■福井良次委員が総務省内の人事異動に伴い辞任され、それに伴い、総務省政策統括官の藤井昭夫さんに新たに本検討会の委員をお願いしている。本日は欠席である。
□行政事件訴訟法の一部を改正する法律について、提案理由説明などを見ると、この検討会で取りまとめた「行政訴訟制度の見直しのための考え方」と同じ4つの項目で説明をしており、この検討会での議論の蓄積が今度の法律案の制定に当たって大きな寄与をしたのではないかと思っている。制定以来42年ぶりである。この評価はそれぞれ、委員のそれぞれによって違うし、委員外の方にあってはそれぞれ自己の立場からの評価はあるかと思うが、座長として、皆様方の御協力を得て、ここまでこぎ着けたことについては、まず感謝を申し上げたい。
■改正法の概要について、資料に沿って説明。資料1「行政事件訴訟法の一部を改正する法律(平成16年法律第84号)」は、平成16年6月9日に官報に公布され、附則第49条の年金積立金管理運用独立行政法人法の一部改正が官報に載った段階では、まだ公布されていない法律を引用していますので、その法律番号を補った最終的な法律の姿はこの資料1のとおりです。資料2「行政事件訴訟法の一部を改正する法律(新旧対照条文)」は、既存の改正されていない条文もこの中に含めています。今後、この改正の趣旨を理解して活用していただくために、今回の改正の意義がこの資料を見れば分かるようにつくったものです。資料3ですが、この法律案は、衆議院、参議院とも国会では全会一致で政府原案のとおり可決していただいています。衆議院及び参議院の各法務委員会での採決に当たりまして、附帯決議がそれぞれ付されていますので、その附帯決議をここに御紹介をしています。資料4、資料5は、今回の行政事件訴訟法の一部を改正する法律の概要を説明する資料です。資料6は、今回の改正による改正後の行政事件訴訟法の姿をここにあらわしたものです。資料7「行政訴訟制度の見直しのための考え方」は、12月の検討会の後で、各委員の方からいただいた意見、それを付記した最終的な「考え方」について、これを改めて検討会の資料としてここにお示しをしているものです。資料8は、今回の行政事件訴訟法の一部を改正する法律が公布された日に、司法制度改革推進本部事務局長名義で、各府省庁等事務次官等宛、それから、各都道府県知事宛、また各都道府県知事宛の通知では、都道府県内の市町村に対しても周知をお願いするという形で、関係する行政の方々に周知を図っているということです。今回の改正の概要をお示しして、これについて周知を図っているところです。
改正の概要は資料のとおりなのですが、座長からお話ありましたように、検討会の考え方の構成と全く同じ構成で4つの観点から改正の趣旨をまとめています。「救済範囲の拡大」、「審理の充実・促進」、「行政訴訟をより利用しやすく、分かりやすくするための仕組み」、それから「本案判決前における仮の救済制度の整備」です。1つ項目が増えていますのは、資料4の「1.救済範囲の拡大」の「エ 確認訴訟を当事者訴訟の一類型として明示」です。これは確認訴訟の活用ということで検討会の考え方でおまとめいただいたものについて、その活用を図るために、「確認訴訟を当事者訴訟のうち公法上の法律関係に関する訴訟の一類型として明示する」、こういう法改正を加え、これで全体の構成としては1つ加わっているということになります。
資料2の新旧対照条文の1ページ、まず目次が「46条」に変わっているのは、最後の条文が出訴期間等の教示に関する規定が加わって第46条になったものです。
第3条第5項の不作為の違法確認の訴えの修正は、第6項で「義務付けの訴え」を規定するに当たり、その条文に書いてある文言と平仄を合わせたものです。「なんらか」を漢字にし、「すべきに」を「すべきであるに」と表現を変えただけで、意味が変わるわけではありません。
第6項に「義務付けの訴え」の規定を置いています。この第3条第6項では「この法律において『義務付けの訴え』とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう」と定義をしています。次に掲げる場合とは、第1号では「行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき」として括弧の中で「次号に掲げる場合を除く」として定めています。したがって、第2号に掲げる場合は、第1号の義務付けの訴えからは除かれるということです。第2号の場合は「行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき」です。この1号と2号の場合において、「行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟」、これを「義務付けの訴え」と定義をしています。「義務付けの訴え」を抗告訴訟の一類型として定義することにより、行政事件訴訟法第38条第1項で、取消訴訟に関する一部の規定が、その他の抗告訴訟について準用されていますので、この訴訟については、そういった規定の適用関係があることを明らかにしています。
ここにいう「処分又は裁決」は、第3条第2項で「処分」を定義していて、処分は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」と定義されています。それから、「裁決」は、第3条第3項で「審査請求、異議申立てその他の不服申立てに対する行政庁の裁決、決定その他の行為」と定義され、義務付けの訴えでいう「行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟」というのは、ここにいう処分又は裁決をすることを求めるという訴訟をいいます。第6項の第1号と第2号で、「義務付けの訴え」を区別しているのは、第37条で「義務付けの訴え」の要件が、第37条の2及び第37条の3で書き分けられているためです。第3条第6項第1号の必ずしも申請をした場合ではない「義務付けの訴え」については、第37条の2の要件が適用され、申請をした場合の第3条第6項第2号の「義務付けの訴え」については、第37条の3の要件が適用されるという関係になります。
第3条第7項は「差止めの訴え」の規定で、「この法律において『差止めの訴え』とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう」と定義しています。
第4条が先ほど申し上げた「確認訴訟」に関する規定です。第4条では「公法上の法律関係に関する訴訟」が「当事者訴訟」の定義としてあり、それを「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう」と改めることで、公法上の法律関係に関する訴訟の中には、確認の訴えが含まれているということを法文に明らかにすることによって、行政をめぐる多様な法律関係に応じた実効的な権利救済のために「確認訴訟」の活用が図られるようにしたものです。
第9条は「原告適格」に関する規定です。第9条第1項で、「処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる」という原告適格の規定があり、第2項で、「裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする」、このように定めています。このような事項を考慮することによって、原告適格が実質的に広く認められるものと考えています。
第11条は「被告適格等」に関する規定で、被告適格については、行政庁を被告としていたものを、今回の改正により「国又は公共団体」を被告とすることに改めるという趣旨です。今回の改正後の第11条第1項においては、「処分又は裁決をした行政庁(処分又は裁決があつた後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、当該他の行政庁。以下同じ。)が国又は公共団体に所属する場合には、取消訴訟は、次の各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める者を被告として提起しなければならない。」と規定し、第1号を例に挙げると、「処分の取消しの訴え」については、「当該処分をした行政庁の所属する国又は公共団体」を被告とするということを定めたものです。第2項は、国又は公共団体に所属しない指定検査機関のような場合について、「処分又は裁決した行政庁が国又は公共団体に所属しない場合には、取消訴訟は、当該行政庁を被告として提起しなければならない」、このように定めたものです。第11条第4項は、「第一項又は前項の規定により国又は公共団体を被告として取消訴訟を提起する場合には、訴状には、民事訴訟の例により記載すべき事項のほか、次の各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める行政庁を記載するものとする」と定め、処分をした行政庁を記載していただくという規定になっています。仮に行政庁を訴状に書かないで訴えを提起した場合どうなるかということですが、これは検討会でも御議論いただいたように、そのことによって不利益を受けるものではないと考えています。第5項は、「第1項又は第3項の規定により国又は公共団体を被告として取消訴訟が提起された場合には、被告は、遅滞なく、裁判所に対し、前項各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める行政庁を明らかにしなければならない」と規定し、被告の方から、行政庁はきちんと明らかにしていただく構造にしているわけです。第6項において、「処分又は裁決をした行政庁は、当該処分又は裁決に係る第1項の規定による国又は公共団体を被告とする訴訟について、裁判上の一切の行為をする権限を有する」と規定しています。従来ですと、当事者として当然に訴訟行為をしていたわけですが、その行政庁が今回当事者ではなくなります。そうしますと代表者、すなわち国又は公共団体を代表すべきものが、当然第一次的には訴訟行為をすることになりますが、それに合わせて行政庁も裁判上の一切の行為をする権限を有するということで、最終的に行政処分が取り消された場合、取り消した判決に従って行政処分をしなければいけないのは行政庁ですので、訴訟手続にきちんと関与できるように規定したものです。
第12条は「管轄」の規定で、第12条第1項で、「取消訴訟は、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所又は処分若しくは裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する」と規定しています。これは行政庁の所在地の管轄裁判所のほかに、この検討会でも議論されましたけれども、国又は公共団体が被告となるということで、例えば国の普通裁判籍である東京では訴えられるのかという問題点の御指摘があり、その被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所、通常の民事訴訟の一般原則による裁判所も管轄を有することを、この第12条第1項で明らかにしたものです。第12条の第4項が管轄裁判所の拡大の御議論をいただいた部分で、「国又は独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第2条第1項に規定する独立行政法人若しくは別表に掲げる法人を被告とする取消訴訟は、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所(次項において「特定管轄裁判所」という。)にも、提起することができる」ということとしたものです。移送の規定は第5項にあり、「前項の規定により特定管轄裁判所に同項の取消訴訟が提起された場合であつて、他の裁判所に事実上及び法律上同一の原因に基づいてされた処分又は裁決に係る抗告訴訟が係属している場合においては、当該特定管轄裁判所は、当事者の住所又は所在地、尋問を受けるべき証人の住所、争点又は証拠の共通性その他の事情を考慮して、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部について、当該他の裁判所又は第1項から第3項までに定める裁判所に移送することができる」、と定めています。
第14条が「出訴期間」の規定で、出訴期間については、3箇月を6箇月に延長するということで、「取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から6箇月を経過したときは、提起することができない」と定めています。これまでの第14条第2項で、この期間は「不変期間とする」というふうに定められていましたが、今回の第14条第1項ただし書きにおいて、「ただし、正当な理由があるときは、この限りでない」として、第2項は削ることとしています。したがって、この「正当な理由」、つまり誤って長期の出訴期間を教示されて、それでいいものだと思って訴えてしまったというような場合に、出訴期間が過ぎているからといって、それは正当な理由があるであろうということを考慮して改めているものです。第14条第3項の規定は、裁決を経たときの処分の取消訴訟の出訴期間とは、従来の第14条第4項ですと、「裁決があつたことを知つた日又は裁決の日から起算する」ということで、「から起算する」というと、その日も含んでしまうわけです。したがって、この場合は3箇月といっても1日少ないわけで、そうすると、第14条第1項に言っている「処分又は裁決があつたことを知つた日から3箇月以内」、つまり裁決の取消しを求めるときは裁決の通知を受けた日の翌日から起算して3箇月以内に訴えればよかったのに、裁決をされたときに、元の処分を訴えようとすると、その処分については、裁決の通知を受けた日を含めて3箇月、ですから裁決の通知を受けた日の翌日から起算した3箇月目に訴えると、裁決の取消しの訴えは適法だけれども、処分の取消しの訴えは不適法になる、そういうアンバランスが生じていたのを改めたものです。それを規定したのが第14条の新しい第3項の規定で、「裁決があつたことを知つた日から6箇月を経過したとき又は当該裁決の日から1年を経過したときは、提起することができない」。つまり「知つた日から」と規定して、知った日の翌日から起算することを明らかにしたものです。
第23条の「行政庁の訴訟参加」の規定の改正は、行政庁が当事者ではなくなったので、「他の行政庁」という表現が適切でなくなったものを改めたもので、規定の趣旨が変わっているわけではありません。
第23条の2が資料の提出に係る「釈明処分の特則」の規定です。第23条の2においては、「裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため、必要があると認めるときは、次に掲げる処分をすることができる」とし、次に掲げる処分として、第1号で、「被告である国若しくは公共団体に所属する行政庁又は被告である行政庁に対し、処分又は裁決の内容、処分又は裁決の根拠となる法令の条項、処分又は裁決の原因となる事実その他処分又は裁決の理由を明らかにする資料(次項に規定する審査請求に係る事件の記録を除く。)であつて当該行政庁が保有するものの全部又は一部の提出を求めること」ができるとしたものです。第2号では、被告に属しない行政庁にある資料についても、「第1号に規定する資料であって、当該行政庁が保有するものの全部又は一部の送付を嘱託すること」、こういう釈明処分もできることにしています。第2項が審査請求に対する裁決の記録の提出に関する釈明処分の規定で、「裁判所は、処分についての審査請求に対する裁決を経た後に取消訴訟の提起があつたときは、次に掲げる処分をすることができる」とし、次に掲げる処分として、第1号で、「被告である国若しくは公共団体に所属する行政庁又は被告である行政庁に対し、当該審査請求に係る事件の記録であつて当該行政庁が保有するものの全部又は一部の提出を求めること」ができると規定しています。
第25条が「執行停止」に関する規定で、第25条第2項において、従来、「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」と規定していたのを、「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」と改めています。さらに第3項を加え、「裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする」としたものです。
第26条の改正は、第25条を改正したことに伴う規定の整備です。
第33条の改正は、被告適格が行政庁ではなく国又は公共団体に変わったことに伴う規定の整備であり、内容が変わるわけではありません。
第37条の2は、「義務付けの訴えの要件等」の規定です。
第37条の3が、義務付けの訴えの中でも、申請をした場合の義務付けの訴えの要件に関する規定です。
第37条の4が、「差止めの訴えの要件」に関する規定となっています。
第37条の5は、「仮の義務付け及び仮の差止め」の規定となっています。
その他、規定の整備がいくつかあります。
第40条は当事者訴訟で出訴期間の定めがある場合、従来は不変期間と定められていたのを、それも教示に誤りがある場合等を考慮して、「正当な理由があるときは、その期間を経過した後であつても、これを提起することができる」ということにしているものです。
第41条は規定の整備です。
第46条は、「取消訴訟等の提起に関する事項の教示」に関する規定で、第46条第1項に第1号、第2号、第3号とあるのですが、「取消訴訟の被告とすべき者」、「取消訴訟の出訴期間」、「審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、その旨」を教示するという規定です。
その他、関係法令の改正多数にわたります。
□説明及び配布資料、さらに前もってご準備いただいたところで何か分からない点がこの改正案にあったら、御発言をいただきたい。ただ、解釈論争は今日はやめていただきたい。
○昨年12月に「考え方」をまとめて、その後、事務局の方で条文づくりをしていただいたが、そのときの話と条文が食い違っていると思うのは、第4条の「当事者訴訟」の定義のところと裁判管轄の第12条第1項で、被告の所在地の裁判所にも出訴できるということになったところだと思うが、内閣法制局との協議で変わったのであれば教えていただきたい。
■法制的な検討の結果というより、むしろこの検討会での議論等を踏まえて、事務局でよく検討した結果である。
○法制局とは協議をしているのか。
■法律案については内閣法制局の審査を受けることになっている。
○確認訴訟については、「考え方」の本文では明文化しないということだったと思う。福井委員と自分は明文化すべきだとしていた。中身が若干違うが、自分は12月には具体的な条文の案を示し、こういうことで明文化したらどうかと提案したが、結局明文化しない形に本文の方はまとまったと思う。
それから、第9条第2項の関係で、今、4つの考慮事項があるが、「考え方」の方は4つが並列的に並べてあり、それでペーパーになっているのが、法案ではいわゆる③が①の中に入り、④が②の中に入るという組み方になっていた。「考え方」の書き方の方が広いのか、法案の方が広いのか、議論のあるところだと思うが、若干そこのところが今回の法律の改正についての議論になっている部分がある。そのあたり、こういうことでこうなったのだということがあればお教えいただきたい。
■確認訴訟の点については、まさにこの検討会では確認訴訟の活用についての意見が非常に強かったことを踏まえ、事務局でもよく検討した結果、やはり活用を図るためのメッセージを立法として送るべきではないかとして、こういう法改正の方向性をとったものだ。むしろこの検討会の検討の趣旨に沿って考えた。
それから原告適格についても、考慮事項が4つ、①から④まであったわけだが、考慮事項として書いたときに、裁判所に活用してもらい、原告適格を広く認めてもらうという改正の趣旨目的が生かされ、また当事者も援用しやすいように、改正の趣旨が伝わりやすくするには、関連性を示しながら考慮事項を規定した方が、原告適格を広く認めるために活用しやすい条文になるのではないかと考えたものである。検討会で原告適格が広く認められるように検討していただいたその趣旨を生かそうというものであり、その趣旨と異なっていないと事務局では考えている。
■今年の1月6日付でまとめていただいた「考え方」を踏まえ、事務局で作業を続けてきた。この作業については、時間的にも相当切迫をしており、かなり困難がつきまとったが、どうにか国会に提出をすることができた。それから国会の審議についても、その前に大変大きな法律案がかかっていたので、時間的な関係から本当に間に合うかどうか危惧する意見がかなりあったが、幸いなことに10本のうち、9本という法律が成立をした。これも何分にもラッキーな面があったと思っている。このように成立したことについては、座長始め委員の皆様方の熱心な討議のおかげだと思っている。この場を借りて厚く御礼を申し上げたい。国民の権利利益の実効的な救済という今回の改正が生かされていくためには、裁判所、弁護士会、あるいは弁護士、それから行政官庁、これを含めた多くの国民の方に改正の趣旨を理解いただくということが必要になる。これは国会でもいろいろ指摘があった。この点で事務局の方でも周知徹底の努力をしているところではあるが、やはり検討会の委員の皆様方は学会あるいはその他、各界のリーダーの立場であるので、それぞれの立場から、今回の改正の趣旨を広く多くの方に伝えていただきたいと思っている。ぜひ御協力をお願いしたい。
□我々としては1つの大きな課題・タスクを終えたわけだが、これでこれからの行政訴訟の改革はすべて終わったということではない。12月の検討会において、行政訴訟改革の検討はこれで終わったということではなく、今後ともいろんな議論をしなければならないと申し上げたところだ。昨年10月の「行政訴訟制度の見直しのための考え方と問題点の整理(今後の検討のためのたたき台)」においても、いくつかの論点は今後「十分な検討を行なう必要がある」とされている。そこで残された期間、わずかではあるが、今日のフリートーキングにおいて、今後の行政訴訟改革に関する検討の進め方やお考え等について意見交換の場としてはいかがかと思う。「たたき台」と「考え方」を参照の上、今後検討会においてどういう点について、どのような形で、あるいはどのような方向性で検討を進めるべきかについて自由に議論をいただきたい。それを踏まえ、8月に事務局にどういう形での勉強をしてもらうかということも頭に入れながら発言をいただきたいと思う。今まで随分議論してきて、いろんな論点も拾ってきた。ただ、検討会の、あと残された中でどうしたらいいかだが、今まで拾い上げてきた論点、これはすべて見ないということではないが、他方、後世において前にどういう検討をしたのか、前の検討を振り返って、ああ、これは大変いいところを議論しておいてくれた、あるいはいい資料を残しておいてくれたという評価を後世の検討委員会の人にしてもらえるつもりで議論してはどうか、というのが自分の気持ちだ。この検討会はこういうことまできちんとやってくれているのか、という趣旨のものを皆さんと一緒に残すことができたら、といった思いもある。ただ、あまりとらわれずに、意見をいただきたい。
○これまで、この検討会で、まず平成14年7月に「第6回行政訴訟検討会フリートーキング参考資料」を作成した。平成15年7月に「行政訴訟検討会における主な検討事項」が作成された。平成15年10月に「たたき台」、そして最後の「考え方」、この4つぐらいがこれまでつくられてきた。委員から問題の提起があった論点については外すことなく、全部取り上げ、こういった資料をおつくりいただき、そしてそれがだんだんと、限られた時間の中で収斂してきて、「考え方」で今回法案がまとまったと理解している。
しかしながら、今回改革が実現できた部分は、挙げられた論点のごく一部であり、さらに時間をかけて議論をしていく必要があるだろう。つまりこの行政訴訟の改革というのを継続していく必要があるだろうと思う。これは衆参両院の附帯決議の一番最後の項目であるが、いずれも改革を継続せよと言っている。今回の改革で終りにするということではないと思う。
そういう意味からすると、今座長がおっしゃったことと基本的には一致するが、せっかくの議論だから、これまで議論してきたことをきちんとまとめた形にし、その中で意見が分かれてしまうのはある程度仕方がないかもしれないが、ある程度意見が一致するものについては方向性を示して、そして次のしかるべき検討機関の参考資料にする、あるいは検討機関に委ねるというか、そういう作業を11月の任期までにやっていくべきではないか。ぜひそういう作業を我々はやっていくべきではないだろうかと思っている。
○今の衆議院の附帯決議の第5番目に個別行政実体法云々の話が出ているが、次の検討会のための後世のため、ロングスパンのために、というのもあるが、やはり実体的にこういう改革を継続する、あるいは今回の法律を生かす上にも、こういう前段の前さばき的なところを、基本的な個別実体法になるのだろうと思うが、ここのところに対して、我々この検討会がやはりある程度のガイドライン的な方向を指し示すということは、実体的にはかなり有効ではないかと思うし、そういう議論も併せてやるべきではないかという感じがする。
○改正行政事件訴訟法を読むと、実務でどう運用するかいろいろ難しいところがあると思うが、今までより、行政の裁量に対する審査の重要性が高くなった。というのは、義務付け訴訟、規制権限発動型も、あるいは申請拒否処分型もいずれも裁量権の範囲を超え若しくは濫用となると認められるといったものが大きな要件として入ってくる。これが実務では非常にかぎになってくると思う。差止訴訟でも同じだ。そういう意味で、裁量審査の問題についてもう少し議論をやっていただくことが、制度が生きてくるか、しばらく混乱するかの大きな分かれ目になると思うので、残された時間のかなりの部分を使ってこの議論をもう少し深化していただければと思う。
□意見はごもっともである。ただ、例えば裁量一般論をやり出すと、非常に抽象的な議論になってしまうおそれがある。それは非常に重要なことなので行政法学者は一生懸命やるが、この検討会として、そういう形で裁量を取り上げた方がいいのか、あるいは個別法で、裁量に影響を及ぼすような仕組みができてくるかもしれないので、例えば都市計画なり、土地利用計画などのような個別法ができると、それにおける裁量問題というのにひっかけてやると、もう少し議論が固まるのではないか。特に土地収用法関係では、例の日光太郎杉判決以来、裁量問題に随分いい材料を裁判判決で出していただいているので、ある種そういう形で裁量を取り上げると、それこそ後世にバトンタッチできるようなものができるのかなという期待感も持つと同時に、逆にあまり裁量論一般をやると少し議論が抽象的になるかなという感じを持った。
○決して裁量論一般をやるということではない。むしろ、裁量に関する条文化を一気にやるのは難しいだろうと思う。ただ、いろんな角度から考え、特におっしゃられたテーマについて、当てはめていくときに、どういうふうな考え方、切り口でいくべきだろうかと、そういう議論を少しやっておいていただくことが有益ではないかという意味で申し上げた。
○訴訟の間口を広げると、裁量の問題が大きな問題としてクローズアップされてくるのは事実だ。そういう意味では、裁量の問題を考えるべきだが、下手をするとオタク的な議論になる可能性があり、だから、法律の規定を意識しながら議論をする必要があると思うが、かなり難しいという気はする。我々自身そこはあまり考えていない。法律でどう書くかという問題との関係で裁量論というのを考えてこなかったわけであり、だから、今おっしゃられた課題にいきなり踏み込めるか、ちょっと自信がない。
□今回の改正法によって裁量統制が非常に重要な意味を持ってくる。条文にも行政庁の裁量をコントロールするのは裁判所・裁判官だと言っているときに、裁判官の考える要素についてもう少し法案の作成に関与したものとしての議論を深めたらどうかということもある。それから、それを深めていくと結果的に条文としてもこういうものがあるいは考えられる。それを一般法として書くか、あるいは例えば計画法分野だと、こういうポイントが裁量のときの要考慮事項として出てくるのではないかという議論もあるということで、初めに条文ありきではなく、例えば計画あたりだとどういう構造になるのか明らかにしていくことになればいいのではないか。そういう趣旨で賛意を表した次第だ。
○裁量に関する統制の在り方についての今後の何か方向性、いろいろな一般法及び個別法の立法論、そして裁判実務に役に立てるような枠組みがこの検討会の議論でできるかどうか、特に今後の立法の在り方について何らかの示唆を与えるような、そういう議論があってもいいという気はする。その際、附帯決議にもあるが、行政のプロセスについての立法による規制の在り方が今後どうなっていくかによって裁判所に持ち込まれたときの裁量問題の形も違ってくる。行政段階での事後審査の手続、あるいはADRの手続などがどうなるかによって違ってくるが、その辺、この検討会で行政事件訴訟法の改正に向けて考えていたときはそこは守備範囲外だという話になりやすかったが、もう少しぼやっと後世に残す考え方をまとめるのであれば、多少土俵を広くとって、行政プロセスの在り方と司法審査との関連というあたりを議論してもいい気はする。その際、第37条の2、第37条の3、4で、裁量審査についての条文が、義務付け訴訟、差止訴訟にぽんぽんと入っている。ただ、それぞれ違う。第37条の3は申請に対する処分だから、行政のプロセスもきちんとできている中での、また、何が論点かということも割合決まっている中での裁量問題だが、第37条の2の方だと、広範な利害関係があり、その中の誰かがぽんと義務付け訴訟を起こしてくるわけだから、先ほどの土地利用、都市計画関係などを含めて、こっちの方ではそういう意味での行政庁が考えてもいなかったような人の利益についての裁量の審査みたいなものが問題になることも考えられるので、その辺の議論の仕分けを少ししておく。その際、例えば土地利用というあたりに焦点を絞って議論するのも1つの手かなと思う。
○裁量の問題は非常に重要だとかねがね考えている。ただ、訴訟法でカバーできる範囲と実体法でカバーできる範囲とあり、ある程度分業がある。自分も訴訟法でも一定の分業範囲はあってしかるべきだと思うが、現時点でこういう形で改正案がまとまった段階では、先ほどの早期の計画的な部分をどう争わせるかということにもかかわるが、こういった訴訟制度がかなり整備された段階で、実体法でさらにこういった訴訟法の進展・進化に対応した適切な処分の要件なり基準なり、実体的な統制ということをできるだけきめ細かにやることが必要になる。そういう意味で訴訟法は、非常に雑多な実体法の受け皿になっているわけだが、せっかく訴訟法が使いやすくなったことに伴って、実体法の方で、いわば裁量の方の統制基準などが非常に白地で抽象的に決まっていて、いわば裁判所の方にそれを丸ごと投げ込まれても困るよというような部分、あるいはこの新訴訟制度を使ったとしても、なかなか結論が出しにくいというような部分については、むしろ実体法の不備がまだまだ残っているという意味での注文のつけ方はあり得ると思う。そういう意味で、まさにいくつかのケースなり事例なり立法例を念頭に置いて議論してもいいと思うが、こういう条文ではなかなか司法審査もやりにくいよとか、新制度も使いにくいよというような観点で、実体法はどう直すのかというのは、またいろんな見解があると思うが、少なくとも司法統制になじむような実体法整備をできるだけ各所管行政庁などに対して図っていただくようなメッセージを出すということに1つの意味があると思う。
併せて、計画統制だが、これもやはり同じような意味で、先般の圏央道の東京地裁の藤山判決でも、まさに立法論に触れていた部分があって私は大変共鳴したが、早期でちゃんと争えないから裁決になったり、代執行になった。一種の病理現象が今でも蔓延している。したがって、先の段階で争えるようにするというのは、今回の違法確認訴訟で一定の効果は持ち得ると思うが、やはりそこで正面切って、例えば対世効を持つようにするにはどうするのかとか、あるいはもうちょっと手続的な参加の規定の整備をどうするのか、実体法の整備を待たないとできないところがあるわけで、そういったところについてもうちょっとちゃんと整備する余地があるのではないかという問題提起もあり得るかと思う。
□先ほどの発言も、何も訴訟だけに絞るのでなく、もう少し行政のプロセスについても目配りをしてということだろうと思う。裁量統制は、本来は立法者の問題だ。立法者が行政権にどれだけの権限を与えるかというときに、権限を与えるならもう少し手続も含めてきちんとしなさい、ということだ。検討会は司法統制から入っているが、司法統制だとこういう点で限界がやはり残る。この点についてはむしろ立法者がきちんと考えてくれ、というメッセージを出してもいいのではないか。ただそれ以前に司法統制というのはどういうものかということについてきちんと議論しないでおいて、立法者しっかりしろと言ってもまた立法者が困るだろうと思う。
ほかにもこれまでいろいろ議論のあったところでは、例えば団体訴訟についてもう少しちゃんと調べなければいけないのではないか等々あった。それから、裁量との関係もあるが、行政立法について、一体今回の改正でどれだけうまくカバーできるのか。カバーできないものについて、どういうものがあり得るか、という点も1つの大きな問題として残っているのではないかと思う。後世に残るということからいうと、行政事件訴訟法の昭和37年の制定のときに、行政立法でドイツ的なものを入れるか入れないかさんざん議論をして、結果的には現行法に落ちついたが、そういった先人の記録についても、今回忙しくてまとめる機会がなかったが、きちんと整理し、あるいは外国の整理をして、次のいずれかの段階での検討に使えるような資料を残すというのも、短い期間だが、1つのタスクだと思っている。
団体訴訟は、どこかで動いているのか。
■消費者関係の、特に約款の差止めというようなところで検討が進んでいるので、そこでの議論も参考にして、どんな論点について議論をするか我々も研究して、議論していただくことになるかと思う。
○団体訴訟の問題は、確かにここで取り上げておく意味はあると思う。消費者関係ではそれなりに進んでいくのかもしれないが、そのほかの分野の問題もあるわけで、今後、長い目で見て行政訴訟制度一般の問題としてどういうふうになっていけば一番いいのか、今進んでいる検討作業をこちらでも承知させていただいて、一般法としての立場から何か議論ができるなら、しておくのがいいと思う。
□今日初めてこういう形で今後どうすべきかを議論の対象にしたので、今日で今後の検討会で取り上げるべき材料を決めるというつもりは毛頭ない。またそれはむしろ9月の段階でもう少し整理をした方がいいと思う。ただ、せっかくの夏休みを有効に活用してもらうためには、この前の主要検討項目全部について整理してくださいというよりは、少し焦点を当て、深堀をして検討会に検討の材料を出していただければと思っている。具体的には、団体訴訟について、各省庁の動向を探り、あるいは外国の動向も探ってこの検討の場に供するということ、それから、裁量の問題は裸で議論するよりは、何かとひっかけてやった方がいいということ、行政計画、あるいは行政立法について司法審査としてどういう対応があり得るのか、諸外国の法令も分かるものは集めてみて、委員の方々の9月以降の検討に資する資料をつくってもらうことをお願いしたいと思うが、よろしいか。
(委員から異論なし)