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行政訴訟検討会(第3回)議事概要

(司法制度改革推進本部事務局)
※速報のため、事後修正の可能性あり



1 日 時
平成14年4月8日(月) 15:00〜17:30

2 場 所

司法制度改革推進本部事務局第1会議室

3 出席者

(委 員)
塩野宏座長、市村陽典、小早川光郎、芝池義一、芝原靖典、成川秀明、萩原清子、福井秀夫、福井良次、水野武夫、深山卓也(敬称略)

(説明者)
宇賀克也(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
有田芳子(全国消費者団体連絡会司法担当)
辻公雄(全国市民オンブズマン連絡会議代表幹事)
秋田仁志(全国市民オンブズマン連絡会議幹事)
青山貞一(環境行政改革フォーラム代表幹事)

(事務局)
松川忠晴事務局次長、古口章事務局次長、小林久起参事官

4 議 題

  1. 宇賀克也東京大学教授、全国消費者団体連絡会、全国市民オンブズマン連絡会議及び環境行政改革フォーラムからのヒアリング
  2. 今後の日程等

5 配布資料

資料1 行政事件訴訟法改正について(宇賀教授説明資料)
資料2 行政訴訟についての問題意識(全国消費者団体連絡会説明資料)
資料3 市民からみた行政裁判と納税者訴訟の創設(全国市民オンブズマン連絡会議説明資料)
資料4 司法制度改革推進本部行政訴訟検討会ヒヤリングレジメ(環境行政改革フォーラム説明資料)
資料5 行政事件に関する統計資料(最高裁判所事務総局行政局)
資料6 行政事件訴訟法案提案理由説明
資料7 行政事件訴訟法案逐条説明

6 議 事

(1) 宇賀教授からの説明

○ 行政事件訴訟法は行政事件訴訟特例法時代に多かった農地買収や課税処分のような事例を典型的なものと想定して制定されており、環境訴訟のようないわゆる現代型訴訟への対応を十分に念頭に置いたものではない。しかし、実質的な改正は一度も行われることもないまま40年が経過してしまった。この度、司法制度改革審議会の意見を受け、ようやく行政事件訴訟法の見直しが行われることになったことを喜び、その成果に期待している。

○ 行政事件訴訟法の立案過程では行政事件訴訟特例法の下で生じた問題点の解決に主眼が置かれていたが、行政事件訴訟特例法も平野事件を契機として占領政策への司法の介入の排除が重視されたために、憲法32条の裁判を受ける権利を行政作用との関係でいかに実現するかという視点は希薄であったと見受けられる。憲法32条の裁判を受ける権利を基礎に包括的実効的な権利保護を付与するという視点を基本に据えて、訴訟制度の見直しが行われることを期待している。

○ 行政作用をめぐる紛争に包括的実効的な裁判による救済を与える場合、全ての救済のルートが民事訴訟と区別された行政訴訟より確保されなければならないというわけではない。我が国においても戦後の一時期、民訴応急措置法で行政処分の取消、または変更を求める訴訟の出訴期間についての特例を定めるのみで全て民事訴訟法を適用していた。

○ 初めから行政訴訟の存在を前提とするのではなく、民事訴訟で対応可能であってもそれと異なる行政訴訟制度を準備することに意義があるのか検証することが必要で、民事訴訟とは異なる行政訴訟制度を設けることが国民の裁判を受ける権利という視点から見たとき、却ってマイナスにならないか、仮にそのような面があるとしても行政法関係の早期安定等の公益的配慮の要請から正当化しうるのか、という問題意識が必要になる。そのような視点から見たとき、現行の行政事件訴訟法がその存在意義を十分に立証しうるものであるかは大いに議論の余地がある。

○ 当事者間の権利義務関係に還元するのではなく、行政作用を直接対象として、司法審査を求める直接審査訴訟を設けることには意義が認められる。例えば原子力発電所の差し止めを求める場合に、国民の権利救済という観点から民事差止訴訟も認められるべきだが、それとは別に原子炉設置許可処分の取消を求める訴訟によって早期に行政庁の行為規範違反を理由として許可の効力を失わせる訴訟類型を用意しておくことが有効。

○ さらに行政作用を直接に対象として実体・手続の両面においてその行為規範適合性の司法審査を行うシステムを設けることが法律による行政の権利を担保するという観点からも大きな意義を認めることができる。主観訴訟であっても直接審査訴訟には国民の権利利益の救済機能のみならず法律による行政の権利を担保する機能も認められ、この機能を軽視すべきではない。

○ 直接審査訴訟と国家賠償請求訴訟とはいずれも行政救済制度の重要な構成要素をなすと同時に法律による行政の原理を担保するという機能を共有しているとみることができる。国家賠償請求訴訟における違法性の認定について公権力発動要件欠如説ではなく職務行為基準説をとる場合には、法律による行政の権利の担保機能についての直接審査訴訟への期待はいっそう大きくなるといえる。

○ 現行の行政事件訴訟法は行政作用を直接対象として審査する訴訟として抗告訴訟制度を設けている。民事訴訟と区別された行政訴訟を設けること自体の意義は認めるが、現行の抗告訴訟制度やそれについての判例の解釈には問題が少なくなく、裁判を受ける権利の保障という観点からみても疑問を抱く点がある。

○ 現行の抗告訴訟は行政行為には公定力があるというドグマから出発して行政行為の公定力排除訴訟としての取消訴訟を制度化したため、行政作用は行政行為に限らず多様な形式で行われるにも関わらず、行政行為以外の行政作用に対応することが困難な状況にある。学説や一部の判例はこうした状況を克服するために処分性の要件を緩和する解釈論を展開する努力をしてきたが、十分な成功を収めてきたとは必ずしもいえず立法により抜本的な改革を行う必要性が大きい。

○ 行政事件訴訟法は行政事件訴訟特例法下で議論となった抗告訴訟の類型について整理し、法定するとともにそれ以外の無名抗告訴訟については学説、判例の発展に委ねることとしたが、この40年間の状況を見ると、判例の解釈は厳格にすぎ、実効的な権利救済を求める原告の期待を裏切ることが稀でなかった。

○ 判例で取られてきた行政事件訴訟法9条の解釈は国民の生命身体の危険がある場合のような一部の例外を除いて原告適格を認めるのに相当慎重であり、包括的実効的な権利救済という観点からも法律による行政の原理を司法より担保する観点からも原告適格の要件の緩和が必要だと思われる例が少なくない。このことはいわゆる現代型行政訴訟の対応について顕著。

○ 大阪空港訴訟最高裁判決で民事差止訴訟が不適法とされ、日本原演習訴訟最高裁判決で抗告訴訟が不適法とされたことにみられるように、訴訟類型の選択を誤ったとして訴えが不適法とされるような事態は改善されるべき。

○ 抗告訴訟の対象となる公権力の行使については仮処分が認められず執行停止制度が法定されているが、これについても仮の救済が十分に行われず実効的権利救済の道が閉ざされていると思われる例が稀ではない。

○ グローバリゼーションの進展に伴い、行政訴訟の分野においても国際的ハーモナイゼーションが求められるようになってきたが、我が国の行政訴訟がこの要請に叶うものであるかは疑問の余地があり現状のままでは条約上の義務違反であったり、国際摩擦を生じる危険すらある。国際的ハーモナイゼーションという観点からも行政事件訴訟法の改正は急務。

○ 国際的ハーモナイゼーションという観点から行政訴訟のあり方が問題になる具体例として、ウルグアイラウンドにおいて合意されたアンチダンピング協定13条がある。同条にいう「最終決定」がアンチダンピング課税を行う場合の関税定率法の8条1項に基づく発動政令に対応する確定措置を含み、かつ我が国において発動政令の処分性が否定されるということになると、民事訴訟による救済も困難と考えられるため、日本はアンチダンピング協定13条により課せられている義務を履行していないということになってしまう。これは一例にすぎず、多くの分野で外国企業が日本の裁判所に司法審査を求めるようになるだろうと考えると、行政事件訴訟法の改正に当たっても比較法的な考察を踏まえて、国際的ハーモナイゼーションに配慮することが必要。

○ 現行の判例のように抗告訴訟の対象を限定すると、行政立法や行政指導のように行政行為以外の行政作用によって私人に重大な不利益が生じており、当該行政作用の行為規範適合性についての司法審査など私人の救済のために司法審査が要請されている場合にも一般的にはそれが否定されてしまう。行政過程の早期の段階において司法審査を認めなければ実効的救済が与えられないにもかかわらず、行政行為がなされる段階まで司法審査の機会を先送りにし、実効的救済の時期を失することが稀ではない。そこで行政行為概念を基礎とした公権力の行使を直接審査訴訟の要件とするのでなく、行政作用全体を直接審査訴訟の対象とした上で、紛争の成熟性という観点から、対象を限定すべき。土地区画整理事業計画、墓地埋葬等に関する法律に関する通達、道路交通法の反則金の不通告、海難審判法に基づく原因解明裁決等、我が国の判例で処分性が否定された事例はアメリカの判例の基準に当てはめて考えると、いずれも直接審査訴訟の対象とされることになる。

○ 行政作用についての直接審査訴訟を認めるとしても論理必然的に直接審査訴訟の排他性を認めなければならないということにはならず、排他性を認めるか否かは立法政策の問題。現行の行政事件訴訟法については、行政行為に公定力があるというドグマから出発して制度を構築したために、公定力排除訴訟としての取消訴訟の排他的管轄が論理必然的に帰結することになったが、今日では行政行為にアプリオリに公定力が認められるのでなく、取消訴訟の排他的管轄の結果として、そのような効果が認められるにすぎないことが広く承認されるようになっており、そうであるとすれば行政行為についても取消しうべき瑕疵と無効の瑕疵の区別を否定し、無効という前提で制度を構築し、違法確認訴訟としての直接審査訴訟と無効を前提とする間接審査訴訟を並存させることも考えられないわけではない。違法即無効という前提で制度を構築する場合であっても行政法関係の早期安定等の要請から直接審査訴訟の排他性を認め、出訴期間を徒過した場合には不可争とする制度も想定できる。

○ 訴訟類型については、義務付け訴訟にしても、予防的不作為訴訟にしても極めて例外的にしか判例で認められてこなかったのは、無名抗告訴訟としての位置付けに起因する面があると思われ、これらを法定訴訟として正面から認知することが望ましい。

○ 原告適格については、現行の行政事件訴訟法の規定の下でも解釈により要件を緩和していく余地があり、実際の判例の中にも新潟空港訴訟やもんじゅ訴訟の最高裁判決のようにそのような傾向を示すものがある。ただし、判例が固まってしまったと思われる分野において原告適格の要件が厳しすぎると考えられるものが稀ではない。自分の印象では公益保護と区別された個別的利益保護要件の解釈がやや厳格にすぎるように思われ、この点について判例の軌道修正を図る方法がないか思案している。また、環境保護や消費者保護の分野で市民訴訟や団体訴訟の制度化も併せて検討する必要があるのでないか。なお、訴訟要件を緩和しても、本案審理において原告が勝訴する見込みがないのなら意味がないが、本案審理を充実させるための条件整理も進みつつあり、まず土俵に乗せて相撲を取らせれば、色々な技も発展してくることが期待される。

○ 狭義の訴えの利益については、現在の判例は名誉信用の回復のみが問題になるときは行政事件訴訟法9条括弧書きの適用を否定する傾向があるが、国家賠償による名誉信用の回復は全く期待できないので、直接審査訴訟において訴えの利益を否定してよいかについては検討する必要があるのではないか。

○ 被告適格については、行政主体と行政庁の区別が一般には理解しにくいので、裁判所の釈明を義務付けるか、またはいずれでも良いとすべき。もっともこの点は教示制度により対応可能と考えられる。すなわち、現在、行政不服審査法の一般的教示制度を改正し、出訴期間、管轄、不服申立前置主義が採られている場合にはその旨と並んで直接審査訴訟において被告とすべき行政庁についても教示を義務付けるべきでないか。もっとも、直接審査訴訟の対象とすべき行政作用の形式を限定せず、成熟性という観点から対象を絞る場合、行政庁自身、直接審査訴訟の対象となるか明確にないことがあり得るので、教示を課する場合、当面、行政行為に限定してもよいと思われる。なお現在、一般的教示制度は行政上の不服申立に限定されているために、行政不服審査法に置かれているが、訴訟についての教示を含めるのであれば、むしろ行政手続法に置く方が適当。

○ 管轄については、行政機関情報公開法36条、独立行政法人等情報公開法21条で行政事件訴訟法12条に定める裁判所のほか、特定管轄裁判所の管轄の特例が認められたことの均衡からしても、行政事件訴訟法においても原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも提起することができることとすべき。現状では管轄について不均衡が生じているので、行政事件訴訟法12条を改正して拡大均衡を図るべき。

○ 出訴期間については、行政事件訴訟特例法では6ヶ月だったものが行政事件訴訟法では3ヶ月に短縮されたが、一般の国民を念頭に置いた場合これで十分かについても検証する必要がある。

○ 執行停止の要件も緩和を検討する必要がある。

○ 内閣総理大臣の異議の制度は今日の学会では違憲論が有力であり、実際にも田中内閣以降使用されておらず、廃止すべき。

○ 仮命令制度の導入も重要な検討課題。

○ 訴訟要件を充足しても、本案において、行政裁量の壁や情報の非対称性のゆえに実効的な司法審査が困難なことが少なくなかったが、法案審理を充実させるための基礎的条件の整備が進みつつある。行政手続法、行政手続条例で義務付けられている審査基準・処分基準、また、公共事業の場合の環境影響評価法や環境影響評価条例が手続審査の一つの有力な手掛かりとなる。本案審理における原告である私人と被告行政庁の間の情報の非対称性が原告の救済にとって障壁となることが少なくなかった点についても、情報公開法、情報公開条例をディスカバリー目的で利用して、行政文書にアクセスすることが可能となったこと、民事訴訟法の文書提出命令の制度が拡充されたこと、政策評価法によって政策評価の結果のみならず、評価過程の情報の公表も義務付けられたこと等により、事態は改善されつつある。国、地方公共団体双方において政策評価が進み、例えば公共事業においても費用便益分析による事前評価が広く行われるようになっている。政策評価の手法が充実していくことは実効ある司法審査にとっても重要。環境影響評価法に横断条項が設けられたこと、戦略的環境アセスメント(SEA)のガイドラインの作成が進みつつあることも環境面での裁量審査の基礎的条件の整備としての側面を持ちうる。行政訴訟の本案審理の充実のためには、行政手続法、情報公開法、環境影響評価法、政策評価法等の連携が重要。

【質疑応答】(●:委員、○:説明者)

● 本案審理について、行政手続法、環境影響評価法等々との連携を図ることが重要であるということだったが、具体的にはどういうことか。

○ 行政訴訟の審理において、例えば行政手続法の規定を活用して、手続的な審査を行うことや、行政手続法でできる限り具体的に定めることが義務付けられている審査基準や処分基準が具体化してくると、それだけ裁判所が裁量審査をする際に非常に手助けになる。裁判官においても、せっかく行政手続法という重要な道具が出来たわけだからそれを活用してほしい、という趣旨だ。

● 公定力排除訴訟に替える形で直接審査訴訟を提起しているが、両者は具体的にどう違うのか。

○ 直接審査訴訟は行政作用の行為規範適合性を審理するという面では現在の抗告訴訟と共通しているが、抗告訴訟で言う公権力の行使という絞りは外し、行政作用を全て対象としうるようにする、という点が大きく違う。ただ、紛争の成熟性という観点の絞りをかけることは考えている。

● 成熟性を基準として司法審査の対象性を判断すると、従来、行政処分だから取消訴訟が認められると考えられていたものが、成熟性の基準によって認められなくなる可能性はあるか。

○ 理論的に考えるとそれもあり得るが、一般的に成熟性の観点でいった場合には今よりも広がるだろう。

● 初めに行政訴訟でありきではなく民事訴訟で対応可能か考える、という指摘があったが、行政訴訟は民訴と区別して存在意義があるか。実務からみると、行政訴訟を認めたために却って門前払いになるケース、マイナスになっている部分がかなりあるという印象を持っているが、出発点に戻り、なぜ行政訴訟が必要か、行政訴訟はやめてもいいのでは、という議論についてどう考えるか。

○ 民事訴訟で対応できないかというところから出発すべきではあるが、民事訴訟だけでいいかというとそうではなく、やはり行政訴訟は存在意義はあるだろう。例えば、侵害の危険が差し迫って、人格権に基づいて差止めを求める必要性が認められる前の段階で、行政訴訟でその許可について取消を求めるルートもあった方が権利救済という面ではプラスになるのではないか。行政訴訟ありきではないというのは、行政訴訟の存在意義を国民に対して説明する必要があるという趣旨であり、行政訴訟不要論に立っているわけではない。また、単に権利救済というだけではなく、行政作用の行為規範適合性を直接審査する訴訟がより直接に法律による行政の原理を担保するという機能を持っていることから、やはり行政訴訟には固有の存在意義があると考える。

● 原告適格について、客観訴訟との境目があると思うが、どこまで具体的に広げるのか、2点目に、処分性について無名抗告訴訟なり、あるいは民事訴訟とどう区別していくのか、3点目は、裁量を統制する場合に具体的に不確定概念をどういう基準で統制していくのか。

○ 原告適格の点については、現代の行政事件訴訟法9条は「法律上の利益」となっており、自分はこの規定の下でも解釈によっては相当広げていけると思う。ただ、現在の判例のように根拠法規に限定するのはやはり問題であり、個々の法律だけではなくて、憲法上保障された基本権もその中に埋め込んでいくべきだ。そして現在の判例では個別的保護利益というのが非常に厳格に解釈されすぎているのをもう少し緩めて行けないか。
 処分性と民事訴訟との関係は非常に重要な論点で、直接審査訴訟の対象を広げていき、そこに排他性を認めると、却ってこれまで民事訴訟で救済されたものが救済されなくなるという問題が出てくるので十分に注意しなければならないが、行政行為の公定力のドグマから開放されると、かなり柔軟な解釈で考えていけるのではないかと思っている。
 裁量審査については、実体的な裁量審査をするための道具が段々、整ってきている。特に注目しているのは政策評価であり、特に公共事業の分野では事前審査が一般的に義務付けられている。これまで不確定な概念で使われていた公益が、例えば費用便益分析を用いて、実質審査され、その際にどういう手法を用いたのか、それからどういうデータを用いたのかということも全部公表が義務付けられている。これまで不確定概念について、どういうふうに行政庁が判断したのかがブラックボックスに入っていた部分が、かなりこれから見えてくるので、裁判所もかなり実体審査の面で、色々な工夫をする余地が出てくるのではないか。

(2) 全国消費者団体連絡会からの説明

○ 日常生活の中で、社会保障とか環境とか、行政に対して非常に不満を感じており、どこかに訴えに行きたいといつも思っているにもかかわらず、それで終わってしまうことが多々ある。

○ 行政訴訟が起こしにくい、難しいと感じてしまうのは、非常に不明瞭な形で色々な行政の決め事が進められているというイメージがあり、市民側も踏み切れないからだ。行政訴訟といってもどこに相談したらいいのか分からない。それは専門家が不足していることも原因なので、弁護士とか専門家がたくさんいることが必要であり、また、裁判所にも行政訴訟の専門窓口があればいいと思う。

○ 提訴手数料は、金銭の給付が絡んでくるものは民事訴訟法と同じスライド制でいいと思うが、それ以外の、金銭が絡んでこないが行政の処分がおかしいというものについては、一律に定額で2、3千円であればいいと考える。複数の原告が同一の処分を争うときには、住民訴訟並に、全員が払うのではなく、1人が払うようになってほしい。

○ 裁判の管轄は、東京地裁となることが多く、地方の者には交通費が非常に負担であり、その時点で裁判を拒否されたように思うので、原告の住所地の管轄裁判所でも提起できるようにすべき。

○ 出訴期間について、行政訴訟に関しては情報が入ってからある程度時間が経つのは当たり前で、住民、市民、消費者というのは必ずしも情報があるわけではないので、できれば半年から1年ぐらい期間の延長がなければ、行政訴訟が非常に少ないのは当然だ。また、重大な違法があったとき、金額的なものとか環境の問題だというようなときにはやはり2年ぐらいあればいいと思う。

○ 市民が裁判に行かないのは、原告適格などで門前払いされてしまう心配があるのも一つの理由だ。以前主婦連合会が無果汁ジュースに無果汁と表示しなくてもよいという規約の違法性を問う裁判を起こしたときに訴える資格が一般消費者にはないということで却下されたことがあったが、そのケースは本当に原告適格がないのか。今、食品の安全の問題があり、まさに原告ではないかと思うことが多くある。原告適格とはどういうものかもう少し考えて頂きたい。その意味で、団体訴権も必要だと思うので、ここで検討していただければと思う。

○ 被告行政庁の特定は弁護士でも非常に難しく、間違えたために却下されてしまうケースが多いと聞く。処分を分担した機関や上級行政庁に被告が誰か教えて頂けるようにして頂きたい。

○ 司法が行政をチェックする機能を強化する観点からは、ドイツのように原告が主張している違法事由だけではなく職権でその他の違法事由も審理して頂きたい。

○ 文書提出命令は現行の民訴法では不十分な点があり、行政庁に文書の提出とか経過の報告義務を課さないと、証拠が住民、市民、消費者側にほとんどなく訴訟を起こしようがない。立証責任は行政庁にあるとすることが必要。

○ 行政が何かを決めるときにはパブリックコメントを求めて、それを立法作成に活かすことを義務付けたらいかがか。

○ 裁判員制度の検討が、現在刑事事件に限定されているが、行政訴訟を起こすときに市民の感覚が入れられる必要性があるので、是非議論して頂きたい。

【質疑応答】(●:委員、○:説明者)

● (文書の提出について)不十分だということだが、具体的にはどの点か。

○ 例えば、環境の被害などのときに、県にあるはずの化学物質のデータがなかかな出て来ないことがあり、機能していないと感じている。

● 行政は不透明あるいは何となく行政訴訟は起こしにくいということだったが、それはどういうところから感じたのか。

○ 具体的には後日文書等で説明したいが、あくまでもイメージでやはり不透明だと感じている。

● 情報公開法や行政手続法が制定されて、市民の方がやる気になればかなり透明性を確保するだけの仕掛けはできつつある。それが情報公開法や行政手続法がまだ不十分なので、そこをどうすれば不透明性はかなり解消されて訴訟も提起しやすいのだという具体的なご指摘があれば、是非、おっしゃっていただきたい。

○ 了解した。

● 飲料水の表示問題で行政訴訟を起こしたが訴訟にならなかったということだがその理由は何か。

○ 表示をしなくても良いという規約の違法性を争う資格については、国やメーカーにはあるが、一般の消費者にはないというのが当時の判断だった。

(3) 全国市民オンブズマン連絡会議からの説明

○ 行政が市民の生活に関与する範囲は非常に広く、その傾向は今後どんどん大きくなり、重要性も増していくだろうが、これだけ広い分野を全体的に正しくやっていくことは物理的に困難なのではないか。また、昨今の自治体や中央官庁の現状を見ると、行政はこれからの改革を責任をもってやっていくことはできないのではないか。また、官から民への社会構造の転換が図られていくことを考えると、これからは行政の優越性を認めて信頼していく時代ではないのではないか。

○ 重要なのは市民感覚のある司法。市民は困ったことや不祥事が起こると裁判所が正義を実現してくれると思っており、こういう市民の要求に応える責任が司法にあるのではないか。しかし、市民の要求に対する答えとしての行政裁判の実情は、公害規制が間違っていても裁判はできず、パチンコの営業許可反対について行政裁判では原告適格がないとされ、大阪のモノレール設置に反対しても裁判はできないと言われ、近鉄特急料金値上げの認可無効の裁判では利用者は反射的利益を持つに過ぎず原告適格がないとされた。しかし、利用者こそ一番直接的な大きな利害関係があると素人は考える。この素人の感覚はやはり法的にも重視されなければならない。

○ 行政訴訟でせっかく土俵に乗っても、町長の年間交際費の2倍以上を使って郷土の大臣祝賀会費用を使ったことも自由裁量とされ、土地の価格の2倍で購入しても自由裁量とされ、談合については直接証拠が出てこない限り認めようとはしない。このように市民が最後に望みをかけている司法が、なかなか市民に対して正当に答えていないのが現状であり、これらのことが続いて来ると市民も弁護士もやる気がなくなってくる。そして残るのは行政への不信と司法に対する絶望感だけであり、このようなことでは今後の社会の前途は危ない。行政裁判の改革が必要。

○ 行政裁判の改革のためには、市民の視点を持ち、行政や社会のことも熟知した、法律知識も豊かな独立性のある裁判官の養成が重要。しかしそれだけでなく、原告適格、処分性、自由裁量、地元管轄、提訴期間等の行政事件訴訟法の改正は必要。さらに、弁護士費用の片面的な敗訴者負担、法律扶助、裁判員制度の採用、法曹一元等が必要。

○ 司法による行政のチェック、行政の透明化、行政改革はこれからの社会を切り開いていく。司法制度改革審議会で国民は統治の客体であってはならず、主体になれと言われているが、それができるかどうかは納税者訴訟も含めて、行政事件訴訟法がかっちりできるかどうかにかかっている。半世紀に一度のこの機会をもらえて、是非、歴史的審判に耐えて、またこれからの社会を堅実につくっていく行政事件訴訟法が改正されるように改正作業を熱い期待をもって見つめていきたいし、ともに頑張っていきたいと思うので、よろしくお願いする。

○ 国民の行政監視、改革の要求、市民オンブズマン活動として多数の住民訴訟が提起されている状況を、住民訴訟の機能肥大化現象、行政訴訟のアンバランス現象であると言われたりすることもあるが、抗告訴訟の機能不全状況に対し、住民訴訟では司法が法に基づいて行政の財務行為の適法性を実体的に判断し、行政の違法な行為による損害を認定し、法に照らした行政の正しいあり方を示して、原告住民を含む住民全体、社会全体のあり方、公共の利益が実現され、その結果として、自治体行政の改革が大きく進められてきたという面がある。

○ 住民訴訟によって、自治体行政上この10年でずいぶんと大きな改革が進んできただけではなく、住民、国民が、お任せ民主主義ではなく、主体的に政治、行政に関わっていかねばという自覚を持ち、さらに行政がそれを積極的に受け止めていくという大きな循環が生み出されつつある。

○ 住民訴訟は、違法行為から原則として1年以内に行わねばならないという非常に厳しい制限があり、また、証拠が全て行政内部にあって、住民にとっては立証が非常に難しい。そのような悪条件の中でも、住民が主権者としての自覚だけをよりどころに行ってきたのが住民訴訟であり、決して濫訴といわれるような状況はない。そして、原告適格や処分性などの行政訴訟の形式的な制限がない住民訴訟では、裁判所が実体について判断する、真相、問題点が明らかにされる、そのことによって国民は司法が社会の中に生きている、法が生きていることを実感することができた。だからこそ、行政訴訟の中で、情報公開訴訟とともに、住民訴訟が積極的に活用されることになった。

○ 国に対しての住民訴訟に相当する制度があれば、現在の外務省の問題は起こっていなかったのではないか。国の行政に対する住民訴訟、すなわち国の行政機関における違法な会計行為に対する国民の被害回復予防措置を裁判所に求める訴訟制度、つまり国民訴訟の創設を、この検討会でも是非、積極的に提言して頂きたい。それは司法、裁判所が果たすにふさわしい役割であり、制度として我が国に導入することに、困難な問題は多くない。

○ 法の支配が、あまねく国家、社会に浸透するための司法改革、国民一人一人が統治客体意識から脱却し、自律的でかつ社会的責任を負った統治主体として、社会の構築に参加することを求めた司法制度改革審議会の意見書に沿い、司法改革を具体化されるよう要望する。

【質疑応答】(●:委員、○:説明者)

● 市民オンブズマン連絡会議としては納税者訴訟の創設を最重点に主張するのか。

○ 最重点というわけではないが、それも極めて重要な項目だ。

● 先般、地方自治法が改正されたが、住民訴訟に具体的にどういう支障が出るか予測しているか。

○ 今回の地方自治法の改正には次の理由から反対してきた。一つは、2段階の訴訟に峻別され、しかも第2次訴訟には住民が全く関与できないために住民訴訟の効力が非常に弱められてしまうのではないかということ。もう一つは、自治体組織そのものが被告になってくると、訴訟における原告負担が経済的な負担も含めて非常に重いものになってくるのではないかということ。

● 情報公開法や情報公開条例を使って行政訴訟を展開した例はあるか。

○ 国の情報公開法を使った事例はまだないが、自治体における情報公開請求で情報を入手して、非常に重要な書類が出てきて、それに基づいて色々な住民訴訟をした例は多数ある。

● 納税者訴訟を「法の支配」という概念から理論付けていたが、外国で「法の支配」とは日本で言う住民訴訟を導くものだということか。

○ 理論的に詰めて考えたわけではない。公金支出問題も含めて司法統制を何らかの形で入れるべきであるという意見だ。日本は独自にこれだけ住民訴訟を積み上げた実務の蓄積があるので、真剣に考えればできるのではないか。

(4) 環境行政改革フォーラムからの説明

○ 財政負担と環境負荷や環境影響をもたらす政策や大規模公共事業の社会経済的な必要性、科学的、環境面からの妥当性、適正手続面での正当性を、第三者的立場で評価、判断する手段としての司法の役割、また、著しい影響、被害が起きてから事後的に救済することから脱し、予防的、未然防止的な措置をとることについての司法の役割が課題。

○ 行政訴訟、特に環境問題に関連した取消訴訟、差止訴訟などの抗告訴訟では、訴えの利益、処分性に関わる問題で、大部分が訴訟そのものに入れない現実があり、現在でも変わっていない。

○ 行政訴訟、とりわけ環境行政訴訟は機能不全に陥っていると言っても過言ではない。稀に初審で勝訴することはあっても、上級審でひっくり返っており、せいぜい和解で実質的に勝訴することがある程度。また最近の小田急の高架化をめぐる行政訴訟のように、行政訴訟に勝訴しても、裁判中も事業が進み勝訴した時点で事業が完了しているといったことも起こっている。

○ 環境問題は、ことが起こってからの対応では遅く、どうしても未然防止的、予防的な対応が必要になる。対象が国、自治体の公的予算をつぎ込む公共事業の場合には、費用対効果の観点からもこのことは重要。

○ 差止訴訟や取消訴訟などの抗告訴訟や環境アセスなど行政計画の策定過程での行政訴訟が有効に機能することが重要。

○ 環境に係わる行政訴訟、とりわけ抗告訴訟は実質的に機能不全となっており、住民側は事後救済的な措置として、民事訴訟や国家賠償訴訟、さらには住民訴訟、情報公開にもとづく訴訟しか有効に使えない状態にある。

○ 環境問題では、本質的に未然防止、予防的な対応が重要なのに、事後的な救済でしか対応できないこと、事後救済であればあるほど費用がかかるということは大きな社会問題であると同時に経済問題でもあり、したがって、処分の取消しや、差止訴訟を活発化させることが必要。

○ 現状では大部分の行政法が政府提案法案として制定されている。泥棒に金庫番、猫にカツオブシの番をさせるに等しい。その結果、実体法、手続法を問わず、行政機関や官僚の裁量が大きなものとなり、行政の都合で法の解釈がねじ曲げられる可能性が大きくなる。したがって、読み方により結果が決まる現行の政府提案法案ではなく、実体法にきめ細かく、権利、特に環境に係わる権利を書き込み、また行政の義務、計画法の場合は計画策定の期限、規制法の場合は明確な基準などをきめ細かく書き込む必要がある。

○ 環境権、人格権と言った権利を明確にする必要もある。現行の都市計画法には環境のカの字もないことが問題。21世紀は環境の時代であり、街づくりの基本となる都市計画関連法制に環境保全、環境配慮を明確に書き込む必要がある。

○ 議員提案法案の場合、法の骨格を議員がつくっても、政令、省令、規則、技術指針などの制定が行政の専管事項になっている現実があり、これをどうするかも大きな問題。

○ 司法制度改革と平行し、立法改革すなわち立法による行政の徹底したコントロールが不可欠。そこでは行政の裁量を極小化して誰が見ても読んでもわかる実体法とし、その実体法の存在をもとに裁判を起こせるようにすること。

○ 行政訴訟の機能を回復するには単に原告適格を拡大するだけでなく、個別の実体法を拡充するとともに、その中に、米国の環境法のように、市民訴訟、客観訴訟制度を組み込むことが望まれる。

○ わが国で行政訴訟を国民、市民、NPO/NGOなどに近づきやすくするためには、市民訴訟を環境法、行政計画法のなかに組み込むことが不可欠。

○ 30年間、霞ヶ関や自治体の政策立案を支援してきたが、多くの問題の本質的原因は、この政策立案や計画立案過程にあり、したがって、この段階で裁判を起こせるようにすることが問われる。計画段階で情報公開と合意形成をおろそかにしている一方で、土地収用法を改正し、土地の強制収用をし易くするのは、本末転倒。

○ 環境関連の訴訟は、科学的、専門的なものが多く、これが裁判の長期化の原因。

○ 被告となる行政側が多くの人材、費用、情報を有しているのに対し、住民側はすべての面で厳しい状態にある。行政訴訟における公平性をいかに確保するかが問題。住民側を専門的、実務的に支援する人材と資金の確保が大きな課題で、そのためには、住民側が行政に勝訴した場合、行政側が住民側の弁護士費用とともに、専門家が証拠、意見書、陳述書などの作成に要した費用を一定基準のもとに負担することが望まれる。

【質疑応答】(●:委員、○:説明者)

● 日本は、法律家集団がしっかりしないと難しいということだが、どの辺がネックだと考えているか。行政訴訟制度を柔軟なものにすればよくなっていくのか、戦略的な見通しがあるか。

○ とかくこの分野では、原告適格とか処分性が議論されるが、仮に間口である原告適格だけが広がっても、実質審議に入ったときに審議が出来ないということではまずい。そのためには、弁護士が増えるということだけでなくて、環境問題の実務にいて、ある程度法的なことも分かり、政策も分かる人間が、もっと行政訴訟に参加しやすくすることが重要。

● 市民訴訟を提言されているが、日本の状況の中で実現しようと思うと、個別の実体法に入れるのは現実問題としては困難で、むしろ行政事件訴訟法の中にそういった規定を設けるとか、又は環境影響評価法などもう少し一般的な法律の中に設けるような提言をした方がいいのではないか。

○ それが一番の理想だ。例えば様々な都市計画法制とか土地利用法制に入れ込めることができればいい。しかし、ここまで行政訴訟ができない現実があると難しいと思ってしまう。一つでも二つでも、例えばダイオキシン特別措置法とかいくつか問題になっている分野で入るといいと思う。

● 環境訴訟について、米国のように原告適格を広めにするとか、裁判にできる段階をもっと早めることをお考えか。また、財務会計上の違法だけではなく、現在の訴訟範囲よりも広げた訴訟類型として認めるべきだとお考えか。

○ 両方ともイエスだ。環境問題に係わる権利を何らかの形で明確にして、客観訴訟的に対応できれば一番いい。個別法制にビルトインするよりは行政事件訴訟法の中に市民訴訟の条項を入れ込めれば、一番いいと思う。

● 大規模公共事業の差止めは民事訴訟でやっていると思うが、その民事訴訟について、何か意見はあるか。

○ 自分自身、川崎公害訴訟とか日本を代表するような公害訴訟の控訴審にも証人に出たが、気になるのは訟務検事がなぜその場に出てくるのかということだ。国側は別途弁護人を使うべきであって、判事がそこに来て、自分のような丸腰の者に反対尋問するのは疑問を感じた。

● 訴訟手続上で何か問題は感じているか。

○ 公平性の問題。国は、膨大な人的資源、情報資源、調査費用を使って出てくるが、住民側はその3つがほとんど無く、初めから勝負があるようなものだ。勝訴のときでいいが、片面負担のような考え方が入らないと、勝負にならない。(行政訴訟をやっていると)本当に息絶え絶えになってくる現実をこの検討会の方々に理解して頂きたい。まともに戦える場があればそれなりのことはできる。

7 行政事件に関する統計について

最高裁判所事務総局行政局から、資料5に基づき、行政事件に関する統計が説明された。

8 今後の日程等

事務局から、第4回以降の日程等について説明がなされ、了承された。

9 次回の日程について

・ 第4回の検討会は、次の日時に開催することとなった。
5月20日(月)15:00〜17:30
・ 第4回検討会では、阿部泰隆神戸大学教授、日本弁護士連合会から意見を聴取する予定。

以 上