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行政訴訟検討会(第28回)議事録



1 日 時
平成16年7月23日(金) 16:00〜17:30

2 場 所
永田町合同庁舎第1共用会議室

3 出席者
(委 員)
塩野宏座長、市村陽典、小早川光郎、芝池義一、芝原靖典、福井秀夫、水野武夫、深山卓也(敬称略)
(事務局)
山崎潮事務局長、松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官、村田斉志企画官

4 議 題
  (1) 「行政事件訴訟法の一部を改正する法律」について
  (2) フリートーキング
  (3) 今後の日程等

5 配布資料
資料1 行政事件訴訟法の一部を改正する法律(平成16年6月9日法律第84号)
資料2 行政事件訴訟法の一部を改正する法律(新旧対照条文)
資料3 行政事件訴訟法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(衆議院及び参議院)
資料4 行政事件訴訟法の一部を改正する法律について(概要)
資料5 行政事件訴訟法の一部を改正する法律(概要図)
資料6 行政事件訴訟法(行政事件訴訟法の一部を改正する法律による改正後のもの)
資料7 行政訴訟制度の見直しのための考え方
資料8 行政事件訴訟法の一部を改正する法律の公布について(通知)(各府省庁等事務次官等宛及び各都道府県知事宛)
資料9 行政訴訟制度の見直しのための考え方と問題点の整理(今後の検討のためのたたき台)(再掲)

6 議 題

【塩野座長】それでは、第28回行政訴訟検討会を開会いたします。お暑いところ、御参集いただきまして、また遠くからお見えいただいた方もあると思います。どうもありがとうございました。
 まず、それでは、事務局から本日の議題と資料について説明をお願いいたします。また、委員の異動の紹介もお願いいたします。

【小林参事官】本日、お手元の「行政訴訟検討会委員人事異動表」にございますように、福井良次委員が総務省内の人事異動に伴い辞任され、それに伴い、総務省政策統括官の藤井昭夫さん、この方に新たに本検討会の委員をお願いしております。ただし、本日は別件の会議が既に入っていたということで御欠席です。
 それから、本日の議題につきましては、議事次第にございますように、まず、「行政事件訴訟法の一部を改正する法律」が6月9日に公布されておりますので、この法律についての御説明をしたいと思っております。その後、フリートーキングを予定しております。
 本日の資料は、資料1から9ですので、ご確認を願います。本日、芝池委員から論文のご提供がありましたので、それを配布しております。そのほか、法律案の関係資料、それからパンフレットがございます。パンフレットですが、「より身近で、速くて頼りがいのある司法へ」という薄緑色のこのパンフレットが今回新しくできたパンフレットで、行政訴訟の関係につきましては、6ページの右上のところをご覧いただきますと、「国民の権利利益のより実効的な救済手続の整備を図りました。新たな訴えの仕組みを定め、訴えを起こす資格を広げ、救済範囲を拡大しました。行政庁に資料の提出を求める制度を新設し、審理の充実・促進を図りました。訴えを起こせる期間を延ばし、訴えを起こす相手方もわかりやすくするなど、手続を利用しやすく、わかりやすくしました。判決が出る前の仮の救済の制度を充実しました」と記載しています。行政訴訟制度は、非常に難しいものですから、説明は、どこまでどうすれば分かりやすくなるか、苦労したのですが、国民の多くの人に、まずこの改革を知っていただきたいということで、こういうふうに整理してパンフレットに載せております。

【塩野座長】それでは、行政事件訴訟法の一部を改正する法律がお手元にあると思います。皆様方もそれぞれ何らかの形でご覧になっていると思いますけれども、提案理由説明など私も拝見いたしますと、その提案理由説明の仕方自体も、この検討会で取りまとめた「行政訴訟制度の見直しのための考え方」と同じ項目、4つの項目で説明をしているということで、それだけでどうこうというわけではございませんけれども、この検討会での議論の蓄積が今度の法律案の制定に当たって大きな寄与をしたのではないかと思っている次第でございます。制定以来42年ぶりということでございます。これの評価は、委員の方もそれぞれ違いますし、また、委員外の方におかれましても、それぞれ自己の立場からの評価はおありかと思いますけれども、とにかく座長といたしまして、皆様方の御協力を得て、ここまでこぎ着けたということについては、まず感謝を申し上げたい次第でございます。
 それでは、議題の順序に沿いますけれども、まず、事務局から成立した改正法につきまして、概要の説明をいただけますでしょうか。

【小林参事官】まず、資料の趣旨を御説明したいと思います。資料1「行政事件訴訟法の一部を改正する法律(平成16年法律第84号)」は、平成16年6月9日に官報に公布された段階では、附則第49条の年金積立金管理運用独立行政法人法の一部改正が、まだ公布されていない法律を引用しておりますので、その法律番号を補った最終的なこの法律の姿はこの資料1のとおりです。資料2「行政事件訴訟法の一部を改正する法律(新旧対照条文)」は、既存の改正されていない条文もこの中に含めております。今後、この改正の趣旨を理解して活用していただくために、今回の改正の意義がこの資料を見れば分かるようにつくったものです。資料3ですが、この法律案は、衆議院、参議院とも国会では全会一致で政府原案のとおり可決していただいております。衆議院及び参議院の各法務委員会での採決に当たりまして、附帯決議がそれぞれ付されておりますので、その附帯決議をここに御紹介をしております。資料4、資料5は、今回の行政事件訴訟法の一部を改正する法律の概要を説明する資料です。資料6は、今回の改正による改正後の行政事件訴訟法の姿をここにあらわしたものです。資料7「行政訴訟制度の見直しのための考え方」は、12月の検討会の後で、各委員の方からいただいた意見、それを付記した最終的な「考え方」につきまして、これを改めて検討会の資料としてここにお示しをしているものです。資料8は、今回の行政事件訴訟法の一部を改正する法律が公布された日に、司法制度改革推進本部事務局長名義で、各府省庁等事務次官等宛、それから、各都道府県知事宛、また各都道府県知事宛の通知では、都道府県内の市町村に対しても周知をお願いするという形で、関係する行政の方々に周知を図っているということです。今回の改正の概要をお示しして、これについて周知を図っているところです。
 改正の概要は資料のとおりですが、座長からお話ありましたように、検討会の考え方の構成と全く同じ構成で4つの観点から改正の趣旨をまとめております。「救済範囲の拡大」、「審理の充実・促進」、「行政訴訟をより利用しやすく、分かりやすくするための仕組み」、それから「本案判決前における仮の救済制度の整備」です。1つ項目が増えておりますのは、資料4の「1.救済範囲の拡大」の「エ 確認訴訟を当事者訴訟の一類型として明示」です。これは確認訴訟の活用ということで検討会の考え方でおまとめいただいたものにつきまして、その活用を図るために、「確認訴訟を当事者訴訟のうち公法上の法律関係に関する訴訟の一類型として明示する」、こういう法改正を加え、これで全体の構成としては1つ加わっているということになります。
 資料2の新旧対照条文の1ページ、まず目次が「46条」に変わっているのは、最後の条文が出訴期間等の教示に関する規定が加わって第46条になったものです。
 第3条第5項の不作為の違法確認の訴えの修正は、次に第6項で「義務付けの訴え」を規定するに当たりまして、その条文に書いてある文言と平仄を合わせたものです。「なんらか」を漢字にし、「すべきに」を「すべきであるに」と表現を変えただけで、意味が変わるわけではありません。
 第6項に「義務付けの訴え」の規定を置いています。この第3条第6項では「この法律において『義務付けの訴え』とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう」というふうに定義をしております。次に掲げる場合とは、第1号では、「行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき」として括弧の中で「次号に掲げる場合を除く」として定めています。したがって、第2号に掲げる場合は、第1号の義務付けの訴えからは除かれるということです。第2号の場合は、「行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき」です。この1号と2号の場合において、「行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟」、これを「義務付けの訴え」と定義をしています。「義務付けの訴え」を抗告訴訟の一類型として定義することによりまして、行政事件訴訟法第38条第1項で、取消訴訟に関する一部の規定が、その他の抗告訴訟について準用されておりますので、この訴訟については、そういった規定の適用関係があることを明らかにしています。
 ここにいう「処分又は裁決」は、第3条第2項で「処分」を定義し、処分は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」と定義されております。それから、「裁決」は、第3条第3項で、「審査請求、異議申立てその他の不服申立てに対する行政庁の裁決、決定その他の行為」と定義され、義務付けの訴えでいう「行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟」というのは、ここにいう処分又は裁決をすることを求める訴訟をいいます。第6項の第1号と第2号で、「義務付けの訴え」を区別しているのは、「義務付けの訴え」の要件が、第37条の2及び第37条の3で書き分けられているためです。第3条第6項第1号の必ずしも申請をした場合ではない「義務付けの訴え」については、第37条の2の要件が適用され、申請をした場合の第3条第6項第2号の「義務付けの訴え」については、第37条の3の要件が適用されるという関係になります。
 第3条第7項は「差止めの訴え」の規定で、「この法律において『差止めの訴え』とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう」と定義しております。
 第4条が先ほど申し上げた「確認訴訟」に関する規定です。第4条では、「公法上の法律関係に関する訴訟」が「当事者訴訟」の定義としてあり、それを「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう」と改めることで、公法上の法律関係に関する訴訟の中には、確認の訴えが含まれているということを法文に明らかにすることによって、行政をめぐる多様な法律関係に応じた実効的な権利救済のために「確認訴訟」の活用が図られるようにしたものです。
 第9条は「原告適格」に関する規定です。第9条第1項で、「処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる」という原告適格の規定があり、第2項で、「裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする」、このように定めています。このような事項を考慮することによって、原告適格が実質的に広く認められるものと考えています。
 第11条は「被告適格等」に関する規定で、被告適格につきましては、行政庁を被告とすることにしていたものを、今回の改正により「国又は公共団体」を被告とすることに改めるという趣旨です。今回の改正後の第11条第1項におきましては、「処分又は裁決をした行政庁(処分又は裁決があつた後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、当該他の行政庁。以下同じ。)が国又は公共団体に所属する場合には、取消訴訟は、次の各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める者を被告として提起しなければならない」と規定し、第1号を例に挙げますと、「処分の取消しの訴え」については、「当該処分をした行政庁の所属する国又は公共団体」を被告とするということを定めたものです。第2項は、国又は公共団体に所属しない指定検査機関のような場合について、「処分又は裁決した行政庁が国又は公共団体に所属しない場合には、取消訴訟は、当該行政庁を被告として提起しなければならない」、このように定めたものです。第11条第4項は、「第一項又は前項の規定により国又は公共団体を被告として取消訴訟を提起する場合には、訴状には、民事訴訟の例により記載すべき事項のほか、次の各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める行政庁を記載するものとする」と定め、処分をした行政庁を記載していただくという規定になっております。仮に行政庁を訴状に書かないで訴えを提起した場合どうなるかということですが、これは検討会でも御議論いただいたように、そのことによって不利益を受けるものではないと考えております。第5項は、「第一項又は第三項の規定により国又は公共団体を被告として取消訴訟が提起された場合には、被告は、遅滞なく、裁判所に対し、前項各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める行政庁を明らかにしなければならない」と規定し、被告の方から、行政庁はきちんと明らかにしていただく構造にしているわけです。第6項に、「処分又は裁決をした行政庁は、当該処分又は裁決に係る第一項の規定による国又は公共団体を被告とする訴訟について、裁判上の一切の行為をする権限を有する」と規定しています。従来ですと、当事者として当然に訴訟行為をしていたわけですが、その行政庁が今回当事者ではなくなります。そうしますと代表者、すなわち国又は公共団体を代表すべきものが、当然第一次的には訴訟行為をすることになりますが、それに合わせて行政庁も裁判上の一切の行為をする権限を有するということで、最終的に行政処分が取り消された場合、取り消した判決に従って行政処分をしなければいけないのは行政庁ですので、訴訟手続にきちんと関与できるように規定したものです。
 第12条は「管轄」の規定で、第12条第1項で、「取消訴訟は、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所又は処分若しくは裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する」と規定しています。これは行政庁の所在地の管轄裁判所のほかに、この検討会でも議論されましたけれども、国又は公共団体が被告となるということで、例えば国の普通裁判籍である東京では訴えられるのかという問題点の御指摘がありまして、その被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所、通常の民事訴訟の一般原則による裁判所も管轄を有することを、この第12条第1項で明らかにしたものです。第12条第4項が管轄裁判所の拡大の御議論をいただいた部分で、「国又は独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第2条第1項に規定する独立行政法人若しくは別表に掲げる法人を被告とする取消訴訟は、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所(次項において「特定管轄裁判所」という。)にも、提起することができる」としたものです。移送の規定は第5項にあり、「前項の規定により特定管轄裁判所に同項の取消訴訟が提起された場合であつて、他の裁判所に事実上及び法律上同一の原因に基づいてされた処分又は裁決に係る抗告訴訟が係属している場合においては、当該特定管轄裁判所は、当事者の住所又は所在地、尋問を受けるべき証人の住所、争点又は証拠の共通性その他の事情を考慮して、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部について、当該他の裁判所又は第一項から第三項までに定める裁判所に移送することができる」、と定めています。
 第14条が「出訴期間」の規定で、出訴期間につきましては、3箇月を6箇月に延長するということで、「取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から6箇月を経過したときは、提起することができない」と定めております。これまでの第14条第2項で、この期間は「不変期間とする」というふうに定められておりましたが、今回の第14条第1項ただし書きにおきまして、「ただし、正当な理由があるときは、この限りでない」として、第2項は削ることとしております。したがいまして、この「正当な理由」、つまり誤って長期の出訴期間を教示されて、それでいいものだと思って訴えてしまったというような場合に、出訴期間が過ぎているからといって、それは正当な理由があるであろうということを考慮して改めているものです。第14条第3項の規定は、裁決を経たときの処分の取消訴訟の出訴期間は、従来の第14条第4項ですと、「裁決があつたことを知つた日又は裁決の日から起算する」ということで、「から起算する」というと、その日も含んでしまうわけです。したがって、この場合は3箇月といっても1日少ないわけで、そうすると、第14条第1項に言っている「処分又は裁決があつたことを知つた日から3箇月以内」、つまり裁決の取消しを求めるときは裁決の通知を受けた日の翌日から起算して3箇月以内に訴えればよかったのに、裁決をされたときに、元の処分を訴えようとしますと、その処分については、裁決の通知を受けた日を含めて3箇月、ですから裁決の通知を受けた日の翌日から起算した3箇月目に訴えると、裁決の取消しの訴えは適法だけれども、処分の取消しの訴えは不適法になる、そういうアンバランスが生じていたのを改めたものです。それを規定したのが第14条の新しい第3項の規定で、「裁決があつたことを知つた日から6箇月を経過したとき又は当該裁決の日から1年を経過したときは、提起することができない」。つまり「知つた日から」と規定して、知った日の翌日から起算することを明らかにしたものです。
 第23条の「行政庁の訴訟参加」の規定の改正は、行政庁が当事者ではなくなったので、「他の行政庁」という表現が適切でなくなったものを改めたもので、規定の趣旨が変わっているわけではありません。
 第23条の2が資料の提出に係る「釈明処分の特則」の規定です。第23条の2におきましては、「裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため、必要があると認めるときは、次に掲げる処分をすることができる」とし、次に掲げる処分として、第1号で、「被告である国若しくは公共団体に所属する行政庁又は被告である行政庁に対し、処分又は裁決の内容、処分又は裁決の根拠となる法令の条項、処分又は裁決の原因となる事実その他処分又は裁決の理由を明らかにする資料(次項に規定する審査請求に係る事件の記録を除く。)であつて当該行政庁が保有するものの全部又は一部の提出を求めること」、をすることができるとしたものです。第2号では、被告に属しない行政庁にある資料についても、「第1号に規定する資料であって、当該行政庁が保有するものの全部又は一部の送付を嘱託すること」、こういう釈明処分もできることにしております。第2項が審査請求に対する裁決の記録の提出に関する釈明処分の規定で、「裁判所は、処分についての審査請求に対する裁決を経た後に取消訴訟の提起があつたときは、次に掲げる処分をすることができる」とし、次に掲げる処分として、第1号で、「被告である国若しくは公共団体に所属する行政庁又は被告である行政庁に対し、当該審査請求に係る事件の記録であつて当該行政庁が保有するものの全部又は一部の提出を求めること」ができると規定しております。
 第25条が「執行停止」に関する規定で、第25条第2項におきまして、従来、「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」と規定していたのを、「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」と改めております。さらに第3項を加え、「裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする」としたものです。
 第26条の改正は、第25条を改正したことに伴う規定の整備です。
 第33条の改正は、被告が行政庁ではなく被告適格が国又は公共団体に変わったことに伴う規定の整備であり、内容が変わるわけではありません。 
 第37条の2は、先ほど申し上げました「義務付けの訴えの要件等」の規定です。
 第37条の3が、義務付けの訴えの中でも、申請をした場合の義務付けの訴えの要件に関する規定です。
 第37条の4が、「差止めの訴えの要件」に関する規定となっております。
 第37条の5は、「仮の義務付け及び仮の差止め」の規定となっております。
 その他、規定の整備がいくつかあります。
 第40条は当事者訴訟で出訴期間の定めがある場合、従来は不変期間と定められておりましたものを、それも教示に誤りがある場合等を考慮して、「正当な理由があるときは、その期間を経過した後であつても、これを提起することができる」ということにしているものです。
 第41条は規定の整備です。
 第46条は、「取消訴訟等の提起に関する事項の教示」に関する規定で、第46条第1項に第1号、第2号、第3号とあるのですが、「取消訴訟の被告とすべき者」、「取消訴訟の出訴期間」、「審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、その旨」を教示するという規定です。
 その他、関係法令の改正多数にわたります。

【塩野座長】どうもありがとうございました。改正事項に関する説明、以上のとおりでございます。この説明及び配布されております資料、さらに前もってご準備いただいたところで何か分からないという点がこの改正案にありましたらば、御発言をいただきたいと思います。どなたからでも結構でございます。ただ、ここを解釈をどうするのだという解釈論争は今日はやめていただきたいと思います。

【芝池委員】これは昨年12月に「行政訴訟制度の見直しのための考え方」をまとめて、その後、事務局の方で条文づくりをしていただき、大変御苦労いただいたと思います。そのときの話とちょっと条文と食い違っているなと思いますのは、第4条の「当事者訴訟」の定義のところと、それから裁判管轄の第12条第1項で、被告の所在地の裁判所にも出訴できるということになったということだと思います。この点、内閣法制局との協議というのですか、何かがあったのではないかと思いますが、このように変わった事情を、表に出していいものであれば教えていただければありがたいと思います。

【小林参事官】法制的な検討の結果というより、むしろこの検討会での議論等を踏まえて、事務局でよく検討した結果です。

【芝池委員】法制局と協議をされたのですね。

【小林参事官】法律案については内閣法制局の審査を受けることになっています。

【水野委員】確認訴訟の関係は、「考え方」の本文の方では明文化しないということだったと思うのです。それで、福井委員と私とは明文化すべきだと。中身が若干違いますけど、私は12月には具体的な条文の案をお示しして、こういうことで明文化したらいかがでしょうかという御提案を申し上げたけれども、結局そこのところはそぐわないということで本文の方はまとまったと思うのです。
 それから、もう一つ、第9条第2項の関係で、4つの考慮事項があるわけでありますけれども、「考え方」の方は4つが並列的に並べてあり、それでペーパーになっているのですけれども、法案では③が①の中に入り、④が②の中に入るという組み方になっていました。これが「考え方」の書き方の方が広いのか、法案の方が広いのか、これは議論のあるところだと思いますが、そこのところが今回の法律の改正についての議論になっている部分だと思うのです。だから、もし、そのあたりを、こういうことでこうなったのだということがあればお教えいただきたい。

【小林参事官】確認訴訟の点につきましては、まさにこの検討会では確認訴訟の活用についての意見が非常に強かったということを踏まえて、事務局でもよく検討した結果、やはり活用を図るためのメッセージを立法として送るべきではないかということで、こういう法改正の方向性をとったものです。むしろこの検討会の検討の趣旨に沿って考えました。
 それから、原告適格の問題につきましても、考慮事項が4つ、①から④まであったわけですが、考慮事項として書いたときに、裁判所に活用してもらい、原告適格を広く認めてもらうという改正の趣旨目的が生かされ、また当事者も援用しやすいように、改正の趣旨が伝わりやすくするには、関連性を示しながら考慮事項を規定した方が、原告適格を広く認めるために活用しやすい条文になるのではないかと考えたものであります。検討会で原告適格が広く認められるように検討していただいたその趣旨を生かそうというものであって、その趣旨と異なっていないと事務局では考えております。

【塩野座長】それでは、時間の関係もございますので、今日のいわばメインテーマであるところに移りますが、その前に、今日事務局長がお見えでございまして、こういう形でまとまったことについて何か一言お言葉いただければと思います。

【山崎事務局長】今年の1月6日付でまとめていただきました「行政訴訟制度の見直しのための考え方」を踏まえまして、私ども事務局の方で作業を続けました。この作業につきましては、時間的にも相当切迫をしておりましたので、かなり困難がつきまといましたけれども、どうにか国会に提出をすることができたということでございます。それから、国会の審議の方につきましても、その前に大変大きな法律案がかかっておりましたので、時間的な関係から本当に間に合うかどうかという点についても危惧する意見がかなりあったわけでございますけれども、幸いなことに10本のうち、9本という法律が成立をしたということでございまして、これも何分にもラッキーな面があったというふうに思っております。こういうふうに成立をしたということにつきましては、座長始め委員の皆様方の御熱心な御討議のおかげだというふうに思っております。この場をお借りいたしまして厚く御礼を申し上げたいと思います。この国民の権利利益の実効的な救済という今回の改正が生かされていくためには、裁判所、弁護士会、あるいは弁護士、それから行政官庁、これを含めました多くの国民の方に改正の趣旨を御理解いただくということが必要になるわけでございます。これは国会でもいろいろ御指摘があったわけでございます。この点で事務局の方でも周知徹底の努力をしているところではございますけれども、やはり検討会の委員の皆様方は学会あるいはその他、各界のリーダーの立場でございますので、それぞれのお立場から、今回の改正の趣旨を広く多くの方に伝えていただきたいと思っております。ぜひ御協力をお願いしたいと思っております。
 最後になりますけど、もう一度申し上げます。どうもありがとうございました。

【塩野座長】それではせっかくの機会でございますので、フリートーキングに移りたいと思います。フリートーキングの対象といたしましては、皆様、御案内のように、我々としては1つの大きな課題・タスクを終えたわけですけれども、これでこれからの行政訴訟の改革はすべて終わったということではございません。12月の検討会におきましても、私から申し上げましたように、行政訴訟改革の検討はこれで終わったということではなくて、今後ともいろんな議論をしなければならないというふうに申し上げたところでございます。それから、昨年10月の「たたき台」におきましても、いくつかの論点は今後「十分な検討を行なう必要がある」とされているところであります。そこで残された期間、わずかではございますけれども、今日のフリートーキングにおきまして、今後の行政訴訟改革に関する検討の進め方やお考え等について意見交換の場としてはいかがかというふうに思うわけでございます。今日資料として「たたき台」と「考え方」が用意されております。そういったものを御参照の上、今後、検討会においてどういう点について、どのような形で、あるいはどのような方向性で検討を進めるべきかという点について御自由に御議論をいただきたいと思います。それを踏まえまして、多分8月はいろんな意味で検討会を開催することはなく、むしろ9月に向けての事務局の準備作業の期間と考えたいと思いますので、そういった事務局にどういう形での勉強をしてもらうかということも頭に入れながら御発言をいただきたいと思います。どなたからでも結構でございます。私としては、今まで随分議論してまいりまして、それからいろんな論点も拾ってまいりました。ただ、検討会の、あと残された中でどうしたらいいかというふうに私もいろいろ考えているわけでございますけれども、今まで拾い上げてきた論点、これはすべて見ないということではございませんが、他方、今度いつ立ち上がるかわからないのですけれども、後世、行政訴訟検討会が、前どういう検討をしたのかということで、前の検討を振り返って、ああ、これは大変いいところを議論しておいてくれた、あるいはいい資料を残しておいてくれたという評価をしてもらえるようなというつもりで議論してはどうかというのが私の気持ちでございます。この検討会はこういうことまできちんとやってくれているのかと、そういう趣旨のものを皆さんとご一緒に残すことができたらなと、そういった思いもございます。ただ、これは座長としての私の単なるひとり言でございますので、あまりとらわれずに、どうぞ御意見をいただきたいと思います。

【水野委員】これまで、この検討会で、まず平成14年7月に、「フリートーキング参考資料」を作成しました。それから、平成15年7月に、「行政訴訟検討会における主な検討事項」というのが作成されました。平成15年10月に「行政訴訟制度の見直しのための考え方と問題点の整理」、いわゆる「たたき台」ですね。そして最後の「考え方」、この4つぐらいのペーパーがこれまでつくられてきたと思います。それで、かなり幅広く、委員から問題の提起があった論点については外すことなく全部取り上げて、こういったペーパーをおつくりいただいて、そしてそれがだんだんと、最終的には限られた時間の中で収斂してきて、「考え方」で今回法案がまとまったと理解しているわけです。しかしながら、今回改革が実現できた部分は、挙げられた論点のごく一部でありまして、さらに時間をかけて議論をしていく必要があるだろう。つまりこの行政訴訟の改革というのを継続していく必要があるだろうと思うわけです。これは衆参両院の附帯決議の一番最後の項目でありますけれども、いずれも改革を継続せよということを言っているわけであります。今回の改革で終りにするということではないと思うのです。そういう意味からしますと、今、塩野座長がおっしゃったことと基本的には一致するのですけれども、これまでのせっかくの議論でありますから、これまで議論してきたことをきちんとまとめた形にして、そしてその中で、意見が分かれてしまうのは仕方がないかもわかりませんが、ある程度意見が一致するものについては方向性を示して、そして次のしかるべき検討機関の参考資料にする、あるいは検討機関に委ねるといいますか、そういう作業を11月の任期までにやっていくべきではないか、かように考えているわけでありまして、ぜひそういう作業を我々はやっていくべきではないだろうかと思っております。

【芝原委員】今の衆議院の附帯決議の最後に、第5番目に個別行政実体法云々の話が出ているのですが、後世のためにというロングスパンの視点もありますが、やはり実体的にこういう改革を継続する、あるいは今回できた改正された法律を生かす上にも、こういう前段の前さばき的なところを、基本的な個別実体法になるのだろうと思いますけれども、この点に対して、この検討会がある程度のガイドライン的な方向を指し示すということは、実体的にはかなり有効ではないかと思いますし、そういう議論も併せてやるべきではないかという感じがします。

【市村委員】今度条文化されました改正行政事件訴訟法を実務でどういうふうに運用するかということを考えていくと、いろいろな難しいところがあると思うのですが、そのひとつとして、今までより、行政の裁量に対する審査の重要性が、より高くなったことが挙げられるかと思います。というのは義務付け訴訟では、規制権限発動型も、あるいは申請拒否処分型のいずれも、裁量権の範囲を超え若しくは濫用となると認められるといったものが大きな要件として入っており、実務ではこれから、ここがかぎになってくると考えます。差止訴訟でも同じです。そういう意味で、これまでも裁量の審査の問題についての議論を、随分やってきましたけれども、新しい規定を前提にして、裁量の審査の議論をもう少しやっていただくことが、これからこの制度が生きてくるか、あるいはしばらく混乱するかということの大きな分かれ目になるというふうに思います。ぜひ残された時間のかなりの部分を使って、この議論を進めて、もう少し深化していただければというふうに思っております。

【塩野座長】御意見ごもっともだと思います。それから芝原委員、水野委員、それぞれのお立場で私もごもっともだと思いましたが、ただ、例えば裁量一般論をやり出しますと、えらいまた抽象的な議論になってしまうおそれがあります。効果裁量とは何かとか、そういった、まさに行政法学者が大好きなオタクっぽい議論に陥ってはいけないということもございます。しかし、それは非常に重要なことなものですから、それは行政法学者は一生懸命やりますけれども、この検討会として、そういう形で裁量を取り上げた方がいいのか、あるいは芝原委員がちょっと言われたように、個別法で、今度は裁量に影響を及ぼすような仕組みが場合によってはできてくるかもしれない。例えばの話ですけど、都市計画なり、そういった土地利用計画などのような個別法ができると、それにおける裁量問題というのにひっかけてやると、もう少し議論が固まるのではないか。特に土地収用法関係では、例の日光太郎杉判決以来、裁量問題に随分いい材料を裁判判決で出していただいておりますので、ある種、そういう形で裁量を取り上げると、それこそ後世に、次の人にバトンタッチができるようなものができるのかなという期待感も私は持ちますと同時に、今度は逆に、あまり裁量論一般をやりますと少し議論が抽象的になるかなという感じを持ちました。市村委員も、何もおよそ一般的に裁量とは何かから発すると、そういうことではない。

【市村委員】決してそういうことではございませんで、むしろ私は、例えば裁量に関する条文化というものを一気にやるのは難しいだろうと思うのです。ただ、いろんな角度から考え、特に今座長がおっしゃられたようなテーマについて、当てはめていくときに、どういうふうな考え方、切り口でいくべきだろうかという議論を少しやっておいていただくことが有益ではないかという意味で申し上げたものですので、全く同じ意見だと受け取っていただいていいと思います。

【塩野座長】いかがですか。芝池委員、前から計画裁量とか、あの辺先駆者でやってこられて、いかがですか。

【芝池委員】市村委員がおっしゃったように、訴訟の間口を広げますと、裁量の問題が大きな問題としてクローズアップされてくるのは事実なのです。そういう意味では、裁量の問題考えるべきなのですけど、座長がおっしゃったように、下手をするとオタク的な議論になる可能性があって、ですから、立法、法律の規定を意識しながら、その議論をやる必要があると思うのですが、それはかなり難しいという気はいたします。我々自身そこはあまり考えてないですね。法律でどう書くかという問題との関係で裁量論というのを考えてこなかったわけでありまして、ですから市村委員の言われるその課題にいきなり踏み込めるか、ちょっと自信がないですね。

【塩野座長】私が市村委員の御発言について考えたのは、要するに今回の改正法によって裁量統制というのは非常に重要な意味を持ってくると。条文にも行政庁の裁量をコントロールするのは裁判所だよと、裁判官だよと言っているときに、裁判官に丸投げされても困ると。一体何を考えているのか、その場合の考える要素についてもう少し法案の作成に関与したものとしての議論を深めたらどうかということもあります。それから、それを深めていくと、たまたまというか、結果的に条文としてもこういうものがあるいは考えられる。それを一般法として書くか、あるいは例えば計画法分野だと、こういうふうなポイントが裁量のときの要考慮事項として出てくるのではないかという議論もあるということで、初めに条文ありきではなくて、例えば計画あたりだとどういうふうな構造になるのかという点を明らかにしていくことになれば、芝原委員の御要望にも応えられるのではないか、そういう趣旨で私は賛意を表した次第でございます。

【小早川委員】裁量の審査、裁量に関する統制の在り方についての今後の何か方向性、方向性といっても、具体的な方向性まではいかないと思いますけれど、いろんな一般法及び個別法の立法論、そして裁判実務にお役に立てるような枠組みがこの検討会の議論でできるかどうか、ちょっと自信ありませんけど、特に今後の立法の在り方について何らかの示唆を与えるような、そういう議論があってもいいのかなという気はいたします。その際に、私も芝原委員が言われた点、附帯決議にもありますけれども、行政のプロセスについての立法による規制の在り方が今後どうなっていくかによって裁判所に持ち込まれたときの裁量問題の形も違ってくるわけですし、そこは事前手続もそうですし、それから行政段階での事後審査の手続、あるいはADRの手続、そんなものがどうなるかによって、そこはそれぞれ違ってくるので、その辺、この検討会、行政事件訴訟法の改正に向けて考えていたときはそこは守備範囲外だよという話になりやすかったかと思いますけれども、もう少しぼやっと後世に残す考え方をまとめるというのであれば、多少その辺は土俵を広くとって、行政プロセスの在り方と司法審査との関連というようなあたりを議論してもいいのかなという気はいたします。その際、もう一つ、やや、オタクっぽくなるかどうかという話ですけれど、確かに市村委員言われたように、第37条の2、第37条の3、4で、これは恐らく機械的に入ってきたのだろうと思うのですけれども、裁量審査についての条文が、義務付け訴訟、差止訴訟にぽんぽんぽんと入ってきまして、ただ、その中でもそれぞれ違うわけですよね。第37条の3ですと、これは申請に対する処分ですから、行政のプロセスもきちんとできている中で、何が論点かということも割合決まっている中での裁量問題ですが、第37条の2の方ですと、これは広範な利害関係があって、その中の誰かがぽんと義務付け訴訟を起こしてくるというわけですので、先ほどの土地利用、都市計画関係とか、そんなものを含めて、こっちの方ではそういう意味での行政庁が考えてもいなかったような人の利益についての裁量の審査みたいなものが問題になるということも考えられるわけで、その辺の議論の仕分けを少ししておく。あまりオタクっぽい話にならないように、例えば土地利用なら土地利用というような辺に焦点を絞って議論するというのも1つの手かなと。

【塩野座長】福井委員、かねて裁量問題、特に土地利用とか公共事業計画について、公共事業との関係で御発言が多いと思いますけれども。

【福井委員】確かに、今いろんな委員の方から御指摘あったように、裁量の問題は非常に重要だと私もかねがね考えてきております。ただ、訴訟法でカバーできる範囲と実体法でカバーできる範囲とあり、ある程度分業があると思うわけです。私も訴訟法でも一定の分業範囲があってしかるべきだと思いますが、現時点となっては、こういう形で改正案がまとまった段階では、先ほどの早期の計画的な部分をどう争わせるかということにもかかわりますが、訴訟制度がかなり整備された段階で、実体法でさらにこういった訴訟法の進展なり進化に対応した適切な処分の要件なり基準なり、実体的な統制ということをできるだけきめ細かにやっていただくことが必要になると思うわけです。
 訴訟法というのは、いろんな非常に雑多な実体法の受け皿になっているわけですが、せっかく訴訟法が使いやすくなったことに伴って、実体法の方で、いわば裁量の統制基準などが非常に白地で抽象的に決まっていて、いわば裁判所の方にそれを丸ごと投げ込まれても困るというような部分、あるいはこの新訴訟制度を使ったとしても、なかなか結論が出しにくいという部分について言えば、実体法の不備がまだまだ残っているというような意味での注文のつけ方はあり得るわけです。いくつかのケースなり事例なり立法例を念頭に置いて議論してもいいと思うのですけれども、こういう条文ではなかなか司法審査もやりにくいとか、新制度も使いにくいというような観点で、実体法をどう直すのかというのは、いろんな見解があると思いますが、少なくとも司法統制になじむような実体法整備をできるだけ各所管行政庁などに対して図っていただくようにメッセージを出すということには1つの意味があると思います。
 併せて、計画統制ですが、これも同じような意味で、先般の圏央道の東京地裁の藤山判決でも、まさに立法論に触れていた部分があって私は大変共鳴したのですけれども、早期でちゃんと争えないから裁決になったり、代執行になったところでうんと手前の計画が争われるという一種の病理現象が今でも蔓延していると思うわけです。したがって、先の段階で争えるようにするというのは、今回の違法確認訴訟で一定の効果は持ち得ると思うのですけれども、そこで正面切って、例えば対世効を持つようにするにはどうするのかとか、あるいは手続的な参加の規定の整備をどうするのかといったところは、実体法の方の整備を待たないとできないところがあるわけです。多分収用法の所管省庁などは非常にのんきに構えているわけですから、そういったところについて、もうちょっとちゃんと整備する余地があるのではないか、という問題提起もあり得ると思います。

【塩野座長】どうもありがとうございました。先ほど小早川委員が言われたのも、何も訴訟だけに絞るのでなく、もう少し行政のプロセスについても目配りをして、ということだろうと思いますが、別の言い方をしますと、裁量統制は、私は本来は立法者の問題だと思っておりますけれども、立法者が行政権にどれだけの権限を与えるかというときに、もう少し権限を与えるなら手続も含めてきちんとしないさいと。しかし、検討会はそれはそれとして、司法統制から入っていますから、しかし司法統制だとこういう点で限界がやはり残る。この点については、むしろ立法者がきちんと考えてくれというメッセージを出しても私はいいのではないか、この段階では。ただ、それ以前に司法統制というのはどういうものかということについてきちんと議論しないでおいて、立法者しっかりしろと言われても、また立法者が困るだろうと思いまして、そういうふうに理解をしまして、福井委員のおっしゃっていることと私は基本的には同じ考えであります。
 多少、裁量の方に話が集中してまいりましたけれども、まだ、ほかにもこれまでいろいろ議論のあったところでは、例えば団体訴訟についてもう少しちゃんと調べなければいけないのではないか等々いろいろございました。それから、今の裁量統制との関係もございますけれども、行政立法について、一体今回の改正でどれだけうまくカバーできるのか。カバーできないものについて、どういうものがあり得るかという点も1つの大きな問題として残っているのではないかと思いました。後世に残るということからいいますと、実は行政事件訴訟法の昭和37年の法律の制定のときには、行政立法でドイツ的なものを入れるか入れないかでさんざん議論をして、結果的には現行法に落ちついたのですけれども、そういった先人の記録についても、今回忙しくてまとめる機会がなかったのですけれども、そういうものをきちんと整理し、あるいは外国の整理をして、次のいずれかの段階での検討に使えるような資料を残すというのも1つの、短い期間でありますけど、タスクかなというふうにも思っております。団体訴訟は、ここの所管では、どこかで動いてはいるわけですか。

【小林参事官】消費者関係の、特に約款の差止めというようなところを検討が進んでいるので、そこでの議論も参考にして、議論していただくようなことになるかと思います。

【小早川委員】その団体訴訟の問題は、確かにここで取り上げておく意味はあるのだろうと思います。今、お話あったように、消費者関係ではそれなりに進んでいくのかもしれませんが、そのほかの分野の問題もあるわけで、今後、長い目で見て行政訴訟制度一般の問題としてどういうふうになっていけば一番いいのかというのは、今進んでいる検討作業をこちらでも承知させていただいて、一般法としての立場から何か議論ができるならしておくのがいいのかなと思っております。

【塩野座長】何かほかに特に御発言ございますでしょうか。今日初めてこういう形で、今後どうすべきかということを議論の対象にしたわけでございますので、今日で今後の検討会で取り上げるべき材料は決めるというつもりは毛頭ございません。また、それはむしろ9月の段階でもう少し整理をした方がよろしいかと思います。ただ、先ほどもちょっと申しましたように、せっかくの夏休みというと、事務局に悪いのですけれども、せっかくの夏休みを有効に活用してもらうためには、この前、出てきた主要検討項目全部についてベタに夏休みに整理してくださいというよりは、少し焦点を当てまして、深堀りをして検討会に検討の材料を出していただければと私など思っておりますけれども、そういう方向で、私から事務局に材料の収集をお願いしてよろしゅうございますでしょうか。その方向でと申しましたのは、今、小早川委員が言われましたような、1つは懸案の問題の団体訴訟について、各省庁の動向を探り、あるいは外国の動向も探ってこの検討の場に供するということと、それから、裁量の問題、今日随分お話出ましたが、裁量は先ほどからの話のようにはだかで議論するよりは、何かとひっかけてやった方がいいということですと、行政計画、あるいは行政立法といったようなものと、行政立法の手続の方はまた別途やるとしても、司法審査としてどういう対応があり得るのかという点について、諸外国の法令も分かるものは集めてみて、委員の方々の9月以降の検討に資するような資料をつくってもらうということをお願いしたいと思っておりますが、よろしゅうございますでしょうか。

(委員から異論なし)
 それでは、きょう暑いところお集まりいただきましたが、2つの議題を用意させていただきました。1つは、今までの改正の御説明ということでございます。それから、もう一つは、9月以降の検討会にどういう態度で臨んだらいいかということでございました。両方につきまして、一応の御説明、あるいはフリートーキングを終えたと思います。
 そこで、今後の予定でございますけれども、聞くところによりますと、設置期限が本年11月までという時間的な制約もあります。検討会自体は9月以降3回程度の議論になるのかなと。大体今までの検討会をやっていますと、1回の議論で終わった後の事務局の宿題というのは膨大なものになりますので、この前やったときに、2週間おきというのは本当につらそうでございましたので、3週間おきか、あるいはひと月おきかということになろうかと思います。そうしますと、先ほど申し上げたような形で、ある程度集中的に深堀りをするということでお願いをしたらばということで、先ほどお話いたしましたように、団体訴訟、裁量とひっかけた形での行政立法、行政計画という辺にある程度集中的に資料を集めていただきたいと思っているところでございます。事務局の方、いかがですか。

【小林参事官】9月の前半ぐらいから10月末までの間に2〜3回程で、日程調整させていただきまして、準備をしていきたいと思います。

【塩野座長】あまり早く設定すると準備が間に合わない。

【小林参事官】それもありますけど。

【塩野座長】9月10日前後ということ。

【小林参事官】前半ぐらいで、皆さんの御都合がよろしいところを探して頑張りたいと思います。

【塩野座長】そういうことでございます。もし、何か特に御発言があれば、今伺いますけれども。

【水野委員】この辺は非常に関心持っていることなので、山崎局長に分かる範囲でお尋ねしたいのですけど、1つは施行がいつになるのかという点。もう一つは、衆参両院の附帯決議で、先ほども話題になりましたように、改革を継続するようにというのが入っていますよね。「政府は」というふうになっているんですが、これについては、何か具体的なお考えがおありなのかどうか、その2点について、差し支えない範囲でお答えいただきたい。

【小林参事官】施行はまだ政令が定められておりませんので、現段階ではなかなか申し上げにくいところがあります。

【山崎事務局長】準備状況とか、周知徹底、その状況等を踏まえて、裁判所としても一番区切りのいいやりやすいところ、そういう点をめどに考えていくということでございます。
 あとの問題は、確かに附帯決議がございますけれども、検討会の後の検討の進め方の問題より、どういう議論をするか、まず中身の問題が重要だろうと思うのです。中身の問題が決まらないのに、その先をどういうふうに、ということは全く決まらない。まず、その議論をしていただきたい。先ほども座長からお話がありましたけれども、将来どういうふうにつなげていくか、改革としてはこれで終りということではないですけれども、まず問題はテーマが何であるかということでございますので、そのテーマについて十分な御議論をいただきたい。ということでございます。

【塩野座長】ほかに特に御発言ございませんか。どうもありがとうございました。