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行政訴訟検討会(第29回)議事録



1 日 時
平成16年9月16日(木) 14:30〜17:35

2 場 所
永田町合同庁舎第1共用会議室

3 出席者
(委 員)
塩野宏座長、市村陽典、小早川光郎、芝池義一、芝原靖典、成川秀明、福井秀夫、藤井昭夫、水野武夫、深山卓也(敬称略)
(事務局)
山崎潮事務局長、松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官、村田斉志企画官

4 議 題
  (1) 論点についての検討
  (2) 今後の日程等

5 配布資料
資料1 行政立法の司法審査
資料2 行政計画の司法審査
資料3 裁量に関する司法審査
資料4 団体訴訟に関する資料
 (4−1)消費者団体訴訟制度に関する主な検討事項(案)
 (4−2)消費者団体訴訟制度に係る論点整理(第1回)
 (4−3)参考資料
 (4−4)消費者団体訴訟制度に係る論点整理(第2回)
 (4−5)団体が問題となった裁判例
資料5 行政事件訴訟法制定の際の規範統制請求訴訟等に関する議論の概要
資料6 行政事件訴訟法制定の際の規範統制請求訴訟等に関する議論の概要(経過概要のみ)
資料7 行政訴訟に関する外国事情調査結果一覧表(抜粋−司法審査の対象関係)
資料8 行政訴訟に関する外国事情調査結果一覧表(抜粋−原告適格関係)
資料9 行政訴訟検討会開催予定

6 議 題

【塩野座長】それでは、時間になりましたので、第29回行政訴訟検討会を開会いたします。議事に入ります前に、藤井委員が本日はじめての御参加でございますので、一言御挨拶をお願いいたします。

【藤井委員】御紹介いただきました総務省の政策統括官の藤井でございます。7月に若干の事務担当の入れ替えがございまして、私がこの会議の担当をすることになりました。どうぞよろしくお願いいたします。

【塩野座長】それでは、事務局から、本日の資料についての説明をお願いいたします。

【小林参事官】まず論点についての検討資料として、資料1「行政立法の司法審査」、資料2「行政計画の司法審査」、資料3「裁量に関する司法審査」、資料4「団体訴訟に関する資料」がございます。資料5は、「行政事件訴訟法制定の際の規範統制請求訴訟等に関する議論の概要」、資料6が、更に経過の概要をまとめたものです。それから、資料7と資料8は、司法審査の対象と原告適格の関係の外国法制研究会で検討結果をまとめていただいたときの資料を抜粋したものです。資料9は、検討会の開催日程です。それから、『実体行政計画法』という西谷剛先生の本から引用しました「府省別計画名一覧」、『民商法雑誌』の論文、それから、福井委員から、判例の解説について参考資料として御提供いただいておりますので、それも机上に配布してございます。

【塩野座長】ありがとうございました。それでは、資料の御確認をいただいたということで、先に進ませていただきます。論点についての検討ということでございますけれども、今までの論点についての検討とやや違った点があることは、これから御説明するとおりでございます。つまり前回の検討会の中で、今後、当面の重点課題として御指摘の多かった行政立法、行政計画に対する司法審査の在り方、裁量審査の問題、そして団体訴訟について、前回、事務局で次回までに資料を準備していただきたいというふうにお願いをいたしました。事務局として大変なエネルギーを費やしまして、お手元に配布してあるような資料が出来上がったわけでございます。ただし、まだ足りない点、あるいは資料についての御疑問の点もあろうかと思いますので、これについていろいろ御意見、御質問を賜りたいということでございます。
 そこで順序でございますけれども、行政立法、行政計画に対する司法審査の在り方と、それから、裁量審査の問題、これは相互に関係をいたすものでございますから、まずこれらについて説明、御検討に入りたいというふうに思いますが、よろしゅうございますでしょうか。行政立法、行政計画、それから裁量、これをひとまとめにする。あと、団体訴訟ということになります。よろしゅうございますか。

(委員から異論なし)


 それでは、論点について順次検討に入りますけれども、事務局からまず資料の説明をお願いいたします。

【村田企画官】お手元の資料1を御覧ください。「行政立法の司法審査」と題しているものでございます。行政立法と言われるものに対して裁判所でチェックをしていこうというときにどんな点が問題になるかということで、主に司法審査の観点から問題提起、参考になる判例の紹介等をさせていただいている資料でございます。
 まず相手にする行政立法たるものが一体どんなものかということを把握する必要があろうかと思いまして、最初のところで、「行政立法の概念」ということを掲げております。ところが「行政立法の定義」につきましても、なかなか言葉の用い方としても必ずしも統一されたといいますか、これが決定版と言い難い状況があるのかなというところがございまして、2つほど定義の例を掲げさせていただいております。①と書いておりますのが、田中二郎先生の教科書から引いておりますけれども、「行政権が、法条の形式をもって一般的抽象的・仮言的な定めをすることがある。これを行政立法又は行政権による立法という。」とされていますが、田中先生自身が(注)を付けておられますように、「ここで用いている用語は、わが国では、必ずしも統一されていない。」と、こういうことであろうかと思います。
 ②に掲げましたのは、平岡久先生の定義でございますけれども、「行政主体または行政機関が制定する、行政組織または行政活動を規律する(成文の)規範であって、行政主体または行政機関を対外的に拘束し、裁判基準になりうるもの」ということになっておりまして、①と②、どこが違うかといいますと、①の方が基本的には広く、②の方が狭いということになっています。細かい点はいくつも違いがあるかと思うのですけれども、主たる違いは後に分類のところで登場します「行政規則」と言われている、基本的には行政機関内部の定めで、国民に対する権利義務に対する影響が基本的にはないという一応の整理されているものを入れるか、入れないかというところで範囲が違っているというように考えられます。ここで、定義の議論を抽象的にしてもなかなか難しいところがございまして、特に司法審査との関係で意味のある議論をしようということになりますと、まず一たんは相手は広く、土俵は広くとらえた上で、中身に性質上違いがあるものであれば、その違いに応じた審査の在り方を工夫していく方が有益ではないかと考えまして、一応広い方の定義を前提にして分類論等あるいは法的効果等も考えていきたいというようにしております。
 その分類ですけれども、田中先生の分類を前提にいたしますと、行政立法は「法規命令」と「行政規則」に分けられるとされています。これは先ほども申し上げましたけれども、国民と行政主体との関係、権利義務関係と言い換えることもできるかと思うのですけれども、これを規律するもの、一言で言うとそれが法規だと。法規の定義もいろいろあろうかと思うのですけれども、そういう国民の権利義務関係を直接規律するものかどうか。そういうものが法規命令であって、そうなると裁判所が裁判規範として適用することになるというものが法規命令と一応考えられると思います。これに対して「行政規則」の方は、行政機関相互を拘束することを基本的に目的としておりまして、国民に対する関係を規律するものではないというのが原則的な整理ということになろうかと思います。ちなみに「法規命令」の方は、更に権利義務の内容自体を法律の委任を受けて直接規律している「委任命令」と、権利義務の内容ではなくて、それの実現のための手続的な事項を定めた「執行命令」とに分類して議論されていることもございます。ただし、ここで用いました「法規命令」、「行政規則」という用語がどういうもので、どういう範囲を言っているものかということには様々な見解がありまして、中にはこの下の(注1)にも記載をしておりますけれども、小早川委員の教科書にも記載がございますが、行政規則というまとまった概念を使うのは妥当ではないのではないかというようなお考えも示されているところです。また、最近の教科書などでは、「行政基準」というような言葉で、そういった行政内部の定めを括っていってはどうかというような御提言もされているところですけれども、とりあえずは便宜上、「法規命令」と「行政規則」の一応の区別はしていきたいというように考えております。
 2ページ目にまいりまして、それら行政立法が実際に具体的にはどんな形であらわれているかということを(注2)で、「形式の分類」という形で挙げております。国の法規命令の場合は、政令ですとか内閣府令、省令、外局規則といったような形であらわれることが通常であろうと。それから、国の行政機関の内部の定めということになりますと、規則という言葉があることももちろんございますが、内規、要綱、通達といったような形であらわれることがあろうと思います。対外的なあらわし方として告示という方式もあるわけですが、告示は内容によって権利義務に関わり合う場合、ない場合、両方あろうかというところです。それから、地方公共団体が定める一般的な定めをどう扱うか。これも学問的な研究の中ではいろいろなお立場があるところと承知しておりますけれども、ここでは先ほど申し上げたように、土俵は一たん広げて考えようというルールでいきますと、まずは条例がございまして、条例はもちろん御指摘されているとおり、必ずしも法律の委任に基づくものではなくて独自の立法権で制定されるという法律に準ずる性格はあるわけですけれども、それを承知の上で、あえて条例から始まりまして、更には規則、規定といったものがあるわけです。地方公共団体の内部の定めも内規、要綱、通達などいろんな形であらわれるというところです。条例につきましては、ちなみに条例を直接取消訴訟で争うというような事例もあるわけでして、参考として真ん中に挙げておりますけれども、「永田町小学校廃止条例」の取消しを求めた訴訟の判決が最高裁の平成14年4月25日に第一小法廷で出されておりますけれども、これは原告適格の議論をするときに、内容については紹介をさせていただいておりますので、詳細については省略いたします。この資料では別紙1として原審の判断を含めて掲載しておりますので、適宜御参照いただければと思います。
 先ほど一応の区別をいたしました「法規命令」と「行政規則」ですけれども、国民の権利義務に影響があるかないかという一応の区別であるといっても、最近はその2つの概念は、むしろ必ずしもはっきり分けられるものではないのではないかと、相対化というような言われ方もされるところと思いますけれども、そういう現象があるのではないかと言われています。その中の一例を御紹介いたしますと、「行政規則」であっても、国民に対する効果が出てくる場合があるのではないか。1つには、行政組織を定めた規則がたくさんあるわけですけれども、基本的には行政内部でここの部署はこういう事務をする、こういう権限があるというようなことで、事務分掌を定めるものと考えられますけれども、例えば組織上の定めによって、ある事務をするとされているけれども、ほかの事務については全く権限がないとされている部署が、権限外のものについて処分を行った場合、つまり無権限の場合ですけれども、その処分は国民に対する関係でも無効、効力がないものとされるべきではないかというようなことになりますと、組織の定め、内部の定めであるはずのものが、国民に対する関係でも一定の効果を生じてくる場合があろうということです。
 それから、②のイとして掲げましたのは、特別の関係、これは特別権力関係というような形で言われることもございます。それから、部分的秩序、一定の団体ですと内部的な関係ではないかと、そういう秩序を定めた規則。これがその団体ないし特別の関係の外に対しても効果を持つことがあるのではないか。これは典型的には公務員あるいは国公立学校の生徒などの関係が言われることがありますけれども、学校の規則の違反を理由として退学処分が行われたというようなことになりますと、それは退学処分自体が権利義務に影響しうるということで裁判所の判断の場にのぼってくることがあるわけです。その際に処分の根拠になっている学校の規則が処分自体の適法性の審査の基準として登場することがあり得る。こういった影響があり得るのではないかというところが1例です。
 それから、行政機関は自分の行動基準としていろいろなルールを定めることがあるわけですけれども、法律の解釈基準を定める通達ですとか、処分の裁量に関する基準を定めたり、あるいは補助金等の交付に当たっての給付の基準を定める、あるいは行政指導の基準を定める指導要綱といったいろいろなスタイルのものがあるわけです。これらは基本的には行政内部で自分たちのルールとして定められるものだと思いますけれども、それにのっとって処分などの形がとられるとなりますと、国民との関係でも一定の影響を及ぼすことがあり得るのではないか。例えば、一応の基準が定められていて、その基準自体が合理的なものだと思われるのに、あえてある事案ではその基準に従わずに、非常にその基準から乖離した取扱いをされているというような事案があったとすると、それは平等原則との関係で、そういった処分自体が違法というような判断がされる余地が出てくるのではないか。そういった意味で、権利義務への影響というのが出てくるのではないかというようなことが考えられるわけです。
 以上、申し上げたような行政立法の概念と区分ないし分類等を見た上で、これが司法審査との関係でどういう留意点を生ずるであろうかということで考えましたのが、3ページの「(3) 司法審査との関係」ということで、いくつか問題提起をしております。まず、裁判所で政省令などの行政立法を直接違法判断、取消しというような形で直接の審査対象としようと思うと、それは基本的には国民に対する権利義務関係を規律すると言われている法規命令が審査の対象になるというように考えられます。しかしながら、行政規則についても、今、御説明申し上げましたとおり、外部効果、国民に対する効果というのは一定の場合あり得るわけですので、そういった場合には直接の審査対象にのぼることも物によってはあり得るのではないかというように考えられます。これがどこまでの権利義務への影響があれば、司法判断の対象にのぼってくるかというところは、司法権の範囲の問題、更にはそれを具体化した訴えの利益、取消訴訟でいえば、処分性であり、更には原告適格といったことであらわれてまいりますし、確認訴訟であれば、確認の利益の問題といったような形で、どこまでの影響があれば、それを取り上げていくかという問題になってあらわれるものと思います。なお、ここで(注)として記載しておりますが、理論的には、そういった国民の自分の法律上の利益に関係がないけれども、この行政立法については適法性を審査してほしいというタイプの訴訟というものも考えられるわけです。主観訴訟、客観訴訟というような使い分けについても、この検討会でも大分議論が出ておりましたけれども、その整理からいくと、客観訴訟に当たるような規範統制訴訟あるいは行政立法に対する争訟というようなものもあり得る。そうなりますと、これは司法権の範囲を基本的には超えるものといいますか、法律上の争訟ではないものを特別に扱うということになろうと思います。その場合に、法律上の争訟ではなくても、その根拠となる法律をつくれば裁判所が扱うことができるということになるかどうかということについては、法律があればいいのだという考え方が1つはもちろんあろうと思います。しかしながら、それについては憲法上、いくら法律でつくればいいといっても、憲法上限界があるのではないかという議論もされているところと思います。ここで佐藤幸治先生の著書も挙げておりますけれども、憲法学者の間では一定の限界があり得るのではないかという議論もされているところです。例えば佐藤先生の御指摘で申し上げると、裁判所というのは法原理機関だというようなことが言われていまして、もともと権利義務関係に法を適用し宣言することによって紛争を解決していこうという、そういうことが基本で、それに見合った組織なりいろいろな形ができているわけですので、法律でそれとは異なるもの、権限を付与するにしても、それとはあまりにかけ離れたといいますか、全然違うものについて権限を付与することには限界が果たしてないのだろうか。そういった権利義務の紛争に準ずるものである必要があるのではないかというような議論もされているところです。この辺、法律上の利益をどこまで求めるのかということについては、そういった憲法論からも検討し、あるいは場合を分けて考えていく必要があろうかというところです。ちなみにここで参考としては、法律上の争訟が要件になる場合については、一般的にどう考えられているかということで、最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決を一例として挙げております。これは別紙2にございますけれども、法律上の争訟についての一般論を展開しております比較的最近の判例ということで挙げたものです。別紙2と申しますのは、この資料の11ページでございます。11ページを御覧いただきますと、これは福岡地方裁判所及び福岡家庭裁判所の支部を廃止する旨を定めた最高裁判所の規則について、その管轄区域内に住んでおられる方が、実際に具体的な紛争を抱えているというわけではないのですけれども、そういう前提ではなしに抽象的に規則の憲法違法を主張して取消しを求めた。これに対して最高裁は、「管轄区域内に居住する国民としての立場でその取消しを求めるというものであり、上告人らが、本件各訴えにおいて、裁判所に対し、右の立場以上に進んで上告人らにかかわる具体的な紛争についてその審判を求めるものではないことは、その主張自体から明らかである。そうすると、本件各訴えは、結局、裁判所に対して抽象的に最高裁判所規則が憲法に適合するかしないかの判断を求めるものに帰し、裁判所法三条一項にいう「法律上の争訟」に当たらない」ということで訴えが却下されたという事例でございます。
 それから、資料の3ページの方に戻らせていただきますが、「司法審査との関係」で、更なる留意点で②として記載しておりますけれども、最初に直接違法判断をする対象として持ってくるものとしては法規命令であろうということを申し上げましたけれども、間接的に審査する場合というのは考えられるわけで、これは後ほどどういう争い方があり得るかというところを更に御紹介いたしますけれども、そういう間接的に争う場合、例えば処分の取消しを求めるのですけれども、その前提となっている行政立法自体が違法だから処分も違法だと、こういう争い方があり得るわけです。こういう争い方をする場合には、必ずしも国民に対する法的拘束力がないと分類される行政立法でも、その違法性を審査するということはあり得るのではないだろうか。例えば裁量に関する基準は行政内部のルールであって、直接国民に影響しないとしても、実際の処分の違法性を判断する上で、もとになっている裁量基準自体が違法なので、その基準に乗っかってされた処分もやはり違法であると、こういうような判断というのはあり得るのではないかと考えられるところです。ただし、ここで②の下の方に記載しておりますけれども、こういった間接審査の場合に、まず法律があって、次に行政立法があって、更に処分があるというような3段階の構成があるときに、裁判所で判断すべきものは何であろうかということを考えると、その具体の問題になっている処分が、法律に合致しているかどうかであって、例えば間に挟まっているのが通達だとすると、その通達がどういう法律の解釈を示していようが、これは基本的には問題にならないのだと、こういう場面もあり得るというところが行政立法の場合には1つ留意すべき点であろうかと思います。これについては参考になる裁判例として別紙3を掲げております。別紙3は12ページから13ページにかけております。若干字を太字にしておるところが12ページの下からございますけれども、「元来、通達は、原則として、法規の性質をもつものではなく、上級行政機関が関係下級行政機関および職員に対してその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発するものであり、このような通達は右機関および職員に対する行政組織内部における命令にすぎないから、これらのものがその通達に拘束されることはあつても、一般の国民は直接これに拘束されるものではなく、このことは、通達の内容が、法令の解釈や取扱いに関するもので、国民の権利義務に重大なかかわりをもつようなものである場合においても別段異なるところはない。このように、通達は、元来、法規の性質をもつものではないから、行政機関が通達の趣旨に反する処分をした場合においても、そのことを理由として、その処分の効力が左右されるものではない。また、裁判所がこれられの通達に拘束されることのないことはもちろんで、裁判所は、法令の解釈適用にあたつては、通達に示された法令の解釈とは異なる独自の解釈をすることができ、通達に定める取扱いが法の趣旨に反するときは独自にその違法を判定することもできる筋合である。」こういうような判示がされている点については留意が必要かと思います。
 続きまして、3ページの下からは、「主な司法審査の方法」ということで、直接、間接にどういった形では行政立法が争われるだろうかというところでございます。まず直接に争う場合の典型例は4ページの上の①にございますけれども、抗告訴訟の対象として認められる、いわゆる処分性がある場合には、取消訴訟などにおいて、それを直接争うということがあり得ます。その例としては、例がそうたくさんあるわけではないのですけれども、東京地裁昭和40年4月22日決定を挙げております。これは健康保険法に基づく療養に要する費用の額の算定方法の一部を改正する告示の処分性を肯定したものでございまして、これは別紙4の1でございます。これは14ページ以下になりますけれども、ここではその告示でもって、もはや権利義務の変動が起きているということで処分性を認めています。そのときに、後でまた訴訟手続上の問題点の御指摘もさせていただきますけれども、判決の効力がどこまで及ぶのかというのが非常に大きな問題になってまいります。その点について、この判決は、ある意味、1つの工夫をしている例でありまして、これもこういうことがいいのか悪いのかというのは議論の対象になるところかと思います。14ページの下の方、太字にしておりますところの下半分ぐらいのところから、「しかしながら、立法行為の性質を有する行政庁の行為が取消訴訟の対象となるとはいっても、それは、その行為が個人の具体的な権利義務ないし法律上の利益に直接法律的変動を与える場合に、その限りにおいて取消訴訟の対象となるにすぎないのであるから、取消判決において取り消されるのは、その立法行為たる性質を有する行政庁の行為のうち、当該行為の取消しを求めている原告に対する関係における部分のみであって、行為一般が取り消されるのではないと解すべきである。けだし、抗告訴訟、特に取消訴訟は行政庁の違法な公権力の行使によって自己の権利ないし法律上の利益を侵害された者がその権利ないし法律上の利益の救済を求めるために認められた制度であり(行政事件訴訟法第9条、第10条第1項参照)、自己の権利ないし利益に関係なく違法な行政行為一般の是正を求めることを目的とする民衆訴訟は法律に定める場合において法律に定める者からのみ提起しうるものとされている(同法第5条、第42条)趣旨から考えると、行政事件訴訟法は、行政庁の一個の行為であっても原告の権利義務ないし法律上の利益と何ら関係のない部分についてはその取消しを求め得ないものとしているものと解するのが相当であるし、また原告をして自己の権利義務ないし法律上の利益に直接関係する部分をこえて立法行為たる性質を有する行政庁の行為全般を取り消さなければならない必要性も認められず、かく解したからといって何ら当該原告の権利救済の途をとざすことにもならないからである。」といって、32条1項の第三者効の規定があるわけですけれども、それについて、こういった解釈を施しているという点が特徴的な裁判例でございます。
 4ページに戻りまして、ほかにも処分性が肯定された例を別紙4の2に掲げてございますけれども、これについては省略させていただきます。
 抗告訴訟の対象として認められない、処分性がない場合については、今回、行政事件訴訟法の改正で、4条に改正を加えておりますけれども、公法上の法律関係に関する確認の訴えを利用できる場合があるのではないかということは御指摘できるかと思います。その場合には、確認の利益が認められる場合であればということになりますけれども、行政立法を直接無効だという判断を求めるということも事案によってはあり得るのではないかと考えられるところです。ここで処分性を否定した例として、旧公害対策基本法に基づく環境基準の処分性を否定した例を挙げておりますが、この事案が、すなわち、すぐ確認訴訟の土俵に乗るという趣旨ではございませんけれども、行政立法について処分性が否定された例のリーディングケースとして言われているものですので、ここで別紙4の3として掲載させていただいているというところです。
 それから、「間接的に審査する方法」については、これまで更に多くの事例が御紹介できるところであります。取消訴訟、あるいは無効等確認の訴えにおいて、行政立法を前提としてなされた処分の違法性を主張する理由として前提になっている行政立法が違法だからというような形で主張することが考えられます。ここで(注)書きしておりますけれども、違法性の承継は、この場合には基本的に問題にならないであろうと考えられます。違法性の承継と言われます問題は、先行する行為がいわゆる処分性が認められる場合で、取り消されるまでは有効として扱わなければいけないという効力があるものですから、後行行為を問題にする訴訟の中で、取り消されてもいない先行行為の違法の承継を主張するのは基本的にはだめだと。しかし、それを貫くと問題が生ずるので一定の場合には違法性を承継しているというふうに考えるべきではないかというのが違法性の承継の理論だと思いますけれども、この場合、先行する行政立法自体に処分性がないということになれば、違法性の承継論というのは基本的に問題にならないという整理ができるかと思います。この間接審査の方法については、最高裁まで行って判断がされている例がいくつかございますので、それをここでは4つほど御紹介しております。このうち3つは、行政立法が違法だという判断が下されております。そういう意味で、中身の判断においても参考になる事例と考えられます。まず1つ目は、4ページの例というところに掲げておりますけれども、最高裁昭和46年1月20日大法廷判決でございます。これは強制買収農地の旧所有者への売払基準について定めた農地法施行令、この規定を違法としたものでして、別紙5の1ということで、39ページにございます。これは昭和22年に自作農創設特別措置法によって買収された自分の土地が、その後、大分時間たって、10年以上たってから農地法に基づいて第三者に売却する処分がされた。その処分の取消しを求めた事案ですけれども、この事案について判断がされております。農地法の80条は、国が強制買収によって取得した農地を元の所有者に返すといいますか、売り払う場合について、政令で定めるのだということにしておりまして、そのときに政令で定めるところにより、自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当と認めたときには返しますよということになっていたのですけれども、その場合を施行令でもって、更に限定していたというところです。公用、公共用又は国民生活の安定上必要な施設の用に供する緊急な必要があり、かつ、その用に供されることが確実な土地に限定したというところなんですけれども、この判決は、法律自体の規定は売払い農地、元の所有者に返す農地の認定について、これを施行令のレベルで限定するのはやり過ぎであるということで施行令を違法にしたものでございます。
 その中で注目すべき点は、39ページ別紙5の1でこの判決を掲げてございますけれども、下の太字の真ん中辺のところで、農地法というのは、自作農創設特別措置法とは違うのだということを触れている部分がございます。「農地改革のための臨時立法であつた自創法とは異なり、法は、恒久立法であるから、同条による売払いの要件も、当然、長期にわたる社会、経済状勢の変化にも対処できるものとして規定されているはずのものである。」したがって、どういった場合に売り払いできるかという社会経済情勢を反映したものが行政立法であるべきなのですけれども、それを反映していなかったのではないかという判断が根底にあってこのような結論になったのではないかと思います。ちなみにこの判決がされた当時の状況としては、戦後の自作農創設という理想が実現せずにそのまま残ってしまっていた土地というのは当時かなり広く国の間にあって、国の管理下にずっと置かれていたと。これに対して多くの旧地主が自分のところへの売払いを求めて下級審判決が相次いでいたと、こういう事情があったというところを御指摘できるかと思います。
 次に4ページに戻りまして、もう一つ、最高裁裁判例ですけれども、4ページの一番下にございますのが、最高裁平成3年7月9日第三小法廷判決でございます。これは未決勾留により拘禁された者が、14歳未満の者と接見をするということを原則としてだめというふうに制限をしました監獄法施行規則、これは制限のしすぎであるということで違法としたものがございまして、別紙5の3、44ページ以下にございますけれども、実はこの監獄法の施行規則は、法律の定めもそうですけれども、明治41年に定められて、そのままこの接見の制限の部分については、それが平成までずっと残っていたというものでございまして、そういった時代の流れの中で未決勾留、拘禁者の接見の自由に対する考え方というようなものを反映している判決であろうかと思われるところです。
 それから、5ページにまいりまして、5ページの上に、比較的最近の判決も掲げておりますけれども、最高裁平成14年1月31日第一小法廷判決。これは父から認知された児童を児童扶養手当の支給対象である婚姻外懐胎児童から除外していた。その除外を法律ではなくて、施行令のレベルでしていた。これを法律ではそういう限定はしてないのではないかということで施行令を違法という判断をしたものでございます。
 以上が取消訴訟で争われた事例でして、ちなみに監獄法の施行令のこの事例は、国家賠償請求訴訟の事案として有名な事件なのですけれども、訴えの提起の当初においては、不許可処分の取消訴訟が提起されておりますので、一応ここで掲げさせていただいたというところです。
 それから、5ページの②で、間接審査の方法は、取消訴訟や無効確認の訴えだけではないのではないかと。今回、活用のメッセージを送っております公法上の法律関係に関する確認の訴え、これも使える場合があるのではないかということで、一例として浦和地裁昭和63年12月12日判決の事案を挙げております。この事案自体は、取消訴訟で争われたもので、取消訴訟には向いてないというふうに判断がされたものですけれども、ラブホテルの建築を規制しようという条例がありまして、その施行規則があったのですけれども、そのラブホテルに該当するのだという認定をして、その通知を市長がするということになっておりまして、その通知の取消しを求めました。これに対して判決では、通知自体で別に権利義務関係が変動するわけではない。条例で、その建物がラブホテルかどうかが決まっているのだということで、通知で権利義務の変動がないから通知自体は処分ではないということになったわけです。そうしますと、ひるがえって考えると条例自体でそういう義務なり地位なりが発生しているのであれば、それを当事者訴訟として確認の訴えで争うことはあり得るのではないか。これは当時も、既に高木光教授が御指摘されているところですけれども、本件建物がラブホテルに該当しないことの確認を求める訴訟というようなものが紛争の解決には適しているのではないか、こういった御指摘がされているところです。更に間接審査の方法としては、住民訴訟や国家賠償請求訴訟の前提として判断されることもあり得るのではないかという御指摘をしています。
 このように、争い方のルートしてはいろいろあり得るわけですけれども、そういった司法審査をするときに、行政立法というものの特質をとらえてどんな点に気をつけなければいけないのだろうかという点を記載しております。それが5ページの下の3からですけれども、1つは、行政立法の司法審査は本来は立法府が法律で定めることが必ずしもできない事項ではないのだろうという事項について、事柄の専門技術性などを考慮して行政立法に委ねると、こういうことがされているものと考えられます。そういう立法府と行政府との役割分担に対して、裁判所がその有効性判断に入っていく、こういったものだという位置付けから考えますと、三権分立との関係、あるいは行政運営に与える影響、更には立法の在り方にまで与える影響があろうかと思いますので、そういった憲法秩序全体の中での訴訟制度としてどう位置付けるべきかということを考える必要があるのではないかと考えられます。更に、司法の枠ということにとらわれずに考えてみますと、今、例えば最高裁で違法判断がされたような例を御紹介いたしましたけれども、行政立法が違法であるという判断に到達しているものは、世の中の価値観ですとか、社会通念の変化に対して政省令がついていっていないというような事案ではないかと考えられるわけです。本来、行政立法というのはなぜ法律で決めるのではなくて行政立法で定めるかといいますと、事柄の専門技術性ももちろんございますけれども、情勢変化に対する即応性、フットワークの軽さという観点からも法律よりも行政立法が適しているのではないか、こういう判断がされて、あえて法律で定めずに行政立法に委ねるという場合が多いのではないかと考えられるのですけれども、むしろ違法であると判断されたのは、そういった時代に対する対応ができていないのではないかという問題ではないかと考えられます。その意味では、一たん定められた行政立法が社会の変化に対応できているかどうかをチェックする仕組みとしてはどのようなものが世の中では適当なのだろうかという幅広い見地からの検討というのが必要ではないかと思われます。もちろん司法の場でそれをチェックするということは1つの手段であるわけですけれども、ほかにも有効な手段はないかといったことと、それとの役割分担というようなものも検討が必要な点ではないかと思われます。
 それから、話を司法の観点に戻しますと、②で掲げておりますのは、行政立法というのはある程度抽象的な定めをして、後に処分等の形で具体化されるものを予定しているものですので、そうしますとどこのタイミングで紛争をとらえて司法判断をするかというタイミングの問題が重要になってくるのではないかという御指摘ができようかと思います。更に6ページの③では、行政規則の場合は、特に個別に考えないと、国民の権利義務への影響の程度が判断できないというところがあろうと思いますので、そういった意味で、個別に吟味する必要もあるのではないか。それから、中身の判断においては、先ほど申し上げたように、国会で立法し得る事項であっても、それをあえて行政立法にゆだねるという性質もあるとすると、国会の立法裁量に準ずる側面がありますので、その意味では非常に裁量の幅が広いという見方もできるのではないか。これをどうやって審査していくかというのが大変難しい問題ではないかと考えられるところです。
 それから、訴訟手続面に、訴訟法の分野から光を当てて考えるとどんな点が問題になり得るかという指摘を6ページの下から7ページ、8ページにかけてしております。これは改正法でいろいろな訴訟類型を整えたりしておりますけれども、そういった改正法の使い方、解釈、運用として考慮すべき点としても考えられると同時に、その解釈、運用では賄いきれない部分があり得るのではないかとなれば、これは立法論としてつながっていくと、こういった面がありますので、その両面から御検討いただければと思うところですけれども、例えば6ページの下では、原告適格の問題を掲げております。行政立法というのが、広く国民一般を対象にしているようなものですと、それはどの範囲の人が訴えられるということにすべきなのだろうか。それを今までの取消訴訟でいえば、取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者、確認訴訟でいえば、確認の利益を有する者というところに何か特別の配慮が要るのだろうかという点は検討を要する点かと思います。例えば、先ほどの療養費の告示の例ですけれども、あれは健康保険組合の負担を増やす改正ですので、健康保険組合が訴えたわけですけれども、逆に健康保険組合の負担を減らして、被保険者の負担を増やすような場合には、被保険者であれば誰でも訴えられるのかと、こういう問題が生ずるわけで、なかなか難しい問題を提起するのではないかと考えられます。
 それから、重複訴訟と記載しましたけれども、同じ行政立法をいろんな人が別々の訴訟で争ったときに、それらをどう判断の矛盾が生じないようにしていくか。もちろん事件を移送したり併合したりしていくという工夫は現行法の枠組みの中でもできますし、行政事件訴訟法も関連請求の移送の規定があり、どこまで関連請求に当たるかという問題がありますけれども、そういったものもあるわけで、立法論としても何か考慮が必要かということは考えられるところです。同じようなことは訴訟参加という形で取り込むべきかどうかということにもなってこようかと思います。
 それから、「出訴期間」ですけれども、取消訴訟で争うと出訴期間があるということになりまして、ほかの訴訟類型ですと、基本的には出訴期間はないわけでして、これが争い方によって異なる点の合理性ということ自体がまた問題になりますし、新たに別の訴訟類型を立てて行政立法を争うということにしますと、出訴期間自体そもそもどうするのか、あるいはほかのルートで争う途を認めるのか、認めないのか、こういった整理が必要になってこようかと思います。ちなみにドイツの規範統制訴訟は、通常の処分の取消訴訟とは異なる出訴期間を定めているものと聞いております。
 それから、「処分権主義の制限の要否」。通常の民事訴訟ですと、処分権主義、弁論主義ということで、当事者のイニシアチブが非常に重視されているわけですけれども、例えば、原告の請求の放棄、もうやめましたというときには訴えを取り下げるだけでなくて、被告の側の言うとおりでございますということになりますと、これは原告敗訴の確定判決と同一の効力を有することになるわけですけれども、これをある訴え出た一原告の自由な処分ということで任せていいのか、何らかの規制が必要か。あるいは被告側が請求を認諾するということはあまり考えにくいとは思うのですけれども、そういったものや和解については、処分の取消訴訟でも同じように議論があるわけですけれども、処分と同じに考えればいいのか、更なる考慮が要るのか、こういった問題があろうと思います。
 それから、⑥、⑦、⑧は判決の効力の問題であります。まず被告側、行政側が負けた判決については、取消訴訟であれば、例えば拘束力がありますし、この拘束力の規定がほかの類型にも準用されているわけですけれども、一体行政庁はどこまでやればいいのか。行政立法に基づいて、更に上にいろいろな処分ですとか、いろんな行為が重なっているときに、どこまで原状回復をしなければいけないのかというあたりをどのように定めるのかという後始末の問題が出てこようかと思います。それから、原告が負けた場合は、行政立法を争って負けたけれども、その後の処分を争う中でもう一回争えるのか、そのときにどこまで争えるのか、こういったところについては、民事訴訟の一般の既判力の問題などだけでよろしいのか。それとも特別な配慮が要るのかといった点。更には⑧で、ある人は争ったのだけれども、その勝った場合、負けた場合、それぞれについて第三者にはどんな効力が及ぶというふうにすべきかという点で、例えば現行法の解釈としても、先ほどの療養費の告示のように、一定の工夫をした解釈をしている例もあるわけです。それをそれぞれの訴訟類型でどういうふうに考えるべきかという点は運用としても問題になろうかと思います。
 それから、仮の救済で、例えば取消訴訟を起こして執行停止といったときに何か特別に考慮すべきことがあるのか、あるいは執行停止の効力の第三者に対する効力はどうなのか、公共の福祉要件はどういうふうに使うべきなのか、こういったところは更に議論が出てこようかと思います。
 最後に、いろんなルートをたどって、中身の判断にたどり着いたときにどういった点を考慮すべきかというところについてはそれに対する答えということではないのですけれども、宮田三郎先生の論文の御指摘を挙げております。なかなかこれについては、行政立法をつくるに当たっての行政の裁量がどんなもので、それをどう審査すべきかというところについては、あまり議論がまだ積み上がっていないのではないか、こういった御指摘もされているところで、いや、こういう研究は既にされていますという御指摘ももちろんあろうかと思うのですけれども、この点については、どうしてそういう議論があまり出なかったかというところとしては、そういうことを争うことがなかなか許されなかったためにあまり実益のある議論だと思われなかった面もあるのではないか、こういった御指摘かと思います。今回の改正では、従前の訴訟類型も使いやすくするとともに、確認訴訟の活用というようなことも図っているわけですので、こういった改正法の効果によって事案が積み上がっていった際には中身の判断においてもどんなことを考えるべきかということがだんだん積み上がっていくのではないかというように考えられます。
 長くなって恐縮ですが、ここで資料5及び6の行政事件訴訟法制定当時の議論についても簡単に御紹介させていただきたいと思います。現在においても、なお十分参考になる議論と考えられます。資料6の方が簡潔な資料ですので、これに基づいて御説明いたします。昭和31年ぐらいからずっと議論されて、34年ぐらいまで議論がされているのですけれども、まずここで言っている行政立法、あるいは法令の存在自体、法令の効力を争う訴訟というのは何を考えているのですかという点について、最初の議論のところで幹事の方から説明がされています。「例えば、法令の改正によって、ある者が当然身分ないし地位を失うような場合が考えられる。あるいは、また借地法等の改正によって、所有権者等がその所有権に制限を受けるような場合もこれに当たると思われるし、土地区画整理法等によって、土地所有者が地価の値下がりのために影響を受ける場合もこのような訴訟を許してよいのではないかと考えている。」こういったイメージで議論がされています。法律の場合に取消し、あるいは抽象的な無効宣言の訴訟は憲法上問題があるのではないかという質問をされて、そういう問題があるのは重々承知しているけれども、検討したい、こういう話になっております。
 その下の第30回の会議経過のところでは、ここでその後の議論にも通ずる非常に重要な指摘がいくつかされています。「訴訟の判決の効果を当事者間のみにかぎらないで第三者にも及ぼすものとすれば、司法権の範囲を超えることになりはしないか」。ですから、せいぜい当事者間だけでの効力しか考えられないのではないか、こういう意見、疑問も出されたわけですけれども、これに対しては、「もし一般処分に対する判決の効力のごとく当事者間にのみ既判力、拘束力を認めるにすぎないのであれば、特別にこのような訴訟を認める必要はないのではないか」というような話も出ております。
 また、原告適格について、「近い将来において法令の適用により権利を侵害される虞のある者」というのは、このころ、題材として挙がっていたのですけれども、それでは出訴権者の範囲を確定することは困難ではないかというようなことで、原告適格の確定は難しいという議論もされております。更には、このような「抽象的規範統制請求訴訟を認めなくとも公法上の権利関係確認の訴(例えば、法令により営業の制限を受けない権利関係の確認を求める訴を認めれば当事者の救済としては十分ではなかろうか」、こういうような見解も述べられ、なかなか積極、消極といいますか、むしろ消極論の方が強かったというところです。ただ、このとき、途中で田中二郎先生が退席されたので、田中先生の御意見を聞きましょうということになって議論が続くわけですけれども、田中先生は、次の2ページの頭のところで「法令制定により国民の権利侵害がおこり、あるいはその侵害が極めて近迫するような場合に、これを救済する措置として、かかる訴訟を認める必要はあるのではないかと思うけれども、理論上、技術上の困難−とくに右訴訟を法令の無効宣言とみるか、取消しとみるか、原告勝訴の場合の原状回復措置をどうするか」。先ほどいくつか訴訟手続上の問題点を御指摘させていただきましたけれども、そういった難点がなかなか多いので、抗告訴訟に準じて取扱うような工夫ができないかと、こういう御意見を述べられたわけです。
 その後、いろいろ検討がされまして、法令の違法宣言の訴えというような形で検討されたり、法令の効力を争う訴えというような形で検討がされたり、いろいろな検討がされたのですけれども、例えば3ページの下の方のところですと、刑罰法規をこれで争ったらどうなるのか、刑事訴訟にどれだけ影響するのか、それがもし拘束力を持たないなら意味がないのではないかというような議論がされたり、行政処分と同様の効果を生ずる法令といったら、通常の民事法規も入ってしまうけれども、それでいいのかというような議論も出されて、それから、対象としても法律は入る、入らない、条例は入る、入らない、なかなか御意見が分かれたわけです。
 結局、処分権不存在確認の訴えというような形で、形をかえてやったりしていろんな提案がされたのですけれども、最後はなかなか消極、積極論は対立したまま続いていって、結局、4ページの一番最後ですけれども、そういう訴えを別に排除する趣旨ではないんだけれども、本当にその必要があるときには、第三の第一項の概括規定によりこれを認めることも可能。これはすなわち今で言いますと、無名抗告訴訟、法定外抗告訴訟になるわけですけれども、これでいける場合もあるのではないかという余地を残すという条件の下に、明示の姿にはならなかったという経緯をたどっております。行政立法については以上でございます。 

【塩野座長】行政立法については、こういった特に統制が重要ではないかという御指摘はずっとあったわけですけれども、具体的にどういう問題があるかということについて、過去の、今、御紹介のあった法制審議会の例も含めて、今まで材料も提供しておりませんでしたので、少し詳しく御紹介をいただいたということでございます。
 これについて、議論ということになりますと、後の行政計画とか、あるいは裁量との関係も問題になりますので、議論というよりは、ここのところ、ちょっとわからないという御質問があれば、いただければというふうに思いますが、ちょっと時間が大分たっておりますので、御意見にわたるような御質問は後にしていただきたいと思います。何か資料の関係でわからないというのがございますか。

【水野委員】4ページの真ん中あたりの②のところで、例の環境基準の告示の事件で、これは処分性を否定しているのですけれども、確認訴訟でやれるのではないかという趣旨の御発言があったように思ったのですけれども。

【村田企画官】必ずしもそういう趣旨ではないという御説明をしたのですが。

【水野委員】可能性に言及されたのだけれども、これはどういう確認になりますかということをお尋ねしたい。

【村田企画官】なかなか難しい面があろうかと思います。ここで争われている環境基準は二酸化窒素の環境基準を緩和する基準でございまして、同じ環境に関するものであっても、規制基準、あるいは総量規制基準と言われているような具体的な効果を持つものではなくて、政策上の目標だという位置付けはされているわけです。しかしながら、これは当時の公害対策基本法、今ですと環境基本法に当たるものかと思いますけれども、これがあって、それと別に大気汚染防止法になりますと、今申し上げたような一定の効果があらわれてくる排出基準、総量規制基準というものがあるわけでして、その排出基準や総量規制基準を定める際には環境基準が示している数値もを重要な考量要素とするというような関連性があるわけです。したがって、関連性を媒介にして、具体的な法律関係に影響が出ているということになるのであれば、法律関係ということで持ってくることは議論としてはそういう議論はされているところでございます。ただ、その場合に、個人の権利義務に影響するところまで持ってこれるかということになると、なかなかこの事件自体では健康被害ですとかいろんなことも主張されているわけですけど、そういったものを法律上の利益としてどこまで認めていくかというところはかなりまた議論が必要なところではないかと思われます。

【水野委員】何の確認になりますかねという。

【村田企画官】なかなか具体的に想定しにくいのですけれども。

【水野委員】確認訴訟に置き換えることが可能なケースはたくさんあるのですけれども、これなどは確認訴訟に置き換えるのが非常に難しいのではないかなと思っていまして、さっきそれをおっしゃったので、何かいいアイディアがおありなら教えていただきたいと思ったのです。

【村田企画官】学説としては、先ほど申し上げた、具体的には後で効果を有するような排出基準の制定などの差止めですとか、そういうものを求めてされた基準の方の無効確認というのはあり得るのではないかという議論をされていますが、そこになりますと、差止めの要件ですとか確認の利益というところではなお、ハードルがあろうかと思います。

【塩野座長】そういった問題については、今日、後の時間、次回あるいは次々回ででも御議論をいろいろいただきたいと思います。よろしゅうございますか。
 それから、ちょっと確認ですが、6ページの「(2) 訴訟手続について検討を要する点」は、解釈論、立法論を含むという、そういう理解でよろしいのですね。

【村田企画官】両方です。

【塩野座長】今の御説明を伺っていますと、両方の話ということで理解をしたいと思います。水野委員、よろしいですか。
 それでは、その次の行政計画について説明をお願いいたしましょう。

【村田企画官】行政計画の方は行政立法と重複するところがございますので、なるべく簡潔にいたします。
 まず、行政計画の相手がどんなものかということを知る意味で概念を最初に掲げてございます。資料2でございますけれども、これについては、いくつか塩野座長の教科書、あるいは小早川委員の教科書からも引かせていただいておりまして、その中では、例えば塩野座長の教科書で申しますと、「行政計画とは、行政権が一定の公の目的のために目標を設定し、その目標を達成するための手段を総合的に提示するものである」というふうに言われております。小早川委員御指摘のように、「この概念は必ずしも明確ではない」というところがあろうかと思いまして、定義も様々な定義が言われているところです。
 ①、②、③と掲げましたような定義からすると、特色としては、目標が設定され、その目標達成のための手段が総合的ないしは体系的に提示されていくもの、これが計画の特徴ということが言えるのではないかと思います。よりシンプルな定義をされております芝池委員の定義ですとか、あるいは西谷剛さんの定義ですと、今申し上げたような目標の設定あるいは手段の総合的ないし体系的な提示というところの特徴は、定義自体には含められておりません。それはむしろ、そういうものは行政計画でなくても、計画と言われるものは一般的にそうではないかという御理解を前提にしておられるのではないかと理解しておりますけれども、だとすると、必ずしもそういった特徴があること自体を否定しておられるわけではないと認識しております。そういった目標を定めて、それに至る手段を計画という形で決めていこうというものだとすると、それを相手にする司法審査ではどんなことに留意すべきかということで、1ページの下のところから記載しております。手段を提示するものだということは、後に手段に当たるものが出てくるわけですので、それが処分というような形で具体的に出てくることになりますと、これも段階的な行政活動、行政の展開というのがあり得るわけです。そうなりますと、どのタイミングで司法判断に持ち込むかということが非常に重要な問題になろうかと思います。それから、行政計画というのは行政自身のアクションプランという、自分たちがどうやっていくかという性格があろうかと思いますので、そういう意味で、2ページの方に行きますけれども、内部の訓令的な性格もあるのではないかという指摘がされています。そうなりますと、国民に対する法的拘束というのは必ずしもメインでない場合というのがあり得るわけでして、実際に計画を見ますと、法的拘束というのは国民に対してはないのではないかと思われるようなものも多々あるわけです。そういう意味で、国民に対してどういう法律上の効果があるのかというのは個別に吟味する必要があるのではないかと考えられます。更には目的を達成するための手段をどう組み込むか、それをどう体系づけるかは計画で定めるということになっていますので、その根拠となる法律がどこまで計画の中身のことを言っているかということになりますと、その法律の規制の在り方は非常に緩いということが言えると思います。その意味で計画の内容をどう定めるかについての行政の裁量というのは非常に広範なものと一般的には言えるのではないかと思われます。このあたりの御指摘は芝池委員の論文、教科書でも御指摘されているところを参考にさせていただいております。
 行政計画については、2ページの真ん中辺に書いておりますが、いろいろな分類というのはあり得るわけですけれども、司法審査の観点からしたときにどこまでの分類が意味を持ってくるかというのはなかなかわかりづらいところでして、あえて申し上げるとすれば、2ページの下の(2)に記載しておりますけれども、国民に対する法的拘束力があるものがあれば、それは直接の審査対象にはなりやすいでしょう。ただ、先ほど行政立法のところで申し上げたように、間接に審査するということはあり得るわけですので、その場合には、必ずしも法的拘束力が直接にはないものでも対象にのぼってくることもあるかもしれない。また計画の中には、分類のところに記載しておりますけれども、法律上の根拠がないもの、事実上の計画というのも多々あるわけですが、そうなりますと、一体何に基づいて違法性を判断をするのかというあたりも難しくなっていくのかなと思います。ちなみに2ページの真ん中少し下のところに、西谷剛さんの御報告から、314の法律に基づいて586の種類の計画があるということが西谷さんの分析では言われておりまして、これは平成13年末の段階ですが、先ほど小林参事官が最初御紹介しました府省別計画名一覧というのが、この西谷さんの教科書の末尾に挙がっております。これを見ますと、各省庁ごとに実に様々な計画がございます。一番最初の内閣のところの計画を見ますと、一番最後に構えておりますのが、司法制度改革推進計画でございまして、そういうものも行政計画として挙げられているというところです。更に余談を申しますと、計画は先ほど申し上げましたように、目標があって、そのための手段の設定があるわけですけれども、この司法制度改革推進計画の場合には法案の提出というのが非常に主要な手段になっている。そうすると計画があって、その後になにがしか最後に国民に具体的な権利義務の変動があるとしても、間に法律が入るとなると、計画自体を争う意味はどこに出てくるのかというような議論にもなり得る。そういう意味で非常に計画というのは、手段のつくり方も多様なものということが言えると思います。法律ができた今になって、この推進計画が違法だから裁判員になる義務はないという訴えを起こしても意味がないということになろうかと思います。
 それから、隣の11ページを見ますと、交通安全対策基本法というのに基づいて計画がいくつかずらずらと挙がっていますけれども、交通安全基本計画、交通安全業務計画、都道府県交通安全計画、都道府県交通安全実施計画、市町村交通安全計画、市町村交通安全実施計画、こういうように、同じ交通安全の観点でも非常に多元的に多層的に計画が定められるということもあるわけでして、計画、計画といっても、計画同士の関係、あるいは位置付けも非常に微妙なものがあろうかと思います。
 資料2に戻りまして、3ページのところで、その行政計画は国民に対してどんな効力があるのだろうかというところで、これは西谷さんの著書を参考にして、3ページの真ん中辺の記載をしたのですけれども、必ずしも実はこのご著書のとおりではありません。なかなか直接的な効果、間接的な効果というのは一体どんなものか、その判断自体が非常に難しいものがございまして、なるべくわかりやすそうな例を挙げたつもりではありますけれども、それでもなおちょっとわかりにくいのが行政計画の国民に対する効果かなという感じを持っております。
 「A 土地利用規制」で最初に挙げましたのは、土地再開発法で第二種市街地再開発事業の事業計画の決定がありますけれども、これは最高裁でも取消訴訟の対象になるということで処分性が認められている事業計画であります。これは第一種市街地再開発事業とは性質が異なりまして、この事業計画の決定がされますと、その施行区域内の土地所有者は、自分の土地が収用されるべき地位に立たされまして、お金をもらって出て行くのか、新しく建てる再開発ビルの中に権利をもらうのかという、その選択を迫られると、こういう立場に立たされるという意味で非常に直接的な効果がある例です。しかしながら、なかなかこういう直接的な効果が出てくる例というのはそう多くないような気がいたします。
 次の(b)は建築基準法による建築規制、これは都市計画で地域地区が定められますと、それに応じて建築基準法の建築規制がかかってくる。すなわち建築確認のときに初めて都市計画でどういう地区に指定されているから、この辺を守らなければいけないという形で、間接的に都市計画の効力が問題になってくる、こういうものもあるわけです。
 それから、「環境保全規制」のところに、一般廃棄物処理業の許可基準の要件として市町村一般廃棄物処理計画に適合していることが必要だったりという、これも間接的に許可の判断をする際に計画への適合が問題になってくる、こういった効果があるものが挙げられています。これは環境保全規制であると同時に産業規制ともいうことができます。ほかに農業、医療、様々な分野での規制もされているところで、今申し上げたように、直接計画自体から権利義務関係が変動するものと、一定の処分が予定されていて、その要件として間接的に規制されるものなど、様々なあらわれ方があります。
 それから、3ページの下に書きました、これはまた1つ全然違う分類になろうかと思いますけれども、規制をする場合だけではなくて、国民に対してプラスになる側の措置が計画に基づいてとられることもあるのではないか。補助金や政策融資などの公的な支援措置が計画に基づいてとられる場合もあります。例としては、地域雇用機会増大計画でもってされる助成を挙げております。このようにまさにいろいろな効果を持つものがあります。 
 そこでどんな問題が御指摘できるかということは4ページの(2)ということで記載しております。行政計画の国民に対する効力に関しては、行政計画はまさに多種多様でございます。なかなかこれは行政計画という括りで一般論として問題をとらえることは難しいのではないか。確かに西谷さんの御紹介させていただいたような分析はされてはいるのですけれども、その一方で、ここで見上崇洋先生の御指摘を挙げておりますけれども、今まで処分性があるなしという議論に重きが置かれたがために個々の計画がそれぞれどんな効果があるかという分析は裁判例の中でもあまり指摘されていないし、分析が進んでいないのではないかというような御指摘もあるわけです。しかしながら、実際に訴訟でもって救済を考えていこうという場面になれば、それぞれの計画がどういう効果を持つかによっていろいろ訴訟要件等の判断が左右されるわけですので、個々の制度の分析というのはなお必要ではないかと考えられるところです。特に先ほど交通安全の例を挙げましたけれども、計画自体が数次の段階的な計画になっているものなどもあるわけですから、それぞれがそういう制度の中でどういう段階で、どういう性質のものとして位置付けられているのか、その中で関係者の利害がどういうふうに反映されていくことになっているのか、そういった計画策定段階のプロセスも含めて、どういう利害調整が図られているか、その中で司法審査も1つの利害調整の方法と考えたときに、ある段階で司法審査を行うことは、どういうメリットがあり、どういうデメリットがあるかということを個別に検討する必要があるのではないかと思います。それが訴訟類型を適切に選択し、更には訴えの利益、確認の利益などを判断する材料にもなっていくのではないかと思われるところです。
 実際に行政計画が、現行の枠組みでどんな形で争われているかというところを4ページから5ページにかけて記載しております。これは行政立法と大分重複するところがございます。直接に争う場合には取消訴訟等があって、実際にも最高裁でも土地改良事業の事業計画は処分性があるというふうに判断されておりますし、先ほども御紹介しましたが、土地再開発法の第二種市街地再開発事業の再開発事業計画の決定は処分性があるということで本案の判断に入り得るということになっています。それから、もちろん処分性がない場合には、公法上の法律関係に関する確認の訴えというのは理論的にはあり得るのではないか。これは具体例が今のところはないわけですけれども、そういったものも考えられます。更に間接的な審査ということになりますと、これはいろんな形でされているということでございます。例えば都市計画ですとか、都市計画事業の認可があった場合に、その前提として都市計画自体の違法を主張すると、こういうやり方がありまして、その例として、(2)の①の中に、最高裁平成11年11月25日第一小法廷判決を挙げてございます。これは原告適格のところで御参照していただきました環状六号線の道路の拡幅工事の事件でございます。この判決は、明示的にこういった都市計画の争い方ができるという判断はしてはいませんけれども、第一審、第二審は明示的にそういう形での都市計画の争い方ができるという判断をしておりまして、最高裁もこれを前提にしている、あるいは是認しているものというように考えられます。
 それから、公法上の法律関係に関する確認の訴えということで、権利義務などの法律関係の前提として行政計画の無効を主張する。これはあり得るところでして、例としては、これも確認訴訟の議論をしていただいたときに既に御紹介したものでございますけれども、東京地裁平成6年9月9日判決、これは一般廃棄物処理計画に基づく義務の存在確認ということで、当事者訴訟としての確認訴訟が適法とされた例でございます。別紙3で、17ページ以下に御紹介しておりますけれども、一般廃棄物処理計画において、市長が設置したダストボックスからだけごみは収集しますということにしたのに対して、ダストボックスが設置されてない場所からもごみを収集すべき義務があるのだという確認を求めた事案です。これについてその判決理由、「本案前の主張について」ということで真ん中辺に記載しておりますけれども、「原告の被告に対する本件収集義務の存在確認の訴えは、ごみの収集義務という公法上の義務の存否に関する当事者訴訟と解され、本件建物の占有者である原告と被告との間に右義務の存否を巡って紛争が存在しており、その確認を求める以外に紛争解決のための適切な手段がない以上、原告は、右義務の存在確認を求める法律上の利益を有すると解するのが相当である。」ということで、内容の判断に入っております。
 ちなみに、これから確認の利益というのが問題になってくると思いますので、この事案が、一見すると、ちょっと自分が毎日ごみ出しをしている場面を想像すると、本当に確認の利益があるのだろうかという疑問に思う向きもないではないので、この事案について若干付言しますと、この事件の原告はマンションの賃貸業者でありまして、本件訴訟ではごみの適切な収集が、原告が賃貸業に使っているマンションから収集してもらえないということで、そのマンションにそもそも入居がない。30室の空き室ができて、月額180万の損害をこうむっている。更に毎月自費で入居者のごみをダストボックスまで運ばなければいけなくて、1回3万円、月24万円の費用がかかっているということで、これらの損害賠償請求も併せてしている事案ですので、そういった点も考慮の事情にはなったのではないかと思いますので、併せて御紹介させていただきます。こういった確認の訴えのやり方があるのではないか。
 それから、5ページに戻りますけれども、住民訴訟あるいは国家賠償請求訴訟においても行政計画を争うということはあり得るのではないかというところです。ちなみに国家賠償請求訴訟で争われた事案。計画を国家賠償請求訴訟で争うというのはなかなかイメージしにくいところもあるのですけれども、この事案について申し上げますと、住民が訴え出たわけですけれども、地区計画が違法ではないか。その違法の理由としては、ある特定の業者が工場をつくりたいというようなときに、その特定の業者の利益を図るために住居地域から準工業地域に本当は用途地域の変更をしたいのだけれども、それは都道府県レベルでやることなのでなかなかできない。そういう意味で地区計画という小規模な計画をあえて用いて個別の業者の利益を図ったのではないかというようなことで住民が訴えたものですけれども、結論としてはそのような主張は認められなかったというところです。
 6ページから7ページにかけては、訴訟手続上の問題点ということで、これも先ほどと同じように、現行法の枠組みの解釈論であると同時に、もしそれに限界があるとすると、立法論としてもいろいろな問題があり得るのではないかということで記載しておりまして、これはほとんど行政立法と重複しておりますので省略いたしますが、1点申し上げると、6ページの真ん中辺に「③ 訴訟参加」について記載しております。行政計画について、行政機関が認可する、すなわち、一定の申請があって、それに対して認可をするというシステムをとっている場合には、認可自体を争おうと思うと、計画をつくった人は訴訟の当事者とならない場合があって、逆に計画自体を争おうと思うと、認可した人は直接訴訟の当事者とならないと、こういう構図があり得るわけですけれども、そういった場合に直接の当事者にならないものについて、訴訟参加を義務的にするなど何らかの特別の配慮が必要かどうか。更には土地利用などの計画の場合ですと、賛成派と反対派があり得るわけで、そういった利害関係が複雑に絡み合っているときに訴訟参加について何か配慮が必要かどうか。こういったあたりは行政立法よりもむしろ行政計画のところで問題になり得るところではないかと思われます。
 7ページの下からは、今度は手続ではなくて、実体判断の問題についての御指摘をさせていただいております。まず8ページにまいりますけれども、先ほど行政計画に対して法律の規制というのは非常に弱いのではないかということを申し上げました。しかしながら、弱いながらもいろいろな規制をしていることはあり得るわけで、例えば法律がどんな規制をしていることがあり得るかということで考えますと、例えば8ページの(3)の①、②、③という事項を挙げております。
 1つは整合性の原則として、計画同士の間での整合性が保たれてないといけないということが法律に規定されている場合があり得る。国の計画に地方の計画が合致していなければいけない。あるいは上位の計画に下位の計画が合致してないといけない。こういったものが定められている場合があります。ただ、適合の仕方が、適合しないといけない。あるいは抵触するものであってはならないというものもあれば、調和を保つといった程度の規定のものもありまして、なかなか規定ぶりによっては直ちに違法になるといえない場合もあり得るのではないかという御指摘も、芝池委員の教科書では指摘されているところであります。整合性の原則については、先ほど御紹介しました環状六号線の拡幅工事の事件の最高裁判決、これは別紙2、14ページですけれども、この中で少し触れられております。例えば、資料の15ページの上から6行目のところになりますが、これは原告適格の判断の中でまず一たん触れられています。都市計画法の13条1項ですが、「法一三条一項柱書き後段が当該都市について公害防止計画が定められているときは都市計画は当該公害防止計画に適合したものでなければならないとしているのも、都市計画が健康で文化的な都市生活を確保することを基本理念とすべきであること等にかんがみ、都市計画がその妨げとならないようにするための規定であって、やはり専ら公益的観点から設けられたものと解すべきである。」、こういう原告適格の判断の中身ですので公益的というようなことがふれられているわけです。
 それを前提にして、16ページにまいりますと、「同第三点について」というところで、上告理由の3点目というのは、整合性・適合性の原則が問題になっていたところです。今言ったような、都市計画が公害防止計画の妨げとならないように規定したものというふうに理解されるという、そういう理解を前提にいたしまして、法13条1項柱書き後段が、そういった政策と無関係に公害を増大させないことを都市計画の基準として定めていると解することはできない、ということで、この事件については、公害防止計画との関係が決め手にはならないという判断がされたというところです。
 それから、8ページに戻ります。法律が規制している在り方の1つとしては、考慮事項を定めているという場合があります。計画の策定に関して行政機関がこういった事項を考慮しなければいけないということを定めている場合があります。例としては、都市計画法ですとか、都市再開発法の条文を挙げております。内容的に抽象的なものが多いのではありますけれども、一定の事項を考慮ないし勘案して計画を策定しなさいと、こういうことになっています。
 それから、更には9ページの③に掲げております計画目標あるいは方向が法律で定められている場合がありまして、整合性の原則や考慮事項と比べると、立法による統制の度合いが強いのではないかという御指摘もされているところです。このような、例えば考慮事項ですとか、あるいは計画目標といったものが、法律に具体的な規定があればあるほど司法判断においては、計画を定めるに当たっての裁量を審査するに当たって、そういった必要な考慮をしているかどうかといった判断がやりやすくなるといいますか、裁判所の立場からすると、その審査の密度を上げるための取っかかりができてくるということは言えるかと思いますので、個別の計画を定める法律の規定において、そういった後の審査に役立つような考慮事項等の法定がされていくということは1つの司法審査の密度を上げるための工夫にはなり得るのではないかと思われるところです。
 10ページに、実体判断をした裁判例をいくつか紹介しておりまして、なかなか非常に興味深い論点をいろいろ判断している裁判例で、例えばb)の名古屋地裁平成5年の判決、別紙7の2ですけれども、これなどは都市計画に絡む論点を網羅しているかのように、違法性の承継から、違法性判断の基準時ですとか、いろいろな点の判断がされておりますので、これはいろいろ御参考いただけるのではないかと思いますが、時間も大分過ぎておりますので、内容については省略させていただきます。
 それから、ここで外国法の関係、今の行政立法と行政計画を合わせてどんな具合であったかというのをちょっと復習になりますけれども、概略だけ御紹介させていただきたいと思います。資料7になります。
 資料7は、外国事情調査の結果一覧表から関係部分を抜粋したものでございまして、なかなか基本になる制度が異なりますので、一概の比較は難しいのですけれども、あえて比較してということで申し上げますと、資料7の2ページ目を御覧ください。司法審査の対象の範囲として、若干字を大きくして太字にしておりますところが行政立法、行政計画に関係する部分と思われるところを挙げております。
 まずアメリカの場合ですけれども、基本的に行政活動はすべて司法審査の対象となりうるというふうにした上で成熟性というようなことで司法審査のタイミング、あるいは対象を事案に沿って判断していくと、こういった形がとられておりまして、行政の行為の形式によって類型的に区別ということはされていない。逆にいうと、行政立法はもちろん対象になり得るわけですけれども、常になるかというとそうでもなくて、成熟性の判断が必要になってくると、こういったことかと思います。
 ここに記載しておりませんけれども、具体的な訴訟形態として、宣言的判決、あるいはインジャンクションというような形で判断がされることが多いのではないかと思われまして、これをあえて我々の方の改正になぞらえてみますと、確認の訴えと差止めの訴えに相当するものというような評価も可能かと思います。
 フランスの場合は、これもまた広く行政立法については当然に訴えの対象性を満たす、というあたりを真ん中辺に記載しておりまして、行政裁判制度の役割が、行政決定の違法性をチェックすることにあるとされて、行政立法の違法性を除去することも当然にその範疇に含まれるという考え方の反映だとされております。フランスの場合には、行政内部の行政裁判所ですので、違法性のチェックはむしろ当然で、ここに司法権の範囲ですとか、司法権の限界論、こういったものは出てこないということになろうかと思います。
 ドイツの場合には、1つは、確認訴訟のことが挙げられる。もう一つは、規範統制訴訟のことが挙げられます。法規命令の違法確認訴訟も権利保護のために必要な場合は必要な範囲で認められる。これはまさに確認の利益が必要になります。規範統制訴訟制度というのは別にあるのだけれども、だからといって、権利保護を目的にする確認の訴え自体が排除されるわけではない、こういう使い方のようでございます。
 規範統制訴訟というのは何をやっているかというと、条例の法形式をとっている都市計画、大半の州における州の法律よりも下位の法規定について、特別に認められた制度であって、ただ、誰が訴えられるかといいますと、私人については、主張すればいいのですけど、「権利侵害」を主張する者しか提起できないということになっています。これは比較的最近法改正がされて、前は不利益がある者だったのですけれども、権利侵害を主張する者というような形になっておりまして、特色としては、訴訟要件ではなくて、中身の判断になりますと、申立人の権利に関わらない違法事由も審理されて、かつ判決の効力としては、一般の処分の取消訴訟は当事者間にしか効力がないのですけれども、この規範統制訴訟については一般的効力があるということで、ドイツでは整理をされている。しかも、違法の主張については、今申し上げたように、日本で言いますと、行政事件訴訟法10条1項のような自己の法律上の利益に関わるものというような制限はここでは出てこない、こういう特色がある。
 イギリスとEUも記載しておりますけれども、イギリスのはアメリカに近いところがございます。大体以上でございます。

【塩野座長】どうもありがとうございました。前の行政立法と同じような趣旨で、特に御質問があれば承りたいと思いますけれども、ここで議事進行のことについてちょっと申しますと、説明が多少長くもなっておりますので、あと行政裁量について、引き続き御説明を伺い、場合によっては質問をお受けするとして、そこで休憩して、皆様方の御議論、考えていただく時間をとりたいと思います。もし御質問がなければ、裁量のところ、お願いいたします。

【村田企画官】裁量につきましては、資料3を御覧ください。これは大半が既に第19回、昨年の7月4日ですけれども、検討会で紹介させていただきました判例を再度記載しているところが大部分ですので、それについては御説明を基本的には省略させていただきます。今回は裁量が問題になった判決について、裁判所の審査の仕方ということで3つに分けてみました。分け方自体については、まさにいろいろな評価、御議論があるところと思いますので、これは1つの考え方ということでとらえていただければと思いますけれども、1つは裁量処分の主に結果に着目して中身がどうだったかという判断をしようという審査と一応分類できるのではないかというもので、重大な事実誤認があればということで問題になった在留期間更新に関するマクリーン事件の最高裁判決。
 それから、目的違反・動機違反というような形で、内容的に違法判断が可能ではないかということで問題になりましたのが、個室付き浴場に関する事件ということで、児童遊園の設置認可をほかの目的でしたということが問題になった事件で、事件自体は刑事事件と国家賠償責任の事件がございます。
 それから、平等原則が問題になった事件というのも、これは米の供出の個人割当の通知について御紹介させていただいております。
 それから、比例原則違反ということで、運転免許の事案と公務員の懲戒処分の関係で、そういった基準を立てて中身の判断をしている場合があるということでございます。
 次に今度はほぼ純粋な手続的な審査をしている例として、個人タクシー事件を掲げております。つまり、処分の中身がどうだったかというよりは、ちゃんと踏むべき手続を定めて、その手続を踏んで処分をしていたかということを審査するというやり方でして、この場合には、あまりにも手続をちゃんと決めないでやっていたのではないかということで、そういう場合であると処分が違法になることがあり得るという判断がされております。 
 2ページにまいりまして、今回、むしろ着目したいのはこの3つ目の類型でございます。裁量処分に至る行政庁の判断過程、判断のプロセスが合理的だったかどうかということに着目して審査をするというやり方でひと固まりあるのではないかというところでして、最高裁の判決として既に御紹介しているところでは、伊方原発事件と「エホバの証人」退学事件を挙げることができると思います。伊方原発事件では、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断がまずあって、それに基づいて行政庁が判断をしているということで、まず調査審議の段階の具体的審査基準に不合理な点があるかどうかという一段階を経ることになりますが、調査審議の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、被告行政庁の判断がこれに依拠されたと認められる場合には行政庁の判断に不合理な点があるということで処分が違法になる場合があるのではないか、こういう指摘がされています。
 それから、下の方の最高裁平成8年の事件、ここに挙げてあります要旨ですと、判断プロセスがちょっとわかりにくいのですけれども、第19回の資料4の方で、判決の原文を挙げております。31ページになるのですけれども、これでは高校の退学処分について「考慮すべき事項を考慮しておらず、又は考慮された事実に対する評価が明白に合理性を欠き、その結果、社会観念上著しく妥当を欠く処分をしたものと評するほかはなく、本件各処分は裁量権の範囲を超える違法なものといわざるを得ない。」、こういう言い方がされています。したがって、判断のプロセスで何を考えるべきだったか。考慮すべきであったものを考慮してないという、見落としといいますか、そういうものがないか、あるいは考慮すべき事項の考慮の仕方の重さといったものも問題になるのかもしれませんが、そういったものを判断プロセスとして見ていくというものでございます。
 こういった観点からの審査で、更に参考になる事例として、最高裁ではございませんけれども、下級審の判決を今回新たに2つ追加して御紹介させていただきたいと思います。3ページの上の方に要旨を掲げております2つの事件でございまして、1つは、東京高裁昭和48年7月13日判決で、日光太郎杉事件と言われているものでございます。建設大臣が土地収用法に基づき国立公園日光山内特別保護地区の一部に属する土地についてした事業認定を、土地収用法20条3号の要件を満たしていないのにされた違法があるということで事業認定が取り消された事例でございます。オリンピックがあるということで、そのための大きな道路、広い道路をつくりたいということで、日光東照宮内の杉の木を伐採して道路を広げようということで問題になったものですけれども、これについては、別紙で申し上げますと、5ページにございます。
 5ページで一般論を述べております。土地収用法の要件に関するものでありますけれども、太字にしてある部分で、「土地収用法は「公共の利益の増進と私有財産の調整をはかり、もつて国土の適正且つ合理的な利用」を目的とする(同法一条参照)ものであるが、この法の目的に照らして考えると、同法二〇条三号所定の「事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること」という要件は、その土地がその事業の用に供されることによって得らるべき公共の利益と、その土地がその事業の用に供されることによつて失なわれる利益(この利益は私的なもののみならず、時としては公共の利益をも含むものである。)とを比較衡量した結果前者が後者に優越すると認められる場合に存在するものであると解するのが相当である。」ということで、諸要素、諸価値の比較衡量に基づく判断をするのだということにしております。
 6ページの頭の部分にまいりますと、「この点の判断をするについて、或る範囲において裁量判断の余地が認めらるべきことは、当裁判所もこれを認めるに吝かではない。しかし、この点の判断が前認定のような諸要素、諸価値の比較衡量に基づき行なわるべきものである以上、同控訴人がこの点の判断をするにあたり、本来最も重視すべき諸要素、諸価値を不当、安易に軽視し、その結果当然尽すべき考慮を尽さず、または本来考慮に容れるべきでない事項を考慮に容れもしくは本来過大に評価すべきでない事項を過重に評価し、これらのことにより同控訴人のこの点に関する判断が左右されたものと認められる場合には、同控訴人の右判断は、とりもなおさず裁量判断の方法ないしその過程に誤りがあるものとして、違法となるものと解するのが相当である。」ということで、この事案に応じた判断をずっとされて、結果的には、11ページの下から12ページにかけてでございますけれども、「本件事業計画をもつて、土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものと認めらるべきであるとする控訴人建設大臣の判断は、この判断に当たつて、本件土地付近のもつかけがいのない文化的諸価値ないしは環境の保全という本来最も重視すべきことがらを不当、安易に軽視し、その結果右保全の要請と自動車道路の整備拡充の必要性とをいかにして調和させるべきかの手段、方法の探究において、当然尽すべき考慮を尽さず(1ないし3)、また、この点の判断につき、オリンピックの開催に伴なう自動車交通量増加の予想という、本来考慮に容れるべきでない事項を考慮に容れ(4)、かつ、暴風による倒木(これによる交通障害)の可能性および樹勢の衰えの可能性という、本来過大に評価すべきでないことがらを過重に評価した(5)点で、その裁量判断の方法ないし過程に過誤があり、これらの過誤がなく、これらの諸点につき正しい判断がなされたとすれば、控訴人建設大臣の判断は異なつた結論に到達する可能性があつたものと認められる。」というということで、違法だという判断がされている例です。
 もう一つの例も同じような必要な考慮ということで判断している事件で、二風谷ダム事件と言われているものですけれども、札幌地裁平成9年3月27日判決で、引き続きまして別紙の方ですと、13ページから別紙2でございます。
 これはダム建設工事に伴う土地収用に関する事業認定の問題ですけれども、ダムの建設によるアイヌ民族及びアイヌ文化に対する影響が考慮されなかった違法があるとしてされたということで、権利取得裁決及び明渡裁決の各取消請求について違法だと判断はしたのですけれども、ダムの工事が進んでいたということがありまして、いわゆる事情判決がされまして、取消請求自体は棄却され、主文において裁決が違法であるということの宣言がされたという事案でございます。一般論としては日光太郎杉事件とかなり共通した言われ方がされています。一番最後の結論のところは、19ページから20ページにかけてでございますけれども、19ページの下から4行目のところで、「本件において起業者の代理人であるとともに認定庁である建設大臣は、本件事業計画の達成により得られる利益がこれによって失われる利益に優越するかどうかを判断するために必要な調査、研究等の手続を怠り、本来最も重視すべき諸要素、諸価値を不当に軽視ないし無視し、したがって、そのような判断ができないにもかかわらず、アイヌ文化に対する影響を可能な限り少なくする等の対策を講じないまま、安易に前者の利益が後者の利益に優越するものと判断し、結局本件事業認定をしたことになり、土地収用法二〇条三号において認定庁に与えられた裁量権を逸脱した違法があるというほかはない。」、こういう判断がされております。
 先ほど行政計画の実体判断について申し上げましたとおり、法律が一定の考慮事項というようなものを定めていれば、裁判所としてはこのような考慮事項を考慮したかどうかという判断がやりやすくなると、そういうことは一般論として申し上げられるのではないかと思います。行政立法、行政計画のような裁量自体が基本的には広いと思われるものでも、その判断の仕方の1つの工夫としては、こういった事例を応用していくということもあり得るのではないかということで御紹介したところでございます。以上でございます。

【塩野座長】それでは、今日は、最初に説明をし討論の材料としたいと申しまして、行政立法、行政計画、そして裁量ということについて一応の御説明がありました。そこで、あと30分ぐらいを使いまして、この点について自由な意見の交換をしたいと思います。どういうことを議論するのかというのはなかなか難しい問題もございますけれども、前回の会議の私なりの了解は、今後、審議時間3回ぐらいしかございませんけれども、我々が重要な論点として考え、しかし、なお資料の収集等々が十分でないものについては、何か後世に残して、これからまた改めて議論することがあるときの貴重な参考資料としてもらいたい、そういったものができないかということで事務局にお願いしてはどうかという御提案を申し上げ、検討会の御了承を得たというふうに私は理解しております。
 そこで、今日これからの検討も、それぞれの御意見はあろうかと思いますけれども、できるだけ重点は、この資料をどういうふうにすればもっと豊富にし、あるいはもっと利用価値の高いものになるかというような角度からも御意見をいただければと思います。もちろんそれに付け加えて、自分はこの点はこう思うというふうな御意見もいただいてももちろん結構でございますが、1つの重点は、今申しましたような資料を豊富にするという点にあるということを確認させていただきたいと思います。
 そこで順序でございますが、「行政立法の司法審査」の方から入りたいと思います。先ほど村田企画官から、外国の話もございました。我々としては、なお、もし考えるとすると、こういういろんな難しい問題、特に訴訟についての訴訟手続について検討を要する点というのがありまして、せっかくアメリカ及びフランスの専門家が来ていますので、ちょっと外国の状況をアメリカ、フランスをかいつまんで御説明いただきたいと思います。原告適格の範囲から重複訴訟の範囲から全部ですと大変だと思いますから、気のつく範囲で説明していただきたい。まずアメリカの方から。

【中川外国法制研究会委員】先ほど事務局から御紹介いただきましたのは、いわゆる判例法上の司法審査訴訟というもので、何の規定がなくてもできるというタイプのものであります。これにつきましては、要するに何も規定がなくてもできますので、訴訟参加であるとか、あるいは判決の効力の問題についておよそ何の規定もございませんで、普通の民訴と同じように考えられている。訴訟参加はしたければする。それから出訴期間は特にございません。それから判決の効力もその当事者及び参加者に及ぶということであります。
 これが一般的に1967年以来認められてきた方法なのですが、それとは別に個別の制定法で、これこれの規則、行政立法については、何日以内にどこの裁判所に提起できるということを明文で置くような規定が増えております。この規定がある行政立法については、その出訴期間を超えてしまった場合は基本的にはほかの訴訟でも争えない。例えば行政立法に基づく違反者に対して行政処分があったときに、それを日本式に言えば、取消訴訟の中で先決問題として行政立法の違法ということはもう言えない、排他性があるかです。判例法上の司法審査訴訟で行政立法を争っているのだと、いろんな裁判所に行きます、全米で。しかも地裁から行きまして様々な判決が出てきますので、議会の方はこれは少しまとめた方がいいのではないかというので連邦高裁に限定して、そして出訴期間をつけて、しかも排他性があるというふうな規定を置くのが比較的はやっている。特に環境法関係をはじめとしてはやってきたというのがあります。
 個別の司法審査規定を置いた場合、判決はどういうものを出すのかというと規定がないことが普通です。司法審査ができるとしか書いてないので、そうしますと判決の部分は判例法上の司法審査と同じであろう。つまり基本的には違法の確認宣言判決、つまり確認判決です。宣言判決は強制力ありませんので、もし万が一確認しただけでは行政が言うことをきかないというような特別な事情があれば、強制する必要がありますのでインジャンクションをかける。インジャンクションに違反すると裁判所侮辱罪ということで強制力がありますので、こういうことが一応理論的にあり得るのですが、しかし、我々が普通見ている事件ではほとんどございません。普通は違法の宣言判決だけでございます。
 最近は議論としては、個別制定法上の行政立法に対する特別の司法審査規定を置く場合、あるいは判例法上の司法審査でも同じとは思うのですけれども、判決の仕方として違法宣言だけではなくて、違法とされた行政規則について、行政庁に差戻しをしてもう一回つくり直させると。それをもう一回裁判所に戻らせるということができないかということが学説上は議論され始めているようです。これは行政立法ではなくて、通常の行政処分の場合よくやる手法、かなり確立した手法なんですけれども、行政立法の場合にも広げてよいものかどうかということが議論をされているところでございます。これはまだこれからというところでございます。以上です。

【塩野座長】どうもありがとうございました。引き続きフランス法もお願いします。

【橋本外国法制研究会委員】フランスの行政立法の行政訴訟は、行政立法であるから、特別な仕組みがあるということではなくて、行政決定に該当するかどうか。それで侵害的な行政決定であれば、それは対象性は満たすし、原告適格は一般理論で判断するということでございます。ただ、この資料4の2ページというところにある行政決定の違法性をチェックすることが、行政裁判制度そのものの役割だと、こういう議論は、これはそもそもこの制度ができたのが第二帝政の時代で、その時代は行政裁判所の位置付けそのものが憲法上あいまいだったころで、それを正当化するために行政裁判所が民主的なコントロールを行うというような説明がされたということで、現在はもう少し技術的に考えられているのだと思います。
 説明としてあえて2つ付け加えますと、1つは、取消判決の効力については、フランスは対世効、エルガオムネスがあるということになっていますが、取消判決を出して、執行確保することをどういうふうにするのかというのが問題になるわけで、それが1987年の改革以降、取消判決の執行確保のために必要な措置というものを裁判所が言って、それで罰金強制、フランス語でアンジョンクシォン、インジャンクションと同じ綴りですけれども、この制度というのが新設されているということですから、取り消した後、具体的にどうするのか、小早川委員は指令判決の制度というふうに訳されていますが、そういうものができているということであります。
 それから、個別の法制度になりますけれども、都市計画法などの分野では、これは行政計画に近いのかもしれませんが、それは様々な多数の利害関係者が絡んでいるところにどんどん取消訴訟が起こせるということになって、これは当然いろんな弊害があるわけです。したがって、これは行政裁判法典の中に条文が入っておりまして、以前、訳しましたけれども、例えば都市計画法の領域では、原告が判決の効力が及ぶ訴訟の関係者に自分で通知をしなければいけないという制度があって、その通知した人にしか判決の効力が及ばない。しかも、それは多分、14日か15日か忘れましたが、2週間程度の間にちゃんと通知した人にしか、原告は自分で通知をしないと効果が及ばない、こういう特別な制度が実際には設けられているものもある。だから原告の側でちゃんと影響の及ぶ人を探し出して言っておかないとその他の人には判決の効力は及ばないと、そんなような制度もつくられているということを補足させていただきたいと思います。

【塩野座長】どうもありがとうございました。小早川委員の名前も出ましたが、何かフランスのことで付け加えておくことがございますか。あるいはフランスのことだけではなくてもどうぞ。

【小早川委員】いろんな点から既に触れられているのですけれども、行政計画もそうなんですが、従来の取消訴訟タイプの、侵害をはねのけてそれで終わりという、それではなかなか終わらないというところがある。広がりの面で、原告だけでなくて、ほかの人との関係をどうするか、その始末をどうするかということもありますし、原告との関係でも、その後をどうするのだという話があるわけです。ですからアメリカでも差戻しのそういうのが触れられましたし、フランスでも取消しの後の事後措置、執行確保の問題に触れられましたけれども、その辺、裁判制度だけでうまく仕切れるかというとどうもそうでもなくて、これは行政立法の実体法というのかどうかわかりませんが、制定権を持っている行政機関にどういう役割を負わせるか。今までですと、制定すると、後は知らんよということですけれど、国民の側から文句言われたときに、行政機関の側でどういうふうに受けとめるか、あるいは裁判所で違法とされたときにどういう後始末をすべきかと、その辺の総合的なシステムがやっぱり要るのかなと、そういう感想を持ちました。

【塩野座長】今のお話は、判決の効力の関係の後始末の問題でもありますが、それは新たな論点もあるかと思いますので、事務局で、今度資料をつくるときに、補充的にうまく入るかどうか考えてみてください。ただ、行政立法もそうですし、行政計画もそうなんですけれども、なかなか裁量の幅が広いので、ここをどうしたらいいかということがいろいろございまして、この点については、行政立法の手続について制度的な問題を考えてはどうかという御意見もこの検討会で出まして、それだけで示唆を受けたということではなくて、政府の方でもともと行政改革、特に規制緩和との関係も含めまして、行政立法の在り方について再検討したいというようなことで、たまたま今日新たに加わった藤井委員が、そちらの方の担当をしておられますので状況をちょっと御説明いただけますでしょうか。

【藤井委員】私より塩野先生が座長を務めておられますので、どちらが適切かという話はありますけれども、一応事務的に御説明させていただきたいと思います。
 御指摘のとおり、行政立法手続等の法制化という観点から、この4月から行政手続法検討会を開催しております。座長は塩野先生になっていただいているのですが、大体スケジュールとしては、今年の11月を目途に検討結果をまとめていただいて、私ども事務方としては、来年の通常国会にも所要の法案を御提案申し上げたいというようなつもりで作業を進めているところでございます。内容についてはまさに今議論の最中でございますので詳細は差し控えさせていただきますが、段取りとしては、この夏休み前に一応行政立法手続を考える場合にどういう論点を議論するべきかというような論点を整理していただきまして、その論点を専門的に検討するためのワーキンググループをつくっていただいて、ずっとこの夏休み期間中も含めて論点ごとにどういうふうに考えるべきかというようなことをお考えいただいて、その考え方について、何とか今コンセンサスなりを得ようというふうに努力していただいている最中でございます。そのワーキンググループの報告をもとに、この9月末から検討会の本体で議論を踏まえていただいて、全体の骨格とかそれぞれの項目の趣旨みたいなものを取りまとめていただければというところで作業をしているところでございます。多分、皆様方もこの行政立法手続の対象範囲なり、あるいは既存の制度との調整の問題がどうなるかというようなところが一番ご関心かと思いますけど、そこのところは、まさに今御論議しているところで詳細の説明は差し控えさせていただきたいと思います。

【塩野座長】大体そんなところでございますが、中身的には例のパブリック・コメント手続を導入したらどうかというところが中心になっていると。その辺のところはホームページ等々に載せているところだと思います。ただ、それをどこの範囲までかぶせるか、まさに今議論の最中でございますので御紹介する段階ではないと思いますけれども、手続的統制といってもいろんなやり方があり、今進めているのはパブリック・コメント手続の法制化という方向での議論が進んでいるということは御紹介できると思います。

【水野委員】先ほどちょっと質問した環境基準の処分性のところですけれども、確認訴訟の活用を図ろうではないかという方向で今回とりあえず処分性のところは進んだわけですけれども、やはり環境基準の処分性のケースなどを見ますと、どうしても権利義務とかの確認という構成が難しいように思われるのです。そういうケースもほかにもいろいろあるではなかろうかという気がします。この東京高裁昭和62年12月24日判決ですけれども、これを見ますと、37ページの一番最後のところですけれども、これは控訴を棄却し訴えを却下したのですが、下から4行目のところで、「もっとも」ということで、「公害の防止は法及び国民の悲願であり、環境基準が公害防止行政を推進していくうえで果たす重要な役割にかんがみれば、その設定又は改定は、できる限り広く国民の良識、意見を反映すべき手続を経て行われるのが望ましいことはいうまでもなく、基本法が定める環境基準の設定又は改定の手続には、法学上の見地からなお考慮すべき点がないとはいえないが、所詮、これらは立法政策に属する問題である。」と判示しています。つまり東京高裁は、これはやはり裁判所としては、違法性の有無について判断すべき重要な問題ではないかと思うのだけれども、結局、現状の法制の下では処分性なしと言わざるを得ない。立法政策として、つまり立法でそういうのが争えるということになれば当然認められる、こういう判断をしているわけでありまして、こういった行政立法についての訴訟制度というのを法定する必要があるのではなかろうかということを感じるわけです。今、行政立法について審議されていますが、パブリック・コメントの立法化ということが中心だろうと思います。できれば行政立法に関する新たな法律をおつくりになるわけですから、そこに一定の場合には訴訟で争えるといった条文を置いていただくということも併せて御検討いただければありがたいと思っております。

【塩野座長】そういう御意見があったことはよく承知しておりますけれども、ただ、ここの判決は、むしろパブリック・コメントをしっかりやれと、そういう趣旨ですよね、この部分は。それは貴重な御意見として承っておきます。

【芝池委員】ここでのこれからの話は、行政立法の訴訟について言いますと、一応導入の方向で検討する。ただ、それに関していろいろ問題があると思われるので、その点を検討して、将来にバトンタッチをするという、そういう役割ではないかと思うのです。もっとよろしいですか。

【塩野座長】どうぞ、そう思わない人もいるかもしれませんけれども。

【芝池委員】そういう考え方に立ちますと、まずもって問題になるのは、行政立法という用語を使うとして、その範囲でありまして、政令と省令は行政立法の中に入ると思うのですけれども、あと審査基準とか処分基準、更には通達、こういうものまで含めるかどうかという問題があると思うのです。他方で、恐らくここでは、また、了解ないと言われるかもしれませんけれども、法律そのものを争う訴訟は考えないということだろうと思っております。

【塩野座長】このペーパー自体は両にらみでいっているわけですね。両にらみという趣旨は、今度の改正法の運用いかんによって、これを徹底的にやっていただきたいということと、それから他方で、将来のことも考えて、今、御指摘のような形での論点ができるだけ多く積み重ねておいていただきたいと。さきほどの判決の効力でもう一遍行政に戻したらどうかというのも非常に重要な論点ですし、それから、今、芝池委員御指摘の対象というのはどういうふうにするかというのは難しいということもあります。それに、用語の問題ではありませんけれども、行政立法、行政規則とか何とかというのは、美濃部、佐々木以来の東京と京都の対立があるので、それをどう克服するかというのも大きな問題だろうとは思いますが。
 行政計画の点もどうぞ踏み込んでお話しいただいて結構だと思います。芝原委員、この検討会の出発当初から、芝原委員には行政計画についていろいろ御意見を賜りましたが、何か御意見があればどうぞお願いいたします。

【芝原委員】行政計画か、行政立法か、どちらも絡むのでしょうけれども、どちらにウエイトを置いて、こういう判断がなされているか、いろんな資料が出ていましたけれども、目的が重視されるのか、目的の下での目標、手段が判断基準として重視されるのかというあたり、そこをいろいろ見ていて、目標、手段にちょっとウエイトが置かれた判断の判例が多いという感じがしたのですが。私から見ると、行政立法あるいは行政計画というのは、目的があって、そのためのアプローチとして目標なり手段がいろいろある。そこには裁量性もいろいろあるだろうと思うのです。時代の変化の中で、目標とか手段はいろいろ技術の進歩とか環境の変化で変わる可能性はあると思います。その上にある目的が変わったら、それは行政立法なり、行政計画自体がある意味では用をなさないのではないかと思いますので、その時点でその計画ないし法律が本来だったら改廃の手続が要るのではないでしょうか。そのようなPDCAが、法律、あるいは計画にないから、そのままになって明治から残っていて、こういう形で判例が出てきたのでしょうけれども、その辺の仕組み、あるいは判断基準をどこに置くかというあたりがもう少し整理されれば、もうちょっとおもしろい資料となり、後々使えるのではないかという感じがしました。

【塩野座長】今の御指摘の行政立法改廃請求権というのは議論しているのですが、なかなか難しいお話で、法律には請願権というのがございますけれども、あれも特定の法律についての権利性を与えるという、そうすると弱いところにとどまっているのですが、行政立法についてそういうものをどういうふうに仕組むかというのはなかなか難しい問題があると思うのですが、特に下位法の目的が揺らいでいるような場合、先ほどの行政立法の違法判断が出た事例などを見ますと、重要な御指摘だとは思いますので、論点の1つには加えさせていただきたいと思います。

【小早川委員】関連してですけど、変更改廃請求権、私も前々から、それは1つのポイントだと思っています。先ほどの御説明の中でも、もともと違法なものもあれば、事情が変わってきて、事実が変わって、あるいは社会通念が変わって、法体系全体が変わってきたので、もう昔のはもたないよというのもある。現行法は、さっき言ったこととも連続しますけど、そういうときの行政機関がちゃんと事態の変化をにらんで機敏に対応するというアフターケアというか、メンテナンスの仕組みというか、その辺ができてないと思うのです。それが結局違法だから、というような、そういう訴訟の到来を期待するしかないというのが非常に危ないところだと思うのです。そこはもう少し国民の側から、パブリック・コメントはイニシアチブが行政機関の側にあって、そこに国民が意見を言うというわけですけど、これを何とかしてくれということを国民の側に、更には制定請求権でもいいのですけれども、少なくとも改廃、見直しの請求権みたいなもの、申立権みたいなものの仕組みが要るのではないか。訴訟もそれをベースにして考えていく方がやっぱりいいのかなという気はするのです。フランスは、あまりシステマチックに調べていませんけれども、ちょっと見たところでは、単純に行政立法の取消しを求める越権訴訟というだけではなくて、いろんなシチュエーションに応じて、この立法おかしいよということを行政機関に申立てて、それに対する答えをもらってから、それで行政裁判所に行くという仕組みがあるようです。もうちょっと調べていただく必要があると思うのですけれども。その辺、割ときめの細かい動作ができるような、そういうシステムが必要なのではないか。

【塩野座長】フランスの点については、行政立法手続の検討会の方で伊藤東大教授の御説明を受けて、大体同じ御趣旨の御説明がありました。何か文句言って、行政の方で拒否すると。その拒否を越権訴訟で争うという融通無碍なあれなんですけれども、大体そういう感じ、あまり難しい議論はしないのですかね。

【小早川委員】連続して、計画もそうだと思うのです。むしろ日本ではどっちかというと計画の方がちょっと進んでいて、都市計画あたりで計画策定の申入権みたいなものが最近ちょっと出てきているし、地方公共団体から計画の変更の申入れをするとか、そんなような仕組みも個別法ではいろいろ出きているので、その辺を全体としてそっちの方向に、日本の法体系を持っていけないかなという感じです。

【塩野座長】行政手続法と訴訟法と両方がかみ合わさるようなところでなかなか難しい問題だと思うのですけれども、論点としては非常に重要な論点が、行政立法手続の検討会の方でも出ていますし、こちらの方でも出たと、それは承っておきたいと思います。

【市村委員】この問題、非常に長い解説をしていただいたのですが、その中でやっぱりひと括りにできないのではないでしょうか。例えば、内容的にも手段、あるいは効果の面をつかまえてみても非常に多種多様なものがある。ですから行政立法にしても行政計画にしても、その一番の上位概念のところで、どうしたらいいという議論がなかなかやりにくいところだと思います。それぞれの個別的な部分は、無視せずに、それに応じてきめ細かく考えていかなければいけないだろうと思います。例えば、今の行政立法にしても、それを取り上げるといったときに、本来の行政に任せた趣旨が、小早川委員がおっしゃるように、メンテナンスを怠ったためにおかしくなってきたということはままあるだろうと思うのですが、ただ、それがすぐに違法の問題にまでつながるのだろうかという気がします。不当かどうかという問題というのはしょっちゅう出てくると思うのですが。ただ、司法判断にした場合には違法の問題としてつかまえられないといけないというところがありますので、今のようなものをケアしていくのに、まず司法が入っていくのがいいのか、それとも行政の内部手続の中でもう一回見直しをする、そういう装置をつくり、司法が扱うというのは違法に達するようなもの、これはかなり極端なものだと思うのですが、そういうものについては司法が出て行く。まず、そういうところの分担をよく考える必要があろうかと思います。司法に持ってくるといっても、先ほど御紹介のありました支部の廃止の判決にもありますように、本来的な司法の機能というのは、当事者間の具体的な権利義務あるいは権利関係の存否に関する紛争の解決を基本的な目的としています。司法という機能を使うというのであれば、どういう場面で、どういう働きを期待して使うかということをかなり考えなければいけないし、行政と司法との分担の問題としてもかなり徹底的に議論しなければいけないことだというふうに私は思います。司法が入ってくる場合の難しさとして、先ほど挙がっていますけれども、判決の効力を考えてみても、第三者効または対世効を与えるというところに踏み切るのには躊躇があるだろうと思うのです。そういうものだとすれば、先ほど御説明いただいたように、何月何日までに一斉にやって、これで言えなければだめですよというような、思い切りいい装置ができればいいのですけれども、なかなかそういうものは難しい。それでは訴えた当事者間だけ解決するとなったら、果たしてそんな段階でやる必要があるのかということにもつながってこようかと思います。つまり、使い勝手よく司法がそこに入って行って、本来の救済がやれるかということをよく考えてみる必要があると思うのです。
 そういうことで、多少問題があると思うのですが、取り上げるときに行政立法あるいは行政計画というふうに全部やるのではなくて、ある具体的なものについて、例えばそれを規定している個別法において少し改善していって、これはこういう仕組みでやれたらどうかというふうにかなり絞り込んだ議論をしないで、一般的に議論すると、あんな問題があるというふうな反撃にあってなかなか前に進まないだろうと思います。そういうことで、一番取り上げやすそうな行政計画なり、行政立法を取り上げてみて、それを議論で深化していくという方法がいいのかなと考えます。

【塩野座長】どうもありがとうございました。いろいろまだ御議論もあろうかと思いますけれども、今日初めてこれの御説明があったので、次回もございますので、あと重要な問題として団体訴訟が残っておりますから、もしよろしければ団体訴訟の説明を伺って、裁量の問題が残っておりますけれども、これはまた次回でもと思います。それでは、団体訴訟の件についてお願いいたしましょう。

【村田企画官】それでは資料4−1から順次御説明をいたします。この資料4−1から4−4は、冒頭にも御説明いたしましたとおり、国民生活審議会消費者政策部会にあります消費者団体訴訟制度検討委員会というところで消費者団体訴訟制度の検討が行われておりまして、そこで用いられた資料をこちらでも使わせていただいているというものでございます。
 まず資料4−1ですけれども、消費者という個別の切り口の問題はなるべく省きまして、一般論としても参考になるのではないかという点になるべく重きを置いて御説明したいと思います。まず資料4−1の9ページを御覧いただきますと、これは消費者ということになりますけれども、団体訴訟がどのようなことで必要になってくるのかということで、個人での対応の困難性が挙げられております。9ページに2として「消費者個人による対応の困難性」ということが枠囲いでございますけれども、3つの指摘を大きく分けてございます。被害を受けた消費者個人が訴えを提起することはなかなか難しい面が多いと。その理由としては、被害額が訴訟費用等に比べて少額なことが多い。あるいは訴訟に関する専門的知識や十分な財政基盤がなく、時間的負担も大きいこと。訴訟において一般消費者個人が立証をするのは困難というような事情があるのではないか。それから2つ目の大きな指摘としては、被害の拡大を未然に防止するための差止めについては、なかなか現行制度の下では違法・不当な行為の差止訴訟を提起するのは困難なところがあるのではないかという指摘。それから、消費者被害をはじめとする同時多数被害を集団的に救済するための訴訟形態としては、現行法上、共同訴訟、選定当事者制度があります。しかし、共同訴訟は、あくまで被害を受けた消費者個人が複数人で訴訟を提起する形態にすぎず、選定当事者制度は複数の被害者が、その中から1名又は数名を当事者として選定するものであって、いずれも個人による訴訟提起の困難性を根本的に解決はしてないのではないかということです。ここでも指摘が出ておりますけれども、集団的な形での訴訟として現行法上の制度とこの団体訴訟の制度を比較するとどういうことになるかということですが、文章では11ページにそれぞれ現行のあり得る制度の説明がございまして、12ページ、13ページに図がございます。その図を御覧いただければと思うのですけれども、まず12ページの上の方の共同訴訟、これは基本的に個人が個人で訴えられるのだけれども、たまたまといいますか、何人かまとまって訴えを起こしているということで、複数の原告が関与している訴訟を1つの訴訟手続で行う形態で、当然個々の原告がそれぞれ独自に請求権を持っているということが前提になります。それから、真ん中の箱の選定当事者制度ですけれども、これは共同の利益を有する者の中から、全員のために原告になる人を一人あるいは数人選びまして、その選ばれた人が、自分と選んでくれた他人のために当事者として訴訟を行う制度で、訴訟関係を単純化できるというメリットがあるのですけれども、前提はそれぞれ選んだ側の個々の個人もそれぞれ独自に請求権を持っているのだということが前提になるというところです。
 それから、参考までに12ページの一番下にクラス・アクションの制度が挙がっております。アメリカで用いられていて、ほかの国でもいろいろこの応用編はあるようですが、この場合には多人数による集団のことをクラスというふうに言うようでして、利害を共有しているときにはクラスの代表者として一人ないしは複数の人が訴訟の当事者となる制度なのですけれども、基本的に我が国の選定当事者のように選ぶ、選定してこの人に訴訟遂行権を与えるという、そういった手続がない、不要とされておりまして、逆に自分はこのクラスの構成員にはなりたくないということを積極的に拒否しない限り、判決の効果が同じ利益を持っている人たち全部に及んでしまうと、こういう制度と理解できると思います。
 これに対して団体訴訟のイメージがどうなるかというのは13ページの下に図がございますけれども、3面といいますか、カードが3つ出てくることになりまして、被害を受け、あるいは受け得る消費者というのがいて、これに対して適格のあると認められる消費者団体が消費者全体の利益のために訴訟を起こす。個々の一般消費者から団体に対しては委任、代理とかそういった関係がなくても団体側は訴訟を起こせる。その前提としては、事業者が何か不当なことをしようとして、被害を受けるのは消費者なんだけれども、消費者のために、ためにというところがまたどういう意味かというのが問題になるのですけれども、この消費者団体が差止請求や損害賠償請求などの訴訟を起こすとこういうイメージになるものです。現行の制度と比べたイメージとしてはそういったところになります。
 それで、どういった点が今こちらの検討されている中で検討事項、論点に挙がっているかというところで、この資料の19ページを御覧いただきたいと思います。19ページから20ページにかけてが主な検討事項として論点が挙がっておりまして、まず1つ目には訴権の内容、どんな訴えを団体に認めるのが適当かということで、考えられる訴権の例としては、契約の約款というのがありますけれども、そういったものの不当な条項を使うなということで、使用の差止請求をするというようなこと。あるいは契約をさせるために不当な勧誘行為をしてくる。これをやるなということで差止めをする。そういったものが考えられるのではないか。その他と挙がっておりますけれども、ほかにもジュース訴訟で問題になりましたような表示ですとか景品ですとか、そういったものについての差止めということも考えられますし、更には差止めに限らず損害賠償を団体が消費者一般のために行使するということもあり得るのではないか、こういったことも議論はされているところです。しかしながら、訴えを起こせる中身を広げますと、それに応じていろいろな手続的に考慮すべき事項というのもどんどん広がってまいりますので、ここでの議論は基本的には契約約款、あるいは契約条項の不当な条項の使用の差止請求に基本的には焦点を当てて議論していこうではないか、こういうようなことになっているところと伺っています。
 それから、2番目の問題点が適格団体の要件、どういった団体にそういった権限を付与すべきかということで、活動目的、活動実績、存続期間、いろいろな観点から団体の適格性を判断する要件が要るのではないか。(2)と書いておりますが、一定の要件を設定するとして、その要件を満たしているかどうかというのを誰がどうやって判断するかということが、これまた問題になっておりまして、考え方の大きな分かれ目としては、訴訟を起こせる団体ですということを行政官庁が事前に認可などの形であらかじめ決めておくという考え方と、そういった手続はなしで、裁判所によって事件ごとに、まずは訴えを起こして、その事件ごとに団体が適格があるかないかを判断したらどうかと、こういう2つの考え方に大きく分かれているという状況でございます。この点については、更に後でもう少し詳しく申し上げます。
 20ページにまいりまして、制度運営上の諸問題とこういった論点も挙げられております。ただいま議論いただきました行政立法、行政計画に出てきたところと共通するところが大分あるのですけれども、まず判決効をどこまで広げるのかという問題。更には、同じ契約の約款でも、ある団体と違う団体とがそれぞれ別に訴えを起こしたときにそれをどうコントロールするのか、こういった点が挙げられております。こちらは民事訴訟制度一般を前提にしておりますので、判決効は勝訴、敗訴問わず当事者間だけというのが原則ですが、それに対して判決の実効性確保、あるいは濫訴防止の観点から一定の例外を設けるべきだというようなことが考えられています。また、申し上げたように複数の適格団体がある場合に、同一の事業者に対して同一の事案について、同時に複数の団体が訴訟を起こすということは認められるのだろうか、それとも認めるべきでないのか、こういった点が問題になっています。それから、判決の公表の制度は不要だろうか、導入すべきか、こういった議論がされているところです。強制執行制度、例えば事業者がそういう契約約款を使ってはいけないということで判決が出たとして、それになかなか事業者が従わないときにどうやって強制執行するのか、そういう点で何か制度が要るかどうかというところも論点として挙がっています。更には団体の利益をどう考えるか、あるいは消費者の利益との関係をどう考えるかということにもよるのですけれども、訴額の算定、更にはこれは訴訟費用になってくるわけですけど、それをどういった形で算定すべきか、何か特則が要るのではないだろうかというようなところが挙がっています。その他いろいろ訴訟手続に絡む問題の指摘もされているところです。
 これらの今申しましたところが大きな論点なんですが、これを今順次論点を更に掘り下げているという作業がされている途中でございまして、その途中経過で出されている資料が4−2、4−3、4−4です。まず資料4−2を御覧いただきますと、その2ページ、先ほど申し上げた訴権の種類の話がございまして、どういう訴えをさせるかということを考えるに当たっては、その必要性がどこにあるのかということを考えるべきではないかということで、その判断のためには、枠囲いの中の(3)というのがありますけれども、その中に①、被害の実態や特徴からみてどのような請求権を導入する必要性があるのか。②として、民事訴訟によって対応をしうるのか。一般の訴訟でどこまで対応できるのかということから必要性を考えるべきではないかというような観点から論点が掘り下げられています。この点については、この資料の6ページを御覧ください。「請求権についての検討」として若干の整理がされています。「差止の必要性」ということで、(2)の①に記載がございますけれども、少額、多数被害だというようなことで、初期の段階で被害の拡大を防止する必要があるのではないか。そのためには差止めが効果的ではないか。片や差止めというのはなかなか普通の民事訴訟では認められにくいのではないだろうかというようなことがあって、この検討委員会では、消費者団体訴訟制度における訴権の種類としては、まずは差止請求権を検討しましょう、こういうようなことになっています。ただ、このときに(4)で指摘がされていますけれども、その差止請求権の保護利益というのをどう考えるかということで、これまた大きく議論が分かれ得るところだという指摘がされています。消費者全体の利益を保護する制度なのだという考え方、それから消費者団体自体の利益を保護するものなのだという考え方の整理で、それが個別の手続などの制度設計に反映する部分もあるのではないかということで、両方の考え方が出されているというところが御指摘できるところです。これはなかなか一般消費者の方に利益があって、それだけで団体が訴訟遂行するとなると、その架け橋になるものは何かという議論で非常に訴訟法上も難しい。訴訟担当とかというような訴訟を任せるような何かが要るのではないかということも議論されるところですが、それは法律で定めるからいいのだと考えれば、それまでですけれども、それはなかなか難しいということになると、団体自体に自分の利益があるのではないかということを考えよう。その利益の内容というのは何だろうかと考えよう、こういうようなことも議論されているというところです。
 次は、資料4−3ですけれども、この検討委員会でヒアリングをされて各団体からいろんな意見が述べられております。それから、もう一つは、委託調査の形で海外の制度の報告がされていますので、それについて御参考にしていただければということで詳細は省略させていただきます。
 資料4−4ですけれども、これが適格団体の要件等、それを誰が判断するかという点について論点を掘り下げているところです。この資料の7ページを御覧いただきますと、要件を設定する必要性がどこにあるかということで、その意味は3つぐらいあるのではないか。(2)の枠の中の②というところがございます。その団体がちゃんと利益を、消費者なら消費者の利益を代表しているかどうかということを見定める要件が要るのではないか。そのために団体の目的や活動実績、規模、相手にする事業者団体から独立しているか、そういったあたりを見る必要があるのではないか、ということが言われています。
 もう一つの観点は、訴権の行使をするだけの基盤があるか。組織的な基盤、法人格が要るのか、要らないのか。それから人的基盤としてどの程度の基盤が必要か。財政基盤がないとなかなか訴訟遂行というのはできないのではないか。組織の体制はどうなっているか、こういったことを見る必要があるのではないか。更には、事業者に対して一定の交渉をし、更にはそれが訴訟に発展していくというようなことを考えると、これを制度として暴力団等が悪用するということも考えられるので、そういう弊害を排除するためにはなにがしか要件が要るのではないか、こういった議論がされているところです。
 それに対しまして、1つ外国の例を若干紹介しているところを挙げますと、この資料の30ページを御覧いただきますと若干のイメージになるかと思うのですけど、「ドイツにおける消費者団体訴訟制度の運用の一例」ということでイメージですけれども、事業者が不当な約款を使用しようとしている。個々の消費者が法律相談に来る。これを事前にその適格消費者団体が連邦管理庁という行政機関に対して登録をしておいて、登録を受けた団体が、相談に来た中から事件を選んで、事業者に対して、そういう不当なことをしてはいけないということで警告状を送る。それで不当な条項が削除されたりということで直ればいいわけですけれども、その事業者がそんなことはない、と言って拒否をするということになると訴訟提起をするということで、更に勝訴判決が出た後、それをどうやって実効性を確保するかということで手続が流れていくということになっておりまして、こうなりますと、訴訟のことだけではなくて、事前の警告状の送付やあるいは事業者との交渉という場面が出てまいりますので、なかなか訴訟の場面だけ考えればいいというものでもないのかなというところが浮かび上がってまいります。そうするとそのために事前交渉を容易にするためには、場合によっては、かえって行政機関に登録をしてある、あるいは認可をされているといったことが交渉を有利に進める材料になるのかというようなこともあり得るわけです。そういった観点も含めて、この適格団体をどうやって判断するか、あるいは誰が判断するのかというところの議論がされています。
 36ページを御覧いただきますと、誰が要件を判断するかという議論ですけれども、一面において、裁判所が個々の事件ごとに適格性を判断する方法というのは、訴えの提起の時点に制限がない。すなわち事前に登録、認可なりをしておく必要がないことから即応性、迅速性はあるのではないかというメリットもある。しかしながら、個別の訴訟ごとに争われるわけになりますと、非常に制度の安定性を損なうのではないかという指摘もあります。いろいろ導入している国が多いEU諸国などを見ますと、あらかじめ行政機関が適格要件の適合性を判断する方法が一般的ではないかというようなこともあって、基本としては、行政官庁の認可なりを事前に置く制度がよろしいのではないかというような議論がだんだんされているところではあります。
 しかしながら、39ページを御覧いたたきますと、枠囲いで(その2)という応用編があるのですけれども、そういう行政機関があらかじめ判断するにしても、例外として登録は受けてない、あるいは認可を受けてないけれども、個別のこの事案については、自分が遂行したいということで、団体が訴え出て、それを裁判所がいいと認めればいいではないかというそういうルートも併せて認めたらどうかという議論、主張もあり、それを認めると認可制をとった意味がないのではないか、こういったような議論もされているところでして、なかなか非常に難しい議論になっております。
 若干、付言させていただきますと、この資料戻りまして29ページを御覧ください。これはイメージ図になっているのですけれども、事業者と団体と消費者という3つのことになるわけですけれども、この場合でも、これに行政機関がどう絡むかというところがあるわけで、消費者の場合は、消費者団体に対して登録、あるいは認可を与える。更には情報提供を与える。場合によっては財政支援をするということもあり得るかもしれませんが、消費者団体のバックに行政がいるようなイメージもある意味とらえることが可能なのですが、これをそのまま行政訴訟に持ってこれるかということになると、これはまたこれで難しいところがあるのではないかと思います。すなわち行政訴訟でも当然事業者がいて団体がいて、一般の国民がいてということはあり得るのですが、場合によっては事業者と書かれているところに行政官庁が登場するという構図が1つあり得るわけですね。更には事業者がいて、事業者側のバックに行政庁がついているという構図になるものも行政訴訟にはあり得るわけで、そういうときに団体の認定を事前に行政官庁が行うのかと。同じ行政官庁か違う行政官庁かにもよるかもしれませんけれども、かなり利益状況が複雑になってきて、なかなかその場合、団体自体が行政官庁による認可という制度自体を果たして好むであろうかと、こういった問題も出てくるのではないかと。行政訴訟に応用するに当たってはそういった問題の検討も必要ではないかと思われるところです。いずれにしても、この差止請求というものに限って考えたとしても非常に問題点の広がりは大きく、これは訴訟手続的な事項の検討はまだまだこれからなんですけれども、判決効といったあたりになると、差止めだから当事者相対効でも実質ほかの人のためにもとまるのではないかとか、いや、そんなことは言えないんじゃないかといった話になってくると複雑なわけですけれども、差止めに限らずもっといろいろな訴訟類型、形態、行政訴訟でも運用していこうということになるとなおさら話が複雑になってくるという面はあろうかと思います。
 それから、資料4−5「団体が問題となった裁判例」を若干御紹介いたします。資料4−5の1枚目を御覧いただきますと6つ挙げておりますが、学校の廃止処分を反対する学区内の住民、これは子どものいる保護者ということになると思いますけれども、が団体をつくって訴えを提起した。これに対して、判断としては、団体固有の利益というのはないではないか。しかし保護者であれば個人の資格で訴えることはできるのではないか、こういう判断がされた事例です。
 2番目はボーリング場の建設訴訟を目的として付近住民が団体をつくったのですが、団体自体も集まって、また団体をつくった。こういう場合ですけれども、これも団体固有の利益とは何ですかと。それは認められないのではないでしょうか。しかしながら、ボーリング場建設における被害を受ける個人は、法律上の利益がありますねと、こういう判断がされておりまして、これらの事例では、必ずしも団体という枠組みがなくても個人でも訴訟遂行というのは考えられる事案だということが言えると思います。
 3番目に挙げておりますのは原告適格のところでも御紹介しております主婦連ジュース訴訟でして、これになりますと、ジュースという表示が不当だといったときに、その表示がおかしいということに気がついている人は飲まないのですけれども、気がついてない人は飲むと。そこがずれているところを手当てするためには、気がついている人が気がついてない人のために訴えを起こすシステムが要るのではないかという見方もできるわけで、ある意味で、そういう団体訴訟という枠組みが1つの方法としては考えられると言えるかと思います。
 4つ目に挙げておりますのは線路の増設工事に反対する地権者らが団体を組織したということで訴えたのですけれども、ところがなかなか組織規約もなくて、本当にちゃんとした組織なんですかということで、訴訟を起こすためには必ずしも法人格がある必要はないのですけれども、権利能力なき社団として一定の組織的な定めがないと認められないのですが、それだけの組織にはなっていませんということで、当事者能力という段階で否定をされてしまった事案です。どういうふうな組織の組み方をして、初めて団体として認めていくかということが問題になろうかと思います。
 それから、5番目が、これも原告適格で御紹介しております伊場遺跡訴訟でございまして、団体が訴えたという事例ではないのですけれども、学術研究者が自分の利益のためということももちろんですが、それ以外に一般国民のための利益も代表して訴えているのだというご主張もされたのですけれども、それが認められなかったという事例でございます。
 最後は、アマミノクロウサギ訴訟と言われているもので、ゴルフ場の開発が進むと貴重な種が絶滅してしまうのではないかと。しかしながら動物が訴えるという途はありませんので、環境団体あるいは個人の方がアマミノクロウサギこと○○というような形で訴えを提起したということで話題にもなった訴訟ですけれども、原告適格が認められなかったという事例です。この判決については、最後に17ページ、18ページの「終わりに」として判決の中で付言がされていて、現行の枠組みの中では難しいのだけれどもということで裁判所が言っていることもある。こういう判示がいいかどうかというのはいろいろ議論があると思いますけれども、御紹介申し上げるところです。
 そういった形で、遺跡とアマミノクロウサギの事例の場合には、誰が訴え出るかというと、訴え出る人がなかなか想定しにくい場面というのもあろうかなというところです。行政訴訟において、その団体という枠組みがどういったところで必要なのかというのは個別に見ていく必要があるのではないかと思われるところです。
 それから、外国の点について簡単にふれますと、資料8でございまして、資料8の2ページ目を御覧いただきますと、アメリカとフランスについては、個別の制度ももちろんそれぞれあると思うのですけれども、一般論としても訴えの利益というレベルの段階で、団体であっても柔軟に原告適格が認められている場合があるのではないかということです。これに対してドイツの場合には、個別の制度でもって手当てをしていて、そもそもの始まりは不正競争の防止というようなところから始まって、最近では自然保護の関係でも、連邦レベルで団体訴訟の制度が導入されたという紹介がされているところです。以上でございます。

【塩野座長】大分時間も経ってまいりましたので、これについて、深い意見の交換ということはなかなかできにくいかと思いますけれども、次回、また時間がございますので、今日は資料的なことについて、こういった点をもう少し用意した方がいいとか、今日是非意見を言いたい点があれば、どうぞおっしゃっていただきたいと思います。行政訴訟固有の問題は今日そういった口頭での紹介がございましたので、これはこれからの御相談でございますけれども、次回の資料といたしましては、今日いろいろ出た御意見を入れた論点も含めて、それから、また事務局で新たに発見した資料、あるいは委員の方から、こういった資料、判決があるではないかとか、文献として、これはやっぱり欠かせないのではないかというような点があれば、事務局の方にお渡しいただければ、できるだけいい資料を次回に御披露して、そして、次回は論点の追加、あるいは資料の追加ということもさることながら、どういうふうにこれをこの検討会としてまとめていくかという点にも重点を置いて御議論をいただきたいというふうに思っております。この団体訴訟制度について、特に今日御発言があれば承りたいと思いますが、何かございますか。

【福井委員】団体訴訟ですけれども、4−5の判例等についても、個々に問題になり得ると思いますが、要するに主観的利益を守るのか、あるいは一種の主観的には成熟度が低いけれども、何らかの形で訴訟対象に拾い上げるということを考えるのかという、その前提のところをある程度整理して議論できるようにした方がよろしいかと思います。もし、例えば主婦連ジュース訴訟などにしても、成熟度の問題として団体訴訟とかクラスアクションというようなやり方でなくても、そういう場合に表示を争うことができるような立法上の措置があれば、それはそれで独立の民衆訴訟になり得るわけですから、そういう途でいく場合と、団体訴訟を認める場合とでどう違うのか。どちらにどのような特質があるのかという比較は有意義だと思いますので、そういう観点も入れていただきたいと思います。

【小早川委員】福井委員は非常に理論的な言い方をされたのですけれども、私は制度的に言うと、先ほどの御紹介の中で、団体の差止請求権の保護利益は何だと、団体自身の利益なのか個々の消費者の利益なのかという話がありました。解き難いアポリアみたいでもありますけど、情報公開、これまた塩野先生と意見が違うかもしれませんが、情報公開の開示請求権というものは、結局立法政策的につくったわけです。憲法上要求されているのかもしれませんけれども、本人の経済的利益あるいは人格的利益どっちかで普通権利というものを認めるのでしょうけれども、一応それを切り離しても、こういう請求権を法定すれば、世の中良くなるよという、そういう政策判断で、かつ、それがそれほどの弊害があるかどうかということもチェックした上で、そういう請求権を法定してしまえば、別に経済的ないし人格的利益の基礎と直結しなくても、それは訴訟の対象になる、そういう権利の主張は法律上の争訟にも当たるのだというふうに話が行くわけです。思いついているのは情報公開だけなのですが、ほかに現行法でそういうたぐいの公共政策的な請求権の設定という例がないのかどうかということがもしデータとして出てくればいいかなと思います。ただ、それはいずれにしても、そういう個別の分野での政策判断の結果、そういう選択をするということでしょうから、結局個別法の話なのかもしれませんが、そういう方向と、個別法を待たずとも行政訴訟一般法でどこまで認めるべきか、そこは両にらみで議論していった方がいいとは思います。

【塩野座長】お二方の御意見も、要するに団体訴訟で、これは民民の間の問題ということで今どんどん進んでいるけれども、行政訴訟あるいは行政とそれが絡んだ紛争としてこれをカバーする場合にどういう点に注意しなければいけないか、そういうお話でございまして、今日はその種のペーパー、言葉としてはありましたけれども、ペーパーとして出ていませんでしたので、事務局の方、その点は多少整理していただけますか。御披露するに熟する程度においてで結構でございますけれども、検討はしていただきたいと思います。

【福井委員】さっき事務局が口頭でだけおっしゃった論点にも関わるのですが、利益状況が民事の場合と行政の場合と相当違うと思います。まさに認可とかが介在すると民事以上に危ないことが起きるという気もしますので、それもどういう利益状況の違いがあるのかなどについて、できれば資料にしていただいた方がよくわかると思うのです。

【塩野座長】ちょっと短い時間でございますので、どの程度できるかわかりません。できれば積極的にアイデアも出していただければと思います。成川委員、計画の方に戻っていただいても結構ですが、今日ずっと聞いていただいて何か御感想があれば。

【成川委員】十分考えてないのですが、このまとめ方ですが、私、前回欠席しているのですが、行政訴訟検討会の当初の趣旨で、国民の権利擁護なり、あるいは司法と行政の関係のところをより改善すると、こういう趣旨であったと思いますので、今までのこの分野において、何が国民の権利擁護なり、行政と司法の関係で、そういうベクトルから見たときにどういうところがまだ残されていて、どこを考えなければいけないかというふうな点で、論点なり問題点は出ていると思うのですが、まとめ方で少し読んでもらう方に、こういう視点から見ると、ここがまだもう一歩検討を深めなければいけませんねと、こういうふうな最後のまとめのところで、私なんか読んでも、課題はここにあって、どういうふうな方向での課題ですねというふうな点のわかるような、是非まとめをお願いしたいと思います。

【塩野座長】どうもありがとうございました。たしかにおっしゃるとおりで、これだけぽんと国民にホームページに出しても何のことかわからないので、どういう趣旨のペーパーかということを我々に託された国民の権利利益の実効的確保という点から見て、こういった重要な論点として4つ挙がっているわけでございますけれども、なぜ4つを挙げたかということも含めまして、国民の皆様に御理解いただけるような形のペーパーができたらなと思います。ただ、私も今日その辺の議論で、もう少し詰めた議論、あるいは議論が出たらば次回にそのペーパーをお出しすることも可能かと思ったのですけれども、今日はまだそこまで行っておりませんので、事務局としてはどうですか。

【小林参事官】これまでの議論の中に、例えばそういう御指摘があればそういうものを探すことも考えられますので、成川委員の御指摘はまさにそのとおりだと思います。

【塩野座長】そうですね。国民向けのペーパーにするにはどうしたらいいかということで、事務局としては今までの御意見も踏まえまして、こういう形でまとめてみましたというペーパーを次回お出ししてよければ、そういう形で努力はしてみたいと思いますけれども、よろしゅうございますか。

【水野委員】それに関連して。成川さんがおっしゃったのに賛成なんですが、成川さんがおっしゃっているのは、今日議論した4課題だけなのかどうかちょっとよくわからないですけれども、まず私が申し上げることを前提として少し御報告しますと、国会で継続して検討しろという附帯決議があったことは御案内のとおりです。今日席上に配布していただいていますけれども、1つは「国民と行政の関係を考える若手の会」という自民党の国会議員を中心とする議員さんの会が、この行政訴訟の改革の積み残し課題の検討と、それ以外のもう少し幅を広げて検討していくべきで、そのための組織をつくるべきだという提言をしておられる。それから、本日付けで日弁連も同じような提言をしておりまして、これも席上配布させていただいております。それから、先日、9月8日に司法制度改革推進本部の顧問会議が行われまして、その席で佐藤座長が、「今般の司法制度改革で行政訴訟制度の改変に向けて重要な進展があった。しかし、なお、残された大きな課題がある。これらの課題は、司法制度改革の枠をも超えた行政そのものの在り方、当時の構造、課題の在り方にも関わる。これは行政改革以来の重要課題とされてきたものであり、今後この課題に取組む体制が早急に整えられることを期待したい」というふうにまとめられました。これを受けて野沢法務大臣も、「行政訴訟関係はまさに司法制度改革の枠を超えて内閣の重要課題であるので、それに対する御提言、御意見がいただければ努力していくのでよろしくお願いしたい。」と述べられたと伺っております。こういった状況を見ますと、今回の行政訴訟検討会では、我々なりに非常に努力して一定の成果は上がったと評価をしているわけでありますけれども、当然積み残しの課題がある。更にはそれをもっと広げた形で行政全般にわたるいろんな検討をしていく組織が必要だと、そこまでの提言がかなり出てきているのです。そこでこの検討会の、残された数回の議論の仕方というか、まとめ方なんですけれども、これまで我々が3年弱にわたって検討してきた結果、今回の行政事件訴訟法の改正で実現した課題はそれでいいのですけれども、積み残しの課題を一応整理しまして、それで我々は議論してきた結果、これだけの課題がやはり積み残しとしてあると。できれば、その課題について、もし意見がある程度一致するのであれば、改革の方向性もある程度示した上で、この検討会の最後の置き土産というか、次の第二ラウンドに引き継ぐためのペーパーとして残すということが今後のためにも有益ではないか。そして国民からもそれが期待されているのではないかというふうにも思うわけであります。それで、事務局には大変御苦労なんですが、できましたら、この4課題だけではなくて、そういった観点でまとめていただくことはできないだろうかと思いますので、よろしくお願いしたい。

【塩野座長】今のは御意見として承りたいと思いますけれども、ただ、前回も皆様方とお約束したように、我々が検討会が終わった後に、また、改めていろんなことが出てくる可能性もありますけれども、今後の検討にしていただくときに重要な何か土産物はないかということで、この3つの点あるいは4つの点に絞って、これについてはこういう資料を後の世代の方に提供いたしますという意味で、残り少ない時間でございますけれども、非常にエネルギーを使っていただいて、事務局でこんな立派なものができ、また次回もこれについて更に深めるということがございます。ですから私としてはとにかくこの作業を完成させなければいけないと思っております。それは検討会の皆様の御了解を得たものであるというふうに思います。しかし、まだ、ほかにもいろいろあるではないかという御指摘は、水野委員の御指摘のとおりでございまして、それは、ただ、皆さん方が、自分はこれだ、自分はこれだというのがありますので、検討会としてこれが重要だという形で拾ったものではないという議論も出てくる可能性がございます。そういう意味で、最低限、主要論点からどういう形で今度の改正案に残った、あるいは考え方ではここのところもある、たたき台ではこういう形だということの資料は、なかなか時間の関係もあるのでそこまでお願いできるかどうかわかりませんけれども、事実の問題は整理はするということはお引受けできると思います。事実は事実でございますので。その上に立ってどうするかというのは、また次回でも最後の機会にでも御意見、御議論をいただければと思います。
 それでは先ほどちょっと申し上げたところですけれども、事務局なりに今日の御議論、今までの御議論を踏まえて、この資料についての国民に対するメッセージみたいなものの資料、簡単なものをつくってよろしいかどうかということでよろしゅうございますですか。
(委員から異論なし)

【小林参事官】努力をいたします。

【福井委員】前の論点でちょっと補足、よろしゅうございますか。立法、計画のところです。1つは行政計画に関する判決の効力の問題ですけれども、計画を直に争う場合でも取消訴訟、確認訴訟がある。計画を前提問題とする場合でもいろんな類型がある。さらにそれぞれに勝訴、敗訴というようなことで、場合分けをするといろんなケースがあるのですが、これは今度改正された法案の下でも判決の矛盾抵触などの問題がいろいろありますので、改正法を前提にしても確認訴訟が活用されるようになった場合に、どういう場合にどういう問題があり得るのかという点を樹形図のように整理していただいて、それも頭の整理としておきたいという気がいたします。

【小林参事官】これはそうかもしれませんね。

【塩野座長】そうですか、ではやってください。

【小林参事官】できるかどうかはちょっと、論点はそのとおりだと思います。

【福井委員】これは行政立法のところの5ページで引用されている判例に関わるのですが、ラブホテル建築条例に関する議論に関連してなのですけれども、別途最高裁で行政上の義務履行で、条例上の非代替的作為義務は直接の法律上の争訟じゃないから争えないというのがございましたが、それとの関係でちょっと頭の整理がしづらい点があるのです。例えば、この事件でいうと、除却義務がないことの確認というような議論がある旨紹介されていますけれども、除却義務があることの確認を行政庁は私人に求められるのか、あるいは除却義務があることを前提にした除却という給付を求めることができるのか。それと最高裁判決の射程との関係が大変わかりにくいという気がしますので、それも可能な範囲で整理ができればと思います。

【塩野座長】実態自体がわかりにくいので、わかりにくいのをわかりやすくしろというのは大変難しい。

【福井委員】最高裁判決を前提にしたときに、こういう問題があると、確認訴訟の活用とやや抵触するようなところがあるかもしれないと思うものですから。
 もう一つ、裁量ですけれども、圏央道の一審判決で政策的選択の裁量だというおもしろい議論をしていますので、そういった議論もできれば、この中で紹介してはどうかと思います。

【塩野座長】今日福井委員のペーパーが出ていますので、圏央道の「法学教室」のものをお配りしてありますので、それは当然視野に入っていると思います。よろしゅうございますか。
 どうも長時間ありがとうございました。それでは、次回の案内を。

【小林参事官】次回については、資料9にありますけれども、10月15日の2時半から同じように。それから10月29日にも日をいただいておりますので、よろしくお願いいたします。

【塩野座長】今日はどうもありがとうございました。