「ウ 公権力の行使に当たる行為についての執行停止以外の仮の救済」の部分から第2の「5 取消訴訟の対象、排他性、出訴期間」まで1つ、それから第2の「6 原告適格、自己の法律上の利益に関係のない違法の主張制限、団体訴訟」のところから、第2の「9 行政訴訟の目的・行政の適法性を確保するための訴訟」までを1つ、大まかに3つに分けて議論をしていただければと思います。もちろん、あるところを議論しているときに、別のところに言及された御発言があっても、しかるべきかというふうに思います。必要に応じて、そういうことをしていただいても結構でございます。
3つに分けましたので、途中2回ほど休憩を入れて進めていってはどうかというふうに思っておりますが、よろしゅうございますでしょうか。
(委員から異論なし)
それでは、まず第1番目の部分、つまり「第1 基本的な見直しの考え方−権利利益の実効的救済の保障」から、第2の「3 本案判決前における仮の救済の制度の整備」のうち「ウ 公権力の行使に当たる行為についての執行停止以外の仮の救済」の前までの部分をまずお願いいたしましょう。
【小林参事官】資料1を御覧いただきたいと思います。「意見募集の結果と行政官庁等のヒアリングにおける行政訴訟制度の主な論点」と題する資料です。この資料は、「行政訴訟検討会における主な検討事項」という資料でまとめました論点、あるいはその論点に関するいろいろな考え方について、それとほぼ同趣旨のものについては、なるべく省略をしまして、それと少し変わった視点というか、考え方、あるいは具体的な問題点を指摘したようなものを主にまとめたものでございます。これは、前回意見募集の結果と行政官庁のヒアリングの結果概要の御報告の中で、簡単に御説明しておりますので、要旨をかいつまんで論点ごとに御説明をしたいと思います。
例えば、1ページの「第2-1-(1) 被告適格者の見直し」に関して、更に今後検討すべき論点として、4つほど挙げております。
1番目は、「事務の帰属する公共団体とするか」、「行政庁が所属する公共団体とするか」ということで、この点につきまして、事務委任等の場合について、委任をした人なのか、委任を受けた人なのかというような関係を明確にする必要があるのではないかという御指摘があるということ、それから、国または公共団体というときに、指定機関、民間などが行政処分を行うような場合もあって、そういった場合の被告を誰にするかということも今後検討する必要があるのではないかという御指摘があったということを掲げております。
2番のところで、国・地方公共団体の代表者、あるいは内部での意思決定の方法に関する法的手当が必要ではないかということで、この点については、例えば最高裁判所であるとか、例えば国会であるとか、あるいは地方公共団体の議会であるとか、そういった独立性の高い機関について、国または公共団体を代表者とした場合には、誰が代表者となるべきなのか。今の法律をそのまま当てはめてしまうと、例えば法務大臣、例えば地方団体で言えば、市長等の長が代表するということに当然なってしまうのではないか。それは現行から変わるということになりますので、被告を公共団体としたときに、独立性の高い機関の実際上の意思決定、訴訟上の意思決定なり代表なりをする、そういうものを今後明確にしていく、それについて現行の中身の実態を変える必要があるのかどうかということを検討して手当をする必要がある、こういう問題でございます。
3番は、訴えるときに行政庁がはっきりしないとかえって権利救済も迅速な裁判所の対応ができなくなって妨げられるおそれはないだろうか、という問題提起があって、訓示規定、つまり法的な効力は特に設けないということで、なるべくなら訴状に行政庁を書いてもらうようにして、当事者に訴えの内容を明確にしてもらうという方がいいのではないかという指摘があったということです。
4番目の行政不服審査法の不服申立の相手方については、これについて行政主体に改めることは適当ではないのではないかという御指摘があったということです。
「第2-1-(2) 行政訴訟の管轄裁判所の拡大」は、「1 行政コスト・円滑な訴訟運営への考慮」の必要性について、行政官庁から問題提起があったということで、一番上の□にありますように、「原告の住所地の地方裁判所への訴えの提起を認めるB案の場合、行政コストが大幅に高まることが予想され、高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所への訴えの提起を認めるA案が望ましい」、こういう観点からの御指摘があったということです。
「2 土地に着目した処分、地域の事情に密着した処分等に係る訴え」について、「管轄拡大の合理性を検討する必要がある」という問題の指摘があったということです。上の□は、地域の事情に密接に関係した処分、税務署等、裁判所よりも数の多いようなところの行うような処分であるとか、土地に着目した処分、2番目の□のところにあるようなものについて、原告の住所地を基準とした管轄を新たに設ける必要があるのかどうか、それを検討する必要があるのではないかという問題の提起でございます。
「3 管轄の集中化との関係」でございまして、特許等に関する訴訟、一番上にありますように、「特許法等に基づく管轄の集中化を維持すべき」という御指摘でございます。次の□は、「東京高等裁判所の専属管轄に属する事件については、管轄拡大が相当であるかどうか検討を要する」という問題提起でございまして、この点に関して、ヒアリングのときのやりとりの中で、△の指摘に対するお答えとして、その下にありますように、「記録の送付、事実認定の拘束力や証拠提出の制限があり、東京高裁の専属管轄としても実務上は影響はない」と、こういう御指摘があったということです。それから、ヒアリングの中で最高裁判所からは、「高裁所在地の地方裁判所に競合管轄が認められ、事件数が集まることになれば、行政事件の集中部を設けることを今後検討したい」、こういうような御指摘、御意見があったということです。
3ページ、「4 地方公共団体、地方公社、特殊法人、独立行政法人などはどうか」、これはかねてから事務局からも問題を提起していたところですが、地方公共団体や地方公社、独立行政法人、特殊法人の取り扱いをどうするかという問題でありまして、行政官庁の方からは、「地方公共団体については、土地管轄を拡大すべきではない」という問題が提起されておりまして、特に地方公共団体と地方公社については拡大すべきではないのではないかという問題提起があります。これに対して、「特殊法人、独立行政法人等は、国と同様の扱いとすべきである」という意見がありまして、今後、この辺の取り扱いについて検討する必要があります。
「5 同種の訴訟の移送規定の整備」は、「同種の訴訟を同一の裁判所で審理できるように移送の規定を整備すべき」である、つまり、関連する事件で、原告の住所地が多数の場所に広がっているときに、それをある程度の裁判所にまとめる、情報公開法でも今、原告の住所地に近い高等裁判所の所在地の地方裁判所の管轄が認められておりますので、それと同じような移送の特例を設けてはどうかという意見が、行政官庁からは出ております。
「第2-1-(3) 出訴期間等の教示」は、まず、教示の相手方について、「処分の名あて人に限定すべき」、あるいは「処分の名あて人以外に対しては、利害関係人から教示を求められた場合に教示することが適当」という問題の提起がありました。
2番で書面による処分に限定するかどうかにつきましては、「書面でする処分に限定する必要がある」のではないかという問題提起があります。
3ページの一番下の「4 教示がない場合や誤っていた場合の効果」ですが、「教示をしなかったことや誤って教示したことが直ちに原処分の無効や取消しにつながるものとすることは適当ではない」という御意見や、あるいは、4ページの一番上にありますように、「特に法的効果を定めるべきではない」という御意見などがございました。
4ページの「第2−2 審理を充実・迅速化させるための方策の整備」に関する問題点としては、「1 新たに規定を設ける必要性」に対する問題提起もございまして、「民事訴訟法の釈明処分等により対応すれば足りる」という御意見、あるいは、その次にありますように、「民事訴訟法の文書提出命令、提訴前の証拠収集手続等の制度の運用実績等を検討する必要」があるという意見があります。
「2 釈明処分の特則とすべきか、文書提出命令の特則とすべきか」というところで、「文書提出命令の特則とする場合は、拒否できる規定が必要」ではないかという御意見、「文書提出命令制度を用いると、原告側は、文書の特定、立証事項との関連性など、どのような文書が行政側にあるかわからない元で困難」を強いられるのではないかという御意見、あるいは、「早期に行政の主張とその根拠が判明するから、釈明など主張レベルの問題として位置付ける方が、文書提出命令など立証として位置付けるよりよい」、このような御意見があります。
「3 記録の提出を拒否できる場合」は、文書提出命令の拒否事由と同じようなものか、などにつきまして、各行政官庁等から、さまざまな拒否事由、除外理由を設けるべきだ、というような意見が出ております。
一番下の「4 提出の対象」は、「争点の立証に関係の深いものに限定すべき」という意見と、「釈明処分としてある程度包括的にできるようにすべきである」、こういうように意見が分かれているところです。
5ページ、「第2−3 本案判決前における仮の救済の制度の整備」の「1 執行停止の要件の緩和」につきましては、1-1にありますように、公益への影響をどう考えるかという問題提起がございます。そこにございますように、各省庁から、それぞれの行政活動に関わる公共の福祉、また公益に関わる問題について検討すべきであるという御意見が出ておりまして、特に、利害関係者との関係を検討すべきだ、原告以外の者に与える不利益を考慮すべきだ、という意見が多く出ております。例えば、4つ目の□にありますように、「執行停止が容易に認められると、多数の利害関係者に不利益を与え、行政の円滑な執行が阻害される」という問題であるとか、その下の法務省からの意見では、「公益に配慮して、現行法第25条第3項の規定の見直しを併せて図る必要がないかを検討すべき」という問題提起もございます。そういった議論の中で、ヒアリングの中では、例えばその下の△の2つ目にありますように、委員の御意見の中からは、「裁判所が執行停止をするについては、本案の勝訴の見込みがあることが必要であり、また、公益への影響も考慮する」という問題提起がされておりました。5ページには「1−2 関係者の合意形成のプロセスを経ていることをどう考えるか」という問題がございます。6ページに、執行停止により起こってくる効果をどう考えるのか、という問題があります。
「2 一定期間経過後に執行力が発生する制度、暫定的な執行停止制度」に関する問題については、例えば警察庁から、「道交法及び公安条例に基づく許可処分は、極めて切迫しているから、「一定期間経過後に処分の執行力が発生するとの制度」や、「暫定的な執行停止制度」が導入されれば、公安委員会が付した条件が意味をなさない」というような御指摘もありました。
「3 執行停止決定に対する不服申立て、内閣総理大臣の異議」の問題については、即時抗告をした場合に、「執行停止決定の執行を停止する効力を持たせることも検討する必要」があるという農林水産省、全国知事会の御意見がありますが、これに対しては、「即時抗告について、執行停止決定の執行力を停止する効力を有しないものとする制度を維持すべきである」、こういう意見もございます。さらには、次の「内閣総理大臣の異議の制度の廃止については、公共の安全や秩序の維持に関する処分について、特別の配慮が必要ないかを検討すべき」という意見、あるいは、その次にありますように、「条約上の義務を的確に履行するという極めて高度の公益的要請を満たすため、内閣総理大臣の異議制度を存続する必要」があるという意見、7ページの一番上にありますように、「内閣総理大臣の異議の制度は、維持されるべき。見直す場合でも廃止ではなく、異議を申し立てる要件を更に限定する、あるいは、異議陳述の場面を執行停止決定以降に限定し、裁判所の判断をより尊重するなどの観点から検討すべき」という意見、また、委員とのやりとりの中であった御意見の中では、7ページの3の一番下の□にありますように、「事後的な国会報告と一体となった制度で、三権分立の観点からも検討する必要」があるという御意見もありました。
【塩野座長】どうもありがとうございました。今の御説明の中での第1のところについては、特段の説明が加えられませんでしたが、これは基本的なものの考え方ということで、最後の方に、第2−9のところに、目的規定の新設といったような事柄がありまして、そこで多少具体問題に入って、それで最後のまとめの方で第1と、それから第2−9を一緒に議論してはどうかと、そういう趣旨で、最初の第1のところは、今の段階では余り御説明がなかったというふうに私は理解をしております。
そこで、もしよろしければ、今の説明のあった第2-1-(1)からまず始めたいと思います。今のところの段階では、大体前の方から御意見があれば承るという形でよいのではないかと思いますので、「被告適格者の見直し」から御意見があれば、どうぞ承らせていただきたいと思います。
【福井(秀)委員】被告適格の見直しの議論のもともとの意図が、行政庁か行政主体か紛わしい点をできるだけ明確化して訴えの便宜を図るということだったと理解していますので、ここに書いてあるような論点はいずれも重要だとは思います。ただこれだってある意味では決めてしまえば、決めたことが分からないという人はどういう場合でも出てくる可能性があるわけで、いずれにせよ、何らかの形で決まったときに、決めたことが難しくて分からなくて、うっかり間違えたような人がちゃんと救済されるような仕組みになっているということが重要だと思います。何らかの整理はいずれにせよ要るのでしょうけれども、整理した結果でない訴え方をした場合に今の行政庁か行政主体かのように、極めて冷たく突き放して不適法にするというようなことを避けるような手当を、是非盛り込んでおかないとまずいと思います。
【水野委員】第2-1-(1)の2です。独立性の高い機関の事件については、国というのではなくて、公正取引委員会だとか、そういう特別のルールを設けろという御趣旨だと思いますけれども、これは実際上何か不都合がありますか。これは、深山さんかどなたかにお聞きしたいのですが、例えば最高裁判所とか国会とかいうのがあり得ますね。公取みたいな独立性の強い委員会みたいなものもある。それを全部国として、次にあるように、ただしこれは最高裁のやった処分だとか、国会でやったものだとか、衆院議長のやった処分だとか、そういうことはきちんと書かせるということにすれば、一律全部被告は国でいいのではないか、あるいは、地方議会でも地方公共団体でいいじゃないか、議会がやったことだということがはっきりしていれば、それでいいじゃないかな、という気もするのです。
【深山委員】前にも言いましたが、私は昔、公害等調整委員会という独立行政委員会にいましたが、そこは法務大臣権限法の適用がなくて、法務大臣が訴訟で代表できないということになっていましたが、実際はどうしていたかというと、今もそうでございますが、法務省の訟務部門、当時は訟務局ですが、そのあるポスト、ある課長さんを併任発令をして、公害等調整委員会の職員の身分を併任で与える、そういう運用をしておりました。今はどうだか知りませんが、今の水野先生のお話ですけれども、確かにそう考えてみると、法務大臣権限法上は法務省、法務大臣が代表するとなっていないのに、そこの部局の行政訴訟を担当している者が併任発令されて、実際上は訴訟が起これば公調委の職員として対応するということがあるとすれば、実質的な弊害がないと自白しているに等しいのではないかという気もします。
ですから、他の公取とか実情が分からないところは、ちょっと申し上げにくいのですけれども、行政庁で独立行政委員会となっているという一事で訴訟対応にそれほど独自性を発揮する必要があるかというと、そんなことは実質論としては少なくともないような気がします。あとは、理屈の問題として独立行政委員会の在り方の問題として、それでいいのかという根源的な問題は別途あると思います。
あと、立法機関とか裁判所、これはちょっと別の権力ですから、同じアナロジーで実害はないからいいではないかという話でいくかどうかは、さらにまた別の考慮が要るかなと。一部は言われることはよく分かります。
【水野委員】今度、衆議院議長を相手に訴訟が起きましたね。議員宿舎の建て替えの問題で、森ビルが原告になって。あれは被告は衆議院議長なんですね、あれは誰が代理されるのですか。
【福井(秀)委員】あれは法務省が被告に入っております。
【水野委員】いや、衆議院議長だけでしょう。
【福井(秀)委員】いや、代理人には入っている。
【水野委員】代理人にね。
【塩野座長】他に何かございましょうか。この点は、先ほど福井委員が言われたことが基本的な考え方だと思います。とにかく国民に迷惑をかけないようにしようと思って、これから仕組むわけですから、それがかえって国民の迷惑になるようなことがあっては困る、ですから訴訟の現実の場面での支障のないようにするという手当は非常に重要だと思います。
もう一つは、今深山さんが言われたようなこととちょっと関係するのですけれども、やはり行政組織法的に見るとどうかねという議論は、どうしても出てくる気がいたします。理論の面からですね。あれだけ独立性、独立性と言っておきながら、どうだねと言って、お前の教科書どうかねと聞かれると、いろいろと議論もある。行政組織法の方からちょっと議論のあるところかもしれませんが、いずれにせよ基本は、先ほど福井委員の言われたことに沿って、今後とも技術的なところは詰めていただくというようなことになるのではないかと思います。
【芝池委員】今の点ですけれども、被告については、制度上は国または公共団体にするという整理をして、実際上は、行政庁だけを書いても、被告として行政庁を書いてもいいというルールができれば、さっきおっしゃった福井委員のような懸念はなくなるのではないかと思います。ただ、全く違った行政庁を書いた場合、これはやはり問題であり、どうやって救うかという難しい問題は出てくるだろうと思います。
それから、少し戻りますけれども、2-1-(1)の1ですが、「事務の帰属する公共団体」とするか、「行政庁が所属する公共団体」にするかということでありますが、ずっとこれまでは事務の帰属する公共団体という文言が使われてきておりましたけれども、パブリックコメントの結果などを見ますと、行政庁が所属ないしは帰属する公共団体の方が分かりやすいという意見もありまして、私はかねてからその方が分かりやすいと思っておりますし、そういう発言もしておりましたので、特に御異論がなければ、そちらの方向で進めていただければどうかと思います。
【福井(秀)委員】補足ですが、実質的救済が重要という、先ほど申し上げたことが第一義的なのですが、先ほどの水野委員と深山委員が御指摘の点についてです。恐らく実質的に救済が図られるにしても、できるだけ例外は少ない方が間違いにくいし、裁判の事務処理効率に資するということはあると思います。そういう点では、先ほどの、例えば公害等調整委員会とか独立行政委員会や、あるいは国会とか、そういった機関も人格で言えば、国の人格であるという点には違いないので、結局独立していることの配慮を何でやるかというと、恐らく法務大臣の指揮権限法だと思うのです。行政のトップである法務大臣が訴訟指揮を命じることができる、そこが恐らく一番クリティカルなところではないかと思いますので、そこで外すかどうかの議論を実質的にやればいいので、名義上は行政主体なら行政主体で国というふうに割り切っておく方がどちらかというと、訴える方にとっては簡明で明解ではないかという印象です。それほど本質的な議論ではありません。
【市村委員】問題の前提を確認したいのですけれども、今議論している2−1ですけれども、これは国や地方公共団体の代表者をどういうふうにするかという問題なのか、それとも、今まで権利主体だと言っていましたから、権利主体を国以外の、例えばそういうものについては国ではなくて、ある機関なり、例えば公正取引委員会とか最高裁判所とか、そういうふうにするかという問題なのか、ちょっとどちらで言われているのか、この前提を確認したいのです。
【小林参事官】これは、官庁からの意見なものですから、その意見の趣旨を理解してということですが、上の方の「国を代表する者」という法務省からの御意見は、福井委員からの御指摘のように、例えば国を当事者としてもいいけれども、場合によっては最高裁判所長官を代表者とする、国を当事者として最高裁判所長官を代表者とするとか、国会の議長を代表者とするとか、法務大臣が代表者ではない、そういう代表者という場合も考えるということが必要なのではないかという御指摘ではないかと理解しています。
【市村委員】被告の主体は、権利主体である国であることは変わらないということですか。
【小林参事官】法務省からの御意見は、そういう趣旨ではないかというように理解しております。下の方は、実は地方公共団体の場合は、出てきた意見は、そもそも地方議会を当事者にしたらどうかという御意見だったものですから、そういう立場を取ってしまうと、そもそも当事者が変わってしまう。今、福井委員からの御指摘のように、場合によっては地方公共団体を当事者とした上で、議会の長を代表者とするような、国をもしそういうような方法にするとしたら、地方公共団体もそういった横並びで対応することも可能ではないかと思いまして、そこら辺は今後の検討課題ではなかろうかと思います。
【市村委員】続けてよろしいですか、ちょっと意見ですけれども。そうすると私も、今福井委員がおっしゃられたように、余りいろんな形態が違うと、この場合だけはある機関をやらないといけないとかいうふうにすると、やはり分かりにくくなると思うので、権利主体であるというところだけは統一していただいて、ただ、それを代表する者が、例えば通常であれば法務大臣でもいいというところが、ものによってはそうではなくて、例えば公正取引委員会の長であったり、何なりするという配慮をするぐらいがバランスがいいのかなという気がいたします。
それから、先ほどの1について事務委任の場合、委任先かどうかという点ですが、この点については、先ほど芝池委員がおっしゃられた意見に私も賛成したいと思います。
【芝池委員】今、おっしゃったのは2つ目の方ですね。指定機関の方ではないですか。
【市村委員】いや、上の方ですね。要するに委任を受けた事務で決めるのではなくて、機関の所属で決めるという方が分かりやすいのではないかというふうな意見だったと思いましたので、それに賛成したいということです。
3の訴状で行政を特定させるかという点については、たしか前の議論の中では、例えば現在よりも管轄について当事者に原告にとって不利益にならないようにするということで、処分行政庁所在地というものも、1つの管轄の鍵にするという議論があったと思います。そういうことで、速やかにそういうものが確定していくということを考えますと、そんな便宜からも、やはり特定の行政庁を記載していただいているという方がずっとスムーズに運ぶのではないか。ただ、それについては、そこを間違いたということで、ぎりぎりと不利益を課さないというふうな配慮をすればいいのではないかと思います。
【芝池委員】先ほどちょっと触れました、指定機関が権限を行使して例えば建築確認をした場合、これはその指定機関が被告になると思っていいのでしょうか。私は、そう理解しておりますけれども。
【塩野座長】という御意見だと、私は理解しました。ここで、統一するわけではありませんので、そういった御意見があったということだと思います。
どうぞ、順次、今日は最後までいたしますので、少し前の方にどんどんお入りいただいても結構だと思います。
管轄裁判所の拡大、いろんな角度からのものがございますが、この辺については、一般の方々にとって、かなり関心の高いところかと思いますので、何かそういった点から国民の視点に立った御意見があれば、是非いただきたいと思います。
【芝池委員】管轄の点ですが、一方で最も広く原告所在地の地方裁判所に訴えの提起を認めるという考え方がありますけれども、他方で専門性という点からいきますと、東京地裁とか、そういうところが望ましいということになるわけです。この点に関連して条文に書けばどうか、ということを考えておりましたので申し上げさせていただきます。まず最初に、第1原則というような形になりますが、被告の所在地、行政庁の所在地も入れた方がいいかもしれませんけれども、その地裁ということを書きまして、その後に、現在も認められている2つ例外つまり土地に関する事件と、事案を処理した行政庁の所在地に関する原則も書き込みます。その後に原告の所在地の地方裁判所または高裁所在地の地方裁判所、これは議論のあるところでありますが、そこの地方裁判所に訴えの提起を認めるということを書いて、最後に地方公共団体の特例を書けばどうかと思っております。そうしますと、一見、被告所在地という原則が強い意味を持つようなんですけれども、実はそうではなくて、後に来るほど特別法的な意味合いがあって、実際には後に来るものの方が優先的に適用される、そういう順序になるのではないかと思っております。
この他、特殊法人とか、独立行政法人になると、これは私の勤務先自身が独立行政法人になるということもあるのですが、原告の所在地で訴訟が起こると、ちょっと考え込むところがあります。
【塩野座長】やや技術的な問題もございます。特に土地に着目した処分、第2-1-(2)の2ぐらいになりますと、やや技術的な点がございますので、この点はともかくとして、今、芝池委員が言われた行政庁所在地、あるいは原告住所地、あるいはこの場合の管轄の集中化の問題等について、コメントがあれば、どうぞいただきたいと思います。
【芝原委員】1点気になるのは、行政コストの問題というのがよく出てきますが、人が増えるわけではなくて、固定費は同じなわけです。民間的発想をすれば、固定費は同じで、固定費の変動化をしているだけなので、余りそういうことを言って、国民のアクセスの利益と、行政コストとのバランスの問題をどう考えるのかというのは、固定費が同じ中でのコストのかけ方のウェートの問題だけであって、行政コストが増えるわけではない、国家行政のコストが増えるわけではない。余り行政コストだけを考えるのもどうかなという感じがします。
【水野委員】基本的に原告の住所地を管轄裁判所にするということで、そう大きな反対はないのではないかというような印象なので、そういうふうにするべきだと。
それから、今おっしゃった点と関連しますけれども、地方公共団体とか地方公社の場合は配慮が必要だと思いますけれども、国の場合、全国に拠点を有しないという理由だけで、例外を認めるというのはおかしいと思います。行政コストというのだけれども、要するに国民に負担させるのか、行政が負担するのかという問題ですから、それはやはり原告の住所地でやるべきだろうと思います。
【福井(秀)委員】私も基本的に水野委員の意見に賛成なのですが、土地の場合については、例えば沖縄の固定資産税の支払い者が北海道にいるとかこういうことを想定すると、土地については、土地か被告かという選択でもよろしいのではないかと思います。ただ、そういったもの以外は原則として、行政主体の、いわば管轄内にある原告の所在地であれば、そこは管轄に加える。というのは国であれば全国、都道府県であれば都道府県内、市町村であれば市町村内の原告所在地は管轄に加えるというのが、むしろ素直な考え方ではないだろうかと思います。行政コスト云々というのも、先ほど来出ている御意見のとおりで、それほど重視すべきものかという気もいたします。
【塩野座長】独立行政法人の管轄というのがあるかどうかという問題がありますね。
【福井(秀)委員】昔ですと、北海道開発公庫とか、あるいは地域公団と都市公団の地域割りとかありましたので、おのずと想定される地域というのはあるようにも思いますので、そこは前提にしてもよろしいのではないだろうかと思います。
【塩野座長】国立大学は一番微妙なところですね。全国区をもってみんな任じていますので。この辺については、個別の独立行政法人あるいは特殊法人は大変重要な問題ですけれども、ここで今日の段階でどうこうということはないと思いますので、もう少し事務的に、実務的な見地等を踏まえて、いろいろ議論を重ねていったらと思います。
【芝池委員】水野、福井両委員に質問ですけれども、原告所在地主義を取るとして、その場合でも、国の場合は被告所在地である東京地裁に出訴できる、それから高裁所在地の地裁へも出訴できる、これはいいのですね。選択でいいのではないですか。
【水野委員】それは被告の所在地と言いますか、行政庁の所在地。これは競合管轄で認めてもいいと思いますけれども、高裁所在地の地裁に競合管轄を認める必要があるかどうかというのは、ちょっとどうでしょうか。今、どちらがいいかというのは。
【芝池委員】自分に一番近い地裁よりも高裁所在地の地裁の方が専門性が大きいようだと考えた人が、そっちを選択するというのがあってもいいのではないでしょうか。
【水野委員】そうですね、あってもいいような気もします。
【塩野座長】これは、パブコメに付したときのA案として、今の案が出ているわけで、それからB案が地方裁判所にも提起することができるという形で、パブコメに付しているということになります。
それでは、「5 同種の訴訟の移送規定の整備」辺りも多少、技術的な点が多くございますので、こちらの点で御意見をいただいてももちろん結構でございますが、「第2-1-(3) 出訴期間等の教示」の辺りについて、御意見をいただければと思います。この点は、行政官庁からの実務的な見地からの意見がいろいろ出ているところでございます。
【福井(良)委員】第2-1-(3)の教示の相手方の問題ですけれども、行政不服審査法に利害関係人に対しても教示するという規定がありまして、それとのアナロジーの問題があるのですけれども、行政不服審査法と行政訴訟の違いに、やはり留意する必要があるのではないかなと思います。不服申立の場合は、利害関係人に教示するというのは、これは不服申立の適格に関しての行政庁の判断ということですので、あくまでも行政庁の責任の範囲の中の行為になるわけですけれども、さらに行政訴訟の利害関係人までということになりますと、事実上は原告適格の有無を行政庁が判断するというふうなことになります。やや無理があるのではないかなといいますか、行政の現場で混乱が生じないかなというふうな心配をいたしますので、その辺は慎重に検討していただきたいと思います。
【水野委員】「2 書面による処分に限定するか」という項目ですが、これは書面による処分に限定せざるを得ないと思います。ただ、書面による処分をする一方で公示をするという場合があると思うのです。これはやはり公示の中には、そういう教示を書くべきではないかと思います。そういう意味で書面ということでいいのではないか。
それと3番目に出てきます、「口頭での処分についても、要求があれば教示しなければならないとすべき」という御意見が出ていますけれども、これはやはり要求があれば教示するというふうにすべきだと思いますし、これについては別に口頭による処分ではなくても、第三者からの、つまり処分の書面が行っていない人ですね、第三者からの要求があった場合でも教示をすべきではないかと思います。
【塩野座長】細かいことを言いますと、口頭での処分について要求があると、口頭で教示すればいいのですかね、それとも書面で。
【水野委員】というふうになるんでしょうかね。
【塩野座長】そういう細かな実務的な議論は、また好きなところでお任せいたしますが、現実問題としては、なかなか面倒なことが起こるかもしれません。
【福井(秀)委員】「3 職員の任用に関する処分は教示義務の対象から除くべきか」というもの、これもこれだけ除くというのも、また例外が多過ぎて煩瑣になるので、その必然性は必ずしもないように思います。
「4 教示がない場合や誤っていた場合の効果」ですが、少なくとも、最後の○にあるように、「教示を怠ったときは、教示がされるまで出訴期間は進行しないとすべき」と、教えてあげなかったことに伴って進行しないというところまでは法的効果として少なくとも与えておいた方がよいと思います。
【塩野座長】これは橋本さん、フランスでは判例で決まっているのですか、それとも法律の条文で。
【橋本外国法制研究会委員】これは条文で。
【塩野座長】条文で進行しないと。そうですか、比較法的にもあるし。
それでは、どうぞ2−2の方も、1の方にも立ち返ってくださって結構でございますが、進行の都合で申しますと、第2−2のところを一括して御意見をいただければと思います。この点は、最初の部分は、釈明の一環といくか、あるいは文書提出命令として考えるか、ここは意見の対立があったというところだと思いますが、何かこの点で御意見はありますでしょうか。
【芝池委員】私、文書提出命令の制度は詳しくございませんので、質問をさせていただきます。お詳しい方に、御説明いただければいいのですが、文書提出命令にすると、訴訟の審理に入ってから文書提出の申立てをすることになるわけですね。むしろ、ここでの意見はできるだけ早期に、文書なり理由を行政庁から出してもらうということに狙いがあったわけですから、その点では、釈明処分の方が早く時間的に行使できると理解しているのですが、それでよろしいでしょうか。
【深山委員】釈明処分だってすら、訴訟手続が始まってからの話ですから。
【芝池委員】いやいや、期日が始まってから。
【深山委員】ですから、どちらが早いという意味では、文書提出命令でいくか、釈明でいくかということで差があるという感じはしていませんが、むしろ、ここに簡単に法務省の意見で書いてありますが、前国会で成立した民訴法の一部改正法案、まだ施行日が決まっていませんが、恐らく来年の春には施行されると思いますけれども、その中で提訴前の主張あるいは証拠の収集手段を拡充した新たな手続を設けています。ですから、強制力は伴っていないのですけれども、事前に争点を当事者が把握する、どこが争いになるのか把握する。あるいは、強制力を用いないでも収集できる証拠を収集するというようなことが提訴前に、提訴の予告の通知をすれば、一種の法律関係に準じた関係が生じたということで、提訴予告通知をした後に、相手方にどういう理由でこういうことをしたのか、こういうふうにこちらは認識しているけれども、本当に間違いないのかとか、そういう争点を当事者が理解するために必要な照会をする。あるいは、強制力を伴わない証拠調べ的なこと、具体的に幾つかの方法が法定されていますが、それをするということが認められまして、これは行訴にも使えますので、今、芝池先生が言われたのは、そういう形で、対応できることに来年の春以降はなるだろうと思います。
【水野委員】提訴前の証拠収集手続、これはこれから施行されると説明がありましたし、文書提出命令については、公文書が提出命令の対象になったということで、この帰趨を見ろという意見が結構あるのです。ところが、民事訴訟の場合の文書提出命令と、行政訴訟の場合の文書提出と若干違うところがある。その1つは、市村委員がつとにおっしゃっている裁決を経ている場合です。裁決を経ている場合には、裁決の記録があるわけでありまして、そこには当事者の主張だけではなくて、証拠が綴られているはずなのです。ですから、そういうものは速やかに出させる。これは民事訴訟法220条3号の挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成された文書に当たるかどうかという議論があり得るだろうと思うのです。つまり、処分したものを裁決で支えたわけですから。しかし、そうは言っても当たらないと言われる可能性もあるので、裁決については出させるべきだと。これは、市村委員が御指摘になったと思いますけれども、例えば裁決で、国税の税額を変えたというような場合、裁決庁が税額を一部変えたと、そうするとどういう理由で変えたのかというのが、処分庁も知らないということが実際上私はないと思いますけれども、一応形式的にはあり得る。それはおかしいのではないか。だから裁決庁の記録がきちんとあるのだから、そんなものはすぐに出させるべきではないかという議論です。これは当然そうだと思うのです。
それから、元の原処分についても、きちんとした一件記録があるケースはたくさんあると思います。例えば運転免許の停止処分をしたとか、いろんな処分によっては、きちんと一件記録があるものが多いわけでありますから、これは出させるべきだと思うわけです。たしかに処分概念を拡大していきますと、一件記録という形でまとまっているかどうかということについて、疑問のあるものがないわけではないと思います。しかし、それでもやはり処分の関係記録ということで、どこまで出してくるかは別にしまして、それを提出命令にかけるということにすれば、それなりのものが出てくると思うわけでありまして、これはやはり行政処分を争う行政事件訴訟の特質だと思いますので、民事訴訟法の文書提出命令の一種特例的なものを設けるべきではないかと思っています。
【深山委員】文書提出命令だとしますと、文書の特定が要るということになっています。一件記録で特定されているかという問題はもう1つ、いろんなケースがありますし、何よりも争点となった立証事項の証拠としての必要性というのが、発令の前提要件で、何でも関係するものをみんな出してくれというようなことは、証拠収集手段としての文書提出命令、これはサンクションがある制度ですから、だから、何かよく分からないけれども、いろいろあるようだから出してくれと、その方が国民にとっては便利だということ自体は、それはそれで理解しますが、文書提出命令で強制的に出させて、サンクションまで用意している制度に載せるというわけにはいかないのではないかなと。
【水野委員】ただ、それを隠す必要もないではないですか。
【深山委員】隠す必要はないですけれども、立証に必要でない、わけの分からない資料も含めて、何を求められているかも分からない、何を出さなかったら制裁を受けるかも分からないというようなことで、おおよそ関係しそうな資料はあるでしょうから出してください、しかもそれは裁判所の提出命令ですと、そういう形でかけるのがいいのかということです。
【水野委員】ただ、その中には一定の処分をしているわけですから、その処分を支える証拠ももちろんあると思いますけれども、それに反するような証拠だってあり得るのです。そういうものを評価した上で処分を維持したり、処分をしたりしているわけですから、処分庁に不利な証拠も、やはりその情報は国民のものですから、裁判の場には出されるべきだと思うのです。今は、そういう制度がありませんから、行政庁は裁判になれば、自分の有利な書類しか出してこないという問題点があるわけです。
【塩野座長】その点は、私もこの前に、情報公開法のシンポジウムに行きまして、行訴法の特色として、説明責任とはあえて言いませんけれども、通常の当事者と違ったところがあるのではないかというふうな話はしたことがありますが、それを文書提出命令の中に仕組むのか、それとも釈明処分の一環としてというか、あるいは行訴法独自の制度として仕組むかという問題はあるのかと思いますが、市村委員は、かねてからこの点について御意見のあるところだと思いますが。
【市村委員】先ほど水野委員が御紹介下さいましたけれども、前の機会に、裁決についての私の意見は申し述べたと思います。つまり、裁決で、どのような資料に基づいて判断したのかということが訴訟の前提になるわけですから、その前提をまず明らかにした上で、訴訟が進行するというのが一般的に円滑な進行に資するということは言えるのだろうと思います。そういう意味で、私は裁決関係の書類は出してもらいたいと申し上げているわけですから、その位置づけは、やはり釈明的な位置づけというのに非常に近い、あるいは釈明的な位置づけと言ってしまっていいのだろうと思います。
文書提出関係のものについては、ここ何年かの間に何度かの改正で、いろいろな拡充が図られているわけですから、その中で、さらに文書提出命令をもっと拡大する必要があるかどうかというのは、私ども現場をやっているものとすると、もう少し何が本当に必要かの実情を見た上で、まだやっていけることではないかと思います。
【福井(秀)委員】私は、基本的に水野委員の意見に賛成ですが、ここの文書提出命令か、釈明かというのは、仕組み方によっては相対的なものだと思います。本質的な部分が確保されていれば、その呼び名をどうするかということは、それほど本質的ではないと思うのですが、2つありまして、今の文書提出命令のように、固有の文書を具体的に特定するというようなことだと行政訴訟ではほとんど意味がないだろうという点が1つです。
それから、改正民事訴訟法の提訴前の証拠収集手続というのも、先ほど深山委員から御紹介がありましたように、要するに強制力がないということが前提であれば、行政庁のこういった訴訟行為を対象とした情報収集手続というのも、ほとんど甲斐がないだろうと思います。この2点がやはり重要ではないかと思います。水野委員もいみじくも指摘されましたように、行政庁は処分をやる場合に、処分を支える、要するに有利な証拠は当然集めるわけですけれども、それに反する証拠だって手元には実際集めるわけです。いろいろ取捨選択して、基本的には有利な証拠に基づいて処分をするわけですが、これもまさに法務省訟務局の指導がそうなっているわけですけれども、後から洗いざらいそれを裁判で出すかというと、絶対にそういうことはしない。要するに、処分を具体的に維持するのに有利になるような証拠だけをつまみ食い的に出すというのは、行政庁の指定代理人の経験者なら常識に属する話でありまして、これをつつみ隠さず出すようなおめでたい行政庁とは、少なくとも私は聞いたことはありませんし、今も恐らくそういうふうに運用されているのだろうと理解しています。ですから、裁判所に出てくる資料自体が極めてか細いルートを通ったものだけで判断されている傾向があるということは否めないわけでありまして、そういう意味では処分を維持するに当たって、必要とした、有利なという意味だけではなくて、処分を維持するのに関係がある資料一式を強制力をもってあらかじめ出していただくという制度は、それを何と呼ぶかどうかはともかくとして、行政訴訟では違法の判断、公益の判断が争われる以上、極めて本質的に重要な要素ではないかと思います。
【塩野座長】どうもありがとうございました。今の御意見は既に、何回か、今、特定はできませんけれども、小早川委員もそういった趣旨の御発言もしておられましたし、私もそういう発言をしていたところですが、ただ、それをどう仕組むかというのは、かなり現在の文書提出命令の在り方、あるいは将来を多少見越した上での提出命令の在り方と、それから現場での釈明処分、あるいは釈明権の行使の在り方と、いろんな点を考えていかなければいけないと思います。基本的な問題意識は皆さん、ほぼ共通して持っておられると私は理解をしております。
それでは、大分時間も押しておりますので、記録の提出を拒否できる場合は、行政庁というのは、いろんなことを心配してくれるものだなと理解しておりますので、これについて一々ここで反論するのはいかがとも思いますので、こういう状況が出ているということは、きちんと理解をしないといけないと思います。その上で、どうするかという問題だと思います。
あと、適用する訴訟手続の点において、多少パブコメからの御意見に分かれがございますけれども、これもなかなかいろいろ面白い御意見が出るなというふうに思いましたが、御意見として今日は御披露をして、それぞれお考えいただくということにしてはいかがかと思います。
もう一つ、多少問題となりますのは執行停止のところでございまして、仮の救済のところの、執行停止以外の仮の救済は、ちょっと後の方でいたしますけれども、とりあえず第2−3の1から3までのところですか、御意見を伺えればと思います。
【福井(秀)委員】「1−1 公益への影響をどう考えるか」というところの議論で、いわば処分者以外の人たちの利益の衡量ということを随分各省庁強調しているわけですが、この配慮は当然一定の場合必要なんでしょうけれども、もともと行政処分が違法な場合は、仮にその処分で守られる、要するに処分が違法で取り消されたら困るような人がいっぱいいるようなケースでも有無を言わせず取り消して、効力を無きものにするということが前提なわけですから、例えば本案に理由があるように見えるような場合について、こういう要件を課すというのは、もともとの行政訴訟制度からすると矛盾ではないだろうかという気がします。違法判断に熟しているようなものについて、公益が、一方の天秤で利益衡量にかかるということは、やはり法の枠組みとしておかしいと思います。
【塩野座長】実務的なことをお伺いして恐縮ですが、今のような形で違法判断ができるのだったら、本案判決はなかなかできないものですかね。そこまで分かっている場合ですね、やはり分からないから問題になっている。実務的に私が言いたいのは、少し遅いのではないか。
【市村委員】結論が分かっているのであれば、例えば執行停止の場合でも、もう確信を持って本案について理由がないというのでやる場合には、他の判断をせずに、まさにそこからすぱっと入っていくということもあり得ると思います。現にやっています。ただ、やはりそれを使うのは、どちらかというと、よほど確信を持っているときであって、疎明の段階というのは、非常に短い期間でばたばたと資料が来ていますので、出せていないものがあるのではないだろうかというのは、常に裁判所としては考えざるを得ない。なかなかその部分にいきなり入って、これからやっても訴訟はムダですよというふうなごときのことは、この段階で言えないというのが実情です。
【塩野座長】今のを私が理解しますと、現在では要件は非常にぴしぴしと、積極的要件、消極要件で、頭が一つ一つ区切っていくようになりますね。しかし、今のお話ですと、一つ一つ区切るよりは、やはり全体として事件を見て、それで救済すべきかどうか、あるいは公益の判断、全体を見て判断しているということですと、ちょっと今の書き方が違ってくるのではないかという感じが、その点はいかがでしょうか。
【市村委員】今の座長の御指摘は全くそのとおりでして、つまり、今、消極要件と積極要件と書いてありますけれども、その要件ごとに分けて、こっちがどうだった、さてこれが肯定できた、次にこっちというふうな思考がなかなかできないのです。
それから、公益への影響というのも、実際使い方によっては非常に広く使えてしまうものですから、公益への影響という規定は、ほとんど使われていないのです。それで言ってしまえば、福井委員が御指摘のように、公益への影響と、例えば著しい損害をどう見るかということは、かなりバランスの問題、相関的な問題というふうに言えると思うので、実際上の衡量の仕方は、そういうふうなことが広く働いています。そういう意味で、そうした実際の思考方法に合ったような要件というか、総合的な衡量をするということが可能なような要件の書き方にしていただければ、実務は非常に安心して出来ると思います。
【塩野座長】もう一つ、この点との関係で重要なポイントは、内閣総理大臣の異議の制度ですが、この点については、どう考えたらよろしいでしょうか。
【福井(良)委員】前回、各省ヒアリングでも役所の側から割合慎重な意見が出ていたと思います。過去40年ぐらい発動されたことがないということを聞きますと、この規定による実害の有無ということではなくて、理論的にそういった究極の手段を残すべきかどうかということだろうと思います。ですから、この検討会で行政訴訟法の専門的な立場から、理論上廃止という結論が出るのでしたらいいわけですけれども、そういう問題だけでもなさそうな感じがしますので、その辺も少し将来における究極の状態が来るのかどうかといった見極めも必要だと思います。それがどういう場で検討すべきか、ちょっと分かりませんけれども、別の判断も要るのではないかなというふうな感じがしました。
【塩野座長】ここはなかなか難しいところかと思いますので、今日どちらというふうにはなかなか決め難いところがあるかと思いますが、今のような福井委員の御意見、あるいは御要望もあったということは承りました。
【水野委員】執行停止のところは、役所の方でいろいろおっしゃっているわけですけれども、こういう場合に認められたら困るじゃないかという意見が結構あるのだけれども、それが認められるかどうかは、具体的な事案によって決まってくるわけで、それを言っても仕方がない。今、我が国の執行停止制度というのが非常に狭いというのは、ある程度共通した国民的な認識だと思いますので、それを重視させるべきだ。これは執行停止原則にするか、執行不停止原則にするかという議論もありますが、どっちの制度としたって例外というのは置くわけで、例外の要件の決め方によって、どちらにもなるわけです。要するに暫定的な執行停止制度とかいろいろ困るではないか、それでは外国人の逃亡が防止できなくなるとか、いろいろおっしゃっているのだけれども、それではドイツで執行停止制度を取っていることはどうなんだということにもなるわけで、ですから、ここのところの役所の方のお話というのは、余り説得力がなかった。
内閣総理大臣の異議についても、今、福井委員がおっしゃいましたけれども、現実問題として長年全然機能していないわけですから、これも一応おっしゃっているけれども、そう大きな反論ではないという認識です。
【芝池委員】今の内閣総理大臣の異議ですけれども、先般のヒアリングのときに、各省庁から割と慎重な意見がたくさん出ましてびっくりしておりまして、今の水野先生のようにすぱっと割り切ればいいんですけれども、この各省庁の意見というのは、内閣総理大臣が登場するような仕組みをつくらないといけないというのか、それとも裁判所の審査を受けない、そういう申立ての制度をつくることが必要だと言っておられるのか、これはどちらなのでしょうか。何か事務局の方で御存じでしたら教えていただきたいのです。
【小林参事官】ここにあるように、内閣総理大臣の異議の制度は、国会報告も含めた三権分立の観点からも検討する必要があるというような意見もありまして、要するに行政府の長としてぎりぎりの権限というのは必要ではないかと、そういう意味での意見であって、単に不服申立ての止めるルートがあればいいとか、そういう話ではなく、もっと究極的な問題としては制度は残した方がいいのではないかというのが、警察庁とか、財務省の意見ではないかと理解しています。
【芝池委員】そうすると、やはり内閣総理大臣が出てくるというところが重要なんでしょうか。
【小林参事官】それだけの究極的なものとして、この制度を考えた方がいいのではないかというのが行政官庁の意見ではないかと理解しています。
【芝池委員】だから、主務大臣ではいけないわけですね。
【小林参事官】そうだろうと思います。
【芝池委員】もしそうであれば、裁判所の審査を何らかの形で仕組むというのはあり得るんではないかと思います。
【塩野座長】ありがとうございました。今日は、この程度に一応とどめさせていただきたいと思います。
それでは、一応、第1のところについて御意見を承りましたので、ここで7分ばかり休ませていただきます。休息を取らせていただきます。そういうことで、2時50分に再開するということでございます。よろしくお願いいたします。
(休 憩)
【塩野座長】それでは、時間が参りましたので、次に「第2−3 本案判決前における仮の救済の制度の整備」の残りの部分から「第2−5 取消訴訟の対象、排他性、出訴期間」、ここまでにつきまして、事務局から先ほどと同じような形で説明をいただきまして、その後、同じような形での御検討をいただきたいと思います。
では、事務局よろしくお願いいたします。
【小林参事官】まず、「4 執行停止以外の仮の救済」ということで、7ページにございます。論点としては、「4−1 係争物に関する仮処分に類する仮の救済」につきまして、「係争物に関する仮処分に類する仮の救済が必要となる場合はない」という御意見と、処分禁止等の必要性があるのではないかという意見が分かれております。
「4−2 仮の地位を定める仮処分に類する仮の救済」は、そこに掲げたように、生活保護や補助金の支給拒否、その他の事例等、申請拒否処分等のような事例が掲げられております他、3つ目の○に、「工場に対して暫定的な改善命令、排出規制命令」、つまり第三者に対して命令を出させようというような場合も念頭に置かれた事例があります。そして、今度は「公共の利益に影響があるような場合、たとえば、飲食店営業許可を仮に義務づけるのは適当でない」というような問題、それから、「仮の救済が認められれば、回復不能な結果を招く危険がある」として、旅券の発給をして外国へ行ってしまう場合であるとか、農地の転用許可や農薬のような問題、そういった事例について、各省からいろいろ御指摘がございました。これに対して、ヒアリングで、「執行停止では救済できない場合の仮の救済の制度が必要であるが、国民の権利救済もできると同時に公益にある程度配慮したシステムを作る必要がある」、こういう委員の御指摘がございました。また、「処分ごとに影響が異なるので処分ごとに検討すべき」ではないかという御意見もございました。
それと裏腹の関係で、本案に関わる問題ともなると思いますが、8ページの「第2-4-(1) 行政の作為の給付(義務付け)を求める訴え」に関する論点ですが、「1 司法と行政の関係」は、一番上の□に東京都の御意見がありますが、「義務付け訴訟は、三権分立の基本に係る事項である。行政の第一次判断権を尊重し、要件を明確にした上での法制化を望む」という御意見がございます。「どのような場合どのような作為を義務づけるかが明確にされる必要」があるのではないかという御意見もありました。
「2 申請権がない第三者が処分を求めることを認めるか」という点についてさまざまな御意見がございます。「申請に対して行政庁が処分を行うことが予定されている場合に、申請権のない者に作為の給付を求める訴訟の提起を認めることは、適当でない」という意見が、文部科学省や国土交通省から出されておりまして、国民からの御意見の中には、「当事者間による民事訴訟的解決が不可能であり、行政の介入によらざるをえない場合がどれほど想定できるか」という御意見があり、あるいは「法令に基づく申請権がないのに行政の作為の給付を求める訴えを認めるのは、賛成できない」という御意見もございました。
9ページで、「3 作為の給付を命ずるための要件」は、行政官庁からは「一義性の要件、緊急性の要件、補充性の要件の3つが充たされることが必要」という御意見が多く出されまして、その下にありますように、具体的には、例えば「行政庁に裁量の余地のある処分についてはなじまない」という御指摘もございました。さらに、申請権との関係、第三者が義務づけを求めるような場合について、「申請権の有無により認められる要件の異なることも止むを得ない」のではないかという御意見もございました。
「4 作為の給付(義務づけ)を命ずる行為」は、「抽象的な行政行為をすべきことを求める訴えを認めることは不適当」ではないかという御意見、それから、「処分以外については民事訴訟により給付の訴えが可能であり、必要はない」という御意見があります。
「5 取消訴訟との関係」におきましては、「取消訴訟などの訴訟の形式も残し、原告の選択に委ねる」という御意見がございます。あと、「訴えの変更に関する出訴期間の救済規定を設けるべきである」と、義務付け訴訟を提起したけれども、取消訴訟で足りるということで、義務づけ訴訟が不適法だけれども、取消訴訟ならいいという場合に、取消訴訟に訴えを変更しても出訴期間は救済する、こういう規定を設けてはどうかという御意見もございました。
「7 判決の執行」は、民事訴訟と同様の方法を考えるのかどうかという問題について、行政がこれに従わないということは考えられないので、「強制執行を考える必要があるかどうか疑問である」という御意見がございました。
「第2-4-(2) 行政の作為の差止めを求める訴え」に関する論点は、10ページの方の差止めの要件の方にいきますと、これも行政官庁の方からは、やはり「一義性の要件、緊急性の要件、補充性の要件を求めるA案を基本とし、その要件を厳格にすべき」ではないか、それから、「行政の裁量の余地がある行為まで差止めを認めることは適当でない」という御意見が出されております。
「3 差止めを求める行為、民事訴訟との関係」ですが、民事訴訟との関係をどう整理するかということですが、2番目の○のところにありますように、「行政訴訟として新設するのであれば、処分に限定すべきである」、「民事訴訟による差止めの訴えとの関係は、問題はない。民事訴訟による差止めの訴えでは、公権力の行使に当たる行為の差止めはできない」、こういうように整理すればいいのではないかという御意見がございました。それから差止めの場合も、やはり第三者への影響について御指摘されている意見がありまして、なお、「5 差止判決の効力をどう考えるか」ということについても、差止判決を行った後で、事情が変化する場合もあるのではないかと、そういうことが起こるということに行政というのは対応できるようにする必要がある、ここをどう考えるのかという問題の指摘がありました。
11ページの「第2-4-(3) 確認の訴え」につきまして、確認の訴えの必要性は、「1 必要性、民事訴訟の確認の訴えとの関係」についてという項目で挙げておりますが、「確認の訴えの対象は無限定であるが、確認の利益がなければ訴えの利益を欠く。確認の訴えが認められる範囲を拡大する必要性が乏しい」という御意見がございました。
「2 確認の訴えが認められる場合」についてですが、「確認の訴えが認められる範囲を拡大する場合には、確認の対象、確認の利益が認められる範囲等につき、法律において限定すべき」ではないかと、こういう御意見もございました。その下の□にありますように、法務省からは、「現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができる場合には、確認の訴えを認める必要はない」、こういうような御意見も出されております。
「第2-5-(1) 行政立法、行政計画、通達、行政指導などへの取消訴訟の対象の拡大」の項目につきましては、「1 取消訴訟の対象とする必要性」について、様々な御意見が出ておりまして、具体的には、一番上の□にありますように、「国民の権利義務に直接影響を与えない行政立法等を訴訟の対象とすることは、当事者だけでなく、広範囲に影響が及ぶため、慎重に検討すべき」という御意見、その次にありますように、「法律上の利益を有する者が不明確な段階で事業の適法性を争うことは、訴訟経済上非効率であり、正当な利益を有しない者の活動の場として利用されるおそれ」があるのではないかという御意見などがございました。12ページに、さらに多様な御意見がありまして、例えば12ページの一番上は、「行政立法、行政計画などでも、国民の権利義務に直接影響を及ぼすものは、現行法のもとでも、取消訴訟の対象となる処分に当たる」という前提の御意見があります。
「2 地方公共団体による行政立法」について、「条例の司法審査は地方公共団体の民主的な法形成に国が直接介入することになる」ということも考える必要があるのではないかという御意見もございました。
「3 訴訟当事者以外の国民の利益の考慮」について御指摘がありまして、□のところで、「行政計画は、広範囲な関係者に影響を及ぼすことから、策定過程に審議会の審議、パブリックコメント等の仕組みを一般的に採用している。当事者の主張に基づいて取り消すとすると、プロセスを経た趣旨が没却される」。それから、次の項目にありますように、「行政立法や行政計画は、パブリックコメント・住民参加など立案過程の見直しにより解決すべき」ではないかという御意見もありました。
4のところに、取消訴訟の対象とする場合の要件を考える必要があると。「国民の権利義務に関する具体的な紛争の解決に資する場合に限定するための要件を十分に検討すべき」ではないかという御意見が法務省の方から出ておりました。
13ページにいきまして、「5 出訴期間・違法性の承継」につきましては、例えば「行政計画を取消訴訟の対象とするのであれば、これに基づく行政処分等について、行政計画の違法を主張できないこととすべき」ではないかという意見もございます。
「第2-5-(2) 取消訴訟の排他性等の見直し、行政決定の違法確認訴訟の創設」に関する御意見ですが、「1 取消訴訟の排他性と出訴期間の必要性」については、「関係者の法律関係の安定、行政の円滑・効率的な遂行の観点から、取消訴訟の排他性と出訴期間の制限は、今後維持するべき」であるという御意見や、あるいは「行政文書の保存期間が、最短で1年未満であることも考慮する必要」があるというような御意見、次の○にありますように、「取消訴訟の排他的管轄には行政上の法律関係の安定、国民の信頼の確保という点で一定の意義及び合理性が認められる。出訴期間の制限は、短すぎなければ、権利利益の実効的救済にそれほど影響はない」という御意見もあります。
「2 行政決定の違法確認訴訟を創設することはどうか」という御意見に関しては、13ページの一番下の□にありますように、「行政決定という概念は極めて広範なため、更なる限定要件を設けなければ、具体的な紛争の解決と関係のない訴えが提起されて、実務上混乱を招く」という御指摘、14ページにいきまして、日弁連の提案として、このような違法な行政決定を無効であることを確認する訴訟というのを提言されているわけですが、「違法な行政決定が有効であることはなく、是正訴訟は形成訴訟として構成されるものではない」という考え方で考えるべきだという御意見、それに対して、「日弁連が提唱している「是正訴訟」のような改革ができたとしても、結局はいくつかの訴訟類型に集約されていくのであって、それまでの混乱を考えると、当面はかえって行政訴訟の機能不全を招く」のではないかという御意見がありました。
「3 個別法で排他性と出訴期間を定めることはどうか」ということに関しては、「取消訴訟の排他性と出訴期間の制限を個別法で定めると、個々の処分ごとに内容が異なり、処分を受ける者は混乱する」のではないか、2つ飛んで○のところですが、「出訴期間を個別法で定める方法は、一覧性を欠いて、権利救済に結び付かない。一般原則を行政事件訴訟法で定め、特例を個別法で定める方法は合理的」ではないかという御意見があります。
「第2-5-(3) 裁判所が判決で必要な是正措置を命ずる考え方」につきましては、一番上の□にありますように、「行政決定について違法判断がされても、必要な是正措置が一義的に導かれるものでもなく、住民間の利益調整を含めた政策判断や専門性・特殊性の高い分野について、裁判所が判断することが可能か」という御意見もございます。
15ページ「第2-5-(4) 取消訴訟の排他性の拡大解釈の防止」につきましては、そこに掲げたような御意見があるわけですが、例えば3つ目の○のところで、「訴えの変更の許容範囲を拡大する規定を置くことで解決できる」のではないかという御意見もございます。
「第2-5-(5) 出訴期間の延長」ですが、「現行法の出訴期間を維持することが望ましい」という御意見が、かなりたくさんの省庁から出されております。さらに、次の項目にありますように、「法律関係の早期確定、第三者への影響の観点から、出訴期間は、大幅に延長すべきではない」という御意見が出ております。さらに、農林水産省からは「延長する場合は、特例を検討する必要」があるという御意見も出ておりまして、こういった様々な御意見の他、国民からの意見募集、もちろん出訴期間について、A案、B案、C案、それぞれについていろいろ賛成する意見等もそこにございますようにあります。他方で、「教示義務を設けるから、延長する必要はない」のではないかという御意見や、むしろ「期間を遵守出来なかったことにつき正当理由がある場合の救済規定を置くべき」という対応も考えてはどうかという御意見もございました。
【塩野座長】ありがとうございました。それでは、7ページの「4 執行停止以外の仮の救済」から入ることにいたしますが、執行停止以外の仮の救済は、後の「2-4-(1) 行政の作為の給付(義務付け)を求める訴え」、「2-4-(2) 行政の行為の差止めを求める訴え」との関連もございますので、この辺は一括して、多少行きつ戻りつしてでも結構ですので、御議論を賜わればと思います。
【水野委員】仮の救済については、行政庁の方も反対意見というのは、そう強いものではないような印象だったです。
1つは、仮の救済が認められれば、回復不能な結果を招く危険があるという指摘、それは具体的にはそのとおりなのですけれども、逆に処分が違法であるという事例を想定すると、それでよかったということになるわけで、逆に仮の救済を認めない場合で処分が違法な場合には、国民の側から見ますと、これは逆に回復不能な被害を被るということになるわけですから、これは裏腹なのです。ですから、これは個々の具体的な事案ごとに適正な判断をしていくしかないので、これは積極的な反対理由にならない。それから法務省の、「処分ごとに影響が異なるので、処分ごとに検討すべきだ」と、これは今と同じ話だと思います。人事院は、自分のところの職員のことだけおっしゃっていますけれども、これも民間会社と同じなので、つまり懲戒処分で免職にした公務員がそのままいることになったら、後任の人はどうするのだという話ですけれども、それは民間会社でも一緒なので、これはいずれにしても余り説得力はないと思いました。私は、もともと民事保全法の仮処分を認めたらいいではないかということを主張しているわけでして、その場合に行政に関連する事件の場合には、当然その事案に即した公益性、その他の判断が入ってくるわけですから、それで十分だというふうに思っているわけですが、仮の救済という制度を設ける場合、要件について民事保全法と若干違う公益性等について配慮すべきだみたいな要件が付け加えることになるかも分かりませんが、設けること自体については、まず大きな反対はなかったという印象です。
【塩野座長】どうもありがとうございました。それでは、行政庁の反対もカテゴリーとして認められないということではなくて、こういう点に留意をしろという、そういう意味である種適切な指摘もいろいろあると思いますので、こういった指摘があることを前提にしながら、要件について、また議論を進めていくということになるのだろうと思います。
それでは、次が少し重い問題がいろいろございますので、次に進めさせていただきますが、義務づけ訴訟、それから差止訴訟、そして確認の訴えの後の2-5-(1)のところとも多少関係がありますけれども、しかし、訴えの類型のところもということでございますので、確認の訴えの点についても御発言いただいても結構だと思います。
【芝池委員】前回、パブリックコメントの結果について、事務局の方から報告をしていただきまして、義務づけ訴訟についての要望が、少し弱くなっているのではないかという感想を述べたのですが、前回いただいた資料を後で読み直してみますと、必ずしもそうではない、やはり要望は強いというふうに感じました。ですから、そこのところの印象を訂正いたします。
この義務づけ訴訟あるいは義務づけ判決ですけれども、規制権限の行使を求めるタイプの制度についていくつか反論が書かれているわけでありますが、例えば自分の住んでいる近くに産業廃棄物の処理場があって、いろいろな被害がひどいという場合、やはり何らかの形で行政庁の介入を求めるような訴訟を認める必要性があるのではないかと思っております。法令に基づく申請権がないのに義務づけ訴訟を認めるのはおかしいとか、そういう意見もあるわけですが、ただ実際上の必要性は十分にあるだろうと思っております。
【水野委員】ちょっと今の芝池委員の御意見に関連して、私も一言だけ申し上げておきます。前回配られた資料の3−2の9ページの真ん中辺りに、今の義務づけ訴訟についての整理がしてあるのです。これを見ますと、真ん中の「●個別の論点項目に関する意見」というところの「アについて」というところなのですけれども、5つ項目が挙がっているのです。A案が妥当、それからB案はいろいろ問題ある、一番最後の5番目がC案が妥当という。行数もC案が妥当というのは1行ですけれども、それまでは4つの項目が8行にわたって書いてある。ところが、実際に数を調べますと、義務づけ訴訟に賛成している意見は、54件中42件なのです。それから、A案が妥当だという1行目のものは4件なのです。それから、2番目の意見、3番目の意見、4番目の意見はそれぞれ1件ずつなのですよ。しかも、3番目の意見と4番目の意見は同じ人が言っているのです。ですから、この整理の仕方がそういう印象を与えるので、ちょっと問題ではないか。別に意図的にされたとは思いませんけれども、だから大半はC案に賛成だという意見であるということを申し上げておきたい。
【福井(良)委員】反論するわけではないのですけれども、やはり義務づけ訴訟を特に申請権を持たないものから、そういう訴訟を認めるということになりますと、やはり行政と司法の役割分担の在り方というところに、実質的な影響をかなり及ぼすのではないかというふうに思います。特に行政の場合は、言うまでもなく、法律によって、法律の範囲内で、場合によっては行政裁量も行使しながら、国民に対して様々な措置と言いますか、権限を行使する責任と権限があるわけでありまして、義務づけ訴訟という形で裁判を通じて他の国民に行政の行使を求めるというのが多発しますと、やはりそこは役割分担という面で混乱が生ずるのではないかと思います。全面的に否定しようとは思わないのですけれども、やはりその辺りは、特に要件については慎重に検討すべき課題が残っているのではないかという感じがいたします。
【水野委員】今の福井委員の点ですけれども、これはいわゆる規制措置を講じなかったことが違法であるということで、例えば水俣病の事件では、地裁レベルですけれども、国家賠償で違法だとされております。これは、結論的には請求は認められませんでしたけれども、最高裁平成元年11月24日の宅建業者の規制のもの、それから、平成7年6月23日のクロロキン事件、これは、いずれも不行使が著しく不合理であるという場合には国家賠償法上違法になるということを認めている。裁判所から見て権限の不行使が違法だと、つまり申請権のない人が言った場合でも違法であるということを認めているわけです。そういう場合に、被害を受けていても規制をしない、どんどん被害を受けているけれどもそれは国家賠償法上損害賠償の請求は認めましょう、しかし、被害を未然に防止するための規制措置をしない、行政が規制措置をしないのは明らかに違法なのだけれども、それは裁判所によって求めることができませんという議論は、説得力がないと思うのです。ですから、やはり申請権のない人も、もちろん要件は議論する必要があると思いますけれども、やはり一定の場合には、被害者になり得る人たちが損害賠償ではなくて、事前の義務づけ訴訟を認めるという制度は設けるべきではないかと思います。
【福井(良)委員】今、私が申し上げたのは、そういったケースにきめ細かく対応できる裁判規範として有効な規定として非常に適当な条文が書けるのかどうか疑問があります。ちょっと市村さん辺りに聞いてみたいのですけれども、現実に条文にならなければしょうがないので、そういう懸念を持っています。
【芝池委員】先ほどの福井委員の御発言の言葉尻をとらえるようですけれども、義務づけ訴訟が多発すると困るとおっしゃったのですが、義務づけ訴訟ないし義務づけ判決の制度化としては、独立に義務づけ訴訟を設けるという、いわば大きな義務づけ訴訟方式と、取消訴訟とか不作為の違法確認訴訟に義務づけ判決をひっつけるという小さな義務づけ訴訟ないし判決という方式があります。私が目下考えておりますのは、これは前にも提案させていただきましたけれども、小さな制度の方でありまして、我が国の行政の現状からすると、そう頻繁に義務づけ判決が出るという事態はないだろうと考えております。ただ、先ほども申しましたし、また、水野委員もおっしゃいましたけれども、やはり何らかこういう制度をつくっておく必要、小さな可能性もいいですから、小さな仕組みでもいいですから制度を設けておく必要はあるのではないかと考えております。
【福井(秀)委員】私も、今の水野委員、芝池委員の意見に賛成です。義務づけについて、先ほど福井(良)委員から法令に書けるかどうかという御発言がありましたが、これはちょっとおかしいと思うのです。現実に、国家賠償の要件としては、最高裁自身が一定の要件を想定して概念操作しているわけですから、そういう要件の場合に、差止めをさせるのか、あるいは賠償請求をさせるのかというのは選択があるわけですけれども、要件自体が法令に書けないのであれば、最高裁判決は執行不可能だということになるわけでして、そういうことはあり得ないという前提で議論しないとまずいと思います。
それから、水野委員も幾つか判例を挙げられたのですが、やはり申請権の有無にかかわらず、これが違法だという類型が、いわば法令には直接明記されていなくても、最高裁までがもう既に一般論として存在を認めているのであれば、これは民事でも同様ですけれども、差止めと損害賠償というのは連続的な問題ですから、差止めの方について一切類型が存在しないという法体系で本当にいいのだろうかというバランス論から考えれば、当然そちらの方にルートを開いた方が、最高裁の考え方にも合致していると解釈するのが自然だと思います。
もちろん要件をどう定めるかということは議論の余地があると思いますが、書きにくいからとか、あるいは行政が困るからということでこれを排除するということは余り理由がないのではないかと思います。
【塩野座長】この点は、かねてから行政法の方でいろいろ議論がありまして、ただ私の理解では、教科書にも書いてあるので、別にあえて主張するわけではないのですけれども、実定法上請求権が認められているかどうかは、裁判所が判断するわけで、しかし、裁判所が判断するときに、行政との関係も考慮しなければいけませんということは憲法から出てくるのですけれども、おおよそ請求権の存否を裁判所が判断してはいけないというのは、これは日本国憲法からは出てこないのではないかというのが行政法の普通の理解だと思います。その意味では、現行法でも認められているといえば認められているので、義務づけではなくて確認という形では、もう既に東京地裁で実践的な判断があります。
もう一つは、日本の場合には、国家賠償で面倒をずっと見てきて救済を図ってきたという、そのアプローチと、それと今度ここで明確にしましょうというアプローチとは、ちょっと要件論からしても違うところがあるということを前提にしないと、これからの議論が少しやりにくいかなという感じもいたしている次第でございます。議論の整理ということで申し上げました。
それから、これは市村委員に質問するのもどうかと思うのですが、この場合の義務づけ判決と、それから義務の確認というのは、質的に異なるものなのかどうか。
【市村委員】結局、義務づけまでする、あることが違法であるということを確認することと、さらに具体的にある行為をする、すべきであるということの間には、やはり明白性だとか、例えばあることをするときには意見聴取だとか、そういうことをしなければいけない、こういうことが入りますので、私はベースは違法の確認辺りからやっていって、そしてここまではダメですよという宣言を司法の方がする。だから行政はそれを前提にもう一回考えなさい、あるいは急いで考えなさい、そういうことをやっていく方が役割分担というところが上手に機能するのではなかろうかと考えますので、そういう順番で使われる仕組みの方がいいのかなと思っています。
【水野委員】強制執行の点について一言申し上げておきます。例えば大阪国際空港の事件では、損害賠償の支払いと夜間の差止めについて、大阪高裁で仮執行宣言がされました。これは、もちろん民事訴訟としてやったわけですから、当然といえば当然なんですけれども、つまり、夜9時以降、翌朝7時まで一切の航空機を飛ばしてはならないという差止めについても、仮執行宣言が付いたのです。ということは、行政だから執行が要らないとかという議論はちょっとおかしいので、行政のいわゆる義務づけ訴訟であっても、やはり原則どおり執行の対象にすべきであろうと思います。この大阪空港事件は民事訴訟のケースですけれども、中身は一緒なので、そういう意味からしますと、やはり相手は行政であっても執行の必要性はある。
【芝池委員】執行の必要性と言われましたけれども、それは現実に照らしてあるということですか。
【水野委員】金銭の支払いについては、これは仮執行に基づいて執行しました。これは任意の支払いはしませんでしたから、強制執行として取りました。
【芝池委員】要するに、強制執行の仕組みが必要だと
【水野委員】つまり、仮に執行できるといって執行しているわけですね、払えという裁判所の命令がある。行政は従うではないかという議論がありますね、しかし、行政は従わないのです。しかし、これを押さえていってくれということで押さえて持って帰ったと、これは大体国の仮執行の場合は全部そうですね。
それから9時以降の差止めについては、国の方は執行停止の申立てをしました。執行停止の申立てをした結果、国内便については執行停止の申立ては棄却、国際便については外国との交渉があるということで、6か月間だけ仮執行の執行停止をするという決定をしたのです。それに基づいて、自主的に航空会社を指導して、国内便についてはすぐにやめさせるという措置をしました。ですからそれは仮執行の着手には至らなかったですけれども、しかし、裁判所の決定に基づいてやったということです。
【芝池委員】判決が確定しても同じですか。
【水野委員】仮執行宣言ですから、まだ確定していないわけです。
【芝池委員】最高裁で判決が出て、確定して行政が従わなかった場合というのは。
【水野委員】確定すれば金は払いますかね。
【深山委員】いや、考えられないですよ。大阪空港は争ってから、仮執行のときは従わなかったといえば、従わなかったかもしれませんが、確定して国が従わないケースはないのではないですか。
【塩野座長】どうもいろいろな情報を提供していただきまして、ありがとうございました。ちょっと時間の関係もありますので、基本的には同じような問題がございます。「第2-4-(2) 行政の行為の差止めを求める訴え」につきまして、特に義務づけ訴訟、あるいは義務確認訴訟と違った要件があるかどうかといった、そういったことだろうと思います。
【芝池委員】差止訴訟については、以前、長野勤評に関する最高裁判所の判決を御紹介したことがありました。そのときは、そこで示されている要件でもいいのではないかと思っていたのですが、その後私自身の考えが揺れております。ただ、これはなかなか難しいところがありまして、取消訴訟との関係をどういうふうにするかという問題が1つあります。もう一つややこしいのが、事前手続との関係がありまして、事前手続が終わってから処分までに一定の時間が経っているという場合に、事前手続が行われたにもかかわらず、今度は裁判手続の方に持っていけるかという問題が1つあるのではないかと思っております。
それから、許認可の類いにつきまして、差止訴訟を認めるということになりますと、逆に言えば、許認可を求める訴訟というのもあり得るのではないか。そうすると、行政庁が許認可をするかどうかの判断が出ない段階で許認可を求めている人と、それに反対する人の間で裁判所を舞台に争いが繰り広げられてくることになっているわけでありまして、これはなかなか難しいなと思っております。
ただ、何らかの形でこういう訴訟を設けておいた方が、そういう必要性が生じた場合に備えることができていいのではないかと思います。けれども、先ほども申しましたように、なかなか難しい問題がありますので、おのずと要件は限定されてくるのではないかというのが今考えているところであります。
【塩野座長】他に何かございますでしょうか。前からの御議論としては、要件が義務づけ訴訟とは多少違うところがある、なされるおそれということからすると蓋然性という問題があるというふうに伺っておりました。それに対して、義務づけ訴訟の方は、取消訴訟中心主義の枠が離れた場合の要件ということで、従来の三要件をそのまま維持できるかどうかという点の議論はしたということだと思います。この点も、今芝池委員からの御意見も含めて、なお検討を進めてきたということになると思います。ただ、こういうものを考えるときに、余りこんな問題、こんな問題というふうに議論をするのは、私は余り生産的ではないと思うのです。だったらやめようということになるんだったならば、初めから議論しないし、しかし、やるんだということになれば、一番典型的な例を描いておいて、それでうまくいかない場合、それはしょうがないなと、しょうがないという意味は、そこは働かないなという整理をしないと、なかなか先に進めないような感じもします。芝池委員もそのことを当然承知の上での御注意だというふうに伺いました。どうもありがとうございました。
そこで、確認の訴え以降、多少行政立法の取消訴訟の拡大のところとも関係をいたしますけれども、確認の訴え固有の問題もありますので、この点について法務省等々からの御意見も出ておりますので、この辺について何かありますでしょうか。
ちょっと深山さんに伺うのもあれなんですが、法務省で、2の2番目の□に、「現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができる場合には、確認の訴えを認める必要はない」という意見がありますが、これは36条でいろいろ最高裁判所が苦労していることとの関係をどういうふうに見ればよろしいですか。
【深山委員】これは法務省の意見ですが、私は全然関与していないのです。
【塩野座長】いや、法律の専門家として、どう見るかなと。
【深山委員】ごくごく単純に民事訴訟法の一般的理解を述べただけとしか思えません。
【塩野座長】そうですか。36条を書いたために、これに当たらないということで最高裁も大変苦労しているのです。そういう御答弁ということで理解いたしました。
それでは、第2-5-(1)の方にも関係してまいるところがあります。この取消訴訟の拡大という意味がちょっと不明確なところもありますので、これは実は確認だということであれば、また確認の適例として、また議論していただくということにいたしまして、第2-5-(1)辺りについて御意見をいただければと思いますが、いかがでしょうか。理論的には、第2-5-(1)、2-5-(2)、2-5-(3)、2-5-(4)までずっと続く話がございますので、前の方から逐一ということは申しません。
【芝池委員】項目の2-5-(1)の項目の趣旨ですが、現在で言いますと、取消訴訟の枠内で、行政立法とか、行政計画とかも一定の範囲で行政処分とみなされて取消訴訟が可能になるわけですが、それを超えて、つまり取消訴訟の対象にならないと考えられるものについて訴訟が必要である。したがって、何らかの別の訴訟を考えるべきだという、ここの項目はそういうことではないのですね。それらについても確認訴訟の方になるのですか。
【小林参事官】今の御指摘で、例えば11ページの確認の訴えのところの、上から3つ目、4つ目の御意見で、確認の訴えで考える考え方としては、取消訴訟の対象に該当しない行政立法、行政計画について、無効確認の訴えができるものとすべきではないかというものと、あるいは行政処分以外を争う訴訟というのは、確認訴訟、当事者訴訟として位置づけて、判決の拘束力も併せて考慮すべきだと、つまり、確認訴訟、あるいは当事者訴訟としての確認訴訟を活用していったらどうかという考え方の意見も一方であり、11ページの下の取消訴訟の対象とするという御意見は、処分の中に含めるのか、処分とは別なものとするのかはともかくとして、今の取消訴訟と同じような仕組みで訴訟の対象としてはどうかという御提言で、確認の訴えとの対比は今のような当事者訴訟的にものを考えていくのか、あるいは別の訴訟類型とするのかということと、確認訴訟的な類型をつくるのかというのと、取消訴訟の枠組みに加えてみるのはどうかと、そういう違いがあるのではないかと思います。
【芝池委員】私の個人的な考えは、取消訴訟という用語を使うとしまして、取消訴訟の対象は行政処分とあとはその他の行政決定、あるいはその他の行政の行為と考えております。通達とか行政指導については、少なくとも判例集に載っているものでいえば、10年、20年に1回ぐらいしか問題になることはありませんので、その他の行政決定ないし、その他の行政行為というところで対応をしたらどうかと思っております。
それに対して、行政計画はなかなか行政処分と言えないところがありまして、また、割合と用途地域指定など訴訟が多いと思いますので、何らかの特別な扱いをする必要があるのではないかと思っております。
他方、行政立法は、直接行政処分を媒介とせずに国民の権利義務に変動を加えるようなものにつきましては、行政処分として争うことが現在でも認められております。それに加えて、行政立法をそういう行政処分と見れないような場合について、一般的に争うための訴訟を設けるというのはかなりリスクが大きい、国民にとってもリスクが大きいと思っておりまして、私個人は、行政立法を争う訴訟については消極的な考えを持っております。
【塩野座長】どうもありがとうございました。念のために伺いますが、その他の行為の争い方はどうなるのですか。
【芝池委員】それは取消訴訟の枠内で、取消訴訟としてです。
【塩野座長】いわゆる形式的行政処分のことですか。
【芝池委員】そうです。
【塩野座長】排他性は。
【芝池委員】その辺は、理論的な問題になるだろうと思います。
【塩野座長】めったに出てこないことだから、そういうものは、場合によっては処分として扱うことはあり得べしということですね。
【芝池委員】はい。
【塩野座長】分かりました。そういう御提案として承りました。
【水野委員】いわゆる取消訴訟の対象の拡大については、行政庁の意見を見ますと、影響が広範囲に及ぶとか法律上の利益を有するものが不明確な段階で争わせるのはどうかとか、法的効果がないのでどうかと、そういう議論なのです。それは、もちろん解決すべき論点もありますけれども、要するにそうなったときに行政としてどういう点で困るかという具体的な指摘が一切なかったというふうに思います。ですから、例えば法律上の利益を有しないものが適法性を争うということは考えられないというか、ないわけですから、とにかくどう困るのかということについての具体的な指摘がほとんどなかったと思います。
同じことが、出訴期間にも言えるわけで、要するに現行法の出訴期間を維持することが望ましい。これは行政にとっては望ましいのでしょうけれども、国民の方は短か過ぎると言っているわけですから、これは立場の相違にすぎないのです。実際に、6か月、1年になったらどう困るのかということについての具体的な話もないのです。ですから、要は、今の行政訴訟の現状が、国民にとっては非常に使いにくくて、行政庁にとっては非常にありがたい制度になっていると、それを変えようじゃないかという話をしているときに、いや、行政としては今のまま置いておいていただければありがたいというだけのことでありまして、それを変えたら、行政がどういうふうに具体的に支障が生じるのか。行政の安定性が損われるとかいろんな議論がありますけれども、具体的にどういうふうに損われるのかというような議論については、ほとんど言及がなかったという印象であります。
取消訴訟の排他性の問題もまさに一緒ですね。要するに行政の安定、行政の円滑、効率的な遂行ということをおっしゃるのだけれども、これも具体的な指摘が全くなかったと思いますので、行政官庁の意見というのは余り参考にすべきものはなかったと思います。14ページの上のところの日弁連の案でいくと、「結局はいくつかの訴訟類型に集約されていくのであって、それまでの混乱を考えると、当面はかえって行政訴訟の機能不全を招く」、これは一般の方の御意見ですけれども、これは何をおっしゃっているのかよく分からないという気がいたしました。
【塩野座長】ここも実は私もよく分からないところだったのですけれども、ただ、この方の御意見から類推していくと、判決はどうなるのでしょうかということだと思うのです。だから、給付、確認、形成以外の、例えば行政不服審査法の撤廃とか、行政上の何らかの措置ということになるのでしょうか。要するに、請求と判決との対応関係はどうなるのか。そう考えていくと、結局訴訟の類型としては、給付、確認、形成に落ち着くのかなという、そういう御疑問かなと私は理解したのですが、違った訴訟類型あるいは違った判決の類型を想定しておられるのでしょうか、という質問だと思いますが。
【水野委員】要は訴訟類型としては3つしかないわけでしょう。それは誰も争いないわけで、どれかに入るわけですね。
【塩野座長】だから、結局はそうなるのだというと入口の話かな、入口を広げておいて何かやるというのは、かえって混乱するのかなというのが、この方の質問ではないかと思うのですけれども、これだけではなかなかよく分かりませんけれども。
【水野委員】結局こうなるというよりも、訴訟類型は今の考え方では3つしかないわけですから、どれかに当たるというだけの話だと思うのですけれども、これはちょっとよく分からないです。
【塩野座長】いえいえ、この方でいえば、日弁連の方がよく分からないと、そういう趣旨だろうというふうにも思いましたけれども。
【水野委員】「当面はかえって機能不全を招く」、そうすると、当面の混乱を過ぎればいいのかということなのか、ちょっとどういう意味か分からない。これは日弁連のことを言われましたから、ちょっと一言申し上げただけです。
【福井(秀)委員】まず、確認の訴えと、計画通達等への取消訴訟の対象の拡大の関係というか、ここがまだ十分議論がなくて、コンセンサスもないところだと思うのです。昨日も事務局からお話をお伺いして、こういう整理なのかなと思ったのですが、確認の訴えの方は、例えば今までは区画整理事業計画のように、処分性はないとして争われなかったところで無効確認の訴えで出てきた場合には受け止めるようにするような類型は、今でもできるのかもしれませんが、正面切って立法で手当をして、明確化する実益は非常に大きいと思います。そこに、第三者をつけるかとか、あるいは出訴期間をつけるかというのは、これはひょっとしたら立法政策の判断があるのかもしれません。差し当たりそういう確認の訴えができる、要するに、手前で今までは処分性の点で取消訴訟になじむかどうか分からなかった点でも、少なくとも確認の訴えで受け止められるという類型をつくることには、大いに実益がある。取消訴訟の拡大は、多分全般的に段階的決定のできるだけ手前への拡大というのが1つの典型例ではないかと理解していますが、その場合の基準を、主観訴訟として位置づけるのか、それとも、今までの処分性の概念で言うと熟度は低いけれども、特別な扱いでもって位置づけるのかというところを政策判断として決める必要があると思います。私は、後者の方を取ってもいいのではないかと思っているのですが、その場合は、これは確認の訴えでも同様の問題があり、後ろの出訴期間とか違法性の承継とも関わるわけですが、もし、段階的決定で手前の方で争わせるとすると、そこはやはり大々的に告知して、争うならそこで争ってくれ、違法性の承継は遮断するとした方が、同じ仕組みをつくるのであれば、訴訟経済として合理的ではないだろうかという印象です。ただし、それによって後ろの方で争うことができなくなって、権利の救済が閉ざされるのでは、元も子もないので、その点は全体的な考慮が必要だと思いますが、もし区切りを付けることができるのであれば、それは望ましい。
12ページの2の自治体の行政立法で、知事会から出ている意見がさっぱり分からないのですけれども、こんなことを言い出せば、自治体の行政処分だって何だって、国が、今のところ司法裁判所というのは国しかないわけですから、そこが介入してはいけないということになりかねないわけでして、違法があって権利が侵害されているときに、司法裁判所が出ていく、司法裁判所はたまたま国に属しているというだけのことですから、こういう議論は理由がない。
13ページの排他性の見直しの法務省の意見で、「行政文書の保存期間が、最短で1年未満であることも考慮」せよというのがありますが、要するに文書の保存期間というのは、役所ごとに事務管理の都合上、便宜的に定めているわけですから、役所で決めた保存期間に合わせて、権利利益の救済の期間を揃えろというのは、これは倒錯した発想です。しかもそういうことを言うのであれば、民事訴訟で国が被告になる可能性、自治体が被告になる可能性だってあるわけですが、そっちの方との平仄は一体どうなっているのだ、現在だって問題があるのではないかと思います。
【塩野座長】今の御説明のところで、手前のところで争わせるという、これは計画との関係でございますが、この点はまた御専門の方にも計画の方の方にもお伺いしたいと思います。
その前にちょっと質問ですが、今の手前のところで争わせる、それは分かるのですが、例えば行政指導で手前がない場合ですね、これは今の福井委員の御発言ではどういうことになりますか。しかし、救済の点から。
【福井(秀)委員】もちろん、救済の手段は明確化した方がいい。
【塩野座長】その場合には、取消訴訟なのか、確認訴訟、確認の訴えの関係の整理でいくとどっちなのですか。
【福井(秀)委員】そこが非常にややこしいのですが、少なくとも行政指導が無効であることの確認というようなものは、いずれにせよできた方がいいのではないだろうか。さらに、行政指導が直接に権利侵害をするというようなケースであれば、今までの基準でいっても端的に取消訴訟の対象としてもいい。そうでなくても、そこで争わせて、政策的に場合によれば確定させた方が意味があるというケースでは、取消訴訟の対象の拡大ないしは類型の拡大として明確に位置づけてもいいのではないだろうかというイメージです。
【市村委員】今のですけれども、つまりそこで前倒しで確定させてしまうということの意味なのですが、それは第三者で当該訴えを提起しなかった者に対しても、それが有効無効か、あるいは違法か適法かの問題は、やるのならここまでというところで大々的にやって仕組んで、そこまでいって一応決着をつけてしまおうという御発想でしょうか。
【福井(秀)委員】はい。
【市村委員】もしそうだとすると、行政計画の方で考えていくと、行政計画を引き継いでされた具体的な何らかの処分があって、その処分で行政計画における違法は、違法の承継の理屈では承継せず、遮断されるということですか。
【福井(秀)委員】原則として、遮断して、紛争の処理の時期なり手続を分離する方が望ましいという発想です。
【市村委員】分かりました。
【塩野座長】今、行政計画の話が出ましたが、芝原委員、あるいは萩原委員何か計画等との関係で何か御発言があれば。
【萩原委員】私も細かいことはよく分かりませんけれども、とにかく何かいろいろ不利益が生じる前に、何らかの手立てを打つことができるというのが、少なくとも国民にとって望ましいのではないのかなという気はしております。ただ、いろいろどういうやり方がいいのかということに関しては、技術的なことも含めてよく分かりませんが、事が進んでしまう前に何らかの手を打つということは必要ではないかと思っております。
【塩野座長】今の最高裁の判決は、熟し過ぎてから争えという趣旨のものがありますので、そういう御発言であると。
【芝原委員】ここが難しいところだと思うのは、この行政事件訴訟法だけで対応できるかどうかという部分があるかと思います。経済産業省とか、国土交通省なり、全国知事会が言っているように、前段のプロセスでそういう手続を踏んであるのであれば、そちらを優先的にすべきだと言っていると思うのですが、そういうことであれば、きちんと手続法なり、個別法で法的に書いてあるのであれば、それはそれでいいのですが、すべてがそうではないわけでして、であればそこをどう牽制するのか、あるいは適法性をコントロールするのか、違法性をチェックするのかという辺りはやはり必要と思いますので、両にらみで必要ではないかという感じがしています。
いずれにしても、そういうことをしないと、結果、処分だけを問うと、まさに行政計画なり、行政立法のところは、かなり遡りが難しいわけですので、やはりある程度前段階で、きちんとそういう判断の機会があってもいいのではないかという感じはしています。
【塩野座長】さっきの両にらみというのは、どういうことですか。
【芝原委員】個別法、手続法で、前程のアプローチをきちんとやる場合と、ない場合は行政事件訴訟法で投網をかけておく、そういうやり方という意味です。
【芝池委員】福井委員が、違法性の承継ないし違法性の遮断について非常に割り切った考えをお述べになりまして、ちょっとびっくりしております。私としては、もう少しそこは慎重にというか、できれば結論を出さずに置いておいた方がいいのではないか。裁判実務なり、学説の判断に委ねるということを考えております。
それから、今回の行政訴訟の改革と関係のないことになるのですが、これも福井委員が言及されました、12ページの真ん中辺りの全国知事会の、条例の司法審査は国の直接介入であるという指摘ですが、これは外国法を持ってくるとしますと、ドイツでは、以前から言われていることでありまして、問題意識としては私も持っておりましたし、考えるべき問題だろうと思います。ただ、現在の裁判の現状からしますと、この指摘は現段階では考慮する必要はない、その点は福井委員と同じであります。
【福井(秀)委員】違法性の承継で補足なんですけれども、国土交通省の意見もこの限りでは私が述べたのに割合近いのですが、実際上、都市計画とか、収用とか、段階的決定で争われる実例を見ておりますと、当然前で分かっている人は前で争うのでそれでいいのですけれども、後ろで争ったときに、やはりほとんどの争点は前の計画になる。収用を争うけれども、ほとんどは事業認定なり、都市計画の違法だというのが、むしろ事件でいうと圧倒的に多いのです。これは、もちろん今までの違法性承継理論からすれば、前の段階で十分周知していないではないかということもあって、比較的広く救ってきたのが判例法だろうと思います。ただ、これがもし普遍的に正面切ってOKだということになりますと、結局収用裁決というのは、ほとんど道路ができているとか、鉄道が走っているぐらいの段階で、一人残った人に適用するのに近いものです。ここで計画の違法が争われて引っくり返るというのは小田急判決もそれに近い。こういうのはやはり社会経済実態の推移からみて、かなりの程度、それで失われる、要するに引っ返ることで失われる利益もばかにならないという例が多いと思うのです。だから、当初の方の争い方がよく分からないまま推移していたので、言わば苦肉の策として今まで違法性承継理論が対応していたのだと思います。私が申し上げているのは、救済を遮断するというのが本意ではなくて、前の方がちゃんと分かっていて、ここはここで争うのだぞというのが、誰にも誤解なく周知徹底されていて、場合によればそこでの教示なり、出訴期間の特例なりをちゃんとしておけば、後ろのほとんど事業が終わってしまって供用されている段階で非常に手前の話が話題になる、引っくり返る可能性を持つよりは国民経済的に妥当なのではないかという立法政策的な提案です。
【塩野座長】恐らく、その点は芝原委員も同じような御意見だったと思います。
出訴期間の点のところまで一応の御発言はございましたが、15ページの上のところまで何か御意見ございますでしょうか。
【市村委員】最後の、出訴期間の延長の問題ですが、ここでは知った日からというのは廃止してしまって1年という案もありますが、例えば6ヶ月に延長する案が妥当という話になった場合、「知ったとき」というのは、審査の対象としては非常にやりにくいと考えています。具体的な事件で「知ったとき」が争いになったときを見ますと、私は何日に郵便が来たのだけれども、その晩は宴会があって飲んで帰ってきたので郵便は見ないで寝てしまったという主張がされるなどのことがありました。とにかく具体的にその人が知ったかどうかは分かりにくいことです。そうすると、民訴の送達のところの議論であるのですけれども、客観的に見て知り得る状態になったときというのを規範にする方が分かりやすいと思うのです。それは書き方が少し違っているのです。やはり現実に「知ったとき」ということになりますと、やはり先ほど言ったようなものが、審理の対象になり、どう推認するかという問題になってしまうのですが、そこで本当は1日ずれても、最後のところで例えば6ヶ月だったら5ヶ月と29日あるわけですから、最初の1日はそれほどには影響していない。ぎりぎりのところで、はみ出た1日の問題ですので、先ほどのは知り得る状態に置かれたときというような、客観的な審査しやすいような起算点を工夫していただくということがありがたいと思っています。
【塩野座長】これは、私の勉強不足で申し訳ないんですけれども、14条の2項で不変期間にしているのですけれども、後ろの方は正当理由と、何か市村さん御存じですか。
【市村委員】私もなぜそうなったか分からないのですけれども、不変期間にするほどの強いものではなくてもいいのかなと。つまり、1項のところを先ほどのような状態に直していただけるのであれば、不変期間ではなくて、やはり同じように正当事由をそこに設けても構わないのではないか。その方が実際に合った運用ができるのではないかというふうに日ごろから感じておりました。
【塩野座長】そうですか、ありがとうございました。私も記録を見ている限りでは、なかなかなぜこうなっているのか出てこないのです。
それでは、時間が参りましたので、いつでもまた議論はかえれるということを前提にして、一応休みを取らせていただきます。今度は8分間の休憩ということで、4時10分再開ということで、次は「第2-6-(1) 原告適格の拡大」から最後の「第2-9-(2) 国の公金の支出の適法性を確保するための納税者訴訟の創設」、その際には、最初の第1−1にもさかのぼることあり得べしということで、御説明があろうかと思います。それでは、暫時休憩いたします。
(休 憩)
【塩野座長】それでは、時間になりましたので、次の第3の部分に入ります。第2−6の原告適格等から、第2−9の行政訴訟の目的等、それで先ほど申しましたように第1のところもここに含めて考えるということで御議論をいただきたいと思います。
それでは、まず、事務局から資料を基に説明をいただきます。
【小林参事官】15ページが「第2-6-(1) 原告適格の拡大」になります。そこに挙げてありますように、「行政法規が当該利益を個別具体的利益として保護しているかどうかにより判断すべき」、こういう意見が複数の省庁から出されておりまして、その次の項目にありますように、「法が保護することを意図していない者が争い得るとすると、法が本来保護しようとしている権利者の権利を損う」、つまり本来保護しようとしている権利者の権利関係と、争う人の権利等の関係をどう考えるのかという問題の指摘がございます。その次が、「現実の利益」というものを考えた場合、その次の場合が、法律の保護範囲内か否かを検討すれば足りるとする場合、その次が「利害関係者」と大差ないものとなる場合、いずれもこういった場合については、原告適格の範囲が非常に広く拡大することになって、行政の安定性あるいは多数の訴訟が起こることについてどう考えるのかというような御指摘がございました。
16ページの一番上ですが、「A案からD案は、客観的な判断基準として不明確であるので、より判断が容易となるよう、何らかの要件を加えることも検討すべき」という意見もございます。ここで、原告適格の要件を具体的に法律に書くべきだという議論をしておりましたときに、△のところで、これは座長の御指摘ですが、「救済法という分野は、救済に当たる機関である裁判官が創造していくべき法分野。原告適格の要件をあらかじめ一義的に明らかにすることは困難であり、裁判官が権利利益の救済という憲法の精神に立って解釈し、判例法を作るべき」ではないか、このような御指摘がございました。その意見交換の中で、最高裁判所からの御指摘では、「具体的な場合に原告適格を認めることにする場合、どうしてそうなるかという趣旨を検討し、明らかにする必要」があるのではないかという御指摘があったわけでございます。
さらに次の項目、国民の意見募集の中にあった項目の中には、「原告適格は、個々の実定法の趣旨・目的によってではなく、違法な行政処分によって原告が受けた(また受ける)実生活上の不利益が裁判上の保護に値するかどうかによって判断されるべきである」という御意見であるとか、「処分の因果関係の結果、具体的に苦痛を被る者に原告適格があると判断すべき。民事の受忍限度とのバランスがとれる」というような御意見もあります。また、1つ飛びますと、「「現実の利益を侵害されるおそれのある者」は、拡大解釈され、濫訴が懸念されるので、制限が必要である」というような御意見もありまして、次の項目にありますように、「原告適格が認められる範囲は、評価を経た法的な利益が侵害された場合に限られるべき」という御意見もございました。2つ飛びまして、いろいろな意見に賛成する御意見の他に、「要件を緩和するのは賛成だが、要件規定の文言の変更で運用が実質的に変わるか疑問」という御指摘もありました。次のところにありますように、「裁判的保護利益性、処分と保護利益との相当な連関性、個別的利益性などが妥当」であるなど、様々な御意見もあります。次の項目にありますように、「処分によって原告が受ける「直接、個人的な利益の侵害」要件を外すことはできない。関連する法令によって保護された利益まで拡大しており、それ以上の拡大は「保護に値する利益説」となる」いう趣旨の御意見もございました。
「第2-6-(2) 自己の法律上の利益に関係のない違法の主張制限の規定の削除」は、そこに掲げてありますように、これまでの議論の趣旨とほぼ同様の意見が出ております。
「第2-6-(3) 団体訴訟の導入」ですが、これについても法務省、総務省からは「当該処分の特質、利益状況に応じ、具体的に検討し、個別実体法において規定すべき」という意見が出ております。一方で、「個人として原告適格を有する者によって基本的に構成されている団体は、訴訟遂行能力、訴訟遂行上の合理性から、原告適格を認めることが適切」という御意見もございます。その他、個別法で規定すべきかどうかというような点については、これまで検討会で議論されてきたような意見が、それぞれの意見として出ております。
「第2-7-(1) 主張・立証責任を行政に負担させること」に関しましては、そこに記載してありますように、法務省ほか多数の省庁から「証明責任の分配は、処分の性質、根拠法規の趣旨、証拠との距離、当事者間の公平等を考慮して、個別に処分の根拠法の解釈によって定めることが適切」であるという御意見が出ております。
「第2-7-(2) 処分の理由等の変更の制限」につきましては、これは幾つかの視点が提起されておりまして、一番上は、「新たな処分理由が判明する事態が生じる場合にまで、一律に、処分理由の変更を制限すれば、客観的に適切な判決を得られない」という御意見がありました。次の項目では、「許可申請に対する処分について要件が複数ある場合に理由の変更、追加を認めなければ、いったん取消された後、別の要件の判断を行って再度不許可処分を行うこととなりかねない」という御指摘もあります。さらに、「処分の理由の変更が制限されるとすると、処分の段階で想定されるあらゆる理由を明らかにする必要が生じ、処分の遅延につながりかねず、不適当」であるという御指摘がございます。また一方では、次の項目にありますように、「理由の追加又は差し替えは、審理の早い段階で主張させ、それ以降の主張や判決後の新たな行政決定について制限を設けるべき」という意見もあります。他方で、それについては18ページの2番目の項目にありますように、「行政処分には、懲戒処分など理由の変更が許されないと解される処分がある反面、租税の賦課処分など、理由が変更されても、結果として租税の賦課が正しいと判断されれば、処分の取消しをすることはできないと考えられる処分も存在する。行政事件訴訟法で一律に処分の理由の変更を制限することはできない」のではないかという御意見もございました。
「第2-7-(3) 事情判決の制限」は、国土交通省から「少なくとも公共事業など多数の国民に影響を与える行政分野においては、事情判決の制度は必要」であるという御意見がありました。その他、国民の意見募集の中では、「損失補償などの代替措置を講じることができないときには認めるべきでない」という御意見、「事情判決については中間判決をするようにすべき」という御意見、これに対して、「代償措置を講じることができなくても、事情判決の要請される場合はありうる」という御意見、「選挙訴訟において、事情判決が全くできないとしてしまう結論には賛成しない」という御意見もありました。
「第2-7-(4) 裁量の審査の充実」ですが、これにつきましては、文部科学省から「行政には裁量権があり、裁判所の審査になじまない部分があることは法律上明確にする必要」があるという御意見がありました。さらに、法務省や他のところから、「裁量処分の審査手法を行政事件訴訟法において、一律かつ一般的に定め得るものではない」という御意見があります。これに対して、「行政事件訴訟法第30条の規定は削除すべき」という意見や、「行政事件訴訟法第30条のような規定は必要である」という御意見も含めて、その他の案についても、賛成する意見、それについて問題を指摘する意見等ございます。
「第2-8-(1) 訴え提起の手数料の軽減」につきましては、法務省から今回の改正と今回民事訴訟費用を司法制度改革の関係で、民事訴訟一般について、訴えの提起の手数料を引き下げている関係から、「運用状況等も踏まえ、慎重に検討する必要」があるというような御意見もございますが、国民の意見募集の中からは、これまでの検討会での幾つかの案について賛成する御意見がございます。
「第2-8-(2) 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」につきましては、「訴訟制度全体の問題として検討すべき」であるという御意見や、結局のところ「原告が敗訴しても被告である国等の弁護士報酬を原告に負担させない場合、その負担は納税者に帰する」ことになるということを考慮して検討する必要があるのではないか、「敗訴の場合に弁護士報酬を負担させないことは敗訴の場合の経費負担の危険を減少させるだけであり、勝訴の見込みのない訴訟を増大させるおそれ」があるのではないかという御指摘や、「片面的敗訴者負担制度の導入は適当でない。原告が敗訴した場合には行政の適法性が認められるから、敗訴者負担制度を導入するのであれば、原告が敗訴した場合には原告が被告の弁護士費用を負担すべき」という御意見もあります。一方で、「行政訴訟への委縮効果が大きい敗訴者負担制度は導入すべきではない」、あるいは「行政訴訟を活性化するためには、片面的敗訴者負担制度の導入が不可欠」であるという御意見、あるいは、「市が負担する弁護士費用は税金で賄われていること、訴訟で行政が適法であったと認められた場合を考えると、行政訴訟においても一定の敗訴者負担制度の導入を検討すべき」という御意見もございました。
「第2-8-(3) 不服審査前置による制約の緩和」は、「個別法の趣旨等を勘案せず、一律に不服審査前置主義を採ることを禁止する理由はない」という意見や、「不服審査前置の場合でも、行政事件訴訟法第8条第2項は広く例外を定めているから、適切な運用で訴えを提起する者に著しい不利益は生じない」という御意見もある一方で、「個別に存続を検証するより、前置主義を排し、選択に委ねるのが相当」という御意見もございます。その他、B案、C案を支持する御意見もございます。
「第2-9-(1) 行政訴訟の目的規定の新設」は、「行政訴訟の目的は、第一次的には権利侵害の救済にあり、適法性の確保は権利侵害の救済を通じて行われるものであるから、適法性の確保を行政訴訟の目的とすることは適当ではない」というような御意見がございます。さらに、その点については、「行政訴訟は、違法な行政の行為から国民を守るという目的とともに、行政の違法の是正という目的を持っている」というような視点の御意見、あるいは、「行政の適法性の確保は、独自の目的ではなく、行政により受けた権利侵害を救済することによって結果的に達成されるものである」というような御意見が出ております。
20ページの「第2-9-(2) 国の公金の支出の適法性を確保するための納税者訴訟の創設」は、「会計検査院の憲法上の独立性、地方公共団体の制度を国に当てはめることの妥当性、会計検査院と裁判所との関係、検査請求を受ける場合の会計検査院の検査権限、通常の検査業務との関係等、理論的実務的に慎重かつ十分な検討が必要」であるという御意見や、「行政への萎縮効果によるデメリットを踏まえて慎重に検討すべき」、あるいは「直接利害関係のない者からの訴訟提起が大幅に増大するおそれ」があるという御意見、「行政の法適合性を確保する最も効果的かつ簡便な手段である」という御意見もございました。他方で、ヒアリングの過程で出た意見として、「会計検査院法第35条には利害関係人からの審査の要求があったときは審査しなければならない制度があるから、国民からの審査請求の制度を設けることは、特に憲法上問題になるとか、国会との関係で問題になることはない」という御指摘がありまして、これに対する意見交換の中で、会計検査院からは「利害関係人からの審査要求事例の多くは、行政行為に伴って会計経理が続く場合に行政行為の当否を争うものであり、行政行為を是正しない限りは、会計検査院としては対応できないとして却下される」事例が多いという御指摘がございました。
【塩野座長】どうもありがとうございました。先ほど申しましたように、「第1 基本的な見直しの考え方」についても一緒に御議論いただいて結構でございます。ここのところは、特に御説明をする必要はなかろうというふうに思います。
そこで、原告適格のところが1つ大きな問題でございますので、まず、原告適格のところと、第2-6-(2)、第2-6-(3)の団体訴訟の導入と、この辺までにらんでいろいろ御議論をいただきたいと思います。
【水野委員】原告適格ですけれども、行政庁の反論と言いますか、意見を見ていますと、1番目は、今の最高裁の判例を言っているわけで、2番目は「法が本来保護しようとしている権利者の権利を損なう」と言っているのですが、法が本来保護しようとしている権利者の権利を保護するという趣旨で行政処分をしているつもりだけれども、それが違法だということで取り消されるのであれば、こういう反論は成り立たないわけですから、この反論はおかしい。
その次に、いくつかの案について、行政の安定性が欠けるとか、膨大な数の訴訟が提起されるという意見なのですけれども、ともかく今は極端に少ないわけですから、それがこういうふうに変わったからといって、膨大な数の訴訟が直ちに起きるということは私としては考えられない。そういうことになれば結構なことではないかと言いたい。行政の安定性というのも、これも前から何回も言っておりますけれども、具体的な指摘は何もないのです。抽象的なお題目の繰り返しにしか過ぎないということです。
それから法務省の意見で、「客観的な判断基準として不明確」という御意見ですけれども、これはその次の座長の反論と言いますか、御意見がまさにそのとおりだと思うわけですけれども、例えば、この中には「利害関係人」という利害関係を有する人という案があるわけですけれども、これはさっき最後に紹介があったように、会計検査院法35条で、「利害関係人」という法律用語が使ってあって、それは検査の請求ができる。それから、前にもお話ししましたけれども、深山委員が関与されている民事再生、会社更生、この決定について即時抗告をする、これは高裁に申立てをするわけです。例えば、民事再生開始決定があった、それに対して不服な人がたくさんいるのです。それを誰が高裁に持ち込めるのかというのは、つまり原告適格と同様の話ですけれども、これは「利害関係人」ということで絞っているわけです。このように「利害関係人」というのは、具体的な例があるわけですから、それが「客観的な判断基準として不明確」であるという反論というのは、少なくとも法務省がおっしゃるのはおかしいのではないかという気がします。たしかに明確であれば一番いいのですけれども、これはやはりどうしても限界というのはあるわけですから、それはやはり判例を積み重ねたところでやらざるを得ない部分があるのです。
ですから、A案からD案を十把一絡げに全部不明確だといってけってしまうというのは、どうかなというふうに思います。何らかの要件を加えることも検討すべきだというのは勿論結構だと思いますし、具体的な案として提案していただいて、なるほどと思えば、それはもちろんそれに賛成することはやぶさかではありません。こういう反論というのは、いまいち説得力がないと思います。
【塩野座長】どうもありがとうございました。この点は、随分、専門家相互での意見も交わしたのですけれども、聞いておられて、いかがでしょうか。何か専門家の議論の仕方がよく分からないとか、そういう点があれば御指摘いただければ大変参考になるのです。何か御注文はございますでしょうか。
【成川委員】この検討会で、いろいろ判例も検討してきたのですけれども、やはり現状では、どうも余りにも原告適格が厳し過ぎて、やはりもう少し緩和の方向を検討すべきではないか、私は、こういうふうな議論経験がないのですが、そう思います。
また、それをどう法的な、法律の言葉で直すとどういうふうにするかと、こういうことであって、今水野先生も御指摘がありましたように、各省庁として、その辺の議論経過を踏まえた反論というわけでもないわけなので、私としては、原告適格の要件の緩和の在り方をより具体的に検討するということの中で、そういうやり方が必要ではないかと、こんなふうに受けております。
【塩野座長】いかがですか、この辺は随分議論したのであれなんですが、私はここで座長が言ったと紹介されてしまったものですから、こういうふうに言ったかなとも思いますが、今の条文のままでもいいですけれども、やはりこういう考え方からすると、今の判例は狭いとか、文言よりも前に、やはり考え方の整理をこの検討会で整理できるかどうかという点が1つのポイントではないかと思います。今日は小早川委員がお休みだったので、残念ですけれども、小早川委員は、小早川委員なりの御意見を出しておられますので、この点について、こういった考え方から見ると、今の判例は狭い、あるいはこういった考え方からすると、今の条文にはのらないというような御意見をいただければと思うわけです。
水野委員の前からの御発言は、私も理解しているつもりなのですけれども、ちょっとお確かめしたいのは、行政が処分をする場合にいろんなことを考えますね、それは何を考えるかというと、制定法、あるいは当該の処分の根拠、それから当該法律の趣旨、目的、さらに新潟空港判決によれば、関連法規、その上に憲法があります。そういうものを考慮すべきものを考慮するというのが行政処分を行う者の一番大事なことだと思うのですけれども、そこで処分要件となっていない利益が侵害されているという場合はどういうことになるのですか。
【水野委員】それも、例えば法的保護に値する利益説で言いますと、それは当然入っているわけです。つまり、例えばある行政法規があって、その行政目的のために、そういう法規がある。ところが、それが予想していないような形で、例えば周辺住民に何らかの権利侵害が生ずる。それは当該根拠法規では、全然考慮の外なんです。それがもっと憲法まで上がってくれば別ですけれども、一番狭いのは、要するに当該処分の根拠法規、条文だというのが一番狭い解釈ですから、そういう議論になると、当該行政法規が本来考慮していない、考慮対象外である法的な利益が派生的に侵害されるという場合に争えなくなる、そういう議論になるのだなと思うのです。
【塩野座長】憲法も保障していないような場合はどうなりますか。例えば、一番よく我々が説明するのは、例えばラーメン屋や何かの食品衛生があります。それについて別のラーメン屋が出店、食品衛生法の許可を求める。その場合には、当該既存のラーメン屋の営業は一切処分要件では見ないのですけれども、そうすると、それがたまたま憲法論から処分要件にそれが合致する、隣りの既存のラーメン屋の経済状態も収益状態も憲法に遡れば処分要件に入る、ということになるといいのですけれども、憲法にまで遡らなくていいという解釈はちょっとよく分からないのです。
【水野委員】いや、遡らないという意味ではなくて。
【塩野座長】だって、行政法は憲法的価値の具体化であるというのが、私の説なんです。
【水野委員】だから、憲法は13条、25条で人格権が認められているということで一般的に解釈されている。それから財産権の保障もあります。ところが、例えばある行政法規に基づいて処分をしたときに、その行政法規では、例えば周辺の住民の人格権だとか、あるいは財産的な権利の侵害だとか、そういうことが派生的に生じても、それを行政法規の対象外だと、要件外だというふうなケースがあって、それでは人格権が侵害されたときに、原告適格を認めないのか、財産権が侵害されるときに原告適格を認めないのかという議論をしているわけでしょう。ですから、そこのところが私に言わせたらおかしい、つまり根拠法規を前提にするからおかしいのであって、だから例えば、「利害関係を有する者」とすれば、それは根拠法規がその利害関係を行政処分の利益衡量の中には本来入っていなくても、つまり派生的な形で利害関係に影響が生じるという人がいれば、それは原告適格を認めればいいではないか。あとは違法性の判断をすればいいではないかというのは、一般的な考えだと思うのです。
【塩野座長】一般的というか、水野委員はそういうお考えなのですね。そこで分かりました。そうすると、利害関係を有するか、法的利害関係を有するかという判断はどこに求めるのですか。
【水野委員】それは個々のケースで判断せざるを得ない。だからそれが抽象的だと法務省がおっしゃるのですけれども、例えば民事再生の開始決定が出たというときに、どんな人が出てくるか分かりませんが、例えば、今は債権はないけれども、これまでの取引先だったとか、いろんな形で利害関係がある。債権者ではないけれども利害関係があるというふうなケースが考えられると思うのですね。だから、そういう場合にその人が「利害関係者」に当たるかどうかというのが争いになるケースというのは十分あり得るわけです。明確ではないというのは一緒なんです。これをもし「利害関係者」というのは明確でないと法務省がおっしゃるのであれば、民事再生法や会社更生法の規定だって、例えば債権者とか、従業員だとか、労働組合とか、個別に書けばはっきりします。ところがそういう考え方をしないで、「利害関係を有する者」でいいとしておられるわけでしょう。今回、行政訴訟についてもそうして拡大しようではないかといったら不明確だとおっしゃるから、それはおかしいのではないかと。
【塩野座長】私は、文言のことを言っているのではなくて、利害関係ということについて判断をする要素はどういうものでしょうかと。私が先ほど申しましたのは、処分要件として新潟国際空港みたいにかなり広がっていますし、また憲法もそこに入れるということになると、処分要件として全く認めていない。しかし何か派生的な被害が生じたというときに、考え方としてどういう基準でそこを切り分けるのかという、その切り分け基準がないと、やはり裁判規範にはならない、どう文言を書いても。そこは何なんでしょうかという御質問です。
【水野委員】切り分け基準としていくつかの提案があるわけです。つまり、「法的利益を有する者」という形で切ろうか、「利害関係を有する者」というので切ろうか、いくつか提案があるわけです。
【塩野座長】だから、「利害関係を有する者」というときの利害関係の切り分け基準は何なんでしょうか。
【水野委員】それはなかなか難しいですけれども、だから、今の条文の解釈でも、例えば「法的保護に値する利益」説がありますね、その説に立って法的保護に値する利益かどうかということについては、これは非常にある意味では不明確です。それから、今の判例だって、先生がさっきおっしゃったのだけれども、一番狭いのは、行政処分をした当該法律の条文であるという一番狭いところから始まって、その法律であるという、それから全法体系、あるいは憲法を含めてという広がりがあるわけで、だから、新潟空港は、従前の最高の判例よりもかなり広げています、と私は理解しているのです。ですから、今の最高裁の解釈論にしたって、最高裁自身が既に幅があるわけで、だからどこまでかというのが不明確ではないかというような議論というのは、どの場合だってついてくると思うのです。
【塩野座長】それはおっしゃるとおりだと思います。ただ、考え方について、余り検討会の意見がばらばらですと、立案のときもなかなか難しいのではないかという気がして、先ほどのような問題を申し上げたところです。私は、処分要件について、要考慮事項だと、仮に考慮対象だといっても、それが即、原告適格を認める根拠になるかというと、裁判所はそうではないのです。個別的に保護しているというもう一つの要件を加味していますので、そういった個別的な要件というのを咬ませるのがおかしいという議論は議論として成り立つわけで、それから水野委員のように処分要件をどんなに憲法を入れたって、憲法でもカバーできないような派生的な利益があると、それも利害関係の中に入れて考えるべきだと、これも私は一つの御意見だと思います。昔からそういった考え方を原田さんも唱えておられます。そば屋や質屋営業の競業者、既存営業者についてもこれは認めるべきだというのが原田さんの御意見ですので、御意見としてはあり得ると思うのです。検討会として、これから国民にいろいろ御説明していくときに、1つにまとめることは、なかなか学説上難しいと思うのですけれども、どういう考え方で説明をして、そのときには条文の在り方、書き方としてはどうかという、そこまでの議論がないと、なかなかしんどいなという感じがして、ちょっとお伺いした次第でございます。
【福井(秀)委員】今の御議論に関連してですが、19回の判例集を見直していたのですけれども、なかなかぴたっというのは難しいのですが、まず、今の最高裁の原告適格基準の塩野先生が言われた、まさにそのものを守る趣旨、目的が含まれているかどうかというのは、どうも事務局で整理していただいた判例の限りでも破綻しているというか、読み切れていないような印象があるのです。そういう事実認識を出発点にしますと、例えば里道などはどうもそういうふうに読めていないようにも思いますし、あと風俗営業でも2種類、診療所の設置者はいいけれども、一般住民はダメだという判例が分かれているのがありましたが、どうもよく分からないとか、いくつかあるわけですが、恐らく最高裁の実質判断も、趣旨目的というのは言葉の手がかりとしてはやるのかもしれませんが、恐らく真意にある実質的な判断は、その処分によって一種の法的因果関係を持って、誰かの権利を侵害していて、その者にその処分を争わせることが適当かどうかというような機能的なアプローチで判断をしているようにお見受けするわけです。
そうすると、趣旨文言から演繹的に議論するので、どうしても読み切れないようなものが結果的に救われているのだとすれば、むしろ機能的アプローチ、その趣旨目的から形式的に読めるかどうかというよりは、その処分によって、一定の因果関係を持って誰かが被害を被って、しかも、その被害を被ったものに、その処分を争わせることが権利救済の手段として適当であるというような、そういうふうに定立していいかどうかというのは、まだ自信がありませんが、そういった意味での法的評価をきっちりと条文に書ければ、それが恐らく、多分今までみんながもやもやと原告適格で、この辺が足りないのではないかというところをある程度は埋めるのではないか。どう書くのがいいかどうか分かりませんけれども、趣旨文言から演繹的にというのが放棄できるような書き方は何とか工夫できた方がいいのではないかと思います。
【塩野座長】2つだけ申し上げたい。私は、里道は公物法のドクマティックが美濃部先生以来ありますので、それを前提にしないで、阿部教授は議論しているので、あれはおかしいと思っております。
それから、法の趣旨、目的というのは、演繹的に考えるべきではないと、これは田中先生のときから、ずっと昔から言っておられるということでございますので、趣旨、目的から演繹ではなくて、趣旨、目的は考慮をして解釈するということですから、そこもいろいろこれから議論があるところで、御意見の趣旨は1つの御意見として承りました。どうもありがとうございました。そういう形で、どんどん意見を出していただくと、後で整理が楽だと思います。
【芝池委員】先ほど来の塩野先生の御発言というのは、行政処分を巡って様々な利害があるわけですが、そのうちどういう利害を持っている人について原告適格を認め、その他の人については認めないか、その線引きの問題なのです。その際に、広い意味での法律ないし、法秩序が基準になるのではないかというのが塩野先生の御発言であって、私もそういう法的なものが、基準になるというのは同じ意見であります。ですから、原告適格を示す文言に法律まではいかなくても、法的なるものを何か持ち込みたいと思っているのです。そうしないと、メッセージが法律の解釈適用、あるいは裁判を起こす人に対してメッセージが伝わらないのではないかと思います。
【市村委員】ちょっと教えていただきたいのですが、先ほどの福井委員のおっしゃられた中で、法的因果関係というのは、これはどういうケースを想定しておられるのでしょうか。その外延が私にはちょっと理解できなかったものですから、御説明いただければ。
【福井(秀)委員】余り厳格なものではないのですが、民法の不法行為でいうような相当因果関係があればいいのではないかという趣旨です。
【芝池委員】相当因果関係ですか。
【塩野座長】土産者屋は入りますね、相当因果関係がありますから。指定の取消しで、今まで土産者屋をやっていて、それは因果関係大あり。
【福井(秀)委員】相当因果関係では入るかもしれませんが、法的評価という点では落ちるのではないか。
【塩野座長】そのの法的評価の基準は何だと、かなり難しいところなんです。
【福井(秀)委員】多分、土産物屋ですと法的評価をあえて理屈づけると、そこは営業の自由の話でしょう。経済的自由の発露なんだから。
【塩野座長】リスクの話ですね。
【福井(秀)委員】それは自己責任だという説明はあり得るかなと思いますけれども。
【市村委員】私は、もう前々から何回もここで発言しているので、運用する立場からは、「明確に、明確に」と、同じことを繰り返しているので。ただ、今のように議論の中身ですね、例えば判断するに当たっても、恐らく個々具体的に検討していかなければいけないのは分かるのですが、今までと違って何を、もう一つ取り込むなら取り込む指標にするのかということについて、ここで十分御議論いただかないと指標がないものですから、いろんな考え方のままでは実務が混乱するだろうと思います。
【塩野座長】この点は、まだまだ議論の尽きないところでございますし、また、この辺の御専門の方である小早川委員がお見えになっておりませんので、また、次回辺りでも小早川委員から別の御意見も出るかもしれません。
【福井(秀)委員】今の議論の続きで、ちょっとこういうシミュレーションはどうでしょうか。例えば前の判例集の中でも、都市計画の開発許可の取消請求で、開発区域の周辺住民の原告適格は、これは原告適格ありという最高裁の判例があるのですけれども、これも崖崩れのおそれが多い土地に当たるという条文の手掛かりで判断しているのです。では、もしこういう条文だったらどうかですが、要するに崖崩れのおそれが多い土地というのが、条文の中に全く入っていなかった、立法者が言わば都市計画の開発許可で、本来ならそういうことも考慮した方が実質的にはよかったのだろうけれども、立法当時に崖崩れは考えないで、その他の環境とかだけを考えてもし条文をつくっていたとして、同じような理由で後から争われたらどうなっていたのだろうかと考えますと、どうも今の最高裁の「法律上保護された利益」説だと、丸っきり崖崩れの手掛かりがないとアウトになるかもしれないという懸念を感じるのです。
そうすると、やはり条文に端的に書いてあるかどうかで、救済のルートに入るか入らないかが分かれてしまうというのは、こういう場合実質的にちょっと妙ではないか。条文を仮定する場合の話として1つの例ではないかと思いました。
【塩野座長】その点については、保護法益でもないということになると、処分は違法ではなくなるのです、原告適格を認めてもです。崖崩れのところを考えていないという、私が先ほどから言っている、処分要件にかなっているかどうかという基準が1つあるかと、これは固執するつもりは全くありません。何か考え方の整理が1つでもないといけないと、そういうつもりで言っているのですけれども、処分要件に書いていないということだといけないということでくると、書いていないのだけれども、認めるという趣旨はそもそも処分要件でないけれども、認めると言っているのか。処分要件として考えなさいと、それは個別の条文ではなくて認められますということですと、現在で、探すとすれば、新潟空港判決ということになる。ただ、新潟空港判決は、今の条文の限りではそこまで読めないと、そうすれば、また別の条文を考えなければいけないということにはなるという感じはいたします。そんな感じをちょっと持ちました。
【福井(秀)委員】例えば、今の開発許可要件に崖崩れが入っていなかった場合に2つあると思うのです。処分要件に入っていなかった場合は、その点では違法にならない。しかし、開発許可の全体の中で違法を見つけたという場合には、崖崩れでない違法を理由とする原告適格を持っている人に争わせるというのも1つのルートであるかなと。
【塩野座長】それはルートであるのですけれども、だけども崖崩れを全然考えていないというときには、そこは通らないのです。
【福井(秀)委員】そうです。
【塩野座長】やはり緑の木を守るところだけということで、本当に原告の満足を得られるかどうかということなのです。
【福井(秀)委員】その場合は、やはり書いていなくても、処分要件の中にはそういうことが入っているのだと読んでしまうような解釈を助けるような立法があると望ましいのではないかということなのです。
【市村委員】今のに念押しで恐縮ですけれども、そうすると、やはり処分要件が表にきちんと書かれているか、あるいは隠れた処分要件と言っていいのか、そう解釈すべきなのかは別として、やはり処分要件を軸に考えていくというスタイルはいいのでしょうね。それならば我々は慣れているからやりやすいのだと思いますが、だからそこに今のようなことも考えなさいという御趣旨ですか。
【福井(秀)委員】そこが、多分今の判例だと、比較的形式的に読むケースも間々見られるので、処分要件が実質的に読めるようになれば、かなりの問題は解決するのかもしれない。
【市村委員】なるほど。
【塩野座長】あとは、公益一般に吸収されてしまうというのが辛いところですね、そこを何とか克服しないといけないと思うのですけれども。小早川さんが一番気にしているのは、そこだと思います。
【芝原委員】今の議論を聞いていて思うのは、ある個別法が想定している行政処分による1つの処分によって出てくる権利侵害の範囲というのは、別に当該法の想定している範囲とは限らないわけですね。原因と結果は、行政処分の範囲はこうと定まるけれども、出てくる結果としての権利侵害は、別にその法律の想定範囲には決してとどまらないというのがあると思うのです。そこのところのはみ出た部分を原告適格としてどこまで認めるのか、あるいはそれを救う何かがあるのか、多分ここが問題だという感じがしています。何か聞いていると、同じ法律の中ですべて完結しようとしていますが、別に処分の結果の表われ方というのは、当該法の範囲を超えることは実体上いくらでもあるのではないかという感じがするので、そこのところをどう救うのかというのが考え方としてはかなり微妙なところです。
【塩野座長】分かりました。ただその場合、ちょっと水野委員の御発言と違うのは、救わなければいけないという意味なのですけれども、その方に対する侵害ではなくて、別のところの違法をつかまえて、結果として自分も救われる。もう一つ回るものですから、そこが難しいところです。
それでは、いろいろ御議論のあるところでございますので、次の団体訴訟の導入等々のところに入っていただければと思います。
【福井(秀)委員】「第2-7-(1) 主張・立証責任を行政に負担させること」のところですが、これも大体各省庁の意見は似通っているのですけれども、これも先ほど来のいろいろな行政庁の意見と共通のものがある。一般論として、なぜ行政庁が一義的、あるいは原則的な主張・立証責任を負うと支障があるのかというところは、よく飲み込めないところがあるのです。これもある程度ヒアリングのときにも議論があったと思うのですけれども、例えば処分を受けた人が不法に滞在しているかどうかとか、あるいは何か自分で簡単に調達できる証拠を持っているかどうかというような側面であれば、それは簡単に本人が説明すればいい、けりがつく話です。行政庁は民事と違うのは、やはり優越的地位で何らかの事情があって、法の要件に該当する処分をすることが適当だと判断したから一方的に権力発動して相手の権利を剥奪する、ないしは制限するということをやったわけで、そこの点の根拠が行政庁側で、必ずしも主張・立証できないことがやたらあるのだというのは、私は非常に異常な主張だと思うのです。もちろん、本人しか分からないというようなことは、非常に明らかで客観的に分かることですから、そういうところは本人に残るようにして、だけど全体としてその処分の発動の必要性があって、違法ではなくてやっているのだということは、これは一方的にやる処分である以上、民事と違って、まずは行政庁が原則的に主張・立証責任を負うのだと考えるのは、全く常識的ではないかと思います。
【芝池委員】かねてから用語が問題だったのですが、立証責任については、学説上も様々な意見がありまして、ですから私は今回法律の中に規定する必要はないと思っております。これを議論し出しますと、A説、B説からいくつあるのか知りませんけれども、全部見ていく必要があるわけで、とてもできないと思います。ただ、主張の方は処分の適法性について行政が主張すべきであるという御指摘はもっともであると思います。それは、4ページの審理の充実との関係で、記録提出とかあるいはその理由の説明とか、そういうところとの関係でつなげることができるのではないでしょうか。
【水野委員】主張・立証責任については、芝池委員がおっしゃったのだけれども、主張責任があるというのは、イコール立証責任があるというのは、基本原則なのです。だから、行政処分についての主張・立証責任がある、これはいいのですけれども、問題は利益処分のときに、何らかの利益の給付なんかの申請をしたと、それが拒否されたという場合、その場合にどう考えるかというと、これは議論があるところです。しかし、その場合でも、要は立証責任というのは、真疑が不明なときにその不利益をどちらに負わせるべきかという議論ですから、実際の訴訟の場においては、めったにそういうケースというのはそう出てこないです。だから、原告がそういうふうに言っているけれども、どうもそれはないのではないかということで、拒否処分を認めるという判決も結構あるだろうと思うのです。しかし、本当に真疑が不明だと、なるほど原告が言っているのも分からないでもない。しかし、行政の立証が十分できていないという場合には、これはどちらに不利益を課すかといったら、やはり行政に不利益を課すべきではないか。だから立証責任は行政にあるというべきではないかと、私は思っているのです。ただ、そこのところは意見が分かれるかも分かりませんが、意見が分かれるとすれば、そこのところですから、場合によっては議論をして、できるものなら規定すればいいと思います。
団体訴訟についてちょっと申し上げますが、これは行政庁からは法務省と総務省だけの反論です。この反論を見ますと、要するに個別法で規定すべきだということだけなのです。外国では、たしかに個別法の中に訴訟条項を置いてある法律も結構あるようですけれども、日本で訴訟条項を置いている法律は、ほとんどというかゼロですかね、ありますか。当該官庁が中心になって、所管の法律を作るときに、訴訟条項を自ら置くというようなことは、今の日本の状況では到底考えられないのです。環境省が来られたときにも申し上げましたけれども、環境アセスメント法が作られたときに、訴訟条項を置けということを日弁連もかなり強く申し入れましたけれども、結局ほとんど見向きもされなかった。だから、個別法で規定すべきだという御議論というのは、団体訴訟は導入しなくてもいいという議論に等しいと私は思っているのです。ですから、今の日本の現実を直視すれば、どういう要件にするかは議論をしたらいいと思いますけれども、やはり一般法である行政事件訴訟法の中で、団体訴訟を認める規定を置くべきだと思います。
【芝池委員】水野先生の御意見に質問ですが、全部行政事件訴訟法で規定するというお話でしょうか。団体の指定の仕方も含めて、全部行政事件訴訟法で規定するというお話ですか。
【水野委員】そうです。どういう団体に原告適格を認めるかということについては、行政事件訴訟で決めるべきだと。
【深山委員】今のはどういう処分についての取消訴訟の原告適格をどういう団体に認めるということを全部行政事件訴訟法に列挙すると、一覧表でも作って、そういう御趣旨でしょうか。
【水野委員】いえ、一覧表なんて、そんなのものではない。
【深山委員】1つか、2つだけ何か。
【水野委員】いやいや、そういう意味ではなくて、抽象的な表現ができると思うのです。つまり、団体訴訟と言われている中には、団体としての適格があるものについてどうするかという議論と、それから団体としての当事者適格がないものについてどうするかという議論とが混在していますから、そこは整理しなければいけませんけれども、これは例えば日弁連だって具体的な案を出しているわけですから、ああいうふうな形で規定をおくことは十分可能だと思うのです。これは、外国法でもあるのではないですか、一般法として。
【塩野座長】それはまた外国法の方に個別に御説明していただき、また一覧表に書いてありますので、それを御覧いただければと思います。むしろ、これはアメリカ辺りでもどんどん判例でやっている話ですので、裁判所が頑張ればいい話という議論は余りしない方がいいかもしれませんが、そうすると身もふたもないので、今水野委員の御意見は承りました。どうもありがとうございました。
他に、御議論としては既に承っているところが多いと思います。ただ、新しい論点の指摘があったので、自分はこのところはこう考えるという点があれば、是非御指摘をいただきたいと思います。
【福井(秀)委員】まず、今の団体訴訟の件は、私も一般則で書けるなら是非書いた方がいいと思います。
18ページの「事情判決の制限」のところですが、一般からの意見で下から2つ目ですが、「代償措置を講じることができなくても、事情判決の要請される場合はありうる」というのがあるのですが、これも先ほどわざわざ特記して御説明になりましたので、一応反論です。代償措置を講じることができないというのは、要するに違法な行政処分があったけれども、損害賠償もやらないし、あるいは代わりに何か、その処分は前提としてもその処分を受けた者の被害を軽減するような別の措置も講じない、こういうことを論理的に意味するわけでしょうから、結局違法措置をやった行政庁が事情判決だけもらったまま違法措置の被害を相手方、国民側に受忍させ続けるべき領域があるという意見と等しいと思うのです。ちょっとどういう方が言っているのか分かりませんけれども、基本的にそんなことはあってはならないというのは、多分法治国家の前提ではないかと思いますので、こういう議論に与することはできないというのが1つ。同じような意味で、これは繰り返し申し上げていますが、選挙訴訟には代償措置がないので、同じような意味で問題があると依然として思います。要するに賛成しないと言っていますが、理由が全く示されていなくて、なぜ代償措置がなくて、こういう場合に事情判決の法理を使って構わないのかという実質的な根拠は、結局のところどの省庁からも一般国民の意見からも、正当化するまともな理屈が1つも見つからなかったという印象です。
もう一点が、19ページの「弁護士報酬の敗訴者負担の取扱い」ですが、これは片面的敗訴者負担にいろんな省庁がこぞって反対しているようですが、これも余り説得的ではないと思います。負けたら、市が負担する弁護士費用は税金だとか、原告が負けたときの弁護士費用が納税者の負担だとか、それは行政訴訟というのは元々そういうものでありまして、行政庁を支えるのは納税者であるということは大前提なのですが、その違法を発見して権利救済をさせるための手続として設けられているわけですから、そういうそもそも論で片面的敗訴者負担が一概にダメだということには必ずしもならないと思います。これは別の検討会で民事一般の話で議論をしているということは聞いているのですが、あくまでも、民事というのは基本的には両当事者が対等で争っているという場合を主として念頭に置いているわけでしょうから、行政の場合には、まず対等でないというところが、こういう行政訴訟検討会でいう独自の、訴訟法一般に対して行政訴訟で検討しようというものが設けられた趣旨でもあるわけですから、行政のような不対等の場合にも片面的敗訴者負担を設けてはいけないという実質的根拠があるのかどうかという観点で検討して、議論して結論を出さないといけないと思います。民事の結論にただ合わせるとか、あるいは行政庁がいろいろ言っているような意味で、単に困るというのに等しいような議論ではなく、もう少し実質的なところがないと、これを否定する論拠にはならないと思います。
【芝池委員】できるだけ今後の論点を減らす方がいいと思いますので、もちろん実質的に不要であるという判断をした上でありますが、論点が少ない方がいいと思いますので、発言をするわけですが、事情判決につきましては、今回触らなくてもいいと思います。前にもそういう意見を申し上げました。現在の制度でも、事情判決を出す場合には、損害賠償の可能性も考慮するということになっているわけです。選挙訴訟でありますが、これは損害の賠償、損失補償の話ではないと思います。実際に選挙訴訟を起こして事情判決を受けた人の判断としても、金が貰えるかどうかで事情判決を認めるかどうかという結論が異なってくるということはないだろうと思います。そういうこともあって、この事情判決の問題は、今後1つの論点として扱うことはないのではないかと思っております。
【福井(秀)委員】今の点ですが、私は反対です。というのは、選挙訴訟の問題は、私が申し上げたのは、選挙訴訟に損害賠償措置がないからまずいということを申し上げているのではなくて、選挙訴訟では代償措置を設けようがないのだから、これは本体取消ししかないのではないかということの裏返しです。そういう矮小な問題を議論しているわけではありません。
【塩野座長】福井委員の御意見は前から承っていますので、どうもありがとうございました。他に何かございましょうか。実は、私はこの前、情報公開のフォーラムに出てちょっとしゃべったこともあって、それがもう出ますので、そのことをちょっと申し上げておくと、ここの理由等の変更のところなのですけれども、義務づけ判決を認めて、これはどの程度認められるかどうか分かりませんけれども、それを正面から認めることになると、請求権の話になるのです。請求権があるかないかもろに出てきて、最初の行政処分が違法かどうかということよりも請求権の存否になりますので、そのときには最初行政庁が拒否処分をしたときに、違法を付けた理由と違った理由を請求権が相手方にないということを根拠づけるために、言わせないということになるのかどうか、この辺はそういう問題もあるということだけちょっと御指摘しておきます。というのは、なぜそういう問題が起きたかというと、不服審査段階で、どんどん実体に入って、拒否処分の違法性の問題ではなくて、開示請求権、つまり不開示事由があるかどうにすっと入っていかれるのです。そうすると、たまたま理由付記のところでけとばすときもありますけれども、行政庁の方でこういう理由と言ってきたときに、今さらそれは理由付記していないから言わせないということになると、もう一度返すことになりますので、そうすると申立人の方は、それよりも今の不服審査会で全面審査して下さいという気持ちもおありなのか、結構どんどん新しい理由についても判断をしておられる、両方あるみたいです。それは理論的に整理すると、義務づけ判決の場合の訴訟物とは何かと、その訴訟物のときの攻撃防御方法は何かという問題にもつながってくるので、今申し上げた趣旨は理由等の変更の制限というのも、そういった新しい訴訟類型を認めるときにやはり考えておかなければいけない問題かなというふうにも思いましたので、情報提供ということで申し上げた次第でございます。
他に何かございましょうか。今日、議論にならなかったのは、議論にならないという趣旨ではありませんので、今までの議論に付け加えて論点の指摘はなかったという意味で扱いたいと思います。
【福井(良)委員】「第2-7-(4) 裁量の審査の充実」ですけれども、この中間とりまとめでもいろんな方向の議論があって、どの意見に対して意見を言えばいいのか、ちょっと分からない面があるのですけれども、やはり行政裁量というのは、本来は立法府が法律を作って、それに権限行使の基準を書いていくというのが本来の在り方だと思います。そもそも行政自体には裁量権の濫用的なことが発生しますと、政治責任のような形でチェックをされるという面もございますし、最後は司法審査で個別法の趣旨に沿って、裁量の判断の濫用があったかどうかという判断が出来ていると思うわけですけれども、この中間とりまとめの中でも、例えば30条の規定を削除するという規定から、あるいはそれに代わって何らか積極的な裁量判断基準の要件を書くとか、いろんな議論がありまして、その後の方については、やはり個別法での明確化ということをなしに、訴訟法の中で行政の裁量判断についての在り方を書くというのが適当かどうかという気がいたします。行政事件訴訟法の問題なのかどうかということをちょっと疑問に感じます。
【塩野座長】そういう御意見として承ります。他に何かございますでしょうか。何か事務局でここのところの議論が落ちましたというのはありますか。最後のところが、まだもう一つありますので、それはこれからいたしますが、最後のところについてでございますが、2つ、大きなものとしては、目的規定の方が最後のところと申しますか、最初のところに出しておりましたので、そことの関係で、何かこの際御意見があれば承りたいと思います。
【福井(良)委員】別に総務省が言っているからというわけではないのですけれども、この目的規定にどう書くかというのは、裁判実務にどういう影響があるのかというのは、ちょっとよく分からない面があるのですけれども、一般的に考えますと、やはり行政の適法性の確保というのは、1つは行政内部に関しては監査とか、そういう機能が1つあると思いますし、それから立法府は立法府で行政に対する様々なコントロールの手段があるという形が既に現在あると思います。もちろん行政訴訟によって個別の救済が行われることによって、行政の違法性が是正されるということもあると思いますけれども、そちらの方はやはり反射的に行政の違法性が是正されるということだろうと思いまして、やはり本筋の方は行政内部の機能でありますとか、立法によるコントロールということではないかなと思うのです。行政事件訴訟法の目的に、行政の適法性の確保というのが来るというのは、ちょっと違和感があるということだけ申し上げておきます。
【福井(秀)委員】私は、どちらかと言えば、適法性も書いた方がいいのではないだろうかと思っているのですが、その1つの形式的な理由は、元々この検討会が委任を受けた大元である司法審議会の意見書は、今まで適法性チェックというところに必ずしも光が当たらなかったから、そこを充実させるというためにもこういう行政訴訟の充実を図るべきだという議論でスタートしていたようにも記憶します。結果的に権利救済というのは、違法の是正とイコールだということは、今までもそうであったといえばそうなわけですから、もちろん並列して並べるかどうかというのは、権利侵害がないときの適法性確保は主観訴訟ではないのだと考えれば、やや従属的なものであろうということは分かるのですけれども、権利侵害を是正するときに、反射的ないしは結果的とはいえ、適法性が確保されることになるのも訴訟制度の重要な目的であるというような理念を入れておくことは別に有害ではないし、裁判に携わる方の心構えといいますか、姿勢に対しての訓示的な意味があるのではないかと思います。
【塩野座長】他に何かありましょうか。今の点は、目的規定を新しく起こすかどうかという点も含めて、いろいろ議論の対象になると思います。御案内のように、今の行訴法は目的規定がございません。行政不服審査法にはありますということも前提にしてございます。
いろいろまだ御議論もおありかと思いますが、大分時間も押してまいりましたので、今日の議論は一応この程度にしておきたいと思います。
次回との関係で、私の方からちょっとお諮りしたい点がございます。さんざん議論をした結果、「行政訴訟検討会における主な検討事項」がまとまりました。これに基づいて、国民の皆様、そして行政関係の諸機関に披露しまして、いろいろな御意見を承りました。その御意見の様子は前回事務局からの報告を承りました。そして、今日は我々の従来の検討事項についての議論、それから国民の皆様方の御意見、あるいは各官庁からの意見というものを踏まえまして、もう一度議論をした次第でございます。新しい情報が出ましたので、議論をいたしました。そうしますと、今後どうするかということなのですけれども、この行政訴訟検討会としても、そろそろ具体的な改正案の立案に向けての見直しの考え方というものを事務局に対して示すための作業、あるいは検討が必要ではないかと思われます。そうした一種の次に進む作業を行うためには、これまでの検討結果を踏まえて、具体的な改正あるいは改革の方向性と、それからその場合に詰めるべき問題点について、やはり何かたたき台のようなものがないと、これはまた今までの議論の繰り返しになるのではないかということで、この点については、そろそろそういう時期が来てもいいのではないかという雰囲気は私なりに検討会の御議論を承りながら察しているところでございます。
そこで、次の問題は、どういう手順と言いますか、やり方でたたき台のようなものをここに登場させるかということで、これについては、私とそれから事務局ともいろいろ考えたのですけれども、これを結論的に申しますと、この検討会の進行を務めてまいりました私の方から事務局と相談して、たたき台のようなものをお示しして、今後の議論の踏み台にしていただくのが適当ではないかと考えたわけでございます。ただ、たたき台とはどんなものかと言われると、今日、皆様方の御意見を承った段階で、すぐこういうものですとは、到底言えないところでございますけれども、そういう意味では、固まったものは持ち合わせません。さらに、現段階で改正案の要綱案を作るという段階にはなっていないということは、今日の御議論を承っても私はそう思いました。皆様方もそういう感触をお持ちだと思います。
そこで、ごく大雑把なことしか申し上げられませんけれども、本日いただいた御意見も含めまして、本日までにいただいた委員の皆様の多様な御意見を土台といたしまして、理論的、行政法理論、あるいは実務的、それから法制的など各側面から問題点を整理いたしまして、来年の国会への法案提出を念頭に置いた上で、議論が十分成熟しているかどうか、それから更に議論が必要なところはどのような点であるかといったような点について十分考慮しながら、今後の議論の参考になるものをお示ししてはいかがかと考えている次第でございます。たたき台の具体的なイメージを皆様方に御披露する前に、こんなことを申し上げるのは大変恐縮でございますけれども、むしろその方がこの検討会の議論を率直に反映するやり方ではないかということで、会の進行に当たるものとして申し上げる次第でございます。こういう形でいいかどうか、あるいはもっと別のやり方があるかどうか、そういった点についての御意見を承ればありがたいと思います。御質問も、もちろん承ります。
【福井(秀)委員】たたき台というのは、案を各項目ごとに1つに絞るというものですか。
【塩野座長】ですから、今申しましたように、案はまだ絞り切れてなく、大体絞り切れているようなもの、しかし、ここはどうかという詰めの問題もございます。それから、そうではないところもありまして、それは先ほど申しました成熟度、議論の熟度に応じて出てくるだろうと思います。ですから、いろんなところで違ってきます。
【福井(秀)委員】ある程度の整理が必要だというのはよく分かりますので、そういう作業は是非事務局でやっていただければと思うのですが、要するにこれでいくかどうかというところまで、全体が煮詰まったというほどの印象もありませんので、ある程度幅を残した議論で煮詰まっているものの度合もいろいろですけれども、どの案とどの案が特に論点になっているとか、そこについてはある程度公平に、複数のものがあるのであれば複数示していただいて、それぞれごとにどういう点で詰めるべき点があるのかということも踏まえて、最後政策判断をするときの素材になるある程度の絞り込みというものでお願いできればと思います。
【塩野座長】できるだけ御要望に沿うように考えます。
他に何か御意見、あるいは今の福井委員のような御意見でも結構でございますが、何かございますでしょうか。
それから、先ほど事務局の方から出されるというふうにおっしゃいましたけれども、事務局から出すのではなくて、私が出します。しかし、私一人で作るわけには到底いきませんので、事務局と相談しながら出します。司会の進行の役を仰せつかったものの責任の果たし方の1つかと、多少出しゃばったことかと思いますけれども、思いましたので、今のような提案をした次第でございます。
【水野委員】次回が、10月24日で少し空くのですね。今のは基本的にそういう方向で結構だと思いますけれども、できましたら事前に委員にお配りいただいて、委員からも意見を事前に寄せる機会を持っていただけないだろうか、それをどこまで取捨選択するかは、もちろん座長の裁量にお任せいたしますけれども、いきなり当日ぱっと出されるというのではなくて、できましたらそういうふうにしていただければと思います。
【塩野座長】恐らく、前もってお配りするということになるだろうと思うのです。ただ、その前に委員から御意見いただいて、それをまた取り入れた形で直したものを出すということにまでいくかどうか、これは作業の問題もあります。それから、その場合には委員に対して、前もってある程度御説明しないといけないと思うのですけれども、そうなると、この説明の仕方の厚い薄いとか、いろいろありまして、検討会がまだございますので、ここはもう少し成熟度を詰めてあったじゃないかとか、どうぞ御自由に本当のたたき台で要綱案ではございませんので、議論のための土台ということで、いろいろ御自由に御意見を承った方が個別に前もって御意見を徴するよりはいいのではないかと私は考えております。ただし、前もってお配りするというのは、前もってがいつになるかと問い詰められると困るのですけれども、一生懸命私もやりたいと思っております。事務局が一番大変だと思いますけれども。
【福井(秀)委員】私も、今、水野委員がおっしゃったように、今度出てくるものは、今までの一種の論点整理的なものから、かなり一歩も二歩も踏み込んだものになると思いますので、幸い時間も空いていることもあるので、やはりできるだけ早目に、まず第一次素案を作っていただいて、それをどういう形で反映させるかはともかくとして、委員の意見も文章上反映していただけるような形にした上で、次回の議論に望むようにしていただくのがベストだと思います。
【塩野座長】それも考えてみたのですけれども、時間的な余裕という問題があるのと、それから委員の意見をどういう形でいただくかという点もあって、文章でいただくのでしょうけれども、そうすると、それを手直しの時間、それからまた意見が拮抗しているような場合どうするかと、いろいろそれこそ先ほどの法案ではないですけれども、いろんなことを考えると、頭が痛くなってしまって、むしろ検討会の場で御自由に意見を交換していただいた方が、それからメディアの方もおられるところでやった方がいいのではないかと思いましたものですから、一応そういう形で。ただ、今、御意見があったことは十分斟酌いたしまして、何か対応できれば対応いたします。
【福井(秀)委員】多分そういう場合も中に完全に織り込んで1つの案にするのは非常に難しいかもしれませんが、例えば事前に提出された意見については、紙で出たものについては、それも併記する形で配っていただくとか、記載上、できるだけいろんな意見があらかじめあるのであれば、それが分かるようにしていただいて、議論もたたき台以外は口頭でしかないというよりは、できれば各委員が熟考した上で紙で持ち寄ったものを更に議論するというようなことができる程度の余裕をいただいた方がより生産的な議論ができると思います。
【塩野座長】ですから、御意見を書面で当日配るようにということでお寄せいただくこと、それだけの余裕を持った原稿ができるかどうか、今、請け負うわけにいきません。ただ、当日口頭で述べるよりは文書で明らかにした方が、いろんなところで明確になるという御趣旨で文書で前もってお寄せいただくということの道は考えさせていただきます。
【福井(秀)委員】普段の資料をいただくのは、大体数日前ぐらいなものですから、それだといくら何でも余裕がない。せめて2週間ぐらい前にいただかないと、なかなかじっくり検討するのは難しいと思うのです。
【塩野座長】2週間前は無理です。福井委員の御要望ということで承りますが、私ができることと、できないことがございます。一生懸命やります。
他に何か。
(座長からの提案につき、各委員了承)
それでは、今後の日程は、10月24日金曜日の午後1時半から事務局の会議室で行うことにいたします。
本日の議事は終了いたします。どうもありがとうございました。